以下、まず、本発明によるブレーキ装置の比較例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明における第1比較例を示すブレーキ配管モデル図である。本比較例では、前輪駆動の4輪車において,右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の車両に本発明によるブレーキ装置を適用した例について説明する。
図1において、車両に制動力を加える際に乗員によって踏み込まれるペダル1は、倍力装置2と接続されており、ペダル1に加えられる踏力およびペダルストロークがこの倍力装置2に伝達される。倍力装置2は第1室と第2室との2室を少なくとも有しており、例えば第1室を大気圧室、第2室を負圧室とすることができ、負圧室における負圧は、例えばエンジンのインテークマニホールド負圧あるいはバキュームポンプによる負圧が用いられる。そして、この倍力装置2は、大気圧室と負圧室の圧力差をもって、乗員のペダル踏力またはペダルストロークを直接倍力する。倍力装置2は、このように倍力された踏力あるいはペダルストロークをマスタシリンダ3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがマスタシリンダ3に配設されたマスタピストンを押圧することによりマスタシリンダ圧PUを発生する。なお、マスタシリンダ3は、このマスタシリンダ3内にブレーキ液を供給したり、またマスタシリンダ3からの余剰ブレーキ液を貯留する独自のマスタリザーバ3aを備えている。
このように、通常車両には、車体に制動力を与えるためのブレーキ液発生手段として、これらブレーキペダル1、倍力装置2およびマスタシリンダ3等が備えられている。マスタシリンダ3において発生されたマスタシリンダ圧PUは、マスタシリンダ3と右前輪FRに配設されてこの車輪に制動力を加える第1のホイールシリンダ4、およびマスタシリンダ3と左後輪RLに配設されてこの車輪に制動力を加える第2のホイールシリンダ5と、を結ぶ第1の配管系統A内のブレーキ液に伝達される。同様にマスタシリンダ圧PUは、左前輪と右後輪とに配設された各ホイールシリンダとマスタシリンダ3とを結ぶ第2の配管系統にも伝達されるが、第1の配管系統Aと同様の構成を採用できるため、詳述しない。
第1の配管系統Aは、この第1の配管系統Aに配設される圧力増幅手段100によって分けられる2部位から構成されている。すなわち、第1の配管系統Aは、マスタシリンダ3から圧力増幅手段100までの間においてマスタシリンダ圧PUを受ける第1の管路部位A1と、圧力増幅手段100から各ホイールシリンダ4、5までの間の第2の管路部位A2とを有している。
圧力増幅手段100は、ペダル1が踏み込まれて第1の配管系統A内にマスタシリンダ圧PUが発生している際に、第1の管路部位A1のブレーキ液を第2の管路部位A2へ移動して、第2の管路部位A2の圧力を第2のブレーキ液圧PLに保持する。本第1比較例では、この圧力増幅手段100は、後述する保持手段102とポンプ101とによって構成されている。なお、第1の配管系統Aの構成はにおいて、第1の管路部位A1は保持手段102およびポンプ101とマスタシリンダ3との間に形成され、第2の管路部位A2は各ホイールシリンダ4、5と前記保持手段102およびポンプ101との間に形成されている。なお、第2の管路部位A2において、左後輪RL側には第2のホイールシリンダ5にかかるブレーキ液圧を第1のホイールシリンダ4にかかるブレーキ液圧すなわちマスタシリンダ圧PUより小さくするように作用する周知の比例制御弁6が配置されている。この比例制御弁6は、車両制動時に荷重移動等が発生した場合において、後輪がロック状態状態に陥ることを極力回避するために設けられるが、廃することも可能である。
ポンプ101は、保持手段102と並列に第1の配管系統A内に接続され、マスタシリンダ圧PUの発生時において、第1の管路部位A1からブレーキ液を吸引して第2の管路部位A2へ吐出する。すなわち、マスタシリンダ圧PUが発生された際に、第1の管路部位A1のブレーキ液を第2の管路部位A2へ移動するブレーキ液移動手段のー例として構成されている。すなわち、このポンプ101には、通常アンチスキッド制御装置等に用いられるプランジャポンプを採用してもよいし、またコンプレッサ等を採用するようにしてもよい。なお、このポンプ101は、マスタシリンダ圧PUの発生時に常時駆動されるようにしてもよいし、例えば、ペダル踏力やペダルストロークあるいはマスタシリンダ圧PUに応じて駆動するようにしてもよい。また、このポンプ101は、通常アンチスキッド制御装置等に用いられる図示しないモータによって駆動されるようにしてもよい。
保持手段102は、ポンプ101によって第1の管路部位A1のブレーキ液が第2の管路部位A2へ移動されて、第2の管路部位A2のブレーキ液圧がマスタシリンダ圧PUより大きな第2のブレーキ液圧PLとなった場合、この差圧(PL−PU)を保持する作用を果たす。なお、乗員の足がブレーキペダル1から離れて、マスタシリンダ圧PUが開放された場合には、ホイールシリンダ4、5に第2のブレーキ液圧PLを加えていたブレーキ液はマスタシリンダ3側に返流されることが望ましい。この際、この保持手段102を通して返流するか、あるいは、ブレーキスイッチ等の出力に基づいてペダル1が非踏み込み状態となったことを検知して、例えば保持手段102に並列に接続された2位置弁等を遮断状態から連通状態にすることにより、ブレーキ液を返流するようにしてもよい。
このように、ポンプ101および保持手段102を備える圧力増幅手段100は、ペダル1の踏み込みに伴って所定のマスタシリンダ圧となった第1の管路部位A1のブレーキ液を第2の管路部位A2へ移動して、第1の管路部位A1内のブレーキ液圧すなわちマスタシリンダ圧を減圧してマスタシリンダ圧PUとすると同時に、第2の管路部位A2内の増幅された第2のブレーキ液圧PLとマスタシリンダ圧PUとの差圧を保持手段102によって維持して圧力増幅を行っている。
そして、マスタシリンダ圧PUよりも高くされた第2のブレーキ液圧PLが各ホイールシリンダ4、5に加わり、高い制動力を確保するようにしている。以上のように構成されるブレーキ装置における効果を以下に説明する。上述の如く、ポンプ101が車両制動時においてマスタシリンダ圧が発生している際に駆動され、第1の管路部位A1のブレーキ液を第2の管路部位A2に移動する。これによって、マスタシリンダ圧が減圧されるとともに、乗員がペダル1をさらに強く踏み込んだ場合においてもマスタシリンダ圧の増加は抑制される。よって、マスタシリンダ圧PUがあまり大きくならないことにより、ペダル1を通して乗員に伝わる反力が低減される。よって、乗員によるマスタシリンダ圧の発生のための負担を軽減できるとともに、マスタシリンダ3等にかかる負荷も軽減できる。そして、上述のようにマスタシリンダ圧PUの発生は抑制されるが、同時に保持手段102およびブレーキ液移動手段としての圧力増幅手段100によってホイールシリンダにかかるブレーキ液圧は増圧されるため、車両制動力を充分に確保することができる。
