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JPH06102549B2 - Ca−Sr−Bi−Cu−O系酸化物超伝導性光伝導物質及びその製造法 - Google Patents

Ca−Sr−Bi−Cu−O系酸化物超伝導性光伝導物質及びその製造法

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JPH06102549B2
JPH06102549B2 JP63201654A JP20165488A JPH06102549B2 JP H06102549 B2 JPH06102549 B2 JP H06102549B2 JP 63201654 A JP63201654 A JP 63201654A JP 20165488 A JP20165488 A JP 20165488A JP H06102549 B2 JPH06102549 B2 JP H06102549B2
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Japan
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superconducting
based oxide
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photoconductive
temperature
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泰三 眞隅
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東京大学長
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明はCa−Sr−Bi−Cu−O系酸化物超伝導体の超伝導
性を示す組成範囲外の組成領域で、その超伝導状態への
転移に対応して光伝導性を生ずる物質及びその製造法に
関する。
本発明は超伝導性物質の臨界的組成範囲外の物質の光学
的性質、特に高速パルス光伝導の実験を行い、常識的に
予期し難い光伝導現象を呈する光伝導物質を発見したこ
とに基づくものである。
本発明の製造法において、組成比X,x,Y,y,zを制御し、
その後の熱処理により、たとえばX=2,Y=3,y=2とな
るように組成範囲を選択して0x<1のうちx=0に
近いか超急冷したものは超伝導状態への転移に対応して
光伝導性となる光伝導性物質が得られ、産業上の利用分
野としては“超伝導オプトエレクトロニクス”への応用
が期待し得るものである。
(従来の技術) 従来の超伝導体で直接光伝導性を有する物質の発表は本
発明者により発表され既に特許出願中のY3-xBax−Cuy−
Oz系超伝導性光伝導物質(特願昭63−22691号、特開平
1−201058号)、La2−Cu1−Oz系超伝導性光伝導物質
(特願昭63−22692号、特開平1−201059号)以外は皆
無である。
これまでの超伝導材料は主として金属やそれらの合金を
用いてきた。また最近の酸化物高温超伝導体(冷えばY
−Ba−Cu−O系酸化物超伝導体)でもその臨界温度を上
げる目的で多量の添加元素(Ba,Sr)などが用いられて
いる。従って、それらの可視域近傍での光学的性質の測
定は、これらの金属的性質を反映して主として光反射又
は散乱の実験に限られて来た。
(発明が解決しようとする課題) このことが示すように超伝導体において、光は反射又は
散乱するだけで入り込まず、したがって超伝導と光物性
は国内外の学会や国際会議でも反射や散乱をのぞいて殆
んど無縁の分野と考えられていた。
この理由は超伝導性と、光吸収性並びに光伝導性等とは
相反する物性であると考えられており、BCS理論のギャ
ップエネルギー以上の波数の光を照射することにより超
伝導体の安定性が破壊されるものと考えられていたこと
による。しかしながら、これらの相関は既にY−Ba−Cu
−O系などで示されたとおり明確に存在する。そこで、
同一の温度範囲で超伝導性を有する物質と光伝導性を有
する物質とが製造できると、たとえば超伝導フォトトラ
ンジスタなどの機器やまた、現在追求されているジョセ
フソン素子を基礎にした“超伝導コンピュータ”とオプ
トエレクトロニクスで提案されている“光コンピュー
タ”の特性を併せもつような装置、すなわち“超伝導光
コンピュータ”又は“超伝導光ファイバー”等の作製が
可能となる。
