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JP5037413B2 - 低降伏比高ヤング率鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、及び、鋼管、並びに、それらの製造方法 - Google Patents

低降伏比高ヤング率鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、及び、鋼管、並びに、それらの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、圧延方向のヤング率が高く、また、引張強さが高く、降伏強さが低い、低降伏比高ヤング率鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、及び、鋼管、並びに、それらの製造方法に関するものである。
鉄のヤング率と結晶方位との相関は非常に強く、例えば、<111>方向のヤング率は、理想的には280GPaを超え、<110>方向のヤング率は約220GPaである。一方、<100>方向のヤング率は、130GPa程度であり、結晶方位によってヤング率は変化する。また、鋼材の結晶方位が、特定の方位への配向を有さない場合、即ち、集合組織がランダムである鋼板のヤング率は、約205GPaである。
これまでに、集合組織を制御し、圧延方向に対して直角な方向(幅方向という。)のヤング率を高めた鋼板に関して、多数の技術が提案されている。また、鋼板の圧延方向と幅方向のヤング率を同時に高める技術については、一定方向への圧延に加え、それと直角方向の圧延を施す厚鋼板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1、参照)。このような、圧延の方向を途中で変化させる方法は、厚鋼板の圧延工程で、比較的簡単に行うことができる。
しかし、厚鋼板を製造する場合でも、鋼板の幅及び長さによっては、圧延方向を一定にせざるを得ないこともある。また、特に、薄鋼板の場合は、鋼片を連続的に圧延して鋼帯とする連続熱延プロセスによって製造することが多いため、圧延の方向を途中で変化させる技術は、現実的でない。
自動車の衝突時の補強部材等は、ロール成形により加工されることがある。この場合は、圧延方向が、部材の長手方向になり、部材の長手方向の剛性を高くするために、圧延方向のヤング率の向上が必要となる。
このような要求に対して、本発明者らの一部は、鋼板の表層部に剪断歪みを与え、表層部の圧延方向のヤング率を高める方法を提案した(例えば、特許文献2、3、参照)。特許文献2及び3に提案されている方法によって得られる鋼板は、表層部に、圧延方向のヤング率を高める集合組織を発達させたものである。そのため、これらの鋼板は、表層部のヤング率が高く、振動法によって測定したヤング率が、230GPa超という高い数値を示す。
ヤング率の測定法の一つである振動法は、周波数を変化させながら鋼鈑に曲げ変形を与えて、共振が起こる周波数を求め、それを、ヤング率に換算する測定方法である。このような方法で測定したヤング率は、動的ヤング率とも呼ばれ、曲げ変形時に得られるヤング率であり、曲げモーメントの大きい表層部の寄与が大きいものである。
しかし、自動車が衝突した際に、例えば、衝撃吸収部材等には、曲げモーメントのみならず、引張応力や圧縮応力なども負荷される。また、自動車の構造部材には、衝突安全性の観点から、圧縮変形を受けた際の高い衝撃吸収エネルギー能が要求される。そのため、部材としての衝撃吸収エネルギーを向上させるには、引張応力及び圧縮応力に対する剛性を確保することが必要である。このような要求に対して、部材の長手方向の、引張応力及び圧縮応力に対するヤング率を高めることが有効である。
したがって、引張応力及び圧縮応力が作用する部材のヤング率については、振動法ではなく、静的引張法で測定するヤング率、即ち、静的ヤング率を高めることが、極めて重要となる。静的ヤング率は、引張試験を行った際に得られる応力―歪曲線の弾性変形領域での傾きから求めるヤング率であり、ヤング率の高い層と低い層の厚みの比のみで決まる、材料全体としてのヤング率である。
したがって、圧延方向の静的ヤング率を高めるには、表層から板厚方向の深い部位までの集合組織を制御する必要がある。なお、表層から板厚中心部位までの全板厚での集合組織を制御することが、より好ましい。しかし、特許文献2及び3に提案されている方法では、圧延時に板厚の中央部まで剪断歪みを導入することは困難である。
また、成分や製造条件によっては、板厚中心部の集合組織には、圧延方向のヤング率を低下させる方位が発達する可能性もある。そのため、振動法で測定したヤング率については、230GPa以上にまで高めることができているものの、静的引張法で測定したヤング率は、必ずしも高いものではない。即ち、静的引張法で測定される圧延方向のヤング率が220GPa以上である鋼板は存在しなかった。
特開平4−147917号公報 特開2005−273001号公報 国際公開第06/011503号
自動車用鋼板は、複雑な形状に加工されるので、プレス成形性などの加工性が要求される。加工性と強度を両立させるには、引張強さを維持して降伏強さを低下させることが必要である。本発明は、静的引張法で測定した圧延方向のヤング率が高く、降伏比が低い、低降伏比高ヤング率鋼板、更に、めっきを施した鋼板、これらの鋼板を素材とする鋼管、及び、それらの製造方法を提供するものである。
結晶方位は、通常、{hkl}<uvw>で表示される。{hkl}が、板面方位を示し、<uvw>が、圧延方向を示す。したがって、圧延方向で高いヤング率を得るためには、圧延方向の方位である<uvw>が、できるだけ、ヤング率の高い方向に揃うように制御する必要がある。
本発明者らは、この原理に基づき、静的引張法で測定した圧延方向のヤング率が220GPa以上で、かつ、低降伏比となるように鋼板のミクロ組織を制御した高ヤング率鋼板を得るために、検討を行った。
その結果、圧延方向の静的ヤング率を向上させるには、Nbを添加し、TiとNを所定量含有させて、オーステナイト相(以下、γ相ということがある。)での再結晶を抑制することが重要であり、更に、Bを複合添加すると効果が顕著であることを、新たに見出した。
また、熱間圧延においては、圧延温度と、圧延ロールの入側及び出側での板厚と圧延ロールの直径から求められる形状比が重要であり、これらを適正な範囲に制御することによって、鋼板の表面において、剪断歪みを付与された層の厚みが増し、表面から板厚方向への距離が板厚の1/6である部位(1/6板厚部という。)の付近に形成される集合組織も最適化されることを、新たに見出した。
また、熱間加工を受けるγ相の変形挙動に影響を及ぼす積層欠陥エネルギーと変態後の集合組織の間には相関があり、表層から1/6板厚部、及び、板厚方向の中央部(1/2板厚部という。)近傍の集合組織に影響を及ぼす。したがって、表層と板厚中央の両方において、圧延方向のヤング率が向上する方位を発達させた集合組織を得るには、γ相の積層欠陥エネルギーに影響を及ぼすMn、Mo、W、Ni、Cu、Crの関係を最適化することが重要であるという知見も得た。
さらに、熱間圧延後、巻取りまでの冷却条件、冷延、焼鈍後の冷却条件を制御し、圧延方向のヤング率を低下させることなく、鋼板組織を、主相であるフェライト、ベイナイトと、第2相であるマルテンサイトを有するミクロ組織とし、低降伏比高ヤング率鋼板を得ることに成功した。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.005〜0.20%、Mn:0.10〜3.00%、Nb:0.005〜0.10%、Ti:0.002〜0.15%を含有し、Si:2.50%以下、P:0.15%以下、S:0.015%以下、Al:0.15%以下、N:0.01%以下に制限し、下記(式1)を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、体積率の合計が50%超のフェライトとベイナイトの一方又は双方と、体積率が2〜25%のマルテンサイトと、体積率の合計が15%以下のパーライトとセメンタイトの一方又は双方からなり、鋼板の表面からの板厚方向の距離が板厚の1/6である位置の、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和が5以下であり、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上であることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼板。
Ti−48/14×N≧0.0005 ・・・ (式1)
ここで、Ti、Nは各元素の含有量[質量%]である。
(2)下記(式2)を満足することを特徴とする上記(1)に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
4≦3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≦10
・・・(式2)
ここで、Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crは各元素の含有量[質量%]である。
(3)質量%で、Mo:0.01〜1.00%、Cr:0.01〜3.00%、W:0.01〜3.00%、Cu:0.01〜3.00%、Ni:0.01〜3.00%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
(4)質量%で、B:0.0005〜0.01%を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
(5)質量%で、Ca:0.0005〜0.10%、Rem:0.0005〜0.10%、V:0.001〜0.10%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
(6)鋼鈑の板厚方向の中央部の、{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)が15以下、{112}<110>方位のX線ランダム強度比(B)が5以上、かつ、(A)/(B)≦1.00を満足することを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
(7)鋼鈑の板厚方向の中央部の、{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)が15以下、{001}<011>方位のX線ランダム強度比と{112}<110>方位のX線ランダム強度比との単純平均値(C)が5以上、かつ、(A)/(C)≦1.10を満足することを特徴とする上記(1)〜(6)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼鈑。
