JP5513802B2 - 等電点電気泳動用ゲル及び等電点電気泳動方法 - Google Patents
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Description
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、ゲル長が5〜10cmの範囲内であって、ゲルのpH範囲が3〜10であり、泳動方向に対するゲルのpH勾配が、pH5までのゲル長をa、pH5〜7のゲル長をb、pH7以上のゲル長をcとした場合において、「a<b」及び「b>c」の関係を満たす、等電点電気泳動用ゲルである。
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る等電点電気泳動用ゲルの泳動方向に対するpH勾配が、ゲルの全長を1とした場合にaが0.15〜0.3の範囲内、bが0.4〜0.7の範囲内、cが0.15〜0.3の範囲内である、等電点電気泳動用ゲルである。
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、第1発明又は第2発明に記載した等電点電気泳動用ゲルを用いて等電点電気泳動を行う、等電点電気泳動方法である。
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第3発明に係る等電点電気泳動方法を2次元電気泳動における1次元目の電気泳動として行う、等電点電気泳動方法である。
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第3発明又は第4発明に係る等電点電気泳動方法の検体が生物細胞の抽出物である、等電点電気泳動方法である。
等電点電気泳動用ゲルにおいて、泳動方向に対して一定の直線的なpH勾配を設定するという前提のもとでは、その分離能を高めるためには、一般的にゲル長を全体的に長くすることが考えられる。しかし、この場合、泳動時間も長くなり、装置の小型化、高スループットの実現は困難である。
第3発明の等電点電気泳動方法を2次元電気泳動における1次元目の電気泳動として行うことにより、第3発明の効果が確保されることに加えて、2次元目のSDS−PAGE等に用いる分離ゲルの幅も合理的に短くできるので、2次元電気泳動装置を、高分離能を損なうことなく小型化することができる。
第5発明に規定するように、第3発明又は第4発明に係る等電点電気泳動方法に供する検体としては、第1発明に関して前記した理由から生物細胞の抽出物が好ましい。特に動物細胞の抽出物が好ましく、とりわけヒト細胞の抽出物が好ましい。
本発明の等電点電気泳動用ゲルは、ゲル長が5〜10cmの範囲内であり、更に好ましくは5〜8cmの範囲内である。ゲルのpHの範囲は3〜10にわたる。更に、泳動方向に対するゲルのpH勾配が、pH5までのゲル長をa、pH5〜7のゲル長をb、pH7以上のゲル長をcとした場合に「a<b」及び「b>c」の関係を満たすものであり、より好ましくは、ゲルの全長を1とした場合に、aが0.15〜0.3の範囲内、bが0.4〜0.7の範囲内、cが0.15〜0.3の範囲内であり、更に好ましくは、「a+c≦b」の関係を満たすものである。このようなゲルのpH勾配の設定は、前記した生物細胞の抽出物に含まれる各種蛋白質の等電点の分布に対応したものである。
本発明の等電点電気泳動方法において、泳動に用いられる機器は特に限定されない。しかし、小型装置・高分解能・高スループットを実現するためには、ゲル長5〜10cmのゲルの使用に合致した電気泳動用機器が好ましい。
〔2次元電気泳動〕
本発明の等電点電気泳動方法は、2次元電気泳動における1次元目の電気泳動として行うこともできる。この場合、2次元目の電気泳動は、必ずしも限定されないが、SDS−PAGEであることが好ましい。1次元目の等電点電気泳動が小型装置で行われ、高分解能を有し、高スループットを実現している場合、2次元目の電気泳動も装置を小型化でき、高分解能、高スループットを実現できる。よって、本発明は単独に行う等電点電気泳動のみならず、2次元電気泳動における1次元目の電気泳動にも適用できる。2次元電気泳動を行う場合、等電点電気泳動に続いて、好ましくはSDS−PAGEが行われるので、以下、2次元目のSDS−PAGEについて説明する。
〔2次元目のSDS−PAGE〕
1次元目電気泳動の完了後、その1次元目電気泳動ゲルを2次元目電気泳動用ゲル上へ設置するプロセスでは、接着用(封入用)アガロースとしてゲル化温度が35〜40℃である高融点アガロースを用い、かつ、この接着用アガロースを予め2次元目電気泳動用ゲル上へ流し込んだ後に前記1次元目電気泳動ゲルを設置することが好ましい。
〔2次元目電気泳動用ゲル基端部のゲル濃度〕
1次元目電気泳動用ゲルのゲル長が短く設定されている場合には、2次元目として行うSDS−PAGEでは、その電気泳動用ゲルにおける泳動方向基端部のゲル濃度が3〜6%程度の低濃度であることが好ましい。ゲル濃度とは、直接的には当該ゲルの重合反応時のモノマー濃度を意味するが、重合反応時のモノマー濃度が高い程ゲルの網目構造は密になるので、実質的にはゲルの網目構造の密度を意味する。
