以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
本発明で用いられる(a)ポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、150℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
とりわけ好ましいポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、またナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/12、およびナイロン6T/6コポリマーなどのヘキサメチレテレフタルアミド単位を有する共重合体を挙げることができ、更にこれらのポリアミド樹脂を耐衝撃性、成形加工性、相溶性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、特に2.0〜6.0の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
また、本発明のポリアミド樹脂には、長期耐熱性を向上させるために銅化合物が好ましく用いられる。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
本発明で用いられる(b)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
耐熱性の観点からは上記構造式(I)で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
かかる構造を一部有するPPS重合体は、融点が低くなるため、本発明の積層構造体においてバリア層以外に用いられる熱可塑性樹脂の融点が低い場合には成形性の点で有利となる。
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常50〜20000poise(320℃、剪断速度1000sec−1)のものが好ましく使用され、100〜5000poiseの範囲がより好ましい。
かかるPPS樹脂は通常公知の方法即ち特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造できる。本発明において上記の様に得られたPPS樹脂を空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など種々の処理を施した上で使用することももちろん可能である。
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法が例示できる。加熱処理温度は通常、170〜280℃が選択され、好ましくは200〜270℃である。また、加熱処理時間は通常0.5〜100時間が選択され、好ましくは2〜50時間であるが、この両者をコントロールすることにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法が例示できる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
本発明に用いるPPS樹脂は脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。かかる脱イオン処理の具体的方法としては酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理および有機溶媒洗浄処理などが例示でき、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いても良い。
PPS樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、洗浄に用いる有機溶媒としては、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド、スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール、フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。これらの有機溶媒のなかでN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどの使用が好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上を混合して使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。また有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
PPS樹脂を熱水で洗浄処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
PPS樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸はPPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などがあげられる。中でも酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するために、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
