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JP3852173B2 - トロイダル型無段変速機 - Google Patents

トロイダル型無段変速機 Download PDF

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JP3852173B2
JP3852173B2 JP22437497A JP22437497A JP3852173B2 JP 3852173 B2 JP3852173 B2 JP 3852173B2 JP 22437497 A JP22437497 A JP 22437497A JP 22437497 A JP22437497 A JP 22437497A JP 3852173 B2 JP3852173 B2 JP 3852173B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,トロイド曲面を有する入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを傾転自在に配置して,入力ディスクの回転を無段階に変速して出力ディスクへ伝達するトロイダル型無段変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】
トロイダル型無段変速機として,入力軸により駆動される入力ディスク,前記入力ディスクに対向して配置され且つ出力軸に連結された出力ディスク,及び両ディスクに摩擦接触するパワーローラからトロイダル変速部を構成するものが知られている。このトロイダル型無段変速機においては,パワーローラの傾転角度を変えることによって,入力ディスクの回転は,無段階に変速して出力ディスクに伝達される。
【0003】
車両に搭載されるトロイダル型無段変速機1は,概ね,図4に模式的に示されているように,エンジンEの出力が入力される入力軸21,入力軸21に対して回転可能に支持された入力ディスク3,入力ディスク3に対向して配置されると共に入力軸21に対して回転可能に支持され且つ出力軸24に連結された出力ディスク23,対向する入力ディスク3と出力ディスク23の間に配置され且つ入力ディスク3から出力ディスク23へトルクを伝達する傾転可能な一対のパワーローラ2,入力軸21に設けた一対のフランジ部25と入力ディスク3との間に配置され且つ入力ディスク3に作用して入力トルクの大きさに応じてパワーローラ2の圧接力を変化させるローディングカムのような押圧手段22を有しており,パワーローラ2を傾転させることにより,その傾転角度に応じて入力ディスク3の回転を出力ディスク23に無段階に変速して伝達するように構成されている。パワーローラ2が図中に角度θで示すように傾転すると,パワーローラ2の入力ディスク3に対する摩擦接触位置が半径r1 の位置となり,出力ディスク23に対する摩擦接触位置が半径r2 の位置となる。入出力ディスク間の変速比はr1 /r2 となる。なお,符号4で示す部材は,パワーローラ2を傾転可能に支持するトラニオンであり,後に詳述する。上記のようなトロイダル型無段変速機1では,パワーローラ2の傾転は後述するコントローラによって制御される。
【0004】
このようなトロイダル型無段変速機は,例えば,特開平7−151219号公報に開示されており,その変速制御のシステムについても同公報に開示されている。図5には,トロイダル型無段変速機のかかる制御システムが示されている。図示のように,一対のパワーローラ2は,対向して配置された入力ディスク3と出力ディスク23の間に挟まれるようにして対向して配置され,それぞれトラニオン4と称する支持部材に対してピボット軸となっている支持軸5によって回転自在に支持されている。また,それぞれのトラニオン4は変速機ケーシング(図示省略)に回動可能で且つ軸方向に移動可能に支持されている。各トラニオン4は傾転軸6を有しており,傾転軸6の軸方向に移動可能であり,且つ傾転軸6を中心として回動可能である。トラニオン4の傾転軸6にはピストン7が固定され,ピストン7は変速機ケーシングに形成された油圧シリンダ8内を摺動可能に設けられている。油圧シリンダ8内にはピストン7によって区画された2つのシリンダ室,即ち増速側シリンダ室8aと減速側シリンダ室8bが形成されている。
