図1〜図3は、本発明に係る車体前部構造の実施形態を示している。この車体前部は、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル1の側方部から前方に延びるように設置された左右一対のフロントサイドフレーム2と、上記ダッシュパネル1の側端部から上下に延びるように立設された左右一対のヒンジピラー3と、このヒンジピラー3の設置部から前方に延びるように設置されたエプロンフレーム4と、このエプロンフレーム4に車幅方向外側の壁面上部が接合されるとともに上記フロントサイドフレーム2に車幅方向内側の壁面下部が接合され、かつ図外のサスペンションダンパが配設されるように内側に向けて膨出するように設置されたサスタワー5とを含んで構成されている。また、上記ダッシュパネル1の上端部には、フロントウインドシールド(図示せず)の下端部を支持するカウルボックス56またはカウルパネルが結合されている。
上記サスタワー5およびダッシュパネル1が前後に配設されるとともに、上記エプロンフレーム4およびフロントサイドフレーム2が上下に配設されてなるエンジンルームの後方部側壁面には、この後方部側壁面領域を車外側とエンジンルーム内側とに区画する後部エプロンパネル7が設置されている。さらに、上記サスタワー5の前方側には、エンジンルームの前方部側壁面領域を車外側とエンジンルーム内側とに区画する前部エプロンパネル6が、上記フロントサイドフレーム2とエプロンフレーム4との間を覆うように設置されている。
上記フロントサイドフレーム2は、ダッシュパネル1の下部に設けられたキックアップ部9に沿って前上がりに傾斜しつつ、ダッシュパネル1から離間するようにその斜め前方側に向けて延びる傾斜部10と、その前端部から車体の前方側に向けて略水平に延びる水平部11とを有し、この水平部11の前端部には、車体の前面に沿って車幅方向に延びるように設置されたバンパーフレーム12が、クラッシュボックス13を介して取り付けられている。
また、上記フロントサイドフレーム2の傾斜部10の後方部分と、水平部11の前方部分とにより所定角度で屈曲した屈曲部14が形成され、この屈曲部14が、側面視で上記サスタワー5と重複する位置に配設されている。図4および図5に示すように、上記フロントサイドフレーム2の水平部11には、その後方部から上記屈曲部14および傾斜部10の前方部を含む領域の車幅方向外側壁面に、所定長さを有する板状部材15の下部が溶接される等の手段で取り付けられることにより、その上端部がフロントサイドフレーム2の上方に突出した状態で設置され、この板状部材15の上部に上記サスタワー5、前部エプロンパネル6および後部エプロンパネル7の下辺部が接合されるようになっている。
さらに、上記フロントサイドフレーム2の屈曲部14の下方部には、前輪のサスペンション部材を支持するサブフレーム(図示せず)用の取付ブラケット16が設けられている。この取付ブラケット16は、図5に示すように、上記屈曲部14の車幅方向内側壁面下部および底面に上部が溶接される等の手段で取り付けられることにより、その下端部が下方に突出した状態で設置されたブラケット本体17と、上記屈曲部14の車幅方向外側壁面下部に上部が溶接される等の手段で取り付けられることにより、その下端部が下方に突出した状態で設置された補強プレート18とを有し、上記ブラケット本体17にサブフレームの取付ブラケットが支持されるように構成されている。
上記フロントサイドフレーム2の水平部11は、一枚の金属製板材が曲げ加工されるとともに、その端部同士が付き合わされた状態で溶接される等により、チューブフレーム構造のフランジレス閉断面体として構成されている。このフランジレス閉断面体からなる上記水平部11を製造するには、例えば図6に示すように、金属製板材をプレス成形する等により、上壁部の左右両半部19a,19bが先端部に連設された左右両側壁部20,21と、両側壁部20,21の間に配設されて上方に膨出する円弧状の膨出部22aを備えた底壁部22とからなる予備成形品を形成する。そして、所定の加工治具で上記膨出部22aを下方に押圧して底壁部22を偏平化するとともに、上記左右両側壁部20,21を矢印で示す方向に揺動変位させて起立させ、上壁部を構成する左右両半部19a,19bの先端部を接近させて互いに付き合わせた後、この付き合わせ部をワイヤーレーザー溶接する等により、チューブフレーム構造のフランジレス閉断面体からなる上記水平部11を形成する。
