1.SHCL用眼科組成物
本発明のSHCL用眼科組成物は、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。
(A)成分の内、フラビンアデニンジヌクレオチドは、補酵素型ビタミンB2として公知の化合物である。
また、フラビンアデニンジヌクレオチドの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものである限り、特に制限されない。フラビンアデニンジヌクレオチドの塩として、具体的には、有機酸塩(例えば、乳酸塩、酢酸塩、酪酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等);無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等);有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、アミノ酸、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等);無機塩基との塩[アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等);その他の金属塩(アルミニウム塩等)等]が挙げられる。これらのフラビンアデニンジヌクレオチドの塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩及び/又は有機塩基との塩であり、より好ましくは無機塩基との塩であり、更に好ましくはアルカリ金属塩であり、特に好ましくはナトリウム塩である。これらのフラビンアデニンジヌクレオチドの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
フラビンアデニンジヌクレオチド及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いはイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはフラビンアデニンジヌクレオチドの塩、より好ましくは無機塩基との塩及び/又は有機塩基との塩、更に好ましくは無機塩基との塩、更により好ましくはアルカリ金属塩、特に好ましくはナトリウム塩(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム)が挙げられる。ここで好ましいものとして例示するフラビンアデニンジヌクレオチドの塩は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
また、(A)成分の内、ピリドキシンは、水溶性ビタミンのビタミンB6として公知の化合物である。
また、ピリドキシンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものである限り、特に制限されない。ピリドキシンの塩として、有機酸塩(例えば、乳酸塩、酢酸塩、酪酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等);無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。これらのピリドキシンの塩の中でも、好ましくは無機酸塩が挙げられ、更に好ましくは塩酸塩(塩酸ピリドキシン)が挙げられる。これらのピリドキシンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
ピリドキシン及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いはイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはピリドキシン及びその無機酸塩、更に好ましくは塩酸ピリドキシンが挙げられる。ここで好ましいものとして例示するピリドキシン及びその塩は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分は、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明で使用される(A)成分の好適な一例として、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム及び塩酸ピリドキシンが挙げられる。
本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合は、(A)成分の種類、併用する(B)成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.01〜0.2w/v%が例示される。より具体的には、SHCL用眼科組成物の総量に対する各(A)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(A)成分がフラビンアデニンジヌクレオチド及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%;
(A)成分がピリドキシン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に好ましくは0.02〜0.2w/v%。
本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。このように(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLに対する脂質の吸着を有効に抑制させることが可能になり、またイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制させることが可能になる。また、(A)及び(B)成分の併用は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を有効に抑制させることをも可能にする。
(B)成分の内、コンドロイチン硫酸は、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-ガラクトサミンの2つ糖が反復する糖鎖に硫酸が結合した構造を持つグリコサミノグリカンの1種である。コンドロイチン硫酸及びその塩は、角膜保護作用等が知られている公知の化合物であり、公知の方法により製造してもよく市販品として入手することもできる。
本発明に使用されるコンドロイチン硫酸としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、その由来については、特に制限されず、例えば、哺乳動物や魚類の軟骨(サケ軟骨等)などに由来するものなどが使用され得る。また分子量についても、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り特に制限されず、例えば、粘度平均分子量が0.01万〜10万、好ましくは0.05万〜7万、更に好ましくは0.1万〜5万程度のものが使用され得る。ここで粘度平均分子量は、第十五改正日本薬局方の一般試験法 粘度測定法第1法:毛細管粘度計法に準じて極限粘度ηを求め(測定条件:溶解液0.2mol/L NaCl、温度25.0±0℃、ウベローデ粘度計)、得られた極限粘度ηを用いて下式Iより算出される。
式I:[η]=5.8×10−4M0.74(ここで、Mは粘度平均分子量である。)
また、コンドロイチン硫酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。コンドロイチン硫酸の塩としては、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは、コンドロイチン硫酸の無機塩基との塩、より好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩(コンドロイチン硫酸ナトリウム)である。これらのコンドロイチン硫酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
