JP4507287B2 - 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。更に、詳しくはポリカーボネート樹脂が本来有する優れた耐衝撃性等の機械的性質、流動性ならびに成型品の外観等の性能を損なうことなく難燃性を向上させ、かつ塩素、臭素化合物等のハロゲン系難燃剤ならびにりん系難燃剤を含有しない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性および電気的特性に優れたエンジニアリングプラスチックとして電気・電子・OA分野を始め、広範な分野にて使用されている。
【0003】
これら電気・電子・OAの分野では、パーソナルコンピュータ外装部品のように高度な難燃性(UL94V)や耐衝撃性を要求される部品が少なくない。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、電気・電子・OA分野では安全上の要求を満たすため、UL94V−0や94V−1相当の一層高い難燃性が求められている。
【0004】
そこでポリカーボネート樹脂の難燃性を向上するために、従来より臭素化ビスフェノールAのカーボネート誘導体のオリゴマーあるいはポリマーを多量に配合する方法が採用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、臭素化ビスフェノールAのカーボネート誘導体のオリゴマーあるいはポリマーを難燃剤として多量に配合した場合には、確かにポリカーボネート樹脂の難燃性は向上するが、耐衝撃性が低下することにより成形品に割れが発生しやすいという問題があった。
【0006】
一方、臭素を含む多量のハロゲン系化合物を配合することから、燃焼時に当該ハロゲンを含むガスが発生する懸念もあり、環境面でも塩素、臭素等を含有しない難燃剤の使用が望まれている。
【0007】
これに対して、シリコーン化合物は耐熱性が高く、燃焼時に有害ガスを発生しにくく、それ自体の安全性も高いため、これを難燃剤として利用しようとする試みも数多くなされてきた。
【0008】
難燃剤としてのシリコーン化合物は、以下に示す4つのシロキサン単位(M単位、D単位、T単位、Q単位)の少なくともいずれかが重合してなるポリマーである。
【0009】
▲1▼ M単位
【化1】
【0010】
▲2▼ D単位
【化2】
【0011】
▲3▼ T単位
【化3】
【0012】
▲4▼ Q単位
【化4】
【0013】
この内、特にT単位および/またはQ単位を含有すると分岐状構造となる。
【0014】
シリコーン化合物を難燃剤として使用するため、従来より、特開平1−318069号公報、特公昭62−60421号公報等に記載される如き様々な有機官能基を持つシリコーン化合物が試されてきた。
【0015】
しかしながら、これらは単独の添加では大きな難燃効果を持つものは極めて少なく、比較的効果が認められたものでも電気電子機器関係の厳しい難燃基準を満たすには多量に添加する必要があり、その結果、プラスチックスの成形性、混練性および他の必要特性に悪影響が生じ、またコスト的にも不利であるため、実用的ではなかった。
【0016】
これに対して、シリコーン化合物の難燃効果を向上させ、かつ添加量も削減する試みとして、シリコーン化合物と金属塩を併用する方法も報告されている。これについては、ポリジメチルシリコーンと金属水酸化物と亜鉛化合物(特開平2−150436号公報)、ポリジメチルシリコーンと有機酸のIIa族金属塩(特開昭56−100853号公報)、シリコーンレジン特にM単位とQ単位で表されるものとシリコーンオイルおよび有機酸のIIa族金属塩(特公平3−48947号公報)等の併用が挙げられるが、いずれも難燃性の面で効果に劣り、添加量の大幅な削減も困難であるという根本的な問題があった。
【0017】
さらに、エポキシ基(γ−グリシドキシプロピル基)とフェニル基および/またはビニル基を持つオルガノポリシロキサンと有機スルホン酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩等を併用させたもの(特開平8−176425号公報)も報告されているが、このシリコーン化合物の場合、反応性の高いエポキシ基やビニル基があるため、プラスチックス、特にポリカーボネート樹脂と混練中にシリコーン化合物同士の反応が起こり高分子化(ゲル化)してしまうので、ポリカーボネート樹脂と均一な混練ができにくく、また全体的な粘度も上昇してしまい、その結果、ポリカーボネート樹脂の成形性、特に成形体表面の剥離やヒケ、ムラが生じてしまう課題がある。さらに、このゲル化のため、シリコーン化合物のポリカーボネート樹脂中での分散性が不十分となって、その結果、顕著な難燃効果を発現するのが困難であり、また成形体の衝撃強度等の強度特性も低下してしまう問題も生じる。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の問題点に鑑み鋭意研究した結果、ポリカーボネート樹脂に配合する難燃剤として、特定のシリコ−ン化合物と芳香族硫黄化合物の金属塩またはパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩を併用し、さらにこれらに加えて繊維形成型の含フッ素ポリマーを使用することにより、耐衝撃性や成形性を低下させることなく高度な難燃性を備えた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
また、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を含有しないことから、燃焼時に当該ハロゲン系難燃剤に起因するハロゲンを含むガスの発生の懸念もなく、環境保護の面においても優れた性能を有する。
【0020】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)に対し、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基として芳香族基を含有するシリコーン化合物(B)および芳香族硫黄化合物の金属塩(C)またはパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)を配合してなることを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物であり、さらに、この配合に繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)を配合してなることを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。以下に、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物につき、詳細に説明する。
