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JP4671208B2 - 歯科用化学重合触媒 - Google Patents

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JP4671208B2
JP4671208B2 JP2001014779A JP2001014779A JP4671208B2 JP 4671208 B2 JP4671208 B2 JP 4671208B2 JP 2001014779 A JP2001014779 A JP 2001014779A JP 2001014779 A JP2001014779 A JP 2001014779A JP 4671208 B2 JP4671208 B2 JP 4671208B2
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Description

【発明の属する技術分野】
本発明は歯科医療分野において使用される、歯科用化学重合触媒を用いた歯科用接着性組成物に関する。
【従来の技術】
重合性単量体を重合触媒により硬化させる方法は、歯科の分野で広く利用されており、このような方法を利用したものとしては、歯科用セメント、歯科用接着材、コンポジットレジン、歯科用常温重合レジン、歯科用前処理材等が挙げられる。
これらの材料においては、その組成、使用目的や要求性能に応じて重合触媒が使い分けされている。重合触媒としては、光重合触媒と化学重合触媒とがあるが、硬化性組成物中に光を透過し難いフィラー等が多く含まれていたり、光照射が困難な用途に使用したりする場合には化学重合触媒を用いる必要がある。また、歯科用接着剤や前処理材においては接着対象となる歯科材料の種類によって化学重合触媒を使用しなければならないことも多い。さらに、光重合触媒を用いた場合には専用の装置を用いて光照射をする必要があり、操作の簡略化の観点から化学重合触媒の使用が望まれることもある。
例えば、齲蝕や事故等により損傷を受けた歯牙の修復の際にコンポジットレジンやコンポマーに代表されるペースト状の歯科用複合修復材料(歯科用補綴材料)を直接歯の窩洞に充填した後に硬化させる修復方法(直接修復法)においては、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体を主成分とするボンディング材が接着剤(歯科用直接修復用接着材)として使用されており、このようなボンディング材として通常必要とされる前処理操作を必要としない優れたものが開発されてきている(特開平9−263604号公報、特開平10−245525号公報等)が、該ボンディング材は特定の光重合触媒を使用しているため、接着操作の簡略化のためには光照射操作の省略が求められているばかりでなく、該ボンディング材を化学重合型の歯科用修復材料と組合わせて使用した場合には、ボンディング材中の未反応の酸性基含有重合性単量体が、該歯科用修復材料の化学重合触媒成分として一般的に用いられる有機過酸化物/第3級アミン系触媒中のアミン成分と反応してしまい、結果として十分な接着強度が得られないため、組み合わせて用いる歯科用修復材料が光硬化タイプのものに限られてしまうという問題がある。
また、金属、セラミックス材料等を用いて口腔外で予め作製されたインレーやクラウン等の歯科用修復材料を歯牙に接着させる修復方法(間接修復法)においては、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体と有機あるいは無機フィラーを主成分とする接着性レジンセメントやレジン強化型アイオノマーセメント等の接着性歯科用セメントが接着剤として用いられているが、これらセメントには多量にフィラーが含まれていたり、光不透過性の金属材料等が使用されることもあるため、暗所下で常温重合可能な化学重合触媒を用いなければならない。
これまでに化学重合触媒については種々の提案がされている。例えば、(1)トリアルキルホウ素又はその部分酸化物を用いる系(特開昭57−108102号公報等)、(2)有機過酸化物とコバルト塩やマンガン塩との組み合せからなる系、有機過酸化物と第3級アミンとの組み合せからなる系(特開昭51−92884号公報等)、及び過酸化水素とFe2+化合物との組み合わせからなる系等のレドックス型常温重合開始剤、(3)バルビツル酸、Cu2+化合物、およびCl化合物からなる系(特開平5−295013号公報)、並びに(4)アリールボレート化合物と酸性化合物との組み合わせからなる系(特開平9−309811号公報)、及びアリールボレート化合物と酸性化合物と遷移金属化合物との組み合わせからなる系(特開平9−227325号公報)等のアリールボレート化合物を用いた化学重合触媒等が現在知られており、そのうちの幾つかは実用化されている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1)のトリアルキルホウ素又はその部分酸化物を用いる系は、非常に活性が高い優れた化学重合触媒であるが、化学的に極めて不安定であるため、他の成分と別包装して保存し、使用直前に適量採取して他のモノマー成分等と混合する必要があり、操作が煩雑になるという欠点がある。
さらに、上記(2)、(3)のうち有機過酸化物と第三級アミンとの組み合わせからなる化学重合触媒およびバルビツル酸系の化学重合触媒は、生体為害作用の低さ及び入手の容易さ等の観点から歯科材料分野において最も一般的に使用されているものであるが、それぞれ次のような問題が指摘されている。
即ち、有機過酸化物と第三級アミンとの組み合わせからなる化学重合触媒においては、アミン化合物の酸化に由来する硬化体の着色や変色の問題、酸素や酸性成分(酸性成分は第3級アミンと反応して還元能を有しない4級塩とする)による重合阻害が大きいといった問題が指摘されている。例えば上記着色や変色の問題は、コンポジットレジンに代表される歯科用修復材料に応用した場合、天然歯との色調のずれを生じ審美的障害を引き起こし、上記重合阻害の問題は、酸性基含有重合性単量体を必須成分とする歯科用接着材等には使用できないことを意味する。また、バルビツル酸系化学重合触媒においては、硬化時間のコントロールが難かしかったり、保存安定性が悪い等の問題が指摘されている。
また、上記(4)のアリールボレートを用いた化学重合触媒は取り扱いが容易で硬化体の着色、変色がなく、かつ保存安定性にも優れているが、重合活性が必ずしも十分ではなく、尚一層の高活性化が求められている。
このように、触媒自体の化学的安定性が高く取り扱いが容易で、活性が高く、重合阻害を受け難く、硬化体を着色させたり変色させたりすることのない歯科用化学重合触媒はこれまで知られていない。そこで、本発明は、このような優れた特徴を有する歯科用化学重合触媒を
見出し、これを適用して上記諸性状に優れる歯科用接着性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行なった。その結果、アリールボレート化合物と酸性化合物とを特定の酸化剤と組合わせて使用した場合には、重合活性が著しく高くなること、さらにこのような化学重合触媒を用いた歯科用接着性組成物は歯科用接着剤よび歯科用前処理材として優れた特徴を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体、アリールボレート化合物、並びに有機過酸化物を含んでなり、上記酸性基含有重合性単量体の少なくとも一部はリン酸基含有重合性単量体であり、且つアミン化合物は酸性基含有重合性単量体に対して0.1重量%を越えて含有されていないことを特徴とする歯科用接着性組成物である。
上記本発明の歯科用接着性組成物に使用されている化学重合触媒は、アミン化合物を実質的に含有しないので、硬化体を着色させたり変色させたりすることがなく、また取り扱い易く、酸素、酸性化合物存在下でも重合活性が高く、しかも適度な操作余裕時間を確保できると言う特徴を有する。この歯科用化学重合触媒の中でも有機過酸化物の分解を促進する金属化合物を含有するものは、重合活性が特に高いと言う特徴を有する。また、アリールボレート化合物と組合せる酸性化合物が、重合性単量体の一部を酸性基含有重合性単量体とすることにより配合されているため、他の酸性化合物を特に添加する必要がなく、使用後に得られる硬化体から酸性化合物が溶出しないという特徴を有する。
本発明は、論理に拘束されるものではないが、上記本発明の歯科用接着性組成物においては、アリールボレート化合物が酸性基含有重合性単量体が有する酸性基により分解し、アリールボラン化合物を形成し、さらにこのアリールボラン化合物はそれ自身が雰囲気中に存在する酸素により酸化されることによって重合可能なラジカルを生成するばかりでなく、有機過酸化物によっても酸化され、酸素の少ない接着性組成物内部においてもより多くのラジカルが発生するため、高活性に化学重合が進行すると思われる。また、さらに有機過酸化物の分解を促進する金属化合物を含むことにより、アリールボラン化合物の有機過酸化物による酸化が促進されるため、より高活性に化学重合が進行すると考えられる。
このため本発明の歯科用接着性組成物は、常温で暗所下でも重合し、優れた硬化体を与えるという特徴を有する。また、光重合開始剤を更に含む本発明の歯科用接着性組成物は、所謂デュアルキュア型の硬化性組成物であり、臨床における用途範囲が広いという特徴を有する。
上記本発明の歯科用接着性組成物は、歯科用接着材として使用される。こうした歯科用接着材のうち、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100重量部、アリールボレート化合物0.01〜10重量部、有機過酸化物0.01〜10重量部、並びに多価金属イオン溶出性フィラー1〜20重量部及び/又は水2〜30重量部を含有してなるものは、直接修復用として好適に使用される。該本発明の歯科用直接修復用接着材(ボンディング材)は、歯質に対して前処理操作を行わなくても、象牙質およびエナメル質双方に高い接着強度を与え、且つ施用において光照射操作が不要であり、さらに光硬化型あるいは化学硬化型歯科用修復材料の双方に用いられるという、これまでのボンディング材に見られない優れた特徴を有する。
また、歯科用接着材のうち、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100重量部、アリールボレート化合物0.01〜10重量部、有機過酸化物0.01〜10重量部、並びに充填材50〜900重量部を含有してなるものは、間接修復用として好適に使用される。該本発明の歯科用間接修復用接着材は、エナメル質、象牙質双方に対する接着性が高いという特徴を有する。
また、本発明の歯科用接着性組成物は、好適にはさらに、水を含んでなることにより歯科用前処理材として使用される。該本発明の歯科用前処理材は、光および化学重合型接着材の双方を用いた場合にも、1回の操作でエナメル質、および象牙質双方に高い接着強度を与え、かつ安全性が高いという特徴を有する。
【発明の実施の形態】
本発明の歯科用接着性組成物は、その触媒として、アリールボレート化合物、酸性化合物、並びに有機過酸化物からなる化学重合触媒を用いたものであり、且つ実質的にアミン化合物を含有しないことを特徴とする。
