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JP2021110403A - 摺動部材及びピストンリング - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた耐熱性、相手材に対する低い攻撃性、高い耐摩耗性、及び低い摩擦係数の全てを実現することが可能な摺動部材を提供する。【解決手段】本開示の摺動部材100は、基材10と、該基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜20と、を有する。非晶質炭素皮膜20は、水素含有量が3原子%以下であり、残部が炭素からなる成分組成を有し、厚さが3μm以上である。非晶質炭素皮膜の表面20Aは、算術平均粗さRaが0.10μm以下である。非晶質炭素皮膜の表面20Aには、インデンテーション硬さが25GPa以上の硬質領域18Aと、インデンテーション硬さが20GPa以下の軟質領域18Bとが混在しており、前記表面20Aにおける硬質領域18Aの面積をA、軟質領域18Bの面積をBとして、A/(A+B)が0.20以上0.70以下であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、摺動部材、特にピストンリング等の自動車部品など、高い信頼性を要求される摺動部材に関する。
近年、自動車エンジンを中心とする内燃機関において、高出力化、長寿命化、燃費向上が求められている。そこで、例えば内燃機関等で使用される摺動部材の摺動面には、摩擦係数が低いことで知られている硬質炭素皮膜を形成することが一般的に行われている。
この硬質炭素皮膜としては、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)と呼ばれる非晶質炭素が例示される。DLCの構造的本質は、炭素の結合としてダイヤモンド結合(sp3結合)とグラファイト結合(sp2結合)とが混在したものである。よって、DLCは、ダイヤモンドに類似した硬度、耐摩耗性、熱伝導性、化学安定性を有し、一方でグラファイトに類似した固体潤滑性を有することから、例えば自動車部品などの保護膜として好適である。
DLC皮膜は、その硬さに応じて有利に発揮できる特性が異なる。一般に、硬質なDLC皮膜は、sp2比率が低いため低摩擦係数を得にくいものの、耐摩耗性には優れる。他方で、軟質なDLC皮膜は、sp2比率が高く低摩擦係数を得られるものの、耐摩耗性は硬質なDLC皮膜に及ばない。
そこで、硬質なDLC皮膜と軟質なDLC皮膜を組み合わせた摺動部材が提案されている。特許文献1には、ピストンリングの外周面にDLC皮膜が形成されており、このDLC皮膜は、硬度の異なる2種類の層が2層以上積層された積層皮膜であり、2種類の層の硬度差が500〜1700HVであり、硬度の高い層が硬度の低い層の厚さと同一又はそれ以上の厚さを有し、DLC皮膜全体の厚さが5.0μm以上であることが記載されている。
特開2012−202522号公報
特許文献1には、積層皮膜からなるDLC皮膜の最表層が硬度の高い層であることが記載されている。しかしながら、本発明者の検討によると、以下のことが判明した。すなわち、DLC皮膜の最表層が硬度の高い層であると、摺動の初期にDLC皮膜の表面のsp2比率が低いことから、摺動の過程で硬度の低い層が露出したとしても、摺動の初期で低い摩擦係数を得ることができなかった。他方で、DLC皮膜の最表層が硬度の低い層である場合には、DLC皮膜の耐熱性が不十分であるとともに、耐摩耗性が低く、さらに相手材への攻撃性が高いという問題があった。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、優れた耐熱性、相手材に対する低い攻撃性、高い耐摩耗性、及び低い摩擦係数の全てを実現することが可能な摺動部材を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、摺動前の段階で、つまり摺動部材が未使用の段階で、非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)の表面に硬質領域と軟質領域とを混在させておき、しかも、当該表面における硬質領域及び軟質領域の面積比率を所定の範囲とすることによって、優れた耐熱性、相手材に対する低い攻撃性、高い耐摩耗性、及び低い摩擦係数の全ての特性を実現できることを見出した。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)基材と、
該基材上に形成され、表面が摺動面となる、水素含有量が3原子%以下であり、残部が炭素からなる成分組成を有する、厚さが3μm以上の非晶質炭素皮膜と、
