JP5298548B2 - 永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法 - Google Patents
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Description
通常、電動機では、その容量や用途に応じてベアリングの交換等のメンテナンスを行うために、回転子を電動機から引き抜いて作業する必要がある場合がある。この場合、誘導機や巻線型同期機では、回転子の磁力が通常は実質的にゼロであるのに対し、PMモータは通常、回転子に永久磁石が配置されているため、電流無通流の状態でも回転子が磁力を有する。
まず、回転子の引き抜きに対抗する磁気吸引力が発生するので、引き抜きのために大きな力を要すると共に、引き抜き力と対抗力とのバランスを制御するための特別な治具も必要となる。従って、引き抜き作業に当たって事故のリスクが伴うと同時に、メンテナンスに要する期間及びコストの増大に直結する。
また、作業場所にある磁性体のゴミ等もやはり引き付けられるため、これを防止する等の特別な配慮が必要になる。
この特許文献1には、永久磁石を有する回転子を備えた電動機の固定子巻線に高周波電流を流して回転子を誘導加熱し、永久磁石を減磁する技術、及び、永久磁石を有する製品の破砕片の熱減磁や破砕部の電気減磁を行って前記製品を解体する技術が開示されている。
そこで、本発明の解決課題は、永久磁石を有する電気機器のメンテナンスに際して永久磁石を予め非可逆減磁させ、分解や部品交換等の作業性や安全性を向上させたメンテナンス方法を提供することにある。
なお、以下の実施形態では、メンテナンス対象である永久磁石を有する電気機器として、PMモータを例示するが、本発明は永久磁石同期発電機を始めとして、永久磁石を有する各種の電気機器に適用可能であるのは言うまでもない。
本発明では、例えばPMモータをメンテナンスする場合に、モータの固定子のコイルに高周波電流を通流して回転子の鉄心に渦電流を流すことにより、鉄心や永久磁石を加熱(誘導加熱)し、これによって永久磁石を非可逆減磁する(ステップS1)。ここで、非可逆減磁とは、減磁後に再着磁しない限り保磁力(残留磁束密度)が低下したままの状態を維持し、再着磁によって保磁力が元の状態に戻ることを言う。
また、前記コイルに十分大きい電流を流せる場合には、高周波電流による誘導加熱を行わずに、永久磁石の磁束を打ち消す方向の磁束を生じさせる大きな減磁電流をコイルに通流し、この減磁電流のみによって非可逆減磁しても良い。
次いで、永久磁石部位(回転子等)を機器の部品配置上の元の位置に戻す(ステップS3)。その後、永久磁石を元の状態にまで再着磁して一連のメンテナンス作業を終了する(ステップS4)。
図1の各処理における減磁方法や着磁方法については、後述する。
一般に、永久磁石では、温度が高くなると減磁しやすくなり、通常よりも小さい電流または電流がゼロであっても減磁できることが知られている。
図2から明らかなように、永久磁石の温度の上昇に伴い、いわゆる非可逆減磁を引き起こす磁気特性の変極点(クニック点)が、グラフ右上方に移動する。このことは、より小さい外部磁力(電流)によって非可逆減磁すること、及びその下限磁束密度が高くなることを意味する。
本発明では、この現象を積極的に利用し、永久磁石を意図的に加熱して減磁させることよりメンテナンスを容易にする、というものである。
誘導加熱装置200には、高周波電流を通流するためのコイル201が必要であるが、このコイル201は、図示する如く永久磁石を有する電気機器100と別個に設けても良いし、以下に述べるように電気機器100自体がコイルを有する場合にはこれを利用しても良い。
PMモータ等の電気機器では、誘導加熱を行うためのコイルとして、当該モータに実装された固定子のコイルを用いることができる。すなわち、図4において、101はPMモータ等の電気機器、102は回転子等の永久磁石部位(永久磁石自体またはその周辺の磁性体を含む部位)、103は電気機器101に実装されたコイルであり、これらのコイル103の全部または一部に高周波電流を通流することで、誘導加熱により永久磁石部位102を加熱して減磁することができる。
この方法によれば、誘導加熱のために専用のコイルを用意する必要がなくなり、メンテナンスに要する費用の低減、作業の簡略化を図ることができる。
すなわち、図5(a)に示すように、コイル103に高周波電流を通流して誘導加熱により永久磁石部位102を加熱し、その後、図5(b)に示すように、永久磁石部位102を減磁させる極性の磁束を生じさせるようにコイル103に単一極性の大電流を通流して減磁させるものである。
