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JP5159710B2 - 微生物の培養方法ならびに培養装置、生物的水素製造方法および燃料電池システム - Google Patents

微生物の培養方法ならびに培養装置、生物的水素製造方法および燃料電池システム Download PDF

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Description

本発明は、水素生産能を有する微生物の培養方法およびその微生物を用いた水素製造方法に関するものである。
水素は化石燃料と異なり、燃焼しても炭酸ガスや硫黄酸化物など環境問題より懸念される物質を発生しない究極のクリーンエネルギー源として注目され、単位質量当たりの熱量は石油の3倍以上あり、燃料電池に供給すれば電気エネルギーおよび熱エネルギーに高い効率で変換できる。
水素の生産は従来より化学的製法として、天然ガスやナフサの熱分解水蒸気改質法などの技術が提案されている。この方法は高温高圧の反応条件を必要とすること、そして製造される合成ガスにはCO(一酸化炭素)が含まれるため燃料電池用燃料として使用する場合には燃料電池の電極触媒劣化防止のため、技術的課題解決難度の高いCO除去を行うことが必要となる。
一方、微生物による生物的水素生産方法は常温常圧の反応条件であること、そして発生するガスにはCOが含まれないためその除去も不要である。
このような観点から、微生物による生物的水素生産は燃料電池用燃料供給方法のより好ましい方法として、注目されている。
生物的水素生産方法には大別して光合成微生物を使用する方法と非光合成微生物(主に嫌気性微生物)を使用する方法に分けられる。前者の方法は水素発生に光エネルギーを用いるため、その低い光エネルギー利用効率により広大な集光面積を要し、水素発生装置の価格問題や維持管理の難しさ等、解決しなければならない課題が多く、実用的なレベルではない。
後者の嫌気性微生物を使用する従来の水素製造方法は、これら嫌気性微生物の分裂増殖に依存したものであるが、増殖が極めて遅くなる(特許文献1、特許文献2)。そのため、水素発生能力を有する嫌気性微生物の濃度が少なく水素発生速度は十分ではないため、工業的有利に実施が質的、量的に可能程度の水素生産能を有する嫌気性微生物を得ることは容易ではなかった。この点に関して、一段の向上が求められている。
米国特許第5,834,264号 公開特許公報 平8−252089号
従来の水素生産能を有する嫌気性微生物を増殖する方法としては、嫌気条件下での培養が主に用いられてきた。すなわち、嫌気性微生物の分裂増殖と同時に水素を製造する方法である。しかしながら、嫌気条件下での水素の製造を伴う嫌気性微生物の増殖は、好気条件下での増殖に比較して、培養液中の微生物濃度を高濃度にするのが困難であり、また一方で、好気条件下では微生物濃度を高濃度まで増殖させることは容易であるものの、水素生産能を有する微生物を得ることは困難である。
嫌気性微生物の分裂増殖に依存した従来の水素製造方法の上記の問題は、換言すれば、従来の技術では水素発生反応器内で高密度の嫌気性微生物の獲得及び嫌気性微生物の水素発生機能の獲得を短時間で同時に実現する方法を見出せなかったことによる。
本発明は嫌気性微生物による水素製造方法に関するこれら技術的課題を解決することを目的とする。本発明の目的は、水素発生反応に充分な菌体数の嫌気性微生物の短時間での獲得、嫌気性微生物の短時間での水素発生機能の獲得及び水素の工業的有利な製造を実現する方法を提供することにある。また、本発明は、嫌気条件下での嫌気性微生物の長時間の分裂増殖に依存する方法ではなく、水素発生速度が反応初期から充分に高く、実用的レベルで燃料電池を稼動させることのできる方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は水素生産能を有する嫌気性微生物の培養方法、およびその微生物を用いた水素製造方法に関し、これら技術的課題を解決することを目的として、長時間の分裂増殖に依存しなければならない増殖培養方法の問題を解決し、比較的短時間で水素生産能を有する微生物を培養する方法および装置、それを用いた生物的水素製造方法を提供するものである。
本発明者等は上記の課題を解決することを目的として、鋭意検討を行った結果、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件にて培養することにより蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を短時間で大量に取得(又は製造)できること、すなわち工業的有利な当該微生物の増殖方法又は培養方法が可能となることを知見した。このようにして取得された微生物は、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有するが、通常は、水素生成能力を有していない。本発明者らは上記の好気的条件で得られた微生物を嫌気的条件下の培養液中において有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら、培養することによって、高水素生産能を有する微生物を大量に得ることができることを見出した。
