本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
<A.画像形成装置の装置構成>
まず、本実施の形態に従う画像形成装置100の装置構成について説明する。以下に説明する画像形成装置100は、典型例として、複合機(MFP:Multi-Functional Peripheral)として実装されるカラー画像形成装置である。但し、本実施の形態に従う劣化滑材を除去する機構および方法は、モノクロ画像形成装置にも適用可能である。また、カラー画像を形成する機構として、タンデム方式を例示するが、サイクル方式(典型的には、4サイクル方式)にも適用可能である。
図1は、本実施の形態に従う画像形成装置100の断面構成を示す概略構成図である。図1を参照して、画像形成装置100は、プリントエンジン110と、原稿読取部120と、排出トレイ130とを含む。
プリントエンジン110は、電子写真方式の画像形成プロセスを実行する。図1に示す構成においては、フルカラーの印刷出力が可能である。印刷出力された媒体は、排出トレイ130へ排出される。プリントエンジン110の詳細な構成については、後述する。
原稿読取部120は、原稿を読み取って、その読み取り結果をプリントエンジン110に対する入力画像として出力する。より具体的には、原稿読取部120は、イメージスキャナー122と、原稿給紙台124と、原稿自動送り装置126と、原稿排紙台128とを含む。
イメージスキャナー122は、プラテンガラス上に配置された原稿をスキャンする。イメージスキャナー122は、主要な構成要素として、原稿に対して光を照射する光源と、光源から照射された光が原稿で反射して生じる画像を取得するイメージセンサーと、イメージセンサーから画像信号を出力するためのAD(Analog to Digital:アナログデジタル)変換器と、イメージセンサーの前段に配置された結像光学系とを含む。
原稿自動送り装置126は、原稿給紙台124に配置された原稿を連続的にスキャンする。原稿給紙台124上に配置された原稿は、図示しない送出ローラーにより1枚ずつ送り出され、イメージスキャナー122または原稿自動送り装置126内に配置されたイメージセンサーによって順次スキャンされる。スキャン後の原稿は、原稿排紙台128へ排出される。
プリントエンジン110は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のそれぞれのトナー像を生成するイメージングユニット10C,10M,10Y,10K(以下、「イメージングユニット10」と総称することもある。)を含む。
本実施の形態に従う画像形成装置100は、一例として、それぞれのイメージングユニット10が生成したトナー像を、中間転写体を介して被転写部材である媒体Sに転写する構成を採用する。画像形成装置100は、中間転写体として、中間転写体駆動ローラー14および16により張架された中間転写ベルト12を含む。中間転写ベルト12は、中間転写体駆動ローラー14および16の回転駆動により、所定方向に回動される。中間転写体としては、図1に示す中間転写ベルトに代えて、中間転写ローラーを採用してもよい。なお、図1には、トナー像を中間転写体に一旦転写した後、媒体Sに転写する構成について例示するが、感光体上のトナー像を媒体Sに直接転写するようにしてもよい。
イメージングユニット10C,10M,10Y,10Kは、プリントエンジン110内に張架されて回転駆動される中間転写ベルト12に沿って、その順序に配置される。イメージングユニット10の各々は、感光体1と、帯電部2と、露光部3と、現像部4(対応するイメージングユニット10が生成するトナー像の色に対応させて、4C,4M,4Y,4Kとそれぞれ記載する)と、クリーニングブレード5と、中間転写体接触ローラー6とを含む。
感光体1は、トナー像を担持する像担持体であり、その表面に感光層が形成された感光体ローラーが用いられる。感光体1は、その表面にトナー像が形成されるように配置されるとともに、中間転写ベルト12の回転方向に対応する方向に回転する。なお、像担持体としては、感光体ローラーに代えて、感光体ベルトを採用してもよい。
感光体1には、露光部3により静電潜像が形成されるとともに、現像部4によって静電潜像が現像されてトナー像が生成される。すなわち、帯電部2、露光部3、および現像部4は、感光体1に静電潜像およびトナー像を形成する。
帯電部2は、感光体1の表面を一様に帯電する。露光部3は、レーザー書き込み等により、指定された画像パターンに従って感光体1の表面を露光することで、その表面上に静電潜像を形成する。典型的には、露光部3は、レーザー光を発生するレーザダイオードと、主走査方向に沿ってレーザー光を感光体1の表面を露光させるポリゴンミラーとを含む。
現像部4は、像担持体である感光体1上に形成された静電潜像をトナー像として現像する。典型例として、現像部4は、トナーおよびキャリアからなる二成分系の現像剤を用いて静電潜像を現像する。なお、現像手段としては、一成分系の現像剤(トナー)を用いてもよい。
感光体1の表面に形成されたトナー像は、中間転写体接触ローラー6によって中間転写ベルト12に転写される。中間転写体接触ローラー6は、感光体1上に現像されたトナー像を被転写媒体である中間転写ベルト12に転写する。感光体1と中間転写ベルト12とは、中間転写体接触ローラー6を設けた部分で接触している。この接触している部分には、所定の転写電位差(転写バイアス)が印加されるように構成されており、この転写電位差によって、感光体1上のトナー像が中間転写ベルト12へ転写される。すなわち、中間転写ベルト12およびバイアス電圧の印加手段が転写手段(転写装置)に相当する。
中間転写ベルト12上には、それぞれの感光体1からトナー像が順次転写されて、4色のトナー像が重ね合わされることになる。重ね合わされたトナー像は、転写ローラー20および21によって、中間転写ベルト12から媒体Sへ転写される。媒体Sの転写に関する構成として、プリントエンジン110は、媒体Sを保持する給紙部30と、送出ローラー32と、搬送ローラー34および36と、定着部22とを含む。送出ローラー32は、給紙部30から媒体Sを順次送り出すとともに、搬送ローラー34および36によって搬送される。媒体Sの送り出しおよび搬送のタイミングと、中間転写ベルト12上でトナー像が重ね合わされた位置とを同期させることで、媒体Sの適切な位置に、トナー像を転写できる。トナー像が転写された媒体Sは、搬送経路38に沿って定着部22まで搬送され、定着部22でトナー像の定着処理が実行される。そして、トナー像が定着された後の媒体Sは、排出トレイ130へ排出される。
