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JP3840417B2 - 質量分析装置 - Google Patents

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JP3840417B2 JP2002042511A JP2002042511A JP3840417B2 JP 3840417 B2 JP3840417 B2 JP 3840417B2 JP 2002042511 A JP2002042511 A JP 2002042511A JP 2002042511 A JP2002042511 A JP 2002042511A JP 3840417 B2 JP3840417 B2 JP 3840417B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料溶液をイオン化し、質量分析する質量分析装置に関する。
【0002】
特に、多価イオン(Multiply-charged ion)により複雑化したプロダクトイオン(Product ion)のマススペクトルの解析を容易にすることの出来る質量分析装置に関する。
【0003】
【従来の技術】
質量分析計は、物質の質量を直接、高感度,高精度に測定できる装置である。そのため、宇宙物理からバイオ技術分野まで広範な分野で使用されている。
【0004】
質量分析計には、測定原理を異にする多くの装置がある。この中で四重極質量分析計(Quadrupole mass spectrometer,QMS)やイオントラップ質量分析計(Ion trap mass spectrometer)は、小型でありながら多くの機能を有することから、多くの分野に普及してきた。四重極質量分析計とイオントラップ質量分析計は、1950年代にDr. Paul により発明され、その基本的概念は米国特許第2,939,952 号に開示されている。
【0005】
その後、多くの研究者やメーカーにより、QMSやイオントラップ質量分析計に関して装置や手法の改良がなされてきた。例えば、イオントラップ質量分析計によるマススペクトルの取得の基本的手法は、米国特許第4,540,884 号に示されている。更に米国特許第4,736,101 号には、補助交流電圧(Supplementary AC voltage)を印加してイオンを共鳴的に放出して検出する方法が開発された。また、イオントラップ空間に圧力1mTorr(10-3Torr)程度のHeガスを導入することで、分解能や感度が大幅に改善されることも示された。
【0006】
近年、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix-assisted laser desorption ionization(MALDI))やエレクトロスプレイイオン化(Electrospray ionization,ESI)などのイオン化技術が開発され、タンパクやDNAなど生体高分子も質量分析の対象となった。特にESIは、熱分解しやすい生体高分子を溶液の状態から直接気相状態の安定なイオンとして取り出すことが可能なイオン化法である。
【0007】
ESIでは、タンパク,タンパクを消化したペプチド,DNA等の生体高分子は、多くの電荷を持つ多価イオンを与える。多価イオンは、一つの分子(m)に複数の電荷(n価)を持つイオンである。質量分析計(MS)は、質量対電荷比(m/z)に従いイオンを質量分析するため、質量mでn価のイオンは、m/nの質量対電荷比のイオンとして質量分析される。例えば、質量30,000 のタンパクが30価の多価イオンを与えるとき、この多価イオンのm/zは、m/z=30,000/30=1,000となり、質量1,000の1価のイオンと同等に質量分析できる。
【0008】
タンパクやペプチドの多くは、正の多価イオンを、DNAは、負の多価イオンを与える。そのため、四重極質量分析計(QMS)やイオントラップ質量分析計などの小形の質量分析計でも、分子量が10,000 を超えるタンパクやDNAなどの測定を容易に行うことが可能になった。
【0009】
血液や生体組織中の極微量成分を分析する際には、質量分析の前に、大量に存在する妨害成分(夾雑物)を取り除く前処理やクリーンアップが必要である。この前処理やクリーンアップには、多くの時間と人手が必要とされる。しかし、複雑な前処理によっても夾雑物を取り除くことは困難である。マススペクトル上において、これら夾雑物が生体試料成分の信号に重畳する。この妨害を化学ノイズと言う。
【0010】
夾雑物の除去や分離のため、液体クロマトグラフィー(LC)が質量分析計(MS)の前段に結合した液体クロマトグラフ/質量分析計(LC/MS)が開発された。図19に従来技術のLC/MSの模式図を示す。LC100の移動相溶媒101はLCポンプ102で送り出され、注入口103から試料溶液が移動相溶媒中に注入される。試料溶液は分析カラム104に導入され、分析対象の生体試料成分に分離される。試料成分はオンラインでESIイオン源2のESIプローブ1に導入され、高電圧が印加されたESIプローブ1の先端部に送られる。試料溶液は、ESIプローブ1の先端付近に形成された高電界の作用により、プローブ先端から極微細な帯電した液滴(〜μm)となり、大気中に噴霧される。帯電した液滴は、ESIイオン源2中の大気分子との衝突により機械的に破砕され、更に微細な液滴となる。液滴の微細化を繰り返し、最終的にイオン3が大気中に放出される。これがエレクトロスプレイイオン化(ESI)である。イオンは、複数の真空ポンプ105,106,107により真空排気された質量分析装置に導入される。導入されたイオンは、中間圧力室24,真空室108に置かれた高周波多重極イオンガイド(rf multipole ion guide)31を経て、高真空の室108に置かれた質量分析計110に導入される。質量分析計110に導入されたイオンは質量分析され検出器16で検出される。結果は、データ処理装置19によりマススペクトルとして与えられる。
【0011】
血液や生体組織中の生体成分の分析において、極微量成分の高感度測定は、前処理やクリーンアップ,液体クロマトグラフィー(LC)の助けによっても容易に達成できない。これは、多くの場合、分析対象が極微量(pg=10-12g以下)であるため、分析対象成分に較べ妨害成分が圧倒的に多く、前処理や液体クロマトグラフィー(LC)でも試料成分に重畳する妨害成分を十分に除去できないことに由来する。
【0012】
化学ノイズと分析対象成分を識別するための一つの解決策が、McLuckey等によりAnalytical Chemistry Vol.68(1996),4026-4032やInternational Journal of Mass Spectrometry and Ion processes Vol.162(1997),89-106に示された。これは、質量分析計により、妨害成分(化学ノイズ)や不純物成分と分析対象成分を識別しようとする試みである。生体関連試料のLC/MS分析の場合、妨害成分の多くは、溶媒,塩,脂質,炭水化物など、分子量1,000 以下の比較的分子量が小さい分子に由来する。これらが、タンパク,ペプチド,DNAなど、分子量2,000 以上の生体高分子のマススペクトル上において重畳してくる。それは、生体高分子が多価イオンとなり、見かけ上低質量領域にマスピークが出現するためである。ESIのイオン化において、比較的低分子量の妨害成分の多くは、1価のイオンを与える。これに対し、タンパクやペプチドなど、生体高分子の多くは多価イオンを与える。
【0013】
McLuckeyらは、1価の化学ノイズイオンと多価試料イオンの電荷数の差を利用して両者を識別しようとした。図18に、McLuckeyらが用いた装置の模式図を示す(International Journal of Mass Spectrometry and Ion processes Vol.162(1997)89-106より)。生体試料溶液は、高電圧が印加されたESIプローブ1に送られ、ESIイオン源2空間で噴霧イオン化される。生成した正のイオン3は真空隔壁5に形成された細孔4から真空ポンプで排気された中間圧力室24に導入される。イオンビーム6は更にイオントラップ質量分析計が配置された高真空室25に導入される。イオンはレンズ9により収束され、イオントラップ質量分析計のエンドキャップ電極(Endcap electrode)11に設けられた細孔12からイオントラップ空間29内に導入される。イオントラップ質量分析計のリング電極(ring electrode)13には直径3mmの孔8が開けられている。ガスだめ23に溜められたフッ化炭素のガスは、グロー放電イオン源26に送られる。グロー放電イオン源26の電極21に、負の高電圧が印加される。グロー放電イオン源26内のグロー放電により、フッ化炭素ガスは負イオンを生成する。生成した負イオンは高真空室25に導入されレンズ27により収束され、リング電極13に開けられた細孔8を経てイオントラップ質量分析計のイオントラップ空間29に導入される。リング電極13に印加された主高周波電圧(Main rf voltage)により、イオントラップ空間29内には高周波四重極電界が形成される。ESIにより生成された正の多価イオンとグロー放電で生成した負のイオンは、イオントラップ空間29内に形成された高周波四重極電界により安定にトラップされる。