さらに、本発明者らは、このようにして取得した微生物を還元状態にある水素発生用溶液ならびに有機性基質と接触させることによって、一段と優れた反応容積あたりの水素発生速度で水素が製造できることを見出し、さらに種々検討して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養することを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養方法、
(2)有機酸が、酢酸、乳酸、酪酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、およびプロピオン酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(3)アルコールが、エタノール、ブタンジオール、イソプロパノール、およびブタノールから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(4)有機酸の濃度が200mM以下の培養液中で培養することを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(5)アルコールの濃度が200mM以下の培養液中で培養することを特徴とする(1)に記載の微生物の培養方法、
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で得られた微生物を、還元状態にある水素発生用溶液に加え、該溶液に有機性基質を供給することを特徴とする生物的水素製造方法、
(7)(6)に記載の方法で製造される水素が燃料電池用燃料ガスとして用いられていることを特徴とする燃料電池を含むシステム、
(8)(1)に記載の微生物の培養方法のための培養装置であって、水素センサーが載置していることを特徴とする培養装置。
(9)(1)に記載の微生物の培養方法のための培養装置であって、発生ガスの発生速度を検出できる検出機器が載置していることを特徴とする培養装置、
(10)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養する容器に、水素センサーが載置していることを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養装置、および
(11)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養する容器に、発生ガスの発生速度を検出できる検出機器が載置していることを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養装置、
に関する。
本発明は、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を用いて、好気的条件下で培養して得られた微生物を嫌気的条件で有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養することにより、水素生産能を有する微生物を短時間に得ることが出来、さらに得られた微生物に還元状態にある水素発生用溶液を加え、有機性基質を供給することで、単位反応容積あたりの水素発生速度が向上し、燃料電池の燃料として用いることが可能な水素製造方法を提供することができる。
嫌気的条件下で培養時の有機酸およびアルコール濃度の変化(その1) 嫌気的条件下で培養時の有機酸およびアルコール濃度の変化(その2)
本発明の水素の製造方法に関与する工程は下記第1〜第3工程である。
すなわち、本発明は全体として、特定の菌体を好気的条件で培養して菌体を増殖させる第1工程と、ついで増殖した菌体を嫌気的条件下の培養液中における有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら培養して菌体に水素発生能力を付与する第2工程と、このように水素発生能力を付与した菌体を還元状態にある水素発生溶液に加え有機性基質を供給して水素を発生させる第3工程を含む。
