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JP3990554B2 - 形状凍結性に優れた鋼板およびその製造方法 - Google Patents

形状凍結性に優れた鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、形状凍結性に優れた鋼板およびその製造方法に関するもので、該鋼板は、自動車部品等が主たる用途のものである。
本発明の鋼板は熱延鋼板と冷延鋼板の双方を含むものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車からの炭酸ガスの排出量を抑えるために、高強度鋼板を使用して自動車車体を軽量化することが進められている。また、搭乗者の安全性を確保するためにも、自動車車体には、軟鋼板の他に高強度鋼板が多く使用されるようになってきている。更に、自動車車体の軽量化を今後進めていくために、従来以上に高強度鋼板の使用強度レベルを高めたいという新たな要請が非常に高まりつつある。
【0003】
しかしながら、高強度鋼板に曲げ変形を加えると、加工後の形状が、その高強度ゆえに、加工冶具の形状から離れて加工前の形状の方向にもどりやすくなるというスプリング・バック現象や、成形中の“曲げ−曲げ戻し”からの弾性回復により、側壁部の平面が曲率を持った面になってしまうという“壁そり現象”が起こり、狙いとする加工部品の形状が得られないという寸法精度不良が生じる。
【0004】
従って、従来の自動車の車体では、主として440MPa以下の高強度鋼板に限って使用されてきた。すなわち、自動車車体にとっては、490MPa以上の高強度鋼板を使用して車体の軽量化を進めていく必要があるにもかかわらず、スプリング・バックや“壁そり”が少なく、形状凍結性の良い高強度鋼板が存在しないのが実状である。
【0005】
付け加えるまでもなく、440MPa以下の高強度鋼板や軟鋼板の加工後の形状凍結性を高めることも、自動車や家電製品などの製品の形状精度を高める上で極めて重要である。
このような実状の中で、特開平10−72644号公報には、圧延面に平行な面における{200}集合組織の集積度が1.5以上であることを特徴とするスプリングバック量が小さいオーステナイト系ステンレス冷延鋼板が開示されている。しかし、フェライト系鋼板のスプリングバック量を小さくする技術については何ら記載されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
軟鋼板や高強度鋼板に曲げ加工を施すと、鋼板の強度に依存しながら大きなスプリング・バックが発生し、加工成形部品の形状凍結性が悪いというのが現状である。本発明は、この問題を抜本的に解決して、形状凍結性に優れた熱延鋼板及び冷延鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
従来の知見によれば、スプリング・バックを抑えるための方策としては、鋼板の変形応力を低くすることがとりあえず重要であると考えられていた。そして、変形応力を低くするためには、引張強さの低い鋼板を使用せざるをえなかった。しかしこれだけでは、鋼板の曲げ加工性を向上させ、スプリング・バックや壁そりを低く抑えるための根本的な解決にはならない。
【0008】
そこで、本発明者らは、曲げ加工性を向上させてスプリング・バックや壁そりの発生を根本的に解決するために、新たに鋼板の集合組織の曲げ加工性への影響に着目して、その作用効果を詳細に調査、研究した。
その結果、{100}<011>〜{223}<110>方位群と{554}<225>、{111}<112>、{111}<110>の各方位の強度を制御すること、さらには圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つをできるだけ低い値にすることで、曲げ加工性が飛躍的に向上することを明らかにした。
【0009】
そして、曲げ加工性に優れた鋼板を見いだした。
加えて、このような形状凍結性に有利な集合組織を形成するためには、成分と熱間圧延条件を最適化することが極めて重要であることを明らかにした。
本発明は、前述の知見に基づいて構成されており、その主旨とするところは以下の通りである。
【0010】
(1)質量%で、C:0.00330.25%、Si:0.001〜2.5%、Mn:0.01〜2.5%、P:0.005〜0.076%、S:0.03%以下、Al:0.04〜2.0%、N:0.01%以下、O:0.01%以下を含有し、(1)式と(2)式に示した質量%で表現した鋼の成分より求まる関係をいずれも満足し、残部は鉄および不可避的不純物よりなり、かつ、1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が3.0以上で、かつ、{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値が3.5以下であり、さらに、圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.7以下であることを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板。
