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JP4638138B2 - 圧力容体とその製造方法および圧縮機とその構成部材 - Google Patents

圧力容体とその製造方法および圧縮機とその構成部材 Download PDF

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Description

本発明は、鉄基多孔質体を軽合金で鋳包んだ複合化鋳造部材を備える圧力容体とその製造方法およびその複合化鋳物部材からなる圧縮機の構成部材とその構成部材からなる圧縮機に関するものである。
軽量化、高性能化、リサイクル化等の観点から、各種部材は、鉄鋼や鋳鉄等の鉄系材料からアルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属材料へ移行されつつある。もっとも、部材全体をそれらの軽合金材料で完全に置換すると、強度、剛性、摺動性、耐摩耗性、耐久性等の確保が困難となる。このため、軽金属からなる母材中にセラミック繊維やセラミック粒子等の強化材を分散させた複合材料や高い摺動特性等が要求される部位にのみ鉄系部材を配置してその周囲を軽金属の溶湯で鋳包んだ鋳造部材(本明細書ではこれを「複合化鋳造部材」という。)などが使用される。このような適用例として、エンジンのシリンダブロック(特にそのシリンダライナ)がある。シリンダライナには高い耐摩耗性や耐焼付き性等が要求されるので、そこに上記複合材料を使用したり、鋳鉄製のスリーブをアルミニウム合金中に鋳包んだりしている。また、下記特許文献1には、アルミニウム合金からなるマトリックス中に短繊維およびウイスカを分散させた複合材料を、斜板式コンプレッサの斜板に使用した例が開示されている。これにより、その斜板の耐焼付性や耐摩耗性の向上を図っている。また、下記特許文献2には、上記シリンダライナ等に適用できる複合材料が開示されている。さらに、下記の特許文献3および特許文献4には、シリンダライナに相当する部分にステンレス製多孔質体を配置してそれをアルミニウム合金で鋳包んだシリンダブロックが開示している。
特公昭63−40943号公報 特開平11−293364号公報 特開2003−181620号公報 特開2003−181622号公報
ところで、複合材料は、上記特許文献に開示されているように高い耐摩耗性等が要求される部材等に使用されることも多いが、高強度が要求される部材等にも使用される。これは複合化鋳造部材についても同様である。例えば、高圧力の作用する容体やハウジング等に複合材料を使用したり、複合化鋳物部材で構成したりすることが考えられる。
しかし、複合材料は、高価なセラミック繊維等を強化材とする複合材料の使用は、低コスト化が要求される量産品には不向きである。また、セラミック繊維等は非常に硬質であるため、複合材料を使用した部材は加工困難である。また、シリンダブロックのライナのように、鋳鉄製品をそのまま鋳包むと、複合化鋳物部材の重量が増大して部材の軽量化を図れない。また、中実の鋳物製品を鋳包むと、鋳包材との界面での密着性が悪く、使用中に両者が界面で分離することもある。
そこで、軽量化および密着性を改善するために、上記特許文献3または特許文献4のように、鉄基多孔質体を鋳包んだ複合化鋳物部材も考えられる。しかし、軽量化および密着性を向上させるために、鉄基多孔質体の空孔率を大きくすると(つまり、鉄の占有体積率(Vf)を小さくすると)、当然、その鉄基多孔質体の強度は低下して、複合化鋳物部材の補強効果が低下する。逆に、鉄基多孔質体の空孔率を小さくすると(つまり、Vfを大きくすると)、その強度は向上するものの、その内部への鋳包材の含浸が困難となり、鉄基多孔質体と鋳包材との間の密着性が低下し易くなる。なお、密着性が低下して、両者間で分離や剥離等を生じると、鉄基多孔質体による複合化鋳物部材の補強効果も損なわれ、鉄基多孔質体のみで実質的に強度が担われることとなり、結局、複合化鋳造部材の高強度化は望めない。