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JP4427931B2 - ブレーキ制御装置 - Google Patents

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JP4427931B2
JP4427931B2 JP2001200434A JP2001200434A JP4427931B2 JP 4427931 B2 JP4427931 B2 JP 4427931B2 JP 2001200434 A JP2001200434 A JP 2001200434A JP 2001200434 A JP2001200434 A JP 2001200434A JP 4427931 B2 JP4427931 B2 JP 4427931B2
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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、ブレーキ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
特開平8−324397号公報に記載のブレーキ制御装置においては、車両が上り坂に停止させられた場合に、摩擦係合部材のブレーキ回転体に対する押付力が、車両を停止状態に保つ大きさに保持され、車両の発進時において、制動トルク検出装置によって検出された制動トルクが予め定められた設定値以下になった場合に、その保持された押付力が減少させられる。また、このブレーキ制御装置においては、制動トルクが、ドラムブレーキのアンカブラケットの歪みに基づいて機械的に検出される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題、課題解決手段および効果】
本発明の課題は、ブレーキ制御装置の制御が良好に行われるようにすることである。例えば、車両の発進性を良好にしたり、制動トルクを精度よく検出可能としたりすることなのである。この課題は、ブレーキ制御装置を、下記各態様の構成のものとすることによって解決される。各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまで、本明細書に記載の技術の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組み合わせが以下の各項に限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、常に、すべての事項を一緒に採用しなければならないものではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0004】
以下に記載の(16)項が請求項1に対応し、(6)項、(3)項が請求項2,3に対応し、(21)項に(16)項に記載の技術的特徴を採用した部分が請求項4に対応する。
【0005】
(1)ブレーキ本体に保持された摩擦係合部材をブレーキ回転体に押し付けることによって車輪の回転を抑制するブレーキにおける、前記摩擦係合部材のブレーキ回転体への押付力を、車両の停止中に、その車両を停止状態に保つ大きさに保持する押付力保持装置と、
車両の発進時に、その押付力保持装置によって保持された押付力を減少させる押付力減少装置と
を含むブレーキ制御装置。
本項に記載のブレーキ制御装置においては、車両の停止中に、摩擦係合部材のブレーキ回転体に対する押付力(以下、単に押付力と称する)が、その車両を停止状態に保ち得る大きさに制御され、発進時に、押付力が減少させられる。そのため、停止中においては、車両を確実に停止状態に保つことができ、発進時においては、速やかに発進させることができる。
押付力の制御は、車両が平坦な路面に停止している場合に行われるようにしても、傾斜した路面に停止している場合に行われるようにしてもよいが、傾斜した路面に停止している場合に行われるようにする方が効果的である。傾斜した路面に停止している場合には、重力により、車両が移動させられるおそれがあるが、本項に記載のブレーキ制御装置によれば、良好に停止状態に保つことができる。
ブレーキは、ブレーキシリンダの液圧により摩擦係合部材がブレーキ回転体に押し付けられる液圧ブレーキであっても、電動モータ等の電動アクチュエータの作動により押し付けられる電動ブレーキであってもよい。また、ブレーキ回転体がディスクであるディスクブレーキであっても、ブレーキ回転体がドラムであるドラムブレーキであってもよい。押付力は、液圧ブレーキの場合には、例えば、ブレーキシリンダの液圧を制御することによって制御され、電動ブレーキの場合には、例えば、電動アクチュエータの電磁駆動力を制御することによって制御される。押付力を制御する押付力制御装置は、液圧を制御する液圧制御装置を含むものとしたり、電磁駆動力を制御する電磁駆動力制御装置を含むものとしたりすることができる。
【0006】
(2)前記車輪に加えられる制動トルクを検出する制動トルク検出装置を含む(1)項に記載のブレーキ制御装置。
車両の減速中(車輪の回転中に、押付力が加えられた場合)には、摩擦係合部材とブレーキ回転体との間の摩擦力に比例した大きさの制動トルクが発生する。摩擦係合部材とブレーキ回転体との間の摩擦力は、押付力にこれらの間の摩擦係数μを掛けた大きさである。また、制動力は、制動トルクをブレーキ回転体の摩擦係合部材が押し付けられる部分の車輪の中心からの距離である等価半径(有効半径)で割った値であり、制動力と制動トルクとは対応する。そのため、以下、本明細書において、制動トルクを検出することと制動力を検出することとは実質的に同じであるとする。
【0007】
それに対して、車両が平坦な路面に停止している場合には、押付力が加えられていても、制動トルクは0である。平坦な路面に停止している場合であって、車輪を回転させようとする力が加えられない場合(例えば、非駆動状態)には、制動トルクも発生せず、摩擦力も0になるのである。この停止状態においては、理論的には、押付力が0であっても停止状態に保つことができる。また、この停止状態においては、車体に押付力に対応する推進力が加えられても、あるいは、車輪に押付力に対応する制動トルクより小さい駆動トルクが加えられても、車両は停止状態に保たれる。例えば、発進時等に駆動輪に駆動トルクが加えられると、この駆動トルクに基づく車輪の回転を抑制する方向に制動トルクが発生するが、駆動トルクが、押付力に対応する制動トルクより小さい間は停止状態に保たれるのである。
【0008】
車両が傾斜した路面に停止している場合には、重力により車両を下方へ移動させる推進力が作用する。車輪には、車輪をその車両の移動方向に対応する方向に回転させようとする駆動トルク(以下、重力に起因する駆動トルクと称する)が加えられる。この場合において、車輪と一体的なブレーキ回転体には押付力が加えられているため、この重力に起因する駆動トルクによる車輪の回転を抑制する方向に制動トルクが発生するのである。このように制動トルクは、重力に起因する駆動トルクによって発生するため、下り勾配の路面に停止している場合と上り勾配の路面に停止している場合とでは、事情が異なる。
車両が下り勾配の路面に停止している場合には、重力によって、斜面の下方に車両を移動させようとする(車両を前進させようとする)推進力が作用し、車輪には、車輪を前進回転方向に回転させようとする駆動トルクが加えられる。発生させられる制動トルクの方向は、その回転を抑制する方向であり、大きさは重力に起因する駆動トルクに応じた大きさとなる。
それに対して上り勾配の路面に停止している場合にも、重力によって、斜面の下方に車両を移動させようとする推進力が作用するが、この場合には、車両を後退させようとする推進力になる。制動トルクは、車輪の後退方向の回転を抑制する方向で、重力に起因する駆動トルクに応じた大きさとなる。
【0009】
車輪に駆動源からの駆動トルクが加えられる場合には、車輪には、重力に起因する駆動トルクと駆動源からの駆動トルクとの両方が加えられることになり、それに応じた制動トルクが発生する。
車両が下り勾配の路面に停止している場合には、車輪に加えられる重力に起因する駆動トルクの方向と駆動源からの駆動トルクの方向とは同じであるが、上り勾配の路面に停止している場合には逆になる。下り勾配の路面においては、停止状態における制動トルクが、駆動源からの駆動トルクが加えられることによって大きくなるが、上り勾配の路面においては、駆動源からの駆動トルクの増加に伴って小さくなる。
そして、下り勾配の路面においては、重力に起因する駆動トルクと駆動源からの駆動トルクとの和が押付力に対応する制動トルクより小さい間は停止状態に保たれるが、駆動源からの駆動トルクが大きくされるか押付力が小さくされるかのいずれかによって、駆動源からの駆動トルクと重力に起因する駆動トルクとの和が押付力に対応する制動トルクより大きくなると、車両は発進する。
上り勾配の路面においては、重力に起因する駆動トルクと、駆動源からの駆動トルクと制動トルクとの和が釣り合った状態にあり、駆動源からの駆動トルクの増加に伴って制動トルクが減少する。
この場合において、駆動源からの駆動トルクが重力に起因する駆動トルクと同じ大きさになる時点で押付力が0になるように、押付力が減少させられるようにすれば、押付力が0になった時点で車両が発進する。それに対して、駆動源からの駆動トルクが重力に起因する駆動トルクと同じ大きさになっても、押付力が加えられている場合には車両は停止状態のままであるが、さらに大きくなると、制動トルクの向きが逆になる。この状態においては、重力に起因する駆動トルクと制動トルクとの和と、駆動源からの駆動トルクとが釣り合った状態にある。この駆動源からの駆動トルクが保持された状態で押付力が減少させられて、駆動源からの駆動トルクが上述の和より大きくなると、車両は発進する。
【0010】
(3)前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて前記車両の停止している路面の傾斜状態を検出する傾斜状態検出部を含む(2)項に記載のブレーキ制御装置。
(4)前記制動トルク検出装置が、前記車輪の前進方向の回転中に生じた制動トルクも後退方向の回転中に生じた制動トルクも検出可能なものである(2)項または(3)項に記載のブレーキ制御装置。
本項に記載のブレーキ制御装置によれば、車両が停止している傾斜路面が上り勾配であるか否かと、下り勾配であるか否かと、路面の傾斜角度との少なくとも1つの情報を取得することができる。〔発明の実施の形態〕において詳述するが、図11の(A),(B)に示すように、下り坂を走行中に制動が行われて停止した場合には、減速中も停止中も制動トルクの向きは同じであるが、上り坂を走行中に制動が行われて停止した場合には、減速中と停止中とで制動トルクの向きが逆になる。したがって、停止前後の制動トルクの向きの変化に基づけば、上り勾配であるか否かや、下り勾配であるか否かの情報を取得することができる。
また、停止状態で駆動トルクが加えられた場合、下り勾配の路面においては、重力に起因する駆動トルクと駆動源からの駆動トルクとが同じ向きであるため、制動トルク検出装置によって検出される制動トルクは増加する。それに対して、上り勾配の路面においては、重力に起因する駆動トルクと駆動源からの駆動トルクとが逆向きになるため、制動トルク検出装置によって検出される制動トルクは減少する。このことを利用しても、上り勾配であるか否かや、下り勾配であるか否かの情報を取得することができる。
