JP2004255943A - 車輌の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御する。
【解決手段】車輌の横加速度Gyの変化量に対する前輪のセルフアライニングトルクSATの変化量の比として微分値dSAT/dGyが演算され(S20、30)、微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1未満であり且つ第二の基準値Kd2以上であるときには、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定され(S40、60、70)、前輪の切り増し方向への舵角の増大が抑制されるよう、ステアリングギヤ比が可変制御され(S80、90)、微分値dSAT/dGyが第二の基準値Kd1未満であるときには、車輌がドリフトアウト状態にあると判定され(S100)、前輪の切り増し方向への舵角の増大が阻止されるよう、自動操舵されると共に少なくとも旋回内側後輪に制動力が付与される(S110〜90)。
【選択図】 図2
【解決手段】車輌の横加速度Gyの変化量に対する前輪のセルフアライニングトルクSATの変化量の比として微分値dSAT/dGyが演算され(S20、30)、微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1未満であり且つ第二の基準値Kd2以上であるときには、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定され(S40、60、70)、前輪の切り増し方向への舵角の増大が抑制されるよう、ステアリングギヤ比が可変制御され(S80、90)、微分値dSAT/dGyが第二の基準値Kd1未満であるときには、車輌がドリフトアウト状態にあると判定され(S100)、前輪の切り増し方向への舵角の増大が阻止されるよう、自動操舵されると共に少なくとも旋回内側後輪に制動力が付与される(S110〜90)。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌の制御装置に係り、更に詳細には車輌の旋回挙動状態に基づき車輌を制御する制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌の制御装置の一つとして、例えば本願出願人の出願にかかる下記の特許文献1に記載されている如く、操舵輪のスリップ角とコーナリングフォースとの関係に基づき各車輪荷重毎にスリップ角‐コーナリングフォース曲線を設定してこれをタイヤモデルとし、該タイヤモデルに基づき車輪のグリップ状態を判定し、車輌を制御する制御装置が従来より知られている。また下記の特許文献1には、コーナリングフォースの代わりにセルフアライニングトルクが使用されてもよいことが記載されている。
【0003】
この先の提案にかかる制御装置によれば、車輪状態や路面の摩擦係数の変動が適宜に反映されたタイヤモデルを設定することができるので、車輪状態や路面の摩擦係数の変動に拘らず車輪のグリップ状態を適正に判定することができ、これにより車輌の走行中にもその走行状態を適正に判定し制御することができる。
【特許文献1】
特開平8−198131号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし上述の先の提案にかかる制御装置に於いては、操舵輪のスリップ角を推定しなければならず、そのため車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、操舵輪のスリップ角とコーナリングフォース又セルフアライニングトルクとの関係に基づき車輌の走行状態を判定し制御するよう構成された従来の車輌の制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、操舵輪のセルフアライニングトルクと車輌の横加速度との関係に着目することにより、操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車輌の旋回挙動状態に基づき車輌を制御する車輌の制御装置に於いて、操舵輪のセルフアライニングトルクに関連する値と車輌の横加速度に関連する値との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定し若しくは車輌を制御することを特徴とする車輌の制御装置によって達成される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、セルフアライニングトルクの変化量と車輌の横加速度の変化量との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(請求項2の構成)。
【0008】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、セルフアライニングトルクと車輌の横加速度との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(請求項3の構成)。
【0009】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、前記操舵輪は前輪であり、前記比が特定の範囲内にあるときに車輌の旋回挙動状態がドリフトアウト状態であると判定するよう構成される(請求項4の構成)。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至4の構成に於いて、前記操舵輪は前輪であり、前記比が所定の範囲内になるよう少なくとも操舵輪を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
【0011】
【発明の作用及び効果】
一般に、車輌の横加速度Gyと操舵輪のセルフアライニングトルクSATとの間には図11に示されている如き関係があり、車輌の横加速度Gyに対する操舵輪のセルフアライニングトルクSATの比SAT/Gyが小さくなるほど操舵輪の横力が飽和状態に近づき車輌がドリフトアウト状態になり易い。
【0012】
従って比SAT/Gyが例えば正の第一の基準値Kp1よりも小さく第二の基準値Kp2(Kp1よりも小さい)以上である(図15の左下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定することができ、比SAT/Gyが第二の基準値Kp2よりも小さい(図16の右下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定することができる。
【0013】
また車輌の横加速度Gyと操舵輪のセルフアライニングトルクSATとの間には図15に示されている如き関係があるので、車輌の横加速度Gyの変化量に対する操舵輪のセルフアライニングトルクSATの変化量の比dSAT/dGyが負の値になりその大きさが大きくなるほど操舵輪の横力が飽和状態に近づき車輌がドリフトアウト状態になり易い。
【0014】
従って比dSAT/dGyが例えば負の第一の基準値Kd1よりも小さく第二の基準値Kd2(Kd1よりも小さい)以上である(図15の右下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定することができ、比dSAT/dGyが第二の基準値Kd2よりも小さい(図16の右下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定することができる。
【0015】
上記請求項1の構成によれば、操舵輪のセルフアライニングトルクに関連する値と車輌の横加速度に関連する値との比に基づき車輌の旋回挙動状態が判定され若しくは車輌が制御されるので、操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御することができる。
【0016】
また上記請求項2の構成によれば、セルフアライニングトルクの変化量と車輌の横加速度の変化量との比に基づき車輌の旋回挙動状態が判定され、上記請求項3の構成によれば、セルフアライニングトルクと車輌の横加速度との比に基づき車輌の旋回挙動状態が判定されるので、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否か及び車輌がドリフトアウト状態にあるとか否かを簡易に且つ精度よく判定するができる。
【0017】
また上記請求項4の構成によれば、操舵輪は前輪であり、前記比が特定の範囲内にあるときに車輌の旋回挙動状態がドリフトアウト状態であると判定されるので、操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌のドリフトアウト状態を簡易に且つ精度よく判定することができる。
【0018】
また上記請求項5の構成によれば、操舵輪は前輪であり、前記比が所定の範囲内になるよう少なくとも操舵輪が制御されるので、車輌がドリフトアウト状態になる虞れを確実に低減したり車輌のドリフトアウト状態を確実に低減したりすることができる。
【0019】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(好ましい態様1)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比がその負の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様2)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が負の第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様3)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(好ましい態様4)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4の構成に於いて、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比がその正の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様5)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比が第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様6)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、前記比が第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、前記比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様7)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5の構成に於いて、所定の範囲は車輌がドリフトアウト状態になく正常な状態にある範囲であるよう構成される(好ましい態様8)。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5の構成に於いて、前記比が第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、前記比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定し、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定したときには、操舵輪の切り増し方向への舵角変化を抑制するよう構成される(好ましい態様9)。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、車輌はステアリングギヤ比可変装置を有し、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定したときには、ステアリングギヤ比可変装置によりステアリングギヤ比を低下させることにより操舵輪の切り増し方向への舵角変化を抑制するよう構成される(好ましい態様10)。
【0029】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、車輌はパワーステアリング装置を有し、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定したときには、パワーステアリング装置により操舵輪の切り増し時に操舵輪の切り戻し方向への操舵トルクを付与することにより操舵輪の切り増し方向への舵角変化を抑制するよう構成される(好ましい態様11)。
【0030】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5の構成に於いて、車輌は自動操舵装置を有し、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、自動操舵装置により操舵輪の切り増し方向への転舵を阻止することにより操舵輪を制御するよう構成される(好ましい態様12)。
【0031】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様12の構成に於いて、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、自動操舵装置により操舵輪を切り戻し方向へ転舵するよう構成される(好ましい態様13)。
【0032】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、車輌は各車輪の制動力を制御する制動装置を有し、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、制動装置により少なくとも旋回内側後輪に制動力を付与することにより車輌を減速し若しくは車輌に旋回補助方向のヨーモーメントを付与するよう構成される(好ましい態様14)。
【0033】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5の構成に於いて、車輌の横加速度は車輌全体の横加速度であるよう構成される(好ましい態様15)。
【0034】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5の構成に於いて、車輌の横加速度は操舵輪の車輌前後方向位置に於ける車輌の横加速度であるよう構成される(好ましい態様16)。