【0011】
203√C+15.2Ni-44.7Si-104V-31.5Mo+30Mn+11Cr+20Cu-700P-200Al<30 …(1)
44.7Si+700P+200Al>40 …(2)
【0013】
)更に、Ti:0.2%以、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下、Cr:1.5%以下の1種又は2種以上を含有する前記()に記載の形状凍結性に優れた鋼板。
【0014】
)更に、Mo:1%以下、Cu:2%以下、Ni:1%以下、及び、Sn:0.2%以下の1種又は2種以上を含有する前記(1)又は(2)に記載の形状凍結性に優れた鋼板。
)前記(1)〜()の何れかに記載の鋼板にめっきを施したことを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板。
【0015】
)前記(1)〜()の何れかに記載の鋼板を製造する方法であって、前記(1)〜(3)の何れか1項に記載の成分からなる鋼片を熱間圧延するに当たり、粗圧延をAr3変態温度超で行い、引き続き、仕上圧延をAr3変態温度以下で行い、仕上温度600℃以上Ar3変態温度未満で圧延を終了し、600〜900℃で巻き取り、熱延鋼板とすることを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板の製造方法。
【0016】
)600℃以上Ar3変態温度以下において、少なくとも1パス以上を摩擦係数が0.2以下となるように仕上圧延を行うことを特徴とする前記()に記載の形状凍結性に優れた鋼板の製造方法。
)前記(又は)に記載の鋼板を酸洗し、圧下率80%未満の冷間圧延を施した後、600℃〜(Ac3+100)℃の温度範囲に加熱し、冷却し、冷延鋼板とすることを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の内容を詳細に説明する。
1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、および、{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値:
これらの平均値は、本発明で特に重要な特性値である。板厚中心位置での板面のX線回折を行い、ランダム試料に対する各方位の強度比を求めたときの、{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値が3.0以上でなくてはならない。これが3.0未満では形状凍結性が劣悪となる。
【0018】
この方位群に含まれる主な方位は、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>および{223}<110>である。
これら各方位のX線ランダム強度比は{110}極点図に基づきベクトル法により計算した3次元集合組織や、{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図(好ましくは3つ以上)を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0019】
たとえば、後者の方法における上記各結晶方位のX線ランダム強度比には、3次元集合組織のφ2=45゜断面における(001)[1−10]、(116)[1−10]、(114)[1−10]、(113)[1−10]、(112)[1−10]、(335)[1−10]、(223)[1−10]の強度をそのまま用ればよい。
【0020】
{100}<011>〜{223}<110>方位群の強度比の平均値とは、上記の各方位の強度比の相加平均である。上記の全ての方位の強度比を得ることができない場合には、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{112}<110>、{223}<110>の各方位の強度比の相加平均で代替してもよい。
【0021】
さらに、1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値は3.5以下でなくてはならない。
これが3.5超であると、{100}<011>〜{223}<110>方位群の強度比が適正であっても、良好な形状凍結性を得ることが困難となる。{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>のX線ランダム強度比も、上記の方法に従って計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0022】