【0021】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0022】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0023】
これらは、単独または2種類以上混合して使用されるが、ハロゲンで置換されていない方が燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0024】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
【0025】
3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0026】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は通常10000以上100000以下、好ましくは15000以上35000以下である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0027】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(B)としては、下記一般式(1)に示されるような、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基として芳香族基を含有するものである。
一般式(1)
【化5】
【0028】
すなわち、分岐単位として T単位および/またはQ単位を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位の20mol%以上含有することが好ましい。20mol%未満であると、シリコーン化合物(B)の耐熱性が低下してその難燃性の効果が下がり、またシリコーン化合物(B)自体の粘度が低すぎてポリカーボネート樹脂(A)との混練性や成形性に悪影響を及ぼす場合がある。さらに好ましくは30mol%以上、95mol%以下である。30mol%以上だとシリコーン化合物(B)の耐熱性が一層上がり、これを含有したポリカーボネート樹脂の難燃性が大幅に向上する。しかし95mol%を越えるとシリコーンの主鎖の自由度が減少して、燃焼時の芳香族基の縮合が生じにくくなる場合があり、顕著な難燃性を発現しにくくなる場合がある。
【0029】
また、シリコーン化合物(B)は、含有される有機官能基のうち芳香族基が20mol%以上であることが好ましい。この範囲以下であると、燃焼時に芳香族基同士の縮合が起こりにくくなり難燃効果が低下する場合がある。さらに好ましくは40mol%以上、95mol%以下である。40mol%以上だと燃焼時の芳香族基が一層効率的に縮合できると同時に、ポリカーボネート樹脂(A)中でのシリコーン化合物(B)の分散性が大幅に改良され、極めて良好な難燃効果を発現できる。しかし95mol%以上だと芳香族基同士の立体障害により、これらの縮合が生じにくくなる場合があり、顕著な難燃効果を発現できにくくなる場合がある。
【0030】
この含有される芳香族基としては、フェニル、ビフェニル、ナフタレン、またはこれらの誘導体であるが、シリコーン化合物(B)の安全面からは、特にフェニル基が好ましい。本シリコーン化合物(B)中の有機官能基で、主鎖や分岐した側鎖に付いたもののうち、芳香族基以外の有機基としてはメチル基が好ましく、さらに、末端基はメチル基、フェニル基、水酸基、アルコキシ基(特にメトキシ基)の内から、選ばれた1種またはこれらの2種から4種までの混合物であることが好ましい。これらの末端基の場合、反応性が低いため、ポリカーボネート樹脂(A)とシリコーン化合物(B)の混練時に、シリコーン化合物(B)のゲル化(架橋化)が起こりにくいので、シリコーン化合物(B)がポリカーボネート樹脂(A)中に均一に分散でき、その結果、一層良好な難燃効果を持つことができ、さらに成形性も向上する。特に好ましくはメチル基である。これの場合、極端に反応性が低いので、分散性が極めて良好になり、難燃性をさらに向上することができる。
【0031】
シリコーン化合物(B)の平均分子量(重量平均)は、好ましくは5000以上50万以下である。5000未満だとシリコーン化合物自体の耐熱性が低下して難燃性の効果が低下し、さらに溶融粘度が低すぎて成形時にポリカーボネート樹脂(A)の成形体表面にシリコーン化合物が浸み出して成形性を低下させる場合があり、また50万を超えると溶融粘度が増加してポリカーボネート樹脂(A)中での均一な分散が損なわれ難燃性の効果や成形性が低下する場合がある。さらに特に好ましくは10000以上27万以下である。この範囲ではシリコーン化合物(B)の溶融粘度が最適となるため、ポリカーボネート樹脂(A)中でシリコーン化合物(B)が極めて均一に分散でき、表面への過度な浸みだしもないため、一層良好な難燃性と成形性を達成できる。
【0032】
シリコーン化合物(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.01重量部以上8重量部以下が好ましい。配合量が0.01重量部未満では難燃効果が不十分な場合があり、また8重量部を超えると成形品表面に表層剥離が発生し外観に劣る場合がある。より好ましくは、0.1重量部以上5重量部以下、更に好ましくは0.5重量部以上2重量部以下の範囲である。この範囲では難燃性と成形性、さらに衝撃強度のバランスが一層良好となる。
【0033】
本発明にて使用される芳香族硫黄化合物の金属塩(C)としては、下記一般式(2)または一般式(3)に示される芳香族スルホンアミドの金属塩または下記一般式(4)に示される芳香族スルホン酸の金属塩である。
【0034】
一般式(2)
【化6】
(一般式(2)において、Arはフェニル基または置換フェニル基を、Mは金属陽イオンを表わす。)
【0035】
一般式(3)
【化7】
(一般式(3)において、Arはフェニル基または置換フェニル基を、R'はスルホニルまたはカルボニルを含む有機基を、Mは金属陽イオンを表わす。ただし、ArとRとが結合しても良い。)
【0036】
一般式(4)
【化8】
(一般式(4)において、R'' およびR''' は炭素原子が1〜6個の脂肪族基あるいは1〜2個のフェニル基または置換フェニル基を、AはSO3M(Mは、金属陽イオン)基を表わす。)
【0037】
