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JP5578772B2 - インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置 - Google Patents

インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置 Download PDF

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Description

本発明は、インクジェット用インク(以下単に「インク」と言う場合がある)、かかるインクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置に関する。特には、インクを吐出するための吐出口を有する面に撥水処理が施された記録ヘッドより吐出されるインクとして好適な、樹脂を含有してなるインクに関する。
インクとして、記録物の耐擦過性向上のために、樹脂を含有するインクや、顔料を樹脂で分散した樹脂分散型顔料を含有するインクが広く用いられている。しかし、樹脂を含有するインクを、インクを吐出するための吐出口を有する面に撥水処理が施された記録ヘッドより吐出すると、インク滴の曲がりが発生するといった課題が生じ易い傾向にあった。これらを解決する手段として、記録ヘッドのノズルプレートに対する接触角を規定した提案がある(特許文献1及び2参照)。さらに特定の界面活性剤を含有するインクに関する提案もある(特許文献3参照)。
特開平09−194781号公報 特開2000−290556公報 特開2005−008849公報
本発明者らは、記録物の耐擦過性の向上などを目的とし、樹脂を含有するインクについて検討を行った。その結果、インク中の樹脂として、酸価が小さい樹脂、又は重量平均分子量が大きい樹脂を用いた場合は、従来から提案されているいかなる方法を用いたとしても、安定な吐出安定性を得ることができない場合があることがわかった。また、さらにはインク中の樹脂の含有量が多いインクを吐出した場合も上記と同様であった。すなわち、上記のような樹脂を含有するインクをインクジェット記録方法により吐出する場合、インク滴の曲がりが発生し、インクの着弾点がずれるといった問題が発生する場合があった。
したがって、本発明の目的は、記録物の耐擦過性を向上させることが可能な樹脂を含有するインクを用いる場合に、インクの記録媒体への着弾点がずれることのない優れた吐出特性を示すインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、このようなインクを用いることで、高品位画像を安定して得ることを可能とするインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置を提供することにある。
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料、樹脂及び界面活性剤を含有するインクジェット用インクであって、前記樹脂は、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルから選択される少なくとも1つの単量体に由来するユニットと、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びアクリルアミド誘導体から選択される少なくとも1つの単量体に由来するユニットとを有するブロック共重合体であり、前記樹脂は、その酸価が100mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、その重量平均分子量が3,000以上10,000以下であり、前記樹脂のインク中における含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.0質量%以上3.5質量%未満であり、前記界面活性剤は、そのインク中における含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.10質量%以上0.35質量%以下であり、かつ、下記式(1)で表される構造を有することを特徴とするインクジェット用インクを提供する。
Figure 0005578772
(式(1)中、nは3以上27以下の数値であり、mは16以上31以下の数値である。)
また、本発明は、インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが前記本発明のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
また、本発明は、インクを収容しているインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが前記本発明のインクであることを特徴とするインクカートリッジを提供する。
また、本発明は、インクを収容しているインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが前記本発明のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
本発明によれば、耐擦過性に優れ、また、インクを吐出する場合に、インク滴の曲がりが発生し、インクの着弾点がずれてしまう現象を起こすことのない、吐出特性に優れた樹脂を含有するインクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、かかるインクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置を提供することができる。
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、吐出口より吐出されたインク滴の曲がりの発生により、インクの記録媒体への着弾点がずれるという現象の原因について考察した。その結果、上記現象を引き起こす主たる原因は、下記の点にあると推論した。すなわち、インク中に含有されている樹脂が、フェイス面(記録ヘッドにおける、インクを吐出するための吐出口を有する面)に付着すること、そしてフェイス面の撥水性が低下する(以下「濡れ性が低下する」と言う場合がある)ことであるという結論に至った。そこで、本発明者らは、上記推測を検証するために、インクがフェイス面に付着してから該フェイス面の撥水性が低下するまでに起きている現象について考察した。その結果、フェイス面では以下の現象が起こっていることが判明した。
