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JP6552467B2 - 磁気テープ - Google Patents

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JP6552467B2
JP6552467B2 JP2016169871A JP2016169871A JP6552467B2 JP 6552467 B2 JP6552467 B2 JP 6552467B2 JP 2016169871 A JP2016169871 A JP 2016169871A JP 2016169871 A JP2016169871 A JP 2016169871A JP 6552467 B2 JP6552467 B2 JP 6552467B2
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Description

本発明は、磁気テープに関する。
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている。磁気テープへの信号の記録および再生は、通常、磁気テープをドライブ内で走行させ、磁気テープの磁性層表面を磁気ヘッド(以下、単に「ヘッド」とも記載する。)と接触させ摺動させることにより行われる。
磁気記録分野では、電磁変換特性の向上が常に求められている。この点に関し、例えば特許文献1には、磁性層の表面平滑性を向上することにより、電磁変換特性に優れる磁気記録媒体が得られることが記載されている(例えば特許文献1の段落0020および0178参照)。
特開2010−49731号公報
磁気テープの磁性層の表面平滑性を高めることは、磁気テープの磁性層表面とヘッドとの間の間隔(スペーシング)を狭めて電磁変換特性を向上するための有効な手段である。
また、特許文献1の段落0021に記載されているように、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側にバックコート層を設けることも、近年広く行われている。
ところで、磁気テープ等の記録媒体に記録されるデータは、アクセス頻度(再生頻度)に応じて、ホットデータ、ウォームデータ、コールドデータと呼ばれる。アクセス頻度は、ホットデータ、ウォームデータ、コールドデータの順に低くなり、コールドデータは10年以上の長期(例えば数十年)にわたって記録媒体に記録されたまま保管されることが通常である。このようなコールドデータを記録し保管するための記録媒体は、アーカイブ(archive)用記録媒体と呼ばれる。アーカイブ用記録媒体には、上記の長期保管後に記録媒体に記録されたデータを再生する際、優れた電磁変換特性を発揮することが望まれる。以下において、「長期保管」とは、特記しない限り、コールドデータの保管期間(10年以上の長期、例えば数十年)にわたる保管をいうものとする。
近年の情報量の飛躍的な増大および各種情報のデジタル化に伴い、アーカイブ用記録媒体に記録し保管されるコールドデータのデータ量も増大しているため、アーカイブ用記録媒体の需要はますます高まっている。そこで本発明者は、磁気テープをアーカイブ用記録媒体に適用することを検討した。しかるに、かかる検討の中で、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側にバックコート層を有し、かつ磁性層表面の表面平滑性を高めた磁気テープには、長期保管相当の加速試験後に、加速試験前と比べて電磁変換特性が大きく低下してしまうという課題があることが判明した。
そこで本発明の目的は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側にバックコート層を有し、磁性層の表面平滑性に優れ、かつ長期保管後の電磁変換特性の低下が抑制された、アーカイブ用記録媒体として好適な磁気テープを提供することにある。
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の磁気テープ:
非磁性支持体の一方の表面側に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の表面側に非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有する磁気テープであって、
磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRa(以下、単に「中心線平均表面粗さRa」とも記載する。)は、1.0nm以上1.8nm以下であり、
上記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、磁性層は非磁性粉末を含み、
走査透過型電子顕微鏡を用いて行われる断面観察によって求められる磁性層の表面に対する上記強磁性六方晶フェライト粉末の傾きcosθ(以下、単に「cosθ」とも記載する。)は、0.85以上1.00以下であり、かつ
バックコート層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率(以下、「バックコート層側対数減衰率」または単に「対数減衰率」とも記載する。)は、0.060以下である磁気テープ、
を新たに見出した。上記磁気テープによれば、アーカイブ用記録媒体のデータ保管相当の長期保管後に電磁変換特性が低下することを抑制することができる。この点に関する本発明者の推察は、後述する。
一態様では、対数減衰率は、0.010以上0.060以下である。
一態様では、対数減衰率は、0.010以上0.050以下である。
一態様では、cosθは、0.89以上1.00以下である。
一態様では、cosθは、0.95以上1.00以下である。
一態様では、上記中心線平均表面粗さRaは、1.2nm以上1.8nm以下である。
一態様では、磁性層は、重量平均分子量が1,000以上80,000以下であるポリエステル鎖含有化合物を含む。
一態様では、上記強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は、800nm以上2500nm以下である。
一態様では、上記磁気テープは、磁性層と非磁性支持体との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する。
一態様では、上記非磁性粉末は、研磨剤を含む。
一態様では、上記非磁性粉末は、コロイダルシリカを含む。
本発明の一態様によれば、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側にバックコート層を有し、磁性層の表面平滑性に優れ、かつ長期保管後の電磁変換特性の低下が少ない、アーカイブ用記録媒体として好適な磁気テープを提供することができる。
対数減衰率の測定方法の説明図である。 対数減衰率の測定方法の説明図である。 対数減衰率の測定方法の説明図である。 cosθに関する角度θの説明図である。 cosθに関する角度θの説明図である。 磁気テープ製造工程の具体的態様の一例(工程概略図)を示す。
本発明の一態様は、非磁性支持体の一方の表面側に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の表面側に非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有する磁気テープであって、磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは1.0nm以上1.8nm以下であり、上記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、磁性層は非磁性粉末を含み、走査透過型電子顕微鏡を用いて行われる断面観察によって求められる磁性層の表面に対する上記強磁性六方晶フェライト粉末の傾きcosθは0.85以上1.00以下であり、かつバックコート層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は0.060以下である磁気テープに関する。
本発明および本明細書において、「強磁性六方晶フェライト粉末」とは、複数の強磁性六方晶フェライト粒子の集合を意味するものとする。以下では、強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子(強磁性六方晶フェライト粒子)を、「六方晶フェライト粒子」とも記載する。「集合」とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。
以上の点は、本発明および本明細書における非磁性粉末等の各種粉末についても同様とする。
以下、上記磁気テープについて、更に詳細に説明する。以下の記載には、本発明者の推察が含まれる。かかる推察によって本発明は限定されるものではない。また、以下では、図面に基づき例示的に説明することがある。ただし、例示される態様に本発明は限定されるものではない。
[中心線平均表面粗さRa]
上記磁気テープの磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaは、1.0nm以上1.8nm以下である。上記中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下であることにより、上記磁気テープは、優れた電磁変換特性を発揮することができる。また、上記中心線平均表面粗さRaが1.0nm以上であることは、長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制することに寄与すると本発明者は推察している。更に、長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制することには、上記磁気テープにおいて、バックコート層側対数減衰率が0.060以下であることも寄与すると本発明者は考えている。以上について、詳細は後述する。電磁変換特性の更なる向上の観点からは、上記中心線平均表面粗さRaは、1.7nm以下であることが好ましく、1.6nm以下であることが更に好ましく、1.5nm以下であることが一層好ましい。また、上記中心線平均表面粗さRaは1.0nm以上であり、長期保管後の電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点からは1.1nm以上であることが好ましく、1.2nm以上であることがより好ましく、1.3nm以上であることが更に好ましい。
本発明および本明細書において、磁気テープの磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaとは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)により磁性層表面の面積40μm×40μmの領域において測定される値とする。測定条件の一例としては、下記の測定条件を挙げることができる。後述の実施例に示す中心線平均表面粗さRaは、下記測定条件下での測定によって求めた値である。本発明および本明細書において、磁気テープの「磁性層(の)表面」とは、磁気テープの磁性層側表面と同義である。また、磁気テープの「バックコート層(の)表面」とは、磁気テープのバックコート層側表面と同義である。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)により磁気テープの磁性層表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。スキャン速度(探針移動速度)は40μm/秒、分解能は512pixel×512pixelとする。
上記中心線平均表面粗さRaは、公知の方法により制御することができる。例えば、磁性層に含まれる各種粉末(非磁性粉末および強磁性六方晶フェライト粉末;通常、主に非磁性粉末)のサイズ、磁気テープの製造条件等により磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaは変わり得る。したがって、これらの1つ以上を調整することにより、磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaが1.0nm以上1.8nm以下の磁気テープを得ることができる。
本発明者は、上記磁気テープの磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下であることが、バックコート層を有する磁気テープにおいて長期保管後の電磁変換特性の低下を引き起こすと考えている。詳しくは、以下の通りである。
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジ内にリールに巻き取られた状態で収容されて流通され、使用される。磁気テープへのデータ(磁気信号)の記録は、磁気テープカートリッジをドライブにセットし、磁気テープカートリッジ内で磁気テープを走行させて、磁気テープの磁性層表面を磁気ヘッドと接触させ摺動させることにより行われる。コールドデータが記録された磁気テープは、こうして記録が行われた後に再びリールに巻き取られ磁気テープカートリッジ内に収容された状態で、例えば10年以上、長期保管される。長期保管中、リールに巻き取られた状態の磁気テープでは、磁性層表面とバックコート層表面とが接触した状態にある。コールドデータの保管期間は、通常のデータバックアップのためにデータが記録媒体に保管される期間よりはるかに長期間である。このようなきわめて長期間、磁性層表面とバックコート層表面とが接触し続けると、磁性層の表面状態が、バックコート層の影響を受けて変化してしまうと考えられる。バックコート層の影響によってもたらされる磁性層の表面状態の変化は、例えば、バックコート層の表面形状が磁性層表面に転写されること等によりもたらされるのではないかと本発明者は推察している。ただし推察に過ぎず、詳細は明らかではない。そして、こうして発生する磁性層の表面状態の変化が、長期保管後の電磁変換特性低下を引き起こしていると、本発明者は考えている。磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下の磁気テープは、中心線平均表面粗さRaが1.8nmを超える磁性層と比べて、磁性層表面とバックコート層表面とが接触(真実接触)する面積が増加する傾向があるため、磁性層の表面状態の変化がより発生しやすいと推察される。
以上の点に関して本発明者は、長期保管中に磁性層表面とバックコート層表面との密着力が強くなることを抑制することを考えた。密着力が強くなることを抑制できれば、長期保管中に磁性層の表面状態にバックコート層が影響を及ぼすことを軽減することができ、その結果、長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制できるのではないかと考えたものである。そして更に検討を重ねた結果、磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaを1.0nm以上1.8nm以下とし、磁性層においてcosθを上記範囲とし、かつバックコート層において対数減衰率を上記範囲とすることにより、上記磁気テープにおいて長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制することが可能となることを新たに見出した。この点に関して、本発明者は下記(1)および(2)のように推察している。
(1)上記磁気テープは、磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下であり磁性層の表面平滑性に優れる磁気テープである。ただし、上記中心線平均表面粗さは、1.0nm以上である。上記磁気テープにおいて、磁性層は非磁性粉末を含む。磁性層の中心線平均表面粗さが1.0nm以上の状態の磁性層では、主に非磁性粉末の粒子が磁性層の表面に突出して適度な粗さをもたらすと考えられる。
しかるに、長期にわたるコールドデータの保管期間中に磁性層表面とバックコート層表面とが接触し続けると、何ら対策を施さなければ、磁性層表面に突出して適度な粗さをもたらしていた粒子が磁性層内部に押し込まれてしまい、磁性層表面とバックコート層表面との真実接触面積は増加してしまうと考えられる。この点に関しては、cosθが上記範囲にある状態で強磁性六方晶フェライト粉末が磁性層に存在することが、磁性層表面に突出した粒子が磁性層内部に押し込まれることを抑制することに寄与すると、本発明者は推察している。詳細は後述する。
(2)更に本発明者は、磁性層表面とバックコート層表面との密着力には、長期保管中にバックコート層表面に遊離する粘着性成分が影響を及ぼすと推察している。詳しくは、磁性層表面とバックコート層表面との密着力は、上記粘着性成分の量が多いほど強くなり、上記粘着性成分の量が少ないほど弱くなると推察される。以上の点に関し、上記対数減衰率は、長期保管中にバックコート層表面に遊離する粘着性成分の量の指標になり得る値であると本発明者は考えている。詳しくは、上記対数減衰率の値は、上記粘着性成分の量が多いほど大きくなり、上記粘着性成分の量が少ないほど小さくなると考えられる。そして、バックコート層側対数減衰率が0.060以下である上記磁気テープでは、長期保管中のバックコート層表面に遊離する粘着性成分の量が少なく、このことが長期保管後に電磁変換特性が低下することを抑制することに寄与すると、本発明者は推察している。この点も詳細は後述する。
以上のように、長期保管中の密着力の増加に対して磁性層およびバックコート層においてそれぞれ対策を施すことにより、磁性層の表面平滑性に優れる磁気テープにおいて、長期保管後に電磁変換特性が低下することを抑制できると、本発明者は推察している。
ただし上記推察に、本発明は何ら限定されるものではない。
以下に、上記対数減衰率およびcosθについて、更に詳細に説明する。
