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JP4977150B2 - 流体動圧軸受の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、流体動圧軸受の製造方法、その製造方法によって製造された流体動圧軸受、その流体動圧軸受を備えるモータおよびそのモータを備えるディスク駆動装置に関し、特に流体動圧軸受に潤滑剤を充填する技術に関する。
デジタルデータを記録再生する装置としてはハードディスクドライブなどの磁気ディスク駆動装置や、CD(Compact Disc)装置、DVD(Digital Versatile Disc)装置などの光学ディスク駆動装置が知られている。これらの装置はディスクを回転させるためのモータを備える。近年、このモータに流体動圧軸受が採用されることが多くなっている。
流体動圧軸受の製造方法としては、下記の特許文献1、特許文献2および特許文献3に代表されるような種々の方法が提案されている。
特開2002−5170号公報 特開2005−98393号公報 特開2005−273908号公報
流体動圧軸受の製造方法について、本発明者は以下の課題を認識した。
流体動圧軸受は潤滑剤を貯留するための貯留領域を有する。この貯留領域の入口付近には潤滑剤の漏れ出しを防止するために潤滑剤をはじく撥油領域が設けられる。従来の流体動圧軸受の製造方法では、潤滑剤を貯留領域へ注入する段階で撥油領域に潤滑剤が付着してしまう。この付着した潤滑剤は撥油領域の機能を損なう可能性がある。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑剤による汚染を軽減した流体動圧軸受の製造方法の提供にある。
本発明のある態様は流体動圧軸受の製造方法に関する。この製造方法は、潤滑剤が注入されていない流体動圧軸受を所定の作業空間に準備する工程と、作業空間を減圧する工程と、潤滑剤を吐出するノズルを流体動圧軸受の潤滑剤を溜める貯留領域の内部に挿入する工程と、貯留領域からあふれ出ない量の潤滑剤を貯留領域に吐出する工程と、作業空間を復圧する工程と、を含む。
この態様によると、潤滑剤を吐出するノズルを潤滑剤を溜める貯留領域の内部に挿入してから潤滑剤を吐出するので、貯留領域以外への潤滑剤の付着を軽減できる。
本発明の別の態様もまた、流体動圧軸受の製造方法である。この製造方法は、潤滑剤が注入されていない流体動圧軸受を所定の作業空間に準備する工程と、流体動圧軸受の潤滑剤を溜める貯留領域の入口付近に、潤滑剤の漏出を防止するために設けられた撥油領域を覆う工程と、作業空間を減圧する工程と、射出される潤滑剤の液滴が貯留領域の入口に入るように、貯留領域から離れた位置にある少なくとも2つのノズルのねらいを定める工程と、少なくとも2つのノズルから潤滑剤の液滴を貯留領域からあふれ出ない量射出する工程と、作業空間を復圧する工程と、を含む。
この態様によると、撥油領域を覆ってから潤滑剤を注入するので、撥油領域への潤滑剤の付着を軽減できる。
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、潤滑剤による汚染を軽減できる。
第1および第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法によって製造されるブラシレスモータの縦断面図である。 図2(a)−(c)は、比較技術に係る流体動圧軸受の製造方法を示す工程図である。 図3(a)−(d)は、第1の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法を示す工程図である。 図3の吐出ノズルの吐出側の先端部を拡大した拡大図である。 図5(a)−(d)は、第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法を示す工程図である。
以下、本発明を好適な実施の形態および比較技術をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において比較技術および実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
本発明の第1および第2の実施の形態は流体動圧軸受の製造方法に係り、特にオイルなどの潤滑剤を流体動圧軸受の所定の貯留領域へ注入する方法に関する。第1の実施の形態に係る製造方法では、潤滑剤を注入する際、扁平な先端を有するノズルを貯留領域の内部まで侵入させてから潤滑剤を注入する。これにより、貯留領域の入口付近に潤滑剤が付着することを防ぐことができる。特に貯留領域の入口付近に設けられ、潤滑剤の漏れ出しを防止する撥油領域に潤滑剤が付着することを防止でき、潤滑剤の漏れ出し防止をより確実なものとすることができる。