ここで、触媒成分として実質的にアミン化合物を含まないとは、化学重合触媒の一成分である酸性化合物を中和して化学重合触媒が実質的に機能しなくなるほどの量のアミン化合物を含まないことを意味し、具体的には本発明の歯科用接着性組成物において化学重合触媒以外の目的で酸性基含有重合性単量体に対して0.1重量%以下の極微量のアミン化合物を含む場合は許容される。触媒成分として上記に示す量を超えるアミン化合物が含まれると、アミン化合物の酸化に由来して、得られる硬化体の初期の着色が増加し、さらに耐着色性が低下して審美的な問題を発生するばかりでなく、化学重合触媒の一成分である酸性化合物が中和されるために重合活性の低下を招いてしまう。さらに、アミン化合物特有の悪臭が発生することがあり、患者に不快感を与えるといった問題が起こることがある。
本発明の組成物において、化学重合触媒の構成成分として使用するアリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物であれば特に限定されず、下記一般式(1)
【化1】
Figure 0004671208
(但し、R、R、及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基であり、これら基は置換基を有していてもよく;R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、または置換基を有してもよいフェニル基であり;Lは金属陽イオン、4級アンモニウムイオン、4級ピリジニウムイオン、4級キノリニウムイオン、またはホスホニウムイオンである。)
で示されるボレート化合物が使用できる。
歯科臨床では、化学重合触媒系の硬化反応を利用する材料は、触媒系を別々に分けて包装されている製品を使用直前に混合、あるいは練和して使用するのが一般的であるが、ホウ素−アリール結合をまったく有しないボレート化合物は保存安定性が極めて悪く、空気中の酸素と容易に反応して分解するため別々に包装された状態でもボレート化合物が簡単に劣化してしまったり、混合や練和時に硬化反応が進行しまい操作余裕時間が短くなるため事実上使用困難になるという問題を生じる。
上記式(1)で示されるアリールボレート化合物を具体的に例示すると、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物として、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
また、1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物として、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
さらに、1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物として、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリス(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
また、1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物として、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
これらの中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個または4個のアリール基を有するボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いの容易さや入手のし易さから4個のアリール基を有するボレート化合物が最も好ましい。これらアリールボレート化合物は1種または2種以上を混合して用いることも可能である。
本発明の歯科用接着性組成物では、上記アリールボレート化合物と組合せて化学重合触媒を構成する酸性化合物を、酸性基含有重合性単量体として配合する。このように酸性化合物自身が重合性単量体でもあり、重合硬化によって、酸性成分の溶出等の心配がないため好ましい。
かかる、酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで酸性基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SOH)、或いは酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}を有する有機基等の水溶液中で酸性を示す基を意味する。また、重合性付不飽和基とは、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基等のラジカル重合能を有する不飽和基を意味する。
酸性基含有重合性単量体としては、下記一般式(2)または(3)で示される化合物が好適に使用できる。
【化2】
Figure 0004671208
{式中、RおよびR6’はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、WおよびW’はそれぞれ独立にオキシカルボニル基(−COO−)、イミノカルボニル基(−CONH−)、またはフェニレン基(−C64−)を表し、RおよびR7’は結合手、またはエーテル結合及び/またはエステル結合を有していてもよい2〜6価の炭素数1〜30の有機残基を表し、W,W’がオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合にはR7は結合手にならず、XおよびX’は1価または2価の酸性基を表し、mおよびm’はそれぞれ独立に1〜4の整数を表し、m+nはRの価数を表し、m’+n’はR7’の価数を表す。}
上記一般式(2)および(3)中、X、X’は前記定義に従う酸性基であれば、その構造は特に限定されることはないが、好ましい具体例は次の通りである。
【化3】
Figure 0004671208
前記一般式(2)および(3)中、Rの構造は特に制限されることはなく、結合手、または公知のエーテル結合及び/またはエステル結合を有していてもよい2〜6価の炭素数1〜30の有機残基が採用され得るが、具体的に例示すると次の通りである。尚、Rが結合手の場合とは基Wと基Xが直接結合した状態をいい、Wがオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合には、Rは結合手とはならない。
【化4】
Figure 0004671208
(式中、m1、m2、およびm3はそれぞれ独立に0〜10の整数であり、かつm1+m2+m3は1以上である。)
一般式(2)および(3)で表される酸性基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
【化5】
Figure 0004671208
【化6】
Figure 0004671208
(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、l、m、およびnはそれぞれ独立に0〜2の整数である。尚、式中、最下段の化合物は、l、m、およびnがそれぞれ異なる化合物として得られることが多く、該混合物におけるl、m、およびnの和は平均3.5である。)
【化7】
Figure 0004671208
【化8】
Figure 0004671208
(但し、Rは水素原子またはメチル基である。)
その他、ビニルホスホン酸類やアクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸類も酸性基含有重合性単量体に含まれる。
これらの酸性基含有重合性単量体は単独または二種以上を混合して用いることができる。
上記に具体的に例示した酸性基含有重合性単量体の中でも、取り扱い易さや入手の容易さから、酸性基としてリン酸基(ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)、カルボキシル基{−C(=O)OH}を有するものを使用するのが特に好適である。さらに、本発明では、歯科用接着性組成物をより高い接着強度のものにするために、後述するように酸性基含有重合性単量体の少なくとも一部は、リン酸基(ホスフィニコ基又はホスホノ基)を有するものを用いる。
本発明の歯科用接着性組成物における酸性基含有重合性単量体の使用量は特に限定されないが、重合活性および硬化性の観点からアリールボレート化合物1モルに対して0.1〜100モル、特に0.5〜50モルであるのが好適である。
本発明の歯科用接着性組成物は酸化剤として有機過酸化物を含有する。これら有機過酸化物としては公知の化合物が制限なく使用できる。
本発明で使用できる代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される各種有機過酸化物が挙げられ、これら有機過酸化物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
即ち、ケトンパーオキサイド類としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
また、パーオキシケタール類としては、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル 4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンが挙げられる。
また、ハイドロパーオキサイド類としては、P−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。
また、ジアシルパーオキサイド類としては、イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
また、パーオキシジカーボネート類としては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジー2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
さらに、パーオキシエステル類としては、α,α−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート等が挙げられる。
なお、これら以外にもt−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が好適に使用できる。
これら有機過酸化物は、組み合わせて用いるアリールボレート化合物や酸性基含有重合性単量体の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独でまたは2種以上を混合して用いても何らかまわないが、重合活性の点から、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類、又はジアシルパーオキサイド類を使用するのが特に好ましい。さらにこれらの中でも、硬化性組成物としたときの保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましい。
本発明の歯科用接着性組成物における有機過酸化物の使用量は特に限定されないが、重合活性の観点からアリールボレート化合物1モルに対して0.1〜10モル、特に0.5〜5モルであるのが好適である。
