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JP4897854B2 - 耐震構造物 - Google Patents

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Description

この発明は、耐震構造物の技術分野に属し、構造物の転倒モーメントを負担する曲げ戻し壁又はトップビームに波形鋼板を採用した耐震構造物に関する。
従来、耐震壁及び耐震構造物としては、現場打ちコンクリート造又はプレキャストコンクリート造の壁構造が一般的に採用されている。しかし、コンクリート壁は、強度と剛性の制御が難しく、所定の強度を保持しつつ変形能力を期待することが難しい。耐震壁及び耐震構造物に要求される性能は、剛性と強度を適切に設計すること、云い換えれば地震力に対する強度が大きく、しかも高耐力での変形性能(靱性)に優れた可変剛性機能を満たすことである。
この目的を達成する手段として、従来、幾つかの技術が開示されている。
例えば、特許文献1には、耐震壁と周辺架構との間に、前記耐震壁および周辺架構のコンクリート強度よりも弱いモルタルを注入して、地震時には前記モルタル部分を集中的に破壊させて耐震壁本体の剪断破壊を防止する構成で構造物全体の剪断剛性、強度を制御する耐震壁が開示されている。
特許文献2には、RC造の耐震壁に無筋で凹状のひび割れ誘発目地部(スリット)を設け、地震時に当該目地部に破壊を集中させて剪断破壊を起こすことなくエネルギーを吸収させて、構造物全体の剪断剛性、強度を制御する鉄筋コンクリート壁構造が開示されている。
また、地震時等に高層建物のコア部の脚部に発生する転倒モーメントの制御を目的とした耐震技術も開示されている。
特許文献3には、構造物中央の連層RC造コア壁の頂部にトップガーダーを設置し、トップガーダーの曲げ戻し作用により転倒モーメントの一部を周辺柱梁フレーム等に軸力として伝達させ、軸力及び転倒モーメントによる変形を制御する技術が開示されている。
更に下記の特許文献4には、デッキプレート(波形鋼板)をその波形の筋が水平方向となる配置で柱梁架構の面内へ組み入れ、その上縁及び左右縁を柱梁へ装着した波形板製遮災壁が開示されている。
特公昭62−31148号公報 特許第2944050号公報 特開平7−18918号公報 特開2003−176582号公報
上述したように、コンクリート造の耐震壁および耐震構造物の剛性と強度を制御する技術は、既に公知である。しかし、コンクリート壁は、強度を大きくするべく鉄筋量を増やしたり壁厚を大きくすると、必然的に剛性も大きくなるし、面外力に対する剛性も大きくなる性質がある。そのため上記特許文献1、2に開示されたように破壊を集中させるモルタルを使用したり、ひび割れ誘発目地部を設ける等々の面倒な製作や取付手法を要求される。それでも、面外力に対する曲げ剛性の制御は不可能である。コンクリート壁は非常に重く、構造物の躯体荷重が大きくなるという問題点も見逃せない。
ところで、上記特許文献4には、デッキプレート(波形鋼板)をその波形の筋が水平方向となる配置で柱梁架構の面内へ組み入れ、その上縁及び左右縁を柱梁へ装着した波形板製遮災壁が開示されている。しかし、その目的は、構造物の火災時に床は下方へ大きく撓むが、梁は床ほどは撓まないので、通常の遮災壁は前記の撓み変形に追従できず破損して防火機能を果たし得ないという課題を解決することにあり(同公報の段落番号[0003]〜[0005]及び[0021]以下参照)、波形鋼板の上下方向の伸縮性に着眼したものと認められる。
上記波形鋼板の力学特性としては下記する1)、2)の点を特筆できる。なお、本発明で言う波形鋼板とは、JIS規格では「鋼板製波板」と記載され、当業者間では単に折板とか波板と称されているもので、断面形状としては図15A〜Dに例示した台形波形状(図15A)、矩形波形状(図15B)、三角波形状(図15C)、円弧波形状(図15D)等のものを指している。