本発明である等電点電気泳動に適用される検体は特に限定されないが、動物、植物、微生物由来の抽出物や、化学、生化学的に合成された化合物、蛋白質、核酸等を含む種々の検体が適用できる。
等電点電気泳動においては、検体中の蛋白質等の分離対象物質が有する等電点を利用して分離を行う。正に荷電した分離対象物質は陰極側に移動し、他方、負に荷電した分離対象物質は陽極側に移動する。そして、等電点(pI)と等しいpHのゲルの位置で分離対象物質の正味の電荷がゼロとなり、泳動を止める。よって泳動開始後は荷電状態の化合物が移動するので、電流が流れることとなる。
(蛋白質の抽出)
ヒトケラチノサイトからなる再構成3次元培養皮膚(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製の商品名LabCyte EPI-MODEL 12)の培養物1枚(約1cm2)を、蛋白質抽出液であるmammalian cell lysis kit;MCL1(SIGMA−ALDRICH社製)500μlに浸漬し、4℃で2時間、voltexを使用して振とう破砕した。この振とう破砕の後、蛋白質抽出液を回収した。上記のmammalian cell lysis kit;MCL1の組成は下記の通りである。
50mM Tris−HCl pH7.5
1mM EDTA
250mM NaCl
0.1%(w/v) SDS
0.5%(w/v) Deoxycholic acid sodium salt
1%(v/v) Igepal CA-630(SIGMA−ALDRICH社製の界面活性剤(Octylphenoxy)polyethoxyethanol)
適量のProtease Inhibitor
その後、2D-CleanUPキット〔GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社(以下、GE社と省略する)製〕を使用して2回の沈殿操作を行った。第1回目の沈殿操作は、回収した上記蛋白質抽出液にTCAを加えて沈殿を行い、当該操作で生じた沈殿(TCA沈殿)を回収した。第2回目の沈殿操作は、回収した前記TCA沈殿にアセトンを加えて沈殿を行い、当該操作で得られた沈殿(検体)を回収した。回収した当該検体は全量500μgであった。
得られた検体の一部30μgを、1次元目等電点電気泳動用ゲルの膨潤用緩衝液であるDeStreak Rehydration Solution(GE社製)130μlに溶解し、1次元目等電点電気泳動用の検体溶液(膨潤用検体溶液)とした。DeStreak Rehydration Solutionの組成は以下の通りである。
7M Thiourea
2M Urea
4%(w/v) CHAPS:
3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate
0.5%(v/v) IPGbuffer;GE社製
適量のDeStreakReagent;GE社製
適量のBPB(ブロモフェノールブルー)
(1次元目等電点電気泳動用ゲルの調製)
前記したIPG法により、本実施例で用いる1次元目の等電点電気泳動用ゲル(ポリアクリルアミドゲル)を調製した。このゲルは長さが7cmで径が約0.3cmの棒状ゲルであり、T=4%、C=3%であって、次のpH勾配上の特徴を備えている。
pHの範囲:3〜10
pH3〜5のゲル長:1.7cm
pH5〜7のゲル長:3.6cm
pH7〜10のゲル長:1.7cm
(1次元目等電点電気泳動用ゲルへの検体の浸透)
上記の1次元目等電点電気泳動用ゲルを前記した1次元目等電点電気泳動用の検体溶液(膨潤用検体溶液)130μlに浸漬した後、当該ゲルの両端部側からシリコンオイルを流し込んだ。両端部側から流し込んだシリコンオイルは、ゲルの内側に向かって広がった。シリコンオイルがゲルを覆った状態で、一晩、室温にて検体溶液をゲルに浸透させた。その後シリコンオイルは廃棄した。
本実施例においては、電気泳動機器としてGE社製のIPGphorと Cup Loading Manifold Light Kitを使用した。
上記の1次元目の等電点電気泳動を行った後、等電点電気泳動機器からゲルを取り外し、還元剤を含む平衡化緩衝液に当該ゲルを浸漬して、15分・室温にて振とうした。上記還元剤を含む平衡化緩衝液の組成は以下の通りである。
100mM Tris−HCl(pH8.0)
6M Urea
30%(v/v) Glycerol
2%(w/v) SDS
1%(w/v) DTT
次に、上記還元剤を含む平衡化緩衝液を除き、ゲルをアルキル化剤を含む平衡化緩衝液に浸漬して、15分・室温にて振とうし、SDS平衡化したゲルを得た。上記アルキル化剤を含む平衡化緩衝液の組成は以下の通りである。
100mM Tris−HCl(pH8.0)
6M Urea
30%(v/v) Glycerol
2%(w/v) SDS
2.5%(w/v) Iodoacetamide
(2次元目のSDS−PAGE)
