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JP6354274B2 - 熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

熱延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、熱延鋼板に関するおよびその製造方法に関する。
近年、自動車の燃費向上をはじめとした各種鋼板の軽量化を目的として、鉄合金等の鋼板の高強度化、Al合金等の軽金属の適用などが進められている。しかし、Al合金等の軽金属は、鋼等の重金属と比較して、比強度が高いという利点があるものの、著しく高価であるという欠点があるため、その適用は特殊な用途に限られている。従って、各種鋼板の軽量化をより安価でかつ広い範囲で推進するためには、鋼板の高強度化が必要とされる。
鋼板の高強度化は、一般的に成形性(加工性)等の材料特性の劣化を伴う。このため、高強度鋼板の開発においては、材料特性を劣化させずに、高強度化を図ることが重要となる。特に、内板部材、構造部材、足廻り部材等の自動車部材として用いられる鋼板は、伸びフランジ加工性、バーリング加工性、延性、疲労耐久性及び耐食性等が求められ、これら材料特性と高強度性とを如何に高次元でバランス良く発揮させるかが重要である。例えば、車体重量の約20%を占める構造部材や足廻り部材等の自動車部材に用いられる鋼板は、せん断加工、打ち抜き加工などによりブランキング、穴開けなどを行った後、伸びフランジ加工、バーリング加工などを主体としたプレス成形が施されるために、非常に厳しい穴拡げ性(λ値)が求められる。
このような部材に対して用いられる鋼板では、せん断加工、打ち抜き加工によって形成された端面に疵、微小割れなどが発生し、これら発生した疵、微小割れなどよりき裂が進展し疲労破壊に至ることが懸念される。このため、上記鋼材の端面においては、疲労耐久性を向上させるために疵、微小割れなどを生じさせないことが必要とされている。これらの端面に発生した疵、微小割れなどとして、端面の板面と平行に割れが発生する。この割れを「はがれ」と呼んでいる。この「はがれ」は、特に540MPa級の鋼板では、約80%程度、780MPa級の鋼板ではほぼ100%発生する。また、この「はがれ」は、穴拡げ率とは相関無く発生する。例えば、穴拡げ率が50%でも、100%でも発生する。
例えば、穴拡げ性(λ値)に優れる鋼板としては、Ti、Nb等の微細析出物により析出強化されたフェライト主相の鋼板とその製造方法が報告されている。
特許文献1では、質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.08%以下、S:0.005%以下、Al:0.015〜0.050%、Ti:0.10%〜0.30%を含有し、方位差15°以上で囲まれた粒の平均粒径が5μm以下のフェライトを主体としたフランジ性に優れた高強度熱延鋼板とその製造方法が開示されている。また、特許文献2および3では、Moを添加し析出物を微細化することで高強度でありながら優れた伸びフランジ性を達成する高張力熱延鋼板の技術が開示されている。
特開2002−105595号公報 特開2002−322540号公報 特開2002−322541号公報
特許文献1に記載された熱延鋼板の製法では、TiCの整合析出を回避するため、500℃超〜600℃未満では巻き取り処理できないという問題を有している。
特許文献2、3に記載された熱延鋼板およびその製法では、高価な合金元素であるMoを0.07%以上添加することを必須としているため製造コストが高いという問題点がある。
更に、本発明者らの追試によると、引用文献2または3の化学組成の鋼では、打抜き後に「はがれ」が発生し、これらの文献に記載された技術では、せん断加工、打ち抜き加工などにより形成された端面での疵、微小割れを完全に抑制することができない。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、高強度でありながら優れた加工性を有する、すなわち、穴拡げ性に優れる高強度熱延鋼板を提供することを目的とする。本発明は、また、穴拡げ性に優れる高強度熱延鋼板を安価で安定して製造できる製造方法を提供することを目的とする。
なお、「穴拡げ性に優れる」とは、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の穴拡げ試験方法において、500MPa級の鋼板では150%以上の穴拡げ率、780MPa以上の鋼板では80%以上の穴拡げ率を達成できることを意味する。「耐はがれ性に優れる」とは、上記の穴拡げ試験方法後に破断面割れが無いことを意味する。
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
1)セメンタイトの析出を抑制し、かつ固溶Cを確保することで、優れた耐「はがれ」性と優れた穴拡げ性を両立することができる。
2)Siを極力少なくすることで変態温度が低下し、鋼板強度の変動をもたらす高温域でのTiC析出を抑制することが可能である。
3)Crを必須元素とすることで、穴拡げ性を劣化させる粗大かつアスペクト比の大きなセメンタイトの析出を抑制できるとともに、固溶Cが確保できる。
4)またCrを含有させることで、TiC中へCrが固溶して微細な複合炭化物の析出量が増加し、析出強化できる。
