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JP6061328B2 - リチウム試薬組成物を用いたリチウムイオン測定方法及び測定装置 - Google Patents

リチウム試薬組成物を用いたリチウムイオン測定方法及び測定装置 Download PDF

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Description

本発明は、生体試料や環境試料等の水溶液中のリチウムの定量測定に用いるリチウム試薬組成物を用いたリチウムイオン測定方法及び測定装置に関する。
従来よりリチウム含有の気分安定薬・抗うつ薬が有効であるため多用されているが、投与に際しては血清中のリチウム濃度を適正な範囲にコントロールする必要がある。
液体中のリチウムの定量測定に用いるリチウム試薬組成物として、一般的には、双極性障害(躁うつ病)の治療薬、或いは抗うつ薬とともに気分安定薬として炭酸リチウム錠(経口投与)が広く処方されている。炭酸リチウム(Li2CO3)はリチウム中毒となる血中濃度近辺まで処方しないと投与効果が現れないという特徴を有しており、治療域と中毒域とが極めて近いため、薬物血中濃度モニタリングが必要項目(TDM)に指定されている。
さらに詳しくは、常時、投薬患者の試料血漿内のリチウム濃度が0.6〜1.2 mEq/Lとなるように調節しなければ成らないが、これは血清中のリチウム濃度が0.6mEq/L以下で余り少なすぎると抗うつ効果がなく、逆に、一般的に血漿濃度が1.5 mEq/Lを超え、過剰に投与され濃度が大きくなってリチウム中毒を引き起こし過量服用が致命的となることがあり、振戦、構語障害、眼振、腎障害、痙攣を含む中毒症状が現れる。もし潜在的に危険なこれらの兆候が見られた際には、治療を中止し、血漿濃度を再測定し、リチウムの中毒を緩和する措置を行わなければならない。
このように、リチウム塩の抗うつ薬は鬱病患者の治療等に効果があるものの、過剰投与の場合には重大な障害が生じるので、リチウム含有の抗うつ薬を投与する場合は、常に血清中のリチウム濃度を0.6〜1.2 mEq/Lになるように監視することが必須事項である。
このことから、従来、血清中のリチウムの定量測定が必要とされ、リチウムの比色測定を可能にさせる臨床検査用の液状試薬組成物の開発が進められている。
この先行技術として、特許文献1には原色体クリプタンドイノフォアを用いた生物学的検体中のリチウムの濃度を測定する試薬組成物が開示されている。
また、特許文献2には、ピロール環を持つ大環状化合物であって、ピロール環のβ位に8個の臭素(Br)原子を結合させ、リチウムイオンと反応する分析試薬である。
なお、非特許文献1として、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた化合物で、リチウムイオンの検出・分離できることが開示されている。
特開平7−113807号公報 欧州特許1283986号公報(B1) 分析化学 Vol.51,No.9,PP.803-807(2002)[F28テトラフェニールポルフィリンの合成とリチウムイオンの分離・検出への応用]小柳健治・田端正明
従来のリチウム試薬組成物がいくつか知られているが、その組成が毒劇物であったり、原薬が供給不安定で高価であり、ほとんどの原薬が水に溶解しないか、或いは水に溶解すると失活し発色せず、発色反応が遅い。
これらを克服したとされる特許文献2に開示された技術は、発色法を可能としているが、発色感度が大きすぎるため検体の希釈処理が必要であり、試薬組成物の仕様がpH11以上であるため空気中のCO2により変質しやすく、測定データが不安定で、更に、pH11以上となると、もはや水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような濃厚な水酸化物溶液しか使えないのでpHを一定に維持していくことができず、また、これらは劇物であるので使用者にとっても忌避的なもので取り扱いが厄介であることや、実際の保存には汎用ではなく専用容器が必要であり、これらの欠陥を補うため機械的設備が大型かつ専用機器が必要で汎用性に欠くといった問題点があった。このため、オンサイトモニタリング、POCT(Point Of Care Testing)に適用させることが困難であるといった問題点もあった。
ところで、前述の特許文献1のリチウムの定量を目的とする試薬組成物は、本発明とは全く異なった化合物を使用しているが、pH12でしか使用できず、前述したように、pH11以上となると、もはや水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような濃厚な水酸化物溶液しか使えず、これらは劇物であるので使用者にとっても取り扱いが厄介であり、更に、これらを補うために大型の専用機器が必要で、汎用性に欠くといった問題点があった。
また、非特許文献1である小柳らの論文は、F28テトラフェニルポルフィリンを用いてリチウムイオンの分離・検出ができることが開示されているが、油性、且つ毒劇物であるクロロホルムを用いた溶媒抽出を行わなければ、リチウムの検出・分離はできなかった。何よりも、水溶液中のリチウムを煩雑な前処理なしに直接定量することはできず、特に、血清中のリチウムイオンを迅速、且つ定量的に測定することはできないといった問題点があった。このように、F28テトラフェニルポルフィリンを用いて水溶液中のリチウムイオンの検出は難しく、定量的に濃度を測定することは困難で今までに実現されていなかった。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたもので、血清及び血漿試験試料等の水溶液中のリチウムの濃度(定量)を測定できるリチウム試薬組成物を用いたリチウムイオン測定方法及び測定装置を提供しようとするものであり、特に、血清及び血漿試験試料の検体に含まれる濃度に対して最適な感度が得られ、希釈操作、或いは希釈装置等の煩雑な操作、それに伴う付帯設備が不必要とし、さらに、測定波長帯が従来のソーレー帯とした場合よりも、検量線の直線性が良好であり、簡単な比色計、紫外可視分光光度計による測定値からの濃度の演算が容易であるリチウムイオン測定方法及び測定装置を提供しようとするものである。
請求項1の発明は、血清及び血漿試験試料を、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた構造式
Figure 0006061328
