JP2018141197A - 摺動部材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明に係る摺動部材10は、図1に示すように、基材1と、基材1の少なくとも外周摺動面21に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた窒化炭素膜3とを有する。摺動部材10として、以下ではピストンリングを例にして説明するが、ピストンリングに限定されず、相手材に接触して摺動する種々の摺動部材であればよい。
基材1は、従来使用されている材質からなるものであればよく、特に限定されない。したがって、いかなる材質のピストンリング基材1に対しても本発明を適用でき、従来好ましく用いられている例えばステンレススチール材、鋳物材、鋳鋼材、鋼材、アルミニウム合金製等をピストンリング基材1として適用できる。また、図1(B)に示したように、ピストンリング基材1に窒化処理等を施して窒化層6を形成したものも適用できる。なお、この窒化層6は、ガス窒化法、塩浴軟窒化法、イオン窒化法等で形成でき、窒化層6の深さは、ピストンリング基材1の表面から70μm程度とすることができる。
下地膜2は、窒化炭素膜3の密着性を高めて剥離を防ぐために設けられる1又は2以上の膜であって、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜である。下地膜2は、ピストンリング基材1上(窒化層6が形成されている場合には窒化層6上)の少なくとも外周摺動面21に設けられる。通常は、図1に示すように、外周摺動面21のみに設けられるが、外周摺動面21、上面22及び下面23の3面に形成してもよいし、外周摺動面21、上面22、下面23及び内周面24の全周に形成してもよい。本願では、窒化炭素膜3の下(ピストンリング基材側)に設けられる全ての膜を下地膜2と呼んでいる。
Cr膜2aは、好ましく設けられる下地膜であり、ピストンリング基材1上(窒化層6が形成されている場合には窒化層6上)に設けられる。このCr膜2aは、CrN膜2bをピストンリング基材1上に設ける場合に、そのCrN膜2bがピストンリング基材1から剥離し難くするように作用する。Cr膜2aは、純クロムで構成されていてもよいし、他の元素を含んでいてもよいが、少なくともCrN膜2bの剥離防止作用を有していればよい。Cr膜2aは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式手段で成膜してもよいし、電気めっき等の湿式手段で成膜してもよい。
CrN膜2bは、Cr膜2a上に好ましく設けられる下地膜である。このCrN膜2bは高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCrN膜2bに亀裂や破壊が起こらず、その上に設けられる硬質炭素膜2dや窒化炭素膜3に剥離を生じさせないように作用する。さらに、CrN膜2bを設けたことによって、硬質炭素膜2dをCr膜2a上に直接設けた場合に起こり易い問題、すなわち硬質炭素膜2dが比較的柔らかいCr膜2aの面内方向の変形に追従できずに剥離し易いという問題、を防ぐように作用する。また、このCrN膜2bは、Cr膜2aよりも高硬度で高靭性であり、外周摺動面21に高面圧が加わった場合であっても、そのCrN膜2bに亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜2dや窒化炭素膜3に剥離を生じさせないように作用する。CrN膜2bは、窒化クロムであり、その原子比は特に限定されないが、通常、質量%で、Cr:N=60:40〜75:25の範囲である。CrN膜2bは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法で成膜される。
Cr膜2cは、CrN膜2b上に必要に応じて設けられる膜であって、硬質炭素膜2dの厚さが厚い場合(例えば5μm〜20μm程度)には、図3に示すように、硬質炭素膜2dの直下の下地膜として好ましく設けられる。なお、このCr膜2cを設ける場合は、上記したCr膜2aを第1Cr膜2aといい、このCr膜2cを第2Cr膜2cということができる。
硬質炭素膜2dは、窒化炭素膜3の直下の下地膜として好ましく設けられる。硬質炭素膜2dはダイヤモンドライクカーボンと呼ばれ、非晶質状(アモルファス状)の炭素膜であり、本発明では、窒化炭素膜3の下地膜2の一つとして好ましく設けられる。具体的には、下地膜2の最上層として、1μm以上20μm以下程度の厚さで設けられる。硬質炭素膜2dの厚さ範囲に応じて、上記したように、CrN膜2bが任意に設けられる。
窒化炭素膜3は、上記した硬質炭素膜2dと同様、非晶質状(アモルファス状)の炭素膜であり、相手材に対して低摩擦特性な有する膜である。特に潤滑剤の存在下での摩擦係数が小さいので、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができる。この窒化炭素膜3は、ピストンリングの外周摺動面21に最上層として設けられる。この窒化炭素膜3はピストンリングの全周に設けられていてもよいが、少なくとも外周摺動面21に設けられていればよく、上面22、下面23及び内周面24には必要に応じて任意に設けられていればよい。
