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JP2020193656A - 摺動部材と潤滑油との組み合わせ - Google Patents

摺動部材と潤滑油との組み合わせ Download PDF

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JP2020193656A JP2019099191A JP2019099191A JP2020193656A JP 2020193656 A JP2020193656 A JP 2020193656A JP 2019099191 A JP2019099191 A JP 2019099191A JP 2019099191 A JP2019099191 A JP 2019099191A JP 2020193656 A JP2020193656 A JP 2020193656A
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Abstract

【課題】低摩擦性能に優れた被覆膜を摺動面に有する内燃機関用ピストンリング等の摺動部材と潤滑油との組み合わせを提供する。【解決手段】摺動部材10と摺動部材10の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせであって、潤滑油がMoを含有する場合は、摺動部材10は摺動面11に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3を有し、合金皮膜3はMn及びMoの一方又は両方を含み且つMnとMoの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であるように構成して上記課題を解決する。潤滑油がMoを含有しない場合は、合金皮膜3は少なくともMoを含有し且つMnとMoの含有量の合計が2質量%以下の範囲内とすることにより上記課題を解決する。【選択図】図1

Description

本発明は、低摩擦性能に優れた被覆膜を摺動面に設けた摺動部材と摺動時に使用する潤滑油との組み合わせに関する。
近年、内燃機関である自動車エンジン等の軽量化と高出力化に伴い、厳しい摺動条件下で使用される摺動部材、特に内燃機関に用いられるピストンリングにおいては、高温且つ高圧の厳しい環境下で使用されることから、耐摩耗性等の更なる向上が要求されている。例えば、ピストンリングの外周摺動面は、シリンダライナの内周面に摺動接触することから、特に優れた耐摩耗性が要求され、クロムめっき皮膜、窒化層、又はPVD法で形成された硬質皮膜等が用いられている。そして、上記の要求に対応するため、ピストンリングの外周摺動面や上下面には、クロムめっき皮膜、窒化処理皮膜、PVD法で作製された窒化クロム(CrN、CrN)や窒化チタン(TiN)等の硬質皮膜等が形成されている。
しかし、近年の内燃機関の軽量化や高出力化に伴い、ピストンリングはさらに厳しい条件下で使用される。そのため、靱性及び耐摩耗性に優れた摺動部材が望まれている。また、近年、潤滑油においては、低摩擦化に伴って低粘度化しており、それにより耐スカッフィング性が悪化するためにMo含有量が増えており、潤滑油との相性の良い硬質皮膜の開発が望まれている。
このような要請に対し、例えば特許文献1には、摺動特性、特に耐剥離性を向上させた硬質皮膜を被覆した摺動部材が提案されている。この技術は、ピストンリングの外周面に硬質皮膜をアークイオンプレーティングによって被覆するものであり、その硬質皮膜は、CrN型の窒化クロムからなり、結晶の格子定数が0.4145〜0.4200nmの範囲にあり、Crの含有量が30〜49原子%というものである。
また、特許文献2には、耐摩耗性、耐スカッフィング性及び相手材の摩耗を増加させない特性(相手攻撃性)に優れた皮膜が被覆された摺動部材が提案されている。この技術は、摺動部材の外周面にCr−V−B−N合金皮膜を被覆したものであって、そのCr−V−B−N合金皮膜が、物理的蒸着法、特にイオンプレーティング法、真空蒸着法又はスパッタリング法で形成され、V含有量が0.1〜30重量%及びB含有量が0.05〜20重量%であるようにしたものである。
また、特許文献3には、耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れたCr−B−Ti−N合金皮膜が形成された摺動部材が提案されている。この技術は、母材と窒化層とCr−B−Ti−N合金皮膜とから構成されたピストンリングであって、そのCr−B−Ti−N合金皮膜は、PVD(物理的蒸着)法によって窒化層の外周摺動面(摺動面相当部)に被覆され、Bを0.05〜10.0質量%、Tiを5.0〜40.0質量%、Nを10.0〜30.0質量%含有し、残部がCrであるように構成されている。
また、特許文献4は、より高い耐摩耗性、耐クラック性及び耐剥離性を有するピストンリングが提案されている。この技術は、摺動面にCr−B−V−N系の合金皮膜が被覆されているピストンリングであって、B含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内であり、V含有量が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内であり、[B含有量/V含有量]が1を超え30以下の範囲内であるように構成されている。
特開2001−335878号公報 特開2000−1767号公報 特開2006−265646号公報 WO2016/002810
しかしながら、上記特許文献1〜4では、近年要求されている高い耐摩耗性を満足するには不十分である。近年の内燃機関のさらなる軽量化や高出力化に伴う厳しい条件下では、より高温で且つ境界潤滑となりやすい過酷な環境下となるため、高い靱性を有していても十分ではなく、高い靱性に加えて低摩擦性が求められている。