ちなみに、上記の特許文献3および特許文献4で開示されているステンレス製多孔質体のVfは全体的に均一な10〜30%であり、空孔率が大きいため、シリンダライナとしての耐摩耗性は確保されるとしても、それによる補強効果は乏しい。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、鉄基多孔質体と鋳包材との間の強固な密着性を確保しつつ、鉄基多孔質体によって十分な補強効果が発揮される複合化鋳物部材からなる圧力容体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、その複合化鋳物部材を使用した圧縮機とその複合化鋳物部材からなる圧縮機の構成部材も併せて提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、鋳包材中に鋳包む鉄基多孔質体の空孔率を部位によって変更することを思いつき、これに基づいて本発明を完成するに至った。
(複合化鋳造部材)
すなわち、本発明の圧力容体は、鉄(Fe)を主成分とし多数の空孔を有する鉄基多孔質体と、アルミニウム(Al)またはマグネシウム(Mg)を主成分とし該鉄基多孔質体の少なくとも一部を鋳包む鋳包材とからなる複合化鋳造部材により少なくとも一部が構成された圧力容体であって、
前記鉄基多孔質体は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する前記鋳包材との境界近傍に設けられた空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有し、前記複合化鋳造部材中の該鉄基多孔質体と該鋳包材とは該結合部に該鋳包材が含浸凝固して強固に結合しており、前記鉄基多孔質体は樋状であることを特徴とする。
本発明に係る鉄基多孔質体は、先ず、鋳包材との境界となる結合部での空孔率が大きい。このため、実際にその鉄基多孔質体を鋳包材中に鋳包む際、鋳包材の溶湯がその結合部へ多量に含浸されて凝固する。その結果、少なくとも鋳包材と鉄基多孔質体の結合部との間で大きなアンカ効果を生じて、機械的に強固な結合がなされる。勿論、鉄基多孔質体と鋳包材との間で化学的な結合がなされる場合も考えられる。いずれにしても、鋳包材と直接的に接触する鉄基多孔質体の境界部分で鉄基多孔質体と鋳包材とは強固に結合または接合される。このため、両者間の分離、剥離等は十分に抑止される。
次に、本発明に係る鉄基多孔質体は、結合部以外にも補強部を有する。この補強部は、空孔率が小さく高密度で(つまり、Vfが高くて)高強度である。従って、補強部を備えた鉄基多孔質体は比較的強度の低い鋳包材を十分に補強し得る。なお、その補強部は、結合部以外に設けられるが、結合部以外の全部が補強部となっていなくても良い。圧力容体に応じて求められる強度を複合化鋳造部材によって確保される限り、補強部の位置や割合は問わない。例えば、鉄基多孔質体の全表面が鋳包材で完全に鋳包みされる場合なら、全外周面に結合部を設け、鉄基多孔質体の中心部または中央部に補強部を設ければ良い。鉄基多孔質体の一方の面のみが鋳包材で鋳包みされる場合なら、その面に結合部を設け、その他方の面に補強部を設ければ良い。
このように本発明の圧力容体は、鉄基多孔質体と鋳包材との間の密着性が十分に確保されると共に鉄基多孔質体が高強度な補強部を備えるため、複合化鋳造部材による補強効果が安定して確実に発揮され、圧力容体として十分な強度がその軽量化等と共に発現される。
ここで、本発明でいう圧力容体は、高圧の流体(気体や流体)を保持するタンクやボンベ等の圧力容器であっても良いし、エンジンや圧縮機のシリンダ、配管用のパイプ等でも良い。圧力容体は高圧の流体を内蔵するものであるため、全体としては密閉空間を形成しているが、全体が一つの部材となっている必要はない。例えば、エンジンや圧縮機のシリンダやハウジングのように、筒状部材(シリンダボア)と、ピストンと、シリンダヘッドまたはバルブプレート等によって前記密閉空間が形成されるものであれば良い。これらのいずれの部材が本発明の複合化鋳造部材からなっても良い。もっとも複合化鋳造部材としての代表例は、シリンダ自体やそれを囲繞するシリンダブロックまたはハウジング等の筒状部材である。このような場合は、前記鉄基多孔質体および前記複合化鋳造部材は筒状部材となる。このとき、複合化鋳物部材の内周面側から内圧が作用することとなる。また、このような筒状部材では、内周面側に最大応力が作用し易いので、その部分が鉄基多孔質体の補強部によって有効に補強されているのが良い。そこで、前記鉄基多孔質体は結合部を外周面側に有すると共に補強部を内周側に有し、複合化鋳物部材は鉄基多孔質体を結合部側から鋳包材で鋳包んでなると好適である。