より望ましくは、{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が4.0以上で、{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>のX線ランダム強度比の相加平均値が2.5未満である。
以上述べた結晶方位のX線強度比が曲げ加工時の形状凍結性に対して重要であることの理由は必ずしも明らかではないが、曲げ変形時の結晶のすべり挙動と関係があるものと推測される。
【0023】
X線回折に供する試料は、機械研磨などによって、鋼板を所定の板厚まで減厚し、次いで、化学研磨や電解研磨などによって歪みを除去して、板厚1/2面が測定面となるように作製する。鋼板の板厚中心層に偏析帯や欠陥などが存在し、測定上不都合が生ずる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で適当な面が測定面となるように上述の方法に従って試料を調整して測定すればよい。当然のことであるが、上述のX線強度の限定が板厚1/2近傍だけでなく、なるべく多くの厚みにわたって満たされることで、より一層、形状凍結性が良好になる。
【0024】
なお、{hkl}<uvw>で表される結晶方位とは、板面の法線方向が<hkl>に平行で、圧延方向が<uvw>と平行であることを示している。
圧延方向のr値(rL)および圧延方向と直角方向のr値(rC):
r値は、本発明において重要な値である。すなわち、本発明者らが鋭意検討の結果、上述した種々の結晶方位のX線強度比が適正であっても、必ずしも良好な形状凍結性が得られないことが判明した。上記のX線強度比と同時に、rLおよびrCのうち少なくとも1つが0.7以下であることが必須である。より好ましくは0.55以下である。rLおよびrCの下限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。
【0025】
r値は、JIS5号引張試験片を用いた引張試験により評価する。引張歪みは通常15%であるが、均一伸びが15%を下回る場合には、均一伸びの範囲で、できるだけ15%に近い歪みで評価すればよい。
なお、曲げ加工を施す方向は加工部品によって異なるので、特に限定するものではないが、r値が小さい方向に対して垂直もしくは垂直に近い方向に折り曲げる加工を主として行なうことが好ましい。
【0026】
ところで、一般に集合組織とr値とは相関があることが知られているが、本発明においては、既述の結晶方位のX線強度比に関する限定とr値に関する限定とは互いに同義ではなく、両方の限定が同時に満たされなくては、良好な形状凍結性を得ることはできない。
次に成分組成に係る限定条件について述べる。
【0027】
の下限を0.0001%としたのは、実用鋼で得られる下限値を用いることにしたためである。一方でCが0.25%超になると加工性や溶接性が悪くなるので0.25%を上限とする。Cの下限は、実施例の表1の鋼種Bの0.0033%に基づいて、0.0033%とした。
Siは鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であり、かつ、γ→α変態温度を上昇させる。しかし、2.5%超となると加工性が劣化したり、表面疵が発生したりするので、2.5%を上限とする。一方、実用鋼でSiを0.001%未満とするのは困難であるので、0.001%を下限とする。
【0028】
Mnも鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であるが、2.5%超となると加工性が劣化するので、2.5%を上限とする。また、Mnはγ→α変態点を顕著に低下させる。この観点から、Mnの上限は2%が望ましい。一方、実用鋼でMnを0.01%未満とするのは困難であるので、0.01%を下限とする。また、Mn以外にSによる熱間割れの発生を抑制するTiなどの元素が十分に添加されない場合には、質量%で、Mn/S≧20となるMn量を添加することが望ましい。
【0029】
Pも鋼板の機械的強度を高め、Ar3変態温度も上昇させる元素である。したがって、0.005%以上添加する。しかし、多すぎると加工性が低下するので0.15%を上限とする。Pの上限は、実施例の表1の鋼種Eの0.076%に基づいて、0.076%とした。
Sは0.03%以下とする。これは加工性の劣化や熱間圧延または冷間圧延時の割れを防ぐためである。
【0030】
Alは脱酸のためにも0.01%以上の添加が必要である。また、Alはγ→α変態点を顕著に上昇させる。この観点からは、0.05%以上の添加がより望ましい。しかし、多すぎると加工性が低下したり、表面性状が劣悪となるため、上限を2.0%とする。Al量の下限は、実施例の表1の鋼種Bの0.040%に基づき、0.04%とした。
NとOは不純物であり、加工性を悪くさせないように、いずれも0.01%以下とする。
【0036】
i、Nb、V、Cr、炭素、窒素の固定、析出強化、組織制御、細粒強化などの機構を通じて材質を改善するので、必要に応じて、それぞれ、0.005%以上、0.001%以上、0.001%以上、0.01%以上添加することが望ましい。しかし、過度に添加しても格段の効果はなく、むしろ加工性や表面性状を劣化させるので、Ti、Nb、V、Crそれぞれの上限を、0.2%、0.2%、0.2%、1.5%した。