こうした要求に対し、本発明者は、実際の内燃機関のような潤滑油下での摺動現象において、特定組成の潤滑油と特定組成の被覆膜とを組み合わせることで、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることが可能であることを知見した。本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、その目的は、低摩擦性能に優れた被覆膜を摺動面に設けた摺動部材と摺動時に使用する潤滑油との組み合わせを提供することにある。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせ(第1形態)は、摺動部材と該摺動部材の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせであって、前記摺動部材は、摺動面に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜を有し、該合金皮膜は、前記Mn及びMoの一方又は両方を含み、前記Mnと前記Moの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であり、前記潤滑油は、Moを含有する、ことを特徴とする。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせ(第2形態)は、摺動部材と該摺動部材の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせであって、前記摺動部材は、摺動面に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜を有し、該合金皮膜は、前記Mn及びMoのうち少なくともMoを含み、前記Mnと前記Moの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であり、前記潤滑油は、Moを含有しない、ことを特徴とする。
これら第1及び第2形態に係る発明によれば、潤滑油がMoを含有するか否かで、合金皮膜に含まれるMnとMoについて異なるものとすることができる。すなわち、潤滑油がMoを含有する場合は、合金皮膜はMn及びMoの一方又は両方を含んでいればよい。一方、潤滑油がMoを含有しない場合は、合金皮膜は少なくともMoを含んでいる。こうすることで、潤滑油の成分組成と合金皮膜の成分組成とによって、摺動時に二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを摺動面に生成させることができ、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることができる。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせにおいて、前記Bの含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内であり、前記Nの含有量が30質量%以上40質量%以下の範囲内であり、残部が前記Cr及び不可避不純物であることが好ましい。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせにおいて、VとTiをさらに含有し、前記Vの含有量が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内であり、前記Tiの含有量が0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせにおいて、前記摺動部材が、内燃機関用ピストンリングであることが好ましい。
本発明によれば、近年の内燃機関のさらなる軽量化や高出力化に伴う厳しい条件下に好ましく適用できる、低摩擦性能に優れた被覆膜を摺動面に設けた摺動部材と摺動時に使用する潤滑油との組み合わせを提供することができる。
本発明に係る摺動部材である内燃機関用ピストンリングの例を示す模式断面図である。 本発明に係る摺動部材である内燃機関用ピストンリングの他の例を示す模式断面図である。 摩擦係数の測定で用いたナノスクラッチ試験機の構成原理図であり、(A)は摺動面での測定態様であり、(B)は非摺動面での測定態様である。 図3に示すナノスクラッチ試験機で測定する前に行うSRV試験とその後の処理手順を示す説明図であり、(A)はSRV試験時の態様であり、(B)はSRV試験後の態様であり、(C)は潤滑油を除去した態様である。 ローラーチップ型摩耗試験方法の説明図である。 靱性の評価に用いたスクラッチ試験機の構成原理図である。 Moを含む潤滑油で実施例4の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果を示すグラフである。 Moを含まない潤滑油で実施例4の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果を示すグラフである。 Moを含む潤滑油で比較例1の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果を示すグラフである。 Moを含む潤滑油で比較例2の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果を示すグラフである。 Moを含む潤滑油で比較例3の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果を示すグラフである。 AFM(原子間力顕微鏡)による吸着力測定の説明図である。 吸着力測定結果を示すグラフである。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせについて図面を参照しつつ説明する。以下に示す実施の形態は本発明の一例であって、本発明の技術的範囲は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、以下においては、摺動部材として内燃機関用ピストンリングを用いて説明するので、摺動部材をピストンリングと読み替えて説明する。
本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせは、図1及び図2に示すように、摺動部材10(10A,10B,10C)と、その摺動部材10の摺動時に使用する潤滑油56との組み合わせである。第1形態に係る組み合わせとして、摺動部材10は、摺動面11に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3を有し、その合金皮膜3は、Mn及びMoの一方又は両方を含み、MnとMoの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であり、潤滑油56は、Moを含有する、ように構成される。第2形態に係る組み合わせとして、摺動部材10は、摺動面11に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3を有し、その合金皮膜3は、Mn及びMoのうち少なくともMoを含み、MnとMoの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であり、潤滑油56は、Moを含有しない、ように構成される。
