JP4431249B2 - 一方向クラッチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内外輪の相対回転方向に応じて中間部材が変位することにより内外輪間のトルク伝達を断接するようにした一方向クラッチに関し、特に中間部材を内外輪間に食い込む方向に変位させるように押圧付勢するばね部材の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、特開昭61−228153号公報に記載されているように、自動車エンジンのベルト式補機駆動装置において、エンジンの爆発行程に起因する角速度変動を伴って回転するクランク軸のトルクを、ベルトを介して補機の補機軸に伝達する際に、そのトルク伝達経路上に一方向クラッチを配設し、上記角速度変動における角速度増加時には、クランク軸と補機の補機軸との間のトルク伝達を行って補機軸を回転駆動する一方、角速度減少時には、上記トルク伝達を遮断して上記補機軸の慣性モーメントによるトルクがクランク軸側に伝達されないようにし、このことで、ベルトに加わる負荷を軽減してベルトの長寿命化が図れるようになることは知られている。
【0003】
上記一方向クラッチの作動について説明すると、図10に示すように、内外輪a,b間において、各中間部材cは、保持器dにより同図の時計回り方向及び反時計回り方向に揺動可能に保持されているとともに、ばね部材としての板ばねeにより、内外輪a,b間に食い込むように時計回り方向に常時押圧されている。そして、上記角速度増加時に、例えば内輪aに対し外輪bがロック方向(同図の時計回り方向)に相対回転したときには、その相対回転により各中間部材cが内外輪a,b間に食い込んで該内外輪a,b間のトルク伝達が行われる一方、角速度減少時に外輪bが空転方向に相対回転したときには、その相対回転により各中間部材cが板ばねeの押圧力に抗して上記食込み方向とは逆の方向に揺動し、その結果、各中間部材cと内外輪a,bとの間に滑りが生じて上記トルク伝達は遮断されることになる。
【0004】
上記ばね部材としては、一般に、上述の板ばねeの他、コイルばねが使用される。両者を比較すると、耐久性の点では、コイルばねの方が適している。ここで、上記ばね部材としてコイルばねが用いられる場合の一方向クラッチの構造についても説明しておくと、図11及び図12に示すように、保持器dの各保持孔gの周方向に相対向する2つの壁面のうち、中間部材cを揺動可能に支承する凸壁側の壁面とは反対側(図12の左側)の壁面には凹部hが形成されており、この凹部h内にコイルばねfの基端側(図11及び図12の左端側)が収容されるようになっている。尚、図示は省略しているが、コイルばねfの基端側は一般に密着巻きになっている。
【0005】
ところで、上記一方向クラッチでは、角速度増加時に内外輪a,bの各角速度が一致した時点で該内外輪a,b間のトルク伝達が開始されるのではなく、その時点から時間的に少し遅れて開始される。例えば、上記の場合を例にして説明すると、角速度増加時に外輪bの角速度が増加して内輪aの角速度に一致する状態から、外輪bの角速度がさらに増加して内輪aに対し或る程度の角度だけ相対回転したときに外輪bのトルクが内輪aに伝達されるようになる。そして、そのときの内外輪a,b間の相対角を「遅れ角」といい、この遅れ角が大き過ぎると、角速度変動に対する良好な応答性が得られなくて適正なトルク伝達が行われないことになる。
【0006】
上記遅れ角の発生する原因としては、内外輪a,bのロック方向の相対回転により各中間部材cが内外輪a,b間に食い込むように揺動するのに一定の時間が必須であることの他に、各中間部材cが、角速度変動により振動することが挙げられる。つまり、各中間部材cが振動していると、内外輪a,bがロック方向に相対回転しても、それら内外輪a,bとの間に滑りを生じ、そのために、内外輪a,b間に食い込むのがさらに遅れて角速度変動に追従できなくなるのである。
【0007】
また、上記自動車エンジンの角速度変動の周波数は、エンジンの低速回転域では低く、高速回転域では高い。例えば、クランク軸が1回転する間に2回の爆発行程を伴う4サイクル4気筒エンジンの場合には、クランク軸の回転速度が3000〜6000rpmになる高速回転域では、100〜200Hzに達する。
【0008】
