以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(実施形態)を説明する。
(第1の実施形態)
図1〜31を参照して、本発明に係るパノラマ画像撮影装置の第1の実施形態を説明する。
図1に、この実施形態に係るパノラマ画像撮影装置1の外観を示す。同図に示すように、このパノラマ画像撮影装置1は、被験者(患者)Pからパノラマ画像生成のためのグレイレベルの原画像データを例えば被験者の立位の姿勢で収集する筐体11と、この筐体11が行うデータの収集を制御し、その収集したデータを取り込んでパノラマ画像を生成し、かつ、操作者(医師、技師)との間でインターラクティブにパノラマ画像の後処理を行うための、コンピュータで構成される制御・演算装置12とを備える。
筐体11は、スタンド部13と、このスタンド部13に対して上下動可能な撮影部14とを備える。スタンド部13は、床上に固定して置かれるベース21と、このベース21に立設された支柱部22とを備える。この支柱部22は、本実施形態にあっては、角柱状に形成されており、その側面の1つに、撮影部14が所定範囲で上下動可能に取り付けられている。
ここで、説明の便宜のため、支柱部22の長手方向、すなわち上下方向をZ軸とするXYZ直交座標系を設定する。なお、後述する2次元のパノラマ画像については、その横方向をx軸、縦方向をy軸と表記する。
撮影部14は、側面からみて、略コ字状を成す上下動ユニット23と、この上下動ユニット23に回転(回動)可能に支持された回転ユニット24とを備える。上下動ユニット23は、支柱部22の内部に設置された駆動機構31(例えば、モータ及びラック&ピニオン)を介して、高さ方向の所定範囲に渡ってZ軸方向(縦方向)に移動可能になっている。この移動のための指令が、制御・演算装置12から駆動機構31に出される。
上下動ユニット23は、前述したように、その一方の側面からみて略コ字状を成し、上下それぞれの側の上側アーム23A及び下側アーム23Bと、その上側、下側アーム23A,23Bを繋ぐ縦アーム23Cとが一体に形成されている。縦アーム23Cが、前述した支柱部22に上下動可能に支持されている。このアーム23A〜23Cのうち、上側アーム23Aと縦アーム23Cとが協働し内部空間を画成している。上側アーム23Aの内部には、回転駆動用の回転駆動機構30(例えば、電動モータ及び減速ギヤなど)が設置されている。この回転駆動機構30は、制御・演算装置12から回転駆動用の指令を受ける。回転駆動機構30の出力軸、すなわち電動モータの回転軸は、上側アーム23Aから下側(Z軸方向下側)に突出するように配置されており、この回転軸に、回転ユニット24が回転可能に結合されている。つまり、回転ユニット24は、上下動ユニット23に垂下されており、回転駆動機構30の駆動に付勢されて回転する。
一方、下側アーム23Bは、上側アーム23Aと同一方向に所定長さを有して延設されており、その先端部にチンレスト25が形成されている。このチンレスト25には、マウスピース26が着脱自在に取り付けられる。このマウスピース26を、被験者Pが咥える。このため、チンレスト25及びマウスピース26が被験者Pの口腔部の固定機能を果たす。
回転ユニット24は、その使用状態において、その一方の側面からみて略コ字状に形成された外観を有し、その開放端側を下側に向けて回転自在に上側アーム23Aのモータ出力軸に取り付けられている。詳しくは、横方向、すなわちXY平面内で略平行に回転(回動)する横アーム24Aと、この横アーム24Aの両端部から下方(Z軸方向)に伸びた左右の縦アーム(第1の縦アーム、第2の縦アーム)24B,24Cとを一体に備える。この横アーム24及び左右の第1、第2アーム24B,24Cはデータ収集に重要な役割を担っており、そのために必要な機構、部品は、それらのアーム24A〜24Cが画成する内部空間に装備されており、制御・演算装置12の制御下で駆動及び動作するようになっている。
具体的には、第1の縦アーム24Bの内部の下端部に放射線源としてのX線管31が装備されており、その出射窓からX線を第2の縦アーム24Cに向けて曝射可能になっている。一方、第2の縦アーム24Cの内部の下端部に放射線検出手段としての、X線検出素子を2次元スリット状(例えば、64×1500のマトリクス状)に配置したデジタル形X線検出器32が装備されており、この入射窓から入射するX線を検出する。この検出器32は、一例として、CdTeライン検出器(例えば、横6.4mm×縦150mm)で構成されている。この検出器32は、その縦方向をZ軸方向に一致させて縦方向に配置される。この検出器32の入射口IWには、検出器32への散乱X線を遮断して入射X線を実際の収集用の窓(例えば3.5mm幅の窓;したがって、検出器32の横方向の有効幅は約3.5mm)に絞るスリット状のコリメータ33(検出器32の入射面32Aに対応する)が装着されている。これにより、例えば300fpsのフレームレート(1フレームは、例えば、64×1500画素)で入射X線を、当該X線の量に応じたデジタル電気量の画像データとして収集することができる。以下、この収集データを「フレームデータ」と呼ぶ(原フレームデータとも呼ばれる)。
このため、撮影時には、X線管31及び検出器32の対は、被験者Pの口腔部を挟んで互いに対峙するように位置し、その対毎、一体に口腔部の周りを回転するように駆動される。このとき、X線管31及び検出器32の対は、口腔部の歯列に沿った所望断面(正確には、後述する標準面(標準断層面))に所定の焦点を合わせて且つその標準面を追従するように回転駆動される。この標準面をZ軸方向から見たときの形状は、略馬蹄形を成す。この標準面に追従する際、X線管31及び検出器32は必ずしも同一の角速度で回転するわけではなく、上位概念としては「円弧に沿った移動」とも呼ぶことができる回転になっている。なお、標準面は検出器32の検出面32A(図2参照)に平行な面となる。本実施形態では、検出面32AはZ軸方向と一致するように位置決めされている。
図2に、このパノラマ画像撮影装置の制御及び処理のための電気的なブロック図を示す。同図に示す如く、X線管31は高電圧発生器41及び通信ライン42を介して制御・演算装置12に接続され、検出器32は通信ライン43を介して制御・演算装置12に接続されている。高電圧発生器41は、支柱部22、上下動ユニット23、又は回転ユニット24に備えられ、制御・演算装置12からの制御信号により、X線管31に対する管電流及び管電圧などのX線曝射条件、並びに、曝射タイミングのシーケンスに応じて制御される。
制御・演算装置12は、例えば大量の画像データを扱うため、大容量の画像データを格納可能な、例えばパーソナルコンピュータで構成される。つまり、制御・演算装置12は、その主要な構成要素して、内部バス50を介して相互に通信可能に接続されたインターフェース51,52,62、バッファメモリ53、画像メモリ54、フレームメモリ55、画像プロセッサ56、コントローラ(CPU)57、及びD/A変換器59を備える。コントローラ57には操作器58が通信可能に接続され、また、D/A変換器59はモニタ60にも接続されている。
このうち、インターフェース51,52はそれぞれ高電圧発生器41、検出器32に接続されており、コントローラ57と高電圧発生器41、検出器32との間で交わされる制御情報や収集データの通信を媒介する。また、別のインターフェース62は、内部バス50と通信ラインとを結ぶもので、コントローラ57が外部の装置と通信可能になっている。これにより、コントローラ57は、外部に在る口内X線撮影装置により撮影された口内画像をも取り込めるとともに、本撮影装置で撮影したパノラマ画像やその画像に基づく焦点最適化画像(後述する)を例えばDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)規格により外部のサーバに送出できるようになっている。
バッファメモリ53は、インターフェース52を介して受信した、検出器32からのデジタル量のフレームデータを一時的に記憶する。
また、画像プロセッサ56は、コントローラ57の制御下に置かれ、患者の歯列に沿った標準面のパノラマ画像の生成及びそのパノラマ画像の後利用のための処理を操作者との間でインターラクティブに実行する機能を有する。この機能を実現するためのプログラムは、ROM61に予め格納されている。この標準面は、本実施形態では、予め用意した複数の断層面から選択された断層面である。つまり、この標準面の位置は、歯列の奥行き方向の一定範囲で変更可能になっている。このパノラマ画像の生成及び読影のための後処理は、このパノラマ画像撮影装置の特徴の中核を成すものの1つであるので、後で項を分けて詳述する。
画像プロセッサ56により処理される又は処理途中のフレームデータ及び画像データは画像メモリ54に読出し書込み可能に格納される。画像メモリ54には、例えばハードディスクなどの大容量の記録媒体(不揮発性且つ読出し書込み可能)が使用される。また、フレームメモリ55は、生成されたパノラマ画像データ、及び/又は、後処理されたパノラマ画像データを表示するために使用される。フレームメモリ55に記憶される画像データは、所定周期でD/A変換器59に呼び出されてアナログ信号に変換され、モニタ60の画面に表示される。
コントローラ57は、ROM61に予め格納されている制御及び処理の全体を担うプログラムに沿って、装置の構成要素の全体の動作を制御する。かかるプログラムは、操作者から所定事項についてインターラクティブに操作情報を受け付けるように設定されている。このため、コントローラ57は、後述するように、標準面のパノラマ画像の生成、及び、そのパノラマ画像の焦点最適化(すなわち画像のボケをより減らす処理)を担う再構成に必要なパラメータ(後述するゲイン)の設定、フレームデータの収集(スキャン)、操作器58から出力される、操作者の操作情報を加味してインターラクティブに制御可能になっている。
このため、患者は、図1に示すように、立位又は座位の姿勢でチンレスト25の位置に顎を置いてマウスピース26を咥えるともに、ヘッドレスト28に額を押し当てる。これにより、患者の頭部(顎部)の位置が回転ユニット24の回転空間のほぼ中央部で固定される。この状態で、コントローラ57の制御の元、回転ユニット24が患者頭部の周りをXY面に沿って、及び/又は、XY面にオブリークな面に沿って回転する(図1中の矢印参照)。
この回転の最中に、コントローラ57からの制御の元で、高電圧発生器41が所定周期のパルスモードで曝射用の高電圧(指定された管電圧及び管電流)をX線管31に供給し、X線管31をパルスモードで駆動する。これにより、X線管31から所定周期でパルス状X線が曝射される。このX線は、撮影位置に位置する患者の顎部(歯列部分)を透過してラインセンサ形の検出器32に入射する。検出器32は、前述したように、非常に高速のフレームレート(例えば300fps)で入射X線を検出し、対応する電気量の2次元のデジタルデータ(例えば64×1500画素)として順次出力する。このデジタルデータは前述したフレームデータとして扱われ、通信ライン43を介して、制御・演算装置12のインターフェース52を介してバッファメモリ53に一時的に保管される。この一時保管されたフレームデータは、その後、画像メモリ53に転送されて保管される。
このため、画像プロセッサ56は、画像メモリ53に保管されたフレームデータを用いた再構成により歯列に沿った標準面に沿ったパノラマ画像を生成するとともに、そのパノラマ画像上で指定される関心領域(ROI)を成すフレームデータを用いた再構成により焦点最適化画像を生成する。ここで付言したきは、パノラマ画像そのものも焦点を最適化しようとの意図を以って生成する標準面の全体の断面像である。しかしながら、実際には、被検体それぞれの歯列の形状に違いがあるため、標準面だけでは個々の領域について焦点ボケが最も少ない(焦点が一番合った、すなわち焦点が最適化された)画像を得ることは難しい。このため、本実施例形態では、標準面のパノラマ画像(少なくとも歯列全体をカバーする断面像)をベースにして、内部構造をより明瞭に(ボケの少ない、焦点の合った)示す断面像を得るための再構成を行なう。この後付けの再構成は通常、ベースとなるパノラマ画像の一部の領域を対象にすることが多く、この一部領域の断面像をここでは焦点最適化画像と呼ぶ。
このようにパノラマ画像の生成及び焦点最適化画像の生成は共に再構成と呼ばれる処理を伴う。この再構成は後で詳述するが、簡単には、フレームデータ(画素値)を互いに重ね合わせて加算する処理である。なお、パノラマ画像上に設定される関心領域は、通常、パノラマ画像の一部を成す局地領域として当該パノラマ画像上に指定されるが、パノラマ画像全体を関心領域として設定することも可能である。勿論、焦点最適化画像は医師などが欲した場合に生成される。
パノラマ画像及び/又は焦点最適化像は、そのデータが画像メモリ54に保管されるともに、適宜な態様で、モニタ60に表示される。このうち、少なくとも、標準面の選択、関心領域の設定、断面位置の変更、表示態様などについて、操作器58から与える操作者の意思が反映される。
このパノラマ画像撮影装置1を用いたパノラマ画像の撮影及び読影は、大略、上述のようであるが、標準面のパノラマ画像及び指定領域の焦点最適化画像の生成には、「ゲイン」と呼ばれる考え方が導入されている。この「ゲイン」は、本実施形態にあっては、事前にキャリブレーションにより設定されており、そのゲインデータがルックアップテーブルLUTとして予め画像メモリ54の所定領域に格納されている。