[バックコート層側対数減衰率]
上記磁気テープのバックコート層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は、0.060以下である。このことが、磁性層の表面平滑性に優れ、かつ非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側にバックコート層を有する上記磁気テープにおいて、長期保管後の電磁変換特性低下を抑制できることに寄与すると、本発明者は推察している。長期保管後の電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、バックコート層側対数減衰率は、0.055以下であることが好ましく、0.050以下であることがより好ましく、0.045以下であることが更に好ましく、0.040以下であることが一層好ましく、0.035以下であることがより一層好ましい。一方、長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制する観点からは、バックコート層側対数減衰率は低いほど好ましい傾向がある。したがって、バックコート層側対数減衰率の下限値は特に限定されるものではない。一例として、バックコート層側対数減衰率は、例えば0.010以上、または0.012以上であることができる。ただしバックコート層対数減衰率は、上記の例示した値を下回ってもよい。バックコート層対数減衰率を調整するための手段の具体的態様は、後述する。
本発明および本明細書において、バックコート層側対数減衰率とは、以下の方法により求められる値とする。
図1〜図3は、対数減衰率の測定方法の説明図である。以下、これら図面を参照し対数減衰率の測定方法を説明する。ただし、図示された態様は例示であって、本発明を何ら限定するものではない。
測定対象の磁気テープから、測定用試料100を切り出す。切り出した測定用試料100を、振り子粘弾性試験機内の試料ステージ101において、基板103上に測定面(バックコート層表面)を上方に向けて載置し、目視で確認できる明らかなしわが入っていない状態で、固定用テープ105等で固定する。
測定用試料100の測定面上に、質量13gの振り子付円柱型シリンダエッジ104(直径4mm)を、シリンダエッジの長軸方向が測定用試料100の長手方向と平行になるように載せる。こうして測定用試料100の測定面に、振り子付円柱型シリンダエッジ104を載せた状態(上方から見た状態)の一例を、図1に示す。図1に示す態様では、ホルダ兼温度センサー102が設置され、基板103の表面温度をモニタリングできる構成になっている。ただし、この構成は必須ではない。なお測定用試料100の長手方向とは、図1に示す態様では図中に矢印によって示した方向であり、測定用試料を切り出した磁気テープにおける長手方向をいう。また、本明細書に記載の「平行」等の角度に関する記載には、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、厳密な角度±10°未満の範囲内であることを意味し、厳密な角度との誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。また、振り子107(図2参照)としては、金属、合金等のマグネットに吸着される性質を有する材料製の振り子を用いる。
測定用試料100を載置した基板103の表面温度を5℃/min以下(5℃/min以下であれば任意の昇温速度でよい。)の昇温速度で昇温して80℃として、振り子運動を、振り子107とマグネット106との吸着を解除することにより開始(初期振動を誘起)させる。振り子運動している振り子107の状態(横から見た状態)の一例が、図2である。図2に示す態様では、振り子粘弾性試験機内で、試料ステージ下方に配置されたマグネット(電磁石)106への通電を停止して(スイッチをオフにして)吸着を解除することにより振り子運動を開始し、電磁石への通電を再開して(スイッチをオンにして)振り子107をマグネット106に吸着させることにより振り子運動を停止させる。振り子運動中、図2に示すように、振り子107は振幅を繰り返す。振り子が振幅を繰り返している間、振り子の変位を変位センサー108によりモニタリングして得られる結果から、変位を縦軸に取り、経過時間を横軸に取った変位−時間曲線を得る。変位−時間曲線の一例を、図3に示す。図3では、振り子107の状態と変位−時間曲線との対応が模式的に示されている。一定の測定間隔で、静止(吸着)と振り子運動とを繰り返し、10分以上(10分以上であれば任意の時間でよい。)経過した後の測定間隔において得られた変位−時間曲線を用いて、対数減衰率Δ(無単位)を、下記式から求め、この値を磁気テープのバックコート層表面の対数減衰率とする。1回の吸着の吸着時間は1秒以上(1秒以上であれば任意の時間でよい。)とし、吸着終了から次の吸着開始までの間隔は6秒以上(6秒以上であれば任意の時間でよい。)とする。測定間隔とは、吸着開始から次の吸着開始までの時間の間隔である。また、振り子運動を行う環境の湿度は、相対湿度40〜70%の範囲であれば任意の相対湿度でよい。
変位−時間曲線において、変位が極小から再び極小になるまでの間隔を、波の一周期とする。nを、測定間隔中の変位−時間曲線に含まれる波の数とし、Anを、n番目の波における極小変位と極大変位との差とする。図3では、n番目の波の変位が極小から再び極小になるまでの間隔を、Pn(例えば1番目の波についてはP、2番目についてはP、3番目についてはP)と表示している。対数減衰率の算出には、n番目の波の次に現れる極小変位と極大変位との差(上記式中、An+1、図3に示す変位−時間曲線ではA)も用いる。ただし、極大以降に振り子107が静止(吸着)している部分は波の数のカウントには用いない。また、極大変位以前に振り子107が静止(吸着)している部分も、波の数のカウントには用いない。したがって、図3に示す変位−時間曲線では、波の数は3つ(n=3)である。なお本発明および本明細書における対数減衰率とは、アーカイブ用記録媒体のコールドデータ保管相当の長期保管またはかかる長期保管に相当する加速試験を経ていない磁気テープにおいて測定される値である。この点は、磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaおよびcosθについても同様である。
上記対数減衰率に関する本発明者の推察の一部は先に記載した。更に以下にも記載する。ただしこれらは推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
本発明者は、磁性層表面とバックコート層表面との密着力には、長期保管中にバックコート層表面に遊離する粘着性成分が影響を及ぼすと推察している。詳しくは、磁性層表面とバックコート層表面との密着力は、上記粘着性成分の量が多いほど強くなり、上記粘着性成分の量が少ないほど弱くなると推察される。
以上の点に関し、上記方法により測定される対数減衰率は、長期保管中にバックコート層表面に遊離する粘着性成分の量の指標になり得る値であると、本発明者は考えている。詳しくは、上記対数減衰率の値は、上記粘着性成分の量が多いほど大きくなり、上記粘着性成分の量が少ないほど小さくなると考えられる。そして本発明者は、上記磁気テープにおいて、バックコート層側対数減衰率が0.060以下であることによって、長期保管中に上記粘着性成分により磁性層表面とバックコート層表面との密着力が強くなることを抑制することができると考えている。この点が、長期保管後に電磁変換特性が低下することを抑制することに寄与すると、本発明者は推察している。上記粘着性成分の詳細は明らかではない。ただし本発明者は、結合剤として用いられる樹脂に由来する可能性があると推察している。詳しくは、次の通りである。
結合剤としては、詳細を後述するように各種樹脂を用いることができる。樹脂とは、2つ以上の重合性化合物の重合体(ホモポリマーおよびコポリマーを包含する。)であり、分子量が平均分子量を下回る成分(以下、「低分子量結合剤成分」と記載する。)も通常含まれる。このような低分子量結合剤成分が、長期保管中に磁性層表面に多く遊離するほど、磁性層表面とバックコート層表面との密着力は強くなってしまうと、本発明者は考えている。上記の低分子量結合剤成分は粘着性を有すると考えられ、上記方法により求められる対数減衰率が、長期保管中にバックコート層表面に遊離する粘着性成分の量の指標になるのではないかと、本発明者は推察している。なお、一態様では、バックコート層は、非磁性粉末および結合剤に加えて、硬化剤を含むバックコート層形成用組成物を、非磁性支持体表面に塗布し、硬化処理を施し形成される。ここでの硬化処理により、結合剤と硬化剤とを硬化反応(架橋反応)させることができる。ただし、低分子量結合剤成分は、硬化反応の反応性に乏しいのではないかと本発明者は考えている。その理由は明らかではない。硬化反応の反応性に乏しいため、低分子量結合剤成分はバックコート層に留まり難くバックコート層から遊離しやすいことが、長期保管中にバックコート層表面に低分子量結合剤成分が遊離しやすい理由の1つではないかと、本発明者は推察している。
ただし以上は本発明者の推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
[cosθ]
上記磁気テープにおいて、走査透過型電子顕微鏡を用いて行われる断面観察によって求められる磁性層の表面に対する強磁性六方晶フェライト粉末の傾きcosθは、0.85以上1.00以下である。cosθは、より好ましくは0.89以上であり、更に好ましくは0.90以上であり、一層好ましくは0.92以上であり、より一層好ましくは0.95以上である。一方、cosθは、磁性層の表面に対して、後述のアスペクト比および長軸方向の長さを有する六方晶フェライト粒子がいずれも平行に存在している場合に最大値の1.00となる。本発明者の検討によれば、cosθの値が大きくなるほど、長期保管後の電磁変換特性の低下が抑制される傾向が見られた。即ち、上記磁気テープにおいて長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制する観点からは、cosθの値は大きいほど好ましい。したがって、上記磁気テープにおいて、cosθの上限は、1.00以下である。なおcosθは、例えば0.99以下であってもよい。ただし、上述の通り、cosθの値は大きいほど好ましい傾向があるため、cosθは0.99を超えてもよい。
<cosθの算出方法>
cosθとは、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope;STEM)を用いて行われる断面観察によって求められる。本発明および本明細書におけるcosθとは、以下の方法により測定し算出される値とする。
(1)cosθを求める対象の磁気テープの無作為に定めた位置から切り出し断面観察用試料を作製する。断面観察用試料の作製は、ガリウムイオン(Ga)ビームを用いるFIB(Focused Ion Beam)加工によって行う。かかる作製方法の具体例は、実施例について後述する。
(2)作製した断面観察用試料をSTEM観察し、STEM像を撮像する。STEM像は、同一の断面観察用試料において、撮像する範囲が重複しないように選択する点以外は無作為に選択した位置において撮像し、合計10画像得る。上記STEM像は、加速電圧300kVおよび撮像倍率450000倍で撮像されるSTEM−HAADF(High−Angle Annular Dark Field)像であり、1画像に、磁性層の厚み方向の全領域が含まれるように撮像する。なお磁性層の厚み方向の全領域とは、断面観察用試料において観察される磁性層表面から磁性層と隣接する層または磁性層と隣接する非磁性支持体との界面までの領域である。上記の隣接する層とは、cosθを求める対象の磁気テープが磁性層と非磁性支持体との間に後述する非磁性層を有する場合には非磁性層である。一方、cosθを求める対象の磁気テープが非磁性支持体表面上に直接磁性層を有する場合には、上記界面とは磁性層と非磁性支持体との界面である。
(3)こうして得られた各STEM像において、磁性層表面を表す線分の両端を結ぶ直線を、基準線として定める。上記の線分の両端とは、例えば、STEM像を、断面観察用試料の磁性層側が画像の上方に位置し非磁性支持体側が下方に位置するように撮像した場合には、STEM像の画像(通常、形状は長方形または正方形)の左辺と上記線分との交点とSTEM像の右辺と上記線分との交点とを結ぶ直線である。
(4)上記STEM像において観察される六方晶フェライト粒子の中で、アスペクト比が.1.5〜6.0の範囲であり、かつ、長軸方向の長さが10nm以上である六方晶フェライト粒子(一次粒子)の長軸方向と上記基準線とがなす角度θを測定し、測定された角度θについて、cosθを、単位円に基づくcosθとして算出する。かかるcosθの算出を、各STEM像において、上記アスペクト比および長軸方向の長さを有する六方晶フェライト粒子の中から無作為に抽出した30個の粒子について行う。
(5)以上の測定および算出を、10画像それぞれにおいて行い、各画像の30個の六方晶フェライト粒子について、即ち10画像の合計で300個の六方晶フェライト粒子について求められたcosθの値を算術平均する。こうして求められる算術平均を、走査透過型電子顕微鏡を用いて行われる断面観察によって求められる磁性層表面に対する強磁性六方晶フェライト粉末の傾きcosθとする。
ここで、上記STEM像において観察される「アスペクト比」とは、六方晶フェライト粒子の「長軸方向の長さ/短軸方向の長さ」の比をいうものとする。
「長軸方向」とは、STEM像において観察される1個の六方晶フェライト粒子の像の中で、最も距離が離れている端部のうち、基準線との距離が近い方の端部から遠い方の端部を結んだときの方向を意味する。一方の端部と他方の端部を結んだ線分が基準線に対して平行である場合には、基準線と平行な方向が長軸方向となる。
「長軸方向の長さ」とは、STEM像において観察される1個の六方晶フェライト粒子の像の中で、最も距離が離れている端部を結んで作成される線分の長さを意味する。一方、「短軸方向の長さ」とは、上記粒子の像の外縁と上記長軸方向に対する垂線との2つの交点を結んだ線分の中で、最も長い線分の長さを意味する。
また、基準線と上記粒子の長軸方向の傾きとがなす角度θとは、長軸方向が基準線に対して平行な角度を0°とし、0°以上90°以下の範囲で定めるものとする。以下に、角度θについて、図面に基づき更に説明する。
図4および図5は、角度θの説明図である。図4および図5中、符号1は、上記の最も距離が離れている端部を結んで作成される線分(長軸方向の長さ)を示し、符号2は基準線を示し、符号3は線分(符号1)の延長線を示す。この場合、基準線2と延長線3とのなす角度としては、図4および図5に示すようにθ1およびθ2を取り得る。ここでは、θ1およびθ2の中で、より小さな角度を採用し、これを角度θとするものとする。したがって、図4に示す態様では、θ1を角度θとし、図5に示す態様では、θ2を角度θとするものとする。なおθ1=θ2の場合は、即ち角度θ=90°の場合である。単位円に基づくcosθは、θ=0°の場合に1.00、θ=90°の場合に0となる。
上記磁気テープは、磁性層に強磁性六方晶フェライト粉末および非磁性粉末を含み、かつcosθが0.85以上1.00以下である。本発明者は、磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末を構成する六方晶フェライト粒子の中で、上記アスペクト比および上記長軸方向の長さを満たす六方晶フェライト粒子は、非磁性粉末を下支えすることができると考えている。このことが、上記磁気テープにおいて、長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制することに寄与すると、本発明者は考えている。この点について、以下に更に詳細に説明する。
磁性層の表面平滑性に優れ、かつ非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側にバックコート層を有する磁気テープでは、長期保管後に電磁変換特性が低下することが、本発明者の検討の中で判明した。
一方、磁性層に含まれる非磁性粉末は、磁性層表面に適度な粗さ(即ち磁性層表面で測定される中心線平均表面粗さが1.0nm以上1.8nm以下の状態)をもたらすことに寄与すると、本発明者は考えている。しかるに、先に記載したように、磁性層表面とバックコート層とが接触し続けると、何ら対策を施さなければ、磁性層表面に突出していた非磁性粉末の粒子が磁性層内部に押し込まれてしまい、磁性層表面とバックコート層表面との真実接触面積が増加して密着力が強くなってしまうと考えられる。これに対し、非磁性粉末の粒子が磁性層内部に押し込まれることは、上記アスペクト比および上記長軸方向の長さを満たす六方晶フェライト粒子が非磁性粉末の粒子を下支えすることによって抑制することができると考えられる。このことが、磁性層表面とバックコート層表面との密着力が強くなることを抑制することに寄与すると、本発明者は推察している。
なお、磁性層における強磁性六方晶フェライト粉末の存在状態(配向状態)の指標としては、角型比が知られている。しかし、本発明者の検討によれば、角型比と長期保管後の電磁変換特性低下の抑制の程度との間には、良好な相関関係は見られなかった。角型比とは、飽和磁化に対する残留磁化の比を表す値であって、強磁性六方晶フェライト粉末に含まれる六方晶フェライト粒子の形状およびサイズに関わらず、全ての六方晶フェライト粒子を対象として測定される。これに対し、cosθとは、上記範囲のアスペクト比および長軸方向の長さを有する六方晶フェライト粒子を選択して測定される値である。このようなcosθと角型比との違いに起因し、角型比との間には良好な相関は見られないのに対し、cosθ制御によれば、長期保管後の電磁変換特性の低下を抑制することが可能になるのではないかと本発明者は考えている。