本発明において、(a)成分のポリアミド樹脂と(b)成分のPPS樹脂の相溶性の向上を目的として従来公知の相溶化剤を配合することもできる。これら相溶化剤の具体的な例としては、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンとアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸などのα,β−不飽和カルボン酸、これらのエステル、無水物、ハロゲン化物、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛などとの塩などの誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物とのランダム、ブロック、グラフト共重合体などの変性ポリオレフィン類、α−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体などのエポキシ基含有オレフィン系共重合体および多官能エポキシ化合物などが挙げられ、これらは2種以上同時に使用することもできる。
本発明で言う熱可塑性樹脂構造体とは、(1)PPS樹脂成分が連続相(マトリックス相)を形成し、ポリアミド樹脂成分が分散相を形成する相構造(例えば海島構造)、または(2)ポリアミド樹脂成分が連続相を形成し、PPS樹脂成分が多数の薄い二次元的に重なった帯(層)状として分散相を形成する相構造(ラミナー構造)、を一部もしくは全部に有する構造体である。構造体の形状については特に制限はない。また、構造体の種々の場所で上記相構造(1)または(2)が共存したり、複数回出現したりする場合もある。この相構造(1)または(2)は、走査型および透過型電子顕微鏡を用いて観察し、確認する。
本発明の熱可塑性樹脂構造体における(a)成分のポリアミド樹脂および(b)成分のPPS樹脂の配合割合は、PPS樹脂成分が連続相(マトリックス相)を形成し、ポリアミド樹脂成分が分散相を形成する相構造(例えば海島構造、図1)の場合には、ポリアミド樹脂55〜80容量%、PPS樹脂45〜20容量%である。このようなPPS樹脂成分が少量成分である場合、例えばポリアミド樹脂/PPS樹脂の溶融粘度比を適切に制御することによってPPS樹脂が連続相をとる相構造を形成することができる。この相構造の成形体は、吸水時特性および耐透過性のバランスに優れ、積層構造体のバリア層では、強靱性、層間接着性、バリア性および経済性のバランスが優れたものであり特に好ましい。更には、両成分配合比がポリアミド樹脂60〜75容量%、PPS樹脂40〜25容量%であることが好ましい。(a)成分のポリアミド樹脂が80容量%を超えると、本発明の樹脂成形体の特徴であるPPS樹脂成分が連続相を形成することが困難となり、本発明の目的を達成することができない。また、(a)成分のポリアミド樹脂が45容量%未満になると樹脂成形体の靭性低下および積層構造体の層間接着性の低下をきたすので好ましくない。
次に、ポリアミド樹脂成分が連続相(マトリックス相)を形成し、PPS樹脂成分が多数の薄い2次元的に重なった帯(層)状として分散相(ラミナー構造、図2)を形成する相構造を得る場合には、ポリアミド樹脂55〜95容量%、PPS樹脂45〜5容量%である。好ましくはポリアミド樹脂60〜95容量%、PPS樹脂40〜5容量%、更に好ましくはポリアミド樹脂65〜95容量%、PPS樹脂35〜5容量%である。(a)成分のポリアミド樹脂が95容量%を超えると、PPS樹脂成分の帯状分散相を十分な長さ、量とすることが困難となり、本発明の目的を達成することができない。また、(a)成分のポリアミド樹脂が55容量%未満になるとPPS樹脂成分が帯状分散相を形成することが困難となる。
帯状分散相を形成するPPS樹脂成分のL/T(長さ/厚み)は、30以上であることが好ましい。より好ましくはL/Tは100以上、特に好ましくはL/Tは150以上である。L/Tが30以下である場合、目的のバリア性を達成する構造体を得ることができない。また、L/Tの上限については特に制限はないが工業的には1×106以下が実用的である。
本発明に用いる(c)無機充填材としては、特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ−ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填剤が挙げられる。上記充填材中、ガラス繊維および導電性が必要な場合にはPAN系の炭素繊維が好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填材はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤および膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理して使用することは、より優れた機械的強度、バリア性を得る意味において好ましい。
また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
上記の(c)無機充填材の添加量は、(a)ポリアミド樹脂および(b)PPS樹脂の合計量100重量部に対し、0.5〜200重量部であることが好ましい。より好ましくは5〜200重量部、特に好ましくは10〜150重量部である。
