しかしながら、カーカス層の表面に沿って、ワイヤーチェーファーなどスチールコードからなる補強層であるスチール補強層を設けた場合、カーカス層を形成するコードであるカーカスコードがスチールコードの影響を受け、カーカスコードが蛇行する虞がある。詳しくは、カーカス層は、例えば空気入りラジアルタイヤの場合、複数のカーカスコードがラジアル方向に沿って設けられているが、ビード部において補強層がカーカス層の表面に沿って形成されている場合、補強層を形成するコードとカーカスコードとは、異なる角度で配置される場合が多くなっている。さらに、補強層を形成するコードがスチールコードである場合、カーカスコードはスチールコードの影響を受け易いため、空気入りタイヤの成型〜加硫工程にかけて補強層が角度変化を起こした際に、カーカスコードはその影響を受けて角度が変化する虞がある。これによりカーカスコードは、蛇行する虞がある。
このように、スチールコードによって形成される補強層であるスチール補強層の角度変化によってカーカスコードに角度変化が生じて蛇行した場合、この角度変化は意図的に変化させたものではないため変化の度合いは一定ではなく、不均一に変化する場合が多い。また、カーカス層は、カーカスコードの角度が変化した場合、角度の変化に応じてラジアル方向における長さが変化する。このため、カーカスコードの角度がスチールコードの影響を受けて不均一に変化した場合、カーカス層は、その角度変化に応じてラジアル方向における長さが変化し、カーカス層の折り返し部分の高さであるカーカスターンナップ高さが、タイヤ周方向における位置によって不均一になる虞がある。
カーカスターンナップ高さが不均一になった場合、カーカスターンナップ高さが低過ぎる部分では、カーカス層の折り返し部分の端部と補強層の端部とが近くなり過ぎ、この部分でセパレーションが発生する虞がある。また、カーカスターンナップ高さが高過ぎる部分では、カーカス層の折り返し部分の端部がビードフィラーにおける厚さが薄い部分に位置することになるため、ビードフィラーが変形して応力集中が生じ易くなり、故障が発生し易くなる虞がある。これらのため、ビード部の耐久性が低下する虞があった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性の向上を図ることのできる空気入りタイヤを提供することを目的する。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る空気入りタイヤは、タイヤ幅方向における両側にそれぞれビードコアを有するビード部が設けられており、一方の前記ビード部から他方の前記ビード部にかけて配設されると共に前記ビードコア周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返された少なくとも1枚のカーカス層を備え、さらに、スチールコードにより形成されると共に前記カーカス層に沿って前記ビードコア周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されたスチール補強層を備える空気入りタイヤにおいて、前記スチール補強層と前記カーカス層との間に位置し、且つ、少なくとも前記ビードコアのタイヤ径方向内方から前記スチール補強層のタイヤ幅方向外方側の端部までの間のいずれかの位置に配設される有機繊維補強層が備えられていることを特徴とする。
この発明では、スチール補強層とカーカス層との間に有機繊維補強層を配設しているため、有機繊維補強層が設けられている部分では、カーカス層とスチール補強層とは直接接していない。このため、スチール補強層の角度が変化してスチール補強層を形成するスチールコードの角度が変化した場合でも、カーカス層のカーカスコードは影響を受けないので、カーカスコードに角度変化が生じることが抑制される。
また、カーカスコードの角度が変化することによりカーカスターンナップ高さが変化することに影響があるのは、カーカス層の折り返し部分、即ち、カーカス層におけるビードコアのタイヤ幅方向外方に位置する部分である。このように、カーカスターンナップ高さが変化することに影響があるのは、カーカス層の折り返し部分であるが、この発明では、有機繊維補強層は、少なくともビードコアのタイヤ径方向内方からスチール補強層のタイヤ幅方向外方側の端部までの間のいずれかの位置に配設する。
