JP5017542B2 - 非球面眼鏡レンズ及び非球面眼鏡レンズの製造方法 - Google Patents
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Description
レンズ屈折率N=1.6
S−4.00D
表面カーブ3.2D(1.523換算)
レンズ中心厚1.1mm
レンズフチ厚5.59mm
レンズ径70mm
この球面レンズE1において表18のグラフに示すような非点収差と像面湾曲の特性が得られたとする。しかし、この球面レンズE1はフチ厚が5.59mmと厚いため、より浅い球面レンズE2(上記設計で表面カーブ1.0D、レンズフチ厚5.31mmとする)に設計変更すると表19のグラフのように特に遠方距離を目視する場合においてこれら収差の悪化が顕著となってしまいレンズ装用感が悪化する。更に一般的には球面レンズである限りこの球面レンズE2程度でも厚く見栄えの悪いレンズといえる。
このようなことから従来からレンズの厚みを薄くし同時に上記収差を改善するため、レンズの非球面化が図られている。表20は非球面レンズE3(表面カーブ1.0D、裏面非球面)において特に遠方距離を目視する場合における非点収差を主として改善した一例を示すグラフであり、表14(比較例1に相当)は非球面レンズE4において特に遠方距離を目視する場合における像面湾曲を主として改善した一例を示すグラフである。レンズ径70mmの時、非球面レンズE3はレンズフチ厚4.57mm、非球面レンズE4はレンズフチ厚4.76mmである。
つまり、マイナスレンズでは非球面レンズE3のように非点収差の改善に重点を置きすぎると正のパワーエラーが大きくなり、遠方を見たときに像点を調節作用で合わせることができなくなってしまうこととなる。また、非球面レンズE4のように遠方を見たときのパワーエラーに重点を置くと、非点収差が悪化しレンズ周辺部で乱視状態になってしまう。そのため、眼鏡レンズのマイナス度数非球面レンズの設計においては、非点収差とパワーエラーのバランスが重要であるといえる。
しかしながら、非点収差と像面湾曲(パワーエラー)のバランスを調整するとしても回転対称非球面形状では限界がある。更に、非点収差と像面湾曲は物点までの距離に応じても変化することから、様々な物体距離において収差バランスを整える場合には尚更、回転対称非球面形状では難しい。
そのため、特許文献1及び2のように、レンズ形状を上下非対称非球面に設定する技術が提案されている。特許文献1では、上下非対称の非球面とし、上半分で遠方距離の非点収差改善し、下半分で近方距離の非点収差の改善を行うことが提案されている。特許文献2では、上下非対称の非球面とし、上半分では遠方距離の収差のバランスを図り、下半分では近方距離の収差のバランスを図ることで、物体が遠方から近方の何れの距離にあっても収差を補正することを試みている。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、非点収差と像面湾曲のバランスを取りつつレンズ下方部で近方物点を見る際のマイナスの負荷を軽減した非球面眼鏡レンズ及びそのような非球面眼鏡レンズの製造方法を提供することである。
度数測定点における垂直方向度数がマイナス度数であるレンズでは、レンズのほぼ中心部を基点B1として装用時に上になる方向に向かって延出されるレンズの上部側におけるカーブ変化の最も小さい領域の連続する線上に存在する第1の軸と、レンズのほぼ中心部を基点B2として装用時に下になる方向に向かって延出されるレンズの下部側におけるカーブ変化の最も大きい領域の連続する線上に存在する第2の軸とをそれぞれ想定するとともに、度数測定点における垂直方向度数がプラス度数であるレンズでは、レンズのほぼ中心部を基点B1として装用時に上になる方向に向かって延出されるレンズの上部側におけるカーブ変化の最も大きい領域の連続する線上に存在する第1の軸と、レンズのほぼ中心部を基点B2として装用時に下になる方向に向かって延出されるレンズの下部側におけるカーブ変化の最も小さい領域の連続する線上に存在する第2の軸とをそれぞれ想定し、
前記第1及び第2の軸の基点B1,B2のカーブ値をそれぞれC(up〜ct)及びC(dw〜ct)とし、同第1の軸上の所定の位置P1のカーブ値をC(up)とするとともに、位置P1に対して基点B1,B2の中点を挟んだ第2の軸上の等距離位置P2のカーブ値をC(dw)とした場合に前記回転非対称非球面が裏面に形成されるならば同第1の軸上の所定の位置P1と同第2の軸上の所定の位置P2のカーブ値との関係は下記(1)式を満たし、表面に形成されるならば、下記(2)式を満たすようにしたことをその要旨とする。