【0014】
1mTorr(10-3Torr)程度の圧力下で、1価の負イオンと正の多価イオンを一緒に主高周波電圧が印加されたイオントラップ空間29内に閉じ込めると、イオン同士がクーロン引力で引き合い、イオン/イオン反応を起こすようになる。イオン/イオン反応には種々の反応が報告されているが、その中でプロトン移動反応が重要な役割を果たしている。このイオン/イオン反応の際、負イオンのプロトン親和力(Proton Affinity:PA)が多価イオンのそれを上回ると、式(1)のように負イオンA-は、n価の多価イオン(m+nH)n+からプロトンH+を引き抜き、電荷数が一つ小さい多価イオン{m+(n−1)H}(n-1)+を与える。
【0015】
(m+nH)n+ +A- → {m+(n−1)H}(n-1)+ +AH …(1)
多価イオンは、クーロン引力が大きいため、イオン/イオン反応が起こりやすく、容易にプロトンを負イオンに手渡してしまう。一方、多価イオンの電荷が少なくなるとイオンのクーロン引力は小さくなり、このイオン分子反応が比較的おきにくくなる。即ち、1価のイオンは電荷の減少はおきにくく、一方、多価イオンは電荷の減少が起きやすい。
【0016】
いま、n価の正の多価イオンが1価の負イオンとのイオン/イオン反応により、電荷の減少が起き、(n−1)価の正の多価イオンが生じたとする。式(1)で水素の質量は1(H=1)であるからであるから、多価イオンのm/zの変化は(2)のように表される。左辺はイオン/イオン反応前のm/z、右辺はイオン/イオン反応後のm/zを示す。
【0017】
(m+n)/n → (m+n−1)/(n−1) …(2)
(2)式は更に、
m/n+1 → m/(n−1)+1 …(3)
となるから、(4)式のように表される。
【0018】
m/n → m/(n−1) …(4)
イオン/イオン反応前後の多価イオンのm/zの変化Δは、次式で表される。
【0019】
Δ=m/n−m/(n−1)=−m/{n(n−1)}<0 …(5)
ここでm,n,n−1共に正の整数であるため、(6)式が導かれる。
【0020】
m/n<m/(n−1) …(6)
即ち、イオン/イオン反応による電荷が減少した多価イオンのm/zは、イオン/イオン反応前のm/zに較べて大きくなる。
【0021】
一方、一価のイオンは、イオン/イオン反応が起きにくいため、マススペクトル上の元のm/zの位置のままである。また、イオン/イオン反応が起きた1価のイオンは電荷を失い中性となるため、質量分析の対象とならず真空ポンプで排気される。その結果、電荷が減少して高質量領域に移動した多価イオンと化学ノイズの質量領域の差が拡大し、両者の識別が容易になる。
【0022】
McLuckeyらは最近、この手法を改良し、MS/MSの後に生成した多価プロダクトイオンのマススペクトルを単純化するために、このイオン/イオン反応による電荷減少を用いることを提案した。(McLuckey, Analytical Chemistry, Vol.72,(2000),899-907)
このイオン/イオン反応による電荷減少により、高質量の多価イオンは低質量領域の化学ノイズとの識別が明瞭になる。また、試料が混合物の場合、不純物イオンのm/zと試料分子のm/zが乖離し、これらのイオン間の識別が容易になる。
【0023】
上記のように、McLuckey等で示された、イオントラップ内のイオン/イオン反応による電荷減少によれば、化学ノイズと多価イオンのマススペクトル信号の識別を行うことが可能となる。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
イオン/イオン反応を長時間行うと、多価イオンの電荷は減少して行き、高質量領域にマスピークは移行する。最終的には、質量分析計のマスレンジを超えるようになる。これでは測定ができなくなるため、正負両イオンのイオン量にあわせて反応を制御することが必要である。正の多価イオンと負のイオンとの反応の進行度合いは、負イオンの導入時間により制御できる。反応時間を長くすれば、電荷の減少は進み、1価のイオンから最終的には中性の分子となり、反応は停止する。
【0025】
図18に示した構造では、イオントラップ質量分析計のリング電極13に開けられた細孔8から負イオンを導入する。しかしながら、リング電極13には高周波電圧が印加されているため、リング電極13に開けられた細孔8を通過できるイオン量は、エンドキャップの側の中心軸上に設けられた細孔12から導入する場合と比べて、1/100以下になってしまう。負イオンの量の不足は、負イオンの導入時間、ひいてはイオン/イオン反応時間を長くし、イオントラップ内で副次的な反応や多価イオンの損失などを招くことになる。
【0026】
また、リング電極13に開けた直径3mmの細孔8により、イオントラップ空間29内の高周波四重極電界は歪められ、イオントラップ質量分析計にとって最も重要な仕様である分解能,感度などの性能を損ねてしまう。
【0027】
また、イオントラップ質量分析計の場合、その性能を保つため、イオントラップ空間には圧力1mTorr(10-3Torr)のHeガス(バッファガス)の導入が必須とされる。リング電極13に開けられた大きな孔8のため、イオントラップ電極の周囲を高真空(<105Torr)に保ったままイオントラップ空間を1mTorrに保つことが困難になる。これがイオントラップ質量分析計の性能を損ねることになる。
【0028】
また、試料イオン化モードの極性の切り替えに伴う反応イオンの極性の切り替え、反応イオン種の切り替えなどに多くの手間と時間を必要とするなど問題が多かった。
【0029】
また、従来イオン/イオン反応が適用された質量分析計は、イオン蓄積型の質量分析計、即ち、イオントラップ質量分析計のみであった。イオントラップ質量分析計などの小形の質量分析計は、測定できる質量範囲に限界があるため、タンパクやDNA等の生体高分子は、多価イオンであったからこそ測定できている。化学ノイズとのマススペクトルの重畳を除去するために、イオン/イオン反応を利用すると、生体高分子は、測定範囲外となってしまい、測定することができなかった。
【0030】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、イオン/イオン反応による電荷減少の効率の向上と、様々な質量分析計を用いてもイオン/イオン反応が適用可能な質量分析装置を提供することを目的とする。
【0031】
【課題を解決するための手段】
上記目的における本発明の特徴は、測定対象試料をイオン化して質量分析する質量分析装置において、測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、リング電極と一対のエンドキャップ電極からなるイオントラップ形質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備え、当該第1及び第2のイオン源からイオンは、共に前記イオン偏向器を介して前記イオントラップ形質量分析計に導入され、当該イオントラップ形質量分析計内で両イオン源からのイオンが混合された後、前記検出器においてイオンの検出を行うことである。
【0032】
また、測定対象試料をイオン化して質量分析する質量分析装置において、測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、イオンを質量分析する質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備え、前記第1及び第2のイオン源と前記質量分析計の間で、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを混合した後、前記質量分析計にイオンを導き、分析を行うことである。
【0033】
また、測定対象試料をイオン化して質量分析する質量分析装置において、測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、前記第1のイオン源からのイオンを質量分析する四重極質量分析計と、当該四重極質量分析計から放出されたイオンのプロダクトイオンを生成する高周波多重極イオンガイドと、当該高周波多重極イオンガイド及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、前記イオン偏向器から放出されたイオンを質量分析する質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備え、前記高周波多重極イオンガイド内で、前記第1のイオン源からのイオンと前記第2のイオン源からのイオンを衝突させることである。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施例を示す。説明の簡素化のため、試料の多価イオンの極性は正、反応イオンの極性は負の場合で説明する。試料の多価イオンが負の場合は、反応イオンを正として測定を行う。
【0035】
(実施例1)
図1に本実施例の装置構成図を示す。
【0036】