芳香族スルホンアミドの金属塩の好ましい例としては、サッカリンの金属塩、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドの金属塩、N−(N′−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドの金属塩およびN−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドの金属塩が挙げられる。また、芳香族スルホン酸の金属塩としては、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸の金属塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸の金属塩およびジフェニルスルフォン−3,4′−ジスルホン酸の金属塩が挙げられる。これらは、一種もしくはそれ以上を併用して使用しても良い。
【0038】
好適な金属としては、ナトリウム、カリウム等のI族の金属(アルカリ金属)、またはII族の金属ならびに銅、アルミニウム等が挙げられ、特にアルカリ金属が好ましい。
【0039】
これらのうちでも特に、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N′−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩またはジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩が好適に用いられ、さらに好ましくは、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N′−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩である。
【0040】
芳香族硫黄化合物の金属塩(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し0.03重量部以上5重量部以下が好ましい。配合量が0.03重量部未満の場合には顕著な難燃効果を得るのが困難な場合があり、また5重量部を超えると射出成形時の熱安定性に劣る場合があるため、その結果、成形性および衝撃強度に悪影響を及ぼす場合がある。より好適には、0.05重量部以上2重量部以下、更に好適には0.06重量部以上0.4重量部以下の範囲である。この範囲では特に、難燃性、成形性および衝撃強度のバランスが一層良好となる。
【0041】
本発明にて使用される、繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)としては、ポリカーボネート樹脂(A)中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成するものがよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。これらは、本発明のシリコーン化合物(B)と芳香族硫黄化合物の金属塩(C)またはシリコーン化合物(B)とパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)の併用系に併せて使用した場合、従来のドリッピング防止効果だけでなく、特異的に燃焼時間の低減にも効果がある。
【0042】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.05重量部以上5重量部以下である。配合量が0.05重量部未満では燃焼時のドリッピング防止効果に劣る場合があり、かつ5重量部を超えると造粒が困難となることから安定生産に支障をきたす場合がある。より好適には、0.05重量部以上1重量部以下、更に好適には0.1重量部以上0.5重量部以下の範囲である。この範囲では、難燃性、成形性および衝撃強度のバランスが一層良好となる。
【0043】
本発明にて使用されるパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)としては、下記一般式(5)に示されるパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩である。
【0044】
一般式(5)
【化9】
(一般式(5)において、Mは金属陽イオン、nは1〜8の整数を表わす。)
【0045】
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)の好ましい例としては、パーフルオロメタンスルホン酸の金属塩、パーフルオロエタンスルホン酸の金属塩、パーフルオロプロパンスルホン酸の金属塩、パーフルオロブタンスルホン酸の金属塩、パーフルオロメチルブタンスルホン酸の金属塩、パーフルオロヘキサンスルホン酸の金属塩、パーフルオロヘプタンスルホン酸の金属塩、パーフルオロオクタンスルホン酸の金属塩が挙げられる。これらは、一種もしくはそれ以上を併用して使用しても良い。また、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)は、前述の芳香族硫黄化合物の金属塩(C)と併用して使用しても良い。
【0046】
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)に用いられる好適な金属としては、ナトリウム、カリウム等のI族の金属(アルカリ金属)、またはII族の金属ならびに銅、アルミニウム等が挙げられ、特にアルカリ金属が好ましい。
【0047】
これらのうちでも特に、パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩が好適に用いられる。
【0048】
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し0.01重量部以上5重量部以下が好ましい。
配合量が0.01重量部未満の場合には顕著な難燃効果を得るのが困難な場合があり、また5重量部を超えると射出成形時の熱安定性に劣る場合があるため、その結果、成形性および衝撃強度に悪影響を及ぼす場合がある。より好適には、0.02重量部以上2重量部以下、更に好適には0.03重量部以上0.2重量部以下の範囲である。この範囲では特に、難燃性、成形性および衝撃強度のバランスが一層良好となる。
【0049】
更に、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂(A)に各種の熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、充填材、離型剤、軟化材、帯電防止剤、等の添加剤、衝撃性改良材、他のポリマーを配合しても良い。
【0050】
熱安定剤としては、例えば硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素リチウム等の硫酸水素金属塩および硫酸アルミニウム等の硫酸金属塩等が挙げられる。これらは、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、通常0重量部以上0.5重量部以下の範囲で用いられる。