【0035】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、車輌は前後輪のロール剛性を制御するロール剛性制御装置を有し、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、ロール剛性制御装置によりロール剛性を後輪寄りに制御するよう構成される(好ましい態様17)。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施の形態(以下単に実施形態という)について詳細に説明する。
【0037】
第一の実施形態
図1は転舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置を備えたセミステアバイワイヤ式の車輌に適用された本発明による車輌の制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【0038】
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
【0039】
図示の実施形態に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機22と、電動機22の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構24とを有し、ハウジング26に対し相対的にラックバー18を駆動する補助転舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助転舵力発生手段として機能する。尚補助転舵力発生手段は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0040】
ステアリングホイール14はアッパステアリングシャフト28A、転舵角可変装置30、ロアステアリングシャフト28B、ユニバーサルジョイント32を介して電動式パワーステアリング装置16のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施形態に於いては、転舵角可変装置30はハウジング36Aの側にてアッパステアリングシャフト28Aの下端に連結され、回転子36Bの側にてロアステアリングシャフト28Bの上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
【0041】
かくして転舵角可変装置30はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを回転駆動することにより、操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する補助転舵手段として機能する。
【0042】
特に転舵角可変装置30は、通常時にはハウジング36A及び回転子36Bの相対回転を阻止する保持電流が電動機36に通電されることにより、アッパステアリングシャフト22Aに対するロアステアリングシャフト22Bの相対回転角度(単に相対回転角度という)を0に維持する。
【0043】
また転舵角可変装置30は、ステアリングギヤ比制御時にはアッパステアリングシャフト22Aに対しロアステアリングシャフト22Bを相対的に回転させることにより、ステアリングホイール14の回転角度に対する左右の前輪10FL及び10FRの転舵角の比を可変制御し、自動操舵時には電動機36によりアッパステアリングシャフト22Aに対し相対的にロアステアリングシャフト22Bを積極的に回転させ、これにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪10FL及び10FRを自動操舵する。
【0044】
各車輪の制動力は制動装置38の油圧回路40によりホイールシリンダ42FR、42FL、42RR、42RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路40はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は後に詳細に説明する如く制動制御装置48により制御される。
【0045】
図示の実施形態に於いては、アッパステアリングシャフト22Aには該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θsとして検出する操舵角センサ50及び操舵トルクTsを検出するトルクセンサ52が設けられており、ロアステアリングシャフト22Bには該ロアステアリングシャフトの回転角度を左右前輪の実操舵角θaとして検出する操舵角センサ54が設けられており、これらのセンサの出力は運動制御装置56へ供給される。運動制御装置56には車速センサ58により検出された車速Vを示す信号及び横加速度センサ60により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号も入力される。
【0046】
操舵角θaを示す信号及び車速Vを示す信号は運動制御装置56より転舵角可変装置30を制御する転舵角可変制御装置62にも入力され、操舵トルクTsを示す信号及び車速Vを示す信号は運動制御装置56より電動式パワーステアリング装置16を制御する電動パワーステアリング(電動PS)制御装置64にも入力される。運動制御装置56には電動式パワーステアリング装置16に対するトルクアシスト指令電流Itaを示す信号が入力される。尚操舵角センサ54により検出される操舵角θaを示す信号は自動操舵完了後に左右の前輪10FL及び10FRの直進位置をステアリングホイール14の中立位置に合せるために使用される。
【0047】
後述の如く、運動制御装置56は電動式パワーステアリング装置16に対するトルクアシスト指令電流Itaに基づき電動式パワーステアリング装置16によるアシストトルクTasを演算し、アシストトルクTas及びトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsに基づき前輪のセルフアライニングトルクSATを演算し、車輌の横加速度Gyの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比dSAT/dGyを演算する。
【0048】
また運動制御装置56は、比dSAT/dGyが第一の基準値Kd1(負の定数)よりも小さく第二の基準値Kd2(Kd1よりも小さい負の定数)以上であるときには、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時のステアリングギヤ比を低減するステアリングギヤ比可変制御の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力する。
【0049】
更に運動制御装置56は、比dSAT/dGyが第二の基準値Kd2よりも小さいときには、車輌がドリフトアウト状態にあると判定し、比dSAT/dGyが第二の基準値Kd2又はそれよりも大きい値以上になるよう、左右前輪の実転舵角を低減する自動操舵の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標相対回転角度θrを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力すると共に、旋回外側後輪の制動力よりも旋回内側後輪の制動力が高くなるよう少なくとも旋回内側後輪に制動力を付与する指令信号を制動制御装置48へ出力する。
【0050】
転舵角可変装置30による目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号は電動パワーステアリング制御装置64にも入力され、電動パワーステアリング制御装置64は運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵を抑制する抑制転舵トルクTreを演算する。
【0051】
また転舵角可変装置30による目標相対回転角度θrを示す信号も電動パワーステアリング制御装置64に入力され、電動パワーステアリング制御装置64は転舵角可変装置30の自動操舵によりステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamを演算する。
【0052】
更に電動パワーステアリング制御装置64は、操舵トルクTs及び車速Vに応じて運転者の操舵負荷を軽減するための補助転舵トルクTabを演算し、補助転舵トルクTabと抑制転舵トルクTreと補正転舵トルクTamとの和を目標補助転舵トルクTaとして演算し、目標補助転舵トルクTaに基づき電動式パワーステアリング装置16の電動機22を制御することにより、操舵アシストを行うと共に、ステアリングギヤ比可変制御時には運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵を抑制し、自動操舵時には転舵角可変装置30の作動により発生する反力トルクを相殺する。
【0053】
車輪10FL〜10RRのホイールシリンダ42FL〜42RRにはそれぞれ対応するホイールシリンダ内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する圧力センサ66FL〜66RRが設けられ、マスタシリンダ46にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ68が設けられている。圧力センサ66FL〜66RRにより検出されたホイールシリンダ42FL〜42RR内の圧力Piを示す信号及び圧力センサ68により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号は制動制御装置48に入力される。
【0054】
制動制御装置48は、通常時にはマスタシリンダ圧力Pmに基づき油圧回路40を制御することにより、運転者の制動操作量に応じてホイールシリンダ42FL〜42RR内の圧力Piを制御し、これにより運転者によるブレーキペダル44の踏み込み操作に応じて車輌の減速度を制御する。
【0055】
これに対し運動制御装置56により運動制御装置56により車輌がドリフトアウト状態にあると判定され、運動制御装置56より左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrを示す信号が入力されると、制動制御装置48は、目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrに対応する左右後輪の目標制動圧増大量ΔPtrl及びΔPtrrを演算し、左右後輪のホイールシリンダ42RL、42RR内の圧力がそれぞれ目標制動圧増大量ΔPtrl及びΔPtrr増大するよう制御し、これにより車輌を減速させると共に車輌に旋回補助方向のヨーモーメントを付与する。
【0056】
尚図1には詳細に示されていないが、制動制御装置48、運動制御装置56、転舵角可変制御装置62、電動パワーステアリング制御装置64はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。また操舵角センサ50及び54、トルクセンサ52、横加速度センサ60はそれぞれ車輌の右旋回方向への操舵の場合を正として操舵角θs及びθa、操舵トルクTs、横加速度Gyを検出する。
【0057】
次に図2を参照して、第一の実施形態に於いて運動制御装置56により達成される車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0058】
まずステップ10に於いてはトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはトルクアシスト指令電流Itaとトルク定数(正の定数)との積として電動式パワーステアリング装置16によるアシストトルクTasが演算され、トルクセンサ52により検出された操舵トルクTsとアシストトルクTasとの和より操舵系の摩擦力に対応する値を減算することにより、前輪のセルフアライニングトルクSATが演算される。
【0059】
尚前輪のセルフアライニングトルクSATは当技術分野に於いて公知の他の要領にて演算されてもよく、またタイロッド18L及び18Rの軸力が検出され、タイロッド軸力より演算されてもよく、更にはタイヤに内蔵されたセンサにより検出されてもよい。
【0060】
ステップ30に於いては車輌の横加速度Gyの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比として、車輌の横加速度GyについてのセルフアライニングトルクSATの微分値dSAT/dGyが例えばオンライン最小二乗法により演算される。
【0061】
ステップ40に於いては微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1(負の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が限界に近づき車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50に於いて車輌の走行状態が安定であると判定されると共にフラグFdが0にリセットされ、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進む。
【0062】
ステップ60に於いては微分値dSAT/dGyが第二の基準値(第一の基準値Kd1よりも小さい負の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が実質的に飽和し車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると共にフラグFdが1にセットされる。
【0063】
ステップ80に於いては微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほどステアリングギヤ比が小さくなり左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時の目標ステアリングギヤ比Rreが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づき図6に示されたグラフに対応するマップより演算され、ステップ90に於いては目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号が転舵角可変制御装置62へ出力されることにより、ステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Rreになるよう転舵角可変装置30によるステアリングギヤ比可変制御が実行される。
【0064】