なお、第2の管路部位A2の圧力増幅が第1の管路部位A1内のブレーキ液を用いて行われるため、乗員がペダル1を離した際に第1の配管系統Aからマスタシリンダ3に返流されるブレーキ液量は、もともとマスタシリンダ3から第1の配管系統Aに導入されたブレーキ液量と同等となる。よって、ブレーキ液のマスタシリンダ3への返流もマスタシリンダ3に負担をかけることなく実現することができる。
次に、図2から図5を用いて、上述の保持手段102の具体的な構成および作用を種々示す。図2は、保持手段102の構成として比例制御弁110(Pバルブ)を採用した例である。図2(a)に示すように、比例制御弁110を図1における保持手段102の部位に逆接続する。比例制御弁110は、通常、正方向にブレーキ液が流動する際には、ブレーキ液の基圧を所定の減衰比をもって下流側に伝達する作用を有している。よって、図2(a)に示す如く比例制御弁110を逆接続すると、比例制御弁110に対して正方向にブレーキ液が流動する際には第2の管路部位A2側が前述の基圧となり、第1の管路部位A1側が下流側となる。よって、図2(b)に示すように、第2の管路部位A2内のブレーキ液圧PLが、ポンプ101による第2の管路部位A2内のブレーキ液量の増大に伴って比例制御弁110に設定されている折れ点圧力P1以上になった場合には、第2の管路部位A2内の第2のブレーキ液圧PLは直線の傾きすなわち所定の減衰比に応じて第1の管路部位A1に伝達される。よって、第1の管路部位A1におけるマスタシリンダ圧PUを基準として見れば、この比例制御弁110によって、ポンプ101の吐出により増圧された第2のブレーキ液圧PLが、前述の所定の減衰比の逆数の関係で増幅状態で保持されることとなる。また、第1の管路部位A1内にも、第2の管路部位A2のブレーキ液圧すなわち第2のブレーキ液圧PLに応じて所定のブレーキ液圧が確保されるため、たとえポンプ101が過剰に駆動されることがあるとしても、適度なマスタシリンダ圧PUを確保できる。よって、第1の管路部位A1のブレーキ液圧すなわちマスタシリンダ圧PUが異常に低下されて、ペダル1のストロークの異常増加および、ペダル反力の無負荷状態が発生することを極力防止できる。
また、乗員によるペダル1の踏み込みが弱められた際にはマスタシリンダ圧PUが低下するが、この際には、マスタシリンダ圧PUの低下に伴って、比例制御弁110を通して第2のブレーキ液圧PLも低下するため、乗員の意思を尊重したブレーキ作用を得ることができる。なお、図2(b)からも分かるように、第2のブレーキ液圧PLが比例制御弁の折れ点圧力P1よりも小さいブレーキ液圧を有する状態では、第2のブレーキ液圧PLは比例制御弁を通して第1の管路部位A1側に開放されている状態であるため、第1の管路部位A1と第2の管路部位A2とに差圧は設けられない。また、第2のブレーキ液圧PLがマスタシリンダ圧PUに応じた圧力に調圧されるため、マスタシリンダ圧PUが折れ点圧力P1よりも小さい場合にも、マスタシリンダ圧PUと第2のブレーキ液圧PLとに差圧は設けられない。すなわち、マスタシリンダ圧PUあるいは第2のブレーキ液圧PLが折れ点圧力P1よりも小さい圧力である場合には、図2(b)におけるマスタシリンダ圧PUと第2のブレーキ液圧PLとの関係は1対1であることを示す直線に沿うこととなる。
よって、比例制御弁110の折れ点圧力P1をある程度高い圧力に設定することによって、高制動力が要求されてブレーキペダル1が強く踏み込まれ、マスタシリンダ圧PUが非常に高くされた場合においてはじめてホイールシリンダ4、5にかかる第2のブレーキ液圧PLがマスタシリンダ圧PUに比べて増圧されるようにすることもできる。
また、折れ点圧力P1を0に設定した際には、ポンプ101によってブレーキ液が移動された際には必ずマスタシリンダ圧PUに対して第2のブレーキ液圧PLが増圧されて、第2のブレーキ液圧の方がマスタシリンダ圧PUより高くなるように差圧が確保されることとなる。なお、比例制御弁110に対して逆方向にブレーキ液が流動する場合には、ブレーキ液圧の減衰作用を行うことなく基圧と同様のブレーキ液圧を下流側に伝達する。本比較例における比例制御弁110の基圧側は第1の管路部位A1側で、下流側は第2の管路部位A2側である。すなわち、マスタシリンダ3側からホイールシリンダ4、5側へブレーキ液が流動する場合をさす。よって本比較例のように、比例制御弁110が図2(a)の如く逆接続されている際には、たとえポンプ101の駆動不良等により、第2のブレーキ液圧PLまでマスタシリンダ圧PUを増圧することができなく事態が発生したとしても、少なくともホイールシリンダ4、5にマスタシリンダ圧PUを加えることができる。
このように比例制御弁110を保持手段として採用した際には、機械的な構成にて各ホイールシリンダにかかるブレーキ液圧の圧力増幅作用を実現することができるだけでなく、機械的な設計事項として前記折れ点圧力P1を設定可能であるため、電気的な制御をほとんど設けることなく、乗員の意思に沿った圧力増幅作用を実現できる。たとえば、ブレーキペダル踏み込みに伴ってポンプ駆動を開始して車両制動中常時ポンプ駆動していても、マスタシリンダ圧PUが折れ点圧力P1以下であれば、圧力増幅作用は実現されない。すなわち、折れ点圧力の設定値を、ブレーキペダルが強く踏み込まれて乗員が高い制動力を必要としていると推測できるマスタシリンダ圧PUに設定しておけば、この折れ点圧力以上にマスタシリンダ圧PUが昇圧された際に、電気的な制御なしに圧力増幅作用を実行し、ブレーキアシストを実現することができる。なお、ポンプ駆動の実行判定等には、既に通常の車両に設けられているブレーキスイッチ等を用いればよく、センサ部品の増加および複雑な制御等は必要とならないというメリットがある。
なお、比例制御弁110には、周知のロードセンシングプロポーショニングバルブを用いるようにしてもよい。この際には、積載荷重等に応じて変化する車両重量に対応して、第2のブレーキ液圧の増幅効果すなわち折れ点圧力P1を可変することも可能である。次に、図3を用いて、図1の保持手段102の具体的な構成に、差圧弁を有するポートと連通状態を実現するポートとを有する2位置弁110aを採用した際の作用効果を説明する。
