JP4945040B2 - 超音波診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、造影剤を使用したコントラストエコー法による診断が可能な超音波診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法により体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得ることができ、X線診断装置、X線CT装置、MRI診断装置、核医学診断装置などの他の診断装置に比べて、小型で安価、リアルタイム表示が可能、X線などの被爆がなく安全性が高い、血流イメージングが可能等の特長を有している。この様な利便性から、現在では心臓、腹部、泌尿器、および産婦人科などで広く利用されている。
【0003】
この超音波画像診断装置においては、種々の撮影法が存在する。その代表的なものの一つに、コントラストエコー法と称される撮影手法がある。このコントラストエコー法は、被検体の血管内に微小気泡(マイクロバブル)等からなる超音波造影剤を投与することで、超音波散乱エコーの増強を図るものである。
【0004】
また、近年、経静脈的投与が可能な超音波造影剤が開発され、この造影剤に適した撮影方法が開発されている。例えば、フィルタ法(一の走査線につき送信された1回のパルスに基づいて映像化する方法:USP5,678,553)、ドプラ法(一の走査線につき送信された2回以上の同位相パルスに基づいて映像化する方法)、フェーズインバージョン法(一の走査線につき送信された位相反転した2つのパルスに基づいて映像化する方法:USP,5,632,277)、フェーズインバージョンドプラ法(一の走査線につき送信された位相の異なる3つ以上ののパルスに基づいて映像化する方法:USP,6095,980)等である。
【0005】
上記各方法にてコントラストエコー法を行う場合、従来ではMI値を0.5以上とした中音圧或いは高音圧の超音波を送信している。これは、造影剤(バブル)をある程度崩壊させ、染影に寄与させるためである。例えば、一般的に広く利用されているSchering社の造影剤Levovistにおいては、MI値を0.8以上とした高音圧の超音波を送信しないと、適切に染影されない場合がある。
【0006】
このような、高音圧による超音波送信、及びそれによって発生するバブルの崩壊は、映像化に多くの影響を及ぼす。例えば、高音圧の超音波が組織を伝播する場合、ハーモニック成分が発生する。ところが、上述したフィルタ法、フェーズインバージョン法は、この組織からのハーモニック成分(以下、THI成分)と、バブルからのハーモニック成分とを分離することができない。従って、フィルタ法、或いはフェーズインバージョン法にてバブルに基づく表示を行う場合には、コントラストが付きにくく、染影画像の中から血流と実質染影とを区別して表示することは困難である。
【0007】
また、バブルの崩壊は、例えば一の走査線に対し二回以上の超音波を送信した場合、広帯域のエコー信号を発生させる。この広帯域のエコー信号は、疑似ドプラ信号と呼ばれ、基本波の組織及びTHI成分を抑制することで、映像化に利用することができる。
【0008】
しかしながら、疑似ドプラ信号に基づくカラードプラ画像は、無数の折り返し点で構成された細い血管や実質内染影像となってしまい、正しい血流速度を表示した画像にはならない。これは、疑似ドプラ信号は、通常の血流からのドプラ信号とは異なり正しい血流方向を示していないことに起因する。従って、コントラストエコー法では、血流速度を表現するのに良好であるカラードプラ表示を使用することはなく、パワードプラ表示を使用する場合が殆どである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、コントラストエコー法において、正しく血流の方向を表す血流画像を表示することができ、また、血流、実質染影、染影されない組織とを明確に区別可能な超音波画像を表示することができる超音波診断装置を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0011】
請求項1に記載の発明は、造影剤が投与された被検体に対して超音波を送受波する超音波プローブと、機械的指標であるMI値が0.1以下の超音波送波が行われるように前記超音波プローブの駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、前記超音波プローブで受波された超音波エコー信号から、振幅強度に対応するBモード信号を生成するBモード信号生成手段と、前記超音波プローブで受波された超音波エコー信号から、基本波成分を抑圧して高調波成分を抽出した信号を生成する信号抽出手段と、前記信号抽出手段の出力に基づいて、前記被検体内に存在する移動体の速度及びパワーを求める手段と、各画素について、前記Bモード信号値と、流速信号値或いはパワー信号値とを比較して、前記Bモード信号値を使用するか否かを判別する判別手段と、前記判