ステップ100に於いては車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると共にフラグFdが1にセットされ、ステップ110に於いては運転者の操舵操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなり、微分値dSAT/dGyの絶対値が第二の基準値Kd2の絶対値又はそれよりも小さい値以下になるよう、転舵角可変装置30によるアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの目標相対回転角度θrが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づき図7に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0065】
ステップ120に於いては目標相対回転角度θrを示す指令信号が転舵角可変制御装置62へ出力されることにより、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度が目標相対回転角度θrになるよう、転舵角可変装置30による自動操舵により左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御される。
【0066】
ステップ130に於いては運転者の制動操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右後輪の制動力が高くなると共に旋回外側後輪の制動力に比して旋回内側後輪の制動力が高くなるよう、左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づいて図8に示されたグラフに対応するマップより演算され、目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrを示す信号が制動制御装置48へ出力される。
【0067】
次に図3を参照して第一の実施形態に於ける転舵トルク制御ルーチンについて説明する。尚図3に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0068】
まずステップ210に於いてはトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ210に於いては操舵トルクTs及び車速Vに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより運転者の操舵負荷を軽減するための補助転舵トルクTabが演算される。
【0069】
ステップ230に於いてはフラグFdが0であるか否かの判別が行われ、肯定判別、即ち車輌の走行状態が正常であると判定されているときには、ステップ240に於いて運転者によるステアリングホイール14の切り増しを抑制するための抑制転舵トルクTre及び転舵角可変装置30の自動操舵時により発生する反力を相殺するための補正転舵トルクTamがそれぞれ0に設定され、否定判別が行われたときにはステップ250へ進む。
【0070】
ステップ250に於いてはフラグFdが1であるか否かの判別が行われ、肯定判別、即ち車輌がドリフトアウト状態になる虞れあると判定されているときには、ステップ260に於いて微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど抑制転舵トルクTreが大きくなるよう、微分値dSAT/dGyの絶対値に基づき図9に示されたグラフに対応するマップより抑制転舵トルクTreが演算されると共に、補正転舵トルクTamが0に設定され、否定判別が行われたときにはステップ270へ進む。
【0071】
ステップ270に於いてはステップ260の場合と同様の要領にて抑制転舵トルクTreが演算されると共に、転舵角可変装置30による自動操舵の目標相対回転角度θrの大きさが大きいほどステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamが大きくなるよう、目標相対回転角度θrに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより補正転舵トルクTamが演算される。
【0072】
ステップ280に於いては補助転舵トルクTabと抑制転舵トルクTreと補正転舵トルクTamとの和が目標補助転舵トルクTaとして演算され、ステップ290に於いては目標補助転舵トルクTaに基づき電動式パワーステアリング装置16の電動機22が制御されることにより、車輌の走行状態に拘らず操舵アシストが行われ運転者の操舵負担が軽減されると共に、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるときのステアリングギヤ比可変制御時には運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵が抑制され、車輌がドリフトアウト状態にあるときの自動操舵時には転舵角可変装置30の作動により発生する反力トルクが相殺され、良好な操舵フィーリングが確保される。
【0073】
かくして図示の第一の実施形態によれば、ステップ20に於いて前輪のセルフアライニングトルクSATが演算され、ステップ30に於いて車輌の横加速度Gyの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比として、車輌の横加速度GyについてのセルフアライニングトルクSATの微分値dSAT/dGyが演算され、ステップ40に於いて微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1以上であると判別されると、ステップ50に於いて車輌の走行状態が安定であると判定される
またステップ40及び60に於いて微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1未満であり且つ第二の基準値上であると判別されると、ステップ70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定され、微分値dSAT/dGyが第二の基準値Kd1未満であると判別されると、ステップ100に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定される。
【0074】
従って前輪のスリップ角を推定することなく前輪のセルフアライニングトルクSAT及び車輌の横加速度Gyに基づいて、車輌の走行状態が安定であるか、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか、車輌がドリフトアウト状態にあるかを判定することができる。
【0075】
また図示の第一の実施形態によれば、ステップ60及び70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると、ステップ80に於いて微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほどステアリングギヤ比が小さくなり左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時の目標ステアリングギヤ比Rreが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づいて演算され、ステップ90に於いてステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Rreになるよう転舵角可変装置30によるステアリングギヤ比可変制御が実行される。
【0076】
従って車輌がドリフトアウト状態になる虞れがある状況に於いて運転者によりステアリングホイール14の切り増し操舵が行われても、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるので、前輪のスリップ角が増大し微分値dSAT/dGyの絶対値が増大して車輌がドリフトアウト状態になることを効果的に抑制することができる。
【0077】
更に図示の第一の実施形態によれば、ステップ60及び100に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると、ステップ110に於いて運転者の操舵操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなり、微分値dSAT/dGyの絶対値が第二の基準値Kd2の絶対値又はそれよりも小さい値以下になるよう、転舵角可変装置30によるアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの目標相対回転角度θrが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づいて演算され、ステップ120に於いてアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度が目標相対回転角度θrになるよう、転舵角可変装置30による自動操舵により左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御される。
【0078】
従って車輌がドリフトアウト状態にあるときには運転者の操舵操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなるよう自動操舵により左右前輪の舵角を切り戻し方向へ制御し、これにより前輪のスリップ角を低減して微分値dSAT/dGyの絶対値を低減し、左右前輪の横力をできるだけ高い値に維持しつつ車輌のドリフトアウト状態を低減して車輌を安定的に旋回走行させることができる。
【0079】
第二の実施形態
この第二の実施形態に於いては、運動制御装置56は、アシストトルクTas及びトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsに基づき前輪のセルフアライニングトルクSATを演算し、車輌の横加速度Gyに対するセルフアライニングトルクSATの比SAT/Gyを演算する。
【0080】
また運動制御装置56は、比SAT/Gyが第一の基準値Kp1(正の定数)よりも小さく第二の基準値Kp2(Kp1よりも小さい正の定数)以上であるときには、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時のステアリングギヤ比を低減するステアリングギヤ比可変制御の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力する。
【0081】
更に運動制御装置56は、比SAT/Gyが第二の基準値Kp2よりも小さいときには、車輌がドリフトアウト状態にあると判定し、比SAT/Gyが第二の基準値Kp2又はそれよりも大きい値以上になるよう、左右前輪の実転舵角を低減する自動操舵の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標相対回転角度θrを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力すると共に、旋回外側後輪の制動力よりも旋回内側後輪の制動力が高くなるよう少なくとも旋回内側後輪に制動力を付与する指令信号を制動制御装置48へ出力する。
【0082】
次に図5を参照して、第二の実施形態に於いて運動制御装置56により達成される車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンについて説明する。尚図5に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図5に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0083】
この第二の実施形態に於いては、ステップ30に於いて車輌の横加速度Gyに対するセルフアライニングトルクSATの比SAT/Gyが演算され、ステップ40に於いては比SAT/Gyが第一の基準値Kp1(正の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が限界に近づき車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50に於いて車輌の走行状態が安定であると判定されると共にフラグFdが0にリセットされ、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進む。
【0084】
ステップ60に於いては比SAT/Gyが第二の基準値Kp2(第一の基準値Kd1よりも小さい正の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が実質的に飽和し車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると共にフラグFdが1にセットされ、しかる後ステップ130及び140が実行され、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると共にフラグFdが1にセットされ、しかる後ステップ110〜130が実行される。
【0085】
この場合ステップ80に於いては比SAT/Gyが小さいほどステアリングギヤ比が小さくなり左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時の目標ステアリングギヤ比Rreが比SAT/Gyに基づき図11に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0086】
またステップ110に於いては運転者の操舵操作に関係なく比SAT/Gyが小さいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなり、比SAT/Gyが第二の基準値Kd2又はそれよりも大きい値以上になるよう、転舵角可変装置30によるアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの目標相対回転角度θrが比SAT/Gyに基づき図12に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0087】
更にステップ130に於いては運転者の制動操作に関係なく比SAT/Gが小さいほど左右後輪の制動力が高くなると共に旋回外側後輪の制動力に比して旋回内側後輪の制動力が高くなるよう、左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが比SAT/Gyに基づいて図13に示されたグラフに対応するマップより演算され、目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrを示す信号が制動制御装置48へ出力される。