一方、上記フロントサイドフレーム2の傾斜部10は、例えば図7に示すように、プレス加工等により成形された左右一対の断面コ字状体23,24の先端部同士をその厚さ方向に重ね合わせ、この重ね合わせ部を隅肉レーザー溶接する等により、チューブフレーム構造のフランジレス閉断面体として構成される。そして、上記水平部11の後端部が傾斜部10の前端部内に嵌入された状態で、両者がボルト止めまたは溶接等の手段で連結されることにより、上記フロントサイドフレーム2が形成されるようになっている。
なお、上記フロントサイドフレーム2の傾斜部10を、上記水平部11と同様に一部材を折り曲げ加工してその端部同士を付き合わせ、あるいはその端部同士をその厚み方向に重ね合わせた状態で溶接することにより、チューブフレーム構造のフランジレス閉断面体とするように構成してもよい。逆に、上記フロントサイドフレーム2の水平部11を、上記傾斜部10と同様に左右一対の断面コ字状体の先端部同士をその厚さ方向に重ね合わせ、あるいは上記先端部同士を付き合わせた状態で溶接することにより、チューブフレーム構造のフランジレス閉断面体とするように構成してもよい。
上記フロントサイドフレーム2の屈曲部14に取り付けられた板状部材15の車幅方向外側壁面には、上記前部エプロンパネル6、後部エプロンパネル7およびサスタワー5の下辺部が接合されてアーク溶接等により仮止めされた後に、レーザー溶接等により固着されるようになっている。また、上記サスタワー5の後方に位置するフロントサイドフレーム2の後部上面、つまり上記傾斜部10の前方部上面には、図4に示すように、後部エプロンパネル7の車幅方向内側壁面に接合されて上下方向に延びる閉断面を形成する縦分岐ブレース25が立設されるとともに、上記フロントサイドフレーム2の傾斜部10と、上記ダッシュパネル1の前面部とを連結するフィレット状部材26が接合されるように構成されている。
上記フィレット状部材26は、その後方側部が車幅方向内向きに拡大した末広がり形状の板材からなり、上記フィレット状部材26の前端部がフロントサイドフレーム2の後部上壁面および車幅方向内側壁面に接合されるとともに、後端部が上記ダッシュパネル1の前壁面に接合され、かつ下端部が上記フロントサイドフレーム2の車幅方向内側壁面に接合されるようになっている。そして、上記フィレット状部材26は、フロントサイドフレーム2の屈曲部14と、その後方側に位置するダッシュパネル1の前面部との間に、後拡がりの三角形状に形成された空間の上方部を車幅方向内側から覆うことにより、この部分を補強するように構成されている。
また、上記フィレット状部材26の上端部には、図8に示すように、フロントサイドフレーム2に取り付けられた上記板状部材15を介してサスタワー5の下辺部に接合されるとともに、上記後部エプロンパネル7の下辺部に接合されるフランジ部27が形成されている。このフランジ部27には、上記縦分岐ブレース25の下端部に合致するように車幅方向内側へ隆起した隆起部27aが形成され、この隆起部27aに上記縦分岐ブレース25の下端部がスポット溶接およびレーザー溶接される等により接合されるようになっている。さらに、上記フィレット状部材26の車幅方向内側壁面には、その後端部側に向けて膨出した膨出部28が形成されている。
上記縦分岐ブレース25は、フロントサイドフレーム2の後部上面、つまり上記傾斜部10の上面から上方に延びる下方部29と、その上端部から斜め後方かつ車幅方向外側に屈曲しつつ上方に向けて延びる屈曲部30と、その上端部から後方側に延びる上方部31とを備えた略S状に形成されている(図4参照)。そして、上記後部エプロンパネル7の車幅方向内側壁面に沿って縦分岐ブレース25が設置され、その前後両側辺に設けられたフランジ部がサスタワー5の後部および後部エプロンパネル7に接合されることにより、上下方向に延びる閉断面が形成されるようになっている。
上記縦分岐ブレース25の上端部には、ダッシュパネル1の左右両端部近傍において、その上部前面に接合される左右一対の上端フランジ部32が設けられている。上記ダッシュパネル1の車室内側に位置する壁面の上部、つまりダッシュパネル1の背面上部には、角パイプ材等からなるダッシュクロスメンバ33が車幅方向に延びるように設置されている。このダッシュクロスメンバ33は、上記縦分岐ブレース25の上端フランジ部32とダッシュパネル1を挟んで前後に重複する高さ位置に配設されている。
