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JP4066572B2 - 耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法 - Google Patents

耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、緻密性、短立毛性、平滑性を有する耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
極細繊維と高分子弾性体とからなる立毛シートにおいて、表面の立毛長を短くし、緻密化する技術としては、例えば、特開昭57−191371号公報、特開平7−126986号公報には、極細繊維と弾性重合体とからなるシートをスライスし、そのスライス面に弾性重合体の溶剤を含む溶液をコーティングし、凝固後、付与面をバフィングする方法、また特開平7−126985号公報には、極細繊維シートに高分子弾性体を含浸した後、基材の表面から厚み方向の高分子弾性体の一部をスクイーズし、凝固させた後、バフィングする方法などが提案されている。
【0003】
しかし、これらの方法は、シートの厚み方向への溶液の浸透度合い制御やシート厚みが変化した場合のスクイーズ量コントロールが難しく、緻密性は向上するが研削量により立毛長斑が生じ易く、かつ極細繊維と高分子弾性体との接着力が高まるため、立毛長は短くすることが可能である反面、製品の風合い硬化を招くといった問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、緻密性、短立毛性、平滑性に加え耐摩耗性を兼ね備えた立毛シートの製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ついに本発明に到達したものである。
【0006】
本発明の目的は、極細繊維の太さ0.45dtex以下となる少なくとも2成分の極細化可能な複合繊維からなる繊維絡合体または極細繊維の太さが0.45dtex以下からなる極細繊維の繊維絡合体を用い、
(1)繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程。
(2)高分子弾性体の溶剤(A)と該溶剤には溶解するが高分子弾性体の非溶剤である溶剤(B)を(A)/(B)=5/95〜60/40重量%とした混合溶液を含浸する工程。
(3)含浸した混合溶液中の溶剤(B)を除去し、高分子弾性体の一部を溶解又は膨潤せしめる工程。
(4)シートを厚み方向に圧縮する工程。
(5)残存する溶剤(A)を乾式および/または湿式手段で除去し、高分子弾性体を固化する工程。
(6)繊維絡合体が複合繊維からなる場合は、複合繊維を極細化した後、起毛処理する工程または起毛処理した後、複合繊維を極細化する工程、または繊維絡合体が極細繊維からなる場合は、起毛処理する工程。
(7)染色、仕上げ処理する工程。
を順次行うことにより達成される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0008】
本発明に用いられる複合繊維は、互いに性質の異なる少なくとも2成分のポリマーを用い、複合紡糸あるいは混合紡糸などにより形成された複合繊維であり、少なくとも1成分を溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割し、繊維の太さが0.45dtex以下の極細繊維を形成しうる複合繊維が用いられる。複合繊維の形態は特に限定するものではない。
【0009】
このような複合繊維の極細繊維を形成するポリマーとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリエステル類などを用いることができる。
【0010】
溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割されるポリマーとしては、上記のポリアミド類、ポリエステル類、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類を用いることができる。これらの中から極細繊維の断面形成性、紡糸性、延伸性および溶剤溶解性などを考慮して組み合わせればよい。また、これらのポリマー中に必要に応じて安定剤、艶消し剤、制電剤、難燃剤などの添加剤を含有せしめても本発明の効果が損なわれるものではない。これら複合繊維中の極細繊維の比率は、35〜95重量%、好ましくは45〜90重量%、より好ましくは55〜90重量%が良い。35重量%未満であると除去成分量が多いため、製品の形態変化が大きく、かつ耐摩耗性が低下するので好ましくない。また95重量%を越えると除去成分量が少なくなって、製品の風合いが固くなるので好ましくない。
【0011】
