JP3990550B2 - 形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部材等に使用し、効率よく自動車部材の軽量化を達成することができる、加工時の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車からの炭酸ガスの排出量を抑えるために、高強度鋼板を使用して自動車車体の軽量化を図ることが進められている。また、搭乗者の安全性確保のためにも、自動車車体には軟鋼板の他に高強度鋼板が多く使用されるようになってきている。さらに、自動車車体の軽量化を今後進めていくために、従来以上に高強度鋼板の使用強度レベルを高めたいという新たな要請が非常に高まりつつある。
【0003】
しかしながら、高強度鋼板に曲げ変形を加えると、加工後の形状は、その高強度ゆえに、加工冶具の形状から離れて加工前の形状の方向にもどろうとする。加工を与えても元の形状の方向にもどろうとする現象はスプリング・バックと呼ばれている。このスプリング・バックが発生すると、狙いとする加工部品の形状が得られない。
【0004】
従って、従来の自動車の車体では、主として440MPa以下の高強度鋼板に限って使用されてきた。
自動車車体には490MPa以上の高強度鋼板を使用して、車体の軽量化を進めていく必要があるにもかかわらず、スプリング・バックが少なく形状凍結性の良い高強度鋼板が存在しないのが実状である。
【0005】
付け加えるまでもなく、440MPa以下の高強度鋼板や軟鋼板において、加工後において、形状凍結性を高めることは、自動車や家電製品などの製品の形状精度を高める上で極めて重要であることはいうまでもない。
特開平10−72644号公報には、圧延面に平行な面における{200}集合組織の集積度が1.5以上であることを特徴とするスプリング・バック量(本発明での寸法精度)が小さいオーステナイト系ステンレス冷延鋼板が開示されている。しかし、フェライト系鋼板のスプリングバック現象や壁そり現象を低減する技術については何ら記載されていない。
【0006】
また、フェライト系ステンレス鋼のスプリングバック量を小さくする技術として、特開2001−32050号公報には、板厚中央部の集合組織において板面に平行な{100}面の反射X線強度比を2以上とする発明が開示されている。しかし、この公報に、壁そりの低減に関して何ら記載がなく、{100}<011>〜{223}<110>方位群及び壁そり低減のために重要な方位である{112}<110>についても何ら記載がない。
【0007】
また、本発明者らの一部は、WO00/06791号にて形状凍結性の向上を目的として、{100}面と{111}面の比が1以上であるフェライト系薄鋼板を開示したが、この発明には、本発明のように{100}<011>〜{223}<110>方位群,並びに{554}<225>,{111}<112>及び{111}<110>のX線ランダム強度比の値については記載されていないと同時に、機械特性としての降伏比YRを規定することについては何ら開示されていない。
【0008】
また、本発明者らの一部は、特開2001−64750号公報にて,スプリングバック量を小さくする技術として、板面に平行な{100}面の反射X線強度比が3以上である冷延鋼板を開示したが、この冷延鋼板は、板厚最表面での{100}面反射X線強度比を規定することを特徴としており、本発明で規定する“板厚1/2tでの{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均X線強度比”とは、X線の測定位置が異なる。
【0009】
また、上記公報には、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>方位についても何ら記載されていないと同時に、機械特性としての降伏比YRを規定することについては、何ら開示されていない。
また、特開2000−297349号公報には、形状凍結性の良好な鋼板として、r値の面内異方性Δrの絶対値が0.2以下である熱延鋼板が開示されている。しかし、この熱延鋼板は、低降伏比化することによって形状凍結性を向上させることを特徴としており、上記公報に、本発明で述べているような思想に基づいた形状凍結性の向上を目的とする集合組織制御に関しては記載されていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
曲げ加工を施す自動車用部材に適用する鋼板の強度を増すと、鋼板強度の上昇に従ってスプリング・バック量が増大し、形状不良が発生することから、高強度鋼板の適用が制限されているのが現状である。本発明は、この問題を抜本的に解決して、良好な形状凍結性を持つ低降伏比型高強度鋼板を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
従来の知見によれば、スプリング・バックを抑えるための方策として、鋼板の降伏点を低くすることがとりあえず重要であると考えられていた。そして、降伏点を低くするために、引張強さの低い鋼板を使用せざるを得なかった。しかし、これだけでは、鋼板の曲げ加工性を向上させ、スプリング・バック量を低く抑えるための根本的な解決にはならない。
【0012】
そこで、本発明者らは、曲げ加工性を向上させてスプリング・バックの発生を根本的に解決するために、新たに、鋼板の集合組織の曲げ加工性への影響に着目して、その作用効果を詳細に調査、研究した。そして、曲げ加工性に優れた鋼板を見いだした。
その結果、{100}<011>〜{223}<110>方位群と、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の各方位の強度を制御すること、さらには、圧延方向のr値及び圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つをできるだけ低い値にすることで、曲げ加工性が飛躍的に向上することを明らかにした。
【0013】