別手段がBモード信号値を使用すると判別した画素については、当該Bモード信号値に基づく輝度にて第1の色を割り当て、前記判別手段がBモード信号値を使用しないと判別した画素については、流速信号値の符号が正でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第2の色及び輝度を、流速信号値の符号が負でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第3の色及び輝度を、パワー信号値が所定の値以下の画素については第4の色及び輝度を、それぞれ流速信号値及びパワー信号値を用いて割り当て、合成画像を生成する画像生成手段と、前記合成画像を表示する画像表示手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
請求項2に記載の発明は、機械的指標であるMI値を0.1以下とした、所定断面に関するBモード信号、流速信号、パワー信号を記憶する記憶手段と、各画素について、前記Bモード信号値と、流速信号値或いはパワー信号値とを比較して、前記Bモード信号値を使用するか否かを判別する判別手段と、前記判別手段がBモード信号値を使用すると判別した画素については、当該Bモード信号に基づく輝度にて第1の色を割り当て、前記判別手段がBモード信号値を使用しないと判別した画素については、流速信号値の符号が正でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第2の色及び輝度を、流速信号値の符号が負でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第3の色及び輝度を、パワー信号値が所定の値以下の画素については第4の色及び輝度を、それぞれ流速信号値及びパワー信号値を用いて割り当て、合成画像を生成する画像生成手段と、前記合成された画像を表示する画像表示手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
【0013】
このような構成によれば、コントラストエコー法において、正しく血流の方向を表す血流画像を表示することができ、また、血流、実質染影、染影されない組織とを明確に区別可能な超音波画像を表示することができる超音波診断装置を実現することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1実施形態〜第5実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置10のブロック構成図を示している。まず、本超音波診断装置10のブロック構成を、図1を参照しながら説明する。
【0016】
本超音波診断装置10は、超音波プローブ13、送信回路15、受信回路17、Bモード処理系19、カラードプラ処理系21、Bモード処理系座標変換メモリ23、カラードプラ処理系座標変換メモリ25、画像合成回路27、制御回路31、表示モニタ33、操作部35を具備している。
【0017】
超音波プローブ13は、圧電セラミック等の音響/電気可逆的変換素子としての圧電振動子を有する。並列され、プローブ13の先端に装備される複数の圧電振動子は、送信回路15から印加された電圧パルスに基づいて超音波を発生する。
【0018】
送信回路15は、パルス発生器、送信遅延回路、パルサを有し、プローブ13に接続される。送信回路15のパルス発生器は、例えば5kHzのレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)でレートパルスを繰り返し発生する。このレートパルスはチャンネル数に分配され、送信遅延回路に送られる。送信遅延回路は、超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間を各レートパルスに与える。なお、送信遅延回路には、図示していないトリガ信号発生器からのトリガがタイミング信号として供給される。パルサは、送信遅延回路からレートパルスを受けたタイミングでプローブ13にチャンネル毎に電圧パルスを印加する。これにより超音波ビームが被検体に送信される。
【0019】
受信回路17は、プリアンプ、A/D変換器、受信遅延回路、加算器を有する。プリアンプは、プローブ13を介して受信回路17に取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。増幅されたエコー信号は、受信遅延回路により受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与えられ、そして加算器で加算される。この加算により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調されたエコー信号(RF信号)が生成される。この受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的な指向性(すなわち、「走査線」)が決定される。
