JP5159710B2 - 微生物の培養方法ならびに培養装置、生物的水素製造方法および燃料電池システム - Google Patents
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Description
一方、微生物による生物的水素生産方法は常温常圧の反応条件であること、そして発生するガスにはCOが含まれないためその除去も不要である。
このような観点から、微生物による生物的水素生産は燃料電池用燃料供給方法のより好ましい方法として、注目されている。
嫌気性微生物の分裂増殖に依存した従来の水素製造方法の上記の問題は、換言すれば、従来の技術では水素発生反応器内で高密度の嫌気性微生物の獲得及び嫌気性微生物の水素発生機能の獲得を短時間で同時に実現する方法を見出せなかったことによる。
本発明は嫌気性微生物による水素製造方法に関するこれら技術的課題を解決することを目的とする。本発明の目的は、水素発生反応に充分な菌体数の嫌気性微生物の短時間での獲得、嫌気性微生物の短時間での水素発生機能の獲得及び水素の工業的有利な製造を実現する方法を提供することにある。また、本発明は、嫌気条件下での嫌気性微生物の長時間の分裂増殖に依存する方法ではなく、水素発生速度が反応初期から充分に高く、実用的レベルで燃料電池を稼動させることのできる方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、
(1)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養することを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養方法、
(2)有機酸が、酢酸、乳酸、酪酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、およびプロピオン酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(3)アルコールが、エタノール、ブタンジオール、イソプロパノール、およびブタノールから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(4)有機酸の濃度が200mM以下の培養液中で培養することを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(5)アルコールの濃度が200mM以下の培養液中で培養することを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で得られた微生物を、還元状態にある水素発生用溶液に加え、該溶液に有機性基質を供給することを特徴とする生物的水素製造方法、
(7)(6)に記載の方法で製造される水素が燃料電池用燃料ガスとして用いられていることを特徴とする燃料電池を含むシステム、
(8)(1)に記載の微生物の培養方法のための培養装置であって、水素センサーが載置していることを特徴とする培養装置。
(9)(1)に記載の微生物の培養方法のための培養装置であって、発生ガスの発生速度を検出できる検出機器が載置していることを特徴とする培養装置、
(10)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養する容器に、水素センサーが載置していることを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養装置、および
(11)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養する容器に、発生ガスの発生速度を検出できる検出機器が載置していることを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養装置、
に関する。
すなわち、本発明は全体として、特定の菌体を好気的条件で培養して菌体を増殖させる第1工程と、ついで増殖した菌体を嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養して菌体に水素発生能力を付与する第2工程と、このように水素発生能力を付与した菌体を還元状態にある水素発生溶液に加え有機性基質を供給して水素を発生させる第3工程を含む。
第一工程は、上記の微生物を好気的条件で、培養して増殖させることにより行われる。
第1工程の培地としては表1のものが挙げられる。
なお、培養は、通常、通気攪拌、振盪等の好気的条件下に行う。これら微生物の好気的条件における培養は従来よく知られているので、それらに従ってもよい。
第1工程の培養終了時の微生物培養液中の濃度(w/w%)は、培養開始時に比較して約2〜1000倍程度とするのがよい。
第1工程により得られる菌体は菌数は増加しているが、水素発生能力を有しない。
分離の方法としては、遠心分離、膜分離などによる、一般的な方法が用いられる。好気的培養された微生物を分離回収しないで使用することは、好気的条件での培養時に生成した細胞内外に存在する代謝産物が、水素生産能を有する微生物を培養するのに悪影響を及ぼすために好ましくない。
なお、好気的条件で増殖させた菌体は水素発生能力を有しない。第2工程前の菌体の分離には例えば遠心分離、ろ過等が挙げられる。回収された菌体は、嫌気的条件で培養液(水素発生能力誘導培地)中に懸濁して培養して、菌体に水素発生能力を付与する。すなわち、水素発生能力が第2工程によって菌体に付与される。
嫌気的条件下とは、培養液中の酸化還元電位で−100mV〜−500mV、さらに好ましくは−200mV〜−500mVであることから、確認できる。培地の嫌気状態を調整する方法としては、加熱処理や減圧処理あるいは窒素ガス等のバブリングにより溶存ガスを除去する方法があげられる。具体的には培養液中の溶存ガス、特に溶存酸素の除去を行う方法として、約13.33×102Pa以下、好ましくは約6.67×102Pa以下、より好ましくは約4.00×102Pa以下の減圧下で約1〜60分間、好ましくは5〜60分間程度、脱気処理することにより、嫌気条件の培養液を得ることができる。また、必要に応じて還元剤を水溶液に添加して嫌気的条件の水溶液を調整することができる。用いる還元剤としては、チオグリコール酸、アスコルビン酸、システィン塩酸塩、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオンそして硫化ソーダ等が挙げられる。これらの一種、あるいは数種類を組み合わせて用いることも可能である、
第2工程の培地としては下記表2のものが挙げられる。
上記培養は、好ましくは、培養液中の微生物が充分量の水素を製造し始めるまで行うのが好ましい。