で表される化合物をキレート剤とし、有機溶媒を主とした液体、或いは、有機溶媒が添加された水溶液と接解し、リチウム錯体の発色、又はリチウム錯体のソーレー帯波長よりも感度が低い波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯のスペクトルの感度、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯のスペクトルの感度を測定して、リチウムの定量値を算出し血清及び血漿試験試料中のリチウムイオンを測定することを特徴とするリチウムイオン測定方法である
請求項2の発明は、血清及び血漿試験試料を、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた構造式
Figure 0006061328
で表される化合物をキレート剤とし、有機溶媒を主とした液体、或いは、有機溶媒が添加された水溶液と接解し、リチウム錯体の発色、又はリチウム錯体のソーレー帯波長よりも感度が低い波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯のスペクトルの感度、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯のスペクトルの感度を測定して、リチウムの定量値を算出し血清及び血漿試験試料中のリチウムイオンを測定することを特徴とするリチウムイオン測定装置である。
本発明で使用するリチウム試薬組成物は、生体試料や環境試料等の水溶液中のリチウムが前記リチウム試薬組成物、特にテトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた化合物がキレート剤(発色剤)となって発色する。
F28テトラフェニルポルフィリン化合物とリチウムイオンとの発色反応である黄色から赤色への呈色変化を得るのは難しいが、血清のリチウム濃度が0.6mg/dL〜2.0mg/dL(0.9mM〜3 mM)の範囲において定量値の正確さが求められているので、本発明の実施例では、上記のリチウムの濃度範囲においては、F28テトラフェニルポルフィリンの化合物の濃度を0.1〜1.0g/Lとし、好ましくは、0.5g/Lとすれば正確に測定できることも見出した。
本発明で使用するリチウム試薬組成物は、pH調節剤が、pH5.0未満の酸性側では、本発明の発色剤(キレート剤)であるF28テトラフェニルポルフィリン化合物とリチウムイオンは結合しないため、呈色変化が起こらず、リチウムの定量は困難である。また、pHが5〜7の間では前記発色剤とリチウムイオンは特異的に反応するが、発色速度が緩やかである。一方、pH8〜11では前記発色剤とリチウムイオンは速やかに反応し、且つ安定な発色錯体を得られる。pH11を越えるアルカリ性側では、前記キレート剤、生成した発色錯体の色調の経時的な安定性が悪い。これは、空気中の二酸化炭素を吸収することによるpHの変動が生じやすいことに起因する。したがって、リチウム試薬組成物のpH調節剤としてはpHを7から12の範囲とするpH調節剤、或いはpH調節剤としてのpH緩衝剤が必要であり、より好ましくは、pH8〜11なるようなpH調節剤、pH緩衝剤の使用が必要である。
前記pH調節剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアを含むアルカリ剤、酢酸、リン酸、くえん酸、炭酸、重炭酸、しゅう酸、塩酸、硝酸を含む酸剤、及び、これらの塩類から選択されるものを使用し、前記pH調節剤はpH緩衝剤でもよく、クエン酸、炭酸、重炭酸、りん酸、コハク酸、フタル酸、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、Goodの緩衝剤としてMES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS、及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。
これらの含有によって前記リチウム試薬組成物は、pH5からpH12の範囲でリチウムに対して、特異的な発色反応が可能である。
本発明の使用するリチウム試薬組成物の溶剤(極性溶媒)は、水に混合し得る有機溶剤であることが必要であるが、被検体である血清、血漿、溶出液等の水溶液と均一に混合できれば、有機溶媒を主とした溶液であっても、或いは、有機溶媒が添加された水溶液であってもよい。これは、汎用型の自動分析装置、紫外可視分光光度計により検体中のリチウム濃度を測定する場合はその被検体が水溶液であるため、その試薬組成物も同様に水溶液であることが望ましいからである。
前記有機溶剤は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)から選択される。
本発明の使用する試薬組成物において、実際の製品では安定剤を混入させるが、本発明では安定剤として界面活性剤を使用している。この界面活性剤はF28テトラフェニールポルフィリンの分散性を高め、さらに、発色反応時における試料由来の懸濁を防止させる作用があるので、これらの作用を得るために安定剤を混入することが必要である。
これらの安定剤は、非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤であり、非イオン性界面活性剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商標登録:TritonX-100 ) 、p−ノニルフェノキシポリグリシドール及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。
好ましい非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(Triton X-100(登録商標)等) 、p-ノニルフェノキシポリグリシドールなどである。
また、安定剤としての陰イオン性界面活性剤は、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩等がある。代表的なものとして、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。
本発明で使用するリチウム試薬組成物は、試料中に共存するリチウム以外のイオンによりリチウム濃度の測定が妨害されるのを回避し、或いは試薬組成物の酸化を抑制し、その保存安定性を付与するためにマスキング剤を1種類、あるいは複数の種類を含有させてもよい。もっとも、リチウム以外のイオンが少ないのであれば、必ずしも包含する必要がない。
