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JP3624772B2 - 延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents

延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高張力溶融亜鉛めっき鋼板に係わり、とくに連続溶融亜鉛めっきラインで製造される高張力溶融亜鉛めっき鋼板の延性の向上および低降伏比化に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求されている。さらに加えて、衝突時に乗員を保護するため、自動車車体の安全性向上も要求されている。このようなことから、自動車車体の軽量化および自動車車体の強化が積極的に進められている。自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
【0003】
鋼板を素材とする自動車部品の多くがプレス加工によって成形されるため、自動車部品用鋼板には優れたプレス成形性が要求される。優れたプレス成形性を実現するには、第一義的には高い延性を確保することが肝要である。また、成形後の形状凍結性に優れることも必要である。このため、自動車部品用鋼板としては、延性に優れ、降伏比が低い鋼板が望まれている。
【0004】
一方、自動車部品は、適用部位によっては高い耐食性も要求される。高い耐食性が要求される部位に適用される部品の素材としては、溶融亜鉛めっき鋼板が好適である。したがって、自動車車体の軽量化および強化をより一層促進するためには、耐食性に優れ、しかも延性に優れ、低い降伏比を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板が必要不可欠な素材となっている。
【0005】
また、延性に優れる低降伏比高張力鋼板としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織を有する二相組織鋼板が代表的である。一方、近年では残留オーステナイトに起因する変態誘起塑性を利用した高延性鋼板も実用化の段階に至っている。
【0006】
しかし、現在の多くの連続溶融亜鉛めっきラインは、焼鈍設備とめっき設備を連続化して設置している。この連続化されためっき工程の存在により、焼鈍後の冷却はめっき温度にて中断され、工程を通じた平均冷却速度も必然的に小さくなる。したがって、連続溶融亜鉛めっきラインで製造される鋼板では、冷却速度の大きい冷却条件下で生成するマルテンサイトや残留オーステナイトをめっき後の鋼板中に含有させることは難しい。このため、これらの相を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインにて製造することは、一般には困難である。
【0007】
このような問題に対し、例えば、特開平8−134591号公報には、C:0.02〜0.14%を含み、Mn:1.2 〜3.0 %とCr:0.3 〜1.5 %を、Mn+Cr:2.0 〜3.5 %の条件下で含有し、金属組織が面積率でフェライト相:50%以上とベイナイト相:3 〜15%およびマルテンサイト相:5 〜20%からなる3相組織であることを特徴とする、降伏比が低く、プレス成形性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。この技術では、鋼板の化学成分と焼鈍および溶融亜鉛めっき工程の温度条件を規定することにより、上記した所望量のフェライト、べイナイト、マルテンサイトの3相からなる金属組織を有する鋼板が得られるとしている。
【0008】
しかしながら、特開平8−134591号公報に記載された技術で製造された高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、現状の鋼板要求特性に十分に対応できる延性を保持していないという問題があった。
【0009】
また、特開平11−222644号公報には、C:0.05〜0.30%、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Ti:0.01〜0.5 %、N:0.01%以下を含み、かつSi:0.5 〜2.5 %、Cr:1.0 〜5.0 %、Al:0.8 〜3.0 %のうち1種または2種以上を含有する組成と、体積率で1%以上の残留オーステナイトを含む高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。この鋼板は、連続溶融亜鉛めっきラインにて製造可能であるとされ、化学組成を適正に調整して、めっき工程後の鋼板中に残留オーステナイトを多量に含有させ、残留オーステナイトによる変態誘起塑性効果を利用し高延性を得ようとするものである。
【0010】