【0020】
Bモード処理系19は、エコーフィルタ19a、検波回路19b、LOG圧縮回路19cを有している。エコーフィルタ19aは、帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)であり、位相検波を行い、所望の周波数帯域の信号を抽出する。検波回路19bは、エコーフィルタ19aから出力されたエコー信号の包絡線を検波し、基本波成分を映像化するBモード像を構成する走査線毎のBモード信号を、後述する内容にて求める。LOG圧縮回路19cは、Bモード検波データに対して対数変換による圧縮処理を施す。
【0021】
カラードプラ処理系21は、CTB(Corner Turning Buffer:)21a、ウォールフィルタ21b、速度・分散・パワー推定回路21cを有している。CTB21aは、入力したカラードプラによるデータ列を一時的に記憶する装置である。CTB21aに記憶されたデータ列は、所定の順番にてウォールフィルタ21bに出力される。ウォールフィルタ21bは、本実施形態においては、基本波成分を高調波成分を分離する目的で使用し、ローパスフィルタの特性を持たせる。詳細は後述する。速度・分散・パワー推定回路21cは、位相の異なる複数のエコー信号に基づいて各信号間の相関を演算し、平均周波数を算出する回路である。この速度・分散・パワー推定回路21cによって、カラードプラにおける血流速度・分散・パワー推定等が算出される。速度・分散・パワー推定回路21cは、抽出された高調波成分に基づいて、パワー像を構成する走査線毎のパワー信号、速度像を構成する走査線毎の速度信号を後述する内容にて推定する。
【0022】
Bモード処理系座標変換メモリ23、カラードプラ処理系座標変換メモリ25は、Bモード処理系19、或いはカラードプラ処理系21から入力した超音波スキャンの走査線信号列を、空間情報に基づいた直交座標系のデータに変換する。
【0023】
画像合成回路27は、座標変換メモリ23、25から入力したそれぞれ画素毎のBモード信号値B、パワー信号値P、速度信号値Vのうち、何れの信号値を表示画像の画素値として採用するかを決定し、決定した信号値の大きさに応じて所定の色及び輝度を割り当てる。この画像合成回路27の構成については、後で詳しく説明する。
【0024】
制御回路31は、システム全体の制御中枢として、本超音波診断装置の動作に関する制御を行う。
【0025】
表示モニタ33は、CRT等からなるモニタであり、入力したビデオ信号に基づいて被検体組織形状を表す断層像を表示する。この表示モニタ33には、画像合成回路27によって生成された、Bモード信号、パワー信号、速度信号からなる合成画像が表示される。
【0026】
操作部35は、装置10に接続され、オペレータからの各種指示・命令・情報を装置本体22にとりこむための、関心領域(ROI)の設定などを行うための入力装置(マウスやトラックボール、モード切替スイッチ、キーボード等)が設けられる。
【0027】
(画像合成回路)
次に、画像合成回路27の構成について詳説する。
【0028】
図2は、画像合成回路27のブロック構成図を示している。図2に示すように、画像合成回路27は、TFDメモリ(Tissue/Flow Decision memory:組織/血流決定メモリ)271、マルチプレクサ272、カラーマップメモリ273を有している。
【0029】
TFDメモリ271は、各画素のBモード信号値B、パワー信号値Pを入力し、所定の関数テーブルに基づいて、B、Pの何れを表示画像の画素値として使用するのかを決定する。決定された画素毎の使用信号値情報は、使用信号値情報として、TFDメモリ271からマルチプレクサ272へと出力される。
【0030】
マルチプレクサ272は、TFDメモリ271によって決定された、画素毎の使用信号値情報に基づいて、画素毎にB信号値、P信号値、V信号値の何れかを選択的に後段の装置に対して出力するスイッチである。
【0031】
カラーマップメモリ273は、信号値毎に割り振られたカラーマップを記憶するメモリである。カラーマップメモリ273は、マルチプレクサ272から入力した画素毎の信号値に応じて所定の色及び輝度を割り当てることで、Bモード信号、パワー信号、速度信号から構成される合成画像を生成し、表示モニタへと出力する。
【0032】
(超音波画像収集・合成・表示処理)
次に、本超音波診断装置10によって実現される超音波画像収集・合成・表示に渡る一連の処理について、図3乃至図9を参照しながら説明する。この一連の処理によって、造影剤を使用して、正しく血流の方向を表す血流画像を表示することができ、また、血流、実質染影、染影されない組織とを明確に区別することができる超音波画像を表示することができる
<超音波画像収集>