ただし以上は推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
<cosθの調整方法>
上記磁気テープは、非磁性支持体表面に、直接または他の層を介して磁性層形成用組成物を塗布する工程を経て作製することができる。そして、cosθの調整方法としては、磁性層形成用組成物における強磁性六方晶フェライト粉末の分散状態を制御することが挙げられる。この点に関し本発明者は、強磁性六方晶フェライト粉末の磁性層形成用組成物における分散性(以下、単に「強磁性六方晶フェライト粉末の分散性」または「分散性」とも記載する。)を高めるほど、この磁性層形成用組成物を用いて形成される磁性層において、上記範囲のアスペクト比および長軸方向の長さを有する六方晶フェライト粒子が、磁性層表面に対して、より平行に近い状態に配向し易くなると考えている。分散性を高めるための手段としては、以下の方法(1)および(2)のいずれか一方または両方が挙げられる。
(1)分散条件の調整
(2)分散剤の利用
また、分散性を高めるための手段としては、強磁性六方晶フェライト粉末と非磁性粉末の少なくとも一種とを別分散させることも挙げられる。非磁性粉末の一態様としては、詳細を後述するように研磨剤を挙げることができる。別分散とは、好ましくは、強磁性六方晶フェライト粉末と、結合剤と、溶媒と、を含む磁性液(ただし、研磨剤を実質的に含まない)を、研磨剤および溶媒を含む研磨剤液と混合する工程を経て磁性層形成用組成物を調製することを含む。このように研磨剤と強磁性六方晶フェライト粉末とを別分散した後に混合することによって、磁性層形成用組成物における強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めることができる。上記の「研磨剤を実質的に含まない」とは、上記磁性液の構成成分として添加しないことを意味するものであって、意図せず混入した不純物として微量の研磨剤が存在することは許容されるものとする。また、上記方法(1)および(2)のいずれか一方または両方を、上記の別分散と組み合わせることも好ましい。この場合、磁性液における強磁性六方晶フェライト粉末の分散状態を制御することにより、磁性液を研磨剤液と混合する工程を経て得られる磁性層形成用組成物における強磁性六方晶フェライト粉末の分散状態を制御することができる。
以下、上記(1)および(2)の具体的態様を説明する。
(1)分散条件の調整
磁性層形成用組成物、好ましくは磁性液の分散処理は、公知の分散方法を用い、その分散条件を調整することにより行うことができる。分散処理における分散条件としては、例えば、分散機の種類、分散機に用いる分散メディアの種類、分散機内の滞留時間(以下、「分散滞留時間」とも言う。)等が挙げられる。
分散機としては、ボールミル、サンドミル、ホモミキサー等のせん断力を利用した各種公知の分散機を使用することができる。2つ以上の分散機を連結して2段階以上の分散処理を行ってもよく、異なる分散機を併用してもよい。分散機の先端周速は5〜20m/秒が好ましく、7〜15m/秒であることがより好ましい。
分散メディアとしては、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が挙げられ、ジルコニアビーズが好ましい。二種以上のビーズを組み合わせて使用してもよい。分散メディアの粒径は、例えば0.03〜1mmであり、0.05〜0.5mmであることが好ましい。なお、上述のように分散機を連結して2段階以上の分散処理を行う場合は、各段階で異なる粒径の分散メディアを用いてもよい。段階を経るごとに、より小さな粒径の分散メディアを用いることが好ましい。分散メディアの充填率は、体積基準で、例えば30〜80%、好ましくは50〜80%とすることができる。
分散滞留時間は、分散機の先端周速および分散メディアの充填率等を考慮し適宜設定すればよく、例えば15〜45時間、好ましくは20〜40時間とすることができる。なお、上述のように分散機を連結して2段階以上の分散処理を行う場合は、各段階の分散滞留時間の合計が上記範囲となることが好ましい。このような分散処理を行うことで、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高め、cosθを0.85以上1.00以下に調整することができる。
(2)分散剤の利用
磁性層形成用組成物の調製時、好ましくは磁性液の調製時に分散剤を用いることによって、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めることもできる。ここで分散剤とは、この剤が存在しない状態と比べて、磁性層形成用組成物および/または磁性液における強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めることができる成分をいう。磁性層形成用組成物および/または磁性液に含有させる分散剤の種類および量を変更することによっても、強磁性六方晶フェライト粉末の分散状態を制御することができる。上記分散剤としては、磁性層の耐久性を高める観点から、強磁性六方晶フェライト粉末を構成する六方晶フェライト粒子の凝集を防ぎ、かつ、磁性層に適度な可塑性を付与するものを用いることも好ましい。
強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を向上するために好ましい分散剤の一態様としては、ポリエステル鎖含有化合物を挙げることができる。ポリエステル鎖含有化合物は、磁性層に適度な可塑性を付与するうえでも好ましい。ここでポリエステル鎖とは、後述する一般式A中のEで表されるものとする。その具体的態様としては、後述の一般式1に含まれるポリエステル鎖、式2−Aで表されるポリエステル鎖、および式2−Bで表されるポリエステル鎖を挙げることができる。ポリエステル鎖含有化合物を強磁性六方晶フェライト粉末とともに磁性層形成用組成物および/または磁性液に混合することにより、ポリエステル鎖が六方晶フェライト粒子同士の間に介在することによって粒子の凝集を抑制することができると本発明者は推察している。ただし、推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。ポリエステル鎖含有化合物の重量平均分子量は、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性向上の観点からは、1,000以上であることが好ましい。また、ポリエステル鎖含有化合物の重量平均分子量は、80,000以下であることが好ましい。本発明者は、重量平均分子量が80,000以下のポリエステル鎖含有化合物は可塑剤的な作用を奏することにより磁性層の耐久性を高めることができるのではないかと考えている。なお本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography;GPC)により測定された値を、標準ポリスチレン換算して求められる値をいう。測定条件の具体例は後述する。また、重量平均分子量の好ましい範囲についても、後述する。
そのようなポリエステル鎖含有化合物の好ましい一態様としては、下記一般式Aで表される部分構造を有する化合物が挙げられる。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1〜6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ(塩)基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
一般式A中、Qは−O−、−CO−、−S−、−NR−または単結合を表し、TおよびRはそれぞれ独立に水素原子または一価の置換基を表し、Eは−(O−L−CO)a−または−(CO−L−O)a−を表し、Lは二価の連結基を表し、aは2以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、*は上記ポリエステル鎖含有化合物を構成する他の部分構造との結合位置を表す。
一般式A中、Lはa×b個含まれる。また、TおよびQは、それぞれb個含まれる。Lが一般式A中に複数含まれる場合、複数のLは同一であってもよく異なっていてもよい。この点は、TおよびQについても同様である。
上記化合物は、磁性液および磁性層形成用組成物中において、上記部分構造に起因した立体障害によって六方晶フェライト粒子の凝集を抑制することができると考えられる。
ポリエステル鎖含有化合物の好ましい一態様としては、分子内にポリエステル鎖とともに六方晶フェライト粒子表面へ吸着し得る基または部分構造(以下、「吸着部」と記載する。)を有する化合物が挙げられる。また、ポリエステル鎖は、一般式Aで表される部分構造に含まれることが好ましい。更に、一般式Aで表される部分構造と吸着部とが、一般式A中の*を介して結合を形成していることがより好ましい。
一態様では、吸着部は、六方晶フェライト粒子表面への吸着点となる極性のある官能基(極性基)であることができる。具体例としては、カルボキシ基(−COOH)およびその塩(−COO)、スルホン酸基(−SOH)およびその塩(−SO )、硫酸基(−OSOH)およびその塩(−OSO )、リン酸基(−P=O(OH))およびその塩(−P=O(O)、アミノ基(−NR)、−N、エポキシ基、チオール基(−SH)、ならびにシアノ基(−CN)(ここで、Mはアルカリ金属イオン等のカチオン、Rは水素原子または炭化水素基を表す)等から選ばれる少なくとも1つの極性基を挙げることができる。なお、「カルボキシ(塩)基」とは、カルボキシ基およびその塩(カルボキシ塩)の一方または両方を意味するものとする。カルボキシ塩とは、上記の通り、カルボキシ基(−COOH)の塩の形態である。
また、吸着部の一態様としては、ポリアルキレンイミン鎖を挙げることもできる。
一般式Aで表される部分構造と吸着部により形成される結合の種類は、特に制限はない。かかる結合は、共有結合、配位結合およびイオン結合からなる群から選択されることが好ましく、同一分子内に異なる種類の結合を有していてもよい。上記吸着部を介して六方晶フェライト粒子に対して効率的に吸着することにより、一般式Aで表される部分構造によりもたらされる立体障害に基づく六方晶フェライト粒子の凝集抑制効果を更に高めることができると考えられる。
一態様では、ポリエステル鎖含有化合物は、ポリアルキレンイミン鎖を少なくとも1つ有することができる。かかるポリエステル鎖含有化合物は、好ましくは、ポリエステル鎖を一般式Aで表される部分構造に含むことができる。そのようなポリエステル鎖含有化合物の好ましい例としては、一般式Aとして下記式2−Aで表されるポリエステル鎖および下記式2−Bで表されるポリエステル鎖からなる群から選ばれるポリエステル鎖を含むポリアルキレンイミン誘導体が挙げられる。これらの例の詳細については、後述する。
式2−A中のLおよび式2−B中のLは、それぞれ独立に二価の連結基を表し、式2−A中のb11および式2−B中のb21は、それぞれ独立に2以上の整数を表し、式2−A中のb12および式2−B中のb22は、それぞれ独立に0または1を表し、式2−A中のXおよび式2−B中のXは、それぞれ独立に水素原子または一価の置換基を表す。
一般式A中、Qは−O−、−CO−、−S−、−NR−または単結合を表し、好ましくは後述する一般式1中のX、上記式2−A中の(−CO−)b12または式2−B中の(−CO−)b22で表される部分が挙げられる。
一般式A中、TおよびRはそれぞれ独立に水素原子または一価の置換基を表し、好ましくは後述する一般式1中のR、式2−A中のXまたは式2−B中のXで表される部分が挙げられる。
一般式A中、Eは−(O−L−CO)a−または−(CO−L−O)a−を表し、Lは二価の連結基を表し、aは2以上の整数を表す。
が表す二価の連結基としては、好ましくは後述する一般式1中のL、上記式2−A中のLまたは式2−B中のLで表される部分が挙げられる。
また、一態様では、ポリエステル鎖含有化合物は、カルボキシ基およびカルボキシ塩からなる群から選ばれる基を少なくとも1つ有することができる。かかるポリエステル鎖含有化合物は、好ましくは、ポリエステル鎖を一般式Aで表される部分構造に含むことができる。そのようなポリエステル鎖含有化合物の好ましい例としては、下記一般式1で表される化合物が挙げられる。
<<一般式1で表される化合物>>
一般式1は、以下の通りである。
(一般式1中、Xは−O−、−S−または−NR−を表し、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または一価の置換基を表し、Lは二価の連結基を表し、Zはカルボキシ基およびカルボキシ塩からなる群から選ばれる基(カルボキシ(塩)基)を少なくとも1つ有するn価の部分構造を表し、mは2以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)
一般式1中、Lはm×n個含まれる。また、RおよびXは、それぞれn個含まれる。Lが一般式1中に複数含まれる場合、複数のLは同一であってもよく異なっていてもよい。この点は、RおよびXについても同様である。
一般式1で表される化合物は、−((C=O)−L−O)m−で表される構造(ポリエステル鎖)を有し、上述の吸着部としてカルボキシ(塩)基をZ部分に含む。Z部分に含まれるカルボキシ(塩)基が六方晶フェライト粒子表面への吸着部となることにより一般式1で表される化合物が六方晶フェライト粒子に効率的に吸着したうえで、上記ポリエステル鎖に起因して立体障害がもたらされることで六方晶フェライト粒子の凝集を防ぐことができると考えられる。
一般式1中、Xは、−O−、−S−または−NR−を表し、Rは水素原子または一価の置換基を表す。Rが表す一価の置換基としては、上述した置換基であるアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ(塩)基等を挙げることができ、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基またはエチル基である。一層好ましくは、Rは、水素原子である。Xは、−O−を表すことが好ましい。
Rは、水素原子または一価の置換基を表す。Rは、一価の置換基を表すことが好ましい。Rで表される一価の置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、脂環基、非芳香族ヘテロ環基等の一価の基、および上記一価の基に二価の連結基が連結した構造(即ち、Rが、上記一価の基に二価の連結基が連結した構造を有し、この二価の連結基を介してXと結合する一価の置換基である。)等を挙げることができる。二価の連結基としては、例えば、−C(=O)−O−、−O−、−C(=O)−NR10−(R10は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す)、−O−C(=O)−NH−、フェニレン基、および炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基からなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせから構成される二価の連結基を挙げることができる。Rで表される一価の置換基の具体例としては、例えば下記構造が挙げられる。下記構造において、*はXとの結合位置を表す。ただし、Rは、下記具体例に限定されるものではない。
一般式1中、Lは二価の連結基を表す。二価の連結基としては、直鎖、分岐または環構造であってもよいアルキレン基、直鎖、分岐または環構造であってもよいアルケニレン基、−C(=O)−、−O−およびアリーレン基からなる群から選ばれる1つまたは2つ以上の組み合わせから構成される二価の連結基であって、上記二価の連結基中に置換基またはアニオンとしてハロゲン原子を有してもよい二価の連結基を挙げることができる。より詳しくは、直鎖、分岐または環構造であってもよい炭素数1〜12のアルキレン基、直鎖、分岐または環構造であってもよい炭素数1〜6のアルケニレン基、−C(=O)−、−O−およびフェニレン基から選ばれる1つまたは2つ以上の組み合わせから構成される二価の連結基を挙げることができる。上記の二価の連結基は、好ましくは、1〜10個までの炭素原子、0〜10個までの酸素原子、0〜10個までのハロゲン原子、および1〜30個までの水素原子から成り立つ二価の連結基である。具体例としては、アルキレン基および下記構造が挙げられる。下記構造中、*は一般式1中の他の構造との結合位置を示す。ただし、上記の二価の連結基は、下記具体例に限定されるものではない。
Lは、好ましくはアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基であり、更に好ましくは炭素数1〜5の無置換アルキレン基である。
Zはカルボキシ基およびカルボキシ塩からなる群から選ばれる基(カルボキシ(塩)基)を少なくとも1つ有するn価の部分構造を表す。
Zに含まれるカルボキシ(塩)基の数は、1つのZあたり少なくとも1つであり、2つ以上であることが好ましく、2〜4つであることがより好ましい。
Zは、直鎖構造、分岐構造および環状構造からなる群から選ばれる1つ以上の構造を含むことができる。合成の容易性等の観点から、好ましくは、Zはカルボン酸無水物の反応残基である。例えば具体例としては、下記構造が挙げられる。下記構造中、*は一般式1中の他の構造との結合位置を示す。ただし、Zは下記具体例に限定されるものではない。
