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JP4304782B2 - エンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置 - Google Patents

エンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エンジンの冷却水系においては、ラジエタおよびサーモスタット(サーモスタット弁)が配設されている。このサーモスタットは、冷却水の温度に応じて開閉作動されるもので、エンジンの冷却水が所定温度(例えば80度C)以上のときに開弁され、この開弁により冷却水がラジエタを循環するように流れて、冷却水がラジエタによって冷却される。また、冷却水の温度が上記所定温度よりも低いときはサーモスタットが閉弁され、この閉弁により冷却水がラジエタをバイパスして流れて、冷却水のすみやかな温度上昇が図られるようになっている。
【0003】
上記サーモスタットが開弁したまま故障した開弁故障が発生(開固着の発生)した状態で、エンジンを冷機状態から始動した場合に、冷却水がラジエタを循環するためにその温度上昇がすみやかに行われず、エンジンの安定した運転をすみやかに確保する上で好ましくないばかりでなく、燃費や排気ガス対策の上でも好ましくないものとなる。
【0004】
サーモスタットの開弁故障を判定するため、特開平10−184433号公報には、エンジン始動から所定時間経過後における冷却水の実際の温度が所定温度よりも低いときは、冷却水がラジエタにより冷却されているためである、つまりサーモスタットの開弁故障発生であると判定するものが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報記載のものでは、エンジン始動後において、アイドル運転等エンジンの発熱量がきわめて小さい運転状態が長く続いたとき、ラジエタによる冷却が行われなくても冷却水温度がさほど上昇しないため、サーモスタットが開弁故障していないにも拘わらず開弁故障であると誤判定してしまう事態を生じやすいものとなる。
【0006】
上述のような誤判定を防止するため、本出願人は、エンジンの運転状態から冷却水温度を予測し、この予測温度が所定温度に達した時点において、これまでの予測温度と温度センサにより検出された実際の冷却水温度との差の積算値が所定値以上のときに開弁故障であることを判定するものを開発した。この判定手法によれば、エンジン始動からアイドル等のエンジン発熱量が小さい運転状態が長く続いても、予測温度が所定温度になるまでの時間が長くなるため、開弁故障の誤判定が防止されることになる。
【0007】
しかしながら、上述した予測温度を用いる判定手法にあっては、エンジン始動直後から急な上り坂での加速状態を長く続いた場合等、冷却水温度が急速に上昇するような運転状態が続くと、予測温度が所定温度に短時間で到達してしまい、この結果開弁故障が発生していても上記積算値が小さくなって、サーモスタットが正常であると誤判定してしまう可能性がある、ということが判明した。
【0008】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、サーモスタットの故障をより精度よく判定できるようにしたエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明はその解決手法として次のようにしてある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
エンジンの冷却水が所定温度以上となったときに開弁されて冷却水をラジエタへ循環させ、冷却水が上記所定温度よりも低いときは閉弁されて冷却水を上記ラジエタをバイパスさせるサーモスタットを備えたエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置において、
ラジエタからのエンジン冷却水の放熱量を算出する放熱量算出手段と、
前記放熱量算出手段で算出された放熱量に基づいて、サーモスタットの故障を判定する故障判定手段と、
を備え
前記放熱量算出手段が、エンジンの運転状態を示す運転パラメータに基づいて算出される冷却水の予測温度と、温度検出手段で検出された冷却水の実際の温度とに基づいてラジエタの放熱量を算出するように設定され、
