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JP2015137259A - ベンゾクロメン化合物、フォトクロミック剤及びフォトクロミック光学材料 - Google Patents

ベンゾクロメン化合物、フォトクロミック剤及びフォトクロミック光学材料 Download PDF

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JP2015137259A
JP2015137259A JP2014010029A JP2014010029A JP2015137259A JP 2015137259 A JP2015137259 A JP 2015137259A JP 2014010029 A JP2014010029 A JP 2014010029A JP 2014010029 A JP2014010029 A JP 2014010029A JP 2015137259 A JP2015137259 A JP 2015137259A
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Jiro Abe
二朗 阿部
久子 中川
Hisako Nakagawa
久子 中川
加藤 裕久
Hirohisa Kato
裕久 加藤
由紀 中川
Yuki Nakagawa
由紀 中川
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Abstract

【課題】着色時の色が、青から黄色の広い範囲にわたり、高速に着色、退色(特に退色)し、かつ、耐久性の高い、化合物、フォトクロミック剤及びフォトクロミック光学材料の提供。【解決手段】一般式(I)で表わされるベンゾクロメン化合物。(R1〜R3が、アミノ基誘導体(アミノ基を含む。)、ハロゲン原子(Fを除く)又はH(R1〜R3の全てが水素の場合を除く)からなる置換基)【選択図】なし

Description

本発明は、太陽光もしくは水銀灯の光のような紫外線を含む光で着色もしくは濃色した形態に変化し、その変化が可逆的で、濃い発色濃度を有し且つ無色状態へ戻る速度(以下、退色速度という。)が速い性質を示す新規なベンゾクロメン化合物、フォトクロミック剤及びフォトクロミック光学材料に関する。
本明細書および特許請求の範囲において、「ベンゾクロメン」というときは、特に断らない限り、「3H-ベンゾ(f)クロメン、別名(3H-ナフト[2,1-b]ピラン)」を意味する。また、「ベンゾクロメン化合物」とは、ベンゾクロメンおよびベンゾクロメンの誘導体を意味する。
フォトクロミズムとは“単一の化学種が光の作用により分子量を変えることなく、吸収スペクトルの異なる2つの状態間を可逆的に異性化する現象”をいい、また、この性質を有する化合物はフォトクロミック化合物と呼ばれる。
産業的にフォトクロミック化合物が利用されている代表的な例としては調光レンズが挙げられる。屋外の太陽光が強い環境では可視光を吸収する異性体に光異性化し、可視光の透過率を下げることで、太陽光の眩しさを軽減し眼の健康を守る眼鏡用レンズである。紫外線量の少ない屋内では元の異性体に戻ることで速やかに退色して無色に近い状態になる。
現在、製品として販売されている調光レンズは完全に無色になるには数分から数十分の時間を要するため、光異性化(熱消色)反応のさらなる高速化に向けた研究が行われている。しかし、人間の虹彩の反応に近い速度で高速に反応する化合物は未だ実用化されていない。
フォトクロミック化合物は過去幾多の研究がなされており、クロメンを用いたものとして、特許文献1第4柱第47〜62行には、例えば、下記構造式(A)で示されるクロメン誘導体(本発明と同じベンゾクロメン骨格を有する。)が、紫外線照射により約−40℃以下で無色からオレンジ色(橙色)に着色し室温で無色になる、旨記載されている。
Figure 2015137259
このベンゾクロメン化合物は発色濃度も退色速度も遅く、調光レンズ等の光学素材としては実用的ではない。また発色体の色が橙色になるため、発色体の吸収波長のコントロールが求められてきた。
発色濃度の向上と発色の色調コントロールのためにベンゾクロメン化合物に電子供与基を導入した例が多数報告されているが、特に8位に電子供与基を導入すると発色濃度の向上と発色体の長波長化が可能になることが知られている。
例えば特許文献2第4柱第64行〜第5柱第27行には、下記構造式(B)で示される本発明と同様なベンゾクロメン(3Hナフトピラン)骨格を有するベンゾクロメン誘導体が望ましい旨記載されている。
Figure 2015137259
このメトキシ基(電子供与基)が8位に導入されたベンゾクロメン化合物(実施例1)は、同文献第8柱表1及び同柱第45〜61行に記載される如く、8位にメトキシ基が導入されていない3-(4-ビフェニル)-3-フェニル-3H-ナフト[2,1b]ピラン(実施例2)と比較して発色体の最大吸収波長λmax454nmから484nmと、黄色から橙色(赤色系)に長波長化するが、退色速度の半減期は25sと無置換のクロメン化合物の13sと比べて約2倍遅くなる。このため、調光レンズ等の光学素材に適したフォトクロミック剤とはいえない。なお、本発明と同一のクロメン骨格(3,3-ジフェニル-3H-ナフト-[2,1-b]ピラン)である比較例2の退色速度の半減期は同様に13sである。