5)鋼板の製造において、粗圧延と仕上げ圧延の温度と圧下率をある範囲に制限するとともに、巻き取り開始から450℃までの冷却速度範囲を制御することで、TiCのサイズと数密度を適正化でき、巻き取り開始温度が500〜650℃の範囲であっても、鋼板の強度、穴拡げ性および耐「はがれ」性をともに高めることができる。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、下記の熱延鋼板およびその製造方法を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.3%以下、Mn:0.4〜3%、P:0.1%以下、S:0.03%以下、Al:0.001〜1%、N:0.01%以下、Cr:0.05〜1%、Nb:0.003〜0.05%、Ti:0.003〜0.2%、Cu:0〜1.2%、Ni:0〜0.6%、Mo:0〜1%、V:0〜0.2%、Ca:0〜0.005%、REM:0〜0.02%、B:0〜0.002%、残部:Feおよび不純物であり、下記(1)式および(2)式の関係を満足し、
金属組織中に、面積割合が1%以下、かつ平均粒径が2μm以下であるセメンタイトを有し、該セメンタイト中のCr濃度が平均で0.5〜40質量%であり、該セメンタイトのうち、粒径が0.5μm以下、かつアスペクト比が5以下であるセメンタイトの全セメンタイトに占める面積割合が60%以上であり、TiとCrの複合炭化物の平均粒径が10nm以下、数密度が1×1013個/mm以上であり、
引張強度が500MPa以上であり、穴拡げ性および耐はがれ性に優れる熱延鋼板。
0.005≦[Si]/[Cr]≦2・・・(1)
0.5≦[Mn]/[Cr]≦20・・・(2)
ただし、上記式中の[Si]、[Cr]および[Mn]は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)前記化学組成が、質量%で、Cu:0.2〜1.2%、Ni:0.1〜0.6%、Mo:0.05〜1%、V:0.02〜0.2%から選択される1種以上を含有する、上記(1)の熱延鋼板。
(3)前記化学組成が、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%および/またはREM:0.0005〜0.02%を含有する、上記(1)または(2)の熱延鋼板。
(4)前記化学組成が、質量%で、B:0.0002〜0.002%を含有する、上記(1)〜(3)のいずれかの熱延鋼板。
(5)亜鉛めっきが施されている、上記(1)〜(4)のいずれかの熱延鋼板。
(6)下記工程(A)〜(E)を備える、上記(1)〜(4)のいずれかの熱延鋼板の製造方法。
(A)上記(1)〜(4)のいずれかの化学組成を有する鋼塊または鋼片を1150〜1280℃に加熱する工程、
(B)加熱された鋼塊または鋼片に、1050℃以上の温度域で、かつ累積圧下率が40%以上となる条件で粗圧延を行い、粗バーを得る工程、
(C)粗バーに、仕上げ圧延開始温度:1000℃以上、累積圧下率:70%以上かつ最終パスの圧下率:3〜25%、仕上げ圧延終了温度:820〜980℃を満足する条件で、仕上げ圧延を行い、鋼板を得る工程、
(D)得られた鋼板を、15℃/秒超の平均冷却速度で、500〜650℃の温度域まで冷却する工程、
(E)、冷却された鋼板を、450℃までの平均冷却速度が0.008〜1.0℃/秒となる条件で巻き取る工程。
(7)前記(C)の工程を、下記式を満足する条件で行う、上記(6)の熱延鋼板の製造方法。
Figure 0006354274
ただし、上記式中の各記号の意味は次の通りである。
[Nb]:Nbの含有量(質量%)
[Ti]:Tiの含有量(質量%)
t:最終圧延パスの1つ前の圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までの時間(秒)
T:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了温度(℃)
(8)巻き取り後の鋼板を酸洗した後、亜鉛めっき浴中に浸積させて鋼板表面を亜鉛めっきする、上記(6)または(7)の熱延鋼板の製造方法。
(9)亜鉛めっき後の鋼板を合金化処理する、上記(8)の熱延鋼板の製造方法。
本発明によれば、穴拡げ性に優れる高強度熱延鋼板を提供することができる。この鋼板は、厳しい加工性および穴拡げ性が要求される部材に用いるのに適している。また、本発明によれば、500MPa級以上、更に780MPa級以上の鋼板グレードであり、かつ穴拡げ性および耐「はがれ」性に優れる高強度熱延鋼板を安価で安定して製造できる。このため、本発明は工業的価値が高い。
以下に、本発明を実施するための形態として、穴拡げ性に優れる高強度熱延鋼板(以下、単に「熱延鋼板」という。)について詳細に説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
1.熱延鋼板の化学組成
C:0.01〜0.1%
Cは、Nb、Ti等と結合して鋼板中で析出物を形成し、析出強化により強度向上に寄与する元素である。Cの含有量は、0.01%未満では、その効果を得ることができず、また、0.1%を超えると、穴拡げ加工時の割れの起点となる鉄系炭化物が増加し、穴拡げ値が劣化する。このため、Cの含有量は、0.01〜0.1%とした。Cの含有量は0.08%以下であることが好ましく、0.07%以下とすることがより好ましい。Cの含有量の下限は、0.03%とすることが好ましい。
Si:0.3%以下
Siは、材料組織中におけるセメンタイト等の鉄系炭化物の析出を抑制し、延性および穴拡げ性の向上に寄与する効果があるが、その含有量が過剰な場合、フェライト変態が生じ易くなり、これに伴い高温域でTiCが析出し易くなる。高温域での析出は、析出量のばらつきを生じ易く、結果として強度や穴拡げ性等の材質変動をもたらす。また高温域での析出は粒界の固溶C量を減少させ、耐はがれ性を劣化させる。したがってSi含有量は0.3%以下とした。Si含有量は、0.1%以下とするのが望ましい。このように、Si含有量を低減しているので、鉄系炭化物の析出を抑制するためには、NbおよびTiの含有、ならびに、製造プロセスの限定が必要となる。これらについては後述する。Si含有量の下限は、特に規定しないが、ウロコ、紡錘スケールといったスケール系欠陥の発生を抑制する場合には、Si含有量は0.01%以上とするのが好ましい。より好ましいSi含有量は、0.03%以上である。