このため、カーカス層の折り返し部分近傍がスチール補強層に接することを抑制でき、カーカスターンナップ高さの変化に対して大きな影響がある部分に位置するカーカスコードが、スチールコードの角度変化の影響を受けないため、カーカスターンナップ高さが不均一になることを抑制することができる。これにより、ビード部にスチール補強層を設けた場合でも、カーカスターンナップ高さを任意の高さにすることができ、セパレーション等の故障が発生し難い高さにすることができる。この結果、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性の向上を図ることができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記有機繊維補強層はコード材を有しており、タイヤラジアル方向に対する前記有機繊維補強層の前記コード材の角度をθ1とし、タイヤラジアル方向に対する前記スチールコードの角度をθ2とした場合に、前記有機繊維補強層の前記コード材と前記スチールコードとは、θ1≦θ2の関係を満たすことを特徴とする。
この発明では、タイヤラジアル方向に対するスチールコードの傾斜角度よりも、タイヤラジアル方向に対する有機繊維補強層のコード材の傾斜角度を小さくしているので、カーカスコードの角度変化を、より確実に抑制できる。つまり、カーカスコードは、有機繊維補強層のコード材の角度が変化した場合でも、この変化に多少は影響を受けて変化する虞があるが、有機繊維補強層のコード材の傾斜角度を、スチールコードの傾斜角度よりも小さくしているので、カーカスコードは角度変化が生じ難くなる。これにより、より確実にカーカスターンナップ高さが不均一になることを抑制することができ、カーカスターンナップ高さを任意の高さにすることができる。この結果、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性を、より確実に向上させることができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記スチール補強層における前記ビードコアのタイヤ径方向内方の位置からタイヤ幅方向外方側の端部までのタイヤ径方向における高さをH2とし、前記有機繊維補強層における前記ビードコアのタイヤ径方向内方の位置からタイヤ幅方向外方側の端部までのタイヤ径方向における高さをh2とした場合に、h2≦0.9H2の関係を満たすことを特徴とする。
この発明では、ビードコアのタイヤ幅方向外方側におけるビードコアのタイヤ径方向内方の位置からのスチール補強層と有機繊維補強層の高さを、h2≦0.9H2の関係にすることにより、スチール補強層の高さH2よりも、有機繊維補強層の高さh2を低くすることができる。さらに、スチール補強層の高さH2と有機繊維補強層の高さh2との関係を、h2≦0.9H2の関係にすることにより、スチール補強層のタイヤ幅方向外方側の端部と有機繊維補強層のタイヤ幅方向外方側の端部との距離を大きくすることができる。これにより、双方の端部が近くなり過ぎることに起因するセパレーションの発生を抑制できる。この結果、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性、より確実に向上させることができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記有機繊維補強層は、前記ビードコア周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されて配設されていることを特徴とする。
この発明では、有機繊維補強層はビードコア周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されて配設されているため、同様にビードコア周りに配設されているスチール補強層とカーカスとの接触を、広い範囲で抑制できる。つまり、このように有機繊維補強層を配設することにより、ビードコアのタイヤ幅方向内方側に位置するカーカス層とスチール補強層とが接触することも抑制できる。ここで、カーカスコードの角度が変化することによりカーカスターンナップ高さが変化するのは、カーカス層の折り返し部分に位置するカーカスコードのみでなく、ビードコアのタイヤ幅方向内方側に位置するカーカス層のカーカスコードの角度が変化した場合でもカーカスターンナップ高さは変化する。