本発明は、前述の知見に基づいて構成されており、その主旨とするところは、以下のとおりである。
(1)質量%で、C;0.02%以上0.3%以下、Mn;0.05%以上3%以下を含み、Si;3%以下、Al;3%以下で、かつ、これらを合計で0.05%以上3%以下含み、P;0.2%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、フェライト又はベイナイトを体積分率最大の相とし、体積分率で25%以下のマルテンサイトを含む複合組織鋼であり、1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が3.0以上で、かつ、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値が3.5以下、さらに、圧延方向のr値及び圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.7以下であることを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
(2)質量%で、Ni;3%以下、Cr;3%以下、Cu;3%以下、Mo;1%以下、Co;3%以下、Sn;0.2%以下で、かつ、これらの1種又は2種以上をMnとの合計で0.1%以上3.5%以下含むことを特徴とする前記(1)記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
(3)質量%で、Nb、Ti、Vの1種又は2種以上を合計で0.3%以下含むことを特徴とする前記(1)又は(2)記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
(4)質量%で、Bを0.01%以下含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
(5)質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、Rem:0.001〜0.02%の1種又は2種を含むことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼板にめっきをしたことを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼板を製造する方法であって、前記(1)〜(5)の何れかに記載の成分からなる鋳造スラブを、鋳造ままもしくは一旦冷却した後に1000℃〜1300℃の範囲に再度加熱し、熱間圧延をする際、(1)式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上で、かつ、(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の合計が25%以上となるように制御し、(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃で熱間圧延を終了し、熱間圧延後、15℃/s以上で冷却して、(2)式に示す鋼の化学成分で決まる臨界温度To(℃)以下でかつ200℃未満の温度で巻き取ることを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度熱延鋼板の製造方法。
【0014】
【数3】
【0015】
ここで、nは仕上げ熱延の圧延スタンド数、εiはi番目のスタンドで加えられたひずみ、tiはi〜i+1番目のスタンド間の走行時間(秒)、τiは気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti(K)によって下式で計算する値である。
τi=8.46×10−9・exp{(43800/R)/Ti}
To=−438.6×C%−52.7×Mneq+697.4 (2)
ここで、Mneqは質量%で表現した鋼の成分より求まる。
【0016】
Mneq=Mn%+0.24×Ni%+0.13×Si%+0.38×
Mo%+0.55×Cr%+0.16×Cu%−0.50×
Al%−0.45×Co%+0.90×V%
(8)前記(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲の熱間圧延の少なくとも1パス以上において、摩擦係数が0.2以下となるように制御することを特徴とする前記(7)記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度熱延鋼板の製造方法。
(9)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼板を製造する方法であって、前記(1)〜(5)の何れかに記載の成分からなる鋳造スラブを、鋳造ままもしくは一旦冷却した後に1000℃〜1300℃の範囲に再度加熱し、熱間圧延をする際、(1)式で計算される有効ひずみ量εiが0.4以上で、かつ、(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の合計が25%以上となるように制御し、(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃で熱間圧延を終了し、熱間圧延後冷却して、(2)式に示す鋼の化学成分で決まる臨界温度To以下で巻き取った後、酸洗・冷間圧延を施し、Ac1変態温度以上Ac3変態温度以下の温度にて焼鈍し、その後、焼鈍温度から500℃以下まで1〜250℃/秒の冷却速度で冷却することを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度冷延鋼板の製造方法。
【0017】
【数4】
【0018】
ここで、nは仕上げ熱延の圧延スタンド数、εiはi番目のスタンドで加えられたひずみ、tiはi〜i+1番目のスタンド間の走行時間(秒)、τiは気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti(K)によって下式で計算する値である。