プリントエンジン110は、画像形成装置100の全体制御を司る制御部50を含む。制御部50は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリー、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリー、および、各種インターフェイスを含む。典型的には、プリントエンジン110では、プロセッサが不揮発性メモリーに格納されている各種プログラムを実行することで、画像形成装置100における画像形成に係る処理等が実行される。
制御部50としては、プロセッサがプログラムを実行することで実現されるが、これに代えて、その処理の全部または一部を専用のハードウェアを用いて実現してもよい。また、プロセッサがプログラムを実行する場合には、そのプログラムは、各種の記録媒体を介して不揮発性メモリーにインストールされ、あるいは、通信回線を介して図示しないサーバー装置等からダウンロードされてもよい。
<B.画像形成装置における基本的な画像形成プロセス>
次に、図1に示す画像形成装置100で実行される基本的な画像形成プロセスについて、その実行順に沿って説明する。
イメージングユニット10の各々において、感光体1は、帯電部2によりその表面を一様に帯電された後、露光部3により、入力画像の情報に従って発光が制御されるレーザーの走査露光を受ける。これによって、感光体1の表面には静電潜像が形成される。この感光体1を回転させながら露光部3により走査露光し、静電潜像を形成する工程(光書込工程)に用いる画像情報は、指定された入力画像(フルカラー画像)をシアン、マゼンタ、イエロー、黒のそれぞれの色情報に分解して得られた単色の画像情報であり、制御部50は、それぞれの画像情報に従って、レーザーの発光および走査を制御する。
単色の画像情報に従って形成された感光体1上の静電潜像は、それぞれの感光体1上で現像部4C,4M,4Y,4Kによって、対応するシアン、マゼンタ、イエロー、黒のトナーからなる単色の現像剤により現像され、それぞれの画像情報に応じたトナー像が形成される。すなわち、それぞれの感光体1上に対応する色の単色トナー像が形成される。それぞれの単色トナー像は、所定の転写電位差の作用により、対応する感光体1と同期して、中間転写ベルト12上に順次転写されて重ね合わされる。中間転写ベルト12上に重ね合わされたそれぞれの単色トナー像は、転写ローラー20および21により、給紙部30から搬送された媒体S上に一括転写される。このとき、中間転写ベルト12と媒体Sとの間には、所定の転写電位差が印加される。転写終了後、媒体S上のトナー像が定着部22により定着されることで、フルカラー画像が完成し、フルカラー画像が形成された媒体Sが排出トレイ130へ排出される。
感光体1における画像形成プロセスの最終工程として、感光体1上の転写残トナー(感光体1の表面に形成されたトナー像を中間転写ベルト12に転写した後に残ったトナー)がクリーニングされる。感光体1の表面に対するクリーニングを実施するために、感光体1に常時圧接するクリーニングブレード5が設けられている。クリーニングブレード5は、トナー像の転写後に像担持体である感光体1上に残留するトナーを回収するクリーニング部材であり、感光体1に圧接してその表面から転写残トナーを掻き取る。
同様に、中間転写ベルト12上の転写残トナーについてもクリーニングされる。中間転写ベルト12の表面に対するクリーニングを実施するために、中間転写ベルト12に圧接するクリーニングブレード18が設けられている。クリーニングブレード18は、トナー像の転写後に像担持体である中間転写ベルト12上に残留するトナーを回収するクリーニング部材である。
<C.滑材供給機構>
次に、像担持体である感光体1上に潤滑剤(滑材)を供給する滑材供給機構について説明する。像担持体の周辺部材の構成例を、図2〜図4に示す。図2は、本実施の形態に従うイメージングユニット10の一構成例を示す模式図である。図3は、本実施の形態に従うイメージングユニット10の別の構成例を示す模式図である。図4は、本実施の形態に従うイメージングユニット10のさらに別の構成例を示す模式図である。
図2を示すイメージングユニット10においては、感光体1の周辺に、帯電部2、露光部3、現像部4、クリーニングブレード5に加えて、滑材供給機構として、滑材供給部8および均し部材9が配置される。
滑材供給部8は、感光体1および固形滑材84に圧接する塗布ブラシ81を含む。塗布ブラシ81は、感光体1に対して相対回転することで、固形滑材84を掻き取って感光体1に塗布する。均し部材9は、滑材供給部8によって供給された滑材を均すことで、感光体1表面での滑材層の形成を促進する。
塗布ブラシ81は、感光体1の幅方向(図中奥行き方向)に延在する軸部材82と、軸部材82の外周面に配置された複数の起毛83とを含む。一例として、塗布ブラシ81は、複数の起毛を植設した基布を軸部材82に巻き付け固定することによって構成される。基布の長さは、少なくとも感光体1の幅方向全域に起毛を接触させ得るように調整されている。軸部材82は、図示しないモーターと機械的に結合されており、感光体1と独立に駆動可能となっている。また、専用のモーターを設けなくても、他の部材の駆動部と機械的に結合して駆動させることも可能である。
塗布ブラシ81の回転により、固形滑材84が塗布ブラシ81の起毛に掻き取られて付着した後、感光体1表面に塗布される。すなわち、塗布ブラシ81が回転駆動することにより、滑材供給部8が滑材供給機構として機能することになる。
図2には、滑材供給部8をクリーニングブレード5の下流に配置した構成例を示したが、クリーニングブレード5の上流に配置してもよい。図3に示す構成例においては、クリーニングブレード5の下流に滑材供給部8を配置することで、クリーニングブレード5が、感光体1上の転写残トナーをクリーニングする機能に加えて、滑材供給部8によって供給された滑材を均す機能を発揮する。
あるいは、現像部4が滑材供給機能を発揮するようにしてもよい。図4に示す構成例においては、現像部4が供給するトナーに滑材を添加することで、感光体1に滑材が供給される。すなわち、図4に示す構成例においては、現像部4は、滑材供給部としての機能を有することになる。
図2〜図4に示す構成においては、感光体1の残留電位を打ち消すため、および、トナー荷電量を調整するために、クリーニングブレード5(クリーニング部材)の上流に副帯電部7を配置してもよい。さらに、図2〜図4に示す構成例を適宜組み合わせてもよい。