(圧力容体の製造方法)
本発明は、上記圧力容体のみならず、その製造方法としても把握できる。
すなわち、本発明は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有する樋状の鉄基多孔質体を配置した鋳型のキャビティに、AlまたはMgを主成分とした鋳包材の溶湯を注湯して該結合部側から該鉄基多孔質体の内部へ該溶湯を含浸させる含浸工程と、
該含浸工程後に冷却して該鋳包材の溶湯を凝固させる凝固工程とを備えてなり、前記鉄基多孔質体が前記結合部で前記鋳包材と強固に結合しつつ該鋳包材に鋳包まれてなる複合化鋳造部材を少なくとも一部に備える圧力容体が得られることを特徴とする圧力容体の製造方法としても良い。
(圧縮機の構成部材)
上記圧力容体の代表例として圧縮機またはその構成部材がある。そこで、本発明は、上記複合化鋳物部材を使用した圧力容体としてのみならず、その複合化鋳物部材を使用した圧縮機の構成部材としても把握できる。
すなわち、本発明は、吸入した作動流体を圧縮して高圧状態の作動流体を吐出する圧縮機を構成する構成部材であって、
前記構成部材の少なくとも一部は、Feを主成分とし多数の空孔を有する樋状の鉄基多孔質体と、AlまたはMgを主成分とし該鉄基多孔質体の少なくとも一部を鋳包む鋳包材とからなる複合化鋳造部材からなり、
前記鉄基多孔質体は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する前記鋳包材との境界近傍に設けられた空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有し、前記複合化鋳造部材中で該鉄基多孔質体と該鋳包材とは該結合部に該鋳包材が含浸凝固して強固に結合していることを特徴とする圧縮機の構成部材としても良い。
(圧縮機)
また本発明は、上記圧縮機の構成部材としてのみならず、その構成部材からなる圧縮機としても把握できる。
すなわち、本発明は、吸入した作動流体を圧縮して高圧状態の作動流体を吐出する圧縮機において、前記圧縮機の構成部材の少なくとも一部は、Feを主成分とし多数の空孔を有する樋状の鉄基多孔質体と、AlまたはMgを主成分とし該鉄基多孔質体の少なくとも一部を鋳包む鋳包材とからなる複合化鋳造部材からなり、前記鉄基多孔質体は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する前記鋳包材との境界近傍に設けられた空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有し、前記複合化鋳造部材中の該鉄基多孔質体と該鋳包材とは該結合部に該鋳包材が含浸凝固して強固に結合していることを特徴とする圧縮機としても良い。
なお、本発明でいう空孔率の大小や強度の高低は、結合部と補強部との間の相対的なものであることを断っておく。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る圧力容体やその製造方法のみならず、圧縮機やその構成部材にも適宜適用できるものであることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なることを断っておく。
(1)鉄基多孔質体
本発明の鋳包み用鉄基多孔質体は、少なくとも結合部と補強部とを備える限り、その形状や製造方法を問わない。このような鋳包み用鉄基多孔質体の代表例は鉄基多孔質焼結体であるので、以下では、この鉄基多孔質焼結体について詳述する。
