JP3992281B2 - 疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、球状黒鉛鋳鉄部材の疲労強度を向上させる技術としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1においては、重量比で、C:2.6〜4.0%、Si:1.5〜3.5%、Mn:0.1〜1.0%、Mo:0.03〜0.09%、Cu:0.3〜1.5%、Mg:0.02〜0.10%、残部が実質的にFeからなる球状黒鉛鋳鉄部材を、850〜1000℃の温度で4時間以内加熱保持してオーステナイト化した後に、220〜260℃に急冷し、該温度で30分以上保持するオーステンパ処理を行い、次いで該部材にショットピーニングを行うことにより、球状黒鉛鋳鉄部材の疲労強度の向上を図っている。
【0003】
【特許文献1】
特公平1−16886号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来技術に係る特許文献1では、球状黒鉛鋳鉄部材の疲労強度を向上させるために、複雑な熱処理やショットピーニングを行わなければならず、熱処理の制御が困難であると同時に、熱処理及びショットピーニングに起因してコストアップを招いていた。
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複雑な熱処理やショットピーニングを行わなくても、鍛造品並みの疲労強度を発揮することの可能な疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した実情に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、従来技術のように複雑な熱処理やショットピーニングを行わなくても、球状黒鉛鋳鉄材のC、Si、Sn、Mnの含有量を所定量となるように調製しさえすれば、球状黒鉛鋳鉄部材の疲労強度を鍛造品並みに向上させることができるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材は、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有する球状黒鉛鋳鉄にて形成されたことをその要旨としている。
【0008】
ここで、Cの含有量を3.5〜4.0%に設定したのは、3.5%未満の場合、鋳造性が悪化してしまうおそれがあり、4.0%を超える場合、カーボンドロスが発生してしまうおそれがあるからである。また、Siの含有量を2.5〜3.3%に設定したのは、2.5%未満の場合、基地組織にセメンタイトが析出してしまうおそれがあり、3.3%を超える場合、基地組織がシリコンフェライト化してしまうおそれがあるからである。更に、Snの含有量を0.07〜0.10%に設定したのは、0.07%未満の場合、球状黒鉛鋳鉄部材が鍛造品並みの疲労強度を発揮することができないからであり、0.10%を超える場合、球状黒鉛鋳鉄部材の伸びがなくなって強度が低下してしまうからである。また、Mnの含有量を0.4〜1.0%に設定したのは、0.4%未満の場合、球状黒鉛鋳鉄部材が鍛造品並みの疲労強度を発揮することができないからであり、1.0%を超える場合、コストが嵩むだけで、球状黒鉛鋳鉄部材の疲労強度の更なる向上が期待できないからである。
【0009】
なお、本明細書では、%は特に断らない限り、重量%を意味する。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、C、Si、Sn、Mnの含有量を所定量となるように調製した球状黒鉛鋳鉄部材を形成したため、該球状黒鉛鋳鉄部材は、鍛造品並みの疲労強度を発揮することが可能となる。換言すれば、球状黒鉛鋳鉄のC、Si、Sn、Mnの含有量を所定量となるように調製するだけで、高疲労強度材を得ることができる。
【0011】
請求項1に記載の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材において、前記球状黒鉛鋳鉄部材の回転曲げ疲れ試験において、繰返し数が107回における球状黒鉛鋳鉄部材の繰返し応力は、320MPa以上であることが好ましい(請求項2)。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果がより確実に奏される。
【0013】
請求項3に記載の発明の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材の製造方法は、片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して球状化剤とSn及びMnとを添加して、該Sn及びMnを含有し、かつ球状化処理された球状黒鉛鋳鉄の溶湯を鋳造することにより、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成から形成されたことをその要旨としている。
【0014】
