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JP4140611B2 - 車輌の挙動制御装置 - Google Patents

車輌の挙動制御装置 Download PDF

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Description

本発明は、車輌の挙動制御装置に係り、更に詳細には操舵輪の舵角を制御することにより車輌の挙動を制御する挙動制御装置に係る。
自動車等の車輌の挙動制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を転舵可能な転舵装置を備えた車輌に於いて、アンチスキッド制御中の左右輪の制動力差により車輌に作用するヨーモーメントが打ち消されるよう転舵手段により操舵輪を転舵する車輌の挙動制御装置が既に知られている。
かかる挙動制御装置によれば、例えば左右輪の一方についてアンチスキッド制御が行われることにより左右輪の制動力差が大きくなり、該制動力差によるヨーモーメントが車輌に作用する場合にも、操舵輪が転舵されることによって左右輪の制動力差によるヨーモーメントが打ち消されるので、路面の摩擦係数が高い側の車輪の制動力を低下させることなく、換言すれば車輌の減速度や制動距離を犠牲にすることなく、車輌の偏向を防止し車輌の走行安定性を向上させることができる。
特許登録2540742号公報
一般に、車輌が旋回する場合には、旋回外輪の接地荷重が増大すると共に旋回内輪の接地荷重が減少することにより、旋回外輪の限界前後力が増大すると共に旋回内輪の限界前後力が減少するので、アンチスキッド制御やトラクション制御の如く、車輪のスリップが過大になることを防止すべく車輪の前後力が自動的に増減制御される車輌の場合には、旋回外輪の前後力が増大すると共に旋回内輪の前後力が減少する。
そのため上述の如き従来の挙動制御装置に於いては、車輌の旋回制動時にアンチスキッド制御が実行され、左右輪の制動力に差が生じた場合には、左右輪の制動力差により車輌に作用するヨーモーメントが打ち消されるよう左右輪の制動力差に基づいて操舵輪が転舵されると、操舵輪は不必要に旋回内側方向へ転舵されることになり、車輌の旋回半径が小さくなり易いという問題がある。逆に車輌の旋回加速時にトラクション制御が実行され、左右輪の駆動力に差が生じた場合には、左右輪の駆動力差により車輌に作用するヨーモーメントが打ち消されるよう左右輪の駆動力差に基づいて操舵輪が転舵されると、操舵輪は不必要に旋回外側方向へ転舵されることになり、運転者の意思に反して車輌の旋回半径が大きくなり易いという問題がある。
本発明は、左右輪の制駆動力差により車輌に作用するヨーモーメントが打ち消されるよう操舵輪を転舵する従来の挙動制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、旋回時の左右方向の荷重移動に起因する左右輪の制駆動力差を考慮することにより、車輌の直進加減速時に於ける左右輪の制駆動力差に起因する車輌の偏向を効果的に防止し車輌の走行安定性を確実に向上させつつ、車輌の旋回加減速時に於ける操舵輪の不必要な旋回内側方向又は旋回外側方向への転舵を防止して旋回加減速時の車輌の走行安定性を向上させることである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を転舵可能な転舵手段と、各車輪の前後力を推定する手段と、左右輪の前後力差に基づいて車輌に作用する前後力差起因ヨーモーメントを演算する手段と、車輌の左右方向の荷重移動に基づいて車輌に作用する荷重移動起因ヨーモーメントを演算する手段と、前記前後力差起因ヨーモーメントを少なくとも部分的に相殺するためのカウンタヨーモーメントを演算し、前記カウンタヨーモーメントから前記荷重移動起因ヨーモーメントを低減する補正を行った補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう前記転舵手段により操舵輪を転舵する転舵制御手段とを有することを特徴とする車輌の挙動制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記荷重移動起因ヨーモーメントを演算する手段は車輌の横加速度の大きさが大きいほど荷重移動起因ヨーモーメントの大きさが大きくなるよう、車輌の横加速度に基づいて荷重移動起因ヨーモーメントを演算するよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記転舵制御手段は運転者の操舵操作量及び所定の操舵特性に基づき操舵輪の暫定目標舵角を演算し、前記補正後のカウンタヨーモーメントに基づき前記暫定目標舵角を補正することにより操舵輪の目標舵角を演算し、前記目標舵角に基づき前記転舵手段により前記操舵輪の舵角を制御するよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項1の構成によれば、左右輪の前後力差に基づいて車輌に作用する前後力差起因ヨーモーメントが演算され、車輌の左右方向の荷重移動に基づいて車輌に作用する荷重移動起因ヨーモーメントが演算され、前後力差起因ヨーモーメントを少なくとも部分的に相殺するためのカウンタヨーモーメントが演算され、カウンタヨーモーメントから荷重移動起因ヨーモーメントを低減する補正を行った補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう転舵手段により操舵輪が転舵されるので、左右方向の荷重移動による左右輪の制動力差に起因する余分なヨーモーメントをカウンタヨーモーメントより排除し、かくして余分なヨーモーメントが排除された補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう操舵輪を転舵することにより、操舵輪が不必要に旋回内側方向又は旋回外側方向へ転舵されることを抑制することができ、従って車輌の直進加減速時に於ける左右輪の制駆動力差に起因する車輌の偏向を効果的に防止しつつ、旋回加減速時の車輌の走行安定性を向上させることができる。