本発明で使用される微生物は蟻酸脱水素酵素遺伝子(F.Zinoni,et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.83, pp4650-4654, July 1986 Biochemistry)およびヒドロゲナーゼ遺伝子(R.Boehm, et al., Molecular Microbiology (1990) 4(2), 231-243)を有する微生物で主として嫌気性微生物である。
嫌気性微生物内における水素発生に関する代謝経路は色々な経路が知られている(グルコースのピルビン酸への分解経路における代謝産物としての水素発生、ピルビン酸がアセチルCoAをへて酢酸が生成する経路での代謝産物としての水素発生そしてピルビン酸由来の蟻酸より水素が発生する経路等)。本発明は例えば蟻酸等の有機性基質より水素が生成する生産能を有する微生物の培養方法および生物的水素製造方法に関する。
本発明で使用される具体的な嫌気性微生物の例としては、エシェリキア(Escherichia)属微生物―例えばエシェリキア コリ(Escherichia coli ATCC9637、ATCC11775、ATCC4157等)、クレブシェラ(Klebsiella)属微生物―例えばクレブシェラ ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae ATCC13883、ATCC8044等)、エンテロバクター(Enterobacter)属微生物―例えばエンテロバクター アエロギネス(Enterobacter aerogenes ATCC13048、ATCC29007等)そしてクロストリジウム(Clostridium)属微生物―例えばクロストリジウム ベイエリンキイ(Clostridium beijerinckii ATCC25752、ATCC17795等)等が挙げられる。
これらの嫌気性微生物の嫌気的条件による分裂増殖は好気的条件によるそれと比較して極めて遅いことより、好気的条件による培養増殖が好ましい。この意味では嫌気性微生物の内、偏性嫌気性微生物よりも通性嫌気性微生物が好適に使用される。上記微生物の内ではエシェリキア コリ(Escherichia coli)、エンテロバクター アエロギネス(Enterobacter aerogenes)等が好適に使用される。
第一工程は、上記の微生物を好気的条件で、培養して増殖させることにより行われる。
好気的条件下での微生物の培養は、炭素源、窒素源、ミネラル源等を含む通常の栄養培地をもちいて行うことが出来る。炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクト−ス、スクロース、セルロース、廃糖蜜、グリセロール等を、窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩等を、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸類、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。無機態、有機態ともに同様に利用することが可能である。またミネラル源として、おもにNa、K、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。
第1工程の培地としては表1のものが挙げられる。
好気的条件下および嫌気的条件下での培養の条件として、温度域は、約20℃〜45℃、好ましくは約25℃〜40℃で培養を行うことが好ましい。pH域は、pH約4.0〜10.0、好ましくは約5.0〜8.0の範囲で行うことが好ましい。同時にpHを制御することが好ましく、酸、アルカリを用いてpHの調整を行うことも可能である。温度域、pH域ともに、上記の範囲内が微生物にとって最適な温度域、pH域である。通常、培養開始時の炭素源濃度は約0.1〜20%(W/V)が好ましく、さらに好ましくは約1〜5%(W/V)である。また、培養期間は、約0.25日〜7日間である。
なお、培養は、通常、通気攪拌、振盪等の好気的条件下に行う。これら微生物の好気的条件における培養は従来よく知られているので、それらに従ってもよい。
第1工程の培養終了時の微生物培養液中の濃度(w/w%)は、培養開始時に比較して約2〜1000倍程度とするのがよい。
第2工程は、本発明は、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を、好気的条件下で培養して得られた微生物を、嫌気的条件下で培養し、培養中培養液中に生成する有機酸および/またはアルコールの濃度を制御しながら嫌気的条件下で培養することにより行われる。
第1工程により得られる菌体は菌数は増加しているが、水素発生能力を有しない。
次に第2工程について述べると、このように第1工程で培養された菌体は好ましくは培養液から一旦分離して回収し第2工程に使用される。好気的条件で増殖させた菌を水素発生の阻害になる成分(例えば、エタノール、酢酸、乳酸など)を含む第1工程の培養液から菌体を分離することが好ましい。