ブレーキペダル1が踏み込まれて、マスタシリンダ圧PUが発生される場合に、2位置弁110aの弁体が図3(a)に示す位置にあれば、第1の管路部位A1側から第2の管路部位A2側へのブレーキ液の流動は禁止され、また、この逆方向へのブレーキ液の流動は、第2の管路部位A2における第2のブレーキ液圧PLと第1の管路部位A1におけるマスタシリンダ圧PUとの差圧が所定以上となった場合に許容される。よって、ポンプ101が駆動された際には、図3(b)に示すように、第2の管路部位A2における第2のブレーキ液圧PLと第1の管路部位A1におけるマスタシリンダ圧PUとは所定の差圧が保たれ、各ホイールシリンダ4、5には、マスタシリンダ圧PUよりこの差圧分だけ高い圧力の第2のブレーキ液圧PLが加えられる。
また、乗員による制動操作が終了した際には、2位置弁110aを連通状態に切替え、第2のブレーキ液圧PLをマスタシリンダ3側に開放する。なお、2位置弁110aには並列に逆止弁110bが接続されている。この逆止弁110bは、第1の管路部位A1から第2の管路部位A2へのブレーキ液の流動のみを許可している。よって、第2のブレーキ液圧PLがマスタシリンダ圧PUに対して増圧された場合においても、この第2のブレーキ液圧PLは保持される。また、このように逆止弁110bが接続されていることにより、たとえ2位置弁110aにおいて差圧弁の弁位置においてホールドされる不具合が起きたり、ポンプ101の駆動不良が発生したとしてもホイールシリンダ4、5には少なくともマスタシリンダ圧PUが加えられるように保障することができる。
次に、図4に示すように、保持手段102として、絞り110cを採用した場合の作用効果について説明する。第1の配管系統Aにおいて、絞り110cを配設すれば、ポンプ101によって、第1の管路部位A1内のブレーキ液が第2の管路部位A2に移動された際には、管路面積比に伴う流動抵抗によって、第2の管路部位A2のブレーキ液圧を第1の管路部位A1内のマスタシリンダ圧PUに比べて高いブレーキ液圧すなわち第2のブレーキ液圧にすることができる。
この際、ポンプ101の駆動方法に応じて、図4(b)の直線に示す如く、第2のブレーキ液圧PLをマスタシリンダ圧PUに対してある一定の比率をもって増加することも可能である。すなわち、ポンプ101を、ー定の吐出能力で駆動すれば、直線の如き特性を発揮することができる。また、マスタシリンダ圧PUあるいは第2のブレーキ液圧PLのどちらかのブレーキ液圧が所定圧力P2になるまでポンプ101を駆動せず、所定圧力P2以上となった後にポンプ101を駆動すれば、直線、の特性を得ることができる。この際、ポンプ101の吐出能力を可変することにより、直線の特性を得ることもできるし、直線の特性を得ることも可能である。
次に、図5に示すように、保持手段102として、単に遮断・連通の2位置を備える2位置弁110dを採用した際について説明する。マスタシリンダ圧PUの発生後、ポンプ101が駆動された際に、第2のブレーキ液圧PLとマスタシリンダ圧PUとの差圧の確保は、この2位置弁110dによって第1の管路部位A1と第2の管路部位A2との間のブレーキ液の流動を遮断することにより実現する。この際、ポンプ101の駆動がー定の吐出能力を保つように行われてもよい。この場合に2位置弁110dの弁位置について遮断状態と連通状態とを所定のデューティ比で可変制御すると、図5(b)の、直線、に示すように第2のブレーキ液圧PLとマスタシリンダ圧PUとの関係における傾きを可変することができる。なお、マスタシリンダ圧あるいは第2のブレーキ液圧PLに応じて2位置弁110dのデューティ制御を実行開始してもよく、この場合には、直線、の如くマスタシリンダ圧PUおよび第2のブレーキ液圧PLが所定の圧力P3になるまでは、マスタシリンダ圧PUと第2のブレーキ液圧PLは1対1の関係にある。また、マスタシリンダ圧PUおよび第2のブレーキ液圧PLが所定の圧力P3以上となった場合には2位置弁110dの連通・遮断状態を可変制御することにより、直線、のようにマスタシリンダ圧PUに対して第2のブレーキ液圧PLを増圧する。
また、ポンプ101がー定の吐出能力で駆動されている際に、マスタシリンダ圧PUの発生と同期して2位置弁110dの連通・遮断制御をー定のデューティ比で実行開始すれば、図5(b)の直線に示すように、所定の傾きを有する近似直線的な圧力比特性を得ることができる。なお、前述まででは、マスタシリンダ圧PUと第2のブレーキ液圧PLとの関係において、直線、およびの如き特性を、ー定吐出能力のポンプ駆動の元で2位置弁110dを可変デューティ制御することによって得ていた。しかしながら、例えば、2位置弁110dの連通・遮断制御をー定のデューティ比で駆動するとともに、ポンプ101の吐出能力を可変することによって直線、およびの如き特性を得ることも可能である。さらに、ポンプ吐出能力をー定または可変に制御するためには、ブレーキ液の温度あるいはポンプ駆動のための電圧値等を監視して吐出能力を確保するようにしてもよい。
次に、図6に基づいて、本発明によるブレーキ装置に、さらにアンチスキッドシステム400を付加した第2比較例について説明する。なお、第1比較例と同様の構成および作用効果については詳述しない。アンチスキッドシステム400(ABSシステム)は、以下の構成を備えている。まず、第2の管路部位A2において、第1のホイールシリンダ4へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1の増圧制御弁300と、第2のホイールシリンダ5へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2の増圧制御弁301とを備えている。これら第1、第2の増圧制御弁300、301は、連通・遮断状態を制御できる2位置弁によって構成されている。そして、この2位置弁が連通状態に制御されている際には、マスタシリンダ圧あるいはポンプ101のブレーキ液の吐出によるブレーキ液圧を各ホイールシリンダ4、5に加えることができる。なお、アンチスキッド制御(ABS制御)が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら第1、第2の増圧制御弁300、301は常時連通状態に制御されている。