すなわち、先ず、フェイス面に付着するインクの多くは、吐出の際にフェイス面近傍で発生するミスト状のインクや記録媒体から跳ね返ってきたインクである。このインクに樹脂が含有されている場合、前記樹脂の一部は、前記インクがフェイス面に付着した瞬間の界面状態の変化により、気液界面や固液界面に配向する。その際、固液界面に配向した樹脂の疎水性ユニットと、撥水処理が施されたフェイス面を構成している疎水性ユニットとの親和性は高いため、ブレードやワイパなどによる一般的なフェイス面のクリーニング動作では、この樹脂を取り除きにくくなる。そして、インクを吐出するたびに上記現象が繰り返されることで、フェイス面の撥水性が徐々に低下することとなる。その結果、親水性の大きい主インク滴は、フェイス面の撥水性が低下した部分に引っ張られる形となり、インク滴の曲がりが発生するという現象を引き起こすのである。
本発明者らは、上記検証結果を踏まえ、フェイス面の特性を変更することやクリーニング動作の工夫などではなく、インクの特性の工夫で、インク中の樹脂を如何にしてフェイス面に付着させないようにするかということを中心に、検討を進めた。その結果、樹脂がインクとフェイス面との固液界面に配向する前に、樹脂以外の化合物を前記固液界面に選択的に配向させればよいとの考えに至った。このようにすれば、撥水処理が施されたフェイス面の特性(疎水性ユニットの構成など)によらずに、フェイス面に樹脂が付着することが抑制され、本発明の課題を解決できると考えた。そこで、本発明者らは、樹脂が気液界面や固液界面に配向する配向速度よりも大きい配向速度を有する化合物を含有するインクを数種類用意し、フェイス面の濡れ性と配向速度の関係について検討を行った。その結果、例え、樹脂の気液界面や固液界面に配向する配向速度よりも大きい配向速度を有する化合物であっても、効果の得られるものと得られないものとが存在することが判明した。
そこで、本発明者らは、さらに検討を進めた結果、下記式(1)で表される構造を有する界面活性剤をインク中に含有させることで、本発明の課題を解決できることを見出した。
Figure 0005578772
(式(1)中、nは3以上27以下の数値であり、mは16以上31以下の数値である。)
なお、式(1)で表される構造を有する界面活性剤において、[−CH2−CH2−O−]はエチレンオキサイドユニット、[−CH2−CH(CH3)−O−]はプロピレンオキサイドユニット、をそれぞれ示す。上記式(1)で表される界面活性剤において、エチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットとがその構造中に存在する状態は、ランダムやブロックなど、どのような状態であってもよい。しかし、本発明者らの検討の結果、ブロックの状態であることが好ましいことが判明した。さらには、下記式(2)に示すように、エチレンオキサイドユニット、プロピレンオキサイドユニット、エチレンオキサイドユニットの順序でブロックの状態に並んだ構造の化合物が特に好ましいことが判明した。
Figure 0005578772
(式(2)中、n1+n2は3以上27以下の数値であり、mは16以上31以下の数値である。)
ここで、ユニットがランダムに存在することとは、エチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットの配列が不規則であることを意味している。また、ユニットがブロックに存在することとは、あるユニットがいくつかのモノマーを単位として構成され、いくつかのモノマーで構成されたユニットの配列が規則的であることを意味している。
インク中に含有させる化合物として、樹脂の気液界面や固液界面に配向する配向速度よりも大きい配向速度を有する化合物を選択するだけでなく、先に説明した特定の構造を有する化合物を用いない限り本発明の課題を解決することができない理由は定かではない。しかし、本発明者らは以下のように推測している。
配向速度が大きい化合物の代表例としては、インクジェット用のインクに用いる界面活性剤として一般的なアセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。しかし、本発明者らの検討によると、アセチレングリコール系界面活性剤の場合、インク中の含有量を幾ら増加しても、本発明の課題を解決することはできなかった。本発明者らは、この理由を以下のように推測している。先ず、アセチレングリコール系界面活性剤のみを含有する水溶液では、確かに、アセチレングリコール系界面活性剤は、配向速度が大きいため、気液界面にすばやく配向する(図1及び2参照)。しかし、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する樹脂水溶液では、アセチレングリコール系界面活性剤の疎水性ユニットが、樹脂の疎水性ユニットに吸着する。そのため、アセチレングリコール系界面活性剤が気液界面へ配向しにくくなる、或いは、樹脂を吸着した状態で一緒に配向する(図3及び4参照)といった現象を生じる。このように、アセチレングリコール系界面活性剤の場合には、樹脂の一部が気液界面や固液界面に配向するため、フェイス面の濡れ性の低下を抑制できなかったものと考えられる。
一方、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤の場合には、親水性ユニットであるエチレンオキサイドユニットと、疎水性ユニットであるプロピレンオキサイドユニットが分子構造内に存在する状態は以下の通りである。具体的には、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤においては、親水性ユニット及び疎水性ユニットが、アセチレングリコール系界面活性剤のように明確に別れて存在していない。そのため、樹脂を含有する水溶液でも、親水性ユニットと疎水性ユニットが規則正しく存在しているアセチレングリコール系界面活性剤と比較して、樹脂に吸着する割合は極端に少なくなる。したがって、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤の場合は、気液界面には、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤が選択的に存在する(図5及び図6参照)ことになり、フェイス面の濡れ性の低下を抑制できたものと考えられる。
なお、図1から図6の現象に関しては、各々の水溶液の動的表面張力を測定することで確認することが可能である。この点については、後述する。
