JP3875298B2 - 半導体発光素子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は半導体発光素子及びその製造方法に関し、特に半導体発光素子における有機金属気相成長法により成膜した窒素を含有するIII−V族化合物半導体層を含む半導体積層構造、及び該窒素を含有するIII−V族化合物半導体層を形成するプロセスに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から半導体発光素子として、GaAs系半導体材料を用いた発光ダイオード素子やレーザ素子があり、これらの半導体発光素子の発光光の色(波長)は、赤外から赤までの範囲である。
【0003】
ところが、レーザ光を用いて光ディスクの情報を書き込みを行うような場合には、より高密度な情報の書き込みを行おうとすると、レーザ光の波長により、書き込まれる情報の密度が制約されてしまう。このようなことから、より波長の短いレーザ光を発生できる半導体レーザ素子に対する要求が高まってきている。
【0004】
そこで、窒素を含むIII−V族化合物半導体材料(以下、窒化物系半導体材材料という。)は、2eV以上の広いバンドギャップを有していることから、窒素系半導体材料を用いた、燈色から紫外領域まで幅の広い短波長発光素子の開発が進められている。
【0005】
ところで、現状における一般的な短波長発光素子の製造方法としては、In、Ga、及びAlのうち所要のものと窒素との混晶からなる、組成の異なった半導体層を積層してみることにより、設計した波長の発光が可能となるよう素子構造と各半導体層の組成を決定し、このようにして決定した素子構造及び組成に基づいて結晶成長を行って発光素子を作製するというのが通例である。
【0006】
例えば、GaNを主組成とする青色発光素子を作製する際の結晶成長方法では、III族原料としてトリメチルガリウム(以下、TMGaと略記する。)、トリメチルアルミニウム(以下、TMAlと略記する。)、トリメチルインジウム(以下、TMInと略記する。)等が使用され、V族原料としてはアンモニア(NH3)(例えば、Japanese Journal of AppliedPhysics Vol.30/No.12A(1991)p1998参照)が使用されている。
【0007】
具体的な例として、GaNを主組成とする青色発光素子は、活性層(発光層)がInyGa1-yN層(0≦y<1)から構成され、その上下のクラッド層がAlxGa1-xN層(0≦x≦1)から構成された構造となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、III族原料とアンモニアを使用して、結晶構造的にまたは光学的に良好な化合物半導体膜を成長しようとする場合、AlxGa1-xN(0≦x≦1)の成長温度としては1000℃以上の温度が必要であるのに対し、InyGa1-yN(0≦y<1)については、In原子の蒸発を抑えるためにその成長温度を800℃以下に抑える必要がある(例えば、Journal of Electronic Materials/Vol.21/No.2(1992)p157参照)。
【0009】
従って、窒化物系半導体発光素子として有効な構造である、Inを含む化合物半導体膜と、Inを含まない化合物半導体膜とのへテロ構造を作製する場合、これらの化合物半導体層の一方を成長した後、半導体層の成長を一時中断し、成長温度を変える必要がある。このため、その待ち時間の間に熱の影響でヘテロ構造の界面の変質や転位等の発生を招き、膜の特性が劣化してしまうという問題があった。
【0010】
また、このような問題は、InAlGaNの4元系半導体材料からなる複数種類の化合物半導体層を含む半導体積層構造を有する発光素子においても生ずる。つまり、活性層を構成する4元系半導体材料と、クラッド層を構成する4元系半導体材料とでは、エネルギーバンドギャップが異なるものを用いることから、両者ではInの含有量が異なる。このため、活性層とクラッド層とでは成長温度が異なることとなる。従って、InAlGaNの4元系半導体材料を用いた半導体発光素子においても、これを構成する所定の半導体層を成長した後、該半導体結晶の成長を一時中断し、成長温度を変える必要があり、このため、上記と同様にヘテロ構造の界面での変質や転位等が生じて膜の特性が劣化してしまうという問題がある。
【0011】
さらに、AlxGa1-xN膜自体に関しても、1000℃を越える高温では膜自身の蒸気圧が高いため、その成長中に、熱によりかなりの量の膜の構成分子が昇華しており、成長された膜の構造的、光学的、電気的な結晶の特性が悪くなるという現象も生じた。
【0012】
また、水素と窒素の結合力は有機物とIII族の金属元素との結合力に比べて強いため、アンモニアは窒化物半導体の成長条件では熱による分解の効率が悪い。このようなことから、III族原料に対して極端に多くのアンモニアを供給しないと十分な量の窒素が得られず、10000程度の高いV/III比(V族原料とIII族原料の供給比率)を必要とし、原料の使用効率が非常に悪いという問題もあった。
【0013】
ところで、先行技術に関する文献(Appl.Phys.Lett.59(17)21 Oct 1991,p.2124)には、GaAs系半導体層の成長に、ラジカル原料としてアゾターシャルブタンを用いることにより、GaAs系結晶の成長速度を大きくできる点が記載されている。この場合GaAs系結晶の成長温度も低下することとなるため、上記窒化物系半導体に関する結晶成長温度が高いことによる弊害については解決されている。
【0014】
ところが、GaAs系半導体材料を用いた半導体発光素子における半導体積層構造、例えば活性層としてのGaAs層を、その両側からクラッド層としてのAlGaAs層で挟んだ構造では、その製造プロセスでアゾターシャルブタンを用いても用いなくても、GaAs層の成長温度とAlGaAs層の成長温度とはほぼ同一であり、上記窒化物系半導体の結晶成長における特有の課題、半導体の組成の違いによる成長温度の相違に関する課題については解決されていない。
【0015】
さらに、上記窒化物系半導体の結晶成長における、V族原料とIII族原料の供給比率が非常に高く、原料の使用効率が非常に悪いという課題についても解決されていない。
【0016】
本発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、アンモニア原料と有機金属を用いて半導体発光素子を製造する際、原料の使用効率を上げ、かつ、該半導体発光素子を構成する各半導体層の成長温度を800℃程度まで引き下げて、各半導体層を同一の温度で成長可能とする半導体発光素子の製造方法を得ることを目的とする。
【0017】
また、本発明は、Inを含む化合物半導体膜と、Inを含まない化合物半導体膜とのへテロ構造を有し、接合界面での変質や転位等の発生が抑制された特性の良好な半導体発光素子を得ることを目的とする。
【0018】