コンドロイチン硫酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いはイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはコンドロイチン硫酸の塩、より好ましくはコンドロイチン硫酸の無機塩基との塩、更に好ましくはコンドロイチン硫酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはコンドロイチン硫酸ナトリウムが挙げられる。ここで好ましいものとして例示するコンドロイチン硫酸の塩は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
また、(B)成分の内、アミノエチルスルホン酸は、タウリンとも称される公知の化合物である。
アミノエチルスルホン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。アミノエチルスルホン酸の塩として、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらのアミノエチルスルホン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
アミノエチルスルホン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いはイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはアミノエチルスルホン酸が挙げられる。ここで好ましいものとして例示するアミノエチルスルホン酸は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
また、(B)成分の内、アスパラギン酸は、2-アミノブタン二酸とも称される酸性アミノ酸として公知の化合物である。アスパラギン酸は、L体、D体、DL体のいずれであってもよいが、好ましくはL体である。
アスパラギン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。アスパラギン酸の塩としては、具体的には、上記アミノエチルスルホン酸がとり得る塩と同形態のものが例示される。これらの塩の中でも、好ましくは、アスパラギン酸の無機塩基との塩、より好ましくはアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、更に好ましくはアスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、及びアスパラギン酸マグネシウム・カリウム、特に好ましくはアスパラギン酸カリウムである。これらのアスパラギン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
アスパラギン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いはイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはアスパラギン酸の無機塩基との塩、より好ましくはアスパラギン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、更に好ましくはアスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、及びアスパラギン酸マグネシウム・カリウム、特に好ましくはアスパラギン酸カリウムが挙げられる。ここで好ましいものとして例示するアスパラギン酸及びその塩は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分は、コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明で使用される(B)成分の好適な一例として、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、及びアスパラギン酸マグネシウム・カリウムが挙げられる。
本発明で使用される(B)成分の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくは、コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、及びこれらの塩;更に好ましくはコンドロイチン硫酸及びその塩;より好ましくは、コンドロイチン硫酸ナトリウムが例示される。また、ここで例示する(B)成分は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
また、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、(B)成分として、好ましくはコンドロイチン硫酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩;更に好ましくは、コンドロイチン硫酸及びその塩;より好ましくはコンドロイチン硫酸ナトリウムが例示される。
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合は、(B)成分の種類、併用する(A)成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.1〜1.5w/v%が例示される。より具体的には、SHCL用眼科組成物の総量に対する各(B)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(B)成分がコンドロイチン硫酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.01〜2.0w/v%、更に好ましくは0.1〜1.0w/v%;
(B)成分がアミノエチルスルホン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.01〜2.0w/v%、更に好ましくは0.1〜1.5w/v%;
(B)成分がアスパラギン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.01〜2.0w/v%、更に好ましくは0.1〜1.5w/v%。
上記(B)成分の配合割合は、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高め、またイオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から好適である。更に、上記(B)成分の配合割合は、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
また、本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いはイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分の総量が0.5〜50000重量部、好ましくは50〜10000重量部となる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの各(B)成分の比率として、以下の範囲が例示される:
(B)成分がコンドロイチン硫酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.5〜50000重量部、好ましくは5〜10000重量部、更に好ましくは50〜5000重量部;