【0037】
o、Cu、Ni、Snは、機械的強度を高めたり材質を改善する効果があるので、必要に応じて、各成分とも、0.001%以上を添加することが望ましい。しかし、過度の添加は逆に加工性を劣化させるので、Mo、Cu、Ni、および、Snの上限を、それぞれ、1%、2%、1%、および、0.2%とする。
【0038】
以上の成分元素は、式(1)と式(2)に示された条件を満足する範囲で添加される。この範囲が満足されないと、Ar3変態温度が低下し、α域で仕上圧延を行う温度域が低くなるので、巻取温度の確保ができなくなり、巻取中に回復再結晶が十分起こらなくなる。また、理由は明確ではないが、上式の関係を満足しないと、Ar3変態温度以下で仕上げ熱延を行っても、形状凍結性に有利な集合組織の集積度があまりあがらない。なお、本発明において規定されたその他の成分は、変態温度や集合組織形成にほとんど影響を及ぼさないことから無視した。
【0039】
203√C+15.2Ni-44.7Si-104V-31.5Mo+30Mn+11Cr+20Cu-700P-200Al<30 …(1)
44.7Si+700P+200Al>40 …(2)
なお、本発明では特に限定しないが、脱酸の目的や硫化物の形態制御の目的でCaやMgを適量添加しても構わない。
前記()の発明において、メッキの種類は特に限定するものではなく、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等の何れでも、本発明の効果が得られる。
【0040】
次に、製造方法について説明する。
熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉、転炉、電炉等による溶製に引き続き、各種の2次製錬を行い、次いで、通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。
【0041】
連続鋳造の場合には一度低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、鋳造スラブを連続的に熱延してもよい。原料にはスクラップを使用しても構わない。
熱間圧延において、圧延温度がAr3変態温度以下になると、加工前に生成したフェライトが加工され、強い圧延集合組織を形成する。前記()の発明に記載のとおり、この様な集合組織を、最終的に、形状凍結性に有利な集合組織とするためには、仕上圧延をAr3変態温度以下で行い、600℃以上Ar3変態温度未満で完了し、高温で加工されたフェライトを、冷却途中および巻き取り中に、回復・再結晶させる必要がある。圧延完了温度が600℃より低いと、圧延機への負担が大きくなり、Ar3変態温度超では形状凍結性に有利な集合組織が得られないので、仕上温度を、600℃以上Ar3変態温度未満の範囲に限定する。
【0042】
仕上圧延の圧下率は25〜85%の範囲にすることが望ましい。圧下率が25%未満では、形状凍結に有利な集合組織が発達しにくく、85%超では、形状凍結性を劣化させる集合組織が発達してくる。この観点から、仕上げ圧延の圧下率は30〜80%の範囲にすることが更に望ましい。
巻取温度を600℃未満にすると、巻取中に十分な回復再結晶が起こらず、加工性が劣化する。また、巻取温度を900℃超にすると、粒成長によって形状凍結性に有利な集合組織への集積度が低下する。したがって、巻取温度の範囲は600〜900℃とする。なお、熱延終了後、一旦室温まで冷却した後に再度600〜900℃に再加熱焼鈍を行っても、同様の効果が得られることは明らかである。
【0043】
ここで、前記()の発明に記したように、熱間圧延時の熱間圧延ロールと鋼板との摩擦係数が0.2を越えている場合には、鋼板表面近傍における板面に、{110}面を主とする結晶方位が発達し、形状凍結性が劣化する。それ故に、より良好な形状凍結性を指向する場合には、600℃〜Ar3以下の仕上圧延における少なくとも1パスについては、ロールと鋼板との摩擦係数を0.2以下とすることが好ましい。この摩擦係数は低ければ低いほど望ましく、特に厳しい形状凍結性が要求される場合には、仕上圧延の全パスについて、摩擦係数を0.15以下とすることが望ましい。
【0044】
熱間圧延においては、Ar3変態温度以上で粗圧延を行った後にシートバーを接合し、引き続き、Ar3変態温度以下で仕上げ圧延をしてもよい。その際に、粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行ってもよい。熱延鋼板には、必要に応じて、スキンパス圧延を施してもよい。スキンパス圧延には、加工成形時に発生するストレッチャーストレインの防止や、形状矯正の効果があることは言うまでもない。
【0045】