また、本発明は、紫外から緑の範囲のレーザ光を容易に発振可能な半導体発光素子を得ることを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る半導体発光素子の第1の態様は、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる複数種類の半導体層を有する半導体発光素子であって、該半導体層として、InGaNからなる第1の化合物半導体層と、AlGaNまたはGaNからなる第2の化合物半導体層とを含む半導体積層構造を備えている。そして、該第1及び第2の化合物半導体層は、有機金属をIII族原料とし、NH3をV族原料とし、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源とする有機金属気相成長処理により形成してなるものである。そのことにより上記目的が達成される。
【0020】
この発明に係る半導体発光素子の第2の態様は、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる複数種類の半導体層を有する半導体レーザ素子であって、該半導体層として、InGaNからなる第1の化合物半導体層と、AlGaNまたはGaNからなる第2の化合物半導体層とを含み、レーザ光を発生するための半導体積層構造を備えている。そのことにより上記目的が達成される。
【0021】
この発明に係る半導体発光素子の第3の態様は、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる複数種類の半導体層を有する半導体発光素子であって、該半導体層として、InAlGaNの4元系材料からなる複数種類の化合物半導体層を含む半導体積層構造を備えている。そして、該各化合物半導体層は、有機金属をIII族原料とし、NH3をV族原料とし、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源とする有機金属気相成長処理により形成してなるものとなっている。そのことにより上記目的が達成される。
【0022】
この発明に係る半導体発光素子の第4の態様は、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる複数種類の半導体層を有する半導体レーザ素子であって、該半導体層として、InAlGaNの4元系材料からなる複数種類の化合物半導体層を含み、レーザ光を発生するための半導体積層構造を備えている。そのことにより上記目的が達成される。
【0023】
この発明に係る半導体発光素子の第5の態様は、半導体発光素子の第1の態様ないし第4の態様のいずれかに記載の半導体発光素子において、前記半導体積層構造を構成する化合物半導体層を、その伝導型を規定するドーパントとして、Si,Mg,及びZnのうちの少なくとも1つを含む構造としたものである。
【0024】
この発明に係る半導体発光素子の製造方法における第1の態様は、半導体発光素子を有機金属気相成長法を用いて製造する方法であって、該半導体発光素子を構成する、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる半導体層を成膜する工程を含んでいる。そして、該工程では該半導体層の成膜を行う際、該成膜反応が行われる領域に、III族原料として有機金属を供給するとともにV族原料としてNH3を供給し、かつ該成膜反応が行われる領域に、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源として供給するようにしている。そのことにより上記目的が達成される。
【0025】
この発明に係る半導体発光素子の製造方法における第2の態様は、半導体発光素子の製造方法における第1の態様において、前記有機原料として、アゾターシャルブタンを用いるものである。
【0026】
この発明に係る半導体発光素子の製造方法における第3の態様は、半導体発光素子の製造方法における第2の態様において、前記半導体層の成膜工程では、InGaNからなる半導体層を成膜するものである。
【0027】
この発明に係る半導体発光素子の製造方法における第4の態様は、半導体発光素子の製造方法における第2の態様において、前記半導体層の成膜工程では、InGaNからなる半導体層と、AlGaNからなる半導体層とをほぼ同一の成膜温度でもって成膜するものである。
【0028】
以下、本発明の作用について説明する。
【0029】
この発明(半導体発光素子の第1の態様、第5の態様)においては、半導体積層構造を構成する、InGaNからなる第1の化合物半導体層と、AlGaNまたはGaNからなる第2の化合物半導体層とを、有機ラジカルによるアシストを利用して成長した構造としたから、InGaN結晶及びAlGaNまたはGaN結晶が、低温で成長した特性の良好なものとなる。また、InGaN結晶及びAlGaNまたはGaN結晶が、同一の成長温度で形成可能なものとなり、上記第1及び第2の化合物半導体層のヘテロ構造は、その接合部分でその界面での変質や転位等の発生が抑制されたものとなる。さらに、上記ヘテロ構造を有する発光素子では、その作製の際に、有機ラジカルによるアシストによりV族原料の分解効率が高まり、V族原料のIII族原料に対する供給量の比率が小さいものとなる。
【0030】
この発明(半導体発光素子の第2の態様、第5の態様)においては、レーザ光を発生するための半導体積層構造を、InGaNからなる第1の化合物半導体層と、AlGaNまたはGaNからなる第2の化合物半導体層とを含む構造としたので、第1及び第2の化合物半導体層の有機金属気相成長の際、有機ラジカルによるアシストを行うことにより、第1及び第2の化合物半導体層の成長温度が低下し、しかも該両半導体層の成長温度が同じになることにより、両者のヘテロ接合界面を非常に良好なものとでき、これにより、紫外から緑の範囲のレーザ光を発生可能な半導体発光素子を実現できる。
【0031】
また、上記ヘテロ構造を有する発光素子では、上記と同様にしてその作製の際の、V族原料のIII族原料に対する供給量の比率が小さいものとなる。
【0032】
この発明(半導体発光素子の第3の態様、第5の態様)においては、半導体積層構造を構成する、InAlGaNの4元系材料からなる複数種類の化合物半導体層を、有機ラジカルによるアシストを利用して成長した構造としたから、半導体発光素子の第1の態様と同様にして、種類の異なる化合物半導体層のヘテロ接合部分ではその界面での変質や転位等の発生が抑制されることとなり、これにより素子特性を非常に良好なものとできる。
【0033】
またこのヘテロ構造を有する発光素子では、半導体発光素子の第1の態様と同様、その作製の際の、V族原料のIII族原料に対する供給量の比率が小さいものとなる。
【0034】
しかも4元系材料では、エネルギーバンドギャップは異なるが格子定数が同一である半導体層を形成することができ、半導体積層構造における格子不整合による素子特性の劣化を回避できる。
【0035】
この発明(半導体発光素子の第4の態様、第5の態様)においては、レーザ光を発生するための半導体積層構造を、InAlGaNの4元系材料からなる複数種類の化合物半導体層を含む構造としたので、上記化合物半導体層の有機金属気相成長の際、有機ラジカルによるアシストを行うことにより、上記と同様に種類の異なる化合物半導体層のヘテロ接合界面を非常に良好なものとでき、これにより、紫外から緑の範囲のレーザ光を発生可能な半導体発光素子を実現できる。