また上記請求項2の構成によれば、車輌の横加速度の大きさが大きいほど荷重移動起因ヨーモーメントの大きさが大きくなるよう、車輌の横加速度に基づいて荷重移動起因ヨーモーメントが演算されるので、左右方向の荷重移動による左右輪の制動力差が大きいほど荷重移動起因ヨーモーメントの大きさが大きくなるよう荷重移動起因ヨーモーメントを演算し、これにより車輌の旋回度合が高く車輌の横加速度の大きさが大きいときにも余分なヨーモーメントをカウンタヨーモーメントにより確実に低減することができる。
また上記請求項3の構成によれば、運転者の操舵操作量及び所定の操舵特性に基づき操舵輪の暫定目標舵角が演算され、補正後のカウンタヨーモーメントに基づき暫定目標舵角が補正されることにより操舵輪の目標舵角が演算され、目標舵角に基づき転舵手段により操舵輪の舵角が制御されるので、所定の操舵特性を確実に達成しつつ、旋回時の車輌の走行安定性を向上させることができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、転舵手段は運転者により操作される操舵操作子に対し相対的に操舵輪を転舵駆動することにより、運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を転舵駆動するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、転舵制御手段は前後力差起因ヨーモーメントと大きさが同一であり且つ方向が逆のヨーモーメントとしてカウンタヨーモーメントを演算するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、転舵制御手段は車輌が旋回状態にあるか否かを判定し、車輌が旋回状態にあるときに補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう転舵手段により操舵輪を転舵し、車輌が旋回状態にないときには補正前のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう転舵手段により操舵輪を転舵するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、車輌は車輌の挙動が悪化しているときには各車輪の制駆動力を制御することにより車輌の挙動を安定化させる制駆動力の制御による挙動制御手段を有し、転舵制御手段は挙動制御手段が作動していないときに補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう転舵手段により操舵輪を転舵するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、車輌は車輪の加速スリップ若しくは減速スリップが過大であるときには当該車輪の制駆動力を制御することにより加速スリップ若しくは減速スリップを低減する車輪スリップ制御手段を有し、転舵制御手段は車輌が旋回状態にあり且つ車輪スリップ制御手段が作動しているときに補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう転舵手段により操舵輪を転舵するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4又は5の構成に於いて、転舵制御手段は運転者の操舵操作量及び所定の操舵特性に基づき操舵輪の暫定目標舵角を演算し、挙動制御手段が作動しているとき又は車輪スリップ制御手段が作動していないときには、暫定目標舵角に基づき転舵手段により操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、各車輪の前後力を推定する手段は各車輪の駆動力を推定すると共に各車輪の制動力を推定し、駆動力と制動力との和として各車輪の前後力を推定するよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、車輌は車輌の旋回加減速時に車輪の制駆動力の配分を制御する制駆動力配分制御手段を有し、転舵制御手段は制駆動力配分制御手段が作動していないときに補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう転舵手段により操舵輪を転舵するよう構成される(好ましい態様8)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は自動転舵装置として機能する転舵角可変装置を備えたセミステアバイワイヤ式の後輪駆動車に適用された本発明による車輌の挙動制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の従動操舵輪としての左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の駆動輪としての左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のパワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