なお、本発明の歯科用接着性組成物において重合活性を更に高くするため、用いた有機過酸化物の分解を促進する金属化合物(以下単に分解促進剤ともいう。)を添加するのが好適である。有機過酸化物を分解する作用を有する化合物でもアミン化合物を添加した場合には、触媒成分の一つである酸性化合物を中和してしまい、重合活性を低下させてしまう。
本発明で使用できる分解促進剤は、金属化合物であって、有機過酸化物がアリールボラン化合物と共存した時にその分解を促進する作用を有するものであれば特に限定されない。このような作用を有する分解促進剤を具体的に例示すると、酸化バナジウム(V)、酸化バナジウムアセチルアセトナート、バナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム等のバナジウム化合物、塩化鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、ナフテン酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)等の鉄化合物、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)、銅(II)アセチルアセトナート、ステアリン酸銅(II)等の銅化合物、酸化モリブデン(VI)、酸化モリブデンアセチルアセトナート等のモリブデン化合物、酸化マンガン(IV)、ナフテン酸マンガン等のマンガン化合物、ナフテン酸コバルト、コバルト(III)アセチルアセトナート等のコバルト化合物、酸化タングステン(VI)、タングステン酸ナトリウム、ケイタングステン酸等のタングステン化合物、酸化ジブチルスズ(IV)等のスズ化合物等が挙げられる。分解促進剤の使用量は特に限定されないが、重合活性の観点から、有機過酸化物1モルに対して0.001〜1モル、特に0.05〜0.1モルであるのが好適である。
本発明で使用する上記化学重合触媒は、アミン化合物を実質的に含有しないので、硬化体を着色させたり変色させたりすることがなく、また取り扱い易く重合活性が高く、しかも適度な操作余裕時間を確保できる。この化学重合触媒を配合する重合性単量体は、一部は前記酸性基含有重合性単量体であるが、その他も、歯科分野で従来の歯科用化学重合触媒と組み合わせ使用可能な公知の重合性単量体が制限なく使用できる。硬化速度の点から(メタ)アクリレート系単量体を用いるのが好適である。
好適に使用される(メタ)アクリレート系重合性単量体の具体例を示せば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
本発明の歯科用接着性組成物においては、前記(メタ)アクリレート系単量体以外にも、接着性組成物の粘度調節、あるいはその他の物性の調節にために、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の他の重合性単量体を混合して重合することも可能である。ただし、全重合性単量体に対する前記(メタ)アクリレート系単量体の配合割合は、50重量%以上、好ましくは60重量%以上であるのが好適である。50重量%未満であると、歯科臨床で必要な硬化速度が得られにくい傾向にある。
本発明で使用できる他の重合性単量体を例示すると、スチレン、p−クロロスチレン、p−ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等のスチレンあるいはα−メチルスチレン誘導体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)ジフェニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルオキシラン、エチレングリコール−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等のエポキシ化合物;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ナフトキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン等のオキセタン化合物;ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等のビニルエーテル化合物等を挙げることができる。なお、上記他の重合性単量体のうち、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及びビニルエーテル化合物は、本発明の組成物において、重合性単量体の少なくとも一部として含有させる酸性基含有重合性単量体によって重合を開始することのできるカチオン重合性単量体である。また、上記他の重合性単量体は単独で用いても、2種類以上を混合して使用してもよい。
発明の歯科用接着性組成物においては、該組成物およびその硬化体の物性を低下させない範囲であれば、本発明で配合する前記歯科用化学重合触媒に加えて、他の化学重合触媒(熱重合触媒)、や紫外線若しくは可視光線を用いる光重合触媒(以下、総称して単に他の重合触媒ともいう)を添加してもよい。光重合触媒と併用した場合には化学硬化および光硬化の両方が可能ないわゆるデュアルキュア型の硬化性組成物とすることができる。
併用される他の重合触媒には何等制限はないが、好適に使用される熱重合触媒としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
また、好適に使用される紫外線または可視光線重合触媒としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;ベンゾフェノン、p−p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p、p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、本発明の必須成分であるアリールボレート化合物に色素と光酸発生剤とを組み合わせた、即ちアリールボレート/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトンおよびアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、並びに色素と光酸発生剤を組み合わせた系であり、この場合には化学硬化および光硬化の両方が可能な、いわゆるデュアルキュア型の硬化性組成物を調製することが可能となる。
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。
また、アリールボレート/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤に使用する色素としては、クマリン系の色素が挙げられる。特に好適なクマリン系色素としては、400〜500nmの可視光線域に最大吸収波長を有するものが、歯科用途に一般的に使用される照射器に対して感度が高いので好適である。代表的なクマリン系色素を具体的に例示すると、3−チエノイルクマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等を挙げることができる。
上記した光酸発生剤は、光照射によってブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成するものであり、色素によって可視光線照射下分解し、酸を発生するものならば公知のものが何ら制限なく使用できる。該光酸発生剤としては、上記クマリン系色素とエネルギー移動を行い、可視光線照射下によって高効率に酸を発生することから、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物が特に好適である。
以下、代表的なハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体の具体例を示せば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等を挙げることができる。
また、ジフェニルヨードニウム塩化合物の具体例を示せば、ジフェニルヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム等のブロミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフルオロメタンスルホネート塩が好適に使用される。
上記したような他の重合触媒はそれぞれ単独で用いられるだけでなく、必要に応じて複数の種類を組み合わせて用いることもできる。これら他の重合触媒の使用量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、本発明の歯科用化学重合触媒100重量部に対して1〜1000重量部、特に10〜500重量部であるのが好適である。
また、本発明の接着性組成物にはその用途に応じて要求される物性を付与する目的で各種充填材、有機溶媒、水、増粘剤、紫外線吸収剤、重合調製剤、染料、帯電防止剤、顔料および香料等を添加することが可能である。例えば、歯科用直接修復用接着材(ボンディング材)や歯科用間接修復用接着材等の歯科用接着材として使用する場合には、無機フィラー、有機フィラー、又は有機無機複合フィラー等の充填材を配合するのが好適である。また、プライマー等の歯科用前処理材として使用する場合には水や有機溶媒を添加するのが好適である
本発明の歯科用接着性組成物は、歯科用直接修復用接着材、歯科用間接修復用接着材等の歯科用接着材、及び歯科用前処理材として使用した時に、従来品には見られなかったような優れた特長を示す。
例えば、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100重量部、アリールボレート化合物0.01〜10重量部、有機過酸化物0.01〜10重量部、並びに多価金属イオン溶出性フィラー1〜20重量部及び/又は水2〜30重量部を含有する歯科用直接修復用接着材(ボンディング材)は、歯質に対して前処理操作を行わなくても、象牙質およびエナメル質双方に高い接着強度を与え、且つ施用において光照射操作が不要であり、さらに光硬化型あるいは化学硬化型歯科用修復材料の双方に用いられるという、これまでのボンディング材に見られない優れた特徴を示す。なお、歯科用直接修復用接着材とは、コンポジットレジンと歯質との接着に代表される直接修復法において使用される接着材(ボンディング材)を意味する。
また、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100重量部、アリールボレート化合物0.01〜10重量部、有機過酸化物0.01〜10重量部、並びに充填材50〜900重量部を含有する歯科用間接修復用接着材は、エナメル質、象牙質双方に対する接着性が高いという特徴を有する。なお、歯科用間接修復用接着材とは、クラウンと歯質との接着に代表される間接修復法において使用される接着性レジンセメントやレジン強化型アイオノマーセメント等の接着材を意味する
さらに、酸性基含有重合性単量体、アリールボレート化合物、有機過酸化物、並びに水を含有する本発明の歯科用硬化性組成物からなる本発明の歯科用前処理材は、光および化学重合型接着材の双方を用いた場合にも、1回の操作でエナメル質、および象牙質双方に高い接着強度を与え、かつ安全性が高いという特徴を示す。