このように、本実施の形態に従う画像形成装置100に採用し得る滑材供給機構としては、図2および図3に示すような、現像部4(現像手段)とは独立した、潤滑剤を塗布する機構を含むようにしてもよい。あるいは、図4に示すような、現像部4が供給するトナーに滑材を添加する構成を採用してもよい。さらに、図2および図3に示すような、現像部4(現像手段)とは独立した潤滑剤を塗布する機構と、現像部4が供給するトナーに滑材を添加する構成とを併用するようにしてもよい。
<D.滑材>
本実施の形態に従う画像形成装置100においては、固形滑材として、脂肪酸金属塩、シリコーンオイル、フッ素系樹脂等を用いることができる。これらの滑材を、単独または2種類以上を混合して用いることができる。特に、脂肪酸金属塩が好ましい。
脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、直鎖状の炭化水素が好ましく、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好ましく、ステアリン酸が一層好ましい。脂肪酸金属塩の金属としては、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、セリウム、チタン、鉄等が挙げられる。これらの中で、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸鉄等が好ましく、特に、ステアリン酸亜鉛が最も好ましい。また、カルナウバワックスのような天然ワックスであってもよい。これらの中で、特に好ましいのは、ステアリン酸金属塩である。
<E.現像剤>
本実施の形態に従う画像形成装置100においては、トナーおよびトナーを帯電するためのキャリアを含む現像剤が用いられる。トナーとしては、特に限定されることなく、一般に使用されている公知のトナーを使用することができる。例えば、バインダー樹脂中に着色剤、および、必要に応じて荷電制御剤や離型剤等を含有させた上で、外添剤を処理させたものトナーとして使用できる。トナー粒径としては、これに限定されるものではないが、3〜15μm程度が好ましい。
さらにトナーには潤滑性外添剤を含んでいてもよい。潤滑性外添剤としては、特に限定されることなく、脂肪酸金属塩、シリコーンオイル、フッ素系樹脂等を用いることができる。これらの潤滑性外添剤を、単独または2種類以上を混合して用いることができる。特に、脂肪酸金属塩が好ましい。
脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、直鎖状の炭化水素が好ましく、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好ましく、ステアリン酸が一層好ましい。脂肪酸金属塩の金属としては、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、セリウム、チタン、鉄等が挙げられる。これらの中で、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸鉄等が好ましく、特に、ステアリン酸亜鉛が最も好ましい。
キャリアとしては、特に限定されず、一般に使用されている公知のキャリアを使用することができる。例えば、バインダー型キャリア、コート型キャリア等を使用できる。キャリア粒径としては、これに限定されるものではないが、15〜100μmが好ましい。
<F.本願発明者らによる新たな知見>
以下、本実施の形態に従う画像形成装置100が採用する本願発明者らの新たな知見について詳述する。
図5は、本願発明者らの新たな知見の主効果を検証するための原理実験に用いた評価装置を示す模式図である。図5に示すような評価装置を用いて、クリーニング性とトルクの関係を調査した。本明細書において、「トルク」は、像担持体である感光体1の回転駆動に必要なトルク(動トルク)を意味し、以下に説明するように、任意の方法で測定することができる。
一例として、図5の左側に示す機構においては、感光体1が図示しないモーターと接続されており、モーターの駆動トルクを測定するために、図示しないトルク測定器(共和電業社製 TP−10KCE)が接続されている。
感光体1には、クリーニングブレード5からなるクリーニング装置が取り付けられている。また、トナー像を現像するための現像部4が取り付けられ、感光体1に対し任意の電位差を与えられるようになっている。本評価では、感光体1とクリーニングブレード5との間のトルク(以下、「ブレードトルク」)に着目して評価するため、感光体1に対して、現像部4およびクリーニングブレード5以外の部材(例えば、転写ロータおよび帯電ローラ等)は配置されている。
また、滑材を塗布した場合の挙動も調査するため、図5の右側に示すような滑材供給部8を別途用意した。具体的には、滑材供給部8は、ステアリン酸亜鉛からなる滑材棒、ブラシ、均しブレード(均し部材9)を有しており、感光体1上に滑材を塗布できるようにした。
クリーニングブレード5は、ウレタンゴムからなる、反発弾性率が50%(25℃)、JIS A硬度が70°、厚さが2mm、自由長が10mmのものを用いた。また、感光体1に対する当接荷重が16N/mとなるように設定した。
図5に示す評価装置を用いて、クリーニング性および感光体1の駆動に要するブレードトルクを評価した。
クリーニング性については、一様な黒ベタ画像(付着量4g/m2)をクリーニングブレード5に対して供給し、クリーニングブレード5の通過後のトナー量を測定することによって定量化した。
トナー量については、クリーニングブレード5の通過後に感光体1上に残存しているトナーをPETテープによって剥離し、透過濃度を測定(サカタインクス社製 X−Rite 310にて測定)することで評価した。
ブレードトルクについては、現像部4に背景部相当の電圧(+200V)を印加し、白ベタ画像を画像形成したときに生じたモーターの駆動トルクを測定した。
クリーニングブレード5については、摩耗していないものと、ブレードエッジ摩耗幅40μmまで摩耗させたものとの2種類を試行した。また、摩耗させたものを用いた場合には、感光体1の表面に滑材を塗布したものについても試行した。感光体1上の滑材量は、図5の右側に示す機構を用い、滑材塗布の回数を変化させることによって変化させた。滑材を塗布した後、滑材塗布装置から感光体1を取り外し改めてクリーニング性およびブレードトルクを測定した。また、上述の実験において、周辺環境は、室温15°、湿度15%であった。
図6は、図5に示す評価装置を用いたクリーニング性およびブレードトルクの評価結果の一例を示す図である。図6において、塗りつぶしのプロット(摩耗無BL)は、クリーニングブレード5を摩耗させていない場合、白抜きのプロット(摩耗BL)は、クリーニングブレード5に摩耗を付与した場合の結果を示す。