を有し、
前記非晶質炭素皮膜の前記表面は、算術平均粗さRaが0.10μm以下であり、
前記非晶質炭素皮膜の前記表面には、インデンテーション硬さが25GPa以上の硬質領域と、インデンテーション硬さが20GPa以下の軟質領域とが混在しており、
前記表面における硬質領域の面積をA、軟質領域の面積をBとして、A/(A+B)が0.20以上0.70以下であることを特徴とする摺動部材。
(2)前記非晶質炭素皮膜において、
前記表面の硬質領域の部位では、前記表面からの深さ方向に硬質部位のみが存在し、
前記表面の軟質領域の部位では、前記表面からの深さ方向にまず軟質部位が位置し、その後、硬質部位が位置する、上記(1)に記載の摺動部材。
(3)前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、上記(1)又は(2)に記載の摺動部材。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
本発明の摺動部材は、優れた耐熱性、相手材に対する低い攻撃性、高い耐摩耗性、及び低い摩擦係数の全てを実現することができる。
本発明の一実施形態による摺動部材100の模式断面図である。 本発明の一実施形態による摺動部材100の製造工程の一部を模式的に説明する図である。 本発明の一実施形態によるピストンリング200の断面斜視図である。
(摺動部材)
図1を参照して、本発明の一実施形態による摺動部材100は、潤滑油下で使用されるものであり、基材10と、この基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)20と、を有する。また、任意で、基材10と非晶質炭素皮膜20との間に中間層12を有してもよい。
[基材]
基材10の材質は、摺動部材の基材として必要な強度を有するものであれば特に限定されない。本実施形態の摺動部材100をピストンリングとする場合、基材10の好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等が挙げられる。本実施形態の摺動部材100をCVTなどのシールリングとする場合、基材10の材料としては樹脂が挙げられ、コンプレッサのベーンなどとする場合、基材10の材料としてはアルミ合金等が挙げられる。
基材10の表面(DLC皮膜を形成する表面)の粗さは、算術平均粗さRaで0.01μm以上であることが好ましい。基材10の表面粗さがRaで0.01μm未満の場合、当該表面がほぼ鏡面となり、後述する適度な表面粗さの硬質DLC層14(図1,2参照)を形成することができないからである。基材10の表面粗さの上限は特に限定されないが、DLC皮膜20の成膜を容易にする観点から、基材10の表面粗さはRaで1.3μm以下であることが好ましい。基材10の表面粗さは、基材表面の研磨の程度を調整することにより制御できる。また、基材表面にホーニング加工を施して、意図的に表面粗さを形成することもできる。
「基材表面のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、基材表面の任意の位置において、JIS B0601(2001)に従い、基準長さ:1.25mm、カットオフ値λc:0.25mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で、基材の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
[中間層]
中間層12は、基材10とDLC皮膜20との間に形成されることにより基材10との界面の応力を緩和し、DLC皮膜20の密着性を高める機能を有する。この機能を発揮する観点から、中間層12は、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなるものとすることが好ましい。DLC皮膜20の密着性を十分に高める観点から、中間層12の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。また、摺動時に中間層12が塑性流動を起こしてDLC皮膜20が剥離することを十分に抑制する観点から、中間層12の厚さは、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
中間層12の形成方法としては、例えばスパッタリング法を挙げることができる。洗浄後の基材10をPVD成膜装置の真空チャンバ内に配置し、Arガスを導入した状態でターゲットのスパッタ放電によって、中間層12を成膜する。ターゲットは、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWから選択すればよい。中間層12の厚さは、ターゲットの放電時間により調整できる。
