本発明の、リソソーム酵素をキュービック液晶組成物に包埋した複合体は、キュービック液晶組成物(後述)中に形成されるキュービック液晶構造内に、リソソーム酵素を含有するものである。以下、本発明で用いるキュービック液晶組成物について説明し、次にリソソーム酵素を含む本発明の複合体について述べる。
1.キュービック液晶組成物
(1)キュービック液晶の一般的な構造及び特徴
キュービック液晶は、両親媒性脂質が形成する様々な形態の分子会合体(球状、ロッド状、あるいは二分子膜など)が構造単位となり、規則的な三次元構造をとっている。キュービック液晶は、光学的に透明で複屈折性をもたない性質(光学的等方性)を有するため、偏光顕微鏡により直行ニコル条件で観察すると均一に暗く見え、何らのテクスチャーを示さない(等方性テクスチャー)。
キュービック液晶は、液晶構造ユニットにおける疎水性領域及び親水性領域の連続性の相違から、バイコンティニュアス型とディスコンティニュアス型に分類される。かかる「バイコンティニュアス型」とは、液晶構造ユニット中の疎水性領域と親水性領域(両親媒性脂質の親水性基と水又は水性溶媒を含む)がそれぞれ連続した(つながった)領域からなっているものである。また、「ディスコンティニュアス型」とは、液晶構造ユニット中の疎水性領域と親水性領域のうち、一方の領域が連続的な構造をとっているが、もう一方は不連続な構造(例えば球状に閉じた構造)となっているものである。
また、キュービック液晶構造は、I型とII型に分類される。液晶構造ユニットを形成する脂質分子膜が疎水基側に湾曲し、“水中油型”構造をとる場合をI型キュービック液晶、逆に脂質分子の親水基及び水(又は水性溶媒)側に湾曲して、“油中水型”構造をとる場合をII型キュービック液晶と称する。I型とII型は、両親媒性脂質/水系の相挙動から判定することが出来る。例えば、I型の場合、両親媒性脂質/水系の水含有量を増加させてゆくと、液晶構造は他の液晶構造(例えばラメラ液晶)から、さらにはミセルへと転移し、最終的には均一な水溶液となる。これに対し、II型液晶では、ある一定以上の水量となると、飽和量の水を含んだ液晶と過剰な水が共存する“液晶+過剰水”の二相となり、水量を増しても均一な水溶液となることはない。
図面に記載の図1には、結晶学的空間群Im3mに属するキュービック液晶の構造モデル(Evans, F., Wennerstrom, H., “The Colloidal Domain” VHC (1994年))を示している。
ところで、両親媒性脂質によって形成されるキュービック液晶などの液晶は、両親媒性脂質の種類と濃度によって決まるクラフト温度(TK)以上の温度でなければ形成されない。さらに液晶は、通常、両親媒性脂質の濃度や温度の変化に伴って相転移を起こすため、特定の液晶構造が安定して存在できる最高温度(Tmax)も脂質の種類や両親媒性脂質濃度に応じて決まってくる。従ってある両親媒性脂質によって形成される液晶構造は、TK−Tmaxの範囲で安定的に形成される。このようなTK−Tmaxと両親媒性脂質濃度の関係は、通常、両親媒性脂質/水系の「濃度−温度依存性相図」として示される。両親媒性脂質のクラフト温度は、このような相図を作製することによる方法などの、当業者に周知の方法により、定めることができる(例えば非特許文献1を参照)。2種以上の両親媒性脂質の混合物についても、同様の方法でクラフト温度を定めることができる。
一般にキュービック液晶は、狭い両親媒性脂質濃度範囲でしか形成されないことが多い。このため、ほんの少しの濃度変化でも液晶構造が転移してしまい、キュービック液晶の構造を利用することは、通常、非常に困難である。
(2)本発明で用いるキュービック液晶組成物中のキュービック液晶の構造及び特徴
本発明で用いるキュービック液晶組成物中では、本発明に係る1種又は複数種の両親媒性脂質(これについての詳細は「(3)キュービック液晶組成物の製造」にて後述)によって、バイコンティニュアス型でありかつII型の構造を有するキュービック液晶が形成される。
本発明におけるキュービック液晶は、図1に例示された様に湾曲した両親媒性脂質二重膜部分と、通常2〜20nm程度(特にこの範囲に限定されるものではない)の直径を有する連続した水チャネルとから構成される3次元的な規則構造を有している。
本発明で用いるキュービック液晶組成物中のキュービック液晶は、広範な温度範囲及び両親媒性脂質濃度範囲で安定的に形成される。特に、II型である本発明のキュービック液晶においては、両親媒性脂質/水系の水量が増加して液晶構造中に含有され得る最大水量を超えた場合でも、過剰の水(正確には極微量の両親媒性脂質分子が溶解している希薄水溶液)が液晶構造から分離して水相を形成して、水を飽和したキュービック液晶と過剰の水からなる二相共存状態となり、その液晶構造は保持される。過剰水の存在下でも液晶構造が保持されるというこの特徴は、水含量の多い医薬品や化粧品を製造する際に有利であるだけでなく、例えばキュービック液晶組成物を薬物送達システム用担体等として用いる上でも非常に都合が良い。本発明のキュービック液晶組成物中の両親媒性脂質濃度に特に制限はないが、通常、0.1〜90質量%の範囲であり、両親媒性脂質の種類や温度等に応じて、80質量%以下であることもあり、70質量%以下であることもあり、又は50質量%以下であることもある。
本発明のキュービック液晶組成物は、例えば10℃未満のような低温でも安定なバイコンティニュアス型II型キュービック液晶である。本発明の液晶組成物は、通常、−10〜80℃の範囲で安定なバイコンティニュアス型II型キュービック液晶が形成され、好ましくは0〜50℃、より好ましくは0〜40℃の範囲でより安定なキュービック液晶が形成されうる。両親媒性脂質のクラフト温度は、例えば、1質量%〜50質量%の両親媒性脂質を含む水溶液のDSC測定、あるいは(偏光)顕微鏡下で両親媒性脂質の融解挙動を観察すれば容易に求めることが出来る。また、厳密には相図を作製することによる慣用手法によって決定すればよい(例えば非特許文献1参照)。
なお本発明のキュービック液晶組成物は、典型的には透明なゲル状形態であるが、適切な分散剤を添加する事により粒子の平均直径で50nm〜5μm程度の液晶微粒子とすることもできる。
(3)キュービック液晶組成物の製造
本発明において使用するキュービック液晶組成物は、本発明に係る両親媒性脂質と、水又は水性溶媒とを混合することによって製造することができる。
キュービック液晶組成物の製造には、本発明に係る両親媒性脂質として、下記一般式(1)で表されるイソプレノイド型疎水鎖を有する両親媒性化合物(以下、両親媒性化合物(1)と略称することがある。)を用いることができる。
上記式中、Rは親水基であり、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0〜4の整数を表し、mは0〜3の整数を表す。Rが表す親水基としては、例えばグリセロール(2個の水酸基を持つ);エリスリトール、ペンタエリスリトール、トレイトール、ジグリセロール、キシロース、リボース、アラビノース、リキソース、アスコルビン酸(いずれも3個の水酸基を持つ);グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、トリグリセロール(いずれも4個の水酸基を持つ)などから1つの水酸基を除いた残基が挙げられる。
これらの両親媒性化合物(1)は、当業者であれば、後述の実施例等の記載を参考にすることにより、周知の有機化学合成法や生化学的製造法を利用して容易に製造することができる(例えば特開平8−245682号公報及び特開2002−226497号公報を参照)。
また、キュービック液晶組成物の製造では、両親媒性化合物(1)の中でも、バイコンティニュアス型II型キュービック液晶を形成し、かつクラフト温度が低くなる傾向の強い0.65〜0.92の範囲のIV/OV値を有する両親媒性化合物を少なくとも1種使用することが好ましい。ここで、本明細書で用いる「IV/OV値」は、有機化合物(本発明においては両親媒性化合物)の無機性値(IV)と有機性値(OV)の比率(IV/OV)として算出される値であり、有機化合物の物性と化学構造の相関を示す指標として利用されている。
本発明で用いるIV/OV値のIV、OVそれぞれの算出方法を以下に簡単に説明する。まず、OV(organic value又はorganic property value)は、両親媒性化合物中の全炭素数に20を掛け、直鎖に枝分かれがある場合は、枝分かれ1つ毎に10を減じることにより求められる。そして、IV(inorganic value又はinorganic property value)は、両親媒性化合物中の水酸基を100、エーテル酸素を20(特に環状糖のエーテル酸素は75)、エステル基を60とし、両親媒性化合物中の該当する全ての基の値を足し合わせて求められる。IV/OV値は、界面活性剤分野で多用されるHLB値と近似的に以下の関係が成り立つことが知られている:HLB=(IV/OV)×10。これらのOV、IV及びIV/OV値についての詳細は、Fujita, A., "Prediction of Organic Compounds by a Conceptional Diagram" Chem. Pharm. Bull. (Tokyo), 2, 163-173 (1954); "Formulation Design with Organic Conception Diagram" Nihon Emulsion Co., LTD (2001)[この文献は以下で入手可能である: http://www.nihon-emulsion.co.jp/pdf/ocdbook_e.pdf]; 甲田善生 著「有機概念図 -基礎と応用-」三共出版 (1984); Hanqing Wu, "Chemical Property Calculation through JavaScript and Applications in QSAR" Molecules (1999) 4, p.16-27 [この文献は以下で入手可能である: http://fr.mdpi.net/molecules/papers/40100016.pdf] などに記載されている。
キュービック液晶組成物の製造では、クラフト温度(TK)が10℃未満である両親媒性化合物(1)を少なくとも1種使用することも好ましい。
0.65〜0.92の範囲のIV/OV値を有するか又はクラフト温度が10℃未満である両親媒性化合物(1)の具体例として、例えば上記式(2)〜(12)などが挙げられる。
本発明のキュービック液晶組成物の製造においては、両親媒性化合物(1)(好ましくは0.65〜0.92の範囲のIV/OV値を有するか又はクラフト温度が10℃未満である両親媒性化合物(1))を1種使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。また、上記両親媒性化合物(1)以外の両親媒性脂質をさらに混合してもよい。
キュービック液晶組成物の製造において、両親媒性脂質を2種以上混合する場合には、特に限定するものではないが、上記式(2)〜(12)の両親媒性化合物を少なくとも1種と、それ以外の両親媒性脂質(好ましくは両親媒性化合物(1))の少なくとも1種とを混合することが好ましい。ここで、式(2)〜(12)の両親媒性化合物とは異なる種類であってそれと混合して用いるのに好適な上記式(1)の両親媒性化合物としては、例えば下記式(13)
で表される1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドがある。また、式(2)〜(12)の両親媒性化合物と混合して用いるのに好適な両親媒性脂質として、モノオレイン、モノワクセニン、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル−1,2,3−トリオール(フィタントリオール)、3,7,11−トリメチルドデカン−1,2,3−トリオール(後述する式(14))などが挙げられる。両親媒性脂質を2種以上混合する場合、混合比率は当業者が適宜定めることができるが、上記式(2)〜(12)の両親媒性化合物の総量が、それとは異なる両親媒性脂質の総量に対して1質量%以上であるのが好ましく、5〜99質量%であることがより好ましく、20〜99質量%であるのがさらに好ましい。
また両親媒性脂質を2種類以上混合する場合(一例としては、両親媒性化合物(1)と、両親媒性化合物(1)以外の両親媒性脂質とを混合する場合)、混合物としての両親媒性脂質のクラフト温度が10℃未満となるような両親媒性脂質の組み合わせ及び濃度比を用いることが好ましい。この場合に、両親媒性脂質の1つとして、式(13)の両親媒性化合物を混合することも好ましい。
なお4℃程の低温で使用するキュービック液晶組成物を製造する場合、安定性の点からは、上記式(13)の両親媒性化合物を1種類のみで使用するのは避けることが好ましい。