1)波形鋼板は図13Aに示すように折板になっている1枚1枚が剪断力に対して抵抗するだけでなく、図13Bに示すように、折板の集合としての全体が剪断力に抵抗する形状効果を発揮する。折板であるため、剪断座屈長さが短く、その剪断耐力は平板と比較すると著しく大きい。そして、剪断耐力及び剛性は、鋼板の材質固有の強度の他、板厚の大きさ、折板のピッチ及び波高により、自由に制御可能である。
2)軸力に対しては図14Aに示すように、折板の一枚一枚がアコーディオンの如くに自由に伸び縮みするので、平板と比較すると剛性、耐力がはるかに小さい。曲げに対しても同様に図14Bに示すようにアコーディオンの如くに自由に伸び縮みして圧縮および引っ張りを許容するので、平板と比較すると剛性、耐力が十分小さいという形状効果を有する。一方、波形の折り筋に垂直な方向の面外力(曲げ及び剪断)に対する剛性、耐力は十分に大きく、波形の折り筋に平行な方向の面外力(曲げ及び剪断)に対しては、抵抗が小さいのである。
本発明の目的は、コア部を有する構造物の曲げ戻し壁として、又はトップビームに波形鋼板をその折り筋が鉛直方向となる配置として、構造物の曲げ剛性を高め、変形を低減して転倒モーメントの発生を著しく低下させた耐震構造物を提供することにある。
請求項1記載の発明に係る耐震構造物は、
構造物の上下方向に連続する連続耐震壁を構成する柱と該構造物の外周柱とに架設された上下のフレーム材間に、曲げ戻し壁としての波形鋼板がその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れられ、上下の前記フレーム材と転倒モーメントの伝達が可能に接合されると共に前記柱及び前記外周柱と接合され、前記連続耐震壁の転倒モーメントの一部を前記外周柱に分散させて構造物の曲げ剛性を高め変形を低減する構成としたことを特徴とする。
請求項2記載の発明に係る耐震構造物は、
上下方向に連続する連続耐震壁を有する構造物のトップビームを形成する上下のフレーム材間に、曲げ戻し壁としての波形鋼板がその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れられ、上下の前記フレーム材と転倒モーメントの伝達が可能に接合されると共に前記構造物の外周柱と接合され、前記連続耐震壁の転倒モーメントの一部を前記外周柱に分散させて該構造物の曲げ剛性を高め変形を低減する構成としたことを特徴とする。
請求項3記載の発明に係る耐震構造物は、
請求項1又は請求項2に記載の耐震構造物において、前記連続耐震壁を構成する柱間に架設された上下の梁又はスラブ間に、耐震壁としての波形鋼板がその折り筋が水平方向となる配置で組み入れられると共に上下の前記梁又は前記スラブと水平力の伝達が可能に接合されたことを特徴とする。
上記発明に係る耐震構造物は、上下のフレーム材間に、曲げ戻し壁としての波形鋼板をその折り筋が鉛直方向となる配置で組み入れ、これらのフレーム材と転倒モーメントを伝達可能に接合すると共に、当該波形鋼板を連続耐震壁の柱と構造物の外周柱と接合したので、水平力による転倒モーメントの一部を構造物の外周柱に分散させて当該構造物の曲げ剛性を高め、変形を効果的に抑制ないし低減することができる
水平力で層間変形を発生する柱梁架構2、3又は柱スラブ架構の面内に、波形鋼板4をその折り筋が水平方向となる配置で組み入れ、柱梁架構2、3又は柱スラブ架構と波形鋼板4とを水平力の伝達が可能に接合し、波形鋼板4は水平剪断力に抵抗するが、鉛直軸力および面外方向の曲げに対する抵抗は小さい構成の耐震壁とする。
構造物1の構面を形成する柱2、2相互間、又は壁付柱2bの相互間、若しくはコア柱2aの相互間に、波形鋼板4をその折り筋が水平方向となる配置で組み入れ、柱2又は壁付柱2b若しくはコア柱2aと波形鋼板4とを水平力の伝達が可能に接合し、波形鋼板4は水平剪断力に抵抗するが、鉛直軸力および面外方向の曲げに対する抵抗は小さい構成の耐震構造物とする。
コアRを有すると否とに拘わらず、その構造物1の構面を形成する上下のフレーム材6、6間に、又は構造物のトップビーム7を形成する上下のフレーム材7a、7a間に、構造物の曲げ戻し壁としての波形鋼板5をその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れ、上下のフレーム材とは転倒モーメントの伝達が可能に接合し、構造物1の転倒モーメントの一部を外周柱2c等に分散させて当該構造物1の曲げ剛性を高め変形を低減する構成の耐震構造物とする。