[DLC皮膜]
<DLC皮膜の成分組成>
DLC皮膜20は、水素含有量が3原子%以下であり、残部が炭素からなる成分組成を有する。なお、非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。
DLC皮膜が水素を含有する場合、摺動によってDLC皮膜が高温になると、水素が脱離してDLC皮膜が劣化することによって、DLC皮膜の摩耗が促進される。よって、本実施形態において、DLC皮膜20は、実質的に水素を含まないもの、すなわち水素含有量が3原子%以下であるものとする。これにより、高温環境下における水素の離脱に起因する耐摩耗性の劣化を回避することができる。
<DLC皮膜の水素含有量の測定方法>
DLC皮膜の水素含有量の評価は、摺動部が平坦な面や曲率が十分大きな面に形成されたDLC皮膜に対してはRBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)/HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)によって評価することができる。これに対して、ピストンリングの外周面など平坦でない摺動面に形成されたDLC皮膜に対しては、RBS/HFS及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を組み合わせることによって評価する。RBS/HFSは公知の皮膜組成の分析方法であるが、平坦でない面の分析には適用できないので、以下のようにしてRBS/HFS及びSIMSを組み合わせる。
まず、平坦な面を有する基準試料として、鏡面研磨した平坦な試験片(焼入処理を施したSKH51ディスク、φ25×厚さ5mm、硬さHRC60〜63)に、基準値の測定対象となる炭素皮膜を形成する。
基準試料への成膜は、反応性スパッタリング法を用いて、雰囲気ガスとしてC22、Ar、H2を導入して行う。そして、導入するH2流量及び/又はC22流量を変えることによって、炭素皮膜に含まれる水素量を調整する。このようにして水素と炭素によって構成され、水素含有率が異なる炭素皮膜を形成し、これらをRBS/HFSで水素含有量と炭素含有量を評価する。
次に、上記の試料をSIMSで分析し、水素と炭素の二次イオン強度を測定する。ここで、SIMS分析は、平坦でない面、例えばピストンリングの外周面に形成された皮膜でも測定できる。したがって、炭素皮膜が施された基準試料の同一の皮膜について、RBS/HFSによって得られた水素含有量と炭素含有量(単位:原子%)と、SIMSによって得られた水素と炭素の二次イオン強度の比率との関係を示す実験式(計量線)を求める。このようにすることで、実際のピストンリングの外周面について測定したSIMSの水素と炭素の二次イオン強度から、水素含有量と炭素含有量を算出することができる。なお、SIMSによる二次イオン強度の値は、少なくとも炭素皮膜の表面から20nm以上の深さ、且つ50nm四方の範囲において観測されたそれぞれの元素の二次イオン強度の平均値を採用する。
<DLC皮膜の厚さ>
本実施形態において、DLC皮膜20の厚さは3μm以上とする。厚さが3μm未満の場合、DLC皮膜20によって期待される本発明の効果が十分に発揮されないからである。DLC皮膜の厚さの上限は特に限定されないが、基材との密着性を確保して剥離を防ぐ観点から、DLC皮膜20の厚さは40μm以下であることが好ましい。なお、本発明において、DLC皮膜の厚さは、DLC皮膜の厚さ方向に沿った断面を含む樹脂埋め込み試料を観察し、当該断面において、基材または中間層の凹部からDLC皮膜の表面までの長さを測定することにより求めるものとする。
<DLC皮膜の表面形態>
図1及び図2を参照して、本実施形態では、摺動前の段階で、つまり摺動部材100が未使用の段階で、DLC皮膜20の表面20Aに硬質領域18Aと軟質領域18Bとを混在させておく。さらに、表面20Aにおける硬質領域の面積をA、軟質領域の面積をBとして、A/(A+B)が0.20以上0.70以下であることが重要である。
「硬質領域」とは、インデンテーション硬さが25GPa以上のDLC領域を意味するものとし、硬質領域のインデンテーション硬さは30GPa以上であることが好ましい。硬質領域のインデンテーション硬さの上限は特に限定されないが、DLC皮膜の後加工性の観点から、硬質領域のインデンテーション硬さは60GPa以下であることが好ましい。