分離の方法としては、遠心分離、膜分離などによる、一般的な方法が用いられる。好気的培養された微生物を分離回収しないで使用することは、好気的条件での培養時に生成した細胞内外に存在する代謝産物が、水素生産能を有する微生物を培養するのに悪影響を及ぼすために好ましくない。
なお、好気的条件で増殖させた菌体は水素発生能力を有しない。第2工程前の菌体の分離には例えば遠心分離、ろ過等が挙げられる。回収された菌体は、嫌気的条件で培養液(水素発生能力誘導培地)中に懸濁して培養して、菌体に水素発生能力を付与する。すなわち、水素発生能力が第2工程によって菌体に付与される。
嫌気条件下での培養液中での微生物濃度は、水素生産能を発現する微生物を得るために、約0.1%〜80%(湿潤状態菌体質量基準)が好ましい。さらに好ましくは、水素生産能を有する微生物を効率的に得るために約1%〜80%(湿潤状態菌体質量基準)である。嫌気条件下での培養液中での微生物濃度の経時変化は、分裂増殖をしているほうが好ましいものの、限界的なものではない。
嫌気的条件下とは、培養液中の酸化還元電位で−100mV〜−500mV、さらに好ましくは−200mV〜−500mVであることから、確認できる。培地の嫌気状態を調整する方法としては、加熱処理や減圧処理あるいは窒素ガス等のバブリングにより溶存ガスを除去する方法があげられる。具体的には培養液中の溶存ガス、特に溶存酸素の除去を行う方法として、約13.33×10Pa以下、好ましくは約6.67×10Pa以下、より好ましくは約4.00×10Pa以下の減圧下で約1〜60分間、好ましくは5〜60分間程度、脱気処理することにより、嫌気条件の培養液を得ることができる。また、必要に応じて還元剤を水溶液に添加して嫌気的条件の水溶液を調整することができる。用いる還元剤としては、チオグリコール酸、アスコルビン酸、システィン塩酸塩、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオンそして硫化ソーダ等が挙げられる。これらの一種、あるいは数種類を組み合わせて用いることも可能である、
本発明の第2工程では有機酸および/またはアルコールは、嫌気条件下での培養液中、主に微生物の代謝経路において生成する。嫌気的条件下での培養中には、有機酸としては、酢酸、乳酸、酪酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、およびプロピオン酸等を、アルコールとしては、エタノール、ブタンジオール、イソプロパノール、およびブタノール等が生成する。これらの嫌気条件下での培養中に生成する有機酸および/またはアルコールの濃度を特定の濃度範囲に制御することが、本発明の水素生産能を有する微生物を得るために必須となる。
嫌気条件下での培養液中の有機酸および/またはアルコールの濃度が200mM以下になるように制御することが、水素生産能を有する微生物を培養するために必要であり、100mM以下になるように制御することが、より好ましい。
制御の方法としては、培養液中の微生物を分離しながら、連続的に本発明の特定濃度範囲内にある培養液を入れ替える方法、あるいは、有機酸および/またはアルコールの濃度が特定の濃度範囲外になる前に、回収・遠心分離を行い、微生物と上澄み液を分離し、分離した微生物に特定濃度範囲内にある培養液を入れて、再度、微生物を懸濁させ、さらに培養させる方法などが挙げられる。上記の方法以外にも嫌気条件下での培養液中の有機酸および/またはアルコールの濃度を本発明の濃度範囲に維持することが可能であれば、制御する方法は特に制限されない。培養液を入れ替える場合、入れ替えの頻度は、1時間当たり、0.1〜60回が好ましい。1時間当たり0.1回以下の場合は、嫌気条件下での攪拌培養中に微生物の代謝産物である有機酸および/またはアルコールの影響により、水素生産能を有する微生物を得ることが困難になるために好ましくない。1時間に60回以上入れ換わることは、培地成分が大量に必要となるために好ましくない。
嫌気的条件下での微生物の培養は、炭素源、窒素源、ミネラル源等を含む通常の栄養培地をもちいて行うことが出来る。炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクト−ス、スクロース、セルロース、廃糖蜜、グリセロール等を、窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩等を、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸類、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。無機態、有機態ともに同様に利用することが可能である。またミネラル源として、おもにK、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。
また蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼからなるユニット機能の発現のためには微量な金属成分を含むことが好ましい条件である。必要な微量金属成分は微生物種により異なるが、鉄、モリブデン、セレン、ニッケル等が挙げられる。これらの金属を含む化合物、例えばモリブデン酸ソーダ無水物、亜セレン酸ソーダ五水和物が挙げられる。なお、これらの微量金属成分は酵母エキスなどの天然栄養源には相当程度含まれている。そのため、必ずしも添加を必要とはしない。
第2工程の培地としては下記表2のものが挙げられる。
好気的条件下および嫌気的条件下での培養の条件として、温度域は、約20℃〜45℃、好ましくは約25℃〜40℃で培養を行うことが好ましい。pH域は、pH約4.0〜10.0、好ましくは約5.0〜8.0の範囲で行うことが好ましい。同時にpHを制御することが好ましく、酸、アルカリを用いてpHの調整を行うことも可能である。温度域、pH域ともに、上記の範囲内が微生物にとって最適な温度域、pH域である。通常、培養開始時の炭素源濃度は約0.1〜20%(W/V)が好ましく、さらに好ましくは約1〜5%(W/V)である。
上記培養は、好ましくは、培養液中の微生物が充分量の水素を製造し始めるまで行うのが好ましい。
従って、嫌気的条件下での培養装置としては、培養する容器に水素センサーが載置していることを特徴とする培養装置が好ましい。嫌気条件下での水素生産能を有する微生物が水素を生成するため、容器中の水素濃度は上昇していくことが確認できる。さらに、容器からのガスの排出工程には発生ガスの検出機器、例えばフローメータが載置していることが好ましい。これにより、ガスの発生速度が確認できる。このガス発生速度の増加の割合が小さくなった場合に、嫌気条件下での水素生産能力を有する微生物の培養反応は終点に到達したと確認することが可能となる。
第3工程は、第2工程で得られた微生物を還元状態にある水素発生溶液に加え、該溶液に有機性基質を供給することによって、水素を発生させることにより行われる。
ついで第3工程について述べると、上記の如くして回収分離された水素発生能力を有する菌体は還元状態にある水素発生用溶液に加えられ、連続的にあるいは間歇的に有機性基質が生物的水素製造方法に供せられる。有機性基質は連続的に供給するのが好ましいが、間歇的に供給する場合には水素発生に充分な量が反応系に存在していることが必要である。なお、回収された菌体の使用形態としては、何らの処理も加えずに使用する事もでき、また、回収菌体をアクリルアミドまたはカラギーナン等で固定化処理したものも使用することができる。
なお、菌体の回収分離に関して、好気的条件で培養された菌体をそのまま還元状態下での水素発生に使用するのではなく、本発明の如く、好気的培養されさらに嫌気的培養され、菌体が水素発生ユニット機能を獲得した後に一度分離回収し、これを水素発生用溶液に加え還元状態で水素を発生させることは本発明の方法の効果を発揮する上で好ましい。
水素発生用溶液としては前記第2工程で使用した培地と同一又は類似したものが使用されるが、水素発生が激しいので消泡剤(市販の消泡剤、例えばシリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤等)を使用することが推奨される。
菌体濃度は約0.1%(w/w)乃至80%(w/w)(湿潤状態菌体質量基準)、好ましくは約5%(w/w)乃至70%(w/w)(湿潤状態菌体質量基準)、さらにこのましくは約10%(w/w)乃至70%(w/w)(湿潤状態菌体質量基準)で使用される。
還元剤を使用してもよいことは第2工程と同様である。ただし、菌体の増殖は起こさないので菌体の増殖に必要な量の糖質は、通常は液組成に含まれない。この場合には菌を実質的に増殖させないのが重要なポイントであるから、培地中に菌の増殖に用いられるグルコース等の炭素源は不要である。炭素源は用いられることがあっても微生物細胞の水素発生能力維持にのみ必要なだけの量でよい(なぜならば、本発明は好ましくは実質的に増殖を停止した細胞による生物的水素製造方法であることによる)。
また蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼからなるユニット機能の発現のためには微量な金属成分を含むことが好ましい条件である。必要な微量金属成分は微生物種により異なるが、鉄、モリブデン、セレン、ニッケル等が挙げられる。これらの金属を含む化合物、例えばモリブデン酸ソーダ無水物、亜セレン酸ソーダ五水和物が挙げられる。なお、これらの微量金属成分は酵母エキスなどの天然栄養源には相当程度含まれている。そのため、必ずしも添加を必要とはしない。