(課題を解決するための手段) 本発明の目的とする所は、Ca−Sr−Bi−Cu−O系超伝導
材料の超伝導状態への転移に対応して光伝導性となるCa
−Sr−Bi−Cu−O系酸化物光伝導物質を提供するにあ
る。
本発明によるCa−Sr−Bi−Cu−O系酸化物光伝導物質
は、 一般式 Ca(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Oz ここで、X=2、0≦x<1、Y=3、y=2、z=4
〜9 の組成より成り、Ca−Sr−Bi−Cu−O系の酸化物超伝導
物質の超伝導状態への転移温度にほぼ対応して光伝導性
を生ずることを特徴とする。
本発明によるCa−Sr−Bi−Cu−O系酸化物光伝導物質の
製造方法は、 一般式 Ca(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Oz ここで、X=2、0≦x<1、Y=3、y=2、z=4
〜9 の組成の出発物質をその固相反応の生ずる温度700〜850
℃で2〜10時間1次焼結し、その後徐冷し、さらに加圧
整形後750〜880℃で2〜10時間2次焼結し、冷却した
後、さらに500〜600℃で2〜3時間保持した後900〜150
0℃/secの冷却速度で超急冷するか、150〜200℃/Hの冷
却速度で徐冷することによってCa−Sr−Bi−Cu−O系の
酸化物超電導物質の超電導状態への転移温度にほぼ対応
して光電導性を生ずる物質を得ることを特徴とする。
本発明の物質を一般式に示す組成に限定した理由は、こ
の組成範囲のものを固相反応の生ずる温度約700〜850℃
の間で2〜10時間加熱し、加圧整形後750〜880℃で2次
焼結し、さらに600〜500℃で2〜3時間保持した後、15
00〜900℃/secで超急冷するか、150〜200℃/Hで徐冷す
ると、実施例で示すとおり、同一材料系列の超伝導状態
への転移に対応して光伝導性となる光伝導性物質が得ら
れるからであり、これらの現象を系統的に明らかにして
本発明が完成されたものである。
従来知られているBa−Pb−Bi−O,La−Cu−O及びY−Ba
−Cu−Oのような酸化物系化合物の大部分は基底状態
(ground state)即ち低温で特に光を照射しない暗場所
では通常絶縁体又は半導体である。したがって適当な大
きさの運動量とそれに応じた適量のエネルギーを、これ
らの基底状態にある物質に与えることにより、素励起
(elementary excitation)をつくり出すことができ
る。通常超伝導体に対しては、エネルギーギャップを超
えた素励起はBCS理論における超伝導の基底状態を破壊
するとされている。しかしながら、絶縁性の半導体では
熱的に非平衡状態においても上述の基底状態にバイポー
ラロン及び励起子のような素励起のコヒーレント状態を
つくり出せる可能性がある。これらの研究は高臨界温度
(Tc)の超伝導体の研究と並行しているが、それらの研
究の傾向とは異なり、新しい視点から、つまり素励起概
念の見地より基礎物理及び応用物理の分野でむしろ完全
な超伝導体とはならない組成のもので、超伝導性につな
がる光伝導物質を知見し、本発明が完成されたものであ
る。
本発明において、酸化物光伝導物質の組成を一般式Ca
(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Ozの如く限定した理由は、
X=2〜3、Y=3〜4、x=1は超伝導体となる条件
であるので、x=1を除外して超伝導体に近接した組成
で超伝導体とはならない光伝導性をもった物質の領域を
調べたもので、超伝導体となる組成の条件中でX=2〜
3、Y=3〜4はそのままにして0x<1の範囲を選
択すると、絶縁体又は半導電体の領域となるが、この絶
縁体に500〜740nmの特定周波数の光をあてると、光伝導
性となる事実を発見したものである。
本発明の端緒は、Bi2O3が特定の周波数の可視光に対し
光伝導性を有する事実を基として、Bi2O3を基準物質と
して、これにどのような金属元素を加えたならば超伝導
性又は光伝導性を有する物質が得られるかを検討し、Bi
2O3にCa,Sr及びCu等を加えた系について調べたもので、
この結果上述の一般式の如き組成が超伝導体に近接した
組成であるが超伝導状態への移転に対応して光伝導物質
となる組成を知見したものである。
上述の一般式で0≦x<1,0<y≦2,4≦z≦9でかつX
=2〜3、Y=3〜4の範囲が本発明の超伝導に対応す
る光伝導物質の組成条件である。ここで、x=0のとき
は CaX−Bi(Y-y)−Cuy−Oz となるが、この組成のものも本発明の条件に適合するも