「軟質領域」とは、インデンテーション硬さが20GPa以下のDLC領域を意味するものとし、軟質領域のインデンテーション硬さは15GPa以下であることが好ましい。軟質領域のインデンテーション硬さの下限は特に限定されないが、耐熱性の観点から、軟質領域のインデンテーション硬さは5GPa以上であることが好ましい。
A/(A+B)が0.20未満の場合、DLC皮膜の表面20Aにおいて硬質領域18Aが過少であり、軟質領域18Bが過多となる。この場合、以下の3つのデメリットがある。第一に、軟質領域18Bは硬質領域18Aと比べて耐熱性に劣る傾向があることから、DLC皮膜20の耐熱性が不十分となる。第二に、軟質領域18Bは硬質領域18Aと比べて耐摩耗性に劣る傾向があることから、DLC皮膜20の耐摩耗性が不十分となる。第三に、相手材への攻撃性が高くなる。これは、以下のようなメカニズムによるものと考えられる。図2を参照して、DLC皮膜の表面20Aにおいて軟質領域18Bが過多となると、硬質DLC層14が表面粗さを維持したままDLC皮膜20の内部に存在することになる。すると、摺動の過程で硬質DLC層14の多数の凸部が相手材と接触することになり、その結果、相手材への攻撃性が高くなる。
これに対して、A/(A+B)が0.20以上の場合、耐熱性及び耐摩耗性に優れる硬質領域18Aが十分存在するため、DLC皮膜20の耐熱性及び耐摩耗性を確保することができる。また、相手材への攻撃性を低くすることもできる。これは、図2を参照して、摺動前の段階でDLC皮膜の表面20Aに硬質DLC層14がある程度露出して、硬質領域18Aを形成していれば、硬質DLC層14の凸部は除去され平坦面となっているからである。つまり、摺動の過程で硬質DLC層14の露出割合が高まっても、凸部による相手材の攻撃は起こらない。よって、A/(A+B)は0.20以上とし、好ましくは0.25以上とする。
A/(A+B)が0.70超えの場合、DLC皮膜の表面20Aにおいて硬質領域18Aが過多であり、軟質領域18Bが過少となる。この場合、摺動の初期段階で、sp2比率が高く低摩擦に寄与する軟質領域18BがDLC皮膜の表面20Aにほとんど露出していないことから、摺動の初期で摩擦係数が高くなってしまう。
これに対して、A/(A+B)が0.70以下の場合、摺動の初期段階で、軟質領域18BがDLC皮膜の表面20Aにある程度露出しているため、摺動の初期で低い摩擦係数を得ることができる。なお、摺動の過程で、sp2比率が低く低摩擦には不利な硬質DLC層14が多く露出することになるが、摺動が進行していることから、摩擦熱によって硬質DLC層表面のsp3成分が継続的にsp2成分に変化するため、低い摩擦係数は維持される。よって、A/(A+B)は0.70以下とし、好ましくは0.65以下とする。
なお、A/(A+B)は以下の方法で求めるものとする。DLC皮膜をラマン分光法で測定して得たラマン分光スペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比ID/IGは、DLC皮膜の硬さと相関があり、DLC皮膜が硬いほど、ID/IGは低くなる。よって、ある測定点で得られたID/IGの値から、当該測定点が硬質領域であるか軟質領域であるかを判定することができる。ID/IGは、具体的には、ラマン分光スペクトルをガウス関数によるカーブフィッティングによって、1350cm-1付近にピークを持つDバンドと1550cm-1付近にピークを持つGバンドとに分離し、Gバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比を求めることにより得られる。なお、本発明において用いるID/IGは、ピーク強度の比である。具体的には、DLC皮膜の表面の任意の位置で25mm×25mmの測定領域を3つ設定し、レニショー株式会社製 inViaReflexラマン分光測定器を使用して、当該測定領域内のID/IGを測定する。測定条件は、Arイオン励起レーザー波長:532.0nm、レーザー出力:50mW、対物レンズ:100倍、減光器を通した条件とする。各測定領域内の全ての測定点のうち、硬質領域と判定された測定点数をV1、軟質領域と判定された測定点数をV2として、各測定領域においてV1/(V1+V2)を求め、得られた3つの値を可算平均して、A/(A+B)とする。
なお、DLC皮膜の表面20Aに硬質領域18Aと軟質領域18Bとが「混在」するとは、DLC皮膜の表面20Aに硬質領域18A及び軟質領域18Bが分散して存在することを意味するものである。
<DLC皮膜の形成方法>