【0005】
油圧シリンダ8の各シリンダ室8a,8bは油路9a,9bによってスプール弁10に連通している。スプール弁10内に摺動自在に配設されたスプール11は,軸方向両端に配置されたスプリング12によって中立位置に保持されている。スプール弁10は一端にSaポートが形成され,他端にSbポートが形成され,Saポートにはソレノイド弁13aを介して油圧Paが供給され,Sbポートにはソレノイド弁13bを介して油圧Pbが供給される。スプール弁10は,ライン圧(油圧源)へ連通するPLポート,油路9aを介して増速側シリンダ室8aへ連通するAポート,油路9bを介して減速側シリンダ室8bへ連通するBポート,リザーバへ連通する2つのRポートを備えている。ソレノイド弁13a,13bは,コントローラ14から出力された制御信号に応じて作動するように構成されている。スプール弁10とソレノイド弁13a,13bは,トロイダル型無段変速機の変速比制御弁を構成している。
【0006】
一方の傾転軸6の先端にはプリセスカム15が連結され,中央部を枢着されたレバー16の一端がプリセスカム15に当接し,レバー16の他端がポテンショメータ17に接続している。プリセスカム15は,トラニオン4の傾転軸6の軸方向変位量Yに応じて変位すると共に傾転角変位量θに応じても変位するので,両変位量が存在する場合には両変位量の合成変位量を検出することになる。ポテンショメータ17は,この合成変位量に対応して電圧値Vを出力し,出力信号をコントローラ14に入力する。プリセスカム15,レバー16及びポテンショメータ17は,コントローラ14が変速比を前記目標変速比に一致させるように変速比制御弁を制御するため,前記合成変位量に対応した電圧値を検出値として与える検出手段を構成している。また,このコントローラは,その他にも出力軸回転数センサ18,エンジン回転数センサ19,アクセルペダル踏込み量センサ20等の各種センサを備えており,これらのセンサで検出された出力軸回転数,エンジン回転数,アクセルペダル踏込み量等の変速情報信号がコントローラ14に入力される。なお,出力軸回転数センサ18は車速センサであってもよく,アクセルペダル踏込み量センサ20はスロットル開度センサであってもよい。
【0007】
トロイダル型無段変速機では,トラニオン4を中立位置からいずれか一方へ傾転軸方向(即ち,傾転軸6の軸方向)に変位させると,パワーローラ2と入力ディスク3及び出力ディスク23との接触位置が変化することにより,傾転軸6の変位方向と変位量に応じた向きと速さでトラニオン4が傾転軸6の回りで傾転するという性質を利用して,該傾転を制御することにより変速制御が行われる。
【0008】
入力軸21の回転を変速して出力軸24に伝達するには,ローディングカム22の作用により,入力ディスク3,出力ディスク23及びパワーローラ2の各接触領域に大きな接触圧力を発生させることが必要である。そのため,軸方向の基準位置をトロイダル型無段変速機のどこに置いても,公差及び歪みに起因して,入力ディスク3,出力ディスク23及びパワーローラ2は,その基準位置から離れるにしたがって,ローデイングカム22による軸方向のカム作用力に応じて軸方向に変位する。特に,トロイダル変速部を主軸(入力軸21,出力軸24)の軸方向に二組並べたダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機においては,少なくとも一方のトロイダル変速部に設けられたパワーローラ2の位置が軸方向基準位置から遠くなる傾向にあるので,そのパワーローラ2の軸方向変位が大きくなり易い。かかる軸方向の変位に対処するため,パワーローラ2はトラニオン4に対して回転自在に且つ揺動自在に支持されており,スラスト力に応じてパワーローラ2に生じる主軸の軸方向変位は,パワーローラ2の支持軸5の回りの揺動により吸収されている。なお,トロイダル型無段変速機1におけるトラニオン4の位置を軸方向の基準位置とした場合には,トラニオン4がパワーローラ2を揺動自在に支持する必要はない。