のである。
次に、本発明の製造法の各条件の限定理由について説明
すると、一般式記載の配合とした出発物質の固相反応を
生ずる温度700〜850℃で2〜10時間加熱し、徐冷する第
1次焼結工程と、加圧整形して750〜880℃に2〜10時間
加熱し、徐冷する2次焼結工程は固相反応を完全にし、
均一な固相を得るために必要な工程である。880℃以上
に加熱することは溶解してしまい好ましくない。また、
700〜750℃以下の加熱では固相反応を完全にする目的が
達せられないので好ましくない。
次に500〜600℃で2〜3時間保持する工程は焼鈍処理で
あって、第2次焼結に際し、加圧整形する場合の機械加
工により生じた歪とりと均質化を図る工程である。
次に1500℃〜900℃/secの冷却速度で超急冷するか、150
〜200℃/Hの冷却速度で徐冷するのは、Ozで示される酸
素量を調節するためで、超急冷すると、冷却速度が速け
れば速いほどOzのzが小さくなり、酸素量は少くなる。
冷却速度が遅くなると、Ozのzが大きいままで保持され
るのである。
(実施例) このような物質の一例をあげると、Ca2-x−Srx−Bi3-y
−Cuy−Ozであり、このフェイスダイアグラム、特にx,y
による変化、すなわち、組成の影響を解明すべく、本研
究を行った。ここで、本発明者は上記の物質の超伝導相
のみなず、半導体相又は絶縁体相についても解明すべく
研究を行った。Ca2-x−Srx−Bi3-y−Cuy−Ozの多数の試
料をCaCO3,SrCO3,Bi2O3及びCuOの粉末より製造した。出
発物質の組成x,yについては詳細に検討したが、ここで
は特に組成によりx,yを制御するとともに、2次焼結後
の温度、処理冷却方法の緩急により酸素含量zを一応制
御できることも明らかとなった。光伝導性を示す試料番
号S127はCaCO30.400g、Bi2O30.466g、CuO0.318gを混合
し、Ca2Bi1Cu2Ozの式となるように焼成した。超伝導性
を示す試料S170はCaCo30.200g、SrCO30.295g、Bi2O30.4
65g、CuO0.318gを混合し、Ca1Sr1Bi1Cu2Ozとなるよう焼
成したもので、zは酸素の量を示し、焼成温度、方法に
よりzがz=5〜8に変化し、これに伴い得られた製品
の物性が異なる。
たとえば仕込みの組成比にしたがって調合し、よく攪拌
し、粉砕した後700〜850℃にて2時間1次焼成して固相
反応を行わせ、徐冷後、その生成物を用いてペレットを
加圧整形で作製する。さらにこれらを750〜880℃で2〜
3時間かけて2次焼結を行い、一方の試料S127は500℃
で2時間保持して徐冷し、他方の試料S170はさらに800
℃で2時間、500℃で1〜2時間焼鈍後、室温まで徐冷
する。このようにすると、前者は80K級の超伝導相が大
部分であるのに対し、後者には110K級の超伝導相が現わ
れる。
実験方法 Ca(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Oz系の相図は第5元素系
であるため少し詳細を追求し始めると、未だ完全とはい
い難く、なお究明段階にある。特に大切なのはX,x,Y,y
の組成比の組と酸素欠陥に対応するzの制御である。多
くの科学者たちの大変な努力にもかかわらず、完成には
恐らくなお、しばらくの時間を必要としよう。ここでは
我々は超伝導相のみならず半導体相にも関心を払って来
た。Ca−Sr−Bi−Cu−O系の多くの試料をCaCO3,SrCO3,
Bi2O3,CuOの粉末から作製した。仕込みの材料の組成、
徐冷や急冷の過程などはについて詳細に研究を行なって
おり、多少とも制御可能である。
Ca(2-x)−Srx−Bi(3-y)−Cuy−Oz系の試料はx,y,zのあ
る値の部分では極めて絶縁性が高いか、少くとも低温で
は半導体的であるので、我々の実験での抵抗率測定並び
に伝導度測定に際しては2つの型の技術を採用した。ま
ず第一に絶縁性の試料(ρ108Ω・cm)で絶対温度4.2
Kでの試料番号S127のようなものに対してはブロッキン
グ電極を配した高速パルス技術〔第1図(A)参照〕
が、前にも注意したいくつかの測定上の困難な問題点を
克服することがわかった。なお、横モード電極配置も場
合に応じて採用した〔第1図(B)参照〕。測定に際し
たとえば電場パルスEは、E≒5kV/cmまでの一定値で10
msec持続させ、これを13Hzのくり返し周波数で行なう。
励起光パルスは3nsecの幅で電場パルスの印加時間内の