第2の実施の形態に係る製造方法では、まず撥油領域を覆ってから潤滑剤を注入する。
第1または第2の実施の形態に係る製造方法を用いて製造された流体動圧軸受は、ブラシレスモータに搭載される。かかるブラシレスモータは、ハードディスクドライブに搭載され磁気記録ディスクを駆動するブラシレスモータや、CD装置、DVD装置等の光学ディスク駆動装置に搭載されるディスク駆動モータとして好適に用いられる。
図1は、第1および第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法によって製造されるブラシレスモータ100の縦断面図である。ブラシレスモータ100は、ハブ2と、シャフト13と、円環状マグネット8と、ベースプレート5と、積層コア6と、コイル7と、スリーブ11と、プレート14と、潤滑剤20と、スラストリング12と、を備える。以降ベースプレート5に対してハブ2が設けられている側を上側として説明する。
ハブ2と、シャフト13と、スラストリング12と、円環状マグネット8と、はロータを構成し、ブラシレスモータ100の回転時にはこれらが一体となってモータ回転軸Rの回りを回転する。シャフト13の一端はハブ2の中心に設けられた開口部に圧入状態で固着される。ハブ2は、その下面からぶら下がる形状を有する円筒状の下垂部2bを有する。下垂部2bの内周面にはスラストリング12が固着される。
略カップ状のハブ2の内周面2aには円環状マグネット8が接着固定される。円環状マグネット8は、ネオジウム、鉄、ホウ素などの希土類材料によって形成され、後述する積層コア6の12本の突極と径方向に対向する。円環状マグネット8にはその周方向に8極の駆動用着磁が施される。
ベースプレート5と、積層コア6と、コイル7と、スリーブ11と、プレート14と、はステータを構成し、ブラシレスモータ100の回転時にはロータを回転自在に支持する。ベースプレート5はハードディスクドライブのベースと一体である。ベースプレート5にはモータ回転軸Rを中心とした開口が設けられ、その開口の内周面にスリーブ11が接着固定される。スリーブ11にはシャフト13が収まる。スリーブ11の下側の面にはプレート14が接着固定され、密封される。
なお、ベースプレート5はハードディスクドライブのベースと別体とされてもよい。
積層コア6は円環部とそこから半径方向外側に伸びる12本の突極とを有する。積層コア6は、9枚の薄型電磁鋼板を積層しレーザ溶接により一体化して形成される。それぞれの突極にはコイル7が巻回される。このコイル7に3相の略正弦波状の駆動電流が流れることにより突極に沿って駆動磁束が発生する。積層コア6はベースプレート5に接着固定される。
ロータの一部であるシャフト13、スラストリング12およびハブ2と、ステータの一部であるスリーブ11およびプレート14との間の貯留領域16には潤滑剤20が注入される。シャフト13、スラストリング12、ハブ2、スリーブ11、プレート14および潤滑剤20は、潤滑剤20に発生する動圧を用いる軸受である流体動圧軸受18を構成する。
スリーブ11の内周面には、互いに離間した1組のヘリングボーン形状のラジアル動圧溝が形成される。また、スリーブ11の上端面にはヘリングボーン形状のスラスト動圧溝が形成される。ブラシレスモータ100の回転時には、これらの動圧溝が潤滑剤20に生成する動圧によって、ロータはスラスト方向およびラジアル方向に支持される。貯留領域16に潤滑剤20が供給されると、ラジアル動圧溝およびスラスト動圧溝にも潤滑剤20が供給される。
スリーブ11の上端側に近い外周面11aは、上端面へ近づくにしたがって大径となる傾斜面とされる。この傾斜面のモータ回転軸Rに対する傾斜角を傾斜角θisとする。スリーブ11の外周面11aに対向するスラストリング12の内周面12aは、上側へ向けて大径となる傾斜面とされる。この傾斜面のモータ回転軸Rに対する傾斜角を傾斜角θthとする。ブラシレスモータ100は、0<θth<θisとなるように設計される。
したがってスリーブ11の外周面11aとスラストリング12の内周面12aとによって挟まれる入口空間22は、下方に向かって拡がる形状を有する。これにより潤滑剤20が入口空間22の上方へ引き込まれる毛細管現象が起こるので、一旦充填された潤滑剤20が外部へ漏れ出しにくい構造となる。
なお、スラストリング12の内周面12aの傾斜が終わる下端付近を、入口空間22の入口16aと定義する。これは入口空間22を含む貯留領域16の入口16aでもある。