前記放熱量算出手段が、前記予測温度と実際の温度との偏差の積算値、および現在の予測温度と実際の温度との偏差に基づいて、ラジエタからの放熱量を算出するように設定され、
前記積算値が、前記予測温度と実際の温度との偏差に車速を乗算してなる値の積算値として算出されるように設定され、
エンジン冷却水のエンジンからの受熱量を算出する受熱量算出手段を有し、
前記故障判定手段が、前記受熱量に対する放熱量の割合となる熱量比を所定の判定しきい値と比較することにより、故障であるか否かを判定するように設定されているものとしてある。上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。
【0010】
【発明の効果】
請求項1によれば、ラジエタの放熱量に基づいてサーモスタットの故障判定を行うことにより、冷却水の温度上昇の度合いつまり急速に温度上昇したときやゆっくりとしか温度上昇しないときでも、サーモスタットの故障判定を精度よく行うことができる。
また、ラジエタからの放熱量のより具体的な算出手法が提供される
【0011】
さらに、ラジエタ放熱量のより精度のよい算出手法と、故障判定のより具体的な手法が提供される。
請求項によれば、サーモスタットの開弁故障を判定するためのより具体的な手法が提供される。
請求項によれば、サーモスタットの閉弁故障を判定するためのより具体的な手法が提供される。
請求項によれば、ラジエタ放熱量を精度よく算出するために好ましくない運転状態を除外して、故障判定をさらに精度よく得るために好ましいものとなる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1において、1は自動車用とされたエンジンであり、エンジン1の冷却水通路の出口が符号1aで、また冷却水通路の入口が符号1bで示される。上記出口1aは、配管2を介してラジエタ3の冷却水入口3aに接続されている。ラジエタq3の冷却水出口3bは、配管4を介してサーモスタット5に接続され、このサーモスタット5が、配管6を介してエンジン1の上記冷却水入口1bに接続されている。配管2とサーモスタット5とが、ラジエタ3をバイパスする配管7を介して接続されている。また、配管2と配管6とが、ラジエタ3および配管7をバイパスする配管8に接続され、この配管8にヒータコア9が接続されている。配管6には、冷却水をエンジン1へ供給するためのポンプ10が接続されている。
【0013】
サーモスタット5は、3方切換弁からなり、サーモスタット5を流れる冷却水温度が所定の開弁温度(例えば80度C)になると開弁されて、配管6を配管4に連通させる一方、配管6と7とを遮断する。このように、サーモスタット5が開弁されたときは、エンジン1から配管2へ吐出された高温の冷却水は、ラジエタ3を流れてここで冷却された後、配管4,6を通って再びエンジン1へ供給される。また、サーモスタット5は、そこを流れる冷却水温度が上記所定温度よりも低いときは閉弁されて、配管6を配管7と連通させる一方、配管6と4とを遮断する(このときの冷却水の流れ状態が、図1中矢印で示される)。このように、サーモスタット5が閉弁されたときは、エンジン1から配管2へ吐出された冷却水は、配管7を通ってつまりラジエタ3をバイパスして、配管6からエンジン1へと循環される。なお、室内暖房が行われるときは、ヒータコア9と室内空気との間で熱交換を行うためのブロアが作動されるが、室内暖房を行わないときは、配管8への冷却水通過を阻止する開閉弁を設けておくこともできる。
【0014】
図2は、サーモスタット5の開弁故障を検出(判定)するための制御系統を示すものであり、図中Uはマイクロコンピュータを利用して構成された制御ユニット(コントローラ)である。この制御ユニットUには、各種センサS1〜S4かの信号が入力される。センサS1は、冷却水温度を検出するもので、サーモスタット5を通過する冷却水の温度を検出すべく、配管6に取付けられている(水温センサS1をサーモスタット5に内蔵することもできる)。センサS2は、エンジン1に供給される吸入空気量を検出するもので、エンジン負荷を検出するものとなる。センサS3は、エンジン1に供給される吸入空気の温度を検出するものである。センサS4は、車速を検出するものである。制御ユニットUは、上記センサからの出力に基づいて後述のようにしてサーモスタット5の開弁故障を判定する。そして、故障であると判定したときに、警報器11を作動させるようになっている。