【0088】
尚図には示されていないが、第一の実施形態に於ける図3に示されたフローチャートによる補助転舵トルクの制御と同様の制御が、微分値dSAT/dGyに代えて比SAT/Gyが使用される点を除き、上述の第一の実施形態の場合と同様に実行される。
【0089】
また抑制転舵トルクTreは比SAT/Gyが小さいほど大きくなるよう、比SAT/Gyに基づき図14に示されたグラフに対応するマップより演算され、転舵角可変装置30による自動操舵によってステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamは、目標相対回転角度θrの大きさが大きいほど大きくなるよう、目標相対回転角度θrに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0090】
従って図示の第二の実施形態によれば、上述の第一の実施形態の場合と同様、前輪のスリップ角を推定することなく前輪のセルフアライニングトルクSAT及び車輌の横加速度Gyに基づいて、車輌の走行状態が安定であるか、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか、車輌がドリフトアウト状態にあるかを判定することができる。
【0091】
また図示の第二の実施形態によれば、上述の第一の実施形態の場合と同様、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがある状況に於いて運転者によりステアリングホイール14の切り増し操舵が行われても、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるので、前輪のスリップ角が増大し比SAT/Gyが増大して車輌がドリフトアウト状態になることを効果的に抑制することができる。
【0092】
また図示の第二の実施形態によれば、上述の第一の実施形態の場合と同様、車輌がドリフトアウト状態にあるときには運転者の操舵操作に関係なく比SAT/Gyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなるよう自動操舵により左右前輪の舵角を切り戻し方向へ制御し、これにより前輪のスリップ角を低減して比SAT/Gyを増大し、左右前輪の横力をできるだけ高い値に維持しつつ車輌のドリフトアウト状態を低減して車輌を安定的に旋回走行させることができる。
【0093】
尚図示の第一及び第二の実施形態によれば、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると、ステアリングギヤ比の制御及び抑制転舵トルクTreの制御により、運転者の切り増し操舵及びそれに伴う左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制され、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると、前輪の自動操舵による左右前輪の実転舵角の低減及び左右後輪の制動力の制御によりドリフトアウト状態が積極的に低減されるので、車輌がドリフトアウト状態になることを効果的に抑制すると共に、車輌がドリフトアウト状態になった場合にドリフトアウト状態を効果的に低減することができる。
【0094】
また一般に、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるとき及び車輌がドリフトアウト状態にあるときに線形領域からの変化は、車輌のヨーレートよりもセルフアライニングトルクSATの方が大きいので、図示の第一及び第二の実施形態によれば、例えば車輌の目標ヨーレートと車輌の実際のヨーレートとの偏差に基づき車輌の走行状態が判定される従来の一般的な判定の場合に比して、タイヤ交換等に伴うタイヤ特性の変化の影響を低減して車輌の走行状態を高い信頼性にて判定することができる。
【0095】
また図示の第一及び第二の実施形態によれば、ステップ60に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、ステップ110及び120に於いて自動操舵により左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御されると共に、ステップ130に於いて運転者の制動操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど又は比SAT/Gyが小さいほど左右後輪の制動力が高くなると共に旋回外側後輪の制動力に比して旋回内側後輪の制動力が高くなるよう、左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが微分値dSAT/dGyの絶対値又比SAT/Gyに基づいて演算される。
【0096】
従って車輌の減速及び車輌に対する旋回補助方向のヨーモーメントの付与により、自動操舵によって左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御されることによる車輌のヨーレートの低下を補填することができるので、車輌のドリフトアウト状態を確実に且つ効果的に低減して車輌のコーストレース性を効果的に向上させることができる。
【0097】
尚図8及び図13に於いて細い実線及び細い破線にて示されている如く、微分値dSAT/dGyの絶対値が第二の基準値Kd2よりも大きい値になり、或いは比SAT/Gyが第二の基準値Kp2よりも小さい値になった段階に於いて目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが正の値になるよう修正されてもよく、その場合には車輌がドリフトアウト状態になってもその初期には前輪の自動操舵によりドリフトアウト状態を低減し、自動操舵によりドリフトアウト状態を低減できない場合に前輪の自動操舵及び後輪の制動力の制御によりドリフトアウト状態を低減し、従って前輪の自動操舵及び後輪の制動力の制御が同時に開始される場合に比して、車輌の走行状態をその段階に応じて好ましく制御することができる。
【0098】
また図示の第一及び第二の実施形態によれば、ステップ60及び70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定された場合及び車輌がドリフトアウト状態にあると判定された場合には、図3に示されたフローチャートのステップ230に於いて否定判別が行われ、ステップ260又は270に於いて微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど又は比SAT/Gyが小さいほど抑制転舵トルクTreが大きくなるよう、微分値dSAT/dGyの絶対値又は比SAT/Gyに基づいて抑制転舵トルクTreが演算され、運転者の切り増しに抗するトルクがステアリングホイール14に付与されるので、運転者の切り増し操舵を効果的に抑制することができる。
【0099】
また第一及び第二の実施形態によれば、ステップ60及び70に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると、図3に示されたフローチャートのステップ250に於いて否定判別が行われ、ステップ270に於いて転舵角可変装置30による自動操舵の目標相対回転角度θrの大きさが大きいほどステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamが大きくなるよう、目標相対回転角度θrに基いて補正転舵トルクTamが演算されるので、転舵角可変装置30による自動操舵によりステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを効果的に相殺し、操舵フィーリングの悪化を確実に防止することができる。
【0100】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0101】
例えば上述の各実施形態に於いては、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判別が行われ、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されたときには、その虞れを低減する制御が行われ、また車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別が行われ、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、ドリフトアウト状態を低減する制御が行われるようになっているが、微分値dSAT/dGy又は比SAT/Gyに基づき車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否か若しくは車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別のみが行われるよう修正されてもよく、また判別結果に基づく車輌がドリフトアウト状態になる虞れを低減する制御やドリフトアウト状態を低減する制御は他の任意の態様にて行われてもよい。
【0102】
また上述の各実施形態に於いては、車輌の横加速度に関連する値は車輌全体の横加速度Gyであるが、車輌の横加速度に関連する値は前輪位置に於ける車輌の横加速度Gyf、車輌全体の横力、前輪位置に於ける車輌の横力であってもよく、例えば車輌の横加速度に関連する値が前輪位置に於ける車輌の横加速度Gyf又は前輪位置に於ける車輌の横力である場合には、図16に示されている如く、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判定及び車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判定を上述の各実施形態の場合よりも厳密に判定することができる。
【0103】
また上述の各実施形態に於いては、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されたときには、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時にステアリングギヤ比が可変制御されると共に、運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵が抑制転舵トルクTreにより抑制されるよう補助転舵トルクが制御されるようになっているが、これらの制御の一方が省略されてもよい。
【0104】
同様に上述の各実施形態に於いては、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、自動操舵により前輪の切り増し方向への転舵が阻止され、後輪に制動力が付与され、自動操舵による余分なトルクが補正トルクTamにより相殺されるようになっているが、これらの何れかの制御が省略されてもよい。
【0105】
また前後輪のロール剛性を制御する装置が設けられ、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、上述の各実施形態に於ける各制御と共に、又はそれらの少なくとも何れかの制御が行われることなく、前後輪のロール剛性が後輪寄りに制御され、これにより車輌のコーストレース性が向上されるよう修正されてよい。
【0106】
また上述の実施形態に於いては、転舵角可変装置30は転舵角可変制御装置62により制御され、電動式パワーステアリング装置16は電動パワーステアリング制御装置64により制御され、転舵角可変制御装置62及び電動パワーステアリング制御装置64は運動制御装置56により制御されるようになっているが、これらの少なくとも二つの制御装置が一つの制御装置に統合されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】転舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置を備えたセミステアバイワイヤ式の車輌に適用された本発明による車輌の制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態に於ける車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第一の実施形態に於ける補助転舵トルク制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】車速V及び操舵トルクTsと目標転舵トルクTabとの間の関係を示すグラフである。
【図5】転舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置を備えたセミステアバイワイヤ式の車輌に適用された本発明による車輌の制御装置の第二の実施形態に於ける車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】微分値dSAT/dGyの絶対値と転舵角可変装置の目標ステアリングギヤ比Rreとの間の関係を示すグラフである。
【図7】微分値dSAT/dGyの絶対値と転舵角可変装置の目標相対回転角度θrとの間の関係を示すグラフである。
【図8】微分値dSAT/dGyの絶対値と左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl、ΔFtrrとの間の関係を示すグラフである。
【図9】微分値dSAT/dGyの絶対値と電動式パワーステアリング装置の抑制転舵トルクTreとの間の関係を示すグラフである。
【図10】転舵角可変装置の目標相対回転角度θrと電動式パワーステアリング装置の補正転舵トルクTamとの間の関係を示すグラフである。
【図11】比SAT/Gyと転舵角可変装置の目標ステアリングギヤ比Rreとの間の関係を示すグラフである。
【図12】比SAT/Gyと転舵角可変装置の目標相対回転角度θrとの間の関係を示すグラフである。
【図13】比SAT/Gyと左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl、ΔFtrrとの間の関係を示すグラフである。
【図14】比SAT/Gyと電動式パワーステアリング装置の抑制転舵トルクTreとの間の関係を示すグラフである。
【図15】車輌の横加速度Gyと前輪のセルフアライニングトルクSATとの間の関係を示すグラフである。
