JP6536328B2 - 疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
また、疲労き裂は、表面近傍から発生するため、表面近傍の組織を微細化することも有効である。特許文献3には、主相であるポリゴナルフェライトの平均結晶粒径が、板厚中心から表層に向かい漸次小さくなる結晶粒径傾斜組織を有し、第2相としてベイナイト等を体積分率で5%以上含む熱延鋼板が記載されている。更に、マルテンサイト組織の細粒化も疲労特性の向上に有効である。特許文献4には、ミクロ組織の面分率の80%以上がマルテンサイトであり、マルテンサイト組織の平均ブロック径が3μm以下であり、かつ最大ブロック径が平均ブロック径の1倍以上3倍以下である機械構造鋼管が記載されている。
さらに、特許文献4には、造管前のインゴットの組織を熱延で下部ベイナイト又はマルテンサイトとして炭素を均一に分散することが記載されている。しかし、細粒化は疲労き裂の発生を抑制するが、疲労き裂伝播特性を劣化させる欠点があり、その結果切欠きや溶接欠陥を含む疲労特性を低下させる問題があった。
(1)
化学組成が、質量%で、
C :0.020〜0.200%、
Si:2.00%以下、
Mn:2.00%以下、
Al:2.000%以下、
N :0.0100%以下、
O :0.0100%以下、
Ti:0.200%以下、を含み
不純物であるPとSは、
P :0.100%以下、
S :0.0300%以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板であって、
下記(式a)から計算されるTiefを用いて、
下記(式b)により計算される有効炭素量Ceffが0.020以上0.150%以下であり、
隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒を面積率で80%以上含み、
マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の面積率の和が2%以上20%以下であり、
さらに、前記方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm以上200ppm以下であることを特徴とする疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
Tief=[Ti]―48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)
Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)
但し、[Ti]、[N]、[S]、[C]は、それぞれTi、N、S、Cの鋼板中の質量%を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
また、Tief≦0のときは、(式b)においてTief=0として計算する。
なお、以下に示す更なる添加元素は、前記Feの一部を代替して添加するものである。
(2)
TiCの密度が1.0×1016個/cm3以下であることを特徴とする(1)に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
(3)
さらに質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.300%以下、
Cu:1.20%以下、
Ni:0.60%以下、
Cr:2.00%以下、
Mo:1.00%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
(4)
さらに質量%で、
Mg:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
REM:0.1000%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
(5)
さらに質量%で、
B:0.0020%以下、
を含有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
(6)
さらに、Sn、Zr、Co、Zn、およびWの1種または2種以上を合計で1質量%以下含有することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
(7)
(1)〜(6)のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造方法であって、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼からなるインゴットを、下記(式c)から計算される温度T1(℃)もしくは1100℃のいずれか大きい方の温度以上、1300℃以下の温度まで加熱する加熱ステップと、
加熱したインゴットを粗圧延し、その後多段の連続圧延による仕上圧延を施し熱延鋼板を得る熱間圧延ステップと、
得られた熱延鋼板を冷却する冷却ステップを有し、
前記多段の連続圧延による仕上圧延で、圧下率5%以上の段のうち最も後段側の段での圧延温度が、下記(式d)で計算されるAr3もしくは1000℃のいずれか低い温度以上の温度であり、
前記冷却ステップにおいて、前記熱延鋼板を、下記(式e)で計算されるAe1に基づいて、
Ae1−30℃以上Ae1+30℃以下の温度域に8秒以上滞留させ、
Ae1−30℃から300℃までの冷却速度を100℃/秒以上とし、
更に、300℃から30℃までの冷却速度を30℃/秒以上にする
ことを特徴とする疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(式c)
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(式d)