このため、有機繊維補強層をビードコアのタイヤ幅方向内方側に位置するカーカス層とスチール補強層とが接触することも抑制し、この部分に位置するカーカスコードとスチールコードの角度変化の影響を受けないようにすることにより、より確実にカーカスターンナップ高さが不均一になることを抑制することができる。従って、より確実にカーカスターンナップ高さを任意の高さにすることができる。この結果、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性を、より確実に向上させることができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記スチール補強層における前記ビードコアのタイヤ径方向内方の位置からタイヤ幅方向内方側の端部までのタイヤ径方向における高さをH1とし、前記有機繊維補強層における前記ビードコアのタイヤ径方向内方の位置からタイヤ幅方向内方側の端部までのタイヤ径方向における高さをh1とした場合に、h1≦0.9H1の関係を満たすことを特徴とする。
この発明では、ビードコアのタイヤ幅方向内方側におけるビードコアのタイヤ径方向内方の位置からのスチール補強層と有機繊維補強層の高さを、h1≦0.9H1の関係にすることにより、スチール補強層の高さH1よりも、有機繊維補強層の高さh1を低くすることができる。さらに、スチール補強層の高さH1と有機繊維補強層の高さh1との関係を、h2≦0.9H2の関係にすることにより、スチール補強層のタイヤ幅方向内方側の端部と有機繊維補強層のタイヤ幅方向内方側の端部との距離を大きくすることができる。これにより、双方の端部が近くなり過ぎることに起因するセパレーションの発生を抑制できる。この結果、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性、より確実に向上させることができる。
本発明に係る空気入りタイヤは、ビード部にスチール補強層を設けた場合におけるビード部の耐久性の向上を図ることができる、という効果を奏する。
以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
以下の説明において、タイヤ幅方向とは、空気入りタイヤの回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内方とはタイヤ幅方向において赤道面に向かう方向、タイヤ幅方向外方とは、タイヤ幅方向において赤道面に向かう方向の反対方向をいう。また、タイヤ径方向とは、回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内方とはタイヤ径方向において回転軸に向かう方向、タイヤ径方向外方とは、タイヤ径方向において回転軸から離れる方向をいう。また、タイヤ周方向とは、回転軸を回転の中心となる軸として回転する方向をいう。
図1は、この発明に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。この空気入りタイヤ1は、タイヤ径方向の最も外側となる部分に形成されるトレッド部(図示省略)のタイヤ幅方向の端部から、タイヤ径方向における内方側の所定の位置までに、サイドウォール部5が設けられている。つまり、サイドウォール部5は空気入りタイヤ1の2ヶ所に設けられており、タイヤ幅方向における両側に位置している。さらに、それぞれのサイドウォール部5のタイヤ径方向内方側には、ビード部10が設けられている。このビード部10は、サイドウォール部5と同様に当該空気入りタイヤ1の2ヶ所に設けられており、赤道面(図示省略)を対称にして赤道面の反対側にも設けられている。即ち、ビード部10は、赤道面を対称にしてタイヤ幅方向における両側に設けられている。
また、ビード部10はビードコア11を有しており、ビード部10のタイヤ径方向内方側の部分はビードベース12として形成されている。このビードベース12は、ビードコア11のタイヤ径方向内方側に位置している。また、ビードコア11のタイヤ径方向外方にはビードフィラー15が配設されている。
また、トレッド部、サイドウォール部5及びビード部10には、空気入りタイヤ1のラジアル方向に沿って形成された後述するカーカスコード(図2参照)23を有するカーカス層20が設けられている。詳しくは、カーカス層20は、ラジアル方向に沿って設けられた複数のカーカスコード23がタイヤ周方向に並べられることにより形成されている。このようにカーカスコード23により形成されるカーカス層20は、タイヤ幅方向における両側に設けられるビード部10のうち、一方のビード部10から他方のビード部10にかけて配設されている。また、カーカス層20は、ビード部10でビードコア11周りに、ビードコア11のタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されており、このカーカス層20は、いわゆるターンナップ構造になっている。