τi=8.46×10−9・exp{(43800/R)/Ti}
To=−438.6×C%−52.7×Mneq+697.4 (2)
ここで、Mneqは質量%で表現した鋼の成分より求まる。
【0019】
Mneq=Mn%+0.24×Ni%+0.13×Si%+0.38×
Mo%+0.55×Cr%+0.16×Cu%−0.50×
Al%−0.45×Co%+0.90×V%
(10)前記(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲の熱間圧延の少なくとも1パス以上において、摩擦係数が0.2以下となるように制御することを特徴とする前記(9)記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度冷延鋼板の製造方法。
(11)前記(7)又は(8)記載の熱延鋼板、又は、前記(9)又は(10)記載の冷延鋼板に0.4%以上5%以下のスキンパス圧延を施すことを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度冷延鋼板の製造方法。
【0020】
【発明の実施の形態】
まず、前記(1)に係る本発明について詳細に説明する。
1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、及び、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値:
これらの平均値は、本発明で特に重要な特性値である。板厚中心位置での板面のX線回折を行い、ランダム試料に対する各方位の強度比を求めたときの、{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値が3.0以上でなくてはならない。
【0021】
この平均値が3.0未満では形状凍結性が劣悪となる。この方位群に含まれる主な方位は、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>及び{223}<110>である。
これら各方位のX線ランダム強度比は、{110}極点図に基づきベクトル法により計算した3次元集合組織や、{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図(好ましくは、3つ以上)を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0022】
例えば、後者の方法における上記各結晶方位のX線ランダム強度比には、3次元集合組織のφ2=45゜断面における、(001)[1−10]、(116)[1−10]、(114)[1−10]、(113)[1−10]、(112)[1−10]、(335)[1−10]、(223)[1−10]の強度をそのまま用ればよい。{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値とは、上記の各方位の相加平均である。上記の全ての方位につき上記強度を得ることができない場合には、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{112}<110>、{223}<110>の各方位の相加平均で代替してもよい。
【0023】
さらに、1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値は3.5以下でなくてはならない。これが3.5超であると、{100}<011>〜{223}<110>方位群の強度が適正であっても、良好な形状凍結性を得ることが困難となる。
【0024】
{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>のX線ランダム強度比も、上記の方法に従って計算した3次元集合組織から求めればよい。より望ましくは、{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が4.0以上、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>のX線ランダム強度比の相加平均値が2.5未満である。以上述べた結晶方位のX線強度が曲げ加工時の形状凍結性に対して重要であることの理由は必ずしも明らかではないが、曲げ変形時の結晶のすべり挙動と関係があるものと推測される。
【0025】
X線回折に供する試料は、機械研磨などによって鋼板を所定の板厚まで減厚し、次いで、化学研磨や電解研磨などによって歪みを除去すると同時に、板厚1/2面が測定面となるように作製する。鋼板の板厚中心層に偏析帯や欠陥などが存在し、測定上不都合が生ずる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で適当な面が測定面となるように上述の方法に従って試料を調整して測定すればよい。
【0026】
当然のことであるが、上述のX線強度の限定が、板厚1/2近傍だけでなく、なるべく多くの厚み(特に、最表層〜板厚の1/4)について満たされることで、より一層形状凍結性が良好になる。なお、{hkl}<uvw>で表される結晶方位とは、板面の法線方向が<hkl>に平行で、圧延方向が<uvw>と平行であることを示している。
【0027】
圧延方向のr値(rL)及び圧延方向と直角方向のr値(rC):
これらのr値は、本発明において重要である。すなわち、本発明者等が鋭意検討の結果、上述した種々の結晶方位のX線強度が適正であっても、必ずしも良好な形状凍結性が得られないことが判明した。
上記のX線強度と同時に、rL及びrCのうち少なくとも1つが0.7以下であることが必須である。より好ましくは0.55以下である。rL及びrCの下限は特に定めることなく、本発明の効果を得ることができるが、r値はJIS5号引張試験片を用いた引張試験により評価する。引張歪みは通常15%であるが、均一伸びが15%を下回る場合には、均一伸びの範囲で、できるだけ15%に近い歪みで評価すればよい。
