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JP2008136457A - 人工飼育水 - Google Patents

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Abstract

【課題】天然海水に代り、淡水魚および海水魚の両魚類の飼育に適した人工飼育水を提供する。
【解決手段】海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、
比重が1.004以上天然海水以下となるように飼育水中にナトリウム、カルシウム、カリウムを添加し、カルシウムに対するカリウムの存在比が0.93乃至天然海水中の存在比であり、カルシウムとカリウムに対するナトリウムの存在比が55乃至天然海水中の存在比となるように含有することを特徴とする人工飼育水。
【選択図】なし

Description

この発明は、海水魚及び淡水魚を閉鎖環境において養殖や飼育する際に用いる飼育水にかかり、詳細には、内陸部で水槽等の飼育槽に海水魚や淡水魚を生息させて飼育する際に用いるのに好適な人工飼育水に関する。
魚の養殖は古くから行われているが、従来一般に行われてきた養殖は、海に生息する海水性の魚であれば、湾内に網を巡らして海水をそのまま利用した閉塞環境となる生簀を構築し養殖を行い、川魚であれば河川を堰き止める等してやはり閉塞環境を構築し養殖を行っていた。
また、海に生息する魚を陸上で飼育する場合もあったが、海水魚の飼育においては海水が必須と考えられ、内陸部での飼育では大量の海水が必要となるため安価な飼育ができずにいた。
一方、海水魚の需要は食用に限られるものだけではなく、観賞用の熱帯魚なども有った。しかしながら、熱帯魚においても、小型なので食用のハマチなどに比べれば陸上での飼育は比較的行いやすいが、やはり海水を必要とするためコスト高となってしまっていた。更には、海水中に大量に含有する塩類が水槽やその附帯装置の回りに付着して見栄えを悪くしてしまい観賞用とするにはその処理が大変であった。
そこで、昨今では、海水に代る人工水として人工海水が開発され、陸上においても、海から海水を運ぶことなく、人工海水を水道水等の淡水から生成し、水槽等での飼育に用いるようになった。
この人工海水では、天然海水の状態に近づけるため、一般的に、天然海水に含有する塩類と同等の塩類を同量となるように含有させていた。
即ち、天然海水では、一般に最も多く含有している塩化ナトリウムが比重1.02〜1.03の海水1(kg)中に約23〜28(g)である。また、天然海水中の他の塩類としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、臭化マグネシウムなどが挙げられ、これら塩化ナトリウムを含む全塩類の含有量は、通常海水1(kg)中35(g)前後、即ち重量比で35(‰)である。そこで人工海水も原則として、このような天然海水の成分組成に準拠して調合していた。
また、従来の人工海水を用いた人工的な海棲生物の受精では、経時段階的な異常卵が高頻度で出現し、例えば、天然海水以外の人工海水に過敏に反応するウニ卵では、極めて微量の生理的有害成分に対しても鋭敏に反応するので、正常な受精・発生率が得られ難く、所定時間内にプルテウス幼生期に到達する率が低く、また同じ条件にて行う天然海水での実験と比較して発生段階に遅延がみられる等、天然海水に比した人工海水独自の問題点を有していた。
そこで、上記のような問題点を考慮した発明には、例えば、『人工海水』(特開平08−37988号)がある。この『人工海水』(以下、特許文献1という。)では、
『(請求項1)天然海水の主要構成成分であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの各種塩類を含む人工海水中に、ヨウ化カリウムを0.001〜0.01重量%添加してなる人工海水。
