JP5487378B2 - 人工飼育水 - Google Patents
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Description
また、海に生息する魚を陸上で飼育する場合もあったが、海水魚の飼育においては海水が必須と考えられ、内陸部での飼育では大量の海水が必要となるため安価な飼育ができずにいた。
一方、海水魚の需要は食用に限られるものだけではなく、観賞用の熱帯魚なども有った。しかしながら、熱帯魚においても、小型なので食用のハマチなどに比べれば陸上での飼育は比較的行いやすいが、やはり海水を必要とするためコスト高となってしまっていた。更には、海水中に大量に含有する塩類が水槽やその附帯装置の回りに付着して見栄えを悪くしてしまい観賞用とするにはその処理が大変であった。
この人工海水では、天然海水の状態に近づけるため、一般的に、天然海水に含有する塩類と同等の塩類を同量となるように含有させていた。
即ち、天然海水では、一般に最も多く含有している塩化ナトリウムが比重1.02〜1.03の海水1(kg)中に約23〜28(g)である。また、天然海水中の他の塩類としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、臭化マグネシウムなどが挙げられ、これら塩化ナトリウムを含む全塩類の含有量は、通常海水1(kg)中35(g)前後、即ち重量比で35(‰)である。そこで人工海水も原則として、このような天然海水の成分組成に準拠して調合していた。
また、従来の人工海水を用いた人工的な海棲生物の受精では、経時段階的な異常卵が高頻度で出現し、例えば、天然海水以外の人工海水に過敏に反応するウニ卵では、極めて微量の生理的有害成分に対しても鋭敏に反応するので、正常な受精・発生率が得られ難く、所定時間内にプルテウス幼生期に到達する率が低く、また同じ条件にて行う天然海水での実験と比較して発生段階に遅延がみられる等、天然海水に比した人工海水独自の問題点を有していた。
『(請求項1)天然海水の主要構成成分であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの各種塩類を含む人工海水中に、ヨウ化カリウムを0.001〜0.01重量%添加してなる人工海水。
(請求項2)請求項1記載の人工海水において、さらに四ホウ酸ナトリウム0.08〜0.09重量%、ホウ酸0.07〜0.08重量%および臭化カリウム0.07〜0.08重量%を添加したことを特徴とする人工海水。』を提供し、海水に近い成分とするためにナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの各種塩類、即ち相当数の塩類を人工海水中に含有させ、更に四ホウ酸ナトリウム0.08〜0.09重量%、ホウ酸0.07〜0.08重量%および臭化カリウム0.07〜0.08重量%の各物質を添加して人工海水を構成していた。
『これら塩類の配合割合は、天然の海水の組成に近似するほど好ましいが、天然海水の組成そのものが場所、水深、季節、天候などにより変動するので、一概には規定できないが、下記の数値を目安にすることができる。
NaCl 68.0〜85.0(重量部)
MgCl2 9.8〜12.1 〃MgSO4 4.2〜6.6 〃CaSO4 3.2〜4.4 〃K2 SO4 2.2〜2.7 〃CaCO3 0.3〜0.4 〃MgBr2 0.1〜0.3 〃なお、上記の塩類組成のK2 SO4の代わりに、KCl、NaSO4など、また、CaCO3、NaCO3、NaHCO3などを用いてもよく、さらに、0.1重量部未満の微量のその他の塩類を添加しても、この発明の効果を阻害することはない。』と記載され、天然海水に近い範囲の塩類配合割合を人工海水に規定している。また、その実施例中には塩化ナトリウムが約23〜28重量%となるように人工海水に溶解し、天然海水に類似の各塩類を含む人工海水を得るとしている。そして更に、通常の天然海水に類似の各種塩類を含む人工海水とした上で、更に、ヨウ化カリウムを0.001〜0.01重量%添加し、上記範囲以内で、ウニ類の受精、発生過程に所期の目的を達成する顕著な効果が現れるようにしている。
しかしながら、天然海水を希釈して用いるとしても、水道費、輸送コスト、希釈槽の設備化や防疫上の問題は避けて通れない。そこで更に思考を加え、内陸部でも容易に確保できる水道水や河川水あるいは地下水に活性塩類を添加し、しかも低比重を実現できれば、低コスト型飼育水を得ることができるのではないかとの思いに至った。