【0015】
次に図3以下のフローチャートを参照しつつ制御ユニットUによる故障判定の手法について説明するが、図3はA方式の故障判定手法(故障診断方式)を示し、図4、図5本発明による故障判定手法となるB方式での故障判定手法(故障診断方式)を示し、図6はA方式とB方式との両故障判定の結果を総合して最終的な故障判定を行う手法を示す。なお、以下の説明でQはステップを示す。
【0016】
まず、図3のA方式の故障判定手法について説明すると、エンジン1の始動と共にスタートされて、Q1においてタイマのカウント値が0に初期化される。次いで、Q2において、エンジン負荷が所定値よりも大きい高負荷時であるか否かが判別される。このQ2の判別でYESのときは、Q3において、車速が所定車速よりも大きい高車速時であるか否かが判別される。このQ3の判別でYESのときは、Q4において、タイマのカウント値がカウントアップされる。
【0017】
Q4の後、Q5において、エンジン始動時の冷却水温度に基づいて、タイマでカウントすべき所定時間CHが設定される。すなわち、エンジンおよび車両の運転状態が同じでも、そのときの冷却水温度に応じて冷却水の温度上昇勾配の度合いが相違することを補償すべく、Q5の処理が行われる。Q5の後、Q6において、タイマカウント値が所定値(所定時間)CHよりも大きいか否かが判別される。当初は、このQ6の判別でNOとなって、Q2へ戻る。
【0018】
Q6の判別でYESとなると、Q7において、エンジン1の運転状態から予測される冷却水の予測温度が、所定温度αよりも大きいか否かが判別される。冷却水の予測温度は、実施形態では、エンジン負荷(例えば吸入空気量)と車速と吸気温度とをパラメータとして所定の短時間の間での温度上昇分を算出して、この温度上昇分を前回の予測温度に加算することにより算出される(予測温度の初期値はエンジン始動時に検出された実際の冷却水温度とされる)。また、所定温度αは、サーモスタット5の設定開弁温度以下の温度とされるが、実施形態ではこの開弁温度付近の温度とされている。
【0019】
Q7の判別でYESのときは、Q8において、センサS1にて検出された実際の冷却水温度が、所定温度βよりもよりも小さい(低い)か否かが判別される。この所定温度βは、サーモスタット5の設定開弁温度以下の温度で、所定温度αに対応して設定されている。実施形態では、所定温度βは、開弁温度付近の温度でかつαよりも若干低い温度に設定されている(βをαと同じ値に設定することもできる)。このQ8の判別でNOのときは、実際の冷却水温度が十分高い温度になっているつまりラジエタ3による冷却が実行されていないときで、サーモスタット5が設定開弁温度よりもかなり低い温度でもって開弁されてしまう開弁故障が発生していない正常時であるということから、Q9において、正常であると判定される。また、Q8のL判別でYESのときは、Q10において開弁故障であると判定され、Q11において警報器11が作動される。
【0020】
前記Q2の判別でNOのとき、あるいはQ3の判別でNOのときは、それぞれQ12において、タイマカウント値が0にリセットされる。このように、開弁故障判定は、高負荷かつ高車速が所定時間CH以上継続したときに行われるように設定されている。なお、高負荷かつ高車速状態の所定時間以上の継続は、高負荷かつ高車速の時間を積算した合計時間が上記所定時間となる場合をも含むものである(高負荷かつ高車速の状態が断続的に発生した場合に対応で、このときは図3のQ12のステップが不用となる)。
【0021】
次に、本発明に関連したB方式となる図4、図5のフローチャートについて説明する。まず、図4のQ21において、予測冷却水温度がセンサS1で検出された実際の冷却水温度として設定される。この後Q22において、予測冷却水温度が算出されるが、この算出は、図3のにおける予測冷却水温度の算出と同様に、エンジン負荷、車速、吸気温度とをパラメータとして算出される。
【0022】