【0036】
また、上記と同様、半導体発光素子は、その作製の際の、V族原料のIII族原料に対する供給量の比率が小さいものとなり、しかも4元系材料では、エネルギーバンドギャップは異なるが格子定数が同一である半導体層を形成可能であることから、半導体積層構造における格子不整合による素子特性の劣化を回避できる。
【0037】
この発明(半導体発光素子の製造方法における第1の態様、第2の態様)においては、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる半導体層を成膜する際、該成膜反応が行われる領域に、III族原料として有機金属を供給するとともにV族原料としてNH3を供給し、かつ該成膜反応が行われる領域に、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源として供給するようにしているので、ラジカル状態になった有機原料の効果により、成膜原料の分解効率を促進させることができる。これにより、窒素系化合物半導体を構成材料とする種々の半導体層の成長温度を下げることができ、しかも種々の半導体層の成長温度の低下により、これらの半導体層を同一の成長温度で成長可能となる。また、NH3の分解促進により、NH3の供給量を少なくできる。
【0038】
この発明(半導体発光素子の製造方法における第3の態様)においては、上記半導体発光装置の製造方法において、ラジカル状態になる有機原料としてアゾターシャルブタンを用いて、InGaNからなる半導体層を成膜するので、InGaN層を低温でしかもNH3の供給量を抑えて成膜することができる。
【0039】
この発明(半導体発光素子の製造方法における第4の態様)は、半導体発光素子の製造方法における第3の態様において、前記半導体層の成膜工程では、InGaNからなる半導体層と、AlGaNからなる半導体層とをほぼ同一の成膜温度でもって成膜するようにしたので、これらの半導体層を低温でしかもNH3の供給量を抑えて成膜することができるだけでなく、これらの膜を、途中で中断することなく連続して成膜することができる。
【0040】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の基本原理について説明する。
【0041】
本発明では、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を、成膜原料とともに反応管内に供給し、ラジカル状態になった有機原料の効果により、成膜原料の分解反応を促進させるようにしており、これにより成膜温度を低下させるとともに、組成や構成元素の異なる半導体結晶を同一の温度で成長でき、しかもV/III比を約1/30程度まで減少できる。この結果、経済的に有効で、良質のヘテロ構造を有する半導体発光素子を作製できる。
【0042】
以下詳述すると、有機ラジカル原料は、成膜原料であるアンモニアや有機金属よりも低温で分解し、C,Hよりなる有機ラジカルを発生する。例えば、アゾターシャルブタンを有機ラジカル原料として使用した場合、200〜300℃程度の温度で分解が始まり、安定なN2と、ターシャルブチルラジカル(t−C4H9 radicals )を発生する。ターシャルブチルラジカルは活性化しており、有機金属の金属とアルキル基とへの分解を促進するほか、アンモニア(NH3)のN−H結合の分解促進に寄与する。
【0043】
図8(a)〜図8(c)は、V/III比及び成長温度を変化させてGaN膜を成長した場合の膜の状態を示している。図8(a)はアゾターシャルブタンとIII族原料の比が0である場合、図8(b)はアゾターシャルブタンとIII族原料の比が0.5である場合、図8(c)はアゾターシャルブタンとIII族原料の比が1である場合に対応しており、これらの図において、○印は表面が平坦で透明な膜ができる点、△印は表面は平坦であるが茶褐色に着色した膜ができる点、×印は表面は凸凹でありしかも茶褐色に着色した膜ができる点を示している。
【0044】
通常の成長において、良好な表面状態を有する膜を得るためには、成長温度が1000℃以上、V/III比が2000以上必要なのに対して、ターシャルブチルラジカルを使用した場合、V/III比が一桁程度、成長温度が200℃以上低い条件でも、良好な表面状態の膜が成長できることがわかる。なお、膜が茶褐色になる理由は、未分解の原料がC,Hを含んだまま、膜中に取り込まれるためであり、表面が凸凹になる理由は、十分な条件で成長していないため、二次元成長しないことによる。
【0045】
また、図9はGaN膜中にInGaNからなる量子井戸層を作製してなる半導体層構造におけるPL(フォトルミネッセンス)発光のスペクトルを示す図である。実線は、アゾターシャルブタンを、成膜材料である有機金属材料に対し、1:1の比率で供給して作製した試料AからのPL発光に対応するもの、点線は、アゾターシャルブタンを用いずに作製した試料BからのPL発光に対応するものである。
【0046】
いずれの試料も、V族原料及びIII族原料の供給量、成長時間は同じであるが、アゾターシャルブタンを用いる場合は、成長温度を800℃に保持して、下側のGaN層,InGaN量子井戸層,上側のGaN層を連続成長した。一方、アゾターシャルブタンを用いない場合は、1000℃で下側のGaN層を成長した後、一旦結晶成長を中断し成長温度を降温してこれが800℃で安定するのを確認し、その後InGaN層の成長を行った。そして該InGaN膜の膜厚が所定の膜厚に達した後成長を中断し、成長温度の昇温を行い、これが1000℃で安定するのを待ってから、上側のGaN膜の成長を行った。
【0047】
図9において、InGaN量子井戸層からのPL発光(波長450nm付近)を、アゾターシャルブタンを用いて作製した試料Aと、これを用いないで作製した試料Bとで比較すると、試料AではPL発光の半値幅WAは約50meVと小さいのに対し、試料BではPL発光の半値幅WBは100meVと大きな値を示している。これは、試料Bでは、結晶成長を一旦中断するので、その間に熱の影響でInGaN膜の状態が変化したことに起因している。なお、波長370nm付近のPL発光は、GaN層からのものである。
【0048】
このように本発明では、GaAs系半導体材料の結晶成長において有機ラジカル材料を用いたものとは異なり、単に結晶成長の速度を増大させるだけでなく、従来は低温での良好な結晶成長が不可能であった窒素系半導体材料を、低温での結晶成長が可能となり、しかもこの際、組成や構成元素の違いにより成膜温度の異なる異なるInを含む窒素系半導体材料を同一の温度で成長可能となる。
【0049】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1による半導体発光素子及びその製造方法を説明するための断面図であり、上記半導体発光素子としての発光ダイオードの構造の一例を示している。
【0050】
