JP3761940B2 - インクジェット捺染用インク、インクジェット捺染方法、転写捺染方法、捺染物、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、及び加工品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はインクジェット捺染用インク組成物に関し、特に、分散染料で染色可能な繊維から構成される織布または不織布あるいはこれらの繊維と他の合成繊維及び天然繊維からなる混紡織布あるいは混紡不織布の捺染方法に適したインクジェット捺染用インクと、これを用いたインクジェット捺染方法及び転写捺染方法、該方法により得られる捺染物及び、記録ユニット、インクカートリッジ、及び記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、捺染の主流はスクリーン捺染、ローラー捺染である。しかしながら、これらの方式は、多品種少量生産に不向きであり、流行への迅速な対応も困難であることから最近では、無製版の電子捺染システムの確立が要望されている。
【0003】
この要望に対して、インクジェット記録による捺染方法が数多く提案されており、各方面からの期待も大きくなっている。
【0004】
分散染料を用いたインクジェット捺染用インクとしては、
(1)高温時及び長期保存における分散安定性が良好なこと、
(2)発色に十分な濃度を与えること、
(3)ヘッドのノズルを目詰まりさせないこと、
(4)布帛上で不規則なにじみがなくかつ均染性に優れていること、
(5)長期にわたる耐久においても吐出特性に変化のないこと、特に特開昭54−59936号公報に記載されている熱エネルギーによる体積変化を利用してインクを吐出させる方式の場合には、熱エネルギーを与えるヒーター上に異物の沈着がなく、また消泡時のキャビテーションによるヒーター破壊を起こさず安定した吐出が可能であること、
(6)転写捺染として使用する際に染色性が良好でしかも生産において安定した再現性が得られること、等の性能が要望される。
【0005】
これらの要求性能を満足させるために、従来からは以下のような手段がとられてきた。
【0006】
まず(1)については、分散染料の様に水不溶性または水難溶性の色素を用いるような場合は特に重要で、インクジェットインクのような低粘度が必須の液体では、従来の分散染料の液状品よりも分散安定性が低下し、高温時や長期保存時に染料が沈降するという問題点は避けられない。この問題に対して、特開平2−189373には、インク中の水不溶性色素の粒子径を制御しかつ溶液密度を1.01〜1.3に調整する提案がなされているが提示範囲は極めて広範囲であり、この提案だけでは、すべての効果は期待できない。また特開平2−190337には水に不溶の色素について、径0.2μ以下の色素粒度分布が90%以上で0.3μ以上の粒度のものを含有せず粘度が1.1〜10cPのインクの提案があるが、係る範囲の調整は、微小粒子の含有比率が高すぎるため、保存時の凝集による物性変化及び粘度の制約による高濃度化の達成が困難といった問題が生ずる。
【0007】
(2)については、染料の濃度を高くすることで十分な濃度を与えるというのが一般的な手段であり、特に200pl以下の小液滴を用いたり、吸収力の強い布帛を染色に対する場合は、必須技術である。しかしこうしたインクは、ノズル先端からのインクの蒸発のため増粘したり、染料が沈降して(3)の問題を引き起こすに至る。
【0008】
そこで(3)に対しては、グリセリン等の多価アルコールを添加する等の手段がとられてきたが、分散染料の様に水不溶性または水難溶性の色素を用いるような場合は、特に完全といえるような解決策はなく、染料と溶剤の極めて特異的な組み合わせ以外は、満足な結果は得られない。
【0009】
(4)については、すでに数多くの提案がされており、例えば特開昭62−283174においてはカルボン酸基含有ポリマーのインクへの添加が挙げられるが、いずれも(3)や(5)の問題は、避けられない。
【0010】
(5)については、含有する染料の構造に起因する場合があるが、溶剤が存在することによる分散破壊の影響も考えられ、詳しい検討がなされておらず十分な問題解決に至っていない。
【0011】
(6)については、特開昭53−65483、60−76343、特開平6−57656等の提案がなされているが、その記載内容から、本発明が求めている分散染料を用いたインクによる高発色性、高生産性の達成は難しい。
【0012】
以上のごとく従来の技術では個々の性能を単独で満足させる手段は見出せても、これらの性能を同時に満足させ、係る一連の問題を解決する捺染用インク及びインクジェット捺染方法は今迄のところ知られていないのが現状である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、分散染料で染色可能な繊維を主体として構成される布帛に対する、上述のごとき従来の一般的な捺染用インク及びインクジェット捺染方法の課題、すなわち布帛上で不規則な滲みが起こらず、高濃度で鮮明かつ均染性に優れた捺染物を得るといった染色上の問題、吐出性能、特にマルチノズルヘッドや熱エネルギー方式によるインクジェット方式において吐出安定性、目詰まり性が良好であるといった吐出特性上の問題、高温時及び長期にわたって分散が安定したインクを得るという保存安定性上の問題、更に転写捺染する際の優れた染色性と生産安定性の問題を同時に満足するインク及び捺染方法を提供することにある。このような本発明の目的は以下の本発明によって達成される。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、
0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、水溶性有機溶剤及び水を少なくとも含有するインクジェット捺染用インクであって、前記分散染料の平均粒子径が150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下の粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まず、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを含むことを特徴とするインクジェット捺染用インクを提案するもので、
分散染料を分散させる化合物が、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物及びその誘導体、側鎖にカルボキシル基及びその塩類を有する水溶性の高分子化合物の中から選ばれる少なくとも1種であること、
ビスヒドロキシエチルスルホンの含有量がインク全重量の2〜40重量%の範囲にあること、
併用できる水溶性有機溶剤がグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレンゴリコール、チオジグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びその誘導体の中から選ばれる少なくとも1種であること、