Q23では、エンジン始動時の実際の冷却水温度が例えば35度Cというように、かなり低い温度であるか否かが判別される。このQ23の判別でNOのときは、故障判定しないときであるとして、そのまま終了される。Q23の判別でYEのときは、Q24において、エンジン始動時の実際の冷却水温度から吸気温度を差し引いた温度偏差が例えば10度Cというように十分小さい値であるか否かが判別される。このQ25の判別でNOのときも、故障判定しないときであるとして、そのまま終了される。上記Q23、Q25の処理は、つまるところ、一旦エンジン1を運転して冷却水がかなり高温になっているときに、故障判定を行わないための処理となる(ほぼ冷機状態からの冷却水温度上昇を利用した故障判定を行うようにする)。
【0023】
Q25の判別でYESのときは、Q26において、予測冷却水温度が例えば40度Cというように中温程度に設定された所定温度よりも大きいか否かが判別される。このQ26の判別でNOのときは、Q22に戻る。Q26の判別でYESのときは、Q27において、後述するようにして、ラジエタ3からの放熱量Qorhが算出される。次いで、Q28において、冷却水のエンジン1からの受熱量Qigが後述するように算出される。Q28の後、Q29において、受熱量Qigに対する放熱量Qorhの比となる熱量比Rが算出される。この熱量比Rは、大きいほどラジエタ3により冷却水が冷却されている可能性が高いことを示すものとなる。Q29の後、Q30において、予測冷却水温度がサーモスタット5の設定開弁温度以下でこの開弁温度付近に設定された所定温度(例えば76度C)よりも大きいか否かが判別される。このQ30の判別でNOのときは、Q22へ戻る。
【0024】
Q30の判別でYESのときは、図5のQ41へ移行する。Q41では、エンジン始動時の実際の冷却水温度に基づいて、故障判定用のしきい値α1が設定される。この後、Q42において、前記熱量比Rが、判定しきい値α1よりも大きいか否かが判別される。このQ42の判別でYESのときは、Q43において、開弁故障であると判定され、Q44において、警報器11が作動される。
【0025】
Q42の判別でNOのときは、Q45において、エンジン始動時の実際の冷却水温度に基づいて、正常判定用のしきい値α2が設定される(α1>α2)。この後、Q46において、熱量比Rが判定しきい値α2よりも小さいか否かが判別される。このQ46の判別でYESのときは、Q47において、開弁故障が発生していない正常であると判定される。Q46の判別でNOのときは、開弁故障発生か正常か正確に判定できないときであるとして、Q48において、判定不能であると判定される。
【0026】
なお、前述したエンジン始動時の実際の冷却水温度に基づく判定しきい値α1,α2の設定は、図3におけるQ5の場合と同じ意味からなされる(冷却水の温度上昇度合いが、制御開始時の冷却水温度に応じて変化されることを補償する)。また、前述した放熱量Qorhと受熱量Qigと算出手法については、図6のフローチャートを説明した後に、詳述する。
【0027】
図6は、前述したA方式とB方式との故障判定結果に基づいて、最終的な故障判定を行うためのものである。まず、図6のQ51において、図3に示すA方式の故障診断が終了しているか否かが判別される。このQ51の判別でYESのときは、Q52において、A方式での故障判定が終了していることを示すべくフラグAが1にセットされる。Q52の後は、Q54において、A方式での故障判定の結果が「正常」であるか否かが判別される。このQ54の判別でNOのときは、Q58において、最終的に故障(開弁故障)であると判定される。
【0028】
前記Q51の判別でNOのときは、Q53において、フラグAが0にリセットされた後、Q55に移行される。また、Q54の判別でYESのときもQ55に移行される。このQ55では、図4、図5に示すB方式での故障判定が終了しているか否かが判別される。Q55の判別でNOのときは、Q51へ戻る。また、Q55の判別でYESのときは、Q56において、B方式での故障判定の結果が「正常」であるか否かが判別される。このQ56の判別でNOのときは、Q58において、最終的に故障(開弁故障)であると判定される。
【0029】
Q56の判別でYESのときは、Q57において、フラグAが1であるか否かが判別される。このQ57の判別でNOのときは、Q51へ戻る。Q57の判別でYESのときは、Q59において、最終的に正常であると判定される。このように、図6の制御例では、A方式およびB方式での故障判定の結果が共に正常であるときのみ最終的に正常であると判定し、少なくとも一方の診断方式の結果が故障であれば最終的に故障であると判定するようになっている。