鉄基多孔質焼結体は、鉄系粉末等からなる粉末成形体を焼結させたものである。粉末成形体は、成形型のキャビティへ充填した鉄系粉末等を加圧成形して得られる。ここで、使用する鉄系粉末の組成は、鉄基多孔質焼結体の強度や使用環境に応じて適宜選択すれば良い。例えば、熱処理等による強度向上を図るのであれば、各種合金鋼組成の鉄系粉末を使用すれば良い。また、耐蝕性向上を図るのであれば、ステンレス鋼組成の鉄系粉末等を使用すれば良い。その他、鉄系粉末は純鉄でも炭素鋼組成でも良い。なお、鉄系粉末は、一種の粉末でも複数種の粉末を混合した混合粉末であっても良い。使用する粉末は素粉末であっても良いし合金粉末であっても良い。粉末の種類もアトマイズ粉、還元粉等いずれでも良く、粒形状等も問わない。また、部位によって鉄系粉末の組成や種類を変更しても良い。特に、空孔率を大きくしたい場合、過小に粒径の小さい微粉は好ましくない。例えば、平均粒径が50〜150μm程度のものを使用すると好ましい。なお、構成粒子の粒径は、2次元画像解析等によっても求めることができるが、ふるい分け法を利用すれば簡便に求められる。
鉄系粉末は、金属粉末だけに限らず、潤滑剤や添加剤等の他、前述した造孔材を含んだ混合粉末でも良い。さらには、強化粒子となるセラミックス粒子等の粉末(化合物粉末)を含んでいても良い。
ところで、鉄基多孔質焼結体の空孔率は、その嵩密度(ρ)とその構成材料の真密度(ρ0)とを用いて{1−(ρ/ρ0)}×100(%)により求まる。ちなみに、(ρ/ρ0)×100(%)は鉄基多孔質焼結体の占有体積率(Vf)を示す。この空孔率は、結合部で25〜50%さらには35〜45%であると好適である。空孔率が過小であると、鋳包材との結合性が悪く十分な密着性が得られない。空孔率の過大な鉄基多孔質焼結体は製作困難であるし、結合部としての強度も確保し難い。一方、補強部の空孔率は、5〜25%さらには5〜15%であると好適である。空孔率が過大であると、焼結体の強度が低下して補強部による補強効果を発揮し難い。空孔率を過小とするには、原料粉末を高圧成形する必要があり効率的ではない。
(2)鉄基多孔質体の製造方法
本発明に係る鉄基多孔質体の製造方法は問わないが、例えば、次のような方法によって製造できる。
(a)すなわち、Feを主成分とする鉄系粉末を加圧成形した空孔率の大きな第1粉末成形体と該鉄系粉末を加圧成形した空孔率の小さな第2粉末成形体とを積層して積層粉末成形体とする積層工程と、該積層粉末成形体を焼結させて前記第1粉末成形体から形成された空孔率の大きな結合部と前記第2粉末成形体から形成され該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有する鉄基多孔質焼結体を得る焼結工程とからなる鋳包み用鉄基多孔質体の製造方法を利用できる。
この製造方法では、予め空孔率の異なる粉末成形体を別々に成形しているので、それらの空孔率の調整や使用する原料粉末の選択自由度が大きくなる。その結果、空孔率や強度等を部位によって調整し易く、それらを最適化した鉄基多孔質焼結体を得ることも容易である。なお、上記積層工程後に得られる粉末成形体や焼結工程後に得られる鉄基多孔質焼結体は、少なくとも2層からなるが、勿論、3層以上であっても良い。
(b)また、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成する造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と、該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを加圧成形して粉末成形体を得る成形工程と、該粉末成形体を焼結させて該第1粉末部が空孔率の大きな結合部となり該第2粉末部が該結合部よりも空孔率が小さく高強度な補強部となった鉄基多孔質焼結体を得る焼結工程とからなる鋳包み用鉄基多孔質体の製造方法を使用しても良い。
この製造方法では、粉末成形体中で結合部となる部分(第1粉末部)に造孔材を多く混在させて、焼結後にその部分が空孔率の大きな結合部となるようにしたものである。この製造方法では、造孔材の配合割合を変更することで、焼結後に得られた鉄基多孔質焼結体の空孔率を容易に調整することができる。また、空孔率のみならず、鉄基多孔質焼結体の強度を部位ごとに調整することも容易である。さらに、部位によって配合割合を変更した鉄系粉末および造孔材を成形型のキャビティ内に充填した後に加圧成形すると、成形工程が一度で済むので効率的である。