(B)成分がアミノエチルスルホン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.5〜50000重量部、好ましくは5〜20000重量部、更に好ましくは50〜10000重量部;
(B)成分がアスパラギン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.5〜50000重量部、好ましくは5〜20000重量部、更に好ましくは50〜10000重量部。
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩
(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用眼科組成物に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
本発明のSHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該眼科組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、より確実に本発明の効果を奏させるという観点から、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
本発明のSHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に界面活性剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
本発明のSHCL用眼科組成物において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、又はPOE・POPブロックコポリマー類が用いられる。
本発明のSHCL用眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.7w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
本発明のSHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のSHCL用眼科組成物のpHの一例として、2.5〜9.5、好ましくは3.0〜9.0、更に好ましくは3.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
また、本発明のSHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明のSHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
本発明のSHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。ビタミン類:例えば、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。消炎剤:例えば、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム、甘草等。収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
また、本発明のSHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007
(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
香料又は清涼化剤:例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
本発明のSHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
本発明のSHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
本発明のSHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであってSHCLに接触するように使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、SHCL用点眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、SHCL用洗眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、SHCL装着液、SHCLケア用液剤(SHCL消毒液、SHCL保存液、SHCL洗浄液、及びSHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。
これらの中でも、SHCL用点眼剤は、SHCL装用中に手軽に使用できるので、SHCL装用中に脂質汚れが付着したり、花粉タンパク質が蓄積するのを効果的に抑制できるため、SHCL装用中の不快感を防止して快適にSHCLを装用することを可能にするという点で好適である。また、SHCL用点眼剤又はSHCL装着液、特にSHCL用点眼剤は、眼球表面にSHCLが接触している際に又は接触する直前(例えば、接触させることとなる装着行為前の10分以内)に使用されるものであり、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制作用が強く求められる製剤形態である。そして点眼剤は、1日当たりの使用頻度が高い製剤であるという点でも、本発明の効果をより一層有効に奏させ得る。これらの観点を総合的に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な一例として、SHCL用点眼剤が挙げられる。
また、本発明のSHCL用眼科組成物の使用方法としては、該SHCL用眼科組成物をSHCLに接触させることとなる工程を有する公知の方法であれば、特に限定はない。例えば、SHCL用点眼剤の場合、SHCLの装着前又は装用中に、該点眼剤の適量を点眼すればよい。また、SHCL用洗眼剤の場合も、SHCLの装着前又は装用中、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよい。なお、本発明のSHCL用眼科組成物がSHCL用点眼剤又はSHCL用洗眼剤である場合、SHCLを装用している時はもちろん、装用していない時でも点眼や洗眼の目的で使用することができる。また、SHCL装着液の場合、SHCLの装着時にSHCLと該装着液の適量を接触させることより使用される。更に、SHCLケア用液剤の場合であれば、適量の該ケア用液剤中にSHCLを浸漬したり、該ケア用液剤にSHCLを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。
本発明のSHCL用眼科組成物において、適用対象となるSHCLの種類については特に制限されず、イオン性又は非イオン性の別を問わず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのSHCLを適用対象にできる。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLを適用対象とする場合には、非イオン性SHCLに対する脂質の吸着を抑制でき、更には非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。また、イオン性SHCLを適用対象とする場合には、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することができる。なお、ここでイオン性とは、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%以上であることをいい、非イオン性とは、米国FDA基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。