第3工程の培地としては下記表3のものが挙げられる。
水素発生用溶液の還元状態の実現は、第2工程の嫌気的条件に準じて行うことができる。水素発生用溶液の還元状態の特定は、その酸化還元電位が約−100mV〜−500mV、より好ましくは−200mV〜−500mVである。
水素発生原料に必要な有機性基質として供給されるのは、培養液内の菌体内代謝でおこる経路において蟻酸に変換される化合物(例えばグルコース、フラクトース、キシロース、アラビノース等の単糖類、スクロース、マルトース等の二糖類や糖蜜等)であってもよく、また、直接的に外部より供給される蟻酸や蟻酸塩(例えば蟻酸ソーダ、蟻酸カリウム)等の蟻酸類であってもよい。蟻酸に変じうる化合物を使用する間接的供給方法と直接的供給方法の併用もできるが、外部からの直接的供給方法が好適である。
供給される有機性基質が蟻酸類の場合には、濃度は微生物濃度を維持する観点から、濃度の高いものが好ましい。例えば、有機性基質として蟻酸を用いた場合には、30〜100%未満(w/w)が好ましい。さらに好ましくは50〜100%未満(w/w)である。濃度が低い場合、蟻酸類の供給に伴い、水素発生溶液の体積が増加するために、微生物濃度も変化していくことから好ましくない。また、有機性基質の供給速度としては、水素発生溶液のpHが4.0〜9.0の範囲で制御される範囲であれば、特に制限はない。
水素の発生反応の反応温度は、用いる微生物種にもよるが、一般的に常温微生物を用いた場合、20℃〜45℃の条件が好ましく、さらに好ましくは30℃〜40℃の範囲が微生物のライフの面からも好ましい。
本発明方法によって、水素ガスは反応容積1リットル1時間当たり0.01〜500L/hr/Lの速度で製造できる。その速度の測定は公知方法に従って行われる。
本発明の微生物を用いた生物的水素製造では主に水素と二酸化炭素からなるガスを生成し、基本的には一酸化炭素を生成しない。一般的に、現在の固体高分子型燃料電池の燃料として用いる場合には、一酸化炭素を除去するシステム(CO変成器、CO除去器等)を用いて、COは10ppm以下に維持する必要があるものの、本発明の水素製造方法を燃料電池の燃料として用いたシステムでは、COを除去するシステムが不要であり、装置を簡易化することができるために好ましい。
また、水素製造時の反応容器の温度制御に関しても、一般的に従来の天然ガスを用いた改質方法では600℃以上の改質温度が必要となり、メタノールを用いた場合でも数百℃の改質温度が必要となるのに対して、本発明の反応容器の温度は常温で用いることが可能である。
上記より、燃料電池の劣化の面でも問題が少なく、水素の供給方法の面でも高温のシステムを必要としないことにより、本発明の水素製造方法を用いた燃料電池システムが、優れていることがわかる。
以下実施例により具体的に本発明を説明するが、本発明はこれによりなんら制限されるものではない。
〔実施例1〕
エシェリキア コリ株(Escherichia coli W strain;ATCC9637)による生物的水素製造方法。
本菌株を、好気的条件下、下表1で示される組成の培養液に加え、37℃で培養を行った。
次に好気的条件下、培養を行った培養液より微生物を分離し、下表2で示される組成の培養液に加え、37℃、嫌気的条件下で培養を行った。嫌気的条件下での培養液の酸化還元電位は、−385mVであった。
嫌気的条件での操作は、気相での酸素濃度が10ppm以下に制御されたボックス内にて行った。
嫌気的条件下での培養開始から6時間後に、本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を取り除いた。その後、下表2で示される嫌気的条件下用の培養液を加えて、微生物を懸濁する操作を行った。それから、さらに嫌気的条件下で6時間同様に培養を行い、計12時間の嫌気的条件下での培養を行った。
本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を除去し、水素生産能を有する微生物を得た。
分離した微生物を下表3の組成で示される還元状態下の水素発生用溶液100mlに懸濁調製した(微生物濃度40% 湿潤状態菌体質量基準)。
水素発生用反応容器は、蟻酸供給ノズル、攪拌装置、pH調整装置、温度維持装置および酸化還元電位測定装置を備え付け、37℃に設定されている恒温水槽内に載置されている。
26mol(モル)/L(リットル)濃度の蟻酸をマイクロポンプを用いて8ml/hrのフィード速度で連続的に反応容器に供給して発生するガス量を測定した。