【0030】
次に、図4、図5に示すB方式で用いた放熱量Qorhと受熱量Qigとの熱量比Rについて説明するが、後述のようにして得られる式(16)に示すように、上記放熱量Qorhは、予測冷却水温度θepと実際の冷却水温度θeaとに基づいて算出され、受熱量Qigはエンジン1の運転状態を示す運転パラメータに基づいて算出される。
【0031】
まず、冷却水へ流入する単位時間あたりの熱量の代数和は、冷却水の熱容量と単位時間あたりの温度上昇率との積に比例する。この関係を図1に示す冷却系モデルに適用することによって、次式(1)のような微分形式(冷却系熱モデルの基本式)が得られる。
【0032】
【数1】
Figure 0004304782
【0033】
ただし、
C :冷却水の比熱[Kcal/Kg・K]
M :冷却水の質量[Kg]
θe :冷却水の温度[K]
qig:燃焼ガスから冷却水へ伝熱する単位時間当たりの熱量[Kcal/s]
qoe:エンジン表面から雰囲気中へ伝熱する単位時間当たりの熱量[Kcal/s]
qor:ラジエータ表面から雰囲気中へ伝熱する単位時間当たりの熱量[Kcal/s]
qoh:ヒータ・コア表面から雰囲気中へ伝熱する単位時間当たりの熱量[Kcal/s]
【0034】
エンジン1の燃焼ガスから冷却水へ伝熱する単位時間あたりの熱量および総熱量は、供給された燃料のうち燃焼に寄与した燃料の発熱量に基づき、次式(2)にしたがって求めることができる。
【0035】
【数2】
Figure 0004304782
【0036】
ただし、
Rc :燃焼ガスの供給熱量のうち冷却水へ伝熱する熱量の割合
ηg :燃焼ガスの発熱量のうち燃焼ガス温度の上昇に寄与する割合
γ :γ=λ(λ≧1のとき),γ=1(λ<1のとき)
λ :燃焼ガスの空気過剰率
gf :単位時間当たりの燃料供給量[Kg/s]
Hu :燃料の低発熱量[Kcal/Kg]
【0037】
エンジン表面、ラジエタ表面、ヒータコア表面から雰囲気分中へ伝熱する単位時間あたりの熱量および総熱量は、エンジン表面については式(3)に示すように、ラジエタ表面については式(4)に示すように、ヒータコア表面についていは式(5)に示すように表すことができる。
【0038】
【数3】
Figure 0004304782
【0039】
ただし、
koe:エンジン表面から雰囲気中への熱伝導度
vs:車速[Km/h]
θae:エンジン表面の雰囲気温度[K]
【0040】
【数4】
Figure 0004304782
【0041】
ただし、
kor:ラジエータ表面から雰囲気中への熱伝導度
θar:ラジエータの雰囲気温度[K]
【0042】
【数5】
Figure 0004304782
【0043】
ただし、
koh:ヒータ・コア表面から雰囲気中への熱伝導度
voh:ヒータ・コアを通過する雰囲気の流速[Km/h]
θah:ヒータ・コア表面の雰囲気温度[K]
【0044】
式(3)〜(5)をしき(1)に代入することによって、次式(6)の微分形式を得ることができる。
【0045】
【数6】
Figure 0004304782
【0046】
ここで、実用化に際して、サーモスタットの閉弁領域において開弁故障を検出することに限定して、簡単のために冷却系熱モデルはサーモスタットの開弁温度以下を対象とする。また、現在の車両システムでは、θae、θar、θah、vohに対する入力情報が存在しない。そこで、θae、θar、θahをそれぞれ、吸入空気の温度θiaに置き換えるものとする。また、koh(voh)を、voh=0における定数項とそれからの増分に分けて次式(7)のように置くと、各式(8)〜(10)のようになる。
【0047】
【数7】
Figure 0004304782
【0048】
【数8】
Figure 0004304782
【0049】
【数9】
Figure 0004304782
【0050】
【数10】
Figure 0004304782
【0051】
したがって、式(6)より次式(11)が得られる。
【0052】
【数11】
Figure 0004304782
【0053】