Mn:0.4〜3%
Mnは、固溶強化及び焼入れ強化により強度向上に寄与する元素である。Mn含有量が0.4%未満ではこの効果を得ることができず、Mn含有量が3%を超えると、この効果が飽和するばかりでなく、過度に焼入れ性が高まり穴拡げ性に優れる連続冷却変態組織の形成が困難となる。このため、Mn含有量は、0.4〜3%とした。焼入れ性を向上させて穴拡げ性に優れる連続冷却変態組織の形成を容易にするには、Mnは0.5%以上含有させるのが好ましく、0.6%以上含有させることがより好ましい。Mnの好ましい上限は2.4%である。
P:0.1%以下
Pは、鋼の精錬時に不可避的に混入する不純物であり、粒界に偏析し、含有量の増加に伴い靭性を低下させる元素である。このため、P含有量は、低いほど望ましく、0.1%を超えると、加工性および溶接性に悪影響を及ぼすので、0.1%以下とした。特に、穴拡げ性および溶接性を向上させるためには、P含有量は、0.02%以下とすることが望ましく、0.015%以下とすることが更に望ましい。Pの下限は特に定めないが、過剰な低減は製造コストを劣化させるので、0.005%以上とするのが好ましい。
S:0.03%以下
Sは、鋼の精錬時に不可避的に混入する不純物であり、含有量が多すぎると、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、穴拡げ性を劣化させるA系介在物を生成させる。このため、S含有量は、極力低減させるべきであるが、0.03%までは許容できる。穴拡げ性を向上させるためには、0.01%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。Sの下限は特に定めないが、過剰な低減は製造コストを劣化させるので、0.001%以上とするのが好ましい。
Al:0.001〜1%
Alは、鋼板の製鋼工程における溶鋼脱酸に有効な元素であり、0.001%以上含有させる。その含有量が過剰な場合にはコストの上昇を招くため、その上限は1%とした。Alは、非金属介在物を増大させ延性および靭性を劣化させることがあるので、Alの含有量は0.10%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。Al含有量の下限は、0.01%以上とすることが好ましい。
N:0.01%以下
Nは、鋼の精錬時に不可避的に混入する不純物であり、Ti、Nb等と化合して窒化物を形成する元素である。この窒化物は、比較的高温で析出して粗大化しやすく、穴拡げ加工時の割れの起点となる恐れがある。また、この窒化物は、後述するようにNb、Tiを有効活用するためには少ない方が好ましい。従って、Nの含有量は0.01%以下とした。本発明の熱延鋼板を時効劣化が問題となる部材として使用する場合、N含有量は0.006%以下とすることが好ましい。これは、これを超える含有は時効劣化を著しくさせるからである。また、本発明の熱延鋼板を製造後二週間以上室温で放置した後、加工に供することを前提とする部材として使用する場合、N含有量は0.005%以下とするのが好ましく、0.004%以下とするのがより好ましい。時効劣化対策のためである。更に、本発明の熱延鋼板を、高温環境下で放置させるような部材(たとえば、夏季の高温環境下で放置される部材、船舶等による輸出時に赤道を越えるような部材)として使用する場合、N含有量は0.003%未満とすることが好ましい。Nの下限は特に定めないが、過剰な低減は製造コストを劣化させるので、0.001%以上とするのが好ましい。
Cr:0.05〜1.0%
Crは、本発明において最も重要な元素の一つである。Crは、パーライト変態を抑制しセメンタイト中に固溶してセメンタイトのサイズ、形態を制御することで穴拡げ性を向上させるとともに、TiC析出物中に固溶することで析出物の数密度を増し、析出強化量を高めることができる。このため、Cr含有量を0.05%以上含有させる。一方、1.0%を超えて含有させても、この効果は飽和しコストが嵩むばかりでなく、化成処理性の低下が著しくなる。したがって、Cr含有量は0.05〜1.0%とした。上記効果をより確実に得るためには、Cr含有量を0.2%以上とすることが望ましく、0.4%以上とすることがより望ましい。
Nb:0.003〜0.05%
Nbは、本発明において最も重要な元素の一つである。Nbは圧延終了後の冷却中または巻取り後に炭化物として微細析出し、析出強化により強度を向上させる。更に、Nbは、炭化物としてCを固定し、穴拡げ性にとって有害であるセメンタイトの生成を抑制する。これらの効果を得るためには、Nbを0.003%以上含有させる必要がある。一方、Nb含有量が0.05%を超えてもこれらの効果が飽和する。このため、Nbの含有量は、0.003〜0.05%とした。Nb含有量は0.005%超とするのが好ましい。
Ti:0.003〜0.2%
Tiは、本発明において最も重要な元素の一つである。Nbと同様に圧延終了後の冷却中および巻取り後に炭化物として微細析出し、析出強化により強度を向上させる。更に、Tiは、炭化物としてCを固定し、穴拡げ性にとって有害であるセメンタイトの生成を抑制する。これらの効果を得るためには、Tiを0.003%以上含有させる必要がある。一方、0.2%を超えて含有させてもこれらの効果が飽和する。このため、Tiの含有量は、0.003〜0.2%とした。Ti含有量は0.005%以上とするのが好ましい。
Cu:0〜1.2%
Ni:0〜0.6%
Mo:0〜1%
V:0〜0.2%