図6のグラフの縦軸(CL指標(T.D.))は、クリーニング性を示す。図6の縦軸の値が小さいほどクリーニングブレード5をすり抜けたトナーが少ないことを示しており、値が小さいほどクリーニング性が良好であることを意味する。図6に示すグラフより、クリーニング性とブレードトルクとの間に、高い相関性が存在していることがわかる。
また、摩耗誤差を付与した場合、クリーニングブレード5を摩耗させることによってクリーニング性が低下するが、図6に示すように、滑材を塗布することによりクリーニング性が改善し、それに伴ってブレードトルクが上昇していることがわかる。すなわち、クリーニング性は、ブレードトルクを測定し、制御することができれば、望みの程度に制御できるということがいえる。
次に、上述の実験における、滑材を塗布した場合の滑材塗布量とブレードトルクとの関係についても調査した。
図7は、図6に示す評価結果に対応する滑材塗布量およびブレードトルクの評価結果の一例を示す図である。図7において、滑材塗布量については、ネル摩擦係数にて代用した。ネル摩擦係数は、HEIDON Tribogear 94iを用いて測定した。一般的に、滑材の塗布量が大きくなれば、ネル摩擦係数は低下する関係性が知られている。
図7に示すように、ブレード摩耗を付与することにより、ブレードトルクは減少する(図7の右端にある、塗りつぶしプロット(摩耗無BL)および白抜きプロット(摩耗BL)を参照)。
また、摩耗したクリーニングブレード5を用いた系でも、滑材を塗布することによって、トルクが上昇していることがわかる(図7の各プロットのトルク値は図6の各プロットのトルク値と対応している)。また、滑材を付与しない状態から順次その付与量を増加させることによって、ブレードトルクは一様に上昇していることもわかる。
上述の結果、すなわち、滑材量とブレードトルクとの間の密接な対応関係が生じる想定メカニズムについて、以下説明する。滑材を塗布することにより、感光体1表面の凹凸が埋まり平滑性が上昇する、または、かぶりトナーおよび外添剤と感光体1と間の摩擦力が低下する。これにより、クリーニングブレード5と感光体1との間を通過するトナーまたは外添剤が減少する。クリーニングブレード5と感光体1との間を通過するトナーまたは外添剤の粒子は、その転がり効果によって、ブレードトルクを低下させていると考えられる。すなわち、クリーニングブレード5と感光体1との間のトルクは転がり効果によって抑制されていたものが、転がり効果が減少することにより、クリーニングブレード5と感光体1との間の接触面積が増加し、ブレードトルクが増加しているものと考えられる。
このような想定メカニズムによって、滑材の塗布によってブレードトルクが一様に上昇していると考えられる。この想定メカニズムから、クリーニング性とブレードトルクとがよく対応することも妥当な結果であると考えられる。
上述の実験結果をまとめると、以下のような新たな知見が導かれる。
(1)ブレードトルクとクリーニング性とは密接な対応関係が存在する(図6)
(2)滑材量とブレードトルクと間には密接な対応関係が存在する(図7)
(3)滑材量を増やすことにより、ブレードトルクは一様に上昇する(図6および図7)
<G.処理の概要>
上述のような本願発明者らが見出した新たな知見に基づいて、以下のような制御を行なう。本実施の形態に従う画像形成装置100には、像担持体である感光体1の回転駆動に必要なトルクを測定する測定機能が実装されるとともに、感光体1に供給される潤滑剤の量を調整可能な制御機能が実装される。そして、以下に説明するような処理手順が実行される。
図8〜図10は、本実施の形態に従う画像形成装置100での処理の概要を説明するための模式図である。一般的には、ブレードトルクは摩耗とともに低下していき、クリーニング不良閾値を超えるまで減少すると、クリーニング不良が起きる、もしくはクリーニング不良が非常に起きやすくなる。一般的な設定としては、このような現象を見越して、図8に示すように、初期設定としてブレードトルク(クリーニング性)に余裕を持たせたものが採用される。
これに対して、本実施の形態に従う画像形成装置100では、ブレードトルクの減少を測定し、それに従って滑材の塗布条件を制御する。このことにより、クリーニング性が担保されたブレードトルクを常に維持することができる。すなわち、図9に示すように、従来の方法に比較して、より長期間にわたってクリーニング性を担保できる。すなわち、生じるブレードトルクが低ければ、感光体1上の滑材量を増やすように制御される。
一方、生じるブレードトルクが高ければ、クリーニングブレードの摩耗が促進される。そのため、摩耗にも配慮したブレードトルクに設定されることが好ましい。本実施の形態によれば、図10に示すように、ブレード摩耗を抑制しつつ、クリーニング性も担保した、最適な条件に常に設定されることも可能となる。言い換えれば、クリーニング性を担保しつつ、ブレードの寿命も延ばすことが可能となる。この場合にも、ブレードトルクが低ければ感光体1上の滑材量を増やすように制御され、逆にブレードトルクが高ければ感光体1上の滑材量を減少させるように制御される。
<H.処理手順>
次に、本実施の形態に従う滑材塗布条件を最適化する処理手順について説明する。図11は、本実施の形態に従う画像形成装置100において実行される滑材塗布条件を最適化する処理手順を示すフローチャートである。図11に示す各ステップは、典型的には、制御部50が予めインストールされた制御プログラムを実行することで実行される。
図11を参照して、制御部50は、画像形成の開始が指示されたか否かを判断する(ステップS100)。画像形成の開始が指示されていなければ(ステップS100においてNOの場合)、ステップS100以下の処理が繰り返される。
画像形成の開始が指示されていれば(ステップS100においてYESの場合)、制御部50は、プリントエンジン110での画像形成を開始する(ステップS102)。すなわち、プリントジョブがオンにされる。続いて、制御部50は、実施した画像形成によって印刷された枚数(プリント枚数)をカウントする(ステップS104)。
続いて、制御部50は、カウントアップ後のプリント枚数が規定値に到達したか否かを判断する(ステップS106)。カウントアップ後のプリント枚数が規定値に到達していなければ(ステップS106においてNOの場合)、ステップS100以下の処理が繰り返される。
カウントアップ後のプリント枚数が規定値に到達していれば(ステップS106においてYESの場合)、制御部50は、トルク測定モードに移行する(ステップS108)。トルク測定モードにおいて、制御部50は、感光体1に生じるトルクを測定する。続いて、制御部50は、取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲内であるか否かを判断する(ステップS110)。すなわち、制御部50は、所定の画像(典型的には、白ベタ画像)について画像形成しつつ、クリーニングブレード5が感光体1に当接している期間における、トルク測定機能により測定されるトルクが所定の目標範囲内であるか否かを判断する。