【0028】
なお、曲げ加工を施す方向は加工部品によって異なるので特に限定するものではないが、部品の加工に際しては、r値が小さい方向に対して垂直もしくは垂直に近い方向に折り曲げる加工を主とすることが好ましい。
ところで、一般に、集合組織とr値とは相関があることが知られているが、本発明においては、既述の結晶方位のX線強度比に関する限定とr値に関する限定とは互いに同義ではなく、両方の限定が同時に満たされなければ、良好な形状凍結性を得ることはできない。
【0029】
実際の自動車部品においては、1つの部品の中で上記のような曲げ加工に起因する形状凍結性が問題になるだけではなく、同一部品の他の部位においては、張り出し性や絞り加工性等の良好なプレス加工性が要求される場合が少なくない。従って、上述の集合組織を制御した曲げ加工時の形状凍結性の向上とともに、鋼板そのもののプレス加工性も向上させる必要がある。
【0030】
発明者らは、本発明鋼の特徴であるrL及びrCのうち、少なくとも1つが0.7以下であることを満足しつつ、張出し成形性を高めるためには、鋼板中にマルテンサイトを含ませることによって降伏比を低下させることが、最も望ましいことを見いだした。
この時、マルテンサイト体積分率が25%を越える場合には、鋼板の強度が必要以上に向上するばかりでなく、ネットワーク状に連結したマルテンサイトの割合が増加し、鋼板の加工性を著しく劣化させるので、25%を、マルテンサイト体積分率の最大値とした。
【0031】
また、マルテンサイトによる降伏比低下の効果を得るためには、体積分率最大の相がフェライトの場合には3%以上、体積分率最大の相がベイナイトの場合には5%以上であることが望ましい。
また、体積分率最大の相がフェライト又はベイナイト以外の場合には、鋼材の強度を必要以上に向上させてその加工性を劣化させたり、不必要な炭化物が析出して必要な量のマルテンサイトを確保できず鋼板の加工性を著しく劣化させたりすることから、体積分率最大の相はフェライト又はベイナイトに限定する。
【0032】
また、室温まで冷却した際に変態を完了していない残留オーステナイトを含有していても、本発明の効果に大きな影響は及ぼさない。ただし、反射X線法などによって求める残留オーステナイトの体積分率が増加すると、降伏比が上昇するので、残留オーステナイト体積分率はマルテンサイト体積分率の2倍以下であることが望ましく、さらに、該体積分率がマルテンサイト体積分率以下であると、さらに好ましい。
【0033】
上記の他に、本発明のミクロ組織は、パーライトもしくはセメンタイトの1種又は2種以上を、体積分率で15%以下含有することができる。また、残留オーステナイトを除き、本発明のミクロ組織の体積分率は、鋼板の圧延方向断面の1/4厚部を光学顕微鏡にて2〜5視野、組織の粗さに応じて100〜800倍で観察し、ポイントカウント法により求めた値と定義する。
【0034】
以下に、前記(1)〜(5)の発明に係る化学成分の影響について述べる。なお、「%」は「質量%」を意味する。
C:
Cは鋼材の強度を決める最も重要な元素の一つである。鋼板中に含まれるマルテンサイトの体積分率は鋼板中のC濃度の上昇と共に増加する傾向にある。ここで、C量が0.02%未満の場合には、硬質のマルテンサイトを得ることが困難となるので、0.02%をC量の下限とした。また、C添加量が0.3%を越える場合には、必要以上に鋼板強度が上昇するのみならず、自動車用鋼材として重要な特性である溶接性が顕著に劣化するので、0.3%をC添加量の上限とした。
【0035】
Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、Co、Sn:
Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、Co、Snは、全て鋼材のミクロ組織の調整のために添加される。特に、溶接性の観点からCの添加量が制限される場合には、これらの元素を適量添加することによって、効果的に鋼の焼入性を調整することが有効である。
【0036】
また、これらの元素は、AlやSi程ではないが、セメンタイトの生成を抑制する効果があり、効果的に、マルテンサイト体積分率を制御することができる。
さらに、これらの元素は、Al、Siと共にマトリックスであるフェライトやベイナイトを固溶強化して、高速での動的変形抵抗を高める働きも持つ。
しかしながら、これらの元素の1種又は2種以上の添加合計が、0.1%未満、又は、Mnの含有量が0.05%未満の場合には、必要な体積分率のマルテンサイトを確保することができなくなるとともに、鋼材の強度が低くなり、有効な車体軽量化を達成することができなくなるので、Mnを単独に含む場合はその下限を0.05%とし、MnとMn以外の元素の1種又は2種以上を含む場合はMnとの合計で0.1%とした。
【0037】
一方、これらの合計が3.5%を越える場合、Mn、Ni、Cr、Cu、Coの何れかの含有量が3%を超える場合、Moの含有量が1%を超える場合、又は、Snの含有量が0.2%を超える場合には、母相であるフェライト又はベイナイトの硬質化を招き、鋼材の加工性の低下、靱性の低下、さらには、鋼材コストの上昇を招くので、上限を、上記合計については3.5%。Mn、Ni、Cr、Cu、Coについては3%。Moについては1%、Snについては0.2%とした。
Al、Si:
AlとSiは共にフェライトの安定化元素であり、フェライト体積率を増加させて鋼材の加工性を向上させる働きがある。また、Al、Siは共にセメンタイトの生成を抑制するので、パーライト等の炭化物を含む相の生成を抑制し、効果的にマルテンサイトを生成させることができる。
【0038】
この様な機能を持つ添加元素としては、Al、Si以外に、PやCu、Cr、Mo等があげられ、この様な元素を適当に添加することによっても同様な効果が期待される。しかしながら、AlとSiの合計が0.05%未満の場合には、セメンタイト生成抑制の効果が十分でなく、適正な体積分率のマルテンサイトが得られないので、下限を合計で0.05%とした。