C(up)−C(up〜ct) > C(dw)−C(dw〜ct)・・・(1)式
C(up)−C(up〜ct) < C(dw)−C(dw〜ct)・・・(2)式
また請求項3の発明では請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記第1及び第2の軸の所定のカーブ形状を設定した後に、同第1及び第2の軸以外の領域について任意のカーブ形状を設定するようにしたことをその要旨とする。
また請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明の構成に加え、度数測定点における垂直方向度数がマイナスに設定されていることをその要旨とする。
また請求項5の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記第1の軸はほぼ垂直に延びるとともに、前記第2の軸が同第1の軸に対して傾いていることをその要旨とする。
また請求項6の発明では請求項5に記載の発明の構成に加え、前記第2の軸は前記第1の軸に対して眼球側に10〜30度の角度で傾いていることをその要旨とする。
そして、回転非対称非球面とされた屈折面が裏面であれば上部側のカーブと下部側のカーブの関係を上記(1)式を満たすように設計する。また、屈折面が表面であれば上部側のカーブと下部側のカーブの関係を上記(2)式を満たすように設計する。
このような構成とすることによって得られる非球面眼鏡レンズは非点収差と像面湾曲のバランスをとることが可能となるとともに全般的な特性として下部側の度数が抑制される傾向となる。つまり近方を見たときに眼に対してかかってくるマイナスの負荷を低減することが出来る。
裏面が回転非対称非球面である場合には表面が回転対称非球面であることが好ましく、表面が回転非対称非球面である場合には前記裏面が球面、回転対称非球面、トーリック面及び非トーリック面のいずれかであることが好ましい。
また、非球面眼鏡レンズのレンズ度数はマイナスに設定されている、つまりレンズは発散レンズであることがより好ましい。
更に、第1の軸はほぼ垂直に延びるとともに、第2の軸が同第1の軸に対して傾いていることが好ましく、その傾きは10〜30度の角度であることが好ましい。
第2の軸をほぼ垂直に延びる第1の軸に対して傾斜させることでいわゆる鼻側近用を見るために最適な設計とすることが可能となるからである。どの軽度の傾きにするかは個人差によって異なるが、通常は10〜30度の角度で最も一般的には15度程度が適している。
更には、上記第1軸に対する第2の軸の傾きは、眼鏡装用者の処方度数、レンズ素材屈折率、レンズカーブ、レンズ中心厚、瞳孔間距離、頂間距離、近用内寄せ量、近用物点距離、フレームの前傾角、フレームのあおり角など装用データにより、眼鏡装用者に最適なものとすることが望ましい。
(A)第1の工程(レンズ装用データの取得工程)
インターネット、専用回線、電話、FAXなどの眼鏡店とレンズメーカーを繋ぐ通信手段を用いて、眼鏡店から眼鏡装用者の処方度数、レンズ素材の屈折率、レンズカーブ、レンズ中心厚・レンズコバ厚などの厚み指定項目、レンズ径、瞳孔間距離、頂間距離、近用内寄せ量、遠方物点距離、近用物点距離、フレームの前傾角、フレームのあおり角、フレームの玉型情報、レンズ下方の光線通過点(または下方回旋角度)の指定などの装用データを製造者(レンズメーカー)が受け取る工程である。この時、眼鏡店からは最低、眼鏡装用者の処方度数のみ受け取ることが必要であり、不足するデータは予めレンズメーカー側で用意した規格値を用いる。
(B)第2の工程(基本レンズ情報の選定工程)
第1の工程で取得した処方度数、レンズ素材の屈折率、レンズ中心厚・レンズコバ厚などの厚み指定項目、レンズカーブ、レンズ径、フレームの前傾角、フレームのあおり角、フレームの玉型形状、第7の工程で得られた差分計算補正量(初期値は0)をもとに、製作レンズの表面カーブ形状と裏面カーブ形状、中心厚、レンズ径、プリズム量、プリズムの基底方向を仮決定する工程である。
(C)第3の工程(第1の軸の形状決定工程)