図において、101は本実施形態1による発光ダイオードであり、その表面の面方位が(0001)面であるサファイア基板11と、該基板11上に下クラッド層12,活性層13,及び上クラッド層14を順次積層してなる半導体積層構造101aとを有している。ここで、上記下クラッド層12は、Siをキャリア濃度が1×1019cm-3となるようドーピングした厚さ2μmのn型GaN層からなり、活性層13は厚さ0.01μmのIn0.2Ga0.8N層からなり、上クラッド層14は、Mg及びZnの少なくとも一方を、ここではMgをキャリア濃度が1×1018cm-3となるようドーピングした2μm厚のp型GaN層から構成されている。
【0051】
上記半導体積層構造101aは、その一部に下クラッド層12が露出する断面構造となっており、該下クラッド層12の露出部分には、金属電極16が形成されており、また上クラッド層14の表面には金属電極15が形成されている。
【0052】
ここで、上記両クラッド層12,14及び活性層13は、有機金属をIII族原料とし、アンモニアをV族原料とし、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源とする有機金属気相成長処理により形成してなるものである。また、上記各金属電極15及び16は、それぞれ上クラッド層14及び下クラッド層12を構成するp型及びn型GaNとの間でオーミック性接触が形成される金属材料から構成されている。
【0053】
図2は上記実施形態1の半導体発光素子の製造方法に使用する結晶成長装置の断面構造を概略的に示す図である。
【0054】
図において、201は結晶成長装置であり、成膜反応を行うための石英製の反応管26を有しており、該反応管26は、その上部に形成したガス導入管21から、反応管26内に原料ガス等が導入され、反応管下端部に形成したガス排気口22を通じて排気ガス22aが反応管26から排気されるようになっている。
【0055】
また、上記反応管26内にはカーボン製のサセプタ23が配設されており、基板11はこのサセプタ23上の、上記ガス導入管21の直下部分に配置されるようになっている。
【0056】
また、上記反応管26の上部壁面に沿って、上記サセプタ23を誘導加熱する高周波加熱コイル25が配設されており、また、該サセプタ23内には、熱電対24が挿入され、サセプタ23上の基板11の温度を検出可能になっている。
【0057】
また、上記結晶成長装置201は、H2ガスの供給源201a、N2ガスの供給源201b、NH3ガスの供給源201c、TMGaの供給源201d、SiH4ガスの供給源201f、及び有機Mgの供給源201gを有するとともに、有機ラジカル源となる有機原料の供給源201eを有しており、各ガス供給源からは、それぞれのガスがガス導入管21を介して反応管26に送られるようになっている。
【0058】
また、上記有機原料の供給源201eは、有機原料としての液体状のアゾーターシャルブタンを満たした容器201e1と、H2ガスの供給源201e2とを有し、上記容器201e1内の液体状のアゾーターシャルブタンをH2ガスによりバブリングして上記反応管26に供給する構成となっている。
【0059】
次に製造方法について説明する。
【0060】
まず、表面を清浄化したサファイア基板11を上記サセプタ23上に載置し、反応管26内部の雰囲気を高純度の水素により置換する。次いで、水素及び窒素ガスの少なくとも一方を反応炉26に搬送するとともに、該反応炉26から排気を行う。この時、反応管26に供給されるガス量と、反応管から排気されるガス量とのバランスにより、反応管内の圧力を100Torr程度になるよう調整する。
【0061】
その後、高周波加熱コイル25によりサセプタ23を誘導加熱し、基板11を温度1100〜1200℃で約10分間保持して基板の清浄化を行い、その後、基板温度を1100℃まで下げ、この状態でV族原料ガスを反応管26内に導入する。この状態を30分間維持して基板11の窒化を行う。
【0062】
次いで、基板を成長温度(800℃)に設定し、この状態でIII族ガスを上記V族原料ガスとともに、反応管26内に導入して結晶成長を開始する。この時、III族原料と同時に反応管26内に有機ラジカル源となる有機原料を導入する。これにより上記基板11上にGaN層からなる下クラッド層12を形成する。ここでは、上記V族原料としてアンモニア、III族原料としてTMGa、n型ドーパントの原料ガスとしてSiH4ガスを使用し、V族/III族の供給比率が8000になる条件で、GaN層の結晶成長を行う。また、有機ラジカル源として、アゾーターシャルブタン((t−C4H9)2N2)を使用し、III族原料(TMGa)の供給モル数に対して、モル比で1の割合で、アゾーターシャルブタンを反応管26内に投入する。このアゾーターシャルブタンは熱分解により容易に(t−C4H9ラジカル)を発生することが知られている。
【0063】
次に、上記下クラッド層12上にInGaNからなる活性層13の成長を行う。
【0064】
ここでは、成長温度を800℃のまま維持し、III族原料ガスとして、TMGaに加えてTMIn(トリメチルインジウム)を供給する。また、有機ラジカル源としては、アゾーターシャルブタンを使用し、III族原料の供給モル数(TMIn+TMGa)に対して、モル比で1の割合で、アゾーターシャルブタンを反応管26内に供給する。
【0065】
次に、上記活性層13上に上記下クラッド層12と同様にして、GaNからなる上クラッド層14を形成する。但し、ここでは該上クラッド層14はp型の伝導型を有するため、伝導型を規定するドーパントの原料として、n型ドーパントの原料ガス(SiH4ガス)に代えて、p型ドーパントの原料であるEtCp2Mg(ビスエチル シクロペンタジエニル マグネシウム)を用いる。
【0066】
その後、上記上クラッド層14の表面から下クラッド層12内の所定位置まで選択的なエッチングを行い、上記下クラッド層12の露出部分にオーミック電極16を形成するとともに、上記上クラッド層14の表面にオーミック電極15を形成し、基板を所定の大きさに分割して半導体発光素子(LEDチップ)101を完成する。
【0067】
次に作用効果について説明する。
【0068】
この実施形態1では、上記半導体発光素子を構成する下クラッド層12、活性層13、及び上クラッド層14を、全て成長温度800℃で連続して形成するので、各層界面での成長待ち時間の熱の影響による損傷はなく、界面から発生する転位も少なくすることができた。
【0069】
従って、本発明は、Inを有する層と、Inを有していない層の多層構造を有する発光素子を作製する際に極めて有効となる。
【0070】
また、Mgをドーピングした際、その層は、p型化が容易であった。これは製造膜中のMg原子と水素原子との結合が少ないことを意味するため、製造膜中への水素原子の混入が有機ラジカルの効果により押さえられていることがわかる。
【0071】
さらに、GaN及びInGaNの結晶成長における有機ラジカルの効果を確かめる試験について説明する。
【0072】
ここでは、TMGa量に対してモル比で0、0.5、1の割合で、有機ラジカルになる有機原料を投入して試料の作製を行った。図3は、このようにして試料の作製を行った場合の、GaN膜の成長速度と成長温度の関係を、有機原料の投入量をパラメータとしてグラフで示している。
【0073】
また、V族原料としてアンモニア、III族原料としてTMGaを使用し、V族/III族比が8000になる条件で結晶成長を行った。ここでの試料の作製では、有機ラジカル源として、アゾーターシャルブタン((t−C4H9)2N2)を使用した。図3から明らかなように、有機ラジカル源の投与により、低温での成長速度が速くなっていることがわかる。