(請求項2)請求項1記載の人工海水において、さらに四ホウ酸ナトリウム0.08〜0.09重量%、ホウ酸0.07〜0.08重量%および臭化カリウム0.07〜0.08重量%を添加したことを特徴とする人工海水。』を提供し、海水に近い成分とするためにナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの各種塩類、即ち相当数の塩類を人工海水中に含有させ、更に四ホウ酸ナトリウム0.08〜0.09重量%、ホウ酸0.07〜0.08重量%および臭化カリウム0.07〜0.08重量%の各物質を添加して人工海水を構成していた。
そして、特許文献1に表される人工海水では、問題点を解決する手段の欄に
『これら塩類の配合割合は、天然の海水の組成に近似するほど好ましいが、天然海水の組成そのものが場所、水深、季節、天候などにより変動するので、一概には規定できないが、下記の数値を目安にすることができる。
NaCl 68.0〜85.0(重量部)
MgCl 9.8〜12.1 〃MgSO 4.2〜 6.6 〃CaSO 3.2〜 4.4 〃K SO 2.2〜 2.7 〃CaCO 0.3〜 0.4 〃MgBr 0.1〜 0.3 〃なお、上記の塩類組成のK SO の代わりに、KCl、NaSO など、また、CaCO 、NaCO 、NaHCO などを用いてもよく、さらに、0.1重量部未満の微量のその他の塩類を添加しても、この発明の効果を阻害することはない。』と記載され、天然海水に近い範囲の塩類配合割合を人工海水に規定している。また、その実施例中には塩化ナトリウムが約23〜28重量%となるように人工海水に溶解し、天然海水に類似の各塩類を含む人工海水を得るとしている。そして更に、通常の天然海水に類似の各種塩類を含む人工海水とした上で、更に、ヨウ化カリウムを0.001〜0.01重量%添加し、上記範囲以内で、ウニ類の受精、発生過程に所期の目的を達成する顕著な効果が現れるようにしている。
従って、特許文献1にも記載されるように、従来の人工海水は、含有する塩類の種類及び塩類の有比率を天然海水に近づけることで、良好な飼育環境となる人工海水を得ていた。
特開平08−37988号公報
しかしながら、従来同様に内陸部で例えば100(t)以上となるような大規模な中間育成場を建設して養殖を行う場合には、海水の確保あるいは人工海水の製造が絶対条件となるが、天然海水の輸送コストあるいは人工海水を製造するためにかかるコストは膨大となり生産コストが高価となってしまった。これにより内陸部で養殖される魚類の価格も高価となってしまった。
そこで発明者は、上記問題点を解決するため思考を重ねた結果、天然海水を希釈して用いることができないかとの思いに至った。
しかしながら、天然海水を希釈して用いるとしても、水道費、輸送コスト、希釈槽の設備化や防疫上の問題は避けて通れない。そこで更に思考を加え、内陸部でも容易に確保できる水道水や河川水あるいは地下水に活性塩類を添加し、しかも低比重を実現できれば、低コスト型飼育水を得ることができるのではないかとの思いに至った。
そこで、海水では放射性同位元素を除き約60種有る組成の中から、魚類の浸透圧にかかわるものを割り出し、必要最低限の成分を加えることが最良との思いに至り、種々の実験を重ねた。
この発明は、上記問題点に鑑み、人工海水として、水道水や河川水あるいは地下水に天然海水中に含有される塩類より少ない種類の塩類を添加すると共に、人工海水中の該塩類の含有量を充分に減少して単位人工海水当りに使用する塩類の種類及び使用量を充分に少なくして低コストで製造できる人工海水を提供することを課題とする。
そこで、発明者が種々行った実験から得られたこの発明の提供する人工飼育水は、極少ない種類の塩類のみを使用すると共に、これら塩類の人工飼育水における含有濃度を極力少なくしたものとして、
海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、
比重が1.004以上天然海水以下となるように飼育水中にナトリウム、カルシウム、カリウムを添加し、カルシウムに対するカリウムの存在比が0.93乃至天然海水中の存在比であり、カルシウムとカリウムに対するナトリウムの存在比が55乃至天然海水中の存在比となるように含有することを特徴とする人工飼育水、