潤滑剤20が蒸発などにより減少するのに備えるため、潤滑剤20の充填量は、その液面が入口空間22の途中に位置する程度に設定される。
オイルなどの潤滑剤20が部材の表面に沿って拡散するいわゆるオイルマイグレーション(Oil Migration)現象が知られている。このオイルマイグレーション現象によって潤滑剤20が外部へ漏れ出すことを防止するため、貯留領域16の入口16a付近に第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bが形成される。第1撥油領域30aは、スリーブ11の外周面11aの傾斜が終わる下端付近の表面に、フッ素樹脂などの撥油性のある材料を塗布して形成される。第2撥油領域30bは、スラストリング12の下面にフッ素樹脂などの撥油性のある材料を塗布して形成される。
第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bは、潤滑剤20がオイルマイグレーション現象によって貯留領域16から拡散してきてもそれをはじくので、潤滑剤の外部への漏れ出しを軽減できる。
上述のブラシレスモータ100に含まれる流体動圧軸受18を製造する、比較技術に係る製造方法を説明する。図2(a)−(c)は、比較技術に係る流体動圧軸受18の製造方法を示す工程図である。
図2(a)は、潤滑剤20を注入する準備を行う準備工程を示す。この準備工程では、潤滑剤20を注入する前の流体動圧軸受を下面を上に向けて作業空間に載置する。そして作業空間を減圧することで、貯留領域16を減圧する。
図2(b)は、潤滑剤20を点滴する点滴工程を示す。この点滴工程では、ノズル24を貯留領域16の入口16aの外側に近づけてそこへ潤滑剤20を所望の量点滴し、その表面張力により入口16a付近に付着させる。この所望の量は、貯留領域16を満たすのに十分な量とされる。
図2(c)は、潤滑剤20を貯留領域16の内部へ引き込む引き込み工程を示す。この引き込み工程では、作業空間を大気圧まで復圧し、貯留領域16の内部と外部との圧力差によって潤滑剤20を貯留領域16の内部へ引き込む。これにより、貯留領域16に潤滑剤20が充填される。
比較技術に係る製造方法では、図2(b)に見られるように、潤滑剤20が第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bに不可避的に付着する。したがって流体動圧軸受18の製造後、拭き取りなどにより第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bから潤滑剤20を除去する。
ここで本発明者は比較技術について以下の問題点を見出した。
第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bに付着した潤滑剤20は、拭き取りなどの方法によっても完全には除去することはできない。撥油領域のうち、潤滑剤20が残留した部分(以下、オイルの通路と呼ぶ)では、オイルマイグレーション現象を防止する効果が低下する。
オイルの通路について考察すると、それは残留する潤滑剤20が撥油領域の表面に「なじむ」ことによって生まれることが理解される。つまり、撥油領域などの表面張力を大きくした表面に油滴が当たった場合、その油滴の量が多くなければ油滴は粒形状を維持しはじかれる。しかしながら多量の油滴が当たり、その結果一筋でも油だれができてしまうと、そこに油の薄膜が形成され表面張力が低下して油だれが維持される。すると周辺との表面張力の差から油が油だれにさらに集まり、油だれが拡大していく。この現象により上述のオイルの通路が形成されると理解できる。
第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bにいったんオイルの通路が形成されると、そこを通って潤滑剤20が外部へ拡散する。また、潤滑剤20が集まることによりオイルの通路は周辺へ加速度的に拡大する。このようにして外部に潤滑剤20が拡散すると、記録ディスクの表面を汚染して不具合の原因となる場合がある。また、潤滑剤20の漏れ出しが続くとやがては貯留領域16内の潤滑剤20が不足し、流体動圧軸受18が焼き付いたり、ブラシレスモータ100を駆動するための電力が増大したりする可能性がある。
比較技術のこのような問題点に鑑み、本発明者は第1および第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法を創作した。図3(a)−(d)は、第1の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法を示す工程図である。