取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲内でなければ(ステップS110においてNOの場合)、制御部50は、取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲を下回っているか否かを判断する(ステップS112)。取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲を下回っていれば(ステップS112においてYESの場合)、制御部50は、滑材塗布量を増加させる(ステップS114)。すなわち、トルクの測定結果が、所定の下限閾値よりも低ければ、感光体1上の滑材量を多くするように滑材塗布条件を変更する制御を実施する。そして、ステップS110以下の処理が繰り返される。
一方、取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲を下回っていなければ(ステップS112においてNOの場合)、制御部50は、取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲を上回っているか否かを判断する(ステップS116)。取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲を上回っていれば(ステップS116においてYESの場合)、制御部50は、滑材塗布量を減少させる(ステップS118)。すなわち、トルクの測定結果が、所定の上限閾値よりも高ければ、感光体1上の滑材量を少なくするように滑材塗布条件を変更する制御を実施する。そして、ステップS110以下の処理が繰り返される。
また、取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲を上回っていなければ(ステップS116においてNOの場合)、ステップS110以下の処理が繰り返される。
このように、トルクの測定値が所定のトルク範囲内に入るように、滑材塗布条件が随時変更される。すなわち、制御部50は、測定されるトルクが目標範囲を超えているときに、感光体1に供給される滑材が少なくなるように滑材の塗布条件を変更する一方で、測定されるトルクが目標範囲を下回っているときに、感光体1に供給される滑材が多くなるように滑材の塗布条件を変更する。
そして、取得されたトルクの測定値が所定の目標範囲内であれば(ステップS110においてYESの場合)、制御部50は、現在の滑材塗布条件を新たな画像形成時の滑材塗布条件として更新する(ステップS120)とともに、プリント枚数をリセットする(ステップS122)。そして、ステップS100以下の処理が繰り返される。
すなわち、測定されるトルクが所定の範囲内に入るまで、トルク測定および滑材塗布条件の制御とが繰り返される。そして、この繰り返しの処理の結果によって決定される滑材塗布条件が、画像形成時(印刷時)の条件としてフィードバックされる。この一連の動作が完了すると、画像形成動作(印刷動作)が再開される。なお、画像形成(印刷)を終了する際には、終了指令が適宜発行される。
以上のような処理手順によって、本実施の形態に従う画像形成装置100における滑材塗布条件が最適化される。
なお、上述のステップS112〜S118の処理を所定回数実施したとしても、トルクの測定値が所定の目標範囲内に入らない場合には、クリーニングブレード5の寿命と判断してもよい。この場合には、クリーニングブレード5の交換をユーザに通知する、または、クリーニングブレード5またはクリーニングブレード5を含むイメージングユニットが交換されるまで、画像形成処理を禁止するようにしてもよい。このような処理を実装することで、クリーニング不良に起因する不具合を未然に防止できる。
なお、滑材量調整を行なっても、所定の下限閾値を超えるまでトルクの測定値が増加しない場合には、滑材塗布量を最大に設定し、画像形成処理(印刷処理)を続行するようにしてもよい。
上述の感光体1に供給される滑材量の調整(滑材塗布量の増加(ステップS114)および滑材塗布量の減少(ステップS118))の具体的な手法については、後述の<K.滑材塗布量の制御方法について>にて詳述する。
図11には、本実施の形態に従う滑材塗布条件を最適化する処理の典型的な処理手順を示すが、これらの処理手順に対して、後述する各種の要素または公知の要素を適宜組み合わせてもよい。
<I.トルク目標値および制御範囲の設定方法>
次に、上述の制御手順において用いられるトルク目標値および制御範囲の設定方法について説明する。
感光体1を回転させる際に必要な駆動トルクの大きさは、感光体1の組成、機器サイズ、駆動系等に影響を受ける。そのため、トルク目標値および制御範囲の絶対値を一意に決定するのではなく、画像形成装置100の機種等に応じて、クリーニング性および摩耗程度を考慮して設定することが好ましい。
(i1:設定方法その1)
トルク目標値の設定方法の一例として、クリーニングブレード5の交換直後、または、感光体1を含むドラムユニットを交換直後に、トルクを測定し、当該トルクの測定値を基準として上記の制御に必要な目標値または目標範囲を設定すればよい。すなわち、上述の制御に用いられる所定の目標範囲は、感光体1およびクリーニングブレード5の少なくとも一方の交換後の初期段階において測定されたトルクに基づいて決定することが好ましい。
通常、クリーニングブレードおよび/またはドラムユニットを交換直後のユニット耐久初期においては、クリーニング性が十分に担保されている状態であると考えられるからである。また、本実施の形態に従う制御方法によれば、機体差、クリーニングブレードの個体差、感光体の個体差等があっても、クリーニング性の担保されたトルクに精度よく制御することができる。
(i2:設定方法その2)
トルク目標値の設定方法の別の一例として、クリーニングブレードの交換後、または、ドラムユニットを交換後に、一定期間にわたって(または、一定枚数の)印刷を行なった後に測定されたトルクを初期のトルクとし、当該初期のトルクを基準として上記の制御に必要な目標値または目標範囲を設定すればよい。初期のドラムユニットにおいては、クリーニングブレードのエッジの急峻な摩耗または欠け、クリーニングブレードの姿勢変動、出荷時に塗布したオイルの影響、といったいくつかの変動要因があり、トルク変動が大きい。そのため、交換直後においては、必ずしも好ましい状態(クリーニング性および摩耗を両立した状態)とはなっていない可能性があるためである。