したがって、自動車エンジンの全回転域における角速度変動に対する良好な応答性を得るには、高速回転域における高周波の角速度変動に対し、各中間部材cを十分に追従させる必要があり、そのためには、上記ばね部材には、そのような高周波変動による中間部材cの振動を抑えられるだけの高いばね定数が求められる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記ばね部材としてコイルばねfを使用した従来の一方向クラッチでは、一般に、コイルばねfには、作用方向寸法が同じである板ばねeに比べると、ばね定数が低いという欠点があり、このことから、板ばねeの場合よりも耐久性の点では優れているものの、板ばねeを使用した一方向クラッチに比べると、上記のような高周波振動に対する良好な応答性は得られ難いという問題がある。その際に、もしも、各コイルばねfの作用方向寸法を大きくしてばね定数を高くするようにしたとすると、一方向クラッチが大形化することになり、自動車のエンジンルーム内に配置するのが困難になるという新たな問題を招くことになる。
【0010】
また、上記コイルばねfを使用した従来の一方向クラッチの場合には、もう1つの問題がある。つまり、図13に誇張して示すように、内外輪a,bの相対回転に伴い、コイルばねfの基端側が凹部hから外輪bの側に飛び出し易く、これに中間部材cの揺動に伴うコイルばねf自身の伸縮作動が加わることで、図14に誇張して示すように、コイルばねfの先端側(同図の右端側)も外輪bの側に変位するようになり、さらには、コイルばねf自体がコイル軸心回りに回転することも加わり、それらの結果、中間部材cに対する押圧力が不安定化し易く、このことによっても、上述した中間部材cの振動が十分には抑えられないという事態を招いている。
【0011】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高周波の角速度変動を伴うトルクが入力される一方向クラッチのばね部材として、コイルばねを使用する場合に、そのコイルばねの作用方向寸法を大きくしなくても、板ばねの場合と同等の高いばね定数が得られるようにし、もって、高周波の角速度変動を伴う入力トルクに対する良好な応答性を有しかつ耐久性に優れた一方向クラッチが得られるようにすることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく、本発明では、各中間部材毎に複数のコイルばねを並列に配置することとし、そうすることで、各コイルばねの作用方向寸法である自然長を大きくしなくても、全体として高いばね定数が得られるようにした。さらに、それら複数のコイルばねを連結部を介して一体化することで、各コイルばねのコイル軸心回りの回転を規制して中間部材に対する押圧状態の安定化を図るとともに、複数のコイルばねを使用することに起因する部品点数の増大を回避できるようにした。
【0013】
具体的には、請求項1の発明では、内輪と、この内輪の外周側に同軸状に配置されていて、該内輪に相対回転可能に組み付けられた外輪と、これら内外輪間に該内外輪に対し相対回転可能に配置された保持器と、各々、上記保持器に内外輪の軸心に直交する平面内で変位可能に保持されていて、内外輪がロック方向に相対回転したときには該相対回転により内外輪間に食い込むように変位して該内外輪間のトルク伝達を行う一方、内外輪が空転方向に相対回転したときには該相対回転により上記食込み方向とは逆の方向に変位して内外輪間の上記トルク伝達を遮断するように設けられた複数の中間部材と、各々、上記保持器に中間部材毎に設けられていて、対応する中間部材を内外輪間に食い込ませるように押圧する複数のばね部材とを備えた一方向クラッチが前提である。
【0014】
そして、上記各ばね部材は、内外輪の軸心方向に並びかつ対応する中間部材を押圧する方向に延びるように並列に配置されていて、各々、一端側において上記保持器に形成された凹部に収容されて保持されている一方、他端側が上記中間部材に弾接する2つのコイルばねと、これら2つのコイルばねの一端側同士を連結する連結部とを有し、それら両コイルばね及び連結部が1本の線材からなる。そして、上記両コイルばね間の間隔寸法は、該各コイルばねの一端側が各々収容されている2つの凹部間の隔壁部分の厚さ寸法よりも小さくされていて、当該隔壁部分を両コイルばねが上記内外輪の軸方向両側から挟み付けているものとする。