図1及び図2を参照して、DLC皮膜20の形成方法を説明する。DLC皮膜20は、例えば、カーボンターゲットを用いた真空アーク放電(VA法)によるイオンプレーティング等のPVD法を用いて形成することができる。PVD法は、水素をほとんど含まない高硬度で耐摩耗性に優れたDLC皮膜を形成することができる。真空アーク放電によるイオンプレーティング法を用いてDLC皮膜を成膜する場合、その硬さは、(i)カソードの放電量、(ii)アーク電流値、及び(iii)基材に印加するバイアス電圧によって調整できる。いずれの指標も高くするほど、硬さの小さいDLC皮膜が得られる。また、DLC皮膜の膜厚は、ターゲットの放電時間等の条件を変えることで調整できる。なお、フィルター型陰極真空アーク方式(FCVA法)を用いることでもよい。
まず、表面粗さがRaで0.01μm以上の基材10を用意し、任意で、当該表面上に中間層12を形成する。その後、基材10の表面又は中間層12の表面上に、上記(i)〜(iii)を所定値に設定した第1の条件で、硬質DLC層14を形成する。基材10の表面に所定の表面粗さが設けられていることや、成膜の過程で皮膜内に埃などが取り込まれることによって、硬質DLC層14の表面には所定の表面粗さが設けられる。
ここで、硬質DLC層14の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm以上0.8μm以下とすることが好ましい。この範囲に表面粗さを制御することによって、後述の研磨加工の結果、所望のA/(A+B)を実現しやすくなるからである。なお、「硬質DLC層表面のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、硬質DLC層表面の任意の位置において、JIS B0601(2001)に従い、基準長さ:1.25mm、カットオフ値λc:0.25mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で、硬質DLC層の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
硬質DLC層14の厚さは、目標とするDLC皮膜20の厚さを考慮して適宜決定すればよく、目標とするDLC皮膜20の厚さとほぼ同等にすればよい。
次に、硬質DLC層14の表面に、上記(i)〜(iii)を変更した第2の条件で、軟質DLC層16を形成する。軟質DLC層16の表面粗さは、硬質DLC層14の表面粗さをほぼ同程度に引き継ぐことになる。軟質DLC層14の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上5.0μm以下とすることが好ましい。0.1μm未満の場合、後述の研磨量の調整が困難となる恐れがあり、5.0μm超えの場合、所望のA/(A+B)を実現するために必要な研磨量が増えて、コスト及び生産性の面から好ましくない。
次に、軟質DLC層14表面を研磨して、DLC皮膜20を形成する。その際の研磨量を調整することによって、A/(A+B)を0.20以上0.70以下の範囲に制御する。すなわち、研磨量を多くするほど、硬質DLC層の露出部分(硬質領域18A)が増えることになるため、A/(A+B)は大きくなる。
このような方法で、DLC皮膜20の表面20Aに硬質領域18Aと軟質領域18Bとを混在させることができる。
<DLC皮膜の表面粗さ>
上記のような研磨の結果、DLC皮膜20の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.10μm以下となる。なお、「DLC皮膜のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、DLC皮膜の任意の位置において、JIS B0601(2001)に従い、基準長さ:1.25mm、カットオフ値λc:0.25mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で、DLC皮膜の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
<DLC皮膜の厚み方向の形態>
図1及び図2に示すように、DLC皮膜20において、表面20Aの硬質領域18Aの部位では、当該表面からの深さ方向に硬質部位(硬質DLC層14)のみが存在し、表面20Aの軟質領域18Bの部位では、当該表面からの深さ方向にまず軟質部位(軟質DLC層14の残存部分)が位置し、その後、硬質部位(硬質DLC層14)が位置する。この構成により、優れた耐熱性、相手材に対する低い攻撃性、高い耐摩耗性、及び低い摩擦係数の全てを実現することができる。
(摺動部材の製造方法)
本発明の一実施形態による摺動部材100の製造方法は、
基材10を用意する工程と、
任意で、前記基材10の表面に中間層12を形成する工程と、
前記基材10の表面、又は、前記中間層12の表面に、所定の表面粗さを有する硬質DLC層14を形成する工程と、