そこで、上述した「ゲイン」の考え方及び「ファントムを用いたゲインの設定」を含めて、このパノラマ画像撮影装置1で実行される歯列全体のパノラマ画像の生成及び指定領域の焦点最適化画像の生成に必要な事項をその項目毎に詳述する。
(ゲインの考え方)
このパノラマ画像撮影装置1では、指定(又は、後述するように選択)された歯列に沿った標準面(所望断層面)のパノラマ画像は、高速(例えば300fps)に収集されたフレームデータ(細長い2次元のスリット状で、実際には、ライン状と見做すX線透過データのセット)を、位置をずらしながら相互に重ね合わせて加算することで生成される。この重ね合わせ加算が「再構成」の中核を成す処理である。つまり、重ね合わせ加算により画素値の濃淡の程度差が強まって、構造物(歯、歯茎など)がその他の部位よりも高い濃度で描出されることを利用している。ここでは、複数セットのフレームデータを相互に重ね合わせ加算するときに、それぞれのセットのフレームデータをどの程度位置をずらせて重ねるかという「重ね合わせの程度を示す量」をゲインと呼んでいる。
このゲインが小さいときには重ね合わせの程度が密であり、ゲインが大きいときには重ね合わせの程度が粗になる。このフレームデータの重ね合わせの様子を図12中の(A)(B)に模式的に示す。同図(A)はゲインが小さいとき、同図(B)はゲインが大きいときの重ね合わせを夫々示す。このように、ゲインの大小に伴う重ね合わせの程度(粗密)概念は、通常の電気回路のそれとは反対になる。これは、後述するように、フレームデータを横軸とし且つメモリ空間上でフレームデータ同士を相互に加算する位置(写像位置、すなわち、再構成されたパノラマ画像の画素位置)を横軸とした座標上のカーブ(スピードカーブと呼ばれる)の「傾きに相当する」ことに因る。このスピードカーブについては、後述する。
さらに、上述のように、ゲイン、つまりフレームデータの重ね合わせ量を加減すると、画像濃淡が生成する画像間で変わる。つまり、再構成す断面を変えていくと、そのままでは濃淡が画像間で変わり、読影し難くなる。このため、使用するゲインに比例又は正比例した係数を再構成画像の画素値に掛けて、画像間で見かけ上の濃淡を同じすることが必要である。
このゲインの一例を、簡単化した図3のモデルを用いて説明する。同図に示すように、X線管31と検出器32が、互いのオブジェクトOB(患者の顎部の歯列)に対する距離D1とD2(それぞれ、歯列の各点においてスキャン中のX線管と検出器とを結ぶ直線に沿った方向(以下、奥行き方向と呼ぶ)の距離)の相対的な比を一定に保持し且つ相対的な動作速度をある値に保持して動くと、オブジェクトOBがぼけない(つまり焦点が合っている)フレームデータの重ね合わせの量(ゲイン)が決まる。
換言すれば、上述のようにスキャンすると、相対的な動作速度とゲインとで焦点面(焦点が合った連続する断面)が確定する。この焦点面は、距離D1,D2の比に対応するので、焦点面は各奥行き方向において検出器32から平行移動した面に位置する。
一般的には、ゲインが小さくなるほど、焦点位置は各奥行き方向DdpにおいてX線管31により近くなり、ゲインが大きくなるほど、焦点位置は各奥行き方向DdpにおいてX線管31から遠ざかる。このため、奥行き方向それぞれにおけるX線管31と検出器32との距離間隔が定量的に分かるファントム(後述する)を用いて、ゲインをいくらにすれば焦点が合うのかという定量的な計測(設定)を、奥行き方向それぞれに沿った直線上の各位置について事前に行なっておく。つまり、各位置(標準面からの各距離)とゲインとの関係を事前に計測して、その関係情報を例えば前述したようにルックアップテーブルLUTとして持っておけばよい。
この事前計測のためのスキャンは、チンレスト25の位置にファントムを置いてX線管31と検出器32の対を回転させて行うが、この回転の軌跡及び速度は、被験者Pに対する実際の撮影(スキャン)のそれと同一に設定される。
また、ゲインの特性から、縦方向、すなわち検出器32の検出面32A(X線が入射する面:図2参照)に平行な方向(Z軸方向)のゲインは、XY面の位置毎に一定である。すなわち、検出器32がある位置に在るときの、その検出器32を通る奥行き方向の(XY面の)各位置のゲインは、位置毎には異なるが、その位置を通る検出面32と平行な方向(Z軸方向)において全て同一値を採る。
勿論、上述したテーブル参照に拠る手法の他に、ンとの関係を演算式で保有し、奥行き方向それぞれの位置が与えられる毎に、演算によってゲインを求めてもよい。また、ゲインは、奥行き方向それぞれの各位置について求めるとしたが、この求めたゲインを用いて、最終的には、かかる位置の全体を含むスキャン空間(歯列を含む空間)のゲインを極座標や直交座標で表現した値に変換し、この変換ゲインを用いるようにしてもよい。
このため、かかるルックアップテーブルLUTを参照することで、最初に再構成する標準面とは異なる断層面に焦点を合わせるときの、当該断層面に沿った各写像位置のゲインを得ることができる。このゲインを用いてフレームデータを相互に重ね合わせることで、かかる標準面の各写像位置のパノラマ画像の画素値を得ることができる。なお、かかる面は、XY面に垂直な面が基本であるが、XY面(且つYZ面及び/又はXZ面)に斜めのオブリーク面であってもよい。
(事前計測に用いるファントム)
上述した如く、奥行き方向の距離とゲインの関係を事前に定量計測しておくには、本実施形態ではファントムを用いている。
一般的に歯の並び、すなわち歯列は馬蹄形であるので、その曲率に応じた複数のスキャン領域(前歯領域か、奥歯領域か)に分けて、前述した距離D1,D2を変えながら、かかる馬蹄形に沿った設定される標準面をなぞるようにスキャンを行なう。これにより、ファントムを用いて、歯列に沿った方向で所定間隔(例えば、図4において、奥行き方向のi番目とi+1番目との距離が10mm)毎に各奥行方向の距離とゲインとの関係を定量的に計測することが望ましい。
この事前計測に用いるファントムの例を図5〜7に示す。図5,6に最初のファントムFT1を例示する。このファントムFT1は、好適には、鉛板などのX線吸収が少なく丈夫な板体であって略馬蹄形に形成されて成るベース71(図6参照)と、このベース71の一端部から所定角度θ(例えば45度)をもって斜め上方に延設されるアクリル板などから成る複数個の測定板72(図5参照)と、ベース部71の他端部から下方に伸びるチンレスト固定部73と、各測定板72の一方の面にその長手方向の所定距離(水平面(XY面)上の所定距離範囲R1(例えば20mm)に対応した距離)の範囲に渡って所定距離(水平面(XY面)上の微小距離R2(例えば5mm)に対応した距離)だけ隔てて配設された鉛ボールなどから成る複数のファントム体74と、を備える。
このうち、ベース71に対する測定板72の角度θは、X線投影方向に対して角度θだけ傾斜させるための角度である。また、複数個の測定板72は、仮想的に歯列(図6中の点線L1を参照)を横断するように当該歯列に沿って配設されるとともに、その相互間を奥歯付近で所定ピッチP1(例えば10mm)程度に設定されている。(図6参照)。ファントム体74は、微小距離R2よりは小さく、ボケを十分に目視観測できる程度の径(例えば直径1mm)を有する。このため、微小距離R2は、隣接する2つのファントム体74それぞれの中心位置間の処理である。また、所定処理範囲R1は、歯列の馬蹄形断面として観測したい範囲に設定される。
なお、ベース71に対する測定板72の取り付け位置は、ネジ止めの位置をずらすなどして、奥行き方向に対して調整機構ADにより調整可能なことが望ましい。
図7には、別のファントムFT2を例示する。このファントムFT2は、前述したファントムFT1の測定板72に配設したファントム体74の代わりに、硬鉛から成る短冊状で且つ薄膜状のファントム体74Aを配設したものである。このファントム体74Aのサイズは、一例として、幅5mm、長さ21.2mm(所定距離範囲R1)、厚さ0.5mm程度であり、バリが無く、精度の良いサイズで加工される。このファントム体74Aの長手方向の各位置は、そのファントム体74Aの一方の端面と測定板72の一方の端面との間の距離が既知であれば、線形性に因って決定できる。その他の構造は、図5,6に示すものと同様である。
これら何れのファントムFT1,FT2を用いた場合でも、焦点のボケと距離とを計測することができる。つまり、第1のファントムFT1の場合、事前計測のためのスキャンで収集したパノラマ画像から各測定板72上の複数のファントム体74を成す鉛ボールの像のボケ具合を目視で観測する。他方の第2のファントムFT2の場合、同様のパノラマ画像から各測定板72上のファントム体74Aを成す短冊状の鉛板と測定板72そのものの端面のボケ具合を目視で観測する。この観測結果に基づいて、各測定板72の各ファントム体74について、又は、各測定板72のファントム体74Aの長手方向について、ボケが在る場合には、ゲインを試行錯誤的に調整して画像を観測し、ボケが最も少ないときのゲインを、その奥行き方向における、その位置における焦点最適化ゲインとして決定する。つまり、このゲインは、そのボケが最も少ない画像を提供しているフレームデータの重ね合わせ程度である。画像プロセッサ56は、各ファントム体の位置における重ね合わせ程度を認識しており、その程度を示す量をゲインとしてコントローラ57に渡す。
なお、ファントムFTは、板状のX線を透過しない物体を周期的に歯列に沿い並べて構成してもよい。この構造の場合、奥行き方向の距離目安を透過しない材料で形成する。この場合には、透過しない板材と透過部との境の見え方がシャープにボケないゲインを探る方法を採る。
(ルックアップテーブル)
上述の如く、歯列の各位置に交差する奥行き方向それぞれの位置(距離)における焦点最適化ゲインは、本実施形態にあっては、ルックアップテーブルLUTとして画像メモリ54の所定領域に保管される。このようにしてルックアップテーブルLUTを保有しておけば、歯列に沿った任意断面を、ルックアップテーブルLUTの持つ自由度を以って再構成することができる。
ところで、上述した事前計測を行なった位置は、スキャン中のX線管と検出器とを結ぶ直線上、すなわち、スキャン中の奥行き方向それぞれにおいて標準面からの距離として定義されている。このため、3次元のボクセル空間に適合したルックアップテーブルLUTを作成するには、このボクセル空間の各サンプル点の前述したゲインをその周辺の既知のゲインから補間によって作成しておけばよい(キャリブレーション)。この結果、図8に示すように、馬蹄形の歯列に沿った所定距離の範囲R1に応じた馬蹄形の3次元ボクセルでゲインが設定される、XY面上の同一馬蹄形断面内で例えば等間隔にゲインが設定される。なお、前述したが、各サンプル位置(例えば(N−1,S−D)の位置)においてZ軸方向(縦方向)のゲインの値は同じであるので、その分の演算は省略することができる。このため、ルックアップテーブルLUTは、図8で示す位置(標準面からの距離としての位置)及びその位置に対応するゲインの対応関係を示す情報を有している。
また、このルックアップテーブルLUTについては、如何に最適な数で且つ詳細なサンプル点の(サンプル点の間のピッチを細かく)のゲインを決めるかということが、画質と演算時間の両立という観点から重要である。基本的には、できるだけ詳細なサンプル点のゲインを有し、このゲインを使って、2段階の断面再構成を行なうとよい。1段階目では比較的、粗く設定したゲインで標準面のパノラマ画像を再構成し、迅速に歯列の全体を観測できるようにし、2段階目で、この全体のパノラマ画像から関心のある領域を例えばマニュアルで指定可能にし、予め設定してある、より詳細なゲインでその関心領域のパノラマ画像を再構成する。これにより、精度を上げた補間演算によるゲイン設定を行い、その上で、全体観測の後の高精度ゲインに拠る局所領域をより詳細に観測することができる。
なお、この2段階の再構成の手法を採る場合でも、1段階目で、より適切な断面の位置でパノラマ画像(歯列全体像)を得ることは重要である。それは、病変部などの部位を最初から把握して見過ごしを防ぐためである。このため、患者個々の歯列の形状やサイズになるべく合わせた歯列断面(標準面)を指定することが重要である。
(スピードカーブ)
次に、上述したゲインを用いて馬蹄形の歯列に沿った断面の画像を再構成する手法を説明する。その基本を成す考えが図9に示すスピードカーブである。
図9において、横軸はフレームデータのフレーム番号(例えば1〜4096)、縦軸はメモリ空間上でフレームデータを加算する位置を示す。曲線CAは、本実施形態に係る検出器32から出力される、標準面として指定した断面でのフレームデータのフレーム番号に対して、パノラマ画像再構成をした後の写像したメモリ空間上の位置をドットしたスピードカーブの標準パターンである。
このグラフCAから分かるように、標準面では、歯列の側面(奥歯部分)と前面とではグラフの傾き(すなわちゲイン)が異なり、側面の方の傾きが約−1.5で、前面の方のそれが約−0.657に設計されている。