本発明で言う積層構造体は複数種の樹脂が積層された構造体であって、上記特定の相構造を有する熱可塑性樹脂構造体が少なくとも1層(以下(イ)バリア層という)に構成され、また別な組成もしくは相構造を有する本発明の熱可塑性樹脂構造体(該層もバリア層である。)または該バリア層の少なくとも一面側に該バリア層とは異なった樹脂層(以下(ロ)隣接層という)が構成された構造体である。また、本発明の積層構造体の好ましい態様においては、(イ)バリア層と(ロ)隣接層との接着力を向上する目的で該両層の間に、該両層に密着性を有し、かつ、共押出性を有する樹脂層(以下(ハ)接着層という)が適宜構成された積層体である。具体的には、例えば(イ)層/(ロ)層の2種2層構造、(ロ)層/(イ)層/(ロ)層の2種3層構造、(ロ)層/(ハ)層/(イ)層の3種3層構造、(ロ)層/(ハ)層/(イ)層/(ロ)層の3種4層構造、(ロ)層/(ハ)層/(イ)層/(ハ)層/(ロ)層の3種5層構造などの積層構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において(ロ)隣接層を構成する樹脂は、本発明の要件とは異なる相構造または組成を有する熱可塑性樹脂で構成される。該熱可塑性樹脂の種類には特に制限はなく、積層構造体の使用目的に応じて適宜選択することができる。具体例としては、飽和ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、ポリアミドエラストマ、ポリエステルエラストマなどが挙げられ、これらは2種以上の混合物として使用しても良い。中でも、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびABS樹脂がより好ましく用いられる。
ここで好ましいポリオレフィン樹脂の例としては、低、中および高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、およびポリメチルペンテンなどが挙げられる。中でも、低、中および高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体がより好ましく用いられる。
また、好ましい熱可塑性ポリエステルとしては、例えばテレフタル酸などのジカルボン酸と脂肪族ジオールとから得られるポリエステルをいう。テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、アゼライン酸、セバシン酸、アジピン酸、デカンジカルボン酸などの炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、またはシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられ、これらは単独であっても混合物であっても良い。脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびヘキサメチレングリコールなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられるが、中でも適度な機械的強度を有するポリブチレンテレフタレート、またはテレフタル酸を60モル%以上、好ましくは70モル%以上とドデカンジカルボン酸および/またはイソフタル酸を含有するジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオール成分からなる共重合ポリエステルが特に好ましく使用される。
これら熱可塑性ポリエステル樹脂の重合度には特に制限は無いが、好ましく使用されるポリブチレンテレフタレート、共重合ポリブチレンテレフタレートの場合、0.5%オルトクロロフェノール溶液を25℃で測定した固有粘度として0.5〜2.5の範囲のものが好ましく、特に0.8〜2.0の範囲のものが好ましい。また、ポリエチレンテレフタレートの場合、0.5%オルトクロロフェノール溶液を25℃で測定した固有粘度として0.54〜1.5の範囲のものが好ましく、特に0.6〜1.2の範囲のものが好ましい。
また、好ましいポリアミド樹脂の例としては、前述の(a)成分として説明したポリアミド樹脂と同様であるが、中でもアミド基1個当たりの炭素数が8〜15の範囲である構造単位からなるポリアミド樹脂でが好適であり、更にアミノカルボン酸またはその誘導体をモノマーとするポリアミド樹脂は、より優れた低温靱性を得る意味で特に好ましい。かかるポリアミドとしてはポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)などが例示でき、あるいはメタクレゾール中(ポリマー濃度0.5重量%)、25℃で測定した相対粘度が1.0〜7.0の範囲、特に1.5〜5.0の範囲のポリアミド樹脂が例示できる。
これらポリアミド樹脂の重合度にはとくに制限がなく、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましい。更に好ましくは2.0〜6.5、特に好ましくは2.5〜5.5の範囲である。
かかる(ロ)隣接層を構成する熱可塑性樹脂は、各樹脂に適した可塑剤、酸化防止剤、核剤、着色剤などの添加剤を含んでいても良い。
本発明で特定した相分離構造をとる熱可塑性樹脂構造体で構成された(イ)バリア層、その片面側または両面側に(ロ)隣接相が構成された積層構造体は、2色射出成形法などによっても製造し得るが、フィルム状またはシ−ト状として得る場合は各々の層を形成する組成物を別個の押出機で溶融した後、多層構造のダイに供給し、共押出成形する方法、予め隣接層を成形した後、上記バリア層を溶融押出するいわゆるラミネ−ト成形法などにより製造することができる。また、積層構造体の形状が瓶、樽、タンクなどの中空容器やパイプ、チュ−ブなどの管状体である場合は、通常の共押出成形法を採用することができ、例えば内層を特定の相分離構造を有するバリア層、外層を隣接層で形成する2層中空成形体の場合、2台の押出機へ、上記バリア層用樹脂組成物と隣接層用樹脂組成物とを別々に供給し、これら2種の溶融樹脂を共通のダイ内に圧力供給して、各々環状の流れとなした後、バリア層を内層側に、隣接層を外層側になるように合流させ、ついで、ダイ外へ共押出して、通常公知のチューブ成形法、ブロー成形法などを行うことにより、2層中空成形体を得ることができる。また、3層中空成形体の場合には、3台の押出機を用いて上記と同様の方法にて3層構造にするか、または2台の押出機を用いて2種3層構造の中空成形体を得ることも可能である。これらの方法の中では層間接着力の点で共押出成形法を用いて成形することが好ましい。