つまり、カーカス層20は、サイドウォール部5方向からビード部10に向かう際に、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側からビード部10に配設されており、ビードコア11のタイヤ幅方向内方からビードコア11のタイヤ径方向内方を通り、さらに、ビードコア11のタイヤ幅方向外方を通っている。カーカス層20は、このように形成されるが、カーカス層20におけるビードコア11のタイヤ幅方向外方に位置する部分は、ターンナップ部21となっており、ターンナップ部21におけるタイヤ径方向外方側の端部は、カーカス層20の端部であるカーカス層端部22となっている。このカーカス層端部22は、ビードコア11よりもタイヤ径方向外方に位置している。
また、ビード部10には、カーカス層20に沿ってビードコア11周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されたスチール補強層30が備えられている。このスチール補強層30は、後述するスチールコード(図2参照)33により形成されており、カーカス層20に重ねられて配設されている。詳しくは、スチール補強層30は、ビード部10においてカーカス層20がビードコア11よりもタイヤ幅方向内方側に位置している部分では、スチール補強層30はカーカス層20のタイヤ幅方向内方側に位置している。また、カーカス層20がビードコア11よりもタイヤ径方向内方側に位置している部分では、スチール補強層30は、カーカス層20のタイヤ径方向内方側に位置している。さらに、カーカス層20がビードコア11よりもタイヤ幅方向外方側に位置している部分では、スチール補強層30は、カーカス層20のタイヤ幅方向外方側に位置している。
また、このように形成されるスチール補強層30のうち、ビードコア11よりもタイヤ幅方向内方に位置している部分のタイヤ径方向外方の端部はスチール補強層内側端部31となっており、ビードコア11よりもタイヤ幅方向外方に位置している部分のタイヤ径方向外方の端部はスチール補強層外側端部32となっている。換言すると、スチール補強層内側端部31は、スチール補強層30におけるタイヤ幅方向内方側の端部となっており、スチール補強層外側端部32は、スチール補強層30におけるタイヤ幅方向外方側の端部となっている。
また、これらのスチール補強層内側端部31及びスチール補強層外側端部32は、共にビードコア11よりもタイヤ径方向外方に位置している。さらに、スチール補強層内側端部31は、カーカス層端部22よりもタイヤ径方向外方に位置しており、スチール補強層外側端部32は、カーカス層端部22よりもタイヤ径方向内方に位置している。
スチール補強層30は、このようにカーカス層20に沿って形成されているが、このスチール補強層30とカーカス層20との間には、アラミドなどの有機繊維からなるコード材である有機繊維コード(図2参照)43により形成された有機繊維補強層40が設けられている。この有機繊維補強層40は、スチール補強層30と同様に、ビードコア11周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されて配設されている。
詳しくは、有機繊維補強層40は、ビード部10においてカーカス層20がビードコア11よりもタイヤ幅方向内方側に位置している部分では、有機繊維補強層40はカーカス層20のタイヤ幅方向内方側に位置しており、スチール補強層30のタイヤ幅方向外方側に位置している。また、カーカス層20がビードコア11よりもタイヤ径方向内方側に位置している部分では、有機繊維補強層40は、カーカス層20のタイヤ径方向内方側に位置しており、スチール補強層30のタイヤ径方向外方側に位置している。さらに、カーカス層20がビードコア11よりもタイヤ幅方向外方側に位置している部分では、有機繊維補強層40は、カーカス層20のタイヤ幅方向外方側に位置しており、スチール補強層30のタイヤ幅方向位置方側に位置している。
また、このように形成される有機繊維補強層40のうち、ビードコア11よりもタイヤ幅方向内方に位置している部分のタイヤ径方向外方の端部は有機繊維補強層内側端部41となっており、ビードコア11よりもタイヤ幅方向外方に位置している部分のタイヤ径方向外方の端部は有機繊維補強層外側端部42となっている。換言すると、有機繊維補強層内側端部41は、有機繊維補強層40におけるタイヤ幅方向内方側の端部となっており、有機繊維補強層外側端部42は、有機繊維補強層40におけるタイヤ幅方向外方側の端部となっている。これらの有機繊維補強層内側端部41及び有機繊維補強層外側端部42は、共にビードコア11よりもタイヤ径方向外方に位置している。