【0009】
各パワーローラ2のトラニオン4に対する支持の構造について,図6及び図7に基づいて説明する。パワーローラ2は,ローラ本体30,バックプレート31,及びローラ本体30をパックプレート31に対してスラスト力を受けながら回転自在に保持するスラスト軸受32を備えている。ここでのスラスト力は,ローラ本体30の回転軸の軸線方向に作用する力のことである。パワーローラ2は,また,トラニオン4に対して回転自在に支持する支持軸5を備えている。支持軸5は,トラニオン4に対してラジアルニードル軸受から成る第1軸受34を介して回動自在に支持される第1軸部36と,第1軸部36と一体に構成(即ち,一体構造か又は別体に形成したときには一体的に連結)されており且つローラ本体30をニードル軸受から成る第2軸受35を介して回転自在に支持する第2軸部37とから構成されている。図6に示したパワーローラ2では,第2軸部37は,第1軸部36に対して偏心している。バックプレート31は,ローラ本体30との同軸度を確保するため,支持軸5の第2軸部37に嵌合されている。更に,バックプレート31は,入力ディスク3及び出力ディスク23からの押付け力を受けるため,滑り軸受又はニードル軸受等から成るスラスト軸受33を介してトラニオン4に支持されている。なお,スラスト軸受32の転動体はボールであり,保持器38によって,ローラ本体30とバックプレート31との間の所定の軌道溝間に保持されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
図6に示すような,パワーローラ2の構造では,小型化に対応するため,支持軸5の第1軸部36のトラニオン4に対する第1軸受34,及び支持軸5の第1軸部36に対するローラ本体30の第2軸受35は,いずれもニードル軸受が採用されている。ニードル軸受34,35は,基本的にラジアル方向に隙間が存在しており,且つニードルには端部に荷重が集中するのを防止するためのクラウニングが施されているので,トラニオン4に対する支持軸5,及び支持軸5に対するローラ本体2は,傾き易いという問題がある。
【0011】
しかも,パワーローラ2の組立を容易にするため,支持軸5の第2軸部37とバックプレート31との間の嵌め合いはすきま嵌めとなっており,また,バックプレート31の厚みが薄いので,バックプレート31によって支持軸5の傾斜を抑制することができない。このため,パワーローラ2のローラ本体30の回転中心C−Cは,目標変速比が一定であっても,外乱等によってトラニオン4に対して変動して一定しないことがある。
【0012】
このような状態になると,例えば,トロイダル型無段変速機を通して伝達するトルクの大きさに変動があった場合のように,入力ディスク3及び出力ディスク23からパワーローラ2のローラ本体30が受ける接線方向の力の向きが変動すると,パワーローラ2のローラ本体30の回転中心C−Cが,傾転軸6の方向に移動する。パワーローラ2に対する傾転力が釣り合うのは,パワーローラ2の回転軸線と入力ディスク3及び出力ディスク23の回転軸線が交差している状態であるので,パワーローラ2の位置がトラニオン4に対して傾転軸6の方向に移動することは,パワーローラ2に対する傾転力が釣り合う傾転軸方向位置も異なることになる。図7は,パワーローラ2のローラ本体30が,傾転軸6の方向(図の上方)に移動して,ローラ本体30の回転中心がC’−C’に移動した状態を示している。このことは,トラニオン4の傾転軸6方向への位置が変わらないにもかかわらず実際のローラ本体30と入力ディスク3及び出力ディスク23との接触点が傾転軸6方向で変位していることを意味している。したがって,目標変速比が変わらないにもかかわらず,ローラ本体30の回転中心がC−CからC’−C’へオフセットするのに応じて,トロイダル型無段変速機1が変速を開始してしまう。
【0013】
また,パワーローラ2が入力ディスク3及び出力ディスク23より受ける力は,パワーローラ2の回転軸線方向のスラスト力と,トルクを伝達する際に受けるトルク反力(接線力)があり,接線力はトルクが伝達されているドライブ時と惰性走行しているコースト時とでは互いに反対方向に生じる。したがって,支持軸5がトラニオン4に対して傾斜が生じる状況では,パワーローラ2の回転中心C−Cの傾転軸方向位置がドライブ時とコースト時とでは異なるため,パワーローラ2に生じる傾転力が釣り合う傾転軸方向位置が異なり,その結果,目標変速比が同じあっても,変速比が異なることになる。