(8)静的引張法で測定した圧延方向のヤング率が220GPa以上であることを特徴とする上記(1)〜(7)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
(9)上記(1)〜(8)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板。
(10)上記(1)〜(8)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板に、合金化溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板。
(11)上記(1)〜(8)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板、上記(9)に記載の低降伏比型高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板、又は、上記(10)に記載の低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板が任意の方向に巻かれていることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼管。
(12)上記(1)〜(5)の何れかに記載の化学成分を有する鋼片に、1100℃以下、最終パスまでの圧下率を40%以上とし、下記(式3)によって求められる形状比Xが2.3以上である圧延を2パス以上とし、最終パスの温度をAr3変態点[℃]以上900℃以下の温度で熱間圧延を終了し、30s以内の空冷を行った後、5〜150℃/sの冷却速度で25〜300℃まで冷却し、巻き取ることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
形状比X=ld/hm ・・・(式3)
ここで、ld(圧延ロールと鋼鈑の接触弧長):√(L×(hin−hout)/2)
m :(hin+hout)/2
L :圧延ロールの直径
in :圧延ロール入側の板厚
out :圧延ロール出側の板厚
(13)下記(式5)によって計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上となるように熱間圧延を行うことを特徴とする上記(12)に記載の低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
Figure 0005037413
ここで、nは、仕上げ熱延の圧延スタンド数、εjは、j番目のスタンドで加えられたひずみ、εnは、n番目のスタンドで加えられたひずみ、tiは、i〜i+1番目のスタンド間の走行時間[s]、τiは、気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti[K]によって下記(式6)で計算した数値。
Figure 0005037413
(14)熱間圧延を実施する際に、ロール径が700mm以下の圧延ロールを、少なくとも1つ以上使用することを特徴とする上記(12)又は(13)に記載の低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
(15)熱間圧延の少なくとも1パス以上の異周速率を、1%以上とすることを特徴とする上記(12)〜(14)の何れかに記載の低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
(16)上記(9)に記載の低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法であって、上記(12)〜(15)の何れかに記載の製造方法で製造した低降伏比高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛メッキを施すことを特徴とする低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
(17)上記(10)に記載の低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法であって、上記(16)に記載の溶融亜鉛メッキを施した後、450〜600℃までの温度範囲で5s以上の熱処理を行うことを特徴とする低降伏比高ヤング率合金化溶融
亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
(18)上記(11)に記載の鋼管を製造する方法であって、上記(12)〜(15)のいずれかに記載の製造方法により得られた低降伏比高ヤング率鋼板、上記(16)に記載の製造方法により得られた低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板、又は、上記(17)に記載の製造方法により得られた低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を、任意の方向に巻いて鋼管にすることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼管の製造方法。
本発明によれば、静的引張法で測定した圧延方向の静的ヤング率が高く、かつ、加工性の良好な、低降伏比高ヤング率鋼板を得ることができる。
まず、圧延方向の静的ヤング率の向上のために重要である集合組織と、熱間圧延による集合組織の形成について説明する。
鋼板の板厚方向で集合組織が変化し、表層と板厚方向の中央部での集合組織が異なる場合、引張変形と曲げ変形では、剛性、即ち、ヤング率は、必ずしも一致しない。これは、引張変形の剛性が、鋼板の板厚全面の集合組織に影響される特性であり、曲げ変形の剛性が、鋼板の表層部の集合組織に影響される特性であることに起因する。
本発明は、表面から板厚方向への距離が板厚の1/6である部位までの集合組織を最適化し、圧延方向のヤング率を高めた鋼板である。したがって、圧延方向のヤング率に寄与する集合組織が、少なくとも、1/8板厚部よりも深い位置である1/6板厚部まで発達している。
圧延方向のヤング率を高めた領域の厚みを増すことにより、曲げ変形だけでなく、引張変形及び圧縮変形に対するヤング率も高めることができる。また、表層だけでなく、1/6板厚部まで剪断歪みを導入するため、1パスの熱間圧延の前後の鋼板の板厚と圧延ロールの直径によって決まる形状比を高めることによって製造されるものである。
本発明の鋼板は、少なくとも表層から1/6板厚部までの部位に、圧延方向のヤング率を高める方位を集積させ、ヤング率を低下させる方位の集積を抑制するものであり、表層だけでなく、1/6板厚部までの圧延方向の静的ヤング率が高く、引張変形での剛性が高いものである。また、本発明の鋼板は、表層から1/6板厚部までの部位に、圧延方向のヤング率を高める方位を集積させることで、ヤング率を低下させる方位の集積も抑制されている。
本発明の鋼板は、具体的には、1/6板厚部の、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和が5以下であり、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{112}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上である。本発明の鋼板は、熱間圧延において、鋼板の表層から少なくとも1/6板厚部までに剪断力を作用させることによって得られる。
熱間圧延の剪断力を鋼板の1/6板厚部まで作用させるためには、熱間圧延の全パス数のうち、少なくとも2パスで、次式で規定する形状比Xが2.3以上を満足する必要があることを、本発明者らは見出した。形状比Xは、下記(式3)に示すように、ロールと鋼鈑の接触弧張と平均板厚の比である。この形状比Xの値が大きいほど、鋼板の板厚方向のより深い部分にまで、剪断力が作用することは、本発明者らが新たに得た知見である。
形状比X=ld/hm ・・・(式3)
ここで、ld(圧延ロールと鋼鈑の接触弧長):√(L×(hin−hout)/2)
m :(hin+hout)/2
L :圧延ロールの直径
in :圧延ロール入側の板厚
out :圧延ロール出側の板厚
上記(式3)によって求められる形状比Xが2.3以上であるパス数が1パスでは、剪断歪みが1/6板厚部まで導入されない。そのため、剪断歪みが導入された層(剪断層という。)の厚みが不十分であり、1/6板厚部の近傍での集合組織も劣化し、静的引張法で測定されるヤング率が低下する。
したがって、形状比Xが2.3以上であるパス数を2パス以上とすることが必要である。このパス数は多い方がより好ましく、全パスの形状比Xを2.3以上としても良い。剪断層の厚みを増加させるためには、形状比Xの値も大きい方が好ましく、2.5以上、より好ましくは3.0以上とする。
また、形状比Xが2.3以上である圧延は、高温で行うと、その後の再結晶によって、ヤング率を高める集合組織が破壊されることがある。そのため、形状比Xを2.3以上とするパス数を限定する圧延は、1100℃以下で行うことが必要である。また、圧延温度が低いほど、形状比の効果が顕著であるため、形状比Xが2.3以上である圧延を最終に近い圧延スタンドで行うことが好ましい。
更に、表面から板厚中心までの全厚の集合組織を最適化するために、成分を限定して熱間圧延の加熱によって生成するオーステナイト相(γ相)の積層欠陥エネルギーを最適な範囲とし、剪断変形が深く入る条件で圧延を行うことが好ましい。これにより、板厚中心部で発達するヤング率を低下させる方位を抑制することもでき、板厚全体としての静的ヤング率を向上させることができる。
積層欠陥エネルギーの違いが面心立方構造を有するγ相の加工集合組織に大きな影響を及ぼすことは、これまでにも知られている。また、熱延中にγ相の加工を受けた後、冷却されて、フェライト相(以下、α相ということがある。)及びベイナイト相に変態する際には、α相及びベイナイト相は、変態前のγ相の結晶方位と一定の方位関係を有する方位に変態する。これは、バリアント選択といわれる現象である。
本発明者らは、熱間圧延によって導入される歪の種類による集合組織の変化が、γ相の積層欠陥エネルギーの影響を受けることを見出した。即ち、剪断歪が導入される表層と、圧縮歪が導入される中心層とでは、γ相の積層欠陥エネルギーによって集合組織が変化する。
例えば、積層欠陥エネルギーが高くなると、鋼板の表層部では圧延方向のヤング率を最も高める方位である{110}<111>方位の集積度が高くなり、板厚中心部では圧延方向のヤング率を低下させる{332}<113>方位が発達する。