前述の第1、第2の増圧制御弁300、301と各ホイールシリンダ4、5との間における第2の管路部位A2と、後述するリザーバ200の第2のリザーバ孔200Bとを結ぶ管路には、第1の減圧制御弁302と第2の減圧制御弁303とがそれぞれ配設されている。これら第1、第2の減圧制御弁302、303は、ノーマルブレーキ状態では、常時遮断状態とされている。また、これら第1、第2の減圧制御弁302、303の連通・遮断制御は、アンチスキッド制御が開始されて第1、第2の増圧制御弁300、301が遮断状態にされた場合に実行される。すなわち、第1あるいは第2の減圧制御弁302、303が遮断状態にされた際は、対応するホイールシリンダにおけるその時のホイールシリンダ圧が保持される。また、車輪のロック状態を検知した際は、第1あるいは第2の減圧制御弁302、303が連通状態にされ、対応するホイールシリンダのホイールシリンダ圧が減圧される。この際には、第1あるいは第2の減圧制御弁302、303を通って、ホイールシリンダに加わっていたブレーキ液が第2のリザーバ孔202Bを通って、リザーバ室200C内に収容される。これによって、各ホイールシリンダ圧を減圧することができる。
また、車輪のロック傾向が収まって、ホイールシリンダ圧を増圧したい場合には、リザーバ室200C内に貯留されたブレーキ液を用いて、ホイールシリンダ圧を増圧する。すなわち、ポンプ101によって、第2のリザーバ孔200Bからブレーキ液を吸引して、連通状態にされた第1あるいは第2の増圧制御弁300、301を通してホイールシリンダにブレーキ液圧を加える。
このように、アンチスキッド制御中において、リザーバ200にブレーキ液が貯留される際には、ポンプ101は、第2のリザーバ孔202Bからブレーキ液を吸引し、各ホイールシリンダ4、5にかかるブレーキ液圧を増圧する。なお、リザーバ200は、このリザーバ200内にブレーキ液が収容されている場合にはリザーバ200内と第1の管路部位A1との間のブレーキ液の流動が遮断されるように構成されている。
以下にリザーバ200の構成について説明する。図6に示すように、第1の管路部位A1とポンプ101のブレーキ液の吸引側との間にリザーバ200が接続されている。このリザーバ200は、マスタシリンダ3と比例制御弁110との間に接続されてマスタシリンダ圧PUと同等の圧力となる配管からブレーキ液の流動を受ける第1のリザーバ孔200Aを有している。このリザーバ孔200Aよりリザーバ200の内側には、ボール弁201が配設されている。そしてこのボール弁201の下側には、このボール弁201を上下に移動するために所定のストロークを有するロッド203が設けられている。リザーバ室200C内には、ロッド203と連動するピストン204が備えられている。このピストン204は、第2のリザーバ孔200Bからブレーキ液が流動した場合に下方に摺動し、リザーバ室200C内にブレーキ液を貯留する。また、このようにブレーキ液が貯留された場合には、ピストン204が下側に移動する。そしてこれに伴って、ロッド203も下方に移動し、ボール弁201が弁座202に接触する。よって、リザーバ室200C内にブレーキ液がロッド203のストローク以上貯留された際には、ボール弁201と弁座202とによって、ポンプ101の吸引側と、第1の管路部位A1との間のブレーキ液の流動が遮断される。このボール弁201およびロッド203と弁座202とは、アンチスキッド制御が実行される前の通常のブレーキの状態でも同様の作用を成す。すなわち、通常のブレーキ状態において、マスタシリンダ圧が発生した際には、第1の管路部位A1を通ってリザーバ200にブレーキ液が流動するが、ロッド203のストローク分だけリザーバ200内にブレーキ液が溜まったら、ボール弁201と弁座202とによって、ブレーキ液の流動が遮断される。よって、通常ブレーキにおいて、リザーバ200がブレーキえきで満杯にされるはなく、アンチスキッド制御における減圧時に、ブレーキ液をリザーバ200内に収容することが可能である。
なお、ボール弁201とロッド203とを別体で設けておけば、ロッド203のストロークをあまり長くすることなくアンチスキッド制御における減圧時のリザーバ内への収容容量を稼ぐことができる。また、アンチスキッド制御における増圧時においてポンプ101の吸引によってリザーバ室200c内のブレーキ液が消費された際には、ピストン204が上側に移動し、これに伴ってロッド203がボール弁201を上側に移動させる。よって、ボール弁201が弁座202から離れ、ポンプ101の吸引側と第1の管路部位A1とが連通される。そして、このように連通された際には、ポンプ101は第1の管路部位A1からブレーキ液を吸引して、ホイールシリンダ圧の増圧を行うという、前述の圧力制御手段100の作用を実行する。よって、例えば、低μ路から高μ路に乗り移って、リザーバ200内のブレーキ液量だけでは、最適な制動力を得ることができない場合においても、即座に圧力増幅手段100による作用に移行して、高い制動力を得ることができる。
なお、リザーバ200には、ピストン204を上側に押圧し、リザーバ室内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング205が内蔵されている。また、アンチスキッド制御が終了した際には、リザーバ200内を空にすべく、ポンプ101によって、リザーバ200内のブレーキ液を比例制御弁110を通してマスタシリンダ側に返流するようにしてもよい。このようにすれば、次回アンチスキッド制御が実行されてホイールシリンダ圧を減圧する際において、充分ブレーキ液をリザーバ200内に収容することができる。なお、前述のスプリング205のバネ力を所定以上とすれば、このバネ力によってブレーキ液を第1のリザーバ孔200Aから返還することも可能である。
このように構成されたリザーバ200を用いれば、第2の管路部位A2のブレーキ液圧を第2のブレーキ液圧PLに高めるために第1の管路部位A1のブレーキ液を第2の管路部位A2へ移動するポンプ101と、アンチスキッドシステムにおいて各ホイールシリンダ圧を増圧したりリザーバ200内のブレーキ液をマスタシリンダ側に返流したりする際に駆動するポンプとを、共用することができる。
また、このような、リザーバ200を用いれば、ポンプ101の吸引側(インレットポート)に対してかかるブレーキ液圧を抑制することができる。すなわち、このリザーバ200が存在しない場合にはマスタシリンダ圧PUがポンプ吸引側にそのまま加圧されポンプのシール部等に過大な負担が係ることが予想されるが、リザーバ200のボール弁201およびリザーバ室200c等によって、マスタシリンダ圧PUがー旦リザーバ室200c内において低減されて、ポンプ101に吸引される。よって、マスタシリンダ圧PUがポンプ吸引側にかかるような本システムにおいてもポンプ101にかかる負担が軽減される。
また、圧力増幅作用を行うポンプ101の第1の管路部位A1からのブレーキ液の吸引流路中に、リザーバ200を介しても、上述のようにポンプ吸引先を第1の管路部位A1かリザーバ室200Cかを選択する手段を設ければ、通常ブレーキ時あるいは圧力増幅手段100の作動時においてリザーバ200内にブレーキ液が所定以上貯留されて、アンチスキッド制御が実行された際に、減圧不可あるいは減圧時間の制限が加えられることはない。