上記の複合繊維を溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割した後の極細繊維の太さは、0.45dtex以下が好ましい。0.45dtexを越えると風合い、タッチが低下する。発色性を考慮しなければ0.00011dtexでも本発明の効果は得られるが、これらの製品特性を満足するより好ましい範囲は、0.0011dtex以上、0、22dtex以下がよい。該複合繊維および極細繊維の断面は、特に限定するものではない。
【0012】
上記のポリマーの組み合わせにおいて、後述する複合繊維に高分子弾性体が付与されたシートを、例えばサンドペーパーで起毛処理する場合は、複合繊維の除去成分がポリスチレン、ポリエチレンなどであると摩擦熱によりサンドペーパーの表面にポリスチレン、ポリエチレンが融着し、立毛状態が不安定になること、更に極細化に用いる有機溶剤の環境性などを考慮すると、複合繊維の除去成分はアルカリ溶液にて溶解可能で、かつ高分子弾性体の溶剤に不溶であるアルカリ溶解性ポリマーからなることが好ましい。
【0013】
本発明におけるアルカリ溶解性ポリマーとしては、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとを主たる構成成分とし、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、およびイソフタル酸を含有する共重合ポリエステルからなるポリマーを用いることができる。
【0014】
これらのポリマーの溶解にあたっては、事前に酸処理するかもしくはマイクロ波を利用した溶解促進法など適宜対応し溶解することができる。後述する極細化処理時の高分子弾性体の劣化を考慮すると、アルカリ溶解性ポリマーは、カセーソーダ溶液濃度が1重量%前後、処理温度90℃前後、処理時間10〜40分で溶解可能な特性を保持しているものが特に望ましい。かかるポリマーとしては、例えばアルカリ溶解性ポリマーが全酸成分に対し6〜12モル%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸、および0〜10モル%のイソフタル酸を含有する共重合ポリエステルを用いることが好ましいが、本発明はこれらにとらわれるものではなく、各種の2元、3元およびそれ以上の多元の共重合ポリエステルを用いることも可能である。
【0015】
本発明において複合繊維の繊維絡合体を形成する手段としては、該複合繊維を短繊維化しカード・クロスラッパーもしくはランダムウエッバーなどによりウェブを作り、その後ニードルパンチあるいはウオータージェットパンチなどを施す手段を用いることができる。また、ウェブ形成はメルトブローなど紡糸から直接形成することも可能である。
【0016】
これらの複合繊維絡合体に高分子弾性体を付与する前に収縮熱処理、ヒートプレス、ウエットプレスなどで繊維絡合体の高密度化を行っても何ら差し支えない。
【0017】
本発明における複合繊維絡合体の構造としては、上記の複合繊維の三次元絡合構造が用いられるが、製品厚みの薄地化に伴い、その展開アイテムによっては、より強力を増したものが要求される場合が生ずる。この課題解決のための好ましい実施態様としては、繊維絡合体が複合繊維と織物もしくは編み物と絡合一体化した構造とするのが好ましい。この構造形成は、上記の複合繊維のウエブを織物もしくは編み物に積層し、ニードルパンチ、ウォータージエットパンチあるいはこれらの組み合わせにより絡合一体化するものである。積層方法としては、ウエブの両面もしくは片面に織物もしくは編み物を積層し絡合処理する方法あるいは片面に積層し絡合処理した後、更に該絡合体を複数重ねて再度絡合処理し、後工程でスライスする方法などが用いられる。
【0018】
本発明における織物もしくは編み物を構成する糸種としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントと短繊維の混紡糸などを用いることができ、特に限定されるものではない。また織物もしくは編み物の種類としては、経編、トリコット編みで代表される緯編、レース編およびそれらの編み方を基本とした各種編み物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種織物などいずれも用いることができ、特に限定されるものではない。
【0019】
糸種によっては、ニードルパンチで複合繊維と織物もしくは編み物との絡合を強固にする場合、切断され易いことがあり、これを防止する手段としては、これらの糸種が強撚糸であることが好ましい。
【0020】
強撚糸の撚り数としては500T/m以上4500T/m以下が好ましく、より好ましくは1500T/m以上4500T/m以下、最も好ましくは2000T/m以上4000T/m以下である。500T/m未満では糸を構成する単糸同士の絞まりが不十分であるため、ニードルにひっ掛かり損傷し易いので好ましくない。また撚り数が4500T/mより多いと繊維が硬くなりすぎ、製品の風合を硬化させてしまうので好ましくない。
【0021】