液体クロマトグラフ(LC)から送り出された試料溶液は、ESIイオン源62の高圧電源35から供給される正の高電圧が印加されたESIプローブ61に導入され、大気中に正に帯電した微細な液滴として噴霧され、イオン化される。生成した正の多価イオンは、隔壁63,73に設けられた細孔を経て、ターボ分子ポンプ(図示せず)によって高真空に排気された質量分析装置の真空室に導入される。尚、隔壁63,73の間は、油回転ポンプ(図示せず)によって排気された中間圧力室である。隔壁63,73間には、電源75から加速電圧が印加され、イオン源62から導入されたイオンは加速される。即ち、隔壁63は、イオン加速電極として作用する。真空室に導入された多価イオンは、その後、レンズ64により収束された後、電極30b,30cの間から四重極静電偏向器30に入り、時計回りに90度偏向される。四重極静電偏向器30によるイオンの偏向は、例えば特開2000−357488号公報に示されている。
【0037】
四重極静電偏向器30は、4つの扇形(偏向角90度)の柱状電極(30a,30b,30c,30d)で構成される。図1のように、正のイオンを時計回りに90度偏向するためには、電極30a,30cに四重極静電偏向器電源36から供給される正の直流電圧、電極30b,30dに四重極静電偏向器電源36から供給される負の直流電圧を印加する。時計回りに90度偏向された正の多価イオンは、電極30a,30bの間から四重極静電偏向器30を出て、高周波電源32から供給される高周波が印加された高周波多重極イオンガイド31に送られ、イオントラップ質量分析計のイオントラップ空間29に導入される。
【0038】
イオントラップ質量分析計は、一つのドーナツ状のリング電極13とそれを挟むように配置された2つのエンドキャップ電極11,15とで構成される。リング電極13には主高周波電圧が主高周波電源17から供給され印加されている。その結果、3つの電極により形づくられたイオントラップ空間内29に高周波四重極場(rf quadrupole field)が形成される。また、2つのエンドキャップ電極11,15には補助交流電源41から補助交流電圧が適宜印加され、イオントラップ空間29内に四重極場に重畳して2極子場(dipole field)が形成される。イオントラップ空間29に導入されたイオンは高周波四重極場の働きにより、イオントラップ空間29内に安定にトラップされる。イオントラップ空間29にトラップされたイオンは、次に、主高周波電圧の振幅(電圧)の掃引により、イオントラップ空間29から質量順に放出され検出器16により検出される。検出されたイオン電流は、直流増幅器で増幅され、データ処理装置19に送られる。データ処理装置19は、イオントラップの主高周波電源17,補助交流電源41やレンズ電源65,71などを制御してマススペクトルを収集する。
【0039】
イオン/イオン反応による電荷減少のための負イオンは、APCIイオン源68で生成される。
【0040】
大気圧化学イオン化(APCI)で正負イオンを良く生成する化合物として、界面活性剤が知られている。本実施例では、ポリエチレングリコール(Polyethylene Glycol:PEG),ポリプロピレングリコール(PolypropyleneGlycol:PPG)やポリエチレングリコールサルフェート(Polyethylene GlycolSulfate)などを濃度1ppmになるよう調製したメタノール溶液39をポンプ38により大気圧化学イオン化(APCI)イオン源68に送り込む。
【0041】
APCIイオン源68は、四重極静電偏向器30を介してESIイオン源62と相向い合うように配置されている。PEGなどのメタノール溶液は、APCI噴霧プローブ66からAPCIイオン源68内に噴霧される。噴霧流を加熱気化させた後、高電圧が印加されたコロナ放電針67先端から発生したコロナ放電により、PEGなどの分子がイオン化される。
【0042】
PEGなどは、APCIの負イオン化モードにより、(7)から(9)式に示すように、負イオンを生成する。
【0043】
PEG:H−(−O−CH2−CH2−)n−OH
→ H−(−O−CH2−CH2−)n−O- …(7)
PPG:H−(−O−CH2−CH2−CH2−)n−OH
→ H−(−O−CH2−CH2−CH2−)n−O- …(8)
PEG Sulfate:H−(−O−CH2−CH2−)n−SO4
→ H−(−O−CH2−CH2−)n−SO4 - …(9)
尚、界面活性剤としては、酸性(PEG−Sulfateなど),塩基性(PEG−Amineなど)及び中性の化合物(PEGなど)が知られている。酸性の界面活性剤は負の反応イオンに、塩基性の界面活性剤は正の反応イオンとして活用できる。中性の界面活性剤(PEGなど)は、APCIイオン源68でのイオン化モードの切り替えにより、正負両極性の反応イオンを生成可能である。即ち、コロナ放電針67に印加する電圧の極性により生成するイオンの極性が定まるものであり、例えば、正の高電圧をコロナ放電針67に印加すれば正のイオン、負の高電圧をコロナ放電針67に印加すれば負のイオンが生成される。中性の界面活性剤の溶液一つで、正負両極性の反応イオンを提供できることになる。
【0044】
また、PEGなどの界面活性剤の場合、重合度により分子量が異なる試料を容易に入手できる。そのため、試料の多価イオンに対応した分子量の反応イオンを用意できる。測定者は反応性や分子量を自由に選択できるため、測定結果の解析を容易にする。
【0045】
生成した多価イオンの反応性により、反応負イオンのイオン種を交換する必要がある。また、多価イオンの構造情報を得るために、反応負イオンを変える場合がある。例えば、ポリエチレングライコールPEGからポリプロピレングライコールPPGやPEG−Sulfate へ、また、別の負イオンへと反応負イオンを変えたい場合であるが、そのときは、ポンプ38はメタノール溶液39からPPG溶液40に、また別の溶液へと吸引を切り替えればよい。
【0046】
APCIイオン源68で生成した負のイオンは、隔壁72,69間の油回転ポンプ(図示せず)によって排気された中間圧力室を経て、ターボ分子ポンプ(図示せず)によって高真空に排気された質量分析装置の真空室に導入される。隔壁69,72間には、電源74から加速電圧が印加され、APCIイオン源68からのイオンを加速させる。即ち、隔壁69は、イオン加速電極として作用する。真空室に導入されたイオンは、レンズ70により収束された後、四重極静電偏向器30に送り込まれる。ESIイオン源62で生成された正の多価イオンを時計回りに90度偏向するために、電極30a,30cに正、電極30b,30dに負の直流電圧が既に印加されている。この条件下で、APCIイオン源68で生成した負のイオンは、反時計回りに90度偏向され、正イオンと同様に、電極30a,30bの間から放出され、高周波多重極イオンガイド31を経てイオントラップに導入される。即ち、四重極静電偏向器30の電極30a,30b,30c,30dに印加する電圧を変更することなく、2つのイオン源62,68で生成した正負イオンを同時に90度偏向し、一つの方向からイオントラップ質量分析計に導入することが出来る。
【0047】
また、タンパクからDNAへと測定試料を変える場合は、DNAは負の多価イオンを与えるため、質量分析装置の測定モードを正イオンモードから負イオンモードに切り替える必要がある。また、反応イオンはDNAの反対極性、即ち正のイオンに切り替える必要がある。PEGやPPGは、APCIイオン源の極性を負から正に切り替えると、負イオンの場合と同様に、安定で大量の正イオンを与える事が出来る。即ち、PEGやPPGは両極性の化合物といえる。そのため、PEGやPPGを反応イオンとして用いると、正負の極性の切り替えに伴い、反応イオン用の溶液そのものを変える必要は無い。PEGやPPGはAPCIの正イオン化モードで(10),(11)式のように正の反応イオンBH+ が生成される。
【0048】
PEG:H−(−O−CH2−CH2−)n−OH
→ H−(−O−CH2−CH2−)n−OH2 + …(10)
PPG:H−(−O−CH2−CH2−CH2−)n−OH
→ H−(−O−CH2−CH2−CH2−)n−OH2 + …(11)
生成した正の反応イオンBH+ 、即ちH−(−O−CH2−CH2−)n−OH2 +やH−(−O−CH2−CH2−CH2−)n−OH2 + などは、負の多価イオン(m−nH)n-と(12)式のようなイオン/イオン反応により負の多価イオンの電荷を減少させる。
【0049】
(m−nH)n- +BH+→ {m−(n−1)H}(n-1)-+B …(12)
試料のイオン化のためのESIイオン源62の正から負への極性の切り替えは、先ず、高圧電源35の極性を正から負へと切り替える。また、レンズ64などの供給電圧の極性も切り替える。四重極静電偏向器30も極性の切り替えが必要であり、電源36から各電極に供給される電圧の極性を切り替える。30a,30cには負の直流電圧が、電極30b,30dには正の直流電圧が印加される。高周波多重極イオンガイド31や検出器16については、一般的に行われる極性切り替え法に従い行われる。APCIイオン源68の負から正への極性の切り替えは、高圧電源37からコロナ放電針67に供給印加される高圧電圧の極性を切り替える。即ち、負の高電圧から正の高電圧へと切り替える。これらの切り替えは、データ処理装置19から各電源への極性切替の指示により行う事ができる。ESIイオン源62で生成された負の多価イオンとAPCIイオン源68で生成された正の1価のイオンは共に、四重極静電偏向器30により、イオントラップ方向(右方向)に偏向され、イオントラップ質量分析計に導入される。
【0050】
