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JP3997592B2 - 人工皮革およびその製造方法 - Google Patents

人工皮革およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、緻密性、短立毛性、平滑性を有し、特に柔軟性が改良されたヌバック調人工皮革およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、緻密性、短立毛性、平滑性を有するヌバック調の外観を得る技術としては、例えば特開平7−126986号公報には、極細繊維と弾性重合体とからなるシートをスライスし、そのスライス面に弾性重合体の溶剤を含む溶液をコーティングし、乾熱凝固させた後、コーティング面をバフィングする方法、また特開平9−59878号公報には、極細繊維束の絡合シートに高分子弾性体を付与し、起毛処理して極細繊維束の立毛を形成させた後、更に高分子弾性体を立毛面に塗布し、再度、起毛処理するヌバック調の外観を得る方法が提案されている。
【0003】
しかし、これらの方法は緻密性、短立毛性、平滑性と言ったヌバック調の外観は得られるものの、極細繊維束内に高分子弾性体が入り込み、極細繊維との接着が高まり、製品の風合い硬化を招くと言った欠点を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解消し、特に柔軟性を改良したヌバック調の人工皮革を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は基本的には、以下の構成を有する。即ち、
平均繊維径が3μm以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維の束と高分子弾性体とからなる人工皮革において、
(1)該極細繊維から形成された立毛層
(2)該極細繊維が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層(A)
(3)該極細繊維が束状に集合した状態を主たる構造とする絡合層(B)
が厚み方向に連なった絡合した層を有し、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および絡合層(A)、(B)の内部に高分子弾性体が存在し、極細繊維と実質的に非接着な構造を有することを特徴とする人工皮革。」である。
【0006】
上記以外に本発明の好ましい態様としては、次の通りのものである。
【0007】
即ち、好ましい実施態様としては、(1)〜(3)の絡合した層が更に織物もしくは編み物と一体化された構造。織物もしくは編み物の構成糸の少なくとも一部に500T/m以上、4500T/m以下の強撚糸より構成されてなること。高分子弾性体がエーテル系および/またはポリカーボネート系ポリウレタンからなることである。
【0008】
上記の柔軟性に優れたヌバック調の人工皮革は、島成分が芯鞘型構造を有し、溶剤溶解性を異にする2成分の非弾性ポリマーから形成され、鞘成分除去後の芯成分繊維の平均繊維径が3μm以下で、かつ、海成分が該島成分と溶剤溶解性をことにするポリマーからなる3成分の海島型複合繊維を用い不織布を形成した後、以下の工程(1)〜(7)
(1)高密度化処理および/または糊剤付与処理を行なう工程
(2)海成分を除去する工程
(3)高速流体絡合処理を行なう工程
(4)高分子弾性体を付与し、凝固する工程
(5)島成分の鞘成分を溶解除去する工程
(6)起毛処理する工程
(7)立毛シートを染色、仕上げ処理する工程
を順次行なうことにより達成される。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のヌバック調人工皮革を構成する極細繊維束の絡合体は、島成分が互いに溶剤溶解性の異なる2成分の繊維形成性ポリマーからなる芯鞘型極細繊維の絡合体の鞘成分ポリマーを溶解除去することにより得られる。ここで言う芯鞘型極細繊維とは、鞘成分が芯成分を被覆しておれば良く、島成分中に存在する芯成分が1本の真円型、偏芯型、あるいは芯成分が複数本となる芯鞘成分がポリマーブレンド型をも含むものである。これらの島成分および鞘成分、芯成分の断面形状は特に制限するものではない。
【0011】
鞘成分を除去した後の芯成分が形成する極細繊維の太さは3μm以下、好ましくは2μm以下、0.1μm以上が良い。3μmを越えると繊細なタッチに劣り、0.1μm未満となるとタッチは向上するが発色性が低下する。
【0012】