ステアリングホイール14は第一のステアリングシャフトとしてのアッパステアリングシャフト22、転舵角可変装置24、第二のステアリングシャフトとしてのロアステアリングシャフト26、ユニバーサルジョイント28を介してパワーステアリング装置16のピニオンシャフト30に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置24はハウジング24Aの側にてアッパステアリングシャフト22の下端に連結され、回転子24Bの側にてロアステアリングシャフト26の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機32を含んでいる。
かくして転舵角可変装置24はアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することにより、ステアリングホイール14の回転角度に対する操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRの舵角の比、即ちステアリングギヤ比を変化させるステアリングギヤ比可変装置として機能すると共に、挙動制御の目的で左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置としても機能し、電子制御装置34の転舵制御部により制御される。
特に転舵角可変装置24は、通常時にはステアリングギヤ比が所定の操舵特性を達成するギヤ比になるよう電動機32によりアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転させ、挙動制御による補助転舵駆動時には電動機32によりアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を積極的に回転させ、これにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪10FL及び10FRを自動的に転舵する。
尚アッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することができない異常が転舵角可変装置24に発生すると、図1には示されていないロック装置が作動し、アッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度が変化しないよう、ハウジング24A及び回転子24Bの相対回転が機械的に阻止される。
またパワーステアリング装置16は油圧式パワーステアリング装置及び電動式パワーステアリング装置の何れであってもよいが、転舵角可変装置24による前輪の補助転舵駆動により発生されステアリングホイール14に伝達される反力トルクを低減する補助操舵トルクが発生されるよう、例えば電動機と、電動機の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換するボールねじ式の如き変換機構とを有するラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であることが好ましい。
各車輪の制動力は制動装置36の油圧回路38によりホイールシリンダ40FL、40FR、40RL、40RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路38はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル42の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ44により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置34により個別に制御される。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト22には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ50が設けられており、転舵角可変装置24にはハウジング24A及び回転子24Bの相対回転角度をアッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度θreとして検出する回転角度センサ52が設けられており、これらのセンサの出力は電子制御装置34へ供給される。
また電子制御装置34には横加速度センサ54により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号、ヨーレートセンサ56により検出された車輌のヨーレートγを示す信号、車輪速度センサ58FL〜58RRにより検出された各車輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、圧力センサ60FL〜60RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号、エンジン制御装置62よりスロットル開度φ及びエンジン回転数Neを示す信号等が入力される。
尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置34は転舵角可変装置24を制御する転舵制御部と、各車輪の制動力を制御する制動力制御部と、車輌の挙動を制御する挙動制御部とよりなり、各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ50、回転角度センサ52、横加速度センサ54、ヨーレートセンサ56はそれぞれ車輌の左旋回方向への操舵又は転舵又は旋回の場合を正として操舵角θ、相対回転角度θre、横加速度Gy、ヨーレートγを検出する。