これら第1及び第2形態に係る摺動部材10と潤滑油56との組み合わせによれば、潤滑油56がMoを含有するか否かで、合金皮膜3に含まれるMnとMoについて異なるものとすることができる。すなわち、潤滑油56がMoを含有する場合は、合金皮膜3はMn及びMoの一方又は両方を含んでいるように構成され、一方、潤滑油56がMoを含有しない場合は、合金皮膜3は少なくともMoを含んでいるように構成される。こうすることで、潤滑油56の成分組成と合金皮膜3の成分組成とによって、摺動時に二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを摺動面11に生成させることができ、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることができる。こうした摺動部材10は、各種のピストンリングとして使用でき、特にトップリングや、オイルリング等に好ましく使用することができる。
以下、摺動部材10の構成要素について、内燃機関用ピストンリング(以下、符号10を付す。)を例にして説明する。
(基材)
基材1としては、ピストンリング10の基材として用いられている各種のものを挙げることができ、特に限定されない。例えば、各種の鋼材、ステンレス鋼材、鋳物材、鋳鋼材等を適用することができる。これらのうち、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼、ばね鋼であるクロムマンガン鋼(JIS SUP9材、ISO 55Cr3材、AISI 5155材)、クロムバナジウム鋼(JIS SUP10材、ISO 51CrV4材、AISI 6150材)、シリコンクロム鋼(JIS SWOSC−V材、DIN 17223/2−90)、高炭素クロム軸受鋼(JIS G4805、SUJ2鋼)、10Cr鋼等を好ましく挙げることができる。基材1は母材ともいうことができる。
基材1には、必要に応じて前処理を行ってもよい。前処理としては、表面研磨して表面粗さを調整する処理を挙げることができる。この表面粗さの調整は、例えば基材1の表面をダイヤモンド砥粒でラッピング加工して表面研磨する方法等を例示できる。
(下地層)
合金皮膜3の下地層2は、基材1に必要に応じて設けられる。下地層2としては、金属下地層(図1(B)参照)や窒化処理層(図示しない)等を挙げることができる。これらの下地層2は、その種類に応じて任意の箇所に設けることができる。例えば、下地層2を、ピストンリング10がシリンダライナー(図示しない)に接触して摺動する外周摺動面11のみに形成してもよいし、その他の面、例えばピストンリング10の上面12、下面13に形成してもよいし、さらに必要に応じて内周面14に形成してもよい。
窒化処理層は、例えば基材1としてステンレス鋼を適用した場合、そのステンレス鋼の表面に窒素を拡散浸透させ、硬質の窒化層を下地層として形成したものである。窒化処理層は、ピストンリングの下地層として好んで用いられる。なお、窒化処理は、従来公知の方法で行なうことができる。窒化処理層の厚さは特に限定されないが、3μm以上、50μm以下の範囲内であることが好ましい。
金属下地層としては、チタン又はクロム等の金属層を挙げることができる。チタン又はクロム等の下地金属層は、各種の成膜手段で形成することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の成膜手段を適用することができる。金属下地層の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上、2μm以下の範囲内であることが好ましい。
(合金皮膜)
合金皮膜3は、図1及び図2に示すように、基材1上、又は基材1上に下地層2が設けられている場合には下地層2上、に設けられている。その合金皮膜3は、ピストンリング10(10A,10B,10C,10D)の外周摺動面11に少なくとも設けられていることが好ましい。ピストンリング10の外周摺動面11は、ピストンの摺動の際、相手材であるシリンダライナと接触するので、少なくとも外周摺動面11に合金皮膜3が設けられている。この合金皮膜3を外周摺動面11に少なくとも設けることにより、合金皮膜3は、外周摺動面11以外の面である上面12、下面13に形成されていてもよいし、さらに必要に応じて内周面14に形成されていてもよい。
合金皮膜3は、Cr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜である。すなわち、このCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3は、3元系のCr−B−N合金皮膜に、さらにMn及びMoの一方又は両方を含んでいる4元系又は5元系の合金皮膜である。したがって、この合金皮膜3は、3元系のCr−B−N合金皮膜にMnだけを含むもの、Moだけを含むもの、MnとMoの両方を含むものを包含している。
この合金皮膜3は、靱性及び耐摩耗性を向上させるため、VとTiをさらに含有したCr−B−V−Ti−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3であってもよい。すなわち、5元系のCr−B−V−Ti−N合金皮膜に、さらに、Mn及びMoの一方又は両方を含んでいる6元系又は7元系の合金皮膜3であってもよい。したがって、5元系のCr−B−V−Ti−N合金皮膜にMnだけを含むものであってもよいし、Moだけを含むものであってもよいし、MnとMoの両方を含むものであってもよい。なお、不可避不純物は、この合金皮膜3の効果を阻害しない範囲内で合金中に含まれていてもよい。