及び、
海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、
飼育水中にカルシウムを0.1002(g/l)以上、カリウムを0.09419(g/l)以上の割合で含有すると共に、比重が1.004以上天然海水比重以下となるようにカルシウム、カリウムに加えナトリウムを含有することを特徴とする人工飼育水、
を提供する。この人工飼育水は、安価に且つ容易に人工飼育水を製造するために、海水中に存在する各種塩類から必要最小限な塩類が何なのかを特定する作業を行った結果得られたものである。即ち、海水中の種々有る塩類を組合わせ、且つ、飼育水の比重を小さくしていき、飼育魚が良好に成長できる人工飼育水の最小比重及び最小構成塩類を特定する実験の結果、塩類として添加する際に最小限必要な要素はナトリウム、カルシウム、カリウムであり、カルシウムに対するナトリウムの存在比が0.93程度で魚の飼育に最も良い値を示し、1.004まで比重を小さくしても(塩分濃度を薄くしても)魚の飼育に影響を与えないことを知見するに至った。
この値は、人工飼育水中の各要素の含有比で表すと、カルシウムに対するカリウムの存在比が0.93であり、最小含有量はカルシウム及びカリウムがそれぞれ0.1002(g/l)、0.09419(g/l)で有る。そしてカルシウム及びカリウムのみをそれぞれ0.1002(g/l)、0.09419(g/l)添加しただけでは比重が1.004に満たないため、ナトリウムを1.004となるまで添加すると、ナトリウムの含有量がカルシウムとカリウムとの大凡55倍、即ち10.69145(g/l)となる。これら知見に基づいて、カルシウムとカリウムの人工飼育水の含有量を天然海水と同等となるまで変化させた結果、人工飼育水中の魚の飼育に影響を与えないことを知見した。更に、ナトリウムも人工飼育水中に添加し、天然海水の濃度となるまで変化させた結果、やはり魚の飼育に影響を与えないことを知見するに至った。
更にまたこの発明では、天然海水中に多く含まれるマグネシウムを添加し天然海水の成分に近づけた人工飼育水として、
硫酸マグネシウム7水和塩を1.6897(g/l)乃至天然海水の存在量となるように添加し、比重が1.004以上天然海水比重以下である人工飼育水、
を提供する。この人工海水では、天然海水中にカリウム及びカルシウムより存在比が大きく、魚類の浸透圧にはこれらより関わりの少ないマグネシウムを天然海水中における成分と存在比と同等となるように添加するので、更に天然海水環境に近付けることができ、人工飼育水が魚類に対する好適な環境水となる。
同様に、発明者は各成分の存在比を調整して様々な魚種について好適な環境水を試作して実験を行った結果、魚種によっては、とりわけトラフグおいては更に比重が軽く、各成分の含有量が少なくても飼育に影響を与えないことを知見するに至ったので、
前記人工飼育水において、前記各成分の含有量が前記飼育水の0.25倍乃至1倍であると共に前記各成分の存在比率が同等であるフグ類の飼育に適した、
人工飼育水を提供するに至った。
上記のように、人工飼育水中のカルシウム、カリウム、ナトリウムの各要素を調整することで、天然海水に比し極少量の塩類を添加するだけで良好な飼育が可能となる。即ち、従来の人工海水では、天然海水に近づけるために20(g/l)以上という大量の塩化ナトリウムを添加していたのに比し、7.0587(g/l)と略1/3程度の添加量で実施可能となるので、低コストで人工飼育水を提供できるというこの発明特有の効果を有する。
また、観賞魚である海水性熱帯魚を飼育する際に利用することで、塩類の濃度の濃い天然海水あるいは人工海水では濾過装置の回り等に大量に付着する固形塩類の付着を少なくでき、飼育時の固化した塩類による錆びを低減できる等の効果を有すると共に、水槽回りの外観を損ねることが無いというこの発明特有の効果を奏する。
