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JP5762684B2 - ブラスメッキ鋼線の伸線方法 - Google Patents

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本発明は、ブラスメッキ鋼線の伸線方法に関し、詳しくは、ブラスメッキ鋼線の防錆性を損なうことなく、ブラスメッキ鋼線の伸線時の潤滑性の悪化および伸線後のブラスメッキ鋼線の延性の悪化を抑制することができるブラスメッキ鋼線の伸線方法に関する。
従来、細径の銅線、スチールコード用ブラスメッキ鋼線等の金属線材の製造においては、多段式湿式伸線装置を用いた湿式伸線が行われている。かかる伸線機に用いられる潤滑剤としては、油成分をエマルジョン化して分散させた水系潤滑剤が多く用いられている。
このような湿式伸線工程に関して多くの改良技術が提案されている。例えば、ブラスメッキ鋼線の延性劣化の抑制に関する潤滑剤の改良が挙げられる。特許文献1には、潤滑剤を冷却し、加工中の金属線材の温度を低く保つことで、金属表面の酸化抑制や時効硬化による延性劣化を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2には、潤滑液に極圧被膜生成反応の低下を抑制する成分を含有し、かつ、温度15℃以上30℃以下の潤滑液を用いることで、伸線性および延性に優れたブラスメッキ鋼線を製造する方法が開示されている。
また、金属加工用潤滑剤として、潤滑性の向上を目指した水系潤滑剤の研究も報告されており、例えば、特許文献3には、ヒドロキシアルカンスルホン酸と分子内にエポキシ基を有する化合物を反応させて得られた反応生成物、およびそのアミン中和物、並びにこれらを含有する潤滑剤が開示されている。かかる潤滑剤は、優れた潤滑性を有すると共に、防錆性、低泡性にも優れている。さらにまた、特許文献4には、金属塑性加工用潤滑剤にポリオキシアルキレングリコールリン酸エステルを適用することで、潤滑性、脱脂性および洗浄性に優れ、汚れが少なくなる水可溶性潤滑剤が得られることが開示されている。
特開2006−297440号公報 特開2007−253186号公報 特開2001−262170号公報 特開2001−342487号公報
しかしながら、近年、金属鋼線の品質に関する要望が高まっており、例えば、高張力のブラスメッキ鋼線を得ようとすると、伸線工程時の潤滑性の低下や、ブラスメッキ鋼線の延性の低下という問題を有しており、上述の特許文献1〜4に記載されている技術では、十分な品質のブラスメッキ鋼線を得ることが困難であるのが現状である。
そこで、本発明の目的は、ブラスメッキ鋼線の防錆性を損なうことなく、ブラスメッキ鋼線の伸線時の潤滑性の悪化および伸線後のブラスメッキ鋼線の延性の悪化を抑制することができるブラスメッキ鋼線の伸線方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、下記の知見を得た。
すなわち、一般に油成分をエマルジョン化して分散させた水系潤滑剤には、線材および加工設備の錆を防ぐ目的として、防錆剤が含まれている。この潤滑剤がブラスメッキ表面と接触すると、防錆剤とブラスメッキ表面が反応し、ブラスメッキ表面に薄い防錆被膜が形成される。この防錆被膜の存在により、伸線加工時の潤滑性の悪化および伸線後のブラスメッキ鋼線の延性の悪化が生じるとの知見を得た。
かかる知見を得て、本発明者はさらに鋭意検討した結果、防錆剤を含まない湿式潤滑剤で伸線加工を施し、伸線加工後に防錆処理を施すことによって、ブラスメッキ鋼線の防錆性を損なうことなく、ブラスメッキ鋼線の伸線時の潤滑性の悪化および伸線後のブラスメッキ鋼線の延性の悪化を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のブラスメッキ鋼線の製造方法は、水系潤滑剤を用いて、ブラスメッキ鋼線を伸線する伸線工程を有するブラスメッキ鋼線の製造方法において、
前記水系潤滑剤が防錆剤を含まず、かつ、前記伸線工程後に防錆処理を施し、
前記防錆処理が、超臨界処理の溶媒にトリアゾール化合物を混合した超臨界処理による表面処理であることを特徴とするものである。これにより、ブラスメッキ鋼線の防錆性を損なうことなく、ブラスメッキ鋼線の伸線時の潤滑性の悪化および伸線後のブラスメッキ鋼線の延性の悪化を抑制することができる。本発明においては、前記トリアゾール化合物は、ベンゾトリアゾールであることが好ましい。