また、上記ダッシュクロスメンバ33の左右両端部は、ダッシュパネル1の側端部に沿って、閉断面が上下に延びるように設置されたヒンジピラー3の車幅方向内側壁面に、取付ブラケット34を介して接合されている。なお、上記ダッシュクロスメンバ33の左右両端部を、ヒンジピラー3の内壁面部に突き当ててアーク溶接する等の手段で結合するように構成してもよい。
上記エプロンフレーム4は、図9に示すように、サスタワー5の上部外側壁面に沿って後方側に延びるとともに後端部が上記ヒンジピラー3の前壁面に接合されるように設置された後方部35と、上記サスタワー5の前方部から平面視で約30°の傾斜角度をもって内向き屈曲するとともに(図2参照)、側面視で約20°の傾斜角度をもって下方に屈曲しつつ、上記フロントサイドフレーム2の前部上方を指向して直線状に延びる前方延長部36とを有している(図3参照)。そして、上記エプロンフレーム4の前方延長部36は、その前端部が上下方向に延びるように設置された上下連結メンバ37を介して上記フロントサイドフレーム2の前部に連結されている。
上記エプロンフレーム4の少なくとも前方延長部36は、例えば図10に示すように、プレス加工等により断面コ字状に成形された上下一対の断面コ字状体36a,36bからなり、その先端部同士がその厚さ方向に重ね合わされ、この重ね合わせ部が隅肉レーザー溶接されることによりフランジレス閉断面体として構成されている。なお、上記エプロンフレーム4の前方延長部36を、上記フロントサイドフレーム2の水平部11と同様に、一部材を曲げ加工したプレス成形材の両端部を付き合わせて溶接したフランジレス閉断面体により構成してもよい。
また、上記前方延長部36と一体にエプロンフレーム4の後方部35が形成されることにより、上記エプロンフレーム4の全長に亘って閉断面が連続したフランジレス閉断面体からなる中空体が構成されている。なお、上記エプロンフレーム4の後方部35を、その前方延長部36とは別体に形成した後、これらを一体に連結することにより、エプロンフレーム4の全長に亘って連続する閉断面を構成してもよい。この場合、上記エプロンフレーム4の後方部35を、前方延長部36と同様のフランジレス閉断面体により構成してもよいが、左右両側辺部にフランジ部が設けられた断面ハット状部材のフランジ部を互いに接合してなるフランジ付閉断面体により、上記エプロンフレーム4の後方部35を構成してもよい。
上記エプロンフレーム4の前端部とフロントサイドフレーム2の前部とを連結する上記上下連結メンバ37は、図11に示すように、略L字状の水平断面をもってエプロンフレーム4の前方延長部36の前端部から垂下するように設置された第1パネル38と、この第1パネル38に対向した略L字状の水平断面をもって上記フロントサイドフレーム2の前部から上方に起立するように設置された第2パネル39とを有し、上記第1パネル38および第2パネル39の側辺部が互いに接合されることにより上下方向に延びる略正方形状の閉断面が形成されるようになっている。
すなわち、上記第1パネル38は、図9および図11に示すように、上記エプロンフレーム4の前方延長部36の前端部外方側壁面に上端部が接合された外壁部40と、上記前方延長部36の前端面に上端部が接合された前壁部41とが断面略L字状に接続されることにより形成されている。また、上記第1パネル38の前壁部41の内側辺部には、車体の前方側に延びる前端フランジ部42が設けられている。一方、第2パネル39は、図4および図11に示すように、上記フロントサイドフレーム2の車幅方向内側壁面に下端部が接合された内壁部43と、下端部に上記フロントサイドフレーム2の前部上面に接合される水平フランジ部44が設けられた後壁部45とが断面略L字状に接続されることにより形成されている。また、上記第2パネル39の後壁部45の内側端部には、車体の後方側に延びる後端フランジ部46が設けられている。
そして、上記第2パネル38の内壁部43の前辺部外壁面(車幅方向の外方側壁面)に第1パネル38の前端フランジ部42がスポット溶接されて接合されるとともに、第1パネル39の外壁部40の後辺部内壁面に上記第2パネル39の後端フランジ部46がスポット溶接されて接合されることにより、上記第1パネル38の外壁部40および前壁部41と、上記第2パネル38の内壁部43および後壁部45とからなる略正方形状の閉断面が形成されるようになっている。