【0015】
上記の構成において、一方向クラッチの各ばね部材は、対応する中間部材に対し並列に配置された2つのコイルばねを有するものであるので、全体としてのばね定数は、各コイルばねのばね定数を加算したものとなる。よって、各コイルばねの自然長が大きくならなくても、中間部材に対するばね定数は全体として大きくなる。
【0016】
その上、上記各コイルばねの一端側同士が連結部により連結されているので、各コイルばねのコイル軸心回りの回転が規制されるとともに、各コイルばねがその一端側において保持器に保持される際に、上記連結部を利用して各コイルばねの一端側は容易に固定されるようになる。よって、中間部材に対する各コイルばねの押圧状態が安定するので、中間部材に対する押圧力も安定する。また、上記2つのコイルばねが連結部を介して一体化されているので、各中間部材毎に2つのコイルばねが使用されるにも拘わらず、部品点数の増大は回避される。さらに、2つのコイルばね及び連結部が1本の線材からなるものであるので、連結部による両コイルばねの連結が適正に行われるようになる。
【0017】
請求項2の発明では、上記請求項1の発明において、保持器には、各バネ部材毎にコイルばねの一端側を収容する2つの凹部を連繋するよう、当該凹部の一端側に両端部がそれぞれ開放された溝部が形成され、この溝部に臨む凹部間の隔壁部分の端面が、溝部の長手方向中央部の突出する中突形状とされていて、そして、各ばね部材の連結部は、上記隔壁部分の端面により押圧されて撓んだ状態で、上記溝部に収容されているものとする。
【0018】
請求項3の発明では、上記請求項1及び2の発明において、各コイルばねの他端側の巻端は、該他端側の線材端部が内外輪に接触しないよう、当該線材が外輪に近接する位置から内輪に近接する位置に向かって円弧状に延びる際に、その内輪に近接する位置の手前で巻終わるように設けられているものとする。
【0019】
上記の構成において、一方向クラッチにトルクが入力されて保持器が回転すると、それに伴って発生する遠心力や中間部材の変位により、各コイルばねの他端側は、場合によっては内外輪の半径方向に変位することがある。このとき、各コイルばねの他端側の線材端部が内外輪に接触しないので、その線材端部が内外輪に引っ掛かることに起因して、コイルばねの作動が阻害されるようになったり、又は内外輪の中間部材との接触面に傷が付いて該中間部材の変位に悪影響が及ぶという事態の発生は未然に防止される。
【0020】
請求項4の発明では、上記請求項1〜3の発明に係る一方向クラッチは、自動車エンジンの爆発行程による角速度変動を伴って回転するクランク軸のトルクを伝動ベルトを介して補機の補機軸に伝達するトルク伝達経路に配設されるものとする。
【0021】
上記の構成において、自動車エンジンのクランク軸のトルクが伝動ベルトを介して補機の補機軸に伝達されるようにしたトルク伝達経路上の一方向クラッチには、自動車エンジンの爆発行程に起因する角速度変動を伴うトルクが入力されることから、その変動により各中間部材が振動するようになる。特に、例えば4気筒4サイクルエンジンの場合に、その回転速度が3000〜6000rpmである高速回転域では、上記角速度変動の周波数は、100〜200Hzの高周波となる。よって、上記請求項1〜3の発明における各ばね部材の優れた特性が具体的にかつ適正に発揮されるようになる。
【0022】
請求項5の発明では、上記請求項4の発明において、内輪は、自動車エンジンのクランク軸及び補機の補機軸のうちの一方に連結可能に設けられており、外輪には、伝動ベルトを巻き掛けるためのプーリ部が該外輪と一体となって回転するように設けられているものとする。
【0023】
上記の構成において、自動車エンジンのベルト式補機駆動装置に一方向クラッチが配設される際には、その内輪が自動車エンジンのクランク軸又は補機の補機軸に連結される一方、外輪側に伝動ベルトが巻き掛けられることになる。このとき、上記外輪には、上記伝動ベルトを巻き掛けるためのプーリ部が回転一体に設けられているので、上記ベルト式補機駆動装置に対する一方向クラッチの配設は容易化される。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0025】