また、特開平11−236621号公報には、C:0.06〜0.25%、Si:1.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、Al:0.4 〜2.5 %、Ti:0.003 〜0.080 %、N:0.010 %以下を含み、かつTi含有量をN、S含有量と関連した式にて限定した組成の冷延鋼板、あるいは熱延鋼板に、前酸化処理を行ったのち、ついで2相域温度での焼鈍を行って、焼鈍後3 ℃/s以上の冷却速度で420 〜600 ℃の温度域まで冷却し、この温度で20s以上保持する冷却保持を行い、さらに溶融亜鉛浴に浸入させてめっきを施し、あるいはさらに合金化処理を行う、高張力高延性の亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。特開平11−236621号公報に記載された技術は、焼鈍条件および焼鈍後の冷却条件を限定してめっき工程後の鋼板中に残留オーステナイトを多量に含有させ、残留オーステナイトによる変態誘起塑性効果を利用し高強度高延性亜鉛めっき鋼板を得ようとすることに特徴がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平11−222644号公報に記載された技術では、鋼板の製造方法に関する特段の規定もなく、また、最終的に得られる亜鉛めっき鋼板の降伏比が安定して低いという保証もなされていない。また、特開平11−236621号公報に記載された技術では、オーステナイトの安定化のためにべイナイト変態を利用するため、最終的に得られる亜鉛めっき鋼板の降伏比が高くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記した従来技術が抱える問題を解決し、自動車部品用素材として好適な、延性に優れ、低い降伏比を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、連続溶融亜鉛めっきラインを利用して製造されることが望ましい。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、連続溶融亜鉛めっきラインを用いて、延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造するため、鋼板の組成およびミクロ組織の観点から鋭意研究を重ねた。その結果、溶融亜鉛めっき処理後に得られる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の組織を、フェライト、マルテンサイト、残留オーステナイトからなる複合組織とし、複合組織中の各相の体積率を所定の比率とすることにより、とくにフェライトの比率を高くすることにより、鋼板に優れた延性を発現せしめたうえ、かつ鋼板の降伏比を十分に低下させ得ることができることを知見した。
【0014】
さらに、本発明者らは、化学成分を所定の範囲に調整した鋼板を、まずフェライトと塊状のマルテンサイトを含む一次組織としたうえで、さらに連続溶融亜鉛めっきラインにて所定の条件下で再加熱処理およびめっき処理を施すことにより、鋼板の組織を所定の体積率範囲内のフェライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの各相を含む複合組織とすることができ、延性に優れ、かつ低い降伏比を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板を安定的かつ効率的に製造できることも見出した。
【0015】
本発明は上記した知見に基づいて構成されたものである。
【0016】
すなわち、第1の本発明は、鋼板表層に溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板が、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.3 〜1.8 %、Mn:1.0 〜3.0 %を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト、マルテンサイト、残留オーステナイトを含む複合組織を有し、かつ、前記フェライトを体積率で60%以上好ましくは90%以下、前記マルテンサイトを体積率で5%以上好ましくは30%以下、前記残留オーステナイトを体積率で2%以上含み、さらに、前記フェライトの平均結晶粒径が5μm 以上であることを特徴とする延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板であり、また、第1の本発明では、前記組成に加え、さらに、次(a群)〜(d群)
(a群):Cr、Moのうちの1種または2種を合計で、0.05〜1.0 質量%、
(b群):B:0.003 質量%以下、
(c群):Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01〜0.2 質量%
(d群):Ca、REM のうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.01質量%以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有してもよい。
【0017】
また、第2の本発明は、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.3 〜1.8 %、Mn:1.0 〜3.0 %を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板に、(Ac変態点−80℃) 以上好ましくは(Ac変態点+100 ℃) 以下の温度で、5s以上好ましくは120 s以下保持する一次加熱処理を施した後、5℃/s以上10℃/s未満の冷却速度でMs 点以下の温度まで冷却する一次工程と、次いで、(Ac変態点〜Ac変態点) の温度域で5s以上好ましくは120 s以下保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s以上好ましくは50℃/s以下の冷却速度で 500℃以下の温度まで冷却する二次工程と、次いで溶融亜鉛めっき処理を施し、前記鋼板表層に溶融亜鉛めっき層を形成した後、5℃/s以上好ましくは50℃/s以下の冷却速度で 300℃まで冷却する三次工程とを順次施すことを特徴とする、延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であり、また、第2の本発明では、前記三次工程が、溶融亜鉛めっき処理を施し、前記鋼板表層に溶融亜鉛めっき層を形成した後、 450〜 550℃の温度域まで再加熱して溶融亜鉛めっき層の合金化処理を施し、該合金化処理後、5℃/s以上好ましくは50℃/s以下の冷却速度で 300℃まで冷却する工程であるのが好ましく、また、第2の本発明では、前記組成に加え、さらに、次(a群)〜(d群)