後述の如く、電子制御装置34は通常時には車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するためのステアリングギヤ比Rgを演算し、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及びステアリングギヤ比Rgに基づき暫定目標舵角δstを演算し、左右前輪の舵角が暫定目標舵角δstになるよう転舵角可変装置24を制御し、これにより運転者の操舵操作に応じて所定の操舵特性にて左右の前輪10FL及び10FRを転舵する。
また電子制御装置34は通常の制動時にはマスタシリンダ圧力Pmに所定の増圧係数Ki(i=fl、fr、rl、rr)を乗算した値を各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)として演算し、制動圧Piが目標制動圧Ptiになるよう制御するが、後述のアンチスキッド制御(ABS制御)又はトラクション制御(TRC制御)が実行される場合又は制動力の制御による挙動制御の目標制動圧Ptiが演算されたときには、それらの制御を優先して各車輪の制動圧を制御する。
また電子制御装置34は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び各車輪の制動スリップ量SBi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、制動スリップ量SBiがアンチスキッド制御(ABS制御)開始の基準値よりも大きくなり、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、アンチスキッド制御の終了条件が成立するまで、当該車輪の制動スリップ量が所定の範囲内になるよう当該車輪の制動圧Piを制御することによってアンチスキッド制御を行う。
尚電子制御装置34は左右輪の一方についてのみアンチスキッド制御を行う場合に、当該車輪とは左右反対側の車輪の制動力をアンチスキッド制御を行う側の車輪の制動力に合せることにより左右輪の制動力差が過大になることを防止する所謂ローセレクト制御は行わない。
また電子制御装置34は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び各車輪の加速スリップ量SAi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、加速スリップ量SAiがトラクション制御(TRC制御)開始の基準値よりも大きくなり、トラクション制御の開始条件が成立すると、トラクション制御の終了条件が成立するまで、当該車輪の加速スリップ量が所定の範囲内になるよう当該車輪の制動圧Piを制御することによってトラクション制御を行う。
また電子制御装置34は車輌の走行に伴い変化する車輌の横加速度Gyの如き車輌状態量に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌の挙動を安定化させるための各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の制動圧Piが目標制動圧Ptiになるよう制御することによって車輌の挙動を安定化させる制動力の制御による挙動制御を行う。
尚、上述のアンチスキッド制御、トラクション制御、制動力の制御による挙動制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
更に電子制御装置34は車輌の旋回中であって制動力の制御による挙動制御が実行されておらず且つアンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されているときには、各車輪の前後力Fxiを推定により演算し、左右輪の前後力差により車輌に作用する前後力差起因ヨーモーメントMfを演算し、車輌の左右方向の荷重移動により車輌に作用する荷重移動起因ヨーモーメントMgを演算し、前後力差起因ヨーモーメントを相殺するためのカウンタヨーモーメントMc′に荷重移動起因ヨーモーメントMgを加算することにより補正後のカウンタヨーモーメントMcを演算し、補正後のカウンタヨーモーメントMcに基づき補正後のカウンタヨーモーメントMcを車輌に付与するための左右前輪の補正転舵角Δδtを演算し、暫定目標舵角δstを補正転舵角Δδtにて補正することにより左右前輪の目標舵角δtを演算し、該目標舵角δtに基づき転舵角可変装置24により左右前輪の舵角を制御する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於いて電子制御装置34により達成される左右前輪の舵角制御による車輌の挙動制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては車速Vに基づき図3に示されたグラフに対応するマップよりステアリングギヤ比Rgが演算されると共に、下記の式1に従って所定の操舵特性を達成するための左右前輪の暫定目標舵角δstが演算される。
δst=θ/Rg ……(1)
尚暫定目標舵角δstは運転者の操舵操作に対応する舵角δw(=θ/Rgo)と所定の操舵特性を達成するための制御転舵角δcとの和である。また操舵特性自体は本発明の要旨をなすものではなく、ステアリングギヤ比Rgは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよく、例えば操舵に対する車輌の過渡応答性を向上させるべく操舵速度によっても変化されてよい。