キュービック液晶を形成するために両親媒性脂質と混合する水又は水性溶媒としては、特に限定するものではないが、滅菌水、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水などの水;生理的食塩水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等の電解質水溶液;リン酸緩衝溶液やトリス塩酸緩衝溶液などの緩衝溶液;グリセリン、エチレングリコール、エタノール等の水溶性有機物を含有する水溶液;グルコース、シュークロース、マルトース等の糖分子を含有する水溶液;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含む水溶液;キュービック液晶を形成する両親媒性脂質に対してモル比が20%以下のオクチルグルコシド、プルロニック(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコール共重合体)等の界面活性剤を含む水溶液;細胞内液、細胞外液、リンパ液、髄液、血液、胃液、血清、唾液、尿などの体液などが挙げられる。
両親媒性脂質と混合する水又は水性溶媒の使用量は、当業者であれば各両親媒性脂質/水系の相図から容易に決定出来るが、一般には、両親媒性脂質の20質量%以上であることが好ましい。
本発明のキュービック液晶組成物を製造するためには、両親媒性脂質と水又は水性溶媒とを、十分に混合することが好ましい。特に限定するものではないが、本発明の両親媒性脂質と水又は水性溶媒は、例えば1時間〜50時間かけて混合することが好ましい。
本発明の両親媒性脂質に過剰量の水又は水性溶媒を混合しても、キュービック液晶組成物を製造することが可能である。ここで「過剰量」とは、形成されるキュービック液晶構造中に含有されうる最大水量を超えた水量を意味する。
本発明のキュービック液晶組成物を製造するためには、両親媒性脂質を水又は水性溶媒中に混合する際又は混合した後、その混合液を、キュービック液晶を形成しうる温度範囲で保温する。キュービック液晶を形成し得る温度範囲は、各両親媒性脂質の種類や濃度によっても異なるが、当業者であれば、各両親媒性脂質について決定され得る液晶の相図に基づいて、適切な温度範囲を設定することが可能である。本発明のキュービック液晶組成物の場合、キュービック液晶を形成し得る温度範囲は典型的には室温を含む比較的広い範囲に及び、特に限定するものではないが、例えば、通常、0.1〜80質量%の両親媒性脂質濃度であれば、−10〜80℃、好ましくは0〜40℃の温度範囲で混合又は保温すれば、安定に生成することができる。
本発明のキュービック液晶組成物の製造において、両親媒性脂質を2種以上、好ましくは物性の異なる両親媒性脂質を2種以上用いることにより、形成されるキュービック液晶の構造や物性を好適に変化させることができる。例えば、クラフト温度が0℃以下であるが高温域での安定性が劣る両親媒性脂質と、クラフト温度が高い両親媒性脂質の2種を混合して用いることにより、低温域から高温域まで安定にキュービック液晶を形成する組成物を製造することができる。また両親媒性脂質を2種以上用いることにより、形成されるキュービック液晶の水チャネルの直径も同時に変化させることができる。さらに、両親媒性脂質を2種以上用いることによりキュービック液晶の構造や特性を変化させることができることを利用すれば、キュービック液晶の構造を制御することが可能である。つまり、キュービック液晶組成物の使用目的に応じてその特性(例えば、格子定数、キュービック液晶の水チャネルの直径、クラフト温度、Tmax値、粘度など)を最適化することもできる。例えば、後述のように特定の高分子化合物をキュービック液晶に取り込ませる場合に、キュービック液晶の水チャネルの直径をその高分子化合物の分子量に合わせて、広げたり縮小したりすることにより、徐放速度の最適化を行なうことができる。本発明のキュービック液晶組成物は、かなり広範囲の両親媒性脂質群から任意に選択した両親媒性脂質を用いて製造できるため、キュービック液晶の物性を制御する上で自由度が高い。
一例として、単独で同じ結晶学的空間群に属すキュービック液晶を形成する2種の両親媒性脂質を用いてキュービック液晶の水チャネルの直径の制御を行なう場合を例に取り、キュービック液晶構造を制御するための計算式を以下に述べる。
混合する2種の両親媒性脂質の作るキュービック液晶の水チャネルの直径を各々、D1,D2(D1>D2)とする場合、両親媒性脂質を各々、X1、X2(X1+X2=1)のモル分率で混合した両親媒性脂質から形成されたキュービック液晶の水チャネルの直径D3は、近似的に以下の数式(i)で表される。
D3=(X1*D1+X2*D2) (i)
この式(i)を利用すれば、当業者であれば容易に目的とする水チャネルの直径を持ったキュービック液晶をデザイン出来る。
(4)キュービック液晶構造の解析
上記(3)の方法により製造される本発明のキュービック液晶組成物については、以下の方法でキュービック液晶を形成していること、バイコンティニュアス型であること、II型であることを確認することができる。
(a)偏光顕微鏡による観察
両親媒性脂質/水系がキュービック液晶を形成するか否か、また、I型かII型かを簡便に判定する方法として、ペネトレイション法が利用出来る。少量(数mg)の両親媒性脂質を顕微鏡用スライドグラス上に置き、カバーグラスでそっと圧力を加え、スライドグラスとカバーグラスの間の間隙に10ミクロン程度の厚さの両親媒性脂質薄膜(直径1〜5mm位)を形成する。スライドグラスとカバーグラス間隙側面から毛管現象で水あるいは水性溶媒を加えると、水は両親媒性脂質薄膜の外縁部から除々に内部に浸透し、両親媒性脂質薄膜/水界面から両親媒性脂質薄膜内部に向かって水含有量の勾配を形成する。これを偏光顕微鏡で観察すると、両親媒性脂質/水系の濃度に依存してどのような相が出来るのかが判定出来る。図2にペネトレイション法による両親媒性脂質/水系の偏光顕微鏡写真を示した。図2の写真には4つの領域が観察される。写真の最右領域は水領域であり、それ以外の部分は水を含んだ両親媒性脂質領域である。写真右から左に行くにつれ水含有量が減少し、最左領域は未だ水が浸透していない両親媒性脂質部である。水領域と接して水領域と同じ等方性のテクスチャーを与える領域(キュービック液晶)、明るいテクスチャーを与える領域(ラメラ液晶)、等方性のテクスチャーを与える領域(ドライの両親媒性脂質)が観察される。これにより、この脂質がキュービック液晶を形成する事が示唆される。また、キュービック液晶が過剰の水と両親媒性脂質部の界面部に安定に形成されている事からII型である事が分かる。
(b)エックス線小角散乱(SAXS)測定によるキュービック液晶の確認
キュービック液晶は偏光顕微鏡下で等方性のテクスチャーを与えるが、等方性のテクスチャーを示す領域がキュービック液晶であると結論するためにはさらなる確認をすることが好ましい。その確認のためには、エックス線小角散乱(SAXS)法により、液晶構造が立方格子を有することを調べればよい。この手順としては、所定の濃度の両親媒性脂質/水系サンプルを石英製エックス線キャピラリーチューブに入れた後、キャピラリーを酸素バーナーで封じ、SAXS測定に供すればよい。
本発明のキュービック液晶組成物においては、特に限定するものではないが、典型的には結晶学的空間群Ia3d(以下、Ia3dキュービック液晶と呼ぶ)あるいはPn3mに属するキュービック液晶(以下、Pn3mキュービック液晶と呼ぶ)または、結晶学的空間群Im3mに属するキュービック液晶(以下、Im3mキュービック液晶と呼ぶ)が形成される。Ia3dキュービック液晶は、以下の比
Pn3mキュービック液晶は、以下の比
Im3mキュービック液晶は、以下の比
を示す面間隔を与えることによって、確認することができる。また当業者に周知の方法に従って、X線小角散乱データからピーク値を算出し、さらにそれらの逆数の比を求めれば容易に空間群と格子定数を決める事ができる。過剰の水性溶媒と共存状態にあるキュービック液晶のX線小角散乱ピーク値あるいはキュービック格子の大きさは、脂質濃度によらず一定となる。従って、キュービック液晶が過剰の水性溶媒と共存状態にあることは、SAXS測定によって確認できるので、キュービック液晶がII型であるか否かを判定することも容易に可能である。
(c)「バイコンティニュアス型」の確認
バイコンティニュアス型のキュービック液晶構造を形成する湾曲した両親媒性脂質二重膜の疎水鎖の末端メチル基が接する曲面は、無限周期最小曲率表面(infinite periodic minimal surface:IPMS)と呼ばれる曲面で記述出来る事が分かっている(Hyde, S.T.; Andersson, S.; Ericsson, B.; Larsson K. Z. Kristallogr. 1984年, 168, p.213-219. Longley, W.; McIntosh, T. J. Nature 1983年, 303, p.612-614.)。例えば、Ia3dキュービック液晶の両親媒性脂質二重膜はジャイロイド曲面(gyroid surface)と呼ばれる曲面によって、Pn3mキュービック液晶の両親媒性脂質二重膜はダイアモンド曲面(diamond surface)と呼ばれる曲面によって良く記述できる。このモデルによれば、キュービック液晶中の両親媒性脂質分子の疎水鎖部の容積分率φhcは下式(ii)で表される。
式中、ωは、曲面の型によって決まる無次元の常数でジャイロイド曲面の場合は3.091、ダイアモンド曲面の場合、1.919である。dhcは両親媒性脂質二重膜疎水部の長さ、acはキュービック液晶の格子定数を表す。χu Eはオイラー常数でジャイロイド曲面の場合は−8、ダイアモンド曲面の場合は−2(Anderson, D. M.; Gruner, S. M.; Leibler, S. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988年, 85, 5364-5368.)。
このφhcは下式(iii)によって計算出来る。
式(iii)中、Mhcは両親媒性脂質分子の疎水鎖部の分子量、Mheadは両親媒性脂質分子の親水基部の分子量、Mwは水の分子量である。nL、nWはキュービック液晶中の両親媒性脂質と水のモル数、ρw、ρhc、ρheadはそれぞれ水、両親媒性脂質の疎水鎖部、両親媒性脂質の親水基部の密度である。ρhcは密度計で測定した両親媒性脂質の疎水鎖部に対応するアルコールの密度に等しい値と仮定した。
式中、nL、nWは実測可能であり、acはSAXS実験から測定出来るので、式(ii)及び(iii)から、上記dhc値を計算できる。キュービック液晶がバイコンティニュアス構造であれば、計算されたdhc値は、同じ両親媒性脂質が作るラメラ液晶の両親媒性脂質二重膜の疎水基部の厚さと等しくなる。この比較から、キュービック液晶がバイコンティニュアス構造であるか否かが判定できる。
2.キュービック液晶組成物にリソソーム酵素を包埋した複合体とその製造方法
上記キュービック液晶組成物は、そのキュービック液晶構造の水チャネル中に水溶性薬物を、一方で両親媒性脂質二重膜部分には膜蛋白質のような疎水性の薬物を包埋することができる。本発明では、このようなキュービック液晶組成物の性質を利用して、リソソーム酵素を包埋した複合体を製造する。すなわち本発明は、上記キュービック液晶組成物にリソソーム酵素を包埋した複合体に関する。
本発明の複合体は、予め製造しておいたキュービック液晶組成物にリソソーム酵素を加えて混合することにより、製造することができる。あるいは、本発明の複合体は、キュービック液晶組成物の構成要素である両親媒性脂質と、水又は水性溶媒と、リソソーム酵素とを混合することによって、製造することもできる。
本発明の複合体の製造において、リソソーム酵素は、限定するものではないが、例えば両親媒性脂質に対して0.005〜0.5質量%となるように混合すればよい。
本発明の複合体を形成させるためには、リソソーム酵素を含む上記混合溶液を、十分に混合することが好ましい。限定するものではないが、上記溶液を、例えば1時間〜3時間かけて静かに混合することが好ましい。混合する際の温度は、上述のキュービック液晶を形成しうる温度範囲であることが好ましい。
本発明においてリソソーム酵素とは、リソソーム病の原因となる酵素の平常型(機能又は活性を有する野生型若しくは変異型)であってリソソーム病の患者における酵素補充療法に利用できる可能性があるものを言う。リソソーム酵素としては、特に限定するものではないが、例えば、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、α−L−イズロニダーゼ、アリールスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、イズロネート2−スルファターゼ、セラミダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ヘパランN−スルファターゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、アセチルCoA−α−グルコサミニドN−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチル−グルコサミン−6スルファターゼ、ガラクトース6−スルファターゼ、アリールスルファターゼA、BおよびC、アリールスルファターゼAセレブロシド、ガングリオシド、酸性β−ガラクトシダーゼGM1ガルグリオシド、酸性β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、α−フコシダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、糖タンパク質ノイラミニダーゼ、アスパルチルグルコサミンアミダーゼ、酸性リパーゼ、酸性セラミダーゼ、及びリソソームスフィンゴミエリナーゼなどが挙げられる。