インクジェット捺染用インクの吐出方式が熱エネルギーを利用してインクを吐出させる方式であること、
粘度が2〜10cP、表面張力が30〜50dyn/cmであることを含む。
【0015】
また本発明は、
インクをインクジェット方式によって布帛上に付与し、次いで熱処理を行うインクジェット捺染方法であって、前記布帛が分散染料で染色可能な繊維を含有する布帛であり、前記インクが0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、水溶性有機溶剤及び水を少なくとも含有し、前記分散染料の平均粒子径が150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下の粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まず、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを含むことを特徴とするインクジェット捺染方法で、
少なくとも2種のインクを布帛上で混色させること、
布帛がポリエステル繊維を含むものであること、
熱処理が、高温蒸熱(HTスチ−ミング)法またはサ−モゾル法であること、インクジェット方式が熱エネルギーを利用してインクを吐出させるインクジェット方式であること、
インクを付与する前に、前記布帛に前処理を施すことを含む。
【0016】
更に本発明は、
インクをインクジェット方式によって担体上に付与し、次いで熱処理により、インクの染料を担体から被記録材上に転写する、転写捺染方法であって、前記被記録材が分散染料で染色可能な繊維を含有する布帛であり、前記インクが0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、水溶性有機溶剤及び・水を含有し、前記分散染料の平均粒子径が150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まず、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを含むことを特徴とする転写捺染方法で、
少なくとも2種のインクを担体に付与するものであること、
布帛がポリエステル繊維を含むものであること、
インクジェット方式が熱エネルギーを利用してインクを吐出させるインクジェット方式であること、
担体が紙であること、
紙の厚みが0.02〜0.4mmの範囲にあることを含む。
【0017】
更に本発明は、
前記インクジェット捺染方法で捺染された捺染物、及び前記転写捺染方法で捺染された捺染物である。
【0018】
また更に本発明は、
インクを収容したインク収容部、及び該インクをインク滴として吐出させる為のヘッド部を備えた記録ユニットにおいて、インクが前記のインクであることを特徴とするユニットで、
ヘッド部がインクに熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるヘッドを含むものであることを含む。
【0019】
更に本発明は、
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、インクが前記のインクであることを特徴とするインクカートリッジである。
【0020】
また更に本発明は、
インクを収容したインク収容部と、該インクをインク滴として吐出させる為のヘッド部とを有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置において、インクが前記インクであることを特徴とするインクジェット記録装置で、
ヘッド部が、インクに熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるヘッドであることを含む。
【0021】
また本発明は、
インクを吐出するための記録ヘッド、インクを収容したインク収容部を有するインクカートリッジ及び該インクカートリッジから記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給部を備えたインクジェット記録装置において、インクが前記インクであることを特徴とするインクジェット記録装置で、
記録ヘッドがインクに熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるヘッドであることを含む。
【0022】
更に本発明は、
前記捺染物を更に加工して得られた加工品で、
加工品が前記捺染物を所望の大きさに切り離し、切り離された片に対して最終的な加工品を得るための工程を施して得られたものであることを含む。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者はインクジェット捺染用インクにおいて、前述の如き種々の要求性能を同時に満足させるべくインクの改良を行つた結果、0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、及び水溶性有機溶剤及び水を含有するインクジェット捺染用インクにおいて、前記分散染料の平均粒子径dが150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下の粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まないように調製し、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを必須成分として含有せしめることによって、吐出安定性や長期の保存性、滲み性が格段に改善されることを知見した。また、印字後の布帛を観察すると、ムラ、混色部の色ズレが見られず、更にその布帛を発色させたところ再現性が良好であり、輪郭がシャープで鮮明な捺染物が得られた。
【0024】
これらの現象は、用いるインク中の分散染料の粒子径及びその分布状態に大きく関係する。保存安定性のうち沈降については、粒子径が小さい程、分散染料の沈降は理論上起こりにくくなるが、この観点のみからインクを調整すると凝集抑制のための分散剤量が多くなり、結果として粘度が高くなってしまい、インクジェット捺染用インクとしては好ましいとはいえない。むしろ他性能とのバランスを考慮すると問題となる場合が多い。
【0025】
従って、沈降、及びインク物性の点で、本発明で示した粒子径分布は両立が可能な極めて限定された範囲である。
【0026】
次に吐出性能という面では、特に熱を利用してインクを吐出させるインクジェット方式、あるいはマルチノズルタイプのヘッドを用いる場合に目詰まり抑止効果が高いことを知見した。熱を利用する方式における良好な効果は、発泡時の泡の安定性に起因しているものと思われる。また分散性が極めて良好であることから、分散破壊に起因する隣接ノズル間の吐出速度や液滴容量のバラツキが押さえられる。
【0027】
染色性の面では、粒子径分布が効率よく制御されているため高発色が可能であり、混色に際しインク滴の打ち込み順序の違い等による染料の発色の変動が少なく、染色安定性、均染性の点でも良好な結果が得られる。