図3(a)は、潤滑剤20を注入する準備を行う準備工程を示す。この準備工程では、潤滑剤20を注入する前の流体動圧軸受を、貯留領域16の入口16aを上に向けて減圧可能な作業空間に載置する。そして作業空間の気圧である作業圧力をたとえば100(Pa)以下に減圧することで、貯留領域16を減圧する。
図3(b)は、潤滑剤20を注入する注入工程を示す。この注入工程ではまず潤滑剤20を吐出する吐出ノズル26を入口空間22の内部に挿入する。この際、吐出ノズル26は貯留領域16の入口16aに対応する水平位置まで移動し、次に入口空間22の内部まで鉛直方向に移動する。これにより、潤滑剤20を注入する前の流体動圧軸受を作業空間にセットする際に吐出ノズル26が邪魔をすることはなく、流体動圧軸受を容易に短時間でセットできる。
吐出ノズル26を入口空間22の内部に挿入した後、潤滑剤20を吐出ノズル26から吐出する。吐出される潤滑剤20の量は貯留領域16からあふれ出ない量、たとえば入口空間22を満たす程度の量とする。
図3(c)は、潤滑剤20を貯留領域16の内部へ引き込む引き込み工程を示す。この引き込み工程では、作業空間を大気圧などの貯留領域16内部の圧力よりも高い圧力まで復圧し、貯留領域16の内部と外部との圧力差によって潤滑剤20を貯留領域16の内部へ引き込む。これにより、貯留領域16に潤滑剤20が充填される。
なお、吐出、充填する潤滑剤20の温度である潤滑剤温度は40℃以上120℃以下とされることが望ましい。潤滑剤温度が40℃以上となると、粘度が十分に低下するので上述の吐出や充填をスムーズに短期間で行うことができる。また、潤滑剤温度を120℃以下に保つと、蒸発量の面で有利である。
貯留領域16の容量に占める入口空間22の容量の割合が50%より大きければ、図3(c)の引き込み工程の後、潤滑剤20の液面は入口空間22の途中に位置する。したがって流体動圧軸受18の製造上のばらつきや適切なマージンを考慮しても、貯留領域16の容量に占める入口空間22の容量の割合が60%以上あれば引き込み工程の後に得られる流体動圧軸受18は適切な量の潤滑剤20を有しているといえる。しかしながらその割合が50%より小さい場合や多めのマージンを得ようとする場合などでは、潤滑剤20を追加する工程がさらに必要である。
図3(d)は、潤滑剤20を所望の量まで付加する付加工程を示す。この付加工程では大気圧において、吐出ノズル26の先端を再度貯留領域16の内部、特に既に充填されている潤滑剤20の液面下まで挿入する。そして所望の量が得られるまで潤滑剤20を吐出ノズル26から付加的に吐出する。
ここで吐出ノズル26について説明する。図4は、吐出ノズル26の吐出側の先端部を拡大した拡大図である。吐出ノズル26としては、たとえば外径φが0.35(mm)、肉厚tが0.05(mm)のSUS316などのステンレスパイプ材が用いられる。図3(b)の注入工程において入口空間22の内部に挿入される際は、吐出ノズル26のどの部分もスリーブ11に触れないように、鉛直方向に対して所定の挿入角、たとえば0度から45度、の角度方向から挿入される。この場合、入口空間22への挿入量を深くすることができるので、潤滑剤20の注入時に潤滑剤20が外部に漏れ出す可能性を低減できる。
吐出ノズル26の吐出側の先端部の形状について説明する。吐出ノズル26が貯留領域16の入口16aに挿入されうるためには、吐出ノズル26の潤滑剤20を吐出する一端(以降、吐出端26aと呼ぶ)の外寸は入口16aの間隔の90%以下とすることが必要である。しかしながら吐出端26aの外寸を小さくするとそこに開いている吐出孔もまた小さくなるので、所望の量の潤滑剤20を吐出するためにかかる時間が増大し、生産性が低下しかねない。
そこで第1の実施の形態に係る吐出ノズル26は、その吐出端26aの断面32が楕円形状などの扁平形状を有する。これは吐出端26aを適切な力で押し潰すことにより実現される。この場合、扁平形状としたことにより入口16aの間隔が狭い場合でも断面積を大きくできる。したがって所望の量の潤滑剤20の吐出を短時間で達成でき、生産性の向上に貢献する。
吐出ノズル26を入口16aに挿入する際は、扁平形状の幅が長い方の方向をリング状である入口16aの接線方向に合わせる。また、貯留領域16の入口16aは、あまり広くすると潤滑剤20の拡散量が増大するためたとえば0.4〜0.1(mm)程度にするのがよいことが、発明者の当業者としての経験から見出されている。したがって吐出ノズル26の扁平形状の短い方の幅Aは入口16aの間隔の90%、つまり0.36〜0.09(mm)とする。