前記硬質DLC層14上に軟質DLC層16を形成する工程と、
前記軟質DLC層16を研磨して、DLC皮膜20を形成する工程と、
を有し、その研磨量を調整して、DLC皮膜20の表面20Aに、硬質DLC層14が露出した硬質領域18Aと、軟質DLC層16が残存した軟質領域18Bとを混在させ、かつ、表面20Aにおける硬質領域18Aの面積をA、軟質領域18Bの面積をBとして、A/(A+B)を0.20以上0.70以下に制御することを特徴とする。
本発明の一実施形態による摺動部材100は、エンジンオイルなどの潤滑油が介在する内燃機関の摺動部に使用されるピストンリング、ピストン、ピストンピン、タペット、バルブリフタ、シム、ロッカーアーム、カム、カムシャフト、タイミングギア、タイミングチェーン等や、燃料供給系に使用されるベーン、インジェクタ、プランジャ、シリンダ等、種々の製品に適用することができる。
(ピストンリング)
図3を参照して、本発明の一実施形態によるピストンリング200は、外周面22、内周面24、及び上下面26A,26Bの4面によってリング形状を呈し、外周面22が図1に示すDLC皮膜20により形成される。すなわち、本実施形態のピストンリング200は、上記摺動部材100からなるものであり、その外周面22が図1に示すDLC皮膜の表面20Aとなる。これにより、摺動面となる外周面22では、優れた耐熱性を得ることができ、相手材であるシリンダの内周面に対する攻撃性が低く、さらに高い耐摩耗性と低い摩擦係数を実現することが可能である。
呼称径80mm、厚さ2.5mm、幅1.2mmの寸法からなるシリコンクロム鋼のピストンリングの外周面(表面粗さRa:0.1μm)に、中間層として厚さ3μm程度のCr層を形成した。その後、中間層上に、表1に示す種々の水準のDLC皮膜を形成して、摺動部材を得た。DLC皮膜の形成は、以下の手順で行った。まず、真空アーク方式による成膜装置を用い、グラファイトをカソードとして、アーク電流値及びバイアス電圧の条件を種々に設定して、中間層の表面に、表1に示す「硬質領域硬さ」を有する硬質DLC層を成膜した。このとき、硬質DLC層の表面粗さRaは、全水準で0.2〜0.5μmの範囲内であった。引き続き、アーク電流値及びバイアス電圧を高く変更した条件で、硬質DLC層の表面に、表1に示す「軟質領域硬さ」を有する軟質DLC層を成膜した。その後、軟質DLC層を研磨して、DLC皮膜とした。その際、軟質DLC層の研磨量を調整することによって、DLC皮膜の表面における硬質領域の面積をA、軟質領域の面積をBとした際のA/(A+B)の値を制御した。ただし、水準No.1では、軟質DLC層のみを形成し、水準No.11では、硬質DLC層のみを形成した。表1には、DLC皮膜の水素含有量、厚さ、表面Ra、硬質領域のインデンテーション硬さ、軟質領域のインデンテーション硬さ、及びA/(A+B)を示した。なお、インデンテーション硬さの測定は、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機を用いて行った。条件としては、ベルコビッチ圧子を用いて、押し込み深さがDLC皮膜の厚さの1/10程度となる荷重にて試験を行った。1.0mm×1.0mmの測定領域において、10μm間隔で100×100点の多点で負荷−除荷硬さ試験を行い、負荷−除荷曲線より判断して異常値を除外すると、結果として2水準の数値が検出される。そのうちで低硬度のものを軟質領域の硬さ、高硬度のものを硬質領域の硬さとする。DLC皮膜の水素含有量、厚さ、表面Ra、及びA/(A+B)は、既述の方法で測定した。
なお、A/(A+B)=0.00の水準No.2では、DLC皮膜の表面に硬質DLC層は露出しておらず、表面の全体が軟質DLC層からなっており、軟質DLC層の下方に硬質DLC層が存在する。A/(A+B)=1.00の水準No.11では、DLC皮膜は硬質DLC層のみからなる。それ以外の水準No.3〜10では、DLC皮膜の表面に硬質領域と軟質領域とが混在しており、硬質領域の部位では、表面からの深さ方向に硬質部位のみが存在し、軟質領域の部位では、表面からの深さ方向にまず軟質部位が位置し、その後、硬質部位が位置するような皮膜形態となる。
[耐熱性の評価]
各水準のピストンリングから切断して得た試験片を電気炉に投入して、雰囲気温度250℃で100時間の熱処理を行った。その後、試験片のDLC皮膜の表面を光学顕微鏡で観察した。その際、DLC皮膜に部分的な剥離、脱落、又は消失が見られた水準は「×」とし、剥離、脱落、及び消失のいずれも見られなかった水準は「〇」とした。結果を表1に示す。
[耐摩耗性及び摩擦係数の評価]