次に、図7および図8を用いて、本発明の第1実施例について説明する。本第1実施例は、第1比較例において説明した圧力増幅手段101に加えて、油量増幅手段500を構成したブレーキ装置に関する。図7に基づいて、油量増幅手段500について説明する。油量増幅手段500は、独自のリザーバ501および、このリザーバ501からブレーキ液を供給され、圧力比例シリンダ520内において、第2の圧力室522を形成する油量増幅ポンプ502とを備えている。
圧力比例シリンダ520は、第1の管路部位A1からマスタシリンダ圧PUが導入される第1圧力室521と、前記第2の圧力室522と、第3の圧力室523とを備え、また、これら各室521、522、523を形成するピストン524を有している。前述のリザーバ501は、第2の圧力室522と連通されているが、ブレーキペダル1が踏まれてマスタシリンダ3に所定の圧力が発生した際には、ピストン524が図面左方に移動することによって、リザーバ501と第2の圧力室522とは遮断状態にされる。また、このピストン524の移動に伴って、前記油量増幅ポンプ502の吐出口と第2の圧力室とが連通され、第2の圧力室522内のブレーキ液圧が高圧化される。なお、ブレーキペダル1の踏み込みが弱められてマスタシリンダ圧PUが所定以下になり、ピストン524が図7に示すように独自のリザーバ501と第2の圧力室522とを連通するようになれば、第2の圧力室522のブレーキ液圧はリザーバ501側に開放され、減圧される。また、ピストン524が図面左方に移動するまでは、ピストン524によって、油量増幅ポンプ502の吐出口は遮断状態とされている。
第3の圧力室523と第2の圧力室522とは、第2の比例制御弁503を介して連通されている。この第2の比例制御弁503は、第2の圧力室522からのブレーキ液圧を所定比にて減衰して、第3の圧力室523に伝達する。第2の圧力室522のブレーキ液圧が、油量増幅ポンプ502によるブレーキ液の吐出によって高圧化された際において、油量増幅比例制御弁503を通って第3の圧力室523に作用するブレーキ液圧と第2の圧力室522内のブレーキ液圧との関係は、油量増幅比例制御弁503に設定された減衰比によって決定される。また、マスタシリンダ圧によってもピストン524が左右に移動し、第2の圧力室522内への油量増幅ポンプ502からの吐出を許容・禁止したり、リザーバ501と第2の圧力室522とを連通・遮断したりして、第2の圧力室のブレーキ液圧を左右する。よって、この第2の圧力室522内のブレーキ液圧は、油量増幅比例制御弁503に設定された減衰比に応じて、マスタシリンダ圧PUに対応した圧力比に制御される。
このように制御される第2の圧力室522内のブレーキ液は、第2の管路部位A2への連通・遮断を制御弁504によって制御される。この制御弁504は、通常は遮断状態とされているが、たとえば車輪のスリップ状態等の車両挙動に応じて連通状態に制御される。この制御弁504が連通状態とされた際には、上述の如く圧力が制御される高圧のブレーキ液が、制御弁504を通して各ホイールシリンダ4、5に流動される。なお、制御弁504は、車両挙動に応じて制御されることに限らず、ブレーキペダル1の状態に応じて、たとえばブレーキペダルが踏まれて所定時間経過した際に連通状態に制御するようにしてもよい。
このように油量増幅手段500を有するブレーキ装置では、圧力増幅手段100によって増大された第2の管路部位A2の第2のブレーキ液圧PLよりもさらに高いブレーキ液圧を実現することができる。また、第2の管路部位A2へ、独自のリザーバ501からのブレーキ液を供給するため、第2の管路部位A2に対してブレーキ液量を増幅することとなる。この油量増幅手段500の実行を、たとえば圧力増幅手段100の実行終了後に開始すれば、圧力増幅手段100による踏力の低減状態を保持し、乗員には、軽い負担のみをのこしたまま、油量増幅手段500によって、さらなる制動力を確保できる。この際、圧力増幅手段100の実行が終了されることによって、これ以上の踏力低減が行われず、適度な反力をペダル感覚に残すことができる。また、圧力増幅手段100の実行から油量増幅手段500に切り替えられれば、圧力増幅手段100によって、第1の管路部位A1のブレーキ液量の減少すなわち第1の管路部位A1内のブレーキ液圧の低減が終了されて、油量増幅によって第2の管路部位A2の圧力が増圧されるため、ペダルストロークが極端に長くなることを防止するとともに、制動力を確保することも可能である。なお、油量増幅手段500による第2の管路A2に対するブレーキ液量の増幅と、圧力増幅手段100による第2の管路の管路部位A1から第2の管路部位へのブレーキ液の移動および圧力増幅とを、適宜切替えて制御したり、同時に実行するようにしてもよく、圧力増幅手段100によって踏力の低減およびホイールシリンダにかかる圧力の増幅を実現できるとともに、油量増幅手段によって踏力の極端な低減を抑制し、適当な反力を乗員に与えることが可能である。なお、油量増幅比例制御弁503に設定する折れ点圧力を高くすれば、マスタシリンダ圧PUが高圧になった時だけ油量増幅ポンプ502から第2の圧力室522に吐出することができ、制御弁504を廃したとしても、マスタシリンダ圧が所定以上の高圧になったときのみ第2の管路部位A2に対するブレーキ液量の増幅を実現することができる。
次に、図8を用いて、上述の第1実施例の変形例について説明する。図8は、図7における油量増幅手段500と置換できる油量増幅手段550を示す。この油量増幅手段550には、前述の第1実施例と同様に独自のリザーバ501と、このリザーバ501からブレーキ液を吸引して高圧下に吐出できる油量増幅ポンプ502を備えている。この油量増幅ポンプ502の吐出先は、制御弁504を介して第2の管路部位A2へ接続されている。油量増幅ポンプ502の吐出側と制御弁504との間から延びる管路には、油量増幅ポンプ501からの高圧のブレーキ液が通過した時に、所定の減衰比にてブレーキ液圧を減衰する油量増幅比例制御弁503が接続されている。この油量増幅比例制御弁503と第1の管路部位A1との間を結ぶ管路には、チェック弁530が配設されている。チェック弁530は、第1の管路部位A1側からのマスタシリンダ圧PUと、前述の油量増幅比例制御弁503とチェック弁502との間に存在するブレーキ液の圧力とを同ーにするように作用する。すなわち、チェック弁530は、マスタシリンダ圧PUと、油量増幅ポンプ502によって吐出されたブレーキ液において油量増幅比例制御弁503によって減衰されたブレーキ液圧とが同ー圧力となるように作用する。