Ae1(℃)=723−10.7×[Mn]+29.1×[Si]−16.9×[Ni]+16.9×[Cr]+70×[Al]・・・(式e)
ただし、式中の[元素名]は、当該元素の鋼板中の含有量(質量%)を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
まず、本発明の鋼板の化学成分の限定理由を説明する。なお、特に断りのない限り、含有量の%は質量%、ppmは質量ppm(0.0001質量%)を示す。
また、本明細書中の各式において用いる[元素名]の表示は、当該元素の鋼板中の含有量(質量%)を示すものとし、含有していない場合は0%を代入するものとする。例えば[C]はC(炭素)の、[Ti]はTi(チタン)の含有量(質量%)を示す。
Cは本発明において重要な元素の一つである。本発明では、後述するが、炭素(C)はマルテンサイト、焼き戻しマルテンサイト、残留オーステナイト等の硬質相の分率を増大させ、き裂の破面粗さを増大させる。これが疲労き裂の破面誘起き裂閉口を促進し、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)を向上させる。さらに、前記硬質相以外の結晶粒内の固溶炭素(固溶C)を、所定量に制御することにより、ΔKthを一層向上させることができる。
そのため、炭素(C)は、0.020%以上添加するとよい。また、加工性を確保するため、炭素(C)の含有量は、0.200%以下にするとよい。
Cは、鋼中にTiが存在するとTiCとして析出するため、炭素(C)として有効に作用することができる有効炭素量(Ceff)は、TiC(Ti炭化物)の量によって変化する。
一方、Ti炭化物は、Ti窒化物やTi硫化物より低温で生成する。このため、鋼中のNやSが多いとTi窒化物やTi硫化物が優先して生成するので、TiCとして析出することができるTi含有量(Tief)を、以下の(式a)で計算し指標として用いた。
Tiefが0以下(負又は零)の値となるとき、鋼中の全炭素量が、有効炭素量となる。
Tief=[Ti]―48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)
Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)
但し、[Ti]、[N]、[S]、[C]は、それぞれTi、N、S、Cの鋼板中の質量%を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
また、Tief≦0のときは、(式b)においてTief=0として計算する。
本発明では、後述する、結晶粒内の固溶炭素(固溶C)を、所定量に制御することにより、下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)を向上させることができる。 ΔKthを向上させる効果を得るためには、有効炭素量を0.020%以上とするとよい。この効果を確実に得るために、有効炭素量の下限は0.030%にすることが好ましく、0.040%であれば更に好ましい。
以上が本発明の熱延高強度鋼板の基本的な化学成分であるが、さらに下記のような成分を含有することができる。
Siは加工性をそれほど損なわずに引張強さを向上できる元素であるため、添加して良い。しかしながら、2.00%超添加すると靭性や成形性が低下するためSiの含有量は2.00%以下、望ましくは1.50%以下である。さらに望ましくは1.00%以下にするとよい。
一方、Siは不純物として自然に含まれるため、含有量を0.01%未満にすることはコストの観点から望ましくない。したがって、Si含有量の下限値は、望ましくは0.01%にするとよい。
Mnは、固溶強化元素として添加してよい。Mn含有量が2.00%超となるように添加すると、鋼板の板厚方向の中心部にМnの偏析帯が生じ、この偏析帯が割れの起点になるため穴広げ率が低下する。従って、Mnの含有量は2.00%以下とする。一方で、Mnは不純物として自然に含まれるため含有量を0.01%以下とすることはコストの観点から望ましくない。したがって、Mn含有量の下限値は、望ましくは0.01%にするとよい。
Pは、溶銑に含まれている不純物であり、粒界に偏析し、含有量の増加に伴い低温靭性を低下させる元素である。このため、P含有量は、少ないほど望ましい。Pを0.100%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.100%以下に制限する。特に、溶接性を考慮すると、P含有量は、0.030%以下に制限することが望ましい。
Sは、溶銑に含まれている不純物であり、含有量が多すぎると、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、穴広げ性を劣化させるMnSなどの介在物を生成させる元素である。このためSの含有量は、極力低減させるべきであるが、0.0300%以下ならば許容できる範囲であるので、0.0300%以下に制限する。ただし、ある程度の穴広げ性を必要とする場合のS含有量は、好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下に制限することが望ましい。
Alは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素であり、他の元素の溶鋼歩留を安定させる効果があるため、添加してもよい。この効果を得るため、Al含有量の下限を望ましくは0.010%とするとよい。
一方、Al含有量が2.000%を超えると圧延中に割れが発生することがある。そのため、Al含有量の上限を2.000%にする。また、Al含有量が1.000%を超えると溶接性や靭性などが劣化し始めるので、Al含有量の上限は、望ましくは1.000%とし、より望ましいAl含有量の上限は、0.500%である。
