JP4550613B2 - 異方熱伝導材料 - Google Patents
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非特許文献1には、多層膜による膜厚方向の熱絶縁に関する理論的な考察が記載されているが、膜内方向への熱伝導性を高め、膜内にて熱飽和が起こることを抑制する手段については、まったく触れられていない。
非特許文献2には、Siチップ内での熱伝導性制御に薄膜形成を用いる方法などが述べられているが、膜厚方向と膜面方向への熱伝導率の差についての記述はなく、多層化の効果なども述べられていない。
mλ/2.2<t<mλ/1.8 (mは整数)
構成材料Aと構成材料Bの組み合わせとして、(A,B)=(Ag,Si),(C,Si),(Cu,Cr),(C,Cr),(Cu,Ru),(C,Ru),(Pt,Ag),(C,Ag)からなる群より選ばれる一つの組を選定することを特徴とする異方熱伝導材料。
これにより異方熱伝導性を発現させることができるのは、熱伝導体1(構成材料A)が膜内から膜の端部に熱を移動させる役割を果たし、端部からの熱の取り出しが容易になり、熱共振体2(構成材料B)はフォノン共振を起こす役割を果たし、膜厚方向への熱伝導性を著しく低下させ、熱絶縁性をもたせるからである。つまり、入熱より励起されるフォノン振動が構成材料Bを伝達して熱伝導体1(構成材料A)との界面にて反射されることにより、構成材料B中でフォノン振動の共振が起こり、熱伝導体1(構成材料A)中に移行する熱量が制限され、膜厚方向への熱の移動速度を低下させる役割を果たす。また、熱共振体2(構成材料B)の膜厚tと入熱中における波長分布密度の大きいフォノン波長λの関係を規定したのは、フォノンの波長が上記の範囲からはずれると、熱共振体2(構成材料B)内でのフォノン共振効果が非常に弱くなり、膜厚方向での熱絶縁性が低下し、結果として異方熱伝導効果が得られないからである。
このような構成にすることで、異方熱伝導材料の表面に熱絶縁特性を有する熱共振体2(構成材料B)と熱を膜面ならびに膜厚方向の両方向に伝達する構成材料Aの両者を存在させることができる。上記構成の材料を利用し、発熱部品を熱伝導体1(構成材料A)上に実装し、発熱部品の近傍の電子部品を熱共振体2(構成材料B)に実装することで、発熱部品の近傍の熱部品への熱影響を避けて、部品実装を行うことができる。この時最表面の熱伝導体1(構成材料A)と熱共振体2(構成材料B)の表面の高さは、熱共振体2(構成材料B)のみ熱伝導体1(構成材料A)の表面に成膜して構成しているため異なるが、その高さの差は、膜厚が数百nmオーダである場合には、部品実装上特に問題とならないし、さらに厚く問題となる場合は、最表面の構成材料Bにマスクを行い、構成材料Aのみ成膜を行って、熱共振体2(構成材料B)と熱伝導体1(構成材料A)とが同一平面を構成するようにできる。
L=3ω/(C・V)
フォノン速度Vは弾性率M、比重ρによってV=(M/ρ)1/2の関係で表されるため、フォノンの自由行程距離Lは、L=3ωρ1/2/(C・M1/2)で見積もることができる。熱移動のほとんどの部分に音響フォノンモードが関与している。
熱伝導体1(構成材料A)は、高熱伝導率である必要があり、特に膜厚方向よりも膜面方向の熱伝導性に優れていることが望まれる。このような条件を満たす物質としては、層状物質が代表的であり、グラファイト系の材料が挙げられる。膜厚方向に対しては、低い弾性率をもち、膜面方向に高い弾性率をもつ材料であるのは、熱伝導体1(構成材料A)としての要件を満たしている。
P=4(MA・ρA)1/2・(MB・ρB)1/2/((MA・ρA) 1/2+(MB・ρB)1/2)2
この式で求められるPの値ができるだけ小さい熱伝導体1(構成材料A)と熱共振体2(構成材料B)の組み合わせが好ましく、膜厚方向の熱絶縁性を決定していることがわかる。散乱係数は、膜厚方向への熱絶縁性を期待するには、できるだけ小さい値であることが好ましい。
熱共振体2(構成材料B)としてSiを選定し、熱伝導体1(構成材料A)としてAg、グラファイトCを選択して、単結晶Si(100)を基板として10mm×10mmの多層膜を構成し、熱共振体2(構成材料B)の膜厚の影響を評価した。熱共振体2(構成材料B)は分子線エピタキシ法で形成し、熱伝導体1(構成材料A)はCVD法もしくは、スパッタリング法によって形成した。いずれの場合も単結晶Si上にまず、熱伝導体1(構成材料A)を形成し、続いてその上に熱共振体2(構成材料B)を形成し、50周期作成した。シリコン基板多層膜の構成を表1に示す。また、膜端面には、微細熱電対を接続し、5℃温度が上昇する際の時間と温度変化を測定した。なお、膜厚方向の熱伝導率はサーモリフレクタンス法によって測定した。入熱はパルスレーザを用いて膜中央部に1mmφの領域にあて、コヒーレントフォノンを励起し、加熱を行った。条件2、3、6、7では膜厚方向の熱伝導率が非常に低くなっており、入熱により励起されたフォノン振動が共振現象を起こしたと考えられる。また共振現象を起こしたと考えられる条件では、膜内方向での熱の伝わりが早くなり、膜面方向での熱伝導率は向上していると考えられる。