図1と図2は耐震壁の実施例を示す。
水平力で層間変形を発生する架構の代表例として、図1に示した実施例は両側の柱2、2と上下の梁3、3とで成る柱梁架構であり、その面内に、壁体としての波形鋼板4がその折り筋が水平方向の配置で組み入れられ、柱梁架構2、3と波形鋼板4とは水平力の伝達が可能に接合されている。異なる架構としては、図示することは省略したが、柱2、2と上下のスラブとから成る柱スラブ架構についても同様に実施できる。
前記波形鋼板4は、図2に断面形状を示すように折板状になっている。その折板形状は矩形波形状に形成されており、固有の力学的特性を得られる構成とされている。但し、波形鋼板4の断面形状は図2に示す例の限りではなく、図15A〜Dに例示したような種々な波形状で実施できる。
固有の力学的特性としては、水平剪断力に対し、波形鋼板4の折板になっている一枚一枚が剪断力に対して十分に抵抗し(図13A)、その集合として全体が水平剪断力に十分に大きな抵抗をする(図13B)。
また、波形鋼板4の荷重と変形の関係を図3に例示したように、RC壁と比較して十分に高い剪断強度を有し、且つ高い剪断強度を保持したまま変形が進む靱性に優れた性状を発揮し、大きな変形性能を可能とする。
しかも、波形鋼板4は折板になっているので、剪断剛性及び強度は、鋼材の材質固有の強度の他に、板厚の大きさ、重ね合わせの枚数、ピッチ(通例500mm〜700mm程度)及び波高の大きさ(通例80mm〜150mm程度)などの設計如何により自在に設計することができる。
また、波形鋼板4は折板になっているので、波形の筋に直角な軸力に対してはアコーディオンの如くに自由に伸び縮みし(図14A)、剛性と耐力が小さい。波形面内の曲げに対しても、同様にアコーディオンの如く自由に伸び縮みして圧縮及び引っ張りを許容するので(図14B)、剛性、耐力が小さい。その荷重と変形関係は、図4に示すように、RC壁と比較して途中の剛性が小さくなっており、軸力及び面外方向の曲げを十分許容することが分かる。したがって、柱梁架構2、3がRC造、SRC造等々のコンクリート構造であっても、コンクリートのクリープ、乾燥収縮によるコンクリート造柱2の軸力を負担せず、耐震壁としての力学特性にさして変化をきたさない。そして、施工時及び供用時において付加軸力が導入されることがなく、波形鋼板4の剪断座屈強度及び靱性は高く維持されるし、地震時の剪断変形に対して経年変化を生ずることもなく良好な耐震機能を発揮する。
一方、波形の折り筋に垂直な方向の面外力(曲げ及び剪断)に対する剛性、耐力は、折板になっているので十分大きいが、波形の折り筋に平行な方向の面外力(曲げ及び剪断)に対しては、折板になっているが故に抵抗が小さい。したがって、耐震壁の剛性や強度をそれぞれ独立的に制御することが容易に可能であり設計の自由度は極めて高い。
更に、波形の山と谷の高さ(波高)は戸境壁の厚さ寸法内に納めことができる程度(例えば80mm〜150mm)なので、居室等の床面積に悪影響を及ぼさない実施ができる利点もある。
上記波形鋼板4と柱梁架構2、3又は柱スラブ架構(以下、単に柱梁架構と総称して記載する場合がある。)との接合方法、接合構造を、以下に説明する。
上記した通り、波形鋼板4と柱梁架構2、3とは水平力の伝達が可能に接合されていれば足りるので、波形鋼板4の左右の縦辺と柱梁架構2、3の柱2とのみ接合するか、又は波形鋼板4の上下辺と柱梁架構2、3の梁3若しくは柱スラブ架構スラブ(以下、単に梁3と総称して記載する場合がある。)とのみ水平力の伝達が可能に接合して実施することができる。もちろん、波形鋼板4の四辺を柱梁架構2、3の柱2及び梁3と水平力の伝達が可能に接合して実施することもできる。
更に具体的に、柱梁架構2、3又は柱スラブ架構が現場打ちの鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造として新たに構築される場合の接合方法を説明する。
