以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1(a)は、本発明の第1実施の形態における車両1の正面図であり、図1(b)は、車両1の側面図である。なお、図1では、乗員Pが座席11aに着座した状態を示している。また、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、乗員Pが乗車する乗員部11と、その乗員部11の下方(図1下側)に設けられる左右(一対)の車輪12L,12Rと、それら左右の車輪12L,12Rに回転駆動力を付与する回転駆動装置52(図6参照)とを主に備えて構成されている。
この車両1は、旋回時には、左右の車輪12L,12Rに同方向のキャンバー角を付与すると共に、乗員部11を旋回内輪側へ傾斜させることで(図10(a)参照)、旋回性能の向上と乗員Pの快適性の確保とを図ることができるように構成されている。
また、例えば、左右の車輪12L,12Rの内のいずれか一方の車輪12L,12Rが段差Sへ乗り上げるか(図11参照)、或いは、窪みへ落輪することで、車両1が大きく傾斜して、左右方向へ転倒するおそれが生じた場合には、左右の車輪12L,12Rの間に相対的な出力トルク差を発生させ、車両1を旋回させることで、車両1に遠心力を作用させてその左右方向への転倒を防止することができるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。乗員部11は、図1に示すように、座席11a、アームレスト11b、フットレスト11cを主に備える。座席11aは、車両1の走行中に乗員Pが着座するための部位であり、乗員Pの尻部を支持する座面部11a1と、乗員Pの背部を支持する背面部11a2とを主に備えて構成されている。
座席11aの左右両側(矢印L側及び矢印R側)には、図1に示すように、乗員Pの上腕部を支持するための一対のアームレスト11bが設けられている。アームレスト11bの一方(矢印R側)には、ジョイスティック装置51が取着されている。乗員Pは、ジョイスティック装置51を操作して、車両1の走行状態(例えば、進行方向、走行速度、旋回方向、或いは、旋回半径など)を指示する。
座席11aの前方側(矢印F側)下方には、図1に示すように、乗員Pの足部を支持するためのフットレスト11cが配設されている。また、座席11aの後方側(矢印B側)には、ケース11dが配設され、座席11の底面側(矢印D側)には、バッテリー装置(図示せず)などが配設されている。
なお、バッテリー装置は、後述する回転駆動装置52及びアクチュエータ装置53の駆動源である(いずれも図2参照)。また、ケース11dには、後述する制御装置70(図2参照)、各種センサ装置或いはインバータ装置(いずれも図示せず)などが収納されている。
左右の車輪12L,12Rは、後述するリンク機構30に支持されており、リンク機構30は、後述する連結リンク40を介して、乗員部11に連結されている(図6及び図7参照)。詳細構成については、後述する。
次いで、図2を参照して、車両1の電気的構成について説明する。図2は、車両1の電気的構成を示したブロック図である。
制御装置70は、車両1の各部を制御するための制御装置であり、図2に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、ジョイスティック装置51等の複数の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図9に図示される走行制御処理のフローチャート)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリである。
ジョイスティック装置51は、上述したように、車両1を運転する際に乗員Pが操作する装置であり、乗員Pにより操作される操作レバー(図1参照)と、その操作レバーの操作状態を検出するための前後センサ51a及び左右センサ51bと、それら各センサ51a,51bの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
前後センサ51aは、操作レバーの前後方向(矢印F−B方向、図1参照)への操作状態(操作量)を検出するためのセンサであり、CPU71は、前後センサ51aの検出結果(操作レバーの前後操作量)に基づいて、回転駆動装置52の駆動状態を制御する。これにより、車両1は、乗員Pが指示した走行速度で走行される。
左右センサ51bは、操作レバーの左右方向(矢印L−R方向、図1参照)への操作状態(操作量)を検出するためのセンサであり、CPU71は、左右センサ51bの検出結果(操作レバーの左右操作量)に基づいて、回転駆動装置52とアクチュエータ装置53との駆動状態をそれぞれ制御する。これにより、車両1は、運転者が指示した旋回半径で旋回される。
即ち、操作レバーが左右方向に操作されると、CPU71は、左右センサ51bの検出結果に基づいて、旋回方向と旋回半径とを判断し、左右の車輪12L,12Rが旋回内側へ傾斜されるように、アクチュエータ装置53を駆動制御すると共に(図8参照)、旋回半径に応じて左右の車輪12L,12Rが差動されるように、回転駆動装置52を駆動制御する。その結果、左右の車輪12L,12Rにキャンバー角が付与されると共に、乗員部11が旋回内側へ傾斜され、旋回性能の向上と乗員Pの快適性の確保とが達成される(図10(a)参照)。
なお、このように、本発明の車両1では、左右の車輪12L,12Rにキャンバー角を付与して、キャンバースラストを発生させることで、車両1を旋回させる。よって、本実施の形態では、左右の車輪12L,12Rの中心線は互いに平行に保持されており、左右に操舵されることはない。但し、操舵機構を設けても良い。
回転駆動装置52は、左右の車輪12L,12Rを回転駆動させるための駆動装置であり、左の車輪12Lに回転駆動力を付与するLモータ52Lと、右の車輪12Rに回転駆動力を付与するRモータ52Rと、それら各モータ52L,52RをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路及び駆動源(いずれも図示せず)とを主に備えて構成されている。
アクチュエータ装置53は、後述するリンク機構30を屈伸させるための駆動装置であり、リンク機構30の前方側(図7参照、矢印F側)に配設されるFアクチュエータ53Fとリンク機構30の後方側(図7参照、矢印B側)に配設されるBアクチュエータ53Bと、それら各アクチュエータ53L,53RをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路及び駆動源(いずれも図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、各アクチュエータ53F,53Bが伸縮式の電動アクチュエータ、即ち、ボールねじ機構(外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、そのねじ軸のねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有しねじ軸に嵌合されるナットと、それらナットとねじ軸の両ねじ溝の間に転動可能に装填された多数の転動体と、ねじ軸又はナットを回転駆動する電動モータとを備え、ねじ軸又はナットが電動モータにより回転駆動されることで、ねじ軸がナットに対して相対移動する機構)を利用した伸縮可能な電動アクチュエータとして構成されている。