この際、チェック弁530は、マスタシリンダ圧PUと比較して、油量増幅比例制御弁503とチェック弁530との間のブレーキ液圧が高くなった場合には、チェック弁530における液室531とリザーバ501とが連通され、マスタシリンダ圧PUと同等のブレーキ液圧となるまでリザーバ501にブレーキ液を返還する。よって、油量増幅ポンプ502が吐出するブレーキ液によって高められる第2の制御弁504までの管路のブレーキ液圧は、マスタシリンダ圧PUに伴って所定の比率において増大もしくは減少する。すなわち、マスタシリンダ圧PUが油量増幅比例制御弁503の折れ点圧力以上の圧力である場合、油量増幅ポンプ502が吐出するブレーキ液によって高められる第2の制御弁504までの管路のブレーキ液圧は、マスタシリンダ圧PUを基準として油量増幅比例制御弁502に設定されている減衰比の逆数倍に増大されている。そして、油量増幅比例制御弁502に設定された減衰比の設定値を一定とすると、マスタシリンダ圧PUの増大・減少に伴って、油量増幅ポンプ502が吐出するブレーキ液によって高められる第2の制御弁504までの管路のブレーキ液圧は、第2の制御弁504に設定された減衰比の逆数に比例して増大・減少される。
このように、マスタシリンダ圧PUに応じて高圧なブレーキ液圧とされるブレーキ液は、第2の制御弁504が連通されることによって第2の管路部位A2へ流動し、第2の管路部位A2のブレーキ液量を増幅する。このようにブレーキ液量の増幅を行うことによって、図7を用いて説明した第1実施例と同様の効果を得ることができる。
なお、チェック弁530が、第1の管路部位A1側からのマスタシリンダ圧PUと、前述の油量増幅比例制御弁503とチェック弁502との間に存在するブレーキ液の圧力とを同ーににするのではなく、所定比にするように作用してもよい。また、第2の制御弁504を省略することも可能であり、この際には、第2の管路部位A2に対して、圧力増幅手段100による圧力増幅と、油量増幅手段によるブレーキ液量の増幅が、マスタシリンダ圧PUに応じて同時に実行される。この場合、圧力増幅手段100によって実行されるブレーキ液の第1の管路部位A1から第2の管路部位A2への移動による踏力低減および圧力の増大と、油量増幅手段530による第2の管路部位A2に対するブレーキ液量の増大による圧力の増大およびペダルストロークの過剰増加の防止とが両立できる。
また、図7における圧力増幅手段100を構成する絞り104を、第1比較例にて詳述した比例制御弁110と置換するようにしてもよい。この際、この比例制御弁110における折れ点圧力と、第2の制御弁503における折れ点圧力とを異なる値に設定してもよい。そして、例えば比例制御弁110における折れ点圧力よりも油量増幅比例制御弁503における折れ点圧力を高く設定すれば、第2の管路部位A2における第2のブレーキ液圧PLが前述の比例制御弁110に設定された折れ点圧力よりも大きく且つ油量増幅比例制御弁503に設定された折れ点圧力よりも大きくなった場合に、初めて圧力増幅されることとなる。
次に図10を用いて第2比較例について説明する。なお、上述までの比較例、実施例と同様の作用効果を奏する構成については、上述までと同様の符号を付し、説明を省略する。本比較例の特徴部分は、保持手段としての比例制御弁110およびブレーキ液移動手段としてのポンプ101を車輪に制動力を発生するホイールシリンダ4、5内に内蔵して構成したことである。すなわち、ホイールシリンダ4、5のコンポーネント内に、比例制御弁110およびポンプ101を配置し、且つこの比例制御弁110とポンプ101および実際に車輪制動力を発生するホイールピストン603との間を連通する管路構成が配置されている。なお、ホイールピストン603がブレーキ液圧を受けて図中右側に移動した際に、パッド601をディスクロータ600に押圧して車輪に車輪制動力を発生する。なお、ディスクロータ600は、車輪と一体に回転しており、ディスクロータ600とパッド601との間の摩擦によって、車輪を制動する。
本比較例におけるポンプ101は、車輪とともに回転するディスクロータ600から駆動エネルギを受ける。すなわち、ポンプ101とディスクロータ600との間を連結してポンプ101にディスクロータ600の回転エネルギを伝達する伝達部材602と、この伝達部材602に配置されてポンプ101とディスクロータとの間の連結状態を切り替えるクラッチ605とが構成されている。
また、この伝達部材602は、車輪軸604の中心線と所定量偏心して設けられており、この偏心量によってポンプ101にピストン運動あるいスクロール運動等を発生してポンプ作用を実現するようにしてもよい。なお、本比較例では、クラッチ605は後輪側のみに構成されており、前輪側には設けられていない。このようにすれば、前輪側は車輪が回転している際には常にポンプ101が駆動されている状態であるが、マスタシリンダ圧が発生されていない際には、比例制御弁110は圧力保持作用が働かないので、単に管路中をブレーキ液が還流するのみであり、ブレーキの引き釣り等は起こらない。なお、このようにブレーキ液が還流していることによって、ホイールピストン603に対して常に油圧脈動が作用しているため、ホイールピストン603とパッド601との間のクリアランスを最小に保持でき、ブレーキペダル踏み込み時の初期応答性を向上することができる。すなわち、油圧脈動によって常にホイールピストン601に作用力が加えられているため、車体振動等によってホイールピストン601が図中左側に移動してクリアランスが大きくなるということがない。また、前輪側のように、ポンプが常に駆動されていれば、乗員によってブレーキペダルがふみこまれた際にマスタシリンダ3において比例制御弁110の折れ点圧力以上のマスタシリンダ圧が発生した際には、常時圧力増幅作用が働く。なお、車輪回転数に応じて、ポンプ101の回転数および吐出圧(単位時間当たりの吐出量)も変化する。すなわち、車輪速度が小さい場合にはポンプ101の吐出圧が小さく、車輪速度が大きい場合にはポンプ101の吐出圧が大きい。すなわち、マスタシリンダ圧がー定であれば、車体速度が大きい場合に大きな圧力増幅作用を発揮でき、車体速度が小さい場合には小さな圧力増幅作用しか発揮しない。このように動することによって、車体速度が小さい場合にいわゆるカックンブレーキを防止できるとともに、車体速度が大きい場合に、ホイールピストン603にかかるブレーキ液圧の増圧ゲインを大きくすることができ、短距離制動を実現できる。