この標準パターンはあくまで事前にプリセットされたもので、実際に人間の歯列の所望の収集位置の場合、歯形の個体差や所望位置のバラツキなどにより、最適に焦点が合っていない画像となる可能性がある。例えばある個体で焦点が最適化された画像を得るためには、図9の曲線CBで示すように、スキャンする位置により微妙にスピードを変えながら収集すればよいが、そのようなスキャン制御は非常に複雑になる。そこで、本実施形態では、そのような複雑なスキャン制御に代えて、収集するフレームデータの重ね合わせ程度(つまり、ゲイン)を調整する。この基本となるのが上述したスピードカーブである。フレームデータの重ね合わせ量を、曲線CBの如く、指定した所望の曲線で表される断面に沿って実際の収集スピードを変えたのと等価なパノラマ画像再構成を後処理として行なうことができる。
(焦点最適化の基本的な考え)
まず、図10に示すように、読影者が装置上で指定又は選択することで標準的に用意された、歯列に沿った標準面のパノラマ画像(ベース画像)が基本となる。この読影者は、このパノラマ画像を歯列の全体状況を把握するために用いる。読影者は、このパノラマ画像を観察しながら、その画像上に、焦点をもっと合わせたい(焦点最適化したい)関心のある局所的な領域をROI(関心領域:以下、この関心領域を「ROI」と呼ぶ)として設定する。図10には、2つのROI(ROI1、ROI2)を示している。
ROI1は、x軸及びy軸の両方について真に診たい部分のみをカバーする、より小さい領域を指定している。このROI1のサイズは、従来の口内撮影法で用いるX線フィルムとほぼ同一値に設定することもできる。また、口内撮影法で側歯を撮影する場合において歯列がX線フィルムに程よく入るように設定するが、本実施形態においてもこれを考慮し、側歯が程よくROI内の収まるように、ROI1で指定される断面をx軸及びy軸に平行なパノラマ画像の面から回転(傾斜)させることも好適である。この小さい領域の大きさを有する様々な方向や角度からの断面(平行移動させた断面、傾斜(回転)させた断面、それらの平行移動、傾斜(回転)を適宜に組み合わせた断面、更には、個々の歯の湾曲形状に合わせた湾曲断面)の画像を後述するように焦点最適化の処理に付すことになる。
これに対し、ROI2は、歯列の全域に渡って焦点を最適化させる場合に指定される、より大きな範囲指定を例示している。いずれにしても、このようにROIを指定することで、この処理すべき領域を限定することができるため、後述する焦点を最適化するための演算量を減らして、処理時間を短縮することができる。
また、このようにROI〈ROI1、RO2〉をベース画像上に指定するときには、そのROIのy軸(縦)方向の範囲を限定することが望ましい。理由は、最適化の必要のない縦方向の領域のデータを焦点最適化のための演算から除外して、演算量を減らすためであり、これにより演算速度を上げることができる。
このようにROIの指定の後、そのROIで決まる大きさを有する様々な断面がインターラクティブに指定される。装置は、そのように指定される断面の画像のみを焦点最適化の処理に付す。この処理は、操作者からの断面の取り方の指令に応答して自動的に行なわれる。これにより、ROIに対応する局所的断面画像を、その焦点を最適化された状態でモニタ60に表示させることができ、詳細観察に使用することができる。
なお、この最適化されたROI画像、すなわち局所的断面画像をモニタ60に表示する際、従来のX線フィルムによる口内撮影法に拠る馴れに対する違和感を軽減する表示法が好適である。具体的には、かかる局所的断面画像の縦横のサイズを実距離に合わせて表示すると好都合である。
(焦点最適化の概要)
この焦点最適化の処理は画像プロセッサ56により、図11に示す如く、実行される。
焦点最適化の指令を受けると、画像プロセッサ56は標準面のスピードカーブCAを読み出し、このスピードカーブCAと指定されたROIとを参照して、そのROIの横方向(フレームデータの時系列方向)におけて中心となるフレームデータFDcを図12に模式的に示す如く特定する(ステップA1)。次いで、画像プロセッサ56は、そのフレームデータFDcを中心として、スピードカーブCAからROIの全領域に相当する複数のフレームデータFDb´〜FDe´を図12に模式的に示す如く特定する(ステップA2)。このとき、検出器32には使用有効幅があるため、その有効幅分のフレームデータFDb、FDeをフレームデータFDb´〜FDe´の群の左右にそれぞれ加算することが望ましい。
次いで、画像プロセッサ56は、標準面のスピードカーブCAに従って特定したフレームデータFDb〜FDeを重ね合わせて加算(再構成)する(ステップA3)。つまり、これらのフレームデータFDb〜FDeのそれぞれをスピードカーブCAに従ってROI内の写像位置(図12の縦軸)それぞれに写像させる(写像方向P1,P2参照)。この写像の際、各フレームデータの中心位置の画素値を零(0)とし、重ね合わせ時の画素値のオフセットを排除する。なお、写像位置は実際には2次元の位置であるが、分かり易くするため、1次元で説明する。
かかる写像によって、写像位置(画素位置)のそれぞれには、複数のフレームデータからのデータが重畳させるので、それらのデータを加算する。これにより、写像位置それぞれの画素値が演算され、部分断面画像(この場合には、標準面のパノラマ画像の一部)が生成される。この結果、ROIを形成するそれぞれの画素にスピードカーブCAの傾き、すなわちゲインに応じた濃淡が形成され、歯列の構造がパノラマ画像上に出現する。
次いで、画像プロセッサ56は再構成する位置情報(この場合、指定されたROIにより画成される領域の奥行き方向の位置のみならず、その角度も含む)を変更するか否かインターラクティブに判断する(ステップA4)。位置変更がある場合、ルックアップテーブルLUTから、変更された位置情報に応じたゲインを読み出す(ステップA5)。この読み出したゲインをフレームデータの中心画素方向に積分して、修正されたスピードカーブCBを演算する(ステップA6)。
このとき、ROIのサイズは固定値であるから、新しい位置の再構成に必要なフレームデータのフレーム数は異なる。そこで、前述したステップA1で特定した、中心となるフレームデータFDcが修正位置における領域においても中心位置になるように、その領域の再構成に必要なフレームデータを特定する(ステップA7)。なお、修正位置の新しい領域のサイズが、最初のROIのサイズと同じになるように、フレームデータの数を修正位置に応じて増減させてもよい。
この準備が整うと、画像プロセッサ56は、前述と同様に、ステップA6で求めたスピードカーブCBとステップA7で特定した複数のフレームデータに基づいて、前述と同様に(ステップA3参照)、変更された部分領域の断面画像を再構成する(ステップA8)。このとき再構成のときに使われるスピードカーブCBは、図12の例えば仮想線で示す如く表される。
さらに、再構成に使用したゲイン(断面位置に相当)に比例又は正比例した係数を、再構成により生成された断面画像の画素値それぞれに乗じる(ステップS9)。これにより、画像間の見かけ上の濃淡の差を殆ど解消することができ、断面画像が変わっても見易く、読影作業を容易にすることができる。
このように生成された断面画像は、標準面に沿ったパノラマ画像の一部では無いが、そのパノラマ画像上で指定されたROIに基づいて変更された部分的な位置の断面画像である。この断面画像が読影医にとって所望のものであれば、その断面画像の画像データとその画像の位置情報(奥行き方向の位置、角度の情報)を記憶する(ステップA10,A11)。所望のものでない場合には、その処理はステップA4に戻される(ステップA10)。
次に、図13〜図18を参照して、本実施形態に係るパノラマ画像撮影装置1により実行されるゲイン事前計測、パノラマ撮影、及び画像読影に係る処理の一例を説明する。
(ゲイン事前計測)
最初に、図13を参照して、ゲイン事前計測(ゲインが既に設定されている場合には、ゲインのキャリブレーションとなる)を説明する。
前述したように、ゲインとは、フレームデータを相互に重ね合わせて加算するときの「重ね合わせの程度」を意味する量であって、ボケがない最適な焦点位置となるためのゲインは、歯列に交差する奥行き方向それぞれにおける各位置(距離)に応じて変わる。ゲインが小さくなるほど、焦点位置は各奥行き方向においてX線管31により近くなり、ゲインが大きくなるほど、焦点位置は各奥行き方向においてX線管31から遠ざかる。
このゲインを事前に設定して保有しておくために、制御・演算装置12のコントローラ57は図13に大略示す処理を、操作者との間でインターラクティブに行う。
このゲイン事前計測に際し、被験者の代わりに、ファントムFTがチンレスト25(図1参照)の位置に固定される。この固定されるファントムFTの位置は、後述するように、被験者Pの歯列を実際に撮影するときの、歯列の標準的な位置として定めた空間位置に対応している。このファントムFTには、前述したように図5又は図7に示すものが使用される。なお、ファントムFTのZ軸方向の位置に合わせて、ファントムFTがX線管31の照射X線の、コリメータで絞られた断面がスリット状のビーム内に位置するように、上下動ユニット23の高さが調整される。
このファントムFTの固定配置が終ると、制御・演算装置12は操作者からのX線照射条件(管電圧、管電流、スキャン時間など)を受け付ける(ステップS1)。
この条件設定が終わると、操作者からの指令に応答して回転ユニット24(つまり、X線管31及び検出器32の対)をXY面に沿ってファントムFTの周りに移動(スキャン)させながら、X線管31にX線を照射させる一方で、検出器32に高速フレームの透過X線の検出をさせて、フレームデータの収集が行われる(ステップS2)。つまり、検出器32から、一例として、300fpsといった高速フレームレートでフレームデータが出力され、このフレームデータがバッファメモリ53を介して画像メモリ54に転送されて保存される。
次いで、コントローラ57は、画像プロセッサ56に、収集したフレームデータを用いて、予め定めてある空間位置における歯列断面(所定面)のパノラマ画像を再構成するように指令する(ステップS3)。この所定面は、図14に示すように、被験者の標準的な歯列(つまり、それぞれの歯が標準的サイズの馬蹄形の軌跡上に並んでいる歯列)の中心線STに沿っている。この所定面は、後述する実際の撮影において選択可能なように用意されている複数の標準面のうちの基準となる面に一致させている。
この所定面上の各位置Pn(すなわち、各奥行き方向Ddpと標準面とが交差する位置)に対するゲインGは、前述した図9の曲線CAで示す標準面のスピードカーブの傾きとして、予め決められている。そこで、画像プロセッサ56は、画像メモリ54から、前述したように、収集した全部のフレームデータを呼び出し、それらのフレームデータをスピードカーブCAに応じて決まる写像位置に足し込む(すなわち、重ね合わせて加算する)ことで、標準面のパノラマ画像が再構成される。
次いで、コントローラ57は、この再構成した標準面のパノラマ画像をモニタ60に表示する(ステップS4)。この表示例を図15に示す。同図に示すように、ファントムFTに45度の所定傾斜角で設置してある5つの左端部測定板72L、左中間部測定板72LC、中心部測定板72C、右中間部測定板72RC、右端部測定板72Rが写り込んだ標準面のパノラマ画像が表示される。各測定板上には、複数個のファントム体74が移り込んでいるが、図には模式的にしか画けないが、標準面に相当する板長手方向(奥行き方向)の中心領域の空間位置に在る1つ又は複数のファントム体74のボケが最も少ない状態、すなわち、最も焦点が合っている状態になっている。
ここでは、板長手方向を、ゲイン事前計測の都合上、奥行き方向を最外周領域Rotm、外周領域Rot、中心領域Rc、内周領域Rin、最内周領域Rinmの5種類に大まかに分けており(図15参照)、標準面は中心領域に属するように設定されている。つまり、前述した図5に示すファントムFT1の例で言えば、ベース71(XY面)に投影した所定距離範囲R1(例えば20mm)の領域を5領域に分けている。この所定距離範囲R1は、歯列の断面を自在に動かして診たい奥行き方向それぞれの範囲である。
ここで、奥行き方向において標準面の前後に2つの領域、すなわち、2つの断面を設定でき、標準面と合わせて5種類の断面を計測することができる。これを図14に模式的に示す。最外周の仮想線が最外周断面OTMを、その次の内側の仮想線が外周断面OTを、その次に内側の仮想線が標準面STを、その次に内側の仮想線が内周断面INを、そして最も内側の仮想線が最内周断面INMをそれぞれ示す。それぞれの断面間の奥行き方向の間隔は、例えば4mmに設定されている。
このため、奥行き方向それぞれを5領域に大まかに分けた理由は、歯列の奥行き方向においては20mm程度の断面範囲を確保できれば十分で使用に耐えられ、また、後述するように、最終的にはゲインを補間する。したがって、演算量や演算時間との妥協を図ると、この段階でのゲインの基点データとしては、各奥行き方向に5点(5つの領域でのゲイン)を収集すれば十分である。
次いで、操作者は、このパノラマ画像を目視・観察しながら、標準面以外の奥行き方向の前後の断面(位置)のゲインのインターラクティブな設定作業に移行する。具体的には、まず操作者はファントムFTのうちの最初の測定板72を選択して、その測定板72の画像を拡大して表示させる(ステップS5;図16参照)。この拡大表示は、その測定板72上の複数のファントム体74をより見易くして、ゲインを極力精度良く設定させるためである。この拡大表示を、中心部測定板72Cを例に説明する。なお、この拡大表示の測定板毎の順番は任意である。