図16A、Bに例示したように、波形鋼板4の周辺部(四辺)には、スタッド等の水平力伝達要素10を溶接等した接合用フレーム11を一体的に取り付けておく。この波形鋼板4を柱梁架構又は柱スラブ架構を形成するコンクリート型枠の面内部分へ嵌め込み、同コンクリート型枠の中へコンクリートを打設することにより、図17A、Bに示すように柱梁架構2、3の柱2及び梁3又はスラブの現場打ちコンクリート部分の中へ前記スタッド等の水平力伝達要素10を埋め込み、もって水平力の伝達が可能に接合する方法を実施することが出来る。
次に、柱梁架構2、3又は柱スラブ架構がプレキャスト鉄筋コンクリート造又はプレキャスト鉄骨鉄筋コンクリート造として新築され、又は既存する場合の接合方法についても説明する。
例えば図17Aに例示するように、柱梁架構2、3の内周面にスタッドボルト10のごときジョイント部材を予めコンクリート工場における製造時点で埋め込むか、又は現場でホールインアンカー等の方法で設ける。一方、波形鋼板4の四周には、たとえば図16のようなスタッドを持たない接合用フレーム11を一体的に取り付けておく。そして、前記柱梁架構2、3の架構面内へ嵌め込まれた波形鋼板4は、その周辺部の接合用フレーム11を、柱梁架構の前記ジョイント部材10とボルト止め又は溶接等の手段で水平力の伝達が可能に接合する方法を実施する。
上記実施例において、柱梁架構2、3又は柱スラブ架構の柱2又は梁3ないしスラブのいずれか一方にのみ、その内周面部にスタッド等の水平力伝達要素10及び必要に応じてジョイント部材を設け、前記架構面内へ嵌め込まれた波形鋼板4は、その接合用フレーム11を柱梁架構の前記水平力伝達要素10と水平力の伝達が可能に接合する方法を実施することができる。
同様に、波形鋼板4の外周辺に予め接合用フレーム11を設け、柱梁架構2、3又は柱スラブ架構の内周面にはスタッド10等の水平力伝達要素を設け、柱梁架構2、3の面内へ嵌め込まれた波形鋼板4は、その接合用フレーム11を前記水平力伝達要素10と全周に亘り水平力の伝達が可能に接合する方法も実施される。
更に、柱梁架構2、3又は柱スラブ架構がプレキャスト鉄筋コンクリート造又はプレキャスト鉄骨鉄筋コンクリート造の場合には、同架構の内周面に、図18A、Bのようにスタッド等の水平力伝達要素10を製造時に予め埋め込むか又はホールインアンカー等の方法で設けるとともに、この水平力伝達要素10に接合用プレート13、14を取り付けておく。一方、波形鋼板4の外周辺には、上記図16Aで類推可能なようにスタッド10を持たない接合用フレーム11を設けておく。そして、柱梁架構2、3の架構面内へ嵌め込んだ波形鋼板4は、その接合用フレーム11を前記接合用プレート13、14とボルト止め又は溶接等の手段で水平力の伝達が可能に接合する方法も実施される。
その他、図19に示したように、プレキャスト鉄筋コンクリート造又はプレキャスト鉄骨鉄筋コンクリート造の柱梁架構又は柱スラブ架構の内周面に予め製造段階でナット部材12を埋め込むか又は現地でホールインアンカー等の方法で設ける。一方、波形鋼板4の外周辺にはやはり図16Aから類推出来るようにスタッドを持たない接合用フレーム11を設けておく。そして、柱梁架構2、3の面内へ嵌め込んだ波形鋼板4は、その接合用フレーム11を前記ナット部材12とボルト止めにより水平力の伝達が可能に接合する方法も実施可能である。
勿論、本発明の実施例は上記の内容に限らない。柱梁架構又は柱スラブ架構の大変形時におけるコンクリート構造の剪断破壊等を確実に防止するために、前記柱2の内面と波形鋼板4の縦辺との間に剪断変形を許容するスリットを設けたり、前記スリットに発泡スチロール成形品等の剪断吸収部材を充填すること等々も実施される。
上述した本発明の耐震壁は、図5に示すような建築構造物1の壁体として自由に配置して耐震構造物を実現することができる。その耐震構造物1における耐震壁の配置例としては、図5A、Bに示すように、水平力で層間変形を発生する柱梁架構2、3のうち、互い違いの市松模様状配置に選択した面内へ、上記の波形鋼板4で成る耐震壁を組み入れた耐震構造物として実施することができる。