本発明者らのさらなる検討によると、例え、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤であっても、エチレンオキサイドユニット及びプロピレンオキサイドユニットの数によっては、本発明の効果が得られない場合があることがわかった。先ず、エチレンオキサイドユニットのモル数が3未満(n<3)である場合、又はプロピレンオキサイドユニットのモル数が31よりも大きい(m>31)場合が挙げられる。これらの場合には界面活性剤の疎水性が高まるため、前記したアセチレングリコール系界面活性剤のみを添加した水溶液と同じように、界面活性剤がインク中の樹脂や顔料に吸着し易くなる。この結果、樹脂の一部が気液界面や固液界面に配向するため、フェイス面の濡れ性の低下が抑制されず、本発明者らの求める吐出特性のレベルを満足することができなかったものと考えられる。一方、エチレンオキサイドユニットのモル数が27より大きい(n>27)、又はプロピレンオキサイドユニットのモル数が16未満(m<16)である場合も、本発明の効果が得られない。先ず、このような構造を有する場合は、界面活性剤の親水性が高まると考えられる。したがって、この場合には界面活性剤が樹脂水溶液中で安定に存在し、気液界面や固液界面への配向速度及び配向量が低下してしまう。その結果、樹脂の気液界面や固液界面への配向量が増加してしまい、フェイス面での濡れ性の低下が抑制されず、本発明者らの求める吐出特性のレベルを満足することができなかったものと考えられる。
上記のような理由から、樹脂を含有するインクが、さらに、式中のm及びnの値が本発明で規定する範囲内である下記式(1)で表される構造を有する界面活性剤を含有することで、フェイス面の濡れ性の低下が顕著に抑制されたものと推測される。
Figure 0005578772
(式(1)中、nは3以上27以下の数値であり、mは16以上31以下の数値である。)
なお、本発明においては、上記式(1)で表される構造を有する界面活性剤として、例えば、市販の化合物を用いてもよい。上記式(1)で表される構造を有する界面活性剤は、一般に、エチレンオキサイドユニットの数及びプロピレンオキサイドユニットの数が種々に異なる化合物の混合物として存在する。本発明者らの検討の結果、エチレンオキサイドユニットの数及びプロピレンオキサイドユニットの数の平均値が、本発明で規定する範囲内であれば、上記した本発明の効果が得られることを確認した。しかし、本発明者らのさらなる検討によると、樹脂の種類やその含有量によっては、上記式(1)で表される構造を有する界面活性剤を含有するインクでも、本発明者らの求める吐出特性のレベルを満足することができない場合があった。
そこで、本発明者らは、インクが含有する樹脂の特性についてさらに検討を進めた。その結果、酸価が100mgKOH/g以上220mgKOH/g以下で、かつ、重量平均分子量が3,000以上10,000以下の樹脂を用いることで、フェイス面の濡れ性の低下をさらに顕著に抑制できることを見出した。上記の特性を有する樹脂を用いたことによる効果は明確ではないが、本発明者らは以下のように推測している。
先ず、上記に規定した範囲外である場合、すなわち、重量平均分子量が3,000未満である樹脂の場合は、気液界面に配向している界面活性剤の隙間に樹脂が配向しやすい。また、この場合には水溶液中での配向速度も大きくなり、気液界面や固液界面へ配向し易くなるため、フェイス面の濡れ性の低下を抑制するには最適ではない。さらに、本発明の目的の1つは、記録物の耐擦過性を向上させることにあるが、樹脂の重量平均分子量が3,000未満である場合は、こうした効果を十分に発揮することができない場合があり、この点からも好ましくない。
一方、重量平均分子量が10,000よりも大きい樹脂の場合には、樹脂が水溶液中で立体的に広がりやすくなると考えられる。そのため、界面活性剤が気液界面や固液界面へ配向する際、界面活性剤が樹脂に捕捉され易くなり、結果的に、界面活性剤の気液界面への配向量及び配向速度が低下することになる。したがって、インクがこのような樹脂を含有してなることは、フェイス面の濡れ性の低下を抑制する目的からは、最適なことではない。
また、酸価が100mgKOH/g未満である樹脂の場合は、樹脂の疎水性が高くなり、樹脂が気液界面へ配向し易くなるため、濡れ性の低下を抑制する目的からは、最適なこととは言えない。一方、酸価が220mgKOH/gよりも大きい樹脂の場合は、インクを記録媒体に付与した後、該樹脂はインク中の液体成分と共に記録媒体に浸透しやすくなる。そのために、本発明の目的の1つである、記録物の耐擦過性を向上させることができない場合が生じるので、好ましくない。
本発明では、得られる記録物の耐擦過性を向上させることができ、さらに、インクジェット記録方法を用いてインクを吐出した場合でも、インクの曲がりが発生し、インクの着弾点がずれてしまう現象を抑制することを目的としている。そして、本発明者らは、前記した樹脂についての検討結果から、これらの目的を達成するためには、インクが、以下の構成を有することが重要であるとの結論に至った。すなわち、酸価が100mgKOH/g以上220mgKOH/g以下で、かつ、重量平均分子量が3,000以上10,000以下である樹脂と、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤とを含有してなるインクとすることが重要である。
なお、本発明者らのさらなる検討の結果、より良好なインクとするためには以下に挙げることが好適であることを見出した。先ず、インク全質量を基準とした、樹脂の含有量(質量%)をA質量%とし、また界面活性剤の含有量(質量%)をB質量%とする。このとき、前記界面活性剤のみをB質量%含む水溶液の動的表面張力が、前記樹脂のみをA質量%含む水溶液の動的表面張力よりも小さいことが好ましいことがわかった。このような構成である場合、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
また、本発明においては、記録物の耐擦過性をより向上させるために、インク全質量を基準とした前記樹脂の含有量(質量%)が2.5質量%以上であることが好ましい。さらに樹脂のフェイス面への付着量を低減させるためには、インク全質量を基準とした前記樹脂の含有量(質量%)が3.5質量%未満であることが好ましい。また、インク全質量を基準とした前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤の含有量(質量%)が、0.05質量%以上0.5質量%以下、さらには0.10質量%以上0.35質量%以下であることが好ましい。
さらにインクに使用する樹脂は、以下の理由により、ブロック共重合体であることが好ましい。ブロック共重合体は、その構造中において、親水性ユニット及び疎水性ユニットがより明確に分かれて存在するため、インク中ではランダム共重合体よりもブロック共重合体のほうが会合体を形成し易く、気液界面や固液界面へ配向しにくいためである。なお、本発明において、樹脂がブロック共重合体であることとは、単量体(親水性単量体や疎水性単量体)がそれぞれ、1つ乃至いくつかが連続して配列していることをいう。