また、本発明のSHCL用眼科組成物において、適用対象となるSHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。とりわけ、含水率が35%以下の非イオン性SHCLは特に角膜上皮細胞に対する接着性が強い傾向がある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように角膜上皮細胞に対する接着性が強い非イオン性SHCLに対しても、角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に奏することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物は、好適な適用対象として、含水率が35%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
また、一般に材質が柔らかい非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに比べ、材質が硬いSHCLは、異物の吸着によるレンズの変形や濡れ性低下により、使用感の悪化を感じさせ易く、眼粘膜障害を引き起こし易い傾向にある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように使用感悪化や眼粘膜障害を引き起こし易い硬い材質のSHCLへの脂質や花粉タンパク質の吸着・蓄積を有効に抑制することができ、それによりレンズの変形や変質を防いで、使用感の悪化や眼粘膜障害を効果的に防止することもできる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な適用対象として、硬度が比較的高いSHCLが挙げられる。好ましくは、適用対象となるSHCLの硬度は、下記のテクスチャーアナライザーによる測定方法により測定した場合の硬度が、3g以上、好ましくは4g以上、より好ましくは6g以上、更に好ましくは8g以上である。また、適用対象となるSHCLの硬度の上限値については、特に制限されないが、好ましくは15g以下、更に好ましくは12g以下である。
コンタクトレンズの硬度は、テクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて、具体的に以下のようにして測定され得る。
まず、測定対象となるコンタクトレンズをパッケージから取り出し、余分な水分をふき取って、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)で濯いだ後、生理食塩水を満たしたプラスチックシャーレの底に凸面が上方になるように配置する。次いで、測定器のプローブの真下に該コンタクトレンズが来るように調節し、以下の測定条件下で測定を行う。
[測定条件]
測定器の設定:
テストモード 圧縮測定
プローブタイプ φ10mmシリンダープローブ
Target Mode Distance
Distance 2.5mm
Triger Type Auto
Triger Force 0.1g
Test Speed 1.0mm/sec
プローブがレンズ頂点を押し下げ始めてから2.5mm(2.5秒)レンズを押しつぶす際の応力を測定し、その最大値を硬度として記録する。
本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に基づく固有の生理活性を発揮でき、様々な用途に使用することができる。例えば、(A)成分や(B)成分に基づいて、眼細胞の新陳代謝を促進して目の疲れを解消させる作用を発揮できるので、眼精疲労改善又は疲れ目改善の用途に使用することができる。
また、従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のハードコンタクトレンズの装着によって、角膜へのレンズの固着等に起因して角膜上皮障害(3時−9時ステイニング)が惹起され易いことが知られている。また、SCLの装用でも、目が乾く症状等を有する者
(例えば、ドライアイ患者)ではレンズにより角膜が損傷され易く、角膜ステイニングが生じ易い傾向があることが知られている。一方、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞と著しく接着する特性があり、更にはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの固有の性質として通常の非シリコーンSCLよりも一般に固いため、角膜上皮に物理的損傷を与え易い傾向がある。このような非イオン性SHCLの特性を鑑みれば、非イオン性SHCLの装用によっても上述のような角膜上皮障害を生じさせ易いことが明らかである。これに対して、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの装用によって引き起こされる角膜上皮障害を予防することができる。従って、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLの装用により生じる角膜上皮障害の予防剤として用いられることができ、とりわけ、目が乾く症状を有する者用(例えば、ドライアイ患者用)として好適に用いられる。
また、角膜上皮細胞はアレルゲン等に対するバリアー機能も有しているので、上述のような非イオン性SHCL装用により引き起こされる角膜上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー症状等を発症させ易くする畏れがある。これに対して、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制することによって、角膜上皮細胞を正常な状態に保持し、角膜上皮細胞のバリアー機能を維持させることが可能である。従って、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー症状を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー症状の予防剤)として好適に用いられる。
また、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着が一因となって引き起こされる角膜ステイニング等の角膜上皮障害を効果的に防止できるので、かかる観点からも角膜上皮障害の予防剤として有効に用いられることができる。
更に、本発明のSHCL用眼科組成物は、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着も防止できるので、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制できる。従って、コンタクトレンズ上に吸着された花粉タンパク質が、長時間眼に接触し続けるのを防ぎ、花粉によるアレルギーの予防や悪化の防止にも有効である。従って、花粉症又は花粉症予備軍のイオン性SHCL使用者への適用に好適である。
2.非イオン性SHCLへの脂質吸着の抑制方法、及び非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制する作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制することができる。
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するSHCL用眼科組成物を、非イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