そこで、クリーニングブレードが好ましい状態(すなわち、急峻なトルク変動が収まった定常状態)になっていることを確認するためには、新品のドラムユニットまたは新品のクリーニングブレードユニットを装着し、印刷開始からの感光体トルクを測定し、トルクの変化率(今回の測定値/前回の測定値)が閾値以内に収まった時点のトルクを目標トルクと設定すればよい。すなわち、感光体1およびクリーニングブレード5の少なくとも一方の交換後、測定されるトルクの変動率が所定範囲に収束したときのトルクに基づいて、所定の目標範囲を決定することが好ましい。
<J.トルクの測定方法>
次に、本実施の形態に従う制御方法を実施するために必要なトルクの測定方法について説明する。
例えば、感光体1の駆動軸にトルク計を装着し、その出力値をモニターすることで、感光体トルクを測定することができる。すなわち、画像形成装置100に実装されるトルク測定機能は、感光体1を回転駆動するモーターの電流値に基づいてトルク(動トルク)を測定してもよい。
別の方法として、感光体1を駆動するモーターに流れる電流値をモニターすることで、感光体トルクを算出してもよい。モーターに流れる電流値をモニターする構成を採用することで、装置の大型化およびコストアップをすることなく、感光体トルクを測定することができる。
トルクを測定する際には、必要な部材以外は感光体1から離間させておくことが好ましい。すなわち、所定の目標範囲内に入っているか否かの判断に用いられるトルクは、クリーニングブレード5以外の部材の少なくとも1つを感光体1から離間した状態で測定された値であることが好ましい。
より具体的には、クリーニングブレード5および現像部4以外は感光体1から離間しておくことが好ましい。すなわち、クリーニング部材および現像部4を構成する部材以外を感光体1から離間した状態で測定されたトルクを用いて、所定の目標範囲内に入っているか否かを判断することが好ましい。これは、上述したような本願発明者らの新たな知見は、主として感光体1とクリーニングブレード5との間のトルクに基づいており、実際の制御においても、感光体1とクリーニングブレード5との間に生じるトルクのみを測定することが好ましい。ここで、感光体1に、クリーニングブレード5以外の部材(例えば、転写ユニットおよび帯電ローラー等)が接触していると、その部材に由来するトルク成分も一緒に測定されてしまう。
そのため、最も好ましい形態としては、制御に必要なトルクを取得するために、クリーニングブレード5のみを感光体1に接触する状態で測定することが好ましい。すなわち、クリーニングブレード5以外の部材を感光体1から離間した状態で測定されたトルクを用いて、所定の目標範囲内に入っているか否かを判断することが好ましい。
また、トルクを測定する際には、形成する所定の画像として白ベタ画像を用いることが好ましい。感光体1上にトナー像を形成すると、測定されるトルク値に、トナーに起因するトルク成分が加わり、誤差要因となるためである。
また、トルクを測定する際には、感光体1上の滑材以外のトルク変動要因を除去しておくことが好ましい。画像形成時には、帯電部2から放出される放電生成物等が感光体1に付着する。この放電生成物は、水分と結合して低抵抗成分となり、像ボケの原因となるほか、滑材および感光体1表面を変質させることで、異常なトルク上昇の原因にもなり得る。そのため、これらの誤差要因を取り除いた状態でトルクを測定および調整することにより、クリーニング性を目的の状態により正確に制御できる。このようなトルク変動要因を除去する方法として、いわゆるリフレッシュモードを実施することが好ましい。感光体1に対するリフレッシュモードの方法としては、種々の手法が提案されており、必要に応じた手法を採用すればよい。例えば、現像部4からトナーを供給し、クリーニングブレード5にてクリーニングを行なうモードを設けることで、感光体1上の放電生成物を取り除くことができる。また、その際、転写電界等を制御し、クリーニングブレードにトナーをより多く供給するようにすると、除去効果を高めることができる。このように、感光体1の表面にある付着物を除去するためのリフレッシュモードを実施した後に、トルク測定を実施することが好ましい。
さらに、上述のようなリフレッシュモードを実施した後、トルク測定をする場合には、基準画像を規定枚数印刷した後を行なうことが好ましい。すなわち、リフレッシュモードの実施後、所定枚数の基準画像を出力した後にトルク測定を実施することがさらに好ましい。本実施の形態に従う制御方法は、画像形成中に生じるブレードトルクを所定の目標範囲内に制御することである。そのため、ブレードトルクを評価する際は、できるだけ画像形成中と同じ状態とするのが好ましい。このとき、なるべく放電生成物の影響を除くことがより好ましい。
一方、感光体1に対するリフレッシュモードを実施した後、ブレードトルクを調整するのであるが、そのブレードトルクの値は画像形成中のものとは正確に対応しない可能性がある。なぜならば、画像形成中は、滑材塗布機構からの滑材の供給のほか、クリーニングブレード5に供給されたトナーによる滑材の回収、および、現像部4による滑材の回収も生じており、そのバランスに依存して感光体1上の滑材量が決定されるからである。このため、基準画像(例えば、軸方向全域にわたって形成される横帯パターン)を規定枚数印刷し、その後にトルク測定を行なうようにすれば、画像形成中に相当するブレードトルクを測定できる。
また、トルク測定時に伴って生じる画像形成については、実際の紙面上に印刷してもよいが、中間転写あるいは2次転写の電圧を調整し、トナーが紙に到達する前に感光体1または中間転写体のクリーニングブレードでトナー像を回収してもよい。このようにすれば、調整時に用紙を使用せずに済み、コストを削減できる。
また、感光体1に現像部4を接触させた状態でトルク測定する場合には、帯電部2の出力をオフにし、感光体1とのバイアス現像にて行なうとよい。すなわち、帯電部2による帯電の出力をオフした状態で測定されたトルクを用いて、所定の目標範囲内に入っているか否かを判断することが好ましい。このような方法を採用することで、トルクを測定する際にも、放電生成物の発生およびその影響を回避できる。なお、このような操作は、上述の基準画像を印刷する際にも適用するようにしてもよい。
また、トルクを測定する際には、少なくとも感光体1のトルクを1周以上にわたって測定することが好ましい。より具体的には、感光体1のトルクを1周以上にわたって測定した平均値を測定値として出力するようにしてもよい。これは、感光体1上の異常点(例えば、傷等)の影響を緩和するため、および、感光体1の偏心による影響を除くためである。