本発明において織物もしくは編み物は上記の強撚糸を少なくとも一部に用いたものが良く、全て強撚糸を使用したものが、高強力を発揮するために好ましい。また、これらの強撚糸がポリビニールアルコール系、アクリル系の糊剤が付与されたものであってもよい。
【0022】
本発明において織物もしくは編み物を構成する繊維は、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらの共重合体類が用いられる。中でもポリエステル類、ポリアミド類およびそれらの共重合体類を単独または複合して用いるが好ましい。
【0023】
上記の織物もしくは編み物を構成する単糸の平均繊維直径は、1μm〜30μm、より好ましくは2μm〜15μm、構成糸で30μm〜150μm、より好ましくは50μm〜120μmの範囲がよい。単糸が1μm未満となると製品を柔軟にする上では好ましいが強力がでにくく、30μmを越えると逆に製品風合いの硬化を招き易い。また構成糸が30μm未満となるとウエブとの積層時にシワが入り易く、150μmを越えるとウエブとの絡合一体化不足となって剥離し易くなり好ましくない。製品の風合いをより柔軟化せしめるには、織物もしくは編み物を構成する単糸が細いほどよい。しかし、細くなるほどウェブとの積層時にシワが入り易くなる。これらの問題を解決するには、織物もしくは編み物を構成する繊維が細化可能型複合繊維であることが好ましい。即ち積層時には構成糸が太くシワが入り難く、後述する極細化処理工程において単糸が極細化され、製品の風合がより柔軟になるものである。細化可能な複合繊維とは、少なくとも1成分を溶解除去し、あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割することにより極細化可能な複合繊維であるが、その複合繊維の断面形状は特に限定するものではない。
【0024】
本発明において極細繊維を形成するポリマーとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリエステル類などを用いることができる。
【0025】
溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割されるポリマーとしては、上記のポリアミド類、ポリエステル類、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類を用いることができる。これらの中から極細繊維の断面形成性、紡糸性、延伸性や整織性、ウエブに用いる複合繊維との脱海性などを考慮して組み合わせればよい。またこれらのポリマー中に必要に応じて安定剤、艶消し剤、制電剤、難燃剤などの添加剤を含有せしめても本発明の効果は損なわれるものではない。
【0026】
本発明でいう極細繊維の繊維絡合体は、本発明における複合繊維絡合体の少なくとも1成分を溶解除去するあるいは物理的、化学的作用により剥離、分割し0.45dtex以下とした極細繊維の絡合体、または本発明における極細繊維形成ポリマーを直接紡糸し、0.45dtex以下のウェブとする、あるいは短繊維化し、抄紙法でウェブとし、ニードルパンチ、ウォータージェットパンチまたはこれらを組み合わせて絡合処理することにより得られるものである。
【0027】
本発明において、かくして得られた繊維絡合体に付与する高分子弾性体には、ポリウレタンエラストマー、アクリロニトリル・ブタジエンラバー、ブタジエンラバー、天然ゴム、ポリ塩化ビニール、ポリアミドなどを用いることができる。中でも本発明プロセスにおける加工性および最終製品の品質などの観点から、ポリウレタンエラストマーが好ましく、平均分子量が500〜3000のポリエステルジオール系、ポリエーテルジオール系、ポリカーボネートジオール系を単独もしくは組み合わせて用いたものがよい。複合繊維の除去成分がアルカリ可溶型ポリマーである場合は、ポリエーテルジオール系、ポリカーボネートジオール系の単独もしくはそれらの組み合わせを用いたものが特に好ましく用いられる。
【0028】
本発明における繊維絡合体にこれらの高分子弾性体を含浸し、弾性体の溶剤を除去し固化する。高分子弾性体の付与に際して、該弾性体中に必要に応じて着色剤、酸化防止剤、制電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤、防臭剤などの添加剤を配合してもよい。
【0029】
次いで本発明における複合繊維絡合体に高分子弾性体が付与されたシート、または既に極細化された繊維絡合体に高分子弾性体が付与されたシートあるいは直接極細化された極細繊維の繊維絡合体に高分子弾性体が付与されたシートを該高分子弾性体の溶剤(A)と該溶剤には溶解するが高分子弾性体には非溶剤である溶剤(B)とを(A)/(B)=5/95〜60/40重量%、好ましくは10/90〜50/50重量%、より好ましくは20/80〜40/60重量%の範囲で混合した溶液中にシート全体を浸漬し、混合溶液を付与する。その付与量としては、シート重量に対し、40〜150重量%、好ましくは60〜120重量%、より好ましくは80〜100重量%に調整することが重要である。混合溶液中の溶剤(A)が10重量%未満または混合溶液の付与量が40重量%未満となると後述する圧縮工程でのシート厚みが減少しにくくなるので好ましくない。また混合溶液中の溶剤(A)が60重量%を越えるかまたは混合溶液の付与量が150重量%を越えると溶剤(B)を除々に除去する工程において形態変化をきたし易く、かつ製品の風合いが固いものとなるので好ましくない。