質量分析計にイオントラップ質量分析計やFT−ICR(Fourier-transform ion cyclotron resonance)質量分析計などのイオン蓄積型の質量分析計を用いる場合、試料イオンと反応イオンの導入には2つの方法がある。
【0051】
第一の方法は、正負イオンを時分割でイオントラップ質量分析計に導入し、質量分析計内でイオン/イオン反応による電荷減少をおこす方法である。第二の方法は、正負イオンを同時に四重極静電偏向器30に導入し、イオントラップ質量分析計に導入する以前の段階(例えば、高周波多重極イオンガイド31内)でイオン/イオン反応による電荷減少をおこす方法である。
【0052】
何れの方法においても、2つのイオン源62,68で生成する正負両極性のイオンの電流量は同じでないため、イオン/イオン反応の電荷減少の進行度合いを制御することが必要である。具体的には、イオン源62で生成される正の多価イオンに対するイオン源68からの負の反応イオンのイオン量を制御することである。正及び負イオンの導入量の制御は、イオン加速のON/OFFやレンズ64,70への印加電圧の調整によって行われる。
【0053】
前記第一の方法に適した制御としては、正負各々のイオンの導入時間を独立に変えることが考えられる。この場合、イオン/イオン反応に先立ち、正のイオンと負の反応イオンを独立にイオントラップ質量分析計に導入し、各々マススペクトルを測定して正負のイオン電流値を計測する。この後、正のイオン電流値と負の反応イオン電流値を比較し、その比に応じて各イオン源62,68に対応した隔壁63・73間、及び隔壁69・72間に印加する電圧(イオン加速電圧)のON/OFF時間を調整することにより、イオントラップ質量分析計に導入されるイオン量を調節する。例えば、正の多価イオンのイオン電流値に対して負の反応イオンのイオン電流値が2倍の時、負イオンの導入時間は正の多価イオンの導入時間に対して1/2以下にする。
【0054】
尚、ここでイオン加速電圧とは、イオンを加速することが可能な電圧値のことをいう。イオンの導入をOFF状態とするには、イオン加速電極に印加するイオン加速電圧をOFFとし接地電位とすれば良い。例えば、隔壁69・72間における負イオンのイオン加速電圧が−10Vの時、加速電圧を0Vにすれば、四重極静電偏向器30に負イオンは導入されない。逆に、イオンの導入をON状態とするには、隔壁69・72間にイオン加速電圧−10Vを印加すれば、負の反応イオンは、四重極静電偏向器30に導入される。正の多価イオンについても、隔壁63・73間に対して同様の制御を行うことが出来る。
【0055】
また、第一の方法に加え、第二の方法にも適した制御としては、レンズ64,70への印加電圧値を制御して、イオンの四重極静電偏向器30への導入量を制御することが考えられる。例えば、正の多価イオンのイオン電流値に対して負の反応イオンのイオン電流値が2倍の時、負イオンの電流値が1/2以下となるように、レンズ70の印加電圧値を調整する。この結果、正負導入時間は同じであるが、イオントラップ質量分析計に導入される正負イオン電流は均衡する。尚、この場合も、イオン/イオン反応に先立ち、正のイオンと負の反応イオンを独立にイオントラップ質量分析計に導入し、各々マススペクトルを測定して正負のイオン電流値を計測する必要がある。
【0056】
第一の方法は、イオン蓄積型の質量分析計特有の動作方法である。対して第二の方法は、質量分析計がイオン蓄積型以外の場合でも適用可能である。本実施例では、第一の方法について説明し、第二の方法は、他の実施例中で説明する。
【0057】
図6に、上記第一の方法を用いた動作シーケンスを示す。
【0058】
基本的な動作として、イオンの導入,MS/MS,反対極性の反応イオンの導入,イオン/イオン反応,マススペクトルの取得を行う。以下に詳細を説明する。
【0059】
(1)A期間:試料イオン(多価イオン)の導入期間
まず、主高周波電圧が電源17からリング電極13に印加される。次に、イオン源62側のイオン加速電圧をON状態にして正イオンを四重極静電偏向器30に導入する。四重極静電偏向器30に導入された正イオンは、時計回りに90度偏向され、高周波多重極イオンガイド31を経てイオントラップ質量分析計に導入される(図4)。一方、反対極性の反応イオンはイオン源68側のイオン加速電圧をOFF状態にしてあるため、四重極静電偏向器30に導入される事が阻止される。即ち、A期間では、試料の正の多価イオンのみがイオントラップ質量分析計に導入蓄積される。
【0060】
(2)B期間:B期間とC期間は、MS/MSの期間である。MS/MSを行わない場合は、B,C期間をスキップできる。
【0061】
B期間ではA期間で蓄積された試料の多価イオンの中から、MS/MSのための前駆イオンを単離する。補助交流電圧をエンドキャップ電極11,15間に印加して、前駆イオン以外のイオンをイオントラップ空間29から排除する。前駆イオンの単離法には他にいくつかの方法が知られている。この期間、イオン源62側のイオン加速電圧はOFF状態となり、正の多価イオンが四重極静電偏向器30に導入されるのを遮断する。また、反応イオン用のイオン源68側のイオン加速電圧はA期間と同様にOFF状態のままである。
【0062】
(3)C期間:前駆イオンの励起,解離(CID)の期間
B期間で単離された前駆イオンの固有振動数(secular motion)と同じ周波数の補助交流電圧をエンドキャップ電極11,15間に印加して、イオントラップ空間29内に2極子場を形成する。これにより、2極子場と前駆イオンと間で共鳴励起が起き、前駆イオンとバッファガス分子との衝突が頻度高く起きる。その結果、前駆イオンの開裂(Collision Induced Dissociation,CID)が進み、多くのプロダクトイオンを得ることが出来る。
【0063】
(4)D期間:イオン/イオン反応によるプロダクトイオンの電荷減少期間
補助交流電圧をOFFとして、CIDを終了する。イオン源62側のイオン加速電圧はB,C期間と同じく印加されず接地電位のままで、正の多価イオンは遮断されたままである。イオン源68側のイオン加速電圧を印加しON状態にして、反応イオンをイオントラップ空間29に導入する(図5)。この期間Dの長さは、前述の正負イオン量の調整によりあらかじめ設定される。この期間は、イオン/イオン反応による電荷減少がイオントラップ空間29内で進行する。
【0064】
(5)E期間:プロダクトイオンのマススペクトルを得る期間
電荷減少反応を終了するために、イオン源68側のイオン加速電圧をOFF状態とする。正の多価イオン用のイオン源62側のイオン加速電圧もOFF状態のままである。補助交流電圧をマススペクトル取得のために、イオンの共鳴放出に必要な電圧(1V程度)と周波数になるように設定して、エンドキャップ電極11,15に印加する。主高周波電源17から供給されリング電極13に印加された主高周波電圧の掃引を開始する。イオントラップ空間29内のプロダクトイオンは質量順に共鳴し、イオントラップ外に放出され、検出器16で検出され、データ処理装置19によりマススペクトルを得ることが出来る。
【0065】
(1)から(5)を繰り返し、データ処理装置19はマススペクトルを繰り返し取得する。
【0066】
イオントラップ空間29中に導入された負イオンの大半は、イオントラップ空間29の中でイオン/イオン反応により消費される。しかし、一部の負イオンは、イオントラップ空間29中に残り、主高周波電圧の掃引に伴い、正イオンと共にイオントラップ空間29から排出され検出器16に入射し、低質量領域に化学ノイズを与えることになる。これを防ぐためには、エンドキャップ電極15と検出器16間に電極57を配置し、電極57に電源56から負の電圧を印加することで、負イオンの検出器への進入を阻止する。電極57への負の電位の印加により、負イオンは電極57の前で押し戻され、検出器16に到達しなくなる。一方、正イオンは電極57に印加された負の電位により加速され、検出器16に到達してイオン電流が検出される。
【0067】
図13から図16に、本実施例によって得られた結果を示す。
【0068】
図13は、LC/ESI−MS装置で得られた生体関連物質の正イオンマススペクトルであり、MS/MSや電荷減少反応などを行わない場合のマススペクトルである。試料溶液はLCカラムで分離され、ESIイオン源62に導入される。LCの分離が不十分のため、多くの成分が重畳して溶出した。そのため、マススペクトルは複雑でm/z3000以下には試料成分のマスピークに重畳して多くの化学ノイズが出現している。m/z1126,1501,2251などのマスピークが観察されるが、それらの帰属は不明である。
【0069】
次に、溶出成分の構造情報を得るため、MS/MSを行った。図14のように、前駆イオンをm/z1501として、上述の方法でイオントラップ空間29で単離した。
【0070】
m/z1501の前駆イオンを励起して開裂(CID)させて得たプロダクトイオンのマススペクトルを図15に示す。m/z4000からm/z100までマスピークが出現している。特に目立ったマスピークはなく、このマススペクトルから直接構造情報を得ることは難しい。図15のようなプロダクトイオンのマススペクトルの複雑さは次の理由による。
【0071】