以下これら各材料について詳しく説明する。
(I)本発明の歯科用直接修復用接着材及び本発明の歯科用間接修復用接着材(以下、総称して本発明の接着材ともいう。)
本発明の接着材で使用する酸性基含有重合性単量体は、前記歯科用化学重合触媒の酸性化合物としての機能も兼ねるものである。該酸性基含有重合性単量体としては上記酸性化合物として説明したものが制限なく使用できるが、歯質、あるいは卑金属に対する接着強度の点から、前記一般式(2)または(3)で示される化合物が好適に使用できる。
その中でも特に、リン酸基(ホスフィニコ基又はホスホノ基)含有重合性単量体を用いると、より高い接着強度を実現することができるため、少なくともその一部として含有させる。さらにまた、上記したリン酸基重合性単量体とカルボキシル基含有重合性単量体を組み合わせて用いると、象牙質に対して、接着強度のバラツキが少なく、しかもより高い接着強度を実現することができる。上記、リン酸基含有重合性単量体とカルボキシル酸基含有重合性単量体の配合割合は、他の組み合わせる成分の種類や量等によって任意に決定すればよい。リン酸基含有重合性単量体とカルボキシル酸基含有重合性単量体の好適な組み合わせを例示すれば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートと11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸の組み合わせ、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートと4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物との組み合わせ、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシッドホスフェートと11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸との組み合わせ等が好ましい例として挙げられる。
本発明の接着剤で使用する重合性単量体は、記酸性基含有重合性単量体のみからなっていてもよいが、硬化体強度および接着耐久性の観点から酸性基を有しない重合性単量体を更に含むのが好適である。但し、全重合性単量体中の酸性基含有重合性単量体の含有割合は、接着強度の観点から5〜70重量%、特に10〜50重量%であるのが好適である。
酸性基を有しない重合性単量体は、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を持つもので上記した酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体であれば、本発明の歯科用接着性組成物で使用できる重合性単量体として示したものが何ら制限なく使用できる。このような重合性単量体の重合性不飽和基としては、前記、酸性基含有重合性単量体と同様なものが挙げられるが、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基等が硬化速度の点から好ましい。
また、本発明の歯科用接着材においては他の重合性単量体として、貴金属製の歯冠用修復物と接着させる目的で、貴金属と結合する官能基を有する重合性単量体を添加することもできる。この様な重合性単量体として好適に使用できるものを例示すれば、チオウラシル誘導体、トリアジンジチオン誘導体、メルカプトチアゾール誘導体等の官能基を有する重合可能な重合性単量体が挙げられ、この様な重合性単量体の具体例としては下記一般式に示される各重合性単量体が使用できる。
即ち、下記一般式(4)〜(8)に示される互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性単量体:下記一般式(9)〜(12)に示されるジスルフィド基を有する重合性単量体;下記一般式(13)〜(14)で示される鎖状もしくは環状のチオエーテル基を有する重合性単量体が挙げられる。
【化9】
Figure 0004671208
〔式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜12の2価の飽和炭化水素基、−CH−C−CH−基、−(CH−Si(CHOSi(CH−(CH−基(oおよびpは、それぞれ独立に1〜5の整数である。)、または−CHCHOCHCH−基であり、Zは−OC(=O)−基、−OCH−基または−OCH−C−基であり(いずれの基も右端の炭素原子が不飽和炭素に結合し、左端の酸素原子が基R9に結合する。)、Z’は−OC(=O)−基、−C−基、もしくは結合手であり{−OC(=O)−基の場合、右端の炭素原子が不飽和炭素に結合し、左端の酸素原子が基Rに結合する。}、Yは−S−、−O−、または−N(R’)−である(R’は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基である。)}なお、基Z’が結合手の場合とは基R9と不飽和炭素が直接結合した状態をいう。
これら化合物を具体的に例示すれば、前記一般式(4)〜(8)に示される互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性単量体としては次に示すものが挙げられる。
【化10】
Figure 0004671208
【化11】
Figure 0004671208
【化12】
Figure 0004671208
又、前記一般式(9)〜(12)で示されるジスルフィド基を有する重合性単量体としては、次に示す化合物等が挙げられる。
【化13】
Figure 0004671208
さらに、前記一般式(13)〜(14)に示される鎖状もしくは環状のチオエーテル基を有する重合性単量体としては、次に示す化合物等が挙げられる。
【化14】
Figure 0004671208
これら貴金属と結合する官能基を有する重合性単量体は単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。また、配合量は、組成物の粘度や硬化体の機械的強度を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には歯科用接着材中の全重合性単量体中100重量部に対して、0.1〜50重量部、より好ましくは、0.2〜20重量部の範囲である。
本発明の接着材で使用するアリールボレート化合物は、前記歯科用化学重合触媒の一成分であり、その説明で前記したものが制限なく使用できる。該アリールボレート化合物の使用量は、優れた接着効果を得るために全重合性単量体に対して0.01〜10重量%である必要がある。最適な使用量は使用する重合性単量体の種類や量、および他成分の配合割合によって異なるものの、通常は0.05〜8重量%、特に0.5〜6重量%であるのが好適である。
本発明の接着材で使用する有機過酸化物は、前記歯科用化学重合触媒の一成分であり、その説明で前記したものが制限なく使用できる。該有機過酸化物の使用量は、優れた接着効果を得るために全重合性単量体に対して0.01〜10重量%である必要がある。最適な使用量は使用する重合性単量体の種類や量、および他成分の配合割合によって異なるものの、通常は0.05〜8重量%、特に0.5〜5重量%であるのが好適である。
なお、本発明の接着材において更に接着性を高くするため、前記した分解促進剤を添加するのがさらに好適である。
本発明の接着材が歯科用直接修復用接着剤(ボンディング材)である場合には、充填材として多価金属イオン溶出性フィラーを添加する。このようなフィラーを添加することにより、重合反応とともに酸性基含有重合性単量体と多価金属イオンとのキレート反応が進行し、硬化体の強度を向上させることができる。該多価金属イオン溶出性フィラーは、上記のような性質を有するものであれば特に限定されない。本発明で使用可能な多価金属イオン溶出性フィラーを具体的に例示すれば、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス、ストロンチウム等が挙げられる。これらの中でも、硬化体の耐着色性の点でフルオロアルミノシリケートガラスが最も優れており、これを使用するのが好適である。該フルオロアルミノシリケートガラスは歯科用セメントとして使用される公知のものが使用できる。一般的に知られているフルオロアルミノシリケートガラスの組成は、イオン重量%で、ケイ素、10〜33;アルミニウム、4〜30;アルカリ土類金属、5〜36;アルカリ金属、0〜10;リン、0.2〜16;フッ素、2〜40および残量酸素である。このような組成のものの他、上記アルカリ土類金属の一部または全部をマグネシウム、ストロンチウムまたはバリウムで置換したものも使用できる。特にストロンチウムで置換したものは硬化体にX線不透過性と高い強度を与えるためしばしば好適に使用される。これら多価金属イオン溶出性フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理しても何ら差し支えはない。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤は、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ε−メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が好適に用いられる。
これら多価金属イオン溶出性フィラーの添加量は、全重合性単量体100重量部に対して1〜20重量部であればよいが、効果の点から2〜15重量部であるのがより好ましい。
さらに、本発明の歯科用直接修復用接着材においては、前処理および光照射を必要としなくても接着強度、特にエナメル質に対する接着強度を向上させる目的で、水を添加することが有効である。水を添加することにより歯質の脱灰が促進され、さらには前記多価イオン溶出性フィラーとの併用はキレート反応を促進するため特に好ましい。該水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。また添加量は、全重合性単量体の全量100重量部に対して2〜30重量部であればよいが、3〜20重量部添加することがより好ましい。水の添加量が30重量部を超える場合には、硬化体の強度が著しく低下するため好ましくない。
また、本発明の歯科用間接修復用接着剤で使用する充填材としては一般歯科用接着材に用いられる無機充填材、有機充填材、及び無機酸化物とポリマーの複合体を粉砕した無機−有機複合充填材が何ら制限なく用いられる。
本発明の歯科用間接修復用接着剤で使用できる無機充填材を具体的に例示すると、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−カルシア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、チタニア、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。また、無機充填材としては、前記した多価イオン溶出性フィラーも好適に用いられる。これら無機充填材は前記と同様に、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理しても何ら差し支えはない。