カルボン酸無水物とは、−(C=O)−O−(C=O)−で表される部分構造を有する化合物である。カルボン酸無水物では、上記部分構造が反応部位となって、一般式1中の−((C=O)−L−O)m−の酸素原子とZとが、カルボニル結合(−(C=O)−)を介して結合するとともにカルボキシ(塩)基がもたらされる。こうして生成した部分構造が、カルボン酸無水物の反応残基である。カルボン酸無水物として、部分構造−(C=O)−O−(C=O)−を1つ有するものを用いて一般式1で表される化合物を合成することにより、カルボン酸無水物の一価の反応残基を有する一般式1で表される化合物を得ることができ、2つ有するものを用いることによりカルボン酸無水物の二価の反応残基を有する一般式1で表される化合物を得ることができる。カルボン酸無水物の三価以上の反応残基を有する一般式1で表される化合物についても、同様である。先に記載した通り、nは1以上の整数であり、例えば1〜4の範囲の整数であり、好ましくは2〜4の範囲の整数である。
カルボン酸無水物としては、例えばテトラカルボン酸無水物を用いることにより、n=2の一般式1で表される化合物を得ることができる。なおテトラカルボン酸無水物とは、一分子中に4つのカルボキシ基を有する化合物において、各2つのカルボキシ基の脱水縮合により、上記部分構造を一分子中に2つ有するカルボン酸無水物である。一般式1中、Zがテトラカルボン酸無水物の反応残基を表す化合物は、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性および磁性層の耐久性の一層の向上の観点から好ましい。テトラカルボン酸無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸無水物、芳香族テトラカルボン酸無水物、多環式テトラカルボン酸無水物等の各種テトラカルボン酸無水物を挙げることができる。
脂肪族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、特開2016−071926号公報の段落0040に記載の各種脂肪族テトラカルボン酸無水物を用いることができる。また、芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、特開2016−071926号公報の段落0041に記載の各種芳香族テトラカルボン酸無水物を用いることができる。多環式テトラカルボン酸無水物としては、特開2016−071926号公報の段落0042に記載の各種多環式テトラカルボン酸無水物を用いることができる。
一般式1中、mは2以上の整数を表す。先に記載したように、一般式1で表される化合物は、−((C=O)−L−O)m−で表される構造(ポリエステル鎖)が、分散性および耐久性向上に寄与すると考えられる。これらの観点から、mは、5〜200の範囲の整数であることが好ましく、5〜100の範囲の整数であることがより好ましく、5〜60の範囲の整数であることが更に好ましい。
(重量平均分子量)
一般式1で表される化合物の重量平均分子量は、上述のように好ましくは1,000以上80,000以下であり、1,000以上20,000以下であることがより好ましい。一般式1で表される化合物の重量平均分子量は、20,000未満であることが更に好ましく、12,000以下であることが一層好ましく、10,000以下であることがより一層好ましい。また、一般式1で表される化合物の重量平均分子量は、好ましくは1,500以上であり、より好ましくは2,000以上である。なお一般式1で表される化合物について後述の実施例に示す重量平均分子量は、GPCを用いて下記測定条件下で測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値である。また、二種以上の構造異性体の混合物について重量平均分子量とは、この混合物に含まれる二種以上の構造異性体の重量平均分子量をいうものとする。
GPC装置:HLC−8220(東ソー社製)
ガードカラム:TSKguardcolumn Super HZM−H
カラム:TSKgel Super HZ 2000、TSKgel Super HZ 4000、TSKgel Super HZ−M(東ソー社製、4.6mm(内径)×15.0cm、三種カラムを直列連結)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、安定剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)含有
溶離液流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
インレット温度:40℃
屈折率(Refractive Index;RI)測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3質量%
サンプル注入量:10μL
(合成方法)
以上説明した一般式1で表される化合物は、公知の方法で合成することができる。合成方法の一例としては、例えば、カルボン酸無水物と、下記一般式2で表される化合物とを開環付加反応等の反応に付す方法を挙げることができる。一般式2中、R、X、Lおよびmは、それぞれ一般式1と同義である。Aは、水素原子、アルカリ金属原子または四級アンモニウム塩基を表し、好ましくは水素原子である。
カルボン酸無水物と一般式2で表される化合物との反応は、例えば、ブタンテトラカルボン酸無水物を用いた場合、ヒドロキシ基1当量に対して、0.4〜0.5モルの割合でブタンテトラカルボン酸無水物を混合し、無溶媒、必要に応じて沸点が50℃以上の有機溶媒、更には三級アミンや無機塩基などの反応触媒存在下で、3〜12時間程度加熱攪拌することにより実施される。他のカルボン酸無水物を用いる場合にも、上記の反応条件に準じて、または公知の反応条件に準じて、カルボン酸無水物と一般式2で表される化合物との反応を実施することができる。
上記反応の後、必要に応じて精製等の後工程を行ってもよい。
また、一般式2で表される化合物は、市販品を用いてもよく、公知のポリエステル合成法によって得ることもできる。例えばポリエステル合成法としては、ラクトンの開環重合を挙げることができる。ラクトンの開環重合については、特開2016−071926号公報の段落0050〜0051を参照できる。ただし、一般式2で表される化合物は、ラクトンの開環重合により得られる化合物に限定されるものではなく、公知のポリエステル合成法、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合、ヒドロキシカルボン酸の重縮合等により得られた化合物であることもできる。
以上説明した合成方法は一例であって、一般式1で表される化合物の合成方法を何ら限定するものではない。一般式1で表される化合物を合成可能な方法であれば、公知の合成方法を、何ら制限なく用いることができる。合成後の反応生成物は、そのまま、または必要に応じて公知の方法により精製を行い、磁性層の形成のために用いることができる。一般式1で表される化合物は、磁性層の形成のために一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。また、一般式1で表される化合物は、二種以上の構造異性体の混合物として用いてもよい。例えば、一般式1で表される化合物の合成反応により、二種以上の構造異性体が得られる場合、かかる混合物を、磁性層の形成のために用いることもできる。
一般式1で表される化合物としては、特開2016−071926号公報の実施例中、合成例に示されている反応生成物に含まれている各種化合物を挙げることができる。例えば、具体例としては、以下の表1に示す化合物が例示できる。表1に示す重量平均分子量は、表1に示す構造式で表される化合物の重量平均分子量、または表1に示す構造式で表される化合物およびその構造異性体の混合物についての重量平均分子量である。
上記一般式Aで表される部分構造および吸着部を有する化合物の好ましい例の一態様としては、一般式Aとして下記式2−Aまたは2−Bで表されるポリエステル鎖を含むポリアルキレンイミン誘導体が挙げられる。以下、かかるポリアルキレンイミン誘導体について説明する。
<ポリアルキレンイミン誘導体>
ポリアルキレンイミン誘導体は、下記式2−Aで表されるポリエステル鎖および下記式2−Bで表されるポリエステル鎖からなる群から選ばれる少なくとも1つのポリエステル鎖と、数平均分子量が300〜3,000の範囲のポリアルキレンイミン鎖と、を含む化合物である。この化合物において、ポリアルキレンイミン鎖の占める割合は、好ましくは5.0質量%未満である。
上記ポリアルキレンイミン誘導体は、先に記載した吸着部の一態様であるポリアルキレンイミン鎖を有する。更に、上記ポリアルキレンイミン誘導体が有するポリエステル鎖に起因した立体障害が、磁性層形成用組成物および/または磁性液中でもたらされることにより、六方晶フェライト粒子の凝集を抑制することができると考えられる。
以下、上記ポリアルキレンイミン誘導体が有するポリエステル鎖およびポリアルキレンイミン鎖について説明する。
(ポリエステル鎖)
ポリエステル鎖の構造
ポリアルキレンイミン誘導体は、後述するポリアルキレンイミン鎖とともに、下記式2−Aで表されるポリエステル鎖および下記式2−Bで表されるポリエステル鎖からなる群から選択される少なくとも1つのポリエステル鎖を含む。ポリエステル鎖は、一態様では、後述する式Aで表されるアルキレンイミン鎖と、式A中の*において、式Aに含まれる窒素原子Nとカルボニル結合−(C=O)−により結合し、−N−(C=O)−を形成することができる。また、他の一態様では、後述する式Bで表されるアルキレンイミン鎖とポリエステル鎖とが、式B中の窒素カチオンNとポリエステル鎖が有するアニオン性基により塩架橋基を形成することができる。塩架橋基としては、ポリエステル鎖に含まれる酸素アニオンOと式B中のNとにより形成されるものを挙げることができる。
式Aで表されるアルキレンイミン鎖と、式Aに含まれる窒素原子Nとカルボニル結合−(C=O)−により結合するポリエステル鎖としては、上記式2−Aで表されるポリエステル鎖を挙げることができる。上記式2−Aで表されるポリエステル鎖は、*で表される結合位置において、アルキレンイミン鎖に含まれる窒素原子とポリエステル鎖に含まれるカルボニル基−(C=O)−とが−N−(C=O)−を形成することにより、式Aで表されるアルキレンイミン鎖と結合することができる。
また、式Bで表されるアルキレンイミン鎖と、式B中のNとポリエステル鎖に含まれるアニオン性基が塩架橋基を形成することにより結合するポリエステル鎖としては、上記式2−Bで表されるポリエステル鎖を挙げることができる。上記式2−Bで表されるポリエステル鎖は、酸素アニオンOにより、式B中のNと塩架橋基を形成することができる。
式2−A中のL、式2−B中のLは、それぞれ独立に二価の連結基を表す。二価の連結基としては、好ましくは炭素数3〜30のアルキレン基を挙げることができる。なおアルキレン基の炭素数は、アルキレン基が置換基を有する場合には、先に記載したように、置換基を除く部分(主鎖部分)の炭素数をいうものとする。
式2−A中のb11および式2−B中のb21は、それぞれ独立に2以上の整数を表し、例えば200以下の整数である。後述の表3に示すラクトン繰り返し単位数は、式2−A中のb11または式2−B中のb21に相当する。
式2−A中のb12および式2−B中のb22は、それぞれ独立に0または1を表す。
式2−A中のXおよび式2−B中のXは、それぞれ独立に、水素原子または一価の置換基を表す。一価の置換基としては、アルキル基、ハロアルキル基(例えばフルオロアルキル基等)、アルコキシ基、ポリアルキレンオキシアルキル基およびアリール基からなる群から選択される一価の置換基を挙げることができる。
アルキル基は置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基を有するアルキル基としては、ヒドロキシ基が置換したアルキル基(ヒドロキシアルキル基)、およびハロゲン原子が1つ以上置換したアルキル基が好ましい。また、炭素原子と結合する全水素原子がハロゲン原子に置換したアルキル基(ハロアルキル基)も好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。アルキル基としては、より好ましくは炭素数1〜30、更に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基である。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよい。ハロアルキル基についても、同様である。
置換または無置換のアルキル基またはハロアルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、へキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、2−エチルヘキシル基、tert−オクチル基、2−ヘキシルデシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基、2−ノルボルニル基、2,2、4−トリメチルペンチル基、アセチルメチル基、アセチルエチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシノニル基、ヒドロキシデシル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、ノナデカフルオロノニル基、ヒドロキシウンデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシペンタデシル基、ヒドロキシヘプタデシル基、およびヒドロキシオクタデシル基が挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシメチル基等を挙げることができる。
ポリアルキレンオキシアルキル基とは、R10(OR11)n1(O)m1−で表される一価の置換基である。R10はアルキル基を表し、R11はアルキレン基を表し、n1は2以上の整数を表し、m1は0または1を表す。
10で表されるアルキル基については、XまたはXで表されるアルキル基について記載した通りである。R11で表されるアルキレン基の詳細については、XまたはXで表されるアルキル基に関する上記の記載を、これらアルキレン基から水素原子を1つ取り去ったアルキレン基に読み替えて(例えば、メチル基はメチレン基に読み替えて)適用することができる。n1は2以上の整数であり、例えば10以下、好ましくは5以下の整数である。
アリール基は置換基を有していても縮環していてもよく、より好ましくは炭素数6〜24のアリール基であり、例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、4−フェニル安息香酸、3−シアノフェニル基、2−クロロフェニル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。
以上記載した式2−Aで表されるポリエステル鎖および式2−Bで表されるポリエステル鎖は、公知のポリエステル合成法により得られたポリエステル由来の構造であることができる。ポリエステル合成法としては、特開2015−28830号公報の段落0056〜0057に記載のラクトンの開環重合を挙げることができる。ただし、上記ポリエステル鎖は、ラクトンの開環重合により得られたポリエステル由来の構造に限定されるものではなく、公知のポリエステル合成法、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合、ヒドロキシカルボン酸の重縮合等により得られたポリエステル由来の構造であることもできる。
ポリエステル鎖の数平均分子量
ポリエステル鎖の数平均分子量は、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性向上の観点からは、200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。また、同様の観点から、ポリエステル鎖の数平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。先に記載した通り、ポリエステル鎖は、磁性層形成用組成物および/または磁性液中で立体障害をもたらし六方晶フェライト粒子の凝集を抑える作用を果たすことができると考えられる。上記の数平均分子量を有するポリエステル鎖は、かかる作用を良好に発揮することができると推察される。ポリエステル鎖の数平均分子量とは、ポリアルキレンイミン誘導体を加水分解して得られたポリエステルについて、GPCにより測定された値を、標準ポリスチレン換算して求められる値をいう。こうして求められる値は、ポリアルキレンイミン誘導体を合成するために用いたポリエステルについて、GPCにより測定された値を、標準ポリスチレン換算して求められる値と同様である。したがって、ポリアルキレンイミン誘導体を合成するために用いたポリエステルについて求めた数平均分子量を、ポリアルキレンイミン誘導体に含まれるポリエステル鎖の数平均分子量として採用することができる。ポリエステル鎖の数平均分子量の測定条件については、後述の具体例におけるポリエステルの数平均分子量の測定条件を参照できる。
(ポリアルキレンイミン鎖)
数平均分子量
上記ポリアルキレンイミン誘導体に含まれるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量とは、ポリアルキレンイミン誘導体を加水分解して得られたポリアルキレンイミンについて、GPCにより測定された値を、標準ポリスチレン換算して求められる値をいう。こうして求められる値は、ポリアルキレンイミン誘導体を合成するために用いたポリアルキレンイミンについて、GPCにより測定された値を、標準ポリスチレン換算して求められる値と同様である。したがって、ポリアルキレンイミン誘導体を合成するために用いたポリアルキレンイミンについて求めた数平均分子量を、ポリアルキレンイミン誘導体に含まれるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量として採用することができる。ポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量の測定条件については、後述の具体例を参照できる。なおポリアルキレンイミンとは、アルキレンイミンの開環重合により得ることができる重合体である。上記ポリアルキレンイミン誘導体において、重合体とは、同一構造の繰り返し単位を含む単独重合体(ホモポリマー)と二種以上の異なる構造の繰り返し単位を含む共重合体(コポリマー)とを包含する意味で用いるものとする。