制動トルク検出装置が、制動トルクの方向を区別して検出可能な(例えば、正、負の値)ものである場合には、向きが逆になったことを符号に基づいて取得することができるが、方向を区別して検出不能なものである場合には、一旦0まで減少した後に増加することによって取得することができる。いずれにしても、制動トルク検出装置による検出値に基づけば、傾斜勾配の情報を取得することができる。なお、制動トルク検出装置が、一方向の制動トルクしか検出できないものである場合には、駆動源からの駆動トルクが加えられた場合に制動トルクの大きさが増加するか否かに基づいて下り勾配であるか否かの情報を取得することができる。
また、図12に示すように、傾斜した路面に停止している状態における制動トルク検出装置による制動トルクに基づけば、傾斜角度θを取得することができる。
このように、本項に記載のブレーキ制御装置によれば、傾斜状態を検出する専用の検出装置が不要になる。
【0011】
(5)前記押付力保持装置が、前記車両が傾斜路面に停止している場合において、前記押付力を、車両を停止状態に保つ大きさに保持する(1)項ないし(4)項に記載のブレーキ制御装置。
(6)前記押付力保持装置が、前記押付力を、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて決定する保持押付力決定部を含む(2)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
例えば、質量Mの車両が傾斜角度θの路面に停止している状態においては、各輪に加えられる路面と車輪との間の摩擦力FBの和と、斜面の効果により車両を移動させようとする推進力とは釣り合っている。
M・g・sinθ=ΣFB
また、車輪と路面との間の摩擦力FBと、車輪に加えられるブレーキによる制動力トルクTBとの間には、車輪の半径をrとした場合には式
r・FB=TB
で表される関係がある。車輪についての運動方程式
I・(dω/dt)=r・FB−TB
(dω/dt)=0
が成立するからである。
したがって、制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに対応する大きさ以上の押付力を加えれば、車両をその傾斜した路面に停止状態に保つことができるのであり(FB≧TB/r)、検出された制動トルクに基づく押付力が、車両を停止状態に保つのに最小限必要な最小限押付力である。この最小限押付力に基づいて、車両の停止中に保持される押付力の大きさが決定されるようにすれば、停止状態に保つために過大な押付力が付与されることがなくなる。例えば、最小限押付力に1以上の係数(安全係数)を掛けた値としたり、設定値を加えた値としたりすることができる。
また、実際に押付力を減少させることによって求めることもできる。複数の車輪のうちの一部の車輪の押付力を小さくした場合において、一部の車輪の制動トルクが小さくなって他の車輪の制動トルクが大きくなった場合の押付力を最小限押付力とする。逆に、他の車輪の押付力を小さくした場合において、他の車輪の制動トルクが小さくなって一部の車輪の制動トルクが大きくなった場合の押付力を最小限押付力とする。
それに対して、車両が、平坦な路面を走行中に停止した場合には、停止直前の制動トルクに基づいて停止中の押付力を決定することもできる。停止直前の制動トルクに対応した押付力より、車両を停止状態に保つための最小限押付力の方が小さいのが普通である。
【0012】
(7)前記押付力保持装置が、前記保持押付力を駆動輪に加えて、非駆動輪に加えないものである(6)項に記載のブレーキ制御装置。
車両が傾斜した路面に停止している場合には、駆動輪に加えられる制動トルクによって停止状態に保たれる。また、車両が駆動状態にされれば、駆動源からの駆動トルクが駆動輪に加えられ、非駆動輪に加えられることはない。そのため、駆動輪の制動トルク検出装置によれば、駆動源からの駆動トルクと重力に起因する駆動トルクとの和を検出することができる。また、この駆動輪の制動トルクに基づいて押付力の制御が行われるようにすれば、非駆動輪の影響を考慮する必要がなくなり、有効である。
【0013】
(8)前記押付力減少装置が、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに応じて前記押付力を減少させるトルク対応押付力減少部を含む(2)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
車両が平坦な路面に停止している場合に駆動状態にされた場合には、駆動源からの駆動トルクによる車輪の回転を抑制する制動トルクが発生させられる。それに対して、傾斜した路面に停止している場合に駆動状態にされた場合には、駆動源からの駆動トルクと重力に起因する駆動トルクとによる車輪の回転を抑制する制動トルクが発生させられる。駆動源からの駆動トルクは運転者の駆動要求に応じた大きさで出力されるのが普通である。したがって、制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに応じて押付力が減少させられれば、運転者の駆動要求に応じた発進状態を得ることができる。また、車両が傾斜した路面に停止している場合には、例えば、推進力による車両の移動を防止しつつ、運転者の駆動要求に応じた発進を得ることができる。
(9)前記トルク対応押付力減少部が、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクと駆動源からの駆動トルクとの和が車両を停止状態に保持し得る保持制動トルクに保たれた状態で、押付力を減少させる(8)項に記載のブレーキ制御装置。
本項に記載のブレーキ制御装置において、車両が上り勾配の路面に停止している状態から発進する場合には、制動トルク検出装置によって検出される制動トルクと駆動源からの駆動トルクとの和が保持制動トルクに保たれるように押付力が減少させられる。その結果、押付力の減少中に車両が発進することを回避し、かつ、車両が後退させられることを回避することができる(車両を停止状態に保つことができる)。
(10)前記トルク対応押付力減少部が、駆動源からの駆動トルクが保持された状態で前記押付力を減少させる(8)項または(9)項に記載のブレーキ制御装置。
車両が上り勾配の路面に停止している状態から発進する場合において、押付力が減少させられないで駆動源からの駆動トルクが増加させられる場合には、駆動源からの駆動トルクと制動トルクとの和と重力に起因する駆動トルクとが釣り合う状態から、駆動源からの駆動トルクと、制動トルクと重力に起因する駆動トルクとの和とが釣り合う状態に変わる。そして、この状態において、駆動源からの駆動トルクが保持されて押付力が減少させられれば、駆動源からの駆動トルクが重力に起因する駆動トルクと制動トルクとの和より大きくなった場合に車両が発進することになる。そのため、車両を滑らかに発進させることができる。
この場合には、駆動源からの駆動トルクは、車両を停止状態に保持し得る保持制動トルクより大きい値、すなわち、車両を発進させ得る値で保持されることになる。
【0014】
(11)前記制動トルク検出装置が、
前記ブレーキ本体を前記ブレーキ回転体の近傍の車体側固定部材にブレーキ回転体の周方向に移動可能に保持するブレーキ本体保持装置と、
前記ブレーキ本体の移動に基づいて液圧を発生させる液圧発生装置と、
その液圧発生装置の液圧を検出する液圧検出装置と、
その液圧検出装置による検出液圧に基づいて前記車輪に加えられる制動トルクを取得する制動トルク取得装置とを含む(2)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
制動トルク検出装置が、液圧に基づいて制動トルクを検出するものとすれば、アンカブラケットの変形を歪みセンサで検出する等の機械的に検出する場合に比較して、検出精度を向上させることができる。
摩擦係合部材が回転中のブレーキ回転体に押し付けられると、これらの間に摩擦力が生じ、この摩擦力により摩擦係合部材がブレーキ回転体の回転を抑制する。また、ブレーキ本体には、ブレーキ回転体の回転方向と同じ方向に連れ回り力が作用する。この連れ回り力は、摩擦係合部材とブレーキ回転体との間の摩擦力と大きさが同じで、向きが逆向きの力である。上記摩擦力は、摩擦係合部材のディスクロータへの押付力にこれらの間の摩擦係数μを掛けた大きさであって、ブレーキ回転体の接線方向(回転方向と逆向き)の力である。以下、本明細書においては、「接線方向」は「ほぼ周方向」に包含される方向の一つとする。
本項に記載の制動トルク検出装置においては、摩擦係合部材を保持するブレーキ本体が車体側固定部材にブレーキ回転体のほぼ周方向に相対移動可能に保持されている。そのため、ブレーキの作動によってブレーキ本体がブレーキ回転体の回転方向の連れ回り力によって、車体側固定部材に対してブレーキ回転体のほぼ周方向に相対移動させられる。このブレーキ本体の移動に基づいて液圧発生装置に液圧が発生させられるのであり、液圧発生装置の液圧は、連れ回り力、すなわち、摩擦力に応じた大きさになる。
車体側固定部材は、例えば、車輪とともには回転しないサスペンション装置の構成部材またはその構成部材に相対回転不能に取り付けられた部材とすることができる。サスペンション構成部材は、ブレーキが前輪に設けられたものである場合には、ステアリングナックルとすることができ、後輪に設けられたものである場合には、リヤアクセルハウジングとすることができる。ブレーキ回転体の近傍に位置するものを利用することが望ましいのである。
(12)前記液圧発生装置の本体を、車体側固定部材に少なくとも前記ブレーキ回転体のほぼ周方向に相対移動不能に保持する液圧発生装置保持装置を含む(11)項に記載のブレーキ制御装置。
液圧発生装置の本体は、車体側固定部材にほぼ周方向に相対移動不能に保持され、ブレーキ本体は車体側固定部材にほぼ周方向に相対移動可能に保持される。したがって、ブレーキ本体がほぼ周方向に相対移動させられれば、ブレーキ本体と液圧発生装置との相対位置関係が変わる。これらが接近したり、離間したりするのであり、それによって、液圧発生装置に引張力が加えられたり、押付力が加えられたりする。液圧発生装置には、これら引張力や押付力に応じた液圧が発生させられる。また、これら引張力や押付力は、摩擦係合部材とブレーキ回転体との間の摩擦力に比例する大きさであり、液圧発生装置の液圧に基づけば、摩擦力を検出することができ、制動力を検出することができる。
なお、液圧発生装置が保持される車体側固定部材と、ブレーキ本体が保持される車体側固定部材とは同一部材であっても異なる部材であってもよい。いずれにしても、ブレーキ本体の周方向の移動によって、ブレーキ本体と液圧発生装置との相対位置関係が変わる。
【0015】
(13)前記ブレーキ本体と前記液圧発生装置との間に設けられ、ブレーキ本体の移動による駆動力を液圧発生装置に伝達する駆動伝達装置を含む(11)項または(12)項に記載のブレーキ制御装置。