一方、積層欠陥エネルギーが下がると、表層から1/6板厚部では{110}<111>方位の集積度が高まらず、特に、1/6板厚部近傍ではヤング率を下げる方位である{100}<001>と<110><001>が発達し易くなる。
これに対して、積層欠陥エネルギーが下がると、板厚中心部では圧延方向のヤング率に対して比較的有利な方位である{225}<110>方位や、{001}<011>方位と{112}<110>方位が発達する。
したがって、静的ヤング率を向上させるためには、板厚表層と中心部の双方のヤング率が高くなる適度な積層欠陥エネルギー範囲に制御すること、具体的には、下記(式2)を満足することが好ましい。
4≦3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≦10
・・・(式2)
ここで、Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crは各元素の含有量[質量%]である。
上記(式2)は、γ相を有するオーステナイト系ステンレスの積層欠陥エネルギーに及ぼす各元素の影響を数値化した式を基に、本発明者らが試験を行って更に検討を加え、修正したものである。
具体的には、0.03%C−0.1%Si−0.5%Mn−0.01%P−0.0012%S−0.036%Al−0.010%Nb−0.015%Ti−0.0012%B−0.0015%Nを基本の成分組成とし、Mn量、Cr、W、Cu、及び、Niの添加量を種々変化させた場合における、圧延方向の静的ヤング率を調査した。
熱間圧延は、最終パスの温度をAr3変態点以上、900℃以下とし、1100℃から最終パスまでの圧下率を40%以上とし、形状比を2.3以上とする圧延を2パス以上行った。なお、Ar3変態温度は、下記(式4)よって計算した。
Ar3=901−325×C+33×Si+287×P+40×Al
−92×(Mn+Mo+Cu)−46×(Cr+Ni) ・・・(式4)
ここで、C、Si、P、Al、Mn、Mo、Cu、Cr、Niは、各元素の含有量[質量%]であり、含有量が不純物程度である場合は0とする。また、圧延後、700℃以下での巻き取りを模擬するため、650℃で2時間保持する熱処理を行った。
鋼板から、圧延方向を長手方向として、JIS Z 2201の13号試験片を採取し、各鋼板の降伏強度の1/2に相当する引張応力を付与して静的ヤング率の測定を行った。測定は5回行い、応力−歪み線図の傾きに基づいて算出したヤング率のうち、最大値及び最小値を除いた3つの計測値の平均値を静的引張法によるヤング率とした。
結果を、図1に示す。これより、本発明者らが見出したこの関係式の値が4以上10以下の場合には、220GPaを超える高い圧延方向率静的ヤング率が得られるのに対し、4又は10超となると、値が著しく低下することが解る。
以下、本発明の鋼板のX線ランダム強度比とヤング率について説明する。
1/6板厚部における{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和:
{100}<001>方位及び{110}<001>方位は、圧延方向のヤング率を著しく低下させる方位である。振動法で鋼板のヤング率を測定する場合には、最表層の集合組織の影響が大きく、板厚方向内部の集合組織の影響は小さい。しかし、静的引張法で鋼板のヤング率を測定する場合には、表層だけでなく、板厚方向の内部の集合組織も影響を及ぼす。
静的引張法で測定したヤング率を高めるためには、少なくとも、表層から1/6板厚部までのヤング率を高めることが必要である。したがって、静的引張法で測定した圧延方向のヤング率を高めるためには、1/6板厚部での、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和を、5以下にしなければならない。この観点では、3以下であることが、より好ましい。
なお、{100}<001>方位及び{110}<001>方位は、鋼板の表層のみに剪断歪みが付与された際に、1/6板厚部の近傍で発達し易い。一方、剪断歪みを1/6板厚部の近傍にまで導入すると、この部位での{100}<001>方位及び{110}<001>方位の発達が抑制され、以下に説明する{110}<111>〜{110}<112>方位群と{211}<111>方位が発達する。
1/6板厚部における{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和:
これらの方位(群)は、圧延方向のヤング率を高めるために有効な結晶方位であり、熱延時に導入される剪断歪みによって発達する。1/6板厚部における{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上であることは、鋼板の表面から1/6板厚部まで、圧延方向のヤング率を高める集合組織が発達していることを意味する。
これにより、静的引張法で測定した、圧延方向の静的ヤング率が220GPa以上となる。好ましくは、10以上、さらに好ましくは、12以上である。
{100}<001>方位、{110}<001>方位、{110}<111>〜{110}<112>方位群、及び、{211}<111>方位のX線ランダム強度比は、X線回折によって測定される{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち、複数の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function、ODFという。)から求めればよい。
なお、X線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料と供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を、標準試料のX線強度で除した数値である。
図2に、本発明の結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す。図2は、3次元集合組織を結晶方位分布関数によって示すBungeの表示であり、オイラー角φ2を45°とし、特定の結晶方位である(hkl)[uvw]を、結晶方位分布関数のオイラー角φ1、Φで示している。
図2のΦ=90°の軸上の点で示したように、{110}<111>〜{110}<112>方位群は、厳密には、Φ=90°、φ1=35.26〜54.74°の範囲を指すものである。
しかし、試験片加工や試料のセッティングに起因する測定誤差を生じることがあるため、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値は、Φ=85〜90°、φ1=35〜55°の範囲内での最大のX線ランダム強度比とする。
同様の理由から、3次元集合組織のφ2=45°の断面において、図2の点で示した位置を中心として、{211}<111>方位は、φ1=85〜90°、Φ=30〜40°の範囲、{100}<001>方位は、φ1=40〜50°、Φ=0〜5°の範囲、{110}<001>方位は、φ1=85〜90°、Φ=85〜90°の範囲での最大値を、それぞれ、その方位の強度比として代表させる。
ここで、結晶の方位は、通常、板面に垂直な方位を[hkl]又は{hkl}、圧延方向に平行な方位を(uvw)又は<uvw>で表示する。{hkl}、<uvw>は、等価な面の総称であり、[hkl]、(uvw)は、個々の結晶面を指す。
即ち、本発明においては、体心立方構造(body-centered cubic、b.c.c.構造という。)を対象としているため、例えば、(111)、(−111)、(1−11)、(11−1)、(−1−11)、(−11−1)、(1−1−1)、(−1−1−1)面は等価であり、区別がつかない。このような場合、これらの方位を総称して、{111}と称する。
なお、ODFは、対称性の低い結晶構造の方位表示にも用いられるので、一般的には、φ1=0〜360°、Φ=0〜180°、φ2=0〜360°で表現され、個々の方位が、[hkl](uvw)で表示される。しかし、本発明では、対称性の高いb.c.c.構造を対象としているため、Φとφ2については、0〜90°の範囲で表現される。
また、φ1は、計算を行う際に、変形による対称性を考慮するか否かによって、その範囲が変化するが、本発明においては、対称性を考慮し、φ1=0〜90°で表記する、即ち、φ1=0〜360°での同一方位の平均値を、0〜90°のODF上に表記する方式を選択する。この場合、[hkl](uvw)と{hkl}<uvw>は、同義である。
したがって、例えば、図2に示した、φ2=45°断面におけるODFの(110)[1−11]のX線ランダム強度比は、{110}<111>方位のX線ランダム強度比である。
X線回折用試料の作製は、次のようにして行う。鋼板を機械研磨や化学研磨などによって、板厚方向に、所定の位置まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、電解研磨や化学研磨によって歪みを除去すると同時に、1/6板厚部が測定面となるように調整する。なお、測定面を正確に1/6板厚部とすることは困難であるので、目標とする位置を中心として、板厚に対して、3%の範囲内が測定面となるように試料を作製すればよい。
また、X線回折による測定が困難な場合は、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法やECP(Electron Channeling Pattern)法により、統計的に十分な数の測定を行ってもよい。
板厚方向の、より深い位置まで、{100}<001>方位及び{110}<001>方位の発達を抑制し、{110}<111>〜{110}<112>方位群及び{211}<111>方位を発達させると、更に、ヤング率が向上する。そのため、1/6板厚部よりも深い位置まで、好ましくは、1/4板厚部、更に望ましくは、1/3板厚部まで、表層と同様な集合組織とすることにより、圧延方向の静的ヤング率は著しく向上する。
しかし、本発明のように、表層から、通常より深い位置まで剪断歪を導入しても、板厚中心部に剪断歪を導入することは不可能である。そのため、1/2板厚部に、表層と同じ集合組織を発達させることはできず、板厚中心層には、表層とは異なる集合組織が発達する。
したがって、更に、静的ヤング率を向上させるためには、表層から1/6板厚部までの集合組織に加え、1/2板厚部の集合組織も、圧延方向のヤング率に対して有利な方位に改善することが好ましい。
板厚中心部における{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)、及び、{112}<110>方位のX線ランダム強度比(B)、並びに、(A)/(B):