また本発明の積層構造体においては、成形体の耐衝撃性や成形性、各層間の接着力をさらに向上する目的で(イ)バリア層と(ロ)隣接層の間に(ハ)接着層を適宜構成させることが好ましい。接着層を構成する樹脂としては、(イ)バリア層および(ロ)隣接層に対して接着性を示し、これらとの共押出が可能なものであれば構造を特に限定されるものではない。具体的な例を挙げれば、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンとアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸などのα,β−不飽和カルボン酸、これらのエステル、無水物、ハロゲン化物、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛などとの塩などの誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物とのランダム、ブロック、グラフト共重合体などの変性ポリオレフィン類、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンと酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、スチレン類の中から選ばれる少なくとも1種の化合物とのランダム、ブロック、グラフト共重合体、共重合ポリアミド系接着剤、共重合ポリエステル系接着剤などを挙げることができる。したがってこれら接着層の使い方によって積層構造体は2種2層、2種3層、3種3層、3種4層、3種5層などいくつかの形を取り得るのである。
本発明の熱可塑性樹脂構造体には導電性を付与するために導電性フィラーおよび/または導電性ポリマーを使用することが可能であり、その材料は特に限定されるものではないが、導電性フィラーとして、通常樹脂の導電化に用いられる導電性フィラーであれば特に制限は無く、その具体例としては、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、金属酸化物、導電性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、炭素繊維、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。
金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
金属繊維の金属種の具体例としては鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、黄銅などが例示できる。
かかる金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
金属酸化物の具体例としてはSnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)、ZnO(アルミニウムドープ)などが例示でき、これらはチタネート系、アルミニウム系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
導電性物質で被覆された無機フィラーにおける導電性物質の具体例としてはアルミニウム、ニッケル、銀、カーボン、SnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機フィラーとしては、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛系ウィスカー、酸化チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
カーボン粉末はその原料、製造法からアセチレンブラック、ガスブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラックなどに分類される。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、その原料、製造法は特に限定されないが、アセチレンブラック、ファーネスブラックが特に好適に用いられる。またカーボン粉末は、その粒子径、表面積、DBP吸油量、灰分などの特性の異なる種々のカーボン粉末が製造されている。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、これら特性に特に制限は無いが、強度、電気伝導度のバランスの点から、平均粒径が500nm以下、特に5〜100nm、更には10〜70nmが好ましい。また比表面積(BET法)は10m2 /g以上、更には30m2 /g以上が好ましい。またDBP給油量は50ml/100g以上、特に100ml/100g以上が好ましい。また灰分は0.5重量%以下、特に0.3重量%以下が好ましい。