本実施例においては、電気泳動機器としてInvitrogen社製のXCell SureLock Mini-Cellを使用した。2次元目泳動用ゲルはInvitrogen社製NuPAGE 4-12% Bis-Tris Gelsを使用した。また、以下の組成の泳動用緩衝液を調製し、使用した。
50mM MOPS
50mM Tris base
0.1%(w/v) SDS
1mM EDTA
又、本実施例においては泳動用緩衝液に0.5%(w/v)のアガロースS(ニッポンジーン社製:融解温度≦90℃、ゲル化温度37℃〜39℃のいわゆる高融点アガロース)と適量のBPB(ブロモフェノールブルー)を溶解させた接着用アガロース溶液を使用した。
SyproRuby(Invitrogen社製)を用いてゲルの蛍光染色を行った。
上記一連の処理を施した2次元目泳動用ゲルをTyphoon9400(GE社製)を使用した蛍光イメージのスキャンに供した。2次元電気泳動の結果を図1に示す。図1の上端には1次元目に用いた等電点電気泳動用ゲルのpH勾配を目盛りによって示し、図1の左端にはマーカーの分子量(KDa)を示す。
第2実施例では、2D−DIGEを行った。第2実施例においては、第1実施例に記載した手順の内、「(検体溶液の調製)」の項の手順を下記「(2D−DIGEにおける検体溶液の調製)」の項の手順に変更し、又、「(ゲルの蛍光染色)」のプロセスを省略した以外は、第1実施例と同様の手順の操作を行った。
得られた検体の全量を下記の組成の溶液100μlに溶解した。
30mM Tris−HCl(pH8.5)
2M ThioUrea
7M Urea
4%(w/v) CHAPS
溶解したサンプル20μgに対しCydye(GE社製)160pmolを添加し、その溶液の入った容器を氷上で30分間静置した。その後10mMリジン水溶液を0.5μl添加して更に10分間、容器を氷上で静置した。このような処理を行った後、溶液を等電点電気泳動に適した量である130μlまでDeStreak Rehydration Solutionでメスアップした。メスアップ後充分に攪拌し、氷上で10分以上静置して、1次元目の等電点電気泳動用の検体溶液とした。
長さ7cmの1次元目等電点電気泳動用ゲルを、前記第1実施例の「(1次元目等電点電気泳動用ゲルの調製)」の項と同じ手法により調製した。但しこのゲルは、pH勾配が下記のように全体としてほぼ直線的である点が、第1実施例の場合とは異なる。
pHの範囲:3〜10
pH3〜5のゲル長:2.1cm
pH5〜7のゲル長:2.45cm
pH7〜11のゲル長:2.45cm
本比較例では、1次元目等電点電気泳動用ゲルとして上記のゲルを用いた点以外は、検体の調製からゲルの蛍光染色及び解析に至る全てのステップを第1実施例と全く同様に行った。
(1)全体として図2に見られるpH5〜7領域(酸性〜中性領域)のスポットの詰まりが、図1では良好に分離されている。例えば、70KDa前後の分子量でpH5〜5.5辺りの領域において、図1ではスポットの細かな分離が見られるが、図2ではスポットの分離が不十分である。又、45KDa前後の分子量でpH5.5辺りの領域においても、同様の指摘をすることが可能である。
(2)全体として図2ではpH7〜10領域(中性〜塩基性領域)での過剰な分離能が認められ、このpH領域においては図1に示される程度の分離能で必要にして十分である。この点は、具体的には、例えば45KDa〜70KDaの分子量でpH7〜10辺りの領域、又は15KDa〜30KDaの分子量でpH7〜10辺りの領域における図1と図2とのスポット分離能の対比から確認できる。
Claims (4)
- 下記(1)の条件を満たす1次元目の等電点電気泳動を行い、下記(2)の条件を満たす平衡化緩衝液処理を行い、下記(3)の条件を満たす2次元目のSDS−PAGEを行うことを特徴とする2次元電気泳動方法。
(1)検体がヒトケラチノサイトの抽出物であり、
ゲル長が5〜10cmの範囲内であって、ゲルのpH範囲が3〜10であり、泳動方向に対するゲルのpH勾配が、pH5までのゲル長をa、pH5〜7のゲル長をb、pH7以上のゲル長をcとし、ゲルの全長を1とした場合にaが0.15〜0.3の範囲内、bが0.4〜0.7の範囲内、cが0.15〜0.3の範囲内である等電点電気泳動用ゲルを用いて行う。
(2)上記等電点電気泳動を行ったゲルを、還元剤を含む平衡化緩衝液で処理し、次いでアルキル化剤を含む平衡化緩衝液で処理する。
(3)Bis−Tris Gelを用いて行う。 - 前記還元剤がDTTであり、前記アルキル化剤がヨードアセトアミドであることを特徴とする請求項1に記載の2次元電気泳動方法。
- 前記Bis−Tris Gelの泳動方向基端部のゲル濃度が3〜6%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の2次元電気泳動方法。
- 前記Bis−Tris Gelのゲル濃度が4〜12%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の2次元電気泳動方法。
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