ベンゾクロメン化合物の3位のフェニル基のp位に電子供与基を導入すると発色体の吸収波長の長波長化と退色速度の高速化が可能である。
例えば、特許文献3第11頁の比較例1には、下記構造式(C)で示されるクロメン化合物が記載されている。
Figure 2015137259
このクロメン化合物は、第13頁表1に記載される如く、3位のフェニル基のp-位に電子供与基であるアルコキシ基(メトキシ基)を導入することで、赤色(λmax: 490nm)に発色し、退色速度も速くなる。退色速度の速い分子を作ることは本方法で可能であるが、フェニル基に電子供与基を導入することで発色体の吸収波長は、無置換体の吸収波長よりも長波長化し、発色の色は赤色系に限定されてしまうことから、光学素材としては利用用途も限られる。
また、非特許文献1第103頁表3には、本発明と同様に、3,3-ジフェニルベンゾクロメンのフェニル基のp-位に電子供与基であるピペリジノ基を導入した下記構造式(D)で示されるベンゾクロメン化合物が記載されている。
Figure 2015137259
このベンゾクロメン化合物は、同表及び第104頁1〜3行に記載される如く、赤紫色(λmax:514nm)に発色し、退色の半減期も7秒程度であるが、ピペリジノ基の影響により発色は赤色の500nmより長波長の色に限定されることから、前項同様に光学素材としては用途も限られる。
また、特許文献4〔0173〕には、下記構造式(E)で示される、9位に電子供与基(メトキシ基)が導入されるとともにフェニル基のp位に電子供与基(イソプロポキシ基)が導入された2H-ベンゾクロメン合物が記載されている。
Figure 2015137259
このベンゾクロメン化合物は、〔0251〕表IIに記載されている如く、完全に退色するまでに数分から数十分の時間を要することから、調光レンズ等の光学素材には適していない。
すなわち、当該表IIは、紫外線光を照射した後、暗い状態で測定したレンズ透過率において、1分後(TF1)、5分後(TF5)、60分後(TF60)を示すものである。そして、5分経過後のキセノン光源15分照射後の透過率(TD15)に対する透過率の差(recF5)において、最大でも42%であり、退色速度が遅いことが伺える。
以上の先行技術文献における各例のように、過去に開発されたベンゾクロメン化合物(誘導体)は、着色ならびに退色速度の遅いものや、反応する波長域が限られたもの、あるいは特定の色にしか着色しない化合物であり、応用範囲が限られたもので調光レンズ等の光学素材としては実用的なものではなかった。
米国特許第3567605号明細書 米国特許第6337409号明細書 特表平9-504003号公報(国際公開第95/05371号) 特表2006-513276号公報(国際公開第03/089489号)
スン−フーン・キム(Sung-Hoon kim)編、ジョン−ディ・ヘプワース(John D. Hepworth),ビー・マークヘロン( B. Mark Heron)共著 「機能染料(Functional Dyes)」第3章"フォトクロミックナフトピラン(Photochromic naphthopyrans)"エレセビアー(Elsevier), 2006、p.103〜104
ベンゾクロメン化合物のナフタレン環に電子供与基を置換すると、化合物の発色体の吸収波長は長波長化するが退色速度は遅くなる。また3位のフェニル環に電子供与基を導入すると、吸収波長の長波長化と退色速度の高速化を可能にするが、赤色より長波長の色に限定されてしまう。
また2H-ベンゾクロメン化合物は一種類の分子で中間色を出すことが可能であるが、退色速度に問題がある(特許文献4参照)。発色体の色と退色速度を同時に制御することは困難であり、そのためには退色速度の速い複数の分子を混ぜることが必要になるが、混ぜ合わせる全ての分子の退色速度が同程度のものでなければ、退色の遅い分子の色が最後に残ってしまう。
したがって、本発明の目的は、着色時の色が青から黄色の広い範囲にわたり、高速に着色、退色(特に退色)し、かつ耐久性の高い、ベンゾクロメン化合物、フォトクロミック剤及びフォトクロミック光学材料を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成のベンゾクロメン化合物に想到した。
本発明の一つに係るベンゾクロメン化合物は、下記一般式(I)において、R1、R2及びR3が、アミノ基誘導体(アミノ基を含む;以下同じ。)、ハロゲン原子(Fを除く;以下同じ。)又はHである(R1、R2及びR3の全てが水素の場合を除く)からなる置換基である、ことを特徴とするものである。
Figure 2015137259
本発明の他の一つに係るベンゾクロメン化合物は、下記一般式(II)において、R1、R2及びR3が、電子供与基、ハロゲン原子又はHである(R1、R2及びR3の全てが水素の場合を除く)とともに、R4及びR4´が電子供与基又はH(R4及びR4´の双方がHである場合を除く。)であること、を特徴とするものである。