さらにインクがフェイス面に付着した際、インク中の界面活性剤ができるだけ早くフェイス面に配向した方が、長期に渡りインクを吐出する場合におけるフェイス面の濡れ性の低下をより効果的に抑制し易いと考えられる。この観点で、本発明者らは、界面活性剤の配向速度について、以下のような検討を行った。
先ず、本発明で用いる前記式(1)で表される構造を有する種々の界面活性剤を用いて、ある寿命時間における動的表面張力の特性が異なる数多くのインクを調製した。そして、これらのインクをそれぞれ用いて、長期に渡ってインクを吐出する場合におけるフェイス面の状態を観察した。そして、フェイス面の濡れ性と、寿命時間10m秒から寿命時間5,000m秒までのインクの動的表面張力との関係を調べた。その結果、本発明で用いる前記式(1)で表される構造を有する種々の界面活性剤を用いる場合、フェイス面の構成にかかわらずに、フェイス面の濡れ性と寿命時間50m秒におけるインクの動的表面張力との相関が最も大きいことがわかった。また、寿命時間50m秒を中心にして、寿命時間がその前後に離れるほど、この相関関係は連続的に小さくなっていくことがわかった。このことから、本発明者らは、寿命時間50m秒におけるインクの動的表面張力をある範囲に規定することで、フェイス面の濡れ性の低下を特に顕著に抑制できるインクとすることができるという知見を得た。
具体的には、インクの特性として、最大泡圧法による寿命時間50m秒における動的表面張力が50mN/m以下であることが好ましいことが判明した。なお、この際、インクが上記特性を示す要因が、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤によるものである必要がある。すなわち、本発明の効果が得られるメカニズムは上述した通りである。したがって、他の界面活性剤や、アルカンジオール系やグリコールエーテルなど浸透性の溶剤に起因して上記特性を示したとしても、インクの動的表面張力をコントロールすることの効果を得ることはできない。本発明のインクが上述の動的表面張力の特性を示すようにするためには、前記式(1)で表される構造を有する界面活性剤を用い、その含有量(質量%)を、例えば、インク全質量を基準として、0.10質量%以上0.35質量%以下とすることで達成できる。なお、寿命時間50m秒における動的表面張力の下限は特にこれに限られるものではないが、画像濃度を確保することや、インクの裏抜けを抑制するためには、30mN/m以上であることが好ましい。
ここで、本発明においてインクの動的表面張力の測定に用いた最大泡圧法について説明する。最大泡圧法とは、測定する液体中に浸したプローブ(細管)の先端部分で形成された気泡を放出するために必要な最大圧力を測定して、この最大圧力から表面張力を求める方法である。また、寿命時間は、最大泡圧法において、プローブの先端部分で気泡を形成する際に、気泡が先端部分から離れた後に新しい気泡の表面が形成された時点から、最大泡圧時(気泡の曲率半径とプローブ先端部分の半径が等しくなる時点)までの時間である。
前記式(1)で表わされる構造を有する界面活性剤は、エチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットとを付加することによって得られる。該界面活性剤は次のようにして製造することが好ましい。先ず、反応系中の水分を0.3質量%以下とする。また、触媒として用いる水酸化ナトリウムなどの塩基性触媒又は酸化マグネシウム−アルミニウム系固体触媒などの添加量を、各アルキレンオキサイド付加工程における中間生成物、最終製品に対して常に0.25質量%以下を保つようにする。さらに、得られた生成物中に副生成物として含まれる、下記の成分の含有量の総計が下記の範囲内となるようにする。すなわち、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びエチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットとの重合物であるポリアルキレングリコールを約0.3質量%乃至約3質量%にする。
<水性媒体>
本発明のインクを構成する他の成分としては、水又は水及び水溶性有機溶剤を含有する水性媒体を挙げることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、具体的には、以下のものを用いることができる。
エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノールなどの炭素数が1乃至4のアルカノール。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン又はケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル。グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ジチオグリコールなどのグリコール類。1,5−ペンタンジオール、1,2−又は1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、平均分子量が200、400、600、1,000、2,000などのポリエチレングリコールなどの多価アルコール類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリンなどの複素環類。ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物。グルコース、ガラクトースなどの糖類。これらの水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
なお、以下に列挙するようなアルカンジオール類やグリコールエーテル類などの水溶性有機溶剤は、インクに用いる水溶性有機溶剤として一般的である。アルカンジオール類は、具体的には、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−又は1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。また、グリコールエーテル類は、具体的には、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどが挙げられる。しかし、アルカンジオール類やグリコールエーテル類などの浸透系の水溶性有機溶剤は、インクが含有する界面活性剤に比べて初期での動的表面張力が小さい場合がある。界面活性剤よりも動的表面張力が小さい水溶性有機溶剤を用いる場合、前記界面活性剤の気液界面への配向速度が小さくなる場合がある。このため、アルカンジオール類やグリコールエーテル類などの浸透系溶剤を水溶性有機溶剤としてできるだけ用いないか、又は、用いる場合はこれらを添加することによる効果が得られ、かつ本発明の効果を損なわないように組成を工夫することが好ましい。