また、ポリアルキレンイミン誘導体の加水分解は、エステルの加水分解法として通常用いられている各種方法により行うことができる。そのような方法の詳細については、例えば、「実験化学講座14 有機化合物の合成II−アルコール・アミン(第5版)」(日本化学会編、丸善出版、2005年8月発行)95〜98頁の加水分解法に関する記載、「実験化学講座16 有機化合物の合成IV−カルボン酸・アミノ酸・ペプチド(第5版)」(日本化学会編、丸善出版、2005年3月発行)10〜15頁の加水分解法に関する記載等を参照できる。
得られた加水分解物から、液体クロマトグラフィー等の公知の分離手段によりポリアルキレンイミンを分離し、数平均分子量を求めることができる。
上記ポリアルキレンイミン誘導体に含まれるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量は、300〜3,000の範囲である。ポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量が上記範囲であることにより、ポリアルキレンイミン誘導体は六方晶フェライト粒子表面に有効に吸着し得るものとなると、本発明者は推察している。六方晶フェライト粒子表面への吸着性の観点からは、ポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量は、500以上であることが好ましい。また同様の観点から、2,000以下であることが好ましい。
ポリアルキレンイミン誘導体におけるポリアルキレンイミン鎖が占める割合
先に記載した通り、ポリアルキレンイミン誘導体に含まれるポリアルキレンイミン鎖は、六方晶フェライト粒子表面への吸着部として機能し得ると本発明者は考えている。ポリアルキレンイミン誘導体においてポリアルキレンイミン鎖の占める割合(以下、「ポリアルキレンイミン鎖比率」とも記載する。)は、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高める観点から、好ましくは5.0質量%未満である。強磁性六方晶フェライト粉末の分散性向上の観点から、ポリアルキレンイミン鎖比率は4.9質量%以下であることがより好ましく、4.8質量%以下であることが更に好ましく、4.5質量%以下であることが一層好ましく、4.0質量%以下であることがより一層好ましく、3.0質量%以下であることが更に一層好ましい。また、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性向上の観点からは、ポリアルキレンイミン鎖比率は0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。
以上記載したポリアルキレンイミン鎖の占める割合は、例えば、合成時に用いるポリアルキレンイミンとポリエステルとの混合比によって制御することができる。
上記ポリアルキレンイミン誘導体においてポリアルキレンイミン鎖の占める割合は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)、より詳しくは、H−NMRおよび13C−NMR、ならびに公知の手法の元素分析により得られる分析結果から、算出することができる。こうして算出される値は、ポリアルキレンイミン誘導体の合成原料の配合比から求められる理論値と同様であるため、配合比から求められる理論値を、ポリアルキレンイミン誘導体におけるポリアルキレンイミン鎖の占める割合として採用することができる。
ポリアルキレンイミン鎖の構造
ポリアルキレンイミン鎖とは、同一または異なるアルキレンイミン鎖の2つ以上を含む重合構造である。含まれるアルキレンイミン鎖としては、下記の式Aで表されるアルキレンイミン鎖、および式Bで表されるアルキレンイミン鎖を挙げることができる。下記式で表されるアルキレンイミン鎖の中で、式Aで表されるアルキレンイミン鎖は、ポリエステル鎖との結合位置を含み得るものである。また、式Bで表されるアルキレンイミン鎖は、ポリエステル鎖と上述したような塩架橋基により結合することができる。ポリアルキレンイミン誘導体は、このようなアルキレンイミン鎖を1つ以上含むことにより、ポリアルキレンイミン鎖に1つ以上のポリエステル鎖が結合した構造を有することができる。また、ポリアルキレンイミン鎖としては、直鎖構造のみからなるものであっても、分岐した三級アミン構造を有するものであってもよい。より一層の分散性向上の観点からは、ポリアルキレンイミン鎖に分岐構造を含むものが好ましい。分岐構造を含むものとしては、下記式A中の*において隣接するアルキレンイミン鎖と結合するもの、および下記式B中の*において隣接するアルキレンイミン鎖と結合するものを挙げることができる。
式A中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、a1は2以上の整数を表し、*はポリエステル鎖、隣接するアルキレンイミン鎖、または水素原子もしくは置換基との結合位置を表す。
式B中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、a2は2以上の整数を表す。式Bで表されるアルキレンイミン鎖は、アニオン性基を有するポリエステル鎖と、式B中のNとポリエステル鎖に含まれるアニオン性基が塩架橋基を形成することにより結合する。
式Aおよび式B中の*、ならびに式B中の*は、それぞれ独立に、隣接するアルキレンイミン鎖、または水素原子もしくは置換基と結合する位置を表す。
以下、上記式Aおよび式Bについて、更に詳細に説明する。
式A中のRおよびR、ならびに式B中のRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。式A中のRおよびRの組み合わせとしては、一方が水素原子であって他方がアルキル基である態様、両方が水素原子である態様、両方がアルキル基(同一または異なるアルキル基)である態様があり、好ましくは両方が水素原子である態様である。以上の点は、式B中のRおよびRについても、同様である。
アルキレンイミンとして環を構成する炭素数が最小の構造はエチレンイミンであり、エチレンイミンの開環により得られたアルキレンイミン鎖(エチレンイミン鎖)の主鎖の炭素数は2である。したがって、式A中のa1および式B中のa2の下限は2である。即ち、式A中のa1および式B中のa2は、それぞれ独立に、2以上の整数である。強磁性粉末の粒子表面への吸着性の観点からは、式A中のa1および式B中のa2は、それぞれ独立に、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましく、2または3であることが一層好ましく、2であることがより一層好ましい。
式Aで表されるアルキレンイミン鎖または式Bで表されるアルキレンイミン鎖とポリエステル鎖との結合の詳細については、上述したとおりである。
上記の各アルキレンイミン鎖は、各式中の*で表される位置において、隣接するアルキレンイミン鎖、または水素原子もしくは置換基と結合する。置換基としては、例えばアルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)等の一価の置換基を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、置換基として、ポリエステル鎖が結合してもよい。
ポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量
ポリアルキレンイミン誘導体の分子量は、上述の通り、重量平均分子量として、好ましくは1,000以上80,000以下である。ポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量は、1,500以上であることがより好ましく、2,000以上であることが更に好ましく、3,000以上であることが一層好ましい。また、ポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量は、60,000以下であることがより好ましく、40,000以下であることが更に好ましく、35,000以下であることが一層好ましく、34,000以下であることがより一層好ましい。ポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量の測定条件については、後述の具体例を参照できる。
合成方法
上記ポリアルキレンイミン誘導体としては、ポリエステル鎖とともに、数平均分子量が300〜3,000の範囲のポリアルキレンイミン鎖を上記割合で含むものであれば、合成方法は特に限定されるものではない。合成方法の好ましい一態様については、特開2015−28830号公報の段落0061〜0069を参照できる。
上記ポリアルキレンイミン誘導体の具体例としては、表2に示すポリエチレンイミンおよびポリエステルを用いて合成される表2に示す各種ポリアルキレンイミン誘導体を挙げることができる。合成反応の詳細については、後述の実施例および/または特開2015−28830号公報の実施例の記載を参照できる。
(※注)表2に示すポリエチレンイミンは、以下に示すとおりである。
SP−003(ポリエチレンイミン(日本触媒社製) 数平均分子量300)
SP−006(ポリエチレンイミン(日本触媒社製) 数平均分子量600)
SP−012(ポリエチレンイミン(日本触媒社製) 数平均分子量1,200)
SP−018(ポリエチレンイミン(日本触媒社製) 数平均分子量1,800)
上記表2に示すポリエステルは、表3に示すラクトンおよび求核試薬(カルボン酸)を用いて、ラクトンの開環重合により合成されるポリエステルである。合成反応の詳細については、後述の実施例および/または特開2015−28830号公報の実施例の記載を参照できる。
上記の酸価およびアミン価は、電位差法(溶媒:テトラヒドロフラン/水=100/10(体積比)、滴定液:0.01N(0.01mol/l)水酸化ナトリウム水溶液(酸価)、0.01N (0.01mol/l)塩酸(アミン価))により決定される。
上記の平均分子量(数平均分子量および重量平均分子量)は、GPCにより測定された値を標準ポリスチレン換算して求められる。
ポリエステル、ポリアルキレンイミン、およびポリアルキレンイミン誘導体の平均分子量の測定条件の具体例は、それぞれ以下の通りである。
−ポリエステルの平均分子量の測定条件−
測定器:HLC−8220GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Super HZ 2000/TSKgel Super HZ 4000/TSKgel Super HZ−H(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/min
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折(RI)検出器
−ポリアルキレンイミンの平均分子量、ポリアルキレンイミン誘導体の平均分子量の測定条件−
測定器:HLC−8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Super AWM−H(東ソー社製)3本
溶離液:N−メチル−2−ピロリドン(添加剤として10mmol/l臭化リチウム添加)
流速:0.35mL/min
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折(RI)検出器
以上説明した分散剤を、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤、非磁性粉末および好ましくは溶媒と混合することにより、磁性層形成用組成物を調製することができる。上記の通り、強磁性六方晶フェライト粉末と研磨剤は別分散することが好ましい。また、上記磁気テープの磁性層は、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および非磁性粉末とともに、上記分散剤を含むことができる。上記分散剤は、一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、含有量とは、併用した化合物の合計含有量をいうものとする。以上の点は、本明細書に記載の各種成分の含有量についても同様である。
上記分散剤の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部あたり0.5〜25.0質量部であることが好ましい。分散剤の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部あたり0.5質量部以上とすることが、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性および磁性層の耐久性向上の観点から好ましく、1.0質量部以上とすることがより好ましく、5.0質量部以上とすることが更に好ましく、10.0質量部以上とすることが一層好ましい。一方、記録密度の向上のためには、磁性層における強磁性六方晶フェライト粉末の充填率を高くすることが好ましい。この点からは、相対的に強磁性六方晶フェライト粉末以外の成分の含有量は低くすることが好ましい。以上の観点から、上記分散剤の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して25.0質量部以下とすることが好ましく、20.0質量部以下とすることがより好ましく、18.0質量部以下とすることが更に好ましく、15.0質量部以下とすることが一層好ましい。
以下、上記磁気テープについて、更により詳細に説明する。
[磁性層]
<強磁性粉末>
磁性層には、強磁性粉末として、強磁性六方晶フェライト粉末が含まれる。強磁性六方晶フェライト粉末の粒子サイズの指標としては、活性化体積を用いることができる。「活性化体積」とは、磁化反転の単位である。本発明および本明細書に記載の活性化体積は、振動試料型磁束計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで雰囲気温度23℃±1℃の環境下で測定し、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。
Hc=2Ku/Ms{1−[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
磁気テープには、近年の情報量の莫大な増大に伴い、記録密度を高めること(高密度記録化)が望まれている。高密度記録化を達成するための方法としては、磁性層に含まれる強磁性粉末の粒子サイズを小さくし、磁性層の強磁性粉末の充填率を高める方法が挙げられる。この点から、強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は、2500nm以下であることが好ましく、2300nm以下であることがより好ましく、2000nm以下であることが更に好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、活性化体積は、例えば800nm以上であることが好ましく、1000nm以上であることがより好ましく、1200nm以上であることが更に好ましい。なおSTEM像において観察される全六方晶フェライト粒子の中で、上述のアスペクト比および長軸方向の長さを有する六方晶フェライト粒子の占める割合は、STEM像において観察される全六方晶フェライト粒子に対する粒子数基準の割合として、例えば50%以上であることができる。また、上記割合は、例えば95%以下であることができ、95%超であることもできる。その他の強磁性六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011−225417号公報の段落0012〜0030、特開2011−216149号公報の段落0134〜0136、特開2012−204726号公報の段落0013〜0030を参照できる。
磁性層における強磁性六方晶フェライト粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。磁性層の強磁性六方晶フェライト粉末以外の成分は少なくとも結合剤および非磁性粉末であり、任意に一種以上の他の添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性六方晶フェライト粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
<結合剤、硬化剤>
上記磁気テープは塗布型磁気テープであって、磁性層、結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0028〜0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
また、上記結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011−216149号公報の段落0124〜0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0〜80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0〜80.0質量部の量で使用することができる。
<非磁性粉末>