【0028】
更に転写捺染を行う際は、高発色、染色安定性に対するインク中の分散染料の粒子径分布の影響は、直接捺染よりさらに顕著であり、本発明の範囲は格段の効果が得られる条件である。
【0029】
本発明において、水溶性有機溶剤として使用するビスヒドロキシエチルスルホンはインクの粘度上昇を抑制し、分散染料の分散安定性を高める作用を有する。
【0030】
次に好ましい実施態様を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明にて使用するインクの特徴は、分散染料の平均粒子径とその分布を調整することであり、平均粒子径は150〜400nm、好ましくは、160〜350nmの範囲である。平均粒子径が150nm以下であると凝集が進みやすく、保存時の物性変化が激しくなる。また重さあたりの染料の表面積が大きくなるため、分散に必要な分散剤量が多くなり、その結果粘度の上昇をまねき吐出性能に悪影響を及ぼす場合が多い。400nmを越えた場合は、保存時の沈降が顕著であり、さらには長期にわたる吐出特性に問題が生じる。この傾向は熱エネルギーを利用したインクジェット方式を用いた場合特に問題となる。
【0031】
粒子径分布については200nm以下の範囲にある染料の割合が重量比で85%を越えると、保存時の凝集による物性変化が大きくなる。また使用する分散剤量が多くなりインクジェット記録に必須であるインクの低粘度化が達成しにくい。この場合、粘度を低く保つためには、分散染料の含有量を低減せねばならず結果として高濃度化が達成できなくなる。
【0032】
また1000nm以上の粒子を含むと沈降、目詰まり等のトラブルが顕著となるため実質上含まない系とする必要がある。ここで、実質上含まないとは、1000nm以上の粒子が重量比で2%以下、好ましくは1%以下とすることである。
【0033】
これらの粒子を除去する手段としては、例えば1μm以下のフィルターでの濾過、又は遠心分離法が有効である。
【0034】
なお、平均粒子径及び粒子径分布の測定条件は、レーザー光散乱法による機器ELS−800(大塚電子製)を用い、3mmX3mmセルを使用して、積算回数200回にて測定したものである。
【0035】
本発明の捺染用インクは、分散染料、前記分散染料を分散する化合物、ビスヒドロキシエチルスルホンを含む水溶性有機溶剤および水を含有するインクジェット捺染用インクである。
【0036】
分散染料としては以下に記載したものに限定されるものではないが、C.I.ディスパ−ズイエロ−5、42、54、64、79、82、83、93、99、100、119、122、124、126、160、184:1、186、198、199、204、211、224および237;C.I.ディスパーズオレンジ13、29、31:1、33、49、54、55、66、73、118、119および163;C.I.ディスパ−ズレッド54、72、73、86、88、91、92、93、111、126、127、134、135、143、145、152、153、154、159、164、167:1、177、179、181、204、206、207、221、239、240、258、277、278、283、288、311、323、343、348、356および362;C.I.ディスパ−ズバイオレット26、33、77;C.I.ディスパ−ズブル−56、60、73、79、79:1、87、87:1、113、128、143、148、154、158、165、165:1、165:2、176、183、185、197、198、201、214、224、225、257、266、267、287、354、358、365および368;C.I.ディスパーズグリーン6:1および9などが好ましい。
【0037】
更に、これら染料の含有量(2種以上を併用して使用する場合は総含有量)は、インク総重量に対して0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%の範囲である。分散染料の含有量が0.1重量%未満の場合は、発色の濃度が不十分である。また15重量%を超えて含有するとインクの保存安定性の劣化やノズル先端付近におけるインク蒸発に伴う増粘や析出による不吐出を引き起こすが、本発明の領域に粒子径分布を調製すること自体がかなり難しいという問題もある。
【0038】
分散染料を分散する化合物としては、いわゆる分散剤、界面活性剤、樹脂等がある。分散剤または界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系のいずれも使用できる。
【0039】
例えば、アニオン系のものとしては脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、及びこれらの置換誘導体等がある。
【0040】
例えば、ノニオン系のものとしては、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマ−、アセチレングリコールまたはそのエチレンオキサイド付加物、及びこれらの置換誘導体等が挙げられる。
【0041】
中でもナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物及びその誘導体(特にアルキル化物)、アセチレングリコールまたはそのエチレンオキサイド付加物は、特に好ましいものである。
【0042】
樹脂としてはスチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−不飽和カルボン酸の脂肪族アルコ−ルエステル、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、イタコン酸及びその誘導体、フマ−ル酸及びその誘導体、酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれる少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体、及びグラフト共重合体、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0043】
これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶なアルカリ可溶型樹脂であることが好ましい。中でも、側鎖にカルボキシル基及びその塩類を有する水溶性高分子化合物が特に良好である。
【0044】
分散染料を分散する化合物はインク全重量に対して0.02〜30重量%、好ましくは0.05〜25重量%の範囲で含有ることが好ましい。
【0045】
また本発明のインクは、主成分として水をインク全重量に対して10〜93重量%、好ましくは25〜87重量%、より好ましくは30〜82重量%の範囲で含有することが望ましい。
【0046】
インク中のビスヒドロキシエチルスルホンは、インク全重量に対して2〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%の範囲で含有される。
【0047】