Nは、TiNとして存在することで、インゴット加熱時の結晶粒径の微細化を通じて、低温靭性向上に寄与することから、添加してもよい。ただし、鋼中の窒化物は穴広げ率を低下させるため、0.0100%以下にする必要がある。望ましくは0.0050%以下である。一方、0.0005%未満とすることは経済的に望ましくないので、0.0005%以上とすることが望ましい。
Oは、酸化物を形成し、成形性を劣化させることから、含有量を抑える必要がある。特に、Oが0.0100%を超えると、この傾向が顕著となることから0.0100%以下にする必要がある。一方、0.0010%未満とすることは経済的に好ましくないので、0.0010%以上とすることが望ましい。
TiはTiCとして存在することで、析出強化を通じて鋼板の高強度化に寄与するため、添加してもよい。ただし、0.200%を超えて添加してもこの効果は飽和することに加えて鋳造時のノズル閉塞の原因となるため、Tiの含有量は0〜0.200%とする。また後述するようにTiの含有量が0.050%超であるとTiCの密度が1.0×1016個/cm3以上となり、成形性が低下する。このため、Tiの望ましい含有量は0.050%以下にするとよい。
一方、Tiが0.001%未満では析出強化の効果を十分に得られない場合があるため、0.001%以上添加することが望ましい。析出強化の効果を確実にするためには、0.010%以上添加することがさらに望ましい。
Nbは、この炭窒化物、あるいは、固溶Nbが熱間圧延時の粒成長を遅延することで、熱延板の粒径を微細化でき、低温靭性を向上させるので添加しても良い。Nb含有量が0.100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Nb含有量が0.010%未満では上記効果を十分に得ることができない。したがって、必要に応じて、Nbを含有させる場合、Nb含有量は0.010%以上とすることが望ましい。
Vは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。V含有量が0.300%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Vを含有させる場合、V含有量は0.300%以下であることが望ましい。
また、Vの含有量が0.010%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、Vを含有させる場合、V含有量は0.010%以上であることが望ましい。
Cuは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Cu含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Cuを含有させる場合、Cu含有量は2.00%以下であることが望ましい。さらに、Cuの含有量が1.20%超では鋼板の表面にスケール起因の傷が発生することがあるので、Cuは1.20%以下であることが、より望ましい。
また、Cuの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.01%以上であることが望ましい。
Niは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Ni含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Niを含有させる場合、Ni含有量は2.00%以下であることが望ましい。Niの含有量が0.60%を超えると延性が劣化し始めるので、望ましくはNi含有量は0.60%以下にするとよい。
また、Niの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じて、Niを含有させる場合、Ni含有量は0.01%以上にすることが望ましい。
Crは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Cr含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Siを含有させる場合、Si含有量は2.00%以下であることが望ましい。
また、Crの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じて、Crを含有させる場合、Cr含有量は0.01%以上であることが望ましい。
Moは、析出強化もしくは固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Mo含有量が1.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Moを含有させる場合、Mo含有量は1.00%以下であることが望ましい。
また、Moの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じて、Moを含有させる場合、Mo含有量は0.01%以上であることが望ましい。
Mgは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。Mgの含有量が0.0100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Mgを含有させる場合、Mo含有量は1.00%以下であることが望ましい。
また、Mgの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じて、Mgを含有させる場合、Mg含有量は0.0005%以上であることが望ましい。