本発明は、実際の内燃機関のような潤滑油下での摺動現象において、特定組成の潤滑油56と特定組成の被覆膜(合金皮膜3)とを組み合わせることで、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることが可能であることを知見し、完成したものである。後述の実施例及び比較例での試験結果から理解できるように、潤滑油下での摺動において、潤滑油がMoを含有するか否かで合金皮膜3に含まれるMnとMoについて異なるものとすることができることがわかった。すなわち、潤滑油56がMoを含有する場合は、合金皮膜3はMn及びMoの一方又は両方を含んでいればよい。一方、潤滑油56がMoを含有しない場合は、合金皮膜3は少なくともMoを含んでいる。こうすることで、潤滑油の成分組成と合金皮膜の成分組成とによって、摺動時に二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを摺動面11に生成させることができ、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることができる。
潤滑油56がMoを含有する場合において、合金皮膜3がMoを必須とせずに、Mn及びMoの一方又は両方を含んでいればよいとした理由は、潤滑油に含まれるMoと硫黄成分とで摺動時に二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを合金皮膜3の表面に生成させることができるためである。この場合、合金皮膜3はMoを必須とはしないものの、Moを合金皮膜3にも含んでいる場合の方がトライボフィルムがより形成しやすいので望ましい。また、合金皮膜3がMoを含有するしないに関わらず、Mn及びMoの一方又は両方を含有することで耐摩耗性を向上させることができるので好ましい。したがって、潤滑油56がMoを含有する場合においては、合金皮膜3はMoを必須としないが、Moを含んでいることが好ましい。
なお、後述する比較例2のCr−B−N系合金皮膜3のようにBを含有する合金皮膜3は、Bを含有しない比較例1のCr−N系合金皮膜に比べて、二硫化モリブデンからなるトライボフィルムが合金皮膜3の表面に生成し易くなっていると考えられる。したがって、本発明を構成する合金皮膜3は、3元系のCr−B−N合金皮膜に、さらに、Mn及びMoの一方又両方を含んでいる4元系又は5元系の合金皮膜3である。
また、潤滑油56がMoを含有しない場合においては、合金皮膜3はMoを必ず含有していることが望ましい。その理由は、摺動時に合金皮膜3に含まれるMoと潤滑油56の硫黄成分とで二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを合金皮膜3の表面に生成させるためである。この場合において、上記同様、合金皮膜3はMoだけを含むものであってもよいし、MnとMoの両方を含むものであってもよい。
「トライボフィルム(tribofilm)」は、潤滑油に含まれる添加剤が摩擦部材表面への吸着又は化学反応により生成する膜であることが知られている。本発明では、二硫化モリブデンからなるトライボフィルムが合金皮膜3の表面に生成しやすい組み合わせ(摺動部材と潤滑油との組み合わせ)であることに特徴がある。その手段として、Cr−N系合金皮膜に、トライボフィルムを形成しやすいBを含有するCr−B−N系合金皮膜3とし、さらに耐摩耗性の向上に有利なMn及びMoの一方又は両方を含有させている。そして、「Mn及びMoの一方又は両方」については、摺動環境で使用する潤滑油がMoを含有する場合には、Cr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3は必ずしもMoは必須ではないが含んでいることが好ましく、摺動環境で使用する潤滑油がMoを含有しない場合には、Cr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3は必ずMoを含んでいるように構成した点に特徴がある。
潤滑油は、鉱油を主体としているので、二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを生成する硫黄成分が含まれている。通常使用される潤滑油は、Moと硫黄成分を含有するMoDTC(molybdenum dithiocarbamate)である。このMoDTCを潤滑油として使用する場合は、合金皮膜3は必ずしもMoは必須ではないが、含んでいることが好ましい。生成したトライボフィルムは、ナノメートルスケールの分子膜であり、相対運動する固体同士の直接接触を防止し、固体表面のせん断抵抗を低下する役割を果たす。トライボフィルムにより潤滑性が付与される状態を境界潤滑という。
合金皮膜3において、MnとMoの含有量の合計は、潤滑油がMoを含有しているか否かにかかわらず、2質量%以下の範囲内である。なお、後述の実施例では、合金皮膜3がMn及びMoの一方又は両方を含む場合において、MnとMoの含有量の合計を2質量%以下の範囲内とした場合に、低摩擦で靱性に優れた合金皮膜3が得られることを示している。Mnは、合金皮膜3の靱性と耐摩耗性を高めるように作用すると考えられる。Moは、高温下での強度と硬さを向上させるように作用すると考えられる。
潤滑油がMoを含有するか否かは別にしてMnとMoの含有量だけに着目した場合において、合金皮膜3がMnだけを含む場合はMnの含有量が2質量%以下であり、Moだけを含む場合はMoの含有量が2質量%以下であり、MnとMoの両方を含む場合はその合計が2質量%以下であることが好ましい。MnとMoの含有量の合計をこの範囲内とすることにより、後述の実施例に示すように、合金皮膜3を低摩擦で靱性に優れたものとすることができる。低摩擦で靱性をより優れたものとするため、より好ましくは、MnとMoの好ましい含有量の合計は2質量%以下であり、より好ましい含有量の合計は1質量%以下である。なお、MnとMoの含有量の合計の下限は特に限定されないが、0.1質量%程度とすることができる。
合金皮膜3において、MnとMo以外のBの含有量は0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。Bは、Cr−Nに固溶され、結晶を微細化する効果がある。そして、Bを含む合金皮膜は、靱性が増し、耐摩耗性が向上する。また、Bは、上記のように、二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを合金皮膜の表面に生成し易くさせる作用を持っていると考えられる。B含有量のより好ましい範囲は、0.2質量%以上、1.0質量%以下の範囲内であり、さらに好ましい範囲は0.2質量%以上、0.5質量%以下の範囲内である。Bが好ましい範囲で含まれることにより、より高い耐摩耗性を示すことができる。