これらリチウム試薬組成物に加えるマスキング剤としては、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、ピリジン、2,2-ビピリジン、プロピレンジアミン、 ジエチレントリアミン、ジエチレントリアミン−N,N,N',N",N"-五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン、トリエチレンテトラミン-N,N,N',N",N"',N"'-六酢酸(TTHA)、1,10-フェナントロリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、O,O'-ビス(2-アミノフェニル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、N,N-ビス(2-ハイドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'-四酢酸(CyDTA)、O,O'-ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、N-(2-ハイドロキシル)イミノ二酢酸(HIDA)、 イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、 ニトリロトリスメチルりん酸(NTPO)及び、これらの塩類から選択されるものを使用する。好ましくは、トリエタノールアミンが最適である。
本発明で使用するリチウム試薬組成物は、微生物による劣化を防ぐために防腐剤を包含しても良い。防腐剤は特に限定されず、例えばアジ化ナトリウム、Procline(登録商標)等を使用することができる。防腐剤の濃度も特に限定されず、アジ化ナトリウムを使用する場合、一般的に防腐剤として用いられる濃度、例えば反応溶液に対し0.1質量%程度でよい。もっとも、長期保存を目的とした製品とする場合は、防腐剤が処方されるのが普通である。
また、リチウム試薬組成物の機能を長期保存可能にするために、本発明のリチウム試薬組成物の組成のうち、安定剤とpH調節剤及びpH緩衝剤とを包含する第一試薬と、テトラフェニルポルフィリンの化合物と、水に混合し得る有機溶剤と安定剤とpH調節剤及びpH緩衝剤とを包含する第二試薬とをセパレートに保存し、測定直前に両試薬を混合してリチウム試薬組成物として使用するリチウム測定試薬キットとすることができる。
本発明の測定方法は、リチウム試薬組成物の使用に際して、血清及び血漿試験試料を前述したリチウム試薬組成物と接解し、リチウム錯体の発色、吸光度、及びリチウム錯体のソーレー帯以外のスペクトルを測定し、同様に濃度既知のリチウム標準試料のそれを基準濃度として未知試料の定量値を算出することを特徴するものである。
特に、リチウム錯体の発色、及びそのスペクトルにおいて、波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯を測定波長としてその感度を測定し、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯の感度を測定してリチウムの濃度を算出し、血清及び血漿試験試料中のリチウムイオンの濃度を測定する。この場合の感度とは紫外可視分光光度計における吸光度、あるいは吸光度差として相違ない。
本発明の測定装置は、リチウム試薬組成物の使用に際して、血清及び血漿試験試料を前述したリチウム試薬組成物と接解し、リチウム錯体の発色、吸光度、及びリチウム錯体のソーレー帯以外のスペクトルを測定手段で測定し、同様に濃度既知のリチウム標準試料のそれを基準濃度として未知試料の定量値を算出手段で算出することを特徴するものである。
特に、リチウム錯体の発色、及びその吸光度、或いはそのスペクトルを測定手段で測定して、そのスペクトルにおいて波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯を測定波長としてその感度を測定手段で測定し、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯の感度を測定手段で測定してリチウムの定量値を算出手段で算出して、血清及び血漿試験試料中のリチウムイオンの濃度を測定する。
本発明のリチウム試薬組成物を用いたリチウムイオン測定方法及び測定装置によれば、リチウム試薬組成物の使用に際して、血清及び血漿試験試料を前述したリチウム試薬組成物と接解し、リチウム錯体の発色、吸光度、及びリチウム錯体のソーレー帯以外のスペクトルを測定手段で測定し、同様に濃度既知のリチウム標準試料のそれを基準濃度として未知試料の定量値を算出手段で算出することを特徴するものである。
特に、最大感度のソーレー帯波長よりも数倍感度が低い波長である550nm、或いは、その近傍の530nmから560nmの波長帯、及び、波長570nm、或いは、その近傍の波長565nmから650nmの波長帯を測光波長とすることにより、血清及び血漿試験試料の検体に含まれる濃度に対して最適な感度が得られることにより、希釈操作、或いは希釈装置等の煩雑な操作、それに伴う付帯設備が不必要となる。
また、前記ソーレー帯の測光波長とした場合よりも検量線の直線性が良好であるので、簡単な比色計、紫外可視分光光度計による測定値からの濃度の演算が容易であり、色調が黄色から赤色に鮮やかに変化するので、目視による濃度レベル判定も可能である。
なお、テトラフェニルポルフィリン金属錯体はソーレー帯と呼ばれる最大感度が得られる380nmから460nm近傍の典型的なスペクトル領域があるが、これを測光波長とすることもできるものの、臨床的意義のある血清検体中リチウム濃度範囲に対して感度が大きすぎるため、試料の希釈操作が必要であり、それに伴う操作の煩雑化、希釈装置等の増設による測定装置の大型化を伴うといった問題があったが、本発明の測定方法及び測定装置が解消したものである。
また、ソーレー帯を測光波長とした場合はその波長帯の色調と重なる他の有機物や着色成分、例えば硝酸イオン、クレアチニン、ビリルビン、ビリベルジン、溶血ヘモグロビン等に起因するリチウム定量値への影響が懸念されるが、本発明にかかる波長帯を測光波長とした場合はその影響が少なく、より正確なリチウム濃度を求めることが可能である。
従って、従来のリチウム濃度の測定には大型の専用機器を必要としていたが、本発明により携帯型比色計でリチウム濃度を計測することができ、POCTキットとして構成することもできる。