なお、扁平形状の長い方の幅Bを短い方の幅Aの1.5〜5倍とすると、吐出ノズル26の耐久性の点で好ましい。
吐出端26aに開いている扁平な吐出孔34は、その短い方の幅Cが吐出端26aの短い方の幅Aの1/3から2/3とするのが望ましい。貯留領域16の入口16aの間隔との関係で言えば、吐出孔34の短い方の幅Cは、入口16aの間隔の60%以下とすることが好ましい。吐出孔34の短い方の幅Cが吐出端26aの短い方の幅Aの1/3以上であれば、潤滑剤20の吐出にそれほど時間を要しない。吐出孔34の短い方の幅Cが吐出端26aの短い方の幅Aの2/3以下であれば、吐出孔34の周りの壁となる部分の厚さt(管の肉厚)を十分に確保できるので、所望の強度を得ることができ変形しにくくなる。
第1の実施の形態では、貯留領域16の入口16aの間隔を0.25(mm)、扁平な吐出端26aの短い方の幅Aを0.2(mm)、長い方の幅Bを0.4(mm)、吐出孔34の短い方の幅Cを0.1(mm)、長い方の幅Dを0.3(mm)、としている。また、吐出ノズル26を鉛直方向に対して20度の角度方向から入口空間22へ挿入する。
第1の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法によれば、吐出ノズル26を貯留領域16の内部まで挿入してから潤滑剤20を吐出するので、貯留領域16の入口16aの外側に潤滑剤20が付着しにくくなる。したがって第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bへ潤滑剤20が付着しにくくなり、オイルの通路による潤滑剤20の拡散を低減できる。
また、第1の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法によれば、貯留領域16の容量に占める入口空間22の容量の割合が低い、つまり入口空間22が小さい場合でも、潤滑剤20を付加することによって所望の量の潤滑剤20を充填できる。したがって、この製造方法は、より多くの種類の流体動圧軸受に好適に用いられる。
また、潤滑剤20の付加工程は大気圧の下で行われる。したがって作業がより容易となる。さらには吐出ノズル26の先端を既に充填されている潤滑剤20の液面下まで挿入するので、潤滑剤20を付加する際に空気を巻き込みにくくなる。
第1の実施の形態では、準備工程において作業圧力を100(Pa)以下に減圧する場合について説明したが、これに限られない。たとえば作業圧力を10(Pa)以下に減圧すれば空気が潤滑剤に巻き込まれにくくなる点で好ましく、また、作業圧力を5(Pa)以下とすれば空気が潤滑剤に溶け込みにくくなる点で好ましい。
第1の実施の形態では、付加工程において大気圧のもとで潤滑剤20を付加する場合について説明したが、これに限られない。たとえば、減圧環境のもとで再吐出してもよい。この場合、潤滑剤への空気の巻き込みを低減できるので好ましい。
第1の実施の形態では、付加工程において潤滑剤20を付加する際、注入工程において使用された吐出ノズル26と同じ吐出ノズル26を用いる場合について説明したが、これに限られない。潤滑剤20を付加するためには減圧環境は必要ないので、たとえば減圧可能な作業空間とは別の場所へ流体動圧軸受18を移した後に、吐出ノズル26とは別のノズルを用いて潤滑剤を付加してもよい。この場合、付加工程では、大がかりとなりうる減圧装置を使用する必要がないので、減圧装置の利用効率が向上しうる。また、注入工程、付加工程のそれぞれにより適した潤滑剤吐出装置を使用することができる。たとえば、注入工程では単位時間当たりの潤滑剤の流量が多い吐出装置を使用し、付加工程では吐出量を精度良く制御できる装置を使用することができる。これにより、さらなる生産性および品質の向上が可能となる。
第1の実施の形態において、吐出ノズル26の吐出端26aを、流体動圧軸受18を構成する材料よりも柔らかい材料、たとえばフッ素樹脂によって形成してもよい。この場合、万一吐出端26aが流体動圧軸受18の部材に当たったとしてもその壁面を傷つけにくくなる。またこのように吐出端26aと流体動圧軸受18との接触をそれほど気にしなくても良くなるので、吐出端26aの寸法を大きくして潤滑剤を短時間により多く供給できる。吐出端26aの外周を樹脂などでコーティングすることによっても同様の効果を得ることができる。
第2の実施の形態に係る製造方法を説明する。図5(a)−(d)は、第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法を示す工程図である。