3.イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法、及びイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を付与する方法
また、前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、イオン性SHCL装用眼が花粉に晒されても、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着を防止できるので、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することが可能になる。
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するSHCL用眼科組成物を、イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法を提供する。
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるイオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
4.非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法、及び非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するSHCL用眼科組成物を、非イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)コンドロイチン硫酸、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法を提供する。
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
参考試験例1:各種SCLの脂質吸着性の評価
表1に示す各種ソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)を1mg/mLの濃度で含むクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mLにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。各ソフトコンタクトレンズは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。サンプル群は、24ウェルマイクロプレートにおいて蛍光脂質溶液1mL中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、34℃で24時間振とう処理を行った。また、ブランク群として生理食塩水1mL中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、サンプル群と同様の振とう処理を行った。24時間後、各ソフトコンタクトレンズを新しい生理食塩水1mLが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を、吸着脂質量の指標として算出した。
結果を図1に示す。図1より明らかなように、非イオン性SHCL(レンズA及びB)の脂質吸着量は、イオン性SHCL(レンズC)及び、従来のハイドロゲルレンズ(レンズD〜F)と比較して著しく多く、脂質汚れの問題が深刻であることが確認された。
試験例1:非イオン性SHCL脂質吸着抑制評価(1)
上記参考試験例1で顕著な脂質吸着が認められた非イオン性SHCL(レンズA)を用い、下記表2に示す各試験液を使用して、非イオン性SHCLの脂質吸着に及ぼす影響について検討を行った。
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)の1mg/mLクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mLにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。レンズAは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルに500μLの各試験液(実施例1−3及び比較例1−5)及び1500μLの蛍光脂質溶液を入れ、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して34℃で24時間振とう処理を行った(サンプル群)。また、ブランク群として500μLの各試験液(実施例1−3及び比較例1−5)及び1500μLの生理食塩水を入れたウェルを作成し、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して同様に振とう処理を行った(ブランク群)。24時間後、振とう処理を終えた各レンズAを新しい生理食塩水1mLが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。各サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を吸着脂質量の指標として求め、コントロール(比較例1)の吸着脂質量を100%とした場合の各試験液の吸着脂質量の相対値(%)を算出した。
この結果を図2に示す。図2に示されるように、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムを単独で用いた場合(比較例2)には、コントロールと比較して脂質吸着抑制効果が殆ど無いことが認められた。一方、全く予想外なことに、この脂質吸着抑制効果を殆ど示さないフラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムと、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アミノエチルスルホン酸、又はアスパラギン酸カリウムとを組み合わせて用いた場合(実施例1−3)では、非イオン性SHCLに対する脂質吸着を相乗的に抑制できることが示された。
試験例2:非イオン性SHCL脂質吸着抑制評価(2)
上記参考試験例1で顕著な脂質吸着が認められた非イオン性SHCL(レンズA)を用い、下記表3に示す各試験液を使用して、非イオン性SHCLの脂質吸着に及ぼす影響について検討を行った。
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)の1mg/mLクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mLにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。レンズAは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルに500μLの各試験液(実施例4−6、並びに比較例1及び3−6)及び1500μLの蛍光脂質溶液を入れ、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して34℃で24時間振とう処理を行った(サンプル群)。また、ブランク群として500μLの各試験液(実施例4−6、並びに比較例1及び3−6)及び1500μLの生理食塩水を入れたウェルを作成し、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して同様に振とう処理を行った(ブランク群)。24時間後、振とう処理を終えた各レンズAを新しい生理食塩水1mLが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。各サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を吸着脂質量の指標として求め、コントロール(比較例1)を100%とした場合の各試験液の値を算出した。