図5は、本発明の実施形態1に係る一方向クラッチ内蔵プーリAが配設された自動車エンジンのベルト式補機駆動装置のレイアウトを概略的に示している。この補機駆動装置は、自動車が搭載する4気筒の4サイクルエンジン20の一端側に設けられていて、エンジン20の爆発行程に起因する角速度の微小変動を伴って回転するクランク軸20aに取り付けられた駆動プーリ21と、オルタネータ22を含む複数の補機の各補機軸にそれぞれ取り付けられた複数の従動プーリとの間に伝動ベルトとしての1本のVリブドベルト23が蛇行状に巻き掛けられた、いわゆるサーペンタインレイアウトと称されるものである。
【0026】
具体的には、上述の従動プーリとして、上記駆動プーリ21から図5に矢印で示すVリブドベルト23の走行方向の順に、オートテンショナのテンションプーリ24、パワーステアリング装置の油圧ポンプ用プーリ25、アイドラプーリ26、エアコンディショナの圧縮機用プーリ27及びエンジン冷却ファン用プーリ28が配置されている。そして、上記一方向クラッチ内蔵プーリAは、オートテンショナのテンションプーリ24と、パワーステアリング装置の油圧ポンプ用プーリ25との間に配置されていて、ロータの慣性トルクが比較的大きくなるオルタネータ22のオルタネータ軸22aに取り付けられている。
【0027】
上記一方向クラッチ内蔵プーリAは、図6に示すように、オルタネータ軸22aに連結される内輪1と、この内輪1の外周側に同軸状に配置された外輪2とを備えており、これら内外輪1,2は、該内外輪1,2間の軸方向両側(図6の左右方向両側)に配置された1対の軸受3,3により相対回転可能に組み付けられている。また、外輪2の外周には、Vリブドベルト23を巻き掛けるためのプーリ部8が回転一体に外嵌されている。そして、両軸受3,3間には、内外輪1,2の相対回転方向に応じて該内外輪1,2間のトルク伝達を断接するクラッチ機構部10が設けられている。
【0028】
上記各軸受3は、深溝玉軸受であり、内輪1の外周に回転一体に外嵌固定されたリング状の軸受内輪4と、この軸受内輪4の外周側に同軸状に対向配置されていて、外輪2の内周に回転一体に嵌挿固定されたリング状の軸受外輪5とを有する。これら軸受内輪4の外周面及び軸受外輪5の内周面には、断面円弧状の深溝4a,5aがそれぞれ周設されている。また、軸受内外輪4,5間には、リング状の保持器6が同軸状にかつ軸受内外輪4,5に対し相対回転可能に配置されており、この保持器6には、複数の鋼球7,7,…が周方向に一定のピッチをおいて保持されている。そして、それら鋼球7,7,…が軸受内外輪4,5の各深溝4a,5a内を周方向に転動することで、内外輪1,2が相対回転できるようになっている。
【0029】
上記クラッチ機構部10は、図1〜図4にも示すように、内外輪1,2間に該内外輪1,2に対し相対回転可能に配置されたリング状の保持器11と、この保持器11に内外輪1,2の軸心に直交する平面内で揺動可能に保持された複数の中間部材12,12,…とを有する。保持器11には、該保持器11を半径方向に貫通する断面矩形状の複数の保持孔11a,11a,…が周方向に所定ピッチをおいて設けられており、中間部材12,12,…は、それら保持孔11a,11a,…内にそれぞれ揺動可能に収容されている。各保持孔11aにおいて周方向に相対面する2つの内壁面のうち、一方(図4の右方)の内壁面は、他方(同図の左方)の内壁面の側に向かって断面逆V字状に膨出する凸壁の状態に形成されている。他方の内壁面の側には、上記一方の内壁面の側(同図の右側)と半径方向外方の側(同図の上側)とに向かって開放された状態の2つの凹部13,13が、内外輪1,2の軸方向に並んで設けられている。また、それら2つの凹部13,13の上記一方の内壁面とは周方向の反対側(同図の左側)の部分には、半径方向外方に向かって開放された状態の溝部14が軸方向に延びるように設けられている。この溝部14の溝底は、各凹部13の底面よりも半径方向外方に位置している。また、溝部14の両端部は、対応する凹部13に開放されている。
【0030】