ステップ30に於いては制動力の制御による挙動制御、即ちスピン抑制制御又はドリフトアウト抑制制御が実行されているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進み、否定判別が行われたときにはステップ40へ進む。
ステップ40に於いては何れかの車輪についてアンチスキッド制御が実行されているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進み、否定判別が行われたときにはステップ50へ進む。
ステップ50に於いては駆動輪である左後輪若しくは右後輪についてトラクション制御が実行されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60に於いて左右前輪の目標舵角δtが暫定目標舵角δstに設定された後ステップ160へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進む。
ステップ70に於いてはJiを車輪の慣性モーメントとし、Vwdiを車輪の回転角速度とし、Rを車輪の有効半径とし、Txiを車輪の制動トルクTbi(負の値)と駆動トルクTdi(正の値)との和として、下記の式2に従って各車輪の前後力(制駆動力)Fxi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Ji・Vwdi=R・Fxi+Txi
Fxi=(Ji・Vwdi−Txi)/R ……(2)
尚車輪の回転角速度Vwiは車輪速度Vwiの微分値として演算される。また制動トルクTbiは図には示されていない圧力センサにより検出されるマスタシリンダ圧力Pm及び制動装置36の諸元により定まる圧力−制動トルク変換係数に基づいて演算される。更に駆動トルクTdiはエンジン制御装置62より入力されるスロットル開度φ及びエンジン回転数Neに基づきエンジンの駆動トルクTeが演算され、エンジントルクTe及び駆動系の諸元により決定される定数に基づいて演算される。また制動トルクTbi及び駆動トルクTdiは例えば力センサ等により直接検出されてもよい。
ステップ80に於いてはTを車輌のトレッドとして各車輪の前後力Fxiに基づき下記の式3に従って左右輪の前後力差に起因して車輌に作用する前後力差起因ヨーモーメントMfが演算される。
Mf={(Fxfr+Fxrr)−(Fxfl+Fxrl)}(T/2) ……(3)
ステップ90に於いては、Fzlo及びFzroをそれぞれ車輌の静止状態に於ける左前後輪の合計の接地荷重及び右前後輪の合計の接地荷重とし、Mを車重とし、Hを車輌の重心高さとして、下記の式4及び5に従って左前後輪の合計の接地荷重Fzl及び右前後輪の合計の接地荷重Fzrが演算される。尚接地荷重Fzl及びFzrは車輌の横加速度Gyに基づいて演算されるようになっているが、例えば荷重センサにより検出される各車輪の接地荷重に基づいて演算されてもよい。
Fzl=Fzlo−M・Gy・H/T ……(4)
Fzr=Fzro+M・Gy・H/T ……(5)
ステップ100に於いてはKgを重力加速度とし、Fxを各車輪の前後力Fxiの和として、下記の式6に従って車輌の左右方向の荷重移動により車輌に作用する荷重移動起因ヨーモーメントMgが演算される。
Mg=Fx{(Fzr−Fzl)/(Fzr+Fzl)}(T/2)
=Fx(Gy・H)/Kg ……(6)
ステップ110に於いては例えば車輌ヨーレートγの絶対値が基準値γo(正の定数)以上であるか否かの判別により、車輌が旋回状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進み、否定判別、即ち車輌が実質的に直進状態又は停止状態にある旨の判別が行われたときにはステップ130へ進む。
ステップ120に於いては前後力差起因ヨーモーメントを相殺するためのカウンタヨーモーメントをMc′(=−Mf)とすると、カウンタヨーモーメントをMc′に荷重移動起因ヨーモーメントが加算された補正後のカウンタヨーモーメントとしてのカウンタヨーモーメントMcが下記の式7に従って演算され、ステップ130に於いてはカウンタヨーモーメントMcが−Mfに設定される。
Mc=Mc′+Mg
=−Mf+Mg ……(7)
ステップ140に於いてはカウンタヨーモーメントMcに基づき左右前輪の転舵によりカウンタヨーモーメントMcを車輌に付与するために増減されるべき左右前輪の転舵角として補正転舵角Δδtが当技術分野に於いて公知の要領にて演算され、ステップ150に於いては暫定目標舵角δstと補正転舵角Δδtとの和として左右前輪の目標舵角δtが演算され、ステップ160に於いては左右前輪の舵角が目標舵角δtになるよう転舵角可変装置24が制御されることによって左右前輪の舵角が制御される。
かくして図示の実施例によれば、ステップ20に於いて車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するためのステアリングギヤ比Rgが演算されると共に、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及びステアリングギヤ比Rgに基づき暫定目標舵角δstが演算され、通常時にはステップ60及び160に於いて左右前輪の舵角が暫定目標舵角δstと同一の目標舵角δtになるよう転舵角可変装置24が制御され、これにより運転者の操舵操作に応じて所定の操舵特性にて左右の前輪10FL及び10FRが転舵される。