【0014】
また,軽負荷運転時には,上記接線力が非常に小さく,トラニオン4に対するパワーローラ2の回転軸線の位置が定まり難い。また,車両の運転状態がドライブ状態とコースト状態との間で切り換わる時のように,伝達トルクに対するトルク変動幅が大きい場合に,同じ目標変速比に対して変速比が振動的に変化して運転者に著しい不快感を与えるという問題点もある。更に,ダブルキャビティトロイダル型無段変速機では,二組のトロイダル変速部の変速比が過渡的に異なるため,比較的早い周期で変速比が変動したり,内部循環トルクによって大きなトルクが変速機内部に発生して,トラクションドライブ部の滑りなどの変速機の故障を引き起こす可能性があるという問題点もある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この発明の目的は,上記問題を解決することであって,バックプレートで支持軸を拘束することによって支持軸の傾きを抑制してパワーローラのローラ本体の回転中心の傾転軸方向への変動量を支持軸のニードル軸受のラジアル隙間程度に抑制することにより,トロイダル型無段変速機の変速運転状態によらず,安定して所定の変速比を維持することができるトロイダル型無段変速機を提供することである。
【0016】
この発明は,
入力軸により駆動される入力ディスク,前記入力ディスクに対向して配置され且つ出力軸に連結された出力ディスク,前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に配置され前記入力ディスクの回転を無段階に変速して前記出力ディスクに伝達する傾転可能なパワーローラ,前記パワーローラを回転自在に支持し且つ前記パワーローラの傾転軸方向に変位可能なトラニオン,及び前記トラニオンを前記傾転軸方向に変位させるアクチュエータを具備し,前記パワーローラは,前記入力ディスクの回転を前記出力ディスクに伝達するローラ本体,第1軸受を介して前記トラニオンに回動可能に支持されると共に前記ローラ本体を第2軸受を介して回転自在に支持する支持軸,前記トラニオンに対して第3軸受を介して支持されたバックプレート,及び前記ローラ本体と前記バックプレートとの間に介在された転動体から成り,前記転動体は前記ローラ本体と前記バックプレートと共にスラスト軸受を構成しており,前記支持軸は前記バックプレートと一体成形されていることから成るトロイダル型無段変速機に関する。
【0017】
この発明によるトロイダル型無段変速機は,上記のように構成されているので,次のように作動する。即ち,パワーローラは,入力ディスクの回転を出力ディスクに伝達するローラ本体,第1軸受を介して前記トラニオンに回動可能に支持されると共に前記ローラ本体を第2軸受を介して回転自在に支持する支持軸,トラニオンに対して第3軸受を介して支持されたバックプレート,及びローラ本体と前記バックプレートとの間に介在された転動体から成っている。支持軸は,バックプレートと一体形成されているので,別体として製作したものを嵌合した場合のように嵌合部での弛みを危惧することなく,両者を確実に一体化することができる。転動体はローラ本体とバックプレートと共にスラスト軸受を構成しているので,バックプレートは,トロイダル型無段変速機が作動しているときにはスラスト軸受に生じる強いスラスト力によって支持軸の軸線方向に押されているために傾くことがない。スラスト軸受において,転動体からバックプレートに働く押し付け力は殆どスラスト力であり,その結果,バックプレートのトラニオンに向かう押さえを効率的に行うことができ,バックプレートと一体形成されている支持軸がトラニオンに対して傾斜すること抑制することができるまた,スラスト軸受においては,押し付け力のうちラジアル成分が小さく支持軸を傾けようとするモーメントを小さくすることができるので,支持軸をトラニオンに対して傾斜させようとする動きを一層効果的に抑制することができる。その結果,ローラ本体の回転中心の傾転軸方向への変位量は,第1及び第2軸受のラジアル方向に存在する隙間程度に抑制される。