また、水は脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
<色材>
本発明のインクに用いることができる色材は、カーボンブラックや有機顔料などの水不溶性色材(以下、単に「顔料」と言うことがある)であることが好ましい。顔料は、その分散方式にかかわらず用いることができる。例えば、分散剤を用いる樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、水不溶性色材そのものの分散性を高め、分散剤などを用いることなく分散可能とした顔料を用いることができる。例えば、マイクロカプセル型顔料、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合した顔料(ポリマー結合型自己分散型顔料)を用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いることもできる。インク中の水不溶性色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
[カーボンブラック]
ブラックインクに用いる顔料は、カーボンブラックであることが好ましい。カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、具体的には、以下のものを用いることができる。
レイヴァン:1170、1190ULTRA−II、1200、1255、1250、1500、2000、3500、5000、5250、5750、7000など(コロンビア製)。ブラックパールズL、リーガル:330R、400R、660R、モウグルL、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、ヴァルカンXC−72Rなど(キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:4、4A、5、6など(デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA7、MA8、MA100、MA600など(三菱化学製)。また、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックや、マグネタイトやフェライトなどの磁性体微粒子など、チタンブラックなどを用いることもできる。
[有機顔料]
カラーインクに用いる顔料は、有機顔料であることが好ましい。有機顔料は、具体的には、以下のものを用いることができる。
トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッドなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料。インジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなど。
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、具体的には、以下のものを用いることができる。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128。137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185など。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71など。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227。228、238、240、254、255、272など。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50など。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64など。C.I.ピグメントグリーン:7、36など。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26など。
[分散剤]
上記した水不溶性色材をインク中に分散するための分散剤として樹脂分散剤を用いる場合には、これまでに述べた特性を有する樹脂を用いるとよい。すなわち、本発明では、酸価が100mgKOH/g以上220mgKOH/g以下、重量平均分子量が3,000以上10,000以下である樹脂を含有することが必要となる。より好適には、インクを構成する水性媒体中に、このような特性を有する樹脂により顔料が分散されてなるインクであることが好ましい。分散剤としては、具体的には、下記に挙げる単量体を重合して得た共重合体などを用いることができる。
スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、ビニルピロリドン、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体など。これらの単量体から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)で構成される、ブロック共重合体、ランダム共重合体、若しくはグラフト共重合体、又はこれらの塩などが挙げられる。これらの単量体で構成される樹脂は、塩基を溶解した水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。本発明においては、適度な親水性を有する樹脂とすることができ、また、樹脂の酸価などの調整が容易にできることから、樹脂が親水性の単量体としてアクリル酸又はその誘導体を含むことが特に好ましい。
また、樹脂を構成する単量体のうち、親水性の単量体と疎水性の単量体との質量比率(親水性単量体/疎水性単量体)が、60/40乃至30/70、すなわち0.4乃至1.5であることが好ましい。なお、本発明においては、上記で挙げた単量体のうち、疎水性の単量体に該当するものとしては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、及びビニルナフタレン誘導体が挙げられ、これ以外の単量体は親水性の単量体に該当する。
なお、本発明のインクには、形成した画像の耐擦過性をより向上させるために、顔料を分散する樹脂の他に、さらにインクに樹脂を添加することができる。このとき、インクに添加する樹脂は、分散剤として用いる樹脂と同じ樹脂であっても、異なる樹脂であってもよいが、インクの安定性などの観点から、分散剤として用いる樹脂と同じ樹脂をインクに添加することが特に好ましい。
(その他の添加剤)