ジャイロセンサ装置54は、車両1の傾斜状態(姿勢)を検出するための検出装置であり、車両1の傾斜角θa(図11参照)の値を検出するジャイロセンサ(図示せず)と、そのジャイロセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、車両1の傾斜角θaとは、重力の作用方向Gと乗員部11(即ち、連結部材41に穿設される貫通孔43aと貫通孔43bとを結ぶ仮想線)とがなす角度を意味し(図10参照)、後述する連結リンク40の傾斜角θC(図8参照)とは別に定義される角度である。
例えば、平坦な路面において、車両1を左旋回させるべく、連結リンク40に傾斜角θCが付与された状態において(図8参照)、右の車輪12Rが段差Sに乗り上げた場合には(図11参照)、車両1の傾斜角θaが連結リンク40の傾斜角θCよりも大きな値となる(θC<θa)。
同様に、平坦な路面において、車両1が直進走行状態(即ち、連結リンク40の傾斜角θCが0°)にあり、左右の車輪12R,12Lの一方の車輪が段差Sに乗り上げた場合にも、車両1の傾斜角θaが連結リンク40の傾斜角θCよりも大きな値となる(θC<θa)。
一方、例えば、平坦な路面において、車両1を左旋回させるべく、連結リンク40に傾斜角θCが付与された状態において(図8参照)、車輪12R,12Lの段差Sへの乗り上げなどが発生していない場合には、車両1の傾斜角θaは連結リンク40の傾斜角θCと同じ値となる(θC=θa)。
同様に、平坦な路面において、車両1が直進走行状態(即ち、連結リンク40の傾斜角θCが0°)にあり、車輪12R,12Lの段差Sへの乗り上げなどが発生していない場合にも、車両1の傾斜角θaは連結リンク40の傾斜角θCと同じ値となる(θC<θa)。
ここで、本実施の形態におけるジャイロセンサは、サニャック効果の原理を利用して動作する光ファイバジャイロにより構成される。但し、他の種類のジャイロセンサを用いることは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式のジャイロセンサや圧電式のジャイロセンサなどが例示される。
乗員重量測定装置55は、乗員Pの重量を測定するための測定装置であり、座面部11a1に配設されその座面部11a1に着座した乗員Pの重量を検出する荷重センサ(図示せず)と、その荷重センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
CPU71は、乗員重量測定装置55により測定された乗員Pの重量と、ROM72に予め記憶されている車両構成部材の重量とを合算することで、車両1全体の重量をより精度良く認識することができる。なお、車両1全体としての重量は、後述するように、車両1に作用する重力G1(図11参照)の値を算出する際などに使用される。
図2に示す他の入出力装置56としては、例えば、車両1の走行状態(走行速度や走行距離など)を検出する検出装置、その検出装置により検出された走行状態を表示して乗員Pに報知する表示装置、或いは、車両1に作用する加速度を検出する加速度センサ(いずれも図示せず)などが例示される。
次いで、図3を参照して、L及びRモータ52L,52Rについて説明する。図3(a)は、Rモータ52Rの正面図であり、図3(b)は、Rモータ52Rの側面図である。なお、Lモータ52LとRモータ52Rとは互いに同一に構成されるものであるので、Lモータ52Lについての説明は省略する。
Rモータ52Rは、上述したように、右の車輪12Rに回転駆動力を付与するための駆動装置であり、電動モータとして構成されている。また、Rモータ52Rは、いわゆるインホイールモータとして構成され、図3に示すように、車両1の外方側(矢印R側)にはハブ52aが、車両1の内方側(矢印L側)には上部及び下部軸支プレート52b,52cが、それぞれ配設されている。
ハブ52aは、右の車輪12Rのホイール12Raがハブナット及びハブボルトにより締結固定される部位であり(図6及び図7参照)、図3(a)に示すように、Rモータ52Rの駆動軸(図示せず)の軸心Oと同心の円板状に形成されている。Rモータ52Rの駆動軸が回転駆動されると、その回転が、ハブ52aを介して、ホイール12Ra伝達され、右の車輪12Rが回転駆動される。
上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cは、後述する上部リンク31及び下部リンク32の端部をそれぞれ軸支するための部材であり(図6及び図7参照)、図3に示すように、Rモータ52Rの側面(矢印L側面)に溶接固定されている。また、上部及び下部軸支プレート52b,52cには、上部及び下部リンク31,32を軸支するための貫通孔52b1,52c1がそれぞれ穿設されている。
なお、上部及び下部軸支プレート52b,52cは、図3(b)に示すように、それぞれ一対が所定間隔を隔てつつ互いに対向して配設されている。本実施の形態では、これら両対向間隔(矢印F−B方向寸法)が互いに等しい寸法に設定されている。
また、本実施の形態では、上部軸支プレート52bの貫通孔52b1と下部軸支プレート52cの貫通孔52c1とを結ぶ仮想線がRモータ52Rの軸心Oと直交するように構成されている。これにより、後述するように、リンク機構30を4節の平行リンク機構として構成することができる(図8参照)。
次いで、図4を参照して、上部リンク31及び下部リンク32について説明する。図4(a)は、上部リンク31及び下部リンク32の正面図であり、図4(b)は、上部リンク31及び下部リンク32の上面図である。
上部リンク31及び下部リンク32は、R及びLモータ52R,52Lに両端が軸支され、それらR及びLモータ52R,52Lと共に4節のリンク機構を構成するための部材であり(図6乃至図8参照)、図4に示すように、互いに同一の形状、即ち、正面視略矩形の板状体として構成されている。
なお、上部及び下部リンク31,32の両端に穿設される貫通孔33R,33Lは、R及びLモータ52R,52Lの上部軸支プレート52b(貫通孔52b1)に軸支される部位であり、上部及び下部リンク31,32の長手方向(図4左右方向)中央部に穿設される貫通孔33Cは、後述する連結リンク40に軸支される部位である(図6乃至図8参照)。
また、本実施の形態では、2枚の上部リンク31と2枚の下部リンク32との両端をそれぞれRモータ52R及びLモータ52Lに軸支して、リンク機構30を構成する。詳細については、後述する(図6及び図7参照)。
次いで、図5を参照して、連結リンク40について説明する。図5(a)は、連結リンク40の正面図であり、図5(b)は、連結リンク40の側面図であり、図5(c)は、連結リンク40の上面図である。