更に、他の水溶性有機溶剤を使用することによって、本発明の効果をより顕著にすることができる。そのような溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の1価アルコール類、アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類;チオジグリコール;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。 上記水溶性有機溶剤の含有量は、一般的にはインクの全重量に対して1〜50重量%、好ましくは2〜45重量%の範囲である。
【0048】
上記のごとき水溶性有機溶剤を併用する場合は単独でも混合物としても使用できるが、好ましい水溶性有機溶剤は、1価アルコール類、ケトン類、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、チオジグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びその誘導体(中でもそのアルキルエーテル類)である。
【0049】
本発明のインクの主成分は上記の通りであるが、その他各種の消泡剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤等を必要に応じて添加することができる。中でも尿素及びその誘導体、三価までのカルボン酸及びその塩類、りん酸及びその誘導体は、本発明の効果をより顕著にする効果がある。
【0050】
本発明におけるインクは、上記分散染料、分散染料を分散する化合物、ビスヒドロキシエチルスルホン、溶剤、水、その他の添加物を用いて、従来公知の分散方法、混合方法等により製造することができる。
【0051】
インクの物性としては粘度が2〜10cP,好ましくは2〜8cP,より好ましくは2〜6cP、表面張力は30〜50dyn/cmの範囲が好ましい。
【0052】
本発明において使用する布帛を構成する素材としては、インクジェットによる直接捺染においても、転写捺染においても共通のものが使用でき、分散染料で染色可能な繊維を含有するものである。中でも、ポリエステル、アセテート、トリアセテートを含有するものが好ましい。その中でもポリエステルを含有するものが特に好ましいものである。
【0053】
上記繊維は織物、編物、不織布等いずれの形態でも使用できる。
【0054】
係る布帛は、分散染料で染色可能な繊維100%のものが好適であるが、混紡率30%以上、好ましくは50%以上であれば、分散染料で染色可能な繊維と他の素材、例えばレーヨン、綿、ポリウレタン、アクリル、ナイロン、羊毛、絹等との混紡織布または混紡不織布等も本発明の捺染用布帛として使用することができる。
【0055】
また、係る布帛を構成する糸の太さとしては、10〜100d(denier)の範囲が好ましく、更にその糸を構成している繊維の太さとしては特に制限はないが、1d以下であると本発明の効果がより発揮される。
【0056】
上記のインクジェット捺染用布帛は、布帛の乾燥重量に対して0.01〜20重量%の水溶性金属塩、水溶性高分子、尿素、チオ尿素および界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質を含有するとさらに好適である。これらの物質を含有することは、特にインクジェット直接捺染の際に必要である場合が多い。それらの物質の総含有量は、好ましくは0.5〜18重量%,より好ましくは1〜15重量%である。0.01重量%以下ではこれらの物質を添加する効果がなく、20重量%以上では布帛の搬送性及び染色性の点から好ましくない場合がある。
【0057】
水溶性高分子の例としては、トウモロコシ、小麦等のデンプン物質;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質;アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカスイトビーンガム、トラガントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類;ゼラチン、カゼイン等の蛋白質物質、タンニン系物質;リグニン系物質等の天然水溶性高分子が挙げられる。
【0058】
更に、水溶性合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水溶性高分子、無水マレイン酸系水溶性高分子等が挙げられる。これらの中でも多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。
【0059】
水溶性金属塩類としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物の様に、典型的なイオン結晶を作るものであって、pH4〜10である化合物が挙げられる。かかる化合物の代表的な例としては、例えば、アルカリ金属塩では、NaCl、Na2 SO4 、KCl、CH3 COONa等が挙げられ、又、アルカリ土類金属塩としては、CaCl2 、MgCl2 等が挙げられる。中でもNa、K、Caの塩類が好ましい。
【0060】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、両性、ノニオン系のものが使用され、代表的には、アニオン系では高級アルコール硫酸エステル塩、ナフタレン誘導体のスルホン酸塩、カチオン系では第4級アンモニウム塩、両性ではイミダゾリン誘導体、ノニオン系ではポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0061】
次に、本発明に用いる布帛においては、その水分率を好ましくは、1.0〜101.0%、より好ましくは、3.0〜81.0%の範囲とする。水分率が1.0%未満の場合は、発色性及びにじみ防止性の点で不都合が生じることがあり、水分率が101.0%を超えると、搬送性及び特に滲みの点で好ましくない場合がある。
【0062】
なお、布帛中の水分率の測定方法としては、JIS L 1019を参照した。即ち、試料100gを正確に秤り取り、105±2℃の乾燥器中に入れ恒量になるまで乾燥した後、水洗処理を行い、再び恒量になるまで乾燥し、繊維部のみの乾燥後重量を測定し、次式によって布帛中の水分率を求めるものである。
【0063】
水分率(%)={(W−W’)/W”} ×100
(W:乾燥前重量、W’:乾燥後重量、W”:水洗乾燥後繊維部重量)
転写捺染に使用する担体については、シートベースとして紙、布、ガラス、フィルム、金属等が用いられ、これらは特別の処理を施さなくても使用できる。中でもクラフトパルプまたはグラインドパルプを原料として抄紙された紙が好ましい。坪量は40〜120g/m2 の範囲が好ましく、厚みは0.02〜0.4mmの範囲が好適である。
【0064】
インク付与量が多い場合には、上記シートベース上に前記布帛に施した処理、すなわち水溶性金属塩、水溶性高分子、尿素、チオ尿素、界面活性剤を同様な条件にて処理しても良い。
【0065】