この結果を図3に示す。図3に示されるように、塩酸ピリドキシンを単独で用いた場合
(比較例6)には、コントロールと比較して脂質吸着抑制効果が全く無いことが認められた。一方、全く予想外なことに、この脂質吸着抑制効果を全く示さない塩酸ピリドキシンと、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アミノエチルスルホン酸、又はアスパラギン酸カリウムとを組み合わせて用いた場合(実施例4−6)には、非イオン性SHCLに対する脂質吸着を相乗的に抑制できることが示された。
参考試験例2:各種SCLの角膜上皮細胞の接着性評価
表4に示す5種類のソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズ表面の角膜上皮細胞接着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
具体的に以下の方法により評価した。増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を900μLずつ入れた24ウェルマイクロプレートに、各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ凸面が上になるように一枚ずつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/mL)を100μLずつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養後、ソフトコンタクトレンズに接着した生存細胞数を計測した。なお、コントロールとして、いずれのレンズも浸漬させず、マイクロプレートの底面で細胞を培養し、ウェル中の生細胞数を計測した(コントロール群)。なお、生存細胞数の測定にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所製)を用いた。コントロール群のウェル中に含まれる生細胞の総数に対して、各ソフトコンタクトレンズ表面に接着している生細胞数の割合(コントロール群に対する生細胞数の割合;%)をそれぞれ算出した。
得られた結果を図4に示す。図4から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズ1及び2は、イオン性SHCLであるレンズ3や非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズ4または5と比較して、顕著な角膜上皮細胞接着性があることが確認された。また、細胞のソフトコンタクトレンズへの接着状況を顕微鏡で観察したところ、レンズ3、4及び5には細胞接着が殆ど確認できなかったものの、レンズ1及び2の表面には一面に角膜上皮細胞が接着していることが確認された。以上の結果より、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞の接着性が他の種類のレンズと比較して顕著に高いことが確認され、非イオン性SHCLの装用は角膜表面に損傷等の悪影響を与え得ることが明らかとなった。
試験例3:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(1)
表5に示す試験液を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を評価した。
表4に示すレンズ2(非イオン性SHCL)を、表5に示す各試験液(実施例1及び比較例2−3)3mLに一枚ずつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズ2を生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が900μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚ずつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/mL)を100μLずつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、各試験液の代わりに、表5に示すコントロール試験液で浸漬処理したレンズ2を用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズ2に接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、この中に浸漬処理を行っていないレンズ2を37℃、5%CO2条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所製)を用い、下式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。
得られた結果を図5に示す。図5から明らかなように、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムとコンドロイチン硫酸ナトリウムを組み合わせて用いた場合(実施例1)には、非イオン性SHCLに対する角膜細胞接着抑制率が相乗的に著しく高められることが明らかとなった。
試験例4:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(2)
表4に示すレンズ2(非イオン性SHCL)を用い、下記表6に示す試験液を使用して、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を評価した。
増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を用いて、表6で示される組成の試験液(実施例7−8)を作製し、0.2μmのメンブランフィルターを用い、フィルターろ過滅菌を行った。ろ過滅菌後、各試験液を上記増殖用培地で2倍希釈して、24ウェルのマイクロプレートの各ウェルに900μLずつ入れ、そこにレンズ2を凸面が上になるように浸漬させた。更に、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/mL)を100μLずつ播種し、37℃、5%CO2条件下で48時間培養後、レンズ2に接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、各試験液の代わりに、表6に示すコントロール試験液で浸漬処理したレンズ2を用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズ2に接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、この中にレンズ2を37℃、5%CO2条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所製)を用い、上記試験例3と同じ計算式により、細胞接着抑制率(%)を算出した。
この結果を、図6に示す。図6より明らかなように、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムと、アミノエチルスルホン酸又はアスパラギン酸カリウムとを組み合わせて用いた場合(実施例7−8)には、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着を極めて効果的に抑制できることが明らかとなった。