【0030】
該工程での処理は、本発明における高分子弾性体を付与した繊維絡合体が乾燥されたものであってもよく、あるいは繊維絡合体に高分子弾性体を付与し、その高分子弾性体を凝固させるために、(A)/(B)=5/95〜60/40重量%の混合溶液中に浸漬し、凝固させた状態のものをロール間で絞って、シート重量に対し40〜150重量%にしたものがよい。
【0031】
本発明で用いる溶剤(A)としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、ジエチルホルムアミド、また溶剤(B)としては、水、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、アルコール類などを用いることができる。そして少なくともこれら一種類からなる溶剤(A)と溶剤(A)の沸点より低い溶剤(B)を単独あるいは組み合わせて混合溶液を作成して用いる。
【0032】
本発明において、混合溶液中の溶剤(A)がシート中に残留する残存率が10〜90重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%となるように、溶剤(A)の一部と溶剤(B)を除去せしめ、高分子弾性体の一部を溶解又は膨潤させることが重要である。ここでいう溶剤(A)の残存率とは、シートに付与した混合溶液中の溶剤(A)の重量を100%とし、乾燥中に除去されずにシート中に残存している溶剤(A)の重量割合を表す値である。溶剤(A)、(B)の除去は、熱風乾燥で行うが、その際、各々の沸点、蒸気圧などを考慮して、温度設定すれば良い。
【0033】
次いで、溶剤(A)により高分子弾性体の一部が溶解又は膨潤した状態でシートを厚み方向に圧縮処理することが重要である。圧縮率としては、シート全体の見掛け密度が0.4〜0.8g/cm3、好ましくは0.5〜0.7g/cm3となるように調整するのがよい。 本発明における繊維絡合体を形成する繊維が複合繊維である場合、または極細繊維である場合、更には高分子弾性体の付着量により、同一圧縮率でも見掛け密度は異なるが、圧縮率としては、シート厚みに対して30〜80%、好ましくは40〜70%、より好ましくは50〜70%とするのがよい。30%未満とするとシートの寸法変化が大きく、80%を越えると製品の緻密性が低下し易くなる。圧縮処理とは、例えばロール間あるいはベルト間に挟んで連続的に圧縮を行ってもよく、プレス装置などで区分して圧縮加工してもよい。また、この圧縮処理は、加熱しながら行ってもよい。
【0034】
次いで、この圧縮したシート中に残存する溶剤(A)を除去する。除去方法としては、熱風で除去する乾式方式、またはスチーム、水、熱水中で除去する湿式方式のいずれかを用い、部分的に溶解せしめた高分子弾性体を再度、固化させる。最終製品の風合の観点からは、湿式方式で除去し、高分子弾性体を固化させるのが好ましい。また実施態様としては、極細繊維と高分子弾性体との接着状態を緩和し、製品風合いと耐摩耗性とのバランスを調整する上で、繊維絡合体に高分子弾性体を付与する前にポリビニールアルコールを付与し、上記の混合溶剤の付与、圧縮加工を施すのが好ましい。混合溶剤の組み合わせで、溶剤(B)が水である時は、混合溶剤を付与している間にポリビニールアルコールが溶解し始め、かつ、熱風乾燥時において、水と同時に溶解したポリビニールアルコールがマイグレーションし、付着形態が変化し加工性が不安定になるので、常温の範囲では溶解し難い、ケン化度が90モル%以上のポリビニールアルコールを用いるのが加工安定性、製品特性バランス調整の観点から特に好ましい。付着せしめたポリビニールアルコールは、溶剤(A)を除去する工程、スチーム、水、熱水中で除去する課程において除去され、何ら問題ない。
【0035】
次いで、本発明において繊維絡合体が複合繊維から形成されている場合は、複合繊維を極細化した後、起毛処理を行う。あるいは複合繊維の状態で起毛処理し、その後、極細化処理するものである。既に繊維絡合体が極細繊維である場合は、そのまま起毛処理を行う。
【0036】