本発明で使用するリチウム試薬組成物は、生体試料や環境試料等の水溶液中のリチウムの濃度を測定でき、本発明で使用するリチウム試薬組成物による検量線は、リチウム濃度が0.6〜1.2 mEq/Lの実用領域において直線的であり、比色計や紫外可視分光光度計の数値を用いて簡単な演算で濃度を求めることができる。そのため、普及型の分光光度計で生体試料である血清検体のリチウム濃度を迅速に定量でき、その情報を例えばTDM治療の管理指標とすることもできる。また、臨床化学自動分析装置への応用で多検体を短時間で定量分析することもできる。
また、リチウム試薬組成物のpHをpH5からpH12の範囲に調節することによって、分光測定を可能としているが、pH5未満の酸性側では本発明のキレート剤(F28テトラフェニルポルフィリン)とリチウムイオンは結合せず、そのリチウム濃度に依存的な呈色変化は起こらない。pH12を越えるアルカリ性側では、前記キレート剤、生成した発色錯体の色調の安定性が悪い。また、空気中の二酸化炭素を吸収することによるpHの変動が生じやすく、これも色調の安定性に悪影響となる。pHが5〜7の間では前記キレート剤とリチウムイオンは結合し、リチウム錯体として特異的に発色するが、発色速度が緩やかであり、pH8〜11では前記キレート剤とリチウムイオンは速やかに結合し、特異的、且つ安定に発色する。したがって、より好ましくは、pH8〜11である。
本発明で使用するリチウム試薬組成物のF28テトラポルフィリンの適量濃度の参考計算表の図である。 本発明に実施例1の紫外−可視分光光度計での実験結果のグラフ、 本発明に実施例1での測光波長別のリチウム濃度検量線のグラフの図、 本発明に実施例1でのF28テトラフェニルポルフィリン−リチウム錯体生成のスペクトル変化(発色反応)のグラフ、 本発明に実施例1の血清試料測定値と原子吸光法(従来法)測定値との相関試験結果のグラフ、 本発明に管理血清を試料とした自動分析装置による測定値の比較の[表1] 本発明の目視によるリチウム検出の[表2]、 本発明に実施例1での吸光度のスペクトルのグラフの図、 本発明の有機溶剤の差異による測定値の比較の[表3]、 本発明に安定剤の差異による測定値の比較の[表4] 本発明にマスキング剤の差異による測定値の比較の[表5]の図である。
本発明者らは、血清及び血漿中のリチウム濃度をより簡単に定量測定できるリチウム試薬組成物を鋭意研究し、前掲の非特許文献1で製法が開示された、ピロール環を持つ大環状化合物を用い、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えてフッ素を28個とした下記の構造式(以下、F28テトラフェニルポルフィリンと称す)に着目して、本発明のリチウム試薬組成物、リチウム試薬組成物を使用した測定方法及び測定装置に想到した。
Figure 0006061328
ピロール環を持つ大環状化合物を利用したリチウム試薬組成物として前掲特許文献2,3に、ピロール環を持つ大環状化合物であってピロール環のβ位に8個の臭素(Br)原子を結合させ、リチウムイオンと反応する分析試薬が開発されているが、pH11以上のアルカリ性でなければリチウムイオンと反応しづらいが、F28テトラフェニルポルフィリンであれば、pH5からpH12でも反応するので、本発明は、このF28テトラフェニルポルフィリンをキレート剤として、水溶液系でのリチウムイオンの定量測定に使用できるようにしたものであり、先ず、リチウム定量測定試薬を説明する。
以下に、本発明で使用するリチウム試薬組成物の実施例について説明する。
実施例1(試料1)
実施例1ではpH緩衝液としての第1試薬を作製し、発色試液として第2試薬を作製し、測定直前に両液を混合してリチウム試薬組成物を作製した。これは、両液を最初から作製しておいても良いが、長時間の保存により試薬が劣化することを避けるためである。
ここで、試薬組成物の作製方法を説明する。
先ず、主に、pH緩衝液としての第1試薬を作製するが、その組成は次のとおりである。
[ 実施例1 ]
(1)第一試薬(安定剤・緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):
TritonX-100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
以上に、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
なお、TritonX-100(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)を1.0重量%としたが、少なすぎると測定時に希に濁りが発生したり、多すぎると、反応容器内で泡が発生したり、両因とも再現性に影響する可能性があるため0.1〜5.0重量%の範囲がよく、好ましくは、1.0 重量%である。
また、マスキング剤はトリエタノールアミンを10mM)としたが、少なすぎるとリチウムイオン以外の夾雑イオンが過剰に含まれた試料においてそのマスキング効果が低下したり、多すぎるとリチウムイオン自体をマスキングしてしまったり、測定誤差の原因になり得るため、1.0〜100mMの範囲が良く、好ましくは、10mMである
次に、主に、発色試液としての第2試薬を作製するが、その組成は次のとおりである。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10mM
これに、0.05M(mol/L)になるようにMOPS(Good緩衝剤)を加えpH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
ところで、本実施例1では、F28テトラフェニルポルフィリン化合物の発色反応を得るのは難しいが、臨床検査での血清中のリチウム定量において、その濃度が広くは0.6 mM〜3 mMの範囲での正確さが求められている。本発明の実施例では、上記のリチウムの濃度範囲においては、F28テトラフェニルポルフィリンの化合物の濃度を、0.1〜1.0g/Lとすれば、好ましくは、0.5g/Lとすれば正確に測定できることも見出した。
リチウム濃度が0.6mM〜3mMの範囲では、F28テトラフェニルポルフィリンを最終的な試薬組成物での濃度を1L当たり0.1〜1.0g/Lの範囲で測定可能で、好ましくは0.5 g/Lが良い。少なすぎるとF28テトラフェニルポルフィリンとリチウムイオンとの反応が十分に起こらず、多すぎると、F28テトラフェニルポルフィリン由来のブランクの吸光度が増加してしまうといった不都合が生じるため、好ましくは0.5 g/Lである。
この点を、更に詳しく説明すると、F28テトラフェニルポルフィリンとリチウムイオンはモル比で1:1のキレート錯体を形成する反応である。ここで、検体中のリチウム濃度が3mM含まれた検体を、本試薬組成物を用いた実施例1の条件で反応させる場合は、その反応系でのリチウム濃度は約0.02 mMとなる。従って、1:1で反応するF28テトラポルフィリン濃度も反応系内で0.02mM 以上存在していないと、検体中のリチウムを過不足なく反応させることができない。