Cu、Ni、MoおよびVは、析出強化または固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素であるので、これらの元素の一種以上を含有させてもよい。これらの元素の含有量が一定量を超えてもその効果は飽和し、経済性を劣化させるので、それぞれの元素を含有させる場合には、Cuの上限は1.2%、Niの上限は0.6%、Moの上限は1%、Vの上限は0.2%とする。上記の効果を十分に得るためには、それぞれ、Cuは0.2%以上、Niは0.1%以上、Moは0.05%以上、Vは0.02%以上含有させるのが好ましい。
Ca:0〜0.005%
REM:0〜0.02%
CaおよびREM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であるので、これらの元素の一種以上を含有させてもよい。これらの元素の含有量が一定量を超えてもその効果は飽和し、経済性を劣化させるので、それぞれの元素を含有させる場合には、Caの上限は0.005%、REMの上限は0.02%とする。上記の効果を十分に得るためには、それぞれ、Caは0.0005%以上、REMは0.0005%以上含有させるのが好ましい。
なお、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。
B:0〜0.002%
Bは、粒界に偏析し、固溶Cとともに存在する場合、粒界強度を高める効果があるので、含有させてもよい。しかし、その含有量が0.002%を超えると、スラブ割れを起こす。従って、Bを含有させる場合には、その含有量を0.002%以下とする。Bは、焼き入れ性を向上させ、穴拡げ性にとって好ましいミクロ組織である連続冷却変態組織の形成を容易にする効果があるので、0.0005%以上含有させるのが好ましく、0.001%以上含有させるのがより好ましい。
本発明の熱延鋼板においては、上述の通り、各元素の含有量をそれぞれ一定範囲とするだけでは足りず、各元素の含有量のバランスを調整することが極めて重要であり、特に、下記の(1)式および(2)式の関係を満足する必要がある。
0.005≦[Si]/[Cr]≦2・・・(1)
0.5≦[Mn]/[Cr]≦20・・・(2)
ただし、上記式中の[Si]、[Cr]および[Mn]は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明において、TiCのサイズおよび析出量、ならびに、セメンタイトのサイズおよび形態を制御することが極めて重要である。TiCとセメンタイトの析出挙動は、SiとCrの含有量のバランスによってそれぞれ変化し、その含有量の比([Si]/[Cr])を0.005〜2の範囲とする必要がある。[Si]/[Cr]が0.005未満の場合、過度に焼入れ性が高まり、低温域でのTiCの析出が生じにくくなる。一方、[Si]/[Cr]が2を超える場合、高温域でTiCが析出するため材質変動が生じるとともに、固溶C量が減少し耐「はがれ」性が劣化する。更に粗大なセメンタイトが析出し、穴拡げ性が劣化する。好ましい範囲は0.01〜1である。
MnおよびCrは、ともに焼入れ性を高める元素であり、高温でのフェライト変態を抑制することでTiCの析出を抑制し、材質の安定化に寄与する。しかし、MnとCrとではセメンタイトの析出制御と焼入れ性を高める効果が異なるので、その含有量の比([Mn]/[Cr])を0.5〜20の範囲とする必要がある。[Mn]/[Cr]が0.5未満の場合、過度に焼入れ性が高まり、低温域でのTiCの析出が生じにくくなる。一方、[Mn]/[Cr]が20を超える場合、所望のセメンタイトのサイズ、形態に制御することが困難となる。好ましい範囲は1〜10である。
本発明の熱延鋼板の化学組成は、上記の各元素をそれぞれ規定される範囲で含むほか、残部はFeおよび不純物である。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
2.熱延鋼板のミクロ組織等の冶金的因子
(1)セメンタイト
面積割合:1%以下
平均粒径:2μm以下
穴拡げ値に代表される伸びフランジ加工性およびバーリング加工性は、打ち抜き加工時またはせん断加工時に発生する割れの起点となるボイドの影響を受ける。ボイドは、金属組織中の硬度差の大きな場所で発生しやすく、特にセメンタイトが含まれる場合、セメンタイトと母相の界面で母相粒が過剰な応力集中を受けボイドが発生する。そのため、鋼板中に析出しているセメンタイトの面積割合は1%以下、セメンタイトの平均粒径は2μm以下に限定する。セメンタイトの面積割合が1%を超える場合または平均粒径が2μmを超える場合は、上述した理由により穴拡げ性が劣化する。面積割合は少ないほど、平均粒径は小さいほど、穴拡げ性への悪影響がなくなるので下限値は特に規定しないが、後述するセメンタイトの測定では面積割合0.01%、平均粒径0.02μm程度が測定限界である。
セメンタイト中のCr濃度:平均で0.5〜40質量%
セメンタイト中に0.5質量%以上のCrを固溶させることで母相粒の粒径に対して相対的に小さなセメンタイトが形成しやすく、力学的に応力集中とならず、ボイドが発生しにくいことから穴拡げ性が向上する。しかし、該Cr濃度が40質量%を超える場合は、セメンタイトからCr炭化物へと変化し、穴拡げ性および耐「はがれ性」を劣化させる場合がある。
粒径が0.5μm以下、かつアスペクト比が5以下であるセメンタイト:60%以上
セメンタイトについては、面積割合および平均粒径に加えて、粒径が0.5μm以下、かつアスペクト比が5以下であるセメンタイトの全セメンタイトに占める面積割合を60%以上とする。これにより母相粒に対してセメンタイト粒が相対的に小さく、変形に対する異方性が小さいために、力学的に応力集中とならず、ボイドが発生しにくいことから穴拡げ性が向上する。