そこで、海水では放射性同位元素を除き約60種有る組成の中から、魚類の浸透圧にかかわるものを割り出し、必要最低限の成分を加えることが最良との思いに至り、種々の実験を重ねた。
比重が1.004以上天然海水以下となるように飼育水中にナトリウム、カルシウム、カリウムを添加し、カルシウムに対するカリウムの存在比が0.93乃至天然海水中の存在比であり、カルシウムとカリウムに対するナトリウムの存在比が55乃至天然海水中の存在比となるように含有することを特徴とする人工飼育水、
飼育水中にカルシウムを0.1002(g/l)以上、カリウムを0.09419(g/l)以上の割合で含有すると共に、比重が1.004以上天然海水比重以下となるようにカルシウム、カリウムに加えナトリウムを含有することを特徴とする人工飼育水、
更にまたこの発明では、天然海水中に多く含まれるマグネシウムを添加し天然海水の成分に近づけた人工飼育水として、
同様に、発明者は各成分の存在比を調整して様々な魚種について好適な環境水を試作して実験を行った結果、魚種によっては、とりわけトラフグおいては更に比重が軽く、各成分の含有量が少なくても飼育に影響を与えないことを知見するに至ったので、
また、観賞魚である海水性熱帯魚を飼育する際に利用することで、塩類の濃度の濃い天然海水あるいは人工海水では濾過装置の回り等に大量に付着する固形塩類の付着を少なくでき、飼育時の固化した塩類による錆びを低減できる等の効果を有すると共に、水槽回りの外観を損ねることが無いというこの発明特有の効果を奏する。
特にトラフグを飼育するための人工飼育水では、更に塩類の濃度を下げても実施でき、溶解させる塩化ナトリウムを1.781(g/l)、同塩化カルシウム2水和塩を0.092(g/l)、塩化カリウムを0.045(g/l)として実施できる。
図1は観察実験に使用する水槽及び濾過装置の模式図を表し(a)は側面説明図、(b)は平面説明図であり、図2は成長率を比較した説明図であり、図3はアンモニアの平衡状態を表す説明図である。
しかしながら、人工海水も、従来天然海水に少しでも近づけることで飼育に良好な環境が得られると考えられていたので、天然海水と同等な複数の塩類を天然海水と同じ濃度となるように溶解させるため、人工海水にかかわるコストもやはり膨大となっていた。
そこで発明者は、人工海水を天然海水に近づけるのではなく、マダイやハマチなど食用海水魚を天然海水とは異なる低塩類低濃度の環境で飼育(養殖)できないかを試みることに思い至った。
そこで発明者は、放射性同位元素を除き約60種である天然海水中の塩類から、魚類の浸透圧にかかわる組成を割り出して必要最低限の成分を加えることが最良と考えた。
尚、以下に表す各実験では、図1に表すように、100(l)程度の水槽に密閉式濾過槽からなる濾過フィルターを使用して実験を行った。そして、濾過フィルター中にはセラミックを加え調整長期に亙り飼育水のpH調整が可能とした。尚、図1には、泡沫分離装置4が記載されているが、泡沫分離装置4は飼育水を長期に亙り使用するために飼育水中の魚糞や余剰餌等の浮遊物を除去するためのものであり、短期間の実験では使用していない。また、飼育水冷却装置5も記載されているが、これは夏場の屋外に設置した水槽では飼育水の温度が上昇しすぎるため、飼育水温度を実験環境に合わせて一定に保つために設置したものである。
これに続けて、訓化なしでマタイ(体長5cmを5匹)を約8.8(‰)(比重1.006)の希釈天然海水中に放したところ、横臥現象が見られたものの約5分後には正常に泳ぎだし、数時間後には餌をとるまでに回復した。
そして、該環境においてマダイを3ヶ月間にわたり飼育観察を行った結果、マダイの斃死はなく約5(%)の体重増加を伴って順調に飼育できた。
この結果から、煩雑な訓化を行わなくても希釈天然海水で飼育可能であることが知見された。また、カクレクマノミ、マダイは、それぞれ観賞魚、養殖魚の中から無作為に入手しやすいものを選択したに過ぎないので、他の海水魚でも同様の結果となることが予想された。
そこで発明者は必須成分の割り出しに際して、哺乳類及び魚類の体液と天然海水の成分とを比較することに思い至った。そして、更に添加する塩類の種類を減少させるべく、前記6元素から魚類の必須元素及びその存在度を特定する実験を試みた。