なお、C、Si、Sn、Mnの含有量を所定値に設定した理由は、請求項1での理由と同じである。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して球状化剤とSn及びMnとを添加することで、該溶湯は球状化剤の作用によって球状化処理されて、Sn及びMnを含有する球状黒鉛鋳鉄の溶湯となる。このとき、球状黒鉛鋳鉄の溶湯は、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有するように調製されており、この調製された球状黒鉛鋳鉄の溶湯を鋳造することで、疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材が製造される。このように製造された球状黒鉛鋳鉄部材においては、従来技術のように複雑な熱処理やショットピーニングを行わなくても、鍛造品並みの疲労強度が発揮される。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材の製造方法において、前記鋳造された球状黒鉛鋳鉄のA1変態完了後に解枠することをその要旨としている。
【0017】
一般に、解枠(型ばらし)タイミングの違い〔空冷時の鋳物(球状黒鉛鋳鉄部材)の温度の違い〕により、得られる鋳物の性質にはバラツキが生じやすくなるが、請求項4に記載の発明では、鋳造された球状黒鉛鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄部材)がA1変態を完了した後に解枠するものであるため、解枠タイミングの違いに起因した球状黒鉛鋳鉄部材の性能(特に疲労強度)のバラツキが生じにくい。すなわち、A1変態が完了した後に解枠する場合、A1変態完了後における解枠タイミングの違いにより、解枠後に大気(空気)に接触する球状黒鉛鋳鉄部材には温度差が生じることとなるが、この温度差は冷却後の球状黒鉛鋳鉄部材の性質にバラツキを生じさせるような悪影響を及ぼすものではない。従って、請求項4に記載の発明においては、球状黒鉛鋳鉄がA1変態を完了すると同時に解枠した、球状黒鉛鋳鉄がA1変態を完了した後にそのまま放置してから解枠したり等することが可能となり、解枠するタイミングを厳密に調整する必要がなくなる(一例として、例えばA1変態完了前に解枠するような場合には、解枠するタイミングを厳密に調整しなければならないことがある)。
【0018】
上述したように、請求項4に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄がA1変態を完了した後に解枠するだけで、得られる球状黒鉛鋳鉄部材の性能にはバラツキが生じにくくなり、球状黒鉛鋳鉄部材の品質を安定させることができるようになる。また、解枠タイミングを厳密に調整しなくて済むため、解枠工程の管理を簡単に行うこともできる。更に、解枠タイミングを厳密に調整する必要がないため、製造ラインの可能な限り鋳造枠数を増やすことで、球状黒鉛鋳鉄部材の生産性を向上させることも可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を具体化した態様について詳述する。この発明の実施の形態では、上述した課題を解決するための手段に記載した技術的事項を補足し、あるいは更に詳細に説明することとした。
【0020】
本発明の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材は、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有する球状黒鉛鋳鉄にて形成する必要がある。また、Fe、C、Si、Sn及びMn以外の成分組成として、Mg:0.02〜0.06%、P:0.03%以下、S:0.01%以下の成分組成を有していてもよい。Mgの含有量を0.02〜0.06%に設定したのは、0.02%未満の場合、黒鉛の球状化不良が発生してしまうおそれがあり、0.06%を超える場合、基地組織がセメンタイト化してしまうおそれがあるからである。また、Pの含有量を0.03%以下に設定したのは、0.03%を超えると、ステダイトを形成してしまうおそれがあるからであり、Sの含有量を0.01%以下に設定したのは、0.01%を超えると、溶湯の流動性が悪化し、ひけを増大させてしまうおそれがあるからである。
【0021】
球状黒鉛鋳鉄部材としては、ダブルカルダン型ユニバーサルジョイントのカップリングヨークやソケットヨーク等が挙げられるが、特にカップリングヨークやソケットヨークに限定されるものではない。ダブルカルダン型ユニバーサルジョイントは、駆動軸から被駆動軸へ回転トルクを伝達する際に用いられるものであり、このユニバーサルジョイントのカップリングヨークやソケットヨークは、鍛造品並みの疲労強度が必要とされる部品である。本発明の球状黒鉛鋳鉄部材は、鍛造品並みの疲労強度が必要とされる部品に適用することができる。
【0022】