ここでセメンタイトの粒径およびアスペクト比、所定形状のセメンタイトの面積割合の測定は、以下のようにして行った。供試鋼の鋼板板幅の1/4Wまたは3/4W位置より切出した試料の1/4厚のところから透過型電子顕微鏡サンプルを採取し、透過型電子顕微鏡によって200kVの加速電圧で観察した。観察された析出物は、ディフラクションパターンを解析することによりセメンタイトであることを確認した。更に透過型電子顕微鏡に付設されたエネルギー分散型X線分析装置(Energy dispersive X−ray spectrometry)を用いて、セメンタイト中のCr濃度を測定した。セメンタイトの粒径、アスペクト比および粒径1μm以下のセメンタイトが占める面積割合は、5000倍の倍率にて任意に観察した10視野について、市販の画像解析ソフト「Image−Pro」を用いて算出した。
(2)母相のミクロ組織
なお、本発明の熱延鋼板における母相のミクロ組織は特に限定しないが、より優れた穴拡げ性を得るためには、連続冷却変態組織(Zw)が望ましい。また、本発明を適用した熱延鋼板の母相のミクロ組織は、これら加工性と一様伸びに代表される延性を両立させるために、体積率で20%以下のポリゴナルフェライト(PF)が含まれてもよい。因みに、ミクロ組織の体積率とは、測定視野における面積分率をいう。連続冷却変態組織の場合には、結晶粒内の固溶Cが粒内に留まりながら変態する。したがって、粒界に固溶Cが存在する確率が低い。
ここで、本発明おける連続冷却変態組織(Zw)とは、日本鉄鋼協会基礎研究会ベイナイト調査研究部会/編;低炭素鋼のベイナイト組織と変態挙動に関する最近の研究−ベイナイト調査研究部会最終報告書−(1994年 日本鉄鋼協会)に記載されているように、拡散的機構により生成するポリゴナルフェライトまたはパーライトを含むミクロ組織と無拡散でせん断的機構により生成するマルテンサイトとの中間段階にある変態組織と定義されるミクロ組織をいう。すなわち、連続冷却変態組織(Zw)とは、光学顕微鏡観察組織として上記参考文献125〜127頁にあるように、主にBainitic ferrite(α°B)(写真集内ではα°B)と、Granular bainitic ferrite(αB)と、Quasi−polygonal ferrite(αq)とから構成され、更に少量の残留オーステナイト(γr)と、Martensite−austenite(MA)とを含むミクロ組織であると定義される。なお、αqとは、ポリゴナルフェライト(PF)と同様にエッチングにより内部構造が現出しないが、形状がアシュキュラーでありPFとは明確に区別される。ここでは、対象とする結晶粒の周囲長さlq、その円相当径をdqとするとそれらの比(lq/dq)がlq/dq≧3.5を満たす粒がαqである。本発明における連続冷却変態組織(Zw)とは、このうちα°B、αB、αq、γr、MAのうちいずれか一種または二種以上を含むミクロ組織と定義される。なお、少量のγr、MAはその合計量を3%以下とする。
この連続冷却変態組織(Zw)は、ナイタール試薬を用いたエッチングでの光学顕微鏡観察では判別しにくい。そこで、EBSP−OIMTMを用いて判別する。EBSP−OIMTM(Electron Back Scatter Diffraction Pattern−Orientation Image Microscopy)法では、走査型電子顕微鏡(Scaninng Electron Microscope)内で高傾斜した試料に電子線を照射し、後方散乱して形成された菊池パターンを高感度カメラで撮影し、コンピュータ画像処理することにより照射点の結晶方位を短時間で測定する。
EBSP法では、バルク試料表面の微細構造並びに結晶方位の定量的解析ができ、分析エリアは、SEMの分解能にもよるが、SEMで観察できる領域内であれば最小20nmの分解能まで分析できる。EBSP−OIMTM法による解析は、数時間かけて、分析したい領域を等間隔のグリッド状に数万点マッピングして行う。多結晶材料では、試料内の結晶方位分布や結晶粒の大きさを見ることができる。本発明おいては、その各パケットの方位差を15°としてマッピングした画像より判別が可能なものを連続冷却変態組織(Zw)と便宜的に定義しても良い。
(3)TiとCrの複合炭化物
平均粒径:10nm以下
粗大なTiとCrの複合炭化物は、析出強化に寄与しにくいため、その平均粒径は10nm以下とする。複合炭化物の平均粒径は、7nm以下であることが好ましい。複合炭化物の平均粒径の下限は特に定めないが、析出強化の機構がOrowan機構からCutting機構に変わり所望の析出強化量が得られない可能性があることから、0.5nm以上であることが好ましい。
数密度:1×1013個/mm以上
複合炭化物の数密度が1×1013個/mm未満では、十分な析出強化作用が得られず、延性、穴拡げ性、耐はがれ性を確保しながら所望の引張強度(TS)を得ることができない。複合炭化物の数密度は、5×1013個/mm以上とすることが好ましい。
Crは、TiC中に固溶して、複合炭化物の形態を制御し、数密度を増加させる効果を有する。この効果を得るにはTiC中のCr固溶量を2〜30質量%とするのが好ましい。TiC中のCr固溶量が2質量%を未満である場合は、Cr添加による析出強化が不十分となる場合があり、30質量%を超える場合は、複合炭化物がCr炭化物になりやすく十分な析出強化が得られない場合があるからである。
ここで、複合炭化物のサイズおよび複合炭化物中のCr濃度の測定は、三次元アトムプローブ測定法により、以下のようにして行った。