次いで、コントローラ57は、拡大表示されている中心部測定板72Cを目視している操作者からの操作情報を受け付けて、その中心部測定板72C上の板長手方向の中心領域以外の領域を指定する(ステップS6)。この領域指定に応答して、コントローラ57は、指定された領域の奥行き方向の位置を演算し、その位置座標情報を記憶する(ステップS7)。このステップS6,S7の処理を介して、最初に、例えば中心部測定板72Cの最外周領域Rotmが、すなわち、中心部測定板72Cが置かれている方向に沿った奥行き方向における最外周断面OTMの位置が指定される。
次いで、コントローラ57は、操作者からの操作情報を受け付けて、いま観測対象となっている最外周領域Rotmに属する1つ又は複数のファントム体74にボケ無し(殆どボケ無し又はボケが最も少ない状態を含む)、すなわち、目視している限りにおいて焦点が最高に合っている状態か(最適焦点の状態か)否かについて判定する(ステップS8)。いま、ファントム体74は丸い鉛ボールであるので、丸く且つその輪郭がくっきり現われている場合に、操作者は最適焦点の状態であると判断できる。その場合には、モニタ画面上の最適焦点の状態を示すボタン(図示せず)を押せばよい。未だ最適焦点の状態になっていないと判断できる場合、操作者は、モニタ画面上の未最適焦点の状態を示すボタンを押し、これに応答してモニタ画面上に現れるゲイン変更(ゲイン上げる、ゲイン下げる)のボタン操作を行なう〈ステップS9〉。
このゲイン変更が行なわれると、かかる変更されたゲインGを用いて変更された断面、すなわち変更された奥行き方向の位置に対応したパノラマ画像の再構成を行なう(ステップS10)。このとき、いま行なっている拡大表示(領域指定されている)に係る中心部測定板72Cの部分のみを再構成することで、演算時間を短縮できる。この新しく再構成されたパノラマ画像は再度、表示(拡大表示像)される(ステップS11)。
この後、コントローラ57の処理はステップS8に移され、前述したと同様に、中心部測定板72Cの最外周領域Rotmに属するファントム体74のボケの有無が判断される。この判断がNOとなるときには、未だ最適焦点化の余地があるので、コントローラ57は操作者からの指令に応じてゲインを変更し、パノラマ画像の再構成及びその表示を行なう(ステップS9〜S11)。このように試行錯誤的にゲインが変更されてボケ無しのパノラマ画像が得られると(ステップS8でYESの判断)、操作者は、そのときのゲインが中心部測定板72Cの奥行き方向に沿った最外周断面OTMの位置における最適な焦点を得るためのゲインであると認識できる。このため、コントローラ57は、このときのゲインを焦点最適化ゲインであるとして、操作者の操作に応答して画像メモリ54に保存する(ステップS12)。
次いで、コントローラ57は、その処理をステップS13に移行させて、現在の測定板72上の長手方向の全ての領域に対して、かかるゲイン計測が終了したか否かを判断する。この判断でNO(ステップS13、NO)となる場合、コントローラ57は、ステップS6に戻って別の領域について上述と同様に実行する。これにより、例えば、中心部測定板72Cの奥行き方向に沿った外周領域Rotに対応した外周断面OTの位置における焦点最適化ゲインを計測することができる。
ステップS13でYESの判断が得られる場合、コントローラ57は更に全ての測定板について前述と同様の焦点最適化ゲインの計測が済んだか否かを判断する(ステップS14)。この判断でNOとなる場合、未だ計測すべき測定板が残っているので、コントローラ57は、ステップS5に処理を戻して別の測定板、例えば右中間部測定板72RCについて前述と同様に処理を施す。これにより、その測定板の長手方向の中心領域Rc以外の領域に対応した断面の位置のゲインが計測される。一方、このステップS14でYESの判断が下されるときには、5枚全ての計測板72を用いて、最外周、外周、内周、最内周それぞれの断面位置の合計20点のゲインと基準面の5点のゲインとによる合計25点の位置(図17の黒丸の位置)のゲインを基準データとして得たことになる。
次いで、コントローラ57は、XY面上で標準面STを中心とし、この面STに沿って所定距離範囲R1を幅とする2次元領域(図17の斜線部参照)にマッピングされる合計25点の基準となるゲインに適宜な補間法を適用して、空間的に基準データを有する位置の間を埋める位置(図17の×印の位置)ゲインデータを演算する(ステップS15)。この補間が終ると、この馬蹄形を成す2次元領域の各点(黒丸及び×印の位置)のゲインの値がルックアップテーブルLUTとして画像メモリ54に保管される(ステップS16)。このルックアップテーブルLUTは、標準面STに交差する位置、その各交差位置を通る奥行き方向に沿って点在する各位置、及び、その各点在位置におけるゲイン値から成る。
なお、この2次元領域に直交する上下方向(Z軸方向)のゲイン値は、前述した如く、各点において同一値を有する。このため、かかる2次元のルックアップテーブルLUTは、3次元のゲインに対するルックアップテーブルを示している。
このように図13に示す一連の処理を通じて、標準面STを中心とする奥行き方向の所定距離R1によって決まる馬蹄形状の2次元領域を有する3次元領域の各位置のゲインが事前に計測されたことになる。このゲイン事前計測は、工場出荷時又は装置の据付時に行なえば十分であるが、定期的な又は不定期の保守管理時のみならず、毎回の装置起動時にキャリブレーションとして実行するようにしてもよい。キャリブレーションの場合、それまで保有していたルックアップテーブルLUTの内容がその都度、新規のゲインデータに更新されることなる。
この事前計測やキャリブレーションに使用するファントムは、その測定板が多いほど、より詳細な基準となるゲインデータを計測できるが、操作者の操作上の負担も増えるので、その負担と計測すべきゲインの精度などとを比較して測定板の数や配置位置を決めればよい。
(撮影)
次に、図18を参照して、撮影、すなわち実際のデータ収集について説明する。
この撮影に際し、操作者は患者ID、患者氏名、撮影日時などの患者情報を制御・演算装置12に入力する(ステップS21)。この入力に応答して、コントローラ57は、その患者情報を画像メモリの所定領域に記録し、例えば患者IDをキー情報として、後からの収集するフレームデータとの関連付けを行なう。
次いで、被験者P(患者)を図1に説明するように位置決めする。つまり、操作者は、上下動ユニット13の高さを調節した後、被験者Pにマウスピース26を咥えさせた状態で、チンレスト25及びヘッドレスト28の部分を使って被験者の口腔部を所定の撮影位置に位置決めさせる。なお、この位置決めは患者情報の入力前に行なってもよいし、後述するX線照射条件の設定後に行なってもよい。
コントローラ57は、操作者からの操作情報に基づいて実際の撮影に用いる標準面をインターラクティブに設定する(ステップS22)。この標準面の設定は、予め幾つかの標準面が装置に用意されているので、これを選択することで行なう。これについては後述する。
さらに、コントローラ57は、操作者からの操作情報に基づいて、前述したゲイン事前計測時と同様に、X線照射条件(X線の管電圧、管電流、スキャン時間、スキャン軌道など)を設定する(ステップS23)。
このように準備が済むと、コントローラ57は、操作者からの指令に応答して回転ユニット24(つまり、X線管31及び検出器32の対)をXY面に沿って被験者Pの口腔部の周りに移動(スキャン)させながら、X線管31にX線を照射させる一方で、検出器32に高速フレームの透過X線の検出をさせる。これにより、フレームデータの収集が行われる(ステップS24)。つまり、検出器32から、一例として、300fpsといった高速フレームレートでフレームデータが出力され、このフレームデータがバッファメモリ53を介して画像メモリ54に転送されて保存される。
なお、上述したフレームデータの収集の前又は後に、必要に応じて、外部の口内X線撮影装置で撮影された画像データを受信して、画像メモリ54に保存するようにしてもよい。
このスキャンが済むと、被験者Pは装置から解放される。
(読影(観察))
上述のスキャンによってフレームデータの収集が完了すると、医師は、後処理として、そのフレームデータを用いて読影を行なうことができる。
この読影に供するコントローラ57の一連の処理を図19〜20のフローチャートに、その読影に伴う動作例を図21〜25の説明図に示す。
図19に示すように、コントローラ57は、操作者からの指令に応答して、患者、すなわち読影対象の入力を受け付ける(ステップS31)。これにより、例えば患者ID、撮影日時などの読影対象を特定する情報が入力されると、コントローラ57は、画像プロセッサ56にその情報を伝えるので、画像プロセッサ56は、かかる情報で特定される被験者Pのフレームデータを画像メモリ56から自分のワークエリアに読み出す(ステップS32)。
次いで、コントローラ57は、画像プロセッサ56に標準面のパノラマ画像の再構成及び当該パノラマ画像のモニタ60への表示を指令する(ステップS33,S34)。これにより、図21に模式的に示すように、被験者Pの歯列の標準面のパノラマ画像がモニタ60に表示される。このパノラマ画像は、X線透過像と同様に標準面に沿った断面構造を描出している。
これらの処理は、前述したゲインの事前計測のときの処理と同様である(図13、ステップS3,S4参照)。ここまの処理は、読影作業の準備段階に相当する。
コントローラ57は、次いで、標準面のパノラマ画像に設定するROIの情報が操作者、すなわち読影医師から与えられたか否かを判断しながら待機する(ステップS35)。このROIは、前述したように、標準面のパノラマ画像のうち、局地的な関心領域を指定する情報であって、読影医師がその局地的領域を更に様々な角度や断面から読影したい場合に使用される。このROIは、本実施形態では矩形状の小領域として指定できるようになっており、その縦横のサイズは任意であるが、その最大サイズはパノラマ画像よりは小さい。
このROIの設定の仕方を図22に例示する。図22(A)に示すROI:R1は上側の歯列のうちの特定の歯について単独で焦点最適化して診たい場合に指定される関心領域であり、同図(B)は、それよりも比較的大きく、上側及び下側の歯列それぞれの複数本の歯をまとめて焦点最適化して診る場合に指定される関心領域である。いずれの場合も、後述する画像処理の演算時間を短縮するために、パノラマ画像の縦方向(Z軸方向)のサイズは極力、必要最小限に抑えることが好ましい。
なお、このROIのサイズは、前述したように、従来の口内撮影法で用いるX線フィルムと同一値に設定することがこともできる。また、側歯が程よくROI内の収まるように、ROIで指定される断面をパノラマ画像の面から回転(傾斜)させることもできる。
ステップS35の判断がYESになる場合、指定されたROIの情報を用いてパノラマ画像上にROIを重畳表示する(ステップS36)。この重畳表示の状態は図22(A)で表されるものとする。コントローラ57は、この表示されたROIについて、その位置及びサイズを操作者からの操作情報に応じて確認し(ステップS37)、必要な場合には、位置及び/又はサイズの変更情報を受け付けて、ROIを変更して重畳表示する(ステップS38)。
このようにROIの指定が済むと、コントローラ57は、パノラマ画像上のROIにより指定された画素を提供しているフレームデータのフレーム番号の範囲(すなわちフレームデータの範囲)を特定する(ステップS39)。この特定は、後述するように、ROIで指定された関心領域のサイズを持つ断面を傾斜(回転)させて、当該関心領域を別の断面として観察するための処理に供するためである。つまり、前述した図11で説明したように、ROI標準面のスピードカーブを参照して、指定されたROIの横方向(X(Y)軸方向)のサイズに対応したフレーム番号の範囲を決める。なお、パノラマ画像の縦方向(Z軸方向)については上述したように、指定されるROIの縦方向の大きさに合わせてカットされる。
次いで、コントローラ57は、事前に検出器32の有効幅が分っているので、この有効幅を加算した最終的なフレーム番号を特定する(ステップS40)。
この後、コントローラ57は、ROIで指定した関心領域について様々な態様でその関心領域の断面を観察するための処理に移行する(ステップS41〜S54)。
具体的には、まず、ROIで指定された、標準面のパノラマ画像上の関心領域について、そのままの画像を拡大して表示したいか否かを操作情報に基づいて判断し(ステップS41)、拡大表示が指令されている場合には、所望の拡大率で拡大して重畳表示を行なう(ステップS42)。この拡大・重畳表示の例を図23に示す。このとき、拡大率はデフォルト値であってよいし、所定範囲で任意に選択できるようにしてもよい。
また、コントローラ57は、読影医からの操作情報に応答して、ROIで指定された、標準面のパノラマ画像上の関心領域のサイズを持つ断面を奥行き方向に平行移動させて、その平行移動した断面に沿った画像を診る処理をインターラクティブに行う(ステップS43〜S46)。図24に、断面の平行移動の概念を説明する。いま表示されているのは、予め選択した標準面に沿った一部の断面であるから、平行移動を行なうということは、その標準面の手前側又は奥側に位置をずらした断面を診ることになる。この平行移動できる範囲は、前述した所定距離範囲R1(例えば20mm:図5参照)に応じて決まる。つまり、この所定距離範囲R1内の移動であれば、既に焦点最適化のためのゲインを計測しているので、そのゲインを使用して断面像を再構成できるからである。標準面のパノラマ画像で病理的に疑わしい部位を見つけた場合、かかる断面の平行移動を行なうことによって歯の厚さ方向における病気の進行具合や歯茎の状態をも知ることができるのである。