超音波画像収集のための超音波走査においては、MI(Mechanical Index:機械的指標)が0.1以下の低音圧の超音波送信しても、比較的大きな反射エコーの二次高調波の信号強度、例えば被検体を診断するのに十分な二次高調波の信号強度が受信可能な造影剤、例えば、Bracco社の造影剤SonoVue 等を使用する。この様な造影剤をMIが0.1以下の低音圧で使用した場合、バブルの崩壊はあまり発生しない。そのため、通常の造影剤と比較した場合、血流方向を正しく示さない疑似ドプラ信号の発生を少なくすることができる。また、組織からのハーモニック成分(THI成分)は、超音波の伝播の非線形によって発生するために、MIが0.1以下の低音圧であれば、THI成分もごくわずかである。従って、反射エコーの高調波成分を用いて、造影剤が血流に乗って移動する方向を正しく反映するバブルからのドプラ信号を取得することができ、これによって正しい血流画像を得ることができる。
【0033】
本実施形態では、ハーモニック成分を映像化するために、フェーズインバージョンドプラ(Phase Inversion Doppler)法を使用する。フェーズインバージョンドプラ法とは、一の走査線につき送信された位相の異なる3つ以上のパルスに基づいて映像化する方法である。このフェーズインバージョンドプラ法を使用するのは、通常のドプラ法(すなわち、パルスの位相を変化させないドプラ法によってエコー信号を収集し、距離方向のフィルタをかけて高調波成分を映像化する方法)と比較して、距離分解能を向上させることができるからである。
【0034】
しかしながら、フェーズインバージョンドプラ法に限定する趣旨ではなく、本超音波診断装置10によれば、上記フィルタ処理によるドプラ法によっても十分な効果を得ることができる。
【0035】
図3は、本超音波診断装置10によって実現される超音波画像収集・合成・表示に渡る一連の処理を説明するためのフローチャートである。図4は、フェーズインバージョンドプラ法を説明するための図である。
【0036】
図3において、まず、超音波造影剤を被検体に注入する(ステップS1)。この造影剤が低MIの低音圧の超音波送信しても、比較的大きな反射エコーの二次高調波の信号強度が受信可能な造影剤であることは、上述した通りである。
【0037】
続いて、所定のパルスシーケンスに従って、位相反転された複数の超音波を被検体に対し照射する(ステップS2)。すなわち、送信回路15は、図4の上段に示すように、一の走査線に対し所定の時間間隔(すなわち、PRF:Pulse Repetition frequency:パルス繰り返し周波数)で、位相を180度づつ変化させて、送信パルスをプローブ13に送信する。プローブ13は、送信パルスに従って被検体に対し超音波を照射する。このとき、例えばMI=0.05に設定する。これにより、THI成分の発生を殆ど抑えることができ、造影剤バブルの崩壊も抑制することができる。従って、疑似ドプラ信号の発生は、僅かである。なお、送信周波数はプローブ帯域の低い部分で行い、2倍の周波数(すなわち、二次高調波成分)がプローブ特性の中心に来るようにする。
【0038】
続いて、プローブ13から被検体からのエコー信号を受信し、受信回路17で整相加算処理を行ってRF信号を生成し、当該RF信号をベースバンドのI信号及びQ信号に変換する(ステップS3)。このI信号及びQ信号は、それぞれBモード処理系19及びカラードプラ処理系21に出力される。
【0039】
カラードプラ処理系21では、I信号及びQ信号がCTB21bに一旦格納され、同方向のビームとして取り出され、ウォールフィルタ21bに出力される。ウォールフィルタ21bでは、図4中段に示すように、LPF(Low Pass Filter:ローパスフィルタ)をかけることにより、基本波信号を抑制し高調波成分を抽出する。速度・分散・パワー推定回路21cは、抽出された高調波成分に基づいて、パワー像を構成する走査線毎のパワー信号、速度像を構成する走査線毎の速度信号を以下の様にして推定する(図4下段参照)。
【0040】
すなわち、ウォールフィルタ21bのLPFの係数を例えば[0.5, 1.0, 0.5]とし、一の走査線について送信される位相反転された4回の超音波信号の所定深さでの値をa0,a1,a2,a3とすれば、当該所定深さでのパワー信号値P及び速度信号値Vは次の式にて求められる。
【0041】
P={|b0|2+|b1|2}/2 (1)
V=tan−1c (2)
ただし、
b0=0.5a0+a1+0.5a2
b1=0.5a1+a2+0.5a3
c=b0 *b1 b0 *はb0の複素共役
また、Bモード処理系19では、基本波成分を映像化するBモード像を構成する走査線毎のBモード信号を求める(図4下段参照)。Bモード信号を求めるには、1回の受信信号で十分であるが、以下のようにすることで、Bモード信号のS/N比を上げることができる。すなわち、上記と同様に、一の走査線について送信される位相反転された4回の超音波信号の所定深さでの値をa0,a1,a2,a3とすれば、当該所定深さでのBモード信号値Bは次のようにして求められる。
【0042】
B={|a0|2+|a1|2+|a2|2+|a3|2}/4 (3)