合金皮膜3には、V及びTiを含有することが好ましい。この場合、V含有量が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内であり、Ti含有量が0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。Vは、微細な窒化物を形成して、靱性を向上させるとともに、耐熱性を向上させる効果がある。Vを含有する合金皮膜は、潤滑が悪い環境での耐久性を高めることができる。Tiは、微細な窒化物を形成して生地を強化させるように作用する。V含有量のより好ましい範囲は、0.1質量%以上、0.5質量%以下の範囲内であり、Tiのより好ましい範囲は、0.1質量%以上、0.5質量%以下の範囲内である。Vが好ましい範囲で含まれることにより、より高い耐摩耗性を示すことができる。また、Tiが好ましい範囲で含まれることにより、合金皮膜中で皮膜の基地強化に寄与し、耐摩耗性をより一層高めることができる。V及びTiがそれぞれ上限を超えると、摩擦性能が悪化する。
合金皮膜3を構成するN含有量は、30質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましい。
合金皮膜3の組成は、グロー放電発光分析装置(Glow discharge optical emission spectrometry:GD−OES法)を用いた元素分析で行った。このGD−OES法は、Arグロー放電領域内で導電性、非導電性膜を高周波スパッタリングし、スパッタされた原子のArプラズマ内における発光線を連続的に分光することにより、薄膜の深さ方向の元素分布を測定する手法である。後述の実施例では、株式会社堀場製作所製のマーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(rf−GD−OES)を用いた。その際の測定は、ノーマルスパッタ(アルゴン雰囲気にて)、測定範囲:直径4mmとし、試料を7mm角に切り出した後、インジウムに包理(埋め込み)し、GD−OES法による深さ分析を行った。
合金皮膜3の形成は、通常、PVD(物理的蒸着)法によってピストンリング10の少なくとも外周摺動面11上に形成される。PVD法としては、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法等を挙げることができる。
こうして成膜された合金皮膜3は、図2に示すように、基材側に設けられた第1合金皮膜(中間皮膜ともいう。)3aと、その第1合金皮膜上に設けられた第2合金皮膜(緻密皮膜ともいう。)3bとで構成することができる。なかでも、ピストンリングの基材側の中間皮膜3aが表面側(摺動面側)の緻密皮膜3bよりもポーラスにすることが好ましい。この中間皮膜3aは、表面側の合金皮膜3と基材又は下地層との応力を緩和するように作用し、緻密皮膜3bの密着力を向上させて緻密皮膜3bのクラックや剥離を抑制することができるという利点がある。基材側のポーラスな中間皮膜3aの組成は、表面側の緻密皮膜3bの組成と同じであり、成膜条件を調整して形成することができる。こうした中間皮膜3aは、厚さ方向で一定の組成であってもよいし、厚さ方向で組成を変化させてもよく、その厚さは特に限定されないが、例えば0.01μm以上20μmの範囲内であり、3μm以上8μm以下が好ましい。
上記した作用を奏する中間皮膜3aと緻密皮膜3bと基材1のヤング率の関係を、[緻密皮膜のヤング率+基材のヤング率]÷2×0.92≦[中間皮膜のヤング率]≦[緻密皮膜のヤング率+基材のヤング率]÷2×1.08、からなる関係式を満たすように表すことができる。この関係を満たすことにより、合金皮膜3と基材1との界面に集中する応力を皮膜全体に分散でき、靱性に優れたものとすることができる。
合金皮膜3は、後述の実施例1〜13に示すように、中間皮膜3aと緻密皮膜3bとで構成することが好ましいが、実施例1’〜13’に示すように、緻密皮膜3bだけで構成してもいよい。
基材側のポーラスな中間皮膜3aと表面側の緻密皮膜3bとは、クロスセッションポリッシャー(CP)を用いた画像解析により容易に解析することができる。それらは、例えば、バイアス電圧と窒素ガス圧力とを変化させて制御することができる。特に限定されないが、一例としては、チャンバー内の窒素ガス圧力を6Paに維持して、ポーラスな中間皮膜3aを形成する場合にはバイアス電圧を0V〜−7Vとし、緻密皮膜3bを形成する場合には窒素ガス圧力を4.5Pa、バイアス電圧を−7V〜−30Vにしてそれぞれ形成することができる。
合金皮膜3の厚さは、特に限定されるものではないが、3μm以上、50μm以下の範囲内であることが好ましく、10μm以上、35μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。合金皮膜3の表面側の緻密皮膜3bの硬度は、ビッカース硬さ(JIS B 7725、ISO 6507)HV(0.05)で1400以上、2000以下の範囲内であることが好ましく、1600以上、1800以下の範囲内であることがより好ましい。また、基材側の中間皮膜3aの硬度は、HV(0.05)で800以上、1600以下の範囲内であることが好ましく、1200以上、1500以下の範囲内であることがより好ましい。ビッカース硬度は、微小ビッカース硬さ試験機(株式会社フューチュアテック製)等を用いて測定することができ、「HV(0.05)」は、50gf荷重時のビッカース硬度を示すことを意味している。後述の実施例でのビッカース硬度は、この微小ビッカース硬さ試験機で測定した結果である。
(適用燃料)
本発明に係るピストンリング10は、特に潤滑油での実際の摺動時において、摺動面に形成した合金皮膜3の低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることができ、従来の耐摩耗性皮膜よりも低摩擦で靱性に優れ、クラックや剥離の発生を抑制することができるという効果を奏する。