適切な時刻に同期させておく〔第1図(C)参照〕。つ
ぎに試料番号S170のように適度に伝導性のある試料(ρ
10-2〜101Ω・cm)に対しては、抵抗測定も、その場
合には勿論励起光は用いず暗所で普通の4端子法を採用
して行った。
静帯磁率または磁化の大きさM(T,H)は、H≒500Oeま
での弱い磁場での9GHz帯でのマイクロ波SQUIDを用いて
行うことが出来る。この測定系の特性は前に記したとお
りである〔第2図(A),(B),(C)参照〕。
試料は、光伝導測定に際しては、パルス発振色素レーザ
ーを用いて光励起した。分光スペクトル応答も同様な注
意を払い綿密に行った。励起された光キャリァーの数は
105〜107/cm3の桁で吸収係数が大きい場合には表面付近
の10-3〜10-4/cmのうすい層内にある。すべての光信号
はボックスカー積分器を用いて同期モードで検出した。
(実験結果) 試料番号S170のようなCa2-x−Srx−Bi1Cu2Oz(x=1)
の試料は黒く見え、室温での抵抗は普通ρ10-1Ω・cm
の桁である。一方試料番号S127(x=0)は灰色に見
え、その比抵抗は室温で既にρ108Ω・cmである。我
々が観測した所によれば、試料番号S127(x=0,半導体
性)に対しては、前に記したトランジェントパルス技術
を適用すると絶対温度105〜115K,65〜85K以下の2段階
で、恐らく起因は異なるものの、どちらにも光伝導性を
示す信号が確実に出現することが認められた。
最初にのべておくが、光伝導性Q(λ,T,E)の電場Eに
対する依存性は、T≒4.2KでE≒5kV/cmまで殆んど直線
的である。第3図(A)は基準物質Bi2O3の番号B03,第
3図(B)はCa2-x−Srx−Bi1−Cu2−Oz試料番号S127
(x=0)のλ≒500〜740nmの波長領域でのパルス光伝
導応答Q(λ,T)の典型的スペクトルである。ちなみに
第3図(A)は我々が観測しているBi2O3の光吸収に対
応する光伝導の恐らくは世界でも最初のデータでこの分
野では新しいが、基準となるべきものである。
次に、波長領域λ≒500〜740nmでのQ(λ,T)の温度依
存性を第4図(A)に示すように基準物質Bi2O3番号B03
と、第4図(B)半導体的試料番号S127の両方について
しらべた。ここで驚くべきことには、試料番号B03と試
料番号S127ではお互いの光伝導性Q(λ,T)の一般的な
特色の間には顕著な類似性が確実に存在することが認め
られた。誰でも明確に認めざるを得ないように、半導体
的である試料でも、恰かも超伝導性が潜在しているかの
ように温度の低下とともに“光伝導応答Q(λ,T)”が
絶対温度105〜115K以下及び65〜85K以下で出現し、単調
に増加した後で、場合によって、全体温度10K以下でさ
らに増加する。
最後に、超伝導性を呈するCa1−Sr1−Bi1−Cu2−Oz試料
番号S170の暗抵抗率ρ(T)が第4図(C)の温度の関
数として示されている。誰しも直ちに気がつくことであ
るが、試料番号S170はT=105〜115K以下及びT=65〜8
5K以下で超伝導になり第4図(B)に示すように、光伝
導応答Q(λ,T)はこれに驚く程よく対応している。
これらの実験事実を簡単に解釈しようとするのは決して
容易ではない。励起光による試料の加熱効果は、注意深
くしらべ評価すると充分小さいことが判る。絶対温度30
0KではCa2-x−Srx−Bi1−Cu2−Ozの試料番号S127(x=
0)は半導体的である。このブロッキング電極の配置で
観測された“光伝導性”と超伝導性試料番号S170での
“超伝導性”とは互いに深い相関をもつものである。こ
れは恐らく、第3図(A),(B)及び第4図(A),
(B),(C),に示されているように、この試料内の
絶縁体的部分によるものの超伝導性であろう。しかし驚
くべきことは、第4図(B)に示されているように半導
体的試料番号S127においてすらも恰もそこに超伝導性が
潜在しているかの如き暗々裡に相関をもった“光伝導現
象の出現”という事実の存在である。
実験の考察 広く知られていることではあるがCa2-x−Srx−Bi3-y−C
uy−Oz系の半導体的である試料は普通灰色の色彩をして
いる。第3図(A),(B)に示した光伝導のスペクト
ル応答Q(λ,T)はCa2-x−Srx−Bi3-y−Cuy−Oz系の試
料の内部に、かりに原子的な意味での層状ではないとし
てもなんらかの意味でBi2O3と類似する領域が存在して
いることを暗示している。
Bi2O3そのものによる光吸収並びに光伝導性は、未だ実