図5(a)は、潤滑剤20を注入する準備を行う準備工程を示す。この準備工程では、潤滑剤20を注入する前の流体動圧軸受を、貯留領域16の入口16aを上に向けて減圧可能な作業空間に載置する。次に、カップ状の第1マスク治具44をスリーブ11のプレート14側から嵌めて第1撥油領域30aを覆う。リング状の第2マスク治具43を、第2撥油領域30bを覆うようにスラストリング12の下面にセットする。第1マスク治具44および第2マスク治具43のセット後、作業空間の作業圧力をたとえば100(Pa)以下に減圧することで、貯留領域16を減圧する。
図5(b)は、潤滑剤20を射出導入する射出導入工程を示す。この射出導入工程では、潤滑剤20をその内部に保持する2つの潤滑剤タンク40a、40bと、潤滑剤タンク40a、40bに保持される潤滑剤20を射出する2つの射出ノズル41a、41bと、製造装置内部の作業空間や射出される潤滑剤20を所望の温度に対して±10℃以内に制御する温度制御装置(不図示)と、を用意する。
2つの射出ノズル41a、41bは互いに対向し、貯留領域16の入口16aを囲むように配置される。また、2つの射出ノズル41a、41bは、貯留領域16から離れた位置に配置される。2つの射出ノズル41a、41bから射出される潤滑剤20の液滴42が貯留領域16の入口16aに入るように、射出ノズル41a、41bそれぞれのねらいを定める。
2つの潤滑剤タンク40a、40bのそれぞれは、その内部の潤滑剤20の圧力を制御する圧電素子などの圧力制御手段を備える。この圧力制御手段に電圧パルスを印加することにより潤滑剤タンク内の潤滑剤20の液圧を瞬間的に高めることができる。このようにして液圧を瞬間的に高め、射出ノズル41から潤滑剤20を押し出す。押し出された潤滑剤20は、細かな液滴42となって入口空間22へ飛翔する。2つの射出ノズル41a、41bから射出される潤滑剤20の量は、入口空間22からあふれ出ない量に設定される。
図5(c)は、潤滑剤20を貯留領域16の内部へ引き込む引き込み工程を示す。この引き込み工程では、作業空間を大気圧などの貯留領域16内部の圧力よりも高い圧力まで復圧し、貯留領域16の内部と外部との圧力差によって潤滑剤20を貯留領域16の内部へ引き込む。これにより、貯留領域16に潤滑剤20が充填される。その後、第1マスク治具44および第2マスク治具43を除去する。
第1の実施の形態で説明したように、場合によっては引き込み工程の後にさらに潤滑剤20を付加する必要がある。
図5(d)は、潤滑剤20を所望の量まで付加する付加工程を示す。この付加工程では上述の準備工程および射出導入工程と同様の工程が繰り返されるので説明は省略する。付加工程によって所望の量に達するまで潤滑剤20が貯留領域16に充填される。なお、第1の実施の形態で説明した通り、付加工程は、減圧環境のもとで行っても、常圧環境のもとで行ってもよい。
第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法によると、第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bは潤滑剤20の注入の際にマスク治具によって覆われる。したがって、第1撥油領域30aおよび第2撥油領域30bへの潤滑剤20の付着を防止できる。
また、第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法では、2つの射出ノズル41a、41bを入口空間22の内部へ挿入する必要がないので、流体動圧軸受の壁面を傷つけにくくなる。また、潤滑剤20を細かな液滴42として注入するので、貯留領域16の入口16aが狭い場合でも好適に潤滑剤20を注入できる。また、注入時間や電圧パルス数が注入量と比例すると考えられる場合は、それらを制御することにより、より正確に潤滑剤20の注入量を調整できる。
また、第2の実施の形態に係る流体動圧軸受の製造方法では、2つの射出ノズル41a、41bを同時に使用して潤滑剤20を注入できる。したがってその分作業時間を短縮できる。
また、温度制御装置によって、射出される潤滑剤20の温度は所望の温度に対して±10℃以内に制御される。したがって温度によって異なる液滴42の飛翔の軌跡を安定させることができ、より効率的に潤滑剤20を注入できる。なお、潤滑剤20の温度を所望の温度に対して±5℃以内に制御する温度制御装置は、液滴42の飛翔の軌跡を安定させる観点からより好ましい。
第2の実施の形態では、2つの射出ノズル41a、41bを用いる場合について説明したが、これに限られず、スペースが許す限り任意の数の射出ノズルが用いられてもよい。