図3および図9等に示すように、上記エプロンフレーム4の前方延長部36には、その前後方向中間部と、上記サスタワー5の前面上部とを連結する前後連結メンバ47の前端部が接合されている。この前後連結メンバ47は、上記前方延長部36の前後方向中間部に、その車幅方向内側から接合される前端フランジ部48と、上記サスタワー5の前壁面上部に接合される後端フランジ部49とを備えた角パイプ材等からなり、平面視で前端部がやや車幅方向外側を指向するように傾斜した状態で設置されている。また、上記エプロンフレーム4の前端部には、エンジンルームの前部上辺に沿って車幅方向に延びるように設置される角パイプ材等からなる上部フレーム50の側端部が取付ブラケット51を介して取り付けられている。なお、図1および図3において、符号52は、クラッシュボックス13の取付プレートであり、符号53は、上記サブフレームの前部左右を支持する支持ブラケットである。
上記構成を有する前部車体を製造するには、図4に示すように、フランジレス閉断面体からなる上記傾斜部10と水平部11とを備えたフロントサイドフレーム2を成形した後、その水平部11および傾斜部10の車幅方向外側壁面に、サスタワー5およびエプロンパネル6,7等の下辺部が接合される所定長さの板状部材15をアーク溶接する等により、その上端部をフロントサイドフレーム2の上方に突出させた状態で仮止めする。具体的には、図12に示すように、アーク溶接用の開口部54が形成された板状部材15の下部を、上記フロントサイドフレーム2の前方部材である水平部11および上記傾斜部10の車幅方向外側壁面に当接させて位置決めした状態で、車幅方向外側からアーク溶接を行って上記アーク溶接用の開口部54内に溶融金属を充填することにより、上記フロントサイドフレーム2の水平部11に対して板状部材15を仮止めする。
次いで、図3に示すように、上記板状部材15の上辺部に、サスタワー5、前部エプロンパネル6および後部エプロンパネル7の下辺部を当接させて位置決めした状態で、これらをスポット溶接することにより、上記板状部材15に対するサスタワー5、前部エプロンパネル6および後部エプロンパネル7の仮止めを行う。また、同様の手段で上記縦分岐ブレース25、フィレット状部材26、取付ブラケット51およびダッシュパネル1等を取り付けた後、このダッシュパネル1の背面にダッシュクロスメンバ33を仮止めする。このダッシュパネル1に対するダッシュクロスメンバ33の仮止めは、図13に示すように、ダッシュパネル1の上辺部に沿って所定間隔で配列されたアーク溶接用の開口部55に沿って角パイプ材からなる上記ダッシュクロスメンバ33をダッシュパネル1の背面に当接させて位置決めした状態で、ダッシュパネル1の前面側からアーク溶接して上記アーク溶接用の開口部55内に溶融金属を充填することにより行う。
さらに、図9に示すように、上記サスタワー5、前部エプロンパネル6および後部エプロンパネル7の上辺部外側壁面に沿ってエプロンフレーム4の車幅方向内側壁面を接合した後、エプロンフレーム4の前方延長部36とサスタワー5の前壁面上部とを角パイプ材等からなる上記前後連結メンバ47により連結する。また、上記エプロンフレーム4の前方延長部36の前端部から垂下するように設置された第1パネル38の前端フランジ部42を、上記フロントサイドフレーム2の前部から上方に起立するように設置された第2パネル39にスポット溶接するとともに、この第2パネル39の後端フランジ部46を第1パネル38にスポット溶接することにより、上記エプロンフレーム4の前端部と上記フロントサイドフレーム2の前部とを連結する閉断面形状の上下連結メンバ37を形成する(図11参照)。
そして、図1に示すように、上記フロントサイドフレーム2の前端部にクラッシュボックス13を介してバンパーフレーム12を取り付けるとともに、上記エプロンフレーム4の前端部に取付ブラケット51を介して上部フレーム50を取り付ける等により車体前部を構成した後、この車体前部構造を有する車体をレーザー溶接部に搬送し、必要個所にレーザー溶接を行う等により、上記仮止め部に増打溶接を施して各部を強固に接合する。