連結リンク40は、リンク機構30と乗員部11とを連結するための部材であり、連結部材41と乗員支持部材42とを主に備える。連結部材41は、上部及び下部リンク31,32との連結部となる部位であり、図5(b)に示すように、側面視略U字状に形成され、その上端部が後述する乗員支持部42に接続されている。
なお、図5(a)に示すように、連結部材41の上方(矢印U側)に穿設される貫通孔43aは、上部リンク31の貫通孔33Cに軸支される部位であり、連結部材41の下方(矢印D側)に穿設される貫通孔43bは、下部リンク32の貫通孔33Cに軸支される部位である(図6乃至図8参照)。
乗員支持部42は、乗員部11(座席11a)を底面側(矢印D側、図6参照)から支持するための部材であり、図5(a)に示すように、正面視略U字状に形成される一対の部材が、図5(b)及び図5(c)に示すように、棒状体により連結され一体化されている。
次いで、図6及び図7を参照して、リンク機構30の詳細構成について説明する。図6は、リンク機構30の正面図であり、図7は、リンク機構30の上面図である。なお、図6及び図7では、図面を簡略化して理解を容易とするために、アームレスト11bやフットレスト11cなどの図示が省略されると共に、左右の車輪12L,12Rや連結リンク40などが断面視されている。
図6及び図7に示すように、上部リンク31の両端がRモータ52R及びLモータ52Lの上部軸支プレート52bに回転可能に軸支され、同様に、下部リンク32の両端がRモータ52R及びLモータ52Lの下部軸支プレート52cにそれぞれ回転可能に軸支されることで、これら上部及び下部リンク31,32とR及びLモータ52R,52Lとにより、4節のリンク機構30が平行リンクとして構成される。
ここで、本実施の形態では、図6及び図7に示すように、一対のモータ装置(即ち、L及びRモータ52L,52R)が左右の車輪12L,12Rに回転駆動力を付与する回転駆動装置として機能するように構成したので、例えば、デファレンシャル装置を設けると共にそのデファレンシャル装置と左右の車輪12L,12Rとを等速ジョイントにより連結するといった複雑な構成を設けることなく、左右の車輪12L,12Rを差動させることができる。
同時に、本実施の形態では、かかる一対のモータ装置(L及びRモータ52L,52R)が回転駆動装置と左右(一対)の車輪支持体とを兼用する構成としたので、部品点数を低減して、構造を簡素化することができる。その結果、軽量化や部品・組立コストの削減を図ることができる。
また、図6及び図7に示すように、連結リンク40は、連結部材41が上部リンク31及び上部リンク32に軸支されると共に、乗員支持部材42が乗員部11(座席11a)を底面側から支持する。これにより、後述するように、リンク機構30の屈伸に伴って、連結リンク40を傾斜させることができ、その結果、乗員部11を旋回内輪側へ傾斜させることができる(図8参照)。
また、図6及び図7に示すように、リンク機構30の前方側(矢印F側)及び後方側(矢印B側)には、Fアクチュエータ53F及びBアクチュエータ53Bがそれぞれ配設されている。F及びBアクチュエータ53F,53Bは、上述したように、リンク機構30を屈伸させるための駆動装置であり、その両端が4節のリンク機構30の互いに隣り合わない支持軸に接続されている。
即ち、図6及び図7に示すように、Fアクチュエータ53Fは、その下端(本体部側)がRモータ52Rの下部軸支プレート52cに支持軸80Fcを介して軸支される一方、その上端側(ロッド側)がLモータ52Lの上部軸支プレート52bに支持軸80Fbを介して軸支される。これにより、Fアクチュエータ53Fが4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けされる。
また、図7に示すように、Bアクチュエータ53Bは、その下端(本体部側)がLモータ52Lの下部軸支プレート52cに支持軸80Bdを介して軸支される一方、その上端側(ロッド側)がRモータ52Rの上部軸支プレート52bに支持軸80Baを介して軸支される。これにより、Bアクチュエータ53Bが4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けされる。また、これらF及びBアクチュエータ53F,53Bが互いに交差する向きに配置される。
このように、F及びBアクチュエータ53F,53Bの両端を4節のリンク機構30の互いに隣り合わない支持軸に接続(即ち、4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛け)したので、力の作用点(例えば、図6に示すように、Fアクチュエータ53Fであれば、支持軸80Fb及び支持軸80Fc)から回転中心(Fアクチュエータ53Fの両端が接続されない残りの支持軸80Fa及び支持軸80Fd)までの距離を最大として、その分、リンク機構30の屈伸に必要な駆動力を小さくすることができる。
その結果、リンク機構30の屈伸をスムーズ(即ち、高速高精度)に行うことができると共に、アクチュエータ(F及びBアクチュエータ53F,53B)に要求される駆動性能を低く抑えることができるので、アクチュエータやその駆動源などを小型化して、軽量化と部品コストの削減とを図ることができる。
また、上記した力の作用点から回転中心までの距離を長くするべくアームをリンク機構30に更に設ける場合には、そのアームの分だけ重量が嵩むと共に、リンク機構30の屈伸時にアームやアクチュエータがリンク機構の外形よりも外方に突出し、小型化を図ることができない。
これに対し、本実施の形態のように、アクチュエータ(F及びBアクチュエータ53F,53B)の両端をリンク機構の対角線上にたすき掛けする構成であれば、アームを設けることなく上記の距離を最大とすることができると共に、リンク機構30の屈伸時にアクチュエータがリンク機構の外形から外方に突出することを回避して、小型化を図ることができる。
また、上述したように、一対のアクチュエータ(F及びBアクチュエータ53F,53B)を互いに交差する向きに配置したので、これらを互いに同方向に配置する場合と比較して、リンク機構30をいずれの方向へも均等に屈伸させ、旋回動作の安定性を確保することができる。
例えば、1のアクチュエータを4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けする構成では、リンク機構30を中立位置から1の方向(例えば、右旋回に対応)へ屈伸させるべく、アクチュエータを伸長させると、その伸長に伴って、力の作用方向とリンク機構20の節との成す角度(例えば、図8(b)において、Fアクチュエータ53FとLモータ52Lとの成す角度)が漸次0°に近づく。
即ち、アクチュエータからリンク機構30に作用する力の内のリンク機構30の節を回転させるための力成分(即ち、1の節の回転中心と力の作用点とを接続する仮想線に対して直交する方向の力成分、例えば、図8(b)において、Lモータ52Lを1の節とした場合には、その1の節の回転中心は支持軸80Fdであり、力の作用点は支持軸80bとなる。よって、仮想線は、これら支持軸80Fdと支持軸80Fbを接続する線となる)の割合が減少される。