また、この発明にかかる人工飼育水で飼育した実験に於ける全ての飼育魚において魚病の発生がなかった。このことから、人工飼育水ではpHや各塩類の濃度などが海水と淡水の中間であり、且つ、必要のない塩類等の添加がないので、細菌性、ウイルス性、繊毛類等の原生動物と寄生節足動物に分類される一般的な魚病性疾患の原因や、さらには、腸炎ビブリオ等の一部例外を除き海水性と淡水性に大別される魚病性疾患の根源となる原生動物や病原体にとって経験したことのない天然の海水でもない淡水でもない未知の水質であるためと推測ができ、これら魚病性疾患の原因となる外敵の侵入に対し高い抵抗力を有する人工飼育水を得ることが可能である。これにより飼育する際に、抗生物質等を飼育水に与える必要がなく更に低コスト化を図れるばかりでなく、安全な食用養殖魚の提供が可能であるという本願特有の効果を有する。
更にまた、実施例記載の如く、飼育魚の成長状況を天然海水と本願にかかる人工飼育水とで約1ヶ月間に渡り飼育した結果を比較したところ、天然海水による飼育では81.46(%)の重量増加が認められたのに対し、本願にかかる人工飼育水では119.07(%)の重量増加が認められたように、天然海水に対し飼育魚の早期育成が可能となるという本願特有の効果を有する。
更にまた、飼育魚を飼育する際にはアンモニアが発生するが、このアンモニアは、図3に表すように、魚類に影響を与えない解離のアンモニウムイオン(NH )と有毒なアンモニア(NH)とが平衡状態にある。そして、アンモニアの平行定数が高温、高塩、高pHの場合に有毒な非解離アンモニアに変化しやすいため、天然海水に比べpHの低い人工飼育水では、有毒なアンモニアの発生が抑えられるので、天然海水による飼育に比べ小さな濾過装置の設置のみで飼育が可能となり、設備費用が低減できるという本願特有の効果を有する。
更にまた、海水の確保ができない内陸部で、種苗生産から中間育成まで一貫した生産体制を構築するため、天然新魚であるトラフグの受精卵を用いこの発明の人工飼育水による飼育と天然海水による飼育における孵化率を調査したところ、天然海水では孵化率30(%)であったのに対し、天然海水を10(%)混合した人工飼育水では孵化率が60(%)であり、高い孵化率を確保可能であり、孵化から育成までの効率よく一貫した種苗生産体制を確立することが可能となる本願特有の効果を有する。
更にまた、孵化仔魚の初期餌料として広く利用されるシオミズツボワムシの培養には欠かせない存在である海産性のナンノクロロプシスは、天然海水100(%)に施肥を行なう一般的な培養方法では、場所、時期、海水の品質などの条件によって培養密度が大きく変化するので安定した培養管理には熟練を要し、これに伴ってワムシの培養にも熟練を要することとなっていたが、この発明によれば、天然海水に比し比重が低くワムシの増殖に好適な条件となり、ワムシの効率的な培養が可能となった。
従って、大規模水槽(畜養槽)等による陸上に於ける海水性魚類の養殖に際し、この発明による人工飼育水によって孵化仔魚の飼育から成長魚類の出荷までを陸上において良好に行うことが可能となるという本願特有の作用効果を奏する。
河川の水、地下水、あるいは、水道水に、塩化ナトリウムを7.0587(g/l)、塩化カルシウム2水和塩を0.3641(g/l)、塩化カリウムを0.18125(g/l)、となるように溶解させ人工飼育水を作成する。この時、人工飼育水は略1.004の比重となっている。
特にトラフグを飼育するための人工飼育水では、更に塩類の濃度を下げても実施でき、溶解させる塩化ナトリウムを1.781(g/l)、同塩化カルシウム2水和塩を0.092(g/l)、塩化カリウムを0.045(g/l)として実施できる。
以下にこの発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1は観察実験に使用する水槽及び濾過装置の模式図を表し(a)は側面説明図、(b)は平面説明図であり、図2は成長率を比較した説明図であり、図3はアンモニアの平衡状態を表す説明図である。
海から離れた内陸部で100(t)以上有るような大規模な中間育成場を建設して効率よく海水魚を飼育することを想定した場合には、一般的には潤沢な海水の確保が絶対条件であり魚類飼育の生命線であると考えられる。しかし、潤沢な海水確保には海水を輸送する費用が多大にかかるため、人工海水を考えざるを得ない。