本発明において用いるリソソーム酵素は、天然のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、突然変異により又は遺伝子工学的にそのアミノ酸配列に変化が生じたものであってもよい。
本発明において用いるリソソーム酵素は、ヒト由来のものであってもよいし、ヒト以外の他の哺乳動物(例えば、ゴリラ、チンパンジーなどの霊長類、ブタなどの家畜、又はマウス、ラットなどのげっ歯類)由来のものでもよい。本発明において用いるリソソーム酵素は、ヒトから単離精製してもよいし、ヒト以外のそれら哺乳動物から単離精製してもよい。本発明において用いるリソソーム酵素はまた、遺伝子工学的手法により組換え生産したものでもよい。
本発明において用いるリソソーム酵素は、糖鎖付加、リン酸化などのタンパク質修飾がされたものでもよい。そのタンパク質修飾は、天然の翻訳後修飾によるものであっても良いし、突然変異や環境変化によって変化したものであってもよいし、人工的に改変されたものであってもよい。
限定されるものではないが、本発明のリソソーム酵素は、ヒトにおけるリソソームへの輸送シグナルであるマンノース−6−リン酸を非還元末端に有する糖鎖が付加されたものであることが好ましい。従って一実施形態では、本発明のリソソーム酵素は、マンノース−6−リン酸含有酸性糖鎖が付加されたリソソーム酵素である。そのような本発明のリソソーム酵素は、哺乳動物細胞中で組換え生産することによって製造可能である。あるいは本発明のリソソーム酵素は、そのようなリン酸含有酸性糖鎖を酵母での組換え生産法により付加したリソソーム酵素であってもよい。酵母を用いたそのような製造方法としては、例えば国際公開WO 02/103027に開示されている方法を用いることができる。簡単に説明すると、この国際公開WO 02/103027に開示された方法は、以下の1)及び2)の工程を含むものである:
1)リン酸化コア糖鎖を産生する糖鎖生合成変異酵母株を用いて、これに目的のリソソーム酵素をコードする遺伝子を導入し、マンノース−1−リン酸付加酸性糖鎖含有糖蛋白質を発現させる工程、
2)得られたマンノース−1−リン酸付加酸性糖鎖含有糖蛋白質をα−マンノシダーゼ処理してそのマンノース部分を切除し、マンノース−6−リン酸含有糖鎖含有糖蛋白質を生成させる工程。
本発明で用いるキュービック液晶組成物は、キュービック液晶構造内に高濃度のリソソーム酵素を包埋することができる。例えばキュービック液晶組成物を構成する両親媒性脂質1g当たり、0.05mg〜20mgのリソソーム酵素が含有されうる。
本発明の複合体は、リソソーム酵素を単量体又は多量体(例えば二量体〜四量体)の形態で包埋することができる。本発明の複合体は、複数のサブユニットからなる多量体として生体内で活性を示すリソソーム酵素を多量体形態で包埋することができるため、当該リソソーム酵素の生体内活性を保持することが可能である。なお多量体の状態で包埋されるリソソーム酵素の分子量は、多量体全体として算出するものとする。
本発明の複合体では、限定するものではないが、通常、そのキュービック液晶構造の水チャネル中にリソソーム酵素を包埋することができる。本発明の複合体中で形成されるキュービック液晶構造はかなり強固であり、その構造内に取り込んだリソソーム酵素を物理的にも生物学的にも外部環境から非常によく保護することができる。一方、本発明の複合体はまた、ゲル、微粒子などの様々な形態へと容易に成形することが可能である。
本発明の複合体は、リソソーム酵素を包埋し、それを徐放することができるため、リソソーム病の治療に使用する薬物送達システム(Drug Delivery System;DDS)用の製剤にも有利に使用することができる。例えば、本発明のキュービック液晶組成物にリソソーム酵素を包埋した複合体を製造し、その複合体をリソソーム病で特に大きな障害が認められる体内組織中に埋め込めば、リソソーム酵素をその組織に集中的に投与することができる。また本発明の複合体を患者に注射すれば、長期にわたってリソソーム酵素を徐放させることができる。
本発明は、上記キュービック液晶組成物にリソソーム酵素を包埋させた複合体を製造し、それを利用することによって、リソソーム酵素をキュービック液晶構造中に保持及び/又はそこから徐放させる方法にも関する。
3.キュービック液晶組成物にリソソーム酵素を包埋した複合体を用いた医薬組成物
本発明は、上記複合体を含有する医薬組成物にも関する。本発明の医薬組成物には、本発明の複合体に加えて、医薬製剤上許容される担体、希釈剤及び/又は添加剤などを配合することができる。それらの例としては、例えば水、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。該担体、添加剤、希釈剤は、剤形に応じて適宜選択される。
本発明の医薬組成物は、経口経路又は非経口経路のいずれでも投与することができるが、特に非経口経路により全身的に又は局所的に投与することが好ましい。本発明の医薬組成物の経口投与用剤形としては、限定するものではないが、例えばカプセル剤、ジェル剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物の非経口投与用剤形としては、限定するものではないが、例えば皮下注射剤、筋肉内注射剤、静脈注射剤及び輸液剤などの液剤、坐剤、点鼻薬、うがい薬、皮下又は組織内などへの体内埋込型製剤などが挙げられる。
本発明の医薬組成物には、製剤上一般的に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、香料、着色剤などを配合して製剤化してもよい。
本発明の医薬組成物は、限定するものではないが、特にリソソーム病治療用製剤として有用である。本発明の医薬組成物を投与する対象は、主としてヒト、家畜、愛玩動物、実験(試験)動物等を含む哺乳動物であり、中でも、リソソーム病を発症しているか又はリソソーム病を発症する危険性が高い哺乳動物患者(より好ましくはヒト患者)が好適である。リソソーム病としては、例えば、限定するものではないが、ファブリー病(α−ガラクトシダーゼA欠損)、ポンペ病(α−グルコシダーゼ欠損)、ゴーシェ病(β−グルコシダーゼ欠損)、フルラー症候群(α−L−イズロニダーゼ欠損)、マロトー・ラミー症候群(アリールスルファターゼ欠損)、モルキオ症候群(N−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ欠損またはβ−ガラクトシダーゼ欠損)、ハンター症候群(イズロネート2−スルファターゼ欠損)、ファーバー病(セラミダーゼ欠損)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ欠損)、スライ症候群(β−グルクロニダーゼ欠損)、サンフィリポ症候群A(ヘパランN−スルファターゼ欠損)、サンフィリポ症候群B(N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ欠損)、サンフィリポ症候群D(アセチルCoA−α−グルコサミニドN−アセチルトランスフェラーゼ欠損又はN−アセチル−グルコサミン−6スルファターゼ欠損)、モルキオA(ガラクトース6−スルファターゼ欠損)、多発性スルファターゼ欠損症(アリールスルファターゼA、BおよびCの欠損)、異染性白質萎縮症(アリールスルファターゼAセレブロシド欠損)、ムコリピドーシスIV(ガングリオシド欠損)、GM1ガングリオシドーシス(酸性β−ガラクトシダーゼGM1ガルグリオシド欠損)、ガラクトシアリドーシス(酸性β−ガラクトシダーゼ欠損)、テイ・サックス病およびその変異種(ヘキソサミニダーゼA欠損)、ザンドホフ病(ヘキソサミニダーゼB欠損)、フクシドーシス(α−フコシダーゼ欠損)、シンドラー病(α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ欠損)、シアリドーシス(糖タンパク質ノイラミニダーゼ欠損)、アスパルチルグルコサミン尿症(アスパルチルグルコサミンアミダーゼ欠損)、ウォルマン病(酸性リパーゼ欠損)、ファーバー脂肪肉芽腫症(酸性セラミダーゼ欠損)、ニーマン・ピック病(リソソームスフィンゴミエリナーゼ欠損、及びその他のスフィンゴミエリナーゼ欠損)が挙げられる。
本発明の医薬組成物の投与量は、その有効成分である薬物の含有量に基づき、投与対象の年齢及び体重、病状、投与経路、投与頻度などを考慮して決定すればよい。当業者であれば、そのような決定及び変更は通常の手法に従って行うことができる。一例としては、本発明の医薬組成物を0.05〜1g使用して、体内埋込型製剤として投与することが考えられるが、特にこれに限定するものではない。
本発明は、本発明の医薬組成物を、リソソーム病を発症しているか又はリソソーム病を発症する危険性が高い哺乳動物患者(より好ましくはヒト患者)に投与することを含む、リソソーム病の治療又は予防方法にも関する。
本発明の医薬組成物を投与すると、有効成分であるリソソーム酵素は、キュービック液晶構造中に保持された状態でその基質と反応することができる。リソソーム酵素がキュービック液晶内の水チャネル部に選択的に包埋される場合、水チャネルの直径が数ナノメートルであり、分子サイズに近いため、チャネル壁による空間制限効果により、リソソーム酵素の構造変性を防ぐ効果がある。本発明の医薬組成物中のキュービック液晶構造内に保持されたリソソーム酵素は、体内環境中の分解酵素や細胞の作用を受けにくいため、長期間にわたり安定的に活性を維持することができる。また本発明の医薬組成物は、リソソーム酵素をキュービック液晶構造内に高濃度で保持することができるので、少量でも高い活性を有する。さらに本発明の医薬組成物は、そのキュービック液晶構造中に包埋したリソソーム酵素が徐々に外部へと放出されるため、徐放性製剤としても用いることができる。このため本発明の医薬組成物は、血中濃度の急激な上昇が望ましくないリソソーム酵素を投与するために有利に使用することができる。また本発明の医薬組成物を用いれば、長期間にわたって一定量のリソソーム酵素の投与を必要とするリソソーム病患者に対し、比較的低い投与頻度で十分量のリソソーム酵素を継続的に投与することができる。従って本発明の医薬組成物は、患者やその家族におけるクオリティ・オブ・ライフの向上の面でも、非常に有用である。
本発明の医薬組成物では、生体親和性の高い両親媒性脂質分子から構成された液晶組成物を薬物送達用担体として使用するため、投与された患者にもたらす副作用もごくわずかと思われる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
[参考例1] 両親媒性化合物の合成
1−O−(3,7,11−トリメチルドデシル)エリスリトール[式(2)]の合成
窒素雰囲気下、p−トルエンスルホニルクロライド20.96g(110mmol)の乾燥塩化メチレン100ml溶液に、3,7,11−トリメチルドデカノール22.8g(100mmol)とピリジン9.48g(120mmol)を乾燥塩化メチレン200mlに溶解した溶液を氷冷下(1〜2℃)で滴下した。滴下後、室温で一晩攪拌した後、得られた反応液を水200ml、2N塩酸200ml、飽和重曹水200mlで順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮して、粗製3,7,11−トリメチルドデシルトシレート41.6gを得た。
窒素雰囲気下、エスリトール16.0g(131mmol)を乾燥DMF400mlに溶解した。氷冷下(2〜4℃)、ヘキサンにて油分を除去した後の50〜70%NaH2.62g(60%として65.5mmol)をDMF約50mlに懸濁した溶液を、数回に分けて添加した。添加後、室温で1時間攪拌した後、約50℃に昇温し、上記で得られた粗製3,7,11−トリメチルドデシルトシレート13.1g(34mmol)を滴下し、滴下装置付着分をDMF55mlで洗い込み、80℃に加温してから4時間攪拌した。得られた反応液を濃縮し、残渣にジクロロメタン300mlと飽和食塩水1,000mlを加えて、有機層を分取した。水層をジクロロメタン150mlで抽出し、有機層計500mlを飽和食塩水300ml×2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濃縮し、褐色油状物7.7gを得た。これを、シリカゲル400gを用いてカラム精製[CH2Cl2→CH2Cl2:MeOH(98:2)→CH2Cl2:MeOH(95:5)]し、1−O−(3,7,11−トリメチルドデシル)エリスリトール0.66gを得た。HPLC純度は100.0%であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz,CDCl3,TMS)δ:0.83−0.9(m,12H),1.0−1.7(m,17H),2.31(br.s,1H),2.65(br.s,1H),2.77(br.s,1H),3.5−3.7(m,4H),3.7−3.9(m,4H)