現在、サーモスタット5が正常に作動しているかどうかが未知、すなわちqorhが未知であるとする。このときの冷却水温度をセンサS1で検出された実際の冷却水温度と置くと(θe=θea)、式(11)より、次式(12)が得られる。
【0054】
【数12】
Figure 0004304782
【0055】
次に、サーモスタット5が正常に作動し、かつ暖房用のブロアファンが作動していないと仮定した場合の冷却水温度を未知数としてθe=θepとする。この場合、ラジエタ3への経路は切り離されていると考えて、qorh=Qorh=0と置くことができるため、式(11)より、次式(13)が得られる。
【0056】
【数13】
Figure 0004304782
【0057】
式(13)から式(12)を引き、qorhについて整理すると、次式(14)が得られる。
【0058】
【数14】
Figure 0004304782
【0059】
式(14)の両辺を積分すると、次式(15)のようになる。
【0060】
【数15】
Figure 0004304782
【0061】
したがって、QorhのQigに対する熱量比Rは、式(15)、式(2)により、次式(16)に示すようになる。
【0062】
【数16】
Figure 0004304782
【0063】
上記式(16)において、分子における左辺は、現在の予測冷却水温度と実際の冷却水温度との偏差に関する項であり、分子における右辺は、上記両温度の偏差の積算値に関する項(車速を乗算した値の積算値)となる。このように、予測冷却水温度と実際の冷却水温度とに基づいて、放熱量Qorhを算出することが可能になる。そして、上記熱量比Rが大きいほど放熱量Qorhが大きいということで、ラジエタ3からの放熱(サーモスタット5の開弁)が想定される。
【0064】
以上実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば次のような場合をも含むものである。図6において最終的に故障であると判定された場合のみ警報器11を作動させるようにして、図3、図4、図5での故障判定の際には警報器11を作動させないようにすることもできる。また、図4、図5に示すラジエタ放熱量を用いた故障判定のみの制御を行うようにしてもよい。さらに、図5のステップQ30において、予測温度の代わりに実際の温度を用いることもできる。放熱量Qorh、受熱量Qigの算出に際して用いるエンジンの運転状態を示す運転パラメータとしては、吸入空気量等のエンジン負荷あるいは空燃比の少なくとも一方を含めておくのが、各熱量を精度よく得る上で好ましいものとなる。
【0065】
図4、図5の制御において、車速が所定値以下の低車速時にも、故障判定を禁止するように設定してもよい。故障判定を禁止する手法としては、故障判定そのものを行わないことは勿論のこと、故障判定を行いつつ、得られた故障判定の結果を利用しない場合をも含むものである(故障判定されても警報器11の作動を禁止したり、故障判定結果を保守、点検時に用いるダイアグチェック用としては記憶しないようにする)。
【0066】
サーモスタット5の閉弁故障の判定を行うこともできる。この場合、予測温度または実際の温度がサーモスタット5の設定開弁温度よりも高くなったときに、熱量比Rが所定の判定しきい値よりも小さいときに、ラジエタ3からの放熱が十分になされていないときであって、サーモスタット5の閉弁故障であると判定することができる。図4、図5に示す制御において、サーモスタット5が設定開弁温度(例えば80度C)よりも低い温度(例えば65度C)で開弁されてしまう故障ををも含めて精度よく故障判定するため、故障判定時点での予測温度を複数段階設定して(例えば50度C、65度C、76度C)、この各予測温度段階でそれぞれ独自に設定された所定の判定しきい値と熱量比Rとを比較して、開弁障であるか否かを判定することもできる(これに加えてあるいはこれに代えて、熱量比Rが変化する様子を監視することにより、どの予測温度時点でサーモスタット5が開弁されたかをかなり精度よく判定することも可能となる)。
【0067】
エアコンの作動状態を加味して、故障判定のための制御値、例えば放熱量Qorh、受熱量Qigを補正することができる。すなわち、暖房時は、ヒータコア9からの放熱量分だけ、ラジエタ3からの放熱量Qorhを減算補正すればよい。また、冷房時には、エンジンにより駆動される冷房用ポンプの駆動損失分だけ、受熱量Qigを減算補正すればよい。また、エアコン作動状態に応じた補正は、判定しきい値の補正とすることもできる。