この様にして得られた熱延鋼板を冷間圧延し、焼鈍して最終的な薄鋼板とする際に、冷間圧延の全圧下率が80%以上となる場合には、一般的な冷間圧延−再結晶集合組織である板面に平行な結晶面のX線回折積分面強度比の{111}面や{554}面成分が高くなり、本発明の特徴である前記(1)の発明の結晶方位の規定を満たなくなる。そのため、冷間圧延の圧下率の上限を80%とする。
【0046】
形状凍結性を高めるためには、冷間圧下率を70%以下に制限することが望ましい。冷間圧延率の下限は特に定めることなく、本発明の効果を得ることができるが、結晶方位の強度を適当な範囲に制御するためには3%以上とすることが好ましい。
この様な圧下率範囲で冷間圧延された冷延鋼板を焼鈍する際に、焼鈍温度が600℃未満の場合には、加工組織が残留し成形性を著しく劣化させるので、焼鈍温度の下限を600℃とする。
【0047】
一方、焼鈍温度が過度に高い場合には、再結晶によって生成したフェライトの集合組織が、オーステナイトへ変態後、オーステナイトの粒成長によってランダム化され、最終的に得られるフェライトの集合組織もランダム化される。特に、焼鈍温度が(Ac3+100)℃を越える場合にはそのような傾向が顕著となる。
【0048】
従って、焼鈍温度は(Ac3+100)℃以下とする。冷延鋼板には、必要に応じて、スキンパス圧延を施してもよい。
そして、本発明の形状凍結性に優れた鋼板は、曲げ加工だけでなく、曲げ、張り出し、絞り等、曲げ加工を主体とする複合成形にも適用できる。
本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について説明する。
【0049】
【実施例】
(実施例)
表1に示した成分組成を有するAからMまでの鋼を用いて検討した結果について説明する。これらの鋼は、鋳造後、そのまま、もしくは、一旦室温まで冷却された後に、1100℃〜1300℃の温度範囲に再加熱され、その後熱間圧延が施され、最終的には、1.4mm厚、3.0mm厚、もしくは、8.0mm厚の熱延鋼板とした。3.0mm厚および8.0mm厚の熱延鋼板は、冷間圧延することによって1.4mm厚とし、その後、連続焼鈍工程にて焼鈍を行った。これら1.4mm厚の鋼板から、50mm幅、270mm長さの試験片を作製し、ポンチ幅78mm、ポンチ肩R5、ダイ肩R5の金型を用いて、ハット曲げ試験を行った。曲げ試験を行った試験片は、三次元形状測定装置にて板幅中心部の形状を測定し、図1に示した様に、点(1)と点(2)の接線と、点(3)と点(4)の接線の交点の角度から90°を引いた値の左右での平均値をスプリング・バック量とし、点(3)と点(5)間の曲率の逆数を左右で平均化した値を壁そり量とし、左右の点(5)間の長さからポンチ幅を引いた値を寸法精度として、形状凍結性を評価した。なお、曲げはr値の低い方向と垂直に折れ線が入るように行った。
【0050】
【表1】
Figure 0003990554
【0051】
【表2】
Figure 0003990554
【0052】
ところで、図2および図3に示す様に、スプリングバック量や壁そり量は、BHF(しわ押さえ力)によっても変化する。本発明の効果は、いずれのBHFで評価を行ってもその傾向は変わらないが、実機で実部品をプレスする際には、あまり高いBHFはかけられないので、今回は、BHF29kNで各鋼種のハット曲げ試験を行った。
【0053】
表2に、各鋼板の製造条件と、該製造条件が本発明の範囲内にあるか否かを示した。熱延条件の「圧延温度」の欄は、Ar3変態温度以下で仕上圧延を行った場合は「○」、仕上圧延の温度域がAr3変態温度以上を含んでいる場合「×」とした。以上の場合に、仕上圧延の少なくとも1パス以上についての摩擦係数が0.2以下の場合には、「潤滑」の欄に「○」、全パスにおける摩擦係数が0.2超の場合には、「△」を記入した。「巻取温度」の欄は、600〜900℃で巻き取った場合には「○」、600℃未満の場合には「×」とした。
【0054】
鋼L、Mを除いた全鋼種において、各鋼種の「−2」および「−3」の番号の実施例が本発明の製造条件を満たしている。
鋼L、Mは、「圧延温度」の条件を満足すると「巻取温度」の条件を確保できず、また、「巻取温度」の条件を確保すると、「圧延温度」の条件を満足しないものである。したがって、鋼L、Mに関しては、いずれの実施例も本発明の製造条件を満たしていない。
【0055】
この様な熱延鋼板を1.4mm厚に冷延する場合において、冷延圧下率が80%以上の場合には、「冷延圧下率」を「×」とし、「80%未満」の場合には「○」とした。また、焼鈍温度が600℃以上(Ac3+100)℃以下の場合には、「焼鈍温度」の欄を「○」とし、それ以外の場合には「×」とした。製造条件として関係のない項目は「―」とした。熱延鋼板および冷延鋼板のいずれに対しても、スキンパス圧延を0.5〜1.5%の範囲で施した。
【0056】
X線の測定は、鋼板の代表値として、板厚の7/16厚の位置で板面に平行なサンプルを作製し、実施した。
表3および表4(表3の続き)に、前記の方法によって製造した1.4mm厚の熱延鋼板と冷延鋼板の機械的特性値とスプリング・バック量とを示した。表4中の鋼L、Mを除いた全鋼種において、各鋼種の「−2」および「−3」の番号の実施例が本発明に該当するものである。