{332}<113>方位は、板厚中心部に発達する代表的な結晶方位であり、圧延方向ヤング率を下げる方位であるのに対し、{112}<110>方位は、圧延方向のヤング率に対して、比較的有利な方位である。
したがって、板厚中心部の圧延方向の静的ヤング率を向上させるためには、板厚中心部での{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)が、15以下、かつ、{112}<110>方位のX線ランダム強度比(B)が、5以上を満足することが好ましい。
加えて、圧延方向ヤング率を低下させる方位(A)を、圧延方向のヤング率を向上させる方位(B)と、同等以下にすること、具体的には、(A)/(B)を1.00以下にすることが好ましい。この観点から、(A)/(B)を0.75以下にすることが、より好ましく、更に、好ましくは、0.60以下である。上記の条件を満足することで、動的ヤング率と静的ヤング率の差を10GPa以内にすることもできる。
板厚中心部における{001}<011>方位と{112}<110>方位のX線ランダム強度比の平均値(C)並びに(A)/(C):
圧延方向の静的ヤング率を220GPa以上にするためには、板厚中心部で発達する圧延集合組織も制御し、この部分の圧延方向のヤング率として215GPaを超える値にすることが望ましい。
{001}<011>方位と{112}<110>方位は、αファイバーと呼ばれる圧延方向に、<110>方向が揃った代表的な方位である。この方位は、圧延方向のヤング率に対して比較的有利な方位であり、板厚中心部の圧延方向の静的ヤング率を向上させるためには、板厚中心部での{001}<011>方位と{112}<110>方位のX線ランダム強度比の平均値(C)が5以上を満足することが好ましい。
加えて、圧延方向ヤング率を低下させる方位(A)を、圧延方向のヤング率を向上させる方位(C)と同等以下にすること、具体的には、(A)/(C)を1.10以下にすることが好ましい。
1/2板厚部におけるX線回折用試料も、1/6板厚部の試料と同様に、研磨して歪みを除去し、1/2板厚部の3%の範囲内が測定面となるように調整して作製すればよい。なお、板厚中心部で偏析等の異常が認められる場合は、板厚の7/16〜9/16の範囲内で、偏析部分を避けて試料を作製すればよい。
しかし、1/6板厚部と同様、試験片加工や試料のセッティング等に起因する測定誤差が生じることがある。そのため、図2に示した3次元集合組織のφ2=45°の断面において、{001}<011>方位と{112}<110>方位は、それぞれ、φ1=0〜5°、Φ=0〜5°の範囲とφ1=0〜5°、Φ=25〜35°の範囲、{332}<113>方位は、φ1=85〜90°、Φ=60〜70°の範囲での最大値をそれぞれその方位の強度比として、代表させることとする。
また、{112}<110>方位は、φ1=0〜5°、Φ=30〜40°の範囲とする。そのため、例えば、φ1=0〜5°において、Φ=30〜35°の範囲での最大値が、Φ=25〜30°及びΦ=35〜40°よりも大きくなる場合は、{225}<110>方位のX線ランダム強度比と{112}<110>方位のX線ランダム強度比とを、同じ数値として評価する。
静的引張法によるヤング率の測定は、JIS Z 2201に準拠した引張試験片を用いて、鋼板の降伏強度の1/2に相当する引張応力を付与して行う。即ち、降伏強度の1/2に相当する引張応力を加えて、得られた応力−歪み線図の傾きに基づいて、ヤング率を算出する。測定のバラツキを排除するため、同じ試験片を用いて5回の計測を実施し、得られた結果のうち、最大値及び最小値を除いた3つの計測値の平均値として算出した値をヤング率とする。
1/6板厚部の、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和が、5以下であり、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{112}<111>方位のX線ランダム強度比の和が、5以上である本発明の鋼板は、熱間圧延において、鋼板の表層から、少なくとも1/6板厚部までに、剪断力を作用させることによって得られる。
熱間圧延の剪断力を鋼板の1/6板厚部まで作用させるためには、熱間圧延の全パス数のうち、少なくとも2パスで、次式で規定する形状比Xが2.3以上を満足する必要がある。形状比Xは、下記(式3)に示すように、ロールと鋼鈑の接触弧張と平均板厚の比である。
この形状比Xの値が大きいほど、鋼板の板厚方向のより深い部分にまで、剪断力が作用することは、本発明者らが新たに得た知見である。
形状比X=ld/hm ・・・(式3)
ここで、ld(圧延ロールと鋼鈑の接触弧長):√(L×(hin−hout)/2)
m :(hin+hout)/2
L :圧延ロールの直径
in :圧延ロール入側の板厚
out :圧延ロール出側の板厚
上記(式3)によって求められる形状比Xが2.3以上であるパス数が1パスでは、剪断歪みが1/6板厚部まで導入されない。そのため、剪断歪みが導入された層(剪断層という。)の厚みが不十分であり、1/6板厚部の近傍での集合組織も劣化し、静的引張法で測定されるヤング率が低下する。したがって、形状比Xが2.3以上であるパス数を2パス以上とすることが必要である。
このパス数は、多い方がより好ましく、全パスの形状比Xを2.3以上としてもよい。剪断層の厚みを増加させるためには、形状比Xの値も大きい方が好ましく、2.5以上、より好ましくは、3.0以上とする。
また、形状比Xが2.3以上である圧延は、高温で行うと、その後の再結晶によって、ヤング率を高める集合組織を破壊することがある。そのため、形状比Xを2.3以上とするパス数を限定する圧延は、1100℃以下で行うことが必要である。圧延温度が低いほど、形状比の効果が顕著であるので、形状比Xが2.3以上である圧延を、最終に近い圧延スタンドで行うことが好ましい。
熱間圧延を行う際には、鋼板の表層から、少なくとも1/6板厚部までに、剪断歪を効果的に導入するため、下記(式5)で計算する有効ひずみ量ε*が0.4以上となるようにすることが、更に好ましい。
Figure 0005037413
ここで、nは、仕上げ熱延の圧延スタンド数、εjは、j番目のスタンドで加えられたひずみ、εnは、n番目のスタンドで加えられたひずみ、tiは、i〜i+1番目のスタンド間の走行時間[s]、τiは、気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti[K]によって下記(式6)で計算した数値。
Figure 0005037413
有効ひずみε*は、熱間圧延の際の転位の回復を考慮した、鋼板の表層に導入される累積の歪みの指標であり、これを0.4以上とすれば、剪断層の厚みや剪断層に導入する歪みを確保できる。有効歪みε*が高いほど剪断層の厚みが増し、ヤング率の向上に好ましい集合組織が発達するので、0.5以上が好ましく、0.6以上であれば、より好ましい。
有効ひずみε*を0.4以上とする場合には、効果的に剪断層に歪みを導入するため、圧延ロールと鋼板との摩擦係数を0.2超とすることが好ましい。摩擦係数は、圧延荷重、圧延速度、潤滑剤の種類、量を制御して、調整することができる。
次に、本発明の低降伏比高ヤング率鋼板のミクロ組織について説明する。
本発明の鋼板の組織は、比較的軟質なフェライト、ベイナイトの一方又は双方と、硬質相であるマルテンサイトとの複合組織とする。フェライトとベイナイトの一方又は双方の合計の体積率を50%超とし、マルテンサイトの体積率(以下、マルテンサイト分率ともいう。)を2〜25%にすると、引張強さに対する降伏強さの比、即ち、降伏比が低下する。
フェライト、ベイナイトの一方又は双方の体積率が50%以下、マルテンサイトの体積率が25%超になると、降伏強さが高くなり、降伏比が大きくなる。一方、マルテンサイトの体積率が2%未満では強度が低下する。強度を高めるためには、マルテンサイト分率を5%以上にすることが好ましい。一方、降伏比を低下させるには、マルテンサイト分率を20%以下にすることが好ましい。
フェライト、ベイナイト、マルテンサイト以外の組織、即ち、残部は、セメンタイト、パーライトであり、残部組織は15%以下であることが必要である。これは、パーライト、セメンタイトの体積率が増加すると、マルテンサイトの体積率が減少し、強度が低下すると同時に降伏比が上昇するためである。
なお、光学顕微鏡によるミクロ組織観察を行い、組織写真を画像解析して測定されたフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、セメンタイト、パーライトの面積率は、体積率と同等である。また、光学顕微鏡で観察されない微細なセメンタイトは、鋼板の特性に影響をほとんど及ぼさない。そのため、本発明ではセメンタイトが光学顕微鏡で観察されない場合は、体積率を0%とみなす。
ミクロ組織は、熱延鋼板の場合は熱間圧延後の冷却によって制御することができる。熱延後の冷却中に変態組織制御を行う際、即ち、熱延板の組織をマルテンサイトを含む複合組織とする際には、仕上げ圧延後の冷却条件が重要となるので、熱延仕上げ後、空冷時間を制限して制御冷却を行う。
仕上圧延後は、直ちに制御冷却することが好ましいが、設備上の制約によって、制御冷却の開始までは空冷されることがある。仕上圧延後の空冷時間が30sを超えると、マルテンサイトが5%未満となるので、空冷時間は30s以内とする。
熱延後の制御冷却の冷却速度は5℃/s以上とする。これは、熱延仕上後の冷却速度が5℃/s未満では、マルテンサイトの体積率が2%未満に減少し、パーライト、セメンタイトの体積率が増加するためである。一方、冷却速度の上限は、特に制限に意味は無いが製造上150℃/s以上にすることは困難である。なお、冷却速度を5〜150℃/sとする制御冷却は、水冷、ミスト冷却によって行うことができる。
熱延後の巻取り温度は、25〜300℃とする。巻取り温度が300℃超では、マルテンサイトを2%以上得られず、パーライト、セメンタイトの体積率が増加する。また、巻取り温度の下限は、製造上の制約により25℃未満にすることが困難であるので、25℃とする。
以下、本発明において鋼組成を限定する理由について、更に説明する。なお、%は質量%を意味する。
Nbは、本発明において重要な元素であり、熱間圧延において、γ相を加工した際の再結晶を著しく抑制し、γ相での加工集合組織の形成を著しく促す。この観点から、Nbは、0.005%以上添加することが必要である。また、0.010%以上の添加が好ましく、0.015%以上添加することが、更に好ましい。