(a群):Cr、Moのうちの1種または2種を合計で、0.05〜1.0 質量%、
(b群):B:0.003 質量%以下、
(c群):Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01〜0.2 質量%
(d群):Ca、REM のうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.01質量%以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有してもよい。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板表層に溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0019】
まず、本発明に用いる鋼板の組成限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は単に%と記す。
【0020】
C:0.05〜0.20%
Cは、鋼の高強度化に必須の元素であり、さらに残留オーステナイトやマルテンサイトの生成に効果があり、本発明では不可欠の元素である。しかし、C含有量が0.05%未満では所望の高強度化が得られず、一方、0.20%を超えると、溶接性の劣化を招く。このため、Cは0.05〜0.20%の範囲に限定した。
【0021】
Si:0.3 〜1.8 %
Siは、固溶強化により鋼を強化するとともに、オーステナイトを安定化し、残留オーステナイト相の生成を促進する作用を有する。このような作用は、Si含有量が0.3 %以上で認められる。一方、1.8 %を超えて含有すると、めっき性が顕著に劣化する。このため、Siは0.3 〜1.8 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.5 〜1.5 %である。
【0022】
Mn:1.0 〜3.0 %
Mnは、固溶強化により鋼を強化するとともに、鋼の焼入性を向上し、マルテンサイトや、残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する。このような作用は、Mn含有量が1.0 %以上で認められる。一方、3.0 %を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなりコストの上昇を招く。このため、Mnは1.0 〜3.0 %の範囲に限定した。
【0023】
さらに、本発明の鋼板では、必要に応じて、上記した化学成分に加え、下記に示す(a群)〜(d群)のうちの1群または2群以上を含有することができる。
【0024】
(a群):Cr、Moのうちの1種または2種を合計で、0.05〜1.0 %
CrおよびMoは、鋼の焼入性を向上し、マルテンサイトや残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する元素である。このような作用は、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で0.05%以上含有して認められる。一方、合計で1.0 %を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず、経済的に不利となる。このため、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で0.05〜1.0 %の範囲に限定するのが望ましい。なお、より望ましい範囲はCrおよびMoのうちの1種または2種を合計で0.05〜0.5 %である。
【0025】
(b群):B:0.003 %以下
Bは、鋼の焼入性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。しかし、B含有量が0.003 %を超えると、効果が飽和するため、Bは0.003 %以下に限定するのが好ましい。なお、より好ましい範囲は0.001 〜0.002 %である。
【0026】
(c群):Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01〜0.2 %
Ti、Nb、Vは、鋼中に炭窒化物を形成し、鋼を析出強化により高強度化する作用を有しており、必要に応じて含有できる。このような作用は、Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01%以上で認められる。一方、合計で0.2 %を越えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず、経済的に不利となるうえ、降伏比の上昇も招く。このため、Ti、Nb、Vのうちの1種または2種以上の含有量は、合計で、0.01〜0.2 %の範囲に限定するのが好ましい。なお、より好ましい範囲は0.01〜0.1 %である。