本発明のインクは、保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなど、固体の保湿性化合物を含有してなるものであってもよい。保湿性化合物のインク中の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
本発明のインクは、上記した成分以外にも必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。また、これらを添加することによる効果が得られ、かつ本発明の効果を損なわない限り、上記式(1)で表される構造を有する界面活性剤以外の界面活性剤を含有するインクとすることもできる。
<インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置>
次に、インクジェット記録装置の一例について以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット方式やインクジェット記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図7及び図8に示す。図7は、インク流路に沿った記録ヘッド13の断面図であり、図8は、図7のA−B線での切断面図である。記録ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。
発熱素子基板15は、保護層16、電極17−1及び17−2、発熱抵抗体層18、蓄熱層19、基板20より構成される。前記保護層16は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成される。前記電極17−1及び17−2は、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される。前記発熱抵抗体層18は、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料などで形成される。前記蓄熱層19は、熱酸化シリコン、酸化アルミニウムなどで形成される。また、前記基板20は、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料などで形成される。
上記記録ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生する。そして、気泡の圧力でメニスカス23が突出し、インク21が記録ヘッドのノズル14を通して吐出され、吐出オリフィス22よりインク滴24となり、記録媒体25に向かって飛ぶ。
図9は、図7に示した記録ヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図である。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図7に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
図10は、この記録ヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例である。図10において、ワイピング部材であるブレード61の一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は、記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、図示した例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。62は記録ヘッド65の吐出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直方向に移動して、インク吐出口面と当接して、キャッピングを行う構成を備える。
さらに63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。ブレード61、キャップ62、及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって、吐出口面の水分、塵埃などの除去が行われる。65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
51は記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により、記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録の進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において、記録が終了して記録ヘッド65がホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
なお、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングのときの位置と同じ位置に存在する。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上記で述べた記録ヘッド65のホームポジションへの移動は記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
図11は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクを記録ヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。
インクジェット記録装置は、上記で述べたように記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図12に示すように、記録ヘッドとインクカートリッジが一体になったものにも好適に用いられる。図12において、記録ユニット70の中にはインクを収容するインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数の吐出口を有する記録ヘッド部71からインクとして吐出される構成になっている。また、インク吸収体を用いないで、インク収容部がその内部にバネなどを有するインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図10に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット方式やインクジェット記録装置の好ましい一例は、以下の構成のオンデマンド型インクジェット記録ヘッドを有するものが挙げられる。具体的には、インクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料で構成される圧力発生素子を有する。そして、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクをノズルから吐出する。上記したインクジェット記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図13に示す。