なお、この場合も、鉄系粉末と造孔材との配合割合は2段階のみならず3段階以上の変化をしても良い。また、その配合割合は、第1粉末部から第2粉末部にかけて傾斜的に変化しても良い。さらに、第2粉末部に造孔材が少し含まれていても良いが零であっても良い。
ここで、上記造孔材は、例えば、鉄系粉末の焼結温度よりも低い融点をもつ金属粉末(Cu、Sn、Pb、Zn、Ag、Mg、Ca、Sr、Al等の粉末)でも良いし、バインダ、潤滑剤または樹脂粉末のように、高温域(焼結温度付近)で燃焼、散逸等して排気除去されるようなものでも良い。そして造孔材が「消失する」とは、鉄基多孔質焼結体中からその成分が完全に除去される場合の他、焼結工程中に溶融して鉄系粉末の粒子表面に付着したり、拡散して鉄系粉末中に取込まれてFeと合金化等しても良い。
(3)鋳包材
鋳包材は、純Al、Al合金、純MgまたはMg合金からなる。合金の組成は問わないが、JIS等に規定された各種鋳造合金を利用できる。圧力容体等の仕様に応じて適切な合金を選択すれば良い。圧力容体や圧縮機の構成部材の鋳造方法には重力鋳造、加圧鋳造、砂型鋳造、金型鋳造等がある。しかし、含浸工程で、鋳包材の溶湯を鉄基多孔質体へ確実に含浸させるには、金型を用いて加圧鋳造(特に、溶湯鍛造)するのが好ましい。もっとも、量産性を考慮して、ダイカスト鋳造を利用しても良い。その後の凝固工程は、自然冷却で行っても良いが、水冷等の冷却速度の大きな冷却方法を採用すれば、鋳包材の鋳造組織が微細化し、複合化鋳造部材全体の強度向上を図れる。
(4)圧力容体または圧縮機
本発明の圧力容体は、種々の圧力容器の他に、ポンプ、圧縮機またはエンジン等に使用されるシリンダスリーブ、シリンダブロック、ハウジング、隔壁、配管用のパイプ等がある。本発明の圧縮機またはその構成部材も、この圧力容体の一実施形態である。
実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(1)第1実施例
(概観)
本発明の第1実施例である圧縮機用の円筒状のハウジング1(圧縮機の構成部材または圧力容体)を図1および図2に示した。図2は、図1中のA部の端面拡大図である。また、図1に示すように、このハウジング1は、その内周面に、作動ガスによる内圧pが作用することが想定されている。
このハウジング1は、円筒状の鉄基多孔質焼結体11とその外周面側から鋳造用アルミニウム合金で鋳包んだ鋳包材12とからなる複合化鋳造部材である。図2に示したように、鉄基多孔質焼結体11の内周面側にある補強部11aでは空孔率が小さく(つまり、Vfが大きく)、その外周面側にある結合部11bでは空孔率が大きい(つまり、Vfが小さい)。そして、鉄基多孔質焼結体11の空孔には、鋳包材12の溶湯が含浸して凝固している。特に、結合部11bにある空孔内では、鋳包材12がしっかりと含浸後に凝固しており、両者はアンカー効果等によって強固に結合した状態となっている。
(鉄基多孔質焼結体の製造)
上述した円筒状の鉄基多孔質焼結体11は次のようにして製造した。
原料粉末として、鉄系粉末である還元鉄粉(純鉄:川崎製鉄製KIP240M、平均粒径75μm)と、グラファイト(C)と、ステアリン酸(融点:60℃)と、粉末冶金用潤滑剤(ダイワックスW−02)と、銅粉末(福田金属製CE−5、平均粒径80μm)を用意した。これらを用いて、Fe:74質量%、C:0.8質量%、ステアリン酸:3質量%の第1混合粉末と、Fe:87質量%、C:0.8質量%、Cu:2質量%、ステアリン酸:3質量%の第2混合粉末とを調製した(混合工程)。これらの粉末の混合は、ミリング装置を用いて1時間行った。