第2の実施の形態では、圧電素子などの圧力制御手段に電圧パルスを印加することにより潤滑剤20を射出する場合について説明したが、これに限られない。たとえば、潤滑剤タンクの内部にヒータを設け、このヒータを加熱してもよい。ヒータによる加熱で潤滑剤に気泡が発生し、その気泡の圧力によって潤滑剤が射出される。この場合、潤滑剤の温度を制御するためのヒータと潤滑剤を射出するためのヒータとを兼用できて便利である。
流体動圧軸受18の入口空間22に潤滑剤20が必要以上に存在すると、意図しない振動などにより潤滑剤20が漏出する可能性が高くなる。このため、第1および第2の実施の形態に係る製造方法は、潤滑剤20が充填された後に、潤滑剤20を吸い出すためのノズルを潤滑剤20の内部へ挿入し、潤滑剤20の量が所望の量になるまで吸い出す吸い出し工程をさらに含んでもよい。この吸い出し工程では、大気圧のもと、潤滑剤20の量をたとえばレーザセンサなどの測定手段によって測定しながら潤滑剤20が吸い出される。この場合、過剰な潤滑剤20を吸い出すことができ、潤滑剤20が漏れ出す可能性を低減できる。また、吸い出した潤滑剤20を再利用することによりコストを削減できる。
以上説明した第1の実施の形態および第2の実施の形態については、流体動圧軸受18を加熱して作業してもよい。流体動圧軸受18を加熱すると、スリーブ11やスラストリング12が熱膨張し、貯留領域16や入口空間22の容量が一時的に拡大される。その結果、潤滑剤20は貯留領域16の内部へよりスムーズに充填され、作業効率が向上する。
流体動圧軸受18を加熱する温度は、40℃以上120℃以下とされることが望ましい。40℃以上となると、貯留領域16や入口空間22の容量が十分に拡大されるので上述の充填をスムーズに短期間で行うことができる。また、潤滑剤20の温度を120℃以下に保つと、蒸発量の面で有利である。
以上、実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎないことはいうまでもなく、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能であることはいうまでもない。
2 ハブ、 5 ベースプレート、 6 積層コア、 7 コイル、 8 円環状マグネット、 11 スリーブ、 12 スラストリング、 13 シャフト、 14 プレート、 16 貯留領域、 18 流体動圧軸受、 20 潤滑剤、 22 入口空間、 24 ノズル、 26 吐出ノズル、 30a 第1撥油領域、 30b 第2撥油領域、 40 潤滑剤タンク、 41 射出ノズル、 42 液滴、 43 第2マスク治具、 44 第1マスク治具、 100 ブラシレスモータ。

Claims (6)

  1. 潤滑剤が注入されていない流体動圧軸受を所定の作業空間に準備する工程と、
    前記作業空間を減圧する工程と、
    潤滑剤を吐出するノズルを前記流体動圧軸受の潤滑剤を溜める貯留領域の内部に挿入する工程と、
    前記貯留領域からあふれ出ない量であって前記ノズルの先端部分が浸る量の潤滑剤を前記貯留領域に吐出する工程と、
    前記作業空間を復圧する工程と、を含むことを特徴とする流体動圧軸受の製造方法。
  2. 前記吐出する工程において、前記流体動圧軸受を加熱することを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受の製造方法。
  3. 前記復圧する工程の後、潤滑剤を吐出するノズルを前記貯留領域の内部に挿入し、潤滑剤を付加的に吐出する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の流体動圧軸受の製造方法。
  4. 前記潤滑剤を付加的に吐出する工程は、大気圧の下で行われることを特徴とする請求項3に記載の流体動圧軸受の製造方法。
  5. 前記貯留領域の入口の幅は0.1ミリメートル以上0.4ミリメートル以下であり、
    前記ノズルの先端は扁平形状を有し、その短軸方向の幅は前記貯留領域の入口の幅の90%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の流体動圧軸受の製造方法。
  6. 潤滑剤を吸い出すためのノズルを潤滑剤の内部へ挿入し、潤滑剤の量が所定の量になるまで吸い出す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の流体動圧軸受の製造方法。
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