上記各中間部材12は、棒状をなしていて瓢箪のような断面形状に形成されており、内外輪1、2の軸心に平行にかつ該中間部材12の断面形状における長手方向が内外輪1,2の半径方向に略一致するように配置されている。その長手方向の寸法は、内外輪1,2の両カム面1a,2a間の寸法よりも僅かに大きくなされていて、中間部材12の内輪1側の表面は、該内輪1のカム面1aに対し摺動可能なカム面12aとされており、外輪2側の表面は、該外輪2のカム面2aに対し摺動可能なカム面12bとされている。そして、各中間部材12が、図4の時計回り方向に揺動することにより内外輪1,2間に食い込んで該中間部材12のカム面12a,12bがそれぞれ内外輪1,2のカム面1a,2aに圧接するようになる一方、同図の反時計回り方向に揺動することにより該中間部材12のカム面12a,12bがそれぞれ内外輪1,2のカム面1a,2aに摺接するようになっている。また、各中間部材12の断面形状における短手方向両側(図4の左右両側)の2つの表面のうち、保持器11の保持孔11aの上記凸壁に対応する側(同図の右側)の部分は、傾斜面の緩やかなV溝状に凹陥形成されており、その溝底には、凸壁の先端が内外輪1,2の軸方向において線接触するようになされている。そして、この接触部分を支点として中間部材12は揺動するようになっている。
【0031】
上記クラッチ機構部10の保持器11では、各中間部材12毎にばね部材15が配置されており、各中間部材12は、それら対応するばね部材15によりそれぞれ上記食込み方向に変位するように押圧されている。
【0032】
そして、本実施形態では、上記各ばね部材15は、図1〜図3に拡大して示すように、内外輪1,2の軸心方向に並びかつ対応する中間部材12を押圧する方向に延びるように並列に配置されていて、一端側(図1の左端側。以下、基端側という)において上記保持器に保持されている一方、他端側(同図の右端側。以下、先端側という)が中間部材12に弾接する1対のコイルばね15a,15aを有してなっている。また、それらコイルばね15a,15aの両基端間には、該両基端同士を連結する連結部15bが設けられている。
【0033】
具体的には、上記各ばね部材15の1対のコイルばね15a,15a及び連結部15bは、1本の線材から形成されている。その際に、一方(図2の下方)のコイルばね15aは右巻きに、また、他方(同図の上方)のコイルばね15aは左巻きにそれぞれ形成されている。そして、右巻きに形成されたコイルばね15aの基端側と、左巻きに形成されたコイルばね15aの基端側とは、内外輪1,2の軸心に沿って略直線状に延びる線材部分により互いに接続しており、その直線部分により上記の連結部15bが形成されている。各コイルばね15aは、コイル径や有効巻数等、上述の巻き方向以外の点では、全て同じ仕様で作製されており、よって、2つのコイルばね15a,15aの各ばね定数k1 は、互いに同じ(k1 =a)にされている。尚、本実施形態では、各コイルばね15aのばね定数k1 は、従来のように1つのコイルばねによりばね部材が構成される場合のそのコイルばねのばね定数k2 と同じ(k1 =k2 =a)である。つまり、従来のばね部材のばね定数k´は、k´=k2 =aである。
【0034】
また、上記右巻きコイルばね15aの基端側は、保持器11の各保持孔に対応する2つの凹部13,13のうち、一方(図2の上方)の凹部13に収容されており、左巻きコイルばね15aの基端側は、他方(同図の下方)の凹部13に収容されている。その際に、各コイルばね15aの基端側は、従来の場合と同様に、共に密着巻きとされている。また、連結部15bは、保持器11の溝部14内に収容されており、その連結部15bの両端部分は、溝部14と各凹部13との間の接続部内に配置されている。その際に、両コイルばね15a,15a間の間隔寸法は、両凹部13,13を隔てている保持器11の隔壁部分の厚さ寸法よりも僅かに小さくなされていて、両コイルばね15a,15aが上記隔壁部分を内外輪1,2の軸方向両側から挟み付けるようになっており、このことで、各コイルばね15a,15aは、基端側において移動しないように保持されている。
【0035】
さらに、上記各コイルばね15aの先端側の巻端は、線材が外輪2に近接する位置から内輪1に近接する位置に向かって円弧状に延びる際に、その内輪1に近接する位置の手前で巻終わるようになされており、このことで、先端側の線材端部が内外輪1,2のカム面1a,2aに接触しないようになっている。
【0036】