駆動伝達装置は、ブレーキ本体と液圧発生装置との間の連結装置を含むものとすることができる。液圧発生装置が可変容積室と容積変化部材(移動部材)とを含む場合において、ブレーキ本体と容積変化部材とが直接連結される場合や、ブレーキ本体と容積変化部材とが連結部材を介して連結される場合等がある。いずれにしても、これら連結装置の構造によって、摩擦係合部材とブレーキ回転体との間の摩擦力の大きさと液圧発生装置の液圧に応じた力の大きさとの関係(例えば、比例定数)が決まる。
例えば、ブレーキ本体の移動量ΔLと容積変化部材の移動量ΔMとが同じになる状態で連結された場合には、可変容積室の液圧による力Fpと摩擦係合部材とブレーキ回転体との間の摩擦力Fμとが同じになる。また、ブレーキ本体の移動量ΔLの容積変化部材の移動量ΔMに対する比率(伝達比:ΔL/ΔM)がγとなる状態で連結された場合には、可変容積室の液圧による力Fpの摩擦力Fμに対する比率(Fp/Fμ)がγとなる。
〔発明の実施の形態〕における場合のように、液圧発生装置としての液圧シリンダが、それの軸線が摩擦係合部材がブレーキ回転体に押し付けられる位置におけるブレーキ回転体の接線方向と平行な状態で設けられれば、上記比率が1となる。
【0016】
(14)前記液圧発生装置が、作動液が液密に収容され、前記ブレーキ本体の移動に基づいて容積が変化させられる可変容積室を含み、前記液圧検出装置がその可変容積室の液圧を検出するものである(11)項ないし(13)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
可変容積室の容積が前記ブレーキ本体のほぼ周方向の移動に基づいて変化させられる。可変容積室内には、摩擦力に応じた高さの液圧が発生させられる。可変容積室を備えた液圧発生装置は、例えば、液圧シリンダとすることができる。液圧シリンダに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンがブレーキ本体のほぼ周方向の移動に基づいて移動させられ、その移動に伴って液圧室の容積が変化させられ、それに応じた液圧が発生させられる。また、液圧発生装置はベローズ等を含むものとすることができる。ベローズがブレーキ本体の移動に基づいて伸縮させられ、それによって、ベローズの内側の容積が変化させられ、摩擦力に応じた液圧が発生させられる。可変容積室は、ベローズの内側に設けても外側に設けてもよい。
【0017】
(15)前記液圧発生装置が、前記ブレーキ本体の正方向の移動に基づいて容積が変化させられる第1可変容積室と前記ブレーキ本体の逆方向の移動に基づいて容積が変化させられる第2可変容積室とを含み、前記液圧検出装置が、前記第1可変容積室と第2可変容積室との両方に連通する連通路に設けられた(11)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
本項に記載のブレーキ制御装置においては、液圧検出装置が、第1可変容積室と第2可変容積室とに共通に設けられる。そのため、正方向の制動トルクも逆方向の制動トルクも区別なく検出される。
また、可変容積室に設けられるわけではなく液通路に設けられるため、例えば、エンジンルーム等のブレーキから離れた位置に液圧検出装置を設けることができる。車両の走行状態等を制御する制御装置の近傍に液圧検出装置を設けることができるのであり、信号線を短くできるという利点がある。
(16)前記第1可変容積室と第2可変容積室とが、前記ブレーキ本体のほぼ周方向の両側にそれぞれ設けられた(15)項に記載のブレーキ制御装置。
【0018】
(17)前記液圧発生装置が、作動液が液密に収容され、前記ブレーキ本体の正・逆両方向の移動に伴って容積が変化させられる1つの可変容積室を含む(11)項ないし(16)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
本項に記載のブレーキ制御装置においては、1つの可変容積室の液圧に基づいて、正方向の制動トルクも逆方向の制動トルクも検出される。
液圧発生装置は、例えば、1つの可変容積室と2つの容積変化部材とを含むものとする。一方の容積変化部材を、ブレーキ本体の正方向の移動に伴って移動させられるものとし、他方の容積変化部材を、ブレーキ本体の逆方向の移動に伴って移動させられるものとする。換言すれば、一方の容積変化部材を、ブレーキ本体の移動による引っ張り、すなわち、ブレーキ本体と液圧発生装置とが離間する場合に移動させられるものとし、他方の容積変化部材を、ブレーキ本体の移動による押し付け、すなわち、ブレーキ本体が液圧発生装置に接近する場合に移動させられるものとするのである。
【0019】
(18)前記車両の走行速度が設定速度以上であり、かつ、運転者によってブレーキ操作部材が操作されていない状態において、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクが設定トルク値以上の場合に、引きずりが生じているとする引きずり検出装置と、
その引きずり検出装置によって引きずりが生じていることが検出された場合に、押付力を小さくする押付力減少部と
を含む(2)項ないし(17)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
(19)前記車両の走行速度が設定速度以上であり、かつ、運転者によってブレーキ操作部材が操作されていない状態において、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクが設定トルク値以下に保たれるように、前記押付力を制御する引きずり防止装置を含む(2)項ないし(18)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
摩擦ブレーキにおいて、押付力を検出する押付力検出装置によって検出された押付力が0であるにも係わらず、実際の押付力が0でない場合がある。この場合には、引きずりが生じるが、引きずりが生じたことは制動トルク検出装置によって検出することが可能である。そのため、制動トルク検出装置によって検出された制動トルクが、例えば、0に十分近い大きさ以下になるように、押付力が減少させられるようにすれば、引きずりを解消することができる。
上記設定値を、その車両において平均的に生じる引きずり量とすることもできる。上述の平均的に生じる(通常の)引きずり量の引きずりが生じることを許容することもできるのであり、このようにすれば、ノックバックが生じることを良好に回避することができる。
【0020】
(20)運転者によるブレーキ操作部材の操作状態と制動トルクとの関係を記憶するメモリと、
前記制動トルク検出装置によって検出された実制動トルクに基づいて前記関係を修正する関係修正装置と
を含む(2)項ないし(19)項のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
制動トルクとブレーキ操作状態との関係は、テーブルの形式で表される場合や係数(ゲイン)で表される場合があり、実制動トルクに基づいてテーブルやゲインが修正される。その結果、制動トルクに基づく押付力の制御等を良好に行うことが可能となる。
【0021】
(21)ブレーキ本体に保持された摩擦係合部材をブレーキ回転体に押し付けることによって車輪の回転を抑制するブレーキにおける前記摩擦係合部材の前記ブレーキ回転体への押付力を、車両の停止中に、その車両を停止状態に保つ大きさに保持し、前記車両の発進時に減少させる押付力制御装置を含み、その押付力制御装置による押付力の制御により、前記車輪に加えられる押付力を制御するブレーキ制御装置であって、
(a)前記ブレーキ本体を前記ブレーキ回転体の近傍の車体側固定部材にブレーキ回転体の周方向に移動可能に保持するブレーキ本体保持装置と、(b)前記ブレーキ本体の移動に基づいて液圧を発生させる液圧発生装置と、(c)その液圧発生装置の液圧を検出する液圧検出装置と、(d)その液圧検出装置による検出液圧に基づいて前記車輪に加えられる制動トルクを取得する制動トルク取得装置とを含む制動トルク検出装置を含み、
前記押付力制御装置が、前記押付力を、前記車両の停止から発進までの少なくとも一時期に、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて制御するトルク対応押付力制御部を含むことを特徴とするブレーキ制御装置。
本項に記載のブレーキ制御装置においては、車両の停止中の押付力の制御、発進時の押付力の制御等の少なくとも一時期において制動トルクに基づく制御が行われればよい。
本項に記載のブレーキ制御装置には、(1)ないし(20)項のいずれかの技術的特徴を採用することができる。
【0022】
(22)ブレーキ本体に保持された摩擦係合部材をブレーキ回転体に押し付けることによって車輪の回転を抑制するブレーキの作動による制動トルクを検出する制動トルク検出装置であって、(a)前記ブレーキ本体を前記ブレーキ回転体の近傍の車体側固定部材にブレーキ回転体の周方向に移動可能に保持するブレーキ本体保持装置と、(b)前記ブレーキ本体の移動に基づいて液圧を発生させる液圧発生装置と、(c)その液圧発生装置の液圧を検出する液圧検出装置と、(d)その液圧検出装置による検出液圧に基づいて前記車輪に加えられる制動トルクを取得する制動トルク取得装置とを含むものと、
車両が坂道に停止している場合の、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて、その坂道の傾斜状態を取得する傾斜状態検出部と
を含む傾斜路面検出装置。
本項に記載の制動トルク検出装置には、(11)項ないし(17)項のいずれかの技術的特徴を採用することができる。
【0023】
(23)ブレーキ本体に保持された摩擦係合部材をブレーキ回転体に押し付けることによって車輪の回転を抑制するブレーキにおいて、前記摩擦係合部材のブレーキ回転体への押付力を制御することによって押付力を制御するブレーキ制御装置であって、
前記車輪に加えられる制動トルクを検出する制動トルク検出装置と、
運転者によってブレーキ操作部材が操作されていない状態において、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクが設定値以上の場合に、前記摩擦係合部材が前記ブレーキ回転体に摺動しているとする摺動状態検出装置と、
その摺動状態検出装置によって摺動していることが検出された場合に、前記押付力を小さくする押付力減少部と
を含むことを特徴とするブレーキ制御装置。
なお、摺動状態検出装置によって摺動していると検出されないように押付力が制御されるようにすることも可能であり、その場合には、引きずりを未然に防止することができる。
本項に記載の制動トルク検出装置には、(11)項ないし(17)項のいずれかの技術的特徴を採用することができる。また、押付力の制御は、停止から発進までの間に行われても、走行中に行われてもよい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態である制動力制御装置を備えたブレーキ装置について図面に基づいて詳細に説明する。
図1において、2,4はそれぞれ前輪、後輪の回転を抑制するブレーキである。本実施形態において、ブレーキ2,4は動力式液圧源6またはマスタシリンダ8から液圧が供給されることによって作動させられる液圧ブレーキである。