また、本発明のスチールコードは、前記ブラスメッキ鋼線の伸線方法により得られたブラスメッキ鋼線の単線または複数本の撚り合わせからなることを特徴とするものである。また、本発明の空気入りタイヤは、本発明のスチールコードを補強材として用いたことを特徴とするものである。
本発明によれば、ブラスメッキ鋼線の防錆性を損なうことなく、ブラスメッキ鋼線の伸線時の潤滑性の悪化および伸線後のブラスメッキ鋼線の延性の悪化を抑制することができるブラスメッキ鋼線の伸線方法を提供することができる。
本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法に係る伸線工程の一好適例の概略図である。
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法に係る伸線工程の一好適例の概略図である。図示するように、スリップ型湿式伸線機では、機体1内に、ダイス群2、一対の多段コーン4および潤滑液が満たされた潤滑液槽7が設けられる。線材としてのブラスメッキ鋼線Wを供給装置(図示せず)から機体1内へ供給すると、ブラスメッキ鋼線Wは、ダイス群2の各ダイス3から順に引き抜かれて、段階的に縮径され、そして、最終ダイス5から引き抜かれることにより、仕上げ線径が得られる。最終ダイス5を通って潤滑液層の外へ引き上げられたブラスメッキ鋼線Wは、その後、キャプスタン6を経て、スプール(図示せず)に巻き取られる。
本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法においては、上述の伸線工程で用いられる水系潤滑剤が、防錆剤を含まないことが重要である。上述のように、水系潤滑剤中の防錆剤がブラスメッキ表面と接触すると、防錆剤とブラスメッキ表面が反応し、ブラスメッキ表面に薄い防錆被膜が形成される。この防錆被膜が、伸線加工時の潤滑性の悪化および耐焼付性の悪化に伴うブラスメッキ鋼線の延性の悪化をもたらしている。そこで、本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法においては、水系潤滑剤として、防錆剤を含まない水系潤滑剤を用いている。上記水系潤滑剤は、例えば、水に、有機脂肪酸等の油成分、リン酸エステルやエチレンジアミン等の極圧成分、乳化剤、発泡抑制剤を分散させた乳濁液から成り、湿式伸線においては、通常、5〜20倍に希釈して用いられる。原液潤滑剤中における潤滑成分の含有量は、例えば、極圧成分が約1〜10質量%、油成分が1〜15質量%程度である。これ以外にも、摩擦緩和剤、酸化防止剤、清浄剤、分散剤、流動点降下剤、防腐剤、防食剤、溶剤等を含んでいてもよい。
また、本発明においては、伸線工程後に防錆処理を施すことも重要である。本発明に用いる上記水系潤滑剤は、防錆剤を含んでいない。そこで、伸線工程とは別工程として防錆処理を施し、ブラスメッキ鋼線の防錆性を確保している。
上記防錆処理としては、トリアゾール化合物を含む水溶液を用いた表面処理であることが好ましい。より好ましくは、酸性水溶液を用いてブラスメッキ鋼線を表面処理した後、トリアゾール化合物を含む水溶液を用い、さらにブラスメッキ表面の処理を施す。酸性水溶液を用いてブラスメッキ鋼線の表面処理することにより、最終伸線工程における水系潤滑剤の残留成分やブラスを構成する銅および亜鉛の酸化物を減少させることができる。このようにして得られたブラスメッキ鋼線は、ゴムとの初期接着性および接着耐久性が向上しており、ゴム物品の補強材として好適である。しかしながら、酸性水溶液を用いてブラスメッキ鋼線の表面処理をおこなうことにより、ブラス表面の活性が増大してしまい、加硫時の接着を阻害するような生成物を生じてしまうという弊害が生じる場合がある。そこで、酸性水溶液でブラスメッキ鋼線の表面処理をした後、トリアゾール化合物を含む水溶液を用いてブラスメッキ鋼線の表面処理をおこなう。これにより、ブラスメッキ鋼線のブラス表面の活性を低下させることができる。
酸性水溶液は、ブラスと酸化物の選択溶解性が高いリン酸を含む水溶液であることが好ましい。この場合、リン酸の濃度としては、0.01〜1.0mol/Lであることが好ましい。酸性液中のリン酸の濃度が1.0mol/Lを超えると、ブラスメッキに悪影響をおよぼし、結果として、ゴムとの接着性が低下してしまう。一方、リン酸の濃度が0.01mol/L未満であると、ブラスメッキ表面の活性を十分に上げることができなくなってしまう。なお、酸性水溶液による表面処理時間としては、例えば、0.01mol/Lのリン酸水溶液を用いた場合は、30〜60秒とすることができる。
トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールなど一般的に防錆作用のあるものを好適に使用することができる。トリアゾール化合物を含む水溶液の濃度は使用するトリアゾール化合物種にもよるが、0.1〜5g/Lであることが好ましい。また、処理時間は、トリアゾール化合物の濃度に応じて適宜決定することができ、トリアゾール化合物濃度が低ければ処理時間は長く、濃度が高ければ処理時間を短くすることができる。例えば、トリアゾール化合物濃度を0.1g/Lとした場合は、10〜30秒とすることができる。
また、本発明においては、上記防錆処理が超臨界処理の溶媒にトリアゾール化合物を混合した超臨界処理による表面処理であることも好ましい。超臨界流体にトリアゾール化合物を混合させることで、ブラスメッキ鋼線の防錆性を確保することができる。超臨界流体の性質として、液体の溶解性と気体の浸透性を併せ持つことが挙げられる。このような性質を有するため、ブラスメッキ鋼線がボビンに固く巻きつけられた状態であっても、超臨界流体は最奥部であるボビン巻き芯部のブラスメッキ鋼線にも容易に行き渡ることができる。したがって、ブラスメッキ鋼線をボビンにより巻きとった後、バッチ処理にて全ブラスメッキ鋼線の表面を一括処理できるという利点を有している。なお、ブラスメッキ鋼線の超臨界処理は、ブラスメッキ鋼線の製造工程において、ボビンに巻きとる前におこなってもよい。
超臨界処理に用いる溶媒としては、二酸化炭素が好ましい。超臨界処理の溶媒としては、二酸化炭素、窒素、水、エタノール等を挙げることができるが、この中でも超臨界状態にする条件の容易さ、安全性の面から二酸化炭素が優れているためである。
また、超臨界処理に際して、二酸化炭素の温度は31.1〜300℃であることが好ましい。31.1℃未満では二酸化炭素は超臨界流体にならないためである。一方、超臨界処理時の温度が300℃を超えると、ブラスメッキ鋼線を構成する鋼の内部組織に変化が生じ、強度を低下させてしまうという弊害が生じる。したがって、強度を低下させずに延性を得るためには、好ましくは、温度範囲は90〜250℃である。熱処理温度を90〜250℃とすれば、ブルーイングのような酸化被膜の形成もほとんど見られない。なお、超臨界処理は、処理圧力を7.2MPa〜15MPaにておこなうことが好ましい。
なお、超臨界処理に際し、溶媒にその他モディファイヤを混合することもできる。モディファイヤを同時に用いることで、ブラスメッキ鋼線の表面の成分を選択的に制御することが可能となる。例えば、モディファイヤとしてはメタノール、エタノール、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、トリエチルアミン、エチレンジアミン等を挙げることができる。これにより、各種ブラスメッキ鋼線の特性に合わせた表面処理が可能となる。
なお、本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法は、伸線工程において、防錆剤を含まない水系潤滑剤を用いること、および伸線工程後に防錆処理を施すことのみが重要であり、それ以外は常法に従い適宜設定、実施することが可能であり、特に制限されるものではない。また、本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法に用いる鋼線の線径や材質等についても、特に制限されるものではなく、公知のものであればいずれも使用可能である。さらに、ブラスメッキ組成も、特に限定されないが、銅が60〜70質量%、亜鉛が30〜40質量%であることが好ましいが、さらにニッケルやコバルトを添加した3元系の合金であってもよい。さらにまた、ブラスメッキ処理についても、常法に従い適宜実施することができ、特に制限されるものではない。本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法は、直径0.08mm〜0.6mmのゴム物品補強用等に用いられるブラスメッキ鋼線を製造する際に好適に適用することができる。
本発明のスチールコードは、本発明のブラスメッキ鋼線の伸線方法により製造されたブラスメッキ鋼線を単線、または、これらの複数本の撚り合わせからなるものである。本発明のスチールコードは、タイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として好適である。