Figure 2015137259
また、本発明は、さらに
(1)前記ベンゾクロメン化合物の1種又は複数種を混合して退色半減期(τ1/2)が5秒以下を示すフォトクロミック剤;
(2) 前記ベンゾクロメン化合物の1種又は複数種が重合性単量体中に分散されてなるフォトクロミック光学材料(フォトクロミック硬化性組成物);
(3)前記ベンゾクロメン化合物の1種又は複数種が分散されてなる高分子成形体を構成部材とするフォトクロミック光学要素;
(4) 前記ベンゾクロメン化合物の1種又は複数種が分散されてなる高分子膜で、少なくとも一部が被覆された面を有する光学基材を構成部品として備えたフォトクロミック光学要素;
も提供するものである。
本発明のクロメン化合物は、溶液中または高分子固体マトリックス中で速い退色速度を示す。例えば、本発明のクロメン化合物を用いたフォトクロミックレンズは、屋外から室内に戻った時にすばやく元の無色の状態へと戻り、使用者に良好な視界を提供する。また含窒素複素環基をナフト環やフェニル環に導入した場合は、長波長化が可能となり、多様な色調発色体が得られる。このため、本発明に係る複数のフォトクロミック化合物を混ぜることで任意の色を作ることが可能となる。
各実施例と各比較例におけるベンゾクロメン化合物の退色半減期と発色体の吸収波長および発色系を纏めたグラフ図である。
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
前記一般式(I)、(II)において、R1、R2およびR4、R4´における「アミノ基誘導体」とは、アミノ基およびアミノ基から水素原子の水素原子の代わりに1価又は2価の炭化水素基(鎖とともに環式(芳香族を含む。)を含み、さらにはヘテロ炭素水素基を含む。)を導入したものをいう。特許請求の範囲でも同様である。
一般式(I)、(II)中のアミノ基誘導体は特に限定されないが、好適には下記一般式(1)で表される脂肪族系、又は(2)で表される脂環式(多環式)系のものが用いられる。
Figure 2015137259
〔但し、R5およびR5´は、水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基で示される基である。〕
Figure 2015137259
〔但し、R6およびR6´は同種または異種のアルキレン基、Xは酸素原子、又は硫黄原子である。〕
上記一般式中のR5、R5´、R6、R6´で示されるアルキル基としては、一般的には炭素数1〜20、好ましくは、1〜4である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等が挙げられる。アリール基としては炭素数6〜10であることが好ましい。
具体的にはフェニル基、トリル基又はナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としては炭素数7〜14であることが好ましい。具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピルまたはナフチルメチル基等が挙げられる。
上記R6、R6´で示されるアルキレン基としては、一般的には炭素数1〜4、好ましくは1〜2である。具体的にはメチレン基、エチレン基が挙げられる。
一般式(I)、(II)におけるR1、R2に好適なアミノ基誘導体としては、下記のような含窒素飽和複素環基および含窒素芳香族複素環基を好適に使用できる。
含窒素飽和複素環基としては、ピペリジノ基、ピロリジノ基、ピペラジノ基、メチルピペラジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基またはアジリジノ基等が挙げられる。中でも、ピペリジノ基、ピペラジノ基、メチルピペラジノ基又はモルホリノ基とすることで、本発明の課題を解決することが容易となる。
含窒素芳香族複素環基としては、窒素原子を含む5員環、6員環、またはこれらにベンゼン環が縮合した炭素数4〜10の芳香族複素環基を挙げることができる。
好適な芳香族複素環基を例示すると、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾールチアゾリル、または5員環にベンゼンが縮合したインドリル、ベンズイミダゾリル、カルバゾリル等が挙げられる。
R1、R2において、含窒素飽和複素環基を含窒素芳香族複素環基に置き換えることにより退色速度が増大する(実施例13に対する各実施例17、実施例14に対する実施例18)。
一般式(I)、(II)におけるR1、R2に好適なハロゲン原子としては、Cl,Br又はIを挙げることができる。
一般式(II)におけるR4、R4´で示されるアルコキシ基としては、一般には炭素数6以下、好ましくは炭素数1〜3のものを挙げることができる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基を例示できる。