【0068】
フロ−チャ−トに示す各ステップ(ステップ群)あるいはセンサやスイッチ等の各種部材は、その機能の上位表現に手段の名称を付して表現することができる。また、フロ−チャ−トに示す各ステップ(ステップ群)の機能は、制御ユニット(コントローラ)内に設定された機能部の機能として表現することもできる(機能部の存在)。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。さらに、本発明は、故障判定方法として表現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジン冷却系統の一例を示す図。
【図2】故障判定を行う制御系統を示す図。
【図3】本発明の制御例を示すフローチャート。
【図4】本発明の制御例を示すフローチャート。
【図5】本発明の制御例を示すフローチャート。
【図6】本発明の制御例を示すフローチャート。
【符号の説明】
1:エンジン
3:ラジエタ
5:サーモスタット
10:ポンプ
S1:水温センサ
S2:吸入空気量検出センサ
S3:吸気温度検出センサ
S4:車速センサ
U:制御ユニット

Claims (4)

  1. エンジンの冷却水が所定温度以上となったときに開弁されて冷却水をラジエタへ循環させ、冷却水が上記所定温度よりも低いときは閉弁されて冷却水を上記ラジエタをバイパスさせるサーモスタットを備えたエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置において、
    ラジエタからのエンジン冷却水の放熱量を算出する放熱量算出手段と、
    前記放熱量算出手段で算出された放熱量に基づいて、サーモスタットの故障を判定する故障判定手段と、
    を備え
    前記放熱量算出手段が、エンジンの運転状態を示す運転パラメータに基づいて算出される冷却水の予測温度と、温度検出手段で検出された冷却水の実際の温度とに基づいてラジエタの放熱量を算出するように設定され、
    前記放熱量算出手段が、前記予測温度と実際の温度との偏差の積算値、および現在の予測温度と実際の温度との偏差に基づいて、ラジエタからの放熱量を算出するように設定され、
    前記積算値が、前記予測温度と実際の温度との偏差に車速を乗算してなる値の積算値として算出されるように設定され、
    エンジン冷却水のエンジンからの受熱量を算出する受熱量算出手段を有し、
    前記故障判定手段が、前記受熱量に対する放熱量の割合となる熱量比を所定の判定しきい値と比較することにより、故障であるか否かを判定するように設定されている、
    ことを特徴とするエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置。
  2. 請求項において、
    前記故障判定手段が、前記予測温度または実際の温度がサーモスタットの設定開弁温度以下であるときに、前記熱量比が前記判定しきい値よりも大きいときに、サーモスタットが開弁故障していると判定するように設定されている、ことを特徴とするエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置。
  3. 請求項において、
    前記故障判定手段が、前記予測温度または実際の温度がサーモスタットの設定開弁温度よりも高いときに、前記熱量比が前記判定しきい値よりも小さいときに、サーモスタットが閉弁故障していると判定するように設定されている、ことを特徴とするエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置。
  4. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において
    冷却水温度が所定値以下のとき、または車速が所定値以下のときに、前記故障判定手段による故障判定を禁止する禁止手段をさらに備えている、ことを特徴とするエンジン冷却系におけるサーモスタットの故障診断装置。
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