一般に、キレート剤と金属イオンとの錯体形成反応(発色反応)は被反応物質(リチウム)に対して等倍〜10倍のモル濃度のキレート剤(F28テトラポルフィリン)が必要とされており、図1のF28テトラポルフィリンの適量濃度の参考計算表の図に示すように、反応時のF28テトラポルフィリンの濃度を等倍から10倍となるように試薬組成物を構成することになるが、現実的に試薬組成物の添加量、検体量のいわゆる測定反応時の用量におけるパラメータは、その測光機種や目的とする閾値により若干の差があるため、その試薬組成物でのキレート剤濃度は等倍である0.1g/Lよりも5倍量である0.5g/Lの方がより広い測定条件に耐えうる。例えば、検体量の微量化技術が低い機種での測定の場合、検体量を実施例1のそれらに対して2倍〜5倍程度増量することが予想されるので、あらかじめ5倍量としての試薬組成物を0.5g/Lとしておけば不足はない。一方、キレート剤をモル比で10倍以上仕込んでも発色反応に与える速度論的な有意性はなく、試薬ブランク値の増大が懸念されるのみであり、これを採用する利点はない。
以上のように、キレート剤とリチウムとの反応モル比の条件さえ達成できればよいので、例えば、第二試薬のキレート剤(F28テトラポルフィリン)の濃度を1.0 g/Lとした場合は反応時の第二試薬添加量を半量にすることができる。あるいは、その検体量を半減させた場合は同様にキレート剤濃度を半分量とすることもできる。
このように、本実施例1では、F28テトラフェニルポルフィリンを0.5 g/Lとしたが、反応モル量を満たし、且つ試薬ブランク値を最小限にすることを考慮した結果、0.1〜1.0 g/Lの範囲が最適である。
また、ジメチルスルホキシド(DMSO)は5〜30重量%としたが、少なすぎるとF28テトラフェニルポルフィリンの溶液中での分散性が低下し、多すぎると試薬組成物中における有機溶媒の割合が増加してしまうため、好ましくは、20 重量%である。
ここで、本実施例でのF28テトラフェニルポルフィリンは、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた下記に示すような構造式である。
Figure 0006061328
(3)上記の第一試薬と第二試薬を混合したリチウム試薬でのリチウム濃度既知試料を用いた検量線の作成を説明する。
実施例1では、試料6μLに第一試薬(緩衝液)720μL、第二試薬(発色試液)240μLを加えた。この場合に第一試薬はpH10における緩衝能があり、試験時の第一試薬、第二試薬、試料を混合した時の試験液のpHはほぼpH=10となる。
このように、キレート剤としてF28テトラフェニルポルフィリンを使用することにより、pH5〜10の範囲で発色反応を達成することができるため、pH10以下の強いpH緩衝作用をもつリチウム測定試薬を構成するので、空気中のCO2の吸収によるpH変動を減らすことができ、結果として測定値への悪影響を回避することができる。また、これにより汎用の容器に保存可能となった。
なお、第一試薬と第二試薬は使用直前に同じ割合で混合し、混合液を試料に同様の容量で添加してもよく、この場合は、試料6μLに混合液940μLを加えて測定対象の試験液としてもよい。
この混合試薬に試料を加えたpH10の試験液を、常温で10分間反応後、紫外−可視分光光度計(日立U-3900形)を用いて試薬ブランクを対照として550nmの吸光度を測定した。その結果を図2のLi濃度mg/dLと吸光度のグラフ、及び、図4のF28テトラフェニルポルフィリン−リチウム錯体生成における可視部のスペクトル変化のグラフである。
テトラフェニルポルフィリン金属錯体に典型的なソーレー帯(380nmから460nm近傍)と呼ばれる最大感度が得られる波長ではなく、血清検体中リチウム濃度範囲に対して最適な感度が得られる波長550nm、或いは、その近傍の波長530nmから560nmの波長帯を測光波長とすることにより、希釈操作、或いは希釈装置等の煩雑な操作、それに伴う付帯設備が不必要となる。
さらに、図3のLi濃度mg/dLと吸光度のグラフ(光波長*405nm,×415nm,●550nm)に示すように、上述した波長550nm、或いは、その近傍の波長530nmから560nmの波長帯はソーレー帯を測光波長とした場合よりも検量線の直線性が良好であるので、簡単な比色計や分光光度計での濃度の演算が容易であり、色調が黄色から赤色に鮮やかに変化するので、目視による濃度レベル判定も可能である。従って、従来のリチウム濃度の測定には大型の専用機器を必要としていたが、本発明により携帯型比色計や汎用されている紫外可視分光光度計でリチウム濃度を計測することができ、POCTキットとして構成することもできる。
ただし、図3のグラフでは、波長●550nmは実施例1そのもの、ソーレー帯の測光波長である*405nm,×415nmは、実施例1と同様に第1試薬、第2試薬を添加したが、感度が高すぎるため、試料を5倍に希釈して測定反応を実施し、405nmと415nmの波長を使用した。図3のグラフから判るように、405nmと415nmの波長の検量線は直線にはならないが、本実施例の550nmを測光波長とした場合は、直線性が良好な検量線が得られる。
また、図4に示すF28テトラフェニルポルフィリン−リチウム錯体生成のスペクトル変化のグラフのように、リチウムの濃度0.6mg/dL、1.2mg/dL、1.8mg/dL、2.4mg/dL、3.0mg/dLと吸光度が直線的に増加していることが、かなり明瞭に確認できる。リチウム濃度に比例して、ポルフィリン-金属錯体に典型的な415nm(ソーレー帯)のピークと、図中に示される550nmの吸収ピークが増大し、570nmの吸収ピークが減少するので、いずれも測光波長として吸光度差を求めることが可能であるが、上述したように直線性が良好な検量線が得られることから550nmを測光波長とすることが好ましい。
もっとも、本実施例1では550nmの吸光度としたが、波長540nmから560nmの波長帯を測光範囲としても良い。これは、測定機器によっては550nmの測光フィルターがない場合があり、この場合はその近傍として感度が生じている540nmとか560nmとかを測光波長に設定すればよい。図4の実施例1でのリチウム濃度による吸光度のグラフに示すように、570nmの感度の減少もリチウム濃度に対して定量的なので、これも試薬ブランクを対照として吸光度差(ΔAbs)を求めることが可能で、測光波長として利用できる。