このようにしてダッシュパネル1の側方部から前方に延びるように設置された左右一対のフロントサイドフレーム2と、ダッシュパネル1の側端部から上下に延びるように立設された左右一対のヒンジピラー3と、このヒンジピラー3から前方に延びるように設置されたエプロンフレーム4と、このエプロンフレーム4に車幅方向外側壁面上部が接合されるとともに上記フロントサイドフレーム2に車幅方向内側壁面下部が接合されたサスタワー5と、このサスタワー5および上記ダッシュパネル1の間に位置するとともに上記エプロンフレーム4およびフロントサイドフレーム2の間に位置する領域を車外側とエンジンルーム内側とに区画する後部エプロンパネル7とを含んだ車体前部構造を構成し、上記サスタワー5の後方に位置するフロントサイドフレーム2の後部に立設されるとともに、前後両側辺部が上記サスタワー5の後部または後部エプロンパネル7に接合されて上下方向に連続しつつ上記後部エプロンパネル7の上部に至る閉断面を形成する縦分岐ブレース25を設置し、この縦分岐ブレース25に設けられた上端フランジ部32をダッシュパネル1の上部前面に接合したため、自動車の前突時における衝突エネルギーを簡単な構成で効果的に支持して車体前部の変形を抑制できるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、サスタワー5の後方に位置するフロントサイドフレーム2の後部に立設されるとともに、側辺部が上記サスタワー5の後部または後部エプロンパネル7に接合されることにより、上下方向に連続しつつ上記後部エプロンパネル7の上部に至る閉断面を形成する縦分岐ブレース25を設け、この縦分岐ブレース25に設けられた上端フランジ部32をダッシュパネル1の上部前壁面に接合することにより、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーを、上記縦分岐ブレース25およびダッシュパネル1の上部を介してヒンジピラー3に効率よく伝達するように構成したため、上記衝突エネルギーをヒンジピラー3から自動車のルーフ部等に伝達して、これを効果的に支持することにより車体前部の変形を抑制できるという利点がある。
特に、上記実施形態に示すように、ダッシュパネル1の車室内側壁面(後壁面)に接合されて車幅方向に延びる閉断面を構成するダッシュクロスメンバ33を設け、このダッシュクロスメンバ33と上記縦分岐ブレース25の上端フランジ部32とを、上記ダッシュパネル1を挟んで前後に重複させるように配設した場合には、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーをダッシュパネル1の全体に分散させて効率よく支持することにより、車体前部の変形を効果的に抑制することができる。
また、上記実施形態に示すように取付ブラケット34を介してダッシュクロスメンバ33の左右両端部をヒンジピラー3に接合した構成とした場合には、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーを、最短経路でヒンジピラー3に伝達してこれを支持することにより、車体前部の変形を簡単な構成で効果的に抑制できるという利点がある。なお、上記取付ブラケット34を省略し、ダッシュクロスメンバ33の左右両端部をヒンジピラー3に対して溶接する等により直接的に接合するように構成してもよい。
さらに、上記実施形態では、斜め外方側かつ車幅方向外側に屈曲しつつ上方に向けて延びる屈曲部30を上記縦分岐ブレース25に設けることにより、この縦分岐ブレース25を略S状に形成したため、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2から縦分岐ブレース25に入力された衝突エネルギーを、この縦分岐ブレース25に沿って上方に伝達しつつ、上記衝突エネルギーを車幅方向外側に変位させることができるため、ヒンジピラー3に効率よく衝突エネルギーを伝達してこれを効果的に支持できるという利点がある。
上記実施形態では、ダッシュパネル1の前壁面と、その前方側に延びるフロントサイドフレーム2の傾斜部10との間に形成された空間の上方部を車幅方向内側から覆うようにフィレット状部材26を設置するとともに、このフィレット状部材26に設けられたフランジ部27に上記縦分岐ブレース25の下端部を接合するように構成したため、この縦分岐ブレース25の下端部を上記フロントサイドフレーム2に取り付けた状態で、上記フィレット状部材26を設置することにより、上記縦分岐ブレース25の下端部を上記フロントサイドフレーム2に対して強固に取り付けることができる。