或いは建築構造物1において、地震時の水平力で層間変形を発生する柱梁架構2、3又は柱スラブ架構の選択法として、上記規則性のある市松模様状配置に限らず、建築構造物1の剛性、耐力を高めるのに適切なランダム配置(不規則配置)に選択した柱梁架構の面内へ上記した波形鋼板4で成る耐震壁を組み入れ、水平力の伝達が可能に接合した耐震構造物として実施することもできる。
次に、図6A、Bは、発明の実施例を示している。
本発明に係る耐震構造物1の実施例も、上記の波形鋼板4を使用した構成を特徴とするものである。図6A、Bの実施例は、上述した実施例1において説明した図1〜図5及び図13〜図18に示した耐震壁とほぼ同様の技術的思想に立脚するが、耐震構造物1の中心部に通例設けられるコア部Rの所謂コア壁として、波形鋼板4をその折り筋が水平方向の配置に設置して成る点が特徴である。
前記波形鋼板4は、図7Aに示したように、コア部Rのコア柱2a、2aの相互間に配置した構成で、又は図7Bのように、コア部Rの壁付コア柱2b、2bの相互間に配置した構成として実施することができる。
そのいずれでも、波形鋼板4は、コア柱2a又は壁付コア柱2bと付帯梁又はスラブ等と水平力の伝達が可能に接合される。その接合方法としては、実施例1で説明したと同様に、例えば波形鋼板4の周辺部を、コア柱2a又は壁付柱2bの面内に予め埋め込んだ剪断力伝達手段により接合することができる。
更に念のため具体的実施態様を説明する。
上記の耐震構造物1において、波形鋼板4は、その縦辺が構造物1の構面を形成する柱2又は壁付柱2b若しくはコア柱2aとのみ接合する場合と、同じく構造物1の構面を形成する柱2又は壁付柱2b若しくはコア柱2a及び梁3又はスラブと波形鋼板4の縦辺及び上下辺を接合する場合が実施される。
また、耐震構造物1のコア部Rのコア柱2a、壁付柱2bの側面にスタッド等の水平力伝達要素を設け、前記コア柱2a等の相互間へ嵌め込まれた波形鋼板4の縦辺を前記水平力伝達要素と水平力の伝達が可能に接合して実施することもできる。
その他、上記した耐震構造物1における波形鋼板4は、図6A、図8A、図9A、図10Aのように、構造物1の構面を形成する柱2、2の相互間、又は壁付柱2bの相互間、若しくはコア柱2aの相互間の全層にわたり設置する場合、又は図11Aに示したように中・低層以下に設置する場合、又は図示することは省略したが逆に下層部を除く上層部にのみ、若しくは中間層にのみ組み入れて設置する実施例も、必要に応じて実施可能である。
この実施例3においても、波形鋼板4は、当然の事ながら、地震力(水平力)に対する強度が大きく、しかも高耐力での変形性能(靱性)に優れた可変剛性機能を実現するものである。
また、本実施例の場合にも、波形鋼板4は、実施例1と同様に鋼材の材質固有の強度の他に、板厚の大きさ、重ね合わせの枚数、ピッチ及び波高の大きさなどの設計の如何により、その強度及び剛性を自在に設計することができる。
勿論、発明の実施例は、上記した実施例に限らない。図8A、Bに示すように、コア部Rが片側に2列配置された構造物1にも同様に実施できる。これに準ずる形で両側コア部形式の構造物にも同様に実施可能である。また、図9Aに示し、且つ先願の特開平7−18918号公報等に開示されているような、頂部にトップビーム7を配置して転倒モーメントを低減させる耐震構造物1におけるコア部Rへも波形鋼板4を同様に配置して実施することができる。図9Bにはトップビーム7を設置した耐震構造物1の平面図を示している。
上記の場合に、コア部Rのコア壁に使用する波形鋼板4の配置は、図10A、Bに示すように、構造物1の全層に配置しても良いし、図11A〜Cに示すように、特に剪断変形が高い構造物1の中低層部以下に、或いは逆に下層部を除く上層部にのみ、若しくは中間層にのみ配置しても良いことは、上述した通りである。
次に、発明に係る耐震構造物の実施例を説明する。
先ず図6Aおよび図8Aに示したようにコア部Rを有する構造物1の曲げ戻し壁として、図6Aは、波形鋼板5をその折り筋が鉛直方向となる配置で、当該構造物1の構面を形成する上下の水平なフレーム材6、6間へ組み入れ、同上下のフレーム材6、6と転倒モーメントの伝達が可能に接合した構成とされている。その結果、構造物1の転倒モーメントの一部は外周柱2cとコア柱2a又は壁付柱2bに分散させて構造物1の曲げ剛性を高め、変形(転倒モーメント)を低減することができる。本発明の耐震構造物1は、上記の構成としたので、スラブが存在すれば無梁でも実施できる。よって前記した上下のフレーム材6、6に、フラットスラブを採用して実施することもできる。