【図16】車輌の右旋回時について前輪位置に於ける車輌の横加速度Gyfと前輪のセルフアライニングトルクSATとの間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10FR〜10RL…車輪
16…電動式パワーステアリング装置
30…転舵角可変装置
38…制動装置
48…制動制御装置
50、54…操舵角センサ
52…トルクセンサ
56…運動制御装置
58…車速センサ
60…横加速度センサ
62…転舵角可変制御装置
64…電動パワーステアリング(電動PS)制御装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌の制御装置に係り、更に詳細には車輌の旋回挙動状態に基づき車輌を制御する制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌の制御装置の一つとして、例えば本願出願人の出願にかかる下記の特許文献1に記載されている如く、操舵輪のスリップ角とコーナリングフォースとの関係に基づき各車輪荷重毎にスリップ角‐コーナリングフォース曲線を設定してこれをタイヤモデルとし、該タイヤモデルに基づき車輪のグリップ状態を判定し、車輌を制御する制御装置が従来より知られている。また下記の特許文献1には、コーナリングフォースの代わりにセルフアライニングトルクが使用されてもよいことが記載されている。
【0003】
この先の提案にかかる制御装置によれば、車輪状態や路面の摩擦係数の変動が適宜に反映されたタイヤモデルを設定することができるので、車輪状態や路面の摩擦係数の変動に拘らず車輪のグリップ状態を適正に判定することができ、これにより車輌の走行中にもその走行状態を適正に判定し制御することができる。
【特許文献1】
特開平8−198131号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし上述の先の提案にかかる制御装置に於いては、操舵輪のスリップ角を推定しなければならず、そのため車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、操舵輪のスリップ角とコーナリングフォース又セルフアライニングトルクとの関係に基づき車輌の走行状態を判定し制御するよう構成された従来の車輌の制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、操舵輪のセルフアライニングトルクと車輌の横加速度との関係に着目することにより、操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車輌の旋回挙動状態に基づき車輌を制御する車輌の制御装置に於いて、操舵輪のセルフアライニングトルクに関連する値と車輌の横加速度に関連する値との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定し若しくは車輌を制御することを特徴とする車輌の制御装置によって達成される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、セルフアライニングトルクの変化量と車輌の横加速度の変化量との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(請求項2の構成)。
【0008】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、セルフアライニングトルクと車輌の横加速度との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(請求項3の構成)。
【0009】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、前記操舵輪は前輪であり、前記比が特定の範囲内にあるときに車輌の旋回挙動状態がドリフトアウト状態であると判定するよう構成される(請求項4の構成)。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至4の構成に於いて、前記操舵輪は前輪であり、前記比が所定の範囲内になるよう少なくとも操舵輪を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
【0011】
【発明の作用及び効果】
一般に、車輌の横加速度Gyと操舵輪のセルフアライニングトルクSATとの間には図11に示されている如き関係があり、車輌の横加速度Gyに対する操舵輪のセルフアライニングトルクSATの比SAT/Gyが小さくなるほど操舵輪の横力が飽和状態に近づき車輌がドリフトアウト状態になり易い。
【0012】
従って比SAT/Gyが例えば正の第一の基準値Kp1よりも小さく第二の基準値Kp2(Kp1よりも小さい)以上である(図15の左下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定することができ、比SAT/Gyが第二の基準値Kp2よりも小さい(図16の右下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定することができる。
【0013】
また車輌の横加速度Gyと操舵輪のセルフアライニングトルクSATとの間には図15に示されている如き関係があるので、車輌の横加速度Gyの変化量に対する操舵輪のセルフアライニングトルクSATの変化量の比dSAT/dGyが負の値になりその大きさが大きくなるほど操舵輪の横力が飽和状態に近づき車輌がドリフトアウト状態になり易い。
【0014】
従って比dSAT/dGyが例えば負の第一の基準値Kd1よりも小さく第二の基準値Kd2(Kd1よりも小さい)以上である(図15の右下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定することができ、比dSAT/dGyが第二の基準値Kd2よりも小さい(図16の右下がりハッチングの領域)ときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定することができる。
【0015】
上記請求項1の構成によれば、操舵輪のセルフアライニングトルクに関連する値と車輌の横加速度に関連する値との比に基づき車輌の旋回挙動状態が判定され若しくは車輌が制御されるので、操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌の走行状態を簡易に且つ精度よく判定し制御することができる。
【0016】
また上記請求項2の構成によれば、セルフアライニングトルクの変化量と車輌の横加速度の変化量との比に基づき車輌の旋回挙動状態が判定され、上記請求項3の構成によれば、セルフアライニングトルクと車輌の横加速度との比に基づき車輌の旋回挙動状態が判定されるので、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否か及び車輌がドリフトアウト状態にあるとか否かを簡易に且つ精度よく判定するができる。
【0017】
また上記請求項4の構成によれば、操舵輪は前輪であり、前記比が特定の範囲内にあるときに車輌の旋回挙動状態がドリフトアウト状態であると判定されるので、操舵輪のスリップ角の推定を要することなく車輌のドリフトアウト状態を簡易に且つ精度よく判定することができる。
【0018】
また上記請求項5の構成によれば、操舵輪は前輪であり、前記比が所定の範囲内になるよう少なくとも操舵輪が制御されるので、車輌がドリフトアウト状態になる虞れを確実に低減したり車輌のドリフトアウト状態を確実に低減したりすることができる。
【0019】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(好ましい態様1)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比がその負の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様2)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が負の第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、車輌の横加速度の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様3)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定するよう構成される(好ましい態様4)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4の構成に於いて、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比がその正の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様5)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比が第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、車輌の横加速度に対するセルフアライニングトルクの比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様6)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、前記比が第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、前記比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定するよう構成される(好ましい態様7)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5の構成に於いて、所定の範囲は車輌がドリフトアウト状態になく正常な状態にある範囲であるよう構成される(好ましい態様8)。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5の構成に於いて、前記比が第一の基準値よりも小さく且つ第二の基準値以上であるときに、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、前記比が第二の基準値よりも小さいときに、車輌がドリフトアウト状態にあると判定し、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定したときには、操舵輪の切り増し方向への舵角変化を抑制するよう構成される(好ましい態様9)。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、車輌はステアリングギヤ比可変装置を有し、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定したときには、ステアリングギヤ比可変装置によりステアリングギヤ比を低下させることにより操舵輪の切り増し方向への舵角変化を抑制するよう構成される(好ましい態様10)。
【0029】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、車輌はパワーステアリング装置を有し、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定したときには、パワーステアリング装置により操舵輪の切り増し時に操舵輪の切り戻し方向への操舵トルクを付与することにより操舵輪の切り増し方向への舵角変化を抑制するよう構成される(好ましい態様11)。
【0030】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5の構成に於いて、車輌は自動操舵装置を有し、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、自動操舵装置により操舵輪の切り増し方向への転舵を阻止することにより操舵輪を制御するよう構成される(好ましい態様12)。
【0031】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様12の構成に於いて、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、自動操舵装置により操舵輪を切り戻し方向へ転舵するよう構成される(好ましい態様13)。
【0032】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、車輌は各車輪の制動力を制御する制動装置を有し、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、制動装置により少なくとも旋回内側後輪に制動力を付与することにより車輌を減速し若しくは車輌に旋回補助方向のヨーモーメントを付与するよう構成される(好ましい態様14)。
【0033】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5の構成に於いて、車輌の横加速度は車輌全体の横加速度であるよう構成される(好ましい態様15)。
【0034】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至5の構成に於いて、車輌の横加速度は操舵輪の車輌前後方向位置に於ける車輌の横加速度であるよう構成される(好ましい態様16)。
【0035】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、車輌は前後輪のロール剛性を制御するロール剛性制御装置を有し、車輌がドリフトアウト状態にあると判定したときには、ロール剛性制御装置によりロール剛性を後輪寄りに制御するよう構成される(好ましい態様17)。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施の形態(以下単に実施形態という)について詳細に説明する。
【0037】
第一の実施形態
図1は転舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置を備えたセミステアバイワイヤ式の車輌に適用された本発明による車輌の制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【0038】
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
【0039】