しかしながら、Nbの添加量が0.10%を超えると、圧延方向のヤング率が低下するので、上限は0.10%とする。Nbの添加によって圧延方向のヤング率が低下する理由は、定かではないが、Nbがγ相の積層欠陥エネルギーに影響を及ぼしているものと推測される。この観点からは、Nbの添加量を0.08%以下とすることが好ましく、0.06%以下が、更に好ましい。
Tiも、本発明において重要な元素である。Tiは、γ相高温域で窒化物を形成し、熱間圧延において、γ相を加工した際の再結晶を抑制する。更に、Bを添加した場合には、Tiの窒化物の形成によって、BNの析出が抑制されるので、固溶Bを確保することができる。これにより、ヤング率の向上に好ましい集合組織の発達が促進される。この効果を得るためには、Tiを0.002%以上添加することが必要である。
一方、Tiを0.15%を超えて添加すると、加工性が著しく劣化するので、上限を、0.15%とする。この観点からは、0.10%以下が好ましい。更に好ましくは、0.06%以下である。
Nは、不可避的に鋼中に含有される元素であり、下限は、特に設定しない。ただし、Nを0.0005%未満とするためには、コストが高くなり、Nの低減による成形性の向上などの効果が顕著ではないので、下限を0.0005%とすることが好ましい。また、Nは、Tiと窒化物を形成し、γ相の再結晶を抑制するので、積極的に添加してもよいが、Bの再結晶抑制効果を低減するので、0.01%以下に抑える。この観点から、好ましくは、0.005%以下、更に好ましくは、0.002%以下とする。
更に、TiとNは、下記(式1)を満足することが必要である。
Ti−48/14×N≧0.0005 ・・・ (式1)
これにより、TiN析出によるγ相の再結晶抑制効果が発揮され、かつ、B添加の場合には、BNの形成を抑制することができ、ヤング率の向上に好ましい集合組織の発達が促進される。
Cは、強度を増加する元素であり、0.005%以上の添加が必要である。また、ヤング率の観点から、C量の下限を0.010%とすることが好ましい。これは、C量が0.010%未満に低下すると、Ar3変態温度が上昇し、低温での熱間圧延が困難となり、ヤング率が低下することがあるからである。更に、溶接部の疲労特性の劣化を抑制するためには、0.020%以上が好ましい。
一方、C量が0.20%を超えると、成形性が劣化するので、上限を0.20%とする。C量が0.10%を超えると、溶接性を損なうことがあるので、C量は、0.10%以下が好ましい。また、C量が0.06%を超えると、圧延方向のヤング率が低下することがあるので、0.06%以下が、更に好ましい。
Siは、脱酸元素であり、下限は、特に規定しないが、0.001%未満とするためには、製造コストが高くなる。また、Siは、固溶強化により強度を増加させる元素である。そのため、狙いとする強度レベルに応じて、積極的に添加してもよいが、添加量が2.50%超となると、プレス成形性が劣化するので、2.50%を上限とする。
また、Si量が多いと、化成処理性が低下するので、Si量は、1.20%以下が好ましい。更に、溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっき密着性の低下、合金化反応の遅延による生産性の低下などの問題が生ずることがあるので、Si量は、1.00%以下が好ましい。
ヤング率の観点からは、Si量を0.60%以下とすることが、より好ましい。更に、好ましくは、0.30%以下である。
Mnは、本発明において重要な元素である。Mnは、熱間圧延時に高温に加熱された際、γ相からフェライト相に変態する温度のAr3変態点を低下させる元素である。Mnの添加によって、γ相が低温まで安定になり、仕上圧延の温度を下げることができる。この効果を得るには、Mnを0.10%以上添加することが必要である。
また、Mnは、後述するように、γ相での積層欠陥エネルギーとの相関があり、γ相での加工集合組織の形成、及び、変態時のバリアント選択に影響を与え、変態後に、圧延方向のヤング率を高める結晶方位を発達させ、逆に、ヤング率を低くする方位の形成を抑制する効果がある。この観点から、Mnを1.00%以上添加することが好ましい。更に好ましくは、1.20%以上の添加であり、1.5%以上の添加が、最も好ましい。
一方、Mnの添加量が3.00%を超えると、圧延方向の政敵ヤング率は低下する。加えて、強度が高くなりすぎて、延性が低下するので、Mn量の上限を3.00%とする。また、Mn量が2.00%を超えると、亜鉛めっきの密着性が阻害されることがあり、圧延方向のヤング率の観点からも、2.00%以下とすることが好ましい。
Pは、不純物であるが、強度を増加する必要がある場合には、積極的に添加してもよい。また、Pは、熱延組織を微細にし、加工性を向上する効果も有する。ただし、添加量が0.15%を超えると、スポット溶接後の疲労強度が劣化し、降伏強度が増加して、プレス時に、面形状不良を引き起こす。更に、連続溶融亜鉛めっき時に、合金化反応が極めて遅くなり、生産性が低下する。また、2次加工性も劣化する。したがって、P量の上限を、0.15%とする。
Sは、不純物であり、0.015%超では、熱間割れの原因となったり、加工性を劣化させるので、0.015%を上限とする。
Alは、脱酸調製剤であり、下限は、特に限定しないが、脱酸の観点から、0.01%以上とすることが好ましい。一方、Alは、変態点を著しく高めるので、0.15%超添加すると、低温でのγ域圧延が困難となるので、上限を0.15%とする。
板厚表層と中心部の双方の静的ヤング率を高めるためには、下記(式2)を満足することが好ましい。
4≦3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≦10
・・・(式2)
ここで、Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crは各元素の含有量[質量%]である。
なお、Mo、W、Ni、Cu、Crの添加量が、好ましい下限値未満である場合は、0として上記(式2)の関係式の計算を行う。上記(式2)を満足すると、鋼板の表層の剪断層や板厚の中心部近傍で、圧延方向のヤング率を高める方位が集積し、圧延方向のヤング率を低下させる方位の集積が抑制される。
また、上記(式2)の関係式の数値とともに、圧延方向のヤング率が高くなることから、好ましくは4.5以上、更に好ましくは5.5以上になるように、Mn、及び、必要に応じて、Mo、W、Ni、Cu、及び、Crの1種又は2種を添加する。
ただし、(式2)を満足せず、関係式の値が10を超えると機械的性質が劣化すると共に、板厚中心部の集合組織が劣化し、圧延方向の静的ヤング率が低下することがあるため、関係式の値を10以下にすることが好ましい。この観点からは8以下にすることがより好ましい。
Mo、Cr、W、Cu、及び、Niは、熱間圧延時のγ相の積層欠陥エネルギーに影響を及ぼす元素であり、1種又は2種以上を、それぞれ、0.01%以上添加することが好ましい。
なお、Mo、Cr、W、Cu、及び、Niの1種又は2種以上とMnとを複合添加すると、加工集合組織形成に影響を与え、表層から1/6板厚部において、圧延方向のヤング率を高める結晶方位である{110}<111>、{211}<111>を発達させ、ヤング率を低くする方位である{100}<001>や{110}<001>の形成を抑制する効果を発現する。
また、Mo、Cr、W、Cu、及び、Niの1種又は2種以上を、上記(2)を満足するように、Mnと複合添加することが好ましい。これは、板厚中心部において、圧延方向のヤング率を低下させる{332}<113>方位の集積を抑制し、圧延方向のヤング率を高める{225}<110>方位や、{001}<011>方位及び{112}<110>方位の集積を高めることができる。
特に、Mo及びCuは、上記(式2)の係数が高く、微量添加でもヤング率を高める効果を発揮することから、Mo及びCuの一方又は双方を添加することが、更に好ましい。
一方、Moの添加は、強度を著しく上昇させ、加工性を低減させることがあるので、添加量を1.00%以下とすることが好ましい。また、コストの観点からは、0.50%以下のMoの添加が好ましい。
Cr、W、Cu、及び、Niの1種又は2種以上の上限は、加工性の観点から、3.00%とすることが好ましい。更に、経済性の観点から、Cr、W、Cu、及び、Niの1種又は2種以上の上限は、Crでは2.00%、Wでは0.10%、Cuでは、0.15%、Niでは1.00%とすることが好ましい。
Bは、Nbと複合添加することによって、再結晶を著しく抑制するとともに、固溶状態で、焼入れ性を高める元素であり、オーステナイトからフェライトへの変態時の結晶方位のバリアント選択性に影響を及ぼすと考えられる。
したがって、ヤング率を上げる方位である{110}<111>〜{110}<112>方位群の発達を促すと同時に、ヤング率を下げる方位である{100}<001>方位や{110}<001>方位の発達を抑制すると考えられる。この観点から、0.0005%以上添加することが好ましい。
一方、Bを、0.01%を超えて添加しても、更なる効果は得られないので、上限を、0.01%とする。Bを0.005%を超えて添加すると、加工性が劣化することがあるので、0.005%以下が好ましい。更に好ましくは、0.003%以下である。
Ca、Rem、及び、Vは、機械的強度を高めたり、材質を改善したりする効果があるので、必要に応じて、1種又は2種以上を含有することが好ましい。Ca及びRemの添加量が0.0005%未満、Vの添加量が0.001%未満では、十分な効果が得られないことがある。
一方、Ca及びRemの添加量が0.10%超、Vの添加量が0.10%超になるように添加すると、延性を損なうことがある。したがって、Ca、Rem、及び、Vは、それぞれ、0.0005〜0.10%、0.0005〜0.10%、及び、0.001〜0.10%の範囲で添加することが好ましい。
次に、上述の形状比、有効歪み、冷却速度以外の製造条件の限定理由について述べる。
鋼を、常法により溶製、鋳造し、熱間圧延に供する鋼片を得る。この鋼片は、鋼塊を鍛造又は圧延したものでもよいが、生産性の観点から、連続鋳造により鋼片を製造することが好ましい。また、薄スラブキャスターなどで製造してもよい。
また、通常、鋼片は、鋳造後、冷却され、熱間圧延を行うために、再度、加熱される。この場合、熱間圧延を行う際の鋼片の加熱温度は、1100℃以上とすることが好ましい。これは、鋼片の加熱温度が1100℃未満であると、熱間圧延の仕上温度をAr3変態点以上とすることが難しくなるためである。鋼片を、効率良く、均一に加熱するためには、加熱温度を1150℃以上とすることが好ましい。
加熱温度の上限は、特に、規定しないが、1300℃超に加熱すると、鋼板の結晶粒径が粗大になり、加工性を損なうことがある。また、溶製した鋼を鋳造後、直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスを採用してもよい。