この様な芯成分が形成する極細繊維の絡合体を得る方法としては、島成分が互いに溶剤溶解性の異なる2成分の繊維形成性ポリマーからなる芯鞘型構造を形成し、これら島成分ポリマーとは、更に溶剤溶解性の異なる繊維形成性ポリマーを海成分に配した3成分複合紡糸法により得られた海島型複合繊維を不織布化し、海成分を除去し、更に鞘成分を除去することにより達成される。
【0013】
本発明に用いられる島成分が芯鞘型の海島型複合繊維を形成するポリマーとしては、芯成分ポリマーとしては、ポリエステルまたはその共重合体類、脂肪族ポリエステルおよびその共重合体類、ポリブチレンテレフタレートまたはその共重合体類、ポリプロピレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66またはその他の紡糸可能なポリアミド類が挙げられる。またこれらのポリマー中に必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、クエンチャー、ラジカルカャッチャーなどの安定剤、艶消し剤、制電剤、難燃剤などの添加剤を含有せしめて本発明の効果が損なわれるものではない。
【0014】
鞘成分ポリマーとしては、アルカリ可溶型ポリエステル類、ポリスチレンまたはその共重合体類、ポリエチレンまたはその共重合体類、ポリプロピレンまたはその共重合体類などが挙げられるが、中でも鞘成分を溶解除去する溶剤の取扱性およびポリウレタンの溶剤であるジメチルホルムアミドに対する耐溶解性の観点からアルカリ可溶型ポリエステル類を用い、芯成分にはポリエステルまたはポリアミド類を用いて、組み合わせることが鞘成分を溶剤で除去した後の芯成分の極細繊維の太さを均一にする上で特に好ましい。
【0015】
例えば、芯/鞘成分=ポリエステル/アルカリ可溶型ポリエステル類において、アルカリ可溶型ポリエステル類としては、後述する鞘成分の極細化処理時の高分子弾性体の劣化を考慮するとカセーソーダ溶液濃度が1重量%、処理温度90℃、処理時間20〜30分で溶解可能な特性を保持しているものが特に望ましい。かかるポリマー例としては、例えばアルカリ溶解性ポリマーが全酸成分に対し6〜12mol%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸、および0〜10mol%のイソフタル酸を含有する共重合ポリエステルを用いることが好ましいが、本発明はこれらにとらわれるものではなく、各種の2元、3元およびそれ以上の多元の共重合ポリエステルが適合可能なことは言うまでもない。
【0016】
海成分ポリマーとしては、鞘成分ポリマーと溶剤溶解性を異にするポリマーであり、ポリスチレンまたはその共重合体類、ポリエチレンまたはその共重合体類、ポリプロピレンまたはその共重合体類が挙げられる。例えば、鞘成分/海成分の組み合わせとしては、アルカリ可溶型ポリエステル類/ポリスチレンまたはその共重合体類、アルカリ可溶型ポリエステル類/ポリエチレンまたはその共重合体類、ポリエチレンまたはその共重合体類/アルカリ可溶型ポリエステル類、ポリエチレンまたはその共重合体類/ポリスチレンまたはその共重合体類などの組み合わせが挙げられるが、複合繊維の断面形成性、紡糸性、延伸性およびこれらの繊維絡合体に付与する高分子弾性体の溶剤との兼ね合いを考慮して組み合わせればよい。
【0017】
芯/鞘成分の比率としては、30/70〜95/5重量%、好ましくは50/50〜80/20重量%が良い。鞘成分が70重量%を越えると製品としては柔軟性が向上するものの耐摩耗性が低下し、5重量%未満では風合い柔軟性が低下し好ましいものではない。また島/海成分の比率としては、30/70〜95/5重量%、好ましくは40/60〜80/20重量%が良い。海成分が70重量%を越えると海成分の溶剤溶解速度が低下し、5重量%未満では紡糸性が不安定となり、且つ、後述する高速流体処理時に芯/鞘成分が形成する島繊維の束の開繊性が低くなり、平滑性が低下する。
【0018】
次いで、上記の芯/鞘/海成分からなる複合繊維を用いて不織布を形成する。その形成方法としては、複合繊維の短繊維をカード・クロスラッパーまたはランダムウェバー装置によりウエブとし、所望の目付とした後、公知の絡合処理技術を用いて不織布化する。中でもニードルパンチおよび/または高速水流噴射による絡合化が好ましい。
【0019】