哺乳類や魚類の体液は、塩化ナトリウム、カリウム、リン酸を主体としていることが既知である。また、また希釈天然海水の組成にもこれらの成分が有り、主に存在する成分がナトリウム(2.625(g/l))、塩素(4.750(g/l))、カリウム(0.0998(g/l))、カルシウム(0.103(g/l))、マグネシウム(0.320(g/l))、硫酸塩(0.674(g/l))であることが解った。発明者は、これら成分から、魚類が生存するのに適するためには魚類の浸透圧に拘る成分を調整して人工飼育水を作ることに思い至った。
なお、リン酸は給餌による魚類の代謝から補給されると考え、添加は行なわなかった。
その結果、該マダイは斃死することもなく異常が認められず、良好な飼育が行えた。
なお、リン酸は給餌による魚類の代謝から補給されると考え、添加は行なわなかった。
そして、該人工飼育水中に体長10(cm)のマダイ5(尾)を放し飼育を実施した結果、約3週間斃死等の問題が認められず体色も良好で順調に生育しており、良好な飼育環境であることが確認できた。
塩化ナトリウム 7.0587(g/l)
塩化カルシウム2水和塩 0.3641(g/l)
塩化カリウム 0.18125(g/l)
のみを添加して飼育を試みた。この時の飼育水のpHは6.45、比重は1.004であった。
その結果、飼育した体長12(cm)の3(尾)のマダイは、餌食いは良好であったが、約2週間目から頭皮の欠損症状が現れ、3週間目に斃死した。
そこで、塩化ナトリウムが体内から排出されてしまうのでるから、予め塩化ナトリウムを添加せずに飼育水を作成し海水魚を飼育することを試みた。これによれば、前記6元素4試薬の飼育水中最も添加量の多い(人工飼育水作成費用が嵩む)塩化ナトリウムを必要とせずに人工飼育水が開発できるものと予想した。
即ち、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムを全く添加せず、塩化カルシウム2水和塩を0.3641(g/l)、塩化カリウムを0.18125(g/l)のみ添加し、人工飼育水を作成して12(cm)のマダイ3(尾)を飼育した。
その結果、即座に平衡感覚を失い仰向けとなり、1時間後には斃死してしまった。
塩化ナトリウムを 7.0587(g/l)
塩化カルシウム2水和塩を 0.3641(g/l)
塩化カリウムを 0.18125(g/l)
添加した人工飼育水(以後、3試薬による人工飼育水という。)での飼育が、当初良好であり2週目以降に悪化し3週間に斃死した状況であり、塩化ナトリウム及び硫酸マグネシウムを全く加えない人工飼育水による飼育して直ぐに斃死してしまった結果とは異なっていることに着目し、3週間飼育した後の3試薬による人工飼育水を詳しく調べてみたところ、飼育前には6.45であったpHが、3週間後のマダイ斃死時には4.8にまで減少していた。
これを受け、マダイが生存できるpHを実験した結果、pH5.0乃至pH8.4程度であることが判明し、先の3試薬による人工飼育水を用いた実験を再び行った。その際に、使用した濾過装置に用いた棒状セラミックスに加え、小豆台の天然サンゴ砂も加えて濾過装置とし、サンゴの主成分である炭酸カルシウムが徐々に人工飼育水中に溶け出してpH調節が可能な状態(pH調整剤としての働きを行う状態)で飼育実験を行った。被検体は、体長15(cm)のマダイ2(尾)と、体長10(cm)のヒラメ10(尾)をそれぞれ別水槽に収容した。
その結果、マダイ、ヒラメ共に2ヶ月以上の長期に亙り斃死等の発生もなく順調に飼育でき、約2ヶ月間でマダイの体長が25(cm)、ヒラメの体長が15(cm)となり良好な発育が見られた。
塩化ナトリウムを 7.0587(g/l)
塩化カルシウム2水和塩を 0.3641(g/l)
塩化カリウムを 0.18125(g/l)
を添加した比重1.004の人工飼育水中で海水魚の良好な飼育が可能であることが突き止められたので、飼育用の水槽を1000(l)の大型とし、濾過装置を重力落下式として通常用いる濾過フィルターに棒状セラミックス25(l)と前記サンゴ砂5(l)を加えて構成し、更に長期に亙る飼育実験を行うために泡沫分離装置を加えて人工飼育水を濾過しながらオゾンを添加して長期飼育を試みた。
海水魚では、マダイ、イシダイ、イシガキダイ、サラサハタ、ヒラメ、トラフグ、オニオコゼ、カクレクマノミ、チョウチョウウオ科5種、スズメダイ4種、ゴマハギ、モンガラカワハギ、ルリヤッコ、ハリセンボン、ハコフグ、クダゴンベ、マハゼであり、