以上、本発明に係る摺動部材10と潤滑油56との組み合わせは、低摩擦性能に優れた合金皮膜3を摺動面11に有するものであり、潤滑油56での実際の摺動時において、合金皮膜3の摺動面11に二硫化モリブデンからなるトライボフィルムが生成する。その結果、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることができる。さらに、本発明に係る摺動部材10と潤滑油56との組み合わせは、低摩擦で靱性にも優れたものとすることができるので、凝着が起こりにくく、クラックや剥離が起こりにくい。
本発明に係る組み合わせ(摺動部材と該摺動部材の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせ)で用いる摺動部材は、それ単独で用途発明を構成することもできる。すなわち、Moを含有する潤滑油下で用いられる摺動部材10であって、摺動面11に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3を有し、その合金皮膜3は、Mn及びMoの一方又は両方を含み、MnとMoの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であるとする第1形態と、Moを含有しない潤滑油下で用いられる摺動部材10であって、摺動面11に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜3を有し、その合金皮膜3は、Mn及びMoのうち少なくともMoを含み、MnとMoの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であるとする第2形態とすることができる。これらの摺動部材10の構成及び作用効果は、上記本発明に係る組み合わせ(摺動部材と該摺動部材の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせ)と同様である。
以下に、本発明に係る摺動部材と潤滑油との組み合わせについて、ピストンリングの実施例と比較例を挙げてさらに詳しく説明する。
[実施例1〜13及び比較例1〜10]
基材1として、C:1.00質量%、Si:0.25質量%、Mn:0.3質量%、Cr:1.5質量%、P:0.02質量%、S:0.02質量%、残部:鉄及び不可避不純物からなるJIS規格でSUJ2材相当を使用した。基材1は、予め有機溶剤液中で超音波洗浄を行った。
次に、基材1上に、合金皮膜3を成膜した。成膜は、アークイオンプレーティング装置を用い、成膜後に予定する合金皮膜組成にするために組成調整したターゲットを使用し、その表面でアーク放電を発生させた。また、アーク放電させたチャンバー中に窒素ガスを導入するとともに必要に応じて所定量の不活性ガス(ここではアルゴンガス)を導入し、0〜−30Vのバイアス電圧を印加して、合金皮膜3を厚さ20μmとなるように形成した。ここで得た合金皮膜3は、基材側のポーラスな中間皮膜3aと表面側の緻密皮膜3bとで構成されたものであり、成膜は、チャンバー内の窒素ガス圧力を6Paに維持し、基材側のポーラスな中間皮膜3aはバイアス電圧を0Vとして厚さ5μm成膜し、表面側の緻密皮膜3bは窒素ガス圧力を4.5Pa、平均バイアス電圧を−16Vにして厚さ20μm成膜したものである。表1に示す組成は、合金皮膜3のうち緻密皮膜3bの組成である。なお、中間皮膜3aの組成は表1には記載していないが、緻密皮膜3bの組成と一致していたので省略した。
Figure 2020193656
[実施例1’〜13’及び比較例3’〜10’]
上記実施例1〜13及び比較例3〜10において、合金皮膜3を、中間皮膜3aを成膜せずに厚さ20μmの緻密皮膜3bのみで構成した。それ以外は同様として、実施例1’〜13’及び比較例3’〜10’の合金皮膜を作製した。
[特性評価]
(ナノスクラッチ試験)
ナノスクラッチ試験を行った。図3は、摩擦係数の測定で用いたナノスクラッチ試験機の構成原理図であり、(A)は摺動面53での測定態様であり、(B)は非摺動面54での測定態様である。図4は、ナノスクラッチ試験機で測定する前に行うSRV試験とその後の処理手順を示す説明図であり、(A)は摺動試験時の態様であり、(B)は試験後の態様であり、(C)は潤滑油を除去した後の態様である。その結果を図7〜図11に示した。先ず、ディスク直径24mmの基材1(JIS規格のSUJ2材相当)の表面に、上記同様の成膜手段により実施例4及び比較例1〜3の合金皮膜3を成膜した。得られた試験試料を、図4(A)に示すSRV試験(Schwingungs Reihungund und Verschleiss/摩擦摩耗試験)で、所定荷重のボール55を潤滑油56を介してa方向とb方向に往復させた。試験条件は、試験装置としてSRV試験装置(図4(A)参照)を用い、ボールは直径10mmのSUJ2鋼製(JIS G4805、高炭素クロム軸受鋼鋼材)を使用し、荷重を20Nとし、周波数を20Hzとし、摺動距離を5mm(摺動距離)とし、試験時間を60分間とし、試験温度を80℃とし、潤滑油はストロングセーブX0−W20(MoDTCあり)と0W−16(MoDTCなし)を使用した。
図4(A)に示す摩擦摩耗試験により、摺動部(トライボフィルム形成部)53には図4(B)に示すトライボフィルムを形成した。その後、図4(C)に示すように、潤滑油56を除去した。こうして得られた試験片を、図3に示すナノスクラッチ試験機(Hysitron社製、Tribo Indenter)で摩擦係数を測定した。ナノスクラッチ試験は、カンチレバー51に取り付けた圧子52を試験片表面に所定荷重で接触させて矢印方向(図3参照)に移動させて行った。測定条件は、圧子52としてConical(先端半径0.5μm)を用い、前処理としてヘキサン洗浄(超音波洗浄)を行い、荷重を5μN,10μN,20μN,50μNとし、スクラッチ距離を0.4μmとし、スクラッチ時間を10秒間とした。測定は、図4で得られた試験片について、ボール55の摺動部53と非摺動部54の両方で行い、それぞれの部分での摩擦係数を測定した。図7〜図11は、摺動部53の摩擦係数と非摺動部54の摩擦係数との差([摺動部の摩擦係数]−[非摺動部の摩擦係数]=摩擦係数差A)について、試験荷重を変えて得られた結果(表2)を示すグラフである。
Figure 2020193656