実施例1に示した厚さ500ミクロンの単結晶Si上にAg/Si形成を行った材料ならびに厚さ500ミクロンの単結晶SiをBiTe半導体からなる熱電素子の熱極として用いて、熱電効率の測定を行った。熱極間の間隔を1.2mmとした。Si上にAg/Si膜を形成したものを熱極として用いた場合の熱電素子の熱電変換効率が35%であったのに対して、Si単結晶膜を用いた場合には、熱電変換効率は15%にとどまった。以上のことから、本発明は、熱電素子の高効率化に大きな効果をもたらすと考えられる。
熱共振体2(構成材料B)としてSiを選定し、熱伝導体1(構成材料A)としてAg、グラファイトCを選択して、単結晶Si(100)を基板として10mm×10mmの多層膜を実施例1と同様の方法で構成した。実施例1と異なるのは、Si基板上に、熱共振体2(構成材料B)と熱伝導体1(構成材料A)の積層回数の影響をみたところにある。また、膜端面には、微細熱電対を接続し、5℃温度が上昇する際の時間と温度変化を測定した。なお、膜厚方向の熱伝導率はサーモリフレクタンス法によって測定した。入熱はパルスレーザを用いて膜中央部に1mmφの領域にあて、コヒーレントフォノンを励起し、加熱を行った。熱伝導体1(構成材料A)と熱共振体2(構成材料B)を複数回積層した材料(条件32、33、35、36)では膜厚方向の熱伝導率が、1周期層繰り返した条件31、34と比べて、非常に低くなっている。この理由は、複数回積層した効果により、膜厚方向の熱伝達率が著しく低下したものと考えられる。なお、31および34では、共振現象が認められるにもかかわらず、端部の温度変化に時間がかかっているが、入熱総量に対して、熱電対の熱容量が大きく温度上昇に時間を要したものと思われる。
熱共振体2(構成材料B)としてCrを選定し、熱伝導体1(構成材料A)としてCu、グラファイトCを選択して、(111)配向Cu板を基板として10mm×10mmの多層膜を構成した。熱共振体2(構成材料B)は分子線エピタキシ法で形成し、熱伝導体1(構成材料A)はCVD法もしくは、スパッタリング法によって形成した。いずれの場合も配向性Cu基板上にまず、構成材料Aを形成し、続いてその上に熱共振体2(構成材料B)を形成し、50周期作成した。Cu基板多層膜の構成を表3に示す。また、膜端面には、微細熱電対を接続し、5℃温度が上昇する際の時間と温度変化を測定した。なお、膜厚方向の熱伝導率はサーモリフレクタンス法によって測定した。入熱はパルスレーザを用いて膜中央部に1mmφの領域にあて、コヒーレントフォノンを励起し、加熱を行った。条件に38、39、42、43では膜厚方向の熱伝導率が非常に低くなっており、入熱により励起されたフォノン振動が共振現象を起こしたと考えられる。また共振現象を起こしたと考えられる条件では、膜内方向での熱の伝わりが早くなり、膜面方向での熱伝導率は向上していると考えられる。
熱共振体2(構成材料B)としてRuを選定し、熱伝導体1(構成材料A)としてCu、グラファイトCを選択して、(100)配向Cu板を基板として10mm×10mmの多層膜を構成した。熱共振体2(構成材料B)は分子線エピタキシ法で形成し、熱伝導体1(構成材料A)はCVD法もしくは、スパッタリング法によって形成した。いずれの場合も配向性Cu基板上にまず、熱伝導体1(構成材料A)を形成し、続いてその上に熱共振体2(構成材料B)を形成し、50周期作成した。Cu基板多層膜の構成を表4に示す。また、膜端面には、微細熱電対を接続し、5℃温度が上昇する際の時間と温度変化を測定した。なお、膜厚方向の熱伝導率はサーモリフレクタンス法によって測定した。入熱はパルスレーザを用いて膜中央部に1mmφの領域にあて、コヒーレントフォノンを励起し、加熱を行った。条件46、47、50、51では膜厚方向の熱伝導率が非常に低くなっており、入熱により励起されたフォノン振動が共振現象を起こしたと考えられる。また共振現象を起こしたと考えられる条件では、膜内方向での熱の伝わりが早くなり、膜面方向での熱伝導率は向上していると考えられる。