また、本発明の歯科用間接修復用接着剤で使用できる有機充填材を具体的に例示すると、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、エチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート−トリメチロールプロパンメタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、塩素化ポリエチレン、ナイロン、ポリスルホン。ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等が挙げられる。
これら充填材の形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよい。また、これら充填材の粒子径も特に限定されるものではないが、良好な適合性を得るための被膜厚さの点で100μm以下のものが好適に、より好ましくは30μm以下のものが使用される。
これら充填材の添加量は、全重合性単量体量100重量部に対して50〜900重量部であればよい。50重量部未満では材料の物理的強度が低下し、900重量部より多い場合は材料の流動性が減少し、操作性が低下する。より好ましい添加量は、100〜800重量部である。
本発明の歯科用接着材には、物性を低下させない範囲で光重合触媒を添加するのが好適である。光重合触媒を組み合わせて用いると、化学および光のデュアルキュア型の接着材として使用でき、臨床における用途範囲が広がるため特に好適である。
本発明の歯科用接着材には上記した成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、有機溶媒、増粘剤、無機酸、有機酸、紫外線吸収剤、重合調製剤、染料、帯電防止剤、顔料および香料等を添加することが可能である。
有機溶媒としては、水溶性有機溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ブテンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、アリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンエーテル等のアルコール類またはエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類を使用することができる。また非水溶性有機溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が使用できる。これらの中でも、生体に対する為害作用の少ないものが望ましく、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンエーテル、アセトン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が好適であり、特にエタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等が最も好適に使用される。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。
増粘材としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物や高分散性シリカが使用できる。
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が使用できる。また、有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、安息香酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸およびトリメリット酸等のカルボン酸類、p−トルエンスルホン、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のリン酸類等が使用できる。
本発明の接着性組成物は最終的には全成分を混合して使用されるが、保存中における劣化を防止するため、接着性組成物が上記接着材の場合、その包装形態としては、アリールボレート化合物が酸性基含有重合性単量体と、別個に分けて包装されているのが好ましい。アリールボレート化合物は、酸性条件下で分解するため、例えば、ボンディング材においては、酸性基含有重合性単量体、その他の重合性単量体を主成分とする液と、酸性基を含有しない重合性単量体、有機過酸化物およびアリールボレート化合物を主成分とする液を別個に包装したものを、歯科用セメントにおいては酸性基含有重合性単量体、その他の重合性単量体および有機過酸化物を主成分とする液と、充填材およびアリールボレート化合物を主成分とする粉との包装、または、酸性基含有重合性単量体、充填材および有機過酸化物を主成分とするペーストとその他の重合性単量体、充填材およびアリールボレート化合物からなるペーストを別個に包装したものを使用時に混合して用いるのが好ましい。
本発明の接着材の使用方法は特に限定されないが、例えば次のようにして好適に使用することができる。
すなわち、歯科用直接修復用接着剤(ボンディング材)においては、該接着剤となる歯科用硬化性組成物をスポンジあるいは小筆等を用いて歯面に塗布し、直ちに、あるいは数秒〜数分間放置した後、コンポジットレジン等の修復材を充填し重合硬化させることにより、修復材と歯質とを強固に接着することができる。
一方、歯科用間接修復用接着剤(歯科用セメント)においては、歯面および/または種々の修復物に該接着剤となる歯科用硬化性組成物を直接、ヘラや小筆等を用いて塗布した後、両者を接触させ、次いで重合硬化させる方法でもよいし、さらに、より強固な接着強度を得る目的で、歯面を予め酸水溶液や酸性基含有重合性単量体と水等を含む前処理材で処理した後、上記のように接着させる方法も採用することができる。
(II)本発明の歯科用前処理材
本発明の歯科用前処理材は、酸性基含有重合性単量体、アリールボレート化合物、有機過酸化物、並びに水を含有する本発明の歯科用接着性組成物からなる。
本発明の歯科用前処理材で使用する酸性基含有重合性単量体は、前記歯科用化学重合触媒の酸性化合物としの機能も兼ねるものである。該酸性基含有重合性単量体としては上記酸性化合物として説明したものが制限なく使用できるが、歯質、あるいは卑金属に対する接着強度の点から、本発明の接着材において好適に使用できるものして示したのと同じ酸性基含有重合性単量体を使用するのが好適である。また、リン酸基含有重合性単量体と1分子中にカルボン酸基を複数個有する多価カルボン酸基含有重合性単量体とを組み合わせて用いると、象牙質に対して、接着強度のバラツキが少なく、しかもより高い接着強度を実現することができるのも本発明の接着と同様である。
本発明の前処理材における酸性基含有重合性単量体の配合量は、前処理材組成物を構成する全成分を100重量%としたとき、3〜50重量%が好ましく、より好ましくは7〜40重量%である。3重量%未満であるとエナメル質に対する接着強度が不足する傾向がある。50重量%を超えると象牙質、エナメル質ともに接着強度が低下する傾向がある。
本発明の前処理材で使用するアリールボレート化合物は、前記歯科用化学重合触媒の一成分であり、その説明で前記したものが制限なく使用できる。該アリールボレート化合物の添加量は、他成分の種類や配合割合によって異なるものの、前処理材組成物を構成する全成分を100重量%としたとき、0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜8重量%、最も好ましくは0.5〜6重量%である。
本発明の前処理材で使用する有機過酸化物は、前記歯科用化学重合触媒の一成分であり、その説明で前記したものが制限なく使用できる。該有機過酸化物の使用量は、優れた接着効果を得るために、前処理材を構成する全成分を100重量%としたとき、0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは、0.05〜8重量%であり、最も好ましくは0.5〜5重量%である。添加量が0.01重量%よりも少ない場合には、重合触媒としての効果が低下するためエナメル質および象牙質双方の接着強度が低下する傾向がある。10重量%を超える場合には、組成物の保存安定性に問題を生じる場合がある。なお、本発明の歯科用前処理材において更に接着性を高くするため、前記した分解促進剤を添加するのがさらに好適である。
本発明の前処理材で使用する水は、歯質を脱灰するために必要である。この水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。該水の好適な添加量は、前処理材組成物を構成する全成分を100重量%としたとき、5〜90重量%であり、20〜80重量%がより好ましい。5重量%未満であると歯質の脱灰が不十分になる傾向があるためエナメル質、象牙質ともに接着強度が不足する恐れがある。90重量%を超えると象牙質、エナメル質ともに接着強度が低下する傾向がある。
本発明の歯科用前処理材には上記成分以外にも、その効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶媒、非水溶性有機溶媒、酸性基含有重合性単量体以外の他の重合性単量体、他の重合触媒、無機強酸、金属塩等を添加することが可能である。なお、使用できる各添加材としては、本発明の接着剤における添加材として示したものと同じものが使用可能である。
特に使用する酸性基含有重合性単量体が水に対して溶解しにくい場合には、水溶性有機溶媒を用いて各成分を溶解し均一溶液、あるいは使用に問題のない程度に長時間安定なエマルジョンとすることが好適である。この時使用できる水溶性有機溶媒としては、本発明の接着剤で例示したのと同じものを挙げることが出来る。それらの中でも、為害作用の少ないものとして例示したもの、特にエタノール等のアルコール類を使用するのが好適である。水溶性有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。該水溶性有機溶媒の配合量は前処理材の全構成成分中、80重量%以下であることが好ましい。
本発明の歯科用前処理材を使用する方法については特に制限がなく、酸性基含有重合性単量体、有機過酸化物、アリールボレート化合物、水、並びに必要に応じて配合される任意成分をその所望の割合で容器に秤り採り、攪拌混合して均一溶液、またはエマルジョンとし、これをスポンジあるいは小筆等を用いて歯面に塗布し、数秒〜数分間放置した後エアーを吹き付けて乾燥し、次いで前処理された歯面の上に接着材を塗布し、種々の修復材料を接触させた後接着材を重合硬化させる方法が好適に採用される。また、本発明の歯科用前処理材はその構成成分を分割して使用してもよい。例えば有機過酸化物を含む溶液で前処理した後に、酸性基含有重合性単量体、水およびアリールボレート化合物を含む溶液で処理することも可能である。この場合、本発明の硬化性組成物は歯面上において形成されることになる。本発明の歯科用前処理材においては、処理後の歯質表面に均一な被膜が形成され、該被膜中に後から塗布される接着材成分が拡散するので、歯質との良好な接着が選られるものと思われる。