かかるカーボン粉末はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。また溶融混練作業性を向上させるために造粒されたものを用いることも可能である。
用途によって成形体には、表面の平滑性が求められる。かかる観点から、本発明で用いる導電性フィラーは、本発明で用いられる(c)無機充填材同様、高いアスペクト比を有する繊維状フィラーよりも、粉状、粒状、板状、鱗片状、あるいは樹脂組成物中の長さ/直径比が200以下の繊維状のいずれかの形態であることが好ましい。
導電性ポリマーの具体例としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンなどが例示できる。
上記導電性フィラーおよび/または導電性ポリマーは、2種以上を併用して用いても良い。かかる導電性フィラー、導電性ポリマーの中で、特にカーボンブラックが強度、経済性の点で特に好適に用いられる。
本発明で用いられる導電性フィラーおよび/または導電性ポリマーの含有量は、用いる導電性フィラーおよび/または導電性ポリマーの種類により異なるため、一概に規定はできないが、導電性と流動性、機械的強度などとのバランスの点から、(a)および(b)成分と(c)成分の合計100重量部に対し、1〜250重量部、好ましくは3〜100重量部の範囲が好ましく選択される。また、更に好ましくは(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対し、3〜100重量部の範囲が導電性機能を付与するために好ましく選択される。
また導電性を付与した場合、十分な帯電防止性能を得る意味で、その体積固有抵抗が1010Ω・cm以下であることが好ましい。但し上記導電性フィラー、導電性ポリマーの配合は一般に強度、流動性の悪化を招きやすい。そのため目標とする導電レベルが得られれば、上記導電性フィラー、導電性ポリマーの配合量はできるだけ少ない方が望ましい。目標とする導電レベルは用途によって異なるが、通常体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下の範囲である。
本発明における組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
本発明の樹脂構造体を得る方法としては、本発明が要件とする相構造が得られれば、特に制限はないが、溶融混練において、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーからポリアミド樹脂とPPS樹脂を供給し、無機充填材を押出機の先端部分のサイドフィーダーから供給する方法や事前にポリアミド樹脂とPPS樹脂を溶融混練した後、無機充填材と溶融混練する方法などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂構造体および積層構造体は公知の方法で賦形でき、その成形方法に関しても制限はなく射出成形、押出成形、吹込成形、プレス成形等を利用することができる。中でも射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形から選ばれる一方法を採用することが生産性に優れ工業的に本発明を実施する上で好ましい。また、成形温度については、通常、PPS樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、一般的には、単層であるが、2色成形法により多層にしてもかまわない。
本発明の樹脂構造体における各層の配置については特に制限はなく、全ての層を本発明の熱可塑性樹脂構造体で構成してもよいし、他の層にその他の熱可塑性樹脂を用いて構成してもよい。本発明の熱可塑性樹脂構造体からなる層はその耐透過性効果を十分に発揮させる上で、2層以上の場合は最内面側に用いることが好ましい。また、得られた成形品同士あるいはその他の成形品と接着または溶着させてもよく、その方法は特に限定されず公知の技術を用いることが可能である。
本発明の熱可塑性樹脂構造体および積層構造体はその優れたガスバリア性、耐久性、加工性を活かし、薬液またはガス搬送および/または貯蔵用容器およびその付属部品や共押出成形法を用いて成形された多層チューブまたは多層ブロー中空成形体として好ましく用いることができる。薬液やガスとしては、例えば、フロン−11、フロン−12、フロン−21、フロン−22、フロン−113、フロン−114、フロン−115、フロン−134a、フロン−32、フロン−123、フロン−124、フロン−125、フロン−143a、フロン−141b、フロン−142b、フロン−225、フロン−C318、R−502、1,1,1−トリクロロエタン、塩化メチル、塩化メチレン、塩化エチル、メチルクロロホルム、プロパン、イソブタン、n−ブタン、ジメチルエーテル、ひまし油ベースのブレーキ液、グリコールエーテル系ブレーキ液、ホウ酸エステル系ブレーキ液、極寒地用ブレーキ液、シリコーン油系ブレーキ液、鉱油系ブレーキ液、パワーステアリングオイル、ウインドウオッシャ液、ガソリン、メタノール、エタノール、イソプタノール、ブタノール、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、メタン、プロパン、天然ガス、アルゴン、ヘリウム、キセノン、医薬剤等の気体および/または液体あるいは気化ガス等の耐透過性が優れていることから、例えば、上記気体および/または液体の耐透過性フィルムを始めとして、エアバック、シャンプー、リンス、液体石鹸、洗剤等の各種薬剤用ボトル、薬液保存用タンク、ガス保存用タンク、冷却液タンク、オイル移液用タンク、消毒液用タンク、輸血ポンプ用タンク、燃料タンク、キャニスター、ウォッシャー液タンク、オイルリザーバータンクなどの自動車部品、医療器具用途部品、および一般生活器具部品としてのタンク、ボトル状成形品やまたはそれらタンク、ボトルに付属するカットオフバルブなどのバルブや継手類、付属ポンプのゲージ、ケース類などの部品、フューエルフィラーアンダーパイプ、ORVRホース、リザーブホース、ベントホースなどの各種燃料チューブおよび接続部品(コネクター等)、オイルチューブおよび接続部品、ブレーキホースおよび接続部品、ウインドウオッシャー液用ノズルおよびホース、冷却水、冷媒等用クーラーホースおよび接続用部品、エアコン冷媒用チューブおよび接続用部品、床暖房パイプおよび接続部品、消火器および消火設備用ホース、医療用冷却機材用チューブおよび接続用部品やバルブ類、その他薬液およびガス搬送用チューブ用途、薬品保存用容器等の薬液および耐ガス透過性が必要とされる用途、自動車部品、内燃機関用途、電動工具ハウジング類などの機械部品を始め、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品、建材関係部品、家具用部品など各種用途が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
(1)アルコールガソリン透過性
直径40mmの押出機の先端にチューブ状に成形するダイス、チューブを冷却し寸法制御するサイジングダイ、および引取機からなるものを使用し、外径:8mm、内径:6mmのチューブを成形した。さらに20cm長にカットし、チューブの一端を密栓し、内部に市販レギュラーガソリンとエタノールを75対25重量比に混合したアルコールガソリン混合物を6g精秤し内部に仕込み、残りの端部も密栓した。その後、全体の重量を測定し、試験チューブを60℃の防爆型オーブンにいれ、500時間処理し、減量した重量を測定した。
(2)吸湿時のアルコールガソリン透過性
上記(1)と同様にアルコールガソリン混合物を充填した試験チューブを温度40℃、相対湿度65%の恒温恒湿器中で500時間処理し、減量した重量を測定した。
(3)酸素透過性
JIS K7126 A法(差圧法)に準じてGTR−10(ヤナコ分析工業製)を用いて測定を行った。
(4)材料強度
以下の標準方法に従って測定した。
引張強度 :ASTM D638
曲げ弾性率 :ASTM D790
Izod衝撃強度 :ASTM D256
(5)吸水率
ASTM 1号試験片(厚さ1/8インチ)を用い、温度60℃、相対湿度95%の恒温恒湿器中に、24時間静置し、成形直後の絶対乾燥時(絶乾時)と吸水後の重量から吸水時重量増加率として求めた。
吸水率(%)={(吸水後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量}×100
(6)吸水時寸法安定性
上記吸水率と同様に吸水処理した試験片において、成形直後の絶対乾燥時(絶乾時)と吸水後の試験片長さ(長尺方向)から吸水時寸法増加率として求めた。
吸水時寸法安定性(%)={(吸水後の試験片長さ−絶乾時の試験片長さ)/絶乾時の試験片長さ}×100
(7)吸水時弾性率
上記吸水率と同様に吸水処理した試験片の曲げ弾性率をASTM D790に従って測定した。
(8)相分離構造の観察
チューブ成形品の断面部分(バリア層)を電子顕微鏡(TEM、SEM)を用いて観察を行なった。
(9)溶融粘度比
プランジャー式キャピラリーレオメーターを用いて、溶融混練温度でのせん断速度10sec−1の溶融粘度(poise)を測定し求めた。
溶融粘度比=(ポリアミド樹脂の溶融粘度)/(PPS樹脂の溶融粘度)
(10)積層構造体の物性
(A)ガスホ−ルバリヤ性: チューブを30cmにカットしたチューブの一端を密栓し、内部に市販レギュラーガソリンとメチルアルコールを85対15(重量比)に混合したアルコールガソリン混合物を入れ、残りの端部も密栓した。その後、全体の重量を測定し、試験チューブを40℃の防爆型オーブンにいれ、重量変化によりアルコールガソリン透過性を評価した。
(B)成形品層間の接着強度: チューブを幅10mmの短冊状に切削し、接着層を挟む内外層(接着層は、熱可塑性樹脂組成物からなる(ロ)隣接層側に付着)をお互いに180度方向に引張ることにより、単位長さ当りの接着強度を測定した。
[参考例1(共重合PPSの製造)]
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム3.26kg(25モル、結晶水40%を含む)、水酸化ナトリウム4g、酢酸ナトリウム三水和物1.36kg(約10モル)およびN−メチルピロリドン7.9kgを仕込み、撹拌しながら徐々に205℃まで昇温し、水1.36kgを含む留出水約1.5リットルを除去した。残留混合物に1,4−ジクロロベンゼン3.38kg(23.0モル)、1,3−ジクロロベンゼン0.37kg(2.5モル)およびNMP2kgを加え、265℃で5時間加熱した。反応生成物を70℃の温水で3回洗浄し、続いてpH=4の60℃酢酸水溶液で洗浄し、更に70℃の温水で4回洗浄した後80℃で24時間減圧乾燥して、融点255℃、メルトフローレート(MFR)800g/10分(315℃、5000g荷重)の共重合PPS樹脂約2kgを得た。
[参考例2(有機化層状珪酸塩の製造)]
Na型モンモリロナイト(クニミネ工業:クニピアF、陽イオン交換容量120ミリ当量/100g)100gを温水10リットルに攪拌分散し、ここにトリオクチルメチルアンモニウムクロライド48g(陽イオン交換容量に対して1当量)を溶解させた温水2リットルを添加して1時間攪拌した。生じた沈殿を濾別した後、温水で洗浄した。この洗浄と濾別の操作を3回行い、得られた固体を80℃で真空乾燥して乾燥した有機化層状珪酸塩を得た。得られた有機化層状珪酸塩の無機灰分量を測定したところ、67重量%であった。なお、無機灰分量の測定は有機化層状珪酸塩0.1gを500℃の電気炉で3時間灰化した前後の重量から求められる。