さらにシートベース上に転写ニス、剥離ニスを使用することも好適である。使用しうる転写ニスとしては、ロジン変性フェーノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリアミド、ポリスチレン、キシレン樹脂、ポリアクリル酸エステル等がある。
【0066】
剥離ニスとしては、二トロセルロース、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、セルロース、アセテート・プロピオネート等がある。
【0067】
本発明の方法におけるインクジェット記録方式は、従来公知のいずれのインクジェット記録方式でも良いが、例えば、特開昭54−59936号公報に記載されている方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させる方式に対して最も有効である。
【0068】
その理由としては、上記方式はマルチノズルを有する記録ヘッドの場合が多く、その場合各ノズル間のインクの吐出速度のばらつきが小さく、インクの吐出速度が5〜20m/secの範囲に集約されており、本発明のインクの効果をより有効に発揮できることがあげられる。この速度で分散染料を含むインクが布帛に衝突した場合の着滴時の液滴の繊維に対する浸透の具合が最適である。
【0069】
またこの様な方式において本発明に使用するインクを用いると、長時間連続的に記録を行ってもそのヒーター上の異物の沈着や断線が発生せず、目詰まりのない安定した印捺が可能となる。
【0070】
更に本発明のインクを使用し、特に効果の高い捺染方法が得られる条件としては、吐出液滴が20〜200pl、インク打込量が4〜40nl/mm2 、駆動周波数1.5KHz以上、及びヘッド温度35〜60℃の条件が好ましい。
【0071】
本発明のインクを用いて捺染を行うのに好適な装置の一例として、記録ヘッドの室内のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーよりにインク滴を発生させる装置が挙げられるが、以下にこれについて説明する。
【0072】
その装置の主要部であるヘッド構成例を図1、図2及び図3に示す。
【0073】
ヘッド13はインクを通す溝14を有するガラス、セラミックスまたはプラスチック板等と、感熱記録に用いられる発熱ヘッド15(図ではヘッドが示されているが、これに限定されるものではない)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17−1、17−2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、アルミナ等の放熱性のよい基板20よりなっている。
【0074】
インク21は吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、圧力Pによりメニスカス23を形成している。
【0075】
今、電極17−1、17−2に電気信号が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、オリフィス22よりインク21が吐出して記録小滴24となり、布帛25に向かって飛翔する。図3には図1に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドはマルチ溝26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同様な発熱ヘッド28を密着して製作されている。尚、図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1の1−1線での切断面である。
【0076】
図4にかかるヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。
【0077】
図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッドによる記録領域に隣接した位置に配設され、又、本例の場合、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。62はキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッドの移動方向と垂直な方向に移動して吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に63はブレード61に隣接して設けられる吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62、吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及び吸収体63によってインク吐出口面の水分、塵埃等の除去が行われる。
65は吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する布帛にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行う為のキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモータ68によって駆動されるベルト69と接続している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0078】
51は布帛を挿入する為の給布部、52は不図示のモータにより駆動される布送りローラである。これらの構成によって記録ヘッドの吐出口面と対向する位置へ布帛が給布され記録が進行するにつれて排布ローラ53を配した排布部へ排布される。
【0079】
上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションに戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出する様に移動する。
【0080】
記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。
【0081】
上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録の為に記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0082】
図5は、インクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。インクはインク供給部材、例えばチューブを介してヘッドに供給される。ここで40は供給用インクを収容したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能ならしめる。44は廃インクを受容する吸収体である。インク収容部40としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが本発明にとって好ましい。本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上記の如きヘッドとインクカートリッジとが別体になったものに限らず、図6に示す如きそれらが一体になったものにも好適に用いられる。