なお、前記したようにアリールボレート化合物は酸性条件下では分解しやすいため、本発明の歯科用前処理材の包装形態としては、アリールボレート化合物、酸性基含有重合性単量体、および有機過酸化物が使用に際してはじめて接触するように、これらを別個に分けて包装しておくのが好ましい。例えば、酸性基含有重合性単量体、有機過酸化物等の酸化剤、およびその他の成分を主成分とする溶液と、水およびアリールボレート化合物を主成分とする溶液とに分けて調製、これらの溶液を別々に包装し、使用直前に混合して用いるのが好ましい。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。
尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、硬化時間の測定法を(2)に、各種硬化体物性の測定法を(3)〜(6)に、本発明の歯科用直接修復用接着材の接着強度測定方法を(7)に、本発明の歯科用間接修復用接着材の接着強度測定方法を(8)に、本発明の歯科用前処理材を用いた接着強度測定方法を(9)に示す。
(1)略称及び構造[酸性基含有重合性単量体]
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MAC−10;11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカンボン酸
4−META;4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
MTS;2−メタクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート。
[酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体]
MMA;メチルメタクリレート
TMPT;トリメチロールプロパントリメタクリレート
bis−GMA;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
D2.6E;2,2−ビス[(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MTU−6;6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレート
NPG;ネオペンチルグリコールジメタクリレート。
[有機過酸化物]
パーメックN;メチルエチルケトンパーオキサイド
パーヘキサH;シクロヘキサノンパーオキサイド
パーヘキシルH;t−ヘキシルハイドロパーオキサイド
パークミルP;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド
パーブチルH;t−ブチルハイドロパーオキサイド
BPO;ベンゾイルパーオキサイド
パーヘキシルI;t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート
パーブチルI;t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート
パークミルH;クメンハイドロパーオキサイド(10)パーブチルD;ジ−t−ブチルパーオキサイド。
[ボレート化合物]
PhBNa;テトラフェニルホウ素ナトリウム
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
PhBDMPT;テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩
PhBDMBE;テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安息香酸エチル
FPhBNa;テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム
PhBTEA;テトラフェニルホウ素トリエチルアミン塩
PhBDMEM;テトラフェニルホウ素ジメチルアミノエチルメタクリレート塩
BFPhBNa;ブチルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム。
[分解促進剤]
VOAA;酸化バナジウム(V)アセチルアセトナート
FeAA;鉄(III)アセチルアセトナート
CuAA;銅(II)アセチルアセトナート
V2O5;酸化バナジウム(V)
FeCl3;塩化鉄(III)。
[充填材]
PMMA;ポリメチルメタクリレート
PEMA;ポリエチルメタクリレート
P(MMA−EMA);メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合
FASG;フルオロアルミノシリケートガラス粉末:なお、歯科用直接修復用接着材用には平均粒子径0.5μmのものを用い、歯科用間接修復用接着材用には平均粒子径3μmのものを用いた。
3Si−Zr;不定形シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物:平均粒径3μm
0.3Si−Ti;球状シリカ−チタニア(或いはその凝集体)、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物:1次粒子の平均粒径0.3μm。
[その他成分]
DEPT;p−トリルジエタノールアミン
TCT;2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
DMPT;ジメチルアミノ−p−トルイジン
CDAC;3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン
BAPO;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド
BDTPO;ビス(2,6−ジメトキシベンソイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド
IPA;イソプロピルアルコール。
(2)硬化時間の測定
硬化時間の測定は、サーミスタ温度計による発熱法によって行った。すなわち、本発明の有機過酸化物と酸性化合物を含む重合性単量体溶液5g(a)、およびアリールボレート化合物を含む重合性単量体溶液5g(b)を20秒間攪拌混合し均一溶液とした。ついで、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたテフロン(登録商標)製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、混合開始から最高温度を記録するまでの時間を硬化時間とした。尚、測定は23℃の恒温室で行った。
(3)硬化性および表面のべとつきの評価
上記と同様に硬化性組成物を調製し、同じ型のモールドに流し込み23℃、15分間空気中で硬化させた。硬化体の硬さおよび表面のべとつきをそれぞれ5段階で評価した。即ち、十分な硬さを有し、表面のべとつきのないものを◎、十分な硬さを有し、表面だけべとついているものを○、ゼリー状になり、表面に未重合単量体が残っているものを△、部分的にゼリー状になったものを×、まったく硬化しなかったものを××とした。
(4)硬化体の初期着色および耐変色性試験
硬化体の耐変色性試験は、以下の方法で行った。まず、各成分を所定の比率で混合し、20秒間練和した。次いで10mm×10mm×2mmのモールドに流し込み、37℃で24時間硬化させた。得られた硬化体の初期着色を下に示す3段階で目視評価した。
スコア1 無色透明
スコア2 黄色
スコア3 褐色。
さらに得られた硬化体を80℃水中に60日間保存し、保存後の硬化体の変色度合いを以下に示す評価基準に従って評価した。
スコア1 変化なし
スコア2 白濁するのみ
スコア3 わずかに黄色く変色
スコア4 黄色く変色
スコア5 褐色に変色。
(5)曲げ強度および硬度の測定
硬化体の曲げ強度の測定は、以下の方法で行った。まず、各成分を所定の比率で均一に混合し、25mm×4mm×2mmのモールドに流し込み、37℃で24時間硬化させた。得られた硬化体を支点間距離20mmで曲げ破壊試験を行った。クロスヘッドスピードは1mm/minである。また、硬度の測定には上記硬化体の表面をバフ研磨したものを用い、松沢精機製微小硬度計で10g、20秒荷重でヌープ硬度を測定した。尚、測定は23℃の恒温室で行った。
(6)残留モノマー量の測定
硬化体中の残留モノマー量の測定は、以下の方法で行った。まず、各成分を所定の比率で混合し、20mm×20mm×1mmのモールドに流し込み、37℃で24時間硬化させた。得られた硬化体を20mlのアセトニトリルに23℃で24時間浸漬し、溶液中のモノマー量を高速液体クロマトグラフィーで定量した。
(7)本発明の直接修復用歯科用接着材(ボンディング材)の接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛下顎前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し、接着面積を規定した。次いで、8mmφの孔の開いた厚さ1mmのワックスを両面テープと同心円上になるように貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に使用直前に調製したボンディング材を塗布し、20秒間放置した。
光硬化型コンポジットレジンを用いる場合には、この模擬窩洞内に光硬化型コンポジットレジン、パルフィークエステライト[(株)トクヤマ社製]を填入し、ポリプロピレン製シートで覆った上から、パワーライト[(株)トクヤマ社製]を用いて30秒間光照射してコンポジットレジンを重合硬化させ試験片を作製した。
化学硬化型コンポジットレジンを用いる場合には、同様に化学重合型コンポジットレジン、パルフィーク[(株)トクヤマ社製]を填入、硬化させ試験片を作成した。
上記の方法で作成した試験片を24時間37℃水中に浸漬した後、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
(8)本発明の間接修復用歯科用接着材(歯科用セメント)の接着強度測定方法
接着試験に用いる歯面前処理材は以下に示す組成で攪拌、混合し調製し、使用直前に混合して用いた。但し、( )は重量部を示す。
歯面前処理材イ;
A液:PM(15)
MAC−10(5)
bis−GMA(5)
イソプロピルアルコール(16)
B液:水(38)
イソプロピルアルコール(19)
PhBTEOA(2)。
歯面前処理材ロ;
A液:PM(15)
MAC−10(5)
bis−GMA(5)
アセトン(10)
イソプロピルアルコール(6)
B液:水(38)
アセトン(19)
p−トルエンスルフィン酸ナトリウム(2)。
接着試験方法;
屠殺後24時間以内に牛下顎前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し、接着面積を規定した。次に歯面処理を行うものについては、歯面処理材を薄く塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。