1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール[式(3)]の合成
窒素雰囲気下、p−トルエンスルホニルクロリド22.1g(0.12mol)の乾燥塩化メチレン100ml溶液に、5,9,13−トリメチル−1−テトラデカノール27g(0.11mol)とピリジン10g(0.13mol)を乾燥塩化メチレン200mlに溶解した溶液を氷冷下に滴下した。滴下後、室温で一夜攪拌した後、得られた反応液を水200ml、2N塩酸200ml、飽和重曹水200mlで順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、減圧下に濃縮して(5,9,13−トリメチルテトラデシル)トシレートを34.4g得た。
窒素気流下、エリスリトール25.8g(0.21mol)を乾燥DMF200mlに溶解し、氷冷しながら60%NaH4.2g(0.11mol)を数回に分けて添加した。添加後、室温で1時間攪拌した後、50℃に昇温し、上記で得られた(5,9,13−トリメチルテトラデシル)トシレートの半量17.2gを滴下し、DMF55mlで洗浄した。80℃に加温してから4時間攪拌し、得られた反応液を減圧下に濃縮し、残液にエーテル500mlを加えて2回抽出溶解し、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、下記の物性を有する1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトールを2.3g得た。HPLC分析による本品の純度は、1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール76.9%、2−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール23.1%であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.845,0.867(d,J=6.9Hz,6.6Hz,12H),1.0−1.6(m,21H),3.51(t,J=7.5Hz,2H),3.55−3.85(m,6H)
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)エリスリトール[1−O−(フィタノイル)エリスリトール;式(4)]の合成
窒素雰囲気下、フィタン酸2.5g、塩化メチレン12.5mlにピリジンを1滴加え、室温で塩化チオニル1.43gを滴下した。滴下終了後、1時間還流し、減圧下に濃縮してフィタン酸クロリド約2.6gを得た。
窒素雰囲気下、エリスリトール1.33g、ピリジン1.15g、乾燥N,N−ジメチルホルムアミド40mlを混合し、加熱溶解させた。室温まで冷却し、上記で得られたフィタン酸クロリド2.40gを塩化メチレン7mlに溶解した溶液を滴下し、滴下後1時間室温で攪拌した。塩化メチレン100mlを加え、飽和食塩水300mlで洗浄、続いて200mlで2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、透明半固体状の1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)エリスリトールを1.4g得た。キャリア溶媒として、アセトニトリル:水(4:1)、カラムとしてCAPCELLPAK SG−120(5μm)を用いたHPLC分析の結果、本品は、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)エリスリトール91.1%、2−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)エリスリトール8.5%であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.8−0.9(m,12H),0.93(d,J=6Hz,3H),1.0−1.6(m,22H),1.95(br.s,1H),2.13(dd,J=14Hz,9Hz,1H), 2.37(dd,J=14Hz,6Hz,1H),3.33(br.s,1H),3.43(br.s,1H),3.58−3.92(m,4H),4.27(d,J=5Hz,1H)
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)ペンタエリスリトール[モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール;式(5)]の合成
窒素雰囲気下、フィタノール29.16g(97.67mmol)とピリジン9.27g(117.2mmol)を乾燥塩化メチレン220mlに溶解し、氷冷下、液温が10℃を超えないようp−トルエンスルホニルクロリド20.48g(107.4mmol)を少しずつ添加した。添加終了後、フィタノールが消失するまで12時間攪拌し、得られた反応液を水200ml、2N塩酸200ml、飽和重曹水200mlで順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、減圧下に濃縮してフィタニルトシレートを61.31g得た。
窒素気流下、ペンタエリスリトール36.09g(265.1mmol)を乾燥DMF210mlに溶解し、氷冷しながら60%NaH5.3g(132.5mmol)を少しずつ添加した。室温まで昇温し、1時間攪拌後、フィタニルトシレート30.0g(66.26mmol)を滴下し、DMF55mlで洗浄した。80℃に加温してから4時間攪拌し、得られた反応液を減圧下に濃縮し、残液にエーテル500mlを加えて2回抽出溶解し、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、無色透明でやや粘稠な液体状のモノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)ペンタエリスリトールを6.3g得た。HPLC分析による本品の純度は99.5%以上であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.8−1.7(m,39H),2.68(br.s,3H),3.44(br,4H),3.69(br.s,6H)
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトール [モノO−(フィタノイル)ペンタエリスリトール;式(6)]の合成
窒素雰囲気下、フィタン酸2.0g、塩化メチレン10mlにピリジンを1滴加え、室温で塩化チオニル1.14gを滴下した。滴下終了後、1時間還流し、減圧下に濃縮してフィタン酸クロリド約2gを得た。
ペンタエリスリトール0.88g、ピリジン0.69g、乾燥1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン25mlを混合し、加熱溶解させた。室温まで冷却し、上記で得られたフィタン酸クロリド1.32gを塩化メチレン5mlに溶解した溶液を滴下し、滴下後1時間室温で攪拌した。得られた反応液に塩化メチレン100mlを加え、飽和食塩水100mlで5回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過及び減圧濃縮した。残存ジメチルイミダゾリジノンを除去してから、濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、透明半固体状のモノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトールを0.64g得た。HPLC分析による本品の純度は99.4%であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.7−0.9(m,12H),0.95(d,J=7Hz,3H),1.0−1.6(m,22H),1.9(br.s,1H),2.15(dd,J=14Hz,9Hz),2.38(dd,J=14Hz,7Hz,1H),3.17(br.s,2H),3.62(s,6H),4.16(s,2H)
1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール[式(7)]の合成
窒素雰囲気下、5,9,13,17−テトラメチルオクタデカン酸10g、塩化メチレン20mlにピリジンを1滴加え、室温で塩化チオニル5.2gを滴下した。滴下終了後、1時間還流し、減圧下に濃縮して5,9,13,17−テトラメチルオクタデカン酸クロリドを10.5g得た。
エリスリトール2.56g、ピリジン2.21g、乾燥DMF70mlを混合し加熱溶解させた。室温まで冷却し、上記で得られた5,9,13,17−テトラメチルオクタデカン酸クロリド5gを塩化メチレン10mlに溶解した溶液を滴下し、滴下後1時間室温で攪拌した。得られた反応液に塩化メチレン100mlを加え、飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、透明半固体状の1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトールを2.83g得た。HPLC分析による本品の純度は、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール91.6%、2−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール8.4%であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.8−0.9(m,15H),1.0−1.7(m,26H),2.11(br.s,1H),2.33(t,J=7.9Hz,2H),2.66(br.s,1H),2.75(br.s,1H),3.6−3.9(m,4H),4.29−4.36(m,2H)
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトール[式(8)]の合成
窒素雰囲気下、p−トルエンスルホニルクロリド19.3g(0.10mol)の乾燥塩化メチレン100ml溶液に5,9,13,17−テトラメチル−1−オクタデカノール30g(0.09mol)とピリジン8.72g(0.11mol)を乾燥塩化メチレン200mlに溶解した溶液を氷冷下に滴下した。滴下後、室温で一夜攪拌した後、得られた反応液を水200ml、2N塩酸200ml、飽和重曹水200mlで順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、減圧下に濃縮して(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)トシレートを42g得た。
窒素気流下、ペンタエリスリトール25g(0.18mol)を乾燥DMF200mlに溶解し、氷冷しながら60%NaH3.7g(0.09mol)を数回に分けて添加した。添加後、室温で1時間攪拌してから50℃に昇温し、上記で得られた(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)トシレートの半量21gを滴下し、DMF55mlで洗浄した。80℃に加温してから4時間攪拌し、得られた反応液を減圧下に濃縮し、残液にエーテル500mlを加えて2回抽出溶解し、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、透明粘稠な液体状のモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトールを7.3g得た。HPLC分析による本品の純度は、99.5%以上であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.83−0.88(m,15H),1.0−1.6(m,28H),2.88(br.s,3H),3.39−3.52(m,4H),3.71(d,J=3.9Hz,6H)
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトール[式(9)]の合成
ペンタエリスリトール3.81g、ピリジン2.21g、乾燥DMF120mlを混合し加熱溶解させた。室温まで冷却し、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール[式(7)]の合成工程において得られた5,9,13,17−テトラメチルオクタデカン酸クロリド5gを塩化メチレン5mlに溶解した溶液を滴下し、滴下後1時間室温で攪拌した。得られた反応液に塩化メチレン100mlを加え、飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、下記の物性を有するモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトールを2.50g得た。HPLC分析による本品の純度は、99.5%以上であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(270MHz、CDCl3,TMS)δ:0.8−0.9(m,15H),1.0−1.7(m,26H),2.34(t,J=7.4Hz,2H),3.06(br.s,3H),3.63(d,J=4Hz,6H),4.17(s,2H)