【0051】
充填材としては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク粉、クレー粉、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、ワラストナイト粉、シリカ粉等が挙げられる。
【0052】
衝撃性改良材としては、例えばアクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、コアシェル型のメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン系ゴム、エチレン・プロピレン・ジエン系ゴム、等が挙げられる。
【0053】
他のポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体とこれのアクリルゴム変成物、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリプロピレン、さらにポリカーボネート樹脂とアロイ化して通常使用されるポリマーが挙げられる。
【0054】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物中の各種配合成分の混合方法には、特に制限はなく、公知の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー 等による混合や押出機による溶融混練が挙げられる。
【0055】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法としては、特に制限はなく、公知の射出成形法、射出・圧縮成形法等を用いることができる。
【0056】
【実施例】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、「部」は重量基準に基づく。
【0057】
各実施例及び比較例において、ビスフェノールAから製造されたポリカーボネート樹脂100部に対し、硫酸水素カリウム0.03部と各種配合物を表2〜13に示す配合量に基づき37mm径の二軸押出機(神戸製鋼所製KTX−37)を用いて、シリンダー温度280℃にて溶融混練し、各種ペレットを得た。
【0058】
使用された原料の詳細は、それぞれ次のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂(A):
住友ダウ社製カリバー 200−20(粘度平均分子量19000)
【0059】
2.シリコーン化合物(B):
シリコーン化合物(B)は、一般的な製造方法に従って製造した。すなわち、シリコーン化合物成分の分子量およびシリコーン化合物を構成するM単位、D単位、T単位およびQ単位の割合に応じて、適量のジオルガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシランおよびテトラクロロシラン、あるいはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解して、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、さらにトリオルガノクロロシランを添加して反応させることによって、重合を終了させ、その後、溶媒を蒸留等で分離した。上記方法で合成された19種のシリコーン化合物の構造特性を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
3.芳香族硫黄化合物の金属塩(C):
・ N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩(以下、C−1と略記)
・ N−(N′−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩(以下、C−2と略記)
・ ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム(以下、C−3と略記)
【0062】
4.繊維形成型の含フッ素ポリマー(D):
ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン社製ポリフロンFA−500)
(以下、PTFEと略記)
【0063】
5.パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E):
・ パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩(以下、Eと略記)
【0064】
6.テトラブロモビスフェノールAのカーボネート・オリゴマー:
グレート・レイクス・ケミカルズ社製BC−52(以下、Br系オリゴマーと略記)
【0065】
得られた各種ペレットを125℃で4時間、乾燥した後に、射出成形機(日本製鋼社製J100−E−C5)を用いて280℃、射出圧力1600Kg/cm2にて難燃性評価用の試験片(125x13x1.6mmおよび125x13x3.2mm)を成形した。
【0066】
該試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、以下のクラスに分けられる。
上に示す残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。結果を表2〜13に示す。
【0067】
また、得られた各種ペレットを用いて、同様に射出成形を行い、衝撃強度評価用試験片(3.2x12.7x63.5mm)を作成した。この試験片を用いて、ASTM D−256に準じてノッチ付き衝撃強度を測定した。また、成形品の外観についても衝撃強度測定の前に試験片を目視判定し、表層剥離や表面のヒケの有無を評価した。結果をそれぞれ表2〜13に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
・ シリコーン、金属塩及びPTFEの数値は、ポリカーボネート樹脂100部に対する添加量(重量部)を示す。
・ 表中の難燃性の評価結果で、( )値は5試料の残炎時間(着火後の燃焼時間)の合計(秒)を示し、[ ]値はドリップによる標識綿の着火発生の個数(5試料中の発生試料数)を示す。
・ 成形性は、成形試験片の表層剥離や表面のムラ、ヒケの発生を評価した(○は発生せず、△は5試料中1〜2試料で発生、×は5試料中3試料以上で発生、を表わす。)。
【0072】
【表6】
・ シリコーン、金属塩及びPTFEの数値は、ポリカーボネート樹脂100部に対する添加量(重量部)を示す。