【0074】
図5は、Inを組成に含むInGaN混晶について、In原料の供給比と製造膜中のInの組成比との関係を測定した結果を示す。In原料としては、TMInを使用した。また、この測定を行うためのInGaNの成長は、基板の表面上にて行った。なお、基板の窒化処理は、上記実施形態1で説明したものと同条件で行った。
【0075】
また、成長温度は800℃に固定し、III族原料の供給モル数を一定にして、TMIn/(TMIn+TMGa)値を変化させて、製造膜中のIn含有量を測定した。さらに、有機ラジカル源としては、アゾーターシャルブタンを使用し、III族原料の供給モル数(TMIn+TMGa)に対して、モル比で0、0.5、1の割合で、アゾーターシャルブタンを投入した。図から明らかなように、アゾーターシャルブタン投入がない場合、製造膜中のIn量は、TMIn/(TMIn+TMGa)値が0.9程度で急激に増加し、組成の制御性が極めて難しくなっているのに対して、アゾーターシャルブタンを投入した場合、曲線の立ち上がりが滑らかで、組成の制御性が向上していることがわかる。
【0076】
上記実施形態1におけるGaN成長の条件で、成長温度を1000℃に固定し、III族原料の供給量を変えずに、V/III比を減少させる実験を行った。
【0077】
アゾーターシャルブタン供給量が0の場合、V/III比≦1000で製造膜が黄色く着色し、PL測定によるバンド端発光量が極力減少してくるという現象を生じたのに対し、アゾーターシャルブタンをIII族原料の供給モル数に対して、モル比で1の割合量を投入した場合、V/III比=100程度までは製造膜の色、及び、PLのバンド端発光強度にほとんど影響は認められなかった。
【0078】
図6は、V/III比が1000である条件で成膜したGaN膜のPL強度を、アゾーターシャルブタンを使用した場合と、これを使用しない場合とで比較して示している。
【0079】
この図から、アゾーターシャルブタンを使用した場合は、V/III比が小さいにもかかわらず、発光素子作製に必要なバンド端の発光強度は強いことがわかる。
【0080】
なお、上記実施形態1では、上下のクラッド層を、GaNの結晶成長により形成した構造を示したが、上下のクラッド層は、AlGaN結晶により構成してもよい。
【0081】
(実施形態2)
次に本発明の実施形態2として、活性層がInGaN結晶からなり、上下のクラッド層がAlGaN結晶からなる半導体発光素子(発光ダイオード)について説明する。
【0082】
この実施形態2の半導体発光素子は、実施形態1の半導体発光素子における上クラッド層を、厚さ2μmのp型Al0.2Ga0.8N結晶から構成し、下クラッド層を、厚さ2μmのn型Al0.2Ga0.8N結晶から構成したものである。ここで上下の各クラッド層を構成するAl0.2Ga0.8N結晶は、有機金属をIII族原料とし、アンモニアをV族原料とし、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源とする有機金属気相成長処理により形成してなるものである。ここで、上記下クラッド層は、Siをn型ドーパントとしてキャリア濃度が5×1018cm-3となるようドーピングしたものであり、上記上クラッド層は、Mgをp型ドーパントとしてキャリア濃度が5×1017cm-3となるようドーピングしたものである。
【0083】
この実施形態2の半導体発光素子の製造方法は、上下のクラッド層を形成する工程のみ上記実施形態1と異なっている。また各半導体層の結晶成長には、上記実施形態1と同様、図2に示す結晶成長装置を用いる。但しこの場合の該結晶成長装置の構成は、TMAl(トリメチルアルミニウム)の供給源を図2に示す構成に付加したものとなる。
【0084】
すなわち、実施形態1と同様に、基板の清浄化及び基板の窒化を行った後、基板を成長温度(800℃)に設定し、この状態でIII族ガスを反応管26内に導入して結晶成長を開始する。この時、III族原料と同時に反応管26内に有機ラジカル源となる有機原料を導入する。これにより上記基板上にAlGaN層からなる下クラッド層を形成する。ここでは、上記V族原料としてアンモニア、Ga原料としてはTMGa、Al原料としてはTMAl、n型ドーパントの原料ガスとしてSiH4ガスを使用する。
【0085】
また、TMGaとTMAlとの導入比は、成長されるAlGaN混晶のAl組成が20%となるよう調整し、また、III族原料の供給モル数(TMGa+1/2TMAl)を一定にしている。さらに、V族/III族の供給比率は8000になる条件で、AlGaN層の結晶成長を行うようにしている。また、有機ラジカル源として、アゾーターシャルブタン((t−C4H9)2N2)を使用し、III族原料(TMGa)の供給モル数に対して、モル比で1の割合で、アゾーターシャルブタンを反応管26内に投入する。
【0086】
次に、上記下クラッド層上に上記実施形態1と同様にして、InGaNからなる活性層の成長を行い、さらに該活性層上に上記下クラッド層と同様にして、AlGaNからなる上クラッド層を形成する。但し、この上クラッド層はp型の伝導型を有するため、伝導型を規定するドーパントの原料としては、n型ドーパントの原料ガス(SiH4)に代えて、p型ドーパントの原料であるEtCp2Mgを用いる。
【0087】
その後、上記実施形態1と同様にして、下クラッド層の露出部分にオーミック電極を形成するとともに、上記上クラッド層の表面にオーミック電極を形成し、基板を所定の大きさに分割して半導体発光素子(LEDチップ)を完成する。
【0088】
次に作用効果について説明する。
【0089】
この実施形態2においても、上記実施形態1と同様、上記半導体発光素子を構成する下クラッド層、活性層、及び上クラッド層を、全て成長温度800℃で連続して形成するので、各層界面での成長待ち時間の熱の影響による損傷はなく、界面から発生する転位も少なくすることができた。
【0090】
また、この実施形態2においても上記上クラッド層は、Mgのドーピングによりp型化を容易に行うことができた。
【0091】
さらに、AlGaNの結晶成長における有機ラジカルの効果を確かめる試験について説明する。
【0092】
図4は、Alを含むAlGaN混晶について、成長温度と成長速度の関係を、有機原料の投入量をパラメータとしてグラフで示している。
【0093】
Ga原料としてはTMGa、Al原料としては、TMAlを使用した。製造される混晶のAl組成が20%となるようにTMGa、TMAl導入比を調整し、また、III族原料の供給モル数(TMGa+1/2TMAl)を一定にした。
【0094】
さらにV族原料としてアンモニアを使用し、V族/III族比が8000になる条件で結晶成長を行った。有機ラジカル源としては、アゾーターシャルブタンを使用し、III族原料の供給モル数(TMGa+1/2TMAl)に対して、モル比で0、0.5、1の割合で、アゾーターシャルブタンを投入した。
【0095】
図4から明らかなように、有機ラジカル源の投与により、TMGa単独での導入時同様、低温での成長速度が速くなっていることがわかる。