更に具体的に説明する。
構造物1の構面を形成し且つ外周柱2cとコア柱2aを含む上下のフレーム材6、6の間に、構造物1の曲げ戻し壁としての波形鋼板5をその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れ、上下のフレーム材6、6と転倒モーメントの伝達が可能に接合した構成で実施する。かくすると、構造物1の転倒モーメントの一部は外周柱2c及びコア柱2aに分散させることができ、当該構造物1の曲げ剛性を高め変形を低減することができる。
従来、コア部Rとトップビーム7を併用して使用し、転倒モーメントを低減させる構成は既に公知である(図9Aを参照)。しかし、発明の特徴は、前記の効果を更に向上させるため、コア部Rを有する構造物1について、前記トップビーム7と同様の目的を達成する曲げ戻し壁として上記の波形鋼板5を活用した点にある。以下に詳しく説明する。
耐震構造物1の曲げ戻し壁としての波形鋼板5の設置箇所は、例えば図6Aに示すように、コア部Rを有する構造物1の途中階、例えば高さが地上35階建ての構造物1における10〜20階の範囲の位置であって、図6Bに示すように、前記コア部Rの四隅に位置するコア柱2a又は壁付柱2bの位置から構造物1の外周面へ向けて十字状に8カ所設けて実施することができる。前記波形鋼板5、5(曲げ戻し壁)は同一階に設ける必要はなく、図6Aに示したように異なる階層に自由に設計できる。波形鋼板5の接合方法としては、上記の実施例1、2で説明したような形式、内容で上下階のフレーム材6、6と接合される。勿論、図示した実施例の限りではなく、コア柱2a又は壁付柱2bの縦辺と周辺柱2c、2cと接続しない構成の実施も考えられる。
本発明で用いる波形鋼板5(曲げ戻し壁)によれば、図12A、Bに曲げモーメント図と共に比較して示したように、図12Aのように曲げ戻し壁なしの場合と比べて、図12Bの如く波形鋼板5による曲げ戻し壁が有る場合には、構造物1の転倒モーメントMは約半分ほどに低減されることが一目瞭然である。つまり、波形鋼板5(曲げ戻し壁)により構造物1におけるコア部Rの転倒モーメントの負担分が、コア部Rの柱2a又は壁付柱2b、及び周辺柱2cへ分散され、軸圧縮又は軸引っ張りとして伝えられ、十分な耐力で支持される。しかも波形鋼板5自体の折り筋は鉛直方向に配置されているので、水平力にはさして抵抗しない構成だからである。
したがって、コア部Rの脚部に転倒モーメントが集中することを避けられるのであり、波形鋼板4、5ないし曲げ戻し壁の設計に影響を及ぼすことなく、コア柱2a又は壁付柱2b(又は柱2)の偶力を低減させることができる。
波形鋼板5はRC造の曲げ戻し壁と比べて極端に軽量化できるので、上下のフレーム材6、6とコア柱2a又は壁付柱2bへの軸力負担を減らし、ひいてはその強度を低減できる。波形鋼板5は、その折り筋を鉛直方向に配置して使用するため高い剪断強度を期待できる。
他の実施形態として、図8Aに示すようにコア部Rが片側に寄っている耐震構造物1の場合には、上下方向の複数階に波形鋼板5、5(曲げ戻し壁)を設けるのが良い。この場合、図8Bの断面図が示すように、波形鋼板5(曲げ戻し壁)はコア部Rの内側の2本のコア柱2a又は壁付柱2bから外周面へ向けて4カ所設けた構造で実施するのが好ましい。
図9は、発明に係る耐震構造物1の実施例を示している。
この実施例は、上述した実施例4とほぼ同様な技術的思想に立脚するが、コア部Rを有する構造物1のトップビーム7を形成する上下のフレーム材7a、7aの間に、波形鋼板5をその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れ、前記上下のフレーム材7a、7aと転倒モーメントの伝達が可能に接合した構成とされている。
本実施例の場合も、構造物1の転倒モーメントの一部を外周柱2cとコア柱2a又は壁付柱2bに分散させて構造物の曲げ剛性を高め、構造物1の変形を低減させて転倒モーメントを低下させることができる。