また、R4、R4´で示されるアミノ基誘導体としては、前記R1、R2に例示した含窒素飽和複素環基を挙げることができる。含窒素飽和複素環基の導入により発色体の多様化が容易となる。
本発明の前記一般式(I)又は(II)で示されるベンゾクロメン化合物は、ベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の一般の有機溶媒によく溶ける。
このような溶媒に一般式(1)で示されるベンゾクロメン化合物を溶かしたとき、一般に溶液はほぼ無色透明であり、太陽光あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると速やかに元の無色にもどる良好な可逆的なフォトクロミック作用を呈する。そして、このようなフォトクロミック作用は、高分子固体マトリックス中でも同様に発現する。
かかる対象となる高分子固体マトリックスとしては、本発明の一般式(I)、(II)で示されるベンゾクロメン化合物が均一に分散するものであれば特に限定されない。
光学的に好ましくは、例えばポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート) 、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
さらに、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA ジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等の多価アクリル酸及び多価メタクリル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、トリメチロールプロパントリアリルカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のアクリル酸エステル化合物及びメタクリル酸エステル化合物;ジビニルベンゼン等のラジカル重合性多官能単量体を重合してなる熱硬化性樹脂を挙げることができる。
また、これらの各単量体とアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸及びメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸及びチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン等のビニル化合物等のラジカル重合性単官能単量体との共重合体が挙げられる。
本発明の下記一般式(I)又は(II)で示されるベンゾクロメン化合物を上記高分子固体マトリックス中へ分散させる方法としては特に制限はなく、一般的な手法を用いることができる。
例えば、上記熱可塑性樹脂とベンゾクロメン化合物を溶融状態にて混練し、樹脂中に分散させる方法、または上記重合性単量体にベンゾクロメン化合物を溶解させた後、重合触媒を加え熱または光にて重合させ樹脂中に分散させる方法、あるいは上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の表面にクロメン化合物を染色することにより樹脂中に分散させる方法等を挙げることができる。そして、このような製造方法を提供することにより、フォトクロミックレンズ等の光学製品を、安価に大量に生産することが可能となる。
本発明のベンゾクロメン化合物は、ベンゾクロメン化合物を1種又は複数種混合してなり、退色半減期が5秒以下を示すフォトクロミック剤とすることができる。特に、最大吸収波長が異なり、退色半減期が近似しているベンゾクロメン化合物を複数種混合することにより、多様な色のフォトクロミック剤を設計することができる。
また、該フォトクロミック剤を、重合性単量体に分散させれば、多様な色のフォトクロミック光学材料を調製することができる。該フォトクロミック光学材料を用いた高分子成形体を構成部材とする光学要素が得られる。さらには、フォトクロミック光学材料で形成した高分子膜で、少なくとも一部が被覆された面を有する光学基材を構成部材とするフォトクロミック光学要素が得られる。ここで、光学要素としては、フォトクロミックレンズ、光学フィルター、ディスプレイ部品、光量計部品、フォトクロミック装飾品等を挙げることができる。
また、本発明のベンゾクロメン化合物は、上記光学要素以外に広範囲に利用できる。例えば、銀塩感光材に代る各種の記憶材料、例えば、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料などに利用できる。
さらには、本発明のベンゾクロメン化合物は、装飾等の未知の分野への利用も期待できるものである。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
下記のナフタレン誘導体(4)254mg (1.0 mmol)と、
Figure 2015137259
下記プロパギルアルコール誘導体(5)250mg (1.2mmol)とをトルエン30mLに溶解し、
Figure 2015137259