このため、かかる平行移動断面を診る必要があるか否かを操作情報に基づいて判断し(ステップS43)、その必要がある場合、どの程度の距離だけどの方向に断面を移動させるかを示す移動情報を読影医から入力する(ステップS44)。なお、ここで移動距離=0が指定されると、パノラマ画像の一部の断面そのものが指定される。
次いで、その移動情報(例えば奥側に4mm平行移動)に応じた新しい断面、すなわち平行移動された断面の位置を特定し、この断面の位置で決まるゲインGをルックアップテーブルLUTから読み出し、対象となるフレームデータを読み出したゲインGを用いて前述した如く重ね合わせ加算することで、ROIで指定され且つ平行移動した局所的な断面の画像が再構成される(ステップS45)。つまり、焦点ボケの少ない又は無い焦点最適化画像が得られる。
このように再構成された画像は、所定の又は所望の態様で表示される(ステップS46)。このうち、所定の態様に拠る表示は、デフォルトで決まっている表示法であり、現在表示されているパノラマ画像の所定位置に、そのパノラマ画像の一部として重畳表示するものである。一方、所望の態様による表示については、後述する如く、読影者が読影上、都合の良いように、予め設定されている表示法の中から所望のものを選択して指定できるようになっている。
また、コントローラ57は、前述したステップS43でNOの判断(すなわち平行移動させない)を確認した場合、傾斜(回転)か否かの判断をインターラクティブに行う(ステップS42)。すなわち、コントローラ57は、読影医からの操作情報に応答して、ROIで指定された、標準面のパノラマ画像上の関心領域のサイズを持つ断面を奥行き方向に関して傾斜(回転)させて、その傾斜(回転)させた断面に沿った画像を診る処理をインターラクティブに行う(ステップS48〜S50)。
なお、この傾斜(回転)の処理は、断面を傾斜(回転)させる分だけ、投影方向を斜めに変えることを意味する。傾斜(回転)させる角度としては、通常、数度から数十度である。
図25に、このROIで指定された断面の傾斜(回転)の概念を説明する。なお、これらの断面の傾斜は、中心軸の位置、傾斜方向、及び傾斜角度で決まるものである。このため、断面の「傾斜」は、断面の中心軸を中心とした「回転(回動)」であるとも言えるので、以下、用語「傾斜」で代表させる。図25(A)〜(C)に示す図は、ROIで指定された断面の縦方向(Z軸)方向の中心位置、上端位置、及び下端位置を中心として、その断面を所望角度だけ傾斜させるものである。また、図25(D)〜(F)に示す状態は、ROIで指定された断面の横方向(x方向)の中心位置、左端位置、及び右端位置を中心として、その断面を所望角度だけ傾斜させるものである。なお、ROIで指定された局所的な断面を傾斜させる限度は、その断面がゲインを事前設定してある奥行き方向の範囲内とする。これにより、読影の意味が出てくる。
このため、ステップS47で傾斜表示させると判断された場合、コントローラ57は次いで、中心軸の位置、傾斜方向、及び傾斜角度を操作情報として得る(ステップS48)。このため、コントローラ57は、その傾斜情報(例えば、ROIで指定された局所的な断面の縦方向の中心位置を中心軸として、時計周りに10度だけ傾斜させる)に応じた新しい断面、すなわち傾斜させた断面の位置を特定し、この断面の位置で決まるゲインGをルックアップテーブルLUTから読み出し、さらに、その断面の画像再構成に寄与するフレームデータを特定し、特定したフレームデータを読み出したゲインGを用いて前述した如く加算することで、ROIで指定され且つ傾斜させた局所的な断面の画像が再構成される(ステップS49)。
このように再構成された画像は、所定の又は所望の態様で表示される(ステップS50)。この表示の仕方は、前述したステップS46における処理と同様である。
さらに、コントローラ57は、前述したステップS47でNOの判断(すなわち傾斜(回転)させない)を確認した場合、「平行移動+傾斜(回転)」か否かの判断をインターラクティブに行う(ステップS51)。すなわち、コントローラ57は、読影医からの操作情報に応答して、ROIで指定された、標準面のパノラマ画像上の関心領域のサイズを持つ断面を奥行き方向に平行移動させ、かつ、奥行き方向に関して傾斜(回転)させて、その移動させた断面に沿った画像を診る処理をインターラクティブに行う(ステップS52〜S54)。この場合、移動させた断面の位置を決める手法として、平行移動させた後に傾斜(回転)させてもよいし、その逆の順序で行なってもよい。このため、ROIで指定された局所的断面の前述した2種類の移動(平行移動+傾斜(回転))を指定する情報が入力され、その断面の焦点が最適化され、焦点最適化された断面像が表示される。
なお、この最適化されたROI画像、すなわち局所的断面画像をモニタ60に表示する際、前述したように、局所的断面画像の縦横のサイズを実距離に合わせて表示することもできる。
上述したステップS51においてもNOの判断が下されるときには、その処理はステップS55に移行させられる。このステップS55では、コントローラ57は読影者から読影の終了が指令されているか否かを判断し、まだ読影を続ける(NO)の場合には、その処理を前述したステップS35に戻し、前述した処理を繰り返す。
これに対し、読影終了(YES)の判断が下される場合、コントローラ57は、読影対象となった画像データ(パノラマ画像、ROIで指定された断面の画像などのデータ)及びその付帯情報(患者情報)のデータを記録媒体に保存するか否かをインターラクティブに判断する(ステップS56)。この判断でYES、すなわちデータ保存をすると決められると、画像メモリ54にそのデータを保存する(ステップS57)。さらに、コントローラ57は、かかるデータを外部のDICOMサーバに転送するか否かを読影者からの要望を基に判断し(ステップS58)、その判断がYES、すなわち転送の場合には、データをDICOM仕様に変換した上で、そのデータを通信インターフェース62を介して外部の通信ラインに送信する。なお、DICOMサーバとはDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)規格を満足するサーバのことである。
さらに、コントローラ57は、対象となった画像データを印刷するか否かを読影者からの操作情報を基に判断し(ステップS60)、その判断がYES、すなわち印刷するとなる場合にのみプリンタ64にその画像データの印刷指令を出す(ステップS61)。
(標準面の選択処理)
ここで、図26,27を参照して、前述した撮影における標準面の選択処理(ステップS22)について捕捉説明する。
コントローラ57は、最初に、初期画面として、標準歯列の模式図Tstとこの標準歯列Tstに沿って重畳した湾曲したラインSC1とを、図27に示す如く、モニタ60に表示させる(図26、ステップS221)。
このラインSC1は、標準歯列Tstに沿って設定された第1標準面(標準断面)を示す。この第1標準面SC1は、大多数の人から統計的に導いた標準歯列Tstに基づく標準的サイズの断面である。したがって、被験者Pの歯列がサイズ及び各歯の配列位置に関して、この標準歯列Tstに合致しているならば、この第1標準面SC1そのもので足りる。すなわち、X線管31から照射されるX線が常に第1標準面SC1に焦点を合わせるように、X線管31及び検出器32を移動(回転)させることで、第1標準面SC1そのものが最適焦点断面となり、この断面の像がパノラマ画像として投影される。この投影像は、前述した如く、検出器32によりフレームデータ(ラインデータ)として高速に収集される。そのような場合には、その他の断面を選択する必要はない。
しかしながら、被験者Pは大人であったり、子供であったりすること、また歯列の形状(歯形)は個人差があるので、この第1標準面SC1では合わないことが多い。その一方で、ベース画像となるパノラマ画像を被験者Pの実際の歯列の形状に極力、最初から合わせておいた方がより的確な画像情報が得られ、より精度の高い診断・読影を行なうことができる。また、その後の、ベース画像、すなわち歯列全体のパノラマ画像を基にして行なう、読影のための局所的な領域の指定もより精度の高いものになる。かかる観点から、この標準面の選択処理が実行される。
コントローラ57は、操作者に、初期画面に表示されている第1標準面SC1を選択するか否かを問う(ステップS222)。操作者は、被験者Pの歯形のサイズや歯列の形状を考慮して、標準面を他の断面に変更すべきか否かを判断する。その他の選択可能は標準面として、第2、第3の2通りの標準面SC2、SC3が用意されている(図27参照)。第2標準面SC2は第1標準面SC1よりも小さい極率の馬蹄形に設定され、その反対に、第3標準面SC3は第1標準面SC1よりも大きい極率の馬蹄形に設定されている。
このため、操作者は、いま診断しようとしている被験者Pの歯列のサイズ、形状を考慮したとき、第1標準面SC1で間に合うと判断した場合には、その旨の操作を行なって第1標準面SC1を確定させる(ステップS223)。これに対して、第1標準面SC1では過不足があると判断した場合には、第2又は第3標準面SC2、SC3を選択する(ステップS224)。この選択した断面SC2(SC3)は確認のため、図27に示すモニタ画面に例えばカラーを変えて表示される(ステップS225)。
このようにして、最初から、極力、個々の被験者Pの歯列の形状、サイズに合わせた標準面が選択され、この標準面に沿ったパノラマ画像がベース画像として撮影される。
(表示態様の選択処理)
さらに、図28〜31を参照して、前述した読影における表示に係る表示態様の選択処理(ステップS46,S50,S54)について説明する。
この表示の対象となる画像データは、ベース画像として最初に撮影したパノラマ画像、このパノラマ画像上でROIにより指定した局地的領域のオリジナル画像(ベース画像の一部)、及び、ROIにより指定した局地的領域の焦点最適化画像(すなわち、平行移動した断面、傾斜させた断面、又は、平行移動及び傾斜させた断面に焦点を合わせた画像:ステップS45、S49、S53)である。
そこで、コントローラ57は、最初に、パノラマ画像及び焦点最適化画像を分割して表示するか否かを読影者からの操作情報に基づいて判断する(ステップS61)。この判断でYES、すなわち分割表示する場合には、コントローラ57は、パノラマ画像及び焦点最適化画像をモニタ60に、例えば図29に示す如く表示させる(ステップS62)。この例によれば、モニタの画面の下側にパノラマ画像Ppanoが表示され、その上側に焦点最適化画像Poptが表示される。パノラマ画像Ppanoには、局地的領域を指定した、例えば矩形状のROIが重畳して表示される。
この後、コントローラ57は表示終了の操作がなされたか否かを判断しながら待機する(ステップS63)。
一方、分割表示を行なわない場合(ステップS61でNO)、コントローラ57は今度、重畳表示を行なうか否かを操作情報に基づいて判断する(ステップS64)。この判断により重畳表示を行なう場合、次いで、オリジナル画像及び焦点最適化画像の少なくとも一方を拡大処理するか否かについて操作情報から判断し、指定された場合には、その拡大処理を実行する(ステップS65、S66)。
この後、コントローラ57は、モニタ60に、例えば図30に示す態様で、パノラマ画像Ppano上にオリジナル画像Pori及び焦点最適化画像Poptを左右に比較するように重畳表示させる(ステップS67)。この後、処理はステップS63に移行する。
さらに、上述したステップS64の判断がNO、すなわち重畳表示を行なわないとする場合、コントローラ57は更に、焦点最適化画像のみを表示するか否かの判断(ステップS68)を行う。ステップS68でYESの判断が下される場合、コントローラ57はモニタ60に、例えば図31に模式的に示す如く、焦点最適化画像のみを表示させる(ステップS69)。
これらの表示される画像には、常に、画像を供する断面の位置情報が付されている。例えば、図29〜31の符号PIで示すように、パノラマ像Ppanoにはその標準面の位置情報が、オリジナル画像PoriにはROIで指定された、パノラマ像上で位置情報が、焦点最適化画像Poptには当該画像を供する局所的な断面の位置情報(パノラマ像上の位置、移動したときの標準面からの距離、傾斜(回転)させたときの角度・方向、その距離及び角度などの情報)が付される。
このように種々の表示態様を選択できるようになっているため、読影者は読影結果を都合の良い態様で表示させることができる。
以上のように、本実施形態に係るデジタル型の歯科用パノラマ画像撮影装置によれば、従来のものとは異なり、歯科医の要求に十分に応えるパノラマ画像を提供することができる。
具体的には、1回の撮影によって収集した同一のフレームデータを使って、診断的に診たい局所的部位の断面について平行移動を行なったり、傾斜(回転)によって投影方向を変えたりした画像を何度でも再構成することができる。この断面を平行に移動する距離や傾斜(回転)させる角度は、読影医師が定量的に指定することができる。つまり、読影医師は、表示した標準面のパノラマ像を見ながらインターラクティブに局所的断面を動かして、その断面の表示される歯や歯茎の画像を観察することができる。これにより、例えば、1つの歯の更に奥側がように痛んでいるのか、病巣が歯茎のどの位まで及んでいるのかといった情報を3次元的に得ることができる。しかも、その局所的部位の断面の位置を決めるベース画像となる標準面のパノラマ画像についても、予め設定してある数種類の標準断面の中から、被検体の実際の歯列の状況になるべく合致した断面を標準面として選択することができる。