Caは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。Caの含有量が0.0100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0100%以下であることが望ましい。
また、Caの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じて、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0005%以上であることが望ましい。
REM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。REMの含有量が0.1000%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、REMを含有させる場合、REM含有量は0.1000%以下であることが望ましい。
また、REMの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じて、REMを含有させる場合、REM含有量は0.0005%以上であることが望ましい。
Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる。このことから、添加しても良い。Bの含有量が0.0100%超の添加は、その効果が飽和するばかりでなく、経済性に劣る。従って、Bを含有させる場合、Ca含有量は0.0100%以下であることが望ましい。また、この効果は、鋼板へのB含有量が0.0002%以上とすることで顕著となる。
また、Bは強力な焼き入れ元素であり、0.0020%超を添加した場合、本研究において重要な結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°であるような結晶粒の面積率を減じてしまうことがある。従って、必要に応じて、Bを含有させる場合、B含有量は0.0002%以上であることが望ましい。
鋼板のミクロ組織について説明する。
本発明の鋼板は、隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で80%以上含むことを特徴とする。結晶粒内の方位差は、結晶方位解析に多く用いられるEBSD法(電子ビーム後方散乱回折パターン解析法)を用いて測定できる。このような結晶粒内の方位差を有する結晶粒は延性が高く変形能が均一で降伏比が低いため、その割合を高めることで、成形性を向上させることができる。
また、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積率が98%超であると、マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の分率を2%以上とすることができないため、上限を98%とすることが望ましい。
また、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法による穴広げ率を(λ)としたとき、本特許における成形性に優れた鋼板はλ≧50%を満たすとよい。λ≧50%を満たす鋼板であれば、高い伸びフランジ性が求められる部品以外は成型が可能である。
また、降伏比をYRとしたとき、YR≦0.80を満たす鋼板は引張強さの割にプレス荷重が低く、成形性に優れることが多い。
結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の割合は、例えば以下の方法で測定することができる。
鋼板の板幅をWとしたとき、鋼板の幅方向で片端から1/4W(幅)もしくは3/4W(幅)位置において、
鋼板の幅方向を圧延方向からみた断面(幅方向断面)が観察面となるように試料を採取し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置で、鋼板の幅方向200μm×厚さ方向100μmの矩形領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析する。
ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(例えば、JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(例えば、TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。
ここで方位差とは、上記により測定した各測定点の結晶方位情報に基づき、隣接する測定点同士の結晶方位の差を求めたものである。この方位差が15°以上であるとき、隣接する測定点同士の中間を粒界と判断し、この粒界によって囲まれる領域が円相当径で0.3μm以上の場合に、本願ではこれを結晶粒と定義した。この結晶粒内の方位差を単純平均して平均方位差を計算する。そして、結晶粒内の平均方位差が0〜0.5°である結晶粒の面積割合を求める。なお結晶粒の定義や結晶粒内の平均方位差の算出は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア、例えば、「OIM AnalysisTM」を用いて求めることができる。
結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で80%未満である場合には延性が悪化し、延性の良い自動車用足回り高強度鋼板の目安である(TS)×(El)≧10000MPa%を満たさなくなる。そのため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が面積率で80%以上とするとよい。結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積率が高いほど延性は向上するため、望ましくは面積率で85%以上にするとよい。
マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相は疲労き裂の進展経路を屈曲させ、疲労き裂の破面粗さを増大させる。これが破面誘起き裂閉口を促進し、ΔKthを向上させる。この効果は硬質相の面積分率が2%以上で発現し始め、硬質相の分率が増大するほど効果が顕著になる。従って、硬質相の面積分率は2%以上とするとよく、さらに望ましくは5%以上にするとよい。
一方で、硬質相の面積分率が高すぎると穴広げ率が低下し、20%超であると(λ)≧50%を満たすことができない。よって、硬質相の面積分率は20%以下である。さらに望ましくは10%以下にするとよい。以上のような本発明の鋼板組織を構成するマルテンサイト、焼き戻しマルテンサイトおよびオーステナイトの面積分率の求め方を以下に示す。
次に、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶C(固溶炭素)について述べる。結晶粒内の固溶Cは下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)の向上のために重要である。ΔKthは疲労き裂が停留し、進展しなくなる限界の応力拡大係数範囲を表し、平滑材の疲労限の向上や打ち抜き材、切り欠き材の疲労特性向上に寄与する。疲労き裂が進展するためには、疲労き裂先端で転位が活動する必要がある。発明者らは鋭意検討の結果、結晶粒内の固溶Cが20ppm以上であれば転位の運動が抑制され、ΔKthが向上することを見出した。結晶粒内の固溶Cは多いほどその効果が顕著で、望ましくは50ppm以上、さらに望ましくは100ppm以上あるとよい。固溶Cが転位の運動を抑制する原因は動的ひずみ時効効果にあると考えられる。固溶C量の上限は指定しないが、フェライト中のC溶解度は、溶解度が最大となるAe1温度付近でも200ppm程度であるため、それを上回ることは原理上難しい。
次に、組織中のTiCの量について述べる。TiCは析出物であり、析出強化によって降伏比(YR)を高くする効果がある。YRが低い鋼板はプレス成形時の荷重が小さくなる傾向があるため、プレス時の板押さえ力を小さくでき、プレス成形性に有利である。発明者らの検討によれば、TiCの密度が1.0×1016個/cm3超であるとTiCによるYR上昇効果が大きくなりYR>0.80となる。よって、TiCの密度は1.0×1016個/cm3以下とすることが望ましい。ただし、本特許で定義するTiCはチタン炭化物だけでなくTi(CN)、(TiNb)C、(TiNb)(CN)などのチタン炭化物に窒素やニオブが化合した複合化合物を含む。
本発明に係る鋼板の製造方法は特に限定されないが、例えば以下のような方法がある。
T1=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(式c)
但し、[Ti]、[C]は、それぞれTi、Cの質量%を示す。
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(式d)
また、圧下率は、各段ごとに以下の式で求められる。
圧下率=(当該圧延機の入側の板厚−当該圧延機の出側の板厚)/(当該圧延機の入側の板厚)×100%
Ae1=723−10.7[Mn]+29.1[Si]−16.9[Ni]
+16.9[Cr]+70[Al]・・・(式e)
なお、Ae1とは平衡状態でのオーステナイトからフェライトとセメンタイトへの共析変態開始温度のことである。
滞留時間は、望ましくは10秒以上、更に望ましくは12秒以上にするとよい。滞留時間の上限は特に指定しないが、滞留時間が長いほど生産性が低下するため、20秒以下が望ましい。
滞留後、Ae1−30(℃)から300℃までの冷却速度を100℃/s以上とし、更に300℃から30℃までの冷却速度を30℃/s以上にする。これらの冷却速度が実現できない場合、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶C量がセメンタイトなどの炭化物として析出するため、固溶C量を20ppm以上とすることができない。望ましくは300℃から30℃までの冷却速度を50℃/s以上とするとよい。Ae1−30(℃)から300℃および300℃から30℃までの冷却速度の上限は特に限定しないが、1000℃/s超では効果が飽和するので、望ましくは300℃から30℃までの冷却速度は1000℃/s以下とするとよい。
また、適切な冷延・焼鈍を行うことで、冷延鋼板においても方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で80%以上含み、マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の面積率の和が2%以上であり、前記方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒内の固溶炭素量が20〜200ppmである組織を製造することは可能である。
表1に試験に供した鋼の成分を示す。
表2に試験に供した試験片の鋼種類とその製造条件を示す。
なお、仕上圧延は、7段式の連続圧延を行なった。
表3に、各試験片の評価結果を示す。
機械的性質のうち引張強度特性(引張強さ、全伸び、降伏比)は、板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取したJIS Z 2241 2011の5号試験片を用いて、JIS Z 2241 2011に準拠して評価した。降伏比に用いる降伏応力は下降伏応力を用いた。穴広げ率は、引張試験片採取位置と同様の位置から試験片を採取し、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して評価した。また、本発明における成形性に優れた高強度鋼板とは、(TS)≧540MPa、(TS)×(El)≧10000MPa%で、(λ)≧50%を満たし、望ましくは(YR)≦0.80を満たす鋼板である。ただし(TS)は引張強さ、(El)は全伸び、(λ)は穴広げ率、(YR)は降伏比である。
