激辛を意識したインスタント食品やスナック菓子などを見かける昨今、“超激辛”を扱うラーメン店や飲食店をテレビなどで見かけることも多くなりました。タレントさんが鬼の形相で激辛料理に挑む番組も人気ですよね。世の中まさに激辛ブームということで、今回は辛味についていろいろ語ってみたいと思います。
激辛唐辛子を口にすると、燃えるような痛みを感じます
人が舌で感じる味覚は、苦味・酸味・甘味・塩味・旨味の5種類とされており、実は辛味はこの中には含まれていません。と言うのも辛味は味覚として感じるのでなく、辛い食べ物が口に入った時に感じる痛みや、熱いといった感覚により知覚されているのです。
また、辛味にはいくつかのパターンがありますが、代表的なものには唐辛子に代表される、熱さをともなう「ヒリヒリとした辛さ」があります。これは「カプサイシン」という成分によるもので、今回の激辛ランキングでご紹介するのも、こちらの辛味になります。
いっぽうで、ワサビやマスタードのような、清涼感もある「ツーンとくる辛さ」もあります。こちらは、「アリルイソチオシアネート」という成分による作用です。
唐辛子などの辛いものを食べると、その辛さの程度に違いがあることがわかると思います。この辛さの度合いを客観的に知る数値として、一般的に使われているのが「スコヴィル値(Scoville heat units, SHU)」というもの。1912年にスコヴィル味覚テストを考案した化学者、ウィルバー・スコヴィル氏の名から名付けられたもので、前述のカプサイシンの割合を示す辛味の単位となります。
具体的には、唐辛子エキスを水に溶かしたものを、複数の被験者が辛味を感じなくなるまで砂糖水に溶かし、その倍率をスコヴィル値としておりました。たとえば、スコヴィル値が1,000という場合は、砂糖水で1,000倍まで薄めれば辛さを感じなくなるという意味です。人の主観に頼った、なんともアバウトな測定方法だという気がしますが、多くの辛味ソースや唐辛子がこのスコヴィル値の大きさを競い合って、激辛ブームに拍車をかけているのが実情です。
なお、今では被験者の主観に頼らず、機械で辛さを測定・分析し、その数値をスコヴィル値に換算した値を用いるのが一般的になっています。
ちなみに、筆者がまだ若かりし頃に、辛いものの代表格として一世を風靡した調味料に「タバスコ」があります。国会議員としてよりも、卍固めや延髄斬りを駆使する技巧派プロレスラーとしてのイメージが強いアントニオ猪木氏が(筆者にとっては、ですが……)その味を日本に定着させたことでもよく知られています(当時はアントニオ猪木氏と初代タイガーマスクの佐山聡氏がCMに登場していましたよ)。
タバスコを初めて食べた時の激辛の衝撃は今でもよく覚えています
筆者にとってタバスコは十分に辛いと感じられますが、近年の激辛ブームにあっては決して上位にランキングするような辛さがあるわけではありません。農林水産省のサイトによれば、タバスコソースのスコヴィル値は、1,600-5,000とあります。つまり、1,600-5,000倍に薄めれば辛さを感じなくなるということになります。
先ほど、タバスコのスコヴィル値をご紹介しましたが、超激辛と言われる近年の唐辛子のスコヴィル値がどれくらいなのかが気になります。それでは、スコヴィル値の高さがベスト6の唐辛子をご紹介いたしましょう。
北インドおよびバングラデシュ産の唐辛子です。テレビの激辛特集番組で紹介されることも多いので、名前を聞いたことがあるという方も多いかと思います。スコヴィル値は、約100万。2007年に、当時1位だったハバネロを抜いて世界一辛い唐辛子としてギネス世界記録に認定されました。
ハバネロも、東ハトのスナック菓子「暴君ハバネロ」の登場もあって激辛の代名詞として国内で定着している唐辛子ですが、スコヴィル値は10万〜35万程度。ブート・ジョロキアの登場で、スコヴィル値がまさに桁違いに上昇することになりました。
熟した実は赤かオレンジ色。表面はざらざらで凸凹しているのが特徴
ブート・ジョロキアの一味
ブート・ジョロキアを超える辛さを持つ唐辛子として登場したのが、トリニダード・モルガ・スコーピオン。唐辛子研究で有名な、ニューメキシコ州立大学のボスランド氏を中心とするグループが、大学のプラントで数種類の唐辛子を生育し、実をランダムに収穫。乾燥させて粉末にしたうえでスコヴィル値を測定しています。
2012年当時のニューメキシコ州立大学のリリースによれば、スコヴィル値は120万以上で、中には200万を超える、当時としては驚異的な数値を示すものもあったとのこと。ただし、ギネス申請はなされなかったため、世界一とはなりませんでした。
丸くてかわいい形状ですが、その辛さはまさに悪魔のよう……
粉末にした調味料
トリニダード・スコーピオン種の唐辛子をもとにした栽培品種で、スコヴィル値は約146万。2011年に、ブート・ジョロキアのギネス世界記録を塗りかえて世界一になったのが、このトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラーです。
なお、スコーピオン種の唐辛子は、先端が尖ってサソリの尾に似ていることから、こうした名前で呼ばれています。
ブート・ジョロキア(左)とトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー(手前と右)、かつてギネス1位を獲得したコンビです
トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラーを乾燥させて粉末にしたもの
アメリカのサウスカロライナ州で育成され、2013年にギネス世界記録で世界一になったのが、キャロライナ・リーパー。赤くてごつごつした実に大きな鎌のような尾が特徴で、尾の形状からリーパー(大きな鎌を持った死に神のこと)と名付けられました。
スコヴィル値は約157万ですが、中には単体で220万の数値を記録するものもありました。
大きな鎌のような尾が特徴
一味にしたものが売られています。どんな辛さなのか……
「龍の息吹」と名付けられた激辛唐辛子で、シネンセ種(ハバネロやブート・ジョロキアなどがこの種に含まれます)の唐辛子の栽培品種。
元々は麻酔薬などにアレルギーがある患者向けの皮膚緩和薬の原料として開発が始められたもので、辛さを競うために開発されたものではないのがほかの激辛唐辛子と違うところです。そのためか、ほかの激辛唐辛子と違って、食用のチリソースや粉末は今のところ発売されていません。
名前からして危険な感じがしますね
さて、栄えある第1位となったのは、第3位にランクインしているキャロライナ・リーパーを開発したエド・カリー氏が栽培した、ペッパーX。特に高濃度のカプサイシンを作る唐辛子品種をかけ合わせ、10年もの歳月をかけて作られました。
気になるスコヴィル値は、なんと驚異の318万に達しているそうです。つまり、砂糖水で318万倍に薄めて、ようやく辛さを感じなくなるということです。こうなると、もうどれだけ薄めなければいけないのか想像もつきません……。
いくつかのソースが販売されています。召し上がる際は、くれぐれもご注意を……
数百万単位のスコヴィル値を持つ唐辛子の辛さについて、タバスコですら辛いと思う筆者には、まるで想像もつきませんが、辛いもの大好きな猛者の方は、粉末やソースとして販売されているものも多いので、実際に試してみてはいかがでしょうか。こんな数値を見てしまうと、1,600-5,000というタバスコのスコヴィル値は“お子さまレベル”としか感じませんね。
なお、上位にランキングしている激辛唐辛子の中には、その種が売られているものもあります。実際に栽培することができますし(日照と温度があれば思ったより難しくありません)、食べることもできますが、その実は生死にかかわる辛さだという覚悟で臨んでいただけるようお願いいたします。
ちなみに、唐辛子の激辛料理の辛味を緩和したい時は、ヨーグルトや牛乳などの乳製品が効果的とのこと。ただし、100万を超えるスコヴィル値を誇る超激辛唐辛子に、それらがどこまで対抗できるかは定かではありませんけど。