製品の展開アイテムによって高強力化を必要とする場合は、複合繊維の短繊維をカード・クロスラッパーまたはランダムウェバー装置によりウエブとし、所望の目付とした後、織物または編み物に積層し、上記の絡合処理を施すことが好ましい。積層方法としては、ウエブの両面もしくは片面に織物もしくは編み物を積層し絡合処理する方法あるいは片面に積層し絡合処理した後、更に該絡合体を複数重ねて再度絡合処理し、後工程でスライスする方法などが用いられる。また更には、ニードルパンチによる織物または編み物の損傷による強力劣化を防ぐには、該織物または編み物の構成糸の一部または全てに強撚糸を使用したものが、高強力を発揮するのに良い。強撚糸の撚り数としては500T/m以上、4500T/m以下が好ましく、より好ましくは1500T/m以上、最も好ましくは2000T/m以上である。500T/m未満では糸を構成する単糸同士の絞まりが不十分であるため、ニードルにひっ掛かり損傷し易く、また撚り数が多すぎても繊維が硬くなりすぎ、製品風合柔軟化の点から好ましくなくなるので4000T/m以下が良い。また、これらの強撚糸がポリビニールアルコール系、アクリル系の糊剤が付与されたものであってもよい。
【0020】
織物もしくは編み物を構成する糸種としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントと短繊維の混紡糸などをもちいることができ、特に限定されるものではない。また織物もしくは編み物の種類としては、経編、トリコット編みで代表される緯編、レース編およびそれらの編み方を基本とした各種編み物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種織物などいずれも採用することができ、特に限定されるものではない。
【0021】
織物もしくは編み物を構成する繊維が、アルカリ可溶型ポリマーから形成され糸を用いることは、後述する芯鞘繊維の鞘成分にアルカリ可溶型ポリマーを配した構成の場合、鞘成分の溶解除去に際して同時に減量処理され、柔軟性効果をより高めるのに好ましいものである。
【0022】
上記の織物もしくは編み物を構成する単糸の平均繊維直径は、1μm〜30μm、より好ましくは2μm〜15μm、構成糸で30μm〜150μm、より好ましくは50μm〜120μmの範囲がよい。単糸が1μm未満となると製品柔軟化には好ましいが強力が出に難く、30μmを越えると逆の傾向が発生する。また構成糸が30μm未満となるとウエブとの積層時にシワが入り易く、150μmを越えるとウエブとの絡合一体化不足となり剥離し易くなり好ましくない。次いで、これらの複合繊維の絡合体を高密度化処理および/または糊剤付与処理を行なう。高密度化処理とは、熱水または熱風中での収縮処理、ヒートプレス、ウエットプレスなどであり、糊剤付与処理とは、ポリビニールアルコールなどの糊剤による形態固定化を行なうものである。
【0023】
次にこれらの処理を行なった複合繊維の絡合体の海成分ポリマーを島成分(芯/鞘構造)に非溶解性の溶剤で溶解除去する。この処理を施すことにより、芯/鞘構造を有する極細繊維の束が絡合したシートを得ることができる。
【0024】
このシートにウオータージェットパンチなどの高速流体絡合処理を施す。シート中に糊剤などが付与されている場合は、この絡合処理により除去することが可能である。
【0025】
ウオータージェットパンチの水圧としては、10〜120kg/cm2 、好ましくは40〜80kg/cm2 が良い。10kg/cm2 未満では、シート表層の極細繊維化した島成分(芯/鞘構造)が形成する束が十分に開繊せず、これら開繊した繊維束の絡合が得に難く、また120kg/cm2 を越えると島成分が損傷し、また経済的に不利である。ウオータージェットパンチを施すことにより、シート構造は表層部分において芯/鞘構造を有する極細繊維の本数が異なる束が交絡した状態を主たる構造とする絡合層(A)が形成され、その下層においては同じ本数の芯/鞘構造を有する極細繊維の束が交絡した状態を主たる構造とする絡合層(B)が形成されてなるシート構造が得られるものである。
【0026】
次いで、このシートに高分子弾性体を付与する。本発明に用いられる高分子弾性体とは溶剤系または水系のポリウレタンエラストマー、アクリロニトリル・ブタジエンラバー、ブタジエンラバー、天然ゴム、ポリ塩化ビニール、ポリアミドなどが挙げられる。中でも本発明プロセスにおける加工性および最終製品品位などの観点から、ポリウレタンエラストマーが好ましく、平均分子量が500〜3000のポリエステルジオール系、ポリエーテルジオール系、ポリカーボネートジオール系を単独もしくは組み合わせ用いたものが良い。中でも耐アルカリ性のあるポリエーテルジオール系、ポリカーボネートジオール系ポリウレタンが特に好ましく用いられる。これらの高分子弾性体中に必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、クエンチャー、ラジカルカャッチャーなどの安定剤、顔料などの着色剤、制電剤、難燃剤、柔軟剤、凝固調整剤などの添加剤を配合しても本発明の効果が損なわれるものではない。これらの高分子弾性体をシートに含浸し、弾性体を固化する。
【0027】