【0018】
このトロイダル型無段変速機において,前記支持軸は,バックプレートに対してしまり嵌め状態に嵌合されていることによりバックプレートと一体化することができる。即ち,支持軸とバックプレートとの一体化は,それぞれ別体に制作しておき,しまり嵌めによって,機械的に連結する構造採用することができる
【0019】
また,前記支持軸をバックプレートに対してしまり嵌め状態に嵌合した場合には,支持軸に装着されるスナップリングをバックプレートのローラ本体に対向する受け面に当接させることができ,これによりバックプレートと支持軸との一体化強化することができる。嵌合いによって支持軸とバックプレートとのしまり嵌めによる嵌合については,トロイダル型無段変速機の長期の使用等によって嵌合位置にずれが生じる可能性が皆無ではない。したがって,支持軸に装着されるスナップリングによりバックプレートと支持軸との嵌合位置がずれないように規制しておくと,トロイダル型無段変速機を長期にわたって安全に利用することが可能となる。
【0020】
更に,このトロイダル型無段変速機において,前記第1軸受及び前記第2軸受は,ニードル軸受である。ニードル軸受には,ニードルの端部が軌道に対して高い面圧を生じないように,クラウニングが施されているので,支持軸の傾斜の原因となっている。しかしながら,この発明によるトロイダル型無段変速機によれば,転動体はローラ本体とバックプレートと共にスラスト軸受を構成しており,更にバックプレートは支持軸とは一体化されているので,ニードル軸受から成る第1軸受及び第2軸受のクラウニングに起因した支持軸の傾斜を可及的に抑制することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下,図面を参照して,この発明によるトロイダル型無段変速機の実施例について説明する。図1は,この発明によるトロイダル型無段変速機の一実施例において用いられるパワーローラのトラニオンに対する支持構造を示す断面図である。トロイダル型無段変速機それ自体の構造は,図4及び図5に示した構造のものと同等であってよく,その構造及び作動の再度の説明を省略する。
【0022】
図1におけるパワーローラ2のトラニオン4に対する支持構造についても,基本的な構造については,図6に示した従来の支持構造と変わるところがないので,同じ構成要素には同じ符号を付し,それらの構造とその構造に基づくパワーローラ2及びトラニオン4の作動についての説明を省略する。この支持構造は,バックプレート31の嵌合部60が支持軸5の第2軸部37に対してしまり嵌めとなっている点で,図6に示した従来の支持構造と異なっている。
【0023】
バックプレート31は,トロイダル型無段変速機1の運転状態にかかわらず,支持軸5の軸方向に強いスラスト力を受けており,スラスト軸受33を介してトラニオン4に押し付けられているので,トラニオン4に対して傾くことがない。バックプレート31の受け面52には,スラスト軸受32を構成する転動体57(好ましくは,ボール)が転がる軌道としての軌道溝53が形成されている。ローラ本体30にも,軌道溝53に対向して転動体57が転がる軌道溝58が形成されており,両軌道溝53,58によって形成される軌道路を転動体57が転走する。なお,支持軸5の第2軸部37のスラスト軸受33側端部には,フランジ54が形成されており,バックプレート31がフランジ54にも嵌合している。
【0024】
支持軸5の第2軸部37は,バックプレート31の嵌合部60に対して圧入されており,両者の嵌合状態はしまり嵌めとなっている。したがって,嵌合部60の内周面55と第2軸部37の外周面56との間には,隙間は存在しない。支持軸5は,トラニオン4に対して傾くことがないバックプレート31によって一体的な拘束を受けることになり,殆ど傾くことがない。
【0025】