こうして得られたBモード信号、パワー信号、速度信号は、対数圧縮され、後段の装置に出力されることが好ましい。速度信号に対する対数圧縮処理は一般的ではないが、この対数圧縮は、折り返し速度が高いため、或いは低流速は低速の血流バブルと組織内とを識別するために重要だからである。具体的には、式(1)乃至式(3)にて計算された各信号B、Pの各値に対して、対数圧縮を取った後8ビット長にした値を使用する。また、信号Vに対しては、次の計算にて対数圧縮を行う。
【0043】
V1=(127/6)log2(|V0|) (4)
ただし、V1<0の場合には、V1=0とする。また、V=sign(V0)*V1とする。ここで、V=sign(V0)は、V0の正負により、1又は−1を出力する符号関数である。
【0044】
以上ステップS1乃至ステップS4までの処理で、具体的な数値の一例を挙げると次の様である。例えば、送信周波数=1.5MHz、受信中心周波数3MHz、PRF=5kHzとすると、基本波中心周波数(1.5MHz)での折り返し速度は128cm/s、二次高調波の中心周波数(3MHz)での折り返し速度は64cm/sとなる。この流速であれば、腹部の血流では、まず折り返しは生じないと考えられる。また、折り返し速度を64cm/sとすると式(4)に従えばV=127であり、V=64は8cm/s、1cm/s以下ではV=0となる。
【0045】
なお、ウォールフィルタのLPF特性を[0.5, 1.0, 0.5]としてるのは、基本波のクラッタを出来るだけ抑制するためである。基本波のクラッタを除去するのは、次の理由による。すなわち、基本波のクラッタ信号は、通常図5に示すように±PFR/2付近に出現する。また、腹部でのクラッタ速度は0.4cm/s以下であるが、その振幅は大きいものとなる。そのため、広い受信周波数帯域や、少ないデータ列の数(本実施形態では4)で超音波走査を行う場合、ドプラスペクトラムが広がるというスペクトラムブロードニングの影響を受けて、クラッタ速度がそれ以上に広がってしまうことがある。基本波のクラッタの消え残りは、画像生成に悪い影響を及ぼす。基本波のドプラシフトがπずれていることから、二次高調波信号の折り返し流速の速い信号と見なされる場合があるからである。2つのデータを用いたフェースインバージョン法では、この基本波の動きによるクラッタの影響を受けやすい。しかし、本法では、3データを用いた[0.5, 1.0, 0.5]を使用することにより、この影響をかなり低減することが可能である。さらに、受信回路17において、距離方向に基本波を抑制するフィルタをかけることで、基本波のクラッタの影響をより完全に除去することができる。
【0046】
また、本実施形態では、音圧が小さい超音波送信を行うので、二次高調波信号中に含まれるTHI成分はごく僅かである。そのために、フェーズインバージョン法を行わない、通常のドプラで問題となるクラッタ(基本波のクラッタ、及びTHIのクラッタ)によるモーションアーチファクトや、クラッタの影響により平均流速が低い方に引っ張られるような心配がない。従って、かなり低い速度まで正確に測定することが可能である。
【0047】
(画像合成処理)
次に、画像合成処理について説明する。
【0048】
まず、図3ステップS6において、画素毎の信号値Bと信号値Pとに基づいて、画素値に信号値Bを使用するか、或いは信号値P及び信号値Vを使用するかの決定を行う(ステップS6)。この決定は、例えば図6に示す関数テーブルに従って、例えば次のように定性的に実行される。すなわち、図6に示す関数テーブルにおいて、所定の画素のPがかなり小さい(P<第1の閾値Th1)場合には、Bを当該画素の画素値として使用することする。この様にBを優先的に表示するのは、P<Th1の場合、Pはノイズであることが多いからである。一方、P≧第1の閾値Th1の場合には、Pは血流情報を反映しているから、P及びVを優先的に表示する。
【0049】
なお、関数テーブルに設定する閾値は、BとPとの値を比較していずれかを選択可能であれば、必ずしも固定値である必要はない。例えば、図6に示した関数テーブルは、3つの一次関数によって定義されている。
【0050】
なお、こうして決定された、画素毎の使用信号値情報は、マルチプレクサ272に出力される。マルチプレクサ272は、入力した情報に従って、画素毎に信号値B、或いは信号値P及び信号値Vを選択的にカラーマップメモリ273に出力する。
【0051】
次に、カラーマップメモリ273にて、画素毎の色付けを行う(ステップS7)。画素毎の色付けは、例えば次のようにして実行される。すなわち、信号値Bを使用する画素については、Red=Green=Blue=Bの値(0〜255)というグレースケールの色づけを行う。一方、信号値P及び信号値Vを使用する画素については、図7に示すように、P及びVの値によって4つの領域に分けて、当該画素の信号値V及びPの大きさによって変化させた色付けを行う。以下、P=0〜255、V=−128〜127の範囲を取るものとして色付けの一例を示す。
【0052】
領域A
(P>320−2*|V|かつV≧0の場合) 赤系の色付け
Red=min(1.12*P, 255)