かくして得られたシートは、シート厚さ方向断面の表層部分から芯/鞘構造を有する極細繊維が分散し実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層(A)が形成され、絡合層(A)の内部に高弾性体が存在し、極細繊維と接着し、その下層においては極細繊維が束状に集合した状態を主たる構造とする絡合層(B)が形成され、絡合層(B)の内部に高分子弾性体が存在し、極細繊維と接着して、絡合層が形成されてなるシート構造が形成される。絡合層(A)、(B)の極細繊維間あるいは束内部に高分子弾性体をより多く付着せしめ、高分子弾性体の皮膜同志の接着性をより強固にすることは、最終製品をヌバックライクな緻密な表面品位を得る上で、また耐摩耗性を向上させる上で好ましいものである。本発明のシート絡合構造例としては、シートの厚さ方向断面において(A)/(B)として説明しているが、(A)/(B)/(A)であっても何ら差し支えない。
【0028】
なお、前記絡合層(A)、(B)は、層理や層境界が明瞭の存在するとは、限らない。特に限定されるものではないが、おおよその目安として、立毛の根本部位から80μm以内の深さの部分に絡合層(A)が存在する。
【0029】
かかる構造とするためには、この高分子弾性体を付与したシートを更に、必要に応じてヒートプレス処理した後、高分子弾性体の膨潤剤に浸漬し、さらに圧縮し、その後、該膨潤剤を水系溶剤で除去し、乾燥することが良い。
【0030】
膨潤剤としては水と親和性の良い溶剤であって、この溶剤を水で希釈したものが好ましい。この際の溶液濃度としては、高分子弾性体を溶解せず膨潤させる濃度であって、かつ、該シートをこの膨潤剤で処理した後、1/2の厚さに圧縮し解放した後、元の厚さに対し90%以下となる程度の効果を有するのが望ましい。 かかる溶剤の具体例としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイドなどであり、膨潤剤としてはかかる溶剤を水で適宜希釈して得られる。この膨潤剤濃度は用いる高分子弾性体により異なり、一概には言えないが一つの目安としては、60%以上、より好ましくは80%以上が良い。60%未満ではシートの厚み減少率が低く緻密化不足となり、かつ極細繊維の束内への高分子弾性体の移行性が上らず、また膨潤剤濃度が余りにも高いと高分子弾性体が溶解し、形態安定性が低下し好ましくない。かかる膨潤剤への該シートの浸漬時間および圧縮比率は、高分子弾性体の種類、付量などを考慮し適宜調整すればよい。
【0031】
次いで、上記の芯/鞘構造を有する極細繊維に高分子弾性体が付与されたシート中の鞘成分ポリマーを溶解除去する。溶解除去に当たっては、鞘成分ポリマーは溶解するが芯成分ポリマーおよび高分子弾性体に対しては非溶解性の溶剤に浸漬し、芯/鞘構造を有する島成分繊維の更なる極細化処理を行なう。
【0032】
例えば、芯/鞘成分ポリマーがポリエステル/ポリエチレンで高分子弾性体がポリウレタンの場合は、熱トルエン中で浸漬、圧搾を繰り返すことにより、また芯/鞘成分ポリマーがポリエステル/アルカリ溶解性ポリマーで高分子弾性体がポリウレタンの場合は、適宜濃度を調整したカセイソーダの熱水溶液中に浸漬、圧搾を繰り返すことにより、鞘成分ポリマーを除去し、平均繊維径3μm以下のポリエステル極細繊維の本数の異なる束が交絡し、その下層において該極細繊維の本数が同じ束が交絡し、それらの束内部には高分子弾性体が存在するももの、極細繊維とは高分子弾性体が実質的に非接着な構造を有するシートを形成することが可能となる。後者のアルカリ溶解性ポリマーの溶解に当たって、織物または編み物がアルカリ溶解可能な構成糸と一体化されたシートである場合は、鞘成分の溶解除去と同時に構成糸の一部を減量処理することが可能となり、風合いの極めて柔軟な製品を得ることが可能となる。アルカリ溶解に当たっては、事前に酸処理するかもしくはマイクロ波を利用した溶解促進法など適宜併用し、マングルによる圧縮、サーキュラー、ウインス、バイブロワッシャーなどを用い、それぞれの溶剤中で処理する。かかる処理条件設定に当たっての濃度、温度、処理時間は、除去成分の溶解性や成分比率を加味しながら適宜設定する必要がある。
【0033】
高分子弾性体がポリウレタンエラストマーの場合は、アルカリ濃度が低いときはポリエステル系あるいはポリエステル・ポリエーテルジオール系でも良いが、アルカリ濃度を上げて極細化しなければならない場合は、ポリエーテル系、ポリカーボネート系ポリウレタンもしくはこれらの併用系が特に好ましい。
【0034】
次いで、芯成分の極細繊維の絡合体に高分子弾性体が付与されたシートをサンドペーパー、ブラシ、砥石など常法を用い、少なくとも高速流体処理面を起毛処理する。
【0035】
この立毛シートを芯成分繊維の染色性を考慮し分散染料、酸性染料、バット染料またはこれらを組み合わせて染色し、必要に応じて柔軟剤、制電防止剤、撥水剤などを付与し、揉み加工、整毛加工などの仕上げ処理を行うものである。