図7は、Moを含む潤滑油で実施例4の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果であり、図8は、Moを含まない潤滑油で実施例4の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果である。図7の結果では、5μN,10μN,20μNのいずれも摩擦係数差Aはマイナスであり、非摺動54よりも摺動部53の方が摩擦係数が低くなっていることがわかる。この結果より、摺動部53には、摩擦係数が低い二硫化モリブデンからなるトライボフィルムが形成されていると考えられた。そして、そのトライボフィルムは、潤滑油56に含まれる硫黄成分と、合金皮膜3及び/又は潤滑油56に含まれるMoとの化学反応で生成されていると考えられた。また、図8の結果では、潤滑油56にMoは含まれていないにもかかわらず、図7の結果と同様、5μN,10μN,20μNのいずれも摩擦係数差Aはマイナスであり、非摺動54よりも摺動部53の方が摩擦係数が低くなっていることがわかる。この結果より、摺動部53には、摩擦係数が低い二硫化モリブデンからなるトライボフィルムが形成されていると考えられた。そして、そのトライボフィルムは、潤滑油56に含まれる硫黄成分と合金皮膜3に含まれるMoとの化学反応で生成されていると考えられた。この図7及び図8の結果より、Moは、合金皮膜3と潤滑油56のいずれか又は両方に含まれていればよく、両方に含まれていることが好ましいことがわかる。こうすることで、二硫化モリブデンからなるトライボフィルムを摺動面53に生成させることができ、低摩擦性能を向上させて耐摩耗性能を向上させることができる。
図9は、Moを含む潤滑油で比較例1の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果であり、図10は、Moを含む潤滑油で比較例2の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果であり、図11は、Moを含む潤滑油で比較例3の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果である。図10の結果より、合金皮膜3にホウ素が含まれている場合には、5μN,10μN,20μNのいずれも摩擦係数差Aはマイナスであり、非摺動54よりも摺動部53の方が摩擦係数が低くなっていることがわかる。この結果より、摺動部53には、摩擦係数が低い二硫化モリブデンからなるトライボフィルムが形成されていると考えられた。そして、合金皮膜にMoが含まれていないことから、そのトライボフィルムは、潤滑油56に含まれる硫黄成分及びMoとの化学反応で生成されていると考えられた。一方、図9の結果より、合金皮膜3にホウ素が含まれていない場合には、全ての荷重で摩擦係数差Aはプラスであり、摺動部53には、二硫化モリブデンからなるトライボフィルムは生成していないと考えられた。この図9及び図10の結果の違いは、合金皮膜3にホウ素が含まれているかいないかの違いである。そのため、合金皮膜3に含まれるホウ素は、摺動部53に二硫化モリブデンを生成しやすくさせる作用を有していることがわかる。
図11は、Moを含む潤滑油で比較例3の合金皮膜のナノスクラッチ試験を行った結果である。図11及び上記図10の結果より、合金皮膜3にチタンとバナジウムとが含まれている場合には、全ての荷重で摩擦係数差Aはプラスであった。このとき、摺動部53に二硫化モリブデンからなるトライボフィルムは形成されているか否かは明確にはわからないが、図10の結果より形成されているものと考えられる。しかし、摩擦係数差Aはプラスであることから、チタンとバナジウムとを含むことで、摩擦係数が増したと考えられる。
なお、上記図7の実施例4の結果は、図11の合金皮膜(比較例3)に比べてチタンの含有量を約10分の1とし、バナジウムの含有量を約2分の1とし、さらにマンガンとMoを含有させた合金皮膜3の結果である。図7の結果と上記図10及び図11の結果とを比較して考察した場合、二硫化モリブデンからなる低摩擦係数のトライボフィルムを生成させるには、Cr−N系合金皮膜が、少なくともBを含み、Moを含有する潤滑油下で使用される場合にはMn及びMoの一方又は両方を含み、Moを含有しない潤滑油下で使用される場合にはMn及びMoのうち少なくともMoを含むことが望ましいと考えられる。そして、チタンとバナジウムを耐摩耗性等の向上のために含有させる場合には、その含有量を規定して、摩擦係数差Aがマイナスになる範囲で含有させることが望ましいと言える。
(吸着力測定)
吸着力測定を行った。図12は、AFM(原子間力顕微鏡)による吸着力測定の説明図であり、図13は、吸着力測定結果を示すグラフである。測定は、試験試料として、実施例4,比較例1及び比較例2の合金皮膜3を用いた。測定装置は、Bruker AXS社製のNanoscopeV及びDimension ICONを用いた。測定条件は、Peak Force QNMモードで行い、試験試料の前処理としてヘキサン洗浄(超音波洗浄)を行い、測定視野を500nm角(500nm×500nmの四角領域)とし、測定環境をアルゴン雰囲気とした。各試験試料について、500nm角で吸着力を測定し、面全体での平均値を算出した。比較例1の算出値を1(基準値)とし、比較例2及び実施例4の算出値との相対値を「吸着力比」として図13に表した。
図13の結果より、比較例2の吸着力比は0.342であったが、実施例4の吸着力比は0.040と著しく小さかった。この結果は、実施例4の合金皮膜3の表面は、吸着力比が小さいために、摺動時に生じた摩耗粉の凝着を少なくすることができることを明らかにしており、凝着によるフリクションの増加を防ぐことができる。
(摩耗試験)
摩耗試験は、図5に示すローラーチップ型摩耗試験方法で行った。実施例1〜13及び比較例1〜10で得られたピストンリングと同じ条件で得た測定試料31(縦7mm、横8mm、高さ5mm)を固定片とし、相手材32(回転片)にはドーナツ状(外径40mm、内径16mm、厚さ10mm)のものを用い、測定試料31と相手材32を接触させ、荷重Pを負荷して行った。各測定試料31を用いた摩擦係数試験条件は、潤滑油33:マシンオイル(動粘度は、100℃で1.01、40℃で2.2)、油温:室温、回転数:200rpm、荷重:588N、試験時間:3時間の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材32として行った。滴下チューブ34からのオイル滴下速度は0.04mL/分とした。なお、ボロン鋳鉄からなる相手材32は、所定形状に研削加工した後、研削砥石の細かさを変えて順次表面研削を行い、最終的に算術平均粗さRaで0.02〜0.04μmRz(JIS B0601(2001)に準拠。)となるように調整した。