これに対し制動力の制御による挙動制御が実行されておらず且つアンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されており且つ車輌の旋回中であるときには、ステップ30に於いて否定判別が行われ、ステップ40又は50に於いて肯定判別が行われ、ステップ70に於いて各車輪の前後力Fxiが推定により演算され、ステップ80に於いて左右輪の前後力差により車輌に作用する前後力差起因ヨーモーメントMfが演算され、ステップ90及び100に於いて車輌の左右方向の荷重移動により車輌に作用する荷重移動起因ヨーモーメントMgが演算される。
そしてステップ110に於いて肯定判別が行われ、ステップ120に於いて前後力差起因ヨーモーメントを相殺するためのカウンタヨーモーメントMc′に荷重移動起因ヨーモーメントMgを加算することにより補正後のカウンタヨーモーメントMcが演算され、ステップ140に於いて補正後のカウンタヨーモーメントMcに基づき補正後のカウンタヨーモーメントMcを車輌に付与するための左右前輪の補正転舵角Δδtが演算され、ステップ150に於いて暫定目標舵角δstを補正転舵角Δδtにて補正することにより左右前輪の目標舵角δtが演算され、ステップ160に於いて目標舵角δtに基づき転舵角可変装置24により左右前輪の舵角が制御される。
従って図示の実施例によれば、車輌の旋回中であって制動力の制御による挙動制御が実行されておらず且つアンチスキッド制御が実行されているときには、左右輪の制動力差により車輌に旋回促進方向に作用する前後力差起因ヨーモーメントMf分の転舵角に起因して左右の前輪10FL及び10FRが不必要に旋回内側方向へ転舵されること、及びこれに起因して車輌の旋回半径が不必要に小さくなることを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、車輌の旋回中であって制動力の制御による挙動制御が実行されておらず且つトラクション制御が実行されているときには、左右後輪の駆動力差により車輌に旋回抑制方向に作用する前後力差起因ヨーモーメントMf分の転舵角に起因して左右の前輪10FL及び10FRが不必要に旋回外側方向へ転舵されること、及びこれに起因して運転者の意思に反して車輌の旋回半径が不必要に大きくなることを確実に防止することができる。
特に図示の実施例によれば、車輌の旋回中であり且つアンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されていても、制動力の制御による挙動制御が実行されているときには、ステップ30に於いて肯定判別が行われ、ステップ40〜150は実行されないので、車輌の挙動を安定化させるべく各車輪の制動力が積極的に制御されている状況に於いて、挙動制御による左右輪の前後力差に基づいて不必要な前後力差起因ヨーモーメントMfが演算され、左右の前輪10FL及び10FRが不必要に転舵されること、及びこれに起因して車輌挙動の安定化が阻害されることを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ40及び50に於いてそれぞれアンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されているか否かの判別が行われ、ステップ110に於いて車輌が旋回状態にあるか否かの判別が行われ、アンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されており且つ車輌が旋回状態にある場合にステップ120、140、150が実行されるので、ステップ40、50、110の判別が行われない場合に比して、カウンタヨーモーメントMc′が荷重移動起因ヨーモーメントMgにて不必要に加算補正される虞れを低減することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ20に於いて所定の操舵特性を達成するためのステアリングギヤ比Rgが演算されると共に、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及びステアリングギヤ比Rgに基づき暫定目標舵角δstが演算され、ステップ120、140、150に於いて補正後のカウンタヨーモーメントMcに基づき補正後のカウンタヨーモーメントMcを車輌に付与するための左右前輪の補正転舵角Δδtが演算され、暫定目標舵角δstが補正転舵角Δδtにて補正されることにより左右前輪の目標舵角δtが演算されるので、所定の操舵特性を確実に達成しつつ、旋回加減速時の車輌の走行安定性を向上させることができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、転舵手段としての転舵角可変装置24はアッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転させることにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪10FL及び10FRを自動的に転舵するようになっているが、転舵手段は運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を操舵し得る限り、例えばタイロッド20L及び20Rを伸縮させる型式の転舵角可変装置やステアバイワイヤ式の転舵装置の如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよく、転舵手段は補助操舵輪としての後輪を転舵するものであってもよい。