第2の工程で仮決定した基本レンズ情報、第1の工程で得られた瞳孔間距離、頂間距離、遠方物点距離、フレーム玉型情報、および、予め登録されている眼球モデル情報を用いて、第1の軸に付加する非球面形状を光線追跡により決定する工程である。尚、この工程においては、予め様々なレンズ状態を計算しておいたマトリックス状のデータから目的のものを取り出すなどして、計算コストを削減するなどしても構わない。
(D)第4の工程(第2の軸角度を算出する工程)
第1の工程で取得した装用データに基づいて自然下方視の状態のインセット、または、予め登録された下方回旋角度の状態におけるインセットを算出し、そのデータを元に第2の軸角度を算出する工程である。つまり、第1の軸に対する第2の軸角度は装用データに基づいて変更可能である。特に第1の工程にて指定の無い場合は、自然下方視の状態または予め登録された下方回旋角度で算出されたインセット量から三角関数を用いた計算、光線追跡などにより第2の軸角度を計算するのが一般である。特別に眼鏡レンズの下方を用いて近方を見るなどの指定がある場合や第1の工程でインセットの指定のある場合には、指定されたレンズ下方の光線通過場所とインセット量から第2の軸角度を決定する場合もある。
(E)第5の工程(第2の軸の形状決定工程)
第2の工程で仮決定した基本レンズ情報、第1の工程で得られた瞳孔間距離、頂間距離、近方物点距離、および、予め登録されている眼球モデル情報、第4の工程で得られた第2の軸角度を用いて、第2の軸に付加する非球面形状を光線追跡により決定する工程である。この時、第1の軸と同様に予め計算したマトリックスを用いて計算コストを削減しても良い。
(F)第6の工程(軸外の形状決定工程)
第2の工程で得られたレンズの基本情報、第3の工程で得られた第1の軸形状、第4の工程で得られた第2の軸角度、第5の工程で得られた第2の軸形状により、第1および第2の軸形状を第4の工程で得られた第2の軸角度で固定した後、予め設定された設計方針に従って、軸外のカーブ形状を定める工程である。この時、設計方針は予め設定しておいても良いし、第1の工程で得た情報(つまり眼鏡レンズ装用者の装用データに基づく)により、第6の工程で設計方針を決定しても良い。
(G)第7の工程(レンズ厚さ確認工程)
第6の工程までで得られたレンズ形状(設計データ)を元にコンピュータ上でレンズ形状を復元し、レンズの中心厚、コバ厚が予め定められた規格値、または、第1の工程で定められた厚み指定項目を満たすかどうかを確認する工程である。厚み指定条件を満たさない場合は、差分計算補正量を第2の工程に反映させ、第2の工程から繰り返し満足する結果が得られるまで計算を行う。
以上の工程を経てレンズ形状を設定することにより、単焦点の非球面レンズにおいても、眼鏡装用者の装用データをレンズ形状に反映する事が可能となり、特に、近方を見る際の目の輻輳の変化に対応することができる。
尚、製作レンズが乱視度数である場合は、第6の工程と第7の工程の間に、乱視軸と乱視度数の大きさに対応した非球面形状を光線追跡により計算し付加する工程を設けてもよい。この場合においても、予め様々なレンズ条件を計算したマトリックス状のデータより目的のデータを選択することで計算コストを削減するなどしても良い。
また、乱視面に適応した非球面の付加は、前述のように第6の工程と第7の工程の間に加えても良いし、第3から第5の工程において軸形状を定める際に、乱視度数を加味して非球面形状を設定してもよい。
(実施例1)
実施例1は裏面非球面のマイナス度数の非球面レンズである。実施例1における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S−4.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値1.0D(1.523換算)
・レンズ中心厚:1.1mm
・フチ厚最大:5.273mm
・フチ厚最小:5.029mm
図1は実施例1の非球面レンズの装用状態におけるフチ厚と方向を示す図である。最大フチ厚はレンズ装用時に上になる方向(12時の方向)であり、最小フチ厚はレンズ装用時に下となる方向(6時の方向)である。比較として裏面が球面であるレンズとの厚みの差を図2に示す。図2はレンズ幾何中心を通過し最大及び最小フチ厚位置におけるレンズ形状を示しているが、実施例1では裏面は基準球面に対していずれも浅いカーブとされ、更に上部側よりも下部側の方がカーブが浅い傾向となっている。