更に、稀に患者検体の試料によっては、波長550nmに干渉する夾雑物質が生じ、550nm波長ではデータに誤差を生じてしまう場合は、それを回避するため波長570nm、或いはその近傍の565nmから650nmの範囲から測光波長を選択し、感度の減少を吸光度差として用いてリチウム濃度を算出してもよい。
以下の実験結果から、本発明の実施例1のリチウム試薬でほぼ正確にリチウム濃度を測定できることを説明する。
[紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での実験結果]
図2のグラフは、紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での測定試験結果である。横軸Xに予め調剤した既知のリチウムイオン濃度(Li濃度mg/dL)、縦軸Yは紫外可視分光光度計による550nmの吸光度差をプロットし、直線回帰した結果である。
この図2のグラフから判ることは、得られた吸光度はリチウム濃度に比例し、直線性良好な検量線が描かれることである。
[血清を試料とした場合の原子吸光法(従来法)と本発明による方法との相関試験結果]
図5のグラフは、図2に説明した実施例1での測定法、同じ血清を試料とした従来の原子吸光法(従来法)でのリチウム濃度測定値との相関試験結果である。縦軸Yは本発明によるリチウム濃度測定値で、横軸Xは原子吸光法(従来法)によるリチウム濃度測定値であるが、図2に示す回帰線から両測定値は95%以上の良好な相関を示した。従って、同じ血清試料に対し本発明の試薬組成物による紫外−可視吸光光度定量法でも、正しく血清試料中のリチウムを定量できていることが示された。
[管理血清を試料とした自動分析による測定値の比較]
リチウム濃度が値付けされた管理血清としてプレチノルムU(PrecinormU)(ロシュ製)、プレチパスU(PrecipathU)(ロシュ製)、パソノルムH(PathonormH)(SERO AS製)、オートノルム(Auto norm)(SERO AS製)を試料として生化学自動分析装置(日立H-7700形)にて546nm(550nmに近い波長で本機に実装されている波長)を測光波長として1ポイントエンド法により測定した。

(装置パラメータ)
試薬:0.24 mL
試料:0.005 mL
測光波長(主/副):546 nm / 700 nm
測光時間:10 分
温度:37℃
1ポイントエンド・増加法

上記の設定条件での実験結果を図6の[表1]に示すが、本発明の実施例での測定値が、保証値に対して良好に一致しており、臨床検査用自動分析装置でも血清中リチウムを十分に測定できることが判る。
[目視によるリチウム検出方法」
測定対象の試験液の目視により観察した結果を図7の[表2]に示す。
試料8μLに第一試薬と第二試薬を混合した発色試液920μLを加え、常温で10分間反応後、その呈色を目視により観測した。試料は色調見本として所定濃度のリチウム標準液、濃度レベル別の管理血清を用いて比較した。
各、濃度域において黄色から赤へ呈色変化が確認され、管理血清の呈色は色調見本とも良い一致を示す。特別な装置を用いなくても迅速かつ簡便に血清中のリチウム濃度を判定できることが判る。
以上のように、本発明の実施例1のリチウム試薬でほぼ正確にリチウム濃度が測定できることが判る。
次に、実施例1と組成は同じで、調製方法も基本的に同じであるが、リチウム試薬組成において第一試薬を0.1M(mol/L)となるようにMOPSを加えてpH8.0に調製し精製水で1Lとしたものを使用した。すなわち、試験時の第一試薬、第二試薬、試薬を混合した試験液のpHがほぼpH=8となるように調節した。
[ 実施例2 ]
(1)第一試薬(安定剤・緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100(商標登録)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10mM
以上に、0.1MとなるようにMOPSを加えてpH8に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
リチウム濃度の測定には、実施例1と同様に試料 6μLに第一試薬(緩衝液)720 μL、第二試薬(発色試液)240μLを加え、常温で10分間反応後、紫外可視分光光度計(日立U-3900形)を用いて試薬ブランクを対照として波長550nmの吸光度を測定した。
[紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での実験結果]
図8のグラフは、紫外-可視分光光度計(日立U-3900形)での実験結果であり、横軸Xに予め調剤した既知のリチウムイオン濃度(Li濃度mg/dL)、縦軸Yは紫外可視分光光度計の550nmでの吸光度差をプロットし直線回帰した結果である。
この図8のグラフから判ることは、pH8で構成された試薬組成物、即ちpH8の測定条件にしても得られる吸光度差はリチウム濃度に依存的に比例し、直線性が良好な検量線となっていることである。
ただし、pH8の測定条件では若干、反応速度が遅くなり、定量的には10分〜20分ほどで安定化する。一方、pH10とした場合には10分以内に反応が完結する。よって、本発明のリチウム試薬組成物の緩衝系のpHを5〜10の範囲とすれば、pH11以上の場合のように水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような濃厚な水酸化物溶液を主とした緩衝系を使う必要はなく、扱いも簡便である。pHの設定は、使用者のニーズによるが、pH10であれば反応速度も速く、緩衝力が十分に維持できるGood緩衝剤、塩化アンモニウム系、炭酸系を使うことができる。 実用性を考慮すると、速やか、且つ正確に反応している実施例1のpH10の緩衝系で実施することが好ましい。
このように、本発明のリチウム試薬組成物のpH調節剤としてはpHを7から12の範囲とするpH調節剤、或いはpH調節剤としてのpH緩衝剤が必要であり、より好ましくは、pH8〜11なるようなpH調節剤、pH緩衝剤の使用であり、更に好ましくは、pH10前後になるようなpH調節剤、pH緩衝剤の使用がよい。
次に、水に混合し得る有機溶剤の選択について説明するが、本発明の溶剤は、水に混合し得る有機溶剤であることが重要であり、これは測定時の反応溶液は血清等の通常水溶液であるため、試薬組成物中の成分が水溶液として安定化された液状であれば、有機溶媒を主とした液体であっても、或いは、有機溶媒が添加された水溶液であってもよい。特に、汎用型の自動分析装置、紫外可視分光光度計により検体中のリチウム濃度を測定する場合、基本的には有機溶媒が添加された水溶液であるのが望ましい。