今、一つのn価の前駆イオンからN個のプロダクトイオンが出来る可能性があるとする。N個のプロダクトイオンは1価からn価までの電荷を持つ可能性がある。そのため、n価の前駆イオンから生成される可能性のあるプロダクトイオンは、n*N通り存在する可能性がある。図14に示したm/z1501の前駆イオンの電荷数を3として、このイオンから10個のプロダクトイオン(娘イオン)が生成されるとすると、全体のプロダクトイオン種の可能性は3*10=30種になる。また、前述のように、多価のプロダクトイオンは、保持する電荷により前駆イオンのm/zを上回る場合(マススペクトル上で、前駆イオンのm/z軸上の右に位置する)や、前駆イオンのm/zを下回る(マススペクトル上で前駆イオンのm/zの左側に位置する)場合があり、複雑さを増してくる。図15において、前駆イオンのm/z=1,501 を上回るイオンは多価イオンのプロダクトイオンと推定できるが、帰属は不明である。そのため、マススペクトル上で隣同士のイオンでも、それらの電荷数を知らなければ、これらイオン間の関係を推察できない。これが多価の前駆イオンから生成した多価のプロダクトイオンのマススペクトルの解析の難しさになる。
【0072】
MS/MSの後、APCIで生成したPEG負イオンをイオントラップ空間に導入し、イオン/イオン反応による電荷減少を起こした後のプロダクトイオンのマススペクトルを図16に示す。図15に比してm/z1000以下のイオンが相対的に減少し、マススペクトルが単純化した。多くのイオンの電荷は1価まで減少している。そのため、イオンの帰属の判断は、格段に簡単になる。特に、m/z2510〜m/z1724の領域に出現したプロダクトイオンから、試料のペプチドの構造に関する情報が得られた。
【0073】
前述の応用では、MS/MS分析で前駆イオンを選択し、CIDでプロダクトイオンを生成した。しかし、CIDによるプロダクトイオンを生成せずに、イオン/イオン反応を行うことにより、新たな応用が可能である。
【0074】
CIDを省略するにはイオントラップの測定期間AからEの中で、前駆イオンの励起解離の期間Cをスキップすれば良い。期間Bにおいて前駆イオンを単離後、D期間にスキップして、直接イオン/イオン反応による前駆イオンの電荷減少を行わせる。
【0075】
図20,図21に測定結果を示す。この例では、図13と同じ測定試料に対して、図14のように、m/z1,501 のイオンを前駆イオンとして選択する例を示す。まずイオンを導入後(A期間)、前駆イオン(m/z1,501)を単離する(B期間)。この前駆イオンに負イオンを反応させて前駆イオンの電荷を減少させる(D期間)。これにより、図20のような電荷が減少した前駆イオンのマススペクトルが得られる(E期間)。わずかに3本のマスピークがマススペクトル上に出現しており、他に化学ノイズは見られない。これから、m/z1,501のイオンは3価のイオンで、分子量は4,500 であることが一義的に求まる。
【0076】
また、m/z1,501 のイオンに複数の多価イオンが重畳した場合も、簡単に解析が可能になる。m/z1,501 の前駆イオンの電荷減少反応により、図21のようなマススペクトルが得られた。このマススペクトルから、少なくとも2つの成分がm/z1,501 のマスピークに多価イオンとして重畳していることが判明した。分子量6,000と分子量4,500の2成分が存在し、これらの4価と3価のイオンがm/z1,501 として重畳し出現している。また、これら成分に由来するイオンの強度を積算する事で概略の混合割合を推定できる。この場合、c成分に対してd成分は約55%程度であることがわかる。
【0077】
従来は、多価イオンの純度検定は分解能が極めて高いFT−ICRのみ可能であった。しかし、FT−ICRは大型で高価な装置である。本実施例の構成によれば、イオントラップ質量分析装置でも、イオン/イオン反応により、イオンの純度決定を容易に行うことが可能となる。
【0078】
(実施例2)
図2に本発明の他の実施例を示す。
【0079】
この実施例では、実施例1と異なり、質量分析計に四重極質量分析計(QMS)や磁場型質量分析計を用いた例を示す。他の構成は、実施例1の場合と同じである。尚、本実施例以降の説明で用いる図面では、図1において開示した中間圧力室の構成は省略して開示する。また、本実施例では、イオンを加速するための加速電極95,96を備えている。これは、実施例1で説明した隔壁63・73や、隔壁69・72のような低真空部でイオンを加速する代わりに、高真空部でイオンを加速するために設けたものであり、印加電圧値によってイオンのON/OFF制御を行える点では、隔壁63・73や、隔壁69・72と同じである。この加速電極95,96は、質量分析計が磁場型質量分析計や後に示す飛行時間質量分析計(TOF−MS)の場合に、必要となる。これは、イオン加速後中性分子と衝突が起きると、運動エネルギーが失われたり、運動エネルギーの広がりやイオンの開裂が発生したりする恐れがあるためである。逆に、運動エネルギーの広がりが問題になりにくいイオントラップ質量分析計や四重極質量分析計
(QMS)の場合は、特にこの加速電極95,96は無くても良い。
【0080】
本実施例では、図7に示すように、ESIイオン源62で生成された正の多価イオンとAPCIのイオン源68で生成された負の反応イオンは、同時に四重極静電偏向器30に導入されて偏向される。即ち、実施例1中で説明した第二の方法を用いてイオンを導入する。
【0081】
図2のように、電極30a,30bの間から放出された正負両イオンは、次に高周波多重極イオンガイド31に導入される。この高周波多重極イオンガイド31は、複数(4,6,8本)の円柱状の電極が一つの円周上に配置され、一つ置きの電極が結線されている。この高周波多重極イオンガイド31の2組の電極には高周波電源32から高周波が印加されている。また、高周波多重極イオンガイド31の電極はシールドのための金属の筒94に覆われている。この中に、ガス溜33内のHeやN2 ガスがバッファガスとして配管92を経由して送り込まれる。高周波多重極イオンガイド31内の圧力は、1mTorr(10-3Torr)程度である。この高周波多重極イオンガイド31内に送り込まれた正・負イオンは、高周波電界により振動を受けながら右方向(質量分析計方向)に移動する。正・負イオンは、バッファガスとの衝突によりその運動エネルギを失い、高周波多重極イオンガイド31の中心軸上に収束されながら移送される。図7のように、正の多価イオンと負の反応イオンは、高周波電界の収束作用により接近すると互いにクーロン引力で引き合いようになる。正イオンと負イオンが衝突すると、正の多価イオンからプロトンが負イオンに引き抜かれ、多価イオンは電荷が一つ減少する。高周波多重極イオンガイド31内に正・負イオンを同時に導入すれば、高周波多重極イオンガイド31内でイオン/イオン反応により電荷減少が進行する。電荷が減少した多価イオンは四重極質量分析計(QMS)34に送られ質量分析される。電荷が減少した多価イオンは、質量ごとに検出器16で検出され、データ処理装置19でマススペクトルを与える。電荷が減少し高質量領域に移動した試料のイオンは、化学ノイズと識別しやすくなる。
【0082】
高周波多重極イオンガイド31中に導入された負イオンの大半は、高周波多重極イオンガイド31の中でイオン/イオン反応により消費される。しかし、一部の負イオンは四重極質量分析計34を通過し検知器16に入射し、低質量領域に化学ノイズを与えることになる。これを防ぐためには、高周波多重極イオンガイド31に対して四重極質量分析計34に負のバイアス電位を印加するか、質量分析計34と検出器16間に電極57を配置し、電極57に負の電圧を印加することで、負イオンが検出器へ進入する事を防止できる。電極57への負の電位の印加により、負イオンは電極57の前で押し戻され、検出器16に到達しない。一方、正イオンは電極57に印加された負の電位により加速され検出器16に到達しイオン電流が検出される。
【0083】
この実施例2では、正負イオンは同時に高周波多重極イオンガイド31内に導入されていることが必要である。正負イオンの電流値に差があっても、実施例1のようにイオン導入をON/OFFする事で正負イオン量をバランスさせることはできない。しかし、レンズ64や70の電圧を制御する事で、正負イオンの量の差をバランスさせることができる。即ち、試料のイオンに比して反応イオンのイオン量が多い場合、レンズ70に印加されるレンズ電圧を高めに設定することで、四重極静電偏向器30に入射する反応イオンのイオン量を減らすことが出来る。
【0084】
図17に本実施例で得られた結果を示す。試料は実施例1で用いたものと同じものである。試料が微量の場合、通常のLC/ESI−QMSでは図13のように複雑なマススペクトルを与える。しかし、本実施例に従いイオン/イオン反応を行うと、図17のようなマススペクトルが得られる。m/z3,000 以下の化学ノイズは小さくなり、強度の高いマスピークがm/z2,000 以上に移動し出現している。これにより化学ノイズと信号との識別が容易になる。更に、電荷数の減った多価イオンは解析が簡単になり、m/z4,501 は成分cの1価のイオン、m/z2,251は成分cの2価のイオン、m/z3,581は成分bの1価のイオン、m/z1,791 は成分bの2価のイオンと解釈される。更に注目すべきはm/z3,251 のピークである。これは成分aの1価のイオンと推定される。成分aは図13上では全くピークすら観察されなかった。本実施例の測定により、LCから溶出し、ESIイオン源に導入された成分は、少なくとも3つあることが判明した。ここでは、MS/MSを行わず、四重極質量分析計による多価イオンの電荷減少によるマススペクトルの単純化の応用例を示した。