【0039】
また、AlとSiの合計が3.0%を越える場合には、母相であるフェライトもしくはベイナイトの硬質化や脆化を招き、鋼材の加工性の低下、靱性の低下、さらには、鋼材コストの上昇を招き、また、化成処理性等の表面処理特性を著しく劣化させるので、3.0%を上限とした。
Nb、Ti、V:
また、必要に応じて添加するNb、Ti、Vは、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって、鋼材を高強度化することができるが、その合計が0.3%を越えた場合には、母相であるフェライトやベイナイト粒内もしくは粒界に多量の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出し、加工性を著しく劣化させるので、上限を0.3%とした。ただし、これらの元素の添加によって高強度化を図るためには、Nb、Ti、Vの1種又は2種以上を、合計で0.005%以上添加することが好ましい。
P:
更に、Pは、鋼材の高強度化や、前述のようにマルテンサイトの確保には有効ではあるが、0.2%を越えて添加された場合には、耐置き割れ性の劣化や、疲労特性、靱性の劣化を招くので、0.2%を上限とした。ただし、Pの添加の効果を得るためには、0.005%以上含有することが好ましい。
B:
また、必要に応じて添加するBは、粒界の強化や鋼材の高強度化に有効ではあるが、その添加量が0.01%を越えると、その効果が飽和するばかりでなく、必要以上に鋼板強度を上昇させ、部品への加工性も低下させるので、上限を0.01%とした。但し、Bの添加効果を得るためには、0.0005%以上含有することが好ましい。
Ca、Rem:
必要に応じて添加するCa、Remは硫化物の形態を制御することで伸びフランジ性を改善するので、必要に応じて、それぞれ0.0005%、0.001%以上添加することが望ましい。しかし、過度に添加しても格段の効果はなく、コスト高となるので、それぞれの上限を0.005%、0.02%と設定した。
【0040】
鋼板中のNは、Cと同様にマルテンサイトを生成させるために有効ではあるが、同時に鋼材の靱性や延性を劣化させる傾向があるので、0.01%以下とすることが望ましい。
また、Oは酸化物を形成し介在物として鋼材の加工性、特に、伸びフランジ成形性に代表されるような極限変形能や鋼材の疲労強度、靱性を劣化させるので、0.01%以下に制御することが望ましい。
【0041】
以下に前記(7)〜(11)の本発明の製造方法について述べる。
スラブ再加熱温度:
前記(1)〜(5)の何れかの成分に調整された鋼片(鋳造スラブ)は、鋳造後直接、もしくは、一旦Ar3変態温度以下まで冷却された後に再加熱され、熱間圧延される。
【0042】
この時の再加熱温度が1000℃未満の場合には、熱間圧延を完了するまでに何らかの加熱装置を設置しなければ、熱間圧延完了温度を本発明の範囲内にすることができないので1000℃を再加熱温度の下限とした。また、再加熱温度が1300℃を越える場合には、加熱時のスケール生成により歩留まり劣化を招くと同時に、製造コストの上昇も招くことから、1300℃を再加熱温度の上限とした。
【0043】
熱間圧延条件:
熱間圧延及びその後の冷却によって、鋼板の組織が所定のミクロ組織と集合組織に制御される。最終的に得られる鋼板の集合組織は、熱間圧延の温度領域によって大きく変化する。
熱間圧延終了温度が(Ar3―50)℃未満になった場合には、熱間圧延完了後に残留しているオーステナイト量が十分でなく、その後のミクロ組織制御ができず、また、多量の加工フェライトが残留することから、(Ar3―50)℃を熱間圧延終了温度の下限とした。
【0044】
また、熱間圧延終了温度は、以下に述べるように、所望の集合組織を得るため、(Ar3+100)℃以下とする必要がある。
また、熱間圧延において、(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率は、最終的な鋼板の集合組織形成に大きな影響を及ぼし、この温度範囲での圧延率の合計が25%未満の場合には、集合組織の発達が十分でなく、最終的に得られる鋼板が良好な形状凍結性を示さないので、25%を、(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の下限値とした。
【0045】
この圧下率が高いほど所望の集合組織が発達することから、50%以上であることが好ましく、また、75%以上であれば更に好ましい。
また、連続熱延工程では多段の圧延スタンドで加えられるひずみの累積的な効果が重要である。しかしながら、このひずみの累積的な効果は、加工温度が高温ほど、また、スタンド間の走行時間が長いほど低下する。
【0046】
仕上げ熱延がnスタンドで行われる際に、i番目のスタンドでの圧延温度をTi(K)、加工ひずみをεi(真ひずみで、i番目の圧下率riとは、εi=ln{1/(1−ri)}の関係がある)、i番目とi+1番目のスタンド間の走行時間(パス間時間:秒)をtiとすると、累積効果を考慮したひずみ(有効ひずみε*)は(1)式で表現できる。
【0047】
【数5】
【0048】
ここで、τiは気体常数R(R=1.987)と圧延温度Tiによって下式で計算できる。
τi=8.46×10−9・exp{(43800/R)/Ti}
この有効ひずみε*が0.4未満の場合には、たとえ(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の合計が25%以上であっても十分な集合組織の発達が得られない。それ故、0.4を有効ひずみの下限とした。
【0049】
実際の連続熱延工程で(1)式の計算を行う場合には、Tiは仕上げ熱延入り側温度FT0と仕上げ熱延で側温度FTnを用いて、
Ti=FT0−(FT0−FTn)/(n+1)×(i+1)
に従って計算した値を用いるとよい。
有効ひずみが高いほど集合組織が発達するので、0.45以上であればより好ましい。また、有効ひずみが0.9以上であれば、更に好ましい。