p-トルエンスルホン酸を10 mg加えて室温で6時間撹拌した。反応後、溶媒を除去しシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、白色粉末の生成物393 mg (0.88 mmol)を得た。収率は88%であった。
この生成物の1H-NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルを測定したところ、1H-NMR (400 MHz, CD3CN) , 8.28 (1H, d), 7.98 (1H, d), 7.66 (1H,dd), 7.51-7.48 (5H, m), 7.37-7.33 (5H, m), 7.30-7.26 (2H, m) , 6.53 (1H, d) であった。上記の結果から単離生成物は、下記構造式(6)で示される化合物であることを確認した。
Figure 2015137259
<実施例2>
さらに上記化合物(6)100mg (0.23mmol)と下記のカルバゾール(7)50mg (0.30mmol) 、
Figure 2015137259
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム 4.1 mg (0.0045 mmol)、2-(ジ-t-ブチルフォスフィノ)ビフェニル 3.0 mg (0.01 mmol)、ナトリウム-t-ブトキシド35mg (0.36 mmol)をトルエン 20 mLに溶解し、12時間還流した。反応後、酢酸エチルで抽出し、有機溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。白色粉末状の生成物 85 mg (0.13 mmol)を得た。収率は57%であった。
この合成物の1H-NMRスペクトルを測定したところ、1H-NMR (400 MHz, CD3CN),8.35 - 8.32 (2H, m), 8.21 (2H, d), 7.79 (1H, dd), 7.58-7.53 (5H,m), 7.50-7.36 (9H,m), 7.33-7.28 (4H, m), 6.60 (1H, d) であった。上記の結果から単離生成物は、下記構造式(8)で示されるベンゾクロメン化合物であることを確認した。
Figure 2015137259
<実施例3〜22>
実施例1、2と同様にして、表1−1・1−2に示したクロメン化合物を合成し、得られた生成物について1H-NMRスペクトルを測定して、それぞれ表1に示す構造式の構造を有することを確認した。
Figure 2015137259
Figure 2015137259
<フォトクロミック特性試験>
上記で合成した実施例1〜22のベンゾクロメン化合物をベンゼンに溶解させ、フォトクロミック特性を(a)最大吸収波長および(b)退色速度について、下記方法によって測定した。
(a)最大吸収波長(λmax)・・・
紫外可視吸収スペクトルは島津製作所製の分光光度計(UV-3150)を用いて測定し、無色体、発色体それぞれの最大吸収波長(λmax)を求めた。
(b)退色速度の半減期 [ t 1/2 (sec.) ] ・・・
退色速度はOcean Optics製マルチチャンネル分光器(USB 4000)を用いて測定した。励起光にはUV-LED 365nmを用いた。紫外光照射を停止した後、試料の発色体の最大吸収波長における吸光度が吸光度最大値の1/2まで低下するのに要する時間を退色速度の半減期とする。この時間が短いほど退色速度が速い(フォトクロミック性が優れている)。
表2・3に、実施例1〜22で合成したクロメン化合物におけるR1、R2、R3、R4及びR4´を示すとともに、無色体と発色体の最大吸収波長、退色速度の結果をまとめた。
Figure 2015137259
Figure 2015137259
比較例1〜5
さらに、比較のために、比較例1〜5として、下記式(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)で示されるベンゾクロメン化合物(市販品)を用い、上記と同様にフォトクロミック特性を評価した。結果を表4に示す。
Figure 2015137259
Figure 2015137259
Figure 2015137259
Figure 2015137259
Figure 2015137259
Figure 2015137259
また、図1に実施例と比較例のクロメン化合物の退色半減期と発色体の吸収波長をまとめた結果を示す。
表2・3で示す如く、本発明では黄色から青紫色の多様な発色体色調を示す新規なベンゾクロメン化合物を提供できることが確認できた。
各実施例の発色体の吸収波長は、無置換体である比較例1の化合物(A)よりも長波長を示し赤色系又は黄色系から赤色系(橙、赤)さらには紫・青色系(青紫)に及ぶ多様な色調を示すことが確認できる。
また、実施例全てのベンゾクロメン化合物の退色の半減期は5秒以内であり、比較例1〜5の化合物(A)、(B)、(C)、(D)および(E)と比較して2倍以上の退色速度を得ている。
このように、本発明では吸収波長に現れる置換基の効果を保持しつつ、高い退色速度を実現した。同種の置換基を持つ化合物は溶媒中も安定した性能を保持できることから、本発明の複数のベンゾクロメン化合物を混合して、グレーやブラウンなど任意の色のレンズ等光学製品を作ることも可能となる。