まず、測定対象の試料から、切断および電解研磨法により、必要に応じて電解研磨法とあわせて集束イオンビーム加工法を活用し、針状の試料を作製する。三次元アトムプローブ測定では、積算されたデータを再構築して実空間での実際の原子の分布像として求めることができる。複合炭化物の立体分布像の体積と複合炭化物の数から複合炭化物の個数密度が求まる。また、上記複合炭化物のサイズは、観察された複合炭化物の構成原子数とその格子定数から、複合炭化物を球状と仮定し算出した直径をサイズとする。ここで粒径が0.5nm以上を有効な複合炭化物とする。任意に30個以上の複合炭化物の直径を測定し、その平均値を求める。またCr含有量は任意に30個以上の複合炭化物中のTiとCrの原子数を測定し、両者の比から算出した。
3.熱延鋼板の製造方法
次に、本発明を適用した熱延鋼板の製造方法の限定理由について詳細に述べる。
本発明において、熱間圧延工程に先行して行う、上記の化学組成を有する鋼片の製造方法は特に限定しない。すなわち、上記の化学組成を有する鋼片の製造方法としては、高炉、転炉や電炉等による溶製工程に引き続き、各種の2次精練工程で目的の成分含有量になるように成分調整を行い、次いで通常の連続鋳造またはインゴット法による鋳造のほか、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造工程を行うようにしてもよい。なお、原料にはスクラップを使用しても構わない。また、連続鋳造によってスラブを得た場合には、高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもよいし、室温まで冷却後に加熱炉にて再加熱した後に熱間圧延してもよい。
(1)加熱工程
上記の化学組成を有する鋼塊または鋼片は、熱間圧延工程前に1150〜1280℃に加熱される。加熱温度が1150℃未満であるとNbおよびTiの炭窒化物が十分に母材中に溶解しない。この場合は、圧延終了後の冷却中または巻取り後にNbおよびTiが炭化物として微細析出することにより析出強化を利用した強度を向上させる効果を得ることができない。また、粗大なNbおよびTiの炭窒化物が残存することで穴拡げ性を劣化させる。一方、加熱温度が1280℃を超えるとスケールロスが多くなる。また、この加熱工程における加熱時間については特に定めないが、Nbの炭窒化物の溶解を十分に進行させるためには、上記の加熱温度に達してから30分以上保持することが望ましい。ただし、鋳造後の鋳片を高温のまま直送して圧延する場合はこの限りではない。
(2)粗圧延工程
スラブ加熱工程の後は、特に待つことなく加熱炉より抽出したスラブに対して、累積圧下率が40%以上かつ粗圧延終了温度が1050℃以上となる条件で粗圧延を行って、粗バーを得る。
この粗圧延工程において、粗圧延終了温度が1050℃未満では、TiおよびNbが炭化物としてオーステナイト中に粗大に析出して、鋼板の加工性を劣化させる。また粗圧延での熱間変形抵抗が増して、粗圧延の操業に障害をきたす恐れがある。粗圧延終了温度の上限は特に規定しないが、1150℃とするのが好ましい。あまりに高温になると、粗圧延中に生成する二次スケールが成長しすぎて、後に実施するデスケーリングまたは仕上げ圧延でスケールを除去することが困難となるからである。また、この温度域での累積圧下率が40%未満では、鋳造時の凝固組織を十分に破壊して、結晶組織を等軸化できず、鋼板の加工性を阻害する。よって、粗圧延工程は、終了温度が1050℃以上かつ累積圧下率が40%以上となる条件で行うこととする。
なお、得られた粗バーについては、粗圧延工程と仕上げ圧延工程との間で各粗バーを接合し、連続的に仕上げ圧延工程を行うようなエンドレス圧延を行うようにしてもよい。その際に粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行ってもよい。
また、熱間圧延工程の際に、粗バーの圧延方向、板幅方向および板厚方向における温度のバラツキを小さく制御することが求められる場合がある。この場合は、必要に応じて、粗圧延工程の粗圧延機と仕上げ圧延工程の仕上げ圧延機との間、または、仕上げ圧延工程中の各スタンド間において、粗バーの圧延方向、板幅方向および板厚方向における温度のバラツキを制御できる加熱装置を使用して粗バーを加熱してもよい。加熱装置の方式としては、ガス加熱、通電加熱、誘導加熱等の様々な加熱手段が考えられるが、粗バーの圧延方向、板幅方向および板厚方向における温度のバラツキを小さく制御可能であれば、いかなる公知の手段を用いてもよい。
(3)仕上げ圧延工程
得られた粗バーに、累積圧下率:70%以上かつ最終パスの圧下率:3〜25%、仕上げ圧延温度:820〜980℃の条件で、仕上げ圧延を行い、鋼板を得る。
仕上げ圧延開始温度は、後述する仕上げ圧延終了温度を確保できればよいので、特に規定しないが、仕上げ圧延の温度があまりに低いと、仕上げ圧延中に粗大なTiCおよびNbCが析出することで析出強化量が低下する。よって、仕上げ圧延開始温度は、1000℃以上とすることが好ましく、再結晶オーステナイト粒を細粒化する観点から1100℃以下とすることが好ましい。
ここで、鋼板の加工性向上には変態前の再結晶オーステナイトの微細化が有効であるが、累積圧下率が70%未満だと十分に微細化することができず、また再結晶が十分に進行せずに未再結晶オーステナイトの割合が高くなり、加工性を劣化させる。また、仕上げ圧延工程においては、最終パスの圧下率が3%未満であると通板形状が劣化し、ホットコイル形成時におけるコイルの巻き形状および製品板厚精度に悪影響を及ぼす懸念がある。一方、最終パスの圧下率が25%を超えると、過度のひずみの導入により熱延鋼板内部の転位密度が必要以上に増加する。仕上げ圧延工程終了後において、転位密度の高い領域は、ひずみエネルギーが高いため、フェライト組織に変態し易い。このような変態により形成されたフェライトは、あまり炭素を固溶せずに析出するため、母層中に含まれていた炭素がオーステナイトとフェライトとの界面に集中しやすく、界面において粗大なNb、Tiの炭化物が析出し易くなる。このように仕上げ圧延工程において固溶N、Tiが減少した場合は、上述した理由により、鋼板の強度向上が望めない。従って、仕上げ圧延工程における最終パスの圧下率は、3〜25%に制限する。