したがって、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーを上記フィレット状部材26により補強された縦分岐ブレース25を介して支持することができるため、車体前部の変形を、さらに効果的に抑制できるという利点がある。しかも、上記ダッシュパネル1の下部に設けられた前上がりのキックアップ部9に沿って前上がりに傾斜しつつ、ダッシュパネル1から離間するようにその斜め前方側に向けて延びるフロントサイドフレーム2の傾斜部10を上記フィレット状部材26により効果的に補強することができるとともに、自動車の前突時にフロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーを上記フィレット状部材26によりダッシュパネル1に伝達してこれを支持することができるため、上記衝突エネルギーに応じて上記傾斜部10が折れ曲がるように変形するのを効果的に防止できるという利点がある。
また、上記実施形態に示すように、フィレット状部材26を、ダッシュパネル1とフロントサイドフレーム2の傾斜部10との間に形成された三角形状の空間に対応させて、後方側部が車幅方向内向きに拡大した末広がり形状の板材により形成した構造とした場合には、自動車の前突時に、上記フロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーを上記ダッシュパネル1に効率よく伝達して支持することができるため、上記傾斜部10の後端部を支点にその前端部を押し上げる方向に作用するモーメント荷重に応じてフロントサイドフレーム2の傾斜部10が変形するという事態の発生を上記フィレット状部材26により効果的に防止できるという利点がある。
特に、上記実施形態に示すように、フィレット状部材26の車幅方向内側壁面に、その後端部側に向けて膨出した膨出部28を設けた構造とした場合には、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2を内折れさせる作用する加重を上記フィレット状部材26により効率よく支持することができるため、上記フロントサイドフレーム2の変形を、より効果的に防止できるという利点がある。
さらに、上記実施形態では、後部エプロンパネル7の車幅方向内側壁面に接合されて上下方向に延びる閉断面を形成する縦分岐ブレース25を有する車体前部構造において、上記フィレット状部材26の上部に、上記縦分岐ブレース25の下端部形状に合致するように車幅方向内側へ膨出してこれに接合される隆起部27aを有するフランジ部27を設けた構造としたため、上記フィレット状部材26により縦分岐ブレース25の下端部を効果的に支持することができる。したがって、自動車の前突時にフロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーを上記縦分岐ブレース25、フィレット状部材26およびフロントサイドフレーム2の傾斜部10を介して3方向に伝達することにより、これを効果的に支持できるという利点がある。
また、上記実施形態では、上記エプロンフレーム4をその全長に亘って閉断面が連続した中空体に形成し、かつ上記サスタワー5の前方部から平面視で内向き屈曲するとともに、側面視で下方に屈曲しつつ上記フロントサイドフレーム2の前部上方を指向して直線状に延びる前方延長部36を上記エプロンフレーム4に設け、この前方延長部36の前端部と上記フロントサイドフレーム2の前部とを上下方向に延びる上下連結メンバ37により連結したため、自動車の乗り心地を悪化させることなく、自動車の前突時における衝突エネルギーを効果的に吸収できるという利点がある。
すなわち、上記構成において、自動車の前突時に上記バンパーフレーム12に大きな衝突エネルギーが入力されると、この衝突エネルギーが上記クラッシュボックス13を介してフロントサイドフレーム2の前端部に入力され、その一部が上記上下連結メンバ37を介してエプロンフレーム4の前端部に伝達されるとともに、前後連結メンバ47を介してサスタワー5の上部に伝達され、かつ上記エプロンフレーム4を介してサスタワー5、前部エプロンパネル6および後部エプロンパネル7の上辺部外側壁面および上記ヒンジピラー3に伝達されるため、上記衝突エネルギーが適度に分散されて効果的に支持されることになる。