Green=Blue=0.98*P
領域B
(P>320−2*|V|かつV<0の場合) 青系の色付け
Blue=min(1.12*P, 255)
Red=Blue=0.98*P
領域C
(P<320−2*|V|かつV≧0の場合) 赤系〜緑系の色付け
R1=min(1.12*P, 255)
G1=B1=0.98*P
R2=B2=0.9*P
G2=min(P*1.25, 255)
a=|V|/(160−P/2)
Red=a*R1+(1−a)*R2
Green=a*G1+(1−a)*G2
Blue=a*B1+(1−a)*B2
領域D
(P<320−2*|V|かつV<0の場合) 青系〜緑系の色付け
B1=min(1.12*P, 255)
R1=G1=0.98*P
R2=B2=0.9*P
G2=min(P*1.25, 255)
a=|V|/(160−P/2)
Red=a*R1+(1−a)*R2
Green=a*G1+(1−a)*G2
Blue=a*B1+(1−a)*B2
この様な色付けを行うことにより、被検体の各生体情報は、次のような色及び輝度が割り当てられ、図8に示す形態にて表示される。
【0053】
(1)動脈のように流速が速い血液を流れるバブルは、方向により赤系又は青系の色付けとなる。
【0054】
(2)静脈系の遅い血流を流れるバブルは、緑系の色付けとなる。
【0055】
(3)組織内のバブルは、流速が遅くかつパワーが小さいので、暗い緑色の色付けになる。
【0056】
(4)染影されない組織は、グレースケール(灰色)の色付けである。
【0057】
これらの4種の色付け(すなわち、赤、青、緑、灰)は連続して変化しているので、境界は滑らかであり、最終的には観察者が血管の染影時相や連続性を考慮して決定できる。
【0058】
また、基本波のクラッタが消え残った場合には、図5から明らかなように、ナイキスト流速付近の速い速度になる。LPFでかなり抑圧されているので、パワーは小さい。このように、ナイキスト流速付近の小さいパワー値の場合には、グレースケールに近い階調で表示することで、パワー表示でありながら、観察者にBモードによる組織像表示として観測することができる。
【0059】
(画像表示処理)
次に、画像合成回路27においてB、P、Vの各信号が合成された合成画像を、表示モニタ33に表示する(ステップS8)。こうして、観察者は当該合成画像を観察することができる。
【0060】
以上述べたステップS1からステップS8までの一連の処理は、診断時においてリアルタイムで逐次繰り替えされる。これにより、観察者は、表示モニタ33にて例えば次のような形態にて超音波画像をリアルタイムで観察することができる。
【0061】
図9(a)乃至(e)は、観察者が表示モニタ33にて観察しうる合成画像(肝臓の例)を説明するための図である。まず、図9(a)に示すように、造影剤投与前は造影効果がないことから、信号値Pは非常に小さいので、各画素の画素値として信号値Bが使用され、Bモード像のみ表示される。
【0062】
図9(b)は、造影剤投与から例えば5乃至10秒経過し、主に大きな血管が赤又は青の色付けで染影された超音波画像を示している(同図中右上がり及び右下がり斜線領域は、染影された血流を表す。上記色の割り当てに従えば、同図中右上がり斜線領域は赤色に色付けされ、右下がり斜線領域は青色に色付けされる。以下同様。)。
【0063】
図9(c)は、造影剤投与から例えば10乃至30秒経過し、毛細血管にまで造影剤が流入し、組織(実質)全体が染影された超音波画像を示している(同図中ドット領域が染影された実質を表す。上記色の割り当てに従えば、当該領域は緑色に色付けされる。以下同様。)。なお、横隔膜等の造影剤流入がない部分は、Bモード像にて表示される。
【0064】
図9(d)は、造影剤投与から例えば30乃至300秒程度経過し、次第に血流の染影が消えていく超音波画像を示している。
【0065】
図9(e)は、造影剤投与から例えば5分以上経過し、脾臓や肝臓等の造影剤が残留しやすい実質が染影された超音波画像を示している。
【0066】
このように、コントラストエコー法において、経時的なバブルの変化をBモード信号、パワー信号、速度信号の合成画像で映像化できるのは、本超音波診断装置の顕著な効果の一つである。
【0067】
以上述べた構成によれば、さらに以下の効果を得ることができる。
【0068】
本超音波診断装置10では、第2次高調波信号に対して静止している信号を抑圧する処理を行っていない。従って、ウォールフィルタによる流速依存の影響を受けずに、低流速まで精度良く計算することが可能である。本超音波診断装置10による撮影手法によれば、処理を簡略化することが可能となる。
【0069】
本超音波診断装置10では、コントラストエコー法において、血流情報が有効な部位においては、選択的にパワー信号、血流信号に基づいて超音波画像を生成する。従って、正しく血流の方向を表す血流画像を表示することができる。また、実質(組織)についても、信号値の強度によって色の割り当てを行うから、血流、実質染影、染影されない組織とを明確に区別可能な超音波画像を表示することができる。