本発明の鋼板の製造においては、1100℃以下での熱間圧延の条件は重要であり、形状比の規定については、上述したとおりである。なお、圧延ロールの直径は、室温で測定したものであり、熱間圧延中の扁平を考慮する必要はない。
各圧延ロールの入側及び出側の板厚は、放射線等を用いて、その場で測定してもよいし、圧延荷重より、変形抵抗等を考慮して、計算で求めてもよい。また、1100℃を超える温度における熱間圧延は、特に規定せず、適宜、行っても構わない。即ち、鋼片の粗圧延については、特に限定せず、常法によって行えばよい。
熱間圧延において、1100℃以下、最終パスまでの圧下率は、40%以上とする。これは、1100℃超で熱間圧延しても、加工後の組織が再結晶し、1/6板厚部における{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比を高める効果が得られないためである。
1100℃以下、最終パスまでの圧下率は、1100℃における鋼板の板厚と最終パス後の鋼板の板厚との差を、1100℃における鋼板の板厚で除した値を百分率で表した数値である。この圧下率を40%以上とする理由は、40%未満では、1/6板厚部で、圧延方向のヤング率を高める集合組織が十分発達しないからである。
また、圧下率を40%以上とすることは、1/2板厚部で、圧延方向のヤング率を高める集合組織を高めるためにも好ましい。1/6板厚部及び1/2板厚部で、圧延方向のヤング率を高めるためには、最終パスまでの圧下率を50%以上とすることが好ましい。
最終パスまでの圧下率の上限は、特に設けないが、1100℃以下、最終パスまでの圧下率を95%超にすることは、圧延機の負荷を高めるばかりか、集合組織にも変化を及ぼし、ヤング率が低下し始めるので、この圧下率は、95%以下が好ましい。この観点から、90%以下が、更に好ましい。
熱間圧延の最終パスの温度は、Ar3変態点以上とする。これは、Ar3変態点未満で圧延すると、1/6板厚部において、圧延方向及び幅方向のヤング率にとって好ましくない{110}<001>集合組織が発達するからである。
また、熱間圧延の最終パスの温度が900℃超では、圧延方向のヤング率の向上に好ましい集合組織を発達させることが困難であり、1/6板厚部における{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比が低下する。
圧延方向のヤング率を向上させるためには、最終パスの圧延温度を低下させることが好ましく、特に、1/2板厚部の圧延方向のヤング率を高めるためには、より低い温度での圧下率を高めることが好ましい。Ar3変態点以上であることを条件として、最終パスの圧延温度は、好ましくは、850℃以下、更に好ましくは、800℃以下とする。
これにより、板厚中心部での{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)を15以下、{112}<110>方位のX線ランダム強度比(B)を5以上、かつ、(A)/(B)を1.00以下とすることができる。
なお、上記(式2)の値が高めである場合、圧下率を大きくすると、1/2板厚部では、圧延方向のヤング率を低下させる{332}<113>方位も発達し易くなる傾向にあるが、圧延方向のヤング率を高める{225}<110>方位や、{001}<110>方位及び{112}<110>方位の発達が促進される。
これにより、{001}<011>方位と{112}<110>方位のX線ランダム強度比の平均値(C)を5以上とし、{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)との比(A)/(C)を1.10以下にすることができる。
熱間圧延を実施する際、圧延ロールの異周速率が1%以上の異周速圧延を、少なくとも1パス以上実施すると、表層近傍での集合組織形成が促進されるので、異周速圧延を実施しない場合の本発明以上にヤング率が向上する。この観点から、異周速率は1%以上とし、望ましくは、異周速率5%以上、更に望ましくは、異周速率10%以上の異周速圧延を実施すことが望ましい。
異周速率及び異周速圧延パス数の上限は、特に規定しないが、上記の理由から、いずれも、大きい方又は多い方が、大きなヤング率向上効果を得る点で有利であることは言うまでもない。しかし、50%以上の異周速率は、現状で困難であり、また、仕上熱延パスは、通常、8パス程度までである。
ここで、本発明における異周速率とは、上下圧延ロールの周速差を低周速側ロールの周速で除した値を百分率で表示したものである。また、本発明の異周速圧延は、上下ロール周速のいずれが大きくても、ヤング率向上効果に差はない。
また、仕上熱延に使用する圧延機にロール径が700mm以下のワークロールを一つ以上使用すると、表層近傍での集合組織形成が促進されるので、使用しない場合の本発明以上にヤング率が向上する。それ故、ロール径700mm以下のワークロールを使用することが望ましい。この観点から、ワークロール径は、700mm以下とし、600mm以下が望ましく、更に、500mm以下が望ましい。
ワークロール径の下限は、特に規定しないが、300mm以下になると、通板制御が困難になる。小径ロールを使用するパス数の上限は、特に規定しないが、前述のように、仕上熱延パスは、通常8パス程度までである。
熱延鋼板に、最高加熱温度を500℃以上0.5×(Ac1+Ac3)[℃]以下の範囲とする焼鈍を施してもよい。これによって、圧延方向のヤング率は、より一層向上する。この理由は定かではないが、熱延後の変態によって導入された転位が、熱処理によって再配列することによるものと推測される。
最高加熱温度が500℃未満では、上記効果が顕著ではなく、一方、0.5×(Ac1+Ac3)[℃]を超えると、焼鈍温度におけるオーステナイト相への変態が促進されて、集合組織の集積が弱くなり、ヤング率が低下することがある。
ヤング率の向上のため、熱延板焼鈍の最高加熱温度は、更に、好ましくは、650〜800℃とする。最高加熱温度に到達後、直ちに冷却してもよいが、鋼板の温度を均一にするには、120s以上保持することが好ましく、1800s超の保持は生産性を損なう。
なお、鋼板の材質の均質性と生産性を両立するためには、保持時間を300s以上600s以下とすることが、更に、好ましい。また、熱延鋼板には、必要に応じて、酸洗、インライン又はオフラインによる圧下率10%以下のスキンパスを施してもよい。
熱延鋼板の焼鈍の加熱速度は、特に限定しないが、3℃/s以上にすることが好ましい。加熱速度が3℃/s未満では、加熱中に再結晶が進行し、ヤング率向上に有利な集合組織の極密度が低下することがある。一方、加熱速度を70℃/s超としても、特段、材料特性は変化しない。
熱延鋼板には、溶融亜鉛メッキ又は合金化溶融亜鉛メッキを施してもよい。亜鉛メッキの組成は、特に限定するものではなく、亜鉛のほか、Fe、Al、Mn、Cr、Mg、Pb、Sn、Niなどを、必要に応じて添加しても構わない。
合金化処理は、溶融亜鉛メッキを施した後に、450〜600℃の範囲内で行う。450℃未満では、合金化が十分に進行せず、また、600℃超では、過度に合金化が進行し、メッキ層が脆化するため、プレス等の加工によってメッキが剥離するなどの問題を誘発する。合金化処理の時間は、5s以上とする。5s未満では、合金化が十分に進行しない。上限は、特に定めないが、メッキ密着性を考慮すると、10s程度が好ましい。
焼鈍及び溶融亜鉛メッキ後に、必要に応じて酸洗をし、その後、インライン又はオフラインで、圧下率10%以下のスキンパスを実施してもよい。
また、上記の熱延鋼板には、Al系メッキや各種電気メッキを施しても構わない。更に、熱延鋼板や冷延鋼板、及び、各種メッキ鋼板には、有機皮膜、無機皮膜、各種塗料などの表面処理を、目的に応じて行うことができる。
本発明の低降伏比高ヤング率鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を、圧延方向と鋼管の長手方向との間の角度が0〜30°以内になるように巻いて鋼管にすると、鋼管の長手方向のヤング率が高い、高ヤング率鋼管を製造することができる。
圧延方向と平行に巻くと、最もヤング率が高くなるので、この角度は、できるだけ小さいことが好ましい。この観点から、15°以下の角度で巻くことが、好ましい。
圧延方向と鋼管の長手方向の関係が満足されていれば、造管方法は、UO管、電縫溶接、スパイラル等、任意の方法をとることができる。もちろん、ヤング率の高い方向を鋼管の長手方向に平行に限定する必要はなく、用途に応じて、任意の方向に、ヤング率の高い鋼管を製造しても、何ら問題はない。
次に、本発明を実施例にて説明する。
表1に示す組成を有する鋼を溶製して鋼片を製造し、鋼片を加熱して、粗圧延に続いて、表2に示す条件で、仕上圧延を行った。表1の空欄は、元素を意図的に添加していないことを意味する。仕上圧延のスタンドは、全6段からなり、ロール径は、650〜830mmである。また、最終パス後の仕上板厚は、1.6〜10mmとした。
表2及び表3において、SRT[℃]は、鋼片の加熱温度であり、FT[℃]は、圧延の最終パス後、即ち、仕上出側の温度であり、tAC1[s]は、熱間圧延の仕上圧延後、冷却を開始するまでの空冷時間であり、CR1[℃/s]は、空冷後の冷却中の平均冷却速度である。
また、CT[℃]は、巻取り温度であり、Vα1[%]は、熱延鋼板のフェライト体積率であり、VB1[%]は、熱延鋼板のベイナイト体積率であり、VM1[%]は、熱延鋼板のマルテンサイト体積率であり、Vother1[%]は、熱延鋼板のセメンタイト及びパーライトの体積率の合計である。
圧下率は、1100℃における板厚と仕上板厚との差を、1100℃における板厚で除した値であり、百分率として示した。
光学顕微鏡による組織観察と画像解析によって、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、セメンタイト及びパーライトの面積率を求め、これを体積率とした。Ar3、Ac1、及び、Ac3は、熱膨張計を用い、10[℃/s]での加熱・冷却中の試験片の熱膨張変化を測定することで求めた。なお、表1〜9において、下線は、本発明の範囲外又は好ましい範囲外であることを意味する。
また、形状比の合否欄には、各パスの形状比の少なくとも2つ以上が2.3を超えている場合は○、超えていない場合は×を示した。
また、表1の式1は、Ti及びNの含有量[質量%]によって計算した、下記(式1)の左辺の値である。
Ti−48/14×N>0.0005 ・・・ (式1)
また、表1の式2は、Mn、Mo、W、Ni、Cu、及び、Crの各元素の含有量[質量%]によって計算した、下記(式2)の左辺の値である。
3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≧4