各水準のピストンリングから切断して得た試験片を用いて、以下の試験条件で転動すべり疲労試験を行った。この試験は、回転するドラムと摺動する試験片にくり返し荷重を加え、試験片の摩耗量からDLC皮膜の耐摩耗性を評価するものである。
荷重:20〜50N、サインカーブ50Hz
相手材(ドラム):直径80mmのSUJ2材
摺動速度:正転逆転パターン運転(±10m/s)、速度±10m/sで20秒保持
加速度:0.23m/s2
潤滑油:無添加モーターオイル、0.1cc/min
ドラム表面温度:80℃
試験時間:正転逆転パターン運転を1サイクルとして10サイクル
試験後に、接触式形状測定機で試験片の摩耗量を測定し、摩耗量が1.0μm以下の水準を「◎」、摩耗量が1.0μm超え2.0μm以下の水準を「○」、摩耗量が2.0μm超えの水準を「×」とした。また、5サイクルまでの摩擦係数を測定し、摩擦係数が0.16以下の水準を「○」、0.16超えの水準を「×」とした。結果を表1に示す。
[相手材に対する攻撃性の評価]
摺動相手材としてSUJ2材(JIS G 4805)のディスク(φ25mm×t8mm)を用意し、各水準の摺動部材について、振動摩擦摩耗試験(オプチモール社:SRV試験機)により、次の試験条件で往復動試験を行った。試験後に、相手材の摩耗量を測定し、摩耗量が1.0μm以下の水準を「◎」、摩耗量が1.0μm超え2.0μm以下の水準を「○」、摩耗量が2.0μm超えの水準を「×」とした。結果を表1に示す。
試験時間 : 10min
荷重 : 100N
往復動周波数 : 50Hz
振幅 : 3.0mm
潤滑油 : エンジンオイル5W−30(エステル)
潤滑油温 : 80℃
Figure 2021110403
表1から明らかなように、A/(A+B)が0.20未満の比較例No.1〜3では、硬質領域が過少で軟質領域が過多であったため、耐熱性及び耐摩耗性の観点で劣っていた。これらの比較例のうちNo.2及びNo.3では、表面粗さを維持したままDLC皮膜の内部に存在する硬質DLC層が、摺動の過程で露出して相手材と接触するため、相手材への攻撃性が高くなった。また、A/(A+B)が0.70超えの比較例No.10及びNo.11では、軟質領域が過少で硬質領域が過多であったため、摩擦係数の観点で劣っていた。なお、これらの比較例のうちNo.11は、表面Raが0.10μmを超えた硬質DLC層が、摺動初期から相手材と接触するため、相手材への攻撃性が高くなった。
これに対して、A/(A+B)が0.20以上0.70以下の発明例No.4〜9においては、DLC皮膜表面における硬質領域と軟質領域の面積比率が最適化されたため、耐熱性、相手材に対する攻撃性、耐摩耗性、及び摩擦係数の全ての観点で良好な結果が得られた。
本発明の摺動部材は、優れた耐熱性、相手材に対する低い攻撃性、高い耐摩耗性、及び低い摩擦係数の全てを実現することができる。
100 摺動部材
10 基材
12 中間層
14 硬質DLC層
16 軟質DLC層
18A 硬質領域
18B 軟質領域
20 非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)
20A 非晶質炭素皮膜の表面(摺動面)
200 ピストンリング
22 ピストンリングの外周面
24 ピストンリングの内周面
26A ピストンリングの上面(上側面)
26B ピストンリングの下面(下側面)

Claims (4)

  1. 基材と、
    該基材上に形成され、表面が摺動面となる、水素含有量が3原子%以下であり、残部が炭素からなる成分組成を有する、厚さが3μm以上の非晶質炭素皮膜と、
    を有し、
    前記非晶質炭素皮膜の前記表面は、算術平均粗さRaが0.10μm以下であり、
    前記非晶質炭素皮膜の前記表面には、インデンテーション硬さが25GPa以上の硬質領域と、インデンテーション硬さが20GPa以下の軟質領域とが混在しており、
    前記表面における硬質領域の面積をA、軟質領域の面積をBとして、A/(A+B)が0.20以上0.70以下であることを特徴とする摺動部材。
  2. 前記非晶質炭素皮膜において、
    前記表面の硬質領域の部位では、前記表面からの深さ方向に硬質部位のみが存在し、
    前記表面の軟質領域の部位では、前記表面からの深さ方向にまず軟質部位が位置し、その後、硬質部位が位置する、請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、請求項1又は2に記載の摺動部材。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
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