試験例5:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験(3)
下記表7に示す試験液(実施例9−10)を使用して、上記試験例4と同様の方法により、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を評価した。
この結果を、図7に示す。図7より明らかなように、塩酸ピリドキシンと、アミノエチルスルホン酸又はコンドロイチン硫酸ナトリウムとを組み合わせて用いた場合(実施例9−10)にも、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着を極めて効果的に抑制できることが明らかとなった。
参考試験例3:ソフトコンタクトレンズに対する花粉タンパク質吸着特性の評価
表8に示す4種のソフトコンタクトレンズを試験に用いて、ソフトコンタクトレンズに対する花粉タンパク質の吸着特性を評価した。
まず、試験に使用するレンズを、生理食塩液4mLに1枚ずつ浸漬させ、室温にて一晩保存した(レンズの前処理)。
花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を、生理食塩液に溶解し、5mg/30mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に、花粉タンパク質液1.0mLを入れ、前処理済みのレンズの余分な水分をふき取った後に浸漬し、34℃120rpmにて18時間振とうを行った。次いで、レンズを取り出し、生理食塩液100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、ビーカーのふちを使って軽く水分を切り、24穴プレートの各穴に入れた花粉タンパク質分離用液(1%炭酸ナトリウム及び1%SDS含有水溶液)1mLに浸漬させた。34℃120rpmで3時間振とうし、レンズに吸着した花粉タンパク質を花粉タンパク質分離用液中に分離させた。
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、花粉タンパク質分離用液中の花粉タンパク質量を、アルブミン換算値として定量し、レンズに対する花粉タンパク質吸着量を求めた。
なお、各ソフトコンタクトレンズの硬度は、上述のようにテクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて測定した値である。
結果を図8に示す。図8に示されるように、イオン性SHCLであるレンズIを用いた場合には、非シリコンソフトコンタクトレンズであるレンズIII及びレンズIVや、非イオン性SHCLであるレンズIIと比較すると、顕著に高い花粉タンパク質の吸着が認められた。この結果から、花粉タンパク質は、ソフトコンタクトレンズの中でもイオン性SHCLに対して極めて多量に吸着する傾向があり、イオン性SHCLには、花粉タンパク質を非常に吸着し易いという特有の課題が存在することが確認された。
試験例6:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価(1)
上記参考試験例3にて花粉タンパク質の顕著な吸着が確認されたレンズI(イオン性SHCL)を用いて、下記の試験を実施した。
先ず、レンズIを、5mLの生理食塩液に1枚ずつ浸漬させ、5時間室温にて保存した(レンズの前処理)。花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を生理食塩液に溶解し、5mg/50mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に、1.0mLの花粉タンパク質液を入れ、前処理したレンズの余分な水分をふき取った後に浸漬させ、34℃、400rpmで24時間振とうを行った。
花粉タンパク質液に浸漬させたレンズIを取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、水分をふき取り、24穴プレートに入れた表9に記載の各試験液(実施例1、比較例2−3、及びコントロール)1.0mLに浸漬して34℃、400rpmで18時間振とうを行った。その後、レンズIを取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、ビーカーのふちを使って、軽く水分を切り、24穴プレートに入れた花粉タンパク質分離用液(1%炭酸ナトリウム及び1%SDS含有水溶液)0.5mLに浸漬させた。34℃、400rpmで3時間振とうし、レンズに吸着した花粉タンパク質を花粉タンパク質分離用液中に分離させた。
また、各試験液の影響を差し引くことによって、より正確に花粉タンパク質吸着量を算出するために、ブランク群として、花粉タンパク質液で処理する工程を生理食塩水での処理に変更した以外は、上記と同様に各試験液での処理と花粉タンパク質分離用液での処理を行ったものを用意した。
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、花粉タンパク質分離用液中の花粉タンパク質の量を、アルブミン換算値として定量し、レンズIに吸着していた花粉タンパク質の量を求めた。なお、花粉タンパク質吸着量の算出に際して、各サンプルの吸光度から、上記ブランク群の吸光度を差し引いて、アルブミン換算値として算出することにより、花粉タンパク質吸着量を求めた。次式により、コントロールの試験液を用いた場合の花粉タンパク質吸着量に対する、比較例及び実施例の試験液を用いた場合の花粉タンパク質吸着量の割合から、花粉タンパク質吸着改善率(%)を算出した。
結果を図9に示す。その結果、コンドロイチン硫酸ナトリウムを単独で用いた場合(比較例3)には、花粉タンパク質の吸着を改善する作用は無いことが認められた。一方、全く予想外なことに、このコンドロイチン硫酸ナトリウムとフラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムとを組み合わせて用いた場合(実施例1)には、花粉タンパク質吸着改善率が相乗的に高められ、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の吸着量を効果的に低減でき、蓄積を抑制することができることが明らかとなった。
試験例7:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価(2)
下記表10に示す試験液を用いて、上記試験例6と同様の方法により、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の吸着改善効果について評価を行った。
結果を図10に示す。図10に示されるように、塩酸ピリドキシン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、又はアスパラギン酸カリウムのいずれの場合も単独では、花粉タンパク質の吸着を改善する効果は認められなかった(比較例3、5及び6)。一方、全く予想外なことに、コンドロイチン硫酸ナトリウム又はアスパラギン酸カリウムと、塩酸ピリドキシンという特定の組み合わせでイオン性SHCLに適用することにより、花粉タンパク質吸着改善率の低下を防止できるのみならず、相乗的にイオン性SHCLへの花粉タンパク質の吸着量を低減し、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できることが明らかとなった(実施例4及び6)。
製剤例
表11に記載の処方で、SHCL用点眼剤(実施例11−15)、SHCL装着液(実施例16)、SHCL装着液兼点眼液(実施例17)、SHCL用洗眼剤(実施例18)、及びSHCL洗浄液
(実施例19−20)が調製される。