・ 表中の難燃性の評価結果で、( )値は5試料の残炎時間(着火後の燃焼時間)の合計(秒)を示し、[ ]値はドリップによる標識綿の着火発生の個数(5試料中の発生試料数)を示す。
・ 成形性は、成形試験片の表層剥離や表面のムラ、ヒケの発生を評価した(○は発生せず、△は5試料中1〜2試料で発生、×は5試料中3試料以上で発生、を表わす。)。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
【表11】
【0078】
【表12】
【0079】
【表13】
【0080】
上記実施例に示すように、主鎖が分岐構造でかつ芳香族基を持つシリコーン化合物(B)0.01重量部以上8重量部以下、および芳香族硫黄化合物の金属塩(C)0.03重量部以上5重量部以下またはパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(E)0.01重量部以上5重量部以下を添加してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、またはこれらの配合にさらに繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)0.05重量部以上5重量部以下を添加したポリカーボネート樹脂組成物は、これらの添加剤の全てを含まないポリカーボネート樹脂単独(比較例1)またはシリコーン化合物(B)と芳香族硫黄化合物の金属塩(C)を併せ持たないポリカーボネート樹脂組成物(比較例2〜4、13〜15、19〜22)または本発明以外の構造のシリコーン化合物を添加したポリカーボネート樹脂組成物(比較例16〜18、23〜26)よりも極めて大きな難燃効果を発揮した。さらに比較例5に示すような、従来の臭素系難燃剤を添加した際に問題となっているポリカーボネート樹脂組成物の衝撃強度の低下については、本実施例に示すように著しく改善されている。
【0093】
【発明の効果】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性や成形性を損なうことなく高度な難燃性を具備し、かつ塩素、臭素化合物等からなる難燃剤を含まないことから燃焼時に当該難燃剤に起因するハロゲンを含むガスの発生の懸念もなく、環境保護の面においても優れた性能も併せ持つ。
Claims (10)
- ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つ(ただし、アルコキシ基及びエポキシ基を除く)シリコーン化合物(B)0.01重量部以上8重量部以下、及び芳香族硫黄化合物のアルカリ金属塩(C)0.03重量部以上5重量部以下を配合してなり、該シリコーン化合物(B)が、式RSiO 1.5 の単位(T単位)及び/又は式SiO 2.0 の単位(Q単位)を全体のシロキサン単位(R 3〜0 SiO 2〜0.5 )に対して20mol%以上含有し、該有機官能基のうち芳香族基が20mol%以上である難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 更に、繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)0.05重量部以上5重量部以下を配合してなる請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つ(ただし、アルコキシ基及びエポキシ基を除く)シリコーン化合物(B)0.01重量部以上8重量部以下、及びパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩(E)0.01重量部以上5重量部以下を配合してなり、該シリコーン化合物(B)が、式RSiO 1.5 の単位(T単位)及び/又は式SiO 2.0 の単位(Q単位)を全体のシロキサン単位(R 3〜0 SiO 2〜0.5 )に対して20mol%以上含有し、該有機官能基のうち芳香族基が20mol%以上である難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 更に、繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)0.05重量部以上5重量部以下を配合してなる請求項3に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記有機官能基のうち芳香族基がフェニル基であり、残りがメチル基であり、また末端基がメチル基、フェニル基、水酸基の内から、選ばれた1種、又はこれらの2種から3種までの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記芳香族硫黄化合物のアルカリ金属塩(C)が、芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩又は芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記芳香族硫黄化合物のアルカリ金属塩(C)が、サッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N′−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド及びN−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドから選択される1種もしくは2種以上のアルカリ金属塩である請求項1、2又は6に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記芳香族硫黄化合物のアルカリ金属塩(C)が、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸及びジフェニルスルホン−3,4′−ジスルホン酸から選択される1種もしくは2種以上のアルカリ金属塩である請求項1、2、6又は7に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記繊維形成型の含フッ素ポリマー(D)が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項2又は4に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩(E)の炭素数が1〜8であることを特徴とする請求項3又は4に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
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