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JP2018141197A - 摺動部材及びその製造方法 - Google Patents

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JP2018141197A JP2017035281A JP2017035281A JP2018141197A JP 2018141197 A JP2018141197 A JP 2018141197A JP 2017035281 A JP2017035281 A JP 2017035281A JP 2017035281 A JP2017035281 A JP 2017035281A JP 2018141197 A JP2018141197 A JP 2018141197A
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Abstract

【課題】内燃機関の燃費向上の要求に伴い、相手材との間の低摩擦化を実現できる摺動部材及びその製造方法を提供する。【解決手段】基材1と、基材1の少なくとも摺動面に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた窒化炭素膜3とを有し、下地膜2が、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜であり、窒化炭素膜3が、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内である摺動部材により上記課題を解決した。この摺動部材においては、窒化炭素膜3の摩擦係数が0.1以下であることが好ましく、窒化炭素膜3のオイルに対する接触角が10°以下であることが好ましく、窒化炭素膜3がスパッタリング法で成膜された水素フリー膜であることが好ましい。【選択図】図1

Description

本発明は、低摩擦な窒化炭素膜を摺動面に有する摺動部材及びその製造方法に関する。
内燃機関の燃費向上の要求に伴い、内燃機関で使用される摺動部材にも、相手材との間の低摩擦化を目的とした技術が検討されている。例えば、摩擦損失を低減するための手段として、特許文献1には、潤滑油中であっても固体潤滑性が有効に機能する、低摩擦係数で耐摩耗性に優れた摺動部材を提供することを目的とした技術が提案されている。この技術は、基材の表面に硬質炭素皮膜を熱CVD法によりコーティングした後、プラズマ処理やイオン注入することにより、硬質炭素皮膜の表面に約5.7at%(同文献の実施例6)の窒素及び/又は約3.5at%(同文献の実施例4及び5)の酸素を含有させ、及び/又は、表面の水素含有量が10at%以下の硬質炭素皮膜を備えるようにしたものである。
また、特許文献2には、母材の表面に水素を含まないダイヤモンドライクカーボンを厚さ3μm以上形成した場合の被膜表面の研磨加工を容易にし、潤滑油と接触する環境下で低摩擦と耐摩耗性を実現した被覆摺動部材を提供することを目的とした技術が提案されている。この技術は、母材と第1の硬質炭素層と第2の硬質炭素層とを有する摺動部材において、第1の硬質炭素層を、炭素を用いる真空アーク法により母材の表面に形成され、実質的に水素を含まず炭素のみによって構成されたダイヤモンドライクカーボンからなる厚さ3μm以上の層とし、第2の硬質炭素層を、炭素を用いる真空アーク法により第1の硬質炭素層の表面に直接形成され、実質的に水素を含まず、炭素と窒素の合計含有量に対する窒素の割合が3.3〜14.3原子%(同文献の実施例1〜5)のダイヤモンドライクカーボンからなる層としたものである。すなわち、この技術は、第1の硬質炭素層を厚くすると表面粗さが大きくなって研磨が困難になることから、第1の硬質炭素層より柔らかくて研磨し易い第2の硬質炭素層を設けて課題を解決している。
特開2000−297373号公報 特開2016−60921号公報
本発明の目的は、内燃機関の燃費向上の要求に伴い、相手材との間の低摩擦化を実現できる摺動部材及びその製造方法を提供することにある。
(1)本発明に係る摺動部材は、基材と、該基材の少なくとも摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた窒化炭素膜とを有し、前記下地膜が、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜であり、前記窒化炭素膜が、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内である、ことを特徴とする。