一方、リンク機構30を中立位置から他の方向(左旋回に対応)へ屈伸させるべく、アクチュエータを短縮させると、その短縮に伴って、力の作用方向とリンク機構30の節との成す角度が漸次90°に近づく。
即ち、アクチュエータからリンク機構30に作用する力の内のリンク機構30の節を回転させるための力成分(即ち、1の節の回転中心と力の作用点とを接続する仮想線に対して直交する方向の力成分)の割合が増加される。
このように、リンク機構30を屈伸させる場合、アクチュエータを伸長させる工程では、短縮させる工程よりも大きな駆動力が必要とされる(言い換えれば、アクチュエータを短縮させる工程は、伸長させる工程よりも少ない駆動力でリンク機構30を屈伸させることができる)。
従って、アクチュエータ(F及びBアクチュエータ53F,53B)を一対備える場合、これら一対のアクチュエータを互いに同方向に配置したのでは、リンク機構30を1の方向へ屈伸させる(即ち、アクチュエータを伸長させる)工程と他の方向へ屈伸させる(即ち、アクチュエータを短縮させる)工程とに要する駆動力がそれぞれ異なることとなるため、リンク機構30の屈伸量や屈伸速度を両方向(即ち、右旋回及び左旋回)で高精度に一致させることが困難となる。
その結果、リンク機構30の屈伸、即ち、車両1の旋回動作が不安定となり、乗員Pの操作感や旋回性能の悪化を招くという不具合が生じる。更に、アクチュエータの作動制御が複雑化して、制御コストの増大を招く。
これに対し、本発明では、一対のアクチュエータ(F及びBアクチュエータ53F,53B)を互いに交差する向きに配置したので、リンク機構30のいずれの方向への屈伸も同じ駆動力で行うことができ、屈伸動作(旋回性能)の安定性を確保することができると共に、CPU71の制御コストの削減を図ることができる。
なお、本実施の形態では、図6及び図7に示すように、F及びBアクチュエータ53F,53Bの本体部側がロッド側よりも下方に位置するように配置した。これにより、重量が嵩む部位を車両1の下方に位置させ、車両1の重心位置を下げることができるので、その分、旋回性能の向上を図ることができる。
図6及び図7に示すように、リンク機構30の前方側(矢印F側)及び後方側(矢印B側)には、弾性ばね装置60F,60Bがそれぞれ配設されている。これら弾性ばね装置60F,60Bは、リンク機構30がいずれの方向へ屈伸された場合でも、そのリンク機構30に付勢力を付勢して中立位置へ復帰させるための駆動装置であり、金属製のコイルスプリングとして構成されている。
これら弾性ばね装置60F,60Bは、互いに同一材料から同一の形状に構成されており、上述したF及びBアクチュエータ53F,53Bの場合と同様に、その両端が4節のリンク機構30の互いに隣り合わない支持軸に接続されている。
即ち、図6及び図7に示すように、弾性ばね装置60Fは、その下端側がLモータ52Lの下部軸支プレート52cに支持軸80Fdを介して軸支される一方、その上端側がRモータ52Rの上部軸支プレート52bに支持軸80Faを介して軸支される。これにより、弾性ばね装置60Fが、Fアクチュエータ53Fと直交しつつ、4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けされる。
また、図7に示すように、弾性ばね装置60Bは、その下端がRモータ52Rの下部軸支プレート52cに支持軸80Bcを介して軸支される一方、その上端側がLモータ52Lの上部軸支プレート52bに支持軸80Bbを介して軸支される。これにより、弾性ばね装置60Bが、Bアクチュエータ53Bと直交しつつ、4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けされる。また、これら弾性ばね装置60F,60Bも互いに交差する向きに配置される。
このように、本実施の形態では、弾性ばね装置60F,60Bを備え、リンク機構30がいずれの方向へ屈伸される場合でも、そのリンク機構30へ付勢力を付勢して中立位置へ復帰させることができるので、F及びBアクチュエータ53F,53Bを常時駆動してリンク機構30を中立位置に保持することを不要とすることができる。よって、リンク機構30を中立位置に保持するための制御及び駆動を不要として、制御コスト及び駆動コストの削減を図ることができる。
また、F及びBアクチュエータ53F,53Bの駆動は、リンク機構30をいずれかの方向へ屈伸させる場合のみ行えば良く、リンク機構30を中立位置へ復帰させるための駆動を不要とすることができるので、その分、駆動コストの削減を図ることができる。但し、中立位置への復帰工程においても、F及びBアクチュエータ53F,53Bを駆動するように構成しても良い。これにより、復帰工程の高速化や旋回状態の安定化を図ることができる。
更に、本実施の形態では、上述したように、弾性ばね装置60F,60Bを互いに交差する向きに配置したので、上述したアクチュエータ(F及びBアクチュエータ53F,53B)の場合と同様に、互いに同方向に配置する場合と比較して、リンク機構30の中立位置への復帰動作や保持動作を安定して行うことができる。
次いで、このように構成されたリンク機構30の動作について説明する。図8は、リンク機構30の屈伸動作を説明するための模式図であり、リンク機構30の正面図に対応する。なお、図8では、R及びLモータ52R,52L等が模式的に図示されると共に、弾性ばね部材60F等の図示が省略されている。
図8(a)に示すように、リンク機構30が中立位置にある場合には、左右の車輪12L,12Rのキャンバー角は0°である。また、連結リンク40の傾斜角も0°である。そして、Fアクチュエータ53Fが伸長駆動されると、図8(b)に示すように、リンク機構30が屈伸され、左右の車輪12L,12Rに所定のキャンバー角θR,θLが付与されると共に、連結リンク40に所定の傾斜角θCが付与される。
なお、本実施の形態では、リンク機構30が平行リンク機構として構成されているので、キャンバー角θR,θLと傾斜角θCとは全て同値となる。また、Fアクチュエータ53Fが伸長駆動(短縮駆動)される場合には、Bアクチュエータ53Bは短縮駆動(伸長駆動)される。
次いで、図9を参照して、制御装置70で実行される処理について説明する。図9は、走行制御処理を示すフローチャートである。
ここで、図9の説明においては、図10及び図11を適宜参照して説明する。図10(a)は、車両1の正面図であり、左旋回中の状態を示している。また、図10(b)は、従来の車両の正面図であり、図10(a)と同様に、左旋回中の状態を示している。
即ち、図10(a)及び図10(b)は共に、紙面手前側へ向けて前進走行しつつ、紙面右側へ向けて旋回している状態(即ち、左旋回している状態)を示している。なお、図10(a)及び図10(b)では、図面を簡素化して理解を容易とするために、乗員Pの図示が省略されている。
また、図11は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、図11(a)及び図11(b)は、左右方向への転倒を防止するための制御の実行前及び実行後の状態をそれぞれ示している。なお、図11は、図8(b)に示す状態の左旋回中の車両1において、その車両1の右の車輪12Rが段差Sに乗り上げた状態に対応する。