【0096】
続いて、アゾーターシャルブタンを使用したことによる、InGaNとAlGaNのへテロ接合界面における効果について説明する。
【0097】
まず、InGaNとAlGaNのへテロ接合構造を形成し、その界面の状態を観察する実験を行った。
【0098】
アゾーターシャルブタンを使用する場合は、成長温度を800℃にしてInGaN層とAlGaN層を連続成長した。一方、アゾーターシャルブタンを使用しない場合は、800℃でInGaN膜を成長し、その後、一旦結晶成長を中断して成長温度を1000℃まで昇温し、この状態でAlGaN膜を再成長させた。
【0099】
アゾーターシャルブタンを使用してInGaN層とAlGaN層を連続成長した場合のヘテロ界面は、凹凸が確認できないほど平坦であった。これに対し、アゾターシャルブタンを使用せずにInGaN層とAlGaNとを順次成長した場合のへテロ界面は、所々で平坦性を大きく欠いており、界面から発生している欠陥はアゾターシャルブタンを使用した場合の10倍以上観測された。
【0100】
なお、クラッド層及び活性層の構成材料は、上記実施形態1及び2で示したものに限らず、InGaAlN四元混晶の多層構造でもよく、この場合も有機ラジカルを使用することにより、Inの組成制御性を良好なものとできる。また、4元系材料では、図11に示すように、格子定数を一定にしたままでエネルギーバンドギャップを変化させることができる。このため、4元系材料(図11の斜線で示す領域における組成)では、エネルギーバンドギャップは異なるが格子定数が同一である半導体層を形成することにより、半導体積層構造における格子不整合による素子特性の劣化を回避できる。
【0101】
また、上記各実施形態では、サファイア基板上への半導体層の成長について記したが、本発明は理論上基板の影響を考える必要のないものであるため、SiC基板やGaN基板等他の基板にも有効に適用でき、半導体層の形成プロセスに本発明を適用した半導体発光素子では電流注入により強い発光を示した。
【0102】
さらに上記各実施形態2では、活性層を構成するInxGa1-xN結晶のIn組成xが0.2であり、AlyGa1-yNのAl組成yが0.2である発光素子を示したが、発光層(活性層)を構成するInxGa1-xN結晶のIn組成xは0≦x<1の範囲で特に有効であり、クラッド層を構成するAlyGa1-yNのAl組成yは0≦y≦0.3の範囲で特に有効であることが確認されている。
【0103】
また、In、Ga、Alを含む4元混晶InxAlyGa1-x-yN(x+y<1)においても同様に、In組成xが0≦x<1の範囲であり、Al組成yが0≦y≦0.3の範囲であれば、結晶の特性が向上し、組成制御が容易であった。
【0104】
(実施形態3)
図7は本発明の実施形態3による半導体レーザ素子を説明するための図であり、該半導体レーザ素子の断面構造を示している。
【0105】
図において、103は本実施形態3の半導体レーザ素子であり、その表面の面方位が(0001)面である6H−SiC基板31と、該基板31上にAlNバッファ層32を介して形成され、誘導放出光(レーザ光)を発生するための半導体積層構造103aとを有している。該半導体積層構造は、下クラッド層33,活性層34,及び上クラッド層35を順次積層してなる構造となっている。
【0106】
ここで、上記SiC基板31は、Nをn型ドーパントとしてキャリア濃度が1×1019cm-3となるようドーピングしたものである。また、上記下クラッド層33は、Siをキャリア濃度が5×1018cm-3となるようドーピングした厚さ1μmのn型Al0.2Ga0.8N層からなり、活性層34は厚さ7nmのIn0.2Ga0.8N層からなり、上クラッド層35は、Mgをキャリア濃度が1×1018cm-3となるようドーピングした厚さ1μmのp型Al0.2Ga0.8N層から構成されている。また、上記両クラッド層33,35及び活性層34は、有機金属をIII族原料とし、アンモニアをV族原料とし、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源とする有機金属気相成長処理により形成してなるものである。
【0107】
さらに上記上クラッド層35は断面凸形状となっており、その突出部分上にはオーミック電極36が形成され、該突出部分の両側には高抵抗膜38が形成されている。また上記基板31の裏面にはオーミック電極37が形成されている。
【0108】
次に製造方法について説明する。
【0109】
ここでは、上記実施形態1と同様、図2に示す構造のMOCVD装置を用いて各半導体層の成長を行う。
【0110】
まず、基板31を上記MOCVD装置の反応管26内に装填し、1000℃のNH3中で10分間窒化処理を行い、その後、基板温度を800℃まで降下し、TMAlとターシャルブチルアミンを所定量反応管26内に供給し、約20nmの厚さのAlNバッファ層32を形成する。
【0111】
その後、TMGaの供給を開始し、TMAlの供給量を調整し、さらにn型ドーパントの原料ガスであるSiH4を反応管26内に供給しつつ、n−AlGaNクラッド層33を1μmの厚さに成長する。
【0112】
次にTMAlの供給を停止し、TMInの供給を開始し、さらにTMGaの供給量を調整して、厚さ7nmのInGaN活性層34を形成する。その後、TMInの供給を停止し、TMAlとp型ドーパントの原料ガスであるEtCp2Mgを反応管内に供給し、TMGaの供給量を調整して、p型AlGaNクラッド層35を1μmの厚さに成長する。
【0113】
このように結晶成長処理を施した基板を、MOCVD装置の反応管から取り出し、最表面のAlGaN層35をフォトリソグラフィ技術を用いて、その断面形状が凸形状となるよう選択的にエッチングし、高抵抗膜38を該AlGaN層の表面に形成する。そして該高抵抗膜38の、該AlGaN層35の突出部分に対応する部分を除去して、該突出部分にp型AlGaN層35に対するオーミック電極36を蒸着する。
【0114】
次に、基板をその厚さが約70μmとなるまで裏面側から研磨し、該基板の裏面にn−SiCに対するオーミック電極37を蒸着する。その後基板を劈開等により分割して共振器端面を形成し、さらにチップに分割して半導体レーザ素子を完成する。
【0115】
このように本実施形態では、AlGaN層及びInGaN層の結晶成長の際、熱により分解して有機ラジカルを発生するターシャルブチルアミンを反応管内に導入するようにしているため、上下のAlGaNクラッド層及びInGaN活性層を、低温でしかも同一の成長温度で連続して形成することができ、これにより活性層とクラッド層との界面を平坦にできる。この結果、活性層の光学的特性が良好となり、紫外から緑までの波長の光を容易に発振可能な半導体レーザ素子を実現することができる。
【0116】
なお、本実施形態3では、基板として6H−SiC基板を用いたが、他の材料からなる基板を用いてもよく、この場合も上記実施形態3と同様の効果が得られる。
【0117】
また、上記実施形態3では、クラッド層をAlGaN結晶から、活性層をInGaN結晶から構成した半導体レーザ素子を示したが、上記クラッド層及び活性層は組成の異なる、In、Ga、Alを含む4元混晶InxAlyGa1-x-yN結晶から構成してもよい。この場合も上記実施形態3と同様に、活性層の光学的特性が良好であって、紫外から緑までの波長の光を容易に発振可能な半導体レーザ素子を実現することができる。