本発明に係るピストンリングを製造する例としては、例えば、準備したピストンリング基材1を成膜治具に固定し、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDを兼用可能な装置のチャンバー内にセットし、そのチャンバー内を真空引きする。成膜治具を自転ないし公転させつつ、脱ガスのため、全体に予熱をかける。予熱後、アルゴンガス等の不活性ガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング基材1の表面を清浄化する。その後、クロムのターゲットを用いたアークイオンプレーティング法により、ピストンリング基材1上に、下地膜2として、Cr膜2a、CrN膜2b、Cr膜2cを任意に成膜する。さらにその上に、カーボンのターゲットを用いたアンバランスドマグネトロンスパッタリング法にて硬質炭素膜2dを成膜する。その後、硬質炭素膜2d上に、カーボンのターゲットと窒素ガスを用いたアンバランスドマグネトロンスパッタリング法にて窒化炭素膜3を成膜する。
ピストンリング基材1として、C:0.65質量%、Si:0.4質量%、Mn:0.3質量%、Cr:13.5質量%、Mo:0.3質量%、P:0.02質量%、S:0.02質量%、残部:鉄及び不可避不純物からなるSUS410J1相当(13Crステンレス鋼)製のものにガス窒化を施し、全周に窒化層を設けたものを準備した。試料として用いたピストンリング基材1の大きさは、縦8mm・横7mm・高さ5mmである。準備したピストンリング基材1を成膜治具に固定し、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDを兼用可能な装置のチャンバー内にセットし、そのチャンバー内を真空引きした。成膜治具を自転ないし公転させつつ、脱ガスのため、全体に予熱をかけ、その後、アルゴンガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング基材1の表面を清浄化した。
高濃度層:16.2原子%のSi、31.1原子%のH、2.3原子%のO、50.4原子%のC、厚さ0.05μm;
傾斜層:3.6〜16.2原子%のSi、25.6〜31.1原子%のH、2.3〜5.6原子%のO、50.4〜65.2原子%のC、厚さ0.05μm;
低濃度層:3.6原子%のSi、25.6原子%のH、5.6原子%のO、65.2原子%のC、厚さ0.89μm;
プラズマ条件:圧力:1.0Pa、プラズマ出力:2kW、バイアス電圧:−550Vを基本的な成膜条件とし、この成膜条件と各ガス流量を各層毎で任意に変更して上記組成を得た。
窒化炭素膜3;C:77.12原子%、N:22.33原子%、Ar:0.38原子%、[N/(C+N)]=0.225、厚さ:1.65μm;
成膜条件;スパッタリング法、ターゲット:カーボン、窒素ガスとアルゴンガスの流量比[N2/Ar]=1.0、バイアス電圧:100V、厚さ1.65μm。
実施例2では、[N2/Ar]=1.8、バイアス電圧:100Vとして、厚さ0.84μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。実施例3では、N2だけを流し、バイアス電圧:200Vとして、厚さ1.81μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。実施例4では、[N2/Ar]=1.8、バイアス電圧:0Vとして、厚さ1.64μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。実施例5では、N2だけを流し、バイアス電圧:100Vとして、厚さ3.9μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。比較例1では、[N2/Ar]=0.17、バイアス電圧:300Vとして、厚さ0.97μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。比較例2では、[N2/Ar]=0.17、バイアス電圧:0Vとして、厚さ1.71μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。比較例3では、N2だけを流し、バイアス電圧:100Vとして、厚さ3.45μmの炭素を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。
窒素と炭素との結合状態を(XPS分析装置、株式会社島津製作所製、KRATOS AXIS−NOVA)装置で測定した。その結果を図5に示す。図5(A)〜(D)に示すように、成膜時の基板のバイアス電圧を0V、−100V、−200V、−300Vに変化させることにより、炭素と窒素の化学結合状態を制御した。
2 下地膜
2a Cr膜(第1Cr膜)
2b CrN膜
2c Cr膜(第2Cr膜)
2d 硬質炭素膜
3 窒化炭素膜
6 窒化層
10 摺動部材(ピストンリング)
21 外周摺動面(外周面)
22 上面
23 下面
24 内周面
31 ピストン
32 ピストンリング溝
33 シリンダライナ
34 シリンダライナ内周面
Claims (4)
- 基材と、該基材の少なくとも摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた窒化炭素膜とを有し、前記下地膜が、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜であり、前記窒化炭素膜が、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内である、ことを特徴とする摺動部材。
- 前記窒化炭素膜の摩擦係数が、0.1以下である、請求項1に記載の摺動部材。
- 前記窒化炭素膜のオイルに対する接触角が、10°以下である、請求項1又は2に記載の摺動部材。
- 前記窒化炭素膜が、スパッタリング法で成膜された水素フリー膜である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材。
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