本発明に供される片状黒鉛鋳鉄の溶湯は、特に成分組成が限定されるものではない。要は、出発材としての片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して、球状化剤とSn(スズ)及びMn(マンガン)とを添加して球状黒鉛鋳鉄の溶湯となるように調製した際に、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有するようになるのであれば、出発材としての片状黒鉛鋳鉄溶湯は、どのような成分組成の片状黒鉛鋳鉄溶湯であってもよい。
【0023】
球状化剤(鋳鉄中の黒鉛を球状に晶出させるための添加剤)としては、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Ce(セリウム)等を含有する合金を例示することができるが、球状化剤の球状黒鉛鋳鉄に対する疲労強度への影響を考慮した場合、Mg含有の合金を使用する必要がある。Mg含有の合金としては、Fe(鉄)−Si(シリコン)−Mg(マグネシウム)系、Ni(ニッケル)−Mg(マグネシウム)系、Cu(銅)−Mg(マグネシウム)系等を例示できるが、Fe、Si及びMg以外の成分(Ni、Cu等)の球状黒鉛鋳鉄に対する疲労強度への影響を考慮した場合、Fe−Si−Mg系を使用することが好ましい。また、球状化剤としてMg合金を使用する際に、接種剤としてのフェロシリコン(Fe−Si系)を併用するようにしてもよいし、併用しなくてもよい。フェロシリコンとしては、Fe−45%Si−4%Mg、Fe−30%Si、Fe−75%Si等を例示できる。なお、Fe−Si−Mg系のフェロシリコンは、接種剤としての機能だけでなく、球状化剤としての機能も発揮することは言うまでもない。
【0024】
上述した片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して球状化剤を添加する方法としては、取鍋の底に球状化剤を配置した状態で該取鍋内へ溶湯を注入することによって添加(いわゆる置き注ぎによる添加)したり、取鍋内への溶湯の注入時と同時に該溶湯の流れの中に球状化剤を供給して添加したり、鋳型内に球状化剤を予め配置した状態で該鋳型内に溶湯を注湯することによって添加したり等する方法が挙げられる。ここで、作業性や実用性を考慮した場合には、置き注ぎによる球状化剤の添加方法を採用することが好ましい。
【0025】
片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して球状化剤を添加する場合には、Sn(スズ)及びMn(マンガン)も添加しなければならない。Snとしては、粒状や塊状等のSnを用いることができる。一方、Mnとしては、Fe−Mn系等の合金を用いることができる。片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対してSn及びMnを添加する方法としては、既述した球状化剤の添加方法と同じ方法を採用することができる。特に、片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対してSn及びMnを添加する場合には、球状化剤の添加方法と同一の方法を用いると共に、球状化剤の添加と同時にSn及びMnの添加も行うようにすることが好ましい。
【0026】
球状黒鉛鋳鉄の溶湯としては、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有するように調製しなければならない。また、Fe、C、Si、Sn及びMn以外の成分組成として、Mg:0.02〜0.06%、P:0.03%以下、S:0.01%以下の成分組成を有するように調製してもよい。Mg、P、Sの含有量を所定値に設定した理由は、既述した球状黒鉛鋳鉄の成分組成での理由と同じである。
【0027】
球状黒鉛鋳鉄の溶湯中のSnの含有量について言及すると、Snの含有量は、
0.070〜0.099%が好ましく、0.070〜0.098%、0.070〜0.097%がより好ましく、0.071〜0.096%、0.071〜0.095%が更に好ましい。一方、球状黒鉛鋳鉄の溶湯中のMnの含有量について言及すると、Mnの含有量は、0.45〜0.9%、0.47〜0.8%が好ましく、0.5〜0.7%、0.5〜0.6%がより好ましく、0.51〜0.55%、0.52〜0.53%が更に好ましい。
【0028】
鋳型としては、生砂、フラン砂等により造型した砂型を採用することができる。鋳型のキャビティに上述した球状黒鉛鋳鉄の溶湯を注湯して鋳造することにより、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有する球状黒鉛鋳鉄にて形成された球状黒鉛鋳鉄部材を製造することができるようになる。
【0029】