【0085】
尚、本実施例では、質量分析計が四重極質量分析計(QMS)の場合で説明したが、磁場型質量分析計を用いる場合は、上記の四重極質量分析計34の構成が磁場型質量分析計に置き換わることで、本実施例と同様のイオン/イオン反応を用いた分析を行うことが出来る。
【0086】
(実施例3)
図3に他の実施例を示す。ここでは、二つのイオン源と一つの四重極静電偏向器を2組有するイオントラップ質量分析計の例を示す。
【0087】
イオントラップ質量分析計の左側には、実施例1で示した試料のイオン化のためのESIイオン源62と反応イオンのためのAPCIイオン源68を備えた四重極静電偏向器30を配置する。またイオントラップ質量分析計の右側には、対称的に、試料のイオン化のためのESIイオン源62′と反応イオンのためのAPCIイオン源68′、そして四重極静電偏向器30′を配置する。検出器16は、四重極静電偏向器30と30′を結んだ軸の直線上に配置される。
【0088】
本実施例では、いずれの組の試料イオンも、一度イオントラップ質量分析計へ導入され、実施例1のときの要領で、イオン/イオン反応によって電荷減少を行うものとする。ただし、四重極静電偏向器30′の電極に印加する直流電圧は、四重極静電偏向器30の電極に印加する電圧と極性は逆になる。即ち、電極30a,30c,30b′,30d′は正の直流電圧、電極30b,30d,30a′,30c′への印加電圧は負とする。
【0089】
異なる試料が複数ある場合、クロマトグラフを2つのイオン源62,62′にそれぞれ結合したまま分析を行うことが可能である。即ち、左側のイオン源62によってイオン化した試料をイオントラップ質量分析計へ導入して分析し、検出器16で検出した後、右側のイオン源62′によってイオン化した試料をイオントラップ質量分析計へ導入して分析し、検出器16で検出する、というように、交互に分析を行うことが可能となる。尚、イオン/イオン反応には、APCIイオン源68,68′のどちらのイオン源からの反応イオンも利用することが出来る。即ち、左側のイオン源62からのイオンについてイオン/イオン反応を行うとき、APCIイオン源68からの反応イオンをイオントラップ質量分析計へ導入しても良く、或いは、APCIイオン源68′からの反応イオンをイオントラップ質量分析計へ導入しても良い。右側のイオン源62′からのイオンの場合も同様に、APCIイオン源68,68′のどちらのイオン源も利用できる。
【0090】
イオントラップ質量分析計から放出されるイオンのマススペクトルの取得は、レンズ64,70,64′,70′に大きな電圧を印加し、正負イオンを共に遮断した後、四重極静電偏向器30′の4つの電極を接地電位とする。イオントラップ質量分析計から放出されたイオンは、四重極静電偏向器30′を通過し、検出器16で検出される。
【0091】
この実施例3でも、負イオンの検出器への進入を防ぐために、負の電位が印加された電極57が必要である。
【0092】
(実施例4)
図8に他の実施例を示す。ここでは質量分析計として四重極質量分析計(QMS)を用いた場合のMS/MSとイオン/イオン反応を行うための構成例を示す。
【0093】
ESIイオン源62で生成された正の多価イオンは高真空室に導入される。
ESIイオン源62に導入された試料溶液はイオン化され、正の多価イオンを与える。レンズ64に収束された正の多価イオンは、第1のQMS80に導入される。第1のQMS80で多価イオンの中から前駆イオンを選択する。前駆イオンは第1のQMS80から高周波多重極イオンガイド81に導入される。前駆イオンは、この高周波多重極イオンガイド81を通過しながら、この高周波多重極イオンガイド中を満たしたArガス分子と衝突を繰り返して励起され、開裂(CID)し、多くのプロダクトイオンを与える。生成したプロダクトイオンは高周波多重極イオンガイド81を出てレンズ82で収束された後、四重極静電偏向器30に導入される。イオンは時計回りに90度偏向される。負の反応イオンはAPCIイオン源68で生成され、レンズ70で収束され四重極静電偏向器30に正のプロダクトイオンと共に導入される。負の反応イオンは反時計回りに90度偏向される。正のプロダクトイオンと負の反応イオンは、四重極静電偏向器30を出て高周波多重極イオンガイド84に同方向から同時に導入される。高周波多重極イオンガイド84の中を移動しながら正・負イオンは電荷減少反応を起こし、プロダクトイオンの電荷が減少する。電荷の減少を受けたプロダクトイオンは高周波多重極イオンガイド84を抜け、第2の四重極質量分析計(QMS)85に導入される。この第2のQMS85により、電荷が減少したプロダクトイオンを質量ごとに検知器16で検知し、データ処理装置19によりのプロダクトイオンのマススペクトルを与える。
【0094】
本実施例でも、負イオンの検出器への進入を防ぐために、負の電位が印加された電極57が必要である。
【0095】
図9に図8の実施例の変形例を示す。図8の構成では、質量分析計に四重極質量分析計(QMS)を用いたが、図9の構成では、質量分析計に飛行時間質量分析計(TOF−MS)を用いる例を示す。
【0096】
ESIイオン源62で生成された正の多価イオンは質量分析装置の高真空室に導入される。レンズ64に収束されたイオンは、QMS80に導入される。ここで多価イオンの中から前駆イオンが選択される。前駆イオンはQMS80から高周波多重極イオンガイド81に導入される。前駆イオンは、この高周波多重極イオンガイド81を通過しながら、この高周波多重極イオンガイド中を満たしたArガス分子と衝突を繰り返して励起されて開裂(CID)し、多くのプロダクトイオンを与える。生成したプロダクトイオンは、高周波多重極イオンガイド81を出てレンズ82で収束され、四重極静電偏向器30に導入される。正のプロダクトイオンは時計回りに90度偏向される。負の反応イオンはAPCIイオン源68で生成され、レンズ70で収束されて四重極静電偏向器30に正のプロダクトイオンと共に導入される。負の反応イオンは反時計回りに90度偏向される。正のプロダクトイオンと負の反応イオンは、四重極静電偏向器30を出て高周波多重極イオンガイド84に同方向から同時に導入される。ここで、正負イオンは電荷減少反応を起こし、プロダクトイオンの電荷は減少する。電荷の減少を受けたプロダクトイオンは、高周波多重極イオンガイド84を抜け、飛行時間質量分析計54に導入される。イオンは直進し、リペラー電極(Repeller electrode)50とイオン加速電極(Acceleration electrode)51に挟まれたイオン加速空間に送り込まれる。リペラー電極50への超短時間(psec=10-12sec)の電圧印加により、プロダクトイオンは加速電極51のほうに偏向される。プロダクトイオンは加速電極に印加された高電圧により、一気に加速され、TOF−MS空間54中を飛行する。プロダクトイオンは平行なイオンビームとして飛行し、イオン加速電極51の反対側に配置されたリフレクトロン52に入射する。リフレクトロン52は複数の電極が多層階構造をしており、リフレクトロン52内に勾配電位が形成される。リフレクトロン52の底の電極には加速電圧を上回る電圧が印加されている。そのため、リフレクトロン52に進入したプロダクトイオンは、リフレクトロン52内で押し戻され、TOF−MS空間54を再び飛行する。プロダクトイオンは、マルチチャンネルプレート検知器(Multi-channel plate,MCP)53に到達し検出される。
【0097】
イオン加速開始からマルチチャンネルプレート検知器53に到達する時間tが、質量mの平方根に比例することから、TOF−MSはマススペクトルを得ることが出来る。
【0098】
本実施例では、電荷が減少したプロダクトイオンをTOF−MS部54のマルチチャンネルプレート検知器53で検知することにより、データ処理装置19においてマススペクトルが得られる。TOF−MSは、原理上、測定範囲に上限がないため、分子量が非常に大きい生体高分子の測定に非常に有利である。
【0099】
また、本実施例では、実施例1〜4の場合と異なり、負イオンのマルチチャンネルプレート検知器53への進入を防ぐための負の電位が印加されたリペラー電極57は必要無い。それは、高周波多重極イオンガイド84を出た負イオンは、リペラー電極50に印加された正の電位により取り除かれためである。一方、正イオンはイオン加速空間で加速され、マルチチャンネルプレート検知器53に到達することが出来る。
【0100】
(実施例5)
図10に他の実施例を示す。実施例4と同様の2つのQMSを有する例である。ただし、実施例4では、正のプロダクトイオンと負の反応イオンは、高周波多重極イオンガイド84に同一方向から同時に導入され、高周波多重極イオンガイド84の中を同一方向に飛行しながら反応したが、本実施例では、正の多価イオンと負の反応イオンの反応位置が実施例4の場合と異なる。即ち、本実施例では、正の多価イオンと負の反応イオンは、高周波多重極イオンガイドの前後から別々に導入され、高周波多重極イオンガイドの中で互いに向い合うように飛行し電荷減少反応が行われる。
【0101】