本発明において極細化処理とは、シートの基材構成を考慮し、高分子弾性体には非溶解で繊維絡合体の除去成分には溶解する溶剤で処理する方法、または、シートを熱処理、膨潤剤を付与して物理的に剥離、分割する方法など、適宜選択すればよい。例えば複合繊維のポリマー構成がポリアミド類/ポリエチレンの場合は、トルエン溶液中で、ポリアミド類/ポリスチレンの場合は、トリクロールエチレン溶液中で、ポリアミド類/アルカリ可溶型ポリマー、ポリエステル/アルカリ可溶型ポリマーの場合は、カセーソーダの熱水中でそれぞれ溶解除去を行い極細化する。また細化可能型複合繊維の織物または編み物と一体化された繊維絡合体の場合、除去成分が同じポリマーであれば同溶剤で一度に極細化できるが、異なるポリマーであればわけて行なえばよい。これら起毛シートを染色し、柔軟剤、撥水剤、静電剤の付与、仕上げ整毛、機械的揉み処理などの仕上げ処理を行う。
【0037】
以上の如く本発明の立毛シートの製造方法は、極細繊維と高分子弾性体とを厚み方向に細密に充填化しつつ、極細繊維と高分子弾性体との接着力バランスを制御することが可能となるために、立毛の緻密化、短立毛化、平滑性および耐摩耗性に優れた立毛シートが得られ、また、更に好ましい実施態様により、一層の高強力を合わせ持つ立毛シートを得ることを可能にしたものである。
【0038】
【実施例】
以下に、本発明を実施例にて詳細に説明するが、本発明の有効性や権利の範囲はこれによって限定、制約をうけるものではない。
【0039】
[実施例1]
島成分がナイロン6、海成分がポリエチレン(MFR=23)の島/海比率=50/50重量%、複合繊維デニール約4デニール(以下、dという)、カット長約51mm、ケン縮数約12山/inとした海島ブレンド型複合繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、軽くニードルパンチを行った後、熱風乾燥機中で収縮処理し、見掛け密度0.3g/cm3、厚み1.8mmの複合繊維絡合シートを形成し,このシートにジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)系のポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタンを固形分として対島繊維当たり約50部となるように含浸し、湿式凝固し、DMFを除去した後、乾燥した。
【0040】
次いで、DMF/水=25/75重量%混合溶液中に浸漬し、混合溶液が対シート当たり100重量%となるように圧搾した後、DMFの残存率が50重量%となるまで熱風乾燥し、次いで、見掛け密度0.7g/cm3になるようにロールプレスを行い、その後、水中に浸漬して溶剤を除去し、乾燥した。このシートを85℃のトルエン中に浸漬し、海成分を除去し乾燥した。島繊維の太さは、0.004dtexであった。このシートを厚みが約1/2となるように半裁し、非半裁面を400メッシュのサンドペーパーで起毛処理を行った。この起毛シートをサーキュラー染色機を用いブラウン系に染色し、仕上げ剤処理を行なった。
【0041】
かくして得られたシートは、表1に示した如く耐摩耗性に優れ、立毛が短く緻密で平滑性、柔軟性に優れたヌバック調の外観を有する立毛シートであった。
【0042】
[実施例2]
島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタレート単位を全酸成分単位の5.2モル%共重合したポリエステル、島/海比率=80/20重量%、島数36島、複合繊維デニール約3d、カット長約51mm、ケン縮数約12山/inとした高分子相互配列体繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、ニードルパンチしてフェルトを作り、このフェルトを収縮処理し乾燥した後、ケン化度が99.6モル%のポリビニールアルコールを対シート重量当たり5部となるように付与し、乾燥した。次いで、DMF系のポリエーテル系ポリウレタンを固形分として対島繊維当たり約50部となるように含浸し、温度25℃の水中で湿式凝固し、DMFを除去した後、乾燥した。
【0043】
次いで、温度25℃のDMF/水=25/75重量%混合溶液中に浸漬し、混合溶液が対シート当たり100重量%となるように圧搾した後、DMFの残存率が50重量%となるまで熱風乾燥し、次いで、見掛け密度0.6g/cm3になるようにロールプレスを行い、その後、水中に浸漬し、次いで、熱水中で溶剤およびポリビニールアルコールの除去を行い、乾燥した。このシートをカセーソーダ溶液濃度1重量%、温度90℃中で30分間、浸漬・マングル圧搾を繰り返し行い、酢酸で中和した後、水洗し乾燥した。島繊維の太さは、約0.77dtexであった。このシートを厚みが約1/2となるように半裁し、非半裁面を240メッシュのサンドペーパーで起毛処理を行った。この起毛シートをサーキュラー染色機を用いブラウン系に染色し、仕上げ剤処理を行なった。かくして得られたシートは、表1に示した如く耐摩耗性に優れ、立毛が短く緻密で平滑性、柔軟性に優れたヌバック調の外観を有する立毛シートであった。
【0044】
[実施例3]