上記処理をした歯面または、しない歯面に対し、使用直前に調製した本発明の歯科用セメントを塗布し、直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して試験片を作製した。この試験片を37℃湿度100%の雰囲気下で1時間保った後、さらに37℃水中に24時間浸漬し、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
(9)本発明の歯科用前処理材を用いた接着強度の測定方法
接着試験に用いる接着材A〜Fは以下に示す組成で攪拌、混合し調製した。但し、( )は重量部を示す。尚、市販品は製造者指示の方法に基づいてそのまま使用した。
化学硬化型接着材
接着材A;粉成分:PMMA(5)
P(MMA−EMA)(95)
BPO(1)
液成分:MMA(65)
HEMA(20)
bis−GMA(6)
3G(4)
MAC−10(5)
DMPT(3)。
接着材B;粉成分:PMMA(5)
P(MMA−EMA)(95)
PhBTEOA(3)
液成分:MMA(65)
HEMA(20)
MAC−10(5)
PM(5)
bis−GMA(3)
3G(2)
パークミルH(2)。
接着材C;粉成分:PMMA(5)
P(MMA−EMA)(95)
PhBTEOA(3)
VOAA(0.005)
液成分:MMA(65)
HEMA(20)
MAC−10(5)
PM(5)
bis−GMA(3)
3G(2)
パークミルH(2)。
接着材D;ビスタイトII[(株)トクヤマ社製]付属のセメントペーストAおよびB
接着材E;パナビアフルオロセメント[クラレ社製]付属の接着セメントAペーストおよびBペースト。
光硬化型接着材
接着材F;トクソーマックボンドII[(株)トクヤマ社製]付属のボンディングエージェント
接着材G;クリアフィルメガボンド(クラレ社製)付属のボンディングエージェント。
前処理方法;
屠殺後24時間以内に牛下顎前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し、接着面積を規定した。この範囲に本発明の歯科用組成物を薄く塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。
化学硬化型接着材による接着;
光硬化型接着材の場合と同様に前処理した歯面に対し、化学硬化型接着材を塗布し、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して試験片を作製した。この試験片を37℃湿度100%の雰囲気下で1時間保った後、さらに37℃水中に24時間浸漬し、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
光硬化型接着材による接着;
上記方法にて調製された接着面に光硬化型接着材を塗布し、10秒間パワーライト[(株)トクヤマ社製]を用いて光照射し硬化させた。次いで、8mmφの孔の開いた厚さ1mmのワックスを両面テープと同心円上になるように貼り付けて模擬窩洞を作製し、この模擬窩洞に光硬化型コンポジットレジン、パルフィークエステライト[(株)トクヤマ社製]を填入した。ポリプロピレン製シートで覆った上から、30秒間光照射してコンポジットレジンを重合硬化させ試験片を作製した。この試験片を24時間37℃水中に浸漬した後、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
〔本発明で使用する化学重合触媒及びこれを用いた本発明の歯科用接着性組成物の硬化性状に関する実施例及び比較例〕
実施例1
MMA/TMPT(90wt%/10wt%)溶液100重量部に対して、有機過酸化物としてパーメックNを4重量部および酸性化合物としてPMを5重量部加え均一溶液(a)とした。別に、MMA/TMPT(90wt%/10wt%)溶液にアリールボレート化合物としてPhBNa3重量部を加え、均一溶液(b)とした。両液を1:1の重量比で均一になるまで混合した後、硬化時間、硬化性および表面のべとつきを評価した。また、得られた硬化体の初期着色および耐変色性の評価を行った。その結果を表1に示した。
【表1】
Figure 0004671208
実施例2〜24
表1に示す化学重合触媒を含むMMA/TMPT(90wt%/10wt%)溶液を調製し、実施例1と同様な方法で硬化させて各物性を測定した。その結果を表1に示した。
すべての実施例において、硬化性および表面のべとつきが良好な結果であり、さらに、硬化体の初期着色もなく、保存後の変色もないかもしくはわずかなものであった。
実施例25〜29
表1に示す化学重合触媒を含むMMA/TMPT(90wt%/10wt%)溶液を調製し、実施例1と同様な方法で硬化させて各物性を測定した。その結果を表1に示した。
これらの実施例は有機過酸化物の分解促進剤を添加したものであるが、さらに硬化活性が高くなった。また、硬化性および表面のべとつきも良好な結果であり、さらに、硬化体の初期着色もなく、保存後の変色もないかもしくはわずかなものであった。
比較例1〜4
表1に示す化学重合触媒を含むMMA/TMPT(90wt%/10wt%)溶液を調製し、実施例1と同様な方法で硬化させて各物性を測定した。その結果を表1に示した。
比較例1〜3は、それぞれ本発明の化学重合触媒の必須成分中1成分を添加しない場合であり、比較例1および2においてはまったく硬化しなかった。また、比較例3においては硬化したものの、硬化までに長時間かかったばかりではなく、部分的にゲル状になっただけであった。
比較例4は、従来のBPO/DMPT系の化学重合触媒を用いた場合を示したが、硬化体のべたつきが実施例よりも多く、また、硬化体の初期着色もあり、さらに保存後に大きく変色した。
実施例30〜35表2に示す組成で粉成分および液成分を調製した。これらは本発明の歯科用修復材の組成であるが、粉液比2/1で練和した後、硬化時間、硬化体の曲げ強度、ヌープ硬さ、残留モノマー量の測定、および硬化体の耐変色試験を行った。その結果を表3に示した。
【表2】
Figure 0004671208
【表3】
Figure 0004671208
比較例5
表2に示す組成で粉成分および液成分を調製した以外は、実施例31〜36と同様に各物性を測定した。その結果を表3に示した。
比較例5は化学重合触媒としてBPO/DEPTを使用した例を示したが、残留モノマー量が実施例と比較して多くなり、また硬化体の変色も大きかった
〔本発明の歯科用接着性組成物からなる直接修復用歯科用接着材(ボンディング材)に関する実施例及び比較例〕
実施例36
3gのPM、1.5gのD2.6E、および0.5gのTMPTからなる第一液組成Aと、3.2gのHEMA、1.4gのMMA、0.1gのパーヘキサH、0.3gのPhBTEOAからなる第二液組成aを別個に調製し、使用直前に第一液と第二液を1:1の混合し、ボンディング材とした。このボンディング材を用い、光硬化型コンポジットレジンを用いる場合の方法で接着強度を測定した。その結果、エナメル質に13.1(1.8)MPa、象牙質に12.0(2.1)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例37〜62
に示す各液組成の第一液および表7に示す各液組成の第二液を表に示すボンディング材組成になるようにボンディング材を調製した以外は、実施例36と同様に接着試験を行った。結果を表に示す。なお、表における「第一液組成」及び「第二液組成」欄の括弧内の数字は、各液の重量部を表す。
【表4】
Figure 0004671208
【表5】
Figure 0004671208
【表6】
Figure 0004671208
実施例36〜62は、コンポジットレジンに光硬化型のものを用いた例を示したが、いずれも、エナメル質および象牙質に対して高い接着強度を示した。このことから本発明のボンディング材をコンポジットレジンと歯質の接着材として用いた場合、いっさいの前処理および光照射が不要であることが明らかである。
また、実施例36は酸性基含有重合性単量体としてリン酸基(ホスフィニコ基又はホスホノ基)含有重合性単量体のみを用いた場合であるが、該酸性基含有重合性単量体をカルボキシル基含有重合性単量体と併用した場合(実施例40等)、さらに多価金属イオン溶出性フィラー及び/又は水を添加した場合(実施例37〜39等)、その両方(実施例41〜43等)を行なった場合は、実施例36よりも接着強度が向上している。
また、実施例56〜58は有機過酸化物の分解促進剤を添加した例であるが、いずれも接着強度がより向上している。
また、実施例59〜62は、色素および光酸発生剤を添加してデュアルキュア型とした組成を示したが、コンポジットレジン硬化時の光照射により、更に接着強度が向上している。
比較例6〜12
に示す各液組成の第一液および表に示す各液組成の第二液を表に示すボンディング材組成となるようにしてボンディング材を調製した以外は、実施例36と同様に接着試験を行った。結果を表に示す。
前記実施例に対し、比較例6〜11は本発明の必須成分の少なくとも1成分が欠如しており、いずれの場合にもエナメル質および象牙質ともに接着強度が著しく低下した。さらに比較例12は有機過酸化物/第3級アミン系の重合触媒を用いた結果を示したが、エナメル質および象牙質双方に接着しなかった。
実施例63
3gのPM、1.5gのD2.6E、および0.5gのTMPTからなる第一液組成Aと、3.2gのHEMA、1.4gのMMA、0.1gのパーヘキサH、0.3gのPhBTEOAからなる第二液組成aを別個に調製し、使用直前に第一液と第二液を1:1の混合し、ボンディング材とした。このボンディング材を用い、化学硬化型コンポジットレジンを用いた場合の方法で接着強度を測定した。その結果、エナメル質に11.4(1.5)MPa、象牙質に11.0(1.7)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例64〜85
に示す各液組成の第一液および表に示す各液組成の第二液を表に示すボンディング材組成となるようにして用いてボンディング材を調製した以外は、実施例63と同様に接着試験を行った。結果を表に示す。
【表7】
Figure 0004671208
実施例63〜85は実施例36〜58と同じ接着材組成で化学硬化型コンポジットレジンを用いた例であるが、いずれもエナメル質および象牙質に対して高い接着強度を示した。このことから本発明のボンディング材を化学硬化型コンポジットレジン用の接着材として用いた場合でも前処理が不要で、光照射を省略し得ることが明らかである。
比較例13〜16
に示す第一液および表に示す第二液を用い表に示すボンディング材組成となるようにボンディング材を調製した以外は、実施例69と同様に接着試験を行った。結果を表に示す。
前記実施例に対し、比較例13〜15は本発明の必須成分の少なくとも1成分が欠如しており、いずれの場合にもエナメル質および象牙質ともに接着強度が著しく低下した。さらに比較例16は有機過酸化物/第3級アミン系の重合触媒を用いた結果を示したが、エナメル質および象牙質双方に接着しなかった。
〔本発明の歯科用接着性組成物からなる間接修復用歯科用接着材(歯科用セメント)に関する実施例及び比較例〕
実施例86
9.5gのP(MMA−EMA)、0.5gのPEMAおよび0.3gのPhBTEOAからなる粉組成Aと、5gのPM、0.5gのMAC−10、6.5gのMMA、2gのHEMA、0.5gのbis−GMA、および0.1gのパークミルHからなる重合性単量体液組成aを別個に調製し、使用直前に重合性単量体組成物液と粉組成物とを1:1.4の比で練和して、歯科用セメントとした。予め前処理材イを用いて表面処理を施した歯面に対して接着強度を測定した。その結果、エナメル質に19.6(3.3)MPa、象牙質に17.5(4.1)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例87〜110