ここで、上記のように構成された一方向クラッチ内蔵プーリAにおける各中間部材12に対するばね部材15の固有振動数fを演算する。先ず、それら2つのコイルばね15a,15a,からなるばね部材15のばね定数kは、各コイルばね15aのばね定数k1 が、k1 =aであるので、
k=k1 +k1 =a+a=2a
であり、これは、従来のようにばね部材が1つのコイルばねからなるものである場合のばね定数(k´=k2 =a)に比べて、2倍である。
【0037】
したがって、上記一方向クラッチ内蔵プーリAにおけるばね部材15の固有振動数Fは、
F=(1/2π)(k/m)1/2=(1/2π)(2a/m)1/2
(但し、mは中間部材12の質量)
である。
【0038】
このとき、従来のばね部材の場合の固有振動数F´は、
F´=(1/2π)(k/m)1/2=(1/2π)(a/m)1/2
である。
【0039】
よって、次式により示されるように、本実施形態に係る一方向クラッチ内蔵プーリAのばね部材15の固有振動数Fは、従来のばね部材の固有振動数F´の約1.414倍であることが判る。
【0040】
F÷F´
={(1/2π)(2a/m)1/2}÷{(1/2π)(a/m)1/2}
=(2a/m)1/2÷(a/m)1/2
=(2)1/2≒1.414
したがって、本実施形態によれば、自動車エンジン20の爆発行程による高周波の角速度変動を伴って回転するクランク軸20aのトルクがVリブドベルト23を介してオルタネータ22のオルタネータ軸22aに伝達されるサーペンタインレイアウトのトルク伝達経路に一方向クラッチ内蔵プーリAを配設する際に、その一方向クラッチ内蔵プーリAにおいて、対応する中間部材12を内外輪1,2間に食い込ませるように押圧付勢するばね部材15として、中間部材12に対し並列に配置された1対のコイルばね15a,15aを有してなるものを用いるようにしたので、各コイルばね15aの作動方向寸法を大きくしなくても、従来のように1つのコイルばねでばね部材を構成する場合に比べて2倍のばね定数を得ることができるので、耐久性に優れているにも拘わらず、高周波の角速度変動を伴う入力トルクに対する応答性を高めることができる。
【0041】
また、上記1対のコイルばね15a,15aの一端側同士を連結部15bにより連結して両コイルばね15a,15aを一体化するようにしたので、各コイルばね15aのコイル軸線回りの回転を規制することができるとともに、連結部15bを利用して各コイルばね15aを一端側において固定することができるようになり、よって、高速回転による遠心力や振動等を受けても中間部材12に対する各コイルばね15a,15aの押圧状態を一定化してその押圧力の安定化を図ることができる。さらには、1対のコイルばね15a,15aを一体化したことにより、各中間部材12毎にそれぞれ2つのコイルばね15a,15aを使用するのにも拘わらず、部品点数が増加するのを抑えることができる。
【0042】
尚、上記実施形態では、各中間部材12が揺動することにより内外輪1,2間のトルク伝達を断接するタイプの一方向クラッチ内蔵プーリAの場合について説明しているが、本発明は、その他のタイプの中間部材を用いた一方向クラッチ内蔵プーリにも適用することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、内外輪1,2間に介装された軸受3として深溝玉軸受を用いた場合について説明しているが、他の種類の軸受を用いてもよく、また軸受の数や配置についても特に限定されるものではない。
【0044】
また、上記実施形態では、各ばね部材15の有する連結部15cを略直線状に形成するようにしているが、連結部材の形状は保持器におけるばね部材の取付構造等に応じて適宜設計することができる。
【0045】
また、上記実施形態では、一方向クラッチ内蔵プーリAを自動車エンジンの補機駆動装置に配設する場合について説明しているが、その他のトルク伝達経路に配設できるのは勿論である。
【0046】
さらに、上記実施形態では、外輪2にプーリ部8が外嵌合された状態のプーリ内蔵タイプの一方向クラッチである一方向クラッチ内蔵プーリAの場合について説明しているが、本発明は、ばね部材により中間部材を食込み方向に押圧付勢する種々のタイプの一方向クラッチに適用することができる。
【0047】
−実験例−