図9に示す走行制御処理は、制御装置70の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理であり、乗員Pにより操作されたジョイスティック装置51の操作量に応じて、回転駆動装置52及びアクチュエータ装置53を駆動させることで、車両1の走行状態を制御する。
例えば、旋回指示がなされた場合には、アクチュエータ装置53を駆動制御して、左右の車輪12L,12Rに旋回内側へのキャンバー角を付与して車両1を旋回させる。同時に、乗員部11を旋回内側へ傾斜させることで、旋回内輪側に重心を移動させ、旋回性能の向上と乗員Pの快適性の確保とを図る。
また、例えば、左右の車輪12L,12Rの内のいずれか一方の車輪12L,12Rが段差Sへ乗り上げることで(図11参照)、車両1が大きく傾斜して、左右方向へ転倒するおそれが生じた場合には、左右の車輪12L,12Rの間に相対的な出力トルク差を発生させ、車両1を旋回させることで、車両1に遠心力を作用させて左右方向への転倒を防止する。
CPU71は、走行制御処理に関し、まず、ジョイスティック装置51が操作されているか否かを判断し(S1)、その結果、ジョイスティック装置51が操作されていないと判断される場合には(S1:No)、乗員Pによる車両1の走行指示がなされておらず、車両1が停車状態にあるため、この走行制御処理を行う必要がないということであるので、S2以降の処理をスキップして、走行制御処理を終了する。
一方、S1の処理において、ジョイスティック装置51が操作されていると判断される場合には(S1:Yes)、乗員Pによる車両1の走行指示がなされており、その走行指示に応じて車両1を走行させる必要があるので、S2以降の処理を実行する。
S2の処理では、ジョイスティック装置51の操作量(即ち、走行速度指示量及び旋回指示量)を検出し(S2)、その検出結果に基づいて、乗員Pによる旋回指示が有るか否か、即ち、ジョイスティック装置51の操作レバーが左右方向に操作されているか否かを判断する(S3)。
その結果、ジョイスティック装置51が左右方向に操作されており、乗員Pによる旋回指示が有ると判断される場合には(S3:Yes)、S3の処理で検出した走行速度指示量(操作レバーの前後方向操作量)及び旋回指示量(操作レバーの左右方向操作量)に基づいて、Rモータ52RとLモータ52Lとの駆動トルクをそれぞれ別個に算出する(S4)。
即ち、S4の処理では、乗員Pにより指示された走行速度(走行速度指示量)で車両1を走行させつつ、乗員Pにより指示された旋回半径(旋回指示量)で車両1を旋回させることができるように、Rモータ52RとLモータ52Lとの差動量(左右の車輪12L,12Rの内輪差)を算出する。
次いで、S4の処理で算出した駆動トルクでRモータ52RとLモータ52Lとを駆動した場合、即ち、乗員Pにより指示された車速及び旋回半径(走行速度指示量及び旋回指示量)で車両1を走行(旋回)させた際に発生する横加速度(遠心力)を算出し、その遠心力と釣り合う車両1の傾斜角(即ち、この場合は、連結リンク40の傾斜角θC、或いは、左右の車輪12L,12Rのキャンバー角θL,θR、図8参照)を算出する(S5)。
車両1(連結リンク40)の傾斜角を算出した後は(S5)、そのS5の処理で算出した傾斜角が許容範囲内の値であるか否かを判断し(S6)、算出した傾斜角が許容範囲内であれば(S6:Yes)、S8の処理へ移行するが、算出した傾斜角が、車両1の左右方向への転倒を招く傾斜角である場合(例えば、傾斜角が過大)や、F及びBアクチュエータ53F,53Bによりリンク機構30を屈伸させることができる限界傾斜角(即ち、構造上動作可能な傾斜角)を超えている場合には(S6:No)、車両1の傾斜角を再度算出し直した後(S7)、S8以降の処理へ移行する。
なお、S7の処理では、車両1の左右方向への転倒を招かず、かつ、構造上動作可能な傾斜角であって、S5の処理において算出された傾斜角に最も近い値を再算出値として車両1の傾斜角に採用する。
S8以降の処理では、まず、S4の処理において算出した差動量に基づいて、回転駆動装置52(R及びLモータ52R,52L、図2参照)の駆動制御(回転数の制御)を行うと共に(S8)、S5又はS7の処理において算出した車両1(連結リンク40)の傾斜角に基づいて、アクチュエータ装置53(F及びBアクチュエータ53F,53B、図2参照)の駆動制御(伸縮量の制御)を行い(S9)、S12以降の処理へ移行する。
これらの各処理により、リンク機構30を屈伸させ(図8参照)、図10(a)に示すように、左右の車輪12L,12Rを共に旋回内側へ傾斜させることができるので、横力によるキャンバースラストを発生させ、旋回力の向上を図ることができる。
ここで、本発明のような車両1では、トレッドが比較的狭く、車重も軽量であるため、車両1を直進時と同じ姿勢のままで(即ち、リンク機構30による傾斜を行うことなく)旋回させたのでは、図10(b)に示すように、横加速度(遠心力)によって、旋回内輪(図10(b)右側の車輪)の浮き上がりを招き、旋回時の挙動が不安定となる。そのため、十分に減速して旋回しなければ、旋回外方(図10(b)左方向)へ向けて車両が横転する。
これに対し、本実施の形態における車両1によれば、リンク機構30の屈伸に伴って、乗員部11に連結される連結リンク40を、左右の車輪12L,12Rの傾斜と同時に、かかる左右の車輪12L,12Rと同方向へ傾斜させることができる(図8参照)。
これにより、旋回時には、図10(a)に示すように、乗員部11を旋回内側へ傾斜させ、車両1の重心位置を旋回内輪側(即ち、車両1の重心位置を旋回内輪(図10(a)では左の車輪12L)の上方側)へ移動させることができるので、その分、車両重量のより多くを旋回内輪に作用させ、旋回内輪の接地荷重を増加させることができる。
その結果、遠心力(図10の矢印A)に対する対抗力を増加させることができるので、旋回内輪(図10(a)では左の車輪12L)の浮き上がりを防止すると共に、旋回外輪と旋回内輪との接地荷重比を均一化して、旋回性能の向上を図ることができる。
また、このように、旋回時に乗員部11を旋回内輪側へ傾斜させることができれば、かかる乗員部11の傾斜によって、座席上の乗員Pを横方向へ滑動させる力成分の減少を図ると共に、その分、乗員Pの尻部を座席11aの座面部11a1(着座面)に押し付ける方向の力成分を増加させることができる。即ち、乗員Pの尻部を座席11aの座面部11a1に押し付ける力として横加速度(遠心力、図10の矢印A)を作用させることができるので、その分、乗員Pに遠心力を体感させ難くすることができる。
これにより、旋回時の遠心力による乗員Pの負担や不快感を軽減することができると共に、直進走行時と同様の姿勢のままで旋回を行うことができるので、乗員Pの快適性及び操作性の向上を図ることができる。
また、旋回時に旋回内輪の浮き上がりを防止するべく、乗員P自身が旋回内輪側へ姿勢を傾けて(体重を移動させて)遠心力に対抗する必要がないので、高度な運転技術がなくても、車両1を安定して走行させることができると共に、直進時と同様の姿勢のままで運転操作を行うことができる。その結果、乗員Pの操作負担の軽減と快適性の向上とを図ることができる。