【0027】
(d群):Ca、REM のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01%以下
Ca、REM は、硫化物系介在物の形態を制御する作用を有し、これにより鋼板の伸びフランジ性を向上させる効果を有する。このような効果は、Ca、REM のうちの1種または2種の含有量が合計で、0.01%を超えると飽和する。このため、Ca、REM のうちの1種または2種の含有量は、合計で0.01%以下に限定するのが好ましい。なお、より好ましい範囲は0.001 〜0.005 %である。
【0028】
本発明に用いる鋼板は、上記した化学成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、Al:0.1 %以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下が許容できる。
【0029】
さらに、本発明の鋼板は、上記した組成と、(1)フェライト、(2)マルテンサイト、(3)残留オーステナイトからなる複合組織を有する鋼板である。
【0030】
(1)フェライト
フェライトは、鉄炭化物を含まない軟質な相であり、高い変形能を有し、鋼板の延性を向上させる。本発明の鋼板では、このようなフェライトを、体積率で60%以上含有する。フェライト量が60%未満では、顕著な延性向上効果が期待できない。このため、複合組織中のフェライト量は60%以上に限定した。なお、フェライト量が90%を超えると鋼板の強度確保が困難となるため、フェライト量は90%以下とするのが望ましい。
【0031】
(2)マルテンサイト
マルテンサイトは硬質相であり、組織強化によって鋼板強度を増加させる作用を有する。また、変態生成時に可動転位の発生を伴うため、鋼板の降伏比を低下させる作用を有する。マルテンサイト量が体積率にて5%未満では前記作用が十分に得られない。このため、マルテンサイト量は5%以上に限定した。一方、マルテンサイト量が30%を超えると鋼板の延性低下を招く。このため、マルテンサイト量は30%以下とするのが望ましい。なお、マルテンサイト量は所望する鋼板強度に応じて適宜増減することができる。なお、このマルテンサイトは焼戻しを受けていないマルテンサイトを意味する。すなわち二次工程以降の冷却過程で生成されるマルテンサイトである。
【0032】
(3)残留オーステナイト
残留オーステナイトは、加工時にマルテンサイトに歪誘変態し、局所的に加えられた加工歪を広く分散させ、鋼板の延性を向上させる作用を有する。本発明の鋼板では、このような残留オーステナイトを、体積率で2%以上含有する。残留オーステナイト量が2%未満では、顕著な延性の向上が期待できない。このため、残留オーステナイト量は2%以上に限定した。また、残留オーステナイト量は、好ましくは5%以上である。なお、残留オーステナイト量は多いほどよいが、実際的には10%以下である。
【0033】
さらに、本発明の鋼板では、上記した複合組織中のフェライトの結晶粒径を5μm 以上、好ましくは30μm 以下とする。
【0034】
結晶粒径の微細化は鋼板の降伏応力を上昇させる作用がある。本発明の鋼板は、フェライト相が主相であり、フェライトの平均結晶粒径が5μm 未満と微細化すると降伏応力が上昇して鋼板の低降伏比化が妨げられる。このため、フェライトの平均結晶粒径は5μm 以上に限定した。また、フェライトの平均結晶粒径が30μm を超えると、強加工を受けた際に鋼板表面が粗くなる現象が生ずるため、30μm 以下とするのが好ましい。
【0035】
本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、上記した組成および複合組織を有する鋼板の表層に、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層が形成されためっき鋼板である。めっき層の目付量は、使用部位による耐食性要求により適宜決定されればよく、特に規定されない。自動車部品に使用される鋼板では、溶融亜鉛めっき層の目付量は30〜120g/mとするのが好ましい。
【0036】
次に、本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0037】
まず、上記した組成を有する溶鋼を溶製し、通常公知の方法で鋳造し、次いで通常公知の方法で熱間圧延、あるいはさらに冷間圧延して、鋼板とする。また、必要に応じて酸洗あるいは焼鈍等の工程を加えることができる。
【0038】
本発明では、上記した組成を有し、上記の方法で製造された鋼板に、一次加熱処理後冷却して、フェライトおよび塊状マルテンサイトを生成する一次工程(▲1▼)と、次いで連続溶融亜鉛めっきラインにて二次加熱処理を施し、三次工程後にマルテンサイトおよび残留オーステナイトを生成するために一次工程で生成させた塊状マルテンサイトの一部再オーステナイト化を図る二次工程(▲2▼)とを施し、しかる後亜鉛めっき処理を施し、冷却してマルテンサイトおよび残留オーステナイトの生成を図る三次工程(▲3▼)を施し、延性に優れ、低降伏比を有する高張力溶融亜鉛メッキ鋼板を得る。
【0039】
▲1▼一次工程