験的にも励起子理論によってもあまり詳しく解明されて
いはいない。しかし、これは陽イオン殻内での電荷移動
型でFrenkel型の励起子の典型的な例であると考えられ
る。上述のCa−Sr−Bi−Cu−O系のQ(λ,T)における
微細構造の位置は基準物質Bi2O3そのものの基礎吸収端
の構造とまったくよく一致している。我々は恐らく励起
子によるものであると考えられるいくつかの際立つた微
細構造が認められた。たとえばCa2−Bi1−Cu2−Ozの光
伝導応答スペクトルは基準物質Bi2O3のスペクトルと類
似している。ここで、このスペクトルの中でλ≒623nm
近傍にBi2O3のある系列の励起子のn=2の状態に対応
するものではないかと考えられる構造が認められた。す
なわち、Ca−Sr−Bi−Cu−0系の物質の内部には無視す
ることの出来ない、少くとも有限の比率でBi2O3に類似
する相が存在する。そして、そこではそれぞれの結晶構
造に若干の相異をもつものの、光によって励起された伝
導電子と正孔が確かに動きまわれる状態にある(第5図
(A)参照)。
標準的なタイプBi2O3結晶内の伝導電子と正孔は、結合
定数αで以前にも議論した様にむしろ“小さいポーラロ
ン”を形成していると考えられる。しかしどのような場
合でも、絶縁体的試料において、“光伝導性Q(λ,T)
の出現”が、“超伝導性の出現”と明確に関係してい
て、恰かも超伝導性が光伝導性の現象のうらに潜在して
いるかのように見える。そこでポーラロンの効果につい
て言えば、それがLO(ロンジテューディナル オプチカ
ル)フォノンとの相互作用にもとづく“大きなポーラロ
ン”であろうと、或はヤーンテラー効果による“小さな
ポーラロン”であろうと、または両者にもとづく中間結
合の領域のものであろうと、とに角第3図(A),
(B)、第4図(A)〜(C)に示されているように
“電子分極によるポーラロン効果”と同様に少くとも潜
在的には、ポーラロン効果は大変重要である。それらポ
ーラロン効果は多分、コヒーレントに混成した形での素
励起としての複合した効果をもっていると思われる。こ
こで我々は電子分極によるポーラロンに特別の注意を払
う必要があり、それは別名“励起子ポーラロン”とも呼
ばれているものである。ここでの実験結果を考察する
と、ポーラロンと励起子との間に密接な関係があること
が認められた。
これらのポーラロンや励起子は、第5図(A)に示すよ
うに、どれも酸素の(2p)とBiの(6s)の混成価電子状
態から後に(2p)(6s)の配置で正孔(白丸印)を
残して、LOフォノンとも相互作用をしながら主としてBi
の(6p)伝導帯(場合によってはCu(4s,3d)(図示せ
ず)とも混合し、)への光学的には帯間遷移によって
(6p)の伝導電子がつくり出されたものである。しか
し、第5図(B)に示すように、Ca−Sr−Bi−Cu−O系
のポーラロンは光学的励起でも、CaをSrで置換すること
でもつくり出すことが出来る。ここで、第5図(B)は
x=1で超伝導体の場合を示す。O(2p)とBi(6s)の
混成帯内の正孔は帯内または帯間いずれの遷移によって
も多体系の基底状態からつくり出すことが出来るから、
電子間の相関効果は勿論きわめて大切である。我々はBi
3+とBi4+,Cu2+とCu3+の間の動的な価電子揺動もさるこ
とながら、Cu1+とCu2+、特にBi3+とBi5+の間の動的な価
電子揺動に最っとも注意を払わなければならない。それ
ゆえ、高臨界温度をもつ超伝導機構に対しては、その大
小を問わずポーラロンの集合、特に励起子と密接に関係
した集合の潜在的役割を考える理由は充分存在する。こ
こでのこれらの結びつけられたポーラロンと励起子の集
合は、バイポーラロン、ポーラロン励起子の集合、およ
び/または動的な電子−フォノン相互作用と同じく動的
な電子相関にもとづく“励起子媒介のバイポーラロン”
であると思われる。第3図(B)に示すようにCa−Sr−
Bi−Cu−O系での光伝導応答Q(λ,T)は第3図(A)
に示すBi2O3の光伝導スペクトルに似た500〜740nmの領
域での波長依存性があることが確かめられた。したがっ
て、ここでの素励起の研究は厖大なキャリァー密度の差
にもかかわらず、超伝導基底状態の性質を示していると
考えられる。我々の知識の及ぶ限りでは、これらの実験
結果より知られることは、Ca−Sr−Bi−Cu−O系の酸化
物が超伝導性で、かつ、光伝導物質であることを実験的
に確かめたのは本発明が最初である。ここで、上述のポ
ーラロンと励起子による機構のは本発明の物質でも酸化