また、後輪側では、クラッチ機構602が採用されているため、たとえばブレーキペダル踏み込み後所定時間経過した以後にクラッチを接続して圧力増幅作用を実現するようにしてもよい。なお、このクラッチ605には、電気式のクラッチ機構を用いてもよいし、機械式のクラッチ機構を用いてもよい。例えば電気式のクラッチ機構を作用した際には、図示しないブレーキスイッチの信号を受けてクラッチ接続してもよいし、機械式のクラッチ機構を採用した際には、マスタシリンダ圧が所定圧以上になった際に、機械体に接続されるようにしてもよい。
このような本比較例では、車輪の回転エネルギを効率良く回収してポンプ駆動に用いることができ、回生ブレーキの役割を果たすことができる。なお、本比較例を電気自動車に適用すれば、周知であるリターダによる回生ブレーキと比較して、絶対エネルギを大きく得ることができ、特に高制動時において制動力不足となることを回避することができる。
また、本比較例においては、図に示すようにアンチスキッド制御作用を実現する増圧制御弁および減圧制御弁をマスタシリンダ3からホイールシリンダ4、5の間に配置するようにしてもよい。すなわち、増圧制御弁300、301、減圧制御弁302、303を構成し、且つアンチスキッド制御時にホイールシリンダ圧減圧分のブレーキ液を貯留するリザーバ701およびリザーバ701に貯留されたブレーキ液を排出するポンプ700が構成される。この際には、マスタシリンダ3からホイールシリンダ4、5内の比例制御弁110までの間における、ホイールピストン603にかかるブレーキ液圧よりも低い圧力において増減圧制御が可能である。このようにすれば、各制御弁等にかかる負荷が軽減される。
次に図11に基づき、通常の車両におけるブレーキ配管およびABSアクチュエータブロックのコンポーネントの方法について第3比較例として説明する。なお、上述までの比較例、実施例と同様の作用効果を有する構成には同様の符号を付し、説明を省略する。図11に示すように、本比較例では第1の配管系統Aと第2の配管系統Bとを図示し、第1の配管系統Aには右前輪FRのホイールシリンダ4および左前輪FLのホイールシリンダ5が接続され、第2の配管系統Bには左前輪FLのホイールシリンダと右後輪RRのホイールシリンダが接続されるX配管を採用している。
ABSアクチュエータ1000は、第1の配管系統Aおよび第2の配管系統Bにそれぞれ配置される計4つの増圧制御弁および計4つの減圧制御弁、計2つのリザーバ、計2つのポンプおよびこのポンプを駆動するモータが単一のブロックにコンポーネント化されている。また、第1の配管系統Aおよび第2の配管系統B用にそれぞれ設けられる比例制御弁110は、ー体化されて比例制御弁ブロック1100にて構成されている。
このように、ABSアクチュエータ1000と比例制御弁ブロック1100とを別コンポーネント化してブレーキ配管にて接続するようにすると、車種ごとに仕様を換える必要が小さいABSアクチュエータ1000は、各車種共通で共用化でき、また各車種ごとに折れ点設定等を換える必要が大きい比例制御弁110のみを車種ごとの仕様とすることができる。すなわち、各車種共用のABSアクチュエータ1000を採用できれば、製品全体のコストを下げることができる。
なお比例制御弁ブロックの1100の構成を詳述すると、通常ブレーキ時においてマスタシリンダ3に発生したマスタシリンダ圧は、第1の管路部位A1,B1からバルブシール1101を通過して第2の管路部位A2、B2に実質的に圧力減衰なく伝達され各ホイールシリンダに加圧される。その後、ポンプにより第1の管路部位からブレーキ液が吸引されて第2の管路部位へ吐出されると、この第2の管路部位A2,B2のブレーキ液圧は、マスタシリンダ圧よりも高い第2のブレーキ液圧となる。そして、第2のブレーキ液圧が所定の折れ点圧力以上になるまで、および通常ブレーキ時には、比例制御弁ピストン1102はコイルスプリング1104により上方に常に押圧されている。したがって、バルブシール1101と比例制御弁ピストン1102との間には隙間が開いており、第1の管路と第2の管路部位とは導通状態となっている。またポンプ吐出により第2の管路部位が折れ点圧力となると、比例制御弁ピストン1102にかかる力がコイルスプリング1104のバネ力よりも大きくなり、比例制御弁ピストン1102は空気室1106側(図中下側)に押される。この働きによってバルブシール1101と比例制御弁ピストン1102の肩部とが接し、導通を遮断する。さらに、第2の管路部位が折れ点圧力より高くなると、比例制御弁ピストン1102を上方に押す力が働き、一方でマスタシリンダ圧は比例制御弁ピストン1102を下方に押す力として働き、この両者が釣り合いを保つように作用する。このように、比例制御弁ピストン1102は第2の管路部位のブレーキ液圧が折れ点圧力より高い圧力で変移する場合には常に微振動を繰り返し、第2の管路部位から第1の管路部位へ流動する圧力を規定圧だけ下げる。すなわち、第1の管路部位のブレーキ液圧によって、第2の管路部位の圧力を規定圧分高く保持する。なお、第2の管路部位のブレーキ液圧は、バルブシール径断面積Bより比例制御弁ピストン1102の断面積Aをひいた環状面積B−A(ただしB>A)に作用し、マスタシリンダ圧はバルブシール径断面積Bに作用するため、マスタシリンダ圧に比較して第2の管路部位のブレーキ液圧は高い液圧で釣り合いが保たれる。この液圧釣り合い比率は言い換えれば第2のブレーキ液圧の減衰比であり、これは両受圧面積A,Bの比率(B/A)で決定される。なお、この比率(B/A)が大きければ減衰比が大きくなり、第2の管路部位における第2のブレーキ液圧の増圧勾配が大きくなる。よって、たとえば前後配管に本発明を採用した場合には、前輪側のブレーキ配管における比例制御弁の受圧面積A,Bの比率(B/A)を大きくし、後輪側のブレーキ配管における比例制御弁の受圧面積A,Bの比率(B/A)を小さく設定すれば、前後輪に対してポンプ吐出能力を同じく駆動し圧力増幅手段を実行した際に、前輪側のホイールシリンダには大きなブレーキ液圧が加えられ、後輪側のホイールシリンダには前輪側に比べて低いブレーキ液圧が加えられることになり、マスタシリンダ圧より高い圧力領域で前後の制動力配分が実現できる。
次に、図12に基づき第4比較例について説明する。なお、本比較例においても上述までの比較例、実施例における構成と同等の作用効果を有するものは、同様の符号を付して説明を省略する。図12に示すように、第1の配管系統Aおよび第2の配管系統Bには、それぞれ、マスタシリンダ3側からブレーキ液を吸引して各ホイールシリンダ側へ吐出するポンプ1010、1011が設けられている。また、これらのポンプ1010、1011にはそれぞれ、並列に管路A10,B10が設けられ、ポンプ吐出が還流可能に形成されている。