図示の実施形態に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機22と、電動機22の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構24とを有し、ハウジング26に対し相対的にラックバー18を駆動する補助転舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助転舵力発生手段として機能する。尚補助転舵力発生手段は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0040】
ステアリングホイール14はアッパステアリングシャフト28A、転舵角可変装置30、ロアステアリングシャフト28B、ユニバーサルジョイント32を介して電動式パワーステアリング装置16のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施形態に於いては、転舵角可変装置30はハウジング36Aの側にてアッパステアリングシャフト28Aの下端に連結され、回転子36Bの側にてロアステアリングシャフト28Bの上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
【0041】
かくして転舵角可変装置30はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを回転駆動することにより、操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する補助転舵手段として機能する。
【0042】
特に転舵角可変装置30は、通常時にはハウジング36A及び回転子36Bの相対回転を阻止する保持電流が電動機36に通電されることにより、アッパステアリングシャフト22Aに対するロアステアリングシャフト22Bの相対回転角度(単に相対回転角度という)を0に維持する。
【0043】
また転舵角可変装置30は、ステアリングギヤ比制御時にはアッパステアリングシャフト22Aに対しロアステアリングシャフト22Bを相対的に回転させることにより、ステアリングホイール14の回転角度に対する左右の前輪10FL及び10FRの転舵角の比を可変制御し、自動操舵時には電動機36によりアッパステアリングシャフト22Aに対し相対的にロアステアリングシャフト22Bを積極的に回転させ、これにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪10FL及び10FRを自動操舵する。
【0044】
各車輪の制動力は制動装置38の油圧回路40によりホイールシリンダ42FR、42FL、42RR、42RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路40はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は後に詳細に説明する如く制動制御装置48により制御される。
【0045】
図示の実施形態に於いては、アッパステアリングシャフト22Aには該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θsとして検出する操舵角センサ50及び操舵トルクTsを検出するトルクセンサ52が設けられており、ロアステアリングシャフト22Bには該ロアステアリングシャフトの回転角度を左右前輪の実操舵角θaとして検出する操舵角センサ54が設けられており、これらのセンサの出力は運動制御装置56へ供給される。運動制御装置56には車速センサ58により検出された車速Vを示す信号及び横加速度センサ60により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号も入力される。
【0046】
操舵角θaを示す信号及び車速Vを示す信号は運動制御装置56より転舵角可変装置30を制御する転舵角可変制御装置62にも入力され、操舵トルクTsを示す信号及び車速Vを示す信号は運動制御装置56より電動式パワーステアリング装置16を制御する電動パワーステアリング(電動PS)制御装置64にも入力される。運動制御装置56には電動式パワーステアリング装置16に対するトルクアシスト指令電流Itaを示す信号が入力される。尚操舵角センサ54により検出される操舵角θaを示す信号は自動操舵完了後に左右の前輪10FL及び10FRの直進位置をステアリングホイール14の中立位置に合せるために使用される。
【0047】
後述の如く、運動制御装置56は電動式パワーステアリング装置16に対するトルクアシスト指令電流Itaに基づき電動式パワーステアリング装置16によるアシストトルクTasを演算し、アシストトルクTas及びトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsに基づき前輪のセルフアライニングトルクSATを演算し、車輌の横加速度Gyの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比dSAT/dGyを演算する。
【0048】
また運動制御装置56は、比dSAT/dGyが第一の基準値Kd1(負の定数)よりも小さく第二の基準値Kd2(Kd1よりも小さい負の定数)以上であるときには、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時のステアリングギヤ比を低減するステアリングギヤ比可変制御の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力する。
【0049】
更に運動制御装置56は、比dSAT/dGyが第二の基準値Kd2よりも小さいときには、車輌がドリフトアウト状態にあると判定し、比dSAT/dGyが第二の基準値Kd2又はそれよりも大きい値以上になるよう、左右前輪の実転舵角を低減する自動操舵の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標相対回転角度θrを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力すると共に、旋回外側後輪の制動力よりも旋回内側後輪の制動力が高くなるよう少なくとも旋回内側後輪に制動力を付与する指令信号を制動制御装置48へ出力する。
【0050】
転舵角可変装置30による目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号は電動パワーステアリング制御装置64にも入力され、電動パワーステアリング制御装置64は運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵を抑制する抑制転舵トルクTreを演算する。
【0051】
また転舵角可変装置30による目標相対回転角度θrを示す信号も電動パワーステアリング制御装置64に入力され、電動パワーステアリング制御装置64は転舵角可変装置30の自動操舵によりステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamを演算する。
【0052】
更に電動パワーステアリング制御装置64は、操舵トルクTs及び車速Vに応じて運転者の操舵負荷を軽減するための補助転舵トルクTabを演算し、補助転舵トルクTabと抑制転舵トルクTreと補正転舵トルクTamとの和を目標補助転舵トルクTaとして演算し、目標補助転舵トルクTaに基づき電動式パワーステアリング装置16の電動機22を制御することにより、操舵アシストを行うと共に、ステアリングギヤ比可変制御時には運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵を抑制し、自動操舵時には転舵角可変装置30の作動により発生する反力トルクを相殺する。
【0053】
車輪10FL〜10RRのホイールシリンダ42FL〜42RRにはそれぞれ対応するホイールシリンダ内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する圧力センサ66FL〜66RRが設けられ、マスタシリンダ46にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ68が設けられている。圧力センサ66FL〜66RRにより検出されたホイールシリンダ42FL〜42RR内の圧力Piを示す信号及び圧力センサ68により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号は制動制御装置48に入力される。
【0054】
制動制御装置48は、通常時にはマスタシリンダ圧力Pmに基づき油圧回路40を制御することにより、運転者の制動操作量に応じてホイールシリンダ42FL〜42RR内の圧力Piを制御し、これにより運転者によるブレーキペダル44の踏み込み操作に応じて車輌の減速度を制御する。
【0055】
これに対し運動制御装置56により運動制御装置56により車輌がドリフトアウト状態にあると判定され、運動制御装置56より左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrを示す信号が入力されると、制動制御装置48は、目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrに対応する左右後輪の目標制動圧増大量ΔPtrl及びΔPtrrを演算し、左右後輪のホイールシリンダ42RL、42RR内の圧力がそれぞれ目標制動圧増大量ΔPtrl及びΔPtrr増大するよう制御し、これにより車輌を減速させると共に車輌に旋回補助方向のヨーモーメントを付与する。
【0056】
尚図1には詳細に示されていないが、制動制御装置48、運動制御装置56、転舵角可変制御装置62、電動パワーステアリング制御装置64はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。また操舵角センサ50及び54、トルクセンサ52、横加速度センサ60はそれぞれ車輌の右旋回方向への操舵の場合を正として操舵角θs及びθa、操舵トルクTs、横加速度Gyを検出する。
【0057】
次に図2を参照して、第一の実施形態に於いて運動制御装置56により達成される車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0058】
まずステップ10に於いてはトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはトルクアシスト指令電流Itaとトルク定数(正の定数)との積として電動式パワーステアリング装置16によるアシストトルクTasが演算され、トルクセンサ52により検出された操舵トルクTsとアシストトルクTasとの和より操舵系の摩擦力に対応する値を減算することにより、前輪のセルフアライニングトルクSATが演算される。
【0059】
尚前輪のセルフアライニングトルクSATは当技術分野に於いて公知の他の要領にて演算されてもよく、またタイロッド18L及び18Rの軸力が検出され、タイロッド軸力より演算されてもよく、更にはタイヤに内蔵されたセンサにより検出されてもよい。
【0060】
ステップ30に於いては車輌の横加速度Gyの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比として、車輌の横加速度GyについてのセルフアライニングトルクSATの微分値dSAT/dGyが例えばオンライン最小二乗法により演算される。
【0061】
ステップ40に於いては微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1(負の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が限界に近づき車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50に於いて車輌の走行状態が安定であると判定されると共にフラグFdが0にリセットされ、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進む。
【0062】
ステップ60に於いては微分値dSAT/dGyが第二の基準値(第一の基準値Kd1よりも小さい負の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が実質的に飽和し車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると共にフラグFdが1にセットされる。
【0063】
ステップ80に於いては微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほどステアリングギヤ比が小さくなり左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時の目標ステアリングギヤ比Rreが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づき図6に示されたグラフに対応するマップより演算され、ステップ90に於いては目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号が転舵角可変制御装置62へ出力されることにより、ステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Rreになるよう転舵角可変装置30によるステアリングギヤ比可変制御が実行される。
【0064】
ステップ100に於いては車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると共にフラグFdが1にセットされ、ステップ110に於いては運転者の操舵操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなり、微分値dSAT/dGyの絶対値が第二の基準値Kd2の絶対値又はそれよりも小さい値以下になるよう、転舵角可変装置30によるアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの目標相対回転角度θrが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づき図7に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0065】
ステップ120に於いては目標相対回転角度θrを示す指令信号が転舵角可変制御装置62へ出力されることにより、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度が目標相対回転角度θrになるよう、転舵角可変装置30による自動操舵により左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御される。