この実施例1のレンズの裏面のカーブ値とサグ量を表1に示す。表1はレンズ幾何中心を通過する12時及び6時方向(上記最大及び最小フチ厚位置)を0度としてそれぞれ左右に30度及び60度回動した位置におけるレンズ幾何中心からの4mmごとの距離におけるカーブ値を示したグラフである。
表1に示すようにレンズ幾何中心のカーブ値は4.49でもっとも大きい。このレンズ幾何中心を基点として最もカーブ値の減少が小さいのは12時方向であってカーブ値は3.81を示している。つまり、実施例1のようなマイナス度数のレンズでは第1の軸はレンズ幾何中心から12時方向に配置される。一方、レンズ幾何中心を基点として最もカーブ値の減少が大きいのは6時方向であってカーブ値は2.86を示している。つまり、実施例1では第2の軸はレンズ幾何中心から6時方向に配置される。
この表1の任意のカーブ値は、
C(up)−C(up〜ct) > C(dw)−C(dw〜ct)・・・(1)式
の条件を満たしている。例えば0度方向のレンズ幾何中心から上下20mm地点を(1)式に代入すると、
(3.62−4.49)>(3.32−4.49)である。他の位置についても(1)式の条件を満たしている。
図3(a)に示すように、レンズ中心部から上方にかけては、レンズ中心部とほぼ同じパワーが確保されている。これにより、遠方を見たときの度数不足が起こらない。更に、図3(b)に示すように、レンズ下方で非点収差が少なくなっている。このため、レンズ下方はすっきりとした使い心地となっている。
また、表2は実施例1のレンズ幾何中心を通る垂直方向(12時−6時方向)における非点収差(破線)及び像面湾曲(実線)をグラフ化したもので、横軸はディオプター(D)、縦軸はレンズ中心からの距離(mm)を示している。全ての物体距離においてレンズから所定の距離において(レンズ上方のパワーエラー)−(レンズ下方のパワーエラー)>0になっている。このことは、レンズ上方よりも、レンズ下方ではプラス方向の度数になっていることを意味する。この表2からレンズ下方で近方を見たときに眼に対してかかってくるマイナスの負荷が低減されていることが理解できる。
実施例2は裏面非球面のマイナス度数の非球面レンズである。実施例2における非球面レンズの設定条件は実施例1と同じである。
図6〜図8及び表3に示すように実施例2ではレンズ幾何中心を通る垂直方向(12時−6時方向)の形状は実施例1と同じである。しかし、実施例2では左右から斜め方向にかけて実施例1とはレンズ形状(カーブ形状)が異なっている。実施例2では実施例1と比較してレンズ下部側方の度数が弱くなっている。これにより、実施例1よりも下方部で近用を見たときの余分なマイナス度数が減っている。表4に示すように、垂直方向(12時−6時方向)の非点収差(破線)及び像面湾曲(実線)については実施例1とほぼ同様である。つまり、レンズ上方に伸びる第1の軸上のカーブ形状と、下方に伸びる第2の軸上のカーブ形状が決定すれば、その形状を固定して、斜め方向の光学性能を変化させることが可能であり、その形状は、設計者の好みで決めてよいという例である。
実施例2においても上記(1)式の条件が満たされている。
尚、眼鏡装用者の装用データに基づいてこのように第1及び第2の軸以外の領域についてレンズ形状を任意に変更することが可能である。
実施例3は裏面非球面のマイナス度数の非球面レンズである。実施例3における非球面レンズの設定条件は実施例1と同じである。
図9に示すように、実施例3では垂直な第1の軸に対して第2の軸が15度の角度で鼻側に傾いている。このような形状のレンズについて具体的なカーブ値として表5に示す。表5では第2の軸が存在する下部側のカーブ変化の最も大きい領域の連続する線上はレンズ幾何中心を通る垂直方向(12時−6時方向)から反時計回りに15度(−15度)の方向である。つまりこの線上が最もレンズ厚が薄くなっている。
実施例3では実施例1や実施例2に比べて、鼻側下方で近用を見るために適した光学性能となっている。そのため、近くを見るときの眼の打ち寄せに対してより装用感が向上する。
図11(a)は透過光条件における無限距離での実施例3の非球面レンズ全面をシミュレーションして得られたレンズ度数を示した図であり、図11(b)は同じく非点収差を示した図である。図12(a)及び(b)は同じく透過光条件における物体距離30cmでの実施例3の非球面レンズ全面のレンズ度数と非点収差を示した図である。いずれも下部側で第2の軸が傾いていることが理解できる。
表5において、レンズ上方向の軸(0度)および下方向の軸(−15度)の任意の位置のカーブ値は上記式(1)を満たしている。