さらに、有機繊維補強層内側端部41は、カーカス層端部22よりもタイヤ径方向外方に位置しており、且つ、スチール補強層内側端部31よりもタイヤ径方向内方に位置している。また、有機繊維補強層外側端部42は、カーカス層端部22よりもタイヤ径方向内方に位置しており、且つ、スチール補強層外側端部32よりもタイヤ径方向内方に位置している。このため、有機繊維補強層40が配設されている部分では、カーカス層20とスチール補強層30と有機繊維補強層40とは重なっている。
また、これらのように形成されるスチール補強層30と有機繊維補強層40とは、スチール補強層30におけるビードコア11のタイヤ径方向内方の位置からスチール補強層内側端部31までのタイヤ径方向における高さをH1とし、有機繊維補強層40におけるビードコア11のタイヤ径方向内方の位置から有機繊維補強層内側端部41までのタイヤ径方向における高さをh1とした場合に、h1≦0.9H1の関係を満たしている。つまり、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側では、有機繊維補強層40のタイヤ径方向における高さh1は、スチール補強層30のタイヤ径方向における高さをH1の0.9倍以下となっている。
さらに、スチール補強層30におけるビードコア11のタイヤ径方向内方の位置からスチール補強層外側端部32までのタイヤ径方向における高さをH2とし、有機繊維補強層40におけるビードコア11のタイヤ径方向内方の位置から有機繊維補強層外側端部42までのタイヤ径方向における高さをh2とした場合に、h2≦0.9H2の関係を満たしている。つまり、ビードコア11のタイヤ幅方向外方側では、有機繊維補強層40のタイヤ径方向における高さh2は、スチール補強層30のタイヤ径方向における高さをH2の0.9倍以下となっている。
図2は、図1のA−A断面図である。これらのように形成されるカーカス層20とスチール補強層30と有機繊維補強層40とは、カーカス層20のコード材であるカーカスコード23と、スチール補強層30のコード材であるスチールコード33と、有機繊維補強層40のコード材である有機繊維コード43とが、全て異なる角度で形成されている。
具体的には、カーカスコード23は、空気入りタイヤ1のラジアル方向であるタイヤラジアル方向に沿って配設されており、カーカス層20は、タイヤラジアル方向に沿って配設されたカーカスコード23がタイヤ周方向に並べられることにより形成されている。また、タイヤラジアル方向に対する有機繊維コード43の傾斜角は、タイヤラジアル方向に対するスチールコード33の傾斜角以下になっている。つまり、タイヤラジアル方向に対する有機繊維コード43の角度をθ1とし、タイヤラジアル方向に対するスチールコード33の角度をθ2とした場合に、有機繊維コード43とスチールコード33とは、θ1≦θ2の関係を満たしている。
なお、このように形成される有機繊維補強層40が有する有機繊維コード43は、有機繊維であればアラミド以外でもよく、例えば、ナイロン、ポリエステル、芳香族ポリアミド、高張力ビニロン等が好ましい。また、有機繊維補強層40は、平織りでも、すだれ状でもよい。さらに、有機繊維補強層40の厚さは、空気入りタイヤ1を形成するゴムとの複合後の厚さが0.5〜2.0mmの範囲内であることが好ましい。また、有機繊維コード43のエンド数は、20〜40本/50mmの範囲内であること好ましい。
この実施の形態に係る空気入りタイヤ1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。この空気入りタイヤ1の製造時における成型工程では、ビード部10では、カーカス層20をビードコア11で巻き返すようにしてタイヤ幅方向内方からタイヤ幅方向外方に折り返す。さらに、布状の有機繊維補強層40をビード部10に位置するカーカス層20に重ね、その上から、布状のスチール補強層30を重ねる。これらの有機繊維補強層40とスチール補強層30とは、このように成型することにより、共にカーカス層20に沿ってビードコア11周りに折り返される。
また、有機繊維補強層40とスチール補強層30とを重ねる際には、有機繊維補強層40の有機繊維コード43よりも、スチール補強層30のスチールコード33の方がタイヤラジアル方向に対する傾斜角が大きくなるように重ねる。また、このようにビード部10においてカーカス層20に対して、有機繊維補強層40、スチール補強層30の順で重ねることにより、カーカス層20とスチール補強層30とは接触しない状態でスチール補強層30はビード部10に配設される。