このように球状黒鉛鋳鉄部材を製造する際において、鋳型のキャビティに注湯して鋳造された球状黒鉛鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄部材)のA1変態完了後に該鋳型を解枠(型ばらし)することは好ましい。A1変態完了後に鋳型を解枠することで、鋳型の解枠タイミングの違いに起因した球状黒鉛鋳鉄部材の性能(特に疲労強度)のバラツキが生じにくくなる。すなわち、A1変態が完了した後に鋳型を解枠する場合、A1変態完了後における鋳型の解枠タイミングの違いにより、解枠後に大気(空気)に接触する球状黒鉛鋳鉄部材には温度差が生じることとなるが、この温度差は冷却後の球状黒鉛鋳鉄部材の性質にバラツキを生じさせるような悪影響を及ぼすものではない。従って、A1変態完了後に解枠しさえすれば、球状黒鉛鋳鉄部材は、その機能を十分に発揮することが可能な状態で製造されることとなる。
【0030】
以上のようにして製造された球状黒鉛鋳鉄部材の疲労強度(繰返し応力)を求める場合には、金属材料の回転曲げ疲れ試験方法(JIS Z 2274)に準じて行う。この場合、例えば、図1に示した1インチYブロック形状の砂型に上述した球状黒鉛鋳鉄の溶湯を注湯して鋳造することで、1インチYブロック形状の供試材を形成し、この供試材から図2に示した回転曲げ疲れ試験用の試験片を切削加工等により作製して行うことができる。
【0031】
本発明の球状黒鉛鋳鉄部材は、鍛造品並みの疲労強度を有している必要があり、回転曲げ疲れ試験において、球状黒鉛鋳鉄部材の繰返し数が107回における繰返し応力(疲労強度)は、320MPa以上であることが好ましい。また、この繰返し応力の値は、325MPa以上、328MPa以上であることがより好ましく、330MPa以上、337MPa以上、340MPa以上であることが更に好ましい。
【0032】
【実施例】
本発明を更に具体化した実施例1及び実施例2、並びに、比較例1及び比較例2について説明する。
【0033】
(実施例1)
まず、出発材としての片状黒鉛鋳鉄溶湯を準備すると共に、取鍋の底に所定量のFe−45%Si−4%Mgの球状化剤と所定量のSn粒及びFe−Mn系の合金とを配置した。そして、準備した1500℃の片状黒鉛鋳鉄溶湯を取鍋内へ注入することにより、該片状黒鉛鋳鉄溶湯に対してSn及びMnを複合添加する。このとき、溶湯はMgの作用によって球状化処理され、Sn及びMnを含有する球状黒鉛鋳鉄の溶湯となる。この球状黒鉛鋳鉄の溶湯の成分組成を表1に示す。なお、表1においては、Fe及び不可避的不純物の成分組成を省略してある。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、取鍋内の球状黒鉛鋳鉄溶湯(注湯温度:1400℃)を図1に示した1インチYブロック形状の砂型のキャビティに注湯して鋳造する。このとき、砂型内の球状黒鉛鋳鉄がA1変態を完了した後に型ばらしを行うことで、砂型から1インチYブロック形状の供試材を得た。得られた供試材の組織写真を図3に示す。その後、供試材を切削加工等して、供試材から図2に示すような形状の回転曲げ疲れ試験用の試験片を作製した。最後に、図2に示した試験片を用いて、回転曲げ疲れ試験方法(JIS Z 2274)を行うことにより、試験片(実施例1)の疲労強度(繰返し応力)を調査した。その結果を図4に示す。
【0036】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1でのSn粒の添加量を実施例1の場合よりも若干少なくしただけであり、それ以外の部分では、実施例1と同様にして行った。なお、実施例2に係る球状黒鉛鋳鉄の溶湯の成分組成を表1に示すと共に、試験片(実施例2)の疲労強度(繰返し応力)の結果を図4に示す。
【0037】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1でのSn粒及びFe−Mn系の合金の添加量を実施例1の場合よりも少なくしただけであり、それ以外の部分では、実施例1と同様にして行った。なお、比較例1に係る球状黒鉛鋳鉄の溶湯の成分組成を表1に示すと共に、試験片(比較例1)の疲労強度(繰返し応力)の結果を図4に示す。
【0038】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1でのSn粒に代えてCu板を用いると共に、実施例1でのFe−Mn系の合金の添加量を実施例1の場合よりも若干多くしたものであり、それ以外の部分では、実施例1と同様にして行った。なお、比較例2に係る球状黒鉛鋳鉄の溶湯の成分組成を表1に示すと共に、試験片(比較例2)の疲労強度(繰返し応力)の結果を図4に示す。
【0039】
(実施例及び比較例の疲労強度)
図4から理解できるように、繰返し数が107回(図4では、1.00E+07と表示)において、実施例1の試験片の繰返し応力(疲労強度)は337.2MPaであり、実施例2の試験片の繰返し応力(疲労強度)は325.8MPaであり、比較例1の試験片の繰返し応力(疲労強度)は279.6MPaであり、比較例2の試験片の繰返し応力(疲労強度)は308.9MPaであることがわかる。このことから、実施例1及び実施例2の試験片は、比較例1及び比較例2の試験片よりも疲労強度に優れていることを確認できると共に、鍛造品の疲労強度(320MPa以上)と同等の疲労強度を発揮することができることも確認できた。
【0040】