【0050】
本発明の温度範囲での熱間圧延を通常の条件で行っても、最終的に得られる鋼板の形状凍結性は高いが、この温度範囲で行われる熱間圧延の少なくとも1パス以上において、その摩擦係数が0.2以下となるように制御した場合には、更に最終的に行われる鋼板の形状凍結性が高くなる。
また、仕上げ熱延に先立ってスケール除去を目的とする加工や高圧水噴射、微粒子噴射等を行うこと、最終鋼板の表面品位を高める効果があるので、好ましい。
【0051】
熱間圧延後の冷却は、巻取り温度を制御することが最も重要であるが、平均の冷却速度が15℃/秒以上であることが好ましい。冷却は熱間圧延後速やかに開始されることが望ましい。また、冷却の途中に空冷を設けることも、最終的な鋼板の特性を劣化させない。
冷却が鋼材の化学成分で決まる下式で示される臨界温度To(℃)より高い温度で完了し、そのまま巻取り処理が行われた場合には、上記の熱間圧延条件が満足されていた場合でも、最終的に得られる鋼板において所望の集合組織が十分に発達せず、鋼板の形状凍結性が向上しないので、巻取りはTo(℃)以下で行なう。
【0052】
To=−438.6×C%−52.7×Mneq+697.4 (2)
ここで、Mneqは質量%で表現した鋼の成分より求まる。
Mneq=Mn%+0.24×Ni%+0.13×Si%+0.38×
Mo%+0.55×Cr%+0.16×Cu%−0.50×
Al%−0.45×Co%+0.90 ×V%
また、巻取り温度が300℃超の場合にはマルテンサイトが得られないか、もしくは、生成したマルテンサイトが焼き戻されることによって降伏比が上昇し、鋼板の加工性が劣化するので、巻取り温度の上限を300℃とした。なお、熱延鋼板の製造における巻取り温度の上限は、実施例の表2の巻取り温度が200℃未満であることに基づいて、200℃未満とした。
【0053】
巻き取り温度の下限は特に規定しないが、低温ほど良好な材質が得られる。ただし、巻き取り温度を室温以下にすることはコストの上昇を招くので、室温以上であることが望ましい。
冷間圧延及び焼鈍条件:
本発明の鋼板を冷間圧延―焼鈍によって製造する場合には、熱間圧延後に所望の集合組織を十分に発達させておくことが必要である。このためには、加熱温度は1000℃〜1300℃とし、熱間圧延を(Ar3―250)℃以上で終了し、(1)式で計算される有効ひずみ量εiが0.4以上で、かつ、この時の(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の下限値を25%とする必要がある。この圧下率が高いほど所望の集合組織が発達することから、50%以上であることが好ましく、また、75%以上であれば更に好ましい。(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃での合計圧下率が97.5%を越えると、圧延機の剛性を過剰に高める必要があり、経済上のデメリットを生じるので、望ましくは上記圧下率は97.5%以下とする。
【0054】
この温度範囲での熱間圧延において、少なくとも1パス以上においてその摩擦係数が0.2以下となるように制御した場合には、さらに、最終的な鋼板の形状凍結性が高くなる。
熱間圧延終了温度が(Ar3―250)℃未満になった場合には、熱間圧延後の集合組織が変化することに起因して、最終的に、所望の集合組織が得られないので、(Ar3―250)℃を熱間圧延終了温度の下限とした。熱間圧延終了温度の上限は所望の集合組織を得るためには(Ar3+100)℃とする必要がある。
【0055】
熱延後の冷却された後の巻取り温度が上述のTo(℃)超となった場合には、その後の冷間圧延―焼鈍によって所望の集合組織を発達させることができないので、良好な形状凍結性を達成することができない。従って、To(℃)を巻取り温度の上限とした。巻取り温度はTo(℃)以下であれば良いが、300℃未満では冷間圧延時の変形抵抗が大きくなることから、300℃以上で巻き取ることが望ましい。また、仕上げ熱延開始以前にスケール除去の目的で加工や高圧水噴射、微粒子噴射等を行うことは、最終鋼板の表面品位を高める効果があるので、好ましい。
【0056】
以上の方法によって製造した熱延鋼板を酸洗・冷延する際に、冷間圧延圧下率が95%を越えると、冷間圧延の負荷が増加しすぎるので、95%以下の圧下率で冷間圧延することが望ましい。
冷間圧延後の焼鈍は連続焼鈍ラインにおいて行われる。焼鈍温度が、鋼の化学成分によって決まるAc1変態温度より低い場合には、最終的な鋼板のミクロ組織にマルテンサイトを含まないことになるので、Ac1変態温度を焼鈍温度の下限とする。
【0057】
また、焼鈍温度が鋼の化学成分によって決まるAc3変態温度を超える場合には、熱間圧延によって造り込まれた集合組織の多くが壊され、最終的に得られる鋼板において形状凍結性が損なわれるので、Ac3変態温度を焼鈍温度の上限とした。
最終的に得られる鋼板の形状凍結性と加工性を両立させるためには、焼鈍温度が(Ac1+2×Ac3)/3以下であることが望ましい。
【0058】
焼鈍後冷却する際に、500℃までの平均冷却速度が1℃/秒未満の場合には、最終的に得られる鋼板の集合組織の発達が十分でなく、良好な形状凍結性が得られないと同時に、マルテンサイトが得られないので、1℃/秒を冷却速度の下限とした。また、実用上有意義である0.4mm〜3.2mmの板厚範囲の全ての板厚に対して、平均冷却速度を250℃/秒超とすることは、過剰の設備投資を必要とするので、250℃/秒を冷却速度の上限とした。
【0059】
この冷却は、焼鈍後10℃/秒以下の低冷却速度での冷却と、20℃/秒以上の高冷却速度を組み合わせてもよい。
焼鈍後の冷却停止温度はパーライトの生成を抑制するために、500℃以下とする。冷却停止温度の下限は特に定めないが、経済的観点から室温以上とすることが好ましい。
【0060】
500℃以下への冷却速度は速いほど材質を向上させるが、500℃以下に冷却された後に、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛めっき工程での温度履歴に相当するような徐冷もしくは等温保持や、連続溶融亜鉛めっき工程の合金化処理工程での再加熱の過程を採用してもよい。