カーカス層20と有機繊維補強層40とスチール補強層30とを重ねた後は、空気入りタイヤ1は加硫工程に移行する。加硫工程では、空気入りタイヤ1に熱と圧力を与えて、空気入りタイヤ1の形状やゴムの性質を所望の状態に変化させる。その際に、カーカス層20は、当該カーカス層20に接する他の部位の影響を受けて変形し易くなる。具体的には、カーカス層20を形成するカーカスコード23が、当該カーカス層20に接する他の部位に沿って変形し易くなり、これに伴ってカーカス層20も変形し易くなるが、カーカス層20とスチール補強層30との間には有機繊維補強層40が設けられている。
このスチール補強層30は、スチールコード33によって形成されているため、カーカスコード23に対して影響を与え易いが、スチール補強層30とカーカス層20との間には有機繊維補強層40が配設されている。このため、少なくとも有機繊維補強層40が配設されている範囲では、カーカス層20とスチール補強層30とは離れており、加硫工程においても、カーカス層20は、スチール補強層30を形成するスチールコード33の影響を受け難くなっている。これにより、カーカス層20は、所望の形態に成型される。
以上の空気入りタイヤ1は、スチール補強層30とカーカス層20との間に有機繊維補強層40を配設しているため、有機繊維補強層40が設けられている部分では、カーカス層20とスチール補強層30とは直接接していない。このため、スチール補強層30の角度が変化してスチール補強層30を形成するスチールコード33の角度が変化した場合でも、カーカス層20のカーカスコード23は影響を受けないので、カーカスコード23に角度変化が生じることが抑制される。
また、カーカス層20において、カーカスコード23の角度が変化することによりカーカスターンナップ高さTHが変化することに影響があるのは、カーカス層20のうちビードコア11のタイヤ幅方向外方に位置する部分であるターンナップ部21である。なお、ここでいうカーカスターンナップ高さTHとは、タイヤ径方向におけるカーカス層20のターンナップ部21の高さとなっている。このように、カーカスターンナップ高さTHが変化することに影響があるのは、カーカス層20のターンナップ部21であるが、本実施の形態に係る空気入りタイヤ1では、有機繊維補強層40は、カーカス層20のターンナップ部21とスチール補強層30との間にも配設されている。
このため、ターンナップ部21近傍がスチール補強層30に接することを抑制でき、カーカスターンナップ高さTHの変化に対して大きな影響がある部分に位置するカーカスコード23が、スチールコード33の角度変化の影響を受けないため、カーカスターンナップ高さTHが不均一になることを抑制することができる。これにより、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合でも、カーカスターンナップ高さTHを任意の高さにすることができ、セパレーション等の故障が発生し難い高さにすることができる。この結果、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性の向上を図ることができる。
また、有機繊維補強層40はビードコア11周りにタイヤ幅方向における内側から外側に折り返されて配設されているため、同様にビードコア11周りに配設されているスチール補強層30とカーカス層20との接触を、広い範囲で抑制できる。つまり、このように有機繊維補強層40を配設することにより、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側に位置するカーカス層20とスチール補強層30とが接触することも抑制できる。ここで、カーカスコード23の角度が変化することによりカーカスターンナップ高さTHが変化するのは、カーカス層20のターンナップ部21に位置するカーカスコード23のみでなく、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側に位置するカーカス層20のカーカスコード23の角度が変化した場合でもカーカスターンナップ高さTHは変化する。