【0036】
また、製品の柔軟性より高めるには、上記の一連の工程中において、芯鞘構造を有する極細繊維に高分子弾性体を付与した後、少なくとも高速流体処理面を起毛処理し、染色工程において染色前または後で芯鞘型構造の鞘成分を溶解除去し、芯成分の極細化を図ることが好ましい。この工程を通す場合の芯鞘ポリマーの構成としては、鞘成分ポリマーがアルカリ溶解可能なポリマーと組み合わせることが重要であり、且つ、ポリウレタンの劣化を考慮するとアルカリ濃度は、極力低め賭することが好ましく、そのポリマーとしては、前述したように全酸成分に対し6〜12mol%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸、および0〜10mol%のイソフタル酸を含有する共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
【0037】
アルカリ溶解性が低い場合は、立毛シートの表層部と内部では均一な鞘成分除去がし難く、鞘成分繊維の繊維径が異なり、発色性への影響が生じる場合は温度、濃度、時間など適宜選択すればよい。
【0038】
かくして得られたシートは、平均繊維径が3μm以下の極細繊維の立毛層と立毛繊維から連続する極細繊維が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層(A)と極細繊維が束状に集合した状態を主たる構造とする絡合層(B)が厚み方向に連なった絡合構造を有した、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および絡合層(A)、(B)の極細繊維束内部に高分子弾性体が存在し、極細繊維と実質的に非接着な構造を有する柔軟性に優れたヌバック調人工皮革が得られるものである。
【0039】
【実施例】
以下に、本発明を実施例にて詳細に説明するが、本発明の有効性や権利の範囲はこれによって限定、制約をうけるものではない。むしろ次の応用、発展をもたらすものである。
【0040】
(実施例1)
島成分の芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分が全酸成分に対し8mol%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸および1mol%のイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート、海成分がポリスチレンからなる芯/鞘比率=70/30重量%、島/海比率=70/30重量%、島数36島、複合繊維デニール約3d、カット長約51mm、ケン縮数約12山/inとした3成分系の高分子相互配列体繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、ニードルパンチして目付350g/m2 のフェルトを作り、収縮処理し乾燥した。このシートをトリクレンに浸漬し、圧搾を繰り返し、海成分を除去し、芯鞘型の極細繊維の束が絡合したシートを得た。
【0041】
このシートの片面を水圧80kg/cm2 としたウオータージェットパンチを施し、乾燥し、DMF系のポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタン溶液を固形分として対島繊維当たり約30部となるように含浸し、湿式凝固し、水洗した後、乾燥した。次いで、カセーソーダ溶液濃度1重量%、温度90℃中で20分間、浸漬・マングル圧搾を繰り返し行い、鞘成分の除去を行ない湯洗した後、乾燥し芯成分の極細繊維の絡合体にポリウレタンが付与されたシートを得た。
【0042】
このシートのウオータージェットパンチ面を粒度#400のサンドペーパーで起毛処理を施し、立毛シートとした。この立毛シートを分散染料を用い、サーキュラー染色機でブラウン系に染色し、立毛表面をブラッシングし乾燥した。
【0043】
かくして得られたシートは、緻密な立毛で平滑性、柔軟性に優れたライティング効果を有するヌバック調の人工皮革であった。この立毛シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、鞘成分が除去された平均繊維径が2.3μmのポリエチレンテレフタレートの極細繊維の立毛層と該極細繊維の36本の束が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層と束状の極細繊維が集合した状態を主たる構造とする絡合層が連なった、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および各絡合層の極細繊維の束内部に高分子弾性体が存在し、極細繊維と実質的に非接着な構造を有していることが観察された。