一方、S3の処理において、乗員Pによる旋回指示は無いと判断される場合には(S3:No)、ジョイスティック装置51が前後方向にのみ操作されており、乗員Pにより直進走行が指示されているということであるので、S3の処理で検出した走行速度指示量(操作レバーの前後方向操作量)に基づいて、Rモータ52RとLモータ52Lとの駆動トルクを算出する(S10)。
次いで、S10の処理で算出した駆動トルクに基づいて、回転駆動装置52(R及びLモータ52R,52L、図2参照)の駆動制御(回転数の制御)を行い(S11)、S112以降の処理へ移行する。これらの各処理により、車両1が乗員Pにより指示された走行速度で直進走行される。
なお、S10の処理で算出される駆動トルクは、車両1が直進走行するように、Rモータ52RとLモータ52Lとで同じ値となる。また、前回の処理において、車両1が旋回状態にあり、今回の処理において、直進走行が指示された場合には、S10の処理において、左右の車輪12R,12Lのキャンバー角が0°となるように、アクチュエータ装置53(F及びBアクチュエータ53F,53B、図2参照)の駆動制御(伸縮量の制御)が行われる。
このように、ジョイスティック装置51の操作状態に応じて車両1を走行させた後は(S1〜S11)、次いで、ジャイロセンサ装置54により車両1(乗員部11)の傾斜角θaを検出し(S12)、その検出した傾斜角θaがジョイスティック装置51の操作量に応じた傾斜角であるか否か、即ち、乗員部11の傾斜角θaが連結リンク40の傾斜角θCに対応した値であるか否かを判断する(S13)。
その結果、S13の処理において、車両1(乗員部11)の傾斜角θaがジョイスティック装置51の操作量に応じた傾斜角ではない、即ち、乗員部11の傾斜角θaが連結リンク40の傾斜角θCに対応した値ではないと判断される場合には(S13:No)、例えば、図11(a)に示すように、左旋回中の車両1において、旋回外輪(右の車輪12R)が段差Sに乗り上げており、車両1が旋回内輪(左の車輪12L)側に向かって転倒する可能性が生じているということである。
よって、この場合には(S13:No)、まず、現在の車両1に作用している遠心力(横加速度)A1と重力G1とを算出すると共に、その算出結果から合力F1を算出し(図11(a)参照)、その合力F1がしきい値(基準傾斜状態)を超えているか否かを判断する(S15:Yes)。
ここで、本実施の形態では、合力F1がしきい値を超えているか否かを次のように判断する。即ち、図11(a)に示すように、算出された合力F1が車両1の重心Cに作用すると仮定した場合に、重心Cから合力F1の作用方向に延びる仮想線と地面とが公差する位置P1が左右の車輪12R,12Lの対向間(トレッド内)から外れていれば、合力F1がしきい値を超えていると判断する。
一方、図11(b)に示すように、重心Cから合力F1の作用方向に延びる仮想線と地面とが公差する位置P2が左右の車輪12R,12Lの対向間(トレッド内)に位置していれば、合力F1がしきい値以下であると判断する。
S15の処理において、合力F1の値がしきい値を超えていると判断される場合には(S15:Yes、図11(a)参照)、その合力F1の値をしきい値以下とする(図11(b)参照)ための回転駆動装置52(Lモータ52L,Rモータ52R)の駆動トルクを算出し(S16)、その算出した駆動トルクに基づいて、回転駆動装置52を駆動制御した後(S17)、この走行制御処理を終了する。
具体的には、例えば、図11(a)に示すように、左旋回中の車両1の右の車輪12Rが段差Sへ乗り上げた場合には、段差Sに乗り上げている右の車輪12Rの出力トルクを増加させることで、右の車輪12R(車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪)の出力トルクを左の車輪12L(車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪)の出力トルクよりも相対的に大きくなるようにする。
これにより、左右の車輪12R,12Lの間に相対的な出力トルク差が発生し、車両1の旋回状態がより強くなる(走行速度が速くなり、かつ、旋回半径が小さくなる)ことで、図11(a)に示す状態(遠心力A1)から図11(b)に示す状態(遠心力A2)へ移行させ、より大きな遠心力を発生させることができる(A1<A2)。その結果、遠心力の増加分だけ車両1の傾斜状態を緩和して、左右方向への転倒を防止することができる。
このように、本実施の形態では、図11(b)に示すように、上述した仮想線と地面とが公差する位置P2が、左の車輪12L(車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪)よりも右の車輪12R(車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪)側に位置するように、車輪12R,12Lの駆動トルクを制御するので、車両1の左右方向への転倒を確実に防止することができる。
同時に、上述した仮想線と地面とが公差する位置P2が、左の車輪12L(車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪)と右の車輪12R(車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪)との対向間(トレッド内)に位置する、即ち、位置P2が右の車輪12Rを超えないように、車輪12R,12Lの駆動トルクを制御するので、遠心力A2の大きさが過大となり、車両1が最初の傾斜方向(図11右方向)とは反対側(旋回外輪側、図11左方向)へ向かって転倒することや、左の車輪12L(旋回内輪)が浮き上がったりすることを未然に防止することができる。
S13の処理において、車両1(乗員部11)の傾斜角θaがジョイスティック装置51の操作量に応じた傾斜角である、即ち、乗員部11の傾斜角θaが連結リンク40の傾斜角θCに対応した値であると判断される場合には(S13:Yes)、段差Sへの乗り上げや窪みへの落輪などは発生しておらず、車両1が転倒する可能性はないと判断することができるので、S14以降の処理をスキップして、この走行制御処理を終了する。
また、S13の処理において、車両1(乗員部11)の傾斜角θaがジョイスティック装置51の操作量に応じた傾斜角ではないが(S13:No)、S14の処理において算出した合力F1がしきい値以下であると判断される場合には(S15:No)、段差Sへの乗り上げや窪みへの落輪などが発生しているが、その乗り上げなどによる車両1の傾斜が軽微であり、転倒のおそれは少ないと判断することができるので、S16以降の処理をスキップして、この走行制御処理を終了する。
なお、図9に示すフローチャート(走行制御処理)において、請求項1記載の傾斜状態判断手段としてはS15の処理が、出力トルク変更手段としてはS16及びS17の処理が、請求項4の重力算出手段、遠心力算出手段及び合力算出手段としてはS14の処理が、請求項5記載のキャンバー付与手段としてはS9の処理が、それぞれ該当する。