に示す各粉組成の粉組成物および表に示す各液組成の重合性単量体液を表10に示すセメント組成となるようにして用いて歯科用セメントを調製した以外は、実施例86と同様に予め歯面前処理材イで処理した歯面に対して接着試験を行った。結果を表10に示す。
【表8】
Figure 0004671208
【表9】
Figure 0004671208
【表10】
Figure 0004671208
実施例86〜110のいずれも、エナメル質および象牙質に対して高い接着強度を示した。
比較例17
に示す各粉組成の粉組成物および表に示す各液組成の重合性単量体液を表10に示すセメント組成となるようにして歯科用セメントを調製した以外は、実施例86と同様に予め歯面前処理材イで処理した歯面に対して接着試験を行った。結果を表10に示す。
比較例17は有機過酸化物/第3級アミン系の重合触媒を用いた結果を示したが、実施例と比較してエナメル質および象牙質ともに接着強度が著しく低下した。
実施例111〜117
に示す各粉組成の粉組成物および表に示す各液組成の重合性単量体液を表10に示すセメント組成となるようにして歯科用セメントを調製し、歯面の前処理を行わずに、接着試験を行った。結果を表10に示す。実施例111〜117はレジン強化型グラスアイオノマーの組成であり、いずれも歯面の前処理を行わなくとも、エナメル質および象牙質ともに比較的高い接着強度が得られた。
比較例18
に示す各粉組成の粉組成物および表に示す各液組成の重合性単量体液を表10に示すセメント組成となるようにして歯科用セメントを調製した以外は、実施例111〜117と同様に接着強度を測定した。結果を表10に示す。
比較例18は実施例と比較してエナメル質および象牙質ともに接着強度が低下した。
実施例118
5gの3Si−Zr、5gの0.3Si−Ti、1.2gのbis−GMA、1.8gの3Gおよび0.1gのPhBNaをメノウ乳鉢状で混錬して均一なペースト組成Aを得た。同様に5gの3Si−Zr、5gの0.3Si−Ti、1gのPM、0.2gのMAC−10、0.6gのNPG、1.2gのD2.6Eおよび0.03gのパークミルHを混錬して均一なペースト組成aを得た。使用直前に上記のペースト組成Aおよびaを1:1の重量比で練和して、歯科用接着材組成物とした。予め前処理材ロを用いて表面処理を施した歯面に対して接着強度を測定した。その結果、エナメル質に21.4(3.2)MPa、象牙質に19.2(2.5)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例119〜131
11に示すペースト組成のペーストおよび表12に示すペースト組成のペーストを表13に示すセメント組成になるように歯科用セメントを調製した以外は、実施例118と同様に予め歯面前処理材ロで処理した歯面に対して接着試験を行った。結果を表13に示す。
【表11】
Figure 0004671208
【表12】
Figure 0004671208
【表13】
Figure 0004671208
実施例118〜131のいずれも、エナメル質および象牙質に対して高い接着強度を示した。
比較例19
11に示すペースト組成のペースト1および表12に示すペースト組成のペーストを表13に示すセメント組成になるように歯科用セメントを調製した以外は、実施例118と同様に予め歯面前処理材ロで処理した歯面に対して接着試験を行った。結果を表13に示す。
比較例19は有機過酸化物/第3級アミン系の重合触媒を用いた結果を示したが、実施例と比較してエナメル質および象牙質ともに接着強度が著しく低下した。
実施例132〜136
11に示すペースト組成のペーストおよび表12に示すペースト組成のペーストを表13に示すセメント組成になるように歯科用セメントを調製し、歯面の前処理を行わずに接着試験を行った。結果を表13に示す。実施例132〜136はペースト/ペーストからなるレジン強化型グラスアイオノマーの組成であり、いずれも歯面の前処理を行わなくとも、エナメル質および象牙質ともに比較的高い接着強度が得られた。
比較例20
11に示すペースト組成のペーストおよび表12に示すペースト組成のペーストを表13に示すセメント組成になるように歯科用セメントを調製した以外は実施例132〜136と同様に接着強度を測定した。結果を表13に示す。
比較例20は実施例と比較してエナメル質および象牙質ともに接着強度が低下した。
〔本発明の歯科用接着性組成物からなる歯科用前処理材に関する実施例及び比較例〕
実施例137
2gのPM、および0.1gのパークミルHからなるA液と、0.3gのPhBNa、7.6gの水からなるB液を使用直前に混合し、均一な溶液とした。この溶液をプライマーとして歯面処理した後、化学重合型接着材Aを用いて接着操作を行い接着強度を測定した。その結果、エナメル質に18.6(3.2)MPa、象牙質に17.3(2.5)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例138〜158
14及び表15に示す組成でプライマーを調製した以外は、実施例137と同様に化学重合型接着材を用い、象牙質およびエナメル質に対する接着強度を測定した。結果を合わせて表14及び表15に示した。
【表14】
Figure 0004671208
【表15】
Figure 0004671208
実施例すべての組成において、酸性基含有重合性単量体、有機過酸化物、水およびアリールボレート化合物を含む前処理材により、エナメル質および象牙質双方に良好な接着性が得られ、本発明の目的が達成できることが明らかである。
比較例21〜26
15に示す組成でプライマーを調製した以外は、実施例137と同様に化学重合型接着材を用い、象牙質およびエナメル質に対する接着強度を測定した。結果を合わせて表15に示した。
前記実施例に対し、比較例21〜24は本発明の必須成分である1成分が欠如しており、いずれの場合にも象牙質またはエナメル質への接着強度が低下することがわかる。さらに、比較例25および26は、各必須成分の構成割合が発明の範囲外であり、いずれの場合にも象牙質またはエナメル質への接着強度が低下した。
実施例159
2.0gのPM、および0.1gのパークミルHからなるA液と、0.3gのPhBNa、7.6gの水からなるB液を使用直前に混合し、均一な溶液とした。この溶液をプライマーとして歯面処理した後、光重合型接着材である接着材Eを用いて接着操作を行い、さらにコンポジットレジンを填入して接着強度を測定した。その結果、象牙質に19.3(2.9)MPa、エナメル質に19.6(2.2)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例160〜175
16及び表17に示す組成でプライマーを調製した以外は、実施例166と同様に光重合型接着材を用い、象牙質およびエナメル質に対する接着強度を測定した。結果を合わせて表16及び表17に示した。
【表16】
Figure 0004671208
【表17】
Figure 0004671208
実施例すべての組成において、酸性基含有重合性単量体、有機過酸化物、水およびアリールボレート化合物を含む前処理材により、エナメル質および象牙質双方に良好な接着性が得られ、本発明の目的が達成できることが明らかである。
比較例27〜32
17に示す組成でプライマーを調製した以外は、実施例160と同様に光重合型接着材を用い、象牙質およびエナメル質に対する接着強度を測定した。結果を合わせて表17に示した。
前記実施例に対し、比較例27〜30は本発明の必須成分である1成分が欠如しており、いずれの場合にも象牙質またはエナメル質への接着強度が低下することがわかる。さらに、比較例31および32は、各必須成分の構成割合が発明の範囲外であり、いずれの場合にも象牙質またはエナメル質への接着強度が低下した。
【発明の効果】
本発明の歯科用接着性組成物は、硬化体を着色させたり変色させたりすることがなく、酸素、酸性化合物存在下でも重合活性が高く、しかも取り扱い易く、適度な操作余裕時間を確保できる。
また、本発明の歯科用直接修復用接着材(ボンディング材)は、歯質とコンポジットレジンに代表される歯科用修復材料との接着に際し、従来行われていた前処理を必要とせず、象牙質、エナメル質双方に高い接着強度を得ることができる。また、その施用においては光照射操作を特に必要とせず、しかも光重合型だけでなく化学重合型の歯科用修復材料に対しても高い接着性を示す。
また、本発明の間接修復用歯科用接着材(歯科用セメント)は、従来の接着性歯科用セメントと比較して、象牙質、エナメル質双方に高い接着強度を得ることができる
また、本発明の歯科用前処理材は、光および化学重合型接着材の双方に対し、1回の前処理で、従来の歯科用前処理材と比較して、エナメル質、象牙質に高い接着強度を与えることができる。

Claims (7)

  1. 酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体、アリールボレート化合物、並びに有機過酸化物を含んでなり、上記酸性基含有重合性単量体の少なくとも一部はリン酸基含有重合性単量体であり、且つアミン化合物は酸性基含有重合性単量体に対して0.1重量%を越えて含有されていないことを特徴とする歯科用接着性組成物
  2. さらに、バナジウム化合物、鉄化合物、銅化合物、モリブデン化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、およびタングステン化合物から選ばれる、有機過酸化物の分解を促進する金属化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の歯科用接着性組成物
  3. さらに光重合開始剤を含んでなる請求項1又は請求項2に記載の歯科用接着性組成物
  4. 請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯科用硬化性組成物からなる歯科用接着材。
  5. 酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100重量部、アリールボレート化合物0.01〜10重量部、有機過酸化物0.01〜10重量部、並びに多価金属イオン溶出性フィラー1〜20重量部及び/又は水2〜30重量部を含有してなり、歯科用直接修復用である請求項4に記載の歯科用接着材
  6. 酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100重量部、アリールボレート化合物0.01〜10重量部、有機過酸化物0.01〜10重量部、並びに充填材50〜900重量部を含有してなり、歯科用間接修復用である請求項4に記載の歯科用接着材
  7. さらに、水を含んでなる請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯科用接着性組成物からなる歯科用前処理材。
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