【0044】
(実施例2)
実施例1において、ウオータージェットパンチを施し、乾燥し、DMF系のポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタン溶液を固形分として対島繊維当たり約30部となるように含浸し、湿式凝固し、水洗した後、乾燥したシートを用い、以下の工程で加工した。
【0045】
先ず、このシートをジメチルホルムアミドの90重量%水溶液中に浸漬すると共に厚みの約半分のクリアランスで圧縮し、その後、水中に浸漬し溶剤除去を行い、乾燥した。次いで、カセーソーダ溶液濃度1重量%、温度90℃中で20分間、浸漬・マングル圧搾を繰り返し行い、鞘成分の除去を行ない湯洗した後、乾燥し芯成分の極細繊維の絡合体にポリウレタンが付与されたシートを得た。このシートのウオータージェットパンチ面を粒度#400のサンドペーパーで起毛処理を施し、立毛シートとした。この立毛シートを分散染料を用い、サーキュラー染色機でブラウン系に染色し、立毛表面をブラッシングし乾燥した。
【0046】
かくして得られたシートは、実施例1より平滑で緻密な短い立毛で被覆された柔軟性、ライティング効果を有するヌバック調の人工皮革であった。この立毛シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、鞘成分が除去された平均繊維径が約2.3μmのポリエチレンテレフタレートの極細繊維の立毛層と該極細繊維の36本の束が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層と束状の極細繊維が集合した状態を主たる構造とする絡合層が連なった、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および各絡合層の極細繊維の束内部に高分子弾性体が、極細繊維と実質的に非接着な構造を有して存在していることが観察された。
【0047】
(実施例3)
実施例1と同じ高分子相互配列体繊維のステープルを用いたウェブをポリエチレンテレフタレートの75D−72f、撚り数2500T/mの生糸仮撚糸使いの平織物(目付70g/m2 )に積層し、軽くニードルパンチを行い目付350g/m2 のフェルトを作成し、収縮処理し乾燥した。このシートをトリクレンに浸漬し、圧搾を繰り返し、海成分を除去し、芯鞘型の極細繊維の束が構成する絡合層が織物と一体化したシートを得た。
【0048】
次いで、芯鞘型の極細繊維の束が構成する絡合表面を水圧80kg/cm2 としたウオータージェットパンチを施し、乾燥し、DMF系のポリエーテル系ポリウレタン溶液を固形分として対島繊維当たり約30部となるように含浸し、湿式凝固し、水洗した後乾燥した。このシートをジメチルホルムアミドの90重量%水溶液中に浸漬すると共に厚みの約半分のクリアランスで圧縮し、その後、水中に浸漬し溶剤除去を行い、乾燥した。次いで、カセーソーダ溶液濃度1重量%、温度90℃中で30分間、浸漬・マングル圧搾を繰り返し行い、鞘成分の除去を行ない湯洗した後乾燥し、芯成分の極細繊維の絡合層が織物と一体化し、且つ、ポリウレタンが付与されたシートを得た。
【0049】
このシートのウオータージェットパンチ面を粒度#400のサンドペーパーで起毛処理を施し、立毛シートとした。この立毛シートを分散染料を用い、サーキュラー染色機でブラウン系に染色し、立毛表面をブラッシングし乾燥した。
【0050】
かくして得られたシートは、平滑性で緻密な短い立毛で被覆された柔軟性、ライティング効果を有する強力に優れたヌバック調の人工皮革であった。この立毛シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、鞘成分が除去された平均繊維径が約2.3μmのポリエチレンテレフタレートの極細繊維の立毛層と該極細繊維の36本の束が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層と束状の極細繊維が集合した状態を主たる構造とする絡合層が連なった、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および各絡合層の極細繊維の束内部に高分子弾性体が、極細繊維と実質的に非接着な構造を有して存在していることが観察された。
【0051】
(実施例4)
実施例2でジメチルホルムアミドの90重量%水溶液中に浸漬すると共に厚みの約半分のクリアランスで圧縮し、その後、水中に浸漬し溶剤除去を行い、乾燥したシートを用い、以下の工程で加工した。
【0052】