1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)−β−D−キシロピラノシド[略称:β−XylC22;式(10)]の合成
1)アルゴン雰囲気下、β−キシローステトラアセテート318mgを乾燥塩化メチレン6mlに溶解し、0℃に冷却した。そこに四塩化スズ0.12mlを塩化メチレン1mlに溶解した溶液を滴下し、室温で20分間攪拌した後、−10℃に冷却した。5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノール326.6mgを塩化メチレン1mlに溶解した溶液を滴下し、4時間攪拌した。反応液に重曹水を加え、塩化メチレンで3回抽出した。抽出液を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、濃縮し、カラムクロマトグラフィで精製することにより1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)−β−D−キシロピラノシドトリアセテートを93mg得た。
2)アルゴン雰囲気下、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)−β−D−キシロピラノシドトリアセテート584.8mgを乾燥メタノール5mlに溶解し、ナトリウムメチラート54mgを加え、攪拌した。室温下、一夜攪拌した後、冷却して1N−塩酸1mlを滴下した。反応液を減圧濃縮し、得られた残留物をクロロホルムに溶解してスラリー溶液とし、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製することにより、ワックス状の半固体として1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)−β−D−キシロピラノシドを413mg得た。また、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)−β−D−キシロピラノシドを無水酢酸−ピリジン混合溶媒に溶解し、60℃で2時間処理後、ガスクロマトグラフィーで純度を検定したところ、純度96%であった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3,TMS)δ:0.84,0.86(d,J=6.4Hz,J=6.8Hz,15H),1.0−1.7(m,31H),3.2−3.7(m,5H),3.82(dd,J=16Hz,7.7Hz,1H),3.94(dd,J=11.6Hz,5Hz,1H),4.25(d,J=7.1Hz,1H)
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−α−D−キシロピラノシド[式(11)]の合成
アルゴン雰囲気下、乾燥させたモレキュラーシーブ4A(2g)に、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノール(5.16g、17.3mM)を加え、2時間攪拌した後、減圧乾燥したテトラ−O−アセチル−β−D−キシロシド(5g、15.7mM)にアルゴン雰囲気下、100mlの塩化メチレンを加え、10〜30分攪拌した。1M塩化スズの塩化メチレン溶液15.8mlを滴下し室温で20分撹拌した。次いで反応系を5℃まで冷却した後、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノール(5.16g、17.3mM)の20ml塩化メチレン溶液を30分程かけて滴下し、そのまま室温で4時間攪拌を続けた。この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、塩化メチレン100mlで3回抽出した後に、水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し、濃縮した。次いで混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチル混合溶媒)。
得られたテトラアセテートをメタノール5.5mlに溶解し、これに0.05Mのナトリウムメチラート2.5mlを加えた。室温で4.5時間攪拌した後、等量の1N塩酸を加えて中和した。溶液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(溶出溶媒:クロロホルム−メタノール混合溶媒)した後、減圧乾燥し、無色透明で粘稠な液体を得た。
この液体について純度測定を行なった。C,Hについての元素分析結果は、C:70.1%(計算値69.7%)H:11.9%(計算値11.8%)であり、分子構造からの計算値と良く一致した。また、NMR測定の結果、α体純度は少なくとも97%以上であり、β体のシグナルは観察されなかった。またNMR測定の結果は以下の通りであった。
1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3,TMS)δ:4.78(1H, d,J=3.78Hz,H1),4.38(1H,H5a),3.83(1H,H4),3.09(1H,d,J=8.9Hz,H3),3.7(2H,H’1),3.4−3.8(5H,H2,H5b,3*OH)
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトール[式(12)]の合成
窒素気流下、ペンタエリスリトール28.7g(0.21mol)を乾燥DMF200mlに溶解し、氷冷しながら60%NaH4.22g(0.11mol)を数回に分けて添加した。添加後、室温で1時間攪拌した後、50℃に昇温し、1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール[式(3)]の合成工程において得られた(5,9,13−トリメチルテトラデシル)トシレートの半量17.2gを滴下し、DMF55mlで洗浄した。80℃に加温してから4時間攪拌し、得られた反応液を減圧下に濃縮し、残液にエーテル500mlを加えて2回抽出溶解し、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製することにより、下記の物性を有するモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトールを5.8g得た。
1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3,TMS)δ:0.846,0.867(d,J=6.6Hz,6.3Hz,12H),1.0−1.6(m,21H),1.72(br.s,1H),2.68(br.s,2H),3.425(t,J=6.5Hz,2H),3.47(s,2H),3.72(s,6H)
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシド[Xyl(Phyt);式(13)]の合成
アルゴン雰囲気下、乾燥させたモレキュラーシーブ4A(2g)に、減圧乾燥したテトラ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシド(5g、15.7mM)、100mlの塩化メチレンを加え、10〜30分攪拌した。5〜8℃に冷却後、1M塩化スズの塩化メチレン溶液16mlを滴下し、室温で20分撹拌した。−10℃まで冷却した後、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノール(4.69g、15.7mM)の16ml塩化メチレン溶液を30分程かけて滴下し、そのまま4時間攪拌を続けた。この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、塩化メチレン100mlで3回抽出した後に、水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し、濃縮した。次いで混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチル混合溶媒)。
得られた1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドトリアセテートをメタノール5.5mlに溶解し、これに0.05Mのナトリウムメチラート2.5mlを加えた。室温で4.5時間攪拌した後、等量の1N塩酸を加えて中和した。溶液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(溶出溶媒:クロロホルム−メタノール混合溶媒)した後、減圧乾燥し、式(13)(白色ワックス状の固体)を得た。NMR測定により、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−α−D−キシロピラノシドは混入していないことがわかった。
[参考例2]
本発明において好適に使用できる両親媒性化合物について、下記表の通りIV/OV値を算出した。
また、それらの両親媒性化合物及びその混合物について後述の各解析で決定したクラフト温度を、それぞれ表2−1及び表2−2に示す。
[実施例1] II型キュービック液晶の形成及び解析−1
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)ペンタエリスリトール[以下、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール;上記式(5)]と純水を混合デバイス中に加え、室温(23℃)で48時間かけて100回以上の混合操作を行いながらインキュベートした。これにより均一に混合されたモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルを得た。このモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルは、外観上は透明のゲル状組成物であった。
次に、このように調製したモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプル(両親媒性化合物の濃度:74.6質量%)について、偏光顕微鏡による観察を行なったところ、脂質部全領域においてキュービック液晶特有の光学等方性のテクスチャーが観察された(図3)。図3中、右領域は水であり、左領域は、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルである。左領域は、水と同様に光学的に等方的であるが粘度の高い領域であった。この観察結果は、キュービック液晶の生成を示唆している。さらに、スライドグラスとカバーグラスの間に挟まれた上記サンプルに水を加えても、水と脂質部の光学等方性のテクスチャー領域は安定な界面を形成し、長時間放置しても脂質部の光学等方性テクスチャーは変化しなかった。これは、このキュービック液晶が過剰の水が存在する条件下でも安定であることを示す。この結果、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールが形成するキュービック液晶はII型であることが示された。
続いて、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて、−45℃から70℃までの温度範囲で示差走査熱量分析(DSC)を行なった。DSC分析には、Seiko SSC/560U示差走査熱量計(セイコー電子工業製)を使用した。上記方法で調製した72.4質量%のモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルをDSCセルに封入し、−45℃で3時間にわたり冷却しながらインキュベートして、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールの水和固体(以下水和個体と略す)を十分に形成させた。次にこの水和固体を0.5℃/分の昇温速度で加熱しながら、水和固体の融解挙動をDSC分析法によって調べた。その結果、図4に示すように−40℃付近から始まり−27℃付近で終了する水和固体の融解による吸熱ピークと、−10〜1℃の温度範囲に観測される氷の融解による吸熱ピークが観察された。図4中、左のピークが水和固体の融解による吸熱ピーク、右のピークが氷の融解ピークである。70℃まで測定したが他の熱転移は観察されなかった。また他の濃度においても本質的に同じ結果が得られた。これより、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールのTKは0℃以下であると結論できた。