物系高温超伝導体でも相関して共通に存在していること
が実験的に明確に確かめられた。
以上、我々は、本発明のCa−Sr−Bi−Cu−O系光伝導物
質の物性の検討に際し、既知の超伝導体に予期された超
伝導の開始の絶対温度115K〜105K(高Tc層)と、85〜65
K(低Tc層)とで超伝導性の出現温度、本発明の光伝導
物質における光応答の出現温度とがよく一致するのを知
見した。
Ca−Sr−Bi−Cu−O系酸化物光伝導物質は上述のxの選
択により(例えばx=1では“超伝導性”、x=0に近
い所では“光伝導性”)となることに深い相関のあるこ
とを本発明者は最初に知見した。それゆえ、高温超伝導
においてポーラロンと励起子による動的機構、すなわ
ち、“励起子媒介のバイポーラロン”による動的機構の
存在を再確認した。
(発明の効果) 以上の結果、我々は次のように結論することが出来る。
絶対温度4.2K〜300Kの温度領域で、伝導度測定には直流
四端子法とくり返しパルス光伝導測定法を適用し、静帯
磁率の測定にはマイクロ波SQUIDを用いることで始めて
幅広く調べた結果、“光伝導性”が“超伝導性(ゼロ抵
抗、反磁性)”と互いに深い相関があることを確認し、
“光伝導物質"Ca(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Oz系、X
=2〜3,0≦x<1,Y=3〜4,0≦y<2、z=4〜9系
を発明しその製造方法をも発明した。なおこの発明は我
々が提案している“高温超伝導”に対しての“ポーラロ
ンと励起子による動的機構”つまり“励起子媒介のバイ
ポーラロン”による機構という理論的考察と並行して展
開されたもので、これらの新素材は、光で直接超伝導性
を制御する“超伝導オプトエレクトロニクス”という新
しい最先端科学技術分野をひらくものである。
【図面の簡単な説明】
第1図はブロッキング電極を配したくり返しパルス光伝
導測定法の原理図、 第2図は静帯磁率測定用マイクロ波SQUID装置の説明
図、 第3図(A)及び(B)は基準物質Bi2O3、Ca2-x−Srx
−Bi3-y−Cuy−Oz(x=0)の光伝導応答Q(λ,T)の
波長依存性をそれぞれ示す特性図、 第4図(A)は基準物質Bi2O3の温度と光伝導応答Q
(λ,T)との関係を示す特性図、 第4図(B)は光伝導性物質であるCa2-xSrxBi1Cu2Ozの
温度と光伝導応答との関係を示す特性図、 第4図(C)は超伝導物質であるCa2-xSrxBi1Cu2Oz(但
しx=1)の温度と抵抗の関係を示す超伝導特性図、 第5図(A)及び(B)はCa2-x−Srx−Bi3-y−Cuy−Oz
系でx=0とx=1との場合のエネルギー(E)と状態
密度N(E)との関係を示す特性図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.5 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 H01B 12/00 ZAA 7244−5G

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】一般式 Ca(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Oz ここで、X=2、0≦x<1、Y=3、y=2、z=4
    〜9 の組成より成り、Ca−Sr−Bi−Cu−O系の酸化物超伝導
    物質の超伝導状態への転移温度にほぼ対応して光伝導性
    を生ずることを特徴とするCa−Sr−Bi−Cu−O系酸化物
    光伝導物質。
  2. 【請求項2】一般式 Ca(X-x)−Srx−Bi(Y-y)−Cuy−Oz ここで、X=2、0≦x<1、Y=3、y=2、z=4
    〜9 の組成の出発物質をその固相反応の生ずる温度700〜850
    ℃で2〜10時間1次焼結し、その後徐冷し、さらに加圧
    整形後750〜880℃で2〜10時間2次焼結し、冷却した
    後、さらに500〜600℃で2〜3時間保持した後900〜150
    0℃/secの冷却速度で超急冷するか、150〜200℃/Hの冷
    却速度で徐冷することによってCa−Sr−Bi−Cu−O系の
    酸化物超電導物質の超電導状態への転移温度にほぼ対応
    して光電導性を生ずる物質を得ることを特徴とするCa−
    Sr−Bi−Cu−O系酸化物超伝導性光伝導物質の製造法。
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