このシートのウオータージェットパンチ面を粒度#400のサンドペーパーで起毛処理を施し、立毛シートとした。次いで、カセーソーダ溶液濃度1重量%、温度90℃中で30分間、サーキュラー染色機で鞘成分の溶解除去を行ない、湯洗した。引き続き分散染料と染色助剤を投入し、ブラウン系に染色し立毛表面をブラッシングし乾燥した。
【0053】
かくして得られたシートは、実施例2より柔軟で立毛の開繊性が良く、緻密性、平滑性、ライティング効果を有するヌバック調の人工皮革であった。この立毛シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径が約2.3μmのポリエチレンテレフタレートの極細繊維の立毛層と該極細繊維の36本の束が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層と束状の極細繊維が集合した状態を主たる構造とする絡合層が連なった、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および各絡合層の極細繊維の束内部に高分子弾性体が存在し、極細繊維と実質的に非接着な構造を有していることが観察された。
【0054】
(比較例1)
島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分がポリスチレン、島/海比率=50/50重量%、島数36島、複合繊維デニール約3d、カット長約51mm、ケン縮数約12山/inとした高分子相互配列体繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、ニードルパンチして目付350g/m2 のフェルトを作り、,熱水中でこのフェルトを収縮処理し乾燥し、トリクロールエチレン中に浸漬、圧搾を繰り返し、海成分を除去した後、乾燥した。 このシートの片面を実施例1と同様にウオータージェットパンチを施し、ポリウレタン溶液を含浸し、水洗した後、乾燥した。次いで、このシートの実施例1と同様に起毛処理し、立毛シートとし、染色、仕上げ処理を行った。
【0055】
かくして得られたシートは、緻密な立毛で平滑性はあるものの、風合いが固く、ライティング性に劣る人工皮革であった。
【0056】
この立毛シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径が約2.1μmのポリエチレンテレフタレートの極細繊維の立毛層と該極細繊維の36本の束が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層と束状の極細繊維が集合した状態を主たる構造とする絡合層が連なった、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および各絡合層の極細繊維の束内部に高分子弾性体が存在するものの、該高分子弾性体が極細繊維と接着した構造を有していることが観察された。
【0057】
(比較例2)
比較例1でポリウレタンを付与したシートを用い、ジメチルホルムアミドの90重量%水溶液中に浸漬すると共に厚みの約半分のクリアランスで圧縮し、その後、水中に浸漬し溶剤除去を行い、乾燥した。次いで、実施例1と同様に起毛処理し、立毛シートとし、染色、仕上げ処理を行った。
【0058】
かくして得られたシートは、緻密な立毛で平滑性はあるものの、比較例1より更に風合いが極めて固く、ライティング性に劣る人工皮革であった。
【0059】
この立毛シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径が約2.1μmのポリエチレンテレフタレートの極細繊維の立毛層と該極細繊維の36本の束が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層と束状の極細繊維が集合した状態を主たる構造とする絡合層が連なった、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および各絡合層の極細繊維の束内部に高分子弾性体が存在するものの、比較例1より更に該高分子弾性体が極細繊維と接着した構造を有していることが観察された。
【0060】
【発明の効果】
本発明により、従来技術の問題点であった立毛シートの緻密化、短立毛化を図るが故の風合い硬化、製品表面の立体感を醸し出す立毛のライティング性の低下を解消し、更に前記の好ましい実施態様により、一層の柔軟化と製品強力が改良されたヌバック調人工皮革を可能としたものである。
【0061】
また、一成分からなる極細繊維の立毛シートをアルカリ減量処理する従来の技術は、表面の立毛を形成する極細繊維とシート内部の絡合層を形成する極細繊維との太さが異なり、発色性斑を誘発し易いものであったが、本発明の製造法は、両者の極細繊維の太さが実質的に同じであり、これらの問題点をも解消するものである。