次に、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて、エックス線小角散乱(SAXS)によりキュービック液晶であることの確認を行なった。モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルを石英製エックス線キャピラリーチューブに入れた後、キャピラリーの先端を酸素バーナーで封じ、SAXS測定に供した。SAXS測定は、RU−200X線発生装置(Rigaku製)を使用して波長0.154nmで行なった。エックス線キャピラリーチューブに封入されたサンプルは、各測定温度で少なくとも15時間以上インキュベートし熱平衡に到達した後、エックス線照射時間30〜45分でSAXS測定を行なった。インキュベート時間を72時間から最大5日まで延長してもSAXS測定結果は変化しなかったので本実験条件は平衡状態のキュービック液晶を測定していることが確認できた。
SAXS測定の結果、少なくとも1℃から40℃までの温度範囲で、6本のシャープな散乱ピークが観察された。ピーク値の比は、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール濃度と温度により、結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶に特有の比
を示す場合(図5−A)と、結晶学的空間群Ia3dに属するキュービック液晶に特有の比
を与える場合(図5−B)があった。これより、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルは結晶学的空間群Pn3mと結晶学的空間群Ia3dに属するキュービック液晶を形成することが確認できた。なお、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール濃度が73〜74質量%(温度により値が異なる)以下の過剰の水が存在する条件で観測されるキュービック液晶の格子定数がモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール濃度によらず一定になることから、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールが形成するキュービック液晶は、水過剰条件でも安定な「II型」のキュービック液晶であることが示された。
図5には、1℃でのモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルのSAXS測定結果を示した。1℃では、−50℃で観察された水和固体のピークが消失しており、キュービック液晶に特有の比を示す6本のピークのみが観察された。
図5−A:56.7質量%;Pn3mキュービック液晶;格子定数=8.2nm
図5−B:74.6質量%;Ia3dキュービック液晶;格子定数=12.3nm
さらに、SAXS測定結果に基づいてモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系サンプルにおけるキュービック液晶構造のモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールの二重膜のdhc値を算出したところ、1.17±0.1nmであった。この値は、O−フィタニル鎖を疎水鎖とする両親媒性脂質が作る両親媒性脂質二分子膜のdhc値が、1.2±0.1nmであること[Hato, M. Minamikawa, H., Tamada, K., Baba, T., and Y. Tanabe, Adv. Colloid Interface Sci., 80, 233-270 (1999年)]と矛盾しない。これにより、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールが形成するキュービック液晶がバイコンティニュアス型であることが確認できた。
以上の実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプル例(両親媒性脂質の濃度別)は以下の表3の通りであった。
図6には、以上の測定結果をもとに決定したモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール/水系の濃度−温度依存性部分相図を示した。
なお本明細書における相図中の記号の意味は以下の通りである。
W : 水相(微量の両親媒性化合物が溶解した希薄水溶液)
HII : 逆ヘキサゴナル液晶
Pn3m : Pn3mキュービック液晶
Ia3d : Ia3dキュービック液晶
Lα : ラメラ液晶
LC : 構造が特定出来ない液晶
FI : 等方的液体相(キュービック液晶ではない)
(但し、2種の記号を記載している部分は、それらの共存領域である。)
[実施例2] II型キュービック液晶の形成及び解析−2
モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトール[以下、モノO−(フィタノイル)ペンタエリスリトール;上記式(6)]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、モノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトール/水系サンプルを得た。このモノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1〜65℃の温度範囲においてバイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。58.9質量%のモノO−(フィタノイル)ペンタエリスリトール/水系におけるキュービック液晶の格子定数は、10.6nm(25℃)〜8.3nm(55℃)であった。
このモノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて示差走査熱量分析(DSC)を行なったところ、−8℃付近から始まり−2.5℃で終了するモノO−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)ペンタエリスリトールの水和固体の融解によるピークと0℃付近における氷の融解ピーク以外の熱転移は観察されなかった。この結果は調べた全ての両親媒性化合物濃度において本質的に同じであった。従ってモノO−(フィタノイル)ペンタエリスリトールのTKは0℃以下であると結論された。
本実施例でキュービック液晶の形成が確認されたサンプルは以下の通りであった。
[実施例3] II型キュービック液晶の形成及び解析−3
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカノイル)エリスリトール[以下、1−O−(フィタノイル)エリスリトール;上記式(4)]と純水を、実施例1の手順に従って混合し、1−O−(フィタノイル)エリスリトール/水系サンプルを得た。この1−O−(フィタノイル)エリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1℃から60℃までの温度範囲で、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶又はIa3dキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。52.3質量%の1−O−(フィタノイル)エリスリトールによって形成されたPn3mキュービック液晶の格子定数は、11.4nm(1℃)、11.3nm(25℃)、10.1nm(45℃)であった。
この1−O−(フィタノイル)エリスリトール/水系サンプルについて示差走査熱量分析(DSC)を行なったところ、0℃付近の氷の融解による吸熱ピークと、それに重なった−0.6℃付近の1−O−(フィタノイル)エリスリトール水和個体の融解による吸熱ピークが観察された。これより、1−O−(フィタノイル)エリスリトールのTKは0℃以下であることが結論された。
以上の実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプルは以下の通りであった。
[実施例4] II型キュービック液晶の形成及び解析−4
1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール[上記式(3)]と純水を、実施例1の手順に従って混合し、1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール/水系サンプルを得た。この1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1℃から75℃までの温度範囲で、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶又はIa3dキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。53.7質量%の1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール/水系におけるIa3dキュービック液晶の格子定数は、17.3nm(20℃)、17.2nm(35℃)、17.1nm(40℃)であった。
この1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトール/水系サンプルの示差走査熱量分析(DSC)を実施例1と同様に行なったところ、0℃付近の氷の融解による吸熱ピークのみが観察された。これより、1−O−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)エリスリトールのTKは0℃以下であることが強く示唆された。
以上の実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプルは以下の通りであった
[実施例5] II型キュービック液晶の形成及び解析−5
1−O−(3,7,11−トリメチルドデシル)エリスリトール[上記式(2)]と純水を、実施例1と同様の手順に従って混合し、1−O−(3,7,11−トリメチルドデシル)エリスリトール/水系サンプルを得た。この1−O−(3,7,11−トリメチルドデシル)エリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1℃から60℃までの温度範囲で、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。
上記実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプル例は以下の通りであった。
[実施例6] II型キュービック液晶の形成及び解析−6
1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール[上記式(7)]と純水を、実施例1と同様な方法で均一に混合して、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール/水系サンプルを得た。この1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1℃から60℃までの温度範囲においてバイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。
この1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール/水系サンプルについて示差走査熱量分析(DSC)を行なったが、0℃付近の氷の融解に基づく吸熱ピーク以外の熱転移は観察されなかった。また、実施例1と同様に低温度で形成された1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトール水和固体を1℃でインキュベートしたところ、キュービック液晶へと転移したことから、1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)エリスリトールのTKは0℃以下であると結論できた。
以上の実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプル例は以下の通りであった。
[実施例7] II型キュービック液晶の形成及び解析−7
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトール[上記式(8)]と純水を、実施例1と同様な方法で均一に混合したモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトール/水系サンプルを得た。このモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトール脂質/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。
このモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて示差走査熱量分析(DSC)を行なったところ、0℃付近の氷の融解に基づく吸熱ピーク以外の熱転移は観察されなかった。また、実施例1と同様に低温度で形成したモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトールの水和固体を1℃でインキュベートしたところ、キュービック液晶へと転移したことから、モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)ペンタエリスリトールのTKは0℃以下であると結論できた。
以上の実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプル例は以下の通りであった。
[実施例8] II型キュービック液晶の形成及び解析−8
モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトール[上記式(9)]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトール/水系サンプルを得た。このモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。
このモノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて示差走査熱量分析(DSC)を行なったところ、脂質水和固体の融解による吸熱ピークは−20℃付近から始まり−15℃で終了した。それ以上の温度では、0℃付近の氷の融解に基づく吸熱ピーク以外の熱転移は観察されなかった。これにより、モノO−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデカノイル)ペンタエリスリトールのTKは0℃以下であると結論できた。
上記実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプル例は以下の通りであった。
[実施例9] II型キュービック液晶の形成及び解析−9
1−O−(5,9,13,17−テトラメチルオクタデシル)−β−D−キシロピラノシド[以下、β−XylC22;上記式(10)]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、β−XylC22/水系サンプルを得た。このβ−XylC22/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1℃から45℃までの温度範囲においてバイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶及びIa3dキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。またピーク値から算出した61.5質量%のβ−XylC22濃度のキュービック液晶における格子定数は、10.1nm(1℃)、9.9nm(30℃)、9.5nm(40℃)であった。
このβ−XylC22/水系サンプルについて、実施例1と同様に示差走査熱量分析(DSC)を行なったところ、β−XylC22水和固体の融解による吸熱ピークは、−13℃付近から始まり−9℃で終了した。それ以上の温度では、0℃付近の氷の融解に基づく吸熱ピーク以外の一切の熱転移は観察されなかった。これにより、β−XylC22のTKは0℃以下であると結論できた。
以上の実験によりキュービック液晶の形成が確認されたサンプルは以下の通りである。
[実施例10] II型キュービック液晶の形成及び解析−10
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−α−D−キシロピラノシド[以下、α−Xyl(Phyt);上記式(11)]と純水を、実施例1の手順に従って混合し、α−Xyl(Phyt)/水系サンプルを得た。
このように調製したα−Xyl(Phyt)/水系サンプルについて偏光顕微鏡による観察を行なった結果、水との界面には逆ヘキサゴナル液晶が形成されるが、その内部の両親媒性化合物濃度の高い領域にはキュービック液晶が形成されることが示された。またα−Xyl(Phyt)/水系サンプルで水との界面に形成されるのが逆ヘキサゴナル液晶であることから、α−Xyl(Phyt)が形成するキュービック液晶はII型であることが示された。さらにこのα−Xyl(Phyt)/水系サンプルについて実施例1と同様にSAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なったところ、少なくとも78〜84質量%の濃度範囲、少なくとも1℃から45℃までの温度範囲において、バイコンティニュアス型のIa3dキュービック液晶が形成されることが確認された。α−Xyl(Phyt)濃度84.2質量%のα−Xyl(Phyt)/水系におけるキュービック液晶の格子定数は、9.8nm(1℃)、9.7nm(25℃)、9.6nm(40℃)であった。
α−Xyl(Phyt)/水系サンプルの示差走査熱量分析(DSC)を行なったところ、−10℃付近から始まり−1℃付近のα−Xyl(Phyt)の転移による吸熱ピークとそれに重なった0℃における水の融解ピークのみが観測された。これより、α−Xyl(Phyt)のTKは0℃以下であると結論できた。
以上の実験でキュービック液晶の形成が確認されたサンプルは以下の通りであった。
図7に、以上の測定結果をもとに決定した、α−Xyl(Phyt)/水系の濃度−温度依存性部分相図を示した。
[実施例11] II型キュービック液晶の形成及び解析−11
モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトール[上記式(12)]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトール/水系サンプルを得た。このモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて実施例1と同様にして偏光顕微鏡下でのペネトレイション実験、SAXS測定及びSAXS測定結果に基づくdhc値の算出を行なった結果、少なくとも1℃〜4℃の温度範囲及びモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトール濃度55.3質量%において、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成されることが確認された。
このモノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトール/水系サンプルについて示差走査熱量分析(DSC)を実施例1と同様に行なったところ、−10℃付近から始まり1℃で終了する吸熱ピークのみが観察された。これより、モノO−(5,9,13−トリメチルテトラデシル)ペンタエリスリトールのTKは0℃以下であると結論された。
[比較例1] II型ヘキサゴナル液晶の形成及び解析
1−O−(3,7,11−15−テトラメチルヘキサデシル)グリセロール[IV/OV=0.5238]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、1−O−(3,7,11−15−テトラメチルヘキサデシル)グリセロール/水系サンプルを得た。この1−O−(3,7,11−15−テトラメチルヘキサデシル)グリセロール/水系サンプルについて偏光顕微鏡観察を行なったところ、1−O−(3,7,11−15−テトラメチルヘキサデシル)グリセロール/水界面にはII型ヘキサゴナル液晶に特有のテクスチャーが観察され、キュービック液晶特有の光学等方性テクスチャーは全く観察されなかった。このことから、これらの1−O−(3,7,11−15−テトラメチルヘキサデシル)グリセロールがキュービック液晶ではなくII型ヘキサゴナル液晶を形成することが示された。
[比較例2] ラメラ液晶の形成及び解析
3,7,11−トリメチルドデカン−1,2,3−トリオール [IV/OV=1.1539](下記式(14)) と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、3,7,11−トリメチルドデカン−1,2,3−トリオール/水系サンプルを得た。
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−グルコピラノシド[IV/OV=1.052]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−グルコピラノシド/水系サンプルを得た。
1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−マルトシド[IV/OV=1.5167]と純水を、実施例1と同様の手順に従って均一に混合し、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−マルトシド/水系サンプルを得た。
このようにして調製した両親媒性脂質/水系サンプルのそれぞれについて、偏光顕微鏡観察を行なったところ、いずれのサンプルでも両親媒性脂質/水界面からラメラ液晶特有のミエリン形の成長が観察された。一方、キュービック液晶特有の等方性テクスチャーは全く観察されなかった。従って、これらの両親媒性脂質がラメラ液晶を形成することが示された。
[実施例12] 二成分混合系のII型キュービック液晶の形成及び解析−1
総両親媒性化合物濃度が60質量%(水過剰条件)となるように、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−α−D−キシロピラノシド(上記式(11);以下、α体と略称する。TKは0℃以下。)と1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシド(上記式(13);以下、β体と略称する。TKは約10℃。)を、実施例1と同様の手順に従って純水中に均一に混合して、両親媒性化合物/水系サンプルを得た。この両親媒性化合物/水系サンプルについて実施例1と同様に調べたところ、α体とβ体の混合系によってPn3mキュービック液晶が形成されることが示された。
サンプルの温度−両親媒性化合物組成と形成されるキュービック液晶構造との関係を図8に示した。図8の二つの線に挟まれた領域(Pn3m)においてPn3mキュービック液晶が形成された。
図8に示される通り、両親媒性化合物総量に対するα体の割合が増加するにつれて、Pn3mキュービック液晶が安定に存在できる最低温度(すなわちクラフト温度(TK))と最高温度はほぼ同じ傾きで低下した。両親媒性化合物総量に対してα体のモル分率が0.2の場合は4〜65℃の範囲、0.35の場合は0〜58℃の範囲、0.6の場合は少なくとも−6〜47℃の範囲で、安定なPn3mキュービック液晶が形成された。この結果から、α体のモル分率が0.2以上のα体とβ体の混合系である1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−D−キシロピラノシドによって形成されるキュービック液晶は、4℃でも熱力学的に安定に形成されることが示された。また、β体とα体とを混合することによって、β体単独の場合のTKよりも低い温度でキュービック液晶を形成させることができることも示された。
[実施例13] 二成分混合系のII型キュービック液晶の形成及び解析−2
モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトール[上記式(5)]は、室温において、1質量%〜75質量%(1相領域は73〜75質量%)の濃度範囲ではバイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶を形成し、76質量%から少なくとも85質量%まではIa3dキュービック液晶を形成する。モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールの場合、TKは0℃以下であるが、キュービック液晶が形成される最高温度は40℃であり、高温域での安定性が低めであると同時に、そのキュービック液晶構造は柔らかく、水性溶媒中の塩や蛋白質等により比較的壊れやすい。
一方、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシド[上記式(13)]は、過剰の水存在下でバイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶を形成することができ、その液晶構造が形成される最高温度は75℃であって高温域でも安定性が高い。さらにキシロース部の強い相互作用のためキュービック液晶構造も強固で、水性溶媒中の塩やタンパク質等が存在してもキュービック液晶構造は安定に保たれる。一方で、TKは約10℃であり、低温域で液晶が形成されない。
かかる物性の異なる2種類の両親媒性化合物を用いて、二成分混合系のII型キュービック液晶を以下の様にして形成させた。