ESIイオン源62で生成された正の多価イオンは質量分析装置の真空室に導入され、レンズ64で収束される。イオンは次に第1の四重極質量分析計(QMS)80に導入され、前駆イオンが単離される。単離された前駆イオンは、次に高周波多重極イオンガイド81に左側から導入される。高周波多重極イオンガイド
81内には、ガスだめ33から配管92′を経由してArガスが圧力1mTorr
(10-3Torr)になるよう導入される。導入された前駆イオンは、この高周波多重極イオンガイド81内を進みながら、Ar分子と衝突し励起される。最終的に前駆イオンは開裂してプロダクトイオンを与える。負の反応イオンはAPCIイオン源68で作られ、質量分析装置の真空室に導入される。負の反応イオンはレンズ70′で収束され、四重極静電偏向器30に導入され、時計回りに90度偏向を受ける。負の反応イオンは右手から高周波多重極イオンガイド81へ入射し、左側から来るプロダクトイオンと衝突し、電荷減少反応を起こす。高周波多重極イオンガイド81で電荷減少したプロダクトイオンは、四重極静電偏向器30に導入され、時計回りに90度偏向を受ける。プロダクトイオンは、第2の四重極質量分析計85に導入され質量分析される。プロダクトイオンは質量ごとに検出器16により検出され、データ処理装置19にてマススペクトルを与える。
【0102】
本実施例では、図10のように、イオンの開裂、電荷の減少反応を一つの高周波多重極イオンガイド81で行うことが出来る。
【0103】
また、図11のように2つの高周波多重極イオンガイドを直列に配置して、前段の高周波多重極イオンガイド81では前駆イオンの開裂、次の高周波多重極イオンガイド84で電荷減少反応を行わしても良い。図11の場合、シールド筒94とバッファガスの導入は共通とすることが出来る。
【0104】
図12に本実施例の変形例を示す。ここでは、図10の質量分析計を飛行時間質量分析計(TOF−MS)に換えた場合の例を示す。
【0105】
TOF−MSに導入されるまでのイオンの挙動は、図10の場合と同様である。TOF−MSに導入されたプロダクトイオンは、リペラー電極50,イオン加速電極51に印加された電位により、加速され、飛行を開始する。プロダクトイオンはリフレクトロン52で折り返し、マルチチャンネルプレート検知器53で検出され、データ処理装置19にてマススペクトルを与える。
【0106】
図12の例においても、イオンの開裂,電荷の減少反応を一つの高周波多重極イオンガイド81で行うことが出来る。また、図11のように2つの高周波多重極イオンガイドを直列に配置して、前段の高周波多重極イオンガイドでは前駆イオンの開裂、次の高周波多重極イオンガイドで電荷減少反応を行わせても良い。
【0107】
本実施例は、実施例4,5に比して、高周波多重極イオンガイド81とバッファガス導入機構が単純になる利点がある。また、本実施例では、イオン/イオン反応の際に未反応の負イオンは、高周波多重極イオンガイド81中を、正イオンと反対方向(図10の右から左へ)飛行するため、検出器16に入射することは無い。そのため、負イオンの押し返しのための、電極57や電源56は不要である。
【0108】
以上、本発明について、実施例に従い詳細に説明したが、本発明は試料の多価イオンを生成するイオン源として、ESIイオン源に限定されず、ソニックスプレイイオン源(SSI),ナノスプレイイオン源,イオンスプレイイオン源,マトリックス支援レーザー脱離イオン源などにも応用可能である。また、反応イオン用のイオン源としては、APCIイオン源の他、グロー放電イオン化(GDI)イオン源,化学イオン化(CI)イオン源,電子イオン化(EI)イオン源を用いることも可能である。試料イオンと反応イオンの極性は、互いに反対極性となるようイオン化モードを設定すれば良い。
【0109】
【発明の効果】
本発明によれば、イオントラップ質量分析であっても反応イオンを十分に供給することが出来るため、イオン/イオン反応による電荷減少の効率を向上させることができる。
【0110】
また、イオン/イオン反応を四重極質量分析計や飛行時間型質量分析計であっても適用することが出来るため、生体高分子の多価イオンに由来するマスピークを単純化でき、マススペクトル解析を容易にすることが出来る。
【0111】
また、試料により正負切り替えや反応イオン種の切り替えなどデータ処理装置からの指示により容易に切り替えることが可能になり、試料の情報を増やすことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の概略構成図である。
【図2】実施例2の概略構成図である。
【図3】実施例3の概略構成図である。
【図4】試料イオンの動作説明図である。
【図5】反応イオンの動作説明図である。
【図6】実施例1の動作説明図である。
【図7】実施例2の動作説明図である。
【図8】実施例4の概略構成図である。
【図9】実施例4の概略構成図である。
【図10】実施例5の概略構成図である。
【図11】実施例5の概略構成図である。
【図12】実施例5の概略構成図である。
【図13】従来法により得られたマススペクトルである。
【図14】選択された成分のマススペクトルである。
【図15】図14の成分のプロダクトイオンのマススペクトルである。
【図16】本発明で得られたマススペクトルである。
【図17】本発明で得られたマススペクトルである。
【図18】従来技術の説明図である。
【図19】従来技術の説明図である。
【図20】本発明の動作を説明するためのマススペクトルである。
【図21】本発明の動作を説明するためのマススペクトルである。
【符号の説明】
1,61…ESIプローブ、2,62…ESIイオン源、3…イオン、4…細孔、5,7,22,63,69…真空隔壁、6…イオンビーム、9,27,64,70,82,83…レンズ、11,15…エンドキャップ電極、12,14…エンドキャップ細孔、13…リング電極、16…検出器、18…真空容器、19…データ処理装置、20…グロー放電電源、21…グロー放電電極、23,33…ガスだめ、24…中間圧力室、25…高真空室、26…グロー放電イオン源、29…イオントラップ空間、30…四重極静電偏向器、31,81,84…高周波多重極イオンガイド、32,87,90…高周波電源、35…ESI高圧電源、36…四重極静電偏向器電源、37…APCI高圧電源、38…ポンプ、39…メタノール溶液、40…PPG溶液、41…補助交流電源、42,86,91…四重極質量分析計電源、50,56,57…リペラー電極、51…イオン加速電極、52…リフレクトロン、53…マルチチャンネルプレート検知器、54…TOF−MS部、55…イオンストッパ、65,71…レンズ電源、66…APCI噴霧プローブ、67…コロナ放電針、68…APCIイオン源、80,85…四重極質量分析計、88,89…バッファガスだめ、92…配管、93…高周波多重極イオンガイド空間、94…シールド筒、95,96…イオン加速電極、100…液体クロマトグラフ、101…移動相溶媒、102…ポンプ、103…注入口、104…分析カラム。

Claims (21)

  1. 測定対象試料をイオン化して質量分析する質量分析装置において、
    測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、リング電極と一対のエンドキャップ電極からなるイオントラップ形質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備え、
    当該第1及び第2のイオン源から放出されたイオンは、何れも前記イオン偏向器、及び前記エンドキャップ電極を介して前記イオントラップ形質量分析計に導入され、当該イオントラップ形質量分析計内で両イオン源からのイオンがイオン/イオン反応を起こした後、質量分析を行ってイオンを放出し、前記検出器においてイオンの検出を行うことを特徴とする質量分析装置。
  2. 請求項1において、
    前記イオン偏向器は、4本の電極からなる四重極静電偏向器であることを特徴とする質量分析装置。
  3. 請求項1において、
    前記第1のイオン源と前記イオン偏向器間、及び前記第2のイオン源と前記イオン偏向器間のそれぞれに、電圧の印加によってイオン源からのイオンの流れを遮断、もしくは加速する電極を備えたことを特徴とする質量分析装置。
  4. 測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向する第1のイオン偏向器と、測定対象試料をイオン化する第3のイオン源と、当該第3のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第4のイオン源と、当該第3及び第4のイオン源からのイオンを導入し偏向する第2のイオン偏向器と、前記第1のイオン偏向器と第2のイオン偏向器の間に配置されたリング電極、第1のエンドキャップ電極及び第2のエンドキャップ電極からなるイオントラップ形質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを前記第2のイオン偏向器を介して検出する検出器を備え、
    前記第1及び第2のイオン源から放出されたイオンは、前記第1のエンドキャップ電極を介して前記イオントラップ形質量分析計へ導入され、前記第3及び第4のイオン源から放出されたイオンは、前記第2のエンドキャップ電極を介して前記イオントラップ形質量分析計へ導入され、前記イオントラップ形質量分析計で質量分析されたイオンは、前記第2のエンドキャップ電極から放出され、前記第2のイオン偏向器を介して前記検出器で検出されることを特徴とする質量分析装置。