更に、眼鏡装用者の装用データに基づいて第1の軸に対する第2の軸の傾きを任意に変更することが可能である。すなわち、眼鏡装用者の処方度数、レンズ素材屈折率、レンズカーブ、レンズ中心厚、瞳孔間距離、頂間距離、近用内寄せ量、遠方物点距離、近用物点距離、フレームの前傾角、フレームのあおり角など装用データにより、レンズ下方部で近方視時の視線が通過する位置が変化するため、第2の軸の傾きを最適に調整することで装用感を向上させることが出来る。例えば、自然下方視の状態では、インセット2.0mmであれば、第2の軸は反時計回りに12.5度、インセット3.0mmであれば第2の軸は反時計回りに18.4度傾かせると良い。本実施例では、第1の軸をレンズ上方向(12時方向)とした場合の例を記載したが、遠方物点が無限遠ではなく5m以下の有限距離が指定されているような場合においては第2の工程と第3の工程の間に、第1の軸角度を算出する工程を設けることにより、中間距離から近方距離の装用感を向上させることも可能である。
実施例4は裏面非球面のプラス度数の非球面レンズである。実施例4における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S+3.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値3.5D(1.523換算)
・レンズ中心厚:4.05mm
・フチ厚最大:0.955mm
・フチ厚最小:0.700mm
図13は実施例4の非球面レンズの装用状態におけるフチ厚と方向を示す図である。実施例1〜3のマイナス度数のレンズと同様最大フチ厚はレンズ装用時に上になる方向(12時の方向)であり、最小フチ厚はレンズ装用時に下となる方向(6時の方向)である。この実施例4のレンズの裏面のカーブ値とサグ量を表7に示す。このレンズ幾何中心を基点として最もカーブ値の増加が大きいのは12時方向であってカーブ値は1.71を示している。つまり、実施例4のようなプラス度数のレンズでは第1の軸はレンズ幾何中心から12時方向に配置される。一方、レンズ幾何中心を基点として最もカーブ値の増加が小さいのは6時方向であってカーブ値は1.08を示している。つまり、実施例4では第2の軸はレンズ幾何中心から6時方向に配置される。
図14(a)は透過光条件における無限距離での実施例4の非球面レンズ全面をシミュレーションして得られたレンズ度数を示した図であり、図14(b)は同じく非点収差を示した図である。図15(a)及び(b)は同じく透過光条件における物体距離30cmでの実施例4の非球面レンズ全面のレンズ度数と非点収差を示した図である。図16(a)及び(b)は同じく透過光条件における物体距離70cmでの実施例4の非球面レンズ全面のレンズ度数と非点収差を示した図である。これらの図及び表8に示すように、物点距離が近い場合、レンズ下方において、レンズ上方よりもマイナスの度合いが減少していることから、物点距離が近くなったことに対するマイナスの負荷が軽減されている。更に、上下非対称としたことにより、レンズ中心から上方にかけては中間距離から遠方距離を見るのに適した光学性能になっている。
実施例4においても上記(1)式の条件が満たされている。
実施例5は表面非球面のマイナス度数の非球面レンズである。実施例5における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S−4.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値1.0D(1.523換算)
・レンズ中心厚:1.1mm
・フチ厚最大:5.539mm
・フチ厚最小:5.301mm
図17は実施例5の非球面レンズの装用状態におけるフチ厚と方向を示す図である。最大フチ厚はレンズ装用時に上になる方向(12時の方向)であり、最小フチ厚はレンズ装用時に下となる方向(6時の方向)である。比較として表面が球面であるレンズとの厚みの差を図18に示す。図18はレンズ幾何中心を通過し最大及び最小フチ厚位置におけるレンズ形状を示しているが、実施例5では表面は基準球面に対していずれも深いカーブとされ、更に上部側よりも下部側の方がカーブが深い傾向となっている。