【0062】
かくして得られた本発明のヌバック調人工皮革は、衣料は勿論のこと靴、鞄、帽子、手袋、椅子、カーシートなど資材類としても好適に用いることができる。

Claims (14)

  1. 平均繊維径が3μm以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維の束と高分子弾性体とからなる人工皮革において、
    (1)該極細繊維から形成された立毛層
    (2)該極細繊維が分散し、実質上束を形成していない状態を主たる構造とする絡合層(A)
    (3)該極細繊維が束状に集合した状態を主たる構造とする絡合層(B)
    が厚み方向に連なった絡合した層を有し、かつ、立毛層の根元近辺の極細繊維間および絡合層(A)、(B)の内部に高分子弾性体が存在し、極細繊維と実質的に非接着な構造を有することを特徴とする人工皮革。
  2. 請求項1に記載の人工皮革において、織物もしくは編み物と一体化された構造を有することを特徴とする人工皮革。
  3. 織物もしくは編み物の構成糸の少なくとも一部に500T/m以上、4500T/m以下の強撚糸より構成されてなることを特徴とする請求項2記載の人工皮革。
  4. 高分子弾性体がエーテル系および/またはポリカーボネート系ポリウレタンからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の人工皮革。
  5. 島成分が芯鞘型構造を有し、溶剤溶解性を異にする2成分の非弾性ポリマーから形成され、鞘成分除去後の芯成分の平均繊維径が3μm以下で、かつ、海成分が該島成分と溶剤溶解性を異にするポリマーからなる3成分の海島芯鞘型複合繊維を用い不織布を形成した後、以下の工程(1)〜(7)を順次行なうことを特徴とする人工皮革の製造方法。
    (1)高密度化処理および/または糊剤付与処理を行なう工程
    (2)海成分を除去する工程
    (3)高速流体絡合処理を行なう工程
    (4)高分子弾性体を付与し、凝固する工程
    (5)島成分の鞘成分を溶解除去する工程
    (6)起毛処理する工程
    (7)立毛シートを染色する工程
    (8)仕上げ処理する工程
  6. 請求項5記載の人工皮革の製造方法において、該高分子弾性体を付与し、凝固する工程(4)と該島成分の鞘成分を溶解除去する工程(5)の間に以下の工程を挿入することを特徴とする人工皮革の製造方法。
    (4a)高分子弾性体の膨潤剤に浸漬し、圧縮する工程
    (4b)膨潤剤を除去し、乾燥する工程
  7. 請求項5または6に記載の人工皮革の製造方法において、該島成分の鞘成分を溶解除去する工程(5)、該起毛処理する工程(6)、該立毛シートを染色する工程(7)の順序を、該工程(6)、(5)、(7)の順、または該工程(6)、(7)、(5)の順に変えることを特徴とする人工皮革の製造方法。
  8. 島成分の鞘成分形成ポリマーが、アルカリに溶解可能で、かつ、高分子弾性体の溶剤に不溶であるアルカリ溶解性ポリマーからなることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
  9. アルカリ溶解性ポリマーがテレフタル酸とエチレングリコールとを主たる構成成分とし、全酸成分に対し6〜12mol%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびまたは0〜10mol%のイソフタル酸を含有する共重合ポリエステルからなることを特徴とする請求項8に記載の人工皮革の製造方法。
  10. 海島型複合繊維の不織布が織物もしくは編み物と絡合一体化されたものであることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
  11. 該織物または編み物の構成糸の少なくとも一部に500T/m以上、4500T/m以下の強撚糸より構成されてなることを特徴とする請求項10に記載の人工皮革の製造方法。
  12. 該織物または編み物の構成糸がアルカリ可溶型ポリマーからなることを特徴とする請求項10または11に記載の人工皮革の製造方法。
  13. 高分子弾性体がエーテル系および/またはポリカーボネート系ポリウレタンからなることを特徴とする請求項5〜12のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
  14. 請求項5〜13のいずれかに記載の人工皮革の製造方法により得ることができることを特徴とする人工皮革。
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