これにより、一層低温で永久磁石を減磁させることが可能になるため、高温まで加熱する場合の不具合を解消して加熱処理の手間を削減し、永久磁石を確実に減磁することができる。
この実施形態は、誘導加熱のみでは非可逆減磁させない点、または、非可逆減磁の度合がメンテナンスに必要なレベルに至らないという点で、誘導加熱のみにより完全に非可逆減じさせる(キュリー温度に到達する)特許文献1の従来技術とは異なるものである。
永久磁石を誘導加熱する手段としては、例えば図3に示した誘導加熱装置200のような専用電源を用いる方法に加え、当該永久磁石を有する機器を通常動作させるための電力変換器に、永久磁石を誘導加熱する機能を持たせることによって実現することもできる。このような構成の代表例としては、インバータによるPMモータの駆動システムを挙げることができる。
このようにPMモータ等の電気機器を通常動作させる電源としての電力変換器を誘導加熱手段としても用いることにより、専用電源が不要となり、しかも機器の通常動作時における結線を変えずに、または簡単な結線変更によって誘導加熱が可能となるため、コストや手間を大幅に低減することができる。
また、本発明による減磁方法を用いれば、永久磁石を有する機器を安全かつ低コストでメンテナンスすることができる。特に、中大容量のPMモータを機械系に組み込んだ場合、ベアリング交換等のメンテナンスにおける操作性が、永久磁石の磁力によって著しく低下するため、永久磁石を簡便に減磁させる方法は極めて有用性が高い。
このように、減磁後の永久磁石を、機器が有するコイルを利用して再着磁することにより、メンテナンスに必要な装置の削減が可能となり、経済性を高めることができる。
周知のように、外部磁界による永久磁石の非可逆減磁は、永久磁石の起磁力に対して反対の極性に外部磁界を与えた場合に最も効率的に行われる。
一般に、PMモータをインバータによって駆動する場合、回転子の磁極位置の情報が必要となる。その手段として、回転子位置センサを用いるシステム構成の場合には、この位置センサの情報を基に回転子の磁極位置、すなわち永久磁石の極性を知ることができる。つまり、図6に示すように固定子104及び回転子105を備えたPMモータにおいて、回転子105の永久磁石による回転子磁束ベクトル(起磁力の方向)を回転子位置センサ(図示せず)によって割り出した上で、この磁束ベクトルを打ち消すための減磁電流ベクトルを発生させるように、固定子104が有するコイル(図示せず)に適切な電流を通流することにより、非可逆減磁を効率的に行うことができる。
この構成においては、原理的に回転子の停止状態では回転子位置情報が得られないと共に、減磁動作を行う際に通常の位置演算アルゴリズムを有効にしない場合には、回転子位置情報を得ることができない。従って、何らかの方法によって回転子位置を検出し、これに対応した極性の減磁電流を通流することが必要となる。
この性質を利用し、PMモータの固定子のコイルに直流成分を有する電流を通流して同期引き込みを行い、回転子位置を所定の位置にセットした後、回転子の起磁力を打ち消すような減磁電流を通流させることにより、回転子位置センサからの位置情報が得られない場合でも、簡便かつ良好に非可逆減磁を行うことができる。
この方法は、位置センサレスの駆動システムに限らず、位置センサを有する場合でも、位置センサからの信号を用いずに非可逆減磁操作を行いたい場合に利用することができる。
PMモータの回転速度がゼロの時、PMモータに突極性が存在する場合には、固定子のコイルに高周波電圧を印加または高周波電流を通流し、その結果として現れる高周波電流または高周波電圧からインピーダンスの変化を検出して回転子位置を推定する技術が、特許第3312472号公報「電動機の磁極位置検出装置」等により公知となっている。
従って、この技術を用いて回転子位置を演算した上で、回転子の起磁力を打ち消すような減磁電流を通流させて非可逆減磁を行うこともできる。
この方法によれば、前述した同期引き込みに比べてやや煩雑にはなるものの、同期引き込みに付随する回転子の回転を伴わずに非可逆減磁操作に入ることができるため、安全性、利便性の面で優位な場合がある。
すなわち、図7(a)に示す表面磁石型のPMモータにおいては、固定子104と回転子106との間のギャップ部や、永久磁石107からなる磁極相互の境界部、図7(b)に示す埋込磁石型のPMモータにおいては、上記ギャップ部や回転子110内部の永久磁石111の埋込用穴部に、誘導加熱によって加熱し易い材料、例えば鉄材からなる誘導加熱促進用部材108,109または112〜114を配置する。これにより、固定子104のコイルに高周波電流を通流すると前記誘導加熱促進用部材108,109または112〜114に渦電流が流れて加熱されるので、永久磁石107,111の温度上昇が促進される。