しかしながら、人工海水も、従来天然海水に少しでも近づけることで飼育に良好な環境が得られると考えられていたので、天然海水と同等な複数の塩類を天然海水と同じ濃度となるように溶解させるため、人工海水にかかわるコストもやはり膨大となっていた。
そこで発明者は、人工海水を天然海水に近づけるのではなく、マダイやハマチなど食用海水魚を天然海水とは異なる低塩類低濃度の環境で飼育(養殖)できないかを試みることに思い至った。
そこで発明者は、放射性同位元素を除き約60種である天然海水中の塩類から、魚類の浸透圧にかかわる組成を割り出して必要最低限の成分を加えることが最良と考えた。
尚、以下に表す各実験では、図1に表すように、100(l)程度の水槽に密閉式濾過槽からなる濾過フィルターを使用して実験を行った。そして、濾過フィルター中にはセラミックを加え調整長期に亙り飼育水のpH調整が可能とした。尚、図1には、泡沫分離装置4が記載されているが、泡沫分離装置4は飼育水を長期に亙り使用するために飼育水中の魚糞や余剰餌等の浮遊物を除去するためのものであり、短期間の実験では使用していない。また、飼育水冷却装置5も記載されているが、これは夏場の屋外に設置した水槽では飼育水の温度が上昇しすぎるため、飼育水温度を実験環境に合わせて一定に保つために設置したものである。
これに先立ち、天然海水を真水で希釈した希釈天然海水中でどの程度の比重までカクレクマノミが耐えられるかの実験を試みた。この実験に先立ち、カクレクマノミへのストレスを考慮して約1ヶ月間の訓化期間を設けた。その結果、カクレクマノミは約8.8(‰)即ち比重1.006(pH7.0)が限界であり、希釈天然海水環境では比重1.005以下で斃死することを知見した。
これに続けて、訓化なしでマダイ(体長5cmを5匹)を約8.8(‰)(比重1.006)の希釈天然海水中に放したところ、横臥現象が見られたものの約5分後には正常に泳ぎだし、数時間後には餌をとるまでに回復した。
そして、該環境においてマダイを3ヶ月間にわたり飼育観察を行った結果、マダイの斃死はなく約5(%)の体重増加を伴って順調に飼育できた。
この結果から、煩雑な訓化を行わなくても希釈天然海水で飼育可能であることが知見された。また、カクレクマノミ、マダイは、それぞれ観賞魚、養殖魚の中から無作為に入手しやすいものを選択したに過ぎないので、他の海水魚でも同様の結果となることが予想された。
これら希釈天然海水による実験から、少なくとも比重1.006で飼育が可能であろうことが知見されたので、次いで発明者は人工飼育水(好適環境水)として必要な要素の特定及びその存在度を特定する実験を試みた。
そこで発明者は必須成分の割り出しに際して、哺乳類及び魚類の体液と天然海水の成分とを比較することに思い至った。そして、更に添加する塩類の種類を減少させるべく、前記6元素から魚類の必須元素及びその存在度を特定する実験を試みた。
哺乳類や魚類の体液は、塩化ナトリウム、カリウム、リン酸を主体としていることが既知である。また、また希釈天然海水の組成にもこれらの成分が有り、主に存在する成分がナトリウム(2.625(g/l))、塩素(4.750(g/l))、カリウム(0.0998(g/l))、カルシウム(0.103(g/l))、マグネシウム(0.320(g/l))、硫酸塩(0.674(g/l))であることが解った。発明者は、これら成分から、魚類が生存するのに適するためには魚類の浸透圧に拘る成分を調整して人工飼育水を作ることに思い至った。
そこで、人工飼育水(好適環境水)の作成に当って、ナトリウムを2.625(g/l)、塩素を4.750(g/l)、カリウムを0.0998(g/l)、カルシウムを0.103(g/l)、マグネシウムを0.320(g/l)、硫酸塩を0.674(g/l)をそれぞれ含有するように、塩化ナトリウム(工業塩)、塩化マグネシウム(工業塩)、塩化カルシウム(一級試薬)、硫酸マグネシウム(工業塩)、塩化カリウム(一級試薬)の5試薬を河川水に加え塩素を含む6元素5試薬による試薬調整を行い、この飼育水中に体長10(cm)のマダイ5(尾)を放し約50日にわたる飼育実験を行った。