特に、表2に示す3H結合フェニル基が無置換である実施例群においては、R1がハロゲン原子又は含窒素芳香族複素環基で、R2がHで、かつR3がハロゲンである実施例4、5、15は、退色速度が他の実施例に比して格段に早い。それらの内でも、R1およびR3が共にBrである実施例4は特に退色速度が速い。
また、表3に示す3H結合フェニル基の双方のp位をアルコキシ基(イソプロポキシ)で置換した場合は、表2の3H結合フェニル基が無置換であるものに比して、格段に退色速度が速くなる。実施例2に対する実施例16、実施例15に対する実施例17、実施例19に対する実施例21、実施例20に対する実施例22は、いずれも、半分以下となっている。さらに、3H結合フェニル基のp位の一方を含窒素飽和複素環基で置換した場合は、ハロゲン原子の置換位置(R1又はR2)によって異なる。R1がハロゲン原子の場合、退色速度は遅くなり(実施例7に対する実施例11)、R2がハロゲン原子の場合、退色速度が若干速くなる(実施例6に対する実施例10、実施例8に対する実施例12)。
また、R1、R2の含窒素飽和複素環基を含窒素芳香族複素環基に替えると、格段に退色速度が速くなる(実施例13に対する実施例17、実施例14に対する実施例18)。芳香族複素環基は、飽和複素環基に比して共鳴構造を取りやすいためであると推定される。

Claims (15)

  1. 下記一般式(I)において、R1、R2及びR3が、アミノ基誘導体(アミノ基を含む。;以下同じ)、ハロゲン原子(Fを除く;以下同じ。)又はH(R1、R2及びR3の全てが水素の場合を除く)からなる置換基である、ことを特徴とするベンゾクロメン化合物。
    Figure 2015137259
  2. R1、R2の一方がハロゲン原子又はアミノ基誘導体で他方がHであるとともに、R3がハロゲン原子又はHであることを特徴とする請求項1記載のベンゾクロメン化合物。
  3. R1が含窒素芳香族複素環基又はハロゲン原子であり、R2がHであり、R3がハロゲン原子であることを特徴とする請求項2記載のベンゾクロメン化合物。
  4. 前記R1がカルバゾリル基又はBrであり、前記R3がBr又はClであることを特徴とする請求項3記載のベンゾクロメン化合物。
  5. 下記一般式(II)において、R1、R2及びR3が、アミノ基誘導体、ハロゲン原子又はHである(R1、R2及びR3の全てが水素の場合を除く)とともに、R4及びR4´の一方又は双方が電子供与基又はH(R4及びR4´の双方がHである場合を除く。)であること、を特徴とするベンゾクロメン化合物。
    Figure 2015137259
  6. R1及びR2の一方がハロゲン原子又はアミノ基誘導体で他方がHであるとともに、R3がハロゲン原子又はHであることを特徴とする請求項5記載のベンゾクロメン化合物。
  7. R1及びR2の一方がハロゲン原子又は含窒素複素環基で他方がHであるとともに、R3がハロゲン原子又はHであり、かつ、R4及びR4´の双方が炭素数6以下のアルコキシ基であることを特徴とする請求項6記載のベンゾクロメン化合物。
  8. R1がハロゲン原子又は含窒素芳香族複素環基であるとともに、前記R2がHであり、かつ、R3がH又はハロゲン原子であることを特徴とする請求項7記載のベンゾクロメン化合物。
  9. R1がBr又はカルバゾリル基であるとともに、R2がHであり、かつ、R3がH又はハロゲン原子であることを特徴とする請求項7記載のベンゾクロメン化合物。
  10. R1及びR2の一方がハロゲン原子又は含窒素複素環基であるとともに、R3がハロゲン原子又はHであり、かつ、R4及びR4´の一方が含窒素飽和複素環基であり他方がHであることを特徴とする請求項6記載のベンゾクロメン化合物。
  11. R1及びR2の一方がBr又はカルバゾリル基であるとともに、R3がCl又はHであり、かつ、R4及びR4´の一方がピペリジノ基で他方がHであることを特徴とする請求項10記載のベンゾクロメン化合物。
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載のベンゾクロメン化合物を1種又は複数種混合してなり、退色半減期が5秒以下を示すものであることを特徴とするフォトクロミック剤。
  13. 請求項1〜11のいずれかに記載のベンゾクロメン化合物の1種又は複数種が重合性単量体に分散されてなることを特徴とするフォトクロミック光学材料。
  14. 請求項1〜11のいずれかに記載のベンゾクロメン化合物の1種又は複数種が分散されてなる高分子成形体を構成部材とすることを特徴とするフォトクロミック光学要素。
  15. 請求項1〜11のいずれかに記載のベンゾクロメン化合物の1種又は複数種が分散されてなる高分子膜で、少なくとも一部が被覆された面を有する光学基材を構成部品として備えてなることを特徴とするフォトクロミック光学要素。
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