ブレーキ2,4は同じものであるため、後輪側のブレーキ4について説明し、前輪側のブレーキ2についての説明を省略する。また、本実施形態においては、前輪が駆動輪であり、後輪が非駆動輪である。
【0025】
10は車輪と一体的に回転可能なブレーキ回転体としてのディスクロータであり、本実施形態においては、ブレーキはディスクブレーキである。
ディスクブレーキ4においては、図2に示すように、ブレーキ本体14が車体側固定部材16に回動可能、換言すれば、ほぼ周方向に移動可能に保持されている。本実施形態においては、ディスクブレーキ4がオポーズド型であり、キャリパ固定型である。そのため、キャリパが直接車体側固定部材16に保持されるのであり、キャリパがブレーキ本体14とされる。
ディスクロータ10が、車輪と一定的に回転可能なアクセルハブ20に相対回転不能に固定され、ブレーキ本体14が、アクセルハブ20に相対回転可能なステアリングナックルに相対回転不能に取り付けられた部材(車体側固定部材)16にリンク機構18を介して取り付けられる。
なお、車体側固定部材16は、例えば、車輪が前輪である場合にはステアリングナックルまたはこれに相対回転不能に取り付けられた部材とし、後輪の場合にはリヤアクセルハウジングまたはこれに相対回転不能に取り付けられた部材とすることができる。
【0026】
ディスクブレーキ4は、ディスクロータ10の両側に設けられた一対のブレーキシリンダ22,24を含む。ブレーキシリンダ22,24のシリンダボア25,26にはピストン28,29が液密かつ摺動可能に嵌合されて、液圧室30,31が形成される。ピストン28,29とディスクロータ10との間には、摩擦係合部材としてのパッド32,34が配設されている。パッド32,34はそれぞれ裏板36,38を介して保持されている。裏板36,38は、キャリパ14に固定の軸方向に延びたピン40に挿通させられることにより、キャリパ14に対して軸方向に移動可能かつ半径方向に移動不能に保持される。
リンク機構18は、リンク部材42と、リンク部材42をキャリパ14および車体側固定部材16にそれぞれ軸線Lの回りに回動可能に連結するピン44,45とを含む。キャリパ14は車体側固定部材16に周方向に相対移動可能に保持される。
【0027】
車体側固定部16には、液圧発生装置50がほぼ周方向に相対移動不能に設けられる。液圧発生装置50は、キャリパ14の両側にそれぞれ設けられた液圧シリンダ51,52を含む。液圧シリンダ51は、キャリパ14の矢印に示す方向(正方向)の回動に伴って作動させられるものであり、液圧シリンダ52は、矢印とは反対方向(逆方向)の回動に伴って作動させられるものである。本実施形態においては、液圧シリンダ51,52が、それぞれ、液圧シリンダ51,52の軸線Mの方向とブレーキシリンダ22,24によりパッド32,34がディスクロータ10に押し付けられる部分における接線の方向とが平行な状態で設けられる。
液圧シリンダ51,52は、前記車体側固定部材16に固定されたシリンダ本体54と、そのシリンダ本体54に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン56とを含む。ピストン56のピストンロッド58には、連結部材60が、キャリパ14の一方向の移動を伝達し、逆方向の移動を伝達しない状態で係合させられる。
【0028】
連結部材60は、概してコの字型を成したものであり、一端部においてキャリパ14に回動可能に保持され、他端部において、ピストンロッド58に形成された係合部62において係合させられる。係合部62は、本実施形態においては、軸線Mと平行な方向に延びた溝を含む。また、ピストン56の前方の液圧室64には、リターンスプリング66が配設され、ピストン56を後退端位置に付勢する。ピストン56の後退位置はストッパ68によって規定される。後退端においては、連結部材60は係合部62の前進端、本実施形態においては、溝の底部であって最もブレーキ本体側に位置する。連結部材60にピストン56の前進方向の力が加えられた場合には、連結部材60とピストン56とが一体的に前進させられ、液圧室64の液圧が増圧させられるが、連結部材60に後退方向の力が加えられた場合には、連結部材60は係合部62(溝)に沿ってピストンロッド58に対して相対移動させられる。この場合には、ピストン56が移動させられることはない。なお、ピストン56の前進端は、ピストン56がシリンダ本体54の底部または図示しないストッパに当接することによって規定される。本実施形態においては、液圧シリンダ51,52等によって液圧発生装置63が構成される。
【0029】
液圧シリンダ51,52のそれぞれの液圧室64からは、液通路としての個別通路70,72が伸び出させられて合流させられる。合流通路74にはリザーバ76が接続される。
合流通路74には、また、トルク用液圧センサ78、緩衝器80、流通制限装置82が設けられる。トルク用液圧センサ78は、液圧シリンダ51,52の液圧室64の液圧を検出するものであり、液圧シリンダ51,52に共通に設けられたものである。本実施形態においては、液圧シリンダ51に液圧が発生させられた場合であっても、液圧シリンダ52に液圧が発生させられた場合であっても、同様に(区別なく)トルク用液圧センサ78によって検出される。
流通制限装置82は、互いに並列に配設された、リリーフ弁90と、流出阻止弁92と、逆止弁94とを含む。
【0030】
リリーフ弁90は、液圧室64の液圧が設定圧以上になると、液圧室64からリザーバ76への作動液の流れを許容するものであり、リリーフ弁90によれば、トルク用液圧センサ78に過大な液圧が加えられることを防止することができる。
流出阻止弁92は、液圧室64から流出させられる作動液の流量が設定量以上になると液圧室64からリザーバ76への作動液の流出を阻止するものであり、流出阻止弁92によれば、リザーバ76に接続された合流通路74において液圧を検出することが可能となる。流出阻止弁92は、図に示すように、リザーバ76側の低圧ポート100と液圧室64側の高圧ポート102とが形成されたハウジング104と、大径部と小径部とを有し、ハウジング104に液密かつ摺動可能に嵌合された段付きピストン106とを含む。段付きピストン106の段部とハウジング104との間には、スプリング108が配設され、段付きピストン106を後退方向に付勢する。段付きピストン106の小径部側とハウジング104との間の液室110には、合流通路74の液圧室64側に接続されたバイパス通路112が接続されている。バイパス通路112には、オリフィス114が設けられる。
流出阻止弁92においては、ピストン106の小径部の先端部が弁子116とされ、低圧ポート100の縁面が弁座とされる。
【0031】
液圧シリンダ51,52からリザーバ76に向かって流れる作動液の流量が設定値より小さい場合に流出阻止弁92は開状態にある。液圧室64の作動液は合流通路74、バイパス通路112、液室110、低圧ポート100を経てリザーバ76に流出させられる。
液圧シリンダ51,52からリザーバ76に向かって流れる作動液の流量が設定値以上になると、オリフィス114により、高圧ポート102に供給される作動液の液圧と液室110の液圧との間に液圧差が生じる。段付きピストン106の大径部に加えられる液圧が液室110に加えられる液圧より設定圧以上高くなると、ピストン106がスプリング108の付勢力に抗して前進させられ、弁子116が弁座100に着座させられ、流出阻止弁92が閉状態にされる。
流出阻止弁92は、一端閉状態になると、液圧シリンダ側とリザーバ側との液圧差が設定値以下になるまで閉状態に保たれる。そのように、スプリング108の付勢力、弁子116(ピストン106),弁座100の形状等が設計される。
逆止弁94は、リザーバ76から液圧室64への作動液の流れを許容し逆向きの流れを阻止するものであり、逆止弁94によれば、液圧室64が負圧になることを回避することができる。
【0032】
緩衝器80は、ピストン120とスプリング121とを含むものであり、容積室122の液圧がスプリング121のセット荷重より高くなると、ピストン120が移動させられ、容積室122に作動液を収容する。容積室122には、液圧がスプリング121の付勢力に対応する液圧と同じになるまで、作動液が収容される。緩衝器80によれば、液圧センサ78に加わる負荷が過大になることを回避することができる。本実施形態においては、スプリング121のセット荷重に対応する液圧がリリーフ弁90のリリーフ圧より低くされており、通常は、リリーフ弁90が開かれることはない。リリーフ弁90は安全のためなのである。また、液圧がパルス的に増大させられても、スプリング121の付勢力に対応する液圧より高くなれば、その分の作動液を収容することができるため、緩衝器80によれば脈動を抑制することができる。
【0033】
前輪、後輪の各ブレーキ2,4のブレーキシリンダ22,24には、前記動力式液圧源6が液圧制御装置124を介して接続されるとともに、マスタシリンダ8が接続される。動力式液圧源6は、ポンプ126aと、ポンプ126aを駆動するポンプモータ126bと、ポンプ126aから吐出された作動液を蓄えるアキュムレータ126cとを含む。ポンプ126aは、リザーバ76の作動液を汲み上げて加圧するものであり、ポンプモータ126bは、アキュムレータ圧センサ126dによって検出されたアキュムレータ圧が予め定められた設定範囲内にあるように制御される。液圧制御装置124は、動力式液圧源6とブレーキシリンダ22,24との間に設けられた増圧制御弁124aとブレーキシリンダ22,24とリザーバ76との間に設けられた減圧制御弁124bとを含む。増圧制御弁124a、減圧制御弁124bは、本実施形態においては、供給電流のON・OFFにより開閉させられる電磁開閉弁であり、増圧制御弁124a、減圧制御弁124bがともに常閉弁とされている。液圧制御装置124の制御により、前輪、後輪のそれぞれにおけるブレーキシリンダ22,24の液圧室30,31の液圧が制御される。
なお、増圧制御弁124a、減圧制御弁124bの少なくとも一方は、前後の差圧を供給電流の大きさに応じて連続的に制御可能なリニア制御弁とすることもできる。
【0034】
また、マスタシリンダ8は、ブレーキペダル128aに連携させられた加圧ピストンを含み、加圧ピストンの前方の加圧室が前輪,後輪のディスクブレーキ2,4のブレーキシリンダ22,24にそれぞれ液通路128bによって接続される。液通路128bには、それぞれ、マスタ遮断弁128cが設けられる。マスタ遮断弁128cは供給電流のON・OFFにより開閉させられる電磁開閉弁であり、マスタ遮断弁128cの開閉により、ブレーキシリンダ22,24にマスタシリンダ8が連通させられたり、遮断されたりする。本実施形態においては、ブレーキシリンダ22,24がマスタシリンダ8から遮断された状態で、動力式液圧源6の液圧により制御される。
【0035】
ブレーキ制御装置130は、図3に示すように、CPU132,ROM134,RAM136,I/O138等を含む制御部140と駆動回路とを含むものであり、I/Oポート138には、前述のトルク用液圧センサ78,ブレーキペダル128aが踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチ141,ブレーキペダル128aに加えられる踏力を検出する踏力センサ142,車両の走行速度を検出する車速センサ144,ブレーキシリンダの液圧を検出するブレーキ圧センサ146,車輪の回転速度を検出する車輪速センサ148,スノーモードスイッチ150,車両の減速度を検出する減速度センサ152等が接続されている。