なお、リン酸は給餌による魚類の代謝から補給されると考え、添加は行なわなかった。
その結果、該マダイは斃死することもなく異常が認められず、良好な飼育が行えた。
前記実験を受け、更に添加する成分の減少を図るため、前記6元素から魚類の必須元素及びその存在度を特定する実験を試みた。即ち、前記6元素中マグネシウムイオンとして重複する塩化マグマグネシウムの添加をとりやめ、4試薬による5元素の成分添加を行った飼育水を製造し、体長10(cm)のマダイ及びヒラメを各5(尾)を放して3週間飼育を試みた結果、斃死もなく順調に生育し体色も良好で、良好な環境での飼育であった。この塩化マグネシウムを添加していない人工飼育水の比重は1.006である。
なお、リン酸は給餌による魚類の代謝から補給されると考え、添加は行なわなかった。
そして、該人工飼育水中に体長10(cm)のマダイ5(尾)を放し飼育を実施した結果、約3週間斃死等の問題が認められず体色も良好で順調に生育しており、良好な飼育環境であることが確認できた。
発明者は、更に塩類の種類を減少させるべく、前記6元素4試薬による飼育水から、魚類の必須元素及びその存在度を特定する実験を試みた。そして種々の成分を希釈天然海水中のこれら成分相互の存在比で添加し実験を重ねた結果、
塩化ナトリウム 7.0587(g/l)
塩化カルシウム2水和塩 0.3641(g/l)
塩化カリウム 0.18125(g/l)
のみを添加して飼育を試みた。この時の飼育水のpHは6.45、比重は1.004であった。
その結果、飼育した体長12(cm)の3(尾)のマダイは、餌食いは良好であったが、約2週間目から頭皮の欠損症状が現れ、3週間目に斃死した。
次いで発明者は、マグネシウムを含まない人工飼育水では飼育できない環境であったため、他の成分の減少が図れないかを思索した。そこで発明者は、海産魚類の細胞液中には、主に塩化カリウム、リン酸が存在しており、塩化ナトリウムは僅かにしか存在していないことに着目した。即ち、海産魚類では、魚類にとって必須であるカリウムイオンを選択的に海水から取込むと同時に細胞内ナトリウムポンプの働きにより有害と思われるナトリウムイオンを鰓弁塩類細胞及び腎臓から排出し、細胞内の塩分濃度上昇を抑制し水分調整を行っている。
そこで、塩化ナトリウムが体内から排出されてしまうのでるから、予め塩化ナトリウムを添加せずに飼育水を作成し海水魚を飼育することを試みた。これによれば、前記6元素4試薬の飼育水中最も添加量の多い(人工飼育水作成費用が嵩む)塩化ナトリウムを必要とせずに人工飼育水が開発できるものと予想した。
即ち、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムを全く添加せず、塩化カルシウム2水和塩を0.3641(g/l)、塩化カリウムを0.18125(g/l)のみ添加し、人工飼育水を作成して12(cm)のマダイ3(尾)を飼育した。
その結果、即座に平衡感覚を失い仰向けとなり、1時間後には斃死してしまった。
これらの結果から、人工飼育水に添加する成分は、上記6元素4試薬より減少させることができないものと考えたが、先に行った4元素3試薬による実験、即ち、
塩化ナトリウムを 7.0587(g/l)
塩化カルシウム2水和塩を 0.3641(g/l)
塩化カリウムを 0.18125(g/l)
添加した人工飼育水(以後、3試薬による人工飼育水という。)での飼育が、当初良好であり2週目以降に悪化し3週間に斃死した状況であり、塩化ナトリウム及び硫酸マグネシウムを全く加えない人工飼育水による飼育して直ぐに斃死してしまった結果とは異なっていることに着目し、3週間飼育した後の3試薬による人工飼育水を詳しく調べてみたところ、飼育前には6.45であったpHが、3週間後のマダイ斃死時には4.8にまで減少していた。
これを受け、マダイが生存できるpHを実験した結果、pH5.0乃至pH8.4程度であることが判明し、先の3試薬による人工飼育水を用いた実験を再び行った。その際に、使用した濾過装置に用いた棒状セラミックスに加え、小豆台の天然サンゴ砂も加えて濾過装置とし、サンゴの主成分である炭酸カルシウムが徐々に人工飼育水中に溶け出してpH調節が可能な状態(pH調整剤としての働きを行う状態)で飼育実験を行った。被検体は、体長15(cm)のマダイ2(尾)と、体長10(cm)のヒラメ10(尾)をそれぞれ別水槽に収容した。