記録ヘッドは、インク流路80、オリフィスプレート81、振動板82、圧電素子83、オリフィスプレート81、振動板82などを支持固定するための基板84とから構成されている。インクは、インク室(不図示)に連通したインク流路80から、オリフィスプレート81を通じて所望の体積のインク滴となり吐出される。このとき、インクは、圧力を加える振動板82、この振動板82に接合されて電気信号により変位する圧電素子83の作用により吐出される。前記インク流路80は、感光性樹脂などで形成される。前記オリフィスプレート81においては、ステンレス、ニッケルなどの金属を電鋳やプレス加工による穴あけなどにより吐出口85が形成される。前記振動板82は、ステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルム及び高弾性樹脂フィルムなどで形成される。
また、前記圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。上記したような構成を有する記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与えることにより歪み応力を発生させる。そして、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図10に示したものと同様のインクジェット記録装置に組み込んで用いることができる。また、インクジェット記録装置の細部の動作は、上記したものと同様とすることができる。
次に、実施例、参考例、及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
[顔料分散液1〜13の調製]
カーボンブラック10部、グリセリン6部、スチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体10部及び水74部を、サンドミル(金田理化工業製)を用いて1,500rpmで5時間分散して分散体を得た。なお、カーボンブラックは、比表面積が220m2/g、DBP吸油量が130ml/100gのものを用いた。また、分散剤として用いたスチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体は、共重合(質量)比が61:26:13、重量平均分子量が3,000、酸価が100mgKOH/gのランダム共重合体である。スチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体は、予め、水及び上記の酸価と当量の水酸化カリウムを加えて80℃で撹拌して水溶液としたものを用いた。サンドミルには0.6mm径のジルコニアビーズを用い、ポット内の充填率は70%とした。さらに上記で得られた分散液を5,000rpmで10分間遠心分離を行い、凝集成分を除去した。その後、顔料10%、樹脂3%になるように調整して、顔料分散液1を得た。
顔料分散液2〜13は、分散剤であるスチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体を、表1のものに変えたこと以外は、顔料分散液1と同様にして、顔料10%、樹脂3%となるようにして調製した。下記表1に、各顔料分散液の調製に用いたスチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体の共重合(質量)比(スチレン:アクリル酸メチル:アクリル酸)、重量平均分子量、酸価、共重合体の種類を示した。
Figure 0005578772
[インクの調製]
表2及び表3に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ1.2μmのポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行い、実施例5、9、14、参考例1〜4、6〜8、10〜13、及び比較例1〜17のインクを調製した。なお、表2及び表3に記載した、スチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体は、各インクに用いた各顔料分散液中のスチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体と同じものである。
ここで、インク中の樹脂の種類及びその含有量について、参考例1のインクを例に挙げて説明する。参考例1のインクには顔料分散液1を用いているので、インクに添加したスチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体の共重合比は61:26:13、重量平均分子量は3,000、酸価は100mgKOH/g、共重合体の種類はランダムである。このとき、インクは樹脂濃度3%の顔料分散液1を40.00%、及び、スチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体を1.30%含有する。したがって、インク中におけるスチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体の含有量は、下記の式から求められるように、2.50%となる。
Figure 0005578772
Figure 0005578772
Figure 0005578772
Figure 0005578772
Figure 0005578772
Figure 0005578772
Figure 0005578772
[評価]
<動的表面張力の測定>
上記で得られた、実施例5、9、14、参考例1〜4、6〜8、10〜13、及び比較例1〜17のインクについて、最大泡圧法により測定を行う装置(BP−D4;協和界面化学製)を用いて、寿命時間50m秒におけるインクの動的表面張力を測定した。動的表面張力の測定は25℃において行った。結果を表4に示した。
<フェイス面の状態及び吐出安定性>
上記で得られた、実施例5、9、14、参考例1〜4、6〜8、10〜13、及び比較例1〜17のインクを、インクジェット記録装置(PIXUS 850i;キヤノン製)を改造したものにそれぞれ搭載した。その後、PPC用紙オフィスプランナー(キヤノン製)に、18cm×24cmのベタ画像を、デフォルトモードで10枚連続して記録を行い、その後にPIXUS850iのノズルチェックパターンを記録した。なお、連続して記録を行う際には、3枚に1回の割合で前記インクジェット記録装置のワイパーブレードにより、記録ヘッド表面(フェイス面)のクリーニング動作を行った。その後、吐出口の周辺を目視で確認し、フェイス面の状態を評価した。フェイス面の状態の評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示した。