次いで、図12を参照して、第2実施の形態について説明する。図12は、第2実施の形態におけるリンク機構130の屈伸動作を説明するための模式図であり、リンク機構130の正面図に対応する。なお、図12では、R及びLモータ152R,152L等が模式的に図示されると共に、弾性ばね部材60F等の図示が省略されている。
第1実施の形態では、上部リンク31両端の軸間距離が下部リンク32の軸間距離と同じ距離寸法とされる場合を説明したが、第2実施の形態では、上部リンク131両端の軸間距離が下部リンク32の軸間距離よりも短い距離寸法とされている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図12に示すように、第2実施の形態におけるリンク機構130は、R及びLモータ152R,152Lに上部リンク131の両端を軸支する支持軸80Fa,80Fbの軸間距離が、R及びLモータ152R,152Lに下部リンク32の両端を軸支する支持軸80Fc,80Fdの軸間距離よりも短い距離寸法とされている。
これにより、Fアクチュエータ53F等の駆動力によりリンク機構130を屈伸させた場合には、上記軸間距離に差を設けない場合(即ち、第1実施の形態における平行リンク機構としてのリンク機構30、図8参照)と比較して、乗員部11の傾斜角θCを同等としつつ、左右の車輪12L,12Rに発生するキャンバースラストの合計値を増加させることができる。
例えば、第2実施の形態におけるリンク機構130を第1実施の形態におけるリンク機構30と同寸法に形成した場合(但し、図12に示すように、上部リンク131両端における支持軸80Fa,80Fbの軸間距離のみを短くする)、リンク機構30,130を乗員部11の傾斜角θCが互いに同一角度(例えば、θC=20°)となる状態まで屈伸させる。
この場合、第1実施の形態におけるリンク機構30では、上述した通り、左右の車輪12L,12Rのキャンバー角θL,θRは共に傾斜角θCと同値となる(θC=θL=θR=20°)。これに対し、第2実施の形態におけるリンク機構130では、左の車輪12Lのキャンバー角θLは傾斜角θCよりも小さくなるものの(例えば、θL=18°)、右の車輪12Rのキャンバー角θRが傾斜角θCよりも大きくなり(例えば、θR=23°)、結果として、両キャンバー角θL,θRの平均値は第1実施の形態の場合よりも大きな値となる。
そして、キャンバー角とキャンバースラストとの間には、キャンバー角の増加に従ってキャンバースラストも増加するという関係があるため、第2実施の形態におけるリンク機構130によれば、第1実施例におけるリンク機構30と比較して、乗員部11の傾斜角θCを同等としつつ、左右の車輪12L,12Rに発生するキャンバースラストの合計値を増加させ、旋回力の向上を図ることができるのである。
更に、第2実施の形態におけるリンク機構130によれば、Fアクチュエータ53F等の駆動力によりリンク機構130を屈伸させた場合には、上記軸間距離に差を設けない場合(即ち、第1実施の形態における平行リンク機構としてのリンク機構30、図8参照)と比較して、乗員部11の傾斜角θCを同等としつつ、左右の車輪12L,12Rのトレッド幅を拡大させることができる。
即ち、第1実施の形態におけるリンク機構30では、平行リンク機構であるため、リンク機構30が屈伸された場合でも左右の車輪12L,12Rのトレッド幅W1は常に一定となるが(図8参照)、第2実施の形態におけるリンク機構130では、図12に示すように、リンク機構130の屈伸と共にトレッド幅の拡大を図ることができる(W1<W2)。これにより、旋回力と旋回安定性との向上を図ることができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記各実施の形態では、好適な実施の形態として、一対の車輪、即ち左右の車輪12L,12Rの2輪を備えた車両1を例に説明したが、車輪数は必ずしもこれに限られるものではなく、3輪を備える車両や4輪を備える車両、或いは、5輪以上を備える車両に本発明を適用することは当然可能である。なお、この場合、各車輪の配置は任意であり、また、各車輪の内の一部を補助輪(路面に対して接離可能に構成され、例えば、車両の前後方向への転倒を防止する際に路面に接地されるものなどが例示される)として構成しても良い。
上記各実施の形態では、弾性ばね装置60F,60Bの付勢力によりリンク機構30,130を中立位置へ復帰させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、弾性ばね装置60F,60Bを省略し、F及びRアクチュエータ53F,53Bの駆動力により中立位置へ復帰させるように構成しても良い。これにより、車両1全体としての軽量化を図ることができる。
上記各実施の形態では、走行制御処理において、車両1の旋回半径をジョイスティック装置51の左右方向への操作量に基づいて算出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、GPSを用いたナビゲーションシステムから得られる情報(車両1の現在位置及びその現在位置に対応する地図情報)に基づいて、車両1が通過する走行経路の旋回半径を得るように構成しても良い。
上記各実施の形態では、F及びBアクチュエータ53F,53Bがボールねじ機構により伸縮式のアクチュエータとして構成される場合を説明したが、必ずしもこの形態に限られるものではなく、他の機構を利用することは当然可能である。
他の機構としては、例えば、クランク・スライダ機構(電動モータの回転運動をクランク機構により揺動運動に変換し、この揺動運動をスライダ機構により直線運動に変換することで、伸縮式のアクチュエータを得る機構)、ラック・ピニオン機構(電動モータによるピニオンの回転運動をラックに伝達し、ラックを直線運動させることにより、伸縮式のアクチュエータを得る構成)、或いは、カム機構(非円形のカムを電動モータで回転運動させ、その回転運動するカムが弾性ばね装置の力を受けながらすべり接触でリフタを直線運動させることにより、伸縮式のアクチュエータを得る機構)などが例示される。
上記各実施の形態では、F及びBアクチュエータ53F,53Bが電動アクチュエータにより構成される場合を説明したが、必ずしもこの形態に限られるものではなく、例えば、油圧を利用して油圧シリンダを伸縮させる油圧アクチュエータとして、F及びBアクチュエータ53F,53Bを構成することは当然可能である。
上記各実施の形態では、車両1がリンク機構30を備え、旋回時には、リンク機構30を屈伸させることで、一対の車輪12R,12Lにキャンバー角を付与すると共に、乗員部11を旋回内輪側へ傾斜させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、リンク機構30を省略することは当然可能である。