スキンパス圧延:
以上の方法で製造された本発明鋼に、出荷前に、スキンパス圧延を施すことは、鋼板の形状を良好にするばかりではなく、鋼板の衝突エネルギー吸収能を高めることになる。この時、スキンパス圧延における圧下率が0.4%未満ではこの効果が小さいので、0.4%を上記圧下率の下限とした。また、圧下率が5%超のスキンパス圧延を行うためには、通常のスキンパス圧延機の改造が必要となり、経済的なデメリットを生じると共に、鋼板の加工性を著しく劣化させるので、5%をスキンパス圧延における圧下率の上限とした。
【0061】
得られた鋼板の加工性が良好であるためには、通常のJIS5号引張り試験で得られる破断強度(TS/MPa)と降伏強度(0.2%耐力YS)の比である降伏比(YS/TS×100)が70%以下であることが望ましい。また降伏比が65%以下であれば、さらに形状凍結性を向上させることができて望ましい。
めっき:
めっきの種類や方法は特に限定されるものではなく、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等の何れを用いても、本発明の効果が得られる。
【0062】
本発明の鋼板は曲げ加工だけではなく、曲げ、張り出し、絞り等、曲げ加工を主体とする複合成形にも適用できる。
【0063】
【実施例】
本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について説明する。
(実施例1)
表1に示す23種類の鋼を表2に示す条件で熱延し、1.4mm厚の熱延鋼板を製造した。この熱延鋼板を酸洗後、50mm幅、270mm長さの試験片を作成し、ポンチ幅78mm、ポンチ肩R5、ダイ肩R5の金型を用いてハット曲げ試験を行った。
【0064】
曲げ試験を行った試験片については、三次元形状測定装置にて板幅中心部の形状を測定し、図1に示した様に、左右の点(5)間の長さからポンチ幅を引いた値を寸法精度、点(1)と点(2)の接線と点(3)と点(4)の接線の交点の角度から90°を引いた値の左右での平均値をスプリング・バック量、点(3)と点(5)間の曲率の逆数を左右で平均化した値を壁そり量として形状凍結性を評価した。なお曲げはr値の低い方向と垂直に折れ線が入るように行った。
【0065】
ところで、図2及び図3に示した様に、スプリングバック量や壁そり量は、BHF(しわ押さえ力)によっても変化する。本発明の効果は、いずれのBHFで評価を行ってもその傾向は変わらないが、実機で実部品をプレスする際には、あまり高いBHFはかけられないので、今回は、BHF29kNで各鋼種のハット曲げ試験を行った。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表3には、鋼板のミクロ組織調査結果(体積率最大相、マルテンサイト体積率)、機械的性質(インストロン型の引張り試験機を用い、歪み速度が0.001〜0.005/sで行った引張り試験により得られた最大強度TS、降伏強度または0.2%耐力YS、圧延方向及びそれと垂直方向のr値)、1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、及び、{554}<225>、{111}<112>及び、{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値と上記曲げ試験によって得られた寸法精度、壁そり量を示した。
【0070】
形状凍結性は、最終的には寸法精度(△d)で判断することができる。寸法精度は鋼板の強度上昇とともに劣化することがよく知られているので、ここでは、表3に示す結果を、△d/TSを指標とし、YRに対してプロットした(図4)。図4には後述する実施例2の結果も同時にプロットしている。
表3及び図4から明らかなように、本発明の範囲の鋼は良好な形状凍結性と低いYRを兼ね備えていることがわかる。
(実施例2)
表1中の鋼P3を1200℃に加熱後、表4に示した条件で熱延―冷延―焼鈍を行い、1.4mmの冷延焼鈍鋼板を作製し、その後、実施例1と同様の評価を行った。
【0071】
表5には、得られた冷延―焼鈍材のミクロ組織及び機械的性質、曲げ試験結果を示す。
表5及び図4から明らかなように、本発明の範囲の鋼は良好な形状凍結性と低いYRを兼ね備えていることがわかる。
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【発明の効果】
薄鋼板の集合組織とr値を制御すると、その曲げ加工性は著しく向上することを以上に詳述した。本発明によって、スプリング・バック量が少なく、曲げ加工を主体とする形状凍結性に優れた薄鋼板を提供できる。特に、従来は形状不良の問題から高強度鋼板の適用が難しかった部品にも、高強度鋼板を使用できるようになると予想される。上記部品に、スプリング・バック量が少なく、形状凍結性に優れた高強度鋼板が適用できるようになると、自動車車体の軽量化をより一層推進することができる。従って、本発明は、工業的に極めて高い価値のある発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】曲げ試験を行ったサンプルの断面形状の概念図である。
【図2】曲げ試験時のしわ押さえ力(BHF)とスプリングバック量の関係を示す図である。
【図3】曲げ試験時のしわ押さえ力(BHF)と壁そり量(1/ρ)の関係を示す図である。
【図4】形状凍結性(寸法精度)とTSの比とYRの関係を示す図である。
Claims (11)
- 質量%で、
C;0.02%以上0.3%以下、
Mn;0.05%以上3%以下
を含み、
Si;3%以下、
Al;3%以下
で、かつ、これらを合計で0.05%以上3%以下含み、