実施例および比較例で使用したポリアミド樹脂およびPPSは以下のとおり。なお、特に断らない限りはいずれも常法に従い重合を行い、調製した。
<ポリアミド樹脂>
(N6−1):融点225℃、相対粘度2.80のナイロン6樹脂。
(N6−2):融点225℃、相対粘度3.30のナイロン6樹脂。
(N6−3):融点225℃、相対粘度3.40のナイロン6樹脂。
(N6−4):融点225℃、相対粘度4.30のナイロン6樹脂。
(N6−5):融点225℃、相対粘度3.40のナイロン6樹脂100重量部、上記参考例2で得られた有機化層状珪酸塩5部を混合し、2軸押出機を用いてシリンダー温度250℃で溶融押出して得られた層状珪酸塩含有ナイロン6樹脂。
(N66):融点265℃、相対粘度3.20のナイロン66樹脂。
(N6/66):融点217℃、相対粘度2.85のナイロン6/66共重合体。
(6T/12):融点300℃、相対粘度2.50のナイロン6T/12共重合体。
<PPS樹脂>
(PPS−1):融点280℃、メルトフローレート(MFR)1000g/10分(315℃、5000g荷重)、重量平均分子量(Mw)30000のPPS樹脂。
(PPS−2):融点280℃、MFR300g/10分、Mw49000、700poiseのPPS樹脂。
(PPS−3):融点280℃、MFR100g/10分、Mw70000、1700poiseのPPS樹脂。
(PPS−4):融点280℃、MFR600g/10分、Mw38000、450poiseのPPS樹脂。
(PPS−5):上記参考例1で得られた融点255℃、MFR800g/10分の共重合PPS樹脂。
<バリア層を形成する樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂層(隣接層)>
(ロ−1):MFR0.3g/10分、密度0.945の高密度ポリエチレン。
(ロ−2):ポリブチレンテレフタレート(東レ社製、”ルミコン”5201X11)。
(ロ−3):ナイロン11(東レ社製、”リルサン”BESN O P40TL)。
<接着層>
(ハ−1):エチレン/グリシジルメタクリレ−ト=94/6(重量%)共重合体。
(ハ−2):エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレ−ト=64/30/6(重量%)共重合体。
実施例1〜6、比較例1〜4
表1、2に示すようにポリアミド樹脂、PPS樹脂を混合し、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のメインフィダーから供給し、無機充填材を供給する場合は、シリンダー途中のサイドフィダーを用いて供給する方法で混練温度300℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行った。得られたペレットを乾燥後、射出成形(東芝機械社製IS100FA、金型温度80℃)により試験片を調製した。また、上記の方法によりアルコールガソリン透過性評価用のチューブを調製した。各サンプルの耐透過性、材料強度および吸水時特性などを測定した結果は表1、2に示すとおりであった。
なお、ここで表中のGFはガラス繊維(繊維径10μm、3mmチョップドストランド、日本電気ガラス社製)、MFはミルドファイバー(平均繊維長140μm、平均繊維径9μm、日本電気ガラス社製)、PAはポリアミド樹脂をそれぞれ表す。
実施例1〜6および比較例1〜4より特定の相分離構造を規定した本発明の樹脂成形体は、耐透過性が良好であり、特に吸水時の耐透過性、寸法安定性と吸水時剛性のバランスに優れた特性が得られる実用価値の高いものである。また、射出成形により調製された試験片も優れた耐透過性を有する実用価値の高いものであった。
実施例7〜11、比較例5〜7
ポリアミド樹脂、PPS樹脂および有機シラン化合物(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を表3、4に示すバリヤ層配合組成に混合し、日本製鋼所製TEX30型2軸押出機を用いて混練温度270〜320℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練し、ペレットを得た。得られたペレットを乾燥した後、チューブ成形に供した。
得られた組成物からなる(イ)バリヤ層1層、熱可塑性樹脂からなる(ロ)隣接層1層および、バリヤ層と隣接層との間に介在する(ハ)接着層1層からなる3種3層のチューブを成形した。成形装置としては、3台の押出機を有し、この3台の押出機から吐出された樹脂をアダプターによって集めてチューブ状に成形するダイス、チューブを冷却し寸法制御するサイジングダイ、および引取機からなるものを使用した。
得られた3層チューブは、外径:8mm、内径:6mmで、外層(熱可塑性樹脂層)厚み:0.70mm、接着層厚み0.10mm、内層(バリヤ層)厚み:0.20mmであった。この多層チューブの評価結果を表3、4に示す。また、相分離構造を評価した電子顕微鏡写真をそれぞれ図3〜図5に示す。
実施例7〜11により特定の相分離構造を規定した本発明の積層構造体は、高いガスホ−ルバリヤ性を有し、層間接着性に優れた実用価値の高いものであった。また、同様に実施例により得られた材料を多層ブロー中空成形体に加工したが、良好な特性を有していた。