スノーモードスイッチ152は、運転者の操作によって切り換えられる操作部を含むものであり、低μ路におけるトラクション制御を指示する場合に操作されるスイッチである。
【0036】
また、増圧制御弁124a,増圧制御弁124b,マスタ遮断弁128a,電動モータ126b等が駆動回路156を介して接続されるとともに、駆動制御装置160が接続されている。駆動制御装置160とブレーキ制御装置130との間においては、情報の通信が行われる。駆動制御装置160は、ブレーキ制御装置130と同様にコンピュータを含むものであり、I/Oポートには、図示しないアクセル操作部材の操作量としてのアクセル開度を検出するアクセル開度センサ162が接続される。駆動制御装置160は、アクセル開度に応じて要求駆動トルクを取得し、それに応じた駆動トルクが得られるように、駆動装置164を制御する。駆動装置164の作動により、駆動輪としての前輪には駆動トルクが加えられる。また、駆動要求があるか否かの情報をブレーキ制御装置130に供給する。さらに、ブレーキ制御装置130からの駆動トルク保持指令に応じて駆動装置164を駆動トルクが一定に保たれるように制御する。本実施形態においては、駆動装置がエンジンを含むものであるため、保持指令に応じてスロットル開度が一定に保たれる。
なお、駆動装置164は電動モータとエンジンとを含むものであっても、電動モータを含みエンジンを含まないものであってもよい。
【0037】
ブレーキ制御装置130においては、トルク用液圧センサ78による検出液圧に基づいて、制動トルクが、式
TB=(Ac・Pc)・Rb
に従って求められる。ここで、Acは液圧シリンダ51,52におけるピストン54の受圧面積であり、Pcはトルク用液圧センサ78による検出液圧であり、Rbは、ディスクロータ10の中心からブレーキシリンダ26,28の中心までの長さであり、等価半径である。本実施形態においては、液圧シリンダ51,52の軸線Mと押付力が作用する位置における接線とが一致する状態で設けられるため、摩擦力と液圧に応じた力との比例係数が1となり、液圧に応じた力に回転半径を掛けることによって制動トルクを検出することができる。
【0038】
パッド32,34とディスクロータ10との間の摩擦係数は車輪毎に異なるのが普通であり、車輪毎に実際の制動トルクを求めることは有効である。そして、通常制動中においては、踏力センサ142によって検出された踏力に基づいて制動トルクの目標値が求められ、制動トルクの実際値が目標値に近づくように、液圧制御装置124が制御されるようにすることができる。
また、ブレーキ操作力と、ブレーキ液圧との少なくとも一方と制動トルクとの関係が予めテーブル化されて記憶されている場合において、実際の制動トルク値に基づけば、これらの関係を修正することができる。これらの間の係数が決められている場合においても同様に、実際の制動トルクに基づけば、係数(ゲイン)を修正することができる。これらの間の関係やゲインが修正されれば、制動トルクに基づく制御において有効である。
【0039】
非ブレーキ作動中においては、液圧シリンダ51,52は図示する原位置にある。この場合には、液圧室64に液圧が発生させられることはない。
ディスクロータ10の正方向の回転中にディスクブレーキ4が作動させられると、キャリパ14が正方向に回動させられ、それに伴って、液圧シリンダ51が作動させられる。キャリパ14が液圧シリンダ51から離間させられることによって連結部材60が引っ張られる。ピストン56が、連結部材60によりリターンスプリング66の付勢力に抗して液圧室64の容積が減少する方向に前進させられる。液圧室64には、ピストン56に連結部材60によって加えられる引張力に応じた高さの液圧が発生させられる。
液圧シリンダ52においては、連結部材60が係合部62において、ピストン56から離間する方向に、溝に沿って相対移動させられる。ピストン56が移動させられることはないのであり、液圧シリンダ52は、非作動状態のままである。
このように、本実施形態においては、引張力により液圧シリンダが作動させられるようにされているため、ブレーキ本体14の回動方向と反対側の液圧シリンダ(回動により離間させられる側の液圧シリンダ)が作動させられることになる。
【0040】
液圧シリンダ51の液圧室64に液圧が発生させられると、液圧室64からリザーバ76へ向かう作動液の流量が設定値より大きくなり、流出阻止弁92が閉状態に切り換えられる。液圧シリンダ52の液圧室64の液圧は、液圧シリンダ51の液圧と同じ高さにされるが、この場合に、ピストン56は後退端位置にあるため、これ以上後退させられることはない。作動液は圧縮性が小さいものであるため、流出阻止弁92より液圧シリンダ51,52側の液圧は、液圧シリンダ51の液圧室64の液圧と同じ高さになり、その液圧がトルク用液圧センサ78によって検出される。
また、ブレーキシリンダ22,24の液圧が過大になり、液圧シリンダ51の液圧が緩衝器80のスプリング121のセット荷重に対応する液圧より大きくなると、容積室122に作動液が収容される。それによって、トルク用液圧センサ78に加わる負荷が過大になることを抑制することができる。また、脈動が抑制されるため、制動力を安定的に検出することができる。
ディスクブレーキ4におけるパッドのロータへの押付力が小さくなると、液圧シリンダ51において、ピストン56がリターンスプリング66によって後退させられ、液圧室64の容積が増加させられる。液圧室64には、緩衝器80あるいはリザーバ76から作動液が補給されるため、負圧になることはない。
液圧室64の液圧がほぼ大気圧になると、流出阻止弁92が開状態に切り換えられる。
【0041】
それに対して、ディスクロータ10の逆方向の回転中にディスクブレーキ4が作動させられると、キャリパ14が逆方向に回動させられる。液圧シリンダ52が作動状態にされるが、液圧シリンダ51は非作動状態のままである。以下、本実施形態においては、車両の前進中には車輪(ディスクロータ10)が正方向に回転させられ、後退中には逆方向に回転させられることとする。したがって、前進中の制動時には、液圧シリンダ51に液圧が発生させられ、後退中の制動時には液圧シリンダ52に液圧が発生させられることになる。
このように、液圧シリンダ51,52を設けることによって、制動力を液圧に基づいて求めることができ、制動トルクを液圧に基づいて求めることが可能となる。力ではなく液圧が検出されるようにされているため、制動トルクの信頼性を向上させることができる。
また、車両の前進中であっても後退中であっても(車輪が正方向に回転中であっても逆方向に回転中であっても)、制動トルクを検出することができる。換言すれば、制動トルクの向きがいずれであっても、検出することができる。この場合において、トルク用液圧センサ78が合流通路74に設けられ、個別通路70,72に別個に設けるわけではないため、いずれの向きの制動トルクが発生させられても、同様に(区別なく)検出される。したがって、車輪に加えられる制動トルクの向きが変化する場合には、トルク用液圧センサ78による検出液圧が0まで減少した後増加することになる。
【0042】
制動トルクは、車両が停止状態にあっても、車輪を回転させようとする力が加えられると、発生させられる。
車両が平坦な路面に停止している状態においては、ブレーキ2,4が作動させられていても、制動トルクは0である。非駆動状態においては、車輪を回転させようとする力が加えられることがないため、液圧シリンダ51,52に液圧が発生させられることがないのである。
それに対して、傾斜した路面に停止している状態においては、制動トルクが発生させられる。車両には、斜面により車両を移動させようとする推進力(重力による力)が作用するのであり、車輪には、車輪を回転させようとする駆動トルクが作用するため、その回転を抑制する制動トルクが発生させられるのである。図11(B)に示すように、下り坂に停止している場合には、液圧シリンダ51に液圧が発生させられ、上り坂に停止している場合には、液圧シリンダ52に液圧が発生させられる。下り坂に停止している状態においては、車輪を正方向(車両の前進方向)に回転させようとする駆動トルクが重力によって加えられ、上り坂に停止している状態においては、車輪を逆方向(車両の後退方向)に回転させる駆動トルクが加えられるからである。
【0043】
また、図11(A),(B)に示すように、車両が下り坂を走行中にブレーキ2,4が作動させられて、停止させられる場合には、減速中においても、停止中においても、制動トルクの向きが同じであり、液圧シリンダ51に液圧が発生させられる。重力に起因する駆動トルクと走行中の車輪の回転方向(前進方向)とが同じ向きであるからである。それに対して、車両が上り坂を走行中にブレーキ2,4が作動させられて、停止させられる場合には、減速中と停止中とで、制動トルクの向きが逆になる。減速中には液圧シリンダ51に液圧が発生させられ、停止中には液圧シリンダ52に液圧が発生させられる。したがって、トルク用液圧センサ78による検出液圧が一端0まで減少した後に増加させられることになる。
【0044】
停止中に、駆動装置164が駆動状態にされた場合には、図11(B),(C)に示すように、下り坂においては、重力に起因する駆動トルクの方向と駆動装置164からの駆動トルクの方向とが同じであるため、駆動装置164が駆動状態にされることによって制動トルクが大きくなる。
それに対して上り坂においては、重力に起因する駆動トルクと駆動装置164からの駆動トルクとが逆向きになるため、駆動装置164が駆動状態にされることによって制動トルクが減少させられる(液圧シリンダ52の液圧が減少させられる)。
これらの現象を利用すれば、車両が下り坂に停止中であるか上り坂に停止中であるかを区別することができる。車両が停止する時点または停止中において駆動装置164が駆動状態にされた状態における制動トルクの変化状態に基づけば、坂道の向きがわかるのである。
【0045】
また、図12に示すように、停止中の制動トルクに基づけば、傾斜角度を取得することができる。停止中においては、各車輪と路面との間に加えられる制動力FBの和と重力により車両に加えられる推進力とが釣り合う状態にあるため、式
ΣFB=M・g・sinθ
が成立する。ここで、Mは車両重量であり、θは坂道の傾斜角度である。FBは、路面と車輪との間に作用する力であり、車輪に加えられる荷重、車輪と路面との間の摩擦係数に比例する。また、路面と車輪との間の摩擦力FBと制動トルク(パッドとロータとの間の摩擦力(制動力)に有効半径Rbを掛けた値)TBとの間には、式
I(dω/dt)=r・FB−TB
が成立する。ここで、rは車輪の半径であり、r・FBは、路面と車輪との摩擦力によって加えられるトルクである。停止状態においては、車輪は非回転状態にあるため、(dω/dt)は0になり、FB=TB/rが満たされる。したがって、路面と車輪との間の摩擦力FBを、制動トルクに基づいて取得することができるのである。
このように、坂道の傾斜角度が取得されれば、発進時の駆動トルクの制御に便利である。上り坂に停止中において、後退を抑制し得る状態を保った状態で駆動トルクを保持する際に、その駆動トルクの大きさを傾斜角度に基づいて決定されるようにすることが望ましい。