・・・(式2)
Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crの含有量が不純物程度である場合、例えば、表1のMo、W、Ni、Cu、Crが空欄である場合は、0として上記(式2)の左辺を計算する。
得られた鋼板からJIS Z 2201に準拠した引張試験片を採取し、引張試験をJIS Z 2241に準拠して行い、引張強度を測定した。ヤング率は、静的引張法と振動法の両法により測定した。
静的引張法によるヤング率の測定は、JIS Z 2201に準拠した引張試験片を用いて、鋼板の降伏強度の1/2に相当する引張応力を付与して行った。測定は5回行い、応力−歪み線図の傾きに基づいて算出したヤング率のうち、最大値及び最小値を除いた3つの計測値の平均値を、静的引張法によるヤング率とし、引張ヤング率として、表3に示した。
Figure 0005037413
Figure 0005037413
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振動法は、JIS Z 2280に準拠した常温での横共振法にて行った。即ち、試料を固定せずに振動を加え、発振機の振動数を徐々に変化させて、一次共振振動数を測定し、その振動数より、動的ヤング率を計算によって求めた。
また、鋼板の1/6板厚部の{100}<001>及び{110}<001>方位、{110}<111>〜{110}<112>方位群、及び、{211}<111>方位のX線ランダム強度比を、以下のようにして測定した。
まず、鋼板を、機械研磨及びバフ研磨した後、更に、電解研磨して歪みを除去し、1/6板厚部が測定面となるように、試料を調製した。この試料を用いて、X線回折を行った。なお、特定の方位への集積を持たない標準試料のX線回折も、同条件で行った。
次に、X線回折によって得られた{110}、{100}、{211}、{310}極点図を基に、級数展開法でODFを得た。このODFから、{100}<001>及び{110}<001>方位、並びに、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比を求めた。
鋼板の1/2板厚部の、{332}<113>方位、及び、{112}<110>方位のX線ランダム強度比は、1/6板厚部の試料と同様にして、1/2板厚部が測定面となるように調製した試料を用いて、X線回折を行い、ODFから求めた。
また、これらの鋼板のうち、熱間圧延終了後に溶融亜鉛めっきを施した場合は、「溶融」、520℃で15秒の合金化溶融亜鉛めっきを施した場合は、「合金」と表記した。
結果を、表3に示す。なお、ヤング率の欄のRDは、圧延方向(Rollinng Direction)、TDは圧延方向と直角の方向である幅方向(Transverse Direction)を、それぞれ意味する。
表3から明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱間圧延した場合には、圧延方向、圧延直角方向のいずれにおいても、静的引張法によるヤング率が、220GPa超である。特に、板厚中心層の集合組織の条件を同時に満足する場合には、静的引張法によるヤング率が高く、かつ、振動法との差が小さいことが解る。
一方、製造No.21〜26は、化学成分が本発明の範囲外である鋼No.K〜Pを用いた比較例である。製造No.21は、C添加量が少なく、強度が低下した例である。製造No.22、23は、Si、Alを過剰に添加した例であり、Ar3点が上昇したために、熱延仕上げ温度がAr3点よりも低くなり、γの集合組織を圧延中に発達させること
ができず、ヤング率が低下した例である。
製造No.24は、Mn添加量が少なく、ヤング率が低下した例である。製造No.25、26は、それぞれ、Nb添加量、Ti添加量が少なく、圧延方向のヤング率が低下した例である。
また、製造No.12に示すように、形状比が2.3以上であるパスが少ないと、振動法では高いヤング率が得られても、静的引張法では220GPaを超えることができない。製造No.10及び18は、熱間圧延の仕上温度FT[℃]が高く、製造No.16は、熱間圧延の圧下率が低く、ヤング率が低下した例である。
更に、製造No.8は、CT温度が高く、また、製造No.14は、冷却速度が遅いため、十分なマルテンサイト分率が得られなかった例である。製造No.20は、熱延後の空冷時間が長く、フェライト変態及びパーライト変態が進行し、十分なマルテンサイト分率が得られなかった例である。
表1に示した鋼AとEを用いて、表4に示す条件で熱間圧延を行った。表4に示した製造No.28、31、及び、32は、全6段からなる仕上げ圧延スタンドの最終の3段、即ち、4パス、5パス、及び、6パスでの異周速率を変化させた異周速圧延を行った例である。表4には、この熱間圧延を実施した際の有効ひずみ量を併記した。なお、表4で表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。
実施例1と同様に、引張特性、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。結果を、表5に示す。
これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱延する際、1%以上の異周速圧延を1パス以上加えると、表層近傍での集合組織の形成が促進され、ヤング率が向上し、更に、有効ひずみ量の高い条件ほど、ヤング率が向上する。
Figure 0005037413
Figure 0005037413
表1に示した鋼AとEを用いて、表6に示す条件で熱間圧延を行った。表6に示した製造No.33〜35、及び、37〜39は、全6段からなる仕上げ圧延スタンドの最終の3段、即ち、4パス、5パス、及び、6パスで、直径700mm以下のロールを使用して圧延を行った例である。表6には、この熱間圧延を実施した際の有効ひずみ量を併記した。なお、表6で表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。
実施例1と同様に、引張特性、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。結果を、表7に示す。
これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を熱間圧延する際、小径ロールを使用すると、表層のせん断ひずみ量が増加し、よりヤング率を高めることが可能となる。また、更に、有効歪量の高い圧延条件ほど、ヤング率が向上する。
Figure 0005037413
Figure 0005037413
表1に示した鋼AとEを用いて、表8に示す条件で熱間圧延を行った。表8に示した製造No.48〜52は、全6段からなる仕上げ圧延スタンドにて、有効ひずみ量ε*が0.4以上となるように圧延を行った例である。なお、表8で表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。
実施例1と同様に、引張特性、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。結果を、表9に示す。
これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を熱間圧延する際、有効ひずみ量が0.4以上となるように圧延すると、表層のせん断ひずみ量が増加し、よりヤング率を高めることが可能となる。
Figure 0005037413
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実施例1と同様にして、表10に示す組成を有する鋼片を用いて、表11に示す条件で熱間圧延を行った。表11に表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。また、実施例1と同様に、引張試験を行い、金属組織の観察及び面積率の測定、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。更に、1/2板厚部では、{001}<011>方位のX線ランダム強度比も測定した。結果を、表12に示す。
これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱間圧延した場合には、圧延方向、圧延直角方向のいずれにおいても、静的引張法によるヤング率が、220GPa超である。特に、板厚中心層の集合組織の条件を同時に満足する場合には、静的引張法によるヤング率が高く、かつ、振動法との差が小さい。なお、本発明例のうち、(式2)を満足しない製造No.62及び63は、静的ヤング率がやや低い。
一方、製造No.64及び65は、Ti添加量が少なく、圧延方向のヤング率が低下した例である。また、製造No.46は熱間圧延の仕上温度FT[℃]が高く、製造No.57は圧下率が低く、圧延方向のヤング率が低下した例である。製造No.60は形状比が小さく、形状比が2.3以上であるパスが少ないと振動法では高いヤング率が得られても、静的引張法ではヤング率が低下する。製造No.48は、熱延後の空冷時間が長く、フェライト変態及びパーライト変態が進行し、十分なマルテンサイト分率が得られなかった例である。
Figure 0005037413
Figure 0005037413
Figure 0005037413
表10に示した鋼RとXを用いて、表13に示す条件で熱間圧延を行った。表13に示した製造No.67及び69は、全6段からなる仕上げ圧延スタンドの最終の3段、即ち、4パス、5パス、及び、6パスでの異周速率を変化させた異周速圧延を行った例である。表13には、この熱間圧延を実施した際の有効ひずみ量を併記した。なお、表13で表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。
実施例5と同様に、引張特性、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。結果を、表14に示す。これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱延する際、1%以上の異周速圧延を1パス以上加えると、表層近傍での集合組織の形成が促進され、ヤング率が向上し、更に、有効ひずみ量の高い条件ほど、ヤング率が向上する。
Figure 0005037413
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表10に示した鋼RとXを用いて、表15に示す条件で熱間圧延を行った。表15に示した製造No.71、72、74及び75は、全6段からなる仕上げ圧延スタンドの最終の3段、即ち、4パス、5パス、及び、6パスで、直径700mm以下のロールを使用して圧延を行った例である。表15には、この熱間圧延を実施した際の有効ひずみ量を併記した。なお、表15で表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。