以上に本発明を実施例に基づいて説明したが、勿論、本発明の技術的思想は上記の各実施例に限定されるものではない。本発明が立脚する思想と要旨を逸脱しない範囲で変更、応用して、種々多様な実施例があることを念のため申し添える。
本発明に係る耐震壁の実施例1を示した図である。 図1の耐震壁の断面図である。 波形鋼板の剪断力に対する荷重と変形の関係を示した図である。 波形鋼板の軸力及び曲げに対する荷重と変形の関係を示した図である。 Aは波形鋼板を周辺架構面内へ選択的に配置した構造物の実施例を示した立面図、BはAの水平断面図である。 Aは本発明に係る耐震構造物の実施例を示した立面図、BはAの水平断面図である。 Aはコア部のコア柱相互間に波形鋼板を配置した水平断面図、Bはコア部の壁付柱の相互間に波形鋼板を配置した水平断面図である。 Aは異なる耐震構造物を示した立面図、BはAの水平断面図である。 Aは更に異なる耐震構造物を示した立面図、BはAの水平断面図である。 Aは異なる耐震構造物、即ち構造物の全層に波形鋼板を設置した場合の立面図、BはAの水平断面図である。 Aは異なる耐震構造物、即ち構造物の中低層以下に波形鋼板を設置した場合の立面図、BはAの中低層部の水平断面図、CはAの高層部の水平断面図である。 Aは構造物に曲げ戻し壁を設置しない場合の立面と転倒モーメントを示した図、Bは構造物に波形鋼板を曲げ戻し壁として設置した場合の立面と転倒モーメントを示した図である。 Aは波形鋼板の折板一枚一枚が剪断力に抵抗する状態を示した斜視図、Bは波形鋼板の全体が剪断力に抵抗する状態を示した斜視図である。 Aは波形鋼板の軸圧縮の状態を示した図、Bは波形鋼板の曲げ状態を示した説明図である。 A〜Dは波形鋼板の異なる断面形状を示した説明図である。 Aは外周部にスタッド等の水平力伝達要素を持つ接合用フレームを取り付けた波形鋼板の正面図、BはAの垂直断面図である。 Aは図16の波形鋼板を使用した耐震壁の正面図、BはAの垂直断面図である。 Aは内周部にスタッド等の水平力伝達要素と接合用プレートを設けた柱梁架構の面内に波形鋼板を設置した耐震壁の正面図、BはAの垂直断面図である。 内周部にナット部材を埋め込んだ柱梁架構の正面図である。
1 構造物
2 柱
3 梁
4、5 波形鋼板
6、 上下のフレーム材
7 トップビーム
7a トップビームの上下のフレーム材
10 スタッド(水平力伝達要素)
11 接合用フレーム
12 ナット部材
13、14 接合用プレート
R コア部
2a コア柱
2b 壁付柱
2c 外周柱

Claims (3)

  1. 構造物の上下方向に連続する連続耐震壁を構成する柱と該構造物の外周柱とに架設された上下のフレーム材間に、曲げ戻し壁としての波形鋼板がその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れられ、上下の前記フレーム材と転倒モーメントの伝達が可能に接合されると共に前記柱及び前記外周柱と接合され、前記連続耐震壁の転倒モーメントの一部を前記外周柱に分散させて構造物の曲げ剛性を高め変形を低減する構成としたことを特徴とする、耐震構造物。
  2. 上下方向に連続する連続耐震壁を有する構造物のトップビームを形成する上下のフレーム材間に、曲げ戻し壁としての波形鋼板がその折り筋が垂直方向となる配置で組み入れられ、上下の前記フレーム材と転倒モーメントの伝達が可能に接合されると共に前記構造物の外周柱と接合され、前記連続耐震壁の転倒モーメントの一部を前記外周柱に分散させて該構造物の曲げ剛性を高め変形を低減する構成としたことを特徴とする、耐震構造物。
  3. 前記連続耐震壁を構成する柱間に架設された上下の梁又はスラブ間に、耐震壁としての波形鋼板がその折り筋が水平方向となる配置で組み入れられると共に上下の前記梁又は前記スラブと水平力の伝達が可能に接合されたことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の耐震構造物。
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