第1混合粉末を円筒状のキャビティへ充填し(充填工程)、加圧成形して、内径:φ90mmx外径:φ100mmx長さ50mmの第1粉末成形体を得た(成形工程)。同様に、第2混合粉末を円筒状のキャビティへ充填し(充填工程)、加圧成形して、第1粉末成形体内に嵌挿される内径:φ80mmx外径:φ90mmx長さ50mmの第2粉末成形体を得た(成形工程)。得られた第1粉末成形体(外殻)および第2粉末成形体(内殻)を積層して2重構造の粉末成形体とした(積層工程)。
この粉末成形体を電気炉の中に入れて、不活性または真空雰囲気で1100℃x30分間加熱して焼結させた(焼結工程)。こうして、内径:φ80mmx外径:φ100mmx長さ50mmの鉄基多孔質焼結体11を得た。この鉄基多孔質焼結体11の外周面側は前記第1粉末成形体が焼結したものであり、その部分の空孔率は約27%であった。この部分が本発明でいう結合部11bに相当する。また、鉄基多孔質焼結体11の内周面側は前記第2粉末成形体が焼結したものであり、その部分の空孔率は約13%であった。この部分が本発明でいう補強部11aに相当する。この鉄基多孔質焼結体11の様子を模式的に図3に示した。同図(a)は鉄基多孔質焼結体11の全体斜視図であり、同図(b)は中央断面図である。
(複合化鋳造部材の製造)
この鉄基多孔質焼結体11を鋳包材12であるアルミニウム合金(JIS 2024)で鋳包んで、円筒状の複合化鋳造部材(つまり、ハウジング1)を製造した。そのアルミニウム合金の溶湯は、鉄基多孔質焼結体11の外周面側(つまり、結合部11b側)から注湯した。このときの鋳造条件は、溶湯温度750℃、型温200℃、鉄基多孔質焼結体11の予熱300℃、溶湯圧力100MPaとした。こうして、アルミニウム合金溶湯を、鉄基多孔質焼結体11の結合部11bから内部へ含浸させた。この後、金型を水冷して溶湯を凝固させて円筒状の複合化鋳造部材を得た。
この複合化鋳造部材の結合部11b付近の切断面の金属組織を3%ナイタールで15秒エッチング後、光学顕微鏡で観察した組織写真を図4に示した。この写真から、結合部11bの空孔には、密にアルミニウム合金溶湯が含浸、凝固されており、鉄基多孔質焼結体11と鋳包材12(マトリックス)との間の結合が強固であることがわかる。また、第1粉末成形体中に混在させたCu粉末(造孔材)は、焼結時の加熱によって溶解して、前記結合部11bの空孔の形成に寄与したと考えられる。そして、そのCu粉末自体は、焼結時に溶解して、鉄粉が焼結してできた隙間等へ流動し、その隙間を充填していることがわかる。なお、複合化鋳物の引張強さは535〜564MPa(3回の平均546MPa)であった。
(2)第2実施例
本発明の第2実施例である圧縮機用の円筒状のハウジング2(圧縮機の構成部材または圧力容体)を図5に示した。このハウジング2は、第1実施例中の鉄基多孔質焼結体11を、断面半円状で樋状の鉄基多孔質焼結体21に形状変更して、それをその外周面側から鋳包材22で鋳包んだものである。この場合、鉄基多孔質焼結体21の内周面側が補強部となりその外周面側が結合部となる。本実施例は、ハウジング2の内周面側の図中上部にのみ高い強度が要求される場合に有効である。
(3)第3実施例
本発明の第3実施例である圧縮機用の円筒状のハウジング3(圧縮機の構成部材または圧力容体)を図6に示した。このハウジング3は、第1実施例中の鉄基多孔質焼結体11を、断面半円状で樋状の鉄基多孔質焼結体31に形状変更して、それをその内周面側から鋳包材32で鋳包んだものである。この場合、鉄基多孔質焼結体31の外周面側が補強部となりその内周面側が結合部となる。また、本実施例では、鉄基多孔質焼結体31をハウジング3の全長に渡って設けておらず、その中央部のみとしている。本実施例は、ハウジング3の外周面側の図中上部中央にのみ高い強度が要求される場合に有効である。
その他、上記実施例に限らず、圧縮機の種類や仕様または圧力容体の用途や形態等に応じて、種々の実施例が考えられる。
本発明の第1実施例である圧縮機のハウジングの概観を示す斜視図である。 図1中のA部拡大図である。 本発明の実施例に係る鉄基多孔質焼結体の模式図であり、同図(a)は斜視図であり、同図(b)は中央縦断面図である。 本発明の実施例に係る複合化鋳造部材の組織写真であって、鉄基多孔質焼結体の結合部近傍を示す。 本発明の第2実施例である圧縮機のハウジングの概観を示す側面図である。 本発明の第3実施例である圧縮機のハウジングの概観を示す正面図である。