ついで第3工程について述べると、上記の如くして回収分離された水素発生能力を有する菌体は還元状態にある水素発生用溶液に加えられ、連続的にあるいは間歇的に有機性基質が生物的水素製造方法に供せられる。有機性基質は連続的に供給するのが好ましいが、間歇的に供給する場合には水素発生に充分な量が反応系に存在していることが必要である。なお、回収された菌体の使用形態としては、何らの処理も加えずに使用する事もでき、また、回収菌体をアクリルアミドまたはカラギーナン等で固定化処理したものも使用することができる。
水素発生用溶液の還元状態の実現は、第2工程の嫌気的条件に準じて行うことができる。水素発生用溶液の還元状態の特定は、その酸化還元電位が約−100mV〜−500mV、より好ましくは−200mV〜−500mVである。
水素の発生反応の反応温度は、用いる微生物種にもよるが、一般的に常温微生物を用いた場合、20℃〜45℃の条件が好ましく、さらに好ましくは30℃〜40℃の範囲が微生物のライフの面からも好ましい。
本発明方法によって、水素ガスは反応容積1リットル1時間当たり0.01〜500L/hr/Lの速度で製造できる。その速度の測定は公知方法に従って行われる。
また、水素製造時の反応容器の温度制御に関しても、一般的に従来の天然ガスを用いた改質方法では600℃以上の改質温度が必要となり、メタノールを用いた場合でも数百℃の改質温度が必要となるのに対して、本発明の反応容器の温度は常温で用いることが可能である。
上記より、燃料電池の劣化の面でも問題が少なく、水素の供給方法の面でも高温のシステムを必要としないことにより、本発明の水素製造方法を用いた燃料電池システムが、優れていることがわかる。
エシェリキア コリ株(Escherichia coli W strain;ATCC9637)による生物的水素製造方法。
本菌株を、好気的条件下、下表1で示される組成の培養液に加え、37℃で培養を行った。
嫌気的条件での操作は、気相での酸素濃度が10ppm以下に制御されたボックス内にて行った。
嫌気的条件下での培養開始から6時間後に、本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を取り除いた。その後、下表2で示される嫌気的条件下用の培養液を加えて、微生物を懸濁する操作を行った。それから、さらに嫌気的条件下で6時間同様に培養を行い、計12時間の嫌気的条件下での培養を行った。
分離した微生物を下表3の組成で示される還元状態下の水素発生用溶液100mlに懸濁調製した(微生物濃度40% 湿潤状態菌体質量基準)。
26mol(モル)/L(リットル)濃度の蟻酸をマイクロポンプを用いて8ml/hrのフィード速度で連続的に反応容器に供給して発生するガス量を測定した。
蟻酸の供給と同時にガス発生が起こり、蟻酸の連続的に供給を行った。捕集されたガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所製)により、水素炎イオン化検出器により分析したところ、発生ガス中には50%の水素と残余のガスを含んでいた。ガスフローメーターより測定された水素発生速度は1時間当り45L(H2)/hr/L(反応容積)で約1時間の間、ほぼ一定のガス発生が継続した。
嫌気的条件下で12時間連続して、培養液の交換をせずに培養を行なうこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。ガス発生条件も実施例1と同様の方法で行った。
ガスを発生させ、水素発生速度を測定したところ、12L(H2)/hr/L(反応容積)であった。
上記の嫌気条件下での培養を行った液中に存在している有機酸濃度は、高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製)を用いて測定した。カラムはTSKgel Oapak−A(東ソー株式会社製)を用いて、電気伝導度検出器により分析を行った。アルコール濃度は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製)を用いて測定した。カラムはThermon−1000(島津製作所製)を用いて、水素炎イオン化検出器により分析を行った。
遠心分離を行い、微生物を分離した上澄み液を分析することにより、嫌気条件下での培養時の培養液中の濃度を調べた結果を図1に示す。
さらに、有機酸およびアルコールの濃度が200mM以下になるように制御を行うことが効果的であることが判明した。
エシェリキア コリ株(Escherichia coli W strain;ATCC9637)による生物的水素製造方法。
嫌気的条件下での培養開始から4時間後に、本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を取り除き、表2で示した嫌気条件用培養液を加えて、微生物を懸濁する操作を行い、さらに4時間培養し、その後同様に繰り返し操作を行い、計12時間の嫌気的条件下での培養を行うこと以外は、実施例1と同様に準備し、水素発生速度の測定を実施例1と同様に行った。
嫌気的条件下での培養を行った培養液中に存在している有機酸およびアルコールの濃度を高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーを用いて測定し、培養液中の濃度を調べた結果を図2に示す。培養時間4、8、12時間のいずれの段階においても有機酸およびアルコールの濃度ともに100mM以下に制御されていることが判明した。
さらに、実施例2の結果により、燃料電池を必要な水素発生速度が長時間にわたり、安定することが明らかとなった。また、この水素発生速度は必要なときに、即座に稼働する能力を燃料電池に与えるものである。
Claims (4)
- エシェリキア・コリを好気的条件で培養して増殖させることにより得た菌体を、嫌気的条件下で、培養液を培養前の培養液に4〜6時間に1回の頻度で入れ替えて、培養液中の酢酸、乳酸、及びエタノール濃度を制御しながら培養する、エシェリキア・コリへの水素生成能力の付与方法。
- 培養液からエシェリキア・コリを分離し、培養前の培養液を加えてエシェリキア・コリを懸濁させることにより、培養液を培養前の培養液に入れ替える請求項1に記載の方法。
- 嫌気的条件下での培養において、エシェリキア・コリが分裂増殖しない請求項1又は2に記載の方法。
- 培養液中の酢酸、乳酸、及びエタノール濃度を、それぞれ200mM以下に制御する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
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