実施例5と同様に、引張特性、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。結果を、表16に示す。これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を熱間圧延する際、小径ロールを使用すると、表層のせん断ひずみ量が増加し、よりヤング率を高めることが可能となる。また、更に、有効歪量の高い圧延条件ほど、ヤング率が向上する。
Figure 0005037413
Figure 0005037413
表10に示した鋼RとXを用いて、表17に示す条件で熱間圧延を行った。表17に示した製造No.76〜79は、全6段からなる仕上げ圧延スタンドにて、有効ひずみ量ε*が0.4以上となるように圧延を行った例である。なお、表17で表示されていない熱延条件は、全て、実施例1と同様である。
実施例5と同様に、引張特性、1/6板厚部及び1/2板厚部の集合組織の測定、及び、ヤング率の測定を行った。結果を、表18に示す。これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を熱間圧延する際、有効ひずみ量が0.4以上となるように圧延すると、表層のせん断ひずみ量が増加し、よりヤング率を高めることが可能となる。
Figure 0005037413
Figure 0005037413
前述したように、本発明によれば、静的引張法で測定した圧延方向の静的ヤング率が高く、かつ、加工性の良好な、低降伏比高ヤング率鋼板を得ることができる。したがって、本発明は、産業上の貢献が極めて顕著なものである。
本発明の(式2)と圧延方向の静的ヤング率との関係を示す図である。 φ2=45°断面でのODFと主な方位を示す図である。

Claims (18)

  1. 質量%で、
    C :0.005〜0.20%、
    Mn:0.10〜3.00%、
    Nb:0.005〜0.10%、
    Ti:0.002〜0.15%
    を含有し、
    Si:2.50%以下、
    P :0.15%以下、
    S :0.015%以下、
    Al:0.15%以下、
    N :0.01%以下
    に制限し、下記(式1)を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、体積率の合計が50%超のフェライトとベイナイトの一方又は双方と、体積率が2〜25%のマルテンサイトと、体積率の合計が15%以下のパーライトとセメンタイトの一方又は双方からなり、鋼板の表面からの板厚方向の距離が板厚の1/6である位置の、{100}<001>方位のX線ランダム強度比と{110}<001>方位のX線ランダム強度比との和が5以下であり、{110}<111>〜{110}<112>方位群のX線ランダム強度比の最大値と{211}<111>方位のX線ランダム強度比の和が5以上であることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼板。
    Ti−48/14×N≧0.0005 ・・・ (式1)
    ここで、Ti、Nは各元素の含有量[質量%]である。
  2. 下記(式2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
    4≦3.2Mn+9.6Mo+4.7W+6.2Ni+18.6Cu+0.7Cr≦10
    ・・・(式2)
    ここで、Mn、Mo、W、Ni、Cu、Crは各元素の含有量[質量%]である。
  3. 質量%で、
    Mo:0.01〜1.00%、
    Cr:0.01〜3.00%、
    W :0.01〜3.00%、
    Cu:0.01〜3.00%、
    Ni:0.01〜3.00%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
  4. 質量%で、
    B :0.0005〜0.01%
    を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
  5. 質量%で、
    Ca:0.0005〜0.10%、
    Rem:0.0005〜0.10%、
    V :0.001〜0.10%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
  6. 鋼鈑の板厚方向の中央部の、{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)が15以下、{112}<110>方位のX線ランダム強度比(B)が5以上、かつ、
    (A)/(B)≦1.00を満足することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
  7. 鋼鈑の板厚方向の中央部の、{332}<113>方位のX線ランダム強度比(A)が15以下、{001}<011>方位のX線ランダム強度比と{112}<110>方位のX線ランダム強度比との単純平均値(C)が5以上、かつ、(A)/(C)≦1.10を満足することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼鈑。
  8. 静的引張法で測定した圧延方向のヤング率が220GPa以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板。
  9. 請求項1〜8の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板。
  10. 請求項1〜8の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板に、合金化溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板。
  11. 請求項1〜8の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板、請求項9に記載の低降伏比型高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板、又は、請求項10に記載の低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板が任意の方向に巻かれていることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼管。
  12. 請求項1〜5の何れか1項に記載の化学成分を有する鋼片に、1100℃以下、最終パスまでの圧下率を40%以上とし、下記(式3)によって求められる形状比Xが2.3以上である圧延を2パス以上とし、最終パスの温度をAr3変態点[℃]以上900℃以下の温度で熱間圧延を終了し、30s以内の空冷を行った後、5〜150℃/sの冷却速度で25〜300℃まで冷却し、巻き取ることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
    形状比X=ld/hm ・・・(式3)
    ここで、ld(圧延ロールと鋼鈑の接触弧長):√(L×(hin−hout)/2)
    m :(hin+hout)/2
    L :圧延ロールの直径
    in :圧延ロール入側の板厚
    out :圧延ロール出側の板厚
  13. 下記(式5)によって計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上となるように熱間圧延を行うことを特徴とする請求項12に記載の低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
    Figure 0005037413
    ここで、nは、仕上げ熱延の圧延スタンド数、εjは、j番目のスタンドで加えられたひずみ、εnは、n番目のスタンドで加えられたひずみ、tiは、i〜i+1番目のスタンド間の走行時間[s]、τiは、気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti[K]によって下記(式6)で計算した数値。
    Figure 0005037413
  14. 熱間圧延を実施する際に、ロール径が700mm以下の圧延ロールを、少なくとも1つ以上使用することを特徴とする請求項12又は13に記載の低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
  15. 熱間圧延の少なくとも1パス以上の異周速率を、1%以上とすることを特徴とする請求項12〜14の何れか1項に記載の低降伏比高ヤング率鋼板の製造方法。
  16. 請求項9に記載の低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法であって、請求項12〜15の何れか1項に記載の製造方法で製造した低降伏比高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛メッキを施すことを特徴とする低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
  17. 請求項10に記載の低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法であって、請求項16に記載の溶融亜鉛メッキを施した後、450〜600℃までの温度範囲で5s以上の熱処理を行うことを特徴とする低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
  18. 請求項11に記載の鋼管を製造する方法であって、請求項12〜15のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低降伏比高ヤング率鋼板、請求項16に記載の製造方法により得られた低降伏比高ヤング率溶融亜鉛メッキ鋼板、又は、請求項17に記載の製造方法により得られた低降伏比高ヤング率合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を、任意の方向に巻いて鋼管にすることを特徴とする低降伏比高ヤング率鋼管の製造方法。
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