実施例2と同じ高分子相互配列体繊維のステープルを用いたウェブをポリエチレンテレフタレートの75デニール−72フィラメント、2500T/mの強撚糸を用いた平織物(目付70g/m2)の間に積層し、ニードルパンチを行い目付600g/m2のフェルトを作成した。このフェルトを収縮処理し乾燥し、その後、カセーソーダ溶液濃度1重量%、温度90℃中で30分間、浸漬・マングル圧搾を繰り返し行い、酢酸で中和した後、水洗し乾燥した。島繊維の太さが約0.77dtexの極細繊維束と強撚平織物とが交絡一体化された繊維絡合体シートを得た。このシートに実施例2と同様なポリウレタンを固形分として対島繊維当たり約35部となるように含浸し、湿式凝固し、乾燥した。次いで、DMF/水=25/75重量%混合溶液中に浸漬し、混合溶液が対シート当たり100重量%となるように圧搾した後、DMFの残存率が50重量%となるまで熱風乾燥し、次いで、見掛け密度0.65g/cm3になるようにロールプレスを行い、その後、水中に浸漬して溶剤を除去し、乾燥した。この後、水系シリコーンを固形分で対シート当たり1.5部となるように含浸し、乾燥した。
【0045】
このシートを厚みが約1/2となるように半裁し、半裁面を240メッシュのサンドペーパーで起毛処理を行った後、実施例2と同様に染色し、仕上げ剤処理を行なった。
【0046】
かくして得られたシートは、表1に示した如く耐摩耗性に優れ、実施例2より若干風合いが劣るものの、立毛が短く緻密で平滑性、柔軟性に優れ、強力が改善されたヌバック調の外観を有する立毛シートであった。
【0047】
[実施例4]
島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分がポリスチレンの島/海比率=55/45重量%、複合繊維デニール約3d、カット長約51mm、ケン縮数約12山/inとした高分子相互配列体繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、ニードルパンチを行い、目付560g/m2のフェルトを形成した。このフェルトを収縮処理した後、ケン化度が99.6モル%のポリビニールアルコールを対島繊維重量当たり20部となるように付与し、乾燥した。次いで、トリクレン溶液中に浸漬し、マングル圧搾を繰り返し行い、乾燥した。島繊維の太さは、約0.55dtex、繊維見掛け密度は、0.25g/cm3の極細繊維絡合シートを得た。このシートにDMF系のポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタンを固形分として対島繊維当たり約40部となるように含浸し、水中に浸浸し湿式凝固し、温度27℃でDMFを除去し、乾燥した。次いで、DMF/水=25/75重量%混合溶液中に浸漬し、混合溶液が対シート当たり100重量%となるように圧搾した後、DMFの残存率が55重量%となるまで熱風乾燥し、次いで、見掛け密度が0.62g/cm3になるようにロールプレスを行い、水中に浸漬した後、溶剤およびポリビニールアルコールを除去し、乾燥した。
【0048】
このシートを厚みが約1/2となるように半裁し、非半裁面を320メッシュのサンドペーパーで起毛処理を行った後、実施例2と同様に染色し、仕上げ剤処理を行なった。
【0049】
かくして得られたシートは、表1に示した如く耐摩耗性に優れ、実施例2よりやや立毛が長めであるが、平滑性、柔軟性、緻密性に優れたヌバック調の外観を有する立毛シートであった。
【0050】
[比較例1]
実施例2のポリウレタンを凝固させDMFを除去した乾燥シートを用い、このシートを温度25℃のDMF/水=85/15重量%混合溶液中に浸漬し、混合溶液が対シート当たり100重量%となるように圧搾した後、DMFの残存率が60重量%となるまで熱風乾燥し、次いで、見掛け密度0.6g/cm3になるようにロールプレスを行い、その後、水中に浸漬し、次いで、熱水中で溶剤およびポリビニールアルコールの除去を行い、乾燥した。次いで、実施例2と同様に極細化処理を行い、シートを厚みが約1/2となるように半裁し、非半裁面を240メッシュのサンドペーパーで起毛処理を行った。この起毛シートをサーキュラー染色機を用い実施例2と同様に染色、仕上げ剤処理を行なった。
【0051】
かくして得られたシートは、表1に示した如く立毛が短く、耐摩耗性はあるものの、立毛表面にポリウレタンの付着斑が目立ち、平滑性、緻密性に劣り、かつ風合いが極めて固いものであった。
【0052】
[比較例2]
実施例2のポリウレタンを凝固させDMFを除去した乾燥シートを用い、このシートを温度25℃のDMF/水=5/95重量%混合溶液中に浸漬し、混合溶液が対シート当たり100重量%となるように圧搾した後、DMFの残存率が60重量%となるまで熱風乾燥し、次いで、実施例2と同様にロールプレスを行い、水中に浸漬し、次いで、熱水中で溶剤およびポリビニールアルコールの除去を行い、乾燥したが、厚みの減少が極めて少なく、見掛け密度は、0.38g/cm3と低いものとなった。次いで、実施例2と同様に極細化処理を行い、シートの厚みが約1/2となるように半裁し、非半裁面を240メッシュのサンドペーパーで起毛処理を行った。この起毛シートをサーキュラー染色機を用い実施例2と同様に染色、仕上げ剤処理を行なった。