甲殻類では、イシガニであり、
淡水魚では、コイ、金魚(ランチュウ、子赤)、ネオンテトラ、ブラックテトラ、アーリーシクリット、スジシマドジョウである。
このように3試薬による人工飼育水では、淡水魚から海水魚まであらゆる環境の魚類の飼育が可能であることが解り、しかも淡水魚及び海水魚を同一の水槽にて飼育しても問題ないことが知見された。
特にトラフグに関しては、塩化ナトリウムを1.781(g/l)、硫酸マグネシウム7水和塩を0.426(g/l)、塩化カルシウム2水和塩を0.092(g/l)、塩化カリウムを0.045(g/l)添加した3.5(‰)の低濃度人工飼育水でも飼育が可能であることが実験から確認でき、更には硫酸マグネシウム7水和塩を添加しなくとも飼育可能であることも実験から知見された。
即ち、
1.3試薬による人工飼育水(トラフグ飼育用の更に希釈された飼育水も含む)による飼育では、すべての魚において、魚病の発生がない。
一般的に魚病性疾患の原因は細菌性、ウイルス性、繊毛類等の原生動物と寄生節足動物に分類される。さらには、腸炎ビブリオ等の一部例外を除き海水性と淡水性に大別される。
そこで、マダイ蓄用槽の人工飼育水における一般細菌数(標準平板菌数)を測定したが、細菌の検出は認められなかった。
また、夏場、海面養殖で問題となる単生類ベネデニア症(Benedenia)に感染しているキイロハギを前記3試薬による人工飼育水に収容して飼育すると、一瞬にして体表から寄生しているベネデニアが剥がれ落ち完全に治癒した。これは急激な浸透圧の変化による寄生虫へのダメージと推察される。
また、ウーディニウム症(Oodinium ocellatum)トリコディナ症(Trichodina)に感染しているカクレクマノミを前記3試薬による人工飼育水に収容して飼育し経過を観察したところ、2週間で完治した。この現象は単生類ベネデニア症と同様に急激な浸透圧の変化によるこれら繊毛虫へのダメージと推察される。
更に、尾柄部が大きく欠損して真皮が露出しているトラフグ10(尾)を前記同様3試薬による人工飼育水中に収容して2ヶ月間飼育したが、ビブリオ感染が見られず生存を続けた。この結果から外傷性ビブリオ感染が発症しないことが知見される。そして、これと対比すべく外洋水を直接補給する開放式飼育法によって同様に尾柄部が大きく欠損して真皮が露出しているトラフグを飼育して経過観察を行ったところ、該外傷性ビブリオ感染は避けられなかった。
即ち、図2に表すように、前記100(1)の水槽において、体長5(cm)のマダイ5(尾)を天然海水環境で、体長6(cm)のマダイ5(尾)を人工飼育水環境で、それぞれ飼育し、マダイの成長を経過観察し、経過1週間毎に総重量を測定して比較した。
その結果、天然海水環境のマダイは4週間経過後81.46(%)の重量増加率であったのに比し、人工飼育水環境のマダイは、119.07(%)の重量増加率であった。
この現象は天然海水中での飼育ではエネルギー代謝の30(%)が浸透圧調整に消費されているのに比べ、人工飼育水では低浸透圧なため浸透圧に拘るエネルギー代謝が低減されることが示唆され、これに伴い成長ホルモンの分泌が促進されていることが推察される。
2 濾過装置
3 濾過材
4 泡沫分離装置
5 飼育水冷却装置
Claims (2)
- カルシウムと、カリウムと、ナトリウムの塩化物の3種類のみを水道水や河川水あるいは地下水に添加し、水中にカルシウムを0.1002(g/l)以上天然海水中の濃度以下、カリウムを0.09419(g/l)以上天然海水中の濃度以下、残りのナトリウムは水溶液の比重が1.004になる濃度であるような水溶液乃至は、この水溶液の前記成分量を0.25倍まで薄めてなるフグ類の人工飼育に用いる飼育水。
- カルシウムと、カリウムと、ナトリウムの塩化物を水道水や河川水あるいは地下水に添加してなり、塩化ナトリウム7.0587(g/l)、塩化カルシウム2水和塩0.3641(g/l)、塩化カリウム0.18125(g/l)を溶解させて得られる略1.004の比重の水溶液の濃度から、塩化ナトリウム1.781(g/l)、塩化カルシウム2水和塩0.092(g/l)、塩化カリウム0.045(g/l)を溶解させた時の水溶液の濃度の範囲で用いられるフグ類の人工飼育に用いる飼育水。
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