図13に示すフローチャートでは、各ポンプ1010、1011を駆動開始する条件が示されている。まずステップ1において各フラグ等の状態初期設定を行い、ステップ2において図示しないブレーキスイッチの入力を検出する。このブレーキスイッチは、乗員によりブレーキペダル1が踏み込まれて、車両制動状態となった際に、ON状態となる。ステップ3においてブレーキスイッチがONされているか否かを判断し、肯定判断された場合にはステップ4に進み、ポンプを駆動するモータ(図示せず)に通電して、ポンプの吸引吐出作用を実行する。そして、ステップ5に進みモータへの通電開始から所定時間経過したかを判断して肯定判断された場合にはステップ6に進み、否定判断された場合にはステップ3に戻る。なお、ステップ6ではモータへの通電をオフする。また、ステップ3において否定判断された場合においてもステップ6に進む。
図14に基づいて作用効果を説明する。ブレーキスイッチがON状態すなわち車両制動状態となってモータに通電がなされる本比較例の制御がある場合と、本比較例の制御がない場合のホイールシリンダ圧の変化が示されている。図中実線が本比較例の制御がある場合のホイールシリンダ圧の変化で、点線が本比較例の制御がない場合のホイールシリンダ圧の変化であり、また2点破線は、ブレーキ液の流動抵抗が実質的に存在しないと過程した場合のホイールシリンダ圧の変化である。これから分かるように、本比較例においては、ブレーキ液の移動速度をポンプ駆動および還流によって助勢でき、流動抵抗を低減することができるので、ホイールシリンダ圧の増大の応答性を向上することができる。なお、図15に示すように、ペダルストロークの変化を鑑みてポンプ駆動制御を実行するようにしてもよい。すなわち、ステップ11において状態初期設定をし、ステップ12においてペダルストロークPSを図示しないセンサによって検出する。ステップ13では、今回のペダルストローク検出値PS(n)が前回のペダルストローク検出値PS(n−1)よりも大きいかを判断し、肯定判断されれば、ステップ14にてモータに通電する。また否定判断された場合には、ステップ15に進み、モータ通電後所定時間経過しているかを判断して肯定判断された場合には、ステップ16に進み、モータ通電を停止する。また否定判断された場合にはステップ12に戻る。このようにペダルストロークの変化量が存在する際にポンプによりブレーキ液移動速度を助勢しても同様の効果をえることができる。なお、通常のブレーキペダルでは遊びが存在するため、ブレーキペダルストロークの変化をみれば、ブレーキペダル踏み込み時から、ペダルの遊びの間においてポンプを駆動でき、実際にマスタシリンダ圧が発生される頃には、第1の管路A内においてポンプによるブレーキ液の流動がなされている。よって、ブレーキ踏み込み初期にも十分対応できる。なお、ブレーキペダルのストロークに相当するものとして、マスタシリンダ圧、あるいは踏力等を検知してポンプ駆動制御するようにしてもよい。なお、直後にブレーキペダルの踏み込み操作がなされてブレーキ制御が行われる確率が高いエンジンブレーキの作動開始等の状態を検知し、ポンプ駆動制御を実行開始するようにしてもよい。
本発明の比較例は上記比較例に限定されるものではなく、以下のように種々変形可能である。たとえば第1比較例等において、圧力増幅手段100は、ポンプ101と保持手段102とによって構成していたが、これに限らず図9に示すように、第1の管路Aにおいて、ポンプ101を直列接続する簡単な構成としてもよい。この際には、たとえばポンプ101を第1の管路A中の埋め込むように配設し、且つ、ブレーキペダル1の操作状態あるいは車両挙動に応じて、ポンプ101を正転駆動して、第1の管路部位A1のブレーキ液を吸引して第2の管路部位A2に吐出することによって、ブレーキ液の移動を実現するようにしてもよい。そして、ブレーキペダル状態等から、乗員がペダル踏力を弱めたこと等を検知した場合には、ポンプ101を逆転駆動して、ホイールシリンダにかかるブレーキ液圧を通常状態まで減圧するようにしてもよい。なお、ポンプ101の故障等が万一発生した場合でも、少なくともマスタシリンダ圧PUがホイールシリンダに加わるように、ポンプ101には、第2の管路部位A2の圧力を少なくともマスタシリンダ圧PU以上にするような、保障手段が設けられることが望ましい。
また、上述までの実施例では、圧力増幅手段100による第2の管路部位A2の圧力増幅および油量増幅手段500による第2の管路部位A2に対するブレーキ液量の増幅を、右前輪FRおよび左後輪RLの双方に対して行うようにしていた。しかしながら、たとえば圧力制御手段100による圧力増幅または油量増幅手段500によるブレーキ液量の増幅を左右前輪のみに行ってもよい。すなわち、車両制動時には荷重移動が起こるため、左右後輪における制動力の確保はあまり期待できない場合がある。また、荷重移動が大きく発生すれば、後輪に大きな制動力を加えると、車輪スリップが発生し易くなるという可能性もある。よって、このような場合には、左右前輪のみに圧力増幅を行うようにすれば、効率よく制動力を稼ぐことができる。
また、図7および図8において説明した油量増幅手段では、リザーバ501からブレーキ液を吸引して高圧のブレーキ液を吐出するために、油量増幅ポンプ502が採用されていた。しかしながら、これら油量増幅ポンプおよびリザーバ501を、所定量のブレーキ液を高圧にて貯留する蓄液室に置換することも可能であり、この蓄液室からの高圧のブレーキ液を用いて、第2の管路部位A2のブレーキ液量を増幅するようにしてもよい。
なお、上述までの実施例では、ブレーキ液圧発生手段によるブレーキ液圧の発生は、乗員のペダル操作によりマスタシリンダにマスタシリンダ圧PUが発生されることによって実現されていた。しかしながら、たとえば車間距離が所定距離以下になって乗員のブレーキペダルの踏み込みに関わらずブレーキを作動する自動ブレーキに本発明を適用してもよい。この際には、ブレーキペダルおよびマスタシリンダ等の替わりに、自動ブレーキ用のポンプ等を本発明におけるブレーキ液圧発生手段として備えるようにしてもよい。この場合においても、本発明における圧力増幅手段100を備えるようにすれば、ブレーキ液圧発生手段を構成するポンプ等において第1のブレーキ液圧を発生する負担を軽減することができる。
また、本発明の如く第2のブレーキ液圧を圧力増幅手段100によって増圧することができれば、上述の実施例において構成されていた倍力装置2の能力を落として小型化することができるか、廃することも可能である。すなわち、倍力装置2によるマスタシリンダ圧PUの増圧作用がなくても、乗員のペダル踏力に対する負担をは充分軽減できるとともに、高い制動力を確保することができる。
さらに、上述の実施例では、前輪駆動のX配管車両に本発明を適用していたが、本発明は、駆動方式および配管系統に制限されることなく実施でき、例えば右前輪−左前輪、右後輪−左後輪のT−T配管を備える車両等にも適用可能である。