【0053】
かくして得られたシートは、表1に示した如く風合いは柔軟なものの、立毛が長く、緻密性、耐摩耗性に劣るものであった。
【0054】
【表1】
Figure 0004066572
【0055】
【発明の効果】
本発明の製造方法は、従来技術の問題点であった立毛シートの緻密化、短立毛化、平滑化を図るが故の風合い硬化、耐摩耗性の低下を解消し、更に前記の好ましい実施態様により、一層の製品強力が改良された立毛シートの製造が可能であり、かつ、製品外観としてスエード調、更には繊細かつ優美なヌバック調品位を得ることが可能である。従って、本発明の製法で得られる製品は衣料は勿論のこと靴、鞄、帽子、手袋、椅子、カーシートなど資材類としても良好に用いることができる。また、本製品表面の緻密性、短立毛性、平滑性および耐摩耗性が優れていることから、鏡面仕上げを必要とする基材の研磨材としても使用可能である。本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、緻密性、短立毛性、平滑性に加え耐摩耗性を兼ね備えた立毛シートの製造方法を提供することにある。

Claims (8)

  1. 極細繊維の太さ0.45dtex以下となる少なくとも2成分の極細化可能な複合繊維からなる繊維絡合体または極細繊維の太さが0.45dtex以下からなる極細繊維の繊維絡合体を用い、
    (1)繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程。
    (2)高分子弾性体の溶剤(A)と該溶剤には溶解するが高分子弾性体の非溶剤である溶剤(B)を(A)/(B)=5/95〜60/40重量%とした混合溶液を含浸する工程。
    (3)含浸した混合溶液中の溶剤(B)を除去し、高分子弾性体の一部を溶解又は膨潤せしめる工程。
    (4)シートを厚み方向に圧縮する工程。
    (5)残存する溶剤(A)を乾式および/または湿式手段で除去し、高分子弾性体を固化する工程。
    (6)繊維絡合体が複合繊維からなる場合は、複合繊維を極細化した後、起毛処理する工程または起毛処理した後、複合繊維を極細化する工程、または繊維絡合体が極細繊維からなる場合は、起毛処理する工程。
    (7)染色、仕上げ処理する工程。
    を順次行うことを特徴とする耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  2. 請求項1の(3)項において、混合溶液中の溶剤(B)を除去し、溶剤(A)の残存率が10〜100重量%とすることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  3. 繊維絡合体にケン化度90モル%以上のポリビニールアルコールを付与した後、請求項1または2に記載の(1)〜(7)の工程を行うことを特徴とする耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  4. 複合繊維の一成分がアルカリ溶液に溶解可能で、かつ、高分子弾性体の溶剤に不溶であるアルカリ溶解性ポリマーからなることを特徴とする請求項1、2または3に記載の耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  5. アルカリ溶解性ポリマーが、テレフタル酸とエチレングリコールとを主たる構成成分とし、全酸成分に対し6〜12モル%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸および/または0〜10モル%のイソフタル酸を含有する共重合ポリエステルからなることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  6. 繊維絡合体が織物もしくは編み物と絡合一体化されたものであることを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載の耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  7. 織物または編み物の構成糸の少なくとも一部が500撚り数(以下、Tという)/m以上、4500T/m以下の強撚糸より構成されてなることを特徴とする請求項6に記載の耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
  8. 高分子弾性体がエーテル系および/またはポリカーボネート系ポリウレタンからなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の耐摩耗性に優れた立毛シートの製造方法。
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