このため、撮影位置(断面)を患者の歯列に沿った最適な断面に設定することが重要ではあるとしても、それにはそれほど神経質になる必要はない。つまり、数種類の予め用意されている標準面の中からベストなものを選択して撮影に臨むだけでよい。この撮影によって収集されたフレームデータを使って、上述したように、その後の読影を自在に行なうことができるのである。これにより、従来指摘されていた、最適断面の設定に対する操作者の負担が著しく軽減されるので、操作者に要求される熟練度は緩和される。
このように、適度な最適さで収集した断面(標準面)のパノラマ画像上で指定される局所的断面の画像、及び、この断面を3次元的に位置変更した別の断面の画像は、常に、予め事前計測して保管されているゲインを使って、ボケの少ない最適焦点化画像として再構成される。したがって、ボケが少ない分、歯や歯茎の構造情報も豊富で且つ精度が良い。それだけ歯科医の診断上の負担も軽減される。
また、インターラクティブにROI指定した断面の画像は、位置情報と共に表示される。例えば、ROIで指定した断面を標準面よりも5mm奥側に平行移動させた断面である旨の位置情報、ROIで指定した断面をその縦方向の中心を通る軸の周りに下側が手前になるように20度傾けた(回転させた)断面である旨の位置情報などと共に表示される。このため、読影医は、歯や歯茎の内部構造の距離(感)を把握しながら、読影を行なうことができる。これにより、読影医は、歯列の形状などの個人差を考慮して、「少し奥の部分を又は手前の部分を診たい」、「斜めの歯に沿ってその断面を診たい」、「歯の厚さ方向に沿った断面を診たい」、などの、従来では殆ど困難であった断面観察を自在に行なうことができ、診断に有効な情報をより多く得ることができ、診断の精度向上に大きく寄与する。
このように、1回の撮影で収集したフレームデータを使って歯列の内部情報を容易に且つ豊富に得ることができるので、従来のように、パノラマ画像を補完する別の撮影は殆ど不要になる。したがって、診断までの時間や手間が少なくて済み、患者スループットも良くなり、患者のX線被曝量の増大を抑えることができる。
なお、このコンピュータ12については、そのパノラマ画像を後処理する機能を有する部分については、別のコンピュータをスタンドアロン形式又はオンライン形式で用いるようにしてもよい。
(第2の実施形態)
続いて、図32〜38を参照して、本発明に係るパノラマ画像撮影装置の第2の実施形態について説明する。
この実施形態に係るパノラマ画像撮影装置は、ROIによって指定された2次元領域に関わる画像、すなわち、前述したステップ39(図19)において特定されたパノラマ画像上の局地的領域の画像(オリジナル画像)、ステップS42(図20)で拡大表示される拡大オリジナル画像、並びに、ステップS46、S50、S54(図20)で表示される焦点最適化画像にコントラストを強調するための処理(コントラスト強調処理)を実施することを特徴とする。その他の構成及び処理は、第1の実施形態と同一又は同様である。このため、第1の実施形態のものと同一の構成要素には同一符号を用いる。
なお、このコントラスト強調は、必ずしも、ROIにより指定された2次元領域に限定されるものではなく、例えば前述の実施形態で説明されたように、標準面で再構成されたパノラマ画像の全体に実施してもよい。しかしながら、コントラスト強調処理は、通常、演算負荷が多くなり、処理速度が低下する。このため、演算負荷の軽減、処理速度のアップ、実際の読影においては必要な部分領域のコントラストを上げれば足りること、などを考慮すると、上述のように、かかるコントラスト強調は、ROIにより指定された2次元領域に実施することが望ましい。
このコントラスト強調処理は画像プロセッサ56又はコントローラ57で実行可能である。本実施形態では、画像プロセッサ56がそのコントラスト強調処理を担っている。
いま、ステップS45〜S46に係る平行移動させる局地的断面の焦点最適化・表示において、かかるコントラスト強調処理を行うものとする。この場合、画像プロセッサ56は、ステップS45の焦点最適化処理とステップS46の表示処理との間で、コントラスト強調処理を実行する。画像メモリ54には、局地的領域の焦点最適化された再構成画像として、グレイレベルの2次元デジタル画像が事前に格納される。この2次元デジタル画像を原画像として、この原画像にコントラスト強調処理を行う。
図32は、画像プロセッサ56により実行されるコントラスト強調の一連の処理の流れを示す。
このコントラスト強調の処理は、概略的には、原画像データであるフレームデータ(グレイレベルの画像データ)の入力(ステップS101)、原画像データに施す濃度値シフトと呼ばれる前処理(ステップS102)、濃度値シフトされた原画像データに施す多重解像度分解としてのウェーブレット変換(ステップS103)、この変換により得られる係数に対するコントラスト強調のための重み付け処理(ステップS104)、重み付けされた係数に施される再構成処理としての逆ウェーブレット変換(ステップS105)、及び、逆ウェーブレット変換により得られたコントラスト強調画像の表示及び記憶(ステップS106)を含む。以下、この処理を順に詳述する。
(原画像入力)
画像プロセッサ56は、まず、操作器58を介して与えられる操作者の指令に応答して、画像メモリ54からコントラスト強調処理対象のグレイレベルのデジタル画像データ(フレームデータ)をそのワークメモリに読み込む(ステップS101)。
(濃度値シフト)
次いで、画像プロセッサ56は、読み込んだ画像データに、濃度値(シフト)と呼ばれる前処理を自動的に実行する(ステップS102)。
この濃度値シフトは、画像の平均濃度値が濃度階調(スケール:本実施形態ではグレイレベルのスケール)の中心に在るように画像全体の濃度値を濃度階調上でシフトする前処理である。この濃度値シフトを行うことで、画像表示装置のダイナミックレンジ(モニタ60)を有効に活用し、処理対象の原画像にコントラスト強調を適正に掛けることができる。すなわち、スケールアウトする画素数を抑えてコントラスト強調を確実に掛けることができる。
いま、例えば、濃度階調が8ビット(256階調)の原画像の濃度値をf(x、y)とすると、シフトさせる値=offsetは、
このため、画像プロセッサ56は、具体的には図33に示す処理を行なう。最初に、画像プロセッサ56は、式(1)に基づいて各画素(x、y)の濃度値f(x、y)を用いてシフト値offsetを演算する(ステップS102A)。次いで、画像プロセッサ56は、予め定めたアルゴリズムにより画素位置(x、y)を指定する(ステップS102B)。これにより、2次元原画像の例えば1行1列目の画素が指定される。
この後、画像プロセッサ56は全ての画素(x、y)について上述の処理が済んだか否かを判断する(ステップS102H)。この判断がNOとなる場合には、処理をステップS102Bに戻して、次の画素(x、y)に対して上述したステップS102B〜S102Gの処理を繰り返す。ステップS102Hにおける判断がYESになると、この濃度値シフトの処理は終了する。
このように前処理としての濃度値シフトを実行することで、図34に例示するように、濃度ヒストグラム上で曲線がシフトする。ヒストグラム曲線Aの如く、濃度値シフト前にはスケールアウトする画素が非常に多かったものが、濃度値シフト後にはヒストグラム曲線全体がスケール中央に移動し、スケールアウトする画素が無くなるか又は少なくなる。
(多重解像度分解)
図32に戻って説明すると、次いで、画像プロセッサ56は、濃度値シフトされた原画像に対して多重解像度分解の処理を、例えばウェーブレット変換を施すことで実行する(ステップS103)。このウェーブレット変換は、一例として、そのレベルj=1〜8まで順次実行される。このレベルjとは、多重解像度分解の度合いを示し、レベルjの数値が低いほど解像度が高い(したがって、レベルj=1の場合が最も解像度が高い)。
このウェーブレット変換は、2乗可積分関数L2(R)に属する関数を基底として、この関数L2(R)に属する任意の信号を表現する手段であり、ウェーブレット(短い波:Wave-lets)関数を時間軸上でシフト或いは拡大縮小して求めた基底関数と処理対象との信号との内積である。
なお、この多重解像度解析にはウェーブレット変換が重宝であるが、その他の適宜な変換を用いることもできる。また、ウェーブレット変換を用いた場合でも、必ずしもドベシイ関数を基底としたウェーブレット変換でなくてもよく、例えばハールウェーブレットなどを用いた変換であってもよい。
図35には、n×m個の画素数の原画像S(0)(同図(a)参照)にレベルj=1のウェーブレット変換を施したときの係数画像(図35(b))、この係数画像の低周波成分の展開係数の画像S(1)にレベルj=2のウェーブレット変換を施したときの係数画像(同図(c))、及び、この係数画像の低周波成分の係数画像S(2)にレベルj=3のウェーブレット変換を施したときの係数画像(同図(d))に夫々模式的に示す。
(重み付け処理)
このようにウェーブレット変換が済むと、画像プロセッサ56は、かかる変換により得られる係数にコントラスト強調のための重み付け処理を自動的に実行する(ステップS104)。この重み付け処理は、本発明の別の特徴の一つをなす。この重み付け処理の概要を図36に示す。この重み付け処理は、原画像の濃度値の特徴(属性)に応じて行なわれる。
<基準重みの自動設定>
まず、画像プロセッサ56が自動的に行う基準重みの設定(指定)について説明する(ステップS104A)。
前述したウェーブレット変換によりサブバンドの低周波成分の係数sと高周波成分の係数wとが各レベルj(本実施形態ではj=1〜8)の下で得られる。画像の濃度勾配情報は高周波成分に含まれているので、この高周波成分を操作することでコントラストの強調(又は調整)を行なうことにする。そのために、各レベルjのサブバンドの高周波成分を重み付けすることにする。この重みをα(j)で表記する。
この重みα(j)をいかに演算してどのように調整するか(重みの自動設定)について説明する。
本発明者は、重みα(j)と濃度ヒストグラムの関係について研究して幾つかの特徴を見出した。その一つは、重みα(j)の値をレベルjの値に拠らずに同一の値に設定すると、重みα(j)の値の大きさに比例して画素濃度値のとり得る範囲が増加することである。しかし、この重みα(j)をあまり大きく設定し過ぎると、濃度値0〜255の範囲からスケールアウトする画素が多くなって好ましくないことも分った。そこで、本実施形態では、スケールアウトする画素数の全画素数に対する割合から自動的に重みα(j)を設定するように構成する。このためには、まず、以下のようにして基準となる重みα0(=α(1))値を決める。
この基準重みα0は、コントラスト強調される画像のうち、最も周波数の高い(高分解能)の画像(レベルj=1の画像)を最優先させるために与えられるもので、この画像が最も大きな重み(=基準重みα0)で重み付けられる。
なお、この基準重みα0の値は、条件設定によって変わるが、一例としては、3〜4程度の値を採る。
<重み関数の設定>
上述のように基準重みα0が処理対象の原画像自身の濃度ヒストグラム、すなわち原画像の属性から決まると、画像プロセッサ56はその基準重みα0を用いて予め定めた複数種のパターンに応じた重み関数を自動的に設定する(ステップS104B)。
つまり、画像プロセッサ56は、重みα(j)をサブバンド毎に変化させることでコントラストの強調効果も変わるので、本実施形態では、決定された基準重みα0を下記の演算式に当てはめて5種類の重み関数を演算する。これにより設定された5種類の重み関数の関数値は、レベルj毎に、例えばテーブルに保管・記憶される。
このうち、式(8)に基づいて設定される重み関数は、図37の直線Aで示すように、レベルjの値に拠らずに、常に一定値α0(=基準重み)の重みα(j)を採る。この重みα(j)=α0は、強調する画像のうちの最も周波数の高い(高分解能)の画像成分に与える重みである。
また、式(10)に基づいて設定される重み関数は、図37の直線B1で示すように、レベルj=1のときに重みα(j)=基準重みα0となり、この値からレベルjが上がるにつれて直線的に低下し、レベルj=8のときに重みα(j)=1の値を採る。この重みα(j)=1を与える最高位のレベルj=8の画像成分は、原画像全体の平均の濃度値を意味し、本実施形態では濃度値シフトを前処理として行なっているため、かかる平均濃度値=128に対する重みということになる。
式(9)に基づいて設定される重み関数は、図37の曲線B2で示すように、レベルj=1のときに重みα(j)=基準重みα0となり、この値からレベルjが上がるにつれて緩やかなS字状の非線形な軌跡を画いて低下し、レベルj=8のときに重みα(j)=1の値を採る。具体的には、レベルjが1から上がるにつれて下に緩やかに膨らんだ重み曲線を画きながら、途中のレベルj=4を境にして上に緩やかに膨らんだ重み曲線をみながら、最終的にはレベルj=8で重みα(j)=1に収まる。