この発明によれば、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内の窒化炭素膜は潤滑剤の存在下での摩擦係数が小さいので、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができる。
本発明に係る摺動部材において、前記窒化炭素膜の摩擦係数が、0.1以下であることが好ましい。
本発明に係る摺動部材において、前記窒化炭素膜のオイルに対する接触角が、10°以下であることが好ましい。
本発明に係る摺動部材において、前記窒化炭素膜が、スパッタリング法で成膜された水素フリー膜である。
本発明に係る摺動部材によれば、窒化炭素膜は潤滑剤の存在下での摩擦係数が小さいので、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができる。
本発明に係る摺動部材として、ピストンリングの例を示す模式的な断面構成図である。 本発明に係る摺動部材として、ピストンリングの使用形態を示す模式的な断面図である。 摺動部材を構成する下地膜と窒化炭素膜の一例を示す拡大断面図である。 摺動部材を構成する下地膜と硬質炭素膜の他の例を示す拡大断面図である。 窒素と炭素の結合エネルギーの測定結果である。 接触角の測定結果である。
以下、本発明に係る摺動部材及びその製造方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的範囲に含まれるものであれば以下の説明及び図面の記載に限定されない。
[摺動部材]
本発明に係る摺動部材10は、図1に示すように、基材1と、基材1の少なくとも外周摺動面21に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた窒化炭素膜3とを有する。摺動部材10として、以下ではピストンリングを例にして説明するが、ピストンリングに限定されず、相手材に接触して摺動する種々の摺動部材であればよい。
図1に示す摺動部材はピストンリング10の例である。図1(A)に示すピストンリング10Aは、ピストンリング基材1の外周に窒化層6が形成されていない態様であり、図1(B)に示すピストンリング10Bは、ピストンリング基材1の外周に窒化層6が形成されている態様であり、いずれの形態であってもよい。
ピストンリング10は、図2に示すように、ピストン31に形成されたピストンリング溝32に装着され、ピストン31の上下運動(往復運動に同じ。)によってシリンダライナ33の内周面34を摺動しながら上下運動する摺動部材である。図2はトップリングの例を示しているが、本発明の特徴は、トップリング、セカンドリング、オイルリングのいずれに適用したものであってもよい。特に高面圧が加わる場合に、低摩擦性能を有する本発明の有意差を発揮することができる。リングの形状は、図1においては矩形リングを示しているが、バレルフェースやテーパーフェース等のような外周形状からなるものであってもよい。また、リングの断面形状としては、ハーフキーストンリング、フルキーストンリング、スクレーパリング等の断面形状を有するものでもよい。また、オイルリングとしては、窓付きオイルコントロールリング、ベベルオイルコントロールリング、ダブルベベルオイルコントロールリング等でもよく、さらにそれら以外のコイルエキスパンダ付きオイルリング等であってもよい。
以下、摺動部材の一つであるピストンリングを例にしてその構成要素を説明する。
<基材>
基材1は、従来使用されている材質からなるものであればよく、特に限定されない。したがって、いかなる材質のピストンリング基材1に対しても本発明を適用でき、従来好ましく用いられている例えばステンレススチール材、鋳物材、鋳鋼材、鋼材、アルミニウム合金製等をピストンリング基材1として適用できる。また、図1(B)に示したように、ピストンリング基材1に窒化処理等を施して窒化層6を形成したものも適用できる。なお、この窒化層6は、ガス窒化法、塩浴軟窒化法、イオン窒化法等で形成でき、窒化層6の深さは、ピストンリング基材1の表面から70μm程度とすることができる。
<下地膜>
下地膜2は、窒化炭素膜3の密着性を高めて剥離を防ぐために設けられる1又は2以上の膜であって、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜である。下地膜2は、ピストンリング基材1上(窒化層6が形成されている場合には窒化層6上)の少なくとも外周摺動面21に設けられる。通常は、図1に示すように、外周摺動面21のみに設けられるが、外周摺動面21、上面22及び下面23の3面に形成してもよいし、外周摺動面21、上面22、下面23及び内周面24の全周に形成してもよい。本願では、窒化炭素膜3の下(ピストンリング基材側)に設けられる全ての膜を下地膜2と呼んでいる。