このため、有機繊維補強層40をビードコア11のタイヤ幅方向内方側に位置するカーカス層20とスチール補強層30とが接触することも抑制し、この部分に位置するカーカスコード23がスチールコード33の角度変化の影響を受けないようにすることにより、より確実にカーカスターンナップ高さTHが不均一になることを抑制することができる。従って、より確実にカーカスターンナップ高さTHを任意の高さにすることができる。この結果、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性を、より確実に向上させることができる。
また、ビードコア11のタイヤ幅方向外方側におけるビードコア11のタイヤ径方向内方の位置からのスチール補強層30と有機繊維補強層40の高さを、h2≦0.9H2の関係にすることにより、スチール補強層30の高さH2よりも、有機繊維補強層40の高さh2を低くすることができる。さらに、スチール補強層30の高さH2と有機繊維補強層40の高さh2との関係を、h2≦0.9H2の関係にすることにより、スチール補強層外側端部32と有機繊維補強層外側端部42との距離を大きくすることができる。これにより、双方の端部が近くなり過ぎることに起因するセパレーションの発生を抑制できる。この結果、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性を、より確実に向上させることができる。
また、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側におけるビードコア11のタイヤ径方向内方の位置からのスチール補強層30と有機繊維補強層40の高さを、h1≦0.9H1の関係にすることにより、スチール補強層30の高さH1よりも、有機繊維補強層40の高さh1を低くすることができる。さらに、スチール補強層30の高さH1と有機繊維補強層40の高さh1との関係を、h2≦0.9H2の関係にすることにより、スチール補強層内側端部31と有機繊維補強層内側端部41との距離を大きくすることができる。これにより、双方の端部が近くなり過ぎることに起因するセパレーションの発生を抑制できる。この結果、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性を、より確実に向上させることができる。
また、タイヤラジアル方向に対する有機繊維コード43の傾斜角度θ1とタイヤラジアル方向に対するスチールコード33の傾斜角度θ2との関係をθ1≦θ2にし、有機繊維コード43の傾斜角度θ1をスチールコード33の傾斜角度θ2以下にしているので、カーカスコード23の角度変化を、より確実に抑制できる。つまり、カーカスコード23は、有機繊維コード43の角度が変化した場合でも、この変化に多少は影響を受けて変化する虞があるが、有機繊維コード43の傾斜角度θ1を、スチールコード33の傾斜角度θ2よりも小さくしているので、カーカスコード23は角度変化が生じ難くなる。これにより、より確実にカーカスターンナップ高さTHが不均一になることを抑制することができ、カーカスターンナップ高さTHを任意の高さにすることができる。この結果、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性を、より確実に向上させることができる。
なお、上述した空気入りタイヤ1では、図1に示すように有機繊維補強層内側端部41とスチール補強層内側端部31との距離は近くなっており、有機繊維補強層外側端部42とスチール補強層外側端部32との距離は近くなっているが、これらの距離は大幅に離してもよい。図3は、実施の形態の空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。有機繊維補強層内側端部41は、上述した空気入りタイヤ1ではh1≦0.9H1を満たす範囲内でスチール補強層内側端部31に近付けているが、有機繊維補強層内側端部41は、図3に示すように、スチール補強層内側端部31よりも、大幅にタイヤ径方向内方に位置させてもよい。同様に、有機繊維補強層外側端部42は、上述した空気入りタイヤ1ではh2≦0.9H2を満たす範囲内でスチール補強層外側端部32に近付けているが、有機繊維補強層外側端部42は、図3に示すように、スチール補強層外側端部32よりも、大幅にタイヤ径方向内方に位置させてもよい。
このように、有機繊維補強層40の端部とスチール補強層30の端部とを大幅に離した場合でも、カーカス層20とスチール補強層30との間に有機繊維補強層40を配設することにより、カーカス層20とスチール補強層30とが接触することを抑制できる。これにより、カーカス層20のカーカスコード23が、スチールコード33の角度変化の影響を受けることを抑制でき、カーカスターンナップ高さTHが不均一になることを抑制することができる。