次に、上記実施形態の一方向クラッチ内蔵プーリAを発明例とし、その遅れ角を調べるために行った実験について説明する。
【0048】
具体的には、図7に模式的に示すように、Vリブドプーリからなる駆動プーリ31と一方向クラッチ内蔵プーリAとの間にVリブドベルト23を巻き掛けた状態で、一方向クラッチ内蔵プーリに、目標回転速度が12500rpmであって、回転変動率が3%でかつその変動周波数が100〜200Hzであるトルクを入力するように駆動プーリ31を回転駆動させたときの外輪及び内輪の各回転速度を計測し、そのデータに基づいて遅れ角の平均値を演算するようにした。尚、上記の回転速度及びその変動条件は、4サイクル4気筒エンジンにおいて回転速度が3000〜6000rpmであるときに一方向クラッチ内蔵プーリAに入力されるトルクの角速度変動に倣ったものである。また、一方向クラッチ内蔵プーリAの内輪は、オルタネータのオルタネータ軸に連結しており、このオルタネータには、120Aの負荷が加えられている。このときの内外輪の回転速度〔単位:rpm〕の各変化を、図8に併せて示す。
【0049】
そして、上記の条件における一方向クラッチ内蔵プーリAにおける遅れ角の平均値を算出すると、3°を少し超える程度であった。
【0050】
一方、比較のために、各中間部材に対するばね部材が1つのコイルばねからなる従来の一方向クラッチ内蔵を比較例として用い、この比較例についても上記の場合と同じ条件下で同じ実験を行った。そして、比較例における遅れ角の平均値を算出すると、4°を少し超える程度であった。これら発明例及び比較例における各遅れ角の平均値を、図9に併せて示す。
【0051】
以上のことから、発明例では、比較例の場合よりも遅れ角が1°ほど小さいことが判る。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、内外輪がロック方向に相対回転したときに該内外輪間に食い込む方向に変位する一方、内外輪が空転方向に相対回転したときに上記食込み方向とは逆の方向に変位する複数の中間部材をばね部材により上記食込み方向に変位させるように押圧するようにした一方向クラッチにおいて、上記ばね部材を、中間部材に対し並列に配置されていて、一端側において保持器に保持されている一方、他端側が中間部材に弾接する2つのコイルばねと、これら2つのコイルばねを連結一体化する連結部とを有してなるものとするようにしたので、各コイルばねの作動方向寸法を大きくしなくても、全体としてのばね定数を高くすることができる他、各コイルばねのコイル軸線回りの回転を規制することができるとともに、連結部を利用して各コイルばねを一端側において固定することができるようになり、よって、高速回転による遠心力や振動等を受けても中間部材に対する各コイルばねの押圧状態を一定化してその押圧力の安定化を図ることができる。さらには、2つのコイルばねと連結部とを1本の線材からなるものとして、適正に一体化したことにより、各中間部材毎に2つのコイルばねを使用することに起因する部品点数の増大を回避することができる。
【0053】
請求項3の発明によれば、上記中間部材に断接する各コイルばねの他端側の線材端部を内外輪に接触しないように設けることとしたので、上記線材端部が内外輪に引っ掛かることに起因してコイルばね自体の作動が阻害されたり内外輪の中間部材との接触面に傷を付けるという事態が生じるのを未然に防止することができる。
【0054】
請求項4の発明によれば、上記一方向クラッチを、高周波振動の多い自動車エンジンのベルト式補機駆動装置に用いるようにしたので、上記請求項1の発明による効果を適正に得ることができる。
【0055】
請求項5の発明によれば、上記外輪の外周に、伝動ベルトを巻き掛けるためのプーリ部を設け、上記一方向クラッチを一方向クラッチ内蔵プーリとして使用できるようにしたので、本発明に係る一方向クラッチを自動車エンジンのベルト式補機駆動装置に容易に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態1に係る一方向クラッチ内蔵プーリの要部を示す分解斜視図である。
【図2】 外輪側から見た一方向クラッチ内蔵プーリの要部を示す図である。
【図3】 図2のIII−III線断面図である。
【図4】 図3のIV−IV線断面図である。
【図5】 自動車エンジンの補機駆動装置のレイアウトを示す模式図である。