  5. 請求項4において、
    第1及び第3のイオン源は、ESIイオン源であり、前記第2及び第4のイオン源は、APCIイオン源であることを特徴とする質量分析装置。
  6. 測定対象試料をイオン化して質量分析する質量分析装置において、
    測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、当該イオン偏向器からのイオンが通過する位置に配置され、周囲にバッファガスが導入される高周波多重極イオンガイドと、当該高周波多重極イオンガイドから放出されたイオンを質量分析する質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備え、
    前記第1及び第2のイオン源から放出されたイオンを前記高周波多重極イオンガイド内で混合し、イオン/イオン反応を起こした後、前記質量分析計にイオンを導き、質量分析を行うことを特徴とする質量分析装置。
  7. 請求項6において、
    前記高周波多重極イオンガイドは、筒状の筐体内に配置され、当該筐体内に前記バッファガスが供給されることを特徴とする質量分析装置。
  8. 請求項6において、
    前記第1及び第2のイオン源は、前記イオン偏向器に対して同時にイオンを導入することを特徴とする質量分析装置。
  9. 請求項6において、
    前記質量分析計は、四重極質量分析計,飛行時間質量分析計(Time-of-flight mass spectrometer),三連四重極質量分析計(Triple quadrupole mass spectrometer),磁場型質量分析計のいずれかであることを特徴とする質量分析装置。
  10. 請求項6において、
    前記第1のイオン源からのイオンを質量分析する四重極質量分析計と、当該四重極質量分析計から放出されたイオンのプロダクトイオンを生成する第2の高周波多重極イオンガイドを備え、
    前記四重極質量分析計と第2の高周波多重極イオンガイドは、前記第1のイオン源と前記イオン偏向器の間に配置されることを特徴とする質量分析装置。
  11. 請求項6において、
    前記第1のイオン源と前記イオン偏向器間、及び前記第2のイオン源と前記イオン偏向器間のそれぞれに、電圧の印加によって通過するイオンの量を制御するレンズ電極を備えたことを特徴とする質量分析装置。
  12. 測定対象試料をイオン化して質量分析する質量分析装置において、
    測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、
    当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、
    前記第1のイオン源からのイオンを質量分析する四重極質量分析計と、
    当該四重極質量分析計から放出されたイオンのプロダクトイオンを生成する高周波多重極イオンガイドと、
    当該高周波多重極イオンガイド及び第2のイオン源から放出されたイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、
    前記イオン偏向器から放出されたイオンを質量分析する質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備え、
    前記イオン偏向器は、前記第2のイオン源から放出されたイオンを前記高周波多重極イオンガイドへ偏向し、或いは、前記高周波多重極イオンガイドから放出されたイオンを前記質量分析計へ偏向し、
    前記高周波多重極イオンガイド内で、前記四重極質量分析計を介して導入された前記第1のイオン源から放出されたイオンと前記イオン偏向器を介して導入された前記第2のイオン源から放出されたイオンを衝突させた後、衝突後のイオンを前記イオン偏向器を介して前記質量分析計へ導き、質量分析を行うことを特徴とする質量分析装置。
  13. 請求項12において、
    前記第1のイオン源,前記四重極質量分析計,前記高周波多重極イオンガイド、及び前記イオン偏向器を同軸上に配置し、
    前記第2のイオン源,前記イオン偏向器、及び前記質量分析計を同軸上に配置し、
    前記第1のイオン源が含まれる軸と、前記第2のイオン源が含まれる軸は、直交するように配置されることを特徴とする質量分析装置。
  14. 請求項12において、
    前記高周波多重極イオンガイドは、前記第1のイオン源からのイオンのプロダクトイオンを生成する第1の領域と、当該プロダクトイオンと前記第2のイオン源からのイオンを衝突させる第2の領域からなることを特徴とする質量分析装置。
  15. 請求項12において、
    前記質量分析計は、四重極質量分析計或いは飛行時間質量分析計であることを特徴とする質量分析装置。
  16. 請求項1,6,12のいずれかにおいて、
    前記第2のイオン源に供給する溶液中には、化合物としてポリエチレングリコール
    (PEG)或いはポリプロピレングライコール(PPG)が含まれることを特徴とする質量分析装置。
  17. 請求項1,6,12のいずれかにおいて、
    前記検出器の前段に電極を配置し、当該電極に前記第2のイオン源で生成されるイオンと同極性の電圧を印加することを特徴とした質量分析装置。
  18. 測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、リング電極と一対のエンドキャップ電極からなるイオントラップ形質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備えた質量分析装置を用いる質量分析方法であって、
    測定対象試料を前記第1のイオン源でイオン化して試料イオンを生成し、前記試料イオンを、前記イオン偏向器を介して、リング電極と一対のエンドキャップ電極からなるイオントラップ形質量分析計内に、且つ前記エンドキャップ電極に設けられた細孔を介して導入し、当該イオントラップ形質量分析計内に蓄積し、
    前記第2のイオン源で、前記試料イオンと反対の極性の反応用イオンを生成し、
    前記イオントラップ形質量分析計内に前記試料イオンが蓄積された状態で、前記反応用イオンを、前記イオン偏向器と前記エンドキャップ電極に設けられた細孔を介してイオントラップ形質量分析計内に導入し、
    前記イオントラップ形質量分析計内で、前記試料イオンと前記反応用イオンを反応させ、反応後のイオンを質量分析して放出し、
    放出後のイオンを前記検出器で検出することを特徴とする質量分析方法。
  19. 測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1及び第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、当該イオン偏向器からのイオンが通過する位置に配置され、周囲にバッファガスが導入される高周波多重極イオンガイドと、当該高周波多重極イオンガイドから放出されたイオンを質量分析する質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備えた質量分析装置を用いる質量分析方法であって、
    測定対象試料を前記第1のイオン源でイオン化して試料イオンを生成し、
    前記第2のイオン源で、前記試料イオンと反対の極性の反応用イオンを生成し、
    前記高周波多重極イオンガイドに前記試料イオンと前記反応用イオンを導入して混合し、
    混合後のイオンを質量分析計に導入して質量分析を行うことを特徴とする質量分析方法。
  20. 請求項19において、
    前記高周波多重極イオンガイドは、前記イオン偏向器と前記質量分析計の間に配置され、
    前記試料イオンと前記反応用イオンは、前記高周波多重極イオンガイドに対して、同じ方向から導入されることを特徴とする質量分析方法。
  21. 測定対象試料をイオン化する第1のイオン源と、当該第1のイオン源で生成されたイオンと反対の極性のイオンを生成する第2のイオン源と、当該第1のイオン源からのイオンが通過する位置に配置され、周囲にバッファガスが導入される高周波多重極イオンガイドと、
    当該高周波多重極イオンガイド及び前記第2のイオン源からのイオンを導入し偏向するイオン偏向器と、当該イオン偏向器から放出されたイオンを質量分析する質量分析計と、当該質量分析計から放出されたイオンを検出する検出器を備えた質量分析装置を用いる質量分析方法であって、
    測定対象試料を前記第1のイオン源でイオン化して試料イオンを生成し、
    前記第2のイオン源で、前記試料イオンと反対の極性の反応用イオンを生成し、
    前記高周波多重極イオンガイドに前記試料イオンと前記反応用イオンを導入して混合し、
    混合後のイオンを質量分析計に導入して質量分析を行い、
    更に、前記高周波多重極イオンガイドは、前記第1のイオン源と前記イオン偏向器の間に配置され、
    前記試料イオンと前記反応用イオンは、前記高周波多重極イオンガイドに対して、異なる方向から導入されることを特徴とする質量分析方法。
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