そして、上記のようにエプロンフレーム4の前端部とフロントサイドフレーム2の前部とを上下方向に延びる所定長さの上下連結メンバ37により連結したため、サスタワー5の前方部から平面視で内向き屈曲するとともに、側面視で下方に屈曲しつつ上記フロントサイドフレーム2の前部上方を指向して直線状に延びる前方延長部36の上記エプロンフレーム4の後方部35に対する屈曲角度をそれ程大きくすることなく、上記荷重を、サスタワー5およびヒンジピラー3等に伝達することができる。したがって、自動車の前突荷重に応じてエプロンフレーム4の屈曲部が大きく変形するのを抑制し、このエプロンフレーム4を徐々に圧縮変形させることにより、衝突エネルギーを効果的に吸収できるとともに、上記エプロンフレーム4を軽量化して車体前部の重量バランスが増大するのを防止することにより、走行時のNVHを低減して自動車の快適性を効果的に向上できるという利点がある。
特に、上記実施形態に示すように、エプロンフレーム4の前方延長部36の前後方向中間部と、サスタワー5の上部とを連結する前後連結メンバ47を設けた構成した場合には、自動車の前突時に上記エプロンフレーム4の前方延長部36に入力された衝突エネルギーを上記前後連結メンバ47からサスタワー5の上部に伝達して支持することにより、上記エプロンフレーム4の屈曲部に大きな荷重が入力されるのを抑制して衝突エネルギーを効果的に吸収することができるため、上記エプロンフレーム4をさらに軽量化して走行時のNVHを、より効果的に低減できる等の利点がある。
また、上記実施形態では、エプロンフレーム4の少なくとも前方延長部36を、プレス成形材の両端部が付き合わされ、あるいはその厚み方向に重ね合わされて接合されたフランジレス閉断面体として構成したため(図11参照)、自動車の正突時または斜突時等に入力された衝突エネルギーに対応して上記エプロンフレーム4に作用する捩り荷重に対する強度を効果的に向上させることができる。
すなわち、上記エプロンフレーム4の前方延長部36を、一般的に知られているようにフランジ部が左右両側辺部等に設けられた断面ハット状部材のフランジ部を互いに接合してなるフランジ付閉断面体により構成した場合には、上記前方延長部36に入力される捩り荷重に応じて上記フランジ部の接合部分が剥離することにより強度が低下し易い傾向があるため、自動車の正突時または斜突時等に入力された衝突エネルギーに応じて上記エプロンフレーム4に捩れ変形が生じるのを効果的に抑制することができない。これに対し、上記のようにエプロンフレーム4の少なくとも前方延長部36をフランジレス閉断面体として構成した場合には、上記エプロンフレーム4に作用する捩り荷重に対する強度を効果的に向上させて、このエプロンフレーム4に捩れ変形が生じるのを簡単な構成で効果的に抑制できるという利点がある。
なお、図11に示すように、略L字状の水平断面をもってエプロンフレーム4の前方延長部36の前端部から垂下するように設置された第1パネル38と、この第1パネル38に対向した略L字状の水平断面をもって上記フロントサイドフレーム2の前部から上方に起立するように設置された第2パネル39とからなる上下連結メンバ37を設け、上記第1パネル38および第2パネル39の側辺部を互いに接合することにより上下方向に延びる閉断面を形成した上記実施形態に代え、予め閉断面形状に形成された角パイプ材等からなる上下連結メンバの一端部を、エプロンフレーム4の前端部下面もしくはフロントサイドフレーム2の前部上面に取り付け、車体前部の組立時に、上記上下連結メンバの他端部を、フロントサイドフレーム2の前部上面もしくはエプロンフレーム4の前端部下面に接合することにより、上記エプロンフレーム4の前端部とフロントサイドフレーム2の前部とを連結するように構成することも考えられる。
しかし、上記のように角パイプ材等により上下連結メンバ構成した場合には、エプロンフレーム4およびフロントサイドフレーム2等の製作誤差が生じることに起因して、上記上下連結メンバの取付位置がずれ、あるいはこの上下連結メンバによる連結強度が低下し易い等の問題がある。これに対して上記実施形態に示すように、第1パネル38の側辺部と第2パネル39の側辺部とを互いに接合することにより、上記エプロンフレーム4の前端部とフロントサイドフレーム2の前部とを連結する閉断面形状の上下連結メンバ37を構成した場合には、上記エプロンフレーム4およびフロントサイドフレーム2等に多少の製作誤差が生じたとしても、上記上下連結メンバ37の取付位置がずれる等の問題を生じることなく、この上下連結メンバ37を容易かつ適正に設置することができるとともに、自動車の前突時にフロントサイドフレーム2の前部に入力された衝突エネルギーの一部を上記エプロンフレーム4に伝達して、これを効果的に支持できるという利点がある。