例えば、空気入りタイヤとしては、一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスの半径方向外側にベルトを備える空気入りタイヤにおいて、本発明のスチールコードを、カーカスおよびベルトのうちいずれか一方または双方の補強材として用いることができる。
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
<参考例>
図1に示す、湿式伸線工程において、ブラスメッキが施された直径1.72mmのスチールワイヤ材を縮径して、直径0.30mmのブラスメッキスチールワイヤを作製した。その際、水系潤滑剤として、水100質量部に対して、油性剤1.6質量部、極圧剤1質量部、乳化剤0.6質量部および発砲抑制剤0.04質量部である、防錆剤を含まない水系潤滑剤を用いた。得られたブラスメッキワイヤに対して、0.01mol/Lのリン酸水溶液で30秒間処理を行い、次いで、0.01mol/Lのベンゾトリアゾール(BTA)水溶液で10秒間処理を行い、その後、乾燥させた。
<実施例>
伸線加工後に、BTAを混合した二酸化炭素を用いた超臨界処理により、表面処理を施したこと以外は、参考例と同様にブラスメッキスチールワイヤを作製した。超臨界処理の条件としては、処理温度を145℃、処理圧力を10MPa、BTA含有率を0.1質量%とした。
<比較例>
伸線加工後に、表面処理をおこなわなかったこと以外は、参考例と同様の手法にてブラスメッキスチールワイヤを作製した。
<従来例>
防錆剤を含む従来の水系潤滑剤を用いて伸線加工をおこない、その後、表面処理をおこなうことなくブラスメッキスチールワイヤを作製した。
参考例、実施例、比較例および従来例のブラスメッキスチールワイヤの伸線性、延性および防錆性につき、下記方法により評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<伸線性>
ブラスメッキスチールワイヤの伸線性は、伸線加工におけるダイスの寿命を測定し、従来例を100とした指数で評価した。この値が大きいほどダイスの寿命が長く、伸線性が優れている。
<延性>
ブラスメッキスチールワイヤの延性は、得られた直径の0.30mmの鋼線の捻回値を測定し、従来例を100とした指数で評価した。試験に際し、ブラスメッキスチールワイヤ試料長Lを100mmとし、荷重には1.0kgの重りを用いた。ブラスメッキスチールワイヤの線径dの100倍の長さ当たり3回に相当する回転数Noは、No=3×(L/100d)により、No=10.0回である。そこで、各ブラスメッキスチールワイヤ試料に時計方向および反時計方向に10回転させることを繰り返し与えて、クラックが入るまでの繰り返し回数を数えた。なお、回転速度は約30回転/分とした。この値が大きいほど、延性が優れている。
<防錆性>
ブラスメッキスチールワイヤの防錆性は、作製したスチールワイヤを大気中にて30日間放置した後、ブラスメッキスチールワイヤ表面を顕微鏡で観察して、目視で錆の量を測定した。従来例の値を100とした指数で評価した。この値が大きいほど防錆性が優れている。
Figure 0005762684
上記表1より、防錆性を損なうことなく、伸線性および鋼線の延性を向上できることが確認できた。
1 機体
2 ダイス群
3 ダイス
4 多段コーン
5 最終ダイス
6 キャプスタン
7 潤滑液槽

Claims (4)

  1. 水系潤滑剤を用いて、ブラスメッキ鋼線を伸線する伸線工程を有するブラスメッキ鋼線の製造方法において、
    前記水系潤滑剤が防錆剤を含まず、かつ、前記伸線工程後に防錆処理を施し、
    前記防錆処理が、超臨界処理の溶媒にトリアゾール化合物を混合した超臨界処理による表面処理であることを特徴とするブラスメッキ鋼線の伸線方法。
  2. 前記トリアゾール化合物が、ベンゾトリアゾールである請求項1記載のブラスメッキ鋼線の伸線方法。
  3. 請求項1または2記載のブラスメッキ鋼線の伸線方法により得られたブラスメッキ鋼線の単線または複数本の撚り合わせからなることを特徴とするスチールコード。
  4. 請求項記載のスチールコードを補強材として用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
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