【0046】
車両が坂道に停止している場合と減速中(走行中にブレーキが作動させられた場合)とでは、ブレーキ液圧が同じであっても、制動トルクは異なる大きさとなる。減速中の制動トルクは、車輪の回転を抑制するための大きさであり、停止中の制動トルクは、重力に起因する駆動トルクに応じた大きさである。車両を停止状態に保つためには、停止状態を保つための制動トルクに応じた押付力で十分なのであり、実際の制動トルクと、図4に示す制動トルクと押付力(ブレーキシリンダの液圧)との関係とに基づいて決まるブレーキシリンダ圧が、停止状態に保ち得る最小のブレーキシリンダ圧となる。また、停止中においては、車両を停止状態に保つために十分な大きさの押付力が加えられるのが普通である。そのため、停止中に車輪を回転させようとする駆動トルクが加わっても、ブレーキシリンダの液圧に応じた制動トルクより小さい間は、停止状態に保つことが可能なのである。
本実施形態においては、その坂道において車両を停止状態に保つために必要な最小のブレーキシリンダ液圧Pwminに安全係数α(>1)を掛けた大きさを保持液圧PwHとする。
【0047】
車両が坂道に停止させられた場合には、ブレーキシリンダ液圧が、運転者によるブレーキペダル128aの操作状態とは関係なく、車両を停止状態に保つための大きさ(保持液圧PwH)に制御され、発進時にそのブレーキシリンダ液圧が減圧される。ブレーキシリンダの液圧は、増圧制御弁124a,減圧制御弁124bの制御により制御されるのであるが、保持する場合には、両方とも閉状態にされる。また、ブレーキシリンダ圧は、減圧制御弁124bのデューティ制御に応じた勾配で減圧させられる。
【0048】
本実施形態においては、下り坂で停止している場合と上り坂で停止している場合とで、異なったパターンでブレーキシリンダ液圧が減圧させられる(押付力が、減少させられる)。
下り坂であると判定された場合には、駆動トルクの増加に伴う制動トルクの増加量dTαが設定増加量dTαになった場合に減圧が開始させられる。設定増加量dTαは、0より大きく、図4のトルク余裕量TBm(TBH−TBmin)以下の大きさとすることができる。また、ブレーキシリンダ液圧は運転者による駆動要求状態に応じて減圧させられる。図6に示すように、急発進を望む場合には、急勾配で減圧させられ(例えば、減圧制御弁124bが開状態に切り換えられ)、緩やかな発進(通常の発進)を望む場合には、緩やかな勾配で減圧させられる。
上り坂であると判定された場合には、検出された制動トルクが、保持液圧に対応する保持トルクTBminから駆動トルクTDを引いた大きさとなるように制御される。制動トルクが駆動トルクの増加に伴って減少させられるのであり、制動トルクと駆動トルクとの和が保持トルクより小さくならないように、ブレーキシリンダ液圧が減圧させられる。このように、ブレーキシリンダ液圧が、制動トルクに基づいて減圧させられるため、ブレーキシリンダ液圧が減圧させられる間、車両が後退することを回避することができる。車両は、制動トルクが0になって、駆動トルクが保持トルク以上になると発進する。
【0049】
引きずりが検出された場合には、ブレーキシリンダ液圧が減圧させられる。ブレーキ圧センサ144による検出液圧が0であっても、実際には、液圧室30,31に液圧が残っている場合がある。液圧によりパッドがロータ10に摺動させられれば、そのことによって液圧シリンダ51,52に液圧が発生させられ、トルク用液圧センサ78によって検出された液圧に基づく制動トルクが0以上の大きさになる。この場合には、減圧制御弁124bを検出された制動トルクに基づいて開状態に切り換えれば、引きずりを解消することができる。ブレーキシリンダ22,24の液圧室30,32をリザーバ76に連通させた状態で振動が加えられれば(車両が走行すれば)、液圧室30,32の液圧をリザーバ76に流出させることができる。
ブレーキスイッチ141がOFF状態にあり、かつ、車速センサ144による検出速度が設定速度以上である状態で、制動トルクが設定値以上である場合には引きずりが生じているとすることができる。
【0050】
ブレーキシリンダ液圧は、図5のフローチャートで表される坂道発進制御プログラムの実行に従って制御される。坂道発進制御プログラムが、車両が停止状態にあるとされた場合に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、トルク用液圧センサ78による検出液圧に基づく制動トルクが読み込まれ、それに基づいて車両を停止状態に保持するための最小ブレーキ液圧Pwmin,保持液圧PwH,余裕トルク値TBmが求められる。そして、S2において、増圧制御弁124aや減圧制御弁124bの制御により、ブレーキ液圧が保持液圧PwHとなるように制御され、その値に保持される。図7に示すように、その時点の運転者の踏力に応じた液圧より小さくされるのが普通である。
【0051】
そして、S3において、駆動要求が発生させられたか否かが判定される。駆動制御装置160に駆動要求があるか否かの問い合わせ情報が送信され、それに応じて駆動制御装置160からブレーキ制御装置130に駆動要求があったことを表す情報が送信された場合には、判定がYESとなる。S4において、上り勾配か下り勾配かが判定される。
上述のように、上り坂である場合には、S5において、それに応じた制御が行われ、下り坂である場合には、S6においてそれに応じた制御が行われる。
S7、8において引きずりが生じたか否かが判定される。車速が設定値以上になったか否かが判定され、設定値以上になった場合には、判定がYESとなり、S8において、ブレーキスイッチ141がOFFで、かつ、制動トルクが設定値以上であるか否かが判定される。ブレーキペダル128aが踏み込まれていない状態であって、車両が走行しているにも係わらず制動トルクが発生している場合は、引きすりが生じているとすることができるのであり、この場合には、S8における判定がYESとなって、S9において、減圧制御弁124bが制動トルクが0になるまで、開状態にされる。
図7に示すように、下り坂で発進する場合に引きずりが検出されたが、減圧制御弁124bが開状態に切り換えられるため、引きずりを早期に解消することができる。
【0052】
本実施形態におけるブレーキ装置においては、低μ路上り坂発進制御が行われるようにすることもできる。
この場合には、低μ路の上り勾配の路面に停止させられた場合には、駆動装置164からの駆動トルクに応じた駆動力と、重力により車両を後退させる方向に加えられる推進力と制動トルクに応じた制動力との和とが釣り合った状態から、駆動装置164による制動トルクが保持されて、ブレーキシリンダの液圧が減圧させられることによって、車両が発進させられる。
【0053】
図13の(B)に示すように、上り坂で停止している状態において駆動力が加えられると、トルク用液圧センサ78による検出液圧は減少する。図7に示すように、上述の坂道発進制御においては、この状態から駆動トルクが増加させられ、ブレーキシリンダ液圧が減圧させられることによって発進させられるようにされていた。それに対して、低μ路における発進制御においては、ブレーキシリンダの液圧が減少させられないで、さらに駆動トルクが増加させられ、制動トルクの向きが逆になり、(C)に示すように重力に起因する駆動トルクと制動トルクとの和と駆動装置164による駆動トルクとが釣り合った状態から、駆動装置164からの駆動トルクが保持されて、ブレーキシリンダ液圧が減圧させられることによって発進させられるように制御する。保持される駆動装置164からの駆動トルクは、車両を停止状態で保持し得る保持制動トルクより大きい値であって、車両を発進させ得る大きさであり、傾斜角度θに基づいて決定することができる。
【0054】
また、ブレーキシリンダ液圧の減圧勾配は、図9のマップで表されるテーブルに従って決定される。車輪の回転速度が小さいほど減圧勾配が小さくされるのであり、発進時には減圧勾配が小さくされ、急発進が抑制される。図9に示すように、車輪速度が0の場合にも減圧勾配は0ではなく、設定値とされる。発進前においては(車輪速度0)、この設定勾配で減圧されるのであり、実際に発進した後においては、車輪速度の増加に伴って減圧勾配が大きくされる。
【0055】
ブレーキシリンダ液圧は、図8のフローチャートで表される低μ路上り坂発進制御プログラムの実行に従って実行される。停止状態、すなわち、S52においては、四輪すべてのブレーキシリンダ液圧が保持液圧に制御されるのであるが、発進時、すなわち、S56においては、駆動輪のブレーキシリンダ液圧が増加させられ、非駆動輪のブレーキシリンダ液圧が0まで減圧させられることによって車両が停止状態に保たれる。駆動輪には駆動装置164からの駆動トルクと重力に起因する駆動トルクとが加えられ、これらの和に応じた制動トルクが検出される。それに対して、非駆動輪には、制動トルクが発生することはない。そのため、駆動輪の制動トルクに基づいてブレーキシリンダ液圧が制御されるようにすれば、非駆動輪の影響を考慮しないで、ブレーキシリンダの液圧を良好に制御することが可能となる。なお、駆動輪のブレーキシリンダの液圧に応じた制動トルクでは車両を停止状態に保つことが困難な場合には非駆動輪のブレーキシリンダの液圧を0まで減圧しないで、駆動輪の制動トルクと非駆動輪の制動トルクとに基づいて停止状態に保たれるようにする。この場合においても、非駆動輪のブレーキシリンダの液圧は小さくする方が望ましい。
また、S53においては、低μ路発進制御が行われることを許可する許可する許可条件が満たされるか否かが判定される。本実施形態においては、スノーモードスイッチ148がON状態にあること、今回の停止時の減速度センサ150による検出減速度が車輪速センサ148による検出車輪速度に基づいて求められる減速度に対して小さいこと、前回のトラクション制御時において、非駆動輪としての後輪の回転速度が非常に小さいことの少なくとも1つが満たされた場合には、低μ路であるとされ、許可条件が満たされるとされる。この場合には、S53における判定がYESとなり、S54において、上記実施形態における場合と同様に、駆動要求があるか否かが判定され、S55において、上り勾配であるか否かが判定されるのである。
【0056】
駆動要求が有った場合には、S57において、駆動トルクが設定値TDα以上か否かが判定される。駆動制御装置160に駆動トルクの大きさを問い合わせる情報が送信され、それに応じて送信された情報に基づいて、駆動トルクの大きさが設定値以上であるか否がが判定されるのである。駆動トルクが設定値以上である場合には、S58において、その駆動トルクを保持する指令が駆動制御装置160に送信される。それによって、駆動装置164において、スロットル開度が保持される等の制御が行われることによって駆動トルクの増加が阻止される。
その後、S59において、駆動輪のブレーキシリンダ液圧が図9のテーブルに従って決められる勾配で減圧させられる。
【0057】
この場合には、ブレーキシリンダ液圧が保持された状態で、駆動装置164の駆動装置が設定値まで増加させられるため、図13の(B)に示す状態から(C)に示す状態に変化する。図10に示すように、駆動トルクが設定値に達する以前に、制動トルクの検出値が一端0になるまで減少させられ、駆動トルクの増加に伴って増加させられ、駆動トルクの保持によって保持される。