支持軸5をトラニオン4に対して回動自在に支持する第1軸受34及びパワーローラ2のローラ本体30を支持軸5に対して回転自在に支持する第2軸受35は,ニードル軸受であって,ラジアル方向の隙間が存在している。しかしながら,上記のとおり,バックプレート31は,トロイダル型無段変速機の運転状態にかかわらず,強いスラスト力を受けてトラニオン4に押し付けられているので,傾くことがなく,バックプレート31と一体の支持軸5も殆ど傾くことがない。したがって,第1軸受34及び第2軸受35にラジアル方向の隙間が存在することで支持軸5が傾くことに起因していたパワーローラ2の回転中心の傾転軸方向への変位量は,殆ど無くなる。その結果,パワーローラ2の回転中心C−Cの傾転軸方向への変位量は,第1軸受34及び第2軸受35のラジアル方向の隙間程度(20μ程度)となり,非常に小さなものとなる。
【0026】
このトロイダル型無段変速機によれば,トルクの伝達があるドライブ時と滑走状態にあるコースト時との比較において,目標変速比が同じであるときに,傾転力が釣り合うトラニオン4の傾転軸6方向の変位量に殆ど差が生じないので,従来生じていたような運転状態で変速比が異なる事態にならない。また,ドライブ状態からコースト状態への切換え時や,トルク負荷が変動する場合に,変速比が不安定に変動することもない。
【0027】
図2には,この発明によるトロイダル型無段変速機の別の実施例におけるパワーローラのトラニオンへの支持構造が断面図で示されている。バックプレート31に対応して支持軸5の第2軸部37に周溝68を設け,周溝68にはスナップリング69が装着されている。スナップリング69は,一側でバックプレート31の受け面52に当接し,他側で周溝68の側壁に当接している。バックプレート31に圧入されることで一体化された支持軸5は,トロイダル型無段変速機1の長期間使用や大きな力の作用に起因して,圧入した位置にずれを生じると,元の圧入位置に戻らない可能性がある。スナップリング69は,この圧入位置のずれを生じないように,規制している。
【0028】
図3には,この発明によるトロイダル型無段変速機の更に別の実施例におけるパワーローラのトラニオンへの支持構造が断面図で示されている。この実施例におけるパワーローラのトラニオンへの支持構造は,基本的な構造については,図1に示した支持構造に類似している。支持軸とバックプレートとの一体構造61は,トラニオン4に対して第1軸受34を介して回動自在に支持される第1軸部分66と,ローラ本体30を回転自在に支持する第2軸部分67と,転動体57が転がる軌道を備えたバックプレート部分65を一体に構成したものである。転動体57が転がる軌道は,バックプレート部分65の受け面62に軌道溝63を形成することにより,構成されている。
【0029】
図3に示した実施例では,支持軸とバックプレートとが一体的に形成された一体構造61となっており,バックプレート部分65がスラスト軸受32からの協力なスラスト力によって押し付けられているので,図1に示した実施例と同様に,第1軸部分66と第2軸部分67とから成る支持軸部分は,バックプレート部分65に対して傾きを生じることがない。したがって,パワーローラ2の回転中心C−Cの傾転軸方向への変位量は,第1軸受34及び第2軸受35のラジアル方向の隙間程度となり,非常に小さなものとなる。
【0030】
図1〜図3に示されたパワーローラ2の支持構造は,トロイダル変速部の軸方向基準位置にないパワーローラ2のトラニオン4に対する支持構造の例を示している。そのため,支持軸5において,ローラ本体30を回転自在に支持する第2軸部37又は第2軸部分67は,トラニオン4に回動自在に支持された第1軸部36又は第1軸部分66に対して偏心している。パワーローラ2がトロイダル変速部の軸方向基準位置に配置されている場合には,第1軸部36又は第1軸部分66と第2軸部37又は第2軸部分67とは同心状に配置されている。第1軸部36又は第1軸部分66と第2軸部37又は第2軸部分67とが同心状に配置されていても,パワーローラ2の回転中心の傾転軸方向への変位は,生じる現象であるので,この発明によるトロイダル型無段変速機のパワーローラのトラニオンへの支持構造が適用できる。この場合には,ローラ本体30は振り運動をすることがない。
【0031】
【発明の効果】