そこで、実施例1、3とは異なった水に混合し得る有機溶剤を実施例3で説明する。実施例3は、基本的に実施例1と調製方法は同じであるが、下記のようにリチウム試薬において第二試薬の有機溶剤をジメチルスルホキシド(DMSO)(20重量%)ではなくジメチルホルムアミド(DMF)(20重量%)とした点が異なる。
[ 実施例3 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
以上に、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルホルムアミド(DMF) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調整し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
また、実施例1の水に混合し得る有機溶剤をジメチルスルホキシド(DMSO)(20重量%)に、実施例3ではジメチルホルムアミド(DMF)(20重量%)としたが、実施例4では水に混合し得る有機溶剤としてジメチルアセトアミド(DMA)(20重量%)を混入したリチウム試薬組成物として、リチウムイオン濃度を測定した。
[ 実施例4 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
以上に、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調整し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルアセトアミド(DMA) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調整し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
以上のように、実施例1のリチウム試薬中においてジメチルスルホキシドを、実施例3ではジメチルホルムアミド(DMF)に変更し、実施例4ではジメチルアセトアミド(DMA)に変更した試薬組成物を調製し、実施例1と同様の手順により、図9に示すように、管理血清試料中のリチウムを定量し、図9の[表3]に示すように、本測定方法と従来の測定方法でその測定値を比較した。
図9の[本発明の有機溶剤の差異による測定値の比較]の[表3]結果から、本実施例1の水に混合し得る有機溶剤であるジメチルスルホキシド(DMSO)20重量%組成による測定値は0.83 mM(mmol/L)であり、本実施例3の水に混合し得る有機溶剤であるジメチルホルムアミド(DMF)20重量%組成による測定値は0.81 mMであり、実施例4のジメチルホルムアミド(DMF)20重量%組成による測定値は0.82 mMであり、原子吸光光度法による測定値の0.82 mMと95%以上一致する。従って、これらの有機溶媒によりF28テトラフェニルポルフィリンを均一に分散させ、液状試薬組成物として構成し、血清のような水溶液試料中のリチウムを正確に定量することができる。
次に、リチウム試薬組成物の安定剤の選択について実験結果に基づいて説明する。実施例5から実施例7はリチウム試薬組の安定剤は、基本的に実施例1と調製方法は同じであるが、下記のように、安定剤を非イオン性界面活性剤(実施例5)のみ、陰イオン性界面活性剤(実施例6)のみ、または両方を併用した場合(実施例7)を実験した。
先ず、実施例5の非イオン性界面活性剤(TritonX-100(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)のみの場合(実施例5、組成自体は実施例1と同じ)の組成を説明する。
[ 実施例5 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤):TritonX-100
(登録商標)(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
実施例6は、陰イオン性界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製))のみの場合(実施例6)の組成を説明する。
[ 実施例6 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:陰イオン界面活性剤のみ):
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調整し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:陰イオン性界面活性剤)
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調整し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
実施例7は、リチウム試薬組成物の安定剤を非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の両方を併用した場合(実施例7)の組成を説明する。
[ 実施例7 ]
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤):
(a)非イオン性界面活性剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
(b)陰イオン性界面活性剤:ドデシル硫酸ナトリウム
(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤(分散剤:非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤):
(a)非イオン性界面活性剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
(b)陰イオン性界面活性剤:ドデシル硫酸ナトリウム
(和光純薬製) 1.0 重量%
マスキング剤:トリエタノールアミン 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
前記の実施例5、実施例6、実施例7を用いて、実施例1と同様の手順で管理血清試料中のリチウム濃度を定量した。その実験結果を図10の[本発明に安定剤の差異による測定値の比較]の[表4]に示して説明する。