試験方法:電気油圧サーボ式±10トン疲労試験機を使用し、亀裂長さの測定はコンピュータ制御によるコンプライアンス法による荷重漸減法K値減少法(亀裂の進展と共に荷重を自動的に減少させていく方法)によりΔKthを計測
試験環境:室温、大気中
制御方法:荷重制御
応力比:R=0.01
周波数:10〜20Hz
本発明における疲労特性に優れた鋼板とは、ΔKth≧6.5(MPa・m1/2)となる鋼板のことである。
Claims (7)
- 化学組成が、質量%で、
C :0.020〜0.200%、
Si:2.00%以下、
Mn:2.00%以下、
Al:2.000%以下、
N :0.0100%以下、
O :0.0100%以下、
Ti:0.200%以下、を含み
不純物であるPとSは、
P :0.100%以下、
S :0.0300%以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板であって、
下記(式a)から計算されるTiefを用いて、
下記(式b)により計算される有効炭素量Ceffが0.020以上0.150%以下であり、
隣接する結晶との方位差が15°以上である粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義した場合、前記結晶粒内の方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒を面積率で80%以上含み、
マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトで構成される硬質相の面積率の和が2%以上20%以下であり、
さらに、前記方位差の平均が0°以上0.5°以下である結晶粒内の固溶炭素量が20ppm以上200ppm以下であることを特徴とする疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
Tief=[Ti]―48/14×[N]−48/32×[S]・・・(式a)
Ceff=[C]−12/48×Tief・・・(式b)
但し、[Ti]、[N]、[S]、[C]は、それぞれTi、N、S、Cの鋼板中の質量%を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
また、Tief≦0のときは、(式b)においてTief=0として計算する。
- TiCの密度が1.0×1016個/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
- さらに質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.300%以下、
Cu:1.20%以下、
Ni:0.60%以下、
Cr:2.00%以下、
Mo:1.00%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
- さらに質量%で、
Mg:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
REM:0.1000%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
- さらに質量%で、
B:0.0020%以下、
を含有することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
- さらに、Sn、Zr、Co、Zn、およびWの1種または2種以上を合計で1質量%以下含有することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板。
- 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の疲労特性と成形性に優れた鋼板の製造方法であって、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼からなるインゴットを、下記(式c)から計算される温度T1(℃)もしくは1100℃のいずれか大きい方の温度以上、1300℃以下の温度まで加熱する加熱ステップと、
加熱したインゴットを粗圧延し、その後多段の連続圧延による仕上圧延を施し熱延鋼板を得る熱間圧延ステップと、
得られた熱延鋼板を冷却する冷却ステップを有し、
前記多段の連続圧延による仕上圧延で、圧下率5%以上の段のうち最も後段側の段での圧延温度が、下記(式d)で計算されるAr3もしくは1000℃のいずれか低い温度以上の温度であり、
前記冷却ステップにおいて、前記熱延鋼板を、下記(式e)で計算されるAe1に基づいて、
Ae1−30℃以上Ae1+30℃以下の温度域に8秒以上滞留させ、
Ae1−30℃から300℃までの冷却速度を100℃/秒以上とし、
更に、300℃から30℃までの冷却速度を30℃/秒以上にする
ことを特徴とする疲労特性と成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(式c)
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(式d)
Ae1(℃)=723−10.7×[Mn]+29.1×[Si]−16.9×[Ni]+16.9×[Cr]+70×[Al]・・・(式e)
ただし、式中の[元素名]は、当該元素の鋼板中の含有量(質量%)を示し、含有していない場合は0%を代入するものとする。
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