【0066】
ステップ130に於いては運転者の制動操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右後輪の制動力が高くなると共に旋回外側後輪の制動力に比して旋回内側後輪の制動力が高くなるよう、左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づいて図8に示されたグラフに対応するマップより演算され、目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrを示す信号が制動制御装置48へ出力される。
【0067】
次に図3を参照して第一の実施形態に於ける転舵トルク制御ルーチンについて説明する。尚図3に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0068】
まずステップ210に於いてはトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ210に於いては操舵トルクTs及び車速Vに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより運転者の操舵負荷を軽減するための補助転舵トルクTabが演算される。
【0069】
ステップ230に於いてはフラグFdが0であるか否かの判別が行われ、肯定判別、即ち車輌の走行状態が正常であると判定されているときには、ステップ240に於いて運転者によるステアリングホイール14の切り増しを抑制するための抑制転舵トルクTre及び転舵角可変装置30の自動操舵時により発生する反力を相殺するための補正転舵トルクTamがそれぞれ0に設定され、否定判別が行われたときにはステップ250へ進む。
【0070】
ステップ250に於いてはフラグFdが1であるか否かの判別が行われ、肯定判別、即ち車輌がドリフトアウト状態になる虞れあると判定されているときには、ステップ260に於いて微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど抑制転舵トルクTreが大きくなるよう、微分値dSAT/dGyの絶対値に基づき図9に示されたグラフに対応するマップより抑制転舵トルクTreが演算されると共に、補正転舵トルクTamが0に設定され、否定判別が行われたときにはステップ270へ進む。
【0071】
ステップ270に於いてはステップ260の場合と同様の要領にて抑制転舵トルクTreが演算されると共に、転舵角可変装置30による自動操舵の目標相対回転角度θrの大きさが大きいほどステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamが大きくなるよう、目標相対回転角度θrに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより補正転舵トルクTamが演算される。
【0072】
ステップ280に於いては補助転舵トルクTabと抑制転舵トルクTreと補正転舵トルクTamとの和が目標補助転舵トルクTaとして演算され、ステップ290に於いては目標補助転舵トルクTaに基づき電動式パワーステアリング装置16の電動機22が制御されることにより、車輌の走行状態に拘らず操舵アシストが行われ運転者の操舵負担が軽減されると共に、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるときのステアリングギヤ比可変制御時には運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵が抑制され、車輌がドリフトアウト状態にあるときの自動操舵時には転舵角可変装置30の作動により発生する反力トルクが相殺され、良好な操舵フィーリングが確保される。
【0073】
かくして図示の第一の実施形態によれば、ステップ20に於いて前輪のセルフアライニングトルクSATが演算され、ステップ30に於いて車輌の横加速度Gyの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比として、車輌の横加速度GyについてのセルフアライニングトルクSATの微分値dSAT/dGyが演算され、ステップ40に於いて微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1以上であると判別されると、ステップ50に於いて車輌の走行状態が安定であると判定される
またステップ40及び60に於いて微分値dSAT/dGyが第一の基準値Kd1未満であり且つ第二の基準値上であると判別されると、ステップ70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定され、微分値dSAT/dGyが第二の基準値Kd1未満であると判別されると、ステップ100に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定される。
【0074】
従って前輪のスリップ角を推定することなく前輪のセルフアライニングトルクSAT及び車輌の横加速度Gyに基づいて、車輌の走行状態が安定であるか、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか、車輌がドリフトアウト状態にあるかを判定することができる。
【0075】
また図示の第一の実施形態によれば、ステップ60及び70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると、ステップ80に於いて微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほどステアリングギヤ比が小さくなり左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時の目標ステアリングギヤ比Rreが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づいて演算され、ステップ90に於いてステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Rreになるよう転舵角可変装置30によるステアリングギヤ比可変制御が実行される。
【0076】
従って車輌がドリフトアウト状態になる虞れがある状況に於いて運転者によりステアリングホイール14の切り増し操舵が行われても、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるので、前輪のスリップ角が増大し微分値dSAT/dGyの絶対値が増大して車輌がドリフトアウト状態になることを効果的に抑制することができる。
【0077】
更に図示の第一の実施形態によれば、ステップ60及び100に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると、ステップ110に於いて運転者の操舵操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなり、微分値dSAT/dGyの絶対値が第二の基準値Kd2の絶対値又はそれよりも小さい値以下になるよう、転舵角可変装置30によるアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの目標相対回転角度θrが微分値dSAT/dGyの絶対値に基づいて演算され、ステップ120に於いてアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度が目標相対回転角度θrになるよう、転舵角可変装置30による自動操舵により左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御される。
【0078】
従って車輌がドリフトアウト状態にあるときには運転者の操舵操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなるよう自動操舵により左右前輪の舵角を切り戻し方向へ制御し、これにより前輪のスリップ角を低減して微分値dSAT/dGyの絶対値を低減し、左右前輪の横力をできるだけ高い値に維持しつつ車輌のドリフトアウト状態を低減して車輌を安定的に旋回走行させることができる。
【0079】
第二の実施形態
この第二の実施形態に於いては、運動制御装置56は、アシストトルクTas及びトルクセンサ50により検出された操舵トルクTsに基づき前輪のセルフアライニングトルクSATを演算し、車輌の横加速度Gyに対するセルフアライニングトルクSATの比SAT/Gyを演算する。
【0080】
また運動制御装置56は、比SAT/Gyが第一の基準値Kp1(正の定数)よりも小さく第二の基準値Kp2(Kp1よりも小さい正の定数)以上であるときには、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定し、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時のステアリングギヤ比を低減するステアリングギヤ比可変制御の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標ステアリングギヤ比Rreを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力する。
【0081】
更に運動制御装置56は、比SAT/Gyが第二の基準値Kp2よりも小さいときには、車輌がドリフトアウト状態にあると判定し、比SAT/Gyが第二の基準値Kp2又はそれよりも大きい値以上になるよう、左右前輪の実転舵角を低減する自動操舵の制御指令信号(転舵角可変装置30による目標相対回転角度θrを示す信号)を転舵角可変制御装置62へ出力すると共に、旋回外側後輪の制動力よりも旋回内側後輪の制動力が高くなるよう少なくとも旋回内側後輪に制動力を付与する指令信号を制動制御装置48へ出力する。
【0082】
次に図5を参照して、第二の実施形態に於いて運動制御装置56により達成される車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンについて説明する。尚図5に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図5に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0083】
この第二の実施形態に於いては、ステップ30に於いて車輌の横加速度Gyに対するセルフアライニングトルクSATの比SAT/Gyが演算され、ステップ40に於いては比SAT/Gyが第一の基準値Kp1(正の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が限界に近づき車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50に於いて車輌の走行状態が安定であると判定されると共にフラグFdが0にリセットされ、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進む。
【0084】
ステップ60に於いては比SAT/Gyが第二の基準値Kp2(第一の基準値Kd1よりも小さい正の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち前輪の横力が実質的に飽和し車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると共にフラグFdが1にセットされ、しかる後ステップ130及び140が実行され、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると共にフラグFdが1にセットされ、しかる後ステップ110〜130が実行される。
【0085】
この場合ステップ80に於いては比SAT/Gyが小さいほどステアリングギヤ比が小さくなり左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時の目標ステアリングギヤ比Rreが比SAT/Gyに基づき図11に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0086】
またステップ110に於いては運転者の操舵操作に関係なく比SAT/Gyが小さいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなり、比SAT/Gyが第二の基準値Kd2又はそれよりも大きい値以上になるよう、転舵角可変装置30によるアッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの目標相対回転角度θrが比SAT/Gyに基づき図12に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0087】
更にステップ130に於いては運転者の制動操作に関係なく比SAT/Gが小さいほど左右後輪の制動力が高くなると共に旋回外側後輪の制動力に比して旋回内側後輪の制動力が高くなるよう、左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが比SAT/Gyに基づいて図13に示されたグラフに対応するマップより演算され、目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrを示す信号が制動制御装置48へ出力される。
【0088】
尚図には示されていないが、第一の実施形態に於ける図3に示されたフローチャートによる補助転舵トルクの制御と同様の制御が、微分値dSAT/dGyに代えて比SAT/Gyが使用される点を除き、上述の第一の実施形態の場合と同様に実行される。
【0089】
また抑制転舵トルクTreは比SAT/Gyが小さいほど大きくなるよう、比SAT/Gyに基づき図14に示されたグラフに対応するマップより演算され、転舵角可変装置30による自動操舵によってステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamは、目標相対回転角度θrの大きさが大きいほど大きくなるよう、目標相対回転角度θrに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより演算される。
【0090】