図10の[表4]の実験結果から判ることは、非イオン性界面活性剤のみの測定値(0.82 mM)、陰イオン性界面活性剤のみの測定値(0.83 mM)、両安定剤を併用した場合の測定値(0.82 mM)は95%以上一致することが判り、界面活性剤の種類、併用の仕方に関わらず、その測定値はほぼ一致するので、懸濁が懸念されるような試料の場合にはこれらの界面活性剤を併用して差支えないことがわかる。
次に、リチウム試薬組成物のマスキング剤の選択について説明する。
リチウム試薬組成物のマスキング剤として、前述の実施例はトリエタノールアミンのみの場合を説明したがエチレンジアミン四酢酸(EDTA)も使用可能であることを説明する。
比較対象としてトリエタノールアミンのみの場合は、実施例5のリチウム試薬組成物とし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のみの場合(実施例8)と、両マスキング剤を併用した場合(実施例9)の組成を説明する。
[ 実施例8 ]
マスキング剤としてエチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K(カリウム))のみの場合。
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:エチレンジアミン四酢酸二カリウム
(EDTA・2K 同仁化学製) 10 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調整し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:エチレンジアミン四酢酸二カリウム
(EDTA・2K 同仁化学製) 10 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
[ 実施例9 ]
マスキング剤としてトリエタノールアミンとエチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K(カリウム)の併用の場合。
(1)第一試薬(緩衝液として)
キレート剤:なし
有機溶剤:なし
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:
トリエタノールアミン 10 mM
エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K 同仁化学製)0.1 mM
これに、7重量%の塩化アンモニウムを加えてpH10に調節し精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。

(2)第二試薬(発色試液として)
キレート剤:F28テトラフェニルポルフィリン 0.5 g/L
有機溶剤:ジメチルスルホキシド(DMSO) 20 重量%
安定剤:Triton-X100(登録商標)
(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル) 1.0 重量%
マスキング剤:
トリエタノールアミン 10 mM
エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K 同仁化学製)0.1 mM
これに、0.05MになるようにMOPS(緩衝剤)を加え、pH7.0に調節し、精製水で1Lとして汎用の保存容器に保管した。
前記の実施例8、実施例9を用いて、実施例1と同様の手順で管理血清試料中のリチウム濃度を定量した。その実験結果を図11の[本発明にマスキング剤の差異による測定値の比較]の[表5]に示して説明する。
図11の[表5]の実験結果から判ることは、トリエタノールアミンのみの測定値(0.83 mM)、エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA・2K 同仁化学製)のみの測定値(0.83 mM)、両マスキング剤を併用した場合の測定値(0.82 mM)は95%以上一致することが判り、主なマスキング剤の種類や併用の仕方に関わらず、その測定値はほぼ一致するので、保存試薬中に僅かに混入している微量金属イオンが原因で起こる試薬の劣化防止や、試料中の夾雑イオン種が過剰な場合に対応して、これらのマスキング剤を適宜使用して差支えないことが判る。
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、生体試料や環境試料等の水溶液中のリチウムの定量を、簡便な比色計により即座にリチウム濃度を測定でき、かつ、目視により判定が可能である。
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上記の各実施例に限定されるものでないことは勿論である。例えば、実施例1から実施例9ではリチウム濃度測定のための試薬組成物を第一試薬、第二試薬とセパレートして長期保存を可能としたが、短期間で測定するのであれば、最初から第一試薬、第二試薬を混合した単一の試薬を用事調製して使用しても良いことは勿論である。

Claims (2)

  1. 血清及び血漿試験試料を、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた構造式
    Figure 0006061328
    で表される化合物をキレート剤とし、有機溶媒を主とした液体、或いは、有機溶媒が添加された水溶液と接解し、リチウム錯体の発色、又はリチウム錯体のソーレー帯波長よりも感度が低い波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯のスペクトルの感度、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯のスペクトルの感度を測定して、リチウムの定量値を算出し血清及び血漿試験試料中のリチウムイオンを測定することを特徴とするリチウムイオン測定方法。
  2. 血清及び血漿試験試料を、テトラフェニルポルフィリンの炭素に結合している水素を全部フッ素に置き換えた構造式
    Figure 0006061328
    で表される化合物をキレート剤とし、有機溶媒を主とした液体、或いは、有機溶媒が添加された水溶液と接解し、リチウム錯体の発色、又はリチウム錯体のソーレー帯波長よりも感度が低い波長550nm、或いはその近傍の波長530nmから560nmの波長帯のスペクトルの感度、又は、波長570nm、或いはその近傍の波長565nmから650nmの波長帯のスペクトルの感度を測定して、リチウムの定量値を算出し血清及び血漿試験試料中のリチウムイオンを測定することを特徴とするリチウムイオン測定装置。
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