仕上げ圧延終了温度が820℃未満の場合は、仕上げ圧延中にオーステナイト中に粗大なTiC、NbCが析出し易くなる。また圧延荷重が過度に高くなり、安定した圧延が困難となる場合がある一方、仕上げ圧延終了温度が980℃を超える場合は、圧延終了後の冷却開始までにγ粒が成長粗大化し、靭性が劣化し、また、延性を得るためのフェライトが析出可能な領域が減少してしまい、結果として延性が劣化する恐れがある。従って、仕上げ圧延工程における仕上げ圧延終了温度は、820〜980℃の温度域とする。
仕上げ圧延工程は、下記式を満足する条件で行うことが好ましい。
Figure 0006354274
ただし、上記式中の各記号の意味は次の通りである。
[Nb]:Nbの含有量(質量%)
[Ti]:Tiの含有量(質量%)
t:最終圧延パスの1つ前の圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までの時間(秒)
T:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了温度(℃)
上記式を満足する場合、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間において、オーステナイトの再結晶が促進されるとともにオーステナイトの粒成長が抑制されるため、圧延中の再結晶オーステナイト粒の微細化が図られ、これにより延性と穴拡げ性に好適な鋼組織を得ることが一層容易となる。
(4)冷却工程
仕上げ圧延工程終了後は、得られた鋼板は、15℃/秒超の平均冷却速度で、500〜650℃の温度域まで冷却する。
仕上げ圧延工程終了後から巻き取り工程までの冷却中に、セメンタイトとTiC、NbC等の析出核生成の競合が起こる。このため、この間の平均冷却速度が15℃/秒以下であると、セメンタイトの析出核の生成が優先されてしまい、後の巻取り工程において粒界に2μm超のセメンタイトへ成長し、穴拡げ性が劣化してしまう。よって、冷却速度の下限を15℃/秒超とした。なお、冷却工程における冷却速度の上限は、特に限定しなくとも本発明の効果を得ることができるが、熱ひずみによる板そりを考慮すると、300℃/秒を上限とすることが望ましい。冷却停止温度が500℃未満であるとその後の巻き取り中に十分な析出が生じず、所望の鋼板強度が得られない。一方、650℃を超えるとセメンタイトが生じ易く、所望のミクロ組織が得られなくなる。
なお、冷却工程においては、より優れた穴拡げ性を得るためにミクロ組織を連続冷却変態組織(Zw)とすることが望ましいが、このミクロ組織を得るための冷却速度は15℃/秒超であれば十分である。
(5)巻き取り工程
冷却された鋼板は、450℃までの平均冷却速度が0.008〜1.0℃/秒となる条件で巻き取る。
500〜650℃の温度まで冷却された鋼板を巻き取るに際して、冷却終了温度から450℃までの温度域ではセメンタイトとTiC、NbCの析出とその成長が生じるため、この温度範囲での冷却速度を制御することが必要である。その間の平均冷却速度が0.008℃/秒未満ではTiC、NbC析出物の成長が生じ、一方、1.0℃/秒超では析出が不十分となり、ともに所望の鋼板強度を得ることが困難となる。したがって、この温度範囲での冷却速度は0.008〜1.0℃/秒とする。
(6)その他の工程
全工程終了後においては、鋼板形状の矯正や可動転位導入により延性の向上を図ることを目的として、圧下率0.1〜2%のスキンパス圧延を施すことが望ましい。また、全工程終了後は、得られた熱延鋼板の表面に付着しているスケールの除去を目的として、必要に応じて得られた熱延鋼板に対して酸洗してもよい。更に、酸洗した後には、得られた熱延鋼板に対してインラインまたはオフラインで圧下率10%以下のスキンパスまたは圧下率40%程度までの冷間圧延を施しても構わない。
本発明を適用した熱延鋼板は、更に、鋳造後、熱間圧延後、冷却後の何れかの場合において、溶融めっきラインにて熱処理を施してもよく、更にこれらの熱延鋼板に対して別途表面処理を施すようにしてもよい。溶融めっきラインにてめっきを施すことにより、熱延鋼板の耐食性が向上する。
なお、酸洗後の熱延鋼板に亜鉛めっきを施す場合は、得られた鋼板を亜鉛めっき浴中に浸積し、必要に応じて合金化処理してもよい。合金化処理を施すことにより、熱延鋼板は、耐食性の向上に加えて、スポット溶接等の各種溶接に対する溶接抵抗性が向上する。
ただし、厚板製造工程ではなくて、巻取り工程のある熱延工程で製造される熱延鋼板を前提とする場合、本発明の熱延鋼板の板厚の上限は12mmである。
表1に示す化学組成を有する300kgの鋼塊を高周波真空溶解炉にて溶製し、試験用圧延機にて70mm厚さの鋼片にした。
Figure 0006354274
この鋼片を用いて試験用小型タンデムミルにて熱間圧延を実施し、板厚2.0〜3.6mmの鋼板に仕上げた。圧延完了後、所定の巻き取り温度まで冷却した後、該巻取温度に設定した炉に装入し、所定の冷却速度にて450℃まで冷却した。その後、炉冷して、熱延鋼板を得た。これらの条件を表2に示す。
Figure 0006354274
得られた熱延鋼板の一部については、酸洗処理後、めっき浴浸漬およびめっき浴への浸漬を施した後の合金化処理を施した。なお、めっき浴浸漬は、Zn浴温度430〜460℃で行った。また合金化処理は合金化温度500〜600℃で行った。このようにして得られた鋼板の材質を表3に示す。
Figure 0006354274