試験結果を摩耗比として表3に示した。摩耗比は、比較例1の摩耗量を1としたときの比として表した。摩耗比が1未満である場合は、比較例1よりも高い耐摩耗性を示す。本発明に係る組成範囲内の合金皮膜(実施例1〜13)は、いずれも、摩耗比が1未満で高い耐摩耗性を示し、さらに好ましい実施例4〜6では、摩耗比が0.30〜0.32の範囲であった。なお、表3には、さらに、「皮膜硬さ(ビッカース硬度)」、比較例1の皮膜硬さに対する「硬さ比」、比較例1を1としたときの「スクラッチ比(中間皮膜+緻密皮膜)」、硬さ比とスクラッチ比とを乗じた「靱性評価値」を示した。ビッカース硬度は、記述した微小ビッカース硬さ試験機(株式会社フューチュアテック製)を用いて測定した。
Figure 2020193656
(スクラッチ試験)
スクラッチ試験は、図6に示すスクラッチ試験機で行った。スクラッチ試験では、皮膜剥離が発生する限界荷重を求めて、剥離耐性を表すスクラッチ比(耐剥離荷重比)を評価した。スクラッチ試験は、皮膜が形成された摺動面に対して平行(水平)に加わる力に対する試験方法であり、図6に示すスクラッチ試験装置20(アントンパール社製、型名:レベテストスクラッチテスタ RST3)を使用して実施した。図6に示すスクラッチ試験装置20は、テーブル22上に載せた試料23(13mm×13mm×厚さ5mm)上から圧子21を押し当て、その状態で試料23を移動させ、そのときにAE(アコースティックエミッション)検出器24で検知するための装置である。ここでは、荷重負荷速度:100N/分、テーブル速度:10mm/分、AE感度:1.2、圧子先端:R0.2mm、試験荷重:0〜100N、試験距離:5mm、試験片材質:SKH51の条件で測定した。評価は、スクラッチ試験によるAE発生を検知した時の荷重を剥離荷重(スクラッチ荷重)とした。
スクラッチ比(耐剥離荷重比)は、実施例1〜13及び比較例2〜10のスクラッチ荷重を比較例1のスクラッチ荷重に対する相対比として表し、結果を表3に示した。さらに、実施例1’〜13’及び比較例3’〜10’のスクラッチ荷重を比較例1のスクラッチ荷重に対する相対比「スクラッチ比(緻密皮膜のみ)」として表し、結果を表4に示した。スクラッチ比が1より大きいほどスクラッチ荷重が大きく、耐剥離性が高い。表3及び表4に示すように、実施例1〜13及び実施例1’〜13’の耐剥離性が優れており、実施例4〜6,12,13及び実施例4’〜6’,12’,13’の耐剥離性が特に優れていた。中間皮膜3aと緻密皮膜3bからなる合金皮膜3と、緻密皮膜3bのみからなる合金皮膜3とを比較すると、前者(中間皮膜3aと緻密皮膜3bからなる合金皮膜3)の方がスクラッチ比は高かった。この結果は、中間皮膜3aを緻密皮膜3bの下層として設けることにより、耐剥離性を高めていることがわかる。
Figure 2020193656
なお、ここで例示した実施例では、含有量のより好ましい範囲(総合計100%)として、B含有量:0.3〜0.4質量%、Ti含有量:0.24〜0.48質量%、V含有量:0.14〜0.35質量%、Mo及び/又はMn含有量:合計で2質量%以下、N含有量:30〜40質量%、残部Crを例示することができる。
1 基材
2 下地層
2’ 窒化層
3 合金皮膜
3a 第1合金皮膜(中間皮膜)
3b 第2合金皮膜(緻密皮膜)
10,10A,10B,10C ピストンリング
11 摺動面(外周摺動面)
12 上面
13 下面
14 内周面
20 スクラッチ試験装置
21 圧子
22 テーブル
23 試料
24 検出器
30 摩耗試験機
31 測定試料
32 相手材
33 潤滑油
34 滴下チューブ
51 カンチレバー
52 圧子
53 摺動部
54 非摺動部
55 ボール
56 潤滑油
F 荷重


Claims (5)

  1. 摺動部材と該摺動部材の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせであって、
    前記摺動部材は、摺動面に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜を有し、該合金皮膜は、前記Mn及びMoの一方又は両方を含み、前記Mnと前記Moの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であり、
    前記潤滑油は、Moを含有する、ことを特徴とする摺動部材と潤滑油との組み合わせ。
  2. 摺動部材と該摺動部材の摺動時に使用する潤滑油との組み合わせであって、
    前記摺動部材は、摺動面に設けられたCr−B−(Mn,Mo)−N系の合金皮膜を有し、該合金皮膜は、前記Mn及びMoのうち少なくともMoを含み、前記Mnと前記Moの含有量の合計が2質量%以下の範囲内であり、
    前記潤滑油は、Moを含有しない、ことを特徴とする摺動部材と潤滑油との組み合わせ
  3. B含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内であり、N含有量が30質量%以上40質量%以下の範囲内であり、残部がCr及び不可避不純物である、請求項1又は2に記載の摺動部材と潤滑油との組み合わせ。
  4. VとTiをさらに含有し、前記Vの含有量が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内であり、前記Tiの含有量が0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲内である、請求項3に記載の摺動部材と潤滑油との組み合わせ。
  5. 前記摺動部材が、内燃機関用ピストンリングである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摺動部材と潤滑油との組み合わせ。


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