一次工程では、鋼板に(AC3変態点−80℃)以上、好ましくは(AC3変態点+100 ℃)以下の温度域に少なくとも5s以上好ましくは120 s以下保持する一次加熱処理を施した後、Ms 点以下の温度まで5℃/s以上10℃/s未満の冷却速度で鋼板を冷却する。この一次工程により、鋼板中にはフェライトと塊状のマルテンサイトが生成される。
【0040】
ここで生成する塊状のマルテンサイトにはフェライトから排出されたC等の合金元素が濃縮されて含有されている。この塊状マルテンサイトが二次工程での二相域再加熱処理時に優先的に再オーステナイト化し、三次工程での冷却後にマルテンサイトあるいは残留オーステナイトとなる。三次工程後の鋼板組織中に必要量のマルテンサイトおよび残留オーステナイトを生成させるためには、一次工程後の鋼板中に塊状のマルテンサイトを体積率にて10%以上生成させることが好ましい。
【0041】
また、塊状マルテンサイトにC等の合金元素を高度に濃縮することにより、三次工程後のマルテンサイトおよび残留オーステナイトの生成を促進させ、かつ、三次工程後の鋼板組織中に十分な量のフェライトを生成させるためには、一次工程後の鋼板中に体積率にて60%以上のフェライトを生成させることが望ましい。
【0042】
一次加熱処理の加熱保持温度が(AC3変態点−80)℃未満、あるいは保持時間が5s未満では、加熱保持中に生成するオーステナイト量が少なく、冷却後に得られる塊状マルテンサイト量が不足する。なお、一次加熱処理の加熱保持温度が(AC3変態点+100 )℃を超えると、加熱保持中にオーステナイトの結晶粒径が過度に粗大化する。このため、三次工程後に得られる組織が不均一となり、鋼板の延性低下を招く。このため、一次加熱処理の加熱保持温度は(AC3変態点+100 )℃以下とするのが好ましい。また、良好な生産性を確保するためには、保持時間は120 s以下とするのが好ましい。
【0043】
また、一次加熱処理後の冷却速度が5℃/s 未満では、パーライトおるいはベイナイト変態が生じ、冷却後の鋼板組織を十分な量の塊状マルテンサイトを含む組織とすることができない。一方、一次加熱処理後の冷却速度が10℃/s 以上の場合には、冷却後の鋼板組織を十分な量のフェライトを含む組織とすることができず、マルテンサイトもラス状の形態となる。このため、一次加熱処理後の冷却速度は5℃/s 以上10℃/s 未満とした。なお、本発明でいう塊状マルテンサイトとは、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡による1000倍程度の倍率下における観察で、相内部のラス構造が視認できないものを指す。一方、ラス構造が明瞭に認められるものをラス状マルテンサイトと呼ぶ。
【0044】
また、メッキ母板として、最終圧延がAr3変態点以上の温度で行われた熱延鋼板を使用する場合には、最終圧延後の冷却時に、Ms 点以下の温度まで5℃/s 以上10℃/s 未満で冷却することにより、この一次工程を代替することができる。
【0045】
▲2▼二次工程
二次工程では、一次工程によりフェライトと塊状マルテンサイトを生成させた鋼板に、さらにAc変態点〜Ac変態点の温度域で5s以上保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s 以上の冷却速度で 500℃以下の温度まで冷却する。この二次工程により、三次工程後にマルテンサイトおよび残留オーステナイトを生成するために一次工程で生成させた塊状マルテンサイトの一部再オーステナイト化を図る。
【0046】
二次加熱処理における加熱保持温度がAc変態点未満では、オーステナイトが再生成せず、三次工程後にマルテンサイトや残留オーステナイトが得られない。また、加熱保持温度がAc変態点を超えると、鋼板組織の全オーステナイト化を招き、三次工程での冷却後に前記複合組織を得ることが困難になる。また、二次加熱処理における加熱保持時間が5s未満ではオーステナイトの再生成が不十分であるため、三次工程後に十分な量のマルテンサイトあるいは残留オーステナイトが得られない。なお、良好な生産性を確保するためには、加熱保持時間は 120s以下とするのが好ましい。
【0047】
また、二次加熱処理後の 500℃までの温度範囲での冷却速度が5℃/s 未満では二次加熱処理にて生成したオーステナイトがパーライトやベイナイトに変態し、マルテンサイトや残留オーステナイトとならない。なお、二次加熱処理後の冷却速度は5℃/s 以上50℃/s 以下とするのが好ましい。
【0048】
なお、この二次工程は、焼鈍設備と溶融亜鉛めっき設備を兼ね備えた連続溶融亜鉛めっきラインで行うのが好ましい。このような連続溶融亜鉛めっきラインで行うことにより、二次工程後直ちに三次工程に移行でき、生産性が向上する。
【0049】
▲3▼三次工程
三次工程では、二次工程を施された鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、5℃/s 以上の冷却速度で 300℃まで冷却する。溶融亜鉛めっき処理は、通常、連続溶融亜鉛めっきラインで行われている処理条件でよく、特に限定する必要はない。しかし、極端に高温でのめっきはマルテンサイトや残留オーステナイトの確保が困難となる。このため 500℃以下でのめっき処理とするのが好ましい。また、めっき処理後の冷却速度が極端に小さいときも、マルテンサイトや残留オーステナイトの確保が困難になる。このため、めっき処理後から 300℃までの温度範囲における冷却速度は5℃/s 以上に限定するのがよい。なお、好ましくは50℃/s 以下である。また、めっき処理後、必要に応じて目付量調整のためのワイピングを行ってよいのはいうまでもない。