つまり、有機繊維補強層40は、スチール補強層30とカーカス層20との間に位置し、且つ、少なくともビードコア11のタイヤ径方向内方からスチール補強層外側端部32までの間のいずれかの位置に配設されていればよい。これにより、カーカス層20のターンナップ部21近傍がスチール補強層30に接することを抑制でき、カーカスターンナップ高さTHの変化に対して大きな影響がある部分に位置するカーカスコード23が、スチールコード33の角度変化の影響を受けることを抑制できる。従って、カーカスターンナップ高さTHが不均一になることを抑制することができ、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合でも、カーカスターンナップ高さTHを任意の高さにすることができるため、セパレーション等の故障が発生し難い高さにすることができる。この結果、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性の向上を図ることができる。
また、上述した空気入りタイヤ1では、ビード部10には、スチール補強層30と有機繊維補強層40とが設けられているが、ビード部10には、これらの補強層以外の補強層を設けてもよい。図4は、実施の形態の空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。ビード部10には、例えば図4に示すように、スチール補強層30のタイヤ幅方向外方に、ナイロンからなるコード材であるナイロンコード(図示省略)によって形成されるナイロン補強層50を配設してもよい。このように、スチール補強層30のタイヤ幅方向外方にナイロン補強層50を配設することにより、ビード部10の強度を向上させることができ、より確実にビード部10の耐久性を向上させることができる。
また、上述した空気入りタイヤ1は、スチール補強層30と有機繊維補強層40とのタイヤ径方向における高さの関係を、h1≦0.9H1、及びh2≦0.9H2にしているが、スチール補強層30と有機繊維補強層40とのタイヤ径方向における高さの関係は、これ以外により規定してもよい。スチール補強層30と有機繊維補強層40とのタイヤ径方向における高さは、例えば、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側ではh1≦(H1−10mm)の関係を満たし、ビードコア11のタイヤ幅方向外方側ではh2≦(H2−10mm)の関係を満たして形成されていてもよい。このように、スチール補強層内側端部31と有機繊維補強層内側端部41とを10mm以上離すことにより、双方の端部が近くなり過ぎることに起因するセパレーションの発生を抑制できる。
このため、h1≦0.9H1、h2≦0.9H2の関係を満たす場合であっても、スチール補強層内側端部31と有機繊維補強層内側端部41との距離や、スチール補強層外側端部32と有機繊維補強層外側端部42との距離が10mm未満の場合には、10mm以上離すのが好ましい。これらのように、スチール補強層内側端部31と有機繊維補強層内側端部41との距離や、スチール補強層外側端部32と有機繊維補強層外側端部42との距離を10mm以上離すことにより、ビード部10にスチール補強層30を設けた場合におけるビード部10の耐久性を、より確実に向上させることができる。
また、上述した空気入りタイヤ1は、有機繊維補強層40は、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側に位置する部分とタイヤ幅方向外方側に位置する部分とで連続して形成されているが、有機繊維補強層40は、ビードコア11のタイヤ幅方向内方側とタイヤ幅方向外方側と分離していてもよい。つまり、有機繊維補強層40は、ビードコア11のタイヤ径方向内方で分離し、ビードコア11のタイヤ径方向内方には有機繊維補強層40は位置しないようにしてもよい。これにより、ビードコア11のタイヤ径方向内方に位置する部分のタイヤ径方向の厚さが薄くなるので、空気入りタイヤ1をリムホイール(図示省略)に装着した際における、ビードコア11とリムホイールとの間に介在する弾性部材の量が少なくなる。従って、空気入りタイヤ1をリムホイールに装着した場合におけるリムホイールに対する空気入りタイヤ1の安定度を向上させることができる。これにより、この空気入りタイヤ1を車両に装着した場合における操縦安定性の向上を図ることができる。