蟻酸の供給と同時にガス発生が起こり、蟻酸の連続的に供給を行った。捕集されたガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所製)により、水素炎イオン化検出器により分析したところ、発生ガス中には50%の水素と残余のガスを含んでいた。ガスフローメーターより測定された水素発生速度は1時間当り45L(H)/hr/L(反応容積)で約1時間の間、ほぼ一定のガス発生が継続した。
〔比較例1〕
嫌気的条件下で12時間連続して、培養液の交換をせずに培養を行なうこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。ガス発生条件も実施例1と同様の方法で行った。
ガスを発生させ、水素発生速度を測定したところ、12L(H)/hr/L(反応容積)であった。
上記の嫌気条件下での培養を行った液中に存在している有機酸濃度は、高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製)を用いて測定した。カラムはTSKgel Oapak−A(東ソー株式会社製)を用いて、電気伝導度検出器により分析を行った。アルコール濃度は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製)を用いて測定した。カラムはThermon−1000(島津製作所製)を用いて、水素炎イオン化検出器により分析を行った。
遠心分離を行い、微生物を分離した上澄み液を分析することにより、嫌気条件下での培養時の培養液中の濃度を調べた結果を図1に示す。
実施例1、比較例1の結果により、嫌気的条件下で培養中に、培養液中の微生物を分離した上澄み液を取り除き、表2で示した嫌気的条件用培養液を加え、微生物を懸濁する操作を行うことにより、嫌気条件下での培養液中の有機酸およびアルコールの濃度の制御を行いながら、嫌気的条件下での培養を行うことで、効果的に水素生産能を有する微生物の培養が可能となることが判明した。
さらに、有機酸およびアルコールの濃度が200mM以下になるように制御を行うことが効果的であることが判明した。
〔実施例2〕
エシェリキア コリ株(Escherichia coli W strain;ATCC9637)による生物的水素製造方法。
嫌気的条件下での培養開始から4時間後に、本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を取り除き、表2で示した嫌気条件用培養液を加えて、微生物を懸濁する操作を行い、さらに4時間培養し、その後同様に繰り返し操作を行い、計12時間の嫌気的条件下での培養を行うこと以外は、実施例1と同様に準備し、水素発生速度の測定を実施例1と同様に行った。
その結果、ガスフローメーターより測定された水素発生速度は1時間当り45L(H)/hr/L(反応容積)で約3時間の間、ほぼ一定のガス発生が継続した。
嫌気的条件下での培養を行った培養液中に存在している有機酸およびアルコールの濃度を高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーを用いて測定し、培養液中の濃度を調べた結果を図2に示す。培養時間4、8、12時間のいずれの段階においても有機酸およびアルコールの濃度ともに100mM以下に制御されていることが判明した。
実施例1と実施例2の結果により、嫌気的条件下で培養時に培養液中の有機酸および/またはアルコールの濃度を100mM以下に制御することにより、微生物の水素生成機能力が向上することが判明した。上記の結果より、嫌気的条件下での培養時の培養液中の有機酸および/またはアルコールの濃度は、100mM以下の範囲に制御する方法の優れていることが判明した。
さらに、実施例2の結果により、燃料電池を必要な水素発生速度が長時間にわたり、安定することが明らかとなった。また、この水素発生速度は必要なときに、即座に稼働する能力を燃料電池に与えるものである。
本発明によって、水素が工業上有利に製造できる。

Claims (4)

  1. エシェリキア・コリを好気的条件で培養して増殖させることにより得た菌体を、嫌気的条件下で、培養液を培養前の培養液に4〜6時間に1回の頻度で入れ替えて、培養液中の酢酸、乳酸、及びエタノール濃度を制御しながら培養する、エシェリキア・コリへの水素生成能力の付与方法。
  2. 培養液からエシェリキア・コリを分離し、培養前の培養液を加えてエシェリキア・コリを懸濁させることにより、培養液を培養前の培養液に入れ替える請求項1に記載の方法。
  3. 嫌気的条件下での培養において、エシェリキア・コリが分裂増殖しない請求項1又は2に記載の方法。
  4. 培養液中の酢酸、乳酸、及びエタノール濃度を、それぞれ200mM以下に制御する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
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