その結果、マダイ、ヒラメ共に2ヶ月以上の長期に亙り斃死等の発生もなく順調に飼育でき、約2ヶ月間でマダイの体長が25(cm)、ヒラメの体長が15(cm)となり良好な発育が見られた。
上記実験の結果、
塩化ナトリウムを 7.0587(g/l)
塩化カルシウム2水和塩を 0.3641(g/l)
塩化カリウムを 0.18125(g/l)
を添加した比重1.004の人工飼育水中で海水魚の良好な飼育が可能であることが突き止められたので、飼育用の水槽を1000(l)の大型とし、濾過装置を重力落下式として通常用いる濾過フィルターに棒状セラミックス25(l)と前記サンゴ砂5(l)を加えて構成し、更に長期に亙る飼育実験を行うために泡沫分離装置を加えて人工飼育水を濾過しながらオゾンを添加して長期飼育を試みた。
その結果、斃死等の問題のない良好な飼育が行われ順調に生育したので、長期に亙る飼育が可能であることが知見された。そこで、他の魚類について3試薬による人工飼育水での飼育を試みた結果、
海水魚では、マダイ、イシダイ、イシガキダイ、サラサハタ、ヒラメ、トラフグ、オニオコゼ、カクレクマノミ、チョウチョウウオ科5種、スズメダイ4種、ゴマハギ、モンガラカワハギ、ルリヤッコ、ハリセンボン、ハコフグ、クダゴンベ、マハゼであり、
甲殻類では、イシガニであり、
淡水魚では、コイ、金魚(ランチュウ、子赤)、ネオンテトラ、ブラックテトラ、アーリーシクリット、スジシマドジョウである。
このように3試薬による人工飼育水では、淡水魚から海水魚まであらゆる環境の魚類の飼育が可能であることが解り、しかも淡水魚及び海水魚を同一の水槽にて飼育しても問題ないことが知見された。
特にトラフグに関しては、塩化ナトリウムを1.781(g/l)、硫酸マグネシウム7水和塩を0.426(g/l)、塩化カルシウム2水和塩を0.092(g/l)、塩化カリウムを0.045(g/l)添加した3.5(‰)(比重 1.002)の低濃度人工飼育水でも飼育が可能であることが実験から確認でき、更には硫酸マグネシウム7水和塩を添加しなくとも飼育可能であることも実験から知見された。
また、3試薬による人工飼育水での飼育では以下に表すような作用が認められた。
即ち、
1.3試薬による人工飼育水(トラフグ飼育用の更に希釈された飼育水も含む)による飼育では、すべての魚において、魚病の発生がない。
一般的に魚病性疾患の原因は細菌性、ウイルス性、繊毛類等の原生動物と寄生節足動物に分類される。さらには、腸炎ビブリオ等の一部例外を除き海水性と淡水性に大別される。
そこで、マダイ蓄用槽の人工飼育水における一般細菌数(標準平板菌数)を測定したが、細菌の検出は認められなかった。
また、夏場、海面養殖で問題となる単生類ベネデニア症(Benedenia)に感染しているキイロハギを前記3試薬による人工飼育水に収容して飼育すると、一瞬にして体表から寄生しているベネデニアが剥がれ落ち完全に治癒した。これは急激な浸透圧の変化による寄生虫へのダメージと推察される。
また、ウーディニウム症( Oodinium ocellatum)トリコディナ症(Trichodina)に感染しているカクレクマノミを前記3試薬による人工飼育水に収容して飼育し経過を観察したところ、2週間で完治した。この現象は単生類ベネデニア症と同様に急激な浸透圧の変化によるこれら繊毛虫へのダメージと推察される。
更に、尾柄部が大きく欠損して真皮が露出しているトラフグ10(尾)を前記同様3試薬による人工飼育水中に収容して2ヶ月間飼育したが、ビブリオ感染が見られず生存を続けた。この結果から外傷性ビブリオ感染が発症しないことが知見される。そして、これと対比すべく外洋水を直接補給する開放式飼育法によって同様に尾柄部が大きく欠損して真皮が露出しているトラフグを飼育して経過観察を行ったところ、該外傷性ビブリオ感染は避けられなかった。