磁性層には、一種または二種以上の非磁性粉末が含まれる。非磁性粉末としては、研磨剤を挙げることができる。また、非磁性粉末としては、磁性層表面に摩擦特性制御に寄与し得る突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(以下、「突起形成剤」と記載する。)を挙げることができる。主に上記非磁性粉末の粒子が磁性層表面に突出することにより、磁性層表面に中心線平均表面粗さRaが1.0nm以上の適度な粗さがもたらされると考えられる。上記磁気テープの磁性層には、突起形成剤および研磨剤の少なくとも一方が含まれることが好ましく、両方が含まれることが好ましい。
研磨剤とは、モース硬度8超の非磁性粉末を意味し、モース硬度9以上の非磁性粉末であることが好ましい。研磨剤は、無機物質の粉末(無機粉末)であっても有機物質の粉末(有機粉末)であってもよい。研磨剤は、モース硬度8超の無機粉末であることがより好ましく、モース硬度9以上の無機粉末であることが更に好ましい。なおモース硬度の最大値は、ダイヤモンドの10である。具体的には、研磨剤としては、アルミナ(Al)、炭化珪素、ボロンカーバイド(BC)、TiC、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO)、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもアルミナ粉末が好ましい。また、研磨剤の粒子サイズに関しては、粒子サイズの指標であるBET(Brunauer−Emmett−Teller)比表面積として、例えば14m/g以上、好ましくは16m/g以上、より好ましくは18m/g以上である。また、研磨剤のBET比表面積は、例えば40m/g以下であることができる。BET比表面積とは、BET法によって一次粒子について測定される比表面積である。
突起形成剤としては、一般に突起形成剤として使用される各種非磁性粉末を用いることができる。これらは、無機粉末であっても有機粉末であってもよい。突起形成剤のモース硬度は、研磨剤より高くてもよく低くてもよく、特に限定されるものではない。一態様では、摩擦特性の均一化の観点からは、突起形成剤の粒度分布は、分布中に複数のピークを有する多分散ではなく、単一ピークを示す単分散であることが好ましい。単分散粒子の入手容易性の点からは、突起形成剤は無機粉末であることが好ましい。無機粉末としては、金属酸化物等の無機酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末を挙げることができ、無機酸化物の粉末であることが好ましい。突起形成剤は、より好ましくはコロイド粒子であり、更に好ましくは無機酸化物コロイド粒子である。また、単分散粒子の入手容易性の観点からは、無機酸化物コロイド粒子を構成する無機酸化物は二酸化ケイ素(シリカ)であることが好ましい。無機酸化物コロイド粒子は、コロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)であることがより好ましい。本発明および本明細書において、「コロイド粒子」とは、少なくとも、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の二種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。また、他の一態様では、突起形成剤は、カーボンブラックであることも好ましい。
突起形成剤の平均粒子サイズは、例えば30〜300nmであり、好ましくは40〜200nmである。
また、研磨剤および突起形成剤が、それらの機能をより良好に発揮することができるという観点から、研磨剤については、磁性層における含有量は、好ましくは強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して1.0〜20.0質量部であり、より好ましくは3.0〜15.0質量部であり、更に好ましくは4.0〜10.0質量部である。一方、磁性層における突起形成剤の含有量は、好ましくは強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して、1.0〜4.0質量部であり、より好ましくは1.5〜3.5質量部である。
<添加剤>
磁性層には、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および非磁性粉末が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれ得る添加剤としては、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラック等を挙げることができる。研磨剤を含む磁性層に使用され得る添加剤の一例としては、特開2013−131285号公報の段落0012〜0022に記載の分散剤を、研磨剤の分散性を向上するための分散剤として挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
[非磁性層]
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に少なくとも一層の他の層を介して磁性層を有していてもよい。かかる他の層は、好ましくは、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層である。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011−216149号公報の段落0146〜0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010−24113号公報の段落0040〜0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
上記磁気テープの非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
[バックコート層]
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面とは反対の表面側にバックコート層を有する。バックコート層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は0.060以下である。バックコート層は、非磁性粉末および結合剤を含み、任意に公知の添加剤を含むことができる。バックコート層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層に関する公知技術を適用することもできる。バックコート層は、硬化剤を含むバックコート層形成用組成物を用いて、硬化工程を経て形成することができる。硬化剤については、先に磁性層に使用可能な硬化剤について記載した通りである。硬化剤は、バックコート層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0〜80.0質量部、バックコート層の強度向上の観点からは好ましくは50.0〜80.0質量部の量で添加し使用することができる。
バックコート層の非磁性粉末については、非磁性層の非磁性粉末に関する上記記載を参照できる。バックコート層の非磁性粉末としては、カーボンブラックと、カーボンブラック以外の非磁性粉末と、のいずれか一方または両方を使用することができる。カーボンブラック以外の非磁性粉末としては、非磁性無機粉末を挙げることができる。具体例としては、α−酸化鉄等の酸化鉄、二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO、SiO、Cr、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、酸化銅、MgCO、CaCO、BaCO、SrCO、BaSO、炭化珪素、炭化チタン等の非磁性無機粉末を挙げることができる。好ましい非磁性無機粉末は、非磁性無機酸化物粉末であり、より好ましくはα−酸化鉄、酸化チタンであり、更に好ましくはα−酸化鉄である。
カーボンブラック以外の非磁性粉末の形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでもよい。これら非磁性粉末の平均粒子サイズは、0.005〜2.00μmの範囲であることが好ましく、0.01〜0.20μmの範囲であることが更に好ましい。また、非磁性粉末のBET比表面積は、1〜100m/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜70m/g、更に好ましくは10〜65m/gの範囲である。一方、カーボンブラックの平均粒子サイズは、例えば5〜80nmの範囲であり、好ましくは10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmの範囲である。バックコート層における非磁性粉末の含有量(充填率)については、非磁性層の非磁性粉末に関する上記記載を参照できる。また、非磁性粉末全量100.0質量部に対するカーボンブラック含有量は、例えば10.0〜100.0質量部の範囲とすることができる。非磁性粉末全量をカーボンブラックとしてもよい。また、非磁性粉末全量を、カーボンブラック以外の非磁性粉末としてもよい。
[非磁性支持体]
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
[各種厚み]
上記磁気テープの非磁性支持体および各層の厚みについては、非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.00〜6.00μmであり、より好ましくは3.00〜4.50μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、一般には10nm〜150nmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは20nm〜120nmであり、更に好ましくは30nm〜100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.01〜3.00μmであり、0.05〜2.00μmであることが好ましく、0.05〜1.50μmであることが更に好ましい。
バックコート層の厚みは、0.90μm以下であることが好ましく、0.10〜0.70μmであることが更に好ましい。
磁気テープの各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において厚み方向の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
[磁気テープの製造方法]
<各層形成用組成物の調製>
磁性層、バックコート層または任意に設けられる非磁性層を形成するための組成物は、先に説明した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体を製造するために一般に使用される各種有機溶媒を用いることができる。各層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる全ての原料は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。磁性層形成用組成物の調製においては、先に記載した通り、強磁性六方晶フェライト粉末と研磨剤とを別分散することが好ましい。また、磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報および特開平1−79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるためには、分散メディアとして、ガラスビーズおよびその他の分散ビーズの一種以上を用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズが好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径)と充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。また、cosθが0.85以上1.00以下の磁気テープを得るための手段の1つとして、分散条件を強化すること(例えば分散時間の長時間化、分散に用いる分散ビーズの小径化および/または高充填化、分散剤の利用等)も好ましい。分散条件の強化に関する好ましい態様は、先に記載した通りである。
<塗布工程、冷却工程、加熱乾燥工程、バーニッシュ(burnish)処理工程、硬化工程>
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次または同時に重層塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−231843号公報の段落0066を参照できる。
好ましい一態様では、上記磁気テープは、非磁性層形成用組成物と磁性層形成用組成物とを逐次重層塗布することにより製造することができる。逐次重層塗布を含む製造工程は、好ましくは次のように行うことができる。非磁性層を、非磁性層形成用組成物を非磁性支持体表面上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て形成する。そして形成された非磁性層の表面上に磁性層形成用組成物を塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て、磁性層を形成することができる。
一方、バックコート層は、非磁性支持体の磁性層が形成された(または形成される)表面とは反対の表面側に形成される。好ましくは、バックコート層は、バックコート層形成用組成物を非磁性支持体表面上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て形成することができる。
好ましい一態様では、上記磁気テープは、バックコート層形成工程が、
非磁性粉末、結合剤、硬化剤および溶媒を含むバックコート層形成用組成物を非磁性支持体表面上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、
上記塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程、ならびに、
上記塗布層に硬化処理を施す硬化工程、
を含み、
上記塗布工程と加熱乾燥工程との間に、上記塗布層を冷却する冷却工程を含み、かつ
上記加熱乾燥工程と硬化工程との間に、上記塗布層表面をバーニッシュするバーニッシュ処理工程を含む製造方法により、製造することができる。
上記製造方法のバックコート層形成工程の中で冷却工程およびバーニッシュ処理工程を実施することは、バックコート層側対数減衰率を0.060以下とするための好ましい手段であると本発明者は考えている。詳しくは、次の通りである。
塗布工程と加熱乾燥工程との間に、塗布層を冷却する冷却工程を行うことは、長期保管中に磁気テープのバックコート層表面から遊離する粘着性成分を、上記塗布層の表面および/または表面近傍の表層部分に局在させることに寄与するのではないかと、本発明者は推察している。これは、加熱乾燥工程前に上記塗布層を冷却することにより、加熱乾燥工程における溶媒揮発時に粘着性成分が上記塗布層の表面および/または表層部分に移行しやすくなるためではないかと、本発明者は推察している。ただし、その理由は明らかではない。そして、粘着性成分が表面および/または表層部分に局在した塗布層の表面をバーニッシュ処理することにより、粘着性成分を除去することができると本発明者は考えている。こうして粘着性成分を除去した後に硬化工程を行うことが、バックコート層側対数減衰率を0.060以下にすることにつながると、本発明者は推察している。ただし、以上は推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
以下、一例として、上記磁気テープの製造方法の具体的態様を、図6に基づき説明する。ただし本発明は、下記具体的態様に限定されるものではない。
図6は、非磁性支持体の一方の表面側に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方の表面側にバックコート層を有する磁気テープを製造する工程の具体的態様を示す工程概略図である。図6に示す態様では、非磁性支持体(長尺フィルム)を、送り出し部から送り出し、巻き取り部で巻き取る操作を連続的に行い、かつ図6に示されている各部または各ゾーンにおいて塗布、乾燥、配向等の各種処理を行うことにより、走行する非磁性支持体上の一方の表面側に非磁性層および磁性層を逐次重層塗布により形成し、他方の表面側にバックコート層を形成することができる。バックコート層形成工程に冷却ゾーンを含み、かつ硬化処理前にバーニッシュ処理工程を含む点以外は、塗布型磁気記録媒体の製造のために通常行われる製造工程と同様にすることができる。
送り出し部から送り出された非磁性支持体上には、第一の塗布部において、非磁性層形成用組成物の塗布が行われ、非磁性層形成用組成物の塗布層が形成される(非磁性層形成用組成物の塗布工程)。
第一の加熱処理ゾーンでは、形成された塗布層を加熱することにより、非磁性層形成用組成物の塗布層を乾燥させる(加熱乾燥工程)。加熱乾燥処理は、塗布工程後の塗布層を有する非磁性支持体を加熱雰囲気中に通過させることにより行うことができる。ここでの加熱雰囲気の雰囲気温度は、例えば60〜140℃程度である。ただし、溶媒を揮発させて塗布層を乾燥させることができる温度とすればよく、上記範囲に限定されるものではない。また任意に、加熱した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。以上の点は、後述する第二加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程および第三の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程についても、同様である。