【0057】
これらは、発明外の「−1」と「−4」の番号のものに比べて、スプリング・バック量および壁そり量が小さくなり、結果として、寸法精度が向上していることがわかる。即ち、薄鋼板において、本発明で限定される各結晶方位のX線ランダム強度比とr値が満たされると、初めて、良好な形状凍結性が達成されるのである。
【0058】
各結晶方位のX線ランダム強度比やr値が形状凍結性の向上に重要であることの機構については、現在のところ、必ずしも明らかとはなっていない。おそらく、曲げ変形時にすべり変形の進行を容易にすることで、結果的に、曲げ変形時のスプリング・バック量および壁そり量を小さくしているものと理解される。
【0059】
【表3】
Figure 0003990554
【0060】
【表4】
Figure 0003990554
【0061】
【発明の効果】
薄鋼板においての集合組織とr値を制御すると、その曲げ加工性は著しく向上することを以上に詳述した。本発明によって、スプリング・バックや壁そりなどの形状不良が低減され、曲げ加工を主体とする形状凍結性に優れた薄鋼板を提供することができるようになった。
【0062】
特に、従来は、形状不良の問題から高強度鋼板の適用が難しかった部品にも高強度鋼板が使用できるようになる。自動車の軽量化を推進するためには、高強度鋼板の使用は是非とも必要である。形状凍結性に優れた高強度鋼板が適用できるようになると、自動車車体の軽量化をより一層推進することができる。従って、本発明は、工業的に極めて高い価値のある発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ハット曲げ試験に用いた試験片の断面を示す図である。
【図2】スプリングバック量とBHF(しわ押さえ力)の関係を示す図である。
【図3】壁そり量とBHF(しわ押さえ力)の関係を示す図である。

Claims (7)

  1. 質量%で、C:0.00330.25%、
    Si:0.001〜2.5%、
    Mn:0.01〜2.5%、
    P:0.005〜0.076%
    S:0.03%以下、
    Al:0.04〜2.0%、
    N:0.01%以下、
    O:0.01%以下
    を含有し、(1)式と(2)式に示した質量%で表現した鋼の成分より求まる関係をいずれも満足し、残部は鉄および不可避的不純物よりなり、かつ、1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が3.0以上で、かつ、{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値が3.5以下であり、さらに、圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.7以下であることを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板。
    203√C+15.2Ni-44.7Si-104V-31.5Mo+30Mn+11Cr+20Cu-700P-200Al<30 …(1)
    44.7Si+700P+200Al>40 …(2)
  2. 更に、Ti:0.2%以下、
    Nb:0.2%以下、
    V:0.2%以下、
    Cr:1.5%以
    1種又は2種以上を含有する請求項に記載の形状凍結性に優れた鋼板。
  3. 更に、Mo:1%以下、
    Cu:2%以下、
    Ni:1%以下、及び、
    Sn:0.2%以下
    の1種又は2種以上を含有する請求項1又は2に記載の形状凍結性に優れた鋼板。
  4. 請求項1〜の何れか1項に記載の鋼板にめっきを施したことを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板。
  5. 請求項1〜の何れか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の成分からなる鋼片を熱間圧延するに当たり、粗圧延をAr3変態温度超で行い、引き続き、仕上圧延をAr3変態温度以下で行い、仕上温度600℃以上Ar3変態温度未満で圧延を終了し、600〜900℃で巻き取り、熱延鋼板とすることを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板の製造方法。
  6. 600℃以上Ar3変態温度以下において、少なくとも1パス以上を摩擦係数が0.2以下となるように仕上圧延を行うことを特徴とする請求項に記載の形状凍結性に優れた鋼板の製造方法。
  7. 請求項5又は6に記載の鋼板を酸洗し、80%未満の冷間圧延を施した後、600℃〜(Ac3+100)℃の温度範囲に加熱し、冷却し、冷延鋼板とすることを特徴とする形状凍結性に優れた鋼板の製造方法。
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