【0118】
ここで、有機ラジカル源となる有機原料は熱により分解しやすい。よってラジカル状態が基板上部まで維持できるよう、かつ他の原料どうしの前反応を抑さえられるよう、有機ラジカル源としての有機原料は、専用のガス導入管を通して基板の上部領域に導入する構成とする。
【0119】
図10(a)及び図10(b)は、III族原料、V族原料、及び有機原料を別々のガス導入通路を介して反応管内の基板の上部領域に導入するための構成を概念的に示している。
【0120】
図10(a)は、図2に示す結晶成長装置のガス導入管を多重構造としたものの断面構造を示している。例えば、III族原料、V族原料、及び有機原料に対して別々のガス導入通路を設けるのであれば、図10(a)に示すガス導入管21aのように、口径の異なる大,中,小のガス導入管21a1,21a2,21a3を同心円状に重ねた構造とし、最も内側のガス導入管21a3からはV族原料を供給し、内側のガス導入管21a3と中間のガス導入管21a2との間の隙間からは、III族原料を供給し、さらに中間のガス導入管21a2と外側のガス導入管21a1との間の隙間からは、有機ラジカル原料を供給するようにすればよい。
【0121】
また、図10(b)は、III族原料、V族原料、及び有機原料に対応する3本のガス導入管を有する横型の結晶成長装置を概念的に示している。この横型の結晶成長装置300は、上記図2に示す縦型の結晶成長装置と同様、サセプタ23上に基板11を載置して、結晶成長を行うようになっており、上,中,下の3本のガス導入管301,302,303からは、それぞれ有機ラジカル材料、III族ガス、V族ガスがチャンバ304内に供給されるようになっている。
【0122】
また、上記実施形態では、有機ラジカル源としてアゾーターシャルブタンを使用した場合についてのみ記したが、一般にアゾ基を有する有機源はN2を放出して有機ラジカルを作りやすいために、他のアゾ基を有する原料においても同様の効果が得られる。事実、アゾメタン等においても同様の効果が確認できた。
【0123】
また、アゾ基を有する化合物に限らず、アジド基を有する化合物や、ヒドラジン系の化合物等ラジカル状態になる有機化合物においても同様の効果は期待できる。
【0124】
つまり、本発明では、有機ラジカル源としては、基本的には、熱により分解して有機ラジカルを発生するものであればどのようなものでもよいが、実用上、有機ラジカル材料は、図2に示すように、容器内に蓄えられた液体状のものをバブリングにより反応管に供給するので、その蒸気圧が有機金属の気相成長に使いやすい範囲のものを選ぶ必要がある。具体的には、有機ラジカル材料の蒸気圧が高すぎると、少しのバブリングにより大量の有機ラジカル材料が反応管に供給されることとなり、有機ラジカル材料の供給量の制御が困難となる。また、有機ラジカル材料の蒸気圧が低くすぎると、いくらバブリングを行っても十分が量の有機ラジカル材料が反応管に供給されないといったこととなる。
【0125】
【発明の効果】
以上のように本発明(半導体発光素子の第1の態様、第5の態様)によれば、半導体積層構造を構成する、InGaNからなる第1の化合物半導体層と、AlGaNまたはGaNからなる第2の化合物半導体層とを、有機ラジカルによるアシストを利用して成長した構造としたので、InGaN結晶及びAlGaNまたはGaN結晶の成長温度の低下によりこれらの窒素系化合物半導体層の特性を向上できる。
【0126】
また、AlGaNまたはGaN結晶の成長温度の低下により、InGaN結晶及びAlGaNまたはGaN結晶を同じ成長温度で連続成長可能となる。これにより第1及び第2の化合物半導体層のヘテロ構造を、その接合部分でその界面での変質や転位等の発生が抑制されたものとできる。
【0127】
さらに、上記ヘテロ構造を有する発光素子では、有機ラジカルによるアシストによりV族原料の分解効率が高まり、その作製の際の、V族原料のIII族原料に対する供給量の比率が小さいものとなる。
【0128】
この発明(半導体発光素子の第2の態様、第5の態様)によれば、レーザ光を発生するための半導体積層構造を、InGaNからなる第1の化合物半導体層と、AlGaNまたはGaNからなる第2の化合物半導体層とを含む構造としたので、第1及び第2の化合物半導体層の有機金属気相成長の際、有機ラジカルによるアシストを行うことにより、InGaN結晶及びAlGaNまたはGaN結晶の成長温度が低下して、これらの結晶が連続成長可能となる。これによりヘテロ接合界面を非常に良好なものとでき、紫外から緑の範囲のレーザ光を発生可能な半導体発光素子を実現できる。また、有機ラジカルによるアシストにより、V族原料の分解効率が高まり、V族原料のIII族原料に対する供給量の比率が小さいものとなる。
【0129】
この発明(半導体発光素子の第3の態様、第5の態様)によれば、半導体積層構造を構成する、InAlGaNの4元系材料からなる複数種類の化合物半導体層を、有機ラジカルによるアシストを利用して成長した構造としたので、上記半導体発光素子の第1の態様の効果に加えて、4元系材料では、エネルギーバンドギャップは異なるが格子定数が同一である半導体層を形成することができ、半導体積層構造における格子不整合による素子特性の劣化を回避できる効果がある。
【0130】
この発明(半導体発光素子の第4の態様、第5の態様)によれば、レーザ光を発生するための半導体積層構造を、InAlGaNの4元系材料からなる複数種類の化合物半導体層を含む構造としたので、上記半導体発光素子の第3の態様の効果に加えて、4元系材料では、エネルギーバンドギャップは異なるが格子定数が同一である半導体層を形成可能であることから、半導体積層構造における格子不整合による素子特性の劣化を回避できる効果がある。
【0131】
この発明(半導体発光素子の製造方法における第1の態様、第2の態様)に係る半導体発光素子の製造方法によれば、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる半導体層を成膜する際、該成膜反応が行われる領域に、III族原料として有機金属を供給するとともにV族原料としてNH3を供給し、かつ該成膜反応が行われる領域に、熱により分解してラジカル状態になる有機原料を有機ラジカル源として供給するようにしているので、ラジカル状態になった有機原料の効果により、成膜原料の分解効率を促進させることができる。これにより、窒素系化合物半導体を構成材料とする種々の半導体層の成長温度を下げることができ、しかもAlGaNまたはGaN結晶の成長温度の低下により、InGaN結晶及びAlGaNまたはGaN結晶を同じ成長温度で連続成長可能となる。また、NH3の分解促進により、NH3の供給量を少なくできる。
【0132】
この発明(半導体発光素子の製造方法における第3の態様)によれば、上記半導体発光装置の製造方法において、有機原料としてアゾターシャルブタンを用いて、InGaNからなる半導体層を成膜するので、InGaN層を低温でしかもNH3の供給量を抑えて成膜することができる。
【0133】