【0070】
(第2の実施形態)
第1の実施形態においては、Bモード系とカラードプラ系とで同じ送信パルスを使用した。これに対し第2の実施形態では、Bモード系でとカラードプラ系とで異なる送信パルスを使用する。すなわち、Bモード系については基本波を映像化するのに適した送信周波数にてパルスを送信し、一方、カラードプラ系についてはハーモニックイメージングに適した送信周波数にてパルスを送信する。
【0071】
この様に、Bモード系でとカラードプラ系とで最適な周波数を有する送信パルスを使用することで、さらに画質を向上させることができる。
【0072】
(第3の実施形態)
第1の実施形態においては、組織を見るためのBモード像と、血流を見るためにパワー像、速度像とを合成して表示した。しかし、組織を映像化するためには、Bモードの使用は必須ではない。なぜなら、THI成分がわずかながら存在するために、ハーモニック成分で組織が見えたり、送信パルスの正負のわずかな非対称性のために、基本波成分で組織を見ることができるからである。
【0073】
なお、これらの振幅は小さいので、画像としては暗く表示される場合がある。しかし、実質染影を観察する場合には、逆に好都合であることが多い。
【0074】
このBモードの表示/非表示は、例えば上記第1及び第2の実施形態において、所定のスイッチによりマニュアル操作できることが好ましい。
【0075】
(第4の実施形態)
第1乃至第3の実施形態では、基本波を利用してBモード像を生成した。これに対し、第4の実施形態では、第2次高調波を利用してBモード像を生成する。
【0076】
すなわち、式(1)乃至式(3)において、Bモード像用の信号として、P信号と同じ信号、或いは|a0+a1+a2+a3|という信号を用いる。カラードプラ系と同じ情報を使用した場合でも、合成の際に実質染影をBモード系の画像を使用した場合、より高分解能、高感度に表示することができる。一般的に、Bモード系は、カラードプラ系に比して分解能、ダイナミックレンジが高い場合が多いからである。
【0077】
また、カラードプラ系と異なる信号を用いた場合には、別の情報を付加することができる。例えば、|a0+a1+a2+a3|という信号であれば、[1,1,1,1]というLPFのウォールフィルタをかけたことになる。これは、[0.5,1,0.5]というLPFよりもカットオフ周波数が低いから、高流速や基本波をより抑圧することができ、実質染影を表示する場合に適した画像となる。
【0078】
(第5の実施形態)
第1乃至第4の実施形態では、二次元カラードプラのスキャン及び表示を行った。第5の実施形態では、二次元カラードプラに換えて、パルスドプラを使用する。
【0079】
同一ラスタ上のある点に関してパルスドプラのスキャンを行う場合、各送信毎にパルスの極性を変化させる。そして、LPFのウォールフィルタをかける。MI値は0.1以下として造影剤を注入する。こうすることで、低流速の実質染影のドプラ、血流染影のドプラをFFT解析した結果を表示することが可能である。
【0080】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変形例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば以下に示すように、その要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
【0081】
上記実施形態では、図3ステップS6において、例えば図6に示す信号値Bと信号値Pとによって定義される関数テーブルに従って、画素値として信号値Bを使用するか信号値Pを使用するかの決定を画素毎に行った。これに対し、信号値Bと信号値Vとによって定義される関数テーブル、或いは信号値Bと信号値P及び信号値Vとから定義される関数テーブルにより、画素値として使用する信号値の決定を行ってもよい。
【0082】
第1の実施形態において、高調波を得る方法として、フェーズインバージョンドプラ法を用いた。しかし、距離方向のフィルタにより高調波信号を得る方法でも同様な効果を得ることが可能である。フェーズインバージョンドプラ法の送信方法として、上記実施形態では、位相の180°異なるパルスを使用したが、USP6,155,981に示されるように、180°以外の位相変化を与える送信と、その送信に対応して所望の高調波を得るためのウォールフィルタとを使用する構成によっても、高調波信号を得ることもできる。
【0083】
また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0084】
【発明の効果】
以上本発明によれば、コントラストエコー法において、正しく血流の方向を表す血流画像を表示することができ、また、血流、実質染影、染影されない組織とを明確に区別可能な超音波画像を表示する超音波診断装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本実施形態に係る超音波診断装置10のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、画像合成回路27のブロック構成図を示している。