P;0.2%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、フェライト又はベイナイトを体積分率最大の相とし、体積分率で25%以下のマルテンサイトを含む複合組織鋼であり、1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が3.0以上で、かつ、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値が3.5以下、さらに、圧延方向のr値及び圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも一つが0.7以下であることを特徴とする、形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。 - 質量%で、
Ni;3%以下、
Cr;3%以下、
Cu;3%以下、
Mo;1%以下、
Co;3%以下、
Sn;0.2%以下
で、かつ、これらの1種又は2種以上をMnとの合計で0.1%以上3.5%以下含むことを特徴とする請求項1記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。 - 質量%で、Nb、Ti、Vの1種又は2種以上を合計で0.3%以下含むことを特徴とする請求項1又は2記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
- 質量%で、Bを0.01%以下含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
- 質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、Rem:0.001〜0.02%の1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼板にめっきをしたことを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度鋼板。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、請求項1〜5の何れか1項に記載の成分からなる鋳造スラブを、鋳造ままもしくは一旦冷却した後に1000℃〜1300℃の範囲に再度加熱し、熱間圧延をする際、(1)式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上で、かつ、(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の合計が25%以上となるように制御し、(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃で熱間圧延を終了し、熱間圧延後、15℃/s以上で冷却して、(2)式に示す鋼の化学成分で決まる臨界温度To(℃)以下でかつ200℃未満の温度で巻き取ることを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度熱延鋼板の製造方法。
τi=8.46×10−9・exp{(43800/R)/Ti}
To=−438.6×C%−52.7×Mneq+697.4 (2)
ここで、Mneqは質量%で表現した鋼の成分より求まる。
Mneq=Mn%+0.24×Ni%+0.13×Si%+0.38×
Mo%+0.55×Cr%+0.16×Cu%−0.50×
Al%−0.45×Co%+0.90×V% - 前記(Ar3−50)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲の熱間圧延の少なくとも1パス以上において、摩擦係数が0.2以下となるように制御することを特徴とする請求項7記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度熱延鋼板の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、請求項1〜5の何れか1項に記載の成分からなる鋳造スラブを、鋳造ままもしくは一旦冷却した後に1000℃〜1300℃の範囲に再度加熱し、熱間圧延をする際、(1)式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上で、かつ、(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲における圧下率の合計が25%以上となるように制御し、(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃で熱間圧延を終了し、熱間圧延後冷却して、(2)式に示す鋼の化学成分で決まる臨界温度To(℃)以下で巻き取った後、酸洗・冷間圧延を施し、Ac1変態温度以上Ac3変態温度以下の温度にて焼鈍し、その後、焼鈍温度から500℃以下まで1〜250℃/秒の冷却速度で冷却することを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度冷延鋼板の製造方法。
τi=8.46×10−9・exp{(43800/R)/Ti}
To=−438.6×C%−52.7×Mneq+697.4 (2)
ここで、Mneqは質量%で表現した鋼の成分より求まる。
Mneq=Mn%+0.24×Ni%+0.13×Si%+0.38×
Mo%+0.55×Cr%+0.16×Cu%−0.50×
Al%−0.45×Co%+0.90×V% - 前記(Ar3−250)℃〜(Ar3+100)℃の温度範囲の熱間圧延の少なくとも1パス以上において、摩擦係数が0.2以下となるように制御することを特徴とする請求項9記載の形状凍結性に優れた低降伏比型高強度冷延鋼板の製造方法。
- 請求項7又は8記載の熱延鋼板、又は、請求項9又は10記載の冷延鋼板に0.4%以上5%以下のスキンパス圧延を施すことを特徴とする形状凍結性に優れた低降伏比型高強度冷延鋼板の製造方法。
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