従って図示の第二の実施形態によれば、上述の第一の実施形態の場合と同様、前輪のスリップ角を推定することなく前輪のセルフアライニングトルクSAT及び車輌の横加速度Gyに基づいて、車輌の走行状態が安定であるか、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか、車輌がドリフトアウト状態にあるかを判定することができる。
【0091】
また図示の第二の実施形態によれば、上述の第一の実施形態の場合と同様、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがある状況に於いて運転者によりステアリングホイール14の切り増し操舵が行われても、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるので、前輪のスリップ角が増大し比SAT/Gyが増大して車輌がドリフトアウト状態になることを効果的に抑制することができる。
【0092】
また図示の第二の実施形態によれば、上述の第一の実施形態の場合と同様、車輌がドリフトアウト状態にあるときには運転者の操舵操作に関係なく比SAT/Gyの絶対値が大きいほど左右前輪の切り戻し方向への転舵角が大きくなるよう自動操舵により左右前輪の舵角を切り戻し方向へ制御し、これにより前輪のスリップ角を低減して比SAT/Gyを増大し、左右前輪の横力をできるだけ高い値に維持しつつ車輌のドリフトアウト状態を低減して車輌を安定的に旋回走行させることができる。
【0093】
尚図示の第一及び第二の実施形態によれば、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されると、ステアリングギヤ比の制御及び抑制転舵トルクTreの制御により、運転者の切り増し操舵及びそれに伴う左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制され、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると、前輪の自動操舵による左右前輪の実転舵角の低減及び左右後輪の制動力の制御によりドリフトアウト状態が積極的に低減されるので、車輌がドリフトアウト状態になることを効果的に抑制すると共に、車輌がドリフトアウト状態になった場合にドリフトアウト状態を効果的に低減することができる。
【0094】
また一般に、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるとき及び車輌がドリフトアウト状態にあるときに線形領域からの変化は、車輌のヨーレートよりもセルフアライニングトルクSATの方が大きいので、図示の第一及び第二の実施形態によれば、例えば車輌の目標ヨーレートと車輌の実際のヨーレートとの偏差に基づき車輌の走行状態が判定される従来の一般的な判定の場合に比して、タイヤ交換等に伴うタイヤ特性の変化の影響を低減して車輌の走行状態を高い信頼性にて判定することができる。
【0095】
また図示の第一及び第二の実施形態によれば、ステップ60に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、ステップ110及び120に於いて自動操舵により左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御されると共に、ステップ130に於いて運転者の制動操作に関係なく微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど又は比SAT/Gyが小さいほど左右後輪の制動力が高くなると共に旋回外側後輪の制動力に比して旋回内側後輪の制動力が高くなるよう、左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが微分値dSAT/dGyの絶対値又比SAT/Gyに基づいて演算される。
【0096】
従って車輌の減速及び車輌に対する旋回補助方向のヨーモーメントの付与により、自動操舵によって左右前輪の舵角が切り戻し方向へ制御されることによる車輌のヨーレートの低下を補填することができるので、車輌のドリフトアウト状態を確実に且つ効果的に低減して車輌のコーストレース性を効果的に向上させることができる。
【0097】
尚図8及び図13に於いて細い実線及び細い破線にて示されている如く、微分値dSAT/dGyの絶対値が第二の基準値Kd2よりも大きい値になり、或いは比SAT/Gyが第二の基準値Kp2よりも小さい値になった段階に於いて目標制動力増大量ΔFtrl及びΔFtrrが正の値になるよう修正されてもよく、その場合には車輌がドリフトアウト状態になってもその初期には前輪の自動操舵によりドリフトアウト状態を低減し、自動操舵によりドリフトアウト状態を低減できない場合に前輪の自動操舵及び後輪の制動力の制御によりドリフトアウト状態を低減し、従って前輪の自動操舵及び後輪の制動力の制御が同時に開始される場合に比して、車輌の走行状態をその段階に応じて好ましく制御することができる。
【0098】
また図示の第一及び第二の実施形態によれば、ステップ60及び70に於いて車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定された場合及び車輌がドリフトアウト状態にあると判定された場合には、図3に示されたフローチャートのステップ230に於いて否定判別が行われ、ステップ260又は270に於いて微分値dSAT/dGyの絶対値が大きいほど又は比SAT/Gyが小さいほど抑制転舵トルクTreが大きくなるよう、微分値dSAT/dGyの絶対値又は比SAT/Gyに基づいて抑制転舵トルクTreが演算され、運転者の切り増しに抗するトルクがステアリングホイール14に付与されるので、運転者の切り増し操舵を効果的に抑制することができる。
【0099】
また第一及び第二の実施形態によれば、ステップ60及び70に於いて車輌がドリフトアウト状態にあると判定されると、図3に示されたフローチャートのステップ250に於いて否定判別が行われ、ステップ270に於いて転舵角可変装置30による自動操舵の目標相対回転角度θrの大きさが大きいほどステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正転舵トルクTamが大きくなるよう、目標相対回転角度θrに基いて補正転舵トルクTamが演算されるので、転舵角可変装置30による自動操舵によりステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを効果的に相殺し、操舵フィーリングの悪化を確実に防止することができる。
【0100】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0101】
例えば上述の各実施形態に於いては、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判別が行われ、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されたときには、その虞れを低減する制御が行われ、また車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別が行われ、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、ドリフトアウト状態を低減する制御が行われるようになっているが、微分値dSAT/dGy又は比SAT/Gyに基づき車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否か若しくは車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判別のみが行われるよう修正されてもよく、また判別結果に基づく車輌がドリフトアウト状態になる虞れを低減する制御やドリフトアウト状態を低減する制御は他の任意の態様にて行われてもよい。
【0102】
また上述の各実施形態に於いては、車輌の横加速度に関連する値は車輌全体の横加速度Gyであるが、車輌の横加速度に関連する値は前輪位置に於ける車輌の横加速度Gyf、車輌全体の横力、前輪位置に於ける車輌の横力であってもよく、例えば車輌の横加速度に関連する値が前輪位置に於ける車輌の横加速度Gyf又は前輪位置に於ける車輌の横力である場合には、図16に示されている如く、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあるか否かの判定及び車輌がドリフトアウト状態にあるか否かの判定を上述の各実施形態の場合よりも厳密に判定することができる。
【0103】
また上述の各実施形態に於いては、車輌がドリフトアウト状態になる虞れがあると判定されたときには、左右前輪の切り増し方向への実転舵角の増大が抑制されるよう、運転者のステアリングホイール14の切り増し時にステアリングギヤ比が可変制御されると共に、運転者によるステアリングホイール14の切り増し操舵が抑制転舵トルクTreにより抑制されるよう補助転舵トルクが制御されるようになっているが、これらの制御の一方が省略されてもよい。
【0104】
同様に上述の各実施形態に於いては、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、自動操舵により前輪の切り増し方向への転舵が阻止され、後輪に制動力が付与され、自動操舵による余分なトルクが補正トルクTamにより相殺されるようになっているが、これらの何れかの制御が省略されてもよい。
【0105】
また前後輪のロール剛性を制御する装置が設けられ、車輌がドリフトアウト状態にあると判定されたときには、上述の各実施形態に於ける各制御と共に、又はそれらの少なくとも何れかの制御が行われることなく、前後輪のロール剛性が後輪寄りに制御され、これにより車輌のコーストレース性が向上されるよう修正されてよい。
【0106】
また上述の実施形態に於いては、転舵角可変装置30は転舵角可変制御装置62により制御され、電動式パワーステアリング装置16は電動パワーステアリング制御装置64により制御され、転舵角可変制御装置62及び電動パワーステアリング制御装置64は運動制御装置56により制御されるようになっているが、これらの少なくとも二つの制御装置が一つの制御装置に統合されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】転舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置を備えたセミステアバイワイヤ式の車輌に適用された本発明による車輌の制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態に於ける車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第一の実施形態に於ける補助転舵トルク制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】車速V及び操舵トルクTsと目標転舵トルクTabとの間の関係を示すグラフである。
【図5】転舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置を備えたセミステアバイワイヤ式の車輌に適用された本発明による車輌の制御装置の第二の実施形態に於ける車輌状態判定及び車輌状態制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】微分値dSAT/dGyの絶対値と転舵角可変装置の目標ステアリングギヤ比Rreとの間の関係を示すグラフである。
【図7】微分値dSAT/dGyの絶対値と転舵角可変装置の目標相対回転角度θrとの間の関係を示すグラフである。
【図8】微分値dSAT/dGyの絶対値と左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl、ΔFtrrとの間の関係を示すグラフである。
【図9】微分値dSAT/dGyの絶対値と電動式パワーステアリング装置の抑制転舵トルクTreとの間の関係を示すグラフである。
【図10】転舵角可変装置の目標相対回転角度θrと電動式パワーステアリング装置の補正転舵トルクTamとの間の関係を示すグラフである。
【図11】比SAT/Gyと転舵角可変装置の目標ステアリングギヤ比Rreとの間の関係を示すグラフである。
【図12】比SAT/Gyと転舵角可変装置の目標相対回転角度θrとの間の関係を示すグラフである。
【図13】比SAT/Gyと左右後輪の目標制動力増大量ΔFtrl、ΔFtrrとの間の関係を示すグラフである。
【図14】比SAT/Gyと電動式パワーステアリング装置の抑制転舵トルクTreとの間の関係を示すグラフである。
【図15】車輌の横加速度Gyと前輪のセルフアライニングトルクSATとの間の関係を示すグラフである。
【図16】車輌の右旋回時について前輪位置に於ける車輌の横加速度Gyfと前輪のセルフアライニングトルクSATとの間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10FR〜10RL…車輪
16…電動式パワーステアリング装置
30…転舵角可変装置
38…制動装置
48…制動制御装置
50、54…操舵角センサ
52…トルクセンサ
56…運動制御装置
58…車速センサ
60…横加速度センサ
62…転舵角可変制御装置
64…電動パワーステアリング(電動PS)制御装置
Claims (5)
- 車輌の旋回挙動状態に基づき車輌を制御する車輌の制御装置に於いて、操舵輪のセルフアライニングトルクに関連する値と車輌の横加速度に関連する値との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定し若しくは車輌を制御することを特徴とする車輌の制御装置。
- セルフアライニングトルクの変化量と車輌の横加速度の変化量との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の車輌の制御装置。
- セルフアライニングトルクと車輌の横加速度との比に基づき車輌の旋回挙動状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の車輌の制御装置。
- 前記操舵輪は前輪であり、前記比が特定の範囲内にあるときに車輌の旋回挙動状態がドリフトアウト状態であると判定することを特徴とする請求項1乃至3に記載の車輌の制御装置。
- 前記操舵輪は前輪であり、前記比が所定の範囲内になるよう少なくとも操舵輪を制御することを特徴とする請求項1乃至4に記載の車輌の制御装置。
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