また、実施例1と実施例2との疲労強度を比較した場合、繰返し数が107回における実施例1の試験片の繰返し応力(疲労強度)は337.2MPaであり、繰返し数が107回における実施例2の試験片の繰返し応力(疲労強度)は325.8MPaであるため、実施例1の方が実施例2よりも疲労強度に優れていることがわかった。ここで、表1の実施例1及び実施例2の成分組成を比較検討してみると、Si、Mn、P、S、Mgの含有量はほとんど変わらないものの、Snの含有量に0.02%の差が生じているため、Snが疲労強度に影響を及ぼしているものと推測される。
【0041】
比較例1においては、C(3.66%)、Si(2.98%)、Sn(0.043%)の含有量が所定値を満足しているものの、Mnの含有量が0.21%であって、0.4〜1.0%という所定値を満足していない。このようにMnの含有量が0.4%未満であることにより、比較例1の試験片が鍛造品並みの疲労強度(320MPa以上)を発揮できないことがわかる。
【0042】
また、比較例2においては、C(3.65%)、Si(2.96%)、Mn(0.64%)の含有量が所定値を満足しているものの、Snが含有されておらず
、しかもSnの代わりにCuが0.59%含有されている。このようにSnの含有量が0.07%未満であることにより、比較例2の試験片が鍛造品並みの疲労強度(320MPa以上)を発揮できないことを確認できた。
【0043】
【発明の効果】
請求項1,請求項2に記載の発明によれば、鍛造品並みの疲労強度を発揮することができる。また、請求項2に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の回転曲げ疲れ試験において、繰返し数が107回における球状黒鉛鋳鉄部材の繰返し応力は320MPa以上となるため、鍛造品並みの疲労強度をより確実に発揮することができるようになる。
【0044】
請求項3に記載の発明によれば、従来技術のように複雑な熱処理やショットピーニングを行わなくても、鍛造品並みの疲労強度を発揮することができる。また、請求項3に記載の発明によれば、複雑な熱処理やショットピーニングが必要ないため、簡単、かつ安価に疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材を製造することができるようになる。
【0045】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果をより確実なものとすることができる。また、請求項4に記載の発明によれば、A1変態完了後に解枠するため、製造される球状黒鉛鋳鉄部材の性能のバラツキを抑制できて、球状黒鉛鋳鉄部材の品質を安定させることができるようになる。更に、解枠タイミングを厳密に調整しなくて済むため、解枠工程の管理を簡単に行うこともできる。加えて、解枠タイミングを厳密に調整する必要がないため、製造ラインの可能な限り鋳造枠数を増やすことで、球状黒鉛鋳鉄部材の生産性を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)1インチYブロック形状の砂型を示す側面図であり、(b)1インチYブロック形状の砂型を示す正面図である。
【図2】回転曲げ疲れ試験用の試験片を示す正面図である。
【図3】実施例1の供試材の組織を100倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図4】実施例及び比較例の回転曲げ疲れ試験の結果を示すグラフである。
Claims (4)
- 重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有する球状黒鉛鋳鉄にて形成されたことを特徴とする疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材。
- 前記球状黒鉛鋳鉄部材の回転曲げ疲れ試験において、繰返し数が107回における球状黒鉛鋳鉄部材の繰返し応力は、320MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材。
- 片状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して球状化剤とSn及びMnとを添加して、該Sn及びMnを含有し、かつ球状化処理された球状黒鉛鋳鉄の溶湯を鋳造することにより、重量比で、C:3.5〜4.0%、Si:2.5〜3.3%、Sn:0.07〜0.10%、Mn:0.4〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成から形成されたことを特徴とする疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材の製造方法。
- 前記鋳造された球状黒鉛鋳鉄のA1変態完了後に解枠することを特徴とする請求項3に記載の疲労強度に優れた球状黒鉛鋳鉄部材の製造方法。
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