【0083】
図6において、70は記録ユニットであって、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数のオリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、ポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。72は記録ユニット内部を大気に連通させる為の大気連通口である。この記録ユニット70は、図4で示す記録ヘッドに代えて用いられるものであって、キャリッジ66に対し着脱自在になっている。
【0084】
以上の如くして本発明に使用される捺染用インクは、布帛上に付与されるがこの状態では単に付着しているに過ぎないので、引続き繊維への染料の反応定着工程及び未定着の染料の除去工程を施すことが必須である。この様な反応定着工程及び未定着の染料の除去方法は、定着法に関しては、HTスチ−ミング法またはサ−モゾル法を用いた場合、本発明の効果が顕著である。さらにHTスチ−ミング法の場合、140℃〜180℃で2分〜30分間の処理条件の場合が好ましく、160℃〜180℃で6分〜8分間の処理条件の場合がより好ましい。サ−モゾル法の場合は、160℃〜210℃で10秒〜5分の処理条件の場合が好ましく、180℃〜210℃で20秒〜2分の処理条件の場合がより好ましい。また、洗浄方法に関しては、従来公知のソーピング方法で行えば良いが、特に還元洗浄を行うことが好ましい。
【0085】
転写捺染方法における転写条件については、インクが付与された担体と被染色布帛を圧着し、160〜230℃、好ましくは180〜220℃で2〜60秒、好ましくは3〜40秒で熱処理する。必要があればさらに上記直接捺染にて行ったスチーミング処理を併用することもできる。ソーピング以降の処理は直接捺染の場合と同様である。
【0086】
なお以上述べた処理が施された布帛は、その後所望の大きさに切り離され、その切り離された片は、縫着、接着、溶着などの最終的な加工品を得るための工程を施され、ワンピース、ドレス、ネクタイ、水着などの衣類や布団カバー、ソファーカバー、ハンカチ、カーテンなどを得ることができる。
【0087】
布帛を縫製などによって加工して衣類その他の日用品とする方法は、例えば「最新ニット縫製マニュアル」(センイジャーナル社発行)や月刊誌「装苑」(文化出版局発行)など、公知の書籍に多数記載されている。
【0088】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0089】
布帛(A)の作成
0.7dの繊維による20dの糸から構成されるポリエステル100%の平織り布を、予め(尿素10%+カルボキシメチルセルロース1%)の水溶液に浸し、絞り率60%で脱水後乾燥し、布帛の水分率を6%に調整した。
【0090】
布帛(B)の作成
30dのポリエステル繊維85%及びエジプト綿15%の混紡糸からなる織布を、予め(塩化ナトリウム2%+アルギン酸ナトリウム2%)の水溶液に浸し、絞り率60%で脱水後乾燥し、布帛の水分率を9%に調整した。
【0091】
分散染料液(I〜VII)の作成
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物 20部
リグニンスルホン酸ナトリウム 5部
イオン交換水 55部
エチレングリコール 10部
上記成分を混合し、この溶液に新たに分散染料10部をそれぞれ加え、30分間プレミキシングを行った。次に、サンドグラインダー(五十嵐機械製)を用い、粉砕メディアは、ジルコニウムビーズ(1mm径)、充填率50%の条件で分散処理を行った。他の諸条件を以下として分散染料液(I〜VII)を得た。
【0092】
分散染料液(I)
分散染料 C.I.ディスパーズ イエロー 224
粉砕時間 3時間
最終濾過 1μmポアフィルター使用
【0093】
分散染料液(II)
分散染料 C.I.ディスパーズ レッド 152
粉砕時間 3時間
最終濾過 1μmポアフィルター使用
【0094】
分散染料液(III)
分散染料 C.I.ディスパーズ ブルー 60
粉砕時間 3時間
最終濾過 1μmポアフィルター使用
【0095】
分散染料液(IV)
分散染料 C.I.ディスパーズ ブルー 60
粉砕時間 10時間
最終濾過 1μmポアフィルター使用
【0096】
分散染料液(V)
分散染料 C.I.ディスパーズ ブルー 60
粉砕時間 1時間
最終濾過 1μmポアフィルター使用
【0097】
分散染料液(VI)
分散染料 C.I.ディスパーズ ブルー 60
粉砕時間 7時間
最終濾過 0.45μmポアフィルター使用
【0098】
分散染料液(VII)
分散染料 C.I.ディスパーズ ブルー 60
粉砕時間 3時間
最終濾過 濾過なし
【0099】
実施例1
インク(a)の製造
・上記分散染料液(I) 30部
・チオジグリコール 10部
・ビスヒドロキシエチルスルホン 4部
・ジエチレングリコール 5部
・2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン 0.05部
−4,7−ジオール
・尿素 2部
・イオン交換水 48.9部
上記の全成分を混合し、混合液を水酸化ナトリウムでpH8に調整し、2時間撹拌した後、1μmのポアフィルターにてろ過し、本発明のインクジェット捺染インク(a)を得た。得られたインクジェット捺染インク(a)の物性を表1に示した。
【0100】
この様にして得られたインクジェット捺染インク(a)をカラーバブルジェットプリンターBJC600(商品名 キヤノン製)に搭載し、上記の織布(A)及び(B)に、印字密度100%及び200%部の10cmx5cmのベタサンプル3枚のプリントを行い、180℃で8分間の蒸熱処理による定着を行った。
その後、これを水洗及び還元洗浄して、染色品の滲み性、発色安定性及び均染性について評価した。その結果を、表2に示したがいずれも良好な結果であった。
【0101】
さらに、上記プリンターで連続10時間のベタ印字を行い、連続印字の前後での吐出安定性を評価した。その結果、表2に示したように吐出性は連続印字の前後でも変化無く非常に安定していた。また、このインクは、高温時(50℃,1週間)及び長期(常温、3ヶ月)にわたって保存しても、沈降が少なく、再攪拌して、粘度、表面張力を測定しても物性変化は、ほとんど認められなかった。
【0102】
上記の全成分を混合し、混合液を水酸化ナトリウムでpH8に調整し、2時間撹拌した後、1μmのポアフィルターにてろ過し、本発明のインクジェット捺染インク(b)を得た。実施例1のインクと同様な測定及び評価を行ったところ、表2に示したように、いずれも良好な結果となった。
【0103】
上記の全成分を混合し、混合液を水酸化ナトリウムでpH8に調整し、2時間撹拌した後、1μmのポアフィルターにてろ過し、本発明のインクジェット捺染インク(c)を得た。実施例1のインクと同様な測定及び評価を行ったところ、表2に示したように、いずれも良好な結果となった。