この発明によるトロイダル型無段変速機は,上記のように構成されているので,次のような効果を奏する。即ち,この発明によるトロイダル型無段変速機においては,バックプレートは,トロイダル型無段変速機が作動しているときには強いスラスト力によって支持軸の軸線方向に押されているために傾くことがなく,バックプレートと一体化された支持軸も,トラニオンに対して傾斜することが抑制される。また,押し付け力のうちラジアル成分が小さく支持軸を傾けようとするモーメントを小さくすることができるので,支持軸をトラニオンに対して傾斜させようとする動きを一層効果的に抑制することができる。したがって,ローラ本体の回転中心の傾転軸方向への変位量は,第1及び第2軸受のラジアル方向に存在する隙間程度に抑制され,その結果,トルクが静的に異なるドライブ運転状態とコースト運転状態とにおいて,パワーローラの回転中心のトラニオンの傾転軸方向位置が異なることが殆ど無く,目標変速比からの変化も少ない。更に,トルクが動的に変化する軽負荷運転時やドライブ運転とコースト運転との間の運転状態の切り換え時において,変速比が不安定となって運転者に違和感を与えることがなく,所定の変速比を安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるトロイダル型無段変速機の一実施例において用いられるパワーローラのトラニオンに対する支持構造を示す断面図である。
【図2】この発明によるトロイダル型無段変速機の別の実施例において用いられるパワーローラのトラニオンに対する支持構造を示す断面図である。
【図3】この発明によるトロイダル型無段変速機の更に別の実施例において用いられるパワーローラのトラニオンに対する支持構造を示す断面図である。
【図4】従来のトロイダル型無段変速機の概略を示す一部断面図である。
【図5】従来のトロイダル型無段変速機の変速制御機構の一例を示す断面図である。
【図6】従来のトロイダル型無段変速機におけるパワーローラのトラニオンに対する支持構造の一例を示す断面図である。
【図7】図6に示す従来のパワーローラのトラニオンに対する支持構造において,支持軸が傾斜した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 トロイダル型無段変速機
2 パワーローラ
3 入力ディスク
4 トラニオン
5 支持軸
6 傾転軸
7 ピストン
8 油圧シリンダ
21 入力軸
23 出力ディスク
24 出力軸
30 ローラ本体
31 バックプレート
33 スラスト軸受(第3軸受)
34 第1軸受
35 第2軸受
52 受け面
57 転動体
60 嵌合部
65 バックプレート部分
66 第1軸部分
67 第2軸部分
68 周溝
69 スナップリング

Claims (2)

  1. 入力軸により駆動される入力ディスク,前記入力ディスクに対向して配置され且つ出力軸に連結された出力ディスク,前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に配置され前記入力ディスクの回転を無段階に変速して前記出力ディスクに伝達する傾転可能なパワーローラ,前記パワーローラを回転自在に支持し且つ前記パワーローラの傾転軸方向に変位可能なトラニオン,及び前記トラニオンを前記傾転軸方向に変位させるアクチュエータを具備し,前記パワーローラは,前記入力ディスクの回転を前記出力ディスクに伝達するローラ本体,第1軸受を介して前記トラニオンに回動可能に支持されると共に前記ローラ本体を第2軸受を介して回転自在に支持する支持軸,前記トラニオンに対して第3軸受を介して支持されたバックプレート,及び前記ローラ本体と前記バックプレートとの間に介在された転動体から成り,前記転動体は前記ローラ本体と前記バックプレートと共にスラスト軸受を構成しており,前記支持軸は前記バックプレートと一体成形されていることから成るトロイダル型無段変速機。
  2. 前記第1軸受及び前記第2軸受は,ニードル軸受であることから成る請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
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