さらに、式(11)に基づいて設定される重み関数は、図37の曲線B3で示すように、レベルj=1のときに重みα(j)=基準重みα0となり、この値からレベルjが上がるにつれて緩やかに低下するが、レベルjが小さいうちの低下率は低く、レベルjが高い後半部分に急激に低下するという重み曲線を画いている。これとは反対に、式(12)に基づいて設定される重み関数は、図37の曲線B4で示すように、レベルj=1のときに重みα(j)=基準重みα0となり、この値からレベルjが上がるにつれて重みは低下するが、レベルjが小さいうちの低下率は高く、レベルjが高い後半部分に低下率が飽和するという重み曲線を画いている。
これらの複数種の重み関数のうち、直線A及びB1及び曲線B2〜B4で表される重み関数は単調非増加関数として分類することができ、直線B1及び曲線B2〜B4で表される重み関数は単調減少関数として分類することができる。
直線B1及び曲線B2〜B4で示す重み関数がレベルjに応じて非一定の重みを採る重み関数(単調非増加関数)であって、このうち、曲線B2〜B4で示す重み関数は非線形の重み関数である。因みに、直線Aは一定値の線形の重み関数である。また、直線B1の重み関数も線形の重み関数である。
このように複数種の重み関数を設定するのは、処理対象の原画像がどのような画像内容(濃度値の属性)を有していても、その画像内容に応じた適正なコントラスト強調の選択の幅を広げるためである。
ここで、図37に示した各種の重み関数の一般形を例示する。この重み関数は、変数jに関するべき関数であって、
α(1)=α0及びα(8)=1を通り、且つ、j=1〜8については単調非増加の関数として表すことができる。実係数an、an−1、…、a0を適宜な値に設定することにより、前述した図37に示す曲線B1〜B4のように重み関数を変化させることができる。なお、直線Aで表される関数は、α(8)=1という条件を満たさないが、強調のための全ての重みを一定にした場合として用いられる。
なお、最高レベルjがどこまでの値になるかということは、画像の大きさ(マトリクスサイズ)に依存する。例えば、画像のマトリクスサイズ=256×256の場合には最高レベルj=8となり、画像のマトリクスサイズ=1024×1024の場合には最高レベルj=10となる。このため、最高レベルj=10までの重み関数が必要な場合、レベルj=1で重みα(j)=α0となり、レベルj=10で重みα(j)=1となるように減少する重み関数が用いられる。
<重み関数の選択>
次いで、演算処理プロセッサ13は上述のように基準重みα0に応じて自動設定した複数種の重み関数から、原画像の濃度値の属性に応じた最適な重み関数を選択(指定)する(ステップS104C〜S104J)。
前述のように、本実施形態にあっては、高周波成分の重みα(j)を制御して再構成(逆ウェーブレット変換)を行ない、コントラスト強調された画像を生成するのであるが、本発明者が行なった研究によれば、重みα(j)をいかに与えるかによって、その結果であるコントラスト強調の度合いが異なることが分っている。
これを説明すると、一般的に、重み関数を図37の直線A(式(9))のように均一重みに設定してコントラスト強調を行なうと、スケールアウトが目立つようになる。これは、重みα(j)をレベルjの値に拠らずに一定したことで、ダイナミックレンジは広がるが、選択される濃度値が限定されることに因る。また、重み関数を図37の曲線B4(式(12))のように非線形に設定した場合、レベルjが高いところでの重みα(j)が小さいので、コントラスト強調の度合いは低い。
これに対して、重み関数を図37の曲線B2の曲線(式(9))、直線B2(式(10))、又は曲線B3(式(11))で表される非一定の重み関数を採用した場合、スケールアウトを抑制しつつ、原画像の内容の細かい特徴までも良く強調できる。
しかしながら、必ずしも非一定の重みα(j)が万能ではないことも同時に分っている。例えば画像に写っている「空」のように特定の濃度値が多く存在する部分を有する原画像の場合、非一定の重み関数を適用すると、かかる部分でアーチファクトが発生することも分っている。このような原画像の場合、一定の重み関数を採用した方がアーチファクト抑制の観点から無難である。
つまり、原画像に「空」のような一定濃度値の領域が多いのか、「家」の屋根、壁のように濃度値がシャープに変化する領域があるのか、「人物像」のように濃度値の変化が多いのかなど、原画像の濃度ヒストグラムがどのような分布を示すのかということを考慮した重み関数の選択が必要になる。つまりは、処理対象である原画像の濃度値の特徴を判断し、適切な重み関数を選択(切換)することが重要なのである。
そこで、本実施形態では、この重み関数を適切に選択するための指標として、原画像の濃度値に含まれる低周波成分に対する高周波成分の割合を基礎的な指標として採用する。これは、かかる割合が原画像の特徴を判別する一つの指標になり得ることを見出したことに拠る。さらに、別の指標としては、累積ヒストグラムから得られる最大傾斜も有効である。本実施形態の場合、原画像の特徴を判別する手法として、上述の「高周波成分の割合」と「累積ヒストグラムの最大傾斜」を組み合わせて使用し、判別を高度化させるようにする。なお、処理の簡単化を重視した場合、「累積ヒストグラムの最大傾斜」の情報を用いずに、「高周波成分の割合」のみを用いた判別も可能である。
以上のことを踏まえて、図36に戻って説明する。画像プロセッサ56は、各レベルjでのウェーブレット変換による多重解像度分解の係数情報から、低周波成分の絶対値の和に対する高周波成分の絶対値の和の割合Rをレベルj毎に演算する(ステップS104C)。これにより、例えば、レベルj=1〜8まで7個の割合Rが演算される。
次いで、画像プロセッサ56は、この割合Rが予め定めた閾値Rth以下か否かを判断する(ステップS104D)。
この判断がYES、すなわちR≦Rth以下となる場合、画像プロセッサ56は累積濃度ヒストグラムの最大傾斜INCmaxを演算する(ステップS104E)。累積濃度ヒストグラムの最大傾斜とは、濃度ヒストグラムを積分して得た曲線のうちの最大傾斜を言う(図38参照)。
この最大傾斜INCmaxが得られると、画像プロセッサ56は最大傾斜INCmax≧閾値INCthか否かを判断する(ステップS104F)。ここで、閾値INCthは事前に設定した所望の値である。この判断でYES、すなわち最大傾斜INCmax≧閾値INCthの条件が成立する場合、画像プロセッサ56は重み関数として、式(8)に基づく一定重みα(j)の関数を選択する(ステップS104G)。
これに対して、ステップS104FでNOの判断、すなわち最大傾斜INCmax<INCthとなるとき、及び、前述したステップS104DでNO、すなわち割合R>Rthとなるときには、一例として、式(9)に基づく非線形の重みα(j)(図37の曲線B2参照)を選択する(ステップS104H)。なお、このステップS104Hにおいて、式(9)〜(12)基づく適宜な重みα(j)を選択するようにしてもよい。
このステップS104D〜S104Hまでの処理は、原画像の大きさに応じて予め決めた所定数のレベルj(例えばj=1,2)の夫々について繰り返し実行される(ステップS104I)。例えば、画素数256×256の2次元画像の場合、レベルj=1,2の夫々について割合R≦Rthか否かが判定され、上述した処理が繰り返される。また、画素数1024×1024の2次元画像の場合、レベルj=1,2,3の夫々について割合R≦Rthか否かが判定され、上述した処理が繰り返される。
このように、画素数が多くなるほど判定対象のレベルjの数を多くすることで、原画像の濃度値が有する属性・特徴をきめ細かく判別することができる。ただし、かかる割合R≦Rthを全てのレベルj=1〜8について実行しないのは、通常、レベルjが高くなると、この割合Rはあまり意味が無くなるため、演算量との兼ね合いで適宜なレベルjまでに抑えることが懸命である。
このため、かかる判別及び重み関数の選択が適宜なレベルj=1,2まで行なわれると、画像プロセッサ56は全体のレベルj=1〜8に対する重み関数の傾向を推定できるので、この推定に基づいて残りのレベルj=3〜8に対する重み関数を選択する(ステップS104J)。
レベルj=1,2に対する判定の結果、レベルj=1、2共に、式(9)に基づく非線形の重み関数が選択される場合もあるし、式(8)に基づく一定値の重み関数が選択される場合もある。また、レベルj=1で式(9)に基づく非線形の重み関数が選択されるが、レベルj=2で式(8)に基づく一定値の重み関数が選択される場合もある。そこで、ステップS104Jでは、一例として、レベルj=2で選択した重み関数をレベルj=3〜8に対しても適用すればよい。なお、高い方のレベルjについては重み付けを省略する(すなわち、重み=1を設定する)こともできる。
このように原画像の濃度値が有する属性・特徴に応じた最適な重み関数がレベルj毎に自動的に設定されると、画像プロセッサ56は、その重み関数の関数値(テーブル)を参照して重みα(j)の値を設定する(ステップ104K)。
画像プロセッサ56は、この後、その処理を前述した図32のステップS105に移して、設定した重みα(j)を高周波成分に与えた画像再構成処理を行う。この処理は下記の式に基づく逆ウェーブレット変換で行われる。
この画像は、ステップS105において、表示器17に表示されるとともに、その画像データが例えば画像データ記憶装置12に格納される。
なお、上述した一連の処理において、原画像における、濃度シフトの対象領域(濃度平均値を演算する領域)、多重解像度分解を行い対象領域、画像の特徴(濃度値の特質)の判別、及び、重み付け関数の設定に要するそれぞれの領域は同一領域とすることが望ましい。
(作用効果)
このように、パノラマ画像上で指定された局所的な領域に上述したコントラスト強調処理を掛けることができる。これにより、前述した第1の実施形態における作用効果に加えて、かかるコントラスト強調処理に拠る種々の優位性を享受することができる。
まず、前処理として原画像の濃度値シフトを行なっているので、濃度階調度のダイナミックレンジを有効に利用でき、その後に行なうコントラスト強調処理を適切化させることができる。
また、重みα(j)の値をレベルj毎に変えているので、再構成画像は複数の濃度レベルを使うことになり、スケールアウトを抑えつつ、ブロックアーチファクトを抑制しかつ低周波成分の構造物を見せながら、原画像の細かい特徴まで適切にコントラスト強調でき、優れた階調表現性を得ることができるとともに、画像全体としての広い濃度範囲のコントラストが常に適切に強調される。
さらに、従来の各種の画像コントラスト強調法とは違って、本実施形態では、「低周波成分の絶対値に対する高周波成分の絶対値の割合」と「累積ヒストグラムの最大傾斜」を組み合わせて使用することで、画像の特徴を自動的に且つ的確に把握してコントラスト強調を行なっている。このため、コントラスト強調画像の中でアーチファクトを大幅に抑制でき、パノラマ画像に関する画質を向上させることができる。
このように本実施形態に係るコントラスト強調法によれば、濃度値の変化の小さい領域で雑音を強調し過ぎることが無く且つ画像全体の質感を保ちつつ、原画像の特徴に応じたコントラスト強調を行なうことができる。このため、歯科の読影に有効なパノラマ画像を提供することができる。
さらには、前述したように、濃度シフトを行っているので、ダイナミックレンジを有効に利用してメリハリのある画像を提供できるとともに、滑らかな重み係数の設定によってブロックアーチファクトの発生を確実に抑制して画質を上げることができる。
さらに、従来の幾つかの手法に係るコントラスト強調法とは違って、多重解像度分解した後の高周波成分の係数に重み付け処理を施すだけであるため、演算量はそれほど多くならず、演算負荷の増加を抑制できる。また、この重み付けが常に殆ど画像の特徴とマッチしており、画像の内容によっては、過度なコントラスト強調が起こったり、ブロック状のアーチファクトが発生し易くなったりするといったことも著しく軽減される。
ところで、本実施形態にあっては、図32に代表的に示す一連のコントラスト強調処理は画像プロセッサ56により自動的に実行される。このため、操作者は操作器58を介して処理実行を指示するだけで済む。しかも、この自動化されたコントラスト強調は、前述したように原画像の特徴に基づいて行なわれる。このため、操作者にとって作業を省力化できる上に、的確にコントラスト強調された画像を得ることができる。
なお、このパノラマ画像撮影装置に適用可能なコントラスト強調処理は、必ずしも上述したものに限定されるものではなく、従来良く知られている手法で実施してもよい。それらの手法として例えば、ヒストグラムを操作するHistogram Equalization (HE)法、コントラスト強調に局所性を与え且つコントラスト強調が過度になることを抑制するContrast Limited Adaptive Histogram Equalization (CLAHE)法、画像の濃度勾配の情報を用いた方法などがある。このため、これらのコントラスト強調処理の参照文献を以下にリストアップしておく。
W.K. Pratt: Digital image processing, John Wiley & Sons, New York, 1978
S.M. Pizer, et al.:"Adaptive histogram equalization and its variations,"Comput. Vision, graph. image proc., vol.39, pp.355-368, 1987.