この発明(半導体発光素子の製造方法における第4の態様)によれば、半導体発光素子の製造方法における第2の態様において、前記半導体層の成膜工程では、InGaNからなる半導体層と、AlGaNからなる半導体層とをほぼ同一の成膜温度でもって成膜するようにしたので、これらの半導体層を低温でしかもNH3の供給量を抑えて成膜することができるだけでなく、これらの膜を、途中で中断することなく連続して成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1による半導体発光素子及びその製造方法を説明するための断面図であり、上記半導体発光素子としての発光ダイオードの構造の一例を示している。
【図2】上記実施形態1の半導体発光素子の製造方法に使用する気相成長装置の断面構造を概略的に示す図である。
【図3】GaN結晶の成長温度と成長速度とについて有機ラジカル量に対する依存性を示す特性図である。
【図4】AlGaN混晶の成長温度と成長速度について有機ラジカル量に対する依存性を示す特性図である。
【図5】InGaN混晶のTMI量と製造膜中のインジウム含有量とについて有機ラジカル量に対する依存性を示す特性図である。
【図6】V/III比が1000である条件で成膜したGaN膜のPL強度を、アゾーターシャルブタンを使用した場合と、これを使用しない場合とで比較して示す図である。
【図7】本発明の実施形態3による半導体レーザ素子を説明するための図であり、該半導体レーザ素子の断面構造を示している。
【図8】本発明の基本原理を説明するための図であり、図8(a)〜図8(c)は、V/III比及び成長温度を変化させてGaN膜を成長した場合の膜の状態を示している。
【図9】本発明の基本原理を説明するための図であり、GaN膜中にInGaNからなる量子井戸層を作製してなる半導体層構造におけるPL(フォトルミネッセンス)発光のスペクトルを示している。
【図10】図10(a)及び図10(b)は、III族原料、V族原料、及び有機原料を別々のガス導入通路を介して、反応管内の基板の上部領域に導入するための構成を概念的に示す図である。
【図11】InxGayAl1-x-yN(0≦x,y≦1)について、格子定数とエネルギーバンドギャップEgとの関係を示す図である。
【符号の説明】
11 基板
12 n型GaNクラッド層
13 InGaN活性層
14 p型GaNクラッド層
15,16,36,37 オーミック電極
33 n型AlGaNクラッド層
34 InGaN活性層
35 p型AlGaNクラッド層
38 高抵抗膜
101 半導体発光素子(発光ダイオード)
101a,103a 半導体積層構造
103 半導体発光素子(半導体レーザ素子)
Claims (13)
- 半導体発光素子を有機金属気相成長法を用いて製造する方法であって、
該半導体発光素子を構成する、Ga、Al、及びInのうち所要のものと窒素との化合物からなる半導体層を成膜する半導体層作製工程を有し、
該工程では該半導体層の成膜を行う際、該成膜反応が行われる領域に、III族原料として有機金属を供給するとともにV族原料としてNH3を供給し、
かつ熱により分解してラジカル状態になり前記V族原料の分解を促進する有機ラジカル源としての有機原料を、前記 III 族原料と隔離する専用のガス導入管を用いて、該成膜反応が行われる領域に供給する ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記ガス導入管が、前記 III 族原料および前記V族原料と隔離する専用のガス導入管である
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記半導体層作製工程は、InGaNからなる半導体層を成膜する工程を含む ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記半導体層作製工程は、InAlGaNからなる半導体層を成膜する工程を含む ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記半導体層作製工程は、Inを有する半導体層を成膜する工程と、Inを有しない半導体層を成膜する工程を含み、
前記Inを有する半導体層と前記Inを有しない半導体層とを同一の成膜温度で連続的に成膜する
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項5記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記成膜温度が、600℃以上800℃以下の温度であることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項6記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記Inを有する半導体層が、InGaNからなる半導体層であり、
前記Inを有しない半導体層が、AlGaNからなる半導体層である ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項6記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記Inを有する半導体層が、InGaNからなる半導体層であり、
前記Inを有しない半導体層が、GaNからなる半導体層である ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記半導体層成膜工程は、該成膜反応が行われる領域に、更に、Siを含有する分子、Mgを含有する分子、及びZnを含有する分子のうち少なくとも1種を供給して、ドーパントをドーピングする
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記有機ラジカル源としての有機原料は、アゾ基もしくはアジド基を有する化合物である
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記有機ラジカル源としての有機原料は、アゾターシャルブタンであることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項6記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記有機ラジカル源としての有機原料は、ヒドラジン系の化合物である ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
請求項1または2記載の半導体発光素子の製造方法において、
前記有機ラジカル源としての有機原料が、アゾターシャルブタンであり、
前記III族原料の供給量に対する前記有機ラジカル源としてのアゾターシャルブタンの供給モル比率を0.5以上1.0以下とし、
前記III族原料に対する前記V族原料の供給モル比率を100以上、10000以下とし、
かつ、半導体層の成膜温度を600℃以上800℃以下とする ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
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