AA:吐出口の周辺にインクが見られない。
A:吐出口の周辺にインクがほとんど見られない。
B:吐出口の周辺にインクが多少存在するが、実際の使用上問題ない。
C:吐出口の周辺に帯状に液膜が存在する。
また、上記で得られたノズルチェックパターンを目視で確認し、インクの吐出安定性を評価した。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示した。
A:ノズルチェックパターンに乱れがない。
B:ノズルチェックパターンに若干の乱れがあるが、不吐出はない。
C:ノズルチェックパターンに不吐出や乱れがはっきりと確認される。
<耐擦過性>
上記で得られた実施例5、9、14、参考例1〜4、6〜8、10〜13、及び比較例1〜17のインクを、インクジェット記録装置(PIXUS 850i;キヤノン製)を改造したものにそれぞれ搭載した。その後、PPC用紙オフィスプランナー(キヤノン製)に、MSゴシック体で14ポイントの文字及び2cm×2cmのベタ画像をそれぞれ記録した。その後、記録した部分を指で擦り、文字及びベタ画像の状態を目視で確認し、画像の耐擦過性を評価した。耐擦過性の評価基準は下記の通りである。結果を表4に示した。
A:文字及びベタ画像に共に汚れがない。
B:文字に汚れはないが、ベタ画像に汚れがある。
C:文字及びベタ画像に共に汚れがある。
Figure 0005578772
Figure 0005578772
なお、フェイス面の状態の評価結果において、参考例及び比較例で同じB評価になっているものがある。しかし、吐出安定性の評価結果からもわかるように、参考例の方が、比較例よりもフェイス面のヌレ性は優れていた。
水にアセチレングリコール系界面活性剤を滴下した直後の状態を示すモデル図である。 水にアセチレングリコール系界面活性剤を滴下し、数秒経過後の状態を示すモデル図である。 樹脂水溶液にアセチレングリコール系界面活性剤を滴下した直後の状態を示すモデル図である。 樹脂水溶液にアセチレングリコール系界面活性剤を滴下して数秒が経過した後の状態を示すモデル図である。 樹脂水溶液に式(1)で表される構造を有する界面活性剤を滴下した直後の状態を示すモデル図である。 樹脂水溶液に式(1)で表される構造を有する界面活性剤を滴下して数秒が経過した後の状態を示すモデル図である。 記録ヘッドの縦断面図である。 記録ヘッドの切断面図である。 図7に示した記録ヘッドをマルチ化した記録ヘッドの外観斜視図である。 インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。 インクカートリッジの縦断面図である。 記録ユニットの一例を示す斜視図である。 記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
符号の説明
13:記録ヘッド
14:ノズル
15:発熱素子基板
16:保護層
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク滴
25:記録媒体
26:マルチノズル
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:記録ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口

Claims (7)

  1. 顔料、樹脂及び界面活性剤を含有するインクジェット用インクであって、
    前記樹脂は、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルから選択される少なくとも1つの単量体に由来するユニットと、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びアクリルアミド誘導体から選択される少なくとも1つの単量体に由来するユニットとを有するブロック共重合体であり、
    前記樹脂は、その酸価が100mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、その重量平均分子量が3,000以上10,000以下であり、
    前記樹脂のインク中における含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.0質量%以上3.5質量%未満であり、
    前記界面活性剤は、そのインク中における含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.10質量%以上0.35質量%以下であり、かつ、下記式(1)で表される構造を有することを特徴とするインクジェット用インク。
    Figure 0005578772
    (式(1)中、nは3以上27以下の数値であり、mは16以上31以下の数値である。)
  2. 最大泡圧法による、寿命時間50m秒における25℃での前記インクの動的表面張力が、50mN/m以下である請求項1に記載のインクジェット用インク。
  3. 前記樹脂のインク中における含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.5質量%以上3.5質量%未満である請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
  4. 前記顔料が、その酸価が100mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、その重量平均分子量が3,000以上10,000以下である樹脂によってインクに分散されている請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
  5. インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
  6. インクを収容しているインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
  7. インクを収容しているインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが、請求項1乃至のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
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