下地膜2としては、クロムめっき膜、PVD膜(CrN膜、TiN膜、CrBN膜、TiAlN膜)、硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)等を挙げることができる。窒化炭素膜3の下地膜2として、これらが単独又は任意に組み合わされて設けられる。下地膜2は、図3に例示するように、ピストンリング基材1側から、Cr膜2a、CrN膜2b、Cr膜2c、硬質炭素膜2dの順で設けられていてもよいし、図4に例示するように、ピストンリング基材1側から、Cr膜2a、CrN膜2b、硬質炭素膜2dの順で設けられていてもよい。
(Cr膜)
Cr膜2aは、好ましく設けられる下地膜であり、ピストンリング基材1上(窒化層6が形成されている場合には窒化層6上)に設けられる。このCr膜2aは、CrN膜2bをピストンリング基材1上に設ける場合に、そのCrN膜2bがピストンリング基材1から剥離し難くするように作用する。Cr膜2aは、純クロムで構成されていてもよいし、他の元素を含んでいてもよいが、少なくともCrN膜2bの剥離防止作用を有していればよい。Cr膜2aは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式手段で成膜してもよいし、電気めっき等の湿式手段で成膜してもよい。
Cr膜2aの厚さは、特に限定されないが、通常、0.1〜1μm程度である。厚さをこの範囲内とすることにより、その上に設けられたCrN膜2bの密着性を確保して剥離を防ぐことができる。
(CrN膜)
CrN膜2bは、Cr膜2a上に好ましく設けられる下地膜である。このCrN膜2bは高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCrN膜2bに亀裂や破壊が起こらず、その上に設けられる硬質炭素膜2dや窒化炭素膜3に剥離を生じさせないように作用する。さらに、CrN膜2bを設けたことによって、硬質炭素膜2dをCr膜2a上に直接設けた場合に起こり易い問題、すなわち硬質炭素膜2dが比較的柔らかいCr膜2aの面内方向の変形に追従できずに剥離し易いという問題、を防ぐように作用する。また、このCrN膜2bは、Cr膜2aよりも高硬度で高靭性であり、外周摺動面21に高面圧が加わった場合であっても、そのCrN膜2bに亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜2dや窒化炭素膜3に剥離を生じさせないように作用する。CrN膜2bは、窒化クロムであり、その原子比は特に限定されないが、通常、質量%で、Cr:N=60:40〜75:25の範囲である。CrN膜2bは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法で成膜される。
CrN膜2bの厚さは、通常、0.05μm以上1.5μm以下、好ましくは0.5μm以上1.0μm以下である。この厚さ範囲のCrN膜2bを下地膜2として設けることにより、外周摺動面21に高い耐摩耗性と耐スカッフ性を付与することができるとともに、高面圧が加わった場合であっても、硬質炭素膜2dや窒化炭素膜3の剥離を防ぐことができる。なお、CrN膜2bの厚さが1.5μmを超える場合は、剥離防止の点では問題ないが、成膜時間が長くなってコストがかさむという難点が出てくる。
(Cr膜)
Cr膜2cは、CrN膜2b上に必要に応じて設けられる膜であって、硬質炭素膜2dの厚さが厚い場合(例えば5μm〜20μm程度)には、図3に示すように、硬質炭素膜2dの直下の下地膜として好ましく設けられる。なお、このCr膜2cを設ける場合は、上記したCr膜2aを第1Cr膜2aといい、このCr膜2cを第2Cr膜2cということができる。
Cr膜2cは、厚い硬質炭素膜2dをCrN膜2b上に直接設けた場合に剥離が起き易いという結果と、CrN膜2b上にCr膜2cを設けた場合に剥離を起こし難いという結果とに基づいて好ましく設けられる。厚い硬質炭素膜2dを設けた場合、その硬質炭素膜2dの膜応力がCrN膜2b(このCrN膜自体も高硬度且つ高応力である。)よりも大きいため、そのCrN膜2b上に直接硬質炭素膜2dを設けると、高面圧が加わった場合に、その硬質炭素膜2dの膜応力をCrN膜2bで緩和できずに、且つその硬質炭素膜自体の膜応力に基づいて、亀裂の発生が生じて剥離が起き易いことがある。しかし、CrN膜2bよりも柔らかいCr膜2cをCrN膜2b上に設けることにより、そのCr膜2cが厚い硬質炭素膜2dの膜応力を緩和して硬質炭素膜2dの亀裂の発生等を抑制することができる。
Cr膜2cの厚さは特に限定されないが、硬質炭素膜2dの厚さを100としたとき、2〜10の範囲が好ましく、2〜5の範囲がより好ましい。こうした薄い膜とすることにより、摺動面に高面圧が加わった場合に生じうるCr膜2cの変形を小さくすることができる。その結果、Cr膜2c上に設けられた硬質炭素膜2dに破壊が起こり難く、このCr膜2cを含む下地膜2上に硬質炭素膜2dが高い密着性で設けられる。なお、このCr膜2c(第2Cr膜2c)の厚さは、上述したCr膜2a(第1Cr膜2a)の厚さと同じ厚さであるか、又は、Cr膜2aの厚さよりも薄いことが好ましい。その理由は、このCr膜2cは専ら硬質炭素膜2dの応力緩和を目的としており、Cr膜2aのように、ピストンリング基材1とCrN膜2bとの密着性改善を目的として設けられたものではないことによる。
なお、Cr膜2cは、硬質炭素膜2dの厚さが薄い場合(例えば1μm〜7μm程度)には、図4に示すように、硬質炭素膜2dの直下の下地膜として設けられていなくてもよい。その理由は、硬質炭素膜2dの膜応力がCrN膜2bよりも小さいため、薄い硬質炭素膜2dをCrN膜2b上に直接設けても剥離を起こし難いためである。
Cr膜2cは、純クロムで構成されていてもよいし、他の元素を含んでいてもよいが、少なくとも硬質炭素膜2dの応力緩和機能を阻害しない範囲であればよい。Cr膜2cは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式手段で成膜される。
(硬質炭素膜)
硬質炭素膜2dは、窒化炭素膜3の直下の下地膜として好ましく設けられる。硬質炭素膜2dはダイヤモンドライクカーボンと呼ばれ、非晶質状(アモルファス状)の炭素膜であり、本発明では、窒化炭素膜3の下地膜2の一つとして好ましく設けられる。具体的には、下地膜2の最上層として、1μm以上20μm以下程度の厚さで設けられる。硬質炭素膜2dの厚さ範囲に応じて、上記したように、CrN膜2bが任意に設けられる。
硬質炭素膜2dは、ピストンリング基材1の外周摺動面21に、下地膜2の最上層として設けられる。外周摺動面21に硬質炭素膜2dを設けることにより、高面圧下での窒化炭素膜3の剥離を極力抑制することができるので、高い耐摩耗性と高い耐スカッフ性を実現できる。なお、硬質炭素膜2dは下地膜2としてピストンリング基材1の全周に設けてもよいが、少なくとも外周摺動面21に設ければよく、上面22、下面23及び内周面24には必要に応じて任意に設ければよい。
硬質炭素膜2dの組成は特に限定されず、種々の硬質炭素膜2dとすることができる。例えば、ケイ素、炭素、酸素、水素から選ばれる1又は2以上の元素を含有した硬質炭素膜とすることができる。また、硬質炭素膜2dの構成としても種々適用可能であり、その厚さ方向で均一な組成を持つ単一膜であってもよいし、含有元素を厚さ方向に変化させた傾斜膜であってもよい。傾斜層の構成は特に限定されないが、例えば、ピストンリング基材1の側からリニア(直線的)に含有量を変化させた傾斜層であってもよいし、高濃度含有層(高濃度層ともいう。)、高濃度から低濃度への傾斜層(傾斜層ともいう。)、及び低濃度含有層(低濃度層ともいう。)の順で積層した積層膜であってもよい。硬質炭素膜2dへの元素の含有は、硬質炭素膜2dの応力緩和の点で好ましく、特にケイ素等の元素の高濃度層、傾斜層及び低濃度層で多層化したものは、硬質炭素膜2dを厚膜化しても剥離し難く、耐久性の良い膜を形成できるという利点がある。多層化した硬質炭素膜2dは、特に高面圧が加わった場合に、外周摺動面21に設けられた窒化炭素膜3に高い耐摩耗性と耐スカッフ性を付与することができる。また、Cr膜2c(図3参照)又はCrN膜2b(図4参照)の上に接して設けるケイ素等の元素の高濃度層は、低濃度層に比べて応力が小さいので、低濃度層を設けた場合のような顕著な硬度差(応力差)がなく、密着性が確保でき、剥離の発生を抑制することができるという効果もある。
含有元素を変化させた硬質炭素膜2dは、成膜条件によって元素の含有量を厚さ方向に変化させることができる。なお、硬質炭素膜2dの主成分である炭素は、おおむね50原子%以上90原子%以下の範囲である。硬質炭素膜2d中の成分組成は、後方散乱測定装置を用いて定量することができる。
硬質炭素膜2dの成膜方法としては、各種の成膜手段を挙げることができ、例えば、反応性スパッタリング法や反応性イオンプレーティング法等のいわゆるPVD法や、プラズマCVD法等の各種の方法で形成することができる。
<窒化炭素膜>
窒化炭素膜3は、上記した硬質炭素膜2dと同様、非晶質状(アモルファス状)の炭素膜であり、相手材に対して低摩擦特性な有する膜である。特に潤滑剤の存在下での摩擦係数が小さいので、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができる。この窒化炭素膜3は、ピストンリングの外周摺動面21に最上層として設けられる。この窒化炭素膜3はピストンリングの全周に設けられていてもよいが、少なくとも外周摺動面21に設けられていればよく、上面22、下面23及び内周面24には必要に応じて任意に設けられていればよい。