その後、ブレーキシリンダの液圧が減少させられるのであるが、減圧によって制動トルクが直ちに減少させられることはない。ブレーキシリンダ液圧が、その状態における保持液圧以下になると、制動トルクの検出値も減少させられ、車両が発進させられることになる。
このように、本実施形態においては、低μ路の上り坂に停止している状態においてもスムーズに発進させることができる。また、ブレーキが緩められる場合に車両が後退することを防止し得、かつ、低μ路であっても、駆動スリップが生じることを良好に回避することができる。さらに、発進時に非駆動輪のブレーキシリンダ液圧が0にされるため、駆動輪に加えられる制動トルクを精度よく検出することができ、制動トルクに基づいてブレーキ液圧を良好に減圧することができる。
【0058】
本実施形態におけるブレーキ装置においては、引きずりが生じることを防止したり、ノックバックが生じることを回避したりすることもできる。
図14には、引きずり防止プログラムを表すフローチャートを示す。図14のS101〜103は図5のフローチャートのS7〜S9と同様である。引きずり防止プログラムは通常走行中に、予め定められた設定時間毎に実行される。その結果、引きずりが検出された場合に早期に解消することができ、また、引きずりが生じることを未然に防止することも可能である。
図15には、ノックバック防止プログラムを表すフローチャートを示す。この場合の制動トルクの設定値は、通常走行中(非ブレーキ作動中)に生じる平均的な引きずり量とする。例えば、前進中の制動トルク検出値と後退中の制動トルク検出値との平均値とすることができる。S151〜153において、車両の走行中の制動トルクの検出値が設定値以下になったか否かが判定される。設定値以下になった場合には、S154において増圧制御弁124aが開状態にされる。動力式液圧源6から液圧が供給されることによりブレーキシリンダ液圧が増加させられ、ノックバックを防止することができる。設定値以上の場合には、S155において閉状態に切り換えられる。
【0059】
さらに、スノーフェードが検出された場合には、トルク用液圧センサ78による検出液圧が予め定められた設定振幅で振動させられる状態で、ブレーキシリンダ液圧が増加、減少させられるようにする。ブレーキシリンダ液圧の増減によりパッド32,34とロータ10とを接触させたり離間させたりすれば、その振動により、これらの間に付着した雪や氷を払い落とすことができ、スノーフェードを早期に解消することができる。スノーフェード状態であることは、例えば、外気温度が設定値以下であり、ブレーキシリンダの液圧の増加に伴って減速度が増加しないこと等によって検出することができる。
この場合に、ブレーキ液圧センサ146による検出液圧の変化状態に応じて制動トルクが変化するとは限らないのであり、実際にパッド32,34とロータ10との接触・離間が繰り返し生じているか否かは明らかではない。それに対して、実際の制動トルクの変化状態に基づいてブレーキ液圧が制御されるようにすれば、確実にスノーフェード状態を解消することができるのである。
【0060】
なお、上記実施形態においては、坂道において、車両を停止状態に保つための必要な最小液圧が、停止状態の制動トルクと、制動トルクとブレーキシリンダ液圧との関係(テーブル)とに基づいて求められるようにされていたが、実際に停止状態においてブレーキシリンダ液圧を減圧させることによって求めることもできる。図16(a)に示すように、四輪のうちの少なくとも一輪のブレーキシリンダ液圧を減圧することによって、他の車輪の制動トルクが大きくなった場合に、その時点のブレーキシリンダ液圧を必要最小液圧とする。ブレーキシリンダ液圧を戻してから他の車輪についてもブレーキシリンダ液圧を減少させれば、同様に必要最小限液圧を取得することができる。
また、(b)に示すようにブレーキシリンダ液圧の減圧量を大きくし、制動トルクの減少状態を検出する場合において、制動トルクが予め定められた設定値より小さくなった場合には、トルク用液圧センサ78等が異常であるとすることができる。
【0061】
また、上記実施形態においては、駆動装置164からの駆動トルクが加えられた場合の制動トルクの変化状態に基づいて、上り坂か下り坂かが判定されるようにされていたが、停止時点の制動トルクの変化状態に基づいて判定されるようにすることができる。
さらに、上記実施形態においては、保持液圧の決定、減圧開始時のブレーキシリンダ圧の決定、ブレーキシリンダ液圧の減圧制御が、制動トルクに基づいて行われるようにされていたが、これらすべてを制動トルクに基づいて行われるようにすることは不可欠ではない。例えば、保持液圧の決定とブレーキシリンダ液圧の減圧制御との少なくとも一方が制動トルクに基づいて行われるようにする等、一連の坂道発進制御中において、ブレーキシリンダ液圧が制動トルクに基づいて制御される時期があればよいのである。また、平坦な路面に停止している状態において発進制御が行われるようにすることもできる。
【0062】
さらに、液圧発生装置は上記実施形態におけるそれに限らない。例えば、図17に示すように、液圧発生装置に含まれる液圧シリンダを1つとすることもできる。液圧シリンダ200は、シリンダ本体202と、本体202に液密かつ摺動可能に、互いに対向する状態で嵌合されたピストン204,206とを含み、2つのピストン204,206の間が液圧室208とされる。
ピストン204はキャリパ14に設けられた突部210によって前進させられるものであり、ピストン206は連結部材212によって前進させられるものである。ピストン204,206の間にはリターンスプリング214が設けられ、それぞれを後退端位置に付勢する。後退端位置は本体202に設けられたストッパ216,218によって規定される。
【0063】
ピストン204は、ピストンロッド220の端面が突部210に対向する状態で設けられ、キャリパ14が液圧シリンダ200に接近することによって突部210がピストンロッド220に当接し、ピストン204がリターンスプリング214の付勢力に抗して前進させられる。ピストン204はキャリパ14の接近による押付力によって移動させられるものである。
ピストン206は、前述のピストン54と同様に、連結部材212がピストンロッド222の溝状を成した係合部224において係合させられる。ピストン206は、キャリパ64の液圧シリンダ200からの離間による引張力によって、液圧室208の容積が減少する方向に移動させられる。
【0064】
ディスクロータ10の正回転中にブレーキが作動させられた場合には、キャリパ14が正方向に回動させられる。連結部材212がそれに伴って引っ張られ、ピストン206がスプリング214の付勢力に抗して前進させられる。この場合には、突部210はピストン204に当接することはなく、ピストン204はストッパ216によって規定される後退端位置にある。液圧室208の容積が減少させられ、液圧が発生させられる。
ディスクロータ10の逆回転中にブレーキが作動させられると、キャリパ14に逆回転方向の力が加えられる。突部210の押付力によってピストン206が前進させられる。液圧室208の容積が減少させられ、液圧が発生させられる。ピストン206はストッパ218によって規定される後退端に位置したままで、連結部材212が係合部224に沿ってピストン206に対して相対移動させられる。
同様に、車両が坂道に停止している状態においては、重力に起因する駆動トルクと駆動装置164からの駆動トルクとの少なくとも一方による車輪の回転を抑制する方向に制動トルクが発生させられる。
【0065】
このように、本実施形態においては、キャリパ14による引張力と押付力とによって、液圧室208の容積を減少させるのであり、1つの液圧シリンダ200で、前進回転方向に駆動トルクが加えられた場合にも後退回転方向に駆動トルクが加えられた場合にも制動トルクを検出することができる。
なお、ピストン204のピストンロッド220とブレーキ本体14の突部210とは、ピストン204の後退端位置において当接した状態で設けることもできる。緩衝器80を設けない場合においても突部210により、ピストン204を前進させることができる。
また、上記実施形態における場合のように、緩衝器80とリリーフ弁90との両方を設けることは不可欠ではない。いずれか一方を設ければ、トルク用液圧センサ78に加わる負荷が過大になることを回避することができる。この場合には、リリーフ弁90におけるリリーフ圧等をトルク用液圧センサ78に適した大きさに決定することができる。
【0066】
さらに、図18に示すように、液圧発生装置250は、2つの液圧変換装置252,254を含むものとすることができる。液圧変換装置252,254は、それぞれ、金属ベローズ256を含み、金属ベローズ256の内側が可変容積室としての液圧室258とされる。液圧室258には、液圧センサの検出子260が配設される。検出子260に接続された信号線等はブレーキ制御装置130に接続され、ブレーキ制御装置130において、上記実施形態における場合と同様に制動トルク等が取得される。
ベローズ256を保持する保持部材262が車体側固定部材16に相対移動不能に取り付けられ、ベローズ256の底板266の突部に形成された係合部268に連結部材269が係合させられる。底板266の移動限度は、保持部材262の端面270によって規定される。ベローズ256の伸縮限度が規定され、ベローズ256の疲労を抑制することができる。
ディスクロータ10の回転中にブレーキが作動させられると、キャリパ14が回動させられ、それによって、底板266が移動させられる。ベローズ256が収縮させられ、液圧室258の容積が減少させられ、液圧が発生させられる。
また、坂道に停止中においては、重力に起因する駆動トルクと駆動装置164からの駆動トルクとの少なくとも一方による車輪の回転を抑制する方向に対応する液圧室258に、液圧が発生させられる。
【0067】
さらに、上記実施形態においては、ディスクブレーキがキャリパ固定型であったが、キャリパ浮動型のものとすることができる。この場合には、キャリパを軸方向に移動可能に保持するマウンティングブラケットがブレーキ本体とされて、車体側固定部材16にリンク機構18を介して周方向に移動可能に保持される。ブレーキシリンダは、ディスクロータ10の両側に設けられているわけではなく、車体の内側に設けられているだけである。ブレーキシリンダの作動によりキャリパが軸方向に移動させられ、ディスクロータ10の両側からアウタパッド、インナパッドが押し付けられる。
【0068】
また、トルク用液圧センサ78は、各輪毎に設けるのではなく、前輪側、後輪側の少なくとも一方の側において、右側車輪のブレーキと左側車輪のブレーキとに共通に設けることもできる。この場合には、車輪毎の個別通路の合流通路にトルク用液圧センサ78が設けられることになるが、車輪毎の個別通路に電磁開閉弁を設ければ、選択的に左側の車輪のトルクと右側の車輪のトルクとが検出可能となる。同様に、液圧シリンダ毎の個別通路70,72に電磁開閉弁をそれぞれ設ければ、液圧シリンダ51,52に発生させられる液圧を選択的に検出することが可能となる。なお、電磁開閉弁の換わりに方向切換弁とすることもできる。
【0069】