【図3】図3は、本超音波診断装置10によって実現される超音波画像収集・合成・表示に渡る一連の処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、フェーズインバージョンドプラ法を説明するための図である。
【図5】図5は、ドプラ周波数から見た信号のスペクトラム分布をしめした図である。
【図6】図6は、画像合成処理に使用される関数テーブルの一例を示している。
【図7】図7は、画像合成処理に使用されるカラーマップの一例を示している。
【図8】図8は、画像合成処理に使用されるカラーマップの一例を示している。
【図9】図9(a)乃至(e)は、本超音波診断装置10によって生成された、観察者が表示モニタ33にて観察しうる合成画像(心臓)を説明するための図である。
【符号の説明】
10…超音波診断装置
13…超音波プローブ
15…送信回路
17…受信回路
19…Bモード処理系
19a…エコーフィルタ
19b…検波回路
19c…LOG圧縮回路
21…カラードプラ処理系
21a…CTB
21b…ウォールフィルタ
21c…速度・分散・パワー推定回路
23…Bモード処理系座標変換メモリ
25…カラードプラ処理系座標変換メモリ
27…画像合成回路
31…制御回路
33…表示モニタ
35…操作部
271…TFDメモリ
272…マルチプレクサ
273…カラーマップメモリ
Claims (3)
- 造影剤が投与された被検体に対して超音波を送受波する超音波プローブと、
機械的指標であるMI値が0.1以下の超音波送波が行われるように前記超音波プローブの駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、
前記超音波プローブで受波された超音波エコー信号から、振幅強度に対応するBモード信号を生成するBモード信号生成手段と、
前記超音波プローブで受波された超音波エコー信号から、基本波成分を抑圧して高調波成分を抽出した信号を生成する信号抽出手段と、
前記信号抽出手段の出力に基づいて、前記被検体内に存在する移動体の速度及びパワーを求める手段と、
各画素について、前記Bモード信号値と、流速信号値或いはパワー信号値とを比較して、前記Bモード信号値を使用するか否かを判別する判別手段と、
前記判別手段がBモード信号値を使用すると判別した画素については、当該Bモード信号値に基づく輝度にて第1の色を割り当て、前記判別手段がBモード信号値を使用しないと判別した画素については、流速信号値の符号が正でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第2の色及び輝度を、流速信号値の符号が負でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第3の色及び輝度を、パワー信号値が所定の値以下の画素については第4の色及び輝度を、それぞれ流速信号値及びパワー信号値を用いて割り当て、合成画像を生成する画像生成手段と、
前記合成画像を表示する画像表示手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。 - 機械的指標であるMI値を0.1以下とした、所定断面に関するBモード信号、流速信号、パワー信号を記憶する記憶手段と、
各画素について、前記Bモード信号値と、流速信号値或いはパワー信号値とを比較して、前記Bモード信号値を使用するか否かを判別する判別手段と、
前記判別手段がBモード信号値を使用すると判別した画素については、当該Bモード信号に基づく輝度にて第1の色を割り当て、前記判別手段がBモード信号値を使用しないと判別した画素については、流速信号値の符号が正でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第2の色及び輝度を、流速信号値の符号が負でありパワー信号値が所定の値以上の画素については第3の色及び輝度を、パワー信号値が所定の値以下の画素については第4の色及び輝度を、それぞれ流速信号値及びパワー信号値を用いて割り当て、合成画像を生成する画像生成手段と、
前記合成された画像を表示する画像表示手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。 - 前記判別手段は、Bモード信号と血流信号とによって定義された関数テーブル、Bモード信号とパワー信号とによって定義された関数テーブル、Bモード信号と血流信号及びパワー信号とによって定義された関数テーブルのうちの何れかに基づいて、前記判別を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
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