<K.滑材塗布量の制御方法について>
次に、感光体1に滑材を塗布する量の制御方法について説明する。以下では、トナーに滑材が添加されている場合を例に説明する。
現像剤中において滑材の大部分はトナー粒子に付着して存在する。但し、その一部の滑材は、トナーに付着せず現像剤中に遊離した状態で存在している。そのような状態で現像剤が現像部4に運ばれると、画像部ではトナーが感光体1上に現像され、滑材もトナーに付着して感光体1上に運ばれる。通常、滑材は、トナーとは逆極性に帯電しているため、現像剤中に遊離している滑材およびトナーに付着している滑材の一部は、画像部だけでなく背景部にも付着する。
その後、感光体1が中間転写体に当接し、中間転写体に印加された電圧によりトナーは中間転写体に転写される。転写部での電界は、滑材を感光体1側に押し付ける電界であり、トナーに付着した滑材はトナーから離脱して感光体1側に残存することになる。
トナーと滑材とは、互いに逆極性に帯電しているため、トナーが移動する電界とは逆の電界を印加すれば、感光体1上への滑材供給量は増加する。また、トナーが移動する電界を印加した場合においても、その電界強度が弱い方が感光体1への滑材供給量は大きくなる。
このような動作原理を考慮すると、滑材がトナーに添加されている場合には、以下のような方法で、感光体1上の滑材量を有効に制御できる。
(1)現像電位差を制御する
現像電位差を低下させることで、感光体1に供給される滑材量は増加し、逆に、現像電位差を増加させることで、感光体1に供給される滑材量は減少する。但し、トナー移動とは逆の電界を印加する場合には、現像電位差が増加させることで、感光体1に供給される滑材量は増加し、逆に、現像電位差が低下させることで、感光体1に供給される滑材量は減少する。このように、制御部50は、現像部4によって与えられる現像電位差(現像バイアス)を制御することで、滑材の塗布条件を変更する。
(2)転写電位差を制御する
転写電位差を増加させることで、感光体1に供給される滑材量は増加し、逆に、転写電位差を低下させることで、感光体1に供給される滑材量は減少する。このように、制御部50は、転写装置(転写手段)によって与えられる転写電位差(転写バイアス)を制御することで、滑材の塗布条件を変更する。
現像電位差および転写電位差の両方を制御するようにしてもよい。さらに、トナーに添加する滑材量を増加させることで、感光体1に供給される滑材量を増加させることもできる。
現像電位差および転写電位差については、これらの動作を通常の画像形成の間に実施されるパッチ形成において適用すると、画像形成条件に直接影響することなく感光体1上の滑材量を制御することが可能となる。
例えば、画像形成の間にパッチを形成する際、現像電位差を通常の画像形成時よりも小さくすれば、感光体1上への滑材の移行量は増加する。また、転写電位差を通常の画像形成時よりも大きくすれば、感光体1上の滑材量は増加する。
<L.滑材供給部8からの滑材供給>
滑材塗布機構から滑材を供給する場合、滑材供給量の調整方法として、供給部材の回転速度を変化させることが有効である。図2に示す滑材供給部8を例にとると、供給部材として塗布ブラシ81が設けられている。
一例として、塗布ブラシ81の回転方向が感光体1に対してカウンター回転している場合について説明する。塗布ブラシ81の回転速度を上げると、単位時間当たりの感光体1および滑材棒に対する接触回数が増加する。これにより、塗布ブラシ81が滑材棒から滑材を単位時間当たりに掻きとる量、および、感光体1に移行させる単位時間当たりの回数が増加し、結果として感光体1上に移行する滑材の量が増加する。感光体1に対して塗布ブラシ81がウィズ回転している場合でも、同様の関係が成立する。
また、滑材供給量の調整方法として、滑材棒の塗布ブラシ81に対する押圧力を変化させてもよい。この場合、塗布ブラシ81が滑材棒から滑材を単位時間当たりに掻きとる量が増加し、結果として感光体1上への滑材供給量が増加する。また、滑材塗布機構によって滑材を塗布する場合、現像部4が感光体1上の滑材を掻きとることにより、現像部4への滑材の混入が生じ得る。そのため、印刷枚数の積算値を考慮して、滑材の現像部4への混入が生じているようであれば、トナーに滑材が添加されている場合の制御を併用してもよい。
また、滑材塗布機構と滑材へのトナー添加とを併用した場合、上述した二つの制御方法はいずれも適用できる。さらに、上述した制御方法以外にも、感光体1への滑材塗布量の制御に対して有効な方法は、本実施の形態に従う制御方法にも適用可能である。
<M.効果確認実験>
上述した本実施の形態に従う画像形成装置100によるクリーニング性の効果を確認するいくつかの実験(実施例1〜3および比較例1〜4)を行なった結果を以下に示す。
具体的な実験の手順としては、実施例、比較例ともに図2に示す画像形成装置をベースに、A4の横帯パターン(5%)を連続通紙させて、クリーニングブレードの寿命を評価した。具体的には、10kp(10000枚)ごとにハーフ画像を出力し、クリーニングブレードの拭き残し由来であるスジの発生を評価し、顕著なスジが発生した時点でブレードの寿命とした。
具体的な装置構成としては、図2または図4に示す構成に従って、感光体1、現像部4、転写装置、クリーニングブレード、トナー等を以下のように構成を採用した。ベースとなる画像形成装置としては、KONICA MINOLTA社製 bizhub PRESS C1000を改造したものを用いた。
(1)感光体1
感光体1としては、アルミニウムからなるドラム状の金属基体の外周面に、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ25μmの感光層が形成された直径80mmの有機感光体を用いた。感光体1は、400mm/secで回転させた。
(2)現像部4
現像部4としては、線速度600mm/minで回転駆動される現像スリーブを有し、この現像スリーブに感光体1の表面電位と同極性のバイアス電圧が印加され、二成分現像剤によって反転現像が行われるものを用いた。
(3)転写装置
転写装置中間転写体として導電性を付与したポリイミド樹脂からなる無端状のベルトを用い、ベルトを介して感光体1に圧接させ、トナーの帯電極性とは逆極性の電圧を印加する転写ローラーを設けたものを用いた。
(4)クリーニングブレード5
クリーニングブレード5としては、ウレタンゴムからなる反発弾性率が50%(25℃)、JIS A硬度が70°、厚さが2mm、自由長が10mm、幅が324mmのものを用いた。クリーニングブレード5について、感光体1に対する当接荷重は条件ごとに変化させ、当接角は15°となるように設定した。
(5)トナー