上記各実施の形態では、一対の車輪12R,12Lの内の一方の車輪が段差へ乗り上げることで、車両1が傾斜して左右方向へ転倒するおそれが発生した場合に、車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪の出力トルクを増加させることで、一対の車輪12R,12Lに出力トルク差を付与して、左右方向への転倒を防止する構成を説明した(S16,S17参照)。
この構成によれば、傾斜方向と反対側に位置する車輪の出力トルクが増加される分、車両1を加速させつつ旋回させることができ、車両1の旋回速度を確保することができるので、旋回速度が速い分、車両1に作用する遠心力をより大きくして、車両1の傾斜状態を効果的に緩和させることができ、その結果、車両1の左右方向への転倒をより確実に防止することができる。
なお、このように、車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪の出力トルクを増加させる場合、車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪の出力トルクについては、現状の出力トルクを維持するように制御しても良く、出力トルクを減少させるように制御しても良い。前者の場合には、旋回速度を確保して、その分、車両1に作用する遠心力を大きくすることができる。また、後者の場合には、旋回半径を小さくして、その分、車両1に作用する遠心力を大きくすることができる。
但し、車両1の左右方向への転倒を防止するために、一対の車輪12R,12Lに出力トルク差を付与する手法としては、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手法を採用することは当然可能である。
例えば、他の手法としては、例えば、車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪に付与する制動力の大きさを増加させることで、車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪の出力トルクを車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪の出力トルクよりも相対的に大きくする構成が例示される。
これによれば、例えば、上述のように、車輪の出力トルクを増加させる場合と比較して、相対的な出力トルク差を発生させる際の応答速度の向上を図ることができる。同時に、車両1の旋回半径をより小さくすることができる。その結果、車両1に作用する遠心力をより大きくして、車両1の傾斜状態を効果的に緩和させることができるので、車両1の左右方向への転倒をより確実に防止することができる。
また、この場合には、車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪の回転を停止させるように構成しても良い。これにより、一対の車輪12R,12Lの相対的な出力トルク差をより大きくして、車両1の旋回半径を最も小さくすることができる。
その結果、車両1に作用する遠心力をより大きくして、車両1の傾斜状態を効果的に緩和させることができるので、車両1の左右方向への転倒をより確実に防止することができる。特に、本構成は、車輪の乗り上げた段差が高く、車両1の傾斜変化が急激である場合のように、緊急的に車両1の転倒を防止する必要が生じた場合に有効となる。
なお、このように、車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪に付与する制動力を増加させる(或いは停止させる)場合、車両1の傾斜方向と反対側に位置する車輪の出力トルクについては、現状の出力トルクを維持するように制御しても良く、出力トルクを増加させるように制御しても良い。前者の場合には、旋回半径を小さくして、その分、車両1に作用する遠心力を大きくすることができる。また、後者の場合には、旋回速度を確保して、その分、車両1に作用する遠心力を大きくすることができる。
また、このように、車両1の傾斜方向と同じ側に位置する車輪に付与する制動力を増加させる(或いは停止させる)構成の場合には、車両1に制動装置(例えば、車輪12R,12Lとともに回転するディスクやドラムに対して摩擦材(パッドやライニング)を押し付け、その摩擦力で車輪12R,12Lを制動するもの)を別途設けても良く、これに代えて、或いは、これに加えて、回転駆動装置52を回生ブレーキとして利用して制動力を得るように構成しても良い。なお、この制動装置又は回生ブレーキが請求項3又は4に記載の車輪制動手段に対応する。
上記各実施の形態では、車両1の左右方向への転倒が誘発される状態として、一対の車輪12R,12Lのいずれか一方が、例えば、段差に乗り上げた場合や、窪みに落輪した場合を説明したが、これらの各状態は一例として例示したものであり、他の状態が発生した場合に、本発明の転倒防止制御(一対の車輪12R,12Lに出力トルク差を発生させて車両1の転倒を防止する制御)を実行することは当然可能である。
他の状態としては、例えば、走行路面が左右方向に傾斜していることで、車両1が左右方向へ傾斜して、車両1の左右方向への転倒が誘発される状態や、車両1に横風が作用することで、車両1が左右方向へ傾斜して、車両1の左右方向への転倒が誘発される状態などが例示される。これらの場合には、上記各実施の形態の場合と同様に、ジャイロセンサ装置54により車両1の傾斜状態を監視し、その傾斜状態がしきい値を超えた場合に、転倒防止制御を実行すれば良い。
なお、これらの場合には、車輪が通過する予定の走行路面の傾斜状態や車両1に作用する風圧を光学センサや圧力センサ等で常時監視する構成を更に備えることが好ましい。これにより、走行路面の傾斜や風圧の作用によって車両1の傾斜が実際に発生する前に、転倒防止制御を予め見込み制御的に実行することができ、その結果、車両1の左右方向への転倒をより確実に防止することができるからである。
上記各実施の形態で説明した車両1において、左右の車輪12R,12Lの接地荷重をそれぞれ検出可能な加重センサ装置を更に備える構成としても良い。これにより、左右の車輪12R,12Lのいずれか一方(又は両方)が段差に乗り上げた場合などには、ジャイロセンサ装置54のみを備える場合と比較して、乗り上げ等に対する検出の応答性を高めることができると共に、左右の車輪12R,12Lのいずれの車輪が乗り上げたかをより精度良く判別することができる。
上記各実施の形態では、左右の車輪12L,12Rを回転駆動する回転駆動装置として、2のモータ装置(L及びRモータ52L,52R)を使用する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、デファレンシャル装置及び等速ジョイントを介して1のモータ装置と左右の車輪12L,12Rとを接続するように構成しても良い。
この場合には、デファレンシャル装置を、デフ機構に左右クラッチと増速及び減速ギアとが追加されたトルクトランスファデフとして構成する。これにより、増速及び減速ギアにより内部に2つの異なる回転速度を作り出すと共に、制御装置70が車両1の状況(走行速度、旋回半径等)を判断し、左右クラッチ機能によりトルクを左右に配分させることで、左右の車輪12R,12Lの出力トルクを制御する。