この実施例5のレンズの表面のカーブ値とサグ量を表9に示す。表9に示すようにレンズ幾何中心のカーブ値は1.0でもっとも小さい。このレンズ幾何中心を基点として最もカーブ値の増加が小さいのは12時方向であってカーブ値は1.21を示している。つまり、実施例5では第1の軸はレンズ幾何中心から12時方向に配置される。一方、レンズ幾何中心を基点として最もカーブ値の増加が大きいのは6時方向であってカーブ値は1.88を示している。つまり、実施例5では第2の軸はレンズ幾何中心から6時方向に配置される。
この表9の任意のカーブ値は、
C(up)−C(up〜ct) < C(dw)−C(dw〜ct)・・・(2)式
の条件を満たしている。例えば0度方向のレンズ幾何中心から上下20mm地点を(2)式に代入すると、
(1.58−1.00)<(1.89−1.00)である。他の位置についても(2)式の条件を満たしている。
表10に示すように、実施例5では上方部では中間距離のパワーエラー、下方部では遠方距離の非点収差を最適化した。近方距離においてレンズ上方のプラスのパワーエラーよりもレンズ下方のプラスパワーエラーの方が大きくなっており、近方視の際の余分なマイナス負荷が低減されている。
実施例6は表面非球面のプラス度数の非球面レンズである。実施例6における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S+3.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値3.5(1.523換算)
・レンズ中心厚:3.70mm
・フチ厚最大:0.700mm
・フチ厚最小:0.518mm
図19は実施例6の非球面レンズの装用状態におけるフチ厚と方向を示す図である。最大フチ厚はレンズ装用時に上になる方向(12時の方向)であり、最小フチ厚はレンズ装用時に下となる方向(6時の方向)である。比較として表面が球面であるレンズとの厚みの差を図20に示す。図20はレンズ幾何中心を通過し最大及び最小フチ厚位置におけるレンズ形状を示しているが、実施例6では表面は基準球面に対していずれも浅いカーブとされ、更に上部側よりも下部側の方がカーブが深い傾向となっている。
この実施例6のレンズの表面のカーブ値とサグ量を表11に、各物点距離における光学性能を表12に示す。表12から演繹できるように全ての距離で(レンズ上方のパワーエラー)−(レンズ下方のパワーエラー)<0となっている。つまり、レンズ下方が上方よりもマイナスの度合いが弱く、近方視の時の余分なマイナス負荷を軽減しつつ、遠方視も快適に見えることとなる。
実施例6においても上記(2)式の条件が満たされている。
比較例1は裏面非球面のマイナス度数の回転対称非球面レンズである。比較例1における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S−4.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値1.0D(1.523換算)
・レンズ中心厚:1.1mm
・フチ厚:5.273mm
図21〜図24及び表13に示すように比較例1ではレンズ幾何中心を通る垂直方向(12時−6時方向)の形状は上下対称である。表13の任意の位置のカーブ値はC(up)−C(up〜ct) = C(dw)−C(dw〜ct)となり上記(1)式を満たさない。
表14に示すように比較例1は遠方の像面湾曲を改善した設計である。しかし遠方の非点収差が大きくなり、下方部で近方を見る際の余分なマイナス負荷が低減されていない。
比較例2は比較例1とは異なる設計の裏面非球面のマイナス度数の回転対称非球面レンズである。比較例2における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S−4.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値1.0D(1.523換算)
・レンズ中心厚:1.1mm
・フチ厚:5.562mm
図25、図26及び表15に示すように比較例2ではレンズ幾何中心を通る垂直方向(12時−6時方向)の形状は上下対称である。
表15に示すように比較例2は近方の像面湾曲及び非点収差が改善されているが、遠方の非点収差と像面湾曲が大きくなっている。また、下方部で近方を見る際の余分なマイナス負荷も低減されていない。
比較例3は裏面非球面のマイナス度数の回転非対称非球面レンズである。比較例3における非球面レンズの設定条件は次の通りである。
・レンズ直径:75mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・遠用度数:S−4.00D