【0050】
また、溶融亜鉛めっき処理後、めっき層の合金化処理を施してもよい。合金化処理は、溶融亜鉛めっき後、 450〜 550℃の温度域まで再加熱し溶融亜鉛めっき層の合金化を行う。合金化処理後は、5℃/s 以上の冷却速度で 300℃まで冷却するのが好ましい。高温での合金化は、必要なマルテンサイトや残留オーステナイト量の確保が困難となり、鋼板の延性低下と降伏比の上昇をもたらす。このため、合金化温度の上限は 550℃に限定する。また、合金化温度が 450℃未満では、合金化の進行が遅く生産性が低下する。このため、合金化温度の下限は 450℃とするのが好ましい。また、合金化処理後の冷却速度が極端に小さい場合には必要なマルテンサイトや残留オーステナイトの確保が困難になる。このため、合金化処理後から 300℃までの温度範囲における冷却速度を5℃/s 以上に限定するのがよい。なお、めっき処理後、あるいは合金化処理後の冷却速度は鋼板の形状保持の観点から50℃/s以下とするのが好ましい。
【0051】
なお、めっき処理後あるいは合金化処理後の鋼板には、化成処理性、摺動性等の調整のためのフラッシュめっきを行ってもよい。さらに、形状矯正、表面粗度等の調整のための調質圧延を加えてもよい。また、樹脂あるいは油脂コーティング、各種塗装等の処理を施しても何ら不都合はない。
【0052】
本発明は、焼鈍設備とめっき設備および合金化処理設備を連続した溶融亜鉛めっきラインにおいて、二次工程と三次工程を連続して行うことを前提としているが、各工程を独立した設備で実施することも可能である。
【0053】
【実施例】
表1に示す組成を有する鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にて鋳片とした。得られた鋳片を板厚 2.6mmまで熱間圧延し、次いで酸洗した後、冷間圧延により板厚 1.4mmの冷延鋼板を得た。
【0054】
【表1】
Figure 0003624772
【0055】
次いで、これら冷延鋼板に、連続焼鈍ラインにて、表2に示す一次工程条件にて加熱保持した後冷却する一次工程を施した。一次工程後、鋼板のミクロ組織調査を行い、フェライトおよび塊状マルテンサイト量を測定した。
【0056】
さらに、一次工程を施されたこれら鋼板に、連続溶融亜鉛めっきラインにて、表2に示す二次工程条件で、加熱保持した後冷却する二次工程を施した後、引き続き溶融亜鉛めっき処理を施し、一部については溶融亜鉛めっき処理後に再加熱する溶融亜鉛めっき層の合金化処理を行い、次いで冷却する三次工程を施した。
【0057】
なお、溶融亜鉛めっき処理は、浴温 475℃のめっき槽に鋼板を浸漬して行い、浸漬した鋼板を引き上げた後、片面当たりの目付量が50g /mとなるように、ガスワイピングにより目付量を調整した。亜鉛めっき層の合金化処理を行う場合には、ワイピング処理の後、10℃/s の加熱温度で 500℃まで昇温して合金化処理した。合金化処理時の保持時間は、めっき層中の鉄含有率が9〜11%となるように調整した。
【0058】
鋼板のミクロ組織は、鋼板の圧延方向断面を光学顕微鏡あるいは走査電子顕微鏡にて観察することにより調査した。鋼板中のフェライトおよびマルテンサイトの量については、倍率1000倍の断面組織写真を用いて、画像解析により任意に設定した 100mm四方の正方形領域内に存在する該当相の占有面積率を求め、該当相の体積率とした。また、残留オーステナイト量は、鋼板を板厚方向の中心面まで研磨し、板厚中心面での回折X線強度測定により求めた。入射X線には MoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111 }、{200 }、{220 }、{311 }各面の回折X線強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイトの体積比とした。フェライト粒径はJIS Z0552 に規定に準拠して結晶粒度を測定し、平均結晶粒径に換算した。
【0059】
鋼板の機械的特性は、引張試験により調査した。
【0060】
引張試験は、鋼板より圧延直角方向に採取したJIS Z 2204に規定のJIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241に規定に準拠して、耐力(YS)、引張強さ(TS)、破断伸び(El)を測定し、強度−伸びバランス(TS × El)および降伏比(YS/TS) を算出した。
【0061】
得られた結果を表3に示す。
【0062】
【表2】
Figure 0003624772
【0063】
【表3】
Figure 0003624772
【0064】
表3から、本発明例の溶融亜鉛めっき鋼板は、590MPa以上の引張強さ(TS)を有しており、強度−伸びバランス(TS × El)が21000MPa以上と延性に優れ、かつ、降伏比(YS/TS) が65%以下となっており、形状凍結性にも優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、強度−伸びバランスが低いか、降伏比も高い値となっており、高延性と低降伏比を同時に満足するものはない。
【0065】
鋼板No.2は、一次加熱処理における加熱温度が低く、冷却後に得られる塊状マルテンサイトが少ないため、めっき処理後のマルテンサイト量が少なくなっている。このため、強度−伸びバランスが低い値となっている。
【0066】