【0104】
比較例1
実施例3において、分散染料液(III)の代わりに、分散染料液(IV)を用いた以外は、実施例3と同様な処理を行い、比較のためのインク(d)を得た。測定及び評価結果を表1、2に示した。初期の性能は、比較的良好であるが、保存による物性変化が大きく、保存による吐出特性の変化が、問題のあるレベルであることが確認された。
【0105】
比較例2
実施例3において、分散染料液(III)の代わりに、分散染料液(V)を用いた以外は、実施例3と同様な処理を行い、比較のためのインク(e)を得た。測定及び評価結果を表1、2に示した。染色特性に問題が生じ、長期にわたる吐出特性でも、問題のあるレベルであった。また、保存時における沈降が大きく、取り扱いが難しい。
【0106】
比較例3
実施例3において、分散染料液(III)の代わりに、分散染料液(VI)を用いた以外は、実施例3と同様な処理を行い比較のためのインク(f)を得た。測定及び評価結果を表1、2に示した。初期の性能は、比較的良好であるが、保存による物性変化が大きく、保存による吐出特性の変化が、問題のあるレベルであることが確認された。
【0107】
比較例4
実施例3において、分散染料液(III)の代わりに、分散染料液(VII)を用い、インク化時にろ過をしなかった以外は、実施例3と同様な処理を行い比較のためのインク(g)を得た。測定及び評価結果を表1、2に示した。染色特性、目詰まり性に問題が生じ、長期にわたる吐出特性でも、問題のあるレベルであった。また、保存時における沈降が大きく、取り扱いが難しい。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
*1 エッジの直線部分の不規則な乱れを肉眼で観察し、判定した。
【0110】
○:乱れが全くない △:乱れが少しある X:乱れが多い
*2 100%ベタ部のK/S値を10個所それぞれ測定し、その平均値に対するばらつきを見た。
【0111】
○:全ての個所でK/S値のばらつきが0.5未満
(均染性が良い。)
△:1個所以上でK/S値のばらつきが0.5以上
(均染性が劣る。)
X:全ての個所でK/S値のばらつきが0.5以上
(均染性が非常に劣る。)
【0112】
K/S=(1−R)2 /2R
R:最大吸収波長の反射率
【0113】
*3 3枚の布帛の印字密度100%部の発色後のK/S値を測定して、最大値/最小値の比により判定した。
【0114】
○:0.98以上
△:0.95以上0.98未満
X:0.95未満
【0115】
*4 連続10時間のベタ印字を行った後のインクの吐出ヨレとインク液適量の印字前との変化を測定した。
【0116】
○:吐出ヨレの悪化及びインク液適量の変化がほとんど見られない
(吐出安定性が良好)
△:吐出ヨレの悪化またはインク液適量の変化の一方がある
(吐出安定性が若干劣る)
X:吐出ヨレの悪化及びインク液適量の変化の両方がある
(吐出安定性が非常に劣る)
【0117】
*5 50mlのメスシリンダーにインクを入れ2週間常温にて放置し、上部10%部に存在する色素量を吸光度(アセトン希釈)にて測定し、当初の値との比により判定した。
【0118】
○:0.98以上
△:0.95以上0.98未満
X:0.95未満
【0119】
*6 常温3ヶ月保存したインクを良く攪拌し、粘度と表面張力を当初の値と比較した。
【0120】
○:粘度、表面張力とも変動が5%以下
△:粘度、表面張力のいずれかの変動が5%以上
X:粘度、表面張力とも変動が5%以上
実施例4
インク(a,b,c)をカラーバブルジェットプリンターBJC600(商品名、キヤノン製)に搭載し、織布(A)及び(B)に各インクの印字密度が50〜100%である3種のインクの様々な打ち込み順序の混色の印字を行った。更に、180℃で6、8分間の蒸熱処理を行い、水洗及び還元洗浄してプリント画像を評価した。
【0121】
その結果、打ち込み順序によらず色相が安定しており6分と8分の蒸熱時間の差も見られず染色の安定性が良好であった。
【0122】
比較例5〜8
実施例4においてインクcの代わりにd,e,f,gを用いた以外は実施例4と同様に処理したところ、d,e,f,gインクが関係する混色部のみが、打ち込み順序、蒸熱時間の違いによる染色安定性が実施例に4に比較して明らかに劣る結果となった。
【0123】
実施例5
インク(a,b,c)をカラーバブルジェットプリンターBJC600(商品名、キヤノン製)に搭載し、クラフトパルプによる転写紙(60g/m2 、厚さ0.2mm)に各インクの印字密度が50〜100%である3種のインクの様々な打ち込み順序の混色の印字を行った。次に、織布(A)及び(B)に圧着し、200℃で、20秒、30秒間、感熱処理を行い、水洗及び還元洗浄してプリント画像を評価した。その結果、打ち込み順序によらず色相が安定しており20秒と30秒の感熱時間の差も見られず染色の安定性が良好であった。
【0124】
比較例9〜12
実施例5においてインクcの代わりにd,e,f,gを用いた以外は実施例5と同様に処理したところ、d,e,f,gインクが関係する混色部のみが、打ち込み順序、蒸熱時間の違いによる染色安定性が実施例に4に比較して明らかに劣る結果となった。
【0125】
【発明の効果】
以上説明した様に本発明のインクジェット捺染用インクによれば、布帛上で不規則な滲みがなく、均染性が良好でかつ染色安定性に優れた捺染物を得るといった染色上の問題、吐出性能、特に熱エネルギー方式によるインクジェット方式において吐出安定性が良好であるといった問題、さらに高温時及び長期にわたって分散が安定したインクを得るという保存安定性上の問題を同時に満足することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に用いるインクジェット記録装置のヘッド部の一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施に用いるインクジェット記録装置のヘッド部の一例を示す横断面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】本発明に用いるインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施に用いるインクカートリッジの一例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施に用いる記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
61 ワイピング部材
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
Claims (29)
- 0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、水溶性有機溶剤及び水を少なくとも含有するインクジェット捺染用インクであって、前記分散染料の平均粒子径が150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下の粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まず、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを含むことを特徴とするインクジェット捺染用インク。