【図6】 一方向クラッチ内蔵プーリの全体構成を示す縦断面図である。
【図7】 実験例の実施要領を示す模式図である。
【図8】 発明例における自動車エンジンの高周波回転変動下での遅れ角による内輪の回転速度の変化を外輪の回転速度の変化と併せて示す特性図である。
【図9】 発明例及び比較例の各遅れ角を併せて示す特性図である。
【図10】 板ばねが使用された一方向クラッチの要部を示す横断面図である。
【図11】 コイルばねが使用された従来の一方向クラッチの要部を示す図1相当図である。
【図12】 従来の一方向クラッチの要部を示す図4相当図である。
【図13】 従来の一方向クラッチにおいてコイルばねの基端側が外輪側に変位した状態を誇張して示す図12相当図である。
【図14】 従来の一方向クラッチにおいてコイルばねの先端側が外輪側に変位した状態を誇張して示す図12相当図である。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
8 プーリ部
11 保持器
12 中間部材
14 ばね部材
14a コイルばね
14b 連結部
20 自動車エンジン
20a クランク軸
22 オルタネータ(補機)
22a オルタネータ軸(補機軸)
23 Vリブドベルト(伝動ベルト)
A 一方向クラッチ内蔵プーリ(一方向クラッチ)
Claims (5)
- 内輪と、
上記内輪の外周側に同軸状に配置され、該内輪に相対回転可能に組み付けられた外輪と、
上記内外輪間に該内外輪に対し相対回転可能に配置された保持器と、
各々、上記保持器に内外輪の軸心に直交する平面内で変位可能に保持され、内外輪がロック方向に相対回転したときには該相対回転により内外輪間に食い込むように変位して該内外輪間のトルク伝達を行う一方、内外輪が空転方向に相対回転したときには該相対回転により上記食込み方向とは逆の方向に変位して内外輪間の上記トルク伝達を遮断するように設けられた複数の中間部材と、
各々、上記保持器に上記中間部材毎に設けられ、対応する中間部材を上記内外輪間に食い込ませるように押圧する複数のばね部材とを備えた一方向クラッチにおいて、
上記各ばね部材は、
上記内外輪の軸心方向に並びかつ対応する上記中間部材を押圧する方向に延びるように並列に配置されていて、各々、一端側において上記保持器に形成された凹部に収容されて保持されている一方、他端側が上記中間部材に弾接する2つのコイルばねと、該2つのコイルばねの一端側同士を連結する連結部とを有し、それら両コイルばね及び連結部が1本の線材からなり、
上記両コイルばね間の間隔寸法は、該各コイルばねの一端側が各々収容されている2つの凹部間の隔壁部分の厚さ寸法よりも小さくされていて、当該隔壁部分を両コイルばねが上記内外輪の軸方向両側から挟み付けている
ことを特徴とする一方向クラッチ。 - 請求項1記載の一方向クラッチにおいて、
保持器には、各バネ部材毎にコイルばねの一端側を収容する2つの凹部を連繋するよう、当該凹部の一端側に両端部がそれぞれ開放された溝部が形成され、この溝部に臨む凹部間の隔壁部分の端面が、溝部の長手方向中央部の突出する中突形状とされていて、
上記各ばね部材の連結部は、上記隔壁部分の端面により押圧されて撓んだ状態で、上記溝部に収容されている
ことを特徴とする一方向クラッチ。 - 請求項1又は2記載の一方向クラッチにおいて、
各コイルばねの他端側の巻端は、該他端側の線材端部が内外輪に接触しないよう、当該線材が外輪に近接する位置から内輪に近接する位置に向かって円弧状に延びる際に、その内輪に近接する位置の手前で巻終わるようになされている
ことを特徴とする一方向クラッチ。 - 請求項1,2又は3記載の一方向クラッチは、自動車エンジンの爆発行程による角速度変動を伴って回転するクランク軸のトルクを伝動ベルトを介して補機の補機軸に伝達するトルク伝達経路に配設されるものである
ことを特徴とする一方向クラッチ。 - 請求項4記載の一方向クラッチにおいて、
内輪は、自動車エンジンのクランク軸及び補機の補機軸のうちの一方に連結可能に設けられ、
外輪に該外輪と一体となって回転するように設けられ、伝動ベルトを巻き掛けるためのプーリ部を備えている
ことを特徴とする一方向クラッチ。
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