窒化炭素膜3は、炭素と窒素を主な成分元素とする膜であり、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内からなる膜である。炭素と窒素は原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内となっていればよく、それを満たす炭素は70原子%〜90原子%の範囲内であり、窒素は9原子%〜27原子%の範囲内であることが好ましい。原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16未満では、十分に小さい摩擦係数にならないことがあり、相手材との間の低摩擦化を実現できず、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができないことがある。一方、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.30を超えることは現実的には困難であるとともに、得られた窒化炭素膜3は密着性低下や膜の靱性低下等の点で望ましくないことがある。なお、好ましい[窒素/(窒素+炭素)]は、0.18以上0.25以下の範囲内である。
窒化炭素膜3を構成する炭素と窒素以外の元素としては、Cr、Ar、Fe、W、Ti等を挙げることができる。これらのうち、Feは不可避不純物として微量含まれていることがある。Cr、Ti、Wは、窒化炭素膜3の密着性を向上させるという作用効果を奏するので好ましく含まれる。Arは、スパッタリング法でのキャリアガスとして使用される場合に含まれることがあり、0原子%〜3.0原子%の範囲内で含まれていてもよい。この範囲内で含まれるArは、本発明の効果を特段阻害しないので許容されるが、3.0原子%を超えると、窒化炭素膜3内での応力緩和作用が促進され、耐摩耗性を有するほどの皮膜硬度を発現できない。なお、窒化炭素膜3は水素フリー膜であり、水素は含まれないか、又は3原子%以下の微量含まれる程度である。窒化炭素膜3中の成分組成は、後方散乱測定装置を用いて定量することができる。なお、この窒化炭素膜3は、厚さ方向の組成が一定な単一層であるが、厚さ方向に炭素と窒素の割合が変化する傾斜層であってもよい。
窒化炭素膜3の成膜方法としては、スパッタリング法を好ましく挙げることができる。スパッタリング法は、真空アーク法、アークイオンプレーティング法、フィルタード・アーク成膜法等とは異なり、ドロップレットの発生が無く、平滑な表面を形成できるという利点がある。そのため、スパッタリング法で成膜された窒化炭素膜3は、窒素を多く含有させることができるという利点があり、その結果、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内の窒化炭素膜3のように、潤滑剤の存在下での摩擦係数が小さい膜を形成することができ、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができる。
窒化炭素膜3の成分組成のコントロールは、スパッタリングターゲットの組成、バイアス電圧、キャリアガス種とその流量等を調整して行うことができ、その結果、上記範囲内の組成からなる窒化炭素膜3を得ることができる。
窒化炭素膜3の硬さは、例えば圧力又は基板バイアス電圧(V)を調整することにより、ビッカース硬さで800Hv(0.05)以上1800Hv(0.05)以下の範囲で制御可能である。こうした範囲の窒化炭素膜3は、低摩擦膜であるとともに高い耐摩耗性と耐久性を有するものとなる。
<製造方法>
本発明に係るピストンリングを製造する例としては、例えば、準備したピストンリング基材1を成膜治具に固定し、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDを兼用可能な装置のチャンバー内にセットし、そのチャンバー内を真空引きする。成膜治具を自転ないし公転させつつ、脱ガスのため、全体に予熱をかける。予熱後、アルゴンガス等の不活性ガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング基材1の表面を清浄化する。その後、クロムのターゲットを用いたアークイオンプレーティング法により、ピストンリング基材1上に、下地膜2として、Cr膜2a、CrN膜2b、Cr膜2cを任意に成膜する。さらにその上に、カーボンのターゲットを用いたアンバランスドマグネトロンスパッタリング法にて硬質炭素膜2dを成膜する。その後、硬質炭素膜2d上に、カーボンのターゲットと窒素ガスを用いたアンバランスドマグネトロンスパッタリング法にて窒化炭素膜3を成膜する。