得られた鋼板の評価方法は、前述の方法と同一である。ここで、「ミクロ組織」とは、鋼板板厚の1/4tにおけるミクロ組織を示す。また、「引張試験」結果は、C方向JIS5号試験片の結果を示す。表3中、「TS」は引張強さ、「EI」は伸びをそれぞれ示す。「穴拡げ」結果は、JFS T 1001−1996記載の穴拡げ試験方法で得られた結果を示す。「破断面割れ」結果は、その有無を目視にて確認した結果を示し、破断面割れが無い場合を「無し」と示し、破断面割れがある場合を「有り」と示した。
表3に示すように、本発明で規定される範囲内にある試験番号1〜5、8〜11、15、16および22〜25は高い引張強度(TS)を有するとともに、優れた強度−延性バランス(TS×El)と優れた強度−穴拡げバランス(TS×λ)とを有し、優れた耐「はがれ」性を有する。一方、本発明で規定される範囲外の試験番号6、7、12〜14、17〜21および26〜28は、TS×El、TS×λ、耐「はがれ」性の何れかが劣っている。
本発明によれば、穴拡げ性に優れる高強度熱延鋼板を提供することができる。この熱延鋼板は、高強度性および穴拡げ性が厳しく要求される、内板部材、構造部材、足廻り部材等の自動車部材をはじめとして、造船、建築、橋梁、海洋構造物、圧力容器、ラインパイプ、機械部品などに最適である。

Claims (9)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.1%、
    Si:0.3%以下、
    Mn:0.4〜3%、
    P:0.1%以下、
    S:0.03%以下、
    Al:0.001〜1%、
    N:0.01%以下、
    Cr:0.05〜1%、
    Nb:0.003〜0.05%、
    Ti:0.003〜0.2%、
    Cu:0〜1.2%、
    Ni:0〜0.6%、
    Mo:0〜1%、
    V:0〜0.2%、
    Ca:0〜0.005%、
    REM:0〜0.02%、
    B:0〜0.002%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(1)式および(2)式の関係を満足し、
    金属組織中に、面積割合が1%以下、かつ平均粒径が2μm以下であるセメンタイトを有し、該セメンタイト中のCr濃度が平均で0.5〜40質量%であり、該セメンタイトのうち、粒径が0.5μm以下、かつアスペクト比が5以下であるセメンタイトの全セメンタイトに占める面積割合が60%以上であり、TiとCrの複合炭化物の平均粒径が10nm以下、数密度が1×1013個/mm以上であり、
    引張強度が500MPa以上であり、穴拡げ性および耐はがれ性に優れる熱延鋼板。
    0.005≦[Si]/[Cr]≦2・・・(1)
    0.5≦[Mn]/[Cr]≦20・・・(2)
    ただし、上記式中の[Si]、[Cr]および[Mn]は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Cu:0.2〜1.2%、
    Ni:0.1〜0.6%、
    Mo:0.05〜1%、
    V:0.02〜0.2%
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1に記載の熱延鋼板。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.005%および/または
    REM:0.0005〜0.02%
    を含有する、
    請求項1または2に記載の熱延鋼板。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    B:0.0002〜0.002%
    を含有する、
    請求項1から3までのいずれかに記載の熱延鋼板。
  5. 亜鉛めっきが施されている、請求項1から4までのいずれかに記載の熱延鋼板。
  6. 下記工程(A)〜(E)を備える、
    請求項1から4までのいずれかに記載の熱延鋼板の製造方法。
    (A)請求項1から4までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼塊または鋼片を1150〜1280℃に加熱する工程、
    (B)加熱された鋼塊または鋼片に、1050℃以上の温度域で、かつ累積圧下率が40%以上となる条件で粗圧延を行い、粗バーを得る工程、
    (C)粗バーに、仕上げ圧延開始温度:1000℃以上、累積圧下率:70%以上かつ最終パスの圧下率:3〜25%、仕上げ圧延終了温度:820〜980℃を満足する条件で、仕上げ圧延を行い、鋼板を得る工程、
    (D)得られた鋼板を、15℃/秒超の平均冷却速度で、500〜650℃の温度域まで冷却する工程、
    (E)、冷却された鋼板を、450℃までの平均冷却速度が0.008〜1.0℃/秒となる条件で巻き取る工程。
  7. 前記(C)の工程を、下記式を満足する条件で行う、請求項6に記載の熱延鋼板の製造方法。
    Figure 0006354274
    ただし、上記式中の各記号の意味は次の通りである。
    [Nb]:Nbの含有量(質量%)
    [Ti]:Tiの含有量(質量%)
    t:最終圧延パスの1つ前の圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までの時間(秒)
    T:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了温度(℃)
  8. 巻き取り後の鋼板を酸洗した後、亜鉛めっき浴中に浸積させて鋼板表面を亜鉛めっきする、請求項6または7に記載の熱延鋼板の製造方法。
  9. 亜鉛めっき後の鋼板を合金化処理する、請求項8に記載の熱延鋼板の製造方法。
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