符号の説明
1 ハウジング
11 鉄基多孔質焼結体
12 鋳包材
11a 補強部
11b 結合部

Claims (6)

  1. 鉄(Fe)を主成分とし多数の空孔を有する鉄基多孔質体と、アルミニウム(Al)またはマグネシウム(Mg)を主成分とし該鉄基多孔質体の少なくとも一部を鋳包む鋳包材とからなる複合化鋳造部材により少なくとも一部が構成された圧力容体であって、
    前記鉄基多孔質体は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成する銅(Cu)からなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する前記鋳包材との境界近傍に設けられた空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有し、
    前記複合化鋳造部材中の該鉄基多孔質体と該鋳包材とは該結合部に該鋳包材が含浸凝固して強固に結合しており、
    前記鉄基多孔質体は樋状であることを特徴とする圧力容体。
  2. 前記複合化鋳造部材は筒状部材であり、該複合化鋳物部材の内周面側から内圧が作用する請求項1に記載の圧力容体。
  3. 前記鉄基多孔質体は、前記結合部を外周面側に有すると共に前記補強部を内周側に有し、
    前記複合化鋳物部材は、該鉄基多孔質体を該結合部側から前記鋳包材で鋳包んでなる請求項2に記載の圧力容体。
  4. Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有する樋状の鉄基多孔質体を配置した鋳型のキャビティに、AlまたはMgを主成分とした鋳包材の溶湯を注湯して該結合部側から該鉄基多孔質体の内部へ該溶湯を含浸させる含浸工程と、
    該含浸工程後に冷却して該鋳包材の溶湯を凝固させる凝固工程とを備えてなり、
    前記鉄基多孔質体が前記結合部で前記鋳包材と強固に結合しつつ該鋳包材に鋳包まれてなる複合化鋳造部材を少なくとも一部に備える圧力容体が得られることを特徴とする圧力容体の製造方法。
  5. 吸入した作動流体を圧縮して高圧状態の作動流体を吐出する圧縮機において、
    前記圧縮機の構成部材の少なくとも一部は、Feを主成分とし多数の空孔を有する樋状の鉄基多孔質体と、AlまたはMgを主成分とし該鉄基多孔質体の少なくとも一部を鋳包む鋳包材とからなる複合化鋳造部材からなり、
    前記鉄基多孔質体は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する前記鋳包材との境界近傍に設けられた空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有し、
    前記複合化鋳造部材中の該鉄基多孔質体と該鋳包材とは該結合部に該鋳包材が含浸凝固して強固に結合していることを特徴とする圧縮機。
  6. 吸入した作動流体を圧縮して高圧状態の作動流体を吐出する圧縮機を構成する構成部材であって、
    前記構成部材の少なくとも一部は、Feを主成分とし多数の空孔を有する樋状の鉄基多孔質体と、AlまたはMgを主成分とし該鉄基多孔質体の少なくとも一部を鋳包む鋳包材とからなる複合化鋳造部材からなり、
    前記鉄基多孔質体は、Feを主成分とする鉄系粉末と該鉄系粉末の焼結温度以下で加熱した際に消失して空孔を形成するCuからなる造孔材との混合粉末からなる第1粉末部と該第1粉末部よりも該鉄系粉末が多く該造孔材の少ない第2粉末部とを有する粉末成形体を焼結させてなり、該第1粉末部に対応する前記鋳包材との境界近傍に設けられた空孔率の大きな結合部と、該第2粉末部に対応する該結合部よりも空孔率が小さくて高強度な補強部とを有し、
    前記複合化鋳造部材中の該鉄基多孔質体と該鋳包材とは該結合部に該鋳包材が含浸凝固して強固に結合していることを特徴とする圧縮機の構成部材。
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