以上説明したように、本発明に係る摺動部材10は、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜からなる下地膜2上に、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内である窒化炭素膜3を成膜する。そうした窒化炭素膜3は潤滑剤の存在下での摩擦係数が小さいので、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができる。
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
[実施例1]
ピストンリング基材1として、C:0.65質量%、Si:0.4質量%、Mn:0.3質量%、Cr:13.5質量%、Mo:0.3質量%、P:0.02質量%、S:0.02質量%、残部:鉄及び不可避不純物からなるSUS410J1相当(13Crステンレス鋼)製のものにガス窒化を施し、全周に窒化層を設けたものを準備した。試料として用いたピストンリング基材1の大きさは、縦8mm・横7mm・高さ5mmである。準備したピストンリング基材1を成膜治具に固定し、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDを兼用可能な装置のチャンバー内にセットし、そのチャンバー内を真空引きした。成膜治具を自転ないし公転させつつ、脱ガスのため、全体に予熱をかけ、その後、アルゴンガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング基材1の表面を清浄化した。
その後、ピストンリング基材1上に、純クロムターゲットを用いたスパッタリング法で厚さ0.1μmのCr膜2aを成膜した。次いで、そのCr膜2a上に、蒸発源である金属クロムと窒素ガスとを用いたイオンプレーティング法で厚さ0.05μmのCrN膜2b(Cr:4.1質量%、CrN:1.1質量%、CrN:94.8質量%)を成膜した。その後、CrN膜2b上に、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法を用いて、チャンバー内にクロム源となるクロムターゲットと、炭素源となるカーボンターゲットとを装着し、真空状態にした。チャンバー内に窒素ガス及びアルゴンガスを導入し、クロムターゲット及びカーボンターゲットに電圧を印加して窒素ガス及びアルゴンガスをプラズマ化し、そのプラズマ化したイオンがクロムターゲットと炭素ターゲットをスパッタし、飛び出したクロム原子と炭素原子が雰囲気中の窒素ガスとアルゴンガスに反応しながら基材上に皮膜を形成する。ピストンリング上に下記成分組成の高濃度層、傾斜層、低濃度層をその順で成膜して、硬質炭素膜2dを形成した。硬質炭素膜2dを構成する各層(高濃度層、傾斜層、低濃度層)の成分は、各ガスの流量とプラズマ条件を調整して制御した。その後、硬質炭素膜2d上に、下記成分組成の窒化炭素膜3を成膜した。こうして実施例1のピストンリング10を作製した。
(硬質炭素膜の組成と成膜条件)
高濃度層:16.2原子%のSi、31.1原子%のH、2.3原子%のO、50.4原子%のC、厚さ0.05μm;
傾斜層:3.6〜16.2原子%のSi、25.6〜31.1原子%のH、2.3〜5.6原子%のO、50.4〜65.2原子%のC、厚さ0.05μm;
低濃度層:3.6原子%のSi、25.6原子%のH、5.6原子%のO、65.2原子%のC、厚さ0.89μm;
プラズマ条件:圧力:1.0Pa、プラズマ出力:2kW、バイアス電圧:−550Vを基本的な成膜条件とし、この成膜条件と各ガス流量を各層毎で任意に変更して上記組成を得た。
(窒化炭素膜と成膜条件)
窒化炭素膜3;C:77.12原子%、N:22.33原子%、Ar:0.38原子%、[N/(C+N)]=0.225、厚さ:1.65μm;
成膜条件;スパッタリング法、ターゲット:カーボン、窒素ガスとアルゴンガスの流量比[N/Ar]=1.0、バイアス電圧:100V、厚さ1.65μm。
[実施例2〜5及び比較例1,2]