S.G.Mallat, S.Zhong:"Characterization of signals from multiscale edges,"IEEE Trans. PAMI, vol. 14, pp.710-732, 1992
J. Lu, et al.:"Contrast enhancement via multiscale gradient transformation,"IEEE Int'l Conf Imag. Proc. (ICIP), pp.482-486, 1994.
J.J.Heine, et al.:"Multiresolution statistical analysis of high-resolution digital mammograms,"IEEE Trans. Medical Imaging, vol.16, pp.503-505, 1997
K.V.Velde:"Multi-scale color image enhancement,"IEEE Int Conf Image Proc (ICIP), vol.3, pp.584-587, 1999
米国特許第5,467,404号公報
米国特許第5,960,123号公報 (第3の実施形態) 次に、図39及び図40を参照して、本発明のパノラマ画像撮影装置に係る第3の実施形態を説明する。なお、前述と同様のハードウエア構成要素には同一の参照符号を用いる。
この実施形態に係るパノラマ画像撮影装置は、患者の歯列が理想的なものではなく、とくに、歯列の中に歯同士が重なっている場合でも、その部分の重なり具合や前後関係を適切に読影することができる機能を有する。このように歯と歯が重なっている場合、パノラマ画像にはその重なりの部分が白く写り、読影できないか又は精度の高い読影をすることができないという問題があった。
この問題は、読影時において、図19,20に示した読影処理の最中の適宜なタイミングで、又は、その読影処理の後に引続いて、後述する有効幅制御処理を行うことで解決される。
この有効幅制御処理は、コントローラ57がソフトウエア処理として、検出器32の検出面32Aの横方向の有効幅を制御するものである。詳しくは、検出器32が移動される横方向における当該検出器32のX線入射の有効幅と当該有効幅の位置とをパノラマ画像のデータについて自在に制御ものである。このため、コントローラ57により機能的に実現される部分断面像(ROIで指定された部分的な断面の画像)の生成機能は、この有効幅制御処理の機能を有している。この有効幅制御処理は、前述した第1の実施形態及び第2の実施形態の夫々において実行することができる。
図39(A),(B)に互いに隣接する歯1、2が互いに重なっている様子を模式的に示す。そこで、検出器32のX線入射の通常の有効幅W1、例えば3.5mmを小さくして(例えばW2=2mm)、その小さくした有効幅のX線を検出器32の入射面32Aの横方向(検出器32をスキャン時に移動させる方向)の右端及び/又は左端に移動させる。この有効幅の減少及び移動の処理を、コントローラ57にソフトウエア処理で実行させる。つまり、歯が重なっている部分は、X線管31と検出器32が共に両方の歯1,2に跨っているので、読影者は、検出器の有効幅を、それを回避するような小さい値に設定し、その有効幅の部分を移動させる。これにより、画像上の歯の重なりを極力回避できる。例えば、図39(A),(B)は、X線管31及び検出器32がスキャンのための移動軌跡上の同一位置に在る状態を示しているが、検出器32の有効幅Wが狭い分、同図(B)の場合の方が同図(A)の場合よりも歯の重なりの画像への影響が少ない。
このため、この性質を活かして、読影者とコントローラ57との間で、以下の図40に概略説明する処理を行なうことで、歯同士の重なり具合を画像上で把握できる。
前述したように、歯同士が重なっている部分は前述したように、パノラマ画像上で白く写りこんでいる。このため、コントローラ57は読影者からのROI情報を受け付けて、歯同士の重なり部分と当該重なり部分を含む部分領域とを特定する(ステップS150)。次いで、コントローラ57は、その重なり部分だけ、検出器31の有効幅をその検出面31Aの左端に移動させて、その移動した状態における部分領域の画像を、画像プロセッサ56を稼動させて再構成する(ステップS151)。この有効幅の移動には、一例として、該当するフレームデータに対して関数値が1と0を採るフィルタを使用すればよい。また、再構成には前述したゲインを使用する。この後、コントローラ57は、かかる重なり部分だけ、検出器31の有効幅をその検出面31Aの右端に移動させて、その移動した状態における部分領域の画像を再構成する(ステップS152)。このように有効幅を左右にそれぞれ振った2通りの画像が生成されるので、これらの画像を比較態様でモニタ60に表示させる。このため、読影者は、表示された2通りの再構成像を目視で比較することで、隣同士の歯1,2がどのように重なっているのかということについて診断をつけ易くなる。また、何れか一方の再構成像には重なり部分の影響の少ない画像が得られるので、診断の精度も向上する。
その他の付随する効果として、検出器32の有効幅(横幅)とその位置を装置の外部、すなわち操作器58からプリセット制御できるようにするとよい。これにより、従来のパノラマ断層軌道上で、歯の重なりが観測される場所において、等価的に検出器32の横幅とその位置を制御すれば、X線管31と検出器32のジオメトリが歯の重なりを可能な限り避けられるように設定することにより、従来診断の難しかった歯の重なりのある部分のパノラマ画像上での重なりを極力減らすことができ、診断を容易にすることもできる。
(第4の実施形態)
次に、図41〜図44を参照して、本発明のパノラマ画像撮影装置に係る第4の実施形態を説明する。なお、前述と同様のハードウエア構成要素には同一の参照符号を用いる。
この実施形態に係るパノラマ画像撮影装置も、前述の第3の実施形態と同様に、歯同士の奥行き方向の重なりがあっても、その重なりを回避して歯同士の間の構造を確実に表示することができることを特徴とする。
これを実現するため、本実施形態に係るパノラマ画像撮影装置は、図41に示す、X線入射面82Aを持つデジタルタイプの半導体検出器82を備えている。同図に示す如く、この検出器82のX線入射面82Aは、X線入射方向から見て略十字形を成しており、横方向(X方向)に広がるより広角の第1の入射領域K1とその上下に広がる縦方向(Y方向)の第2の入射領域K2とから成る。このうち、第1の入射領域K1のサイズは、例えば2.5〜7.5cm(横方向長さLA)×10cm(縦方向長さLB)程度に形成されており、ラインセンサではなくエリアセンサの範疇に入る2次元画素領域を有している。とくに、横方向長さLAは従来のラインセンサの範疇に入る幅よりも極力大きいことが望ましい。また、縦方向長さLBは患者の歯茎の上下領域を十分カバーできるように設定されている(仮想線Hを参照)。
一方、第2の入射領域K2は、歯茎以外の領域もある程度カバーできるように、その横方向の幅は小さいライン状の画素領域を有している。この第2の入射領域K2を細長く形成している理由は、あまり必要では無い画素領域を減らして信号処理及び演算処理の量を減らすためである。なお、それらの処理量が問題にならない場合、この検出器82の入射領域は、第1、第2の入射領域K1、K2をカバーする矩形状にしても構わない。
この検出器82は、その第1、第2の入射領域K1,K2の各画素から、前述した検出器32と同様に、透過X線の強度に対応したデジタル量の検出信号を出力することができる。
この検出器82は、図42に示すように、X線管31に対峙して配置され、前述したように、予め設定した標準面を焦点としてスキャンするように被検体Pの口顎部の周りを回転移動する。この結果、検出器82の第1の入射領域K1は横方向、すなわちスキャンによる移動方向に広いので、歯列を透過するX線パスの視野方向は広がり、その中の幾つかのX線パスは歯同士の重なり部分の隙間(歯と歯の隙間)をも透過する。つまり、第1の入射領域K1には、歯の重なっていない方向から見たX線パスに沿った透過X線も入射する。
このため、コントローラ57は、この検出器82を用いて収集したフレームデータを用いて標準面のパノラマ画像Ppanoを前述と同様に再構成して表示する(図43、ステップS161、S162:図44参照)。次いで、コントローラ57は、オペレータの操作情報に基づいてパノラマ画像Ppanoに部分的な視野領域をROIにより指定する。(ステップS163:図44)この部分的な視野領域は、パノラマ画像Ppano上で歯同士が奥行き方向において重なっている又はそのような疑いのある部分に指定することが好適である。次いで、コントローラ57は、その部分的な視野領域の大きさに相当する、前記検出器82の第1の入射領域K1の部分領域RGを特定する(ステップS164:図44参照)。この部分領域RGは初期領域として特定するもので、例えば第1の入射領域K1の何れか一方の横方向の端の領域に特定される。コントローラ57は次いで、検出器82のその初期領域で収集された、フレームデータの一部のデータを用いて前述と同様に画像を再構成し表示する(ステップS165)。これにより、図44に示すように、パノラマ画像Ppano上で指定した部分的な視野領域(ROI)に画像Paが表示される。
次いで、コントローラ57は、かかる再構成及び表示を終了しない場合(ステップS166でNO)、部分的な視野領域(ROI)の大きさは変えずに、その視野領域に相当する、第1の入射領域K1上の部分領域RGを他方の端の方向に所定量だけ自動的にシフトさせる(ステップS166)。これは、かかる部分的な視野領域(ROI)の位置は変えずにX線パスの投影方向を変えたことに相当する。次いで、コントローラ57は、検出器82のその移動させた部分領域で収集されたデータ(フレームデータの他の一部のデータ)を用いて前述と同様に画像を再構成し表示する(ステップS165)。これにより、パノラマ画像Ppano上で指定した部分的な視野領域(ROI)の画像Paが別の投影角度で表示される。
以下、同様にして、コントローラ57は、かかる部分的な視野領域の画像(つまり固定した位置の部分画像)を、第1の入射領域K1で部分領域を自動的にシフトさせながら、再構成及び表示を連続して繰り返し実行する(ステップS165〜S167)。この結果、パノラマ画像Ppano上の部分的な視野領域の画像は、第1の入射領域K1上の部分領域を順次シフトさせながら、投影角度を連続的に変えて自動的に表示される。
このため、オペレータはパノラマ画像Ppano上で一回、医学的に興味のある部分的な視野領域をROIとして指定するだけで、その視野領域の位置は変えずに、投影角度の違う部分的な画像を動画として得ることができる。したがって、オペレータは、その連続的に表示される部分的な画像の中に、歯の重なりの少ない又は無い(隙間の)画像を見いだすことができる。
オペレータは、そのような歯同士の重なりが少ない又は無い画像が得られたならば(ステップS166でYES)、その画像について、前述した焦点最適化処理を実行して焦点ボケのより少ない画像Poptを得る(ステップS168:図44参照)。
このように、歯同士に奥行き方向の重なりがあっても、より広角の視野の検出器82の採用、投影角度をシフトさせながら画像を作成して歯同士の重なりが無い投影角度の検索、及び、歯同士の重なりが無い投影角度を見つけたときの焦点最適化処理を組み合わせることで、歯と歯の間の隙間の構造を描出した焦点最適化画像を得ることができる。
なお、検出器78の第1の入射領域K2の視野の程度(広角の大小)によって、観察可能な歯同士の重なりの程度は決まる。第1の入射領域K2の視野範囲が広いほど、歯同士の重なりがきつくても観察可能になる。
この一連の処理の際、歯同士の重なりを主眼にするため、第2の入射領域K2の上下方向はそれほど広い領域は必要ない。このため、第1の入射領域A1は演算負荷を減らす目的で狭く設定しており、許容される投影角度の中心部の投影角度のときに、部分視野の画像が上下方向に延びて、その伸びた部分の構造も参考程度に表示される。
また、上述した歯同士の隙間が無い投影角度の検索は、オペレータが停止の指示を出すまで自動的に繰り返して行なうようにしてもよい。
なお、本発明は上述した実施形態及び変形例で示す構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の本発明の要旨を逸脱しない範囲で、さらに適宜に変形して実施可能であり、それらの変形も本発明の概念に含まれるものである。