鋼板No.4は、一次加熱処理後の冷却速度が小さく、冷却後に塊状マルテンサイトが生成しないため、めっき処理後に残留オーステナイトが得られず、一部ベイナイトが生成している。このため、強度−伸びバランスが低下し、降伏比が高くなっている。
【0067】
鋼板No.5は、二次加熱処理における加熱温度が高すぎたため、めっき処理後に残留オーステナイトが得られず、一部ベイナイトが生成している。このため、強度−伸びバランスが低下し、降伏比が高くなっている。
【0068】
鋼板No.6は、二次加熱処理における加熱温度が低すぎたため、めっき処理後にマルテンサイトおよび残留オーステナイトが得られず、強度−伸びバランスが低下し、降伏比が大幅に高くなっている。
【0069】
鋼板No.11 〜13は、鋼板の組成が本発明範囲を外れ、めっき処理後にマルテンサイトないしは残留オーステナイトの生成量が少なくなり、強度−伸びバランスが低下している。さらに、鋼板No.12 は、ベイナイトが生成し、降伏比が大幅に高くなっている。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、自動車部品に代表される成形品素材として実に好適な、非常に優れた延性と十分に低い降伏比を有する高張力亜鉛めっき鋼板が、安価にしかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。

Claims (5)

  1. 鋼板表層に溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、
    前記鋼板が、質量%で、
    C:0.05〜0.20%、 Si:0.3 〜1.8 %、
    Mn:1.0 〜3.0 %
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト、マルテンサイト、残留オーステナイトからなる複合組織を有し、かつ、前記フェライトを体積率で60%以上、前記マルテンサイトを体積率で5%以上、前記残留オーステナイトを体積率で2%以上含み、さらに、前記フェライトの平均結晶粒径が5μm 以上であることを特徴とする延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 前記組成に加え、さらに、下記(a)群〜(d)群のうちから選ばれた1群または2群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板。

    (a)群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で、0.05〜1.0 質量%、
    (b)群:B:0.003 質量%以下、
    (c)群:Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01〜0.2 質量%
    (d)群:Ca、REM のうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.01質量%以下
  3. 質量%で、
    C:0.05〜0.20%、 Si:0.3 〜1.8 %、
    Mn:1.0 〜3.0 %
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板に、(Ac変態点−80℃) 以上の温度で、5sec 以上保持する一次加熱処理を施した後、5℃/s以上10℃/s未満の冷却速度でMs 点以下の温度まで冷却する一次工程と、次いで、(Ac変態点〜Ac変態点) の温度域で5s以上保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s以上の冷却速度で 500℃以下の温度まで冷却する二次工程と、次いで溶融亜鉛めっき処理を施し、前記鋼板表層に溶融亜鉛めっき層を形成した後、5℃/s以上の冷却速度で 300℃まで冷却する三次工程とを順次施すことを特徴とする、延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 前記三次工程が、溶融亜鉛めっき処理を施し、前記鋼板表層に溶融亜鉛めっき層を形成した後、 450〜 550℃の温度域まで再加熱して溶融亜鉛めっき層の合金化処理を施し、該合金化処理後、5℃/s以上の冷却速度で 300℃まで冷却する工程であることを特徴とする請求項3に記載の延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  5. 前記組成に加え、さらに、下記(a)群〜(d)群のうちから選ばれた1群または2群以上を含有することを特徴とする請求項3または4に記載の延性に優れる低降伏比高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

    (a)群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で、0.05〜1.0 質量%、
    (b)群:B:0.003 質量%以下、
    (c)群:Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、0.01〜0.2 質量%
    (d)群:Ca、REM のうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.01質量%以下
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