実施例2では、[N/Ar]=1.8、バイアス電圧:100Vとして、厚さ0.84μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。実施例3では、Nだけを流し、バイアス電圧:200Vとして、厚さ1.81μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。実施例4では、[N/Ar]=1.8、バイアス電圧:0Vとして、厚さ1.64μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。実施例5では、Nだけを流し、バイアス電圧:100Vとして、厚さ3.9μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。比較例1では、[N/Ar]=0.17、バイアス電圧:300Vとして、厚さ0.97μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。比較例2では、[N/Ar]=0.17、バイアス電圧:0Vとして、厚さ1.71μmの窒化炭素膜3を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。比較例3では、Nだけを流し、バイアス電圧:100Vとして、厚さ3.45μmの炭素を成膜した。それ以外は実施例1と同じとした。
[測定]
窒素と炭素との結合状態を(XPS分析装置、株式会社島津製作所製、KRATOS AXIS−NOVA)装置で測定した。その結果を図5に示す。図5(A)〜(D)に示すように、成膜時の基板のバイアス電圧を0V、−100V、−200V、−300Vに変化させることにより、炭素と窒素の化学結合状態を制御した。
窒化炭素膜3の摩擦係数は、ボールオンディスク型の摩擦摩耗試験機により測定した。測定された摩擦係数を表1に示した。表1に示すように、実施例1〜5の摩擦係数は、無潤滑中では0.132〜0.254であり、潤滑油中では0.062〜0.075であった。ここでの潤滑油は、工作機械用潤滑油(商品名:スーパーマルパスDX2、JXエネルギー株式会社製)を用いた。
窒化炭素膜3に接触角は、窒化炭素膜3に純水又は潤滑油を滴下し、窒化炭素の表面と純水又は潤滑油とのなす角度をθ/2法によって計測した。純水の場合は61.5°〜68.8°であり、潤滑油の場合は7.0°〜8.1°であった。ここでの潤滑油は、工作機械用潤滑油(商品名:スーパーマルパスDX2、JXエネルギー株式会社製)を用いた。図6は、窒化炭素膜3と硬質炭素膜2dとの接触角を測定した結果であり、窒化炭素膜3の接触角はいずれも9°未満であった。
窒化炭素膜3のヤング率は、微小ビッカース硬さ試験機(株式会社フューチュアテック製、FM−ARS9000)を用いて測定及び算出し、結果を表1に示した。窒化炭素膜3の硬さも、同じ微小ビッカース硬さ試験機を用いて測定し、結果を表1に示した。表1に示すように、実施例1〜5のヤング率は、118GPa〜249GPaであり、硬度は、8.64〜15.33であった。
窒化炭素膜3の厚さは、各試料を湿式切断機にて切断し、樹脂に試料を埋め込んで研磨し、断面観察から算出した。窒化炭素膜3の成分組成は、後方散乱装置(日新ハイボルテージ株式会社製、AN−2500)を用いて定量した。
Figure 2018141197
表1の結果より、実施例1〜5で得た、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内の窒化炭素膜3は、潤滑剤の存在下での摩擦係数が比較例1〜3に比べて小さいので、相手材との間の低摩擦化を実現でき、内燃機関の燃費向上の要求に応えることができると言える。潤滑剤(オイル)の存在下での摩擦係数は、オイルに対する接触角が小さいことに依存していると考えられる。
1 基材(ピストンリング基材)
2 下地膜
2a Cr膜(第1Cr膜)
2b CrN膜
2c Cr膜(第2Cr膜)
2d 硬質炭素膜
3 窒化炭素膜
6 窒化層
10 摺動部材(ピストンリング)
21 外周摺動面(外周面)
22 上面
23 下面
24 内周面
31 ピストン
32 ピストンリング溝
33 シリンダライナ
34 シリンダライナ内周面

Claims (4)

  1. 基材と、該基材の少なくとも摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた窒化炭素膜とを有し、前記下地膜が、Cr膜、CrN膜及び硬質炭素膜から選ばれる1又は2以上の単層膜又は積層膜であり、前記窒化炭素膜が、原子%での[窒素/(窒素+炭素)]が0.16以上0.30以下の範囲内である、ことを特徴とする摺動部材。
  2. 前記窒化炭素膜の摩擦係数が、0.1以下である、請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記窒化炭素膜のオイルに対する接触角が、10°以下である、請求項1又は2に記載の摺動部材。
  4. 前記窒化炭素膜が、スパッタリング法で成膜された水素フリー膜である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材。
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