上記実施形態では、フロントサイドフレーム2の傾斜部10の前端部から車体の前方側に向けて略水平に延びる水平部11を、一部材または複数部材の端部同士が付き合わされ、あるいは端部同士がその厚み方向に重ね合わされて接合されたフランジレス閉断面体として構成したため、上記フロントサイドフレーム2の水平部11を、左右両側辺部にフランジ部が設けられた断面ハット状部材のフランジ部を互いに接合してなるフランジ付閉断面体により構成した場合のように、自動車の正突時または斜突時等に入力された衝突エネルギーに応じて上記フランジ部の接合部分が剥離することにより強度が低下するという事態を生じることがなく、上記フロントサイドフレーム2の水平部11に作用する捩り荷重に対する強度を効果的に向上させることができる。
そして、上記フロントサイドフレーム2の水平部11の車幅方向外側壁面に、上記サスタワー5またはエプロンパネル6,7の下辺部が接合される板状部材15を取り付けることにより、その上端部をフロントサイドフレーム2の上方に突出させた状態で設置したため、上記水平部11を、一部材または複数部材の端部同士が付き合わされ、あるいは端部同士がその厚み方向に重ね合わされて接合されたフランジレス閉断面体として構成したにも拘わらず、上記板状部材15を介してフロントサイドフレーム2の水平部11に上記サスタワー5またはエプロンパネル6,7の下辺部をスポット溶接する等により容易かつ適正に接合できるという利点がある。
また、上記実施形態に示すように水平部11の後方側に連設されたフロントサイドフレーム2の傾斜部10をフランジレス閉断面体として構成するとともに、この傾斜部10と上記水平部11とにより形成された屈曲部14の車幅方向外側壁面に、前後方向に延びる板状部材15を上方に突出させた状態で接合し、この板状部材15に上記サスタワー5またはエプロンパネル6,7の下辺部を接合した場合には、自動車の正突時または斜突時等に入力された衝突エネルギーに応じて変形が生じ易い上記フロントサイドフレーム2の屈曲部14を、上記板状部材15等で補強することにより、上記屈曲部14の変形を効果的に防止することができる。
さらに、上記実施形態では、側面視でサスタワー5と重複する位置にフロントサイドフレーム2の傾斜部10と水平部11とにより形成された屈曲部14を配設したため、この屈曲部14の車幅方向外側壁面に取り付けられた板状部材15を介して上記サスタワー5と上記屈曲部14とを連結して補強することができる。したがって、自動車の前突時に上記フロントサイドフレーム2に入力された衝突エネルギーに応じて上記屈曲部14が変形するのを効果的に防止できるため、その前方部、つまり上記水平部11の全体を上記衝突エネルギーの吸収部として利用することにより、この衝突エネルギーを効果的に吸収できるという利点がある。
特に、上記実施形態に示すように、フロントサイドフレーム2の傾斜部10から水平部11の後方に至る部位の下方部にサブフレーム用の取付ブラケット16の上部を取り付けることにより、その下端部を下方に突出させた状態で設置した場合には、傾斜部10および水平部11を、一部材または複数部材の端部同士が付き合わされ、あるいは端部同士がその厚み方向に重ね合わされて接合されたフランジレス閉断面体として構成したにも拘わらず、上記フロントサイドフレーム2に対してサブフレームを容易かつ適正に取り付けることができるとともに、上記取付ブラケット16を介して上記傾斜部10と水平部11との連結部、つまり上記屈曲部14を効果的に補強することができるという利点がある。
また、上記実施形態では、フランジレス閉断面体からなるフロントサイドフレーム2に上記板状部材15の下部を予め溶接した後、この板状部材15の上部に上記サスタワー5またはエプロンパネル6,7の下辺部を溶接して一体化する作業を行うように構成したため、上記サスタワー5またはエプロンパネル6,7の接合部に関しては、フランジ付閉断面体からなるフロントサイドフレームを有する車体前部構造と略同様に構成することができる。したがって、上記フランジレス閉断面体からなるフロントサイドフレーム2を使用したにも拘わらず、製造ラインの構成を大幅に変更することなく、上記板状部材15を介してフロントサイドフレーム2に上記サスタワー5またはエプロンパネル6,7の下辺部を溶接することにより、上記車体前部構造を容易かつ適正に製造することができる。