・表カーブ(ベースカーブ)のカーブ値1.0D(1.523換算)
・レンズ中心厚:1.1mm
・フチ厚最大:5.562mm
・フチ厚最小:5.273mm
図27に示すように、比較例3では最大フチ厚はレンズ装用時に下になる方向(6時の方向)であり、最小フチ厚はレンズ装用時に上となる方向(12時の方向)である。この比較例3のレンズの裏面のカーブ値とサグ量を表16に示す。
また、図28(a)は透過光条件における無限距離での比較例3の非球面レンズ全面をシミュレーションして得られたレンズ度数を示した図であり、図28(b)は同じく非点収差を示した図である。図29(a)及び(b)は同じく透過光条件における物体距離30cmでの比較例3の非球面レンズ全面のレンズ度数と非点収差を示した図である。
比較例3では表17に示すように、レンズ下部で近方を見たときの非点収差とパワーエラーが減少しているが、レンズ下部でパワーエラーが減少した分だけレンズ上部よりも余分なマイナス度数が強くなってしまっている。表16の任意のカーブ値は、
C(up)−C(up〜ct)< C(dw)−C(dw〜ct)
となり、上記式(1)を満たしていない。例えば0度方向のレンズ幾何中心から上下20mm地点のカーブ値は、
(3.62−4.49)<(3.95−4.49)
であり、その他の位置のカーブ値も同様に上記式(1)を満たさない。
Claims (6)
- 表面及び裏面の一対の屈折面を持ち、少なくとも前記表面又は前記裏面のいずれか一方の屈折面がレンズの上部側と下部側とで異なるカーブ特性の非球面から構成される回転非対称非球面である非球面眼鏡レンズの製造方法であって、
度数測定点における垂直方向度数がマイナス度数であるレンズでは、レンズのほぼ中心部を基点B1として装用時に上になる方向に向かって延出されるレンズの上部側におけるカーブ変化の最も小さい領域の連続する線上に存在する第1の軸と、レンズのほぼ中心部を基点B2として装用時に下になる方向に向かって延出されるレンズの下部側におけるカーブ変化の最も大きい領域の連続する線上に存在する第2の軸とをそれぞれ想定するとともに、度数測定点における垂直方向度数がプラス度数であるレンズでは、レンズのほぼ中心部を基点B1として装用時に上になる方向に向かって延出されるレンズの上部側におけるカーブ変化の最も大きい領域の連続する線上に存在する第1の軸と、レンズのほぼ中心部を基点B2として装用時に下になる方向に向かって延出されるレンズの下部側におけるカーブ変化の最も小さい領域の連続する線上に存在する第2の軸とをそれぞれ想定し、
前記第1及び第2の軸の基点B1,B2のカーブ値をそれぞれC(up〜ct)及びC(dw〜ct)とし、同第1の軸上の所定の位置P1のカーブ値をC(up)とするとともに、位置P1に対して基点B1,B2の中点を挟んだ第2の軸上の等距離位置P2のカーブ値をC(dw)とした場合に前記回転非対称非球面が裏面に形成されるならば同第1の軸上の所定の位置P1と同第2の軸上の所定の位置P2のカーブ値との関係は下記(1)式を満たすように設定し、表面に形成されるならば、下記(2)式を満たすように設定することを特徴とする非球面眼鏡レンズの製造方法。
C(up)−C(up〜ct) > C(dw)−C(dw〜ct)・・・(1)式
C(up)−C(up〜ct) < C(dw)−C(dw〜ct)・・・(2)式 - 眼鏡レンズ装用者の装用データに基づいて、当該装用者の眼鏡レンズの前記第1の軸に対する前記第2の軸の傾きを決定することを特徴とする請求項1に記載の非球面眼鏡レンズの製造方法。
- 前記第1及び第2の軸の所定のカーブ形状を設定した後に、同第1及び第2の軸以外の領域について任意のカーブ形状を設定するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の非球面眼鏡レンズの製造方法。
- 度数測定点における垂直方向度数がマイナスに設定されていることを特徴とする請求項1〜3に記載の非球面眼鏡レンズの製造方法。
- 前記第1の軸はほぼ垂直に延びるとともに、前記第2の軸が同第1の軸に対して傾いていることを特徴とする請求項1〜3に記載の非球面眼鏡レンズの製造方法。
- 前記第2の軸は前記第1の軸に対して眼球側に10〜30度の角度で傾いていることを特徴とする請求項5に記載の非球面眼鏡レンズの製造方法。
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