さらに、ブレーキはディスクブレーキに限らず、ドラムブレーキでもよく、液圧ブレーキに限らず、電動ブレーキとしてもよい。
ドラムブレーキとした場合の一例を、図19,20に示す。ドラムブレーキにおいては、ブレーキ本体としてのバッキングプレート350が車体側固定部材としてのリヤアクセルハウジング352に相対回転可能に保持される。また、バッキングプレート350と車体側固定部材352との間に、液圧発生装置としての揺動シリンダ354が設けられる。揺動シリンダ354は、バッキングプレート350に相対回転不能に取り付けられたハウジングの一部356と、車体側固定部材352に相対回転不能に取り付けられたハウジングの残りの部分358とを含む。ハウジング356,358には、それぞれ突部360,362が形成される。突部360はハウジング356の環状部の外周側に設けられ、突部362はハウジング358の環状部の内周側に設けられる。突部360がピストンとされ、突部362が液圧室364,366を規定する底部とされる。バッキングプレート350の車体側固定部材352に対する相対回転によって、突部360の底部362に対する相対位置が変化し、それによって、液圧室364,366の容積が変化させられる。
【0070】
液圧室364,366にはそれぞれ液通路370,372が接続され、液通路370,372には、それぞれ液圧センサ374,376が設けられる。また、液通路370,372には方向切換弁380が設けられ、液通路370,372のいずれか一方を選択的にリザーバ76に連通させる。
突部360の一方向の移動によって、液圧室364,366のいずれか一方の容積が減少させられ、他方の容積が増加させられる。容積が増加する液圧室にリザーバ76が連通させられて、負圧になることが回避される。矢印の方向の回転中(車両の前進中)にブレーキが作動させられた場合には、液圧室366の容積が増加させられるため、方向切換弁380は図示する原位置に保たれる。後退中においては、液圧室364にリザーバ76が連通させられる状態に切り換えられる。車両が前進中か後退中であるかは、シフト位置センサ392によって検出されるシフトレバー位置に基づいて検出される。
【0071】
前進中にブレーキが作動させられた場合、または、停止中に正方向に回転させる駆動トルクが加えられた場合には、バッキングプレート350が正方向(反時計方向)に回動させられる。ピストン360が反時計方向に移動させられ、液圧室364の容積が減少させられ、液圧室366の容積が増加させられる。摩擦力に起因する連れ回り力と液圧室364の液圧に応じた力とがつりあう状態となれば、バッキングプレート350の回動が停止させられる。バッキングプレート350の大きな回動が防止されるのであり、バッキングプレート350の移動限度を規定するストッパが不要となる。制動トルクは、液圧センサ374による検出液圧に基づいて検出される。
後退中にブレーキが作動させられた場合、または、停止中に逆方向に回転させる駆動トルクが加えられた場合には、方向切換弁380が切り換えられ、液圧室364にリザーバ76が連通させられる。ブレーキが作動させられると、バッキングプレート350が逆方向(時計方向)に回動させられる。ピストン360の時計方向の移動によって液圧室366の容積が減少させられ、液圧室364の容積が増加させられる。液圧センサ376による検出液圧に基づいて制動トルクが検出される。
【0072】
なお、上記各実施形態においては、ブレーキシリンダの液圧によって摩擦係合部材がブレーキ回転体に押し付けられるようにされていたが、電動モータの作動によって押し付けられるようにすることもできる。実際の制動トルクが目標トルクに近付けられるように制御する場合には、電動モータへの供給電流が制御されることになる。
また、ブレーキ本体、液圧発生装置等の車体側固定部材へのリンク機構(取り付け)の態様は、本出願人によって出願され、登録された特許第2782979号公報、2998522号公報に記載の態様とすることができる。この場合には、ブレーキシリンダの液圧による押付力による摩擦力に液圧発生装置の液圧とシリンダの横断面積を乗じた力とが同じにならない場合があるが(比例定数が1でない場合があるが)、比例定数は、構造によって決まるため、これらが比例することには変わりはなく、液圧発生装置の液圧に基づいて摩擦力を求めることができ、制動トルクを検出することができる。
【0073】
さらに、制動トルク検出装置は、連れ回り力を機械的に検出する連れ回り力検出部を含むものであってもよい。また、適用されるブレーキ装置の構造は、上記実施形態におけるそれに限らない。ブレーキの押付力を制御可能なものであれば本発明を適用することができる。
【0074】
本発明は、前記〔発明が解決しようとする課題、課題解決手段および効果〕に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるブレーキ制御装置によって押付力が制御されるブレーキを含むブレーキ装置全体を概念的に示す図である。
【図2】上記ブレーキ周辺を示す図である。
【図3】上記ブレーキ装置に含まれるブレーキ制御装置の周辺を概念的に示す図である。
【図4】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された車両停止時の制動トルクと最小ブレーキ液圧との関係を示すテーブルを表すマップである。
【図5】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された坂道発進制御プログラムを表すフローチャートである。
【図6】上記ブレーキ制御装置によって発進時にブレーキ液圧が減圧させられる場合の制御の一例を示す図である。
【図7】上記ブレーキ制御装置による制御の一例を示す図である。
【図8】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された低μ路上坂発進制御プログラムを表すフローチャートである。
【図9】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された減速勾配と車輪速度との関係を示すテーブルを表すマップである。
【図10】上記ブレーキ制御装置による制御の一例を示す図である。
【図11】上記ブレーキ装置が搭載された車両が停止している路面の傾斜状態と制動トルクとの関係を概念的に示す図である。
【図12】上記車両が停止している路面の傾斜角度と制動トルクの向きとの関係を概念的に示す図である。
【図13】上記車両が上り坂に停止している状態から発進する場合の制動トルクを概念的に示す図である。
【図14】上記ブレーキ制御装置のROMに格納された引きずり防止プログラムを表すフローチャートである。
【図15】上記ブレーキ制御装置のROMに格納されたノックバック防止プログラムを表すフローチャートである。
【図16】上記ブレーキ制御装置において、停止時最小保持液圧を求める場合のブレーキ液圧の変化状態と制動トルクとの関係を示す図である。
【図17】本発明の別の一実施形態であるブレーキ制御装置に含まれる制動トルク検出装置を示す図である。
【図18】本発明のさらに別の一実施形態であるブレーキ制御装置に含まれる制動トルク検出装置を示す図である。
【図19】本発明の別の一実施形態であるブレーキ制御装置に含まれる制動トルク検出装置を示す図である。
【図20】図19のAA断面図である。
【符号の説明】
51,52,200液圧シリンダ
63,250液圧発生装置
124液圧制御装置
78トルク用液圧センサ
130ブレーキ制御装置
160駆動制御装置

Claims (4)

  1. ブレーキ本体に保持された摩擦係合部材をブレーキ回転体に押し付けることによって車輪の回転を抑制するブレーキにおける前記摩擦係合部材の前記ブレーキ回転体への押付力を、車両の停止中に、その車両を停止状態に保つ大きさに保持する押付力保持装置と、
    前記車輪に加えられる制動トルクを検出する制動トルク検出装置と、
    車両の発進時に、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに応じて、前記押付力保持装置によって保持された押付力を減少させるトルク対応押付力減少部を備えた押付力減少装置と
    を含むブレーキ制御装置であって、
    前記制動トルク検出装置が、
    前記ブレーキ本体を前記ブレーキ回転体の近傍の車体側固定部材にブレーキ回転体の周方向に移動可能に保持するブレーキ本体保持装置と、
    前記ブレーキ本体の前記周方向の両側にそれぞれ作動液が液密に収容された状態で設けられ、前記ブレーキ本体の正方向の移動に基づいて容積が変化させられる第1可変容積室と、前記ブレーキ本体の逆方向の移動に基づいて容積が変化させられる第2可変容積室とを備え、前記ブレーキ本体の移動に基づいて液圧を発生させる液圧発生装置と、
    前記第1可変容積室と第2可変容積室との両方に連通する連通路に設けられ、前記液圧発生装置の液圧を検出する液圧検出装置と、
    その液圧検出装置による検出液圧に基づいて前記車輪に加えられる制動トルクを取得する制動トルク取得装置とを含むことを特徴とするブレーキ制御装置。
  2. 前記押付力保持装置が、前記車両が傾斜路面に停止している場合において、前記押付力を、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて決定する保持押付力決定部を含む請求項に記載のブレーキ制御装置。
  3. 前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて前記車両の停止している路面の傾斜状態を検出する傾斜状態検出部を含む請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
  4. ブレーキ本体に保持された摩擦係合部材をブレーキ回転体に押し付けることによって車輪の回転を抑制するブレーキにおける前記摩擦係合部材の前記ブレーキ回転体への押付力を、車両の停止中に、その車両を停止状態に保つ大きさに保持し、前記車両の発進時に減少させる押付力制御装置を含むブレーキ制御装置であって、
    (a)前記ブレーキ本体を前記ブレーキ回転体の近傍の車体側固定部材にブレーキ回転体の周方向に移動可能に保持するブレーキ本体保持装置と、(b)前記ブレーキ本体の前記周方向の両側にそれぞれ作動液が液密に収容された状態で設けられ、前記ブレーキ本体の正方向の移動に基づいて容積が変化させられる第1可変容積室と、前記ブレーキ本体の逆方向の移動に基づいて容積が変化させられる第2可変容積室とを備え、前記ブレーキ本体の移動に基づいて液圧を発生させる液圧発生装置と、(c)前記第1可変容積室と第2可変容積室との両方に連通する連通路に設けられ、前記液圧発生装置の前記可変容積室の液圧を検出する液圧検出装置と、(d)その液圧検出装置による検出液圧に基づいて前記車輪に加えられる制動トルクを取得する制動トルク取得装置とを含む制動トルク検出装置を含み、
    前記押付力制御装置が、前記押付力を、前記車両の停止から発進までの少なくとも一時期に、前記制動トルク検出装置によって検出された制動トルクに基づいて制御するトルク対応押付力制御部を含むことを特徴とするブレーキ制御装置。
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