上記のように、3試薬による人工飼育水では、寄生虫及び菌類に起因する発病が無いことが知見された。そして、これらの結果から、人工飼育水が海水でもない淡水でもない自然界には一般に存在しない含有成分およびpHの水なので、これら原生動物、病原体そのものが経験したことのない水質であり、原生動物、病原体が死滅するあるいは活動できない環境となっているのではないかと推察できる。
2.天然海水に比し成長率が良いことが知見された。
即ち、図2に表すように、前記100(l)の水槽において、体長5(cm)のマダイ5(尾)を天然海水環境で、体長6(cm)のマダイ5(尾)を人工飼育水環境で、それぞれ飼育し、マダイの成長を経過観察し、経過1週間毎に総重量を測定して比較した。
その結果、天然海水環境のマダイは4週間経過後81.46(%)の重量増加率であったのに比し、人工飼育水環境のマダイは、119.07(%)の重量増加率であった。
この現象は天然海水中での飼育ではエネルギー代謝の30(%)が浸透圧調整に消費されているのに比べ、人工飼育水では低浸透圧なため浸透圧に拘るエネルギー代謝が低減されることが示唆され、これに伴い成長ホルモンの分泌が促進されていることが推察される。
尚、前記した各人工飼育水において、実験では極力少ない塩類(元素)でしかも極力少ない量の添加によって天然海水に代る人工飼育水を得ようと試みているので、3乃至4種類の塩類の添加実験しか行っていないが、これらが添加してあれば海水魚の飼育には適正であり、これに他の塩類を適宜量添加してもその作用に影響を及ぼさずに人工飼育水として利用可能であれば、従来行われていた人工海水に添加していた他の塩類や例えばビタミン等の栄養素等を上記各人工飼育水に添加しても何ら差し支えなく、本願の人工飼育水と同等である。
上記の通り、この発明にかかる人工飼育水は、種々の海水魚の飼育に利用可能であることは勿論、淡水魚の飼育にも利用可能である。従って、大量に飼育水を要する各種魚類の養殖に利用できると共に、一般家庭等で海水熱帯魚の飼育及び淡水熱帯魚の飼育に用いる飼育水として利用することが可能であるのは勿論、海水魚と淡水魚とを共存させて飼育することも可能である。
更にまた、大規模な水槽(畜養槽)による陸上飼育では、孵化仔魚の初期餌料として広く利用されるシオミズツボワムシの培養には欠かせない存在である海産性のナンノクロロプシスを培養することで行うワムシの培養の培養に利用可能である。
(a)は観察実験に使用する水槽及び濾過装置の側面説明図、(b)は同平面説明図 成長率を比較した説明図 アンモニアの平衡状態を表す説明図
符号の説明
1 水槽(畜養槽)
2 濾過装置
3 濾過材
4 泡沫分離装置
5 飼育水冷却装置

Claims (4)

  1. 海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、
    比重が1.004以上天然海水以下となるように飼育水中にナトリウム、カルシウム、カリウムを添加し、カルシウムに対するカリウムの存在比が0.93乃至天然海水中の存在比であり、カルシウムとカリウムに対するナトリウムの存在比が55乃至天然海水中の存在比となるように含有することを特徴とする人工飼育水。
  2. 海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、
    飼育水中にカルシウムを0.1002(g/l)以上、カリウムを0.09419(g/l)以上の割合で含有すると共に、比重が1.004以上天然海水比重以下となるようにカルシウム、カリウムに加えナトリウムを含有することを特徴とする人工飼育水。
  3. 前記人工飼育水において、硫酸マグネシウム7水和塩を1.6897(g/l)乃至天然海水の存在量となるように添加し、比重が1.004以上天然海水比重以下である請求項1または請求項2に記載の人工飼育水。
  4. 前記人工飼育水において、前記各成分の含有量が前記飼育水の0.25倍乃至1倍であると共に前記各成分の存在比率が同等であるフグ類の飼育に適した請求項1乃至請求項3の何れかに記載の人工飼育水。
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