なお、誘導加熱促進用部材108,109または112〜114は、PMモータ内に常時配置しておいても良いし、非可逆減磁操作時にのみ配置しても良い。
この性質を利用して、固定子及び回転子のうち永久磁石を有する方(一般には回転子)の積層鋼鈑の板厚を他方よりも厚くすることにより、誘導加熱のために高周波電流を通流した際の積層鋼鈑における発生損失が増大するため、永久磁石を有する側の温度上昇を早めることが可能となる。
図8において、120はPMモータ、121は固定子、122は永久磁石を有する回転子である。ここで、PMモータ120は、回転子122を引き抜くことができるように、モータ端部のシールド部材を外してある。
なお、減磁装置210はコイル(図示せず)を備えており、このコイルに電流を通流するための電源220が設けられている。
この参考形態によれば、減磁装置210の内径部を通って取り出された回転子122は、永久磁石の磁力が弱まっているため、ベアリング交換等のメンテナンス作業を安全かつ容易に行うことができる。
102:永久磁石部位
103:コイル
104:固定子
105,106,110:回転子
107,111:永久磁石
108,109,112,113,114:誘導加熱促進用部材
120:PMモータ
121:固定子
122:回転子
200:誘導加熱装置
201:コイル
210:減磁装置
220:電源
Claims (9)
- 永久磁石を有する電気機器のメンテナンスに際し、前記電気機器が有するコイルの一部または全てに高周波電流を通流して誘導加熱により前記永久磁石を直接的または間接的に加熱し、更に、前記コイルの一部または全てに前記永久磁石を減磁させるための単一極性の電流を通流することにより、予め前記永久磁石を非可逆減磁させることを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。
- 請求項1に記載したメンテナンス方法において、
前記電気機器の通常動作のために前記電気機器に給電する電力変換器により前記コイルに電流を通流させることを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。 - 請求項1または2に記載したメンテナンス方法により前記永久磁石を非可逆減磁させた電気機器において、当該電気機器が有するコイルの一部または全てに電流を通流して前記永久磁石を着磁することを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載したメンテナンス方法において、
前記電気機器が永久磁石電動機または永久磁石発電機であることを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。 - 請求項4に記載したメンテナンス方法において、
前記電気機器の回転子が有する永久磁石の位置を知得し、
前記位置に応じて、前記永久磁石を減磁させる極性の電流を通流して前記永久磁石を非可逆減磁させることを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。 - 請求項5に記載したメンテナンス方法において、
前記電気機器の固定子のコイルに直流成分を含む電流を通流し、前記永久磁石の位置を所定方向にならわせて前記永久磁石の位置を知得することを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。 - 請求項5に記載したメンテナンス方法において、
前記永久磁石の位置に応じた前記固定子のコイルのインピーダンスの変化を電気的に検出し、検出した前記インピーダンスの変化に基づいて前記永久磁石の位置を知得することを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。 - 請求項4〜7の何れか1項に記載したメンテナンス方法において、
前記電気機器の内部に、誘導加熱により温度が上昇する磁性体を配置したことを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。 - 請求項4〜8の何れか1項に記載したメンテナンス方法において、
前記固定子または回転子のうち、前記永久磁石を有する部位の鉄心を構成する積層鋼板を、前記永久磁石を有しない部位の鉄心を構成する積層鋼板よりも厚く形成したことを特徴とする、永久磁石を有する電気機器のメンテナンス方法。
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