まず、総両親媒性化合物濃度が60質量%(水過剰条件)となるように、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールと、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドを、実施例1と同様の手順に従って純水中に均一に混合して、両親媒性化合物同士の量比を変えた複数の両親媒性化合物/水系サンプルを得た。それらの両親媒性化合物/水系サンプルについて実施例1と同様に調べたところ、二成分混合系によってPn3mキュービック液晶が形成されることが示された。
得られたサンプルの温度−両親媒性化合物組成と形成されるキュービック液晶構造との関係を図9に示した。二つの曲線に挟まれた領域(Pn3m)においてPn3mキュービック液晶が形成された。
図9に示される通り、両親媒性化合物総量に対するモノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールの割合が増加するにつれて、キュービック液晶が安定に存在できる最低温度と最高温度はほぼ同じ傾きで低下した。モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールのモル分率が0.2の場合は4〜72℃の範囲、0.4の場合は0〜70℃の範囲、0.8の場合は少なくとも0〜60℃の範囲で、バイコンティニュアス型でありII型のPn3mキュービック液晶が安定に形成された。このように、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールを、モル分率が0.2以上となる様に1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドと混合することにより、低温(例えば4℃)でも熱力学的に安定なキュービック液晶が形成された。
格子定数は、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシドのみから形成されるキュービック液晶では9.2nmであったが、モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールの混合比率の増加に伴って連続的に7.06nm(モノO−(フィタニル)ペンタエリスリトールが100質量%)まで少なくなった。またこれに伴ってキュービック液晶の水チャネルの直径は、3.8nmから2.5nmまで変化した。この結果から、複数の両親媒性化合物を混合して用いることにより、キュービック液晶の微細構造を意図的に変化させることができることが示された。
[実施例14] 三成分混合系のII型キュービック液晶の形成及び解析−3
5質量%のα体を含む1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシド(β体)に、ラメラ液晶を形成する3,7,11−トリメチルドデカン−1,2,3−トリオール(以下、第二成分と呼ぶ)を表13に記載の割合で、実施例1と同様の手順に従って純水中に均一に混合し、両親媒性脂質/水系サンプルを得た。この両親媒性脂質/水系サンプルについて実施例1と同様に調べたところ、少なくとも第二成分の含有量が50質量%に達するまでは、三成分混合系によってPn3mキュービック液晶が形成されることが確認できた。また、実施例1と同様のDSC測定により、この三成分両親媒性脂質/水系サンプルにおいて、TKは第二成分の含有量の増加に伴って低下し、第二成分が20質量%以上になるとTKは0℃以下になることが示された。結果を表13に示す。
[実施例15] リソソーム酵素を包埋したキュービック液晶組成物の製造、及びリソソーム酵素の徐放性試験
ヒトα−ガラクトシダーゼA(α−GALA)及びヒトβガラクトシダーゼ(β−GAL)を、国際公開WO 02/103027に開示されている、酵母細胞を用いてマンノース−6−リン酸含有酸性糖鎖が付加された組換えタンパク質を製造する方法により、それぞれ製造した。
得られたα−ガラクトシダーゼA(α−GALA)及びβガラクトシダーゼ(β−GAL)を、酵素濃度が1mg/mlとなるようにそれぞれPBS(Phosphate Buffered Saline)に溶解した。次いでこのα−GALA溶液又はβ−GAL溶液を、1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシド[β−Xyl(Phyt)と略す]との質量比が35:65となるように添加して、よく混合することにより、β−Xyl(Phyt)キュービック液晶組成物にα−GALA又はβ−GALを包埋させた複合体を作製した。
このキュービック液晶に包埋したα−GALA、β−GALの酵素活性については、α−GALAの基質として4−メチルウンベリフェリルα−D−ガラクトピラノシド、β−GALの基質として4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシドを使用し、反応産物である4−メチルウンベリフェロンを蛍光顕微鏡観察することによって検出した。
まずキュービック液晶組成物にα−GALA又はβ−GALを包埋した複合体をスライドガラス上に約1mg載せ、その上からカバーガラスをかぶせて軽く押さえ、伸展させた。そこに、上記基質を0.15M酢酸ナトリウム溶液(pH4.6)に溶解した基質溶液(1.7mg/ml)を10μl添加した後蛍光顕微鏡で経時的に観察を行なった。
観察の結果、キュービック液晶組成物にα−GALA又はβ−GALを包埋した複合体のいずれにおいても、液晶内部で反応産物に由来する蛍光が認められたため(図10)、包埋されたα−GALA又はβ−GALがキュービック液晶中で活性を有することが示された。分子量48000のα−GALAは二量体、分子量116400のβ−GALは四量体を形成して機能することが分かっていることから、このキュービック液晶は少なくとも分子量96000〜465600の蛋白質を活性を維持した状態で包埋できることが立証された。
さらに、キュービック液晶に包埋したα−GALAの徐放性について調べた。血中での徐放性を想定した実験系とするため、上記と同様にして製造したα−GALA(使用酵素濃度:2mg/ml、0.2mg/ml)を包埋するキュービック液晶組成物10mgをウシ血清1mlに添加し、10℃のインキュベーター内で振盪した。振盪開始後、0、2、6、24、48時間目に10μlずつサンプルを採取してα−GALA活性を測定した。
検出には、採取したサンプル10μlに、4−メチルウンベリフェリルα−D−ガラクトピラノシド基質溶液(26mg/ml)を60μl添加して37℃で30分間反応させた後、700μlの0.2Mグリシン(pH10.7)NaOH溶液を加えて反応を停止させた。反応産物4−メチルウンベリフェロンを、蛍光分光器で励起波長365nm、蛍光波長450nmにて測定した。2mg/ml及び0.2mg/mlの濃度でα−GALAを包埋させたキュービック液晶組成物における徐放性試験の結果を、図11のA及びBにそれぞれ示す。
図11に示される通り、2mg/mlの濃度でα−GALAを包埋させたキュービック液晶組成物では、振盪開始直後から徐々にα−GALA活性の上昇が認められ、24時間後には包埋量の約4%に相当する酵素活性が示された。また0.2mg/mlの濃度でα−GALAを包埋させたキュービック液晶組成物では、同様に振盪開始直後から徐々にα−GALA活性の上昇が認められ、48時間後には包埋量の約50%に相当する酵素活性が示された。
[実施例16] 酵素が包埋されたキュービック液晶を投与したマウスの血中動態
3匹を1群とする9群の9週齢の雄マウスSlc:ICR系統(SPF)に、実施例15と同様にして製造したヒトα−GALAを包埋するキュービック液晶組成物(1匹当たり30mg)を腹腔内投与した。投与の0、2、4、6、12、24、32、48、72時間後、9群のうち1群のマウスから、エーテル麻酔下で腹部大動脈より少なくとも0.4mLを採血した。対照としては、キュービック液晶組成物の代わりにα−GALAを生理的食塩水で希釈した溶液を同系統のマウスに腹腔内投与し、投与の2、6、24時間後に採血を行なった。
採取した血液は直ちに氷水中に30分以上置いた後、3000rpmで15分間遠心分離し、上澄(血清)を半量ずつ2本に分けて分取し、次の試験まで−20℃で保存した。この血清10μlに4−メチルウンベリフェリルα−D−ガラクトピラノシド基質溶液を60μl添加して37℃で30分間反応させた後、700μlの0.2Mグリシン(pH10.7)NaOH溶液を加えて反応を停止させた。反応産物4−メチルウンベリフェロンを、蛍光分光器で励起波長365nm、蛍光波長450nmにて測定した。結果を図12に示す。図12中、黒塗りの三角(▲)はキュービック液晶組成物投与群、白抜きの丸(○)は対照サンプル投与群を表す。
この結果、α−GALAを包埋するキュービック液晶組成物を投与したマウスの血中では、投与後12時間目のころからα−GALA活性が上昇した。このα−GALA活性は投与後48時間目にピークに達し、さらに投与後72時間目においても同じレベルで維持されていた。ピーク時の上昇の割合は投与直前(0時間)に対して約113%であった。対照サンプルを投与したマウスの血中では、投与後6時間目にα−GALA活性はピークに達し(投与直前に対し約197%)、投与後12時間目以降には激減した。
α−GALAを包埋するキュービック液晶組成物から投与された場合、投与直後の血中α−GALAの急上昇が抑制されるため、血中α−GALAの急上昇による副作用の抑制効果が期待出来る。さらに、α−GALAの血中濃度が、長時間にわたって一定濃度に保持出来るため、投与頻度の低減ひいては患者のQOL向上が期待出来る。
[参考例3] 単回急性経口毒性試験
α−体を5%含有する1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロシド[β−Xyl(Phyt)]2.1gおよびプルロニックF127 0.22gをアセトンに均一に溶解させた後、減圧下でアセトンを除去してβ−Xyl(Phyt)とプルロニックF−127([PEG]99−[PPO]67−[PEO]99)との混合固体を得た。この混合固体に9.47gの水を加え、マグネチックスターラーで攪拌しキュービック液晶分散液を得た。これを6週齢の雌性SD系ラット(5匹を1群とした)に体重1kg当たり2000mgの投与量で投与(濃度20質量%のキュービック液晶分散液を体重1kg当たり投与液量約10mLで投与)し、投与後14日間経過観察を行なった。その結果、3例/5例において投与後30分以内に呼吸緩除が認められ、投与後2時間以内に軟便又は粘液便が観察された。しかし呼吸緩除は投与後4時間までに、軟便又は粘液便は投与後5時間までにそれぞれ消失が確認され、投与翌日以降の観察期間中に異常は認められなかった。さらに、観察期間中正常な体重増加を示した。また、死亡は認められず、観察期間終了後の剖検所見でもいずれの個体にも異常は認められなかった。
この結果から、当該化合物の急性経口毒性はない、あるいは極めて小さいと結論出来る。
[参考例4] キュービック液晶組成物を含む注射剤の調製
1mlの生理的食塩水に1.9gの1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−α−D−キシロピラノシド[5質量%]と1−O−(3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル)−β−D−キシロピラノシド[95質量%]の二成分の両親媒性化合物を実施例12と同様な方法で混合し、透明なゲル状キュービック液晶組成物を得た。得られたキュービック液晶組成物1gに、1.2質量%のプルロニックF127([PEG]99−[PPO]67−[PEO]99)を含む生理的食塩水を全体として10gとなる量まで添加し、マグネチックスターラーで3時間撹拌することにより混合して、平均粒子径320nmのキュービック液晶微粒子を含む乳白色の液晶分散液を得た。この液晶分散液を1.2質量%プルロニックF127([PEG]99−[PPO]67−[PEO]99)含有生理的食塩水で希釈して5質量%と2質量%のキュービック液晶分散液を調製し、それをさらに孔径0.45μmのフィルターで濾過した。これらのキュービック液晶分散液を、3匹を一群としたマウス(雄、5週齢)の尾静脈内に、27G翼状針およびシリンジポンプを用いて0.1ml/分の速度で投与した。使用したキュービック液晶分散液の投与量及び濃度は、1個体当たり0.2ml(2質量%)、0.4ml(2質量%)、0.1ml(5質量%)、0.2ml(5質量%)、0.4ml(5質量%)とした。投与日を0日と起算し、28日間にわたり全例(動物番号1〜15)について一般状態、生死、体重変化を観察し、最後に剖検を行った。結果を表14に示す。表14より、少なくとも2質量%のキュービック液晶分散液において0.4mlの投与量までは特に副作用もなく静脈注射することが可能であることが示された。また、2質量%のキュービック液晶分散体を0.2ml又は0.4ml投与された群では順調な体重増加を示した。