二成分現像剤を構成するトナーとして、乳化重合法により製造された体積平均粒径が6.5μmのトナー粒子のものを用いた。トナーには負帯電性を付与した。トナー粒子に滑材を添加する場合、そのトナー粒子にステアリン酸亜鉛を添加したものを使用した。詳細は、上述の<E.現像剤>において説明したので、ここでは繰り返さない。
(6)滑材棒
図2に示す滑材供給部8を配置した場合として、滑材棒からブラシで滑材を掻きとって感光体1に移行させる機構を採用した。ブラシの形状としては直毛形状のものを使用し、滑材棒としてはステアリン酸亜鉛を圧縮成型したものを用いた。また、均しブレード(均し部材9)として、クリーニングブレード5と同様の物性のものをトレール方向に圧接するように配置した。線圧は20N/m、当接角は50°とした。また、ブラシは、感光体1に対してカウンター方向に回転するようにした。
効果確認実験の結果を下表に示す。
上表において、比較例1〜比較例4は、本実施の形態に従う制御を適用しない場合のクリーニング性を評価する実験であり、図2または図4に示すイメージングユニット10の機構を採用した。具体的には、以下の通りである。
比較例1においては、図4に示す機構を用い、トナーに滑材を重量比0.2部添加したものを用いた。また、ブレード圧は30N/mとした。このときの初期トルクは200mN/mであった。
比較例2においては、図2に示す機構を用い、塗布ブラシの感光体1に対する周速比を0.4とした。また、ブレード圧は30N/mとした。このときの初期トルクは400mN/mであった。
比較例3においては、図4に示す機構を用い、トナーに滑材を重量比0.2部添加したものを用いた。また、ブレード圧は24N/mとした。このときの初期トルクは160mN/mであった。
比較例4においては、図2に示す機構を用い、トナーに滑材を重量比0.2部添加したものを用いた。また、ブレード圧は24N/mとした。このときの初期トルクは320mN/mであった。
なお、初期トルクは、5kp(5000枚)経過時点での、基準画像(白ベタ画像)を画像形成したときに生じたブレードトルクを測定したものである。初期トルクの測定時には、現像部4およびクリーニングブレード5を除くその他の部材を感光体1から離間するように制御した。
実施例1〜実施例3は、本実施の形態に従う制御によるクリーニング性を評価する実験であり、図2または図4に示すイメージングユニット10の機構を採用した。具体的には、以下の通りである。
実施例1においては、図4に示す機構を用い、トナーに滑材を重量比0.2部添加したものを用いた。また、ブレード圧は30N/mとした。このときの初期トルクは200mN/mであった。この初期トルクを基準として、本実施の形態に従う制御ロジックに従って現像条件および転写条件を制御した。
実施例2においては、図2に示す機構を用い、滑材が添加されていないトナーを用いた。塗布ブラシの感光体1に対する周速比を0.4とした。また、ブレード圧は30N/mとした。このときの初期トルクは400mN/mであった。この初期トルクを基準として、本実施の形態に従う制御ロジックに従って現像条件および転写条件を制御した。
実施例3においては、図4に示す機構を用い、トナーに滑材を重量比0.2部添加したものを用いた。また、ブレード圧は24N/mとした。このときの初期トルクは160mN/mであった。この初期トルクを基準として、本実施の形態に従う制御ロジックに従って現像条件および転写条件を制御した。
実施例1〜実施例3において、トルク目標値は、初期トルクに対して±10%と設定した。閾値の範囲(初期トルクに対して±10%)に対してトルクが低下し、閾値の範囲に入らなくなった場合、滑材供給条件を最大として印刷を続行するようにした。また、トルク測定および供給条件の制御は、10kp(10000枚)ごとに行なうようにした。このとき、10kp(10000枚)ごと経過時点での、基準画像(白ベタ画像)を画像形成したときに生じたブレードトルクの測定値を用いた。
上述の効果確認実験に結果、比較例1〜比較例3のブレードについては、いずれも目標には届かないレベルであった。これは、本実施の形態に従う制御ロジックを適用していないため、クリーニングブレードのエッジ摩耗によってクリーニング性が低下したためと考えられる。また、比較例3および比較例4においては、エッジ摩耗を低減するため、ブレード圧を低く設定したが、逆にクリーニング性が悪化し寿命は短くなったという結果が示される。
これらの比較例に対して、実施例1〜実施例3においては、比較例と同様の構成であっても、クリーニングブレード5の長寿命化を図ることができた。すなわち、画像形成装置の長期駆動時の信頼性を向上できることを意味する。
特に、ブレード圧を低く設定した実施例3においては、比較例3および比較例4ではかえって短寿命化したのに対し、長寿命化に成功している。これは、トルクを小さく(すなわち、摩耗速度を小さく)保ったため、ブレード摩耗を抑制しつつ、クリーニング性も維持できている結果を意味すると考える。
<N.まとめ>
上述したように、本願発明者らは、その鋭意研究の結果、クリーニング性が、クリーニングブレードを感光体に圧接した際に生じる駆動トルク(感光体−クリーニングブレード間のトルク)と密接な関係があることを見出した。また、本願発明者らは、そのトルクは感光体上の滑材量によって制御可能であることを見出した。さらに、本願発明者らは、滑材量とトルクは密接に対応しており、滑材量を上げればトルクは上がる、滑材量を下げればトルクは下がるという関係性も見出した。
このような新たな知見に基づいて、感光体上への滑材の塗布量を制御することで画像形成中の感光体に生じるトルクを適切な値に維持する。これにより、クリーニング性を保ち、クリーニングに対する長期の信頼性を担保できる。すなわち、トルクを測定する機能を採用し、画像形成中に生じるトルクが所定の目標範囲内に維持されるように、印刷時の滑材の塗布条件を随時更新することで、初期段階でのクリーニング性を保ちつつ、長期のクリーニング信頼性向上を実現する。
このように、画像形成中に生じるトルクが所定の目標範囲内に維持されるように、画像形成中の感光体1への滑材塗布量を制御することで、クリーニングブレードの摩耗度合いによらず、安定してクリーニングを行なうことができ、信頼性を向上できる。
また、ドラムユニットまたはクリーニングブレードを交換した直後に生じる初期トルクに合わせこむように、画像形成中の感光体1への滑材塗布量を制御することで、画像形成装置の機差によらず、安定してトルク制御を行なうことができ、その結果、安定したクリーニングを行なうことができ、信頼性を向上できる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。