また上述の実施例に於いては、前後力差起因ヨーモーメントを相殺するためのカウンタヨーモーメントMc′は−Mf、即ち前後力差起因ヨーモーメントMfと大きさが同一であり且つ方向が逆のヨーモーメントであるが、カウンタヨーモーメントMc′の大きさは前後力差起因ヨーモーメントMfの大きさより小さくてもよい。
また上述の実施例に於いては、車輌が旋回状態にあり且つアンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されていても、制動力の制御による挙動制御が実行されているときには、ステップ40〜150が実行されないようになっているが、車輌の旋回加減速時に少なくとも左右輪間にて制駆動力の配分を制御する制駆動力配分制御が行われる車輌の場合には、制駆動力配分制御が実行されているときにもステップ40〜150が実行されないよう構成されることが好ましい。
また上述の実施例に於いては、制動力の制御による挙動制御が実行されているときには、ステップ40〜150が実行されないようになっているが、制動力の制御による挙動制御又は制駆動力配分制御が実行されているときには、それらの制御により発生されるヨーモーメントに基づいてカウンタヨーモーメントMc′が補正されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するためのステアリングギヤ比Rgが演算され、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及びステアリングギヤ比Rgに基づき暫定目標舵角δstが演算され、通常時には左右前輪の舵角が暫定目標舵角δstになるよう制御され、車輌が旋回状態にありアンチスキッド制御又はトラクション制御が実行されているときには、暫定目標舵角δstがカウンタヨーモーメントMcを車輌に付与するための補正転舵角Δδtにて補正された値を目標舵角δtとして左右前輪の舵角が制御されるようになっているが、ステップ20、60、150が省略され、カウンタヨーモーメントMcを車輌に付与する必要がないときには、即ちステップ30に於いて否定判別が行われ、又はステップ40及び50に於いて肯定判別が行われたときには、転舵角可変装置24による相対回転角度が0に制御されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、挙動制御は各車輪の制動力が制御され車輌に所要のヨーモーメントが付与されることにより車輌の挙動を制御するようになっているが、挙動制御は各車輪の制動力及び駆動力が制御されることにより行われるものであってもよい。
更に上述の実施例に於いては、車輌はエンジンにより後輪が駆動される後輪駆動車であるが、本発明は前輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよく、また例えばホイールインモータ式の車輌の如く、駆動輪がそれぞれ対応する駆動装置により駆動される車輌に適用されてもよい。
自動転舵装置として機能する転舵角可変装置を備えたセミステアバイワイヤ式の後輪駆動車に適用された本発明による車輌の挙動制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。 実施例に於ける左右前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。 車速Vとステアリングギヤ比Rgとの間の関係を示すグラフである。
符号の説明
16 パワーステアリング装置
14 ステアリングホイール
24 転舵角可変装置
34 電子制御装置
36 制動装置
44 マスタシリンダ
50 操舵角センサ
52 回転角センサ
54 横加速度センサ
56 ヨーレートセンサ
58FL〜58RR 車輪速度センサ
60FL〜60RR 圧力センサ
62 エンジン制御装置

Claims (3)

  1. 運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を転舵可能な転舵手段と、各車輪の前後力を推定する手段と、左右輪の前後力差に基づいて車輌に作用する前後力差起因ヨーモーメントを演算する手段と、車輌の左右方向の荷重移動に基づいて車輌に作用する荷重移動起因ヨーモーメントを演算する手段と、前記前後力差起因ヨーモーメントを少なくとも部分的に相殺するためのカウンタヨーモーメントを演算し、前記カウンタヨーモーメントから前記荷重移動起因ヨーモーメントを低減する補正を行った補正後のカウンタヨーモーメントが車輌に作用するよう前記転舵手段により操舵輪を転舵する転舵制御手段とを有することを特徴とする車輌の挙動制御装置。
  2. 前記荷重移動起因ヨーモーメントを演算する手段は車輌の横加速度の大きさが大きいほど荷重移動起因ヨーモーメントの大きさが大きくなるよう、車輌の横加速度に基づいて荷重移動起因ヨーモーメントを演算することを特徴とする請求項1に記載の車輌の挙動制御装置。
  3. 前記転舵制御手段は運転者の操舵操作量及び所定の操舵特性に基づき操舵輪の暫定目標舵角を演算し、前記補正後のカウンタヨーモーメントに基づき前記暫定目標舵角を補正することにより操舵輪の目標舵角を演算し、前記目標舵角に基づき前記転舵手段により前記操舵輪の舵角を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車輌の挙動制御装置。
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