熱共振体2(構成材料B)としてAgを選定し、熱伝導体1(構成材料A)としてPt、グラファイトCを選択して、(100)配向Fe板を基板として10mm×10mmの多層膜を構成した。熱共振体2(構成材料B)は分子線エピタキシ法で形成し、熱伝導体1(構成材料A)はCVD法もしくは、スパッタリング法によって形成した。いずれの場合も単結晶Fe上にまず、熱伝導体1(構成材料A)を形成し、続いてその上に熱共振体2(構成材料B)を形成し、50周期作成した。Fe基板多層膜の構成を表3に示す。また、膜端面には、微細熱電対を接続し、5℃温度が上昇する際の時間と温度変化を測定した。なお、膜厚方向の熱伝導率はサーモリフレクタンス法によって測定した。入熱はパルスレーザを用いて膜中央部に1mmφの領域にあて、コヒーレントフォノンを励起し、加熱を行った。
いずれのサンプルにおいても共振現象は見られず、膜厚方向において熱伝導性が高い傾向にあった。また、熱が膜厚方向で貫通してしまうため、膜内方向に対する熱伝導性は積層状態としても大きな変化は認められなかった。
2.熱共振体(構成材料B)
3.入熱
4.透過熱
5.発熱体
6、14.異方熱伝導膜
7.放熱体
8.3ゲートトランジスタ
9.ソース
10.ドレン
11.シリコンボディ
12.多結晶シリコン電極
13.バックゲートSi膜と酸化物基板、またはバックゲートSi膜と絶縁基板
15.N型半導体
16.P型半導体
17.電極
18.絶縁基板
20.熱導体膜面内の熱移送方向
Claims (13)
- 熱を膜面ならびに膜厚方向の両方に伝達する構成材料Aと膜面に対して垂直成分からなる入熱の一部に対して回折現象を起こして、熱絶縁特性を示す構成材料Bを積層してなる異方熱伝導材料であり、さらに構成材料Bの膜厚tと入熱を構成するフォノン中の分布密度の大きいフォノンの波長λが以下の関係を満たし、
mλ/2.2<t<mλ/1.8 (mは整数)
構成材料Aと構成材料Bの組み合わせとして、(A,B)=(Ag,Si),(C,Si),(Cu,Cr),(C,Cr),(Cu,Ru),(C,Ru),(Pt,Ag),(C,Ag)からなる群より選ばれる一つの組を選定することを特徴とする異方熱伝導材料。 - 構成材料Aと構成材料Bの組み合わせのうち少なくとも一つの組からなる構成を、1回から複数回交互に繰り返した構造とすることを特徴とした請求項1に記載の異方熱伝導材料。
- 請求項1または請求項2に記載の異方熱伝導材料において、構成材料Bの厚さが入熱より励起されるフォノン振動において、少なくとも一部の周波数の音響フォノンの自由行程距離Lよりも小さいことを特徴とする異方熱伝導材料。
- 請求項1から請求項3のいずれかに記載の異方熱伝導材料において、構成材料Bの結晶が膜厚方向に連続し結晶粒界が存在しないことを特徴とする異方熱伝導材料。
- 構成材料Aと構成材料Bの組み合わせのうち少なくとも一つの組からなる構成を1回から複数回交互に繰り返した構造とする構成の異方熱伝導材料の最表面の構成材料Bの構成として、構成材料Bを膜面に部分的に構成するか、構成材料Bを膜面の一部に構成した残りの部分に構成材料Aを構成した構造とすることを特徴とした請求項1に記載の異方熱伝導材料。
- 構成材料B上に、構成材料Aと構成材料Bの組み合わせのうち少なくとも一つの組からなる構成を、1回から複数回交互に繰り返し最上層はともに構成材料Bである構造とすることを特徴とした請求項1に記載の異方熱伝導材料。
- 発熱体と、放熱部材又は回路基板、電子部品基板とを、請求項1から請求項6のいずれかに記載の異方熱伝導材料とを介して接触させることを特徴とする異方熱伝導材料を用いた放熱構造。
- 前記発熱体が半導体素子又は半導体パッケージであることを特徴とする請求項7に記載の異方熱伝導材料を用いた放熱構造。
- 基板に、請求項1から請求項6のいずれかに記載の異方熱伝導材料を一体に組み込んだ半導体部品。
- 基板に、請求項1から請求項6のいずれかに記載の異方熱伝導材料を一体に組み込んだ電子機器部品。
- 基板に、請求項1から請求項6のいずれかに記載の異方熱伝導材料を組み込んだ自動車用制御機器。
- 導電材料の外周部に請求項1から請求項6のいずれかに記載の異方熱伝導材料を組み込んだ電気と熱の両者を伝達する電気・熱移送材料。
- テープ形状あるいはチューブ状からなる膜からなることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の異方熱伝導材料。
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