- 分散染料を分散させる化合物が、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物及びその誘導体、側鎖にカルボキシル基及びその塩類を有する水溶性の高分子化合物の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
- ビスヒドロキシエチルスルホンの含有量がインク全重量の2〜40重量%の範囲にある請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
- 併用できる水溶性有機溶剤がグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレンゴリコール、チオジグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びその誘導体の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
- インクジェット捺染用インクの吐出方式が熱エネルギーを利用してインクを吐出させる方式である請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
- 粘度が2〜10cP、表面張力が30〜50dyn/cmである請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
- インクをインクジェット方式によって布帛上に付与し、次いで熱処理を行うインクジェット捺染方法であって、前記布帛が分散染料で染色可能な繊維を含有する布帛であり、前記インクが0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、水溶性有機溶剤及び水を少なくとも含有し、前記分散染料の平均粒子径が150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下の粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まず、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを含むことを特徴とするインクジェット捺染方法。
- 少なくとも2種のインクを布帛上で混色させる請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
- 布帛がポリエステル繊維を含むものである請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
- 熱処理が、高温蒸熱(HTスチ−ミング)法またはサ−モゾル法である請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
- インクジェット方式が熱エネルギーを利用してインクを吐出させるインクジェット方式である請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
- インクを付与する前に、前記布帛に前処理を施す請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
- インクをインクジェット方式によって担体上に付与し、次いで熱処理により、インクの染料を担体から被記録材上に転写する、転写捺染方法であって、前記被記録材が分散染料で染色可能な繊維を含有する布帛であり、前記インクが0.1〜15重量%の分散染料、前記分散染料を分散する化合物、水溶性有機溶剤及び水を含有し、前記分散染料の平均粒子径が150〜400nmの範囲であり、かつ200nm以下粒子径の染料の分布が重量比で85%以下であり、1000nm以上の粒子径の染料を実質上含まず、水溶性有機溶剤としてビスヒドロキシエチルスルホンを含むことを特徴とする転写捺染方法。
- 少なくとも2種のインクを担体に付与する請求項13に記載の転写捺染方法。
- 布帛がポリエステル繊維を含むものである請求項13に記載の転写捺染方法。
- インクジェット方式が熱エネルギーを利用してインクを吐出させるインクジェット方式である請求項13に記載の転写捺染方法。
- 担体が紙である請求項13に記載の転写捺染方法。
- 紙の厚みが0.02〜0.4mmの範囲にある請求項17に記載の転写捺染方法。
- 請求項7に記載のインクジェット捺染方法で捺染された捺染物。
- 請求項7に記載の転写捺染方法で捺染された捺染物。
- インクを収容したインク収容部、及び該インクをインク滴として吐出させる為のヘッド部を備えた記録ユニットにおいて、前記インクが請求項1に記載のインクであることを特徴とする記録ユニット。
- ヘッド部がインクに熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるヘッドを含む請求項21に記載の記録ユニット。
- インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが請求項1に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
- インクを収容したインク収容部と、該インクをインク滴として吐出させる為のヘッド部とを有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが請求項1に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
- ヘッド部が、インクに熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるヘッドを含む請求項24に記載のインクジェット記録装置。
- インクを吐出するための記録ヘッド、インクを収容したインク収容部を有するインクカートリッジ及び該インクカートリッジから記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給部を備えたインクジェット記録装置において、前記インクが請求項1に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
- 記録ヘッドがインクに熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるヘッドである請求項26に記載のインクジェット記録装置。
- 請求項19又は20に記載の捺染物を更に加工して得られた加工品。
- 加工品が前記捺染物を所望の大きさに切り離し、切り離された片に対して最終的な加工品を得るための工程を施して得られたものである請求項28に記載の加工品。
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