次に、第二の塗布部において、第一の加熱処理ゾーンにて加熱乾燥工程を行い形成された非磁性層表面上に、磁性層形成用組成物が塗布され、磁性層形成用組成物の塗布層が形成される(磁性層形成用組成物の塗布工程)。
その後、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層中の強磁性粉末の配向処理が行われる。配向処理については、特開2010−24113号公報の段落0052を参照することができる。cosθが0.85以上1.00以下である磁気テープを得るための手段の1つとして、垂直配向処理を行うことが好ましい。
配向処理後の塗布層は、第二の加熱処理ゾーンにおいて加熱乾燥工程に付される。
次いで、第三の塗布部において、非磁性支持体の非磁性層および磁性層が形成された表面とは反対の表面上に、バックコート層形成用組成物が塗布されて塗布層が形成される(バックコート層形成用組成物の塗布工程)。
上記塗布工程後、冷却ゾーンにおいて、塗布工程で形成されたバックコート層形成用組成物の塗布層が冷却される(冷却工程)。例えば、上記塗布層を形成した非磁性支持体を冷却雰囲気中に通過させることにより、冷却工程を行うことができる。冷却雰囲気の雰囲気温度は、好ましくは−10℃〜0℃の範囲とすることができ、より好ましくは−5℃〜0℃の範囲とすることができる。冷却工程を行う時間(例えば、塗布層の任意の部分が冷却ゾーンに搬入されてから搬出されるまでの時間(以下において、「滞在時間」ともいう。))は特に限定されるものではない。滞在時間を長くするほど対数減衰率の値は小さくなる傾向があるため、0.060以下の対数減衰率が実現できるように必要に応じて予備実験を行う等して調整することが好ましい。なお冷却工程では、冷却した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。
その後、第三の加熱処理ゾーンにおいて、冷却工程後の塗布層を加熱処理し乾燥させる。
こうして、非磁性支持体の一方の表面側に、非磁性層および磁性層をこの順に有し、他方の表面側に加熱乾燥されたバックコート層形成用組成物の塗布層を有する磁気テープを得ることができる。ここで得られた磁気テープは、この後に、後述する各種処理を施した後に、製品磁気テープとなる。
得られた磁気テープは、巻き取り部に巻き取られた後に、製品磁気テープのサイズに裁断(スリット)される。スリットは、公知の裁断機を用いて行うことができる。
スリットされた磁気テープは、バックコート層形成用組成物に含まれている硬化剤の種類に応じた硬化処理(加熱、光照射等)を行う前に、加熱乾燥されたバックコート層形成用組成物の塗布層の表面をバーニッシュ処理する(加熱乾燥工程と硬化工程との間のバーニッシュ処理工程)。このバーニッシュ処理により、冷却ゾーンにおいて冷却されて塗布層表面および/または表層部分に移行した粘着性成分を除去できることが、バックコート層側対数減衰率を0.060以下にすることにつながると、本発明者は推察している。ただし先に記載した通り、推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
バーニッシュ処理は、部材(例えば研磨テープ、または研削用ブレード、研削用ホイール等の研削具)により処理対象の表面を擦る処理であり、塗布型磁気記録媒体製造のために公知のバーニッシュ処理と同様に行うことができる。ただし、冷却工程および加熱乾燥工程を経た後、硬化工程前の段階でバーニッシュ処理を行うことは、従来行われていなかった。これに対し、上記段階でバーニッシュ処理を行うことにより、バックコート層側対数減衰率を0.060以下にすることができる。
バーニッシュ処理は、好ましくは、研磨テープによって処理対象の塗布層表面を擦る(研磨する)こと、研削具によって処理対象の塗布層表面を擦る(研削する)ことの一方または両方を行うことにより、実施することができる。研磨テープとしては、市販品を用いてもよく、公知の方法で作製した研磨テープを用いてもよい。また、研削具としては、固定式ブレード、ダイヤモンドホイール、回転式ブレード等の公知の研削用ブレード、研削用ホイール等を用いることができる。また、研磨テープおよび/または研削具によって擦られた塗布層表面をワイピング材によって拭き取るワイピング(wiping)処理を行ってもよい。好ましい研磨テープ、研削具、バーニッシュ処理およびワイピング処理の詳細については、特開平6−52544号公報の段落0034〜0048、図1および同公報実施例を参照できる。バーニッシュ処理を強化するほど、バックコート層側対数減衰率の値は小さくなる傾向がある。バーニッシュ処理は、研磨テープに含まれる研磨剤として高硬度な研磨剤を用いるほど強化することができ、研磨テープ中の研磨剤量を増やすほど強化することができる。また、研削具として高硬度な研削具を用いるほどバーニッシュ処理を強化することができる。バーニッシュ処理条件に関しては、処理対象の塗布層表面と部材(例えば研磨テープまたは研削具)との摺動速度を早くするほど、バーニッシュ処理を強化することができる。上記摺動速度は、部材を移動させる速度および処理対象の磁気テープを移動させる速度の一方または両方を速くすることにより、速くすることができる。
上記のバーニッシュ処理(バーニッシュ処理工程)後、バックコート層形成用組成物の塗布層に硬化処理を施す。図6に示す態様では、バックコート層形成用組成物の塗布層には、バーニッシュ処理後、硬化処理前に、表面平滑化処理が施される。表面平滑化処理は、磁気テープの磁性層表面および/またはバックコート層表面の平滑性を高めるために行われる処理であり、カレンダ処理によって行うことが好ましい。カレンダ処理の詳細については、例えば特開2010−231843号公報の段落0026を参照できる。カレンダ処理を強化するほど、磁気テープ表面を平滑化することができる。即ち、磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRaの値を小さくすることができる。カレンダ処理は、カレンダロールの表面温度(カレンダ温度)を高くするほど、および/または、カレンダ圧力を大きくするほど、強化することができる。
その後、バックコート層形成用組成物の塗布層に、この塗布層に含まれる硬化剤の種類に応じた硬化処理を施す(硬化工程)。硬化処理は、加熱処理、光照射等の上記塗布層に含まれる硬化剤の種類に応じた処理によって行うことができる。硬化処理条件は特に限定されるものではなく、塗布層形成に用いたバックコート層形成用組成物の処方、硬化剤の種類、塗布層の厚み等に応じて適宜設定すればよい。例えば、硬化剤としてポリイソシアネートを含むバックコート層形成用組成物を用いて塗布層を形成した場合には、硬化処理は加熱処理であることが好ましい。なおバックコート層以外の層に硬化剤が含まれる場合、その層の硬化反応も、ここでの硬化処理により進行させることもできる。または別途、硬化工程を設けてもよい。なお硬化工程後に、更にバーニッシュ処理を行ってもよい。
以上により、非磁性支持体の一方の表面側に非磁性層および磁性層をこの順に有し、他方の表面側にバックコート層を有する磁気テープであって、磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaが1.0nm以上1.8nm以下であり、磁性層に強磁性六方晶フェライト粉末および非磁性粉末を含み、cosθが0.85以上1.00以下であり、かつバックコート層側対数減衰率が0.060以下である磁気テープを得ることができる。
ただし上記の製造方法は例示であって、cosθ、バックコート層側対数減衰率および上記中心線平均表面粗さRaを調整可能な任意の手段を採用して得られる磁気テープも、本発明に包含される。
以上説明した本発明の一態様にかかる磁気テープは、磁気テープカートリッジに収容され、情報を磁気信号として記録し、保管し、再生するために用いることができる。磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジ、カートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータ(磁気信号)の記録および/または再生のためにドライブ(磁気記録再生装置)に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されてドライブ側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでのテープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)とドライブ側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触(摺動)することにより、磁気信号の記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。本発明の一態様にかかる磁気テープは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジに収容されてもよい。磁気テープカートリッジの構成は公知である。
アーカイブ用の磁気テープは、データ(磁気信号)が記録された後、磁気テープカートリッジ内でリールに巻かれた状態で長期保管される。本発明の一態様にかかる磁気テープは、磁性層の表面平滑性に優れ、かつ長期保管後の電磁変換特性低下の抑制が可能である。
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。
本発明および本明細書における粉末の平均粒子サイズは、特開2016−071926号公報の段落0058〜0061に記載の方法により測定される値である。以下に記載の平均粒子サイズの測定は、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行った。
[実施例1]
1.アルミナ分散物(研磨剤液)の調製
アルファ化率約65%、BET比表面積20m/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT−80)100.0部に対し、3.0部の2,3−ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSONa基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR−4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
2.磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性六方晶バリウムフェライト粉末(活性化体積:表4参照) 100.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g)
分散剤 表4参照
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記1.で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:100nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他成分)
ステアリン酸 2.0部
ブチルステアレート 6.0部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート(登録商標))2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
表4記載の分散剤の合成方法等の詳細は、後述する。
3.非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α−酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SONa基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g)
ステアリン酸 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
4.バックコート層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α−酸化鉄 80.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
塩化ビニル共重合体 13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
メチルエチルケトン 155.0部
ステアリン酸 3.0部
ブチルステアレート 3.0部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネートL) 5.0部
シクロヘキサノン 355.0部
5.各層形成用組成物の調製
(1)磁性層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
上記の磁性液成分をバッチ式縦型サンドミルにおいて分散メディアとしてビーズを用いてビーズ分散することにより、磁性液を調製した。具体的には、各段階(1段階目、2段階目または3段階目)のビーズ分散として、それぞれ表4に示すビーズ径を有するジルコニアビーズを用いて、表4に示す分散滞留時間で分散処理を行った。ビーズ分散では、各段階終了後にそれぞれフィルタ(平均孔径5μm)を用いて得られた分散液を濾過した。各段階のビーズ分散において、分散メディアの充填率は、50〜80体積%程度とした。
こうして得られた磁性液を、上記の研磨剤液、シリカゾル、その他成分および仕上げ添加溶媒と混合し、上記サンドミルを用いて5分間ビーズ分散した後、更にバッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間超音波分散を行った。次いで、得られた混合液をフィルタ(平均孔径0.5μm)を用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
上記のビーズ分散時のサンドミルにおける先端周速は、7〜15m/秒の範囲とした。
(2)非磁性層形成用組成物の調製
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
ステアリン酸、シクロヘキサノンおよびメチルエチルケトンを除いた各成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いてビーズ分散(分散メディア:ジルコニアビーズ(ビーズ径:0.1mm)、分散滞留時間:24時間)して分散液を得た。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバーで攪拌した。次いで、フィルタ(平均孔径0.5μm)を用いて得られた分散液をろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
(3)バックコート層形成用組成物の調製
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
ステアリン酸、ブチルステアレート、ポリイソシアネートおよびシクロヘキサノンを除いた各成分をオープンニーダにより混練および希釈した。その後、得られた混合液に対して、横型ビーズミルにより、ビーズ径1mmのジルコニアビーズを用いてビーズ充填率80体積%およびローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバーで攪拌した。次いで、フィルタ(平均孔径1μm)を用いて得られた分散液をろ過し、バックコート層形成用組成物を調製した。
6.磁気テープの作製
図6に示す具体的態様により磁気テープを作製した。詳しくは、次の通りとした。
厚み4.50μmのポリエチレンナフタレート製支持体を送り出し部から送り出し、一方の表面に、第一の塗布部において乾燥後の厚みが0.40μmになるように上記5.で調製した非磁性層形成用組成物を塗布し、第一の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させて塗布層を形成した。
その後、第二の塗布部において乾燥後の厚みが60nmになるように上記5.で調製した磁性層形成用組成物を非磁性層上に塗布し塗布層を形成した。形成した塗布層が湿潤(未乾)状態にあるうちに配向ゾーンにおいて磁場強度0.3Tの磁場を垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後、その後に雰囲気温度100℃の第二の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させた。
その後、第三の塗布部において、上記ポリエチレンナフタレート製支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面上に、乾燥後の厚みが0.60μmになるように 上記5.で調製したバックコート層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層が湿潤状態にあるうちに雰囲気温度0℃に調整した冷却ゾーンに表4に示す滞在時間で通過させて冷却工程を行った。その後、第三の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて上記塗布層を乾燥させた。
こうして得られた磁気テープを1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットした後、バックコート層形成用組成物の塗布層表面のバーニッシュ処理およびワイピング処理を行った。バーニッシュ処理およびワイピング処理は、特開平6−52544号公報の図1に記載の構成の処理装置において、研磨テープとして市販の研磨テープ(富士フイルム社製商品名MA22000、研磨剤:ダイヤモンド/Cr/ベンガラ)を使用し、研削用ブレードとして市販のサファイヤブレード(京セラ社製、幅5mm、長さ35mm、先端角度60度)を使用し、ワイピング材として市販のワイピング材(クラレ社製商品名WRP736)を使用して行った。処理条件は、特開平6−52544号公報の実施例12における処理条件を採用した。
上記バーニッシュ処理およびワイピング処理後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールで、速度80m/分、線圧300kg/cm(294kN/m)、および表4に示すカレンダ温度にてカレンダ処理(表面平滑化処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間硬化処理(加熱処理)を行い磁気テープを得た。
[実施例2〜11、比較例1〜7]
表4に示すように製造条件を変更した点以外は実施例1と同様の方法により実施例2〜11および比較例1〜7の各磁気テープを得た。
表4に垂直配向処理「有」と記載した実施例および比較例については、塗布した磁性層形成用組成物が未乾状態にあるうちに、実施例1と同様に垂直配向処理を行った。
表4に垂直配向処理「無」と記載した比較例については、塗布した磁性層形成用組成物を、上記垂直配向処理を行わずに乾燥させて磁性層を形成した。
また、表4中、バックコート層形成工程の冷却ゾーン滞在時間の欄および硬化処理前バーニッシュ処理の欄に「未実施」と記載されている比較例では、バックコート層形成工程に冷却ゾーンを含まず、かつバーニッシュ処理およびワイピング処理を行わない製造工程により磁気テープを作製した。
実施例および比較例の各磁気テープの各層および非磁性支持体の厚みを、以下の方法により求めた。形成した各層および非磁性支持体の厚みが先に記載した厚みであることが確認された。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行った。断面観察において厚み方向の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めた。
[比較例8]
磁性層形成用組成物を研磨剤液およびシリカゾルを添加せずに調製した点以外は実施例1と同様の方法により比較例8の磁気テープを得た。
7.分散剤の調製
磁性液に用いた表4に記載の分散剤1〜3は、以下の方法によって調製した。以下に合成反応に関して記載する温度は、反応液の液温である。
比較例7では、分散剤1〜3に代えて2,3−ジヒドロキシナフタレンを磁性液に用いた。2,3−ジヒドロキシナフタレンは、特開2012−203955号公報において角型比の調整のために磁性層形成用組成物の添加剤として用いられている化合物である。
(1)分散剤1の調製
<前駆体1の合成>
500mL三口フラスコに、ε−カプロラクトン197.2gおよび2−エチル−1−ヘキサノール15.0gを導入し、窒素を吹き込みながら、攪拌溶解した。モノブチル錫オキシド0.1gを加え、100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体1(下記構造)を200g得た。
<分散剤1の合成>
200mL三口フラスコに、得られた前駆体1を40.0g導入し、窒素を吹き込みながら、80℃で攪拌溶解した。meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物2.2gを加え、110℃に加熱した。5時間後、H−NMRにて、前駆体1由来のピークが消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の反応生成物1(以下の構造異性体の混合物)を38g得た。こうして得られた反応生成物1は、表1に示した化合物1とその構造異性体の混合物である。反応生成物1を、「分散剤1」と呼ぶ。
(2)分散剤2の調製
<分散剤2の合成>
ブタンテトラカルボン酸無水物2.2gを、ピロメリット酸二無水物2.4gに変更した点以外は分散剤1の合成と同様に合成を行い、固体状の反応生成物2(以下の構造異性体の混合物)を38g得た。こうして得られた反応生成物2は、表1に示した化合物2とその構造異性体の混合物である。反応生成物2を、「分散剤2」と呼ぶ。
(3)分散剤3の調製
<ポリエステル(i−1)の合成>
500mL三口フラスコに、カルボン酸としてn−オクタン酸(和光純薬社製)12.6g、ラクトンとしてε−カプロラクトン(ダイセル工業化学社製プラクセルM)100g、触媒としてモノブチルすずオキシド(和光純薬社製)(CSn(O)OH)2.2gを混合し、160℃で1時間加熱した。ε−カプロラクトン100gを5時間かけて滴下し更に2時間攪拌した。その後、室温まで冷却しポリエステル(i−1)を得た。
合成スキームを以下に示す。
<分散剤3(ポリエチレンイミン誘導体(J−1))の合成>
ポリエチレンイミン(日本触媒社製SP−018、数平均分子量1800)5.0gおよび得られたポリエステル(i−1)100gを混合し、110℃で3時間加熱して、ポリエチレンイミン誘導体(J−1)を得た。ポリエチレンイミン誘導体(J−1)を、「分散剤3」と呼ぶ。
合成スキームを以下に示す。下記合成スキーム中、a、bおよびcはそれぞれ繰り返し単位の重合モル比を示し、0〜50であり、a+b+c=100である。l、m、n1およびn2はそれぞれ繰り返し単位の重合モル比を示し、lは10〜90、mは0〜80、n1およびn2は0〜70であり、かつl+m+n1+n2=100である。
分散剤1および2の重量平均分子量は、一般式1で表される化合物の重量平均分子量の測定方法として先に記載した方法により測定した。測定の結果、分散剤1の重量平均分子量は9200であり、分散剤2の重量平均分子量は6300であった。
分散剤3(ポリエチレンイミン誘導体(J−1))の重量平均分子量を、先に記載した具体例の測定条件下でGPCにより測定された値を標準ポリスチレン換算して求めたところ、表3に示す値であった。
上記の他の重量平均分子量は、下記測定条件下でGPCによって測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mm (内径)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
8.活性化体積の測定
活性化体積の測定用試料として、磁性層形成用組成物の調製に用いた強磁性六方晶バリウムフェライト粉末と同じ粉末ロット内の粉末を使用した。測定は、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いてHc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで行い、先に記載した関係式から活性化体積を算出した。測定は23℃±1℃の環境で行った。算出された活性化体積を表4に示す。
9.cosθの測定
実施例および比較例の各磁気テープから断面観察用試料を切り出し、この試料を用いて上述した方法でcosθを求めた。実施例および比較例の各磁気テープについて求められたcosθを表4に示す。なお、実施例および比較例の各磁気テープにおいて、STEM像で観察された全六方晶フェライト粒子に対して、cosθの測定対象とされる上述の範囲のアスペクト比および長軸方向の長さを有する六方晶フェライト粒子の占める割合は、粒子数基準で80〜95%程度であった。
cosθの測定に用いる断面観察用試料は、以下の方法により作製した。
(i)保護膜付試料の作製
以下の方法により、保護膜(カーボン膜と白金膜との積層膜)付試料を作製した。
cosθを求める対象の磁気テープから、磁気テープの幅方向10mm×長手方向10mmのサイズの試料を剃刀を用いて切り出した。試料について以下に記載する幅方向とは、切り出す前の磁気テープにおいて幅方向であった方向をいうものとする。長手方向についても同様である。
切り出した試料の磁性層表面に保護膜を形成して保護膜付試料を得た。保護膜の形成は、以下の方法により行った。
上記試料の磁性層表面に、真空蒸着によりカーボン膜(厚み80nm)を形成し、形成したカーボン膜表面にスパッタリングにより白金(Pt)膜(厚み30nm)を形成した。カーボン膜の真空蒸着および白金膜のスパッタリングは、それぞれ下記条件で行った。
<カーボン膜の真空蒸着条件>
蒸着源:カーボン(直径0.5mmのシャープペンシルの芯)
真空蒸着装置のチャンバー内真空度:2×10−3Pa以下
電流値:16A
<白金膜のスパッタリング条件>
ターゲット:Pt
スパッタリング装置のチャンバー内真空度:7Pa以下
電流値:15mA
(ii)断面観察用試料の作製
上記(i)で作製した保護膜付試料から、ガリウムイオン(Ga)ビームを用いるFIB加工によって薄膜状の試料を切り出した。切り出しは、以下の2回のFIB加工により行った。FIB加工における加速電圧は30kVとした。
1回目のFIB加工では、保護膜表面から深さ約5μmの領域までを含む保護膜付試料の長手方向の一方の端部(即ち保護膜付試料の幅方向の一方の側面を含む部分)を切り出した。切り出された試料には、保護膜から非磁性支持体の一部までが含まれる。
次いで、切り出された試料の切り出し面側(即ち、切り出しにより露出した試料断面側)にマイクロプローブを取り付け、2回目のFIB加工を行った。2回目のFIB加工では、切り出し面側とは逆の面(即ち、上記の幅方向の一方の側面)側にガリウムイオンビームを当てて試料の切り出しを行った。2回目のFIB加工における切り出し面を、STEM観察用のメッシュの端面に貼り合わせて試料を固定した。固定後、マイクロプローブを除去した。
更に、メッシュに固定された試料からマイクロプローブを除去した面に、上記と同様の加速電圧でガリウムイオンビームを当ててFIB加工を行い、メッシュに固定された試料を更に薄膜化した。
こうして作製されたメッシュに固定された断面観察用試料を走査透過型電子顕微鏡により観察して、先に記載した方法によりcosθを求めた。こうして求められたcosθを、表4に示す。
10.磁性層表面で測定される中心線平均表面粗さRa
実施例および比較例の各磁気テープの磁性層表面において、原子間力顕微鏡(AFM、Veeco社製Nanoscope4)を用い、測定面積40μm×40μmの範囲を測定して中心線平均表面粗さRaを求めた。スキャン速度(探針移動速度)は40μm/秒、分解能は512pixel×512pixelとした。
11.バックコート層側対数減衰率
測定装置として、株式会社エー・アンド・ディー製剛体振り子型物性試験器RPT−3000W(振り子:真鍮製、基板:ガラス基板、基板昇温速度5℃/min)を用いて、先に記載した方法により実施例および比較例の各磁気テープのバックコート層表面において対数減衰率を求めた。実施例および比較例の各磁気テープから切り出した測定用試料は、約3cm×約5cmのサイズのガラス基板上に、固定用テープ(東レ・デュポン製カプトンテープ)で図1に示すように4箇所を固定し載置した。吸着時間を1秒間かつ測定間隔を7〜10秒とし、86回目の測定間隔について変位−時間曲線を作成し、この曲線を用いて対数減衰率を求めた。測定は、相対湿度約50%の環境下にて行った。
12.角型比(Squareness Ratio;SQ)
実施例および比較例の磁気テープの角型比を、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定した。
13.長期保管相当加速試験後の電磁変換特性(SNR(Signal−to−Noise−Ratio))の変化(SNR低下)
実施例および比較例の各磁気テープについて、長期保管相当加速試験の前後でSNR測定を行うため、2つのテープ試料を準備した。一方のテープ試料は、長期保管相当加速試験を実施せずにSNR測定に用いた。他方のテープ試料は、長期保管相当加速試験後にSNR測定に用いた。長期保管相当加速試験は、全長1000mのテープ試料を、リールに巻き取った状態で温度40℃相対湿度80%の環境下に5日間保管することにより行った。この加速試験は、室温(20〜25℃程度)環境での10年以上の保管に相当する。
電磁変換特性(SNR)は、ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用いて以下の方法により測定した。
ヘッド/テープ相対速度を5.5m/秒とし、記録はMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使い、記録電流は各テープ試料の最適記録電流に設定した。再生ヘッドには素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよびリード幅0.5μmのGMR(Giant−Magnetoresistive)ヘッドを用いた。350KFciの線記録密度で記録を行い、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。信号は、テープ試料の走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。キャリア信号の出力値と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNR(Broadband−SNR;BB−SNR)とした。
SNRは、比較例1の加速試験前のSNRを基準(0dB)としたときの相対値として求めた。
上記方法により測定されたSNRの加速試験後の低下量(加速試験後SNR−加速試験前SNR)が−0.5dB以内であれば、長期保管後の電磁変換特性の低下が少なく、アーカイブ用記録媒体として好適な磁気テープと判断することができる。
以上の結果を、表4に示す。
比較例1と比較例2〜8との対比から、長期保管相当の加速試験後のSNRの低下は、磁性層表面で測定される中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下である表面平滑性に優れた磁性層を有する磁気テープにおいて顕著に発生することが確認された。
これに対し、表4に示す結果から、実施例の磁気テープは、磁性層表面で測定される中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下である表面平滑性に優れた磁性層を有し、かつアーカイブ用記録媒体のデータ保管に相当する長期保管相当の加速試験後のSNRの低下が抑制されていることが確認できる。
また、表4に示す結果から、cosθとSNR低下の程度との間には、cosθの値が大きくなるほどSNR低下が抑制されるという良好な相関関係があることが確認できる(例えば、中心線平均表面粗さRaおよびバックコート層側対数減衰率が同じ値である実施例1〜6参照)。これに対し、そのような相関関係は、表4に示すように角型比(SQ)とSNR低下の程度との間には見られなかった。
本発明は、アーカイブ用記録媒体として用いられる磁気テープの技術分野において有用である。

Claims (11)

  1. 非磁性支持体の一方の表面側に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の表面側に非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有する磁気テープであって、
    前記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは、1.0nm以上1.8nm以下であり、
    前記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、前記磁性層は非磁性粉末を含み、
    走査透過型電子顕微鏡を用いて行われる断面観察によって求められる前記磁性層の表面に対する前記強磁性六方晶フェライト粉末の傾きcosθは、0.85以上1.00以下であり、かつ
    前記バックコート層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は、0.060以下である磁気テープ。
  2. 前記対数減衰率は0.010以上0.060以下である、請求項1に記載の磁気テープ。
  3. 前記対数減衰率は0.010以上0.050以下である、請求項1または2に記載の磁気テープ。
  4. 前記cosθは0.89以上1.00以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  5. 前記cosθは0.95以上1.00以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  6. 前記中心線平均表面粗さRaは1.2nm以上1.8nm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  7. 前記磁性層は、重量平均分子量が1,000以上80,000以下であるポリエステル鎖含有化合物を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  8. 前記強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は800nm以上2500nm以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  9. 前記磁性層と前記非磁性支持体との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  10. 前記